あくまの花片   作:ココア惑星

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序章

「はい、今月の分です」

そういって、シフトが終わりすっかりクタクタになった筈の脚が白い封筒を見た

瞬間に時間が巻き戻ったかのように少し陥るくらいの回復に現金な体だなと思い

ながらも短く礼を言って大して重量もない封筒を眞城は受け取った。

 

中身は学問のすすめを書いたやら、慶応義塾を創設したといよりも

お札として一番価値がある福沢諭吉が印刷されているのが5枚。

それを、風呂上りに敷いてる布団に寝転がりながら直は見つめるのが好きだ。

数学で悪い点を取っていようと小遣いはバイトをするので要らないと宣言してから

気にも留めていない。

今月は、テスト期間もあってか一枚少ないが仕方ない収穫だが高校生の収入としては

ちょっとしたお金持ちで今月の分を貯金と合わせると犬が一匹飼える値段くらいまで

貯金してある。

 

「明日は、土曜の午前中だけしかバイトないから予約してあるのをメイト寄ってマックいや

コンビニ、スーパーとかで祝杯上げよう」

設定画集が思いのほか高いし、節約しないと咄嗟の爆弾という名の公式に対応できないし

毎月貯める貯金額は厳守で崩さない。

明日は土曜日だがバイトをしている私の叔父は自営業なので周りの給料日と

被らないために褒美の期間に余裕が持てる。

むしろ、敢えてずらして置かないと受け渡しがスムーズに出来ないためだ。

家から歩いて5分も掛からず走れば秒で着くような場所にバイト先のケーキ、チョコレート

を売っているチューリップで調理のバイトをして早3年、中学からの手伝いを含めると

6年のベテラン組。

というよりも中学1年の時に父の弟に当たるつまり私の叔父が店を構えた時なので

バイトやら従業員募集を掛けまでの繋ぎで手伝い始めたのがあれよあれよというまに

続いている。

「おはようございます」

白いコックコートに白い帽子の中に大して長くない髪を押し込んでまだ朝の6時くらいに

果物を切っていく。

それから、ただ無言。

繫盛期のクリスマスとか入学卒業やらのシーズンじゃない限りこのバイトは無言で

通せる。

「眞城」

「はい」

調理場と売り場を隔ててあるもうだいぶ傷が入ったアルミの色をした扉の隙間から

私とおなじ甘栗の髪色をした叔父の亮が顔を出してきた。

「すみません、三崎さんが来ないので。私が電話してる間に悪いけどレジして下さい」

またか、ともう溜息を出すのも飽きた。

他のスタッフももう慣れて作業している。

三崎さんというというか三崎は私より数歳上の茶髪の男の大学生で

接客バイトとして入ってきた。

当初、研修期間中はやる気があり応対はハキハキとした研修期間を終えると本性を見せて

そのやる気がなく今回のように遅刻悪い時には無断欠勤で最悪私が駆り出される。

別に、私が特別出来るという理由ではなく近い場所に住んでいるから用途が楽という

理由で尻ぬぐいをしているのが一番多い。

「わかりました」

何故、出来るのにこうも適当にするのかと最初は疑問に思ったがもう辞めた。

帽子を脱いで、髪を整えてから接客となる喫茶店を兼ねているフロアーに出た。

「いらっしゃいませ」

おまり大きな声が出ない声で挨拶をする。

 

「あ、もう疲れた」

「お疲れさまですわ 入江さん」

結局、三崎のせいで1時間の残業がプラスされた中誰もいないとふんで疲労の声を

丁度休憩中のナオミが労ってくれた。

白い肌に黒髪が似合いまさに文学作品で乙女という表現が似合う同年代のバイトで

兄の調理バイトをしている兄の谷崎潤と違い接客のバイトをしている。

当初は調理だったが人手不足のため接客にシフトされたのだが美人のため彼女目当ての

男の客もいる。

「お疲れさまです。 ナオミさん」

「あら、もう上がるんですの」

「ええ 今日は午前中だけです」

ロッカーに向かい合って話しているので背中越しに聴く声は残念そうな声をしている。

おそらく、寂しい表情をしているのかそれともと考えて思考を止める。

花がある名前で

花があるのは名前だけではなく容姿もすらっと伸びた手足に艶やかで女らしく高い声

性格もやや兄と同じバイト先を選んでしまうブラコン気味なところを抜けば優しい

嫌いではない。

「お昼 ご一緒しようと思ってましたのに」

それは、本当らしく彼女の前に置かれている近所のスーパの卵のサンドイッチが

あった。私ならおにぎりかサラダをひとつ足す。

「足りるんですか それ」

「え」

「ごはん」

「ダイエットしてるんですの」

「充分 痩せてますよ」

「そんなことありませんわ ほら」

二の腕を掴んでいるがどう見ても筋肉を掴んでいるし二の腕が痩せにくいのは

どう考えてもその食事内容だ。

脂肪は燃焼させるには、食事の回数を減らす食事制限しても意味はないく

内容を改善させることの方が重要。

むしろ、食べないと痩せないことを言っても空気を悪くするだけ。

「無理せずに頑張って下さい」

「ええ、頑張りますわ」

昨日の夜からスーパーで惣菜とおにぎりと決めている。

別に、ダイエットしている訳じゃないし。

しても、意味ない。

スタッフ用の裏口から店の表側に出ないとスーパーがないので

そのまま回ると一人のスーツを着た短髪の人が入り口前に立っていた。

まだ、距離があるかなり背丈が高い。

店の白地にチューリップの絵が描かれている紙袋がないので

まだ買っていないのだろう。

最近とある雑誌に店が大きく載ったことで客足が増えたが

道が完全に住宅街なので近所に住んでいない限り迷いやすい。

丁度、店の出入り口の扉は自動ドアではなく手動のドアを開けると鈴の音がした。

「どうぞ」

「え」

顔を見たが、三白眼に眼鏡を掛けた男性だ。

「違いましたか」

「いえ、女性ばかりで気が引けてしまって」

ウィンドー越し見えるのは確かに女性客ばかりを案内している。

何故か、そうするようにしている。

別に、決まりがあるわけではない。

「男性の方も多いです 2階はまだ空いてるのでゆっくり出来ます」

「ありがとうございます」

 

ようやく、扉を潜るとこうしてみるとかなり背が高い。

顔の感じは賢そうだが、優男という女性が好きそうなインテリとは少し違う

黒縁のフレームの眼鏡や緑色のスーツで真面目な雰囲気。

「いらっしゃいませ」

あっ、と男性と一緒に入ってしまったことに気づいた。

「おや、眞城が帰りに買うなんて珍しいね」

正社員の淑子さんだ。

黒髪で白い肌とナオミさんと同じだが、ナオミさんは、可愛いガーベラが似合いそうだが

淑子さんは薔薇が似合いそうな雰囲気を纏っている。

「しかも、客引きまでしたのかい」

偉いとばかりに帽子はあまり今日は被っていなかったので汗で湿っていない

頭を撫でてくるのは馴れた。

高校生にするのはちょっとおかしいがこの人は大概年下にはこうだ。

ついでに、チョコレートを買おう。

元々、お腹が空いているところにケーキやタルトやらに目がいくが昼食を減らすことは

眼中にないので2、3粒くらいならいい。

うん、メニュー表

呪文だな。

成型の作業もしているのでどれに何が入っているのか大概判るが

名前わからん。

「お店の方なんですね」

「え、ええまあ 調理のバイトで」

いきなり、さきほどの男の人が話しかけてきたので一瞬自分に話し掛けられたのに

どもった。

よく見ると淑子さんは若い女の客にケーキを運んでいた。

私が連れてきたんだから相手は任せたと。

タイムカードは切られているが感じの悪い人ではないので苦にはならない。

見た目は、少し怖そうに見ようによっては見れるかもしれないが話し方からして

そういった人ではない。

言うと、少しかっこいいと思う。

「すみません、これはどういったチョコレートなんですか」

メニュー表で指差されたのは丁度朝方みたナッツ入りのチョコレートだ

「ナッツが入ってます 少しお酒も入れてますから風味が良いです」

それから、ほぼカーナビみたいに男の人の質問に応えた。

「すみません 色々と」

「いえ」

「こういう店にはあまり入らないもので助かりました」

「ありがとうございました」

「また、きます」

ありがとうございましたと言って見送ると淑子さんが二ヤッとした顔をしていた。

「アンタがあんなに話したの久しぶり見たね」

「そうですか お疲れ様です」

別に、決まった内容でなら話せる。

内容がまったく決まっていないことを話すのが苦手なだけだ。

だが、それがコミュ障らしい。

 

 

 

 

メイトに行くと、見ているアニメのOPのサビが流れていた。

結構人気で朝の情報番組で特集されていたのを見ていると母には

ドン引きされていたが、主題歌を歌っている人は母が好きなアーティストなのに

気付いたのは終盤の告知で主題歌が出てからだ。

その曲は、レジの2人しか並んでいない列に並でいると終わると次に国民的な人気を誇っている少年漫画の映画の主題歌が流れた。

だが、はっきりいってしまって今の漫画の展開はネットではもう落ち目だと言われ

始めていると言われこの映画でアイドルをゲスト声優に使ってしまいほぼそのアイドルの

台詞が棒読みなことにファンが怒り炎上を起こしている。

にも関わらずにこの漫画が表紙になっている雑誌漫画を髪の明るい

男子が自慢気に単行本を集めているんだと言いながら読んでいた。

「お待たせいたしました」

店員は若い男でピアスをしていた。

今、漫画やアニメを見るのに抵抗がある人は少ない。

髪が明るいおしゃれをしてアニメの缶バッチを付けた人やイベントにもいる。

「なんなのかな」

「え」

「いえ、予約してるのお願いします」

「少々、お待ちください」

見た目が少し恐そうに映ったあの男のお客さんも店に入りづらそうにしていた。

私からすれば男の客も増えてきたので大して気にならなかった。

その人がまた、来ますと言ってくれたのはお世辞でも嬉しかったのだ。

 

 


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