魔法科高校の劣等生に憑依したバカ   作:飛べ飛べあおこ

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第三話

 

 

ジリジリジリジリと懐かしい音が鳴る。

これは確か、いつもの目覚まし時計の音。

精一杯時計に手を伸ばして、音を止める。

 

「体が重い……」

 

さっきまで軽く感じていたのにな。

重い瞼をゆっくり開ける。

 

「ここは……、おれの部屋?」

 

小さな小さな見慣れた部屋。

 

「ははっ、やっぱ夢だったか。そりゃそうだ。あれが現実なわけがねぇ」

 

また同じ夢見たら、もっと暴れてやろっと。

 

 

 

 

—————————

 

 

変な夢を見ていた。

俺が俺でない夢。

本当に変な夢だった。

俺は俺を上空で見下ろしていた。

まるで幽霊のように。

 

「お兄様〜今日はちゃんと起きれていますか〜?」

 

「深雪。『今日は』って、俺はいつも深雪より早起きだぞ」

 

「へっ!? ご、ごめんなさいお兄様。もう制服にお着替えされたのですね。しかしここ最近様子がおかしかったもので」

 

様子がおかしかった?

どういうことだ。

 

「なあ、深雪。今日は入学式……だよな?」

 

深雪は、きょとんとした顔で、俺の顔を見つめていた。

 

「最近お兄様の流行りの冗談というものですよね?」

 

冗談? 俺はそんな変な冗談など言ったことがないが。

 

「入学式はとっくの前に終わりましたよ。今日は私と一緒に生徒会室へ行く日ではありませんか」

 

入学式が終わった? とっくの前に?

 

「深雪が冗談を言うとはな。珍しい」

 

「冗談など言っていませんよ? どうしたのですか、最近やはり様子が変です」

 

冗談を言っていない?

本当に入学式は終わったのか?

俺は記憶にないぞ……?

いや、まて。あるにはある。

あの幽霊になったかのような夢の中で、俺は入学式を見ている。

何が起こっているんだ、俺の体に。

 

「深雪、お前は入学式の答辞に 皆等しく、魔法以外でも、などという際どいフレーズを使わなかったか?」

 

「? 確かに使いましたけど……」

 

驚いた。

あの夢は現実とみたほうがいいのか。

魔法というものがひっくり返された歴史はあるのだ。

このようなことは起こりうる。

 

「まあいい、深雪。学校へ行こうか。確か、生徒会室へいくんだったな」

 

「なんだか、前のお兄様に戻ったようですわ。不思議なものですね」

 

深雪はいつもの優しい笑顔を向けてくれた。

 

さあ、俺の初登校だ。

 

 

—————————

 

 

 

「どうなさったの、お兄様? 生徒会長からお昼のお誘いなんて楽しみですね」

 

俺じゃない俺は、あの生徒会長に告白しているんだよな。

普段の俺では絶対あり得ないことだ。

人を好きになることなどできないというのに。

 

今回の呼び出しは、新入生総代の生徒会への勧誘……だろうな。

しかしなんで俺まで?

 

「1−A司波深雪と1−E司波達也です」

 

『どうぞ』

 

インターホンを押して、生徒会室のドアを開ける。

 

「ようこそ、生徒会室へ。さ、遠慮しないで入って」

 

生徒会長から、食事中、生徒会の紹介を受けた。

なかなか個性的なメンバーがそろっているらしい。

 

ふと深雪が質問をした。

 

「渡辺先輩。そのお弁当はご自分でお作りになされたのですか?」

 

「そうだが、意外か?」

 

俺は渡辺先輩の手を見ていた。

 

「いえ少しも、普段から料理をしているかどうかは——その手を見れば分かりますから」

 

「……君、少し怖いな……。といってもこの前は別の怖さを感じたが」

 

ん? もしかしてあの下校時の俺を思い出しているのか。

あの時の俺は俺ではないのだが。

 

「そうだ、お兄様。私たちも明日からお弁当にしましょうか」

 

「深雪の弁当はとても魅力的だけど、二人になれる場所がね……」

 

「兄弟というより恋人同士の会話ですね」

 

と、先ほど紹介された会計の市原鈴香さんが呟く。

 

「そうですか? まあ確かに、血の繋がりがなければ恋人にしたい、と考えたことはありますが」

 

「ストーーーーーーーップ!!」

 

七草会長が、突然の大声をあげる。

表面上の笑顔を俺に向けた。

 

「あ、あなた女ったらしって言われない? あの入学式の時も半分冗談だということは、半分本気だと受け取ったのだけれども」

 

俺は俺じゃなかったのだ、勘弁してくれ……。

 

「もちろん冗談ですよ。あの時も、今の発言もです」

 

七草会長は気が抜けた顔をして「あ、そう」と呟くと、すぐに顔を引き締めた。

 

 

 

 

 

皆の食事も終わった。

 

「ではそろそろ本題に入りましょう」

 

七草会長も、おそらく仕事モードに入ったのだろう。

いろいろ生徒会や風紀委員などの紹介をしてくれた。

 

「司波深雪さん、私は貴女の生徒会入会を希望します。引き受けていただけますか?」

 

深雪、お前が気後れすることは何もない。ただyesと返事するだけで——。

 

「会長は、兄の入試成績をご存知ですか?」

 

なっ!?

 

 

 

 

おれは風紀委員に入ることになった。

実技の成績が悪い二科の俺がだ。

 

「風紀委員!?」

 

「レオ、声がでかい」

 

 

俺達は今、実技課題を行っている。

もうクラスの人間には風紀委員入りは知られている。

噂は急速に広まるだろう。

あの「とてもクールで寒い男」という二つ名の効果で……。

 

そんなことより目先のことだ。

この実技課題は俺にとって苦手とする分野で、台車を動かすというものだ。

 

据置型CADに自分のサイオンを流す——。

俺はどうせいつもの……

 

「!?」

 

——速い——

 

部屋の同じクラスの人間が全員静まり返った。

俺も驚いているのだ。

 

速過ぎる。

これは二科生の中でも、いや、この学校の中でもトップレベル。

 

『クリアです』

 

無機質な声だけが響いた。

 

これが、俺の実力なのか?

正直信じられないでいる。

 

レオが一番最初に口を開いた。

 

「すっげーーー! 達也! お前そんな実力あるのに二科なのかよ! めちゃくちゃびっくりしたぜ!」

 

ほかのクラスメイトはレオに続いて歓声を上げた。小さくだが。

まるでひと時の夢を見たかのように。

 

——————

 

そして俺は、やはり風紀委員に入ることを断りに生徒会室へ向かうことにした。

 

すれ違いざまに、あらゆる人間が俺の話をしている。

 

「とてもクールでサムライな男?だっけ、あの人」

 

そこの上級生さん、不正解。

 

「違うよ!寒くてもクールでトキメキ男よ!」

 

そこの女子上級生さんも不正解。

 

「なんだぁそりゃぁ、おれはとてもクールで寒い男って聞いたぜ」

 

そこの男、正解。

 

「ちがうよぉ、そんなんじゃないって!もっとカッコいい二つ名だったよ!」

 

もうどうでもよくなってきた。二つ名なんて。

 

生徒会室に着いた。

失礼しますと挨拶をしといて、深雪と一緒に部屋に入る。

 

「司波達也です」

 

「司波深雪です」

 

ひとりの男が待っていた。

「司波」という名前に引っかかったような様子の男は、こちらに振り向いた。

 

誰だこの男は。

記憶にないぞ。

そういえば挨拶をしていない生徒会の人間は生徒会副会長だったな。

ということは副会長か?

 

「妹・深雪の生徒会入りと、自分の風紀委員入りの件で伺いました」

 

副会長と思われる男は、眉をぴくりと動かした。

 

「よっ、きたな。二人ともご苦労様」

 

生徒会室の奥で見知った生徒会メンバーが固まっていた。

声をかけてくれたのは風紀委員長の渡辺先輩だ。

ふと気づくと、副会長と思われる男がこちらへ歩んでいた。

そして、俺を無視し、深雪だけに話しかける。

 

「司波深雪さん、生徒会へようこそ。副会長の服部刑部です」

 

 

副会長と模擬戦をすることになった。

これは俺から申し込んだ話だ。

ルール説明を今、聞いているところだ。

正直俺は少しウキウキしている。

先程実技課題での自分の突然の変化。

あれを試してみたかった。

体術もなにもかも使わないで、正面からぶつかってみたかった。

スピード重視の単純な起動式、魔法は基礎単一系移動魔法、相手を10メートル後方へ吹き飛ばす。

おそらく相手も全く同じことを考えているだろうな。

あえてだ。

人と比べてみなければならない。

自分の新しい実力を知るには……。

 

「準備はいいか?」

 

俺と副会長は同時に頷く。

 

「始め!!」

 

ドン!という衝撃音がした。

壁に叩きつけられた副会長からの音だ。

現代版西部劇に出てきそうな勝負だったな。

 

「しょ、勝者、司波達也!」

 

「お兄様!? その魔法は!?」

 

しばらくの沈黙。

 

「これは、騙されてたわね。1年のしかも二科生にこんな化け物がいたなんて……」

 

ここにいる全員、驚きの色を隠せない。

俺も少し同様しているところだ。

 

「入試では手を抜いていた、ってことでよろしい?」

 

皆顔が笑っていない。

生徒会長の七草先輩は、今までに見たことのないほど真剣な目つきだ。

正直に言ってしまおう。

 

「入試は、本気でした。二科生になるのは俺も納得でした。しかしここ数日、俺の中で突然何かが変わったんです。原因はわかりません、ホントです。嘘は言いません、冗談でもありません」

 

模擬戦にいた、深雪以外の人間は無言のまま、そして怯えるように部屋を出ていった。

 

「お兄様! 私、嬉しいです。 お兄様はすごい才能を身につけられたのですね! お兄様をバカにする人間などいなくなります!」

 

 

――――――

 

 

俺と深雪は家に帰宅した。

深雪は嬉しさだろうか、泣いている。

 

「今日は疲れましたね。お兄様」

 

「ああ、今日は早く寝よう。もう泣くのはお止め」

 

はい、と小さく呟いた深雪は自室へと向かっていった。

 

明日から、俺たちの学生生活はどうなるのだろう。

電気を消し、俺はベッドに入って目瞑り、眠りに落ちた。

 

 

――――――

 

 

小鳥が鳴いている。

太陽は東。

おれは上半身を、すごい勢いで起こす。

 

「広い部屋! ふかふかベッド! 清潔感あふれる家! ムフフフフ……ソロ◯ンよ! 私は帰ってきた!!」

 

フーンふふふーん

鼻歌が止まらない。

さあて、今日の夢は朝が早いな。

深雪ちゃんの寝姿拝見できる!?

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

おれの夢、すげえ!!

 

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