僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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現実から逃げようとして大事なもの見失ってる

三谷朋世 
曲名:やさしい両手
――の歌詞の一文。心にくるものがあります。




仮免許
第五十話:代償


 

「……ここは?」

 

「竜牙さん!!? あぁ良かった!!」

 

 竜牙が目を覚ました場所は、とある病院の一室だった。

 見覚えがないが豪華なのは分かる病室。

 

 竜牙は何故、自身がここにいるのか。

 

 どうして家政婦であり、育ての親である猫折さんが号泣しながら自分を抱きしめているのか、その全てが分からなかった。

 

「猫折さん……俺は――ッ!」

 

 ベッドから起き上がろうとする竜牙だったが、全身を激痛が襲った。

 

「これは……?」 

 

 竜牙は自身をよく見ると包帯を巻かれ、点滴も打たれていた。

 それは明らかに重症者の姿だった。

  

「……猫折さん、俺は一体――」

 

 竜牙は言葉は落ち着いていたが内心ではパニックだった。

 体感でここ数日の記憶が竜牙はスッポリと抜けていたのだ。

 

 最後に思い出せるのは合宿所で訓練をしていた時までだ。

 そこから先から今の状態までの記憶がない。

 

 自身に何が起こったのか。竜牙は猫折さんに問いかけるが、猫折さんは泣きながらも何かを思い詰めた様に言葉を出さず、そのまま顔を下げてしまった。

 

「……猫折さん?」

 

 普段ならば自身の問いかけにすぐに答えてくれる猫折さんの様子に、竜牙は嫌な予感を抱いた。

 

 前にもこんな事があった気がする。

 そう、それは嘗ての一件。――自身が孤独となったあの事件。オールフォーワンと初めて出会った騒動の事だ。

 

『もう限界!! 私にはアナタを育てられない!!』

 

『許せ……竜牙。私達とお前は違うんだ』

 

 あの時もそうだった。病院で目を覚まし、すぐに両親から言われた言葉。

 あの時と今が重なるのだ。

 

 竜牙は嫌な悪寒が過り、全身から血の気が引く感覚と共に嫌な汗が流れ始める。

 

「……猫折さん。猫折さん! 何か言ってくれ……! 俺は……俺はまた何かしたのか!」

 

「竜牙さん……」

 

 激痛に耐えながら起き上がり、自身に必死に懇願するかの様に見る竜牙の姿に、猫折さんは悲痛な表情を浮かべてしまった。

 

 そんな時だった。病室の扉が開いた。

 

「雷狼寺! 目を覚ましたのか!」

 

 中に入って来たのは相澤だった。

 相澤は猫折さんに軽く頭を下げると、竜牙のベッドの傍にやってくる。

 

「先生……? なんで先生が? そうだ合宿は……なんで俺は病院に?」

 

「何も覚えていないんだな……」

 

 竜牙の言葉に相澤は複雑な表情をしていた。

 その表情は何かを迷っている様な顔であり、合理的な考えをする相澤には珍しい姿だった。

 

「……先生?」

 

 竜牙は相澤の顔を見て問いかけるが、相澤の表情が変わることはなかった。

 それどころか竜牙は見てしまった。扉の前に立つ警察官の姿に。

 

――何かあったんだ……!

 

 ただの入院で警察が警護することはない。

 否、相澤がすぐに病室に入って来たことを考えれば、相澤自身も警備していた可能性があった。

 

「……俺はなにをしたんだ?」

 

 気付けば竜牙は手が震えていた。

 恐怖から、不安から来るそれだった。悪寒が止まない。

 

 この普通じゃない状況が竜牙の本能に知らせていた。

 自身が何かをした可能性を。

 

「……知りたいか?」

 

「っ! 待ってください! 竜牙さんはまだ目を覚ましたばかりなんですよ!? それなのに――!」

 

 相澤の言葉に猫折さんが必死な様子で止めに入った。

 だがその必死さが竜牙の不安を加速させた。

 

 自身には聞かせられないことなのか。

 合理主義の相澤が猫折さんの言葉を聞いて躊躇するぐらいのことなのか。

 

 竜牙はそれでも知りたかった。知らねばならないと本能が告げていた。

 

「聞かせて下さい! 相澤先生……! 俺は何をしたんだ! 一体何があったんだ!」

 

「……まずはこれを見ろ」

 

 相澤はそれだけ言うと新聞を病室デスク――竜牙の目の前に置いた。

 竜牙がそれを見ると一面にこう書かれていた。

 

『№1ヒーロー引退!! 体力共に限界!!』

 

「っ!? 引退……! オールマイトが!? なんで!」

 

「……こっちのも見てみろ」

 

 相澤はもう一つの新聞を置くと、そこに写っていたのは竜牙がよく知る巨悪の姿があった。

 

「なっ!――オールフォーワン……!」

 

 気付けば竜牙は新聞を握り潰すかのように持っていた。

 忘れる筈が無い巨悪――オールフォーワン。新聞には彼がタルタロスへ移送される写真が出ていた。

 

 そして竜牙の様子に相澤は納得した表情をした。

 

「やはりか……お前が言っていた巨悪とはオールフォーワンの事だったか。――お前が眠っている間にオールフォーワンはオールマイトとの戦いに敗れ、今はタルタロスの中だ」

 

「タルタロス……! オールフォーワンが捕まった……? そしてオールマイトが引退?」

 

 竜牙の声は震えていた。

 あの巨悪が捕まり、その代償としてオールマイトがヒーロー引退をしたことがあまりにショックだった。

 

『俺を殺して良いのはオールマイトだけだぁ!!』

 

「――うっ!」

 

 突如、竜牙はステインの姿がフラッシュバックする。

 贋作――オールマイト以外のヒーロー達の事を彼は言っていた。

 

 実際、竜牙も納得していた。影響されていたと言っても良い。

 事実、竜牙の目的であったオールフォーワンの相手が出来るのはオールマイト以外に考えられなかったからだ。

 

 №2のエンデヴァー。ヒーローとしての師であるリューキュウですら竜牙はそう思っていた。

 勝てるビジョンが思いつかない程、オールフォーワンは規格外だからだ。

 

 それを竜牙は知っていた。

 微かな記憶、雷狼竜達の本能によってそれを知っていた。

 

 そんなオールフォーワンが捕まった。

 本物のヒーローであったオールマイトが引退した。

 

 そのショックはあまりに大きく、竜牙の震えが更に強まった時だ。

 

「……雷狼寺。この戦いはお前も無関係じゃない」

 

「……えっ? どういうことですか?」

 

 竜牙は困惑した。

 無関係ではない。そう言われても竜牙には記憶がなかった。

 

 一体どういうことかと竜牙は目で相澤に訴えると、相澤は一瞬、悲痛の表情を浮かべた後に口を開いた。

 

「まず最初に言っておく……守ってやれず、すまなかった」 

 

「……何の話ですか?」

 

 頭を下げる相澤の姿に竜牙は更に困惑するが、相澤はデスクに小さなモニターを置いてから口を開いた。

 

「それを話すには最初から説明しなければならない。――全部、本当にあったことだ」

 

 相澤はそう言ってモニターのスイッチを入れると、再生されたのは合宿所で暴れまわる獄狼竜の映像だった。

 

 それだけじゃない。オールマイトとオールフォーワンとの戦いに姿を見せた自身の姿と、竜牙ですら我が目を疑う程の存在感を示す白銀の雷狼竜の姿。

 

 その映像を見せられながら、相澤は竜牙へ全てを語った。

 

 敵によって薬品を撃たれ、暴走して獄狼竜がその場にいた生徒達を襲ったこと。

 その後、病院に運ばれたがオールフォーワンにワープの個性で誘拐され、その場で謎の雷狼竜になって暴れたこと。

 

 相澤は言葉に気を付けながら、静かに語った。

 まるで今まで竜牙が勝手とはいえ、背負っていたオールフォーワンとの関係や、力に固執していた理由に気付いてやれなかったこと。

 

 そして敵やオールフォーワン達から守ってやれず、結果的に竜牙の手によって仲間を傷付けさせてしまったことへの贖罪の様に。

 

「……嘘だ。こんな……!」

 

 しかし竜牙は相澤の言葉を聞き、映像を見ながらも信じることができなかった。

 信じる覚悟ができなかった。

 

「……雷狼寺」

 

「……竜牙さん」

 

 震えて、目が揺れる竜牙の姿を見て相澤と猫折さんも言葉が出なかった。

 それだけ竜牙が動揺していること、傷付いたことを察したから。

 

 しかし竜牙は、そんな二人を見ることはなく両手で顔を覆った。

 

「違う……違う……! 俺は……! 俺はただ……! 皆を傷付けたかったんじゃない……! ただ()()()()()()()だけなんだ!! 昔みたいに雷狼竜の力でオールフォーワンと戦う為に……! オールマイトを終わらせない為に!!」

 

「雷狼寺……! 落ち着け! 事故だったんだ……責任は俺達にある!」

 

「竜牙さん……!」

 

 相澤や猫折さんが竜牙の方に手を置くが、竜牙はそれも気付かなかった。

 

 竜牙の目には獄狼竜となって耳郎達を襲う姿。

 周りのヒーロー達を薙ぎ倒し、巨大なモンスター達を蹂躙する白銀の雷狼竜の姿しか見えていない。

 

 やがて手で顔を覆う竜牙の指の隙間から見える瞳から涙が溢れていた。

 

「違う……! 違うんだ……! 俺は皆を……耳郎達を……! オールフォーワンから俺は……!」

 

 絞り出すかの様に声を出す竜牙だったが、同時にフラッシュバックが竜牙を襲った。

 

 それは嘗ての記憶。オールフォーワンと初めて出会った個性研究所でのこと。

 うろ覚えだった記憶が鮮明となり、それが一斉に竜牙を襲ったのだ。

 

 顔馴染みとなった職員から注射を打たれた記憶。

 そこから暴走し、暴れまわって闇営業のヒーロー達に攻撃され、逆に返り討ちにした記憶。

 

『可哀想に……さぁ、その個性を僕にくれないか?』

 

 笑みを浮かべながら手を差し出すオールフォーワンとの記憶。

 

『ば、化け物……!!』

 

『りゅ、竜牙なのか……!?』

 

 雷狼竜の自分を見て恐怖した表情を浮かべる両親との記憶。

 

「……ア、ア、アァァァァァァァァァァ!!!!」

 

――瞬間、竜牙の中で何かが崩壊した。

 

 発狂したかの様に顔を天井へ向け、叫ぶ竜牙の姿に相澤と猫折さんは必死に何とかしようとした。

 

「落ち着け雷狼寺!? おい! 医者だ!!」

 

「竜牙さん!! しっかりして! 大丈夫だから!」

 

 二人は必死に竜牙へ語り掛けたが、竜牙の耳にそれは届いていなかった。

 竜牙は相澤達の声に気付かず、頭を抑えながら叫び続けた。

 

「俺はまた繰り返したんだ!! 仲間を……! 友達を殺そうとして!! 俺が……俺が……オールマイトを終わらせたんだぁぁ!!!」

 

 竜牙の中で支えていた何かが崩壊した。

 瞳が雷狼竜のものとなりながら泣き叫ぶ竜牙の姿は、まさに狂った者の末路かの様だ。

 

 そして結局、医師達やリカバリーガールが来るまで竜牙は叫び続けた。

 まるでモンスターの遠吠えの様に。

 

 

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