獄狼竜との決着が着いた頃、緑谷達も激闘を繰り広げていた。
――敵の目的は『爆豪』だった。
そんな状況下で彼等は爆豪を護衛していたのだが、そこに新手のヴィラン――Mr.コンプレスが現れ、彼の個性『圧縮』によって爆豪・常闇を奪われてしまったのだ。
「これで目標達成だ。各員、これより5分以内に回収地点へ向かえ」
Mrコンプレスはそう言って逃げてしまうが、緑谷達も麗日・蛙吹の協力により追跡。
彼等はヴィラン達の回収地点へ間に合うと、そこではボロボロの荼毘を筆頭にトガヒミコ・トゥワイス等の名のあるヴィラン達が集まっていた。
そして彼等は緑谷達の登場に驚きの様子だった。
「あっ! このガキ共!! 知ってるぜ! 誰だ!!」
「――チッ! あの
「いてて……空から来るとは――爆豪ですか? 爆豪ならこの右ポケットに――ってあれ?」
Mrコンプレスが右ポケットを漁るが、そこには何も入ってなかった。
――まさか。
そう思っていると障子が腕から小さな球を二つ取り出した。
「残念だったなエンターテイナー。二人は返してもらった!」
「障子くん!!」
緑谷が感動した様に叫ぶと、それを見ていた荼毘が目を見開いた。
「クソッ……! 失敗したのか!?」
「アハハハハ!! 流石は六本腕! 器用なものですね!」
傷を負っている荼毘はフラつきながらも、自らの個性で発火を行おうとした。
だがコンプレスは笑うだけで、余裕たっぷりな態度で彼を止めた。
「いやいや……問題ありません。間もなく時間――それにトリックはバレない様に……な」
「なっ! 口に――」
「っ! 返せ!!」
コンプレスは仕込んでいた。
ポケットには偽物を入れており、圧縮が解除されると障子の持っていた球から氷塊が現れた。
本命はコンプレスの口の中に入っていたのだ。
それ故に彼は余裕だったのだ。本命はまだ自身の手の中。
それを見て荼毘も安心したのか、静かに頷いた。
――時だった。
「あっ――」
緑谷は見た。見てしまった。
その場にいた轟と障子も気付いた。気付いてしまった。
コンプレス達の背後に
『AOoooooooooooooooooN!!!』
それは突如として飛び出してきた。
荼毘を吹き飛ばし、同時にコンプレスの
「雷狼寺くん!!」
「雷狼寺!」
「雷狼寺か……!」
誰もがそれを竜牙だと疑わなかった。
ずっと森で鳴いていた雷狼竜の声。それは気になったが、こうして今、助けてもらった以上、疑うことは無かった。
逆に危機に陥っているのはコンプレス達だった。
荼毘は吹き飛ばさ地面に叩きつけられ、コンプレスに至っては片腕を持っていかれた。
「ガハッ!――またあの犬かよ……いや……姿が違う……!」
「があぁぁぁ!! 腕が! なんだコイツは!?」
「犬!?」
「こいつ知ってるぜ!! 何なんだコイツは!!?」
『Grrrrrrrr……!!』
ヴィラン達もパニックに陥っていた。
回収目前になってこの雷狼竜の乱入により、コンプレスは腕を失った衝撃で口から吐き出してしまった。
――爆豪と常闇を。
「取って!!」
それを緑谷達は見逃さなかった。
緑谷の声に轟と障子が飛び出した。
そして障子が常闇の入った球をその手に掴んだ。
「取った!」
「爆豪!!」
残り爆豪だった。爆豪の入った球へ轟が手を伸ばし、あとちょっと――そんな時だった。
「申し訳ありませんが……時間です」
「なっ! ワープの!?」
緑谷達の前に現れたのは黒霧と――彼の個性のワープゲートだった。
「撤退だ!」
「あの犬、可愛くないです!」
次々とワープゲートに入って撤退していくヴィラン。
荼毘とコンプレスもゲートの中に入って行くが、その刹那――コンプレスは圧縮を解除した。
「ちくしょう……! ショーが台無しだ!!」
「問題ありませんよ……雷狼竜が思ったより仕事をしてくれた様ですし、目的は達成です」
爆豪はその姿を現した。だが、その身体の大半はワープゲートの向こうだった。
「かっちゃん!!!」
「くんな……デク……!」
その言葉を最後にワープゲートは閉じて、爆豪の姿は消えた。
「あっ……あぁ……!!」
緑谷の悲痛な叫びは燃え盛る森の中へと消えて行った。
だが、問題はまだあった。
「爆豪……!」
轟もワープゲートがあった場所を見るが、既に消えた後だ。
残されたのは緑谷達――そして雷狼竜だった。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
「えっ……雷狼寺くん?」
「雷狼寺……?」
「Grrrrrrrr……!!」
雷狼竜は突如として咆えると、そのまま緑谷達を見て唸り声をあげた。
その様子を見て緑谷達は、ようやくおかしい事に気付いた。
「ら、雷狼寺くん……?」
「待て緑谷! よく見ろ……コイツ、原種じゃねぇぞ」
轟はその姿に違和感を持ち、すぐに雷狼竜の姿がいつもと違う事に気付いた。
授業で見た不死種でもなく、亜種でもない姿。
一見、原種と見間違いそうになった。
だが荒々しく揺れる金色の鬣、黒く変色した甲殻。そして肉体の箇所にある
「前脚も明らかに原種よりデカいぞ……!」
「雷狼寺? 雷狼寺なのか!!」
轟と障子は嫌な予感を抱いた。
直感だったが、僅かに下がりながらそう叫ぶも、雷狼竜――<ヌシ・ジンオウガ>は遠吠えで応えた。
『AOoooooooooooooooooN!!!』
「雷狼寺くん……じゃない?」
「雷狼竜……!」
緑谷達は信じられないモノを見た言わんばかりに、ヌシを見上げていた時だった。
マンダレイのテレパスが彼等の頭に響いた。
『緊急連絡! こちらで対応していたヴィランに逃げられた。それともう一つ――雷狼竜を見たら逃げて! 雷狼寺君は今、ヴィランに薬物を撃たれて気を失っているの! 暴走状態のは対処したけど、彼の肉体から分離した個体がまだいるの! だから見つけたら逃げて! それは雷狼寺君じゃない!!』
「……聞いたか?」
「あぁ……最悪だ」
「そんな……かっちゃん、雷狼寺くん……!」
爆豪の誘拐。そして竜牙の暴走状態に緑谷はショックと怪我で立てなかった。
そんな緑谷を障子が背負い、轟が気絶している常闇に肩を貸した。
そして障子と轟は徐々に近づいてくるヌシを見ながら、少しずつ下がって行く。
しかし、最後は木々に追い詰められた。
これ以上は炎もあって下がれない。だがヌシは近付いてくる、そんな状況に三人は嫌な汗が流れた時だ。
三人の間合いに入ったヌシは不意に顔を下げた。
そして、鼻をヒクヒクさせながら三人の匂いを嗅ぎ始めた。
「僕達の匂いを……嗅いでる?」
「どういう事だ……?」
「分かんねぇけど、まずはジッとした方が良さそうだ」
ヌシの鼻息や口の匂いも感じる程の距離感で数十秒。
三人は生きている心地がしなかった。
だがやがて、ヌシは顔を離すと三人へ襲い掛かる――事はせず反転し、ゆっくりと歩き始めたのだ。
「なんだ……一体?」
轟がヌシの動きに困惑するが、ヌシは途中で立ち止まると緑谷達の方を振り返った。
そして、また今度は控え目に鳴いた。
『AOoooooooooooooooooN……!』
「付いて来いって……ことか?」
「分からないけど、襲ってくる感じはないよ……付いて行ってみよう。どの道、先生達にかっちゃんの事を伝えないと……!」
緑谷の案に二人は頷くと、ヌシが歩き始めたので後ろに付いて行く事にした。
▼▼
どのくらい歩いただろうか。
緑谷達はそう思っていると、徐々に救急車や消防車――そして警察のサイレンが聞こえてくるのに気付いた。
誰かが通報したのだろうと、三人は思っていると、段々と見覚えのある場所に辿り着いていた事に気付く。
だがヌシはまだ足を止めず、まるで目的があるかの様にどこかへ向かって行く。
三人も、とりあえずは仲間との合流を目的としていたので後に続いてみた。
目印として、これ以上の存在はいないだろうと、そう思っていた時だった。
ヌシと緑谷達は、やがて広い空間へと出たと同時に、ライトが一斉にヌシへと向けられた。
「ギャアァァァァ!! 本当にもう一匹いるじゃねぇかよぉぉぉぉ!!」
「ええい! あれが分離した個体か!」
「この声……峰田か!」
「それに寅さんの声も……!」
『Grrrrrrrr……!』
「おい! 誤解を解かないとまずいぞ!」
三人は安心の反面、先程のテレパスを思いだす。
きっと何かがあったのだろう。皆はまだ雷狼竜を敵と見なしていると思い、すぐに三人は雷狼竜の前に出た。
「みんな! 待って!!」
「俺達だ! まず話を聞け! この雷狼竜は襲ってこねぇ!!」
「落ち着いてくれ!」
「その声……緑谷達か!!」
最初に警戒しながら駆け付けてくれたのは相澤だった。
相澤はヌシに間合いを取っていたが、ヌシが相澤の匂いを嗅ぐと無視して歩くの見ると、すぐに緑谷達に駆け寄った。
「お前達……無事か!」
「俺達は無事だけど……」
「先生……! かっちゃんが……!」
「!……そうか」
相澤は緑谷の言葉で察した。
何があったのかも全て。
しかし目先の危機もまだあった。
ざわつき始める背後からの声に振り返ると、周囲の者達はヌシ・ジンオウガの姿に警戒、ある者は覚えていた。
数名は何故か物間を盾にしようとしていたが、ヌシは緑谷達同様に周囲の者達の匂いを嗅いでいた。
「な、なんだよぉ……!」
「もう一戦は勘弁してぇ……!」
峰田と葉隠を始め、他の者達も警戒を解かなかった。
プッシーキャッツ達も身構えていたが、ヌシは何もせず、救急隊員に運ばれようとしていた竜牙の下へと向かう。
『Grrrrrrrr……!!』
「う、うわぁ……!」
そして腰を抜かす救急隊員を無視し、竜牙へ鼻を付けた時だった。
落雷の様な音と衝撃と共に、ヌシの姿は消えた。
竜牙の中へと戻ったのだと、誰もそう思った。
そしてようやく、この夜の戦いは終わりを告げるのだった。
重軽傷者:数名。
行方不明:1名を残して。
雷狼竜達のA組達への印象
原種&不死種:最大の怨敵AFOを狙っている反面、自分達より弱い緑谷達(人間)との干渉 は気に入らない様子。
亜種:獰猛な性格なのも合わさり、AFOの事もあってA組にも敵意を向けている。だが、今回の敗北で僅かながら大人しくなった。
金雷公:亜種が敗北した事が許せず、種の誇りの為に出てこようとした二つ名個体だが、相澤によって完全解禁は防がれた。
ヌシ:A組を群れの一員として見ており、他の雷狼竜よりかは安心できる。だがあくまでも宿主以外の人間でもあること、自身が群れのボスと思っている点もある為、A組がヌシに敵意を向けた時は容赦しない。