峻厳であれ、勇猛であれ、数多の自我の嘶きと共に   作:前虎後狼

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·········あれ?これLobotomyだよね?


第四観測 平穏 喧騒招来

沈黙で満ちた密室で、数多のペンがスラスラと紙の上を踊る。

 

書いて、書いて、消して、直して、書いて、解いて、また書いて。

 

頭の引き出しを片っ端から開け尽くして、該当する情報を精査し、用紙に空いたいくつもの空白へと相応しい言葉を当てはめていく。

 

また書いて、思案して、書き進めて、熟考して、消して、書き直す。

 

正しいのかどうかを改めて見直し、自身が生み出せる最上の結果への道筋をたてる。こんなもの、これまでに何度も繰り返してきた。

積み重ねが形となる、今の自分の集大成。

 

周りからも聞こえるカリカリとペン先が紙越しに机を叩く音。

 

皆真剣に、一層の努力を伴ってそれらへと挑んでいる。

 

皆がライバルであり、戦友であり、苦楽を共にする仲間。

目指すものは同じ。立ちはだかるそれらへ今持てる全ての力を出し切る。

 

刻一刻と迫る時間を頭の片隅に留めて、最後の追い打ちにかかる。

 

そして、時は来た。

 

「はーいそこまでー!答案回収すんぞー、後ろから前に順番に重ねて持ってこーい!」

 

さあ、審判(さいてん)の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はすぎて、脱力しきった空気の教室。

クラスメイト達の口から次々と空気を吐き出す音が聞こえる。

それは安堵から来るものか、はたまた自信の無さの表れか、若しくは諦めかりの悟りか。ため息の意味も多種多様に聞こえてくる。

 

「頭にミニが付くとはいえ、やっぱりテストは緊張するな」

 

訪れた安息の時間を噛み締めるように、赤髪の男は呟いた。

 

唐突に行われた今の自分を試す時間、即ち抜き打ちミニテスト。

これまでの研鑽が無為となっていないかを確かめつつ、自身の足りない箇所を再認識する儀を彼らは乗り越えた。

人はそれをたかがミニテストだと宣うだろうが、然れどその確かめこそが重要なのだ。

これをどう認識するかでこれからの自身がどう変われるのか、それを見定める場であると少なくともこの男は思っている。

 

先のテスト用紙の問題を写した紙を片手に、再びそれを行おうとする男に呆れつつも同調するように、高校生にあるまじきプロポーションを持った隣の赤髪の少女は問いを返した。

 

「セフェルは心配性すぎるのよ。否定はしないけれど、こういうのはどっしりと構えているくらいが丁度いいわ」

 

「そうかもしれんが、俺はこれが性に合っているんだ。今更変えられんし、ある程度は緊張の糸を張っていた方が油断もしないだろう」

 

「そうね。度が過ぎて他の問題を見直す時間が無くなって結局空回りしちゃったら、意味が無くなっちゃうだろうけど」

 

「むぐ、痛いところを······!」

 

してやったりと笑みを浮かべる少女と悔しそうに唸る男。

髪の色といい距離感といいまるで本物の兄弟のように思える二人だが、実際に血縁関係はない。きっと本人達も絶対に無いと断言するだろう。

 

「あらあら、今日もお二人は仲がよろしいですのね」

 

そんな二人に声を掛ける、赤髪の少女に負けぬ発育豊かな黒髪の少女。

微笑ましいものを見たように暖かな眼差しを二人へと向けている。

 

「あら、そうかしら?」

 

「至って普通だと思うのだが」

 

「ええ、それはもう妬けてしまうくらいに」

 

そんなものかと首を傾げる男、セフェル=T=アドムオウルと満更でもなさそうな赤髪の少女、リアス・グレモリー。そして二人にとっての大切な友、姫島朱乃。

暖かでささやかな幸せを、少年少女が織り成す日常の一幕。

 

「楽しそうだなお前達は」

 

「あら、セフェルは楽しくないの?」

 

「私達と一緒に過ごすのはお嫌いですの?」

 

悪戯っぽく笑う二人。

わざと困らせようとしているなとセフェルは思うが、わざわざ指摘する事でもなし。ならば敢えて乗ってやろうと二人へ自分の言葉を送る。

 

「まったく······そんなわけが無いだろう。俺だって楽しいさ。公私の分別をつけつつ友人と他愛ないことで笑い合える日常が、楽しくないわけがないさ」

 

それはセフェルの嘘偽りない本音だ。

この駒王学園の門を潜ってからというもの、これまで苦楽を共に分かちあった友人達。その中でも特に付き合いの長いリアスと朱乃は、セフェルにとって何にも変え難い存在だ。

二人が困っているのならば迷うこと無く手を貸すし、辛い事があったのならそれを共に背負いたい。

そう思える程に二人はセフェルにとって大切なのだ。

 

「友人、ですか······」

 

「······これは先が長そうね」

 

「ええ、本当に······」

 

「······?なんだ?何かあったのか?」

 

その大切さが、二人の望むものであるかどうかは別として。

二人の乙女はこの堅物を陥落させるのは容易ではないと改めて認識し、小さなため息を零した。

そしてますます首を傾げるセフェルを見て、いつの間にか三人のやり取りへと目を向けていたクラスメイト達が一斉にため息を吐いた。

 

それと同時刻。プリントを教室へと運んでいる最中の生徒会長も何故かため息を吐いたのだった。

 

「なんなんだ本当に············ん?」

 

クラス中の呆れられた視線に居心地を悪くしたセフェルはそろそろ元の作業に戻ろうとして、視線を窓の外で止めた。

 

「?セフェル?いったいどうした───あ」

 

「せ、セフェルくん?一旦落ち着きましょう?」

 

窓の方へ首を向けたセフェルの顔が、能面のような無表情で固定される。

冷やかな目とピクピクとヒクついた顳顬(こめかみ)が、この堅物の静かな怒りを表している。

 

窓越しに映るのはうっすらとした能面のような自分の顔。

 

 

そして、大勢の女子に追われている男三人の走る姿。

 

それが人気のある人物で、女子達にキャーキャー言われながら鬼ごっこを繰り返しているのなら、彼はきっと穏やかな笑顔で見守っていただろう。

 

しかし現実は、その真逆。

本来ならばもっと穏やかに青春を謳歌するはずの女子達の顔には憤怒が浮かんでいて、可憐な乙女達を恐ろしい鬼へと変えてしまっている。

それを引き起こしたであろう下手人、現在逃走中の三名は必死の形相で校区内を駆け回っている。

 

その光景は、セフェルの脳内でパターン化されたいくつもの事の顛末の中から、容易にその答えを導き出した。

 

「······すまん、誰かドアを開けてくれないか」

 

「お、おう。気を付けてな······」

 

豹変したセフェルの怒気にあてられて、教室のドアに一番近かった男子生徒がビクビクしながらドアを開け放つ。

 

「───on your mark(位置について)

 

前屈みになり片手を地につけて、どこからどう見ても突撃体制な状態に移行するセフェル。

処刑開始まで、秒読み三秒前。

 

Get set(よーい)──go (ドン)!!!!(!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、ある程度の自由が売りの校風とはいえ、最近は目に余る行いが多いですね······彼等に触発されてしまっているのでしょうか。このままじゃダメ、うん。セフェル君に任せっきりな訳にも行かないし、もう一度教育指導の先生達に頑張ってもらうよう進言しなければ·········!

それはそれとして、セフェル君を風紀委員として所属させた方がいいのかしら。その方がセフェル君も気兼ねなく動けるし、みんなも気を引き締めるはず。それに、一緒に仕事をしたりとか············ま、まあそれはそれとして!その方が彼も動きやすくなるはず。後でそれとなく聞いてみようかしら·········ん?あれ、まさかセフェル君?いったいどうしうきゃあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待てこのエロ猿共!』

 

「やべえっ!?村山達今日はマジでご立腹だ!」

 

「急げ野郎共!もうすぐそこまで地獄が迫ってきてるぞ!でも走る度に揺れるおっぱいが······くそう!視覚的には天国だが追いつかれれば地獄とは、なんと残酷な光景だ!!」

 

「落ち着け元浜!ここは落ち着くために数を数えるんだ!おっぱいが一つ、おっぱいが二つ······」

 

学園中に広がる喧騒の中心。そこには嫌なことに日常化して欲しくはなかった光景が繰り広げられていた。

しでかした馬鹿三人と竹刀を掲げてそれ等を追いかける道着姿の麗しき少女達。

何故こんな事になっているか?それは単純だ。

 

彼等は覗いたのだ。彼女達が着替えているその瞬間、あられもない姿を。その素肌を。

そんな許されざる行いを経て、夢見る馬鹿な男達は逃走を試みている。

当然女子達は逃すつもりもないし許すつもりもない。

今ここで相応しき制裁を与えるべく、少女達は一時の間修羅となる。

 

下手人である三人──兵藤、松田、元浜は懲りずにそんな行いをまたもや実行した。

 

そんなこんなで始まった追走劇だが、それも直ぐに幕を閉じる。

 

「校内に逃げ込むぞぉぉ!!」

 

突破口を開こうと校舎への入り口へ突っ走る色情魔達。

その逃げ切るための進路変更が、結局決まっている結果への到達を早めてしまった。

 

「──────!!」

 

ズザザザと何かが横から飛びだし急ブレーキを掛けて、入口の前で何かが止まった。

前傾姿勢をとる引き締まった肉体、背を流れる燃えるような赤の髪。

 

特徴的すぎる情報が弾き出したのは、一人の男。

 

「ミィィィツゥゥゥケェェェタァァァァァ······!!」

 

幾度となく立ちはだかる、峻厳な処刑人。

 

「「「で、出たァァァァァァァァ!!!!」」」

 

三馬鹿の悲鳴なぞどうでもいいかのように、標的を補足した瞬間にセフェルはターゲット目掛けて駆け出した。

 

「くそ、散開──」

 

「ニ ガ ス カ」

 

三方へ散らばろうとした瞬間、先ず最も遠くの方向へと逃げようとした元浜の方へと先回りし。

 

「げべっ!?」

 

普通に足払いをかける。

バランスを崩して背中から倒れた元浜の手足を予め用意しておいたマジックテープ式の捕縛アイテムで拘束する。

 

続いて、校舎方向へ逃げようとした松田の足下目掛けて、セフェルは何かを投擲──!!

 

「ぬがっ!?」

 

投擲されたそれは松田の足に絡み付き、あっという間に拘束してしまった。

その正体は、太さも長さもそこそこの糸の両端に重しをくっつけた、極めて原始的な投擲武器のようななにかだった。

それを横に回転させるように投げ放ち、重しが引っかかった事で遠心力が作用するまま足へと巻きついた。

 

「ヒョウドォォォォォ······!」

 

残るは一人。

 

「松田、元浜······!お前達の事は一生忘れねぇよ!」

 

「おい待てイッセー!俺達は一蓮托生だろうが!!兄弟の誓いは何処に行った!?」

 

そんなことも気にせず逃げるんだよォォォ!と走り去るイッセー。

 

「アンシンシロ、ゼンインイッショ二シバキマワス」

 

極低音声で不穏な言葉を囁いて、セフェルは再び突貫。

 

そして。

 

「ゲッ!?」

 

「ヒョウドウクーン、アーソビマショー」

 

あっという間に追い抜かれ、振り向いたセフェルは右手を開いて──

 

「べむぅ!?」

 

間抜け面を晒した顔面へアイアンクローを盛大にかました。

 

「イダダダダダ!?出る!中身が出ちゃう!!」

 

「イッソノコトノウミソゼンブトリカエタホウガハヤインジャナイカナ?」

 

「マジすんませんした!!!だからその片言とアイアンクローはやめでイダダダダ!!?」

 

ミシリギチリと頭蓋が軋み、セフェルの握力が唸りをあげる。

その怒りようは最早八つ当たりに近かったが、これまでの事からそれは仕方ないように思える。

 

セフェルが兵藤の顔面掴み取りに勤しんでいると、さっきまで追いかけていた側の女子達が残りの2人を引き摺ってくる。

 

「セフェル先輩。本当に、いつもご迷惑をおかけしてすみません······!」

 

「気にするな。慣れたくはなかったがいつもの事だ。それよりもお前達は大丈夫なのか?その様子だとこいつらに」

 

「あっはい、取り敢えず一人一回ぶっ叩いておきましたから」

 

「そうか······良し、後はこっちに任せろ。たっぷりとお灸を据えてくる」

 

アイアンクローを解除し、兵藤の首根っこへとアンカーポイントを変えてそのまま引き回しの刑に処すが如く力任せに引っ張り始める。

拘束された元浜を左肩に担ぎ、残る松田も空いた片方の腕で制服の襟を掴んでセフェルは場所を移す。

 

「すいまっせぇぇん!!マジですいませんセフェル先輩!!だからどうか命ばかりは!」

 

「説教タイムの······始まりだ」

 

地獄(説教部屋)への線路を進み出したセフェルとドナドナされていく三馬鹿。

 

結局いつも通りの結果に落ち着き、校内へ消えていった三馬鹿に少年少女らは黙祷を捧げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




·















「赤き龍は未だ目覚めず、幽玄の中を揺蕩うか」

晴れやかな蒼穹の下、僅かに雲の影が覆いしビルの一角で、風を受けて黒衣がたなびく。

漆黒の衣装、奇妙な仮面、濡羽のような外套。
闇そのものと形容できる人型のそれは、街中にある学園を見下ろしている

「まあ、お前が目覚めても、若しくは永遠の虚構の中で惰眠を貪り続けようと、大筋に大した影響はない。おまえの代わりになる赤、歯車は既にあるのだからな」

ここで本来の主軸が目覚めることかまなくても、代わりとなる存在はある。
そも、この世界では赤き龍が覚醒する発端となる事象が絶対に起こりえない。
だから、その者は赤き龍とならずに人の子のままの生を歩める。

「このままでも問題なく進むだろうさ。この酷く滑稽で醜い、三流作家が描いた舞台は」

滞り無く進むかもしれない。

「だが、それだと私がつまらん」

その可能性を、黒衣の者は切り捨てた。

自身の喜悦のために、平穏の未来を淘汰した。

「そうだな······良し。薮をつついて龍を起こそうか」



「もしも間に合わなければ、その時は一つの(可能性)が潰えて消えるだけだ」





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