僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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 拳を握らず掴める未来はない

三谷朋世
曲名:震える心

三谷朋世さんの歌は胸にくるものがあります


第五十一話:来訪者

 

 自分は何の為に産まれたのだろう。

 

 あれから落ち着いた竜牙はベッドの上で一人、胸に穴が開いた感覚を覚えながら、天井を見てそんな事を考えていた。

 

 相澤も猫折さんも既に帰宅している。

 

 二人共、残る気だった様だが相澤は雄英で何かあるらしく出なければならず、猫折さんも泊まる気だった様だが万が一があるといけないと警備の警察に言われて仕方なく帰ってしまった。

 

 そんな一人残された病室で竜牙一人、自身の存在価値に悩んでいた。

 

 戦うつもりだったオールフォーワンはもういない。

 死ぬまでタルタロスから出てくることはないだろう。

 

 守るべきだったオールマイトも引退してしまった。

 

 ヒーローの夢を捨ててまで得ようとした雷狼竜の力。

 だがその力で得たのは友を傷付け、オールマイト達を襲ったという結果だけ。

 

「……俺は産まれて良かったのか?」

 

 誰も答えてくれない問いかけに一人、竜牙は虚しくなりながら目を閉じた時だった。

 病室の扉を鳴らす音と共に声が聞こえてきた。

 

「ヘーイ! ウルフボーイの病室はここかーい?」

 

「……外国人?」

 

 竜牙は一体誰なのかと疑問を抱いた。

 口調から察せる特徴のある日本語で外国人と察したが、竜牙には心当たりがなかった。

 

 例え心当たりがあったとしても今は誰とも会いたくはない。

 

「ヘイ! ホントにこの病室なのか!」

 

「そのハズです。ライロウジ リュウガ……病室にもそう名前があります」

 

 しかし、そんな竜牙の気持ちは裏腹に来訪者は帰る気配はなく、寧ろ一人じゃない気配を竜牙は感じ取っていた。

 

「……どうぞ」

 

 仕方なく竜牙は上半身を起こし、来訪者達を招き入れることにした。

 帰る気配はなく、寧ろ人数が多いのか扉から圧を感じたからだ。

 

 それと僅かな好奇心がそうさせた。

 

 そして竜牙の言葉と共に病室に入って来たのは五人の外国人――否、一人は黒髪の日本人の女性だった。

 

「ヘーイ! ようやく会えたねウルフボーイ! 俺はヒーロー<イビルジョー>だ」

 

 そんな中で竜牙を見て声を掛けてきたのは、イビルジョーと名乗った2mはあるであろう金髪の男だった。

 男は嬉しそうな表情でそう言うと、他の男女達も竜牙を優しい目で見ながら続けた。

 

「やぁ! 僕はヒーロー<リオレウス>だ」

 

「私は妹のヒーロー<リオレイア>よ」

 

「私は<ナルガクルガ>――これでも京都のご当地ヒーローやってるの」

 

「私は<ベリオロス>だ。よろしく少年!」

 

「……どうも」

 

 竜牙は軽く一礼すると同時に、彼等が相澤から聞いたオールフォーワンに利用されたヒーロー達である事を思いだした。

 

 同時に自身と似た個性を持つ者同士でシンパシーを感じた。

 

「……映像で見ました。あなた方も俺と似た様な個性を持っていると聞きました。――それに俺の中の雷狼竜なのか分かりませんがシンパシーも感じます」

 

「……そうか、それなら話は早いなボーイ」

 

 イビルジョーはそう言うと近くの椅子に腰掛け、竜牙を見た。

 

「ユーの言う通り、俺の本当の個性名は『恐暴竜』の個性だ。他の者達も似た様な個性だよ」

 

「……恐暴竜」

 

 竜牙はそう呟くとイビルジョーは頷き、他のメンバーの方も見てみると彼等も頷いて返した。

 

「ウルフボーイ……君の個性も聞いたよ『雷狼竜』の個性。そして失礼だが、君のことも聞いた。ご両親とのこともね」

 

「……そうですか」

 

 相澤辺りから聞いたのだろう。

 だが竜牙は別に気にしておらず、別に過去を知られても何の問題も感じなかった。

 

――なのに胸が僅かに痛く感じるのは何故だろう。

 

 竜牙は胸を掴み、僅かに苦痛の表情を浮かべているとイビルジョー達は慌てた様に話し出した。

 

「オット! 共に病み上がりだ。話は短めに本題に入ろう!」

 

 イビルジョーはそう言って他のメンバー達を見ると、リオレウス達も同意するかのように頷いた。

 そしてイビルジョーは頷くと、優しい表情で竜牙を見た。

 

「聞いたよボーイ。雷狼竜の……いや、力に固執していたそうだね」

 

「……それが何か?」

 

 竜牙は痛い所を突かれた様に顔を逸らしてしまうが、それを見たイビルジョー達を小さく笑った。

 

「いや、昔の俺達と似てると思ってね。だからこそ、ウルフボーイ……君に言わねばならないことがある。――モンスターになってはいけないんだ」

 

「……モンスター?」

 

 イビルジョーの言葉に竜牙は意味が分からなかった。

 

――モンスター

 

 その言葉は雷狼竜の個性を指しているのだろうが、モンスターになってはいけない。その言葉の意味が分からない。

 

 それを予想していたのだろう。イビルジョーは頷いて話を続けた。

 

「ウルフボーイ……君も分かっているだろうが、俺達の個性には意思がある。それもその気になれば周囲のものを一掃できてしまう程の力を持つ生物としての」

 

「……分かっています。実際、俺は亜種の獰猛さに呑まれていました。それで友達を傷付けた」

 

「聞いたよ……ヴィランに薬物を撃たれたらしいじゃないか」

 

「あまり気にし過ぎてはダメよ? 周りにヒーロー達もいた以上、アナタだけの責任じゃないわ」

 

 イビルジョーとリオレイアが竜牙を庇う様に優しく語り掛けるが、竜牙の心は晴れない。

 雷狼竜の暴走――それは竜牙にとって最大のトラウマでもある。

 

 同時に竜牙は、その暴走した力を求めていた事実もある。

 だから己を責めない理由がないのだ。

 

 顔を下へ向け、生気のない瞳を見てイビルジョー達は竜牙の心が重症だと理解できた。

 だが話を終わらせる訳にはいかない。彼等には伝えたいことがあるのだ。

 

「ウルフボーイ……我々はそれだけの力を持っているんだよ。とても強力で、どんな敵だろうが蹂躙できる力だ。だが同時に一歩間違えれば大切な存在も傷付けてしまう恐ろしい力でもある」

 

「それも政府や役人が偽りの個性名で隠したい程の力だ。だから僕達の個性も『炎翼』という偽りの個性名が与えられているんだ。いざという時の為にね」

 

「私も個性届けには『迅竜』の個性と届けているけど、目立ちたくないから『迅翼』と言って誤魔化してるわ」

 

 イビルジョーやリオレウス。そしてナルガクルガはそう言って、自身の個性が特殊な分類であることを伝えた。

 

 だがその気持ちは竜牙には良く分かる。

 竜牙自身も『雷狼竜』の個性名を最初は緑谷達に隠していたから。

 

「だからこそYouの気持ちも良く分かるよ。俺達も一度は己の個性の力に溺れそうになったことがある。――もっと力があれば大切な人を守れる。もっと仲間の為に、世の中の為に戦える。理由は色々とあるが皆、Youの様に力を求めた時期があった」 

 

「しかしそれは……大切な者達も傷付けてしまう恐ろしい事だって気付いたんだ。この個性は……いや、私達に宿っている生物達の力は決して侮ってはいけなんだ」

 

「今回の一件だってそうよ……もし私達の個性の本来の力を使えば、あのオールフォーワンというヴィランにも捕まることはなかったでしょう」

 

 イビルジョーとベリオロスはそう言って昔を思い出す様に言うと、リオレイアもそう言った。

 

 ならば何故、使わなかったのか。

 竜牙はそのことが気になったが、そう思っていたのは彼等には予想の範囲内だった様だ。

 

「場所が悪かったのさ。オールフォーワンが我々を襲った時、そこは街中だった。これが人気のない場所ならば我々も本気で戦っただろう。でもしなかった……何故だか分かるかい?」 

 

「……いいえ」

 

 竜牙は力なく首を横へと振った。

 竜牙は自身ならばオールフォーワンに勝てるならば喜んで雷狼竜の力を使う、そう思っているからだ。

 

 しかしイビルジョー達は全員が自身の胸に拳や手を置いた。

 

「それは人だから――そしてヒーローだからだよウルフボーイ……もし俺達が本気になればオールフォーワンを倒せた。その確信はあるが同時に周囲の人達も傷付けることになっただろう」

 

「だからこそ僕達は敗北を選んだんだ……モンスターとして戦うのではなく、ヒーローとして戦ったんだ」

 

「私達の個性はモンスター……それは確か。でも人だからこそモンスターじゃなく、ヒーローとして戦えるの。だから……私達は心までモンスターになってはいけない。私達はモンスターじゃなく人だから」

 

 リオレウスとナルガクルガの言葉に竜牙は顔を上げられなかった。

 

 人だから。この言葉が重くのしかかり、自身の選択が誤りであったことを教えられた気がしたからだ。

 

 しかし竜牙はどうすれば良いのか分からなかった。

 ヒーローとしての夢は力の為に捨てた。

 

 このまま雄英にいて良いものか。それ以前にヒーローを目指すことができない。

 

 誰が自身をヒーローとして望むのか。誰が求めているというのだろうか。

 

 竜牙は自身の存在に揺れていた。

 求められているのは雷狼竜だ。モンスターだ。だがモンスターではいけないとイビルジョー達は言う。

 

――ならば俺はどうすれば良いんだ。

 

 竜牙は顔を上げられずに悩んでいると、やがて頭にイビルジョーの手が優しく置かれた。

 

「ウルフボーイ……すぐに解決できるとは思っていない。だが君は一人じゃない筈だ。イレイザーヘッドに止められていたが、君に面会を求めている友人達やヒーローを見たよ。――だから焦ることはない。ゆっくりまずは身体と心を休めるんだ」

 

「……でも俺は――」

 

「――皆さん、そろそろ時間です」

 

 竜牙の言葉を遮って扉から顔を出したのは護衛の警察官だった。

 それを聞いてイビルジョー達は時計を見て、静かに頷きあったり椅子から立ち上がった。

 

「時間の様だウルフボーイ……願わくばYouの未来が明るいことを願うよ」 

 

 イビルジョーはそう言ってリオレウス・リオレイアと病室を出ると、その直前にベリオロスとナルガクルガが竜牙の方を見た。

 

「私達はまだ日本にいるから何かあれば相談してくれたまえ」

 

「私は日本の京都にいるからいつでも連絡して」

 

 そう言って二人も病室を出て行くと残されたのは竜牙だけとなった。

 

 そして誰もいなくなった病室の中で竜牙は点滴を持ちながら立ち上がると、静かに窓の外を眺めた。

 

「……俺はどうすれば良いんだ。――いや、もう俺はヒーローになれない。なってはいけないんだ。誰も望んじゃいない」

 

――誰一人として。

 

 竜牙はそう言って静かに涙を流すのだった。

 

▼▼

 

「ウルフボーイ……あの歳で、あそこまでモンスター個性を扱えるのは才能だと思うんだがな」

 

「同感です。本来ならば暴れまわる様な個性なのに、あの歳で使い熟している」

 

「今回の件は、ヴィランの介入と彼自身がモンスターに好きにさせ過ぎたのが原因ね」

 

 イビルジョー達は病室の廊下を歩きながら、そんな会話をしていた。

 

 彼等は竜牙の才能に気付いていた。同時に努力も。

 何の努力も無しに扱える様な個性ではない。

 

 それを10代の年齢の少年が扱えるのだから、きっとかなりの努力や雷狼竜との対話があった筈だとイビルジョー達は分かっていた。

 

 それは自分達も歩んで来た道だからこそ、分かる事だった。

 

 だからこそ今の竜牙の気持ちも分かる。

 悲しむ家族、仲間、友人達の顔が思い出される。

 

 彼等も竜牙と同じ道を歩んだことがあるのだ。

 だが一人じゃなかった。一人じゃなかったこそ、悲しむ大切な人達の想いによって道を誤らずに済んだのだ。

 

「……本来ならば俺達は彼にもっと色々と教えられる筈なんだ」

 

 思い悩む様に話すイビルジョーの言葉に、ベリオロスとリオレイアも頷いた。

 

「だが私達も調書が終わり次第、あと数日で帰国する。時間が足りない。――それに今回の件もオールマイトとイレイザーヘッドに頼まれて会ったが、彼の眼は死んでいた」

 

「無理もないわ。仲間を傷付けて、因縁のあるヴィランに利用された……自身で力を望んだことも尚更、彼は自分が許せないのでしょうね」

 

 もし竜牙の瞳に残り火でも良いから確かな意思があれば、今すぐにでも行動を起こせるのだが、当の竜牙自身の意思が死んでいる。

 

 そうなればいくら同じタイプの個性とはいえ、どうすることも出来ない。

 

「……信じよう、ウルフボーイを。彼自身も分かっている筈だ。今のままでは駄目だと。だからこそ俺達が日本にいる間に立ち直れば、すぐにでも行動を起こせる」

 

「私達の経験が彼を救う鍵になれば良いのですけど……」

 

 イビルジョーの言葉にナルガクルガも頷きながら答えた。

 

 タイムリミットは自分達が日本にいる間だ。

 それを思いながらイビルジョー達は竜牙が立ち直ることを祈るのだった。

 

 

 

 

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