「ロストロギア強奪事件――?」
「そうなんよ。ここ最近、各次元世界で多発してる事件なんやけど」
開口一番、現実逃避したくなるほど積み上げられた書類に目を通しながら、女性――八神はやてはそう口を突いた。一人言ではない、彼女の正面に立つ十年来の親友――高町なのはとフェイト・T・ハラオウンに向かって。
局員であるなら、彼女らの名前を知らぬ者はいない。プレシア・テスタロッサ事件、或いはジュエルシード事件と呼ばれている事件を皮切りに、数々の難事件を解決に導いた功労者であり、現在はミッドチルダで新設された機動六課の中核を担っている。
――ロストロギア強奪事件
その話を聞き、僅かになのはとフェイトの表情が曇った。
ロストロギアとは一言で表すなら、危険性である。偶然から生まれてしまった異形なる存在。モノによっては次元世界を破壊する力を持っており、その力を利用する者は後を絶たない。それを未然に防ぐのが機動六課の役目であり、彼女らの仕事でもある。
「――この三ヶ月だけで強奪されたロストロギアは13。襲撃された小隊・中隊は20を越えとる。被害人数は軽く三桁を越え、中々バカにならない数になってきてるんよ」
「それで、犯人の目星はついてるの?」
なのはが問うと、書類に目を通していたはやての表情が曇る。
「今のところはまだ何も……詳細な人数は解らないけど、犯人は常に二人組で行動しとるらしいんよ」
話を聞き、なのはとフェイトの二人の表情が明らかに険しくなった。
「――実力は『S』はあると思った方がええな。場所によっては数分で壊滅した部隊もあるそうやし……もしかしたら、それ以上の可能性もある」
はやては何でもなく言うが、実際はとんでもない事である。そこらの魔導師なら聞いただけで戦う気が削がれるだろう。と言うのも、管理局でもSランクの者はいるが、その数は総員の5%に満たない。それだけ、希少な存在なのだ。
「13個ものロストロギアを横取りされとる。これ以上はびた一文譲れへん……と言うのが本局の考えなんやろう。この事件のせいで、他の部署は大忙しや。猫の手も借りたいって事なんやろね、この機動六課にも本局から出動要請が届いとるしな」
地上本部の上層部――というか、最高責任者のレジアス・ゲイズ中将は本局嫌いで有名だ。
そんな人が、海との連携などよく了承したなと――そんな事を考えながら、フェイトは直ぐに思い直す。
ミッドチルダは以前から闇取引や、非合法な裏ルートが問題視されてきた。そういう意味では強奪犯が現れる可能性はあるし、そちら側の解決も企んでいるのかもしれない。
「――そこでや、これから忙しくなりそうやから新隊員の異動手続きを済ませたんよ」
「新隊員って――新しい子来るの?どんな子?」
キラキラと目を輝かせ、身を乗り出すなのは。それはまるで、親から新しい玩具を買ってもらえる子供のようだ。
そんな彼女を見て、フェイトとはやては顔を見合わせ苦笑した。
「一人目はタツヒ・クルーガー一等空佐。魔導師ランクはAAA+。二人目はルドルフ・ヴェルゼルフ二等空佐。魔導師ランクはS-。――二人共、歳は16で入局3年目や」
「ティアナと同期か〜」
「それで、その二人はいつから配属されるの?」
はやてから顔写真入りの書類を受け取り、フェイトが尋ねた。その隣では、なのはが書類を交互に見比べている。
「異動の手続きは済んでるから、明日はこっちに来るはずや」
「明日か……どんな子か楽しみだな〜」
「なのは楽しみにするのはいいけど、あまりイジメないでね?」
「鬼教官って呼ばれても、私ら責任持てへんよ」
「う〜っ、そこら辺は手加減して――って、そもそもイジメてない、よ?」
表情をコロコロ変えるなのはを見て、フェイトとはやての二人は笑みを浮かべた。
『ホンマに楽しみなんやね』とこれから悲劇に襲われる事になるであろう二人に、密かに同情したのははやてだけの秘密だ。