峻厳であれ、勇猛であれ、数多の自我の嘶きと共に   作:前虎後狼

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作「EGOを使った小説を書きたかった。後悔はしていない」



だいたいこれに限る


廃教会の傷赤色《スカーレッド》
第一観測 峻厳 白紙の書


 

 

 

(きず)(きず)(きず)(きず)

体に刻まれた後悔の証は、尚も癒えずにそこにあった。

数々の異常を抑え、鎮圧してきた勇猛なる戦士は膝を着く。

体の至る所から血が止めどなく流れ続け、片腕は肘から先が消失していた。

満身創痍の戦士の周りには、容易く人を殺せる異常存在(バケモノ)達が無残に這いつくばっていた。床や壁が化け物たちの血で汚れ、戦士の髪と同じ真っ赤な空間へと彩られていく。

 

地に着いた膝を持ち上げようと残った気力を振り絞る。

そこで止まってしまえば楽になれるというのに、それでも戦士は手にした剣の(かたち)をした肉塊の柄をより強く握りしめる。

 

「まだだ⋯⋯」

 

敵へと手向けるのは憎悪だけ、他にくれてやるものなどない。

 

「まだだ⋯⋯⋯⋯!」

 

片腕がちぎれ飛ぼうが内臓が垂れ流れてようが、それで足を止めるつもりはない。それで止まれるのなら、とっくの昔に終わっている。

そんな些末なことで、いちいち立ち止まってなどいられるものか。

 

「まだ私が、ここにいるぞ⋯⋯!」

 

多くの痛みと後悔を味わってきた。

 

倒れて行った者達の慟哭を覚えている。

 

それでも残ったのは、ほんの少しの希望だけ。

 

「守るんだ⋯⋯私が」

 

それが明日への道しるべとなると、光になると夢想して。

それを成そうとした人の為に、成そうとする者の命を繋ぐために。

最後まで戦士は諦めない。

 

「そうか⋯⋯なら」

 

相対する絶望の使徒はちぎれた戦士の腕を掴んだまま、酷く濁った目で満身創痍の戦士を見つめている。

 

「まだ剣を持ち、己の足で立つ力が残っているなら、やってみるといい」

 

数多の異常と処刑者たる『爪』の残骸が山を築き、樹の守り手と残虐なる『頭』の使徒、調律者を無数の空虚な瞳が見つめている。

記される記録もなく、守るべき場所も既に奪われた。

それでも、まだ託せる希望がある。

彼女の理想を叶える光が、その種子がある。

 

ほんの僅かだとしても、守れるものが残っているなら、戦士は何度でも立ち上がれる。

 

そして、赤い霧は再び立ち上がった。

数多の異常を携えて、烈火のごとき嘶きと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいダンナ?生きてます?死んでます?」

 

「ん⋯?」

 

瞼をうっすらと開ければ、そこは寂れた屋内だった。

いくつもの長椅子が列を成して、光がステンドグラスを透過していくつもの色の光条が差し込んでいる。

目の前に置かれたボロいテーブルとその上に散乱しているトランプの山。

向かい側に座る脱色したかのように白い髪をした神父っぽい出で立ちの男。

そこまで認識して、男はようやくついさっきまでの事を思い出した。

そして同時に、先までの光景がいつものアレである事にも気が付いた。

 

「またか⋯⋯」

 

「あー、っていうと例の夢ですかい。前世の記憶がどうたらこうたらみたいな」

 

「あれは俺の前世じゃないっての、俺はあの人ほど綺麗な志を掲げてた訳でもねぇしさ」

 

椅子に座った状態で軽く体を伸ばす。ギシギシとボロっちい椅子が軋む音をたてるが、かれこれ数年も耐えてみせた古株だ。きっともう数年くらいは持ってくれるだろう。

対面に座る神父がさっさと次にと急かしてきたのを軽くいなして、膝上に散らばった手札を掻き集める。

 

 

 

───ここはとある町外れの廃教会。

とっくの昔に使われなくなった寂れた教会には、はみ出し物達がひっそりと暮らしている。

 

この二人もそのご多分に漏れず、色々と普通ではない人間だ。

 

ガラの悪そうな白髪の神父と、黒みを帯びているくすんだ赤の髪を腰近くまで伸ばした男。そのどちらもが近寄り難い風貌と空気を放っている。

 

「そういやあの手紙はどうなったんだ?アーシアを引き渡せーとか巫山戯たこと抜かしてたが」

 

赤髪の方が手札から一枚カードを抜きつつ、そんな話題を口にした。

 

「もちろんクタバレって返しておきやした♪」

 

「まあ当然だな。だいたい何処のやつだよ第13聖片隊って、聞いたことねぇよ」

 

「あっしらみたいなはみ出し者がより集まったゴミ箱よりもえげつねぇ掃き溜めでーすよっと。チッ、また負けた」

 

「先に強いカードばっか出してるからだよ阿呆め」

 

トランプゲームに興じながらそんな話をなんでもないように繰り広げている光景はどこにでもある日常風景と何ら変わらない。

話している内容が普通ではない物騒なものではあるが。

 

「まあアレらのことっスから普通に引き下がるとは微塵も思ってねぇですけどね」

 

「来たら鉛の弾幕でお出迎えだな。ありったけ準備しておくとしよう」

 

「ダンナの武器の場合鉛とはちげぇナニカが素材になってそうなんですが」

 

「⋯⋯言葉の綾というものだ」

 

手を銃の形にして言ってのけた赤髪の方に、白髪の方が頬を引き攣らせながら返答を絞り出す。そうなった場合敵さん方は間違いなく地獄を見るなと確信して。

 

「にしても、ダンナがどこからともなく取り出す武器とか防具⋯⋯?とか、あれホントに不思議アイテム過ぎませんかねぇ?あの肉の塊みたいなのが剣の形してるやつとか、初めて向けられたとき途轍もねぇ悪寒が背筋を這いずり回ったんスけど」

 

「何度も言うが、あれは神器なんて洒落たものじゃ断じてねぇからな。本当なら今すぐにでも手放しちまいたいよこの厄ネタの塊」

 

そう言って胸部の中心に掌を当てて、表面を軽く撫ぜた。

一瞬、心臓のものとは違う不気味な鼓動が蠢く。

自身を殻として、その内側に潜み鳴動する数多くの異常の残滓。

それらを決して、外界へと解き放ってはならない。

自分という殻が破られた時、間違いなく世界に混沌が広がり、冗談抜きで世界が終わる。

 

(俺が抑え込めればいいだけだ。少なくとも今は)

 

そのもしもがいつ訪れるのかなんて予想すらできない。

いや、本当はしたくないのかもしれない。あるいは、想像がつかないくらいか。自分が世界滅亡の引き金になり得るなんてシチュエーション、フィクションの世界の中だけで十分だ。

 

「まっ、ヤバそうになりゃあっしはいの一番にトンズラさせて貰いますわ」

 

「アーシア達を連れて、な?」

 

「おーいおいダンナァ、折角ひっさびさのカンタン外道ロールキメようとしてるとこに水差さんでくれません?」

 

「さっきまでの発言の時点でもう台無しなんだよなぁ⋯⋯」

 

この男ならきっとそうしてくれるだろうと確信しては、また手札から1枚カードを切る。何が起こったとしてもこの男、フリード・セルゼンなら彼女達を逃がしきってくれると。

 

「おーい赤白コンビー、ご飯の用意ができたっすよー!つか仕事の方はいいんすかこのニート神父」

 

「誰が赤白コンビだ!?あとアニキはニートじゃありませんー歴とした社会人ですー!つかてめぇも白だろうが駄妹が!なんなら白黒でどっちつかずとか恥ずかしくねぇの!パンダって呼んでやろうかパンダパンツのリントちゃぁん!?」

 

「あっ言ったな!言っちゃったっスねこのボンクラアニキ!妹が密かに気にしてるアイデンティティーを切り捨てるか問題を見事に謗っちゃいましたっすね!?あとなんで私のパンツの事知ってるんすか!?」

 

「時たま自分の部屋に放置しっぱなしだっつーの!部屋片付けられない系女子か!ガサツにも程あんだろーが!おいおいお兄ちゃんは急に妹の将来が心配になってきゃったよ」

 

「信じらんねぇっすこの倒錯者!ホントに同じ遺伝子から産まれた同型っすかこれが!?絶対エラー吐き出した不良品か欠陥品か何かじゃねぇんすか!?」

 

「おいそこまでだ二人とも。メシだろメシ、だったら冷める前に食べてしまうぞ」

 

「うぐっ⋯⋯遅くなったらアーシアに怒られる⋯⋯⋯後で覚えてろっすよくそアニキ」

 

礼拝堂に入ってきた少女の呼びかけに答え、二人はいそいそと食卓へと足を運んだ。作ってくれた我が家のアイドルを待たせるのはしのびないと、紅白+黒白トリオは礼拝堂をあとにする。

 

「平穏か⋯⋯やはりいいものだな」

 

「?なにか言ったっすかセフェルのアニキ」

 

「いや、なんでもないさ」

 

異常は日常に潜み、峻厳を汲み取りし白紙の書は今ある平穏を謳歌する。

胸の内に秘めるのは外来の厄災達。その一端を振るうのは、異なる位相より迷い込んだ平凡な魂。

峻厳なりし赤い霧ではなく、混沌たる調律者でもない。

神秘が残り人外が蔓延る何もかもが狂いたる世界で、足掻けるだけの強さなど持ち合わせてはいないだろう。

 

されどそこに、光の種は根付いている。

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