私立グリモワール魔法学園〜狩人は夜明けを求めて〜   作:リューラ

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文字数多くて書き上げるのにえらい時間かかりました。
ガンダムナラティブ観てきました。初っぱなから主人公機がし○せいしながらヒロインに近づきダイシュキホールド含めて全部避けられたりしてましたが色々考えさせられるいい作品でした。


鐘の音は遠く

クリスマス

パーティーやデート、誰もが浮かれている最中風紀委員長である水無月 風子は違反者がいないか巡回を行っていた。そんなところに1人の女生徒が近づいてくる。

黒い髪をポニーテールにまとめあげ見るものを圧倒する女性の象徴を携えた少女は他の生徒たちと違い特別な白い制服で身をまとっており。それはつまり生徒会長か副会長であることを示していた。彼女…水瀬 薫子は風子へと近づくと先日起きた魔物の事故について詳細を知っているか尋ねてくる。

 

「…あー、知ってますよ。数日前にトラックが襲われた奴でしょ? 」

 

「ええ、そうです。そして魔物の移動経路を追跡すると… 」

 

水瀬から送られてくるデータを見る。魔物の目標は…

 

「この学園が標的だったと。まあ、そーでしょーね。

どっちかって言うとあのれんちゅーの【通り道】にトラックが入り込んだ…

そのほーが正しいでしょーね。念のため第1報のときから準備してました。 」

 

そしてそんなことはすでにわかりきっている。対策はすでに行っている。

 

「それは僥倖です。クリスマスパーティの最中に申し訳ありませんが。 」

 

「心にも思ってないこと言わなくていーので。こっちも仕事です。 」

 

見え透いた謝罪は流し早く詳細を話せと目配せする。

 

「まあ、よいでしょう。魔物は散開した国軍を【無視】して進攻中です。

戦うにあたっては、1度彼らの足を止めなければ、素通りするでしょう。 」

 

「風紀委員が出るのはそのためですか。 」

 

軍を無視して学校に侵攻をかける、か。

 

「生徒会は年末の調査に向けて手続きが忙しく、手を貸せませんが…

精鋭部隊がバックアップにつきます。うまく使ってください。

それでも足りない場合は、パーティ中でも構いません。一般生徒に出動を。 」

 

年末の調査、風子も耳にはしている。闘技場の地下を調べにいくらしいが詳細はまだ掴んでいない。

そちらはまた後で調べるが生徒会が風紀委員に精鋭部隊だけでなく一般生徒の出動まで許可するとは…。

 

「ウチの判断でいーんです? 」

 

「もちろん。今回の作戦はあなたに一任します。信頼してますよ。 」

 

「アンタさんに信頼されても嬉しくねーですが、いーでしょ。やりましょ。

元から断るつもりはありませんでしたがね…で、渡さんを呼んだのは虎の情けでしょーかね?」

 

「どちらでもよいこと。さあ、渡さん。お楽しみの所申し訳ありませんが…

風紀委員の【面倒見】をお願いしますね。」

 

「どもども。一緒にクエストに出るのは初めてですね。

なに、心配ありゃしません。どーんと構えててくだせー。ヨロシク。 」

 

「へいへい。独り身とはいえせっかくのクリスマスなのに…ま、仕方ないのでお呼びしてないクソサンタは全部狩らしてもらいますよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「会長、風紀委員でよろしいのですか? 」

 

生徒会室へと戻った薫子は先程までのことを虎千代へと報告する。そして自分の感じた疑問を虎千代へと投げ掛ける。

 

「よろしいってなんだ? 強さに不安はないだろ?」

 

「しかし水無月風子は、これまで入学時にクエストに1度出たきりで…

風紀委員長になってからは1度も出ていません。 」

 

生徒会として薫子は生徒のクエスト数をおおよそには把握している。その中でも水無月風子は異常な存在と言える。

 

「この前、旧科研に行ってたじゃないか。 」

 

しかし虎千代といえばなにも問題はないという信頼があるようだ。仲の悪い生徒会と風紀委員会だが虎千代個人としては水無月風子は信頼を寄せるに足る人物なのだろう。実際虎千代が卒業した場合の生徒会長の後見の候補には風子の名もある。

しかし引けないとばかりに薫子は食いつく。

 

「あれは科研からの圧力で正式なクエスト発注はされていませんでした。 」

 

「それって屁理屈って言わないか? 」

 

「例え過去1回が2回だったとしても、実戦経験のなさが目に付きます。

リーダーは神凪怜にすべきだったかと。 」

 

「風紀委員なんだから、委員長がリーダーを務めるべきだろ。

それだけじゃない。クエストに出てなくても、アイツの強さはわかる。

特に今回のように、走り続ける魔物への足止め魔法が得意だしな。

ダテに5年も取締りをやってないさ。任せておこう。 」

 

虎千代がここまで言い切るのだ。大丈夫だという確信があるのだろう。だからこそ薫子は折れたように返事を返す。

 

「……はぁ……かしこまりました。 」

 

「じゃあアタシ達は執行部だ。【あの下】に入る許可を取り付けないとな。 」

 

それに自分達にはやらなければならないことが多すぎる。気を引き締め自らのやることをやるべく動きだす。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

魔物の通るルートへの配備も終わり辺りが静寂で包まれる、かと思ったがそうでもないらしい。

 

「…微かに鐘の音が聞こえますね。街の方でしょうか。 」

 

そう呟く氷川紗妃は実際街のある方へと顔を向けている。

 

「たぶんそうだろう…風飛の街がルートに入ってなくてよかった。 」

 

「【ここ】もいちおー風飛市ですよ。神凪。ほんの端っこですけどね。

市民避難終わり。イルミネーションだけ残ってるのが不気味ですねー。 」

 

氷川にそう返す神凪に対して一応のツッコミをいれておく。風紀委員の周りにはきらびやかに飾られた建物、演出の凝った風水、目立つところに飾られたクリスマスツリーなど本来ならば人が多く混みあっているいるはずの場所だが魔物の侵攻のために人々は避難を余儀なくされ無人となった街は不気味さだけが残る。

 

「委員長…風紀委員の仕事は学園の風紀を維持することです。

やりたくない、というわけではありませんが、外部の魔物と戦うより… 」

 

「はっちゃけるかも知れない生徒の監視のほうがいいと? 」

 

「ええ…単刀直入に言えば。 」

 

氷川が自分に意見を申告してくる。確かに風紀委員の仕事の主たるは学園内の自治だ。違反者を取り締まるのは大切だろう。しかしそれだけが風紀委員の本質というわけではない。それに確かに風紀委員総出で来たがなにもそちらが出来ないわけではない。

 

「だいじょーぶですよ。それは服部にやってもらいますから。 」

 

「え? 自分、ここにいるッスよ? 」

 

不思議そうな声音で言ってくるが構わず告げる。

 

「たまに学園まで様子を見に行ってくだせー。ま、事態が事態なんで。

過度な取締りは不要です。 」

 

「え、ええー…ここまで30分くらいかかったッスけど… 」

 

「アンタさんの足なら10分でしょ。おねげーしますよ。 」

 

普通の生徒ならばそうだろう。しかし、服部梓という少女は普通ではなく忍者だ。もちろんこの中で一番の機動力を誇るのは言うまでもない。

 

「あふぅ…ラ、ラジャッス… 」

 

服部を社畜にしたところで先ほどの氷川の意見に対して答えてやる。

 

「さて、氷川。風紀委員の仕事は学園の風紀を維持する。せーかいです。

つまり、学園生だけじゃなく不審者や反魔法使い勢力、それに…

魔物が来たらお引き取り願う。第7次侵攻で1番軽傷だったのがウチらです。

こーゆーときくらい、目立ちましょ。 」

 

それだけいいとある少女の元へと足を運ぶ。

 

「いや、すいませんね。頼っちゃって。 」

 

少女…冬樹イヴは特に反応もなく魔物が来る方向を見ている。

 

「成績でアンタさんを釣ったのは謝ります。パーティ行けず残念ですね。 」

 

「興味ないので。 」

 

冬樹はぶっきらぼうにそう答える。妹の誕生日でもこれだ。本当に彼女たちの問題は複雑で面倒のようだ。

 

「さいですか。ま、早く片付けたら残り物でも食べられるかもしれません。

風紀委員、総勢15名。行きましょ。 」

 

「私は1人で。では。 」

 

「…………せっかくキメたのに。 で?いつまでそこで見てるんですか?渡さん」

 

独りごちりながらこちらを窺っていた少年へと声をかける。

 

「別に見てた訳じゃ…」

 

「妹さんに色々と頼まれてるんでしょ?知ってますよ。」

 

こちらの情報網を甘く見がちな少年にそう告げると渋々といった感じで話し出す。

 

「ぶっちゃけると想定よりも面倒そうな関係なんですよあいつら。頼まれた以上はどうにかしなきゃ…とは思ってるんですがね。」

 

「ま、せーぜーがんばってくだせー。さ、私語は終わりです。そろそろ魔物の到着予定時刻です。期待してますよ?」

 

「期待されても魔力以外出ませんよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、おでましですか。

 

魔物の群れ。大規模侵攻とは比べるまでもない程度だがそれでもクエストとは比べるまでもないくらい多数の魔物。しかしその大多数は魔力譲渡を受けた各風紀委員の遠距離魔法で近づくよりも前に倒せた。近づいた魔物も神凪のような近距離戦が得意な者たちによって即座に討伐される。

 

しかし、こいつらはいうなれば斥候だ。本命が来るのはまだ先だろう。

明斗に再び魔力譲渡をしてもらいつつ次の戦闘に備える。

 

「ふぅ。まだ雑魚のようだ。本命は到着していないか。 」

 

神凪が息を整えながら状況を分析している。どうやらあちらも同じ意見のようだ。

 

「ええ…まだしばらくは楽でしょう。 」

 

「では今のうちに…いや、詮索などするものではないか。 」

 

神凪が氷川に何か問おうとする。しかし本人は多少の躊躇いがあるようだ。

 

「なんのことです? あなたにしては珍しく歯切れが悪いですね。 」

 

「少し気になったんだ。委員長は5年前に風紀委員長になったんだろ?

まだ10だか11だかでなれた実力も凄いが、なぜなろうとしたのか。 」

 

「ああ、幼い子供のときに風紀委員長を目指した理由ですか。

いえ、私はまだ3年目ですから…転校してきた時はすでに…

あなたのほうが詳しいのでは? 」

 

「私は、風紀委員になった時期がお前と同じくらいなんだ。

仲のいいお前なら聞いているかもしれないと思っただけでな。 」

 

神凪たちは聞こえてないと思っているのだろう。確かに今も索敵を続けつつ委員たちに指示を飛ばしている自分だが合間で聞き耳を立てるくらいは朝飯前である。

 

「2人とも、ウチの前で内緒話ができると思わねーことです。 」

 

「あ…委員長。すみません、警備に戻ります。 」

 

そそくさと戻ろうとする神凪に何の気なしに喋りかける。

 

「別に風紀委員長を目指したのに特別な理由はねーですよ。 」

 

「そ、そうなのですか? 」

 

キョトンとしたように返す神凪にさらに言葉を続ける。

 

「えーまー。たぶん、アンタさんがたと同じですよ。

学園に転校してきた生徒は、あるいは覚醒後に友人も恋人も無くしたかも…

あるいは己の力を過信し、うぬぼれているかもしれない。

そんな人はね、ほっといたら社会に出ることは困難です。

魔法が使える、体が強化されるという肉体的な変化に加え…

魔物と戦うことで一般人とは常識が変わってくるわけですから。

誰かが正してやらねーといけねーでしょ。ウチが言ってるのはそれですよ。

体も社会的地位も人間扱いされねーんで、せめて心だけはね。

ま、なにがどうしてといえば、あるときふと目覚めた、くらいですかね。 」

 

【魔法使い】に覚醒すれば強制的に魔法学園に入り、やがて軍に入り魔物と戦う。

覚醒した時点で【普通】であることなど不可能なのだ。身体は並の軍人を凌駕する。強すぎる力は【普通】の人々から妬みや恨み、畏れを買う。故に【魔法使い】は魔物との戦いの尖兵とならざるを得ない。

他人と違うからこそ【自分は特別】だと思う気持ちに支配される。そう思わないと平常を保てなくなる人もいる。

故にこそ【普通】の象徴である風紀を守らせ、社会的な解離を防がなければならない。それこそが自分達の存在理由だと風子は言う。

 

「委員長… 」

 

「さ、みなさんが清く正しく過ごせるよーに、魔物を追い払っちまいましょう。 」

 

そして今私たちがやらねばならないのは魔物退治だ。

 

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風子の話を遠くで聞いていた冬樹イヴ。

 

「…体も社会的地位も人間じゃない…

…そんなことは認めない…! 」

 

風子の言う【魔法使い】…その扱いを彼女は受け入れられなかった。受け入れたくない、というべきか。否、彼女自身はその扱いでも構わない、というだろう。誰よりもエリートを…【普通】であることを捨てようとしている彼女がその扱いに耐えられないはずもない。ならば何故だろう、と明斗は考える。しかし判断材料がなさすぎる。ノエルの頼みを受けておいてなんという体たらくか…

 

「あ、冬樹先輩ー。 」

 

「っ!? 」

 

考え事に集中しすぎたか梓の接近に気づかなかった。

 

「…あ、すいません。集中の邪魔しちゃいました? 」

 

「いえ…なにか用? 」

 

平静を装い用件を促すと梓は口早く告げる。

 

「自分、今から学園に行ってくるんで、30分ほど前線をお願いします。 」

 

「30分? 」

 

「…ここに来るだけで30分かかってるのに、巡回も入れて30分というの? 」

 

「あ、あーっ。そっちッスか。いやまぁ、巡回っていっても本気で取り締まりは… 」

 

「…いえ、いいわ。時間が惜しいから早くいって。」

 

説明を受けたところで時間の無駄だ。早く向かうように促す。

 

「 そッスか? しからば、ちょいとだけ失礼するッス。 」

 

梓も即座に踵を返すと学園の方へと走り出す。

 

「そう、往復と巡回で30分は…なんでもないことなのね…

…才能なのかしら…努力なのかしら…いいえ、どちらでもいいわ。

足の速さよりも、魔物を倒す方が重要だもの…! 」

 

魔物その第二波がやってくる。先ほどの雑魚とは違う。しかし、この程度の魔物が何体来ようとも遅れを取るほどイヴは弱くない。

今回の魔物…溶けかけの雪だるまのような姿をした魔物は枝のような手をこちらに向ける。そこから氷の塊を弾丸のように飛ばしてくる。

 

魔法を発動する。イヴの周りにはつららが展開され滞空する。

 

「いきなさい」

 

イヴの号令と共にこちらに向かってきた魔物の飛ばしてきた氷の塊を空中で撃ち抜き、その勢いのまま魔物へと襲いかかり難なくその身を貫く。

魔法で生み出したつららを次々と魔物へと飛ばしていく。回避しようとする個体もいたが…

 

「……無駄よ」

 

地面ごと魔物の足を凍らせる。抵抗するように魔物は足掻くがその程度でどうにか出来るものではない。

 

そして蹂躙が始まった。

 

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流石は風紀委員でも最強格なだけはあるな。冬樹の方は問題なしか。

…今日魔力譲渡以外で戦闘参加してないな。

 

見回りに行っていた梓も帰って来たみたいだな。

 

「おつかれ。なんかいるか?」

 

「ひーっ、ひーっ。に、にんにんッス先輩。なにか…飲み物を…」

 

「ほいほい。ほらよ」

 

「ありがとございます…ゴクゴク…うーっ。ただでさえ魔物と戦って疲れるのに…

いいんちょも人使い荒すぎッス…えーと…うしっ。往復と警備で25分!」

 

「大変そうだな」

 

「あ、いえ取締りって言っても本格的にやるわけじゃなくてですね。

こう、自分がツインテにして影をいいんちょそっくりにして…

声マネしながら人が少ない校舎を歩けば、みんな自重してくれるって寸法で…

相手は見つかりたくないですから、本格的な変装もいらないですし。

やること自体は単純なんで、体力ッスね後は…

あ、ちびっとだけ魔力いただいていーですか?

魔力が多いと体力の回復も速いですから。あんまこっちに参加できてませんし。 」

 

話ながら手早く水分補給と魔力譲渡を済ませる。

 

「いやーすんませんね。このお礼はいつか体で…」

 

下らないことを言っているが後ろの風紀委員長殿の怒気に当てられ言葉も途中で切れる。

 

「な、なんでもパシってくださいね! エロくない範囲で! 」

 

「お疲れ様です。 」

 

口を開いた風子はいまだに梓をジト目で見ている。

 

「あ、あれーっ! いいんちょ、こんなところにいたんですね!

ちょーど報告しよーと思ってたところです! よかったよかった! 」

 

うわー、相当棒読みだよ。

 

「どーぞ。お聞きしますよ。 」

 

「あ、はい…いや別にどーということはなかったんですが…

運営委員がいい子ばっかッスから、みんなそれに引きずられてるッスね。

アルコールもケンカも特になし。逢引きはまぁ、散らしましたけど… 」

 

逢い引き散らしはザマーみろと言ってやりたいな。こちとら独り身の上にこんなときまで仕事だよ畜生が!

 

「けっこー。で、もーひとつの方は? 」

 

行って帰って30分未満にどんだけ仕事させてたんだ委員長…

 

「あ…え、えーとその… 」

 

梓はこちらをチラチラと見ている。部外者に聞かせても大丈夫なのかと窺っているようだ。

 

「転校生さんなら気にしなくていーです。 」

 

対する委員長の判決は俺に聞かれても問題ないというものだ。

 

「は、はぁ。んじゃま…遊佐先輩も特に怪しい動きはないッスね。

どこか盗撮してましたけど、自分らじゃなさそうでした。

生徒会は執行部のとこでしたね。 」

 

最近ずっと忙しそうだもんな生徒会。ただ忙しいのは引き継ぎ関連だけでもないみたいだな。

 

「けっこーです。遊佐鳴子も生徒会も、地下に目がいってるよーですね。

ウチらが出て行った後にあやしー動きがないか…それがわかればいーです。

服部。もう学園には戻んなくていーんで、魔物討伐に参加してくだせー。 」

 

「ウス、改めてお願いします。じゃあ冬樹先輩に合流するッス。」

 

「そろそろ第3波が来ます。強いのも来るころなんでみんなでいきましょ。

油断してたら、取り逃しちまいますよ。 」

 

それにしても魔法が使えるならともかく今回の相手は俺と相性が悪い。

夏海と一緒に行ったクエストで戦った(?)スライムもそうだが今回の雪だるまのなりそこないもただ斬るだけではすぐに腕などがくっついてしまうため落葉での攻撃は効果的ではない。パイルハンマーの変形後の最大出力ならば高い衝撃力でもろとも吹き飛ばせるのだろうが狙ってやるにはリスクが高すぎる。故に俺が今回の魔物と戦う場合の最大の攻撃は素手で殴るに他ならないというのが現状だ。

まぁ魔法使えるやつらはそんなのお構いなしに吹き飛ばせるので彼らに魔力を与えて戦ってもらうのが一番なのはいつも通りだろう。魔物に一番効くのは魔法という原則は変わらない。

 

「これで…あと何体? 」

 

冬樹も息が上がってきたようだがまだ近くに委員長もいる。魔力の補充は大丈夫だろう。

 

「半分くれーです。まだまだ油断は禁物。 」

 

「油断など…そんな余裕はありません。 」

 

戦闘しながら会話してる時点でそれなりに余裕があるということを自覚してほしい。俺なんぞ物理で殴るを地でやっているのだ。喋る余裕すらない。普通に武器で殺せるなら多少は余裕が出るのだが…

 

「妹さんにケガさせるわけにはいきませんものね?」

 

「…あの子は関係ありません。成績に加点されるからです。 」

 

委員長いきなり爆弾投げ込むか…。急激に温度が下がったのではないかと錯覚するくらい…いや、冬樹の周囲で魔法による氷が浮かんでいることから実際に温度が下がってるのだろう。

 

「ふーん。つまんねーですね。 」

 

「あなたを楽しませるために生きているわけではありませんから。 」

 

「ま、いーでしょ。アンタさんの成績がよくなることは…

妹さんを守ることにつながりますもんね? 」

 

「…行きます。 」

 

反論する気も失せたのだろう。冬樹はそれだけ告げると新手の魔物に単身向かっていく。

 

「あっ…いじめすぎましたかね。しかしね、冬樹イヴ。

ケンカしてるわけでもないのに双子が話さないってのは悲しいじゃねーですか。」

 

そんな冬樹の背中を見ながら風子は呟く。

 

「転校生さん。アンタさん、1度氷川と神凪のグループに行ってくだせー。

氷川に魔力を吸わせて、中規模魔法で一掃して…

全員で戻ってくるよーに。宍戸結希から連絡がありました。

次の波が最後です…おーきいですよ。 」

 

「了解です。」

 

すぐに切り替えたのだろう。俺に向かって指示を出し自らも戦場に戻る。

 

「俺もやることやりますか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お待たせ。魔力譲渡の時間だぞ。氷川は魔法撃ったあともう一回な」

 

「すまない。助かる」

 

「ありがとうございます」

 

神凪と氷川のグループに合流して魔力を補充させる。氷川は中規模魔法を放つのでそのあとにさらに魔力を補充させておく。

移動しながら戦闘で疲れている風紀委員に魔力を渡し回復させていく。

 

「渡君。後ろ!」

 

「大丈夫」

 

魔力渡そうとしたら後ろから魔物が来ていたみたいだ。とりあえず氷弾を作り出す前に落葉で腕を斬り中断させる。効果が薄いといっても一時的に腕がなくなるのだから氷弾もまた消滅する。落葉を手放すとそのまま雪と水が混じったような身体の腕の部分を絡めとり地面に頭から叩きつける。まだ抵抗しようと腕を伸ばそうとするが左足で踏みつけ動かなくし胴体部を右足で踏み抜く。腰にマウントしていたパイルハンマーを右腕につけ変形させると叩きつける要領で打ち抜き消滅させる。

警告をくれた風紀委員の子がドン引いてるが気にしたら負けだろう。手早く装備の回収と魔力譲渡を済ませて次にいく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(妹さんを守ることにつながりますもんね?)

 

イヴの中で風子の言葉が木霊する。

 

(私が、ノエルのことを?)

(だからここに来た? いいえ、私は【エリート】にならなければ…)

(あの子は関係ない。私が国連に入って…始祖十家を超える力を得て…)

(そして…そして…)

 

戦闘中だというのに思考が止まらない。そしてそれは致命的な隙を生み出す。

 

「冬樹っ!! 」

 

怒号。それが風子のものだというのに気づいたときには魔物の影が自らを覆っていた。

 

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ふと冬樹の方を見ると何か考え込んでいるような、思い詰めた顔をしていた。

少し後ろの森林から魔物が現れる。普段の彼女ならば気づいたはずだ。

 

「冬樹っ!! 」

 

委員長から怒号が飛ぶ頃には俺の身体も動き始めていた。

 

間に合うか?

 

いや、間に合わせる。

 

魔法使いとして覚醒してから無駄に上がった身体能力。今使わずにいつ使うのか。

 

蹴った地面が抉れるほど筋肉を酷使しとにかく身体を加速させる。

 

 

間に合った…

 

冬樹と魔物の攻撃の間に入り落葉と左腕を緩衝材に魔物の攻撃をガードする。

 

メキリ、と嫌な音が左腕から聞こえる。身体が浮く…いや、吹き飛ばされると判断し自分で飛ぶ。

直後冬樹共々吹き飛ばされ木に突撃するがガードし自分で飛び反動を減らしたため威力もその分弱まった。

 

「渡さん!冬樹!だいじょーぶですか!?」

 

「左腕折った以外は…木にぶつかったときに頭打ったっぽいですね。」

 

目の前が真っ赤だぜ。

 

「冬樹も軽傷です。今は気失ってるみたいですが」

 

もろとも吹っ飛ばされたしな。一応ぶつかるときも庇いはしたのだが

 

「渡!委員長!」

 

神凪と氷川も来たか。心配そうに駆け寄ってくる。

 

「神凪、まだ敵が来てます。アンタさんなら大丈夫でしょ。

ウチは神凪のバックアップに回ります。氷川、渡さんと冬樹を。」

 

風子は指示を出すとすぐに戦場へと戻る。俺と冬樹が襲われたことにより風紀委員の中にも動揺が走っている。上の人間が統率を執るのはこの状況下で必須とも言えるだろう。

 

「…う…ノ、ノエル…」

 

冬樹がうわ言のように呟いたのは間違いない。妹の冬樹ノエルの名だ。

 

「…………ごめ…な…?」

 

言っている途中で意識が回復したのだろう。辺りを見回し現状を確認する。

 

「私は…魔物の攻撃を…? 」

 

「おう、起きたか」

 

そう声をかけると俺の左腕を見つめる

 

「その腕…」

 

「これに関して俺の技量不足だから…。それより俺たちがやられた…って訳じゃないけど怪我したことで風紀委員に動揺が走ってる。委員長が指揮取りに行ったからすぐに収束すると思うけどなんにせよ俺たちに責任があることは変わりない。ここから先は言わなくてもいいよね?」

 

「はい…失態は…取り戻さなくては…! 」

 

「ん。じゃあ行こうか。」

 

落葉を手に取り腰を上げる。

 

「渡さんそんな怪我でなにをする気ですか!?」

 

氷川がまさかと思い止めようとするが止まる気はない。

 

「俺たちが元気だってこと周りにアピールしないといけないし。それに…ようやく落葉の修理終わったばっかりだったのに。これ直すのどんだけ時間かかると思ってるんだよ!」

 

「「はい?」」

 

冬樹と氷川が同時に呟く。

 

落葉には少しだけだがヒビが入っていた。強引にガードに用いたせいだろう。しかし、この程度ならむだ工房での修理が可能だ。時間がかかるという問題点を除けば、だが。

ということでクソ魔物たちは皆殺しだ。

 

落葉を鞘に納めポーチからあるものを取り出し宙に放る。それを再び抜刀した落葉で斬る。

 

刀身に青い電気が纏う。

 

雷光ヤスリ。俺の持っている特殊なエンチャントアイテム。製造難度が高く効果時間も1分未満と短いがその間雷の魔法の力をヤスリを用いたものに与えるという効果を持つ。

 

つまり、だ。ヤスリ系のアイテムを使っている間普段は再結合するような魔物でも魔法によって裂かれれば再結合させることもなく斬り殺せる。

序盤使わなかったのは作る手間の割りに効果時間も短く数が少ないからだ。

 

「さて、行こうか」

 

近くの魔物の胸を穿ちそのまま返す刀で縦に裂き消滅させる。

横からきた攻撃を狩人独特のステップできる回避し腕を落とす。さらに小刀側を頭部に突き入れ、一度抜いてから斬り払いで首を落とす。

 

左から来た魔物は冬樹から放たれた氷の魔法が次々と刺さり即座に消滅した。

 

風子の元混乱していた風紀委員も勢いを取り戻し魔物の駆逐へと当たる。

 

名残惜しいが雷光ヤスリの効果も切れたし左腕を悪化させるわけにもいかない。後方に戻るか。

 

ほどなくして戦闘は終わる。氷川が中規模魔法を放った時点で残りもそこまで多くはなかったのだから当たり前と言えば当たり前だろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで終わりですかね?」

 

目の前の魔物が消え周囲には今はもう魔物がいない。そろそろ終わったかと思ったが…

 

「いーや。最後に大きいの残ってるみたいですね。」

 

風子がそう言うと俺たちが陣取っている公園へと一際大きな魔物と取り巻きが現れる。あれはクエストでの討伐対象よりもデカいな。しかし、タイコンデロガではないようだし問題はないか。

 

「さて…相手の残りも少なくなってきました。

ちょいとトラブルはありましたが、大事なく終われそーです。 」

 

「委員長、今は… 」

 

「いいわ。そういうのは…いらない… 」

 

風子の言葉に神凪がフォローを入れようとするが他でもない冬樹自身がそれを止める。

 

「ほらほら、くれーですよ。勝ちが近いってのに。

冬樹、さっきのが失態なら、それを引き起こしたのはウチです。

よけーなことをいーましたね。よかれと思ったんですが浅はかでした。

ウチもその失態を取り返さなきゃなりません。

トドメは2人でやりますよ。委員長命令です。

この1回だけ、チームプレイをやりましょ。

気に入らなかったら次はなくていーです。わかりましたね? 」

 

「…………はい………… 」

 

風子の共闘という提案に珍しく、というより初めてであることは明確だろうが冬樹が頷く。

 

「では、転校生さん、ウチらの魔力を回復してください。

あのデカいのをウチらでやります。バックアップよろしく。

他の皆さんは、まだ残ってる雑魚を確実にやっちゃってくだせー。 」

 

「じゃあやりますよ。最後ですしバッチリ決めてください」

 

風子とと冬樹の方へと手を向ける。

 

魔力譲渡開始……完了。

 

魔力補充が完了するやいなや全力で魔法を行使する風子とイヴ。魔物の巨体は氷柱に覆われ極光が胸を貫く。胸をえぐられた魔物の身体は覆われた氷ごと割れて砕け散り霧へと戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…ふしょーしゃ10名。いずれも軽傷。左腕が折れるって軽傷なんですねぇ。 」

 

「治癒系の魔法ならすぐに治りますし軽傷?なんですかね?」

 

わからん。アドレナリン切れたせいか痛みがぶり返してきて辛い。頭を打った冬樹と委員長のセットで他の委員たちの治療が終わるの待つ。

 

「大丈夫? わたしが待機しててよかったわ… 」

 

声をかけてきたのは保健委員長である椎名ゆかりさんだ。長い髪を後ろで編んでおり眼鏡と巨乳が特徴だ。

 

「あなたたちが最後だけど…渡くんが一番酷いわね。」

 

「ちょっと無理しすぎただけですよ。ま、重傷者出るよりは腕一本のほうが良いでしょう?」

 

「そういう問題でもないんだけどね」

 

苦笑いで返されたけど俺は気にしない。

 

治療もすぐに終わった。折れた腕も一週間もすれば完治するそうだ。

 

「さーっ、応急手当てがすんだたひきあげますよ!

こんなとこでゆっくりしてちゃ風邪ひきますからね!

帰りはバスをよーいさせたんで、さっさと帰りましょ!

…さて、これでパーティに出られますね。せっかくなんで楽しみましょ。 」

 

「…私は、帰ったら図書館で勉強します。 」

 

「討伐で疲れたまま勉強しても効率悪いですよ? 」

 

「それでも勉強は進むので。 」

 

頑なだな。簡単には変わらないか…

 

「…んー。まだまだですかねぇ。

あ、渡さん。後でちょっと様子を見に行ってやってくだせー。

アンタさんだったら、他の人より対応はやさしーでしょ、たぶん。」

 

「たぶんなんですね。まぁ良いんですけど。」

 

「…いや、すいませんね。風紀委員じゃねーのに来てもらって。

これを期にぜひ風紀委員に…とまでは言いませんがね。

感謝しますよ。ずいぶん楽に戦えましたし。

戻ったらゆっくり休んでくだせー。お手伝いいただいた分は報いますんで。

ハッピークリスマス、渡さん。 」

 

「委員長もですよ。残り物しかないでしょうけどパーティー楽しんでください。ハッピークリスマス」

 

 




次回が前回のあとがきで地味に名前のでたテスタメント・グリモワールになります。ようやく物語としても入り口に差し掛かると言ったところでしょうか

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