僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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久し振りに一万文字超えてしまった。
前は余裕で書いてたのに30超えてからは執筆力が落ちた気がします。

やっぱり妄想力も若さだね!


第五十五話:夢が戻る時

 

 耳郎達の訪問から二日が経った。

 しかし竜牙の生活は変わらなかった。

 

 覇気のない瞳でカーテンも開けず部屋の中に閉じこもり、猫折さんの作る食事を食べるだけの生活。

 外との接触を拒絶する竜牙に猫折さんも説得したが、竜牙は全てを拒絶した。

 

 耳郎達も初日以降、接触してくることもなかった為、竜牙としてありがたかった。

 彼女達と会うのも怖い。誰かと会うのが怖い。

 

 だがそれで良かった。

 そうすれば誰も傷付けることはないからだ。

 

 耳郎達が早々に諦めてくれたのは不気味に感じるが、竜牙は特に深くは気にしなかった。

 仮にも雄英のヒーロー科だ。いつまでも自分に構ってる場合じゃない筈だと竜牙も理解している。 

 

 自身は既に<退学届>を提出したのだ。

 だから竜牙は耳郎達との関係も既に断ち切ってある気でいた。

 

 そして、このまま今日も終わってゆくのだろうと竜牙が思っていた時だった。

――不意に部屋のインターホンの音が室内に響き渡った。

 

「……誰だ?」

 

 ベッドの上に腰掛ける竜牙は不意に顔を上げた。

 少なくとも猫折さんではない。彼女や関係者ならばマスターキーがあるから普通に入ってくる筈だ。

 

 だから竜牙は、すぐに外部の人間だと分かった。

 

「……耳郎達か?」

 

 まさかの可能性が過り、竜牙は少し警戒した。

 耳郎達もそうだが緑谷のお節介は竜牙も知っている。

 轟の件もそうだし飯田――ステインの時もそうだった。

 

 だから緑谷達が来た可能性を踏まえ、居留守を使うのも考えた。

 だが万が一の可能性もある。居留守した事で状況が悪化する可能性が過った竜牙は少しフラつきながらもインターホンのモニターを操作した。

 

「……はい」

 

 すると、そこには思いがけない人物が映っていた。

 

『私だ。雷狼寺少年……』

 

 そこに映っていたのはガリガリの体形に腕に包帯を巻いた男性――オールマイトが映っていた。

 

「!……オールマイト? どうして……?」

 

『あっ……いや! その……丁度ね! 近くに寄ったからさ! HAHAHAHA!!』

 

「……はい?」

 

 オールマイトはそう言って慌てた様に笑いだすが、竜牙からすれば不自然でしかない。

 竜牙が退学する趣旨を伝えた時、一番反応したのはオールマイトだ。

 だからオールマイトが様子を見に来たのなら納得はできる。

 

 しかしだ。オールマイトのリアクションが様子を見にきた人物のそれではない。

 ハッキリ言って不審過ぎた。

 

「……そうですか」

 

 だから竜牙は警戒心が露骨に出てしまい、声にもその感情が出てしまうと、それを察したのかオールマイトの顔色が変わった。

 

『うっ……! いや! その! なんだ……変わりないかい?』

 

「……ありませんよ。あれから何一つ」

 

 感情の無い竜牙の声。それを聞いてオールマイトはようやく真面目な顔になった。

 

『……今からでも考えを変えるつもりないのかい? もうオールフォーワンはいない。私のことで君が責任を感じることもない。なのに君が退学なんて、その選択は間違っているよ雷狼寺少年』

 

「……何度も言いました。俺はヒーローになれない。周囲の者全てを傷付ける<雷狼竜の個性>……これがある限り、俺はヒーローになってはいけない。誰からも求められてはいけない」

 

『……雷狼寺少年。それは違うよ。君は求められている。私が誰かの№1ヒーローである様に、君も誰かにとっての№1ヒーローなんだ』

 

「例えそうでも俺は……」

 

 それを受け入れることは出来ない。

 否、そんな人達なんている筈がない。こんな力に溺れる様な者を№1に思う人達なんて。

 竜牙は内心でオールマイトの言葉を否定する。

 

 そして両者の間に、僅かな間が空いた時だった。

 オールマイトが先に口を開いた。

 

『雷狼寺少年……出てきてくれないかい?』

 

「……なぜですか?」

 

『一緒に来てほしい場所があるんだ』

 

 竜牙の問いにオールマイトはそう言って頭を下げた。

 それを見て竜牙の心が動く。

 

 あの№1ヒーローが頭を下げたのだ。

 憧れであるオールマイトに頭を下げさせて無視はできない。

 

 例え言動や態度が怪しくてもだ。

 しかし竜牙も、すぐに承諾はできなかった。その場所が問題なのだ。

 

「……一体、どこへ?」

 

『そ、それは……その……うん! HAHAHAHA!』

 

 オールマイトは何とも言えない風に言うと、誤魔化すかの様に再度笑ったが明らかに何かを隠しているのは明白だった。

 嘘が付けない人間っていうのはオールマイトの様な人間を言うのだろう。

 

「……オールマイト。俺は……」

 

 竜牙は流石に怪し過ぎる為、断ろうと考えた。

 しかし、それよりも先に動いたのはオールマイトだった。

 

 オールマイトは先程よりも深く頭を下げると、懇願する様にこう言った。

 

『頼む! 雷狼寺少年! この通り! 一生のお願い!!』

 

「……っ!」

 

 目の前の光景には流石の竜牙も臆してしまった。

 大の大人が――しかも№1ヒーローのオールマイトがだ。

 頭を下げて元生徒に一生のお願いを使うなんてと。

 

「……仕方ない」

 

 ここまでされて断ればオールマイトに恥をかかせる事になるし、断った自分も恥となるだろう。

 だから竜牙は折れることにした。

 

「……分かりました。しかし雄英なら行きませんよ?」

 

『ありがとう! それに安心して良い……行く場所は雄英じゃない。だがきっと君にとって良い結果を示してくれる場所さ』

 

 そんな場所があるものか。

 竜牙は内心でそう決めつけ、僅かに表情が歪んだがすぐに表情を戻し、玄関へと向かった。

 

「……今、出ます」

 

 扉の前でそう言った後、竜牙は扉を開けて外へ出たると、そこにはカメラで見た通りオールマイトが一人だけで立っていた。

 

 だがオールマイトは竜牙の姿を見ると、驚いた顔をした。

 覇気のない瞳に、その目の下の隈。乱れた髪形も合わさり体育祭で見せた勇姿の面影がなかったからだ。 

 

「……ようやく会えたね雷狼寺少年。酷い顔だよ? ちゃんと眠れているのかい?」

 

「……少しだけですが」

 

 嘘だ。あまり眠れていないのは事実だった。

 悪夢、異常な心拍数、そして不安。それによってまともに竜牙は眠れていなかった。

 

 だから怠さもあれば、自身の容姿に気を使う気力もない。

 

「……そうか。――まぁなんだ……とりあえず行こう。車を待たせてあるからね」

 

「……場所は教えてくれないんですか?」

 

「今はまだね。なに、行けば分かるさ! HAHAHAHA!」

 

 そう言ってオールマイトは竜牙の暗さを吹き飛ばす為に豪快に笑った。

 彼なりの元気付けだったが、竜牙からすれば目的地が分からない不気味な外出でしかない。

 

 唯一の救いは訪ねて来たのがオールマイトであり、彼の言葉を信じるしかないということだ。

 

 そんな不安を抱きながら竜牙はマンションから出ると、そこには雄英の車が止まっており、一瞬だが竜牙の動きが止まった。

 

 しかしオールマイトが笑顔を見せて優しく竜牙の背中を叩くと、竜牙も覚悟を決めて乗り込んだ。

 そして二人が乗り込むと車は進んで行き、マンションから離れて行く。

 

――どこへ行くんだろう?

 

 車の窓から外を眺める竜牙だったが、運転の仕方やスピードで察する限りでは、あまり離れた場所ではない気がした。

 

 急いでいればスピードが出るし、道ももっと大通りに行く筈だからだ。

 だが道も普通の道であり、駅等にも行く気配はない。

 

 けれども不安はある。特に今は隣でソワソワしているオールマイトが原因でもある。

 

「……上手くいくかなぁ。でも私に出来るのはこれぐらいだし、何より生徒達からの頼みだしなぁ」

 

 オールマイトは何やらボソボソと落ち着きなく呟いており、その様子が竜牙の不安を駆り立てる。

 

「オールマイト……何か隠してますか?」

 

「えっ!!? い、いや……そんなことは……あぁ! ほら着いたよ雷狼寺少年! あそこの幼稚園が目的地さ!」

 

「……幼稚園?」

 

 慌てた様子のオールマイトが指差すと、車の窓からは確かに大きめの幼稚園が見えてきた。

 

――しかし何故に幼稚園? 

 

 竜牙は疑問を抱いたが、そんな疑問はすぐに消し飛んだ。

 何故なら幼稚園前に立つ見覚えのある人物達がいるからだ。

 

「っ! 耳郎……! それに皆……リューキュウにねじれちゃんも! ミッドナイト先生に猫折さんまで……!――オールマイト!!」

 

 竜牙は騙されたことに怒り、オールマイトの方を見た。

 けれどオールマイトは真剣な表情で竜牙を見ていた。

 

「……すまない。緑谷少年達に頼まれたんだ。君をここに連れて来てほしいとね。――しかし私は、これが君の為だと信じて疑ってないんだ。きっと君の為になるよ雷狼寺少年」

 

「だけど……!」

 

 竜牙は悩んだ。心拍数も上がってゆく。 

 一度は会うのを拒絶したメンバー達だ。それなのにどんな表情で会えば良いというのか。

 

 竜牙は悩み、今にも逃げ出したくなったが無情にも車は幼稚園――耳郎達がいる目の前に停車した。

 そしてタクシーの様に自動でドアが開くと、竜牙も逃げることは出来ず降りるしかなかった。

 

「……」

 

「雷狼……寺?」

 

 そして竜牙が降りた瞬間に耳郎達が竜牙の前に集まってきたが、その姿を見てすぐに言葉を失ってしまう。

 瞳にも雰囲気にも覇気がなく、髪も乱れている。

 

 その姿は彼等の知る竜牙ではなかったのだ。

 

 竜牙も気まずくて耳郎達の顔を見ることができず、ずっと下を向いている。

 そんな感じで両者の間に僅かな間が生まれたが、やがて耳郎が口を開いた。

 

「……全く、なんて顔してんのさ?」

 

「元気そう……ではないな」

 

 呆れた様に言う耳郎と障子の言葉に皆も頷き、やれやれと言った表情をした。

 

「竜牙くん!!」

 

「ね、ねじれちゃん……!」

 

 そこへねじれちゃんが飛び出してきて竜牙に抱き着いた。

 まるで甘える猫の様に竜牙の顔に頬ずりして満足そうな顔をするねじれちゃんに対し、竜牙は呆気に取られて反応に困っているとねじれちゃんは、いきなり頬を膨らませた。

 

「もう! 竜牙くん! 全然会ってくれないから心配したんだよ!」

 

「……す、すいません。でも……俺は……」

 

「でもじゃないよ! もう! 私は竜牙くんの先輩なんだからね! 会えなくて寂しかったんだから!」

 

「……むぅ」 

 

 ねじれちゃんの勢いに竜牙も流石に言葉が出なかった。

 しかし、いつもの様な反応できる程の元気は竜牙にはない。

 

 ねじれちゃん豊満な山二つが身体に当たってもだ。

 

「良いな……」

 

 それを見て指を咥えて見ているのは峰田ぐらいで、他の者達は呆れた様子で見ていた。

 

「ったく、距離感が近いっつうの」

 

「妬いてるの耳郎ちゃん?」

 

「違う!!」

 

 蛙吹の言葉に耳郎は否定するが彼女が複雑な表情をしているのは確かだった。

 そんな様子を見て芦戸達がニヤニヤしているが、耳郎はそれに気付きながら面倒くさいからと無視した。

 

 そんな中でねじれちゃんがようやく離れると、竜牙は一息入れてから猫折さんを見た。

 

「猫折さん……これは一体?」

 

「ごめんなさい……竜牙さん。でも、これが竜牙さんの為だと思ったの。きっと立ち直ってもらえると思って……皆さんに協力したの」

 

 猫折さんは申し訳なさそうにそう言うが、表情は真剣なもので竜牙を見ていた。

 

「HAHAHAHA! そういう事だよ雷狼寺少年! 緑谷少年達に頼まれてね! こうして私が君を迎えに行ったって訳さ!」

 

「雷狼寺君が会ってくれそうな人がオールマイトしかいないと思ってさ。だから雷狼寺君の説得をオールマイトに頼んだんだ」

 

 笑いながら説明するオールマイトの言葉に続き、緑谷もそう事情を説明する。

 

 けれど、いくらそう言われても竜牙には受け入れることはできなかった。

 

「……俺は皆に会う資格はない」

 

「まだそんなこと言ってんの? そんなことないって!」

 

「そうだぜ雷狼寺! 獄狼竜の一件はお前のせいじゃねぇって!」

 

「そうだよ! 雷狼寺くんは悪くないって!」

 

 耳郎が怒ると、切島と麗日もそれに続いて説得するが竜牙は皆に背を見せた。

 

「……俺はお前達を傷付けたんだ」

 

「だからってそれで会わないってのは違うだろ雷狼寺。俺達はお前を責めてねぇ。ただ話す機会が欲しかったんだ」

 

「……轟。俺はもう雄英の生徒じゃない。――だからもうお前達の仲間じゃない」

 

「あら? 退学届はまだ受理されていないわよ雷狼寺君」

 

「……同じことです」

 

 轟とミッドナイトの言葉に竜牙はそう言って背を向け続け、断固として拒絶の姿勢を崩さなかった。

 だが耳郎達はそれは想定内だった。

 寧ろ、竜牙の反応は予測の範囲内過ぎており、まだまだ彼女達は余裕があった。

 

「ハァ……想定内だけど、本当に頑固なんだから」

 

 耳郎は呆れた様に言うと彼女は轟と障子達を見た。

 それに対し二人も頷くと竜牙の両サイドに立つと、不意に竜牙の両腕を掴んだ。

 

「お、おい……!?」

 

「暴れんな……特に何もしねぇよ」

 

「ただ見てもらいたいものがあるだけだ」

 

 轟と障子は困惑する竜牙へそう言うと、竜牙を幼稚園の中庭が見える様に向けさせた。

 

「一体、なんだ……!」

 

「良いから見ろって! ほらあそこだ!」

 

「あそこよ雷狼寺ちゃん」

 

 暴れようとする竜牙の後ろから上鳴と蛙吹が背中を押すと、竜牙も反射的に言われた方向を見てしまった。

 すると、そこには竜牙にも見覚えのある双子の女の子二人が他の園児達に囲まれながら、まるで演説の様に話している姿があった。

 

「あれは……俺の妹?」

 

「そうだぜ! ほらよく見ろ! そして聞け!」

 

「きっと君に届く筈だよ雷狼寺君」

 

 接点はないが自身の妹だと気付いた竜牙は、何故この幼稚園に二人がいるのか。

 そもそも何故、耳郎達は自身をこの幼稚園に呼んだのかすら分からず、軽くパニックを起こすが切島と飯田が竜牙の肩を叩くと轟と障子は竜牙の腕を離した。

 

 そして竜牙は訳も分からないまま二人を言われるまま見ていると、二人の声が不思議と竜牙の耳に届いた。

 

「きょう来るヒーローじむしょってジンオウガがいるじむしょなんだよ!」

 

「きょう来るヒーローじむしょってジンオウガがいるじむしょなんだよ!」

 

「すごーい! ジンオウガってふたりのお兄ちゃんなんだよね!?」

 

「リューキュウのじむしょなんだよね!」

 

「えへへ……そうだよ! お兄ちゃんはすごいんだよ!」

 

「ゆうえいの体育祭でかつやくして、すごいじむしょにも入ったすごいヒーローなんだから!」

 

――なんだこれは……?

 

 竜牙の耳に届いてきたのは自分を褒めたり自慢する妹達の姿だった。

 だが竜牙には理解が出来なかった。二人と出会ったのは脳無に攫われた時と病院の時だけだ。

 

 なのに何故、あそこまで褒められるのか。

 

「ジンオウガ……お兄ちゃんはすごいんだよ!」

 

「こんなおっきなヴィランと戦ったりしてみんなをまもったんだよ!」

 

「でもこのあいだのオールマイトのテレビだと寝てたよね?」

 

「怪我してたみたいだよね?」

 

「うっ……!」

 

「うっ……!」

 

 お友達の言葉に双子はバツが悪そうな表情を浮かべる。

 だがすぐに顔を振って表情を戻すと、再び語り始めた。

 

「あれは……きっとヴィランとたたかったからだもん! まただれかを守ったんだよ!」

 

「そうだよ! お兄ちゃんはヒーローなんだから! わたし達のこともたすけてくれた最高のヒーローなんだから!」

 

――もう良い止めてくれ。

 

「……馬鹿だよな。現実の俺がどんな状態かも知らないのに、なんであんなに言えるんだよ」

 

 竜牙の声は震えていた。

 感情がぐちゃぐちゃになる感覚になりながら、顔を思わず下へ向けてしまう。

 

 そんな彼をA組やリューキュウ達、そしてオールマイトはただ見守っていた。

 これが竜牙に必要なことだと信じているからだ。

 

 そして、そんな竜牙の言葉に耳郎は首を振って否定した。

 

「ううん、うちはそう思わないよ。うち達も……昔はあぁだった筈じゃない? 自分の好きなヒーローとかオールマイトとかに憧れてさ。あんな風にしてたじゃん」

 

「……憧れ」

 

 耳郎の言葉に竜牙は小さく呟いた。

 あの双子にとって自身は憧れなのかと知ると、竜牙は胸が熱くなってくるのを感じた。

 

 この感情は何なのか?

 竜牙は何か忘れている様な、しかし懐かしい感覚だった。

 

「ジンオウガは、お兄ちゃんはわたし達の№1ヒーローなんだから!」

 

「きっと今日来てくれるよ! お兄ちゃんはジンオウガなんだから!」

 

「……っ!」

 

 その言葉に遂に竜牙は顔を逸らしてしまう。

 だが肩は震えており、竜牙の瞳からは涙が溢れて出ていた。

 

「……なんでだ? なんで涙が止まらないんだ? なんで俺は……!」  

 

「思いだせよ……お前が捨てちまったけど、まだ内心の中にある夢をよ」

 

――夢? 俺の捨てた夢……?

 

 轟の言葉に竜牙は拳を握り締めながら涙に耐えていたが、その夢という言葉を聞いて手が緩んだ。

 

「俺の夢……そうだ、雷狼竜の俺でも認めてもらえる優しいヒーロー……それが俺の夢だった」

 

「そうだよ雷狼寺少年。君は体育祭でそう言っていたね……そして君はそんなヒーローになれるんだよ?」

 

 オールマイトの優しい言葉に竜牙は思わず膝を付いてしまった。

 だが同時に歯を食いしばり、何かを後悔する様に拳を握っていた。

 

「でも……俺は……俺は夢を捨てたんだ……! 力を得る為に……ヒーローのままじゃ強くなれないと思って……モンスターになる為に俺は……!」

 

「……雷狼寺くん。夢ってさ、捨てたからって無くなるものじゃないと僕は思うんだ。夢ってその人の目標で、生きる為に必要なもので……だから、その……雷狼寺くんの中にはまだ夢が残っていると思うんだ。本当になりたい自分が」

 

「……本当になりたい自分」

 

 緑谷の言葉に竜牙はそう呟くと、瞳の涙は更に溢れ出てきた。

 

――ヒーローになれない。諦めた。

 

 そう思えば思う程、悔しくて悔しくて、情けなくて、そして悲しかった。

 それで竜牙はようやく気付けた。

 

「……俺……俺……こんなにヒーローになりたかったんだ……!」

 

 震える声の中、竜牙はようやく思いだせた。

 自分がなりたかったもの――それはヒーローだ。

 雷狼竜の自身ですら認めてもらえる立派なヒーローに。

 

「……俺はヒーローになりたかったんだ……!――でも、俺は捨ててしまった……オールフォーワンが怖かったんだ! 雷狼竜達も俺に危険を知らせていて……だけど誰も勝てないと思ったんだ! 雷狼竜の力じゃないと勝てないと思った! だから……力を求めて俺は……! 誰も頼れないと思った! 頼れば頼った人達が殺されるから……! オールマイトは弱ってて頼むことは出来ない! 俺一人の我儘でオールマイトを終わらせる訳にはいかないから……! だから……だから……俺は雷狼竜になろうと……間違ってたんだ……! 俺は……!」

 

 それは竜牙の胸の内の全てだった。

 吐き出す様に泣き叫ぶ様に吐き出す竜牙の言葉を聞いて、A組やリューキュウ達はようやく肩の荷が下りた気分になった。

 

「やっと……話してくれたね」

 

 耳郎の言葉を聞いてA組のメンバー達も頷いた。

 ようやく話してくれた。竜牙が溜め込んでいたもの、背負ってしまったもの。

 

 それらを聞けて耳郎達は優しく微笑み、竜牙の下へ集まって肩に手を置いたり、声をかけてあげた。

 

「もう良い……もう終わったことだ雷狼寺」

 

「そうだぜ! もう終わったんだよ雷狼寺」

 

「ケロッ! でも始まりでもあるわよ雷狼寺ちゃん」

 

「皆……! 皆……本当にすまない……! 本当にごめん……!」

 

 障子、切島、蛙吹の言葉に竜牙は泣きながら謝罪した。

 それを皆も聞いており、とっくに許しているのにと笑い合った。

 

「雷狼寺少年……本当にすまなかったね。オールフォーワンという巨悪を君にも背負わせてしまった。だが奴が消えた今、私から言わせてくれ……君はヒーローになれる!」

 

「オールマイト……! 俺は……!」

 

 竜牙の頭に手を置き、オールマイトは笑顔でそう言った。

 それを受けて竜牙は両手で顔を覆い、泣きながら頷いた。

 

 そうしていると、今度はリューキュウが竜牙の下へとやって来た。

 

「ジンオウガ……実はさ、今日はリューキュウ事務所でこの幼稚園とふれあいイベントをやる予定なんだ。だからジンオウガも参加してくれない?」

 

「雷狼寺君のコスチュームも持って来てるわよ!」

 

 ミッドナイトはそう言って竜牙のコスチュームが入ったアタッシュケースを渡すと、竜牙はそれを静かに受け取った。

 

「……良いのか俺が行って……一度はヒーローの夢を捨てたのに」

 

「それはそれでしょ……今はどうなのさ雷狼寺?」

 

「俺は……なりたい。もう一度ヒーローに!」

 

 耳郎の言葉に竜牙はそう言うとアタッシュケースの中身を開けた。

 そこには自身が身に着けていたコスチュームが入っていた。

 

 それを見て涙を拭うと、竜牙は静かに立ち上がった時だった。

 A組女子メンバー達が竜牙を取り囲んだ。

 

「ほらほら雷狼寺! そんな顔や髪形で言ったら台無しだよ!」

 

「そうそう! ちゃんと整えないとね!」

 

「ケロ! 身だしなみは大事よ雷狼寺ちゃん」

 

「私はあんまり分かんないけど手伝うね」

 

「私達でお手伝いしますわ! 櫛とかもありますわ!」

 

「感謝しなよ雷狼寺?」

 

 芦戸、葉隠、蛙吹、麗日、八百万、耳郎はそう言って櫛とかで竜牙の長髪を整えし始めた。

 髪を梳かし、涙で荒れた目元を整えたり香水を付けてあげたりと準備に余念がない。

 

 そして女子メンバー達の活躍で竜牙の準備が終えると、今度はねじれちゃんが竜牙の手を握った。

 

「更衣室はこっちだよ竜牙くん! さぁ早く行こう!」 

 

「ちょっと待ってください。猫折さん……俺の妹――二人の名前を教えてください」

 

 その言葉に猫折さんは驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑むと、彼女らの名前を口にした。

 

「雷狼寺……ルナさんとミカさんです。竜牙さん」

 

「……分かりました」

 

「じゃあ行こう! 竜牙くん!」

 

 猫折さんと会話を終えた竜牙はそう言うと、ねじれちゃんに連れられてリューキュウと共に幼稚園の中に入って行く。

 それをA組やオールマイト達を静かに見守って行き、竜牙達が出てくるのを待った。

 

 そしてその時はやって来る。竜牙はリューキュウやねじれちゃん達と共にコスチュームを纏って出てくると、その場で飛び上がり、ルナとミカ達園児の近くに着地した。

 

 それに気付いた園児達は一瞬、何が起こったか分からず唖然としていたが、その正体がジンオウガだと分かると笑顔を見せながら駆け出した。

 

「ジンオウガだ!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 最初に駆け出して来たのはルナとミカだった。

 その後に続いて他の園児達も集まり、竜牙はすぐに取り囲まれてしまった。

 

 そしてルナとミカが自身の目の前にやって来ると、竜牙は膝を折ると静かに二人を抱きしめるのだった。

 

「ルナ、ミカ……ありがとう」

 

「!……えへへ」

 

「!……えへへ」

 

 抱きしめられた二人は一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐに嬉しそうに笑うと竜牙に頬ずりした。

 そんな光景を見ていた切島達一部は何故か男泣きしていたが、耳郎達は満足そうに笑みを浮かべていた。

 

 そして、そんな光景にオールマイトはどこかへ電話を掛けた。

 

「あっ、相澤君?――うん、もう大丈夫さ。雷狼寺少年はA組の皆と妹さん達のお陰で……立ち直れたよ」

 

▼▼

 

「そうですか……なら、もうこれは必要ないですね」

 

 雄英の職員室で相澤は一人、オールマイトからの電話にそう呟くと竜牙の<退学届>を取り出すと立ち上がり、そのままシュレッダーに入れてしまう。

 

「……全く、手の掛かる生徒が多いな今年は」

 

 相澤は怠そうにそう言うが、その表情はどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

▼▼

 

 その後、幼稚園でのイベントは大成功で終わった。

 リューキュウと許可を得た竜牙が竜化したり、園児達が体育祭に出ていたA組、そしてオールマイトに気付いてひと騒動あったが、最後の最後まで笑顔で終わりを告げた。

 

 ミッドナイトは幼稚園児に新たな性癖を生みそうになって皆に止められたのは余談だが。

 

 そして竜牙はと言うと、耳郎達と共に雄英へと向かっていた。

 

「わざわざ来なくても良かったじゃないの?」

 

「オールマイトが事前に相澤先生に報告したって言ってたろ?」

 

「……いやケジメだ。俺の我儘で随分とややこしくしてしまった。だから直接、自分の言葉で復帰を伝える」

 

 耳郎と障子の言葉に竜牙はそう言った。

 相澤先生にも随分と迷惑をかけてしまった。

 それを自覚している分、竜牙は責任を感じて直接自分の言葉で伝える為に雄英に向かうのだ。

 

「ケロ! でもこれで皆、揃ったわね!」

 

「うん! これで梅雨ちゃんも安心だね!」

 

 蛙吹と麗日が嬉しそうにそう言い合うと他のメンバー達も嬉しそうに頷いていた。

 

「チッ! 余計な手間かけさせやがって……!」

 

 そんな中でも異質なのは爆豪だ。

 最後まで付き合ってくれた癖に舌打ちをして竜牙に不満を言うが、それを知ってる竜牙は思わず笑った。

 

「……フッ!」

 

「なに笑ってんだ白髪野郎!!」

 

「爆豪も素直じゃねぇな!」

 

「終わったんだから良いだろ!」

 

 切島と上鳴に弄られる爆豪を見て笑いながら雄英へと向かうと、やがて校門が見えてきた。

 そこには相澤が立っており、皆もそれに気付いたがすぐに異変に気付いた。

 

「あっ相澤先生……と、あの人達って……?」

 

「イビルジョー……?」

 

 校門前にいたのは相澤だけではなかった。

 そこにいたのはイビルジョー達だった。

 

 そして相澤も竜牙達に気付くとジッと竜牙のことを見た。

 

「ようやく落ち着いたか雷狼寺?」

 

「……ご迷惑をお掛けしました。――相澤先生……退学の件ですが」

 

「あんなものとっくに処分したよ。全く、今回は合理的じゃなかったな」

 

 相澤はそう言って溜息を吐き、竜牙ももう一度頭を下げると、相澤は早速本題に入った。

 

「復帰早々だがお客だぞ雷狼寺」

 

「ヘーイ! ウルフボーイ! 良い目になったじゃないか!」

 

「立ち直れた様ね」

 

 そう言って親指を突きだすイビルジョー。そしてナルガクルガも安心した様に頷いた時だった。

 緑谷が興奮した様にノートを手に持った。

 

「す、凄いよ!! イビルジョーにナルガクルガ! それにリオレウス、リオレイア、ベリオロス! 国内外の有名なヒーローだよ! す、すみませんサインを!!」

 

「OKだぜボーイ! 何枚だって描いてやろう!」

 

「サインなんて久し振りだな」

 

「最近は忙しかったし、誘拐までされてたものね」

 

「全くだよ」

 

 緑谷がノートを差し出すとサインを気前よく書いてくれるイビルジョー達。

 そして描き終えるとイビルジョー達は竜牙の方を見た。

 

「ヘイ! ウルフボーイ! 実はそろそろ帰国することになってね! その挨拶のつもりだったんが……You! 一つ聞きたいんだけど良いかい?」

 

「……は、はい」

 

 気さくな感じのイビルジョー達の表情が真面目なものとなり、竜牙も思わず息を呑んだ。

 そしてイビルジョー達は互いに頷き合うと、竜牙へこう言った。

 

「ウルフボーイ! 短期的だが()()()()する気あるかい!」

 

「えっ……?」

 

 イビルジョーの言葉に竜牙と耳郎達は唖然とするのだった。

 

 

 

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