ヴィラン活動開始。
相澤、プッシーキャッツを始めとしたヒーローと既に交戦を開始する中、森の中にいたヴィラン――荼毘も活動を開始しようとしていた。
その手から放出された蒼炎によって森を焼きながら、確実に雄英生とヒーローを標的として。
「さぁ、始めようか」
黒煙が上がるのを見ながら、森が、動物が焼ける匂いを感じながら荼毘は呟く。
勿論、敵連合からの指令は守るつもりだが、やはり燃える現状に彼は僅かにも気分が高揚してしまっていた。
更に言えば、トゥワイスの個性で自身の分身がイレイザーヘッド達の下へ向かっている事も知っている。
すぐにはやられないだろうが、オリジナルの自分も仕事をしなければと荼毘は燃え上がる森を眺めていた時だった。
『Grrrrrrrr……!』
「っ! なんだ……!」
それは突然の事だった。
獣の声――熊でも野犬でもない、別の鳴き声が荼毘の耳に届いた。
しかも驚くべきことに聞こえてきたのは燃え上がり、有毒ガスが発生した森の中からだった。
「ありえない……!」
荼毘は思わず狼狽えた。
酸素も燃え上がり、呼吸するだけで命に係わる煉獄の中、平然と生きている生物がいる筈がないと。
しかし荼毘は見た。見てしまった。目が合ってしまった。
まるで鮮血の瞳の様な赤い瞳。――真っ黒に染まる黒い生物を。
黒狼の様だ。しかし大きさが違う。
立ち上がった熊よりも遥かに大きく、燃え上がる森の中、炎をその身に浴びながらも平然としている生物。
「俺の炎が効かない……!? そんな訳……そんなはずは……!」
『AOoooooooooooooooooN!!!』
荼毘は怯み、思わず後ろに下がったと同時だった。
弱さを見せた事を待っていたかの様に、その獣は炎を身に浴びながら荼毘へと襲い掛かった。
そして悲鳴が聞こえることもなく、その場で大きな衝撃音と共に荼毘の意識は途切れるのだった。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
森の中に獣の遠吠えが木霊した。
▼▼
「なにこれ……!」
「何が起こったんだ!」
その頃、拳藤や骨抜を始めとしたB組の者達は目の前の光景に絶句していた。
地面が、木々が、岩が、その全てに巨大な爪痕が刻まれており、その中心地には一人の男――ヴィラン・マスタードが爪痕を刻まれて血まみれで倒れていた。
「あれって……さっきマンダレイから来たテレパスで言われたヴィランだよね?」
拳藤の言葉に塩崎は頷いた。
「恐らくそうでしょう……そして、この惨劇を作ったのは恐らく――」
「雷狼寺しかいねぇよ……!」
鉄哲も思わず冷や汗を流すほどの惨劇。
それを見て思わずB組は息を呑んだ。正体も分かった。
こんなことが出来るのは『雷狼竜』の個性を持つ竜牙しかいないと。
「生きてんのか……あれ?」
「分からないけど、止血と拘束はしといた方が良さそうじゃない?」
「さっき八百万さんが近くにおりました。ロープなどを作ってもらいましょう」
塩崎の案に鉄哲達は頷き、それぞれが動き始めた。
そんな時だ。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
「っ!!」
森に木霊する雷狼竜の遠吠えに骨の芯から震え上がるのをB組は感じた。
何かがおかしい。何かがヤバイ。そんな気をしながら遠吠えの聞こえた方を見た。
「雷狼寺……アイツ大丈夫なのか?」
「……心配ですね。しかし、まずは私達も動かねば」
鉄哲と塩崎は竜牙を心配しながらも、他のメンバーと共に動き始めた。
そして八百万が合流した事でマスタードを止血、そして拘束すると木々に縛って近くの施設へと急ぐのだった。
▼▼
その頃、補習施設では相澤が荼毘と戦闘を行っていた。
しかし既に荼毘を拘束し、尋問を行っていた。
「人数と配置……そして目的を言え!!」
「言わないとどうなる?――ってあれ? オリジナルに何かあったか……時間だな」
荼毘はダメージの蓄積。そしてオリジナルの異変に気付いて、その身体は泥の様にして消滅してしまった。
「!……発火が個性じゃないのか?」
消滅した荼毘を見て相澤はヴィラン側の個性を把握できずにいた。
同時に先程からあちこちで派手な音、そして雷狼竜の遠吠えが気になっていた。
「雷狼寺……無事だと良いが」
「先生!!」
相澤は竜牙に何かあったのかと一種の不安が過っていると、飯田を始め、耳郎達が集まってきた。
「無事だったか……」
生徒が無事な事に相澤は少し安心した。
だが全員でなければ、まだ安心できない。してはいけない。
「先生! これって――それにさっきからこの遠吠え……! 雷狼寺は無事なんですか!?」
「落ち着け……お前等は施設に入ってろ」
耳郎からの問いに相澤は静かにそう言うと、耳郎達を施設の方へ指差した。
施設にはブラドがいる以上、まだ安心できる。自身も動かねばと、相澤は身を整えた時だった。
「相澤……先……生……!」
「尾白! ラグドール!」
森の中から出てきたのはボロボロになった尾白とラグドールだった。
ラグドールは気絶しているのか、尾白が担ぎながら歩いていたが、相澤達の姿に安心したのか、フラっと倒れそうになった。
「尾白君!!」
そこを飯田が上手く受け止めた。
そして相澤達も急いで近寄り、相澤は二人の様子を見た。
「尾白! 大丈夫か! 何があった……!」
「先……生……これ……雷狼寺……がヴィラン……に……撃たれ……た」
「これは……薬物か!?」
相澤は尾白から受け取った注射器の様な矢を受け取り、中の薬品の匂いを嗅いで薬物と判断した。
しかしそれを聞いた者達の表情は真っ青に染まる。
「薬物って……! オイオイ雷狼寺の奴、大丈夫なのかよ!?」
峰田が慌てた様に叫んだ。
薬物を注入されたと聞いた以上、彼以外も同じ気持ちだった。
耳郎も自身の胸を抑え、雷狼寺の心配をするが、まだ尾白の話は終わっていなかった。
「先生……! 雷狼……は……き」
「喋るな尾白! すぐに手当てしてやる……ラグドールも無事だ。よくやったな」
「ちが……ち……が……」
「大丈夫だ出血はしていない。お前もラグドールも大丈夫だ」
尾白の言葉に相澤は安心させる様に言うと、飯田達に合図を送る。
二人を任せる、そういう意味だと飯田達も理解した。
「大丈夫だ! 尾白君! すぐに手当てするさ!」
「ちが……ち……が……狼竜……に……」
飯田の元気付ける言葉を聞いても、尾白は言葉を続けていた。
しかし皆は疲労しているからだと思い、そこまで気にせずにしていた。
――そんな時だった。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
それは現れた。
黒い体、白い体毛、血まみれの様な赤いラインの入った雷狼竜が。
それを見た瞬間、相澤は直感した。
「亜種か!?」
ラグドールから聞いていた内容と、今までの授業で出ていた姿によく似ていた。
それを見て相澤は嫌な予感を抱いたが、それよりも先に耳郎と峰田が前に出てしまう。
「雷狼寺!」
「おう無事だったかよ親友!」
二人は何とも思っていなかった。
ただ友の傍にいようと思っての行動だったが、獄狼竜の口に咥えている物体を見て相澤は手を伸ばした。
「待て! 今は近付くな!!」
相澤は気付いた。獄狼竜の口にいたのは荼毘だったからだ。
――ゴキッ!
その荼毘の骨が砕ける音がした瞬間、ようやく耳郎達も足を止めた。
そして荼毘は先程と同じ様に泥の様に消えてしまう。
これで残されたのは相澤と耳郎達――そして獄狼竜だけとなった。
「ら、雷狼寺……?」
耳郎が恐る恐る前に出たが、それは悪手だった。
彼女が近付いた瞬間、獄狼竜の瞳が耳郎を捉えた。
――そして。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
巨大な咆哮と共に獄狼竜は、耳郎へと腕を振り上げたのだった。