僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢

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第五話:ヴィラン強襲! USJの攻防

 マスコミの起こした騒動から数日後。

 竜牙達A組はヒーロー基礎学の時間であり、教室で相澤から内容が話された。

 

「今日のヒーロー基礎学は俺ともう一人も含めての三人体制で教えることになった。――内容は“人命救助”訓練だ。――今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

(……人命救助か)

 

 己の個性に思う事がある竜牙が複雑な感情を抱いていると、相澤が更に補足を加えた。

 

「それと訓練場所はここから少し離れている。だから移動はバスだ。準備は急ぐように……」

 

 言い終えた相澤はそそくさと教室を後にし、残された竜牙達もまた除籍やらの問題を悟り、素早く身支度を整えて校内バスへ向かうのだった。

 

 

▼▼▼

 

「……空が青い。雲も一つ二つ、まぁまぁ浮いてる天気だ」

 

「はいはい。つまり普通の天気ってことでしょ?」

 

「今日も平常運転だな……」

 

 バスへと向かう途中、空を見上げてそんな事を呟く竜牙へ、音楽端末を弄っていた耳郎がツッコむという光景。

 それが三人にとっての日常となり、障子も慣れた様子で傍観していた。

 

 周りを見渡せば、何だかんだで全員がコスチュームを着用しており、唯一の例外は修理が終わっていない緑谷の体育着ぐらい。

 竜牙はなんとなく、緑谷を見つめていた。

 

(……怪我はもう大丈夫そうだな)

 

 包帯やギプスはマスコミ騒動の時には外れていたが、やや庇う動作だったのに竜牙は気づいていた。

 保険医のリカバリーガール。彼女の個性で治してもらっていたらしいが、やはり他の者よりも体力の都合で治りは遅かったようだ。

 個性を使う度に重傷を負っている以上は仕方ないのだが、ヒーローを目指す上でそれは言い訳にならない。  

 

(……人命救助。どうなるんだろうな)

 

 竜牙が人命救助を行う緑谷の姿を想像出来ず、意味もなくぼ~としている時だった。 

 

「あっ!――雷狼寺君!!」

 

 視線にでも気付いたのか。緑谷、そして隣にいた麗日が近づいてくると、反省会に来れなかった緑谷の視線が耳郎と障子へと向かう。

 

「えっ、えっと……」

 

「あっ……緑谷とこう話すのって初めてだっけ?――うち、耳郎 響香。まぁよろしく」

 

「俺は障子 目蔵だ。よろしく」

 

「う、うん! よ、よろしく耳郎さん! 障子君!」

 

 やや挙動不審な緑谷だったが、何となく緑谷の中学時代が想像できた三人は特に何も言わなかった。

 すると、落ち着いた緑谷は思い出すように雷狼寺の方へ視線を戻した。

 

「そういえば雷狼寺君の実戦演習の映像を見たんだけど、凄かったね……」

 

「うん! 私も思わず何回も叫んじゃったもん!」

 

「……ありがとな。――だが、実際には危なかった。氷は俺の泣き所。結局は個性のゴリ押しで勝っただけだ」

 

 好印象を持ってくれている緑谷と麗日へ、竜牙は思い出しながら返答する。

 実際、あの状態で直接攻撃されていれば危なかったのだ。だから轟へ奇襲をかける時、障子も同時に処理しなければならなかった。

 もし、あの時に葉隠が返り討ちにあっていれば結果はまた変わっていただろう。

 

「それでもやっぱり凄いよ……僕なんか、まだ個性を扱いきれてないし」

 

 当然、気にはしているのだろう。個性の話をする緑谷の表情はどこか暗い。

 そんな緑谷の様子に“個性の悩み”に関しては共通している竜牙は、無表情だが困ったように頬をかき、そして絞り出すように呟いた。

 

「……だが、いつかはものにしてみせる。――だろ?」

 

 竜牙は緑谷の事をそこまで過小評価はしていない。

 最初から諦めている奴なら、爆豪と飯田相手にあそこまで立ち回る事は出来ないだろう。

 現に、竜牙の言葉を聞いた緑谷の表情は最初は呆気になったが、すぐに表情を真剣なものとしている。

 

「うん! 今は無理でも、一日でも早くこの個性を僕()モノにしてみせる!」

 

「?……まぁいいか。――俺にも叶えたい“夢”がある。お互いに“焦ろうぜ”……緑谷」

 

 一瞬、緑谷の言葉に違和感を抱いた竜牙だったが、取り敢えず気にしない事にした。

 そして緑谷が相澤に言われた『焦れよ、緑谷』の言葉を思い出し、互いに成長しようと遠回りに竜牙が言うと、緑谷も嬉しそうに頷く。

 

「うん!頑張ろうね雷狼寺くん!」

 

「……あぁ」

 

 緑谷の思った想像以上に嬉しそうな表情に、竜牙はやや困惑しながらも頷き返した時だった。

 

「……雷狼寺」

 

 今度は背後から掛けられた。

 聞き覚えのある声だが、あまり話した事のない相手。

 

「――なんだ“轟”?」

 

 竜牙に声を掛けたのは推薦組にし、強個性と言える『半冷半燃』を持つ轟 焦凍だった。

 あの試験以来、タイミングも合わず会話もしていない二人。

 しかも、轟もまた竜牙と同じく表情が変わらない人間。ゆえに、今もどんな感情なのかが分からない。

 だが、竜牙は特に気にした様子はなく、緑谷との会話と同じペースで聞き返す。

 

「……次は負けねえ」

 

 リベンジ宣言。同時に理解できた轟の感情。

 それは執念の様に濃い。――だが、その言葉は自分を見ていないかの様に、竜牙の胸に届かない不思議な会話。

 けれども、竜牙はその感覚が初めてではない事を知っている。

 

(最初と同じか……)

 

 初めての実戦演習の時、轟は冷静そうな表情をしていた。

――否、自分の見ているものはお前達とは違う。そう言わんばかりに相手を、竜牙達を見ていなかった。

 その時の目と同じなのだ。リベンジ宣言をしようが、自分へ言っている訳じゃない。竜牙はそう感じる。

 しかし、だからといって竜牙は素直に受け入れる気は無かった。

 

「“Plus Ultra”……次も負けん」

 

「……そうか」

 

 竜牙の返答に轟は、その一言だけ言ってバスへと行ってしまった。

 

「負けた逆恨み……じゃなかったね」

 

「だが、出る杭は打たれる。――轟にライバル視されたな」

 

「……()()はない」

 

 心配する耳郎と障子からの言葉。しかし竜牙はそれを“否定”し、己もバスへと向かった。

 残されたのは、否定した意味が分からない耳郎と障子、二人の圧に臆していた緑谷、ライバルだ――と言いながら和んでいた麗日だけだった。

 

「良し! 皆、きちんと出席番号順でバスに乗り込むんだ」

 

 そんな中でも委員長となった飯田は平常運転だったのは言うまでもない。

 

 

▼▼▼

 

「こういう作りだったか……!!」

 

 バスに乗り込んだ一同の中、飯田は叫んでいた。

 雄英のバスの作り、それは後部は普通の二人分の座席だけだったのだが、飯田達が座っている中部から前部は左右に座席があって向かい合うタイプだったのだ。

 これでは出席番号など関係なく、真面目の権化である飯田は己を悔いる。

 

「意味ないね!」

 

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

 そこに芦戸の追撃も加わり、完全に意気消沈の飯田。

 もうバスの移動中は再起不能が確定するが、そんな状態の中でもA組の者達は会話を始めてゆく。

 それは蛙吹の言葉から始まった。

 

「私、思った事は口に出しちゃうの……緑谷ちゃん?」

 

「えっ!……う、うん。蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで?」

 

 女子との会話が慣れない感全開の緑谷へ、蛙吹は――

 

「あなたの個性――“オールマイト”に似てるわね?」

 

 そう言い放った。

 同時に緑谷の動きに挙動不審が加わった。

 

「えっ!!? そ、そうかな……どこにでもある様な個性な気も……」

 

「そうだぜ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我なんかしねぇ。緑谷のとは似て非なるものだぜ?」 

 

 挙動不審な緑谷だったが、会話に切島が交ざった事で冷静を取り戻した様に動きが止まるが、気付く者はおらず、切島が会話を引き継ぐ。

 

「でも増強系の個性ってのは良いな。鍛えれば、やれる事が増えるだろ?――俺の『硬化』なんて対人戦は強いけど“地味”だからな……」

 

「そ、そうかな? プロにも通用するカッコイイ個性だと思うけど?」

 

 やや自分の個性にネガティブなコメントをする切島へ、今度は緑谷がフォローを入れる。

 しかし、切島は完全には受け入れなかった。

 

「けどよ……プロってやっぱ人気商売だろ? そう思うと地味なのは致命傷なのかもな?」

 

「なら僕のネビルレーザーこそプロ並み」

 

「お腹壊すのは致命傷だけどね?」

 

 切島の言葉に反応した青山だったが、彼もまた芦戸の一言に撃沈。

 

(……哀れな)

 

 流石に見ていて可哀想過ぎる落ち込みに、竜牙が同情していると、皆の話題は個性の“派手さ”と“強さ”の話へと移っていた。

 

「派手さと強さってなんなら……やっぱ“爆豪”と“轟”……そして“雷狼寺”だよな!」

 

「けど、爆豪ちゃんはすぐキレるから人気は出なさそう」

 

「――ハァッ!! 出すわゴラァ!! こんな白髪野郎よりもメッチャ出すわぁッ!!」

 

「ほらキレる」 

 

 蛙吹の鋭い指摘に逆ギレし、竜牙を指さしながら叫ぶ爆豪だったが、蛙吹はどこか納得する様に呟く。

 左右の緑谷と切島は苦笑するしかなく、竜牙もまた“ショック”を受けていた。

 

「……白髪」

 

 そんな病気的な白髪ではなく、健康的な白髪なのだが爆豪の言葉に竜牙は引っ張られていると、今度は緑谷が竜牙へと話を振ってくる。

 

「そう言えば実戦演習の映像なんなだけど、もしかして雷狼寺くん……“電気”も操れる?」

 

(……よく見てるな)

 

 答えはイエス。しかし映像に乱れでもあったのか、クラスメイトからは電気に関する質問は全くなかったのだ。

 故に、質問して来た緑谷の観察力に内心で驚く。

 本当に他のクラスメイトは気付いていなかったのだろう。緑谷の発言に騒ぎ始める。

 

「えぇ!! マジかよ!」

 

 切島で始まり。

 

「俺と被んじゃん! 才能マンどころじゃねぇだろ!?」

 

 上鳴が叫び。

 

「そう言えば入試でスパークしてたっけ……」

 

「そう言えば……放ってたな」

 

 耳郎と障子は思い出し。

 

「実戦演習で確かにビリビリしてたね!」

 

 葉隠も思い出すなどし、叫びながらもクラスメイト達の視線が竜牙へと集まった。

 これでは竜牙も言い訳は出来まい。

 

「……そういうことだ」

 

 竜牙は右手を雷狼竜へと変化。鱗と毛に覆われた巨大な爪が現れ、やがて輝きながら放電を始めた。

 その光景にクラスメイト達は視線を奪われる。推薦組の八百万も例外ではない。視線を向けていないのは寝ている轟と、驚きながらも悔しそうに怒りながら目を背ける爆豪ぐらいだ。

 

「ヤバッ! マジで使えんのか!?」

 

「ケロ! 上鳴ちゃんよりも強力そうね」

 

「言い返せねぇ……」

 

「……驚きましたわ」

 

 切島・蛙吹・上鳴・八百万の四人がそれぞれ呟き、その様子に他の者達もそうだった。

 

「同じ尻尾を使う側としては自信無くすよ……」

 

「獣の力……尾白以上の尾……上鳴を超える電力……お前が全てを超えしものか!」

 

「後、演習の時にビルの床も壊してたし、固さも切島よりもあるんじゃない?」

 

「マジかよ……」

 

 尾白・常闇・芦戸・切島の四人もそれぞれの思う事を呟く。

 特に個性で被っている者達は複雑だ。上位互換とも言える存在に“才能マン”としか言葉が出て来ないのだから。

――そんな時だ。蛙吹が気付いたのは。

 

「でもそうなると雷狼寺ちゃん?――本当にあなたの“個性”ってなんなのかしら?」

 

「何って……狼っぽいって話じゃなかったか?」

 

「狼はあんな強力な電気を放電しないわよ切島ちゃん?」

 

 蛙吹の言葉に全員が『あっ……』と思い出し、博識な八百万ですら答えが出来なかった。

 

「生物電気と言って……生き物は多少の電気を持っています。ですけど、それ程までの高電圧を出せる生物は……知り得ませんわ」

 

「電気ウナギのレベルじゃないもんね……」

 

 八百万が真剣な表情を浮かべながら考え、麗日も考えつかない様子。

 

「うわメッチャ気になる!!――けど、雷狼寺は教えたくないんだよな?」

 

「……悪いな。――だが、俺から言える事は“一つ”ある」

 

 瀬呂の問いに竜牙は頷きながらそう言い、その言葉に反応して全員が竜牙の言葉に集中する。

 

「――“強い個性”だからって……良い事ばかりじゃない」

 

「……!」

 

 この言葉に眠っていた轟が目を開き反応する。

 他の者達はこのヒーロー社会の世の中で、強個性程有利なのを知っている故に首をひねるばかり。

――そしてこの時、竜牙がどこか悲しそうな事に気付いたの二人だけ。 

 

(雷狼寺くん……?)

 

(……雷狼寺)

 

 緑谷――そして耳郎の二人だけだった。

 やや気になる事を残しながらも、A組は人命救助訓練の会場へと向かい続けるのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

 巨大な遊園地の様に広いエリア。

 各エリアにそれぞれの災害現場が存在するのだが、その光景はまさにUSJに似ていた。

 

『USJかよ!!』

 

「色んな災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”」

 

『本当にUSJだった!!?』

 

 宇宙服のヒーロースーツを纏う存在――スペースヒーロー『13号』の説明に全員がツッコミを入れる。

 しかし、それでも各地で己の個性を使って災害現場で活躍する名ヒーローの登場に、緑谷を始めファンである麗日のテンションは上げ上げだ。

 

「スペースヒーローの13号だ!」

 

「私、大好き!!」

 

「分かったから静かにしろ。――それより13号、オールマイトは? ここで落ち合う筈だろ?」

 

「それなんですが……」

 

 何やらゴニョニョと話し始める相澤と13号。

 その光景に何かあったのかと思いながら竜牙は見ていると、何故か相澤が機嫌悪そうな顔をし始める。

 

(……オールマイトは遅刻?)

 

 聞こえた話の内容から察するにオールマイト関係なのは分かるが、機嫌を見る限り、遅刻が確定したのだろう。

 竜牙は少し残念そうにしながらも、仕方ないと割り切っていると相澤も13号に始める様に指示を出していた。

 

「もう良い……始めるぞ」

 

「分かりました。――では、始める前に御小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

『増えてる!?』

 

 徐々に増えて行く小言の数にクラスの思いは一致するが、そんな13号の話そうとする言葉は重いものなのをまだ知らない。

 

「……皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は『ブラックホール』です。全てをチリにする事ができ、災害現場ではそれで瓦礫などをチリにして人命救助を行っております。……ですが同時に――」

 

――簡単に“人”を殺せる個性です。

 

「――ッ!」

 

 竜牙は13号のその言葉に心臓を鷲掴みにされた様に、ビクリと体を揺らす。

 

「――今の世の中は個性の使用を“規制”する事で成り立っている様に見えますが、一歩間違えれば安易に命を奪える事を忘れてはいけません」

 

 相澤の体力テストで己の“可能性”を。

 オールマイトの実戦演習でその可能性を含め、人へ向ける危険性を。

 13号はそこで学んだ事を竜牙達、A組へ示して行く。

 

「そして……この授業では各々の“個性”をどう人命救助に生かすのかを学んでいきましょう。――君達の個性が他者を傷付けるだけのものではない。その事を学んで帰ってください」

 

「ハイッ!!」

 

「13号カッコイイ!!」

 

 13号から命について、そして己の個性が“凶器”ではない事を教えられ、クラスは歓声をあげていた。

――だが、その中で竜牙だけは表情を曇らせていた。

 

(俺は……それが嫌で。俺の個性は、誰かを傷付けるだけだと思いたくなくて……血を吐くような努力をしてきた。――けど、13号……最初からそれを……産まれた時からそれを――)

 

――“存在”を否定された者はどうする?

 

 望まれていない者にもそれは可能なのか? 竜牙は己の個性を理解すればする程、人命救助に役立つ要素が見つからない。

 傷付ける事だけに特化している様な個性。災害現場に行った所で、逆に自分の個性はパニックにしてしまうことが容易に想像できる。

 

(……不安だ。この訓練で、その片鱗すら見つけられなかったら……俺の努力も全てが無駄――)

 

 竜牙の葛藤。そんな中で“それ”は起こる。

 

「ッ!!」

 

 竜牙の全身に謎の悪寒が駆け巡る。

 まるで己の縄張りを侵す存在。害を加えるものの存在。

 それを己の個性である雷狼竜が知らせる。つまりは、己の危機を。

 

 反射的に顔をその場所――噴水のある中央広場へと向ける。

 

「雷狼寺!?」

 

「どうした?」

 

 一人、場違いな動きをする竜牙に耳郎と障子。他のクラスメイト達も驚くが、竜牙は気にしていられない。

 意識を向けるのは――“黒いモヤ”から現れる集団へだ。

 

「全員!! 一塊に動くな!!!――13号!!」

 

「はい!!」

 

 気付いたの相澤。そして13号と竜牙。

 しかし、クラスメイトの大半は事態の重大さに気付けていない。

 

「なんだあれ? もう始まってるパターン――」

 

「動くな!! あれは――“ヴィラン”だ!!」

 

『――えッ!?』

 

 ゴーグルを装着し、鬼気迫る声を出す相澤の言葉。

 それを疑う者はおらず、全員は固まりながらヴィランの集団へと視線を向けた。

 

「なんでヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉぉぉ!!」

 

「どっちみち馬鹿だろ!? ここはヒーロー学校だぞ!」

 

 峰田と上鳴が叫ぶが、それよりも相澤が思い浮かべるのは先日のマスコミの不法侵入。

 

「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!」

 

 あの一件には違和感がありすぎた。マスコミを煽った者がいるのは明白であり、その正体は目の前のヴィラン達。

 そんな中の顔面と全身に手を付けた異質な存在――リーダー格のヴィランは何かを探すように周囲を見渡した後、首を傾げた。

 

「おい……オールマイトがいないぞ。“子供を殺せば”……来るのか?」

 

――途方もない悪意が動き出す。

 

「先生! 侵入者用のセンサーは!?」

 

「ありますが……反応しない以上、妨害されているのでしょう」

 

「そう言う個性持ちがいんのか。――場所・タイミング……馬鹿だがアホじゃねぇぞあいつら」

 

「……用意周到。無差別じゃなく、目的ありきの画策した奇襲だ」

 

 八百万・13号・轟・竜牙が事態の把握をする中、相澤はイレイザー・ヘッドとして動き出す。

 

「13号! お前は生徒を避難させろ。上鳴は学校へ連絡を試みろ!」

 

 戦闘態勢を取る相澤へ13号と上鳴は頷くと、相澤は広場に集まるヴィランへと今にも飛び出そうとし、それに気付いたヒーローオタクの緑谷が止めようとする。

 

「待って下さい! イレイザー・ヘッドの本来の戦い方だと、あの人数は――」

 

「一芸だけではヒーローは務まらん!!」

 

 緑谷の言葉を遮り、教師としてヒーローとして相澤は飛び出し、ヴィラン達と交戦を開始する。

 それと同時、竜牙も動き出す。

 

「ガァァァァッ!!」

 

 両手・両足・尾。更には口もマスクを着けている様に強靭な牙を持ちし口へと変化。

 同時に発電開始。身体からスパークを発する。まさに本気の戦闘態勢。

 日頃は口数の少ない竜牙の状態が、緑谷達に現状の危機を自覚させた。

 

(雷狼寺くん……本気だ!)

 

 緑谷は眼光を光らせる竜牙の姿に息を呑む。

 入試・体力テスト1位にし、轟すら退けた実力者の本気の姿。

 それが今の危機を理解させ、他のクラスメイト達も動かした。

 

「皆さん! 早くこちらへ!」

 

『させませんよ?』

 

 13号を先頭に避難しようと矢先、竜牙達の前に現れたのは黒いモヤのヴィランだった。

 

『はじめまして……我々は“敵連合”と言います。――そして単刀直入に仰いますと……我々の目的は“オールマイト”――』

 

――“平和の象徴”の殺害でございます。

 

『――は?』

 

 A組の全員が理解に落ち着けなかった。

 平和の象徴――ヴィランの抑止力。そのオールマイトを殺害する為に学校内を奇襲。

 そんな事、実行する奴等がいるなんて誰が想像できただろうか。

 

『しかし……オールマイトはいらっしゃらない様子。仕方ありません……ならばまずは――』

 

――瞬間、竜牙は雷狼竜の耳で13号の奇襲的反撃を察知。

 素早くその場で跳び上がり、モヤの様に不可解な身体をしたヴィランへ先手を放った。

 

(電撃弾――!)

 

 身体から放ちし電撃の弾。それを数弾同時、かつ広範囲に放つ。

 内数発がモヤのヴィランへと直撃した。

 

『ガッ!?』

 

(実体あり――!)

 

 電撃によりモヤにダメージ。動きを止めることにも成功。

 同時に13号が動く。

 

「お見事です雷狼寺くん!」

 

 竜牙の攻撃でモヤのヴィランは動きが止まっている。

 今ならば13号の攻撃を避ける事は不可能。確実に攻撃は決まる。

 しかし、ここで予想外の事態が起こる。二つの影が13号の脇から飛び出し、目の前のヴィランへと飛び掛かったのだ。 

 

――それは爆豪と切島。二人は爆発と硬化の腕でヴィランを殴り付けた。

 

「その前に俺達にやられる事を――」

 

『どけろ馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉッ!!!』

 

 切島の声を遮る竜牙の咆哮。日頃、叫ぶ事等しない竜牙のその叫びに周囲は驚愕し、切島と爆豪でさえ驚愕のまま振り向き、そして気付く。

 

「どきなさい二人共!!」

 

 自分達が13号の射線に被り、攻撃を邪魔している事を。

 だが、もう遅い。

 

『あぶないあぶない……流石は金の卵たち。だが所詮は――卵』

 

――散らして、嬲り殺す。

 

 その言葉と同時、竜牙達を黒いモヤが包み込もうとする様に広がる。

 

(回避不可――!)

 

 避け様にも範囲は広く、場所が悪かった竜牙と一部の者達は回避が間に合わない。

 ゆえに察した竜牙は、咄嗟に傍にいた上鳴・耳郎・八百万を守る様に抱え、黒いモヤによってそのまま包み込まれてしまった。

 

 

▼▼▼

 

 黒いモヤによって竜牙達は運ばれた。

 そこは山――山岳ゾーンと呼ばれるUSJの施設内。

 

「なに……どうなったの?」

 

 竜牙が三人を解放し、耳郎が事態を聞きたく呟いた。

 しかし、それに答える者はいない。――答える必要すらない。

 

「おっ? 来たぞ来たぞ!!」

 

「獲物の登場だ!」

 

 既に竜牙達はヴィランによって囲まれていた。

 竜牙達が中央におり、ヴィラン達による完全包囲という初っ端からのピンチに上鳴は思わず声をあげた。

 

「囲まれてんぞ!?」

 

「マズくない……?」

 

「えぇ。恐らく、先程のヴィランの個性はワープの類だったのでしょう。まんまと罠に掛かってしまいましたわ」

 

「……最初から俺達の分断も狙いだったか」

 

 四人は現状を把握。そして自然と、それぞれの死角を補う様に背を合わせた。

 数だけでも20以上はいるであろうヴィラン達。

 油断は死を意味しており、八百万は素早く個性で武器を精製して自分と耳郎がそれを手に持った。

 すると、それを見ていた上鳴が抗議する。 

 

「ちょっ! 俺にも武器くれ!」

 

「渡したいのは山々なのですが……」

 

「……場所的に渡しづらいから」

 

「ひでぇ!」 

 

 哀しき宣告。場所的に八百万の真後ろが上鳴だが、如何せん距離が微妙にあった。

 渡そうと思えば渡せるが、確実に隙になるのは明白。

 結果、上鳴に武器が渡る事はなく、肩を落としていた時だ。竜牙が左腕を上鳴の前に出す。

 

「……上鳴。俺の左腕を掴め」

 

「えっ?……お、おう」

 

 なぜそんな事をしなければならないのか上鳴には分からなかったが、竜牙が意味のない事をするとも思えず、上鳴は言われたまま竜牙の左腕を掴む。

 すると、左腕から竜牙の腕――雷狼竜の腕が剥がれる様に取れ、それは一本の剣の姿となって上鳴の手に収まった。

 

「お、おおッ! マジかよ……八百万と同じじゃんか!?」

 

「えっ……えぇ、ことが無事に終わったら詳しく聞かせて欲しいですわ」

 

「……見た目程、大した事じゃない。俺を素材としたものしか作れず、お前みたいに色んな物を作るのは不可能。――あくまでも個性を鍛えた結果……その産物だ」

 

 驚く上鳴と八百万へ、竜牙は冷静に返答するが、その瞳はヴィラン達から一切外さない。

 耳郎だけは驚いた様子はなく、通常通りの様子で竜牙と上鳴のやり取りを見ていたのだが、その目は何処か不満そう。

 そんな状態でずっと見らているのだ。視線だけで竜牙も気付く。

 

「……なんだ?」

 

「いや別に。――ただ……そんな事が出来んのに、うちにはくれないんだなあって思っただけ」

 

 そう言って不満そうに耳郎は目を逸らしてしまい、その様子に竜牙は疑問を抱く。

 

「……?――お前は八百万から武器をもらっていた。ならば俺のは必要ないだろ?」

 

「ふっ……女心を分かってねぇな。そうじゃねぇんだ雷狼寺。耳郎はな――」

 

「ごめん。手が滑った」

 

 上鳴が何かを竜牙へ伝えようとした瞬間、耳郎の手ではなく、耳のプラグが上鳴へ突き刺さる。

 

「ギャアァァァァ!!?」

 

「二人共! 何をなさっているのですか!?」

 

「あっごめん。つい……」

 

 耳郎に爆音を聞かされて上鳴が叫び、その事態に八百万が叱りつける。

 目の前にヴィランがいるのに、仲間割れをしている場合ではない。

――だが、逆にそれが光明への一歩となる。

 

「こ、こいつ等、状況分かってねぇのか!?」

 

「仲間に攻撃してんぞ!?……俺等よりもヴィランだ」

 

「つうか……()()()()()()()

 

「……!」

 

 二人の行動は奇策となったようで、ヴィラン達は困惑気味。

 同時に竜牙はヴィランの一人の言葉を聞き逃さなかった。

 

「……八百万」

 

「……なんでしょう?」

 

 竜牙は小声で八百万へと声をかけ、彼女もそれに応えた。

 

「連中は俺達の“個性”を知らない様だ。さっきの発言もそうだが、現にお前が作った武器にすら警戒している。――敵が冷静じゃない内に制圧したい」

 

「それは私も賛成です……しかし、向こうは数だけは多いですわ」

 

「――策がある。お前等三人が包み込める何かを作れないか? 出来れば絶縁体の物を頼む」

 

「分かりましたわ。ですが、大きいものを作るには時間が掛かりますので……」

 

 八百万は竜牙が何を考えているのかまでは分からない。

 しかし、策があるのならば信じる価値はあると判断。問題は彼女でも“大きい物”を作るには時間が掛かるという事。

 だが、竜牙はそれを問題視していない。

 

「――構わない」

 

――“俺”が時間を稼ぐ。

 

 それが八百万達の耳に届くと同時だった。竜牙がヴィラン達へ飛び出して行ったのは。

 無論、ヴィラン達も黙っていない。

 

「ギャハハハ!! 単身で来やがったぜ!」

 

「テメェらはどいてろ!! ここは“異形系”の俺の剛力で仕留めてやるぜ!」

 

 他のヴィランを押しのけて前に出たのは、常人よりも数倍は巨大な両腕を持つヴィランだ。

 本人の言葉からして、常時発動型の異形系なのだろう。

 飛び出してきた竜牙に、その自慢の腕を振るおうと構えた。

――だが。

 

――遅い。

 

「えっ――」

 

 異形系ヴィランは全てを喋る事は出来ず、気付かないまま己の頭を竜牙に掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて気を失った。

 

「なっ! コイツ!?――ゴヘッ!!」

 

「……尻尾も痛いぞ」

 

 動きに反応したヴィランへは尻尾で薙ぎ払い、隙を見せない竜牙の構えにヴィラン達の表情が変わる。 

 普通の子供ではない。だが数は自分達の方が多い。

 孤軍奮闘する竜牙へ、ヴィラン達は数の利を武器として攻勢に出た。

 

「クソガキがッ!!!」

 

「囲め囲め!!」

 

「遠距離で援護しろ!!!」

 

 一斉に攻撃を仕掛けるヴィラン達の渦中へ竜牙も飛び込び、壮絶な乱戦へと突入する。

 勿論、上鳴達も例外ではない。

 

「おいやべぇって!! 雷狼寺の奴囲まれてんぞ!?」

 

「うちらも他人事じゃないよ?」

 

「そういうことですわ」

 

 既に三人の下にもヴィラン達が距離を詰めており、竜牙のおかげで数は減ったが、まだまだ多い。

 

「へへへ……分かってんじゃねぇか!」

 

「楽に嬲り殺されんのと……苦しく嬲り殺されんの……どっちが望みだ?」

 

「どっちもありだぜ!!」

 

 巨体のヴィランが叫びながら上鳴へと殴り掛かると、上鳴は咄嗟には竜牙から貰った剣で捌きながら回避する。

 

「やべぇ!! 三途が見えた! こいつらやべぇって!!」

 

「それは分かってる……って言うか、上鳴あんたさ。雷狼寺を見習って突っ込んできなよ?」

 

「いやいや無理矢理! 俺は電気を“纏う”だけ。雷狼寺みたいな才能マンじゃねぇから」

 

「――じゃあ人間スタンガン」

 

 耳郎は電気を纏う上鳴を蹴っ飛ばすと、そのまま先程の巨体なヴィランへと接触。

 そして――。

 

「ぐわぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「あっ行けるわ。俺も才能マンだ!」

 

 まさかの人間スタンガンの効果絶大。巨体すらも撃破し、上鳴が自信を持ったのだが……。

 

「だったら止めてみろや!!」

 

 それを見ていた別のヴィランが腕に岩を装着。そのまま上鳴を標的にした。 

 

「やっぱ無理だわ!」

 

 勿論、上鳴もそれは防げる筈がなく撤退。だが相手の速度も速く、ヴィランの拳が上鳴の背後に迫った時だ。

 

「――上鳴!」

 

 竜牙が間に飛び込み、腕の岩を砕くと、そのまま腕を掴んで放電し、相手の意識を奪い取った。 

 

「……無事か?」

 

「はぁ……はぁ……わりぃ助かった……!」

 

「人間スタンガン失敗か……」

 

「お二人共! 真面目にしてください!」

 

 敵の攻撃を受け止めながら八百万が上鳴と耳郎を叱る中、竜牙はまた一人飛び出して交戦再開。

 だが、その間の僅かな時間。竜牙が己へ向ける視線に八百万は気づいていた。

 

(あと少し。あと少しですわ……!)

 

 八百万も竜牙からの視線の意図に気付いており、同時に焦りを抱いていた。

 竜牙が時間を稼ぐと言った通り、大半のヴィランは竜牙の方へ意識を持って行かれ、八百万達に向かったのは少数。

 

 竜牙がしっかりと自分の役目を果たす中、信頼に応えられない自分に、八百万は焦っているのだ。

 

「やれやれ!! あの餓鬼をやれば残りは楽勝だ!!」

 

「俺等の個性は山で活かされるものばかり。最初から勝敗は決まってるって作戦よぉ!」

 

 その間にも竜牙は一人で多数を引き付けている。

 倒れるヴィランも多くなっているが、数の多さで自信を失わない連中を相手に。

 

(早く……急がないと雷狼寺さんが……!)

 

 乱戦の中で構造を練って創造する。そんな芸当を行う八百万の負担も大きい。

 だが責任感のある八百万は焦ってしまう。そして、それは僅かな隙を生んだ。

 

「一匹も~らい!!」

 

 ヴィランの一人が、八百万の様子に気付いて刃を振り上げた。

 

「しまっ――!」

 

「ヤオモモ!」

 

「八百万!」

 

 だが間一髪。上鳴が刃を受け止め、耳郎がプラグで撃退する。

 

「大丈夫?」

 

「つうか、雷狼寺がくれた剣がやべぇ……電気を上手く纏えて扱いやすい。これ貰えねぇかな……」

 

 耳郎は周囲を警戒しながら八百万を心配し、上鳴は竜牙から貰った剣に驚きを隠せないでいた。

 そして、間一髪を助けられた八百万は安心した様に呼吸を整えて頭を下げる。 

 

「お二人共、助かりましたわ……!」

 

「おっと! それはどうかな!!」

 

 二人に礼を言う八百万だったが、ヴィランは余裕の表情。

 まだまだ追い詰めるつもりの様で、特に女である八百万と耳郎を狙っている。

――だが、もう時間だ。

 

「いえもう終わりですわ!――()()()()()

 

 八百万の叫びが、竜牙への合図となる。

 彼女の服を破きながら、背から現れる一枚のシート。

 

「厚さ10㎜(流石に分厚すぎない?もはや板なんだけど、それ)……特別性の絶縁シートですわ」

 

「……十分」

 

 それを見た竜牙が三人の下に合流すると、巨大な絶縁シートは竜牙を除く三人を包み込む。

 そして顔をだけ出して八百万が竜牙へ問いかけた。

 

「よろしいのですね……雷狼寺さん」

 

「……あぁ。――だが一つだけ頼みがある」

 

「何でしょうか?」

 

 雷狼寺の意外な言葉に八百万は素早く聞き返すと、竜牙は視線を合わせずに呟く。

 

――絶対に“見ないでくれ”

 

 

▼▼▼

 

 シートに包まれた八百万達三人。

 光を一切入れない為、息、そして声だけを彼等は知る事が出来ていた。

 そんな闇の中で、耳郎達は竜牙の作戦について話していた。

 

「雷狼寺の奴……一体、どうする気なんだろ?」

 

「へっ? そりゃ電気でビリビリじゃね? その為の絶縁シートだろ?」

 

「だと思いますけど……最後の言葉が気掛かりですわ。どの道、見る事は叶いませんが、まるで見られたくない様でしたわね」

 

 竜牙を信じていない訳ではない。

――だが不安もある。内容もよく分からない作戦。自分達を守っているのだって、一枚のこのシートのみだ。

 現にヴィラン達の声はすぐ隣から聞こえ、不安を煽ってゆく。

 

『なんだこのシート? バリアのつもりか?』

 

『一人だけ入り損ねたようだがな!』

 

『メインディッシュは後だ。――まずはそこのクソガキから血祭りにしようぜ!』

 

「やべぇよ……雷狼寺、本当に大丈夫なのかよ?」

 

 すぐそこで聞こえるヴィラン達の会話に上鳴は竜牙の安否に不安を覚え、思わずそう呟くと、それを否定したのは耳郎だった。

 

「大丈夫だって……あいつなら。――こういう時、本当に頼りになるし」

 

「耳郎さんは信じてますのね……雷狼寺さんの事を」 

 

「……まあね」

 

 迷いなく頷く耳郎。彼女の中には、入試の0Pヴィランとの事がずっと残っていた。

 まさかほぼ同い年の少年に憧れのヒーローの背を重ね、心を奪われるとは思っても見なかった。

 だが、耳郎はその想いに後悔もなければ、一時の気の迷いとも思っていない。

 さっきの行動だってそうだ。黒いモヤのヴィランの動きに最初に動いたのは竜牙。

 

「他力本願みたいで、ヒーロー科としては言っちゃいけないんだろうけど……うちは雷狼寺なら何とかしてくれるって信じてる。信じ続けたいんだ」

 

 真っ暗な中での言葉。

 だが耳郎がどんな表情をして言っているのかは、上鳴と八百万が想像が出来る程に優しく、そして思いやりのある口調だった。

 そんな言葉で他者から評価されているのだ。上鳴と八百万も納得せざる得ない。

 

「……だったら信じようぜ。雷狼寺を」

 

「えぇ。同じA組の仲間なのですから」

 

 不安は完全には消えない。だが、二人は実力抜きで信じてみたくなった。

 耳郎に、未だ短い期間しか共にいない仲間に、そこまで言わせる雷狼寺 竜牙を。

 

――そして、そんな会話をしていた時だ。外で動きが起こったのは。

 

『なッ!!……なんだよこれ!!?』

 

『あ、ありえねぇ……学生どころか“プロ”にだって……こ、こんなの……!』

 

 外の様子がおかしい事に耳郎達は気付いた。

 先程までのヴィランの威勢が聞こえず、寧ろ全員の声が震え、何かに恐怖を抱いている様だ。

 

「何が起こってますの?」

 

 八百万は気になり、そう呟いた。

――瞬間“答え”が現れる。

 

――GUOOOOOOOOOOOON!!!

 

「ッ!!?」

 

 それは遠吠えの様に長く、そして同時に強烈な衝撃を放っていた。

 外の様子が分からない耳郎達でも、だからこそ恐怖する。

 骨から震えあがる咆哮。何かがいる。とても“巨大”な何かが。しかし何なのかを考えるよりも先に、強烈な振動や衝撃が大気ごと耳郎達を震わせる。

――そして同時に、ヴィランの悲鳴も響き渡った。

 

『やめろぉぉぉぉぉッ!!』

 

『ギャアァァァァ!』

 

『こ、こんな“化け物”なんて聞いて――』

 

『GAaaaaaaaaaa!!!』

 

 衝撃が、咆哮が、ヴィランの悲鳴をかき消すと同時、落雷の様な轟音が発生。強烈な衝撃が次々と放たれてヴィランを呑み込んだ。

 

『ッ!!』

 

 最早、ヴィランは声も出せないのだろう。というよりも聞こえない。人の声が。

 巨大な何かの咆哮、そして轟音がこのエリアを支配しているのだ。

 

――そして、どれだけ経ったのかは分からない。長いのか、短いのか、ただ場が静かになった後も耳郎達はすぐに動けなかった。

 身体に力が入らず、腰が抜けた様に全身が重い。

 

――しかし静寂は長く続かず、再び衝撃が起こる。

 

『なッ!……なぜ俺の事が分かっ――』

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

『ギャアァァァァ!!!』

 

 それが最後の悲鳴。

 ようやく訪れる静寂の後、巨大な足音が徐々に近づいて来ているのが耳郎達は分かった。

 大地を大きく揺らす衝撃を発する足音。それが自分達の傍で止まった時、耳郎達に聞き覚えのある声がかけられた。

 

『……終わったぞ』

 

 その聞き覚えのある声に気付き、三人がシートを剥がすと、そこにいたのは両手足共に人の姿になっている竜牙の姿。

 無事な姿に三人は安心した。――だがシートから出た瞬間、三人は言葉を失ってしまった。

 

 半壊した山岳ゾーン・焦げた周辺とヴィラン達。

 瓦礫にも爪痕らしきものがあり、壮絶な戦い――否、一方的な蹂躙が起こった痕跡が所狭しと存在していたからだ。

 その異常な光景に耳郎は竜牙へ問いかけようと手を伸ばす。

 

「雷狼寺……その――」

 

「……終わったぞ。――“向こう”も」

 

 竜牙の言葉の意味は分かっていないでいると、大きな衝撃音が鳴り響いた。

 場所は近く、音の発生源を三人が向くと、そこには何やら天井に大きな穴が空いていた。

 

「えっ……なんだ、穴?」

 

「――オールマイトだ」

 

 遠目で見詰める上鳴の疑問。それに竜牙は耳だけを変化させて、そう返答した。

 竜牙の耳には届いていたのだ。オールマイトの声が。

 

「えっ……じゃあうちら助かったの?」

 

「それはまだ早計ですわ。まだ何処かに残党がいるかも知れません」

 

 安心する耳郎へ八百万は注意を促す。

 相手にはワープ持ちがいる。何が起こるかは分からない。

 だからこそ、八百万が周辺を調べようと、辺りを再度見回し始めた。

――その時。

 

「!」

 

「雷狼寺!?」

 

 竜牙が突如膝をつき、すぐに口元も抑えたのだ。そして同時に地面に赤い液体――血が落ちた。

 その様子に耳郎は目を大きく開き、竜牙の状態に気付く。

 

「どっか怪我した! やばい……急いでなんか応急処置しないと――」

 

 耳郎は何とかしようと付き添う様にするが、竜牙は何故か耳郎を避ける様に離れようとする。膝を突いたまま。

 

「どうしたの?」

 

 流石に何か変だと思ったのだろう。耳郎は顔を覗き込もうとするが、竜牙は顔ごと逸らすと、更に異変も続いた。

 

「ゴフッ!」

 

 今度は上鳴が膝を突き、竜牙同様の格好となる。

 何故か地面に血が流れており、耳郎も八百万もパニックだ。

 

「上鳴!? あんたまでどうしたっての!」

 

「何が起こっているのですか!」

 

「分かんない! もしかして別のヴィラン――」

 

 そう言って耳郎は八百万の方を向いた瞬間、言葉を失った。

 同時に原因も判明。何故ならば、現在の八百万の姿が――。

 

「ヤ、ヤオモモ……服が超パンクな事に……!」

 

「えっ――」

 

 顔を真っ赤にしながら答える耳郎の言葉に、八百万は何も気付いていない感じで自分の服を見つめると、そこには一切隠されていない己の持つ発育の暴力があった。

 

――山岳ゾーンに叫び声が木霊する。 

 

▼▼▼

 

 その後――USJヴィラン襲撃事件。

 結果として、オールマイトと雄英の教師たちの援軍によって終息。

 しかし、助けに来た教師達は山岳ゾーンのみで奇妙な光景を目撃した。

 

 それは、落ち込んだ様子で体育座りする八百万と、そんな彼女へ耳郎が竜牙と上鳴に土下座させている光景であった。

 

 

 

END

 


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