僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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第四十四話:討伐完了

 

「AOoooooooooooooooooN!!!」

 

 耳郎が赤雷で倒れた。そこを拳藤がキャッチして安全圏へ運んだのまだ良い。

 

 しかし龍光まとい状態――となった獄狼竜によって全てが変わった。

 

「いかん! 離れ――」

 

 ブラドが叫んだ時には彼は、間合いをつめた獄狼竜によって吹き飛ばされ、そのまま地面へと沈んだ。

 

「ブラド先生!?」

 

「ぐぅっ……なんて動きだ……!」

 

 鉄哲が叫ぶ中、ブラドは全身に響く痛みに耐えながら、なんとか立ち上がる。

 しかし獄狼竜の動きは先程よりも激しく、そして速い。

 

 ギアが一段、二段上がった。まさにそんなスピードと動きであった。

 

「雷狼寺!!」

 

「目を覚ますんだ雷狼寺君!!」

 

「やるしかないかな……!」

 

 そんな姿に芦戸や飯田が悲痛な叫びをあげ、拳藤は仕方ないと割り切って拳を巨大化させた。

 

『AOoooooooooooooooooN!!!』

 

 だが獄狼竜にそんな声は響かなかった。

 寧ろ、人間――外敵が騒いでいる程度にしか思っておらず、そのまま高速で旋回する動きで、尻尾で三人を薙ぎ払った。

 

 薙ぎ払われた者達はそのまま木にぶつかるか、地面に叩きつけられて気を失ってしまう。

 

「拳藤!!」

 

「飯田! 芦戸!?」

 

 鉄哲や瀬呂が叫ぶが返事は帰ってこなかった。

 そんな現状に周囲の者達の空気は悪化する。――凍り付いた様な、野生の恐怖に包まれたのだ。

 

「いかん……!」

 

 それを見て唯一のプロヒーローであるブラドが、肩を押さえながら動こうとするがダメージが大きかった。

 

 身体は思うようにはいかず、このままでは最悪な展開を想像してしまう。

 

『AOoooooooooooooooooN!!!』

 

「ちくしょう!!」

 

「うおぉぉぉぉ!! こうなったらやってやらぁ!」

 

 瀬呂は自棄になった様に叫び、峰田は泣きべそかきながらモギモギやテープを獄狼竜へと放った。

 

 しかし最初に言った様に動きがもう違うのだ。

 

『――!』

 

 獄狼竜はダメージがない攻撃すらも受けることは無く、巨体とは思えない動きで回避する。

 

「なんとか動きを――!」

 

 塩崎もまた茨を出して獄狼竜を捕らえるが、獄狼竜は一鳴きすると周囲に赤雷が降り注いだ。

 

 その赤雷によって茨は焼き切れてしまい、獄狼竜はすぐに解放されてしまう。

 

「そんな……!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 本当にもう駄目だぁぁぁ!!」

 

 塩崎が絶望し、峰田はそれ以上に絶望の叫びをあげた。

 それを聞きながら獄狼竜は徐々に生き残りへ近付いていき、それを見た砂藤と鉄哲が皆を守る様に前に出た。

 

「ハァ……ハァ……! やるしかないよな」

 

「あぁ……! ここで止めなきゃ、本当に最悪な事態になっぞ!」

 

 二人は身構えながら互いにそう頷き合うと、玉砕覚悟で獄狼竜への攻撃を考えた。

――時だった。

 

「皆! また目を閉じて!――ハイ! チーズ!!」

 

『AOoooooooooooooooooN!?』

 

 周囲に再び大きなフラッシュが照らされた。

 やったのは勿論、葉隠だ。

 

 彼女の攻撃を受けた獄狼竜は目をやられた事で、叫び、後退しながら暴れている。

 そして葉隠達は、その短い間に作戦を立てようと考えた。

 

「今のうち今のうち! どうしよう!!」

 

「わりぃけど俺のテープじゃ止められねぇよ……!」

 

「私の茨も同じです」

 

「つうか攻撃を当たんねぇって!?」

 

 葉隠の言葉に瀬呂や塩崎、上鳴がどうしようもないと言葉を出す。

 しかし鉄哲はまだ諦めてなかった。

 

「いや! 八百万がくれた落とし穴があるぜ! あれに誘い込めばなんとかよ……!」

 

「仮に落としてどうなんだよ!? アイツ、倒せんのか!? 仮にも雷狼寺だぜ! 無策で戦って勝てるかよ!?」

 

 鉄哲の作戦を聞いた峰田が泣き叫んだ。

 仮にも親友を名乗る峰田だ。竜牙のタフさを理解している。

 

 だから暴走してようが関係なかった。もっと策を考えなければ勝てないと、峰田には確信があったのだ。

 

「弱点は他にないのか? 電気だけじゃなく、場所的な弱点とか……!」

 

「分からん……いくら攻撃しても通用している様にも見えなかったからな」

 

 砂藤の言葉にブラドが首を振る。

 攻撃時に手応えはあった。しかし弱点かと聞かれれば確信は全くなかった。 

 

 このままでは万事休すだ。どうにかないかと皆が焦りながら考えていた。

――その時だった。

 

「背中!! 今の状態なら背中の肉質が変わる! だから背中を狙って!」

 

 突然の声に皆が一斉にそちらを振り向くと、そこにいたのは物間に肩を借りたラグドールだった。

 ラグドールは『サーチ』の個性で弱点を把握しており、今こそ獄狼竜を倒せる時だと告げた。

 

「ラグドール!? 大丈夫なのか!!」

 

「私のことより……雷狼寺くんを……! とりあえず背中を攻撃して!」

 

 心配するブラドに、ラグドールは自分の事よりも竜牙をと優先させた。

 そしてラグドールの言葉を聞いた以上、その作戦は一つしかなかった。

 

「だったら尚更、落とし穴に落とすしかねぇぞ!」

 

「けどどう落とすんだよ!? 獄狼竜の奴、落とし穴を警戒してたじゃねぇかよ!」

 

 瀬呂の言葉に峰田は叫ぶように言うが、まさにそれが鬼門だった。

 獄狼竜は馬鹿じゃない。並みの野生動物以上の賢さを持っており、露骨な落とし穴に引っ掛けるのは難しい。

 

「何か注意を逸らせるものがあれば宜しいのですが……」

 

「何か無いか!? 獄狼竜が我を忘れる程のものとか! そうすれば落とせんじゃねぇか!」

 

 塩崎の言葉に上鳴が皆に聞くが、誰も言葉を出す者はいなかった。

 竜牙であれば女子か女性がいれば油断する確信は皆が抱いていたが、獄狼竜では話は別だ。

 

 何かないか、何でも良いからと――誰もが願った時だった。

 

 ラグドールに肩を貸していた物間が口を開いた。

 

「全く! 迷惑な話だね! とっととA組のペットを何とかしてほしい限りだね!」

 

 この男は本当にブレなかった。

 ヴィランがいるのに、余計な事ばかりと獄狼竜を見て思っていた物間。

 

 しかし、それが天明となった。

 皆、物間を見て何かに気付き、一斉に円になって話し合い始めた。

 

「物間だ物間だ……アイツがいた」

 

「アイツで良いな。囮で決まりだ」

 

「これも神の思し召しでしょう」

 

「よし決まりだぜ」

 

「ううむ、仕方ないな今回だけは」

 

 ブラドも最後は折れる形の作戦。

 しかしそれは物間にも勿論、聞こえていた内容だった。

 

 物間は嫌な予感を抱き、汗を流しながら抗議した。

 

「いや! ちょっと待ちなよ! 囮とかそういうブラックなジョークはヒーローには要らないんだよ!!――えっ、ジョークじゃない?」

 

――結果。

 

「アハハハハ!! これがA組のやり方か! 鉄哲や塩崎も! 今後の友好関係にヒビが入ると思ってくれよ!!」

 

 発狂したかの様に笑う物間は今、落とし穴の手前に周囲の残骸で作った十字架により磔にされていた。

 

 こうなったら自棄だった。逃げ場はない。近くにブラドを始め、戦える生徒は皆いる。

 なんかあった時は大丈夫だとブラドは言い聞かせるが、物間は信じていなかった。

 

「アハハハハ!! 良いだろうA組! 今回の件は君達の勝ちだ! だがこれで雌雄が決したと思わないことだ! これが終わった後、僕は――」

 

「こいつ、本当にブレねぇな……もうとっとと亜種を呼ぶぞ」

 

「良し! 作戦通りにいくぞ!」

 

 上鳴が物間に呆れる中、鉄哲の言葉に皆が頷いた。

 そして代表するかの様に葉隠が獄狼竜へ声を出した。

 

「お~い!! こっちだよ!!」

 

『――!』

 

 フラッシュの影響が消えた獄狼竜が、葉隠の声に反応して全員がいる方へ顔を向けた。

 そして、落とし穴よりも先に獄狼竜は物間をピンポイントで見たのだ。

 

「えっ――」

 

 物間もその実感はあった。

 間違いなく目が合った。そんな認識が。

 

『――』

 

 獄狼竜も不気味に黙っていた。

 獄狼竜は思い出しているのだ。あの磔にされている人間の姿と匂いに覚えがあると。

 

 そう宿主である竜牙の中にいた時に、何度も挑発してきた人間――縄張りを侵した人間だと。

 

『AOoooooooooooooooooN!!!!』

 

 それに気づいた瞬間、獄狼竜は今日一番の咆哮を放った。

 そして何の迷いもなく、突っ込んで来た。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 物間も叫んだ。全員の表情が険しくなる。

 けれども誰一人として逃げる者はいなかった。

 

 そして八百万製の落とし穴装置。その真上に獄狼竜が乗った瞬間――轟音と共に獄狼竜の巨体は巨大な穴へ落ちた。

 

「よっしゃー! どうだみたか八百万ブランドの力!!」 

 

 葉隠が叫んだ。

 その間にも獄狼竜は下半身が完全に沈み、頭と両脚ぐらいにしか出ていない。

 

 だがもがいているのを見る限り、その気になったら出てくるのは時間の問題だった。

 だからこそ、次の一手が撃たれる。

 

「やってくれ砂藤!!」

 

「頼むぜ!!」

 

「おう!!」

 

 砂藤は鉄哲に抱き着く上鳴諸共、鉄哲を真上へと放り投げた。

 そして、そのまま落下してくる鉄哲へ、上鳴の電撃が浴びせられる。

 

 けれど二人に迷いはない。

 最初からこういう作戦だったからだ。

 

「よっしゃ行くぜぇぇぇぇ!!」

 

「ウ、ウェェェェェイ!!!」

 

 キャパを浴びた電撃を受けながら鉄哲は落下し、狙いを定めた。

 狙いは一つ。獄狼竜の背中だ。

 

 そこ目掛けて落下し、この渾身の一撃を決める。

 

『AOoooooooooooooooooN!!!』

 

 獄狼竜は気付かない。気付いても手遅れだ。

 既に間合い。鉄哲の重さと上鳴の電撃。それらが合わさった徹甲弾の如き一撃。

 

 それは獄狼竜の背中へと吸い込まれていった。

 

――メキッ!

 

 鉄哲と上鳴の一撃を受けた瞬間、聞こえてはいけない音が獄狼竜の背中から発せられた。

 

『――!?』

 

 獄狼竜は口を大きく開けるが、そこから咆哮は聞こえてこなかった。

 まるで落雷の一撃。それを受けた獄狼竜から赤雷は消え、蝕龍蟲達も一斉に煙を出して壊れていく。

 

 そして最後は力なく落とし穴の中で倒れた。

 

「勝った……の?」

 

 葉隠の言葉にまだ誰も言葉が発せられなかった。

 それを見てブラドが先に動いた。

 

「鉄哲! 上鳴!」

 

 生徒の安全を優先しようと動いたブラドが叫ぶと、二人はフラフラしながらも獄狼竜の背中から現れた。

 

「無事だぜ……ブラド先生……」

 

「ウェ、ウェェェェェイ……」

 

「おぉ! 二人共……!」

 

 ブラドはすぐに二人に肩を貸した。

 そして獄狼竜から背を向けた。

 

 彼等の視界には安心した表情の葉隠達がいる。

 それを見て安心する反面、すぐに気絶した生徒や竜牙を見てやらねばとブラドは頭をフル回転させていた。

――時だ。

 

――()()()()轟音が響いた。

 

 同時に()()()()が周囲を照らした。

 

「まさか……!」

 

 ブラド達は怖くてすぐに振り返る事は出来なかった。

 だが瀬呂や塩崎達の絶望の表情を見て、そうはいかなかった。

 

 恐る恐る、無駄に願いながらブラド達は振り返った。

 すると、そこには倒した筈の獄狼竜から金色の雷が発せられ、その身体に変化をもたらしていた。

 

 身体は更に巨大に。鱗は翡翠色の様に美しく、体毛も威厳あるものへと変わっていた。

 特に目立つのは角だった。片方だけが発展し、もう片方の倍以上もの大きさとなっていた。

 

 そして金色の雷を纏いながら、徐々に、徐々にその姿を構築していく。

 

「まさか……!」

 

「もう無理だ……!」

 

「ウェェェェェ~イ」

 

 ブラドや鉄哲も絶望の表情へと変わった。

 明らかに獄狼竜の比ではない威圧感だった。

 

 何より、もう戦える余力がない。

 どうすれば良いのかと、誰もが神に祈った時だった。

 

――不意に雷狼竜の動きが止まった。

 

 そして構築は収まり、徐々に身体が縮んで行く。

 最後は竜牙の姿となり、落とし穴の中でボロボロの姿の竜牙だけが取り残されていた。

 

「雷狼寺!!」

 

「大丈夫か!?」

 

 瀬呂と峰田がすぐに駆け出して竜牙の下へと向かう。

 だがブラドは、まだ唖然としたままだった。

 

 一体何が起こったのか分からず、ゆっくりと鉄哲と上鳴を降ろした時だった。

 

「今度は間に合ったか……!」

 

「相澤!?」

 

 雷狼竜の背後――だった場所、そこに相澤が立っていた。

 その目は光っており、彼の個性である『抹消』が働いた証拠だった。

 

「完全に雷狼竜化する前なら抹消できる」

 

「相澤! 助かったが、何故戻って来た!? それにその子は……?」

 

「こ、洸汰くん……!」

 

 相澤の背中には洸汰が背負われていた。

 それに気づいたラグドールの言葉に、相澤は頷くとゆっくりと彼を降ろした。

 

 そして瀬呂と峰田に肩を借りながら落とし穴から出てくる竜牙を見て、すぐに近付いた。

 

「雷狼寺……!」

 

 近付くと気を失っているが呼吸は安定していた。

 それを見て、相澤はようやく安心できた。

 

 だが完全にではない。まだヴィランとの戦いは終わっていないのだ。

 相澤はすぐにでも向かおうとした時だった。

 

「相澤先生……!」

 

「尾白……!」

 

 声のする方へ相澤は向くと、そこにはフラフラになりながら自分を見る尾白の姿があった。

 相澤はすぐに尾白の下へ向かうと、尾白は口を開いた。

 

「先生……! 雷狼寺……は?」

 

「安心しろ。無事だ……暴走は終わり、亜種は戻った。本当に良くやったな尾白」

 

 竜牙に起こったことの報告。そしてラグドールの救出。

 どちらも凄い事だと相澤は尾白を褒めた。

――だが、尾白の次に発する言葉に絶句することになる。

 

「……()()()()は?」

 

「……なに?」

 

 尾白の言葉に相澤は唖然とすると、尾白は事態に気付いて焦った様に口を開いた。

 

「先生……! 雷狼竜は()()()()います! あの時……亜種から分離した個体がいるんです!」

 

「なんだと……!」

 

 相澤は嫌な予感を抱いた時だった。

 

『『AOoooooooooooooooooN!!!』』

 

 遠くの方から明らかに雷狼竜と思わしき遠吠えが聞こえてきたのだ。

 この夜はまだ終わらない。

 

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