「切島君!!」
「切島ぁぁぁ!!」
獄狼竜の一撃で宙へ舞う切島に、飯田達はその名を叫んだ。
しかし切島の意識は途切れており、返答もなかった。
しかも獄狼竜も切島の真下で待機しており、トドメを刺すのだと誰が見ても明らかだった。
「まずい! トドメを刺す気だぞ!」
「切島くんが危ない!?」
「ええい!!」
瀬呂と葉隠が叫ぶ中、ブラドが飛び出した。
拳を血液で強化し、再び拳で獄狼竜の顔面へと一撃を入れた。
『GAU!!』
突然の攻撃にバランスを崩す獄狼竜だったが、それでも切島への意識を獄狼竜は変えなかった。
獄狼竜は理解していた。切島の覚悟を。だからこそ、ここで仕留めるべき敵として切島を認識したのだ。
「駄目だ!? まだ足りねぇ!」
「それでもやるしかない!」
「うおっ! 重いぃぃぃ……!!」
上鳴が叫ぶ。同時に飯田が走り、瀬呂がテープで獄狼竜の腕を掴んでどかそうとするがビクともしなかった。
このままでは危ない。そう思った時だった。
――不意に森の中から飛び出してくる者達がいた。
「オラァ!!」
「せい!!」
「――茨で身体を縛ります」
飛び出してきたのはB組の者達だった。
鉄哲・拳藤・塩崎の三人が、一斉に獄狼竜へ攻撃してバランスを崩させると、とうとう獄狼竜をダウンさせる事が出来た。
「切島君!!」
その隙に落下してきた切島を飯田がキャッチし、そのまま切島を安全圏へと連れて行く。
そしてブラドは切島が助かった事に安心すると、そのまま鉄哲達の方を見た。
「お前達! 無事だったか!」
「はいブラド先生! けどなんで雷狼寺と戦ってんですか!?」
「単刀直入に言う! 雷狼寺はヴィランに薬物を撃たれて暴走している! 目の前にいるのは雷狼寺ではなく、雷狼竜の亜種自身だと思え!!」
「そういうことか……てっきり、また物間が何かしたと思ったけど……」
「どうやら危機的状況のようですね」
ブラドの言葉に拳藤や塩崎も納得していると、獄狼竜は静かに起き上がっていた。
それと同時、不意にマンダレイのテレパスが皆の頭の中に聞こえてきた。
『伝令! A組B組各員! イレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する! とのこと!』
「相澤……間に合ったのか」
そのテレパスでブラドは、相澤がマンダレイと合流したと思った。
まずは一安心――そう思いたかったブラドだったが、やはり目の前の獄狼竜を見て苦い表情を浮かべた。
『Grrrrrrrr……! AOoooooooooooooooooN!!』
「なんてタフさだ……! 随分と殴りつけているが、堪えている様には見えんぞ!」
ブラド的には随分と手応えのある攻撃をしているつもりだったが、獄狼竜の動きが鈍った様にも見えなかった。
「うぅむ……まだヴィランもいるのに、このままでは……!」
「ブラド先生! そう言えばなんだけどよ! ここに来る前に八百万と会って、これを渡されたんだ!」
「ん? なんだその物体は?」
鉄哲の腕に握られていたのは、小さな機械の様な装置だった。
丸い謎の装置だが、ブラドにはそれが何なのか分からなかった。
「なんか話によると地面に設置すると、自動で
「つまり雷狼竜用の落とし穴の様です」
「おぉ!!」
拳藤と塩崎の説明にブラドの表情は明るくなった。
「良し! 戦闘許可も下りた以上、自衛の為だ。やるしかない! その落とし穴を設置するんだ!」
「うっす!」
ブラドの言葉に鉄哲は近場に設置すると、装置が光り始めた。
これで準備は完了だが、同時に獄狼竜の動きが変わった。
『Grrrrrrrr……!!』
露骨に獄狼竜は落とし穴周辺を警戒し始めたのだ。
動きに慎重さが現れ、獰猛さが僅かながら鳴りを潜めた。
「クッ……! 露骨過ぎたか……明らかに警戒しているぞ」
見た目が獣だからと嘗め過ぎた。
思ったよりも賢い生物だとブラドは拳を握っている間にも、獄狼竜は瀬呂のテープと塩崎の茨を薙ぎ払って自由の身となった。
「うわっ! やっぱり破られる!」
「……恐ろしき地獄の魔犬です」
瀬呂と塩崎はすぐに距離を取ったが、獄狼竜は周囲を威嚇する様に唸り声をあげながら移動し始める。
そして、まるで標的を決めるかの様にブラドや耳郎達を見回していた時だった。
「皆! 目を閉じて!――ハイ! チーズ!!」
不意に葉隠の声が聞こえ、咄嗟に全員が目を閉じた瞬間、目を閉じても分かる程の発光が辺りを照らした。
所謂フラッシュの様な光。それをモロに見た獄狼竜はもがく様に暴れ始めた。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
「うわわわ……!」
目を閉じながら周囲で暴れる獄狼竜。それを見て葉隠は素早く撤退。
耳郎や芦戸達の下に戻って来ると、すぐに今の事を聞かれた。
「葉隠!? 今のなに!」
「凄い眩しかったよ!?」
「えへへ……特訓の成果かな?――私もね、雷狼寺くんを助けたかったから皆と同じく頑張ったんだ」
二人からの言葉に葉隠は照れくさそうに、そう言った。
それを聞いて皆も思う事があったのか、嬉しそうな表情を浮かべ、胸が熱くなるのを感じた。
A組の中で竜牙を意識をしなかった者は誰もいなかった。
例え変わっても、いつか話してくれる。いつかまた自分達を見てくれる。
そう信じて誰もが個性の特訓をしていたのだ。
そして、その成果をまず見せたのが葉隠だった。
少なくとも獄狼竜から視界を奪った成果は大きく、未だに獄狼竜は悶えていた。
そう思っていたのだが、不意に獄狼竜の瞳が開いた。
そして、開いた視界の先にいたのは――上鳴だった。
「えっ――!?」
『AOoooooooooooooooooN!!』
「上鳴!!」
「いかん!!」
耳郎やブラドが叫んだが、上鳴は恐怖で動けなかった。
身体が震え上がり、どこに逃げればとパニックになるのを獄狼竜は見逃さなかった。
『AOoooooooooooooooooN!!』
獄狼竜は吠え、そのまま上鳴へと走って行く。
誰もまずいと、危険だと思ったが上鳴は後方にいた故に孤立もしていた。
だから誰も間に合わず、飯田ですら間に合わない。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな上鳴は悲鳴をあげながら電気を放出させた。
無駄な行動だと誰もが、上鳴自身も思った。
そして強い衝撃が来るだろうと思った上鳴。
――だったのだが、いつまで経っても衝撃は来なかった。
「えっ……?」
上鳴は恐る恐ると目を開けると、そこに上鳴へ露骨に間合いを取る獄狼竜の姿があった。
『Grrrrrrrr……!!』
明らかに上鳴を警戒している動きだった。
唸り声をあげるが、上鳴へ襲い掛かる気配はない。
まるで恐れているかのようだった。
雷狼竜が――電気を扱う上鳴を。
そして、それを見ていたブラドや耳郎、飯田達はある可能性に気付いた。
「まさか……」
「亜種……もしかして亜種だから――」
「通常の雷狼竜と違って電気が弱点なのか!?」
――!?
飯田の言葉に全員が驚愕した表情を浮かべる。
そして、それが正しいかの様に上鳴が前へ一歩出ると、獄狼竜は確かに距離を取ったのだ。
それを見た後の耳郎達の動きを早かった。
「上鳴!! 前に出て! 雷狼竜亜種の弱点は電気!!」
「お、おぉ! よっしゃ任せろ!!」
最初の恐怖はどこへやら。
上鳴はやる気を出して放電しながら獄狼竜へ向かって行く。
しかし、獄狼竜も馬鹿ではない。
『AOoooooooooooooooooN!!』
獄狼竜が一鳴きすれば、再び蝕龍蟲弾が周囲へ飛来した。
「またあのサポートメカの……!」
「うおぉっ! 飛び道具はズルいだろ!?」
耳郎が叫び、上鳴は思わず停止した。
あれは一定時間停滞し、不規則で発射されるものだと耳郎達は理解していた。
いつ発射されるか分からない。
弱点が分かっても動けない。どうすれば誰もが思った時だった。
ここで奴が動いた。
「ちくしょうぉぉぉ!! 親友の為だ! オイラだってやってやる!」
「み、峰田!!?」
瀬呂が奴の名を――峰田の名を叫んだ。
峰田は涙目で自棄になりながらも、モギモギを蝕龍蟲弾目掛けて投げまくった。
するとどうだろう。
蝕龍蟲弾は次々とモギモギにくっついてしまい、次々と落下して最後は爆発してしまった。
それを見て今がチャンスだと、誰もが理解した。
「よっしゃ! 今がチャンス! 見せてやるぜ人間スタンガン!! 砂藤! オレを投げてくれ」
「お、おう! 任せろ!!」
上鳴から要請に砂藤は再び個性を発動させ、一気に上鳴を獄狼竜目掛けて放り投げた。
そして、そのまま放電を開始した上鳴が獄狼竜にぶつかると、獄狼竜は今までに無いほどの声を上げた。
『AOoooooooooooooooooN!!』
それは咆哮ではなく叫びに近いものだった。
「すっげぇ……効いてるよ。オレ凄くね?」
「ハイハイ凄いから、もっと攻撃してよ!」
「分かってるって!」
耳郎達からの視線に上鳴は無理矢理に獄狼竜へ抱き着いた。
すると獄狼竜は更に叫び始め、動きが確かに鈍ったのを飯田達は見過ごさなかった。
「よっしゃー! 行くよ飯田!」
「良し! 掴まっていてくれ芦戸君!!」
芦戸と飯田が連携を見せた。
飯田が芦戸を背負い、一気に獄狼竜の周りを走り始め、一気に酸を掛けた。
『AOoooooooooooooooooN!!』
電気に酸の追い打ち。
確実に獄狼竜へダメージが入る中、獄狼竜は全身を震わせて上鳴を払った。
「うおっ! ヤベッ!?」
『AOoooooooooooooooooN!!』
やられてばかりじゃないと、獄狼竜は上鳴を標的にした。
彼の後ろを追いかけて口を大きく開けた。
「今です! 砂藤さん!」
「よっしゃ! プルス……ウルトラ!!」
そんな時だ。獄狼竜の前両脚に塩崎の茨が引っ掛かった。
それを手がボロボロになりながら砂藤が引っ張り、痛みに耐えながらも二人は獄狼竜の体重を耐えた。
「こんな時こそ……!」
「受難に感謝だろ……! 雷狼寺!!」
塩崎も砂藤も竜牙が嫌いじゃない。寧ろ友だと思っている。
別のクラスだけど、関係は薄くても、二人の気持ちに嘘はなかった。
そして茨が切れるよりも先に、獄狼竜の方が脚に引っ掛かった事で大きく転倒した。
「今だ!!」
そこへ叫ぶブラドと共に鉄哲と拳藤が、同時に獄狼竜の顔面や酸で溶けた甲殻を殴った。
瞬間、前脚の甲殻がついに砕けた。
『AOoooooooooooooooooN!!』
ダメージらしいダメージが入る中、そこへ耳郎が獄狼竜の頭に跨った。
「もう……戻って来てよ! 雷狼寺!!」
泣きそうになりながら叫ぶ耳郎は、そのまま頭部へイヤホンジャックを叩きこんだ。
その衝撃波は場所のせいもあり、獄狼竜へ大きなダメージとなった。
『AOoooooooooooooooooN!!?』
頭を振るって耳郎を振り払おうとする獄狼竜だったが、耳郎は必死に掴まっていた。
「もう……戻ってよ……前の雷狼寺に!」
『AOoooooooooooooooooN!!?』
耳郎の言葉は咆哮にかき消されてしまうが、それでも確かなダメージを与えていた。
それを見て、誰もが終わりが近いと思っていた。
実際、近い。このまま行けば、決着が――
――怒
『AOoooooooooooooooooN!!』
獄狼竜が一段と大きな咆哮をあげた瞬間、大きな赤雷と共に姿を変えた。
甲殻が展開し、体毛や全身から赤雷を放出。
――『龍光まとい状態』となった。
そして瞬間、赤雷が耳郎を襲った。
彼女は全身に赤雷を浴び、そのまま頭から落下した。
「あっ!?」
「耳郎君!?」
芦戸や飯田が叫ぶが、耳郎の意識が遠ざかっていた。
「っ――がっ!?」
「あぶない!?」
だがそこへ拳藤が巨大化させた腕で受け止めると、すぐに距離を取った。
けれど獄狼竜の纏う雰囲気は完全に変わっていた。
戦いはまだ終わらない。