TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―チュン…チュチュチュンッ…
「んっ…んぅ~んんっ…」
目が覚め、掛布団を捲り上げて起こした身体は長時間の睡眠より目覚めたアキはいつも以上に眠そうな目を擦って立ち上がった。
黄色い寝間着姿の彼女は未だ寝ボケたままに意識の中から日課の行動をなぞるようにして家の中の居間に位置する部屋へと入って行った。
髪は寝ぐせで逆立ち、大きなあくびを吐き出しても、空腹は抗う事の出来ない整理現象に見舞われながら…居間に入ってすぐに台所へとたどり着いた。
―ジュゥゥゥッ…
「おはよぉ~」
台所内のコンロでは目玉焼きとベーコンを焼く音が響き、その横を通り過ぎてアキは冷蔵庫を開けて牛乳を取り出してコップに注ぎ満たしたら一気に飲み干す…再び居間にはテレビと向かい合うようにソファーの前に座り込んで朝食を待つ…
しばらくすると完成したベーコンエッグと焼けたトーストが来た。
「いただきます…」
未だに眠い目は開いているようで閉じている様にも見える眼だが食べ物の認識は匂いと触覚で判断して無意識の内に口へと運びモグモグと食べ進めた。
―シャカシャカシャカシャカ…
―ブゥィィィィィン!
洗面所では朝食を終えたアキが後ろから髪を解かされながらも歯を入念に磨きあげて口を濯ぎ這い出すとだんだん眠気も冴えて来てアキの今日という一日が始まった。
「ボォオェェエエエエエエエエエエエッ!!」
朝一で洗面台の横のトイレからデスボイスみたいなこの世の終わりを一色淡にして吐き出すミオを成人女性の介抱とは名ばかりにユウゴが背中を足蹴りしていた。
「何してるの、お兄ちゃん…ミオさん…」
「このアホ、昨日の夜まで酒しこたま飲みまくって、このありさまだよ」
「うげっ…ぎもじわるいぃぃ~」
トイレの便器に頭を突っ込みながら吐き出しきったミオは真っ青な顔を晒しながら二日酔いに見舞われていた。
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なぜミオがアキとユウゴと共に同じ家に居るワケは遡ること昨日であった。
「あのままでよかったの?お兄ちゃん…」
「起き出したらめんどくさい事になるから路上に放置するよりかはマシだろう」
ミオの探偵業を手伝い終えた2人だが肝心のミオは電柱などに頭をぶつけ気を失った彼女を探偵事務所まで担ぎ込んで運び終えた後にユウゴのバーへ帰る途中だった。
やがてマンション裏地の扉に辿り着くとユウゴは鍵を差し込んで開けようとしたが…
「んっ、鍵が…開いてる」
「えっ、ウソッ…ドロボー!?」
何者かに侵入されている形跡を察知したユウゴは扉に手を翳してゴジラの超感覚による知覚認識で店内の気配をソナーのように把握すると…中には誰かが1人だけいる。
ユウゴはアキへ壁に寄るようにハンドサインを向け…アキもそれに従うように壁を背にした。
そして、ユウゴは出入り口の外開きからすぐに開いて入れる位置に付くと…一気に開いて中へと入った。
「なっ…なんでテメェが居んだ!?」
ユウゴが先に中に入るとそこには意外な人物がいた。
「誰が居たの?……えっ!?」
「やっほ~おかえりィ~二人とも」
後に続いて入ると中に居たのは優雅にバーカウンターでグラス片手にお酒を嗜んでいたミオが居たことに二人が驚いた。
「あんた、事務所に置いてきたはずだろう…どうやってここまでッ!?」
「私が車でご案内したのです」
厨房の奥から手拭いで手をふき取りながら出てきたのはダグナだった。
「ダグナさん、どうしてですか?」
「ユウゴ君が信頼を置く天城ミオさんにご依頼申し上げたのです…今後アキさんの身の回り、分けても私生活に関してサポートをしていただくため御呼びしました」
「つまり、今後私もユウゴ君とアキちゃんのおうちに住むことになったワケよ」
日常的なGIRLSの活動中はダグナたちがアキを警護する傍らで私生活圏内ではどうしてもアキと共にいられない場合の為に同じ女性同士で気兼ねの無いミオが抜擢されたのであったが…
「…いくらッ…いや、何で引き受けたんだテメェ」
「衣食住三食御飯付き事務所滞納経費負担!…何より…ただ酒ッ!!」
グラスを掲げて宛ら呪文のように自身が引き受けた理由をスラスラと答えたミオは満面の笑みでアルコールによる火照った顔が笑顔を見せる。
「だから~今後は私もアキちゃんの面倒を見てあげるからぁ~アキちゃんも私の事はお母さんとでもお姉ちゃんとでも思ってもらっていいよ~何なら呼んでほしいなぁ~」
ミオのワキワキといかがわしい手つきを向けてきたためアキは身の危険を感じ取ってユウゴの背中に隠れた。
そして、ユウゴも…
「東北に帰れッ」
額に血管を浮かばせて苛立つ気を向けた。
「やだぁ~~~!!もう田舎もやなのぉお!!でも都会の日銭稼ぎもやなのぉお!!今まで住まわせてあげたんだから私を養ってよぉお!!私を食わせてよぉお!!なんなら楽をさせてよぉお!!私に楽をさせろぉおおお!!」
ミオはバーカウンターに突っ伏して宛らバーの席で酒を片手に都会の荒波に飲まれ切った元田舎娘の嘆きが零れた。
「御辛い状況の中、ご依頼を引き受けていただき感謝していますよ、天城ミオさん…慣れない土地で悪戦苦闘する中でも努力していらっしゃる御気持ち、お察しいたします」
嘆くミオに空いたグラスと酒に満たされたグラスと交換してミオの愚痴を親身になって受け入れたダグナにミオは顔を上げて涙目のままダグナの顔を覗いた。
「ダグナしゃぁん…あなただけよ…あなただけが私のことわがってぐれるのわぁああ!!わぁあああじあわぜになりだぁいいい!!」
それまでクールな探偵の様な雰囲気のある大人の女性であったミオに酒の魔力が加わって普段見せれない内面に秘めた悩みが露見するほどに心身が衰弱していたことが伺えた。
「ぐすんっ…結婚とかまだそこまで考えることは無いけどさぁ…もう一人は辛いよ、20代であるうちなのにもう将来の不安とか、親戚の心配と後ろめたさとか、私を苦しめる壮絶な過去とかぁ!…もういやぁあ!!せめて恋愛がじだいぃぃッ!!」
ダメな大人だ。とことんダメな大人の典型的なパターンだった。果たしてこんな女性にアキの世話どころか自分の生活もできるのかと疑念が浮上するが…
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案の定ダメな様子だった。吐きに吐き出したミオは居間でアキと共にいるが…
「う~んッ…きもじわるい…うぶっ、まだ気持ち悪い…」
「みっ…ミオさん…ちょっ…近いよ」
ミオの酸っぱい匂いとアキのフルーツ歯磨き粉の匂いが朝から入り混じった現状にアキ自身も食べた物が出てきそうな気分を口元押さえ堪えていた。
一方、ユウゴは台所に立ってみると壮絶な状況に目を疑った。
「なんだこの酒の量と…すもも漬けかコレ?」
無数に散乱する酒の空き缶や空き瓶に加え、彼女の好物である“すもも漬け”の残骸が散らばっていた。
とりわけ一際目立つのはシンク内の謎のタッパーの数々だった。
「んっ?…まさかッ!?」
ユウゴが慌てて冷蔵庫を開いて確認すると…冷蔵庫内に本来収納されていた物はすべてタッパーに収めて入れている…何なら作り置きの料理もタッパーに入っているハズだったが…シンク内のタッパーがそれを物語っていた。
「ゲェ~~~プッ…吐き出したらなんかお腹すいちゃった…ねぇ、ユウゴ君ごはんまだぁ~ッ!?」
犯人の目星は付いた…ユウゴはそっとリビングと廊下に通じる扉を閉めた。
「ぎゃぁあああああああああああああッ!!」
さんざん酒とタッパー内の食料を食い尽くした犯人にはユウゴに両脚の腿の裏側を絡まされ、両腕を掴まれ引っ張り、床に背を向けてそのまま相手を天井に吊り上げる“ロメロ・スペシャル”が炸裂した。
「イダだダダだダダだだっ!!ごめん、ゴメン、ごめんなざああい!!だっておつまみが欲しかったんだモン!お酒のお供にすもも漬けを大量に買ってたらなくなっちゃったんだモン!」
ロメロ・スペシャルで吊り上げられたミオに見かねて深い溜め息を吐き出したアキはユウゴの顔元に近づいた。
「お兄ちゃん、その辺にしてあげなよ…料理位また作ればいいでしょ」
「お前の買い溜めたアイスも食われてるぞ」
台所には、すもも漬けの袋と共にアキの買い込んでいたアイスだったモノも散らばっていた。
「ぎゃはははははははははははははははっ!やめちくりぃいい!!」
「ボクのアイス、返せッ」
アキはロメロ・スペシャルで身動きが取れないミオの脇腹に虫の様な指の動きで執拗に擽ってきた。
「無理無理無理ッ!もう食べちゃったもん!返せませんッごめんなさい!!ぎゃははははははっ!!」
余計に火に油が注がれて擽りは苛烈を極めてより激しくなりミオの脇腹の限界を超えようとしていた。
結局、ダメージが絶大で息が荒げるほどにソファーに転がったミオは両手で脇腹を押さえ蹲っていた。
「ひぃ~ひぃ~…末恐ろしい兄妹だわ…ホント…」
「オメェは身の振り方を考えないバカだよ」
呆れ返ったユウゴとアキの元に居間から通路に通じるドアが開いてダグナが袋を抱えてやってきた。
「おやおや、朝から随分と賑やかな御様子ですね」
「お前、このアホに酒どんだけ与えたんだ」
「はははっ、御話し相手になる程度には…」
元凶はダグナだった。あれからミオの愚痴を散々店で聞いただけでなく、宅飲みに続いてもダグナはミオの愚痴に酒とつまみを交えて彼女が眠りに着くまで聞き続けていた。
「ううっ、この家はダグナさん以外わたしに優しくないよぉ~…甘やかせ!私に寂しい思いをさせないでよ!余計にお酒が進んじゃうじゃない!こう見えても私は飲み友達と朝まで飲み明かした後に路上でリンボーダンスしたり、ゴミ捨て場で朝を迎える様なことなどしょっちゅうだよ!」
「自慢げに語ることじゃねぇだろう…反省しろ、ダメ人間ならぬダメ怪獣が」
ミオのダメさ加減に呆れ返ったユウゴは額にまた血管を浮かばせて彼女の酒癖の悪さに 責した。
そうこうしているとミオやユウゴの分のベーコンエッグに余り物のベーコンとベーコン料理がテーブルに並べられた。
「……………どうでもいい事なのでしょうが…そちらの方はどなたですか?」
「「「えっ?」」」
ダグナに指摘された方向に3人は振り向くと…そこにはベーコン料理を運んだエプロンをつけた赤い目と黄色い発光球体を持つ全身深緑色のトゲトゲしい怪獣が何故か居た。
「ぎゃぁあああああああああああああ!!」
「なっ、なんだね、ちみは!!どこから入ってきた!?」
「なんで俺の後ろに隠れんだよ」
ミオとアキはユウゴの背に隠れ、彼を盾にして謎の等身大怪獣に一体誰なのかを恐る恐る尋ねるが…謎の怪獣はテーブルの下からプラカードの様なものを取り出した。
【アイム ビーコン】
怪獣はプラカードを介して皆に意思疎通を図ってきた。
「びっ…ビーコン?」
「ビーコンって何ッ!?ユーアー怪獣ッ!?」
【イエス】
謎の怪獣ビーコンは怪獣であることに同意するが…認識上の怪獣とは山のように大きな生物であるにも関わらず、目の前の見た目ままの怪獣ビーコンは怪獣と言う定義では小型に属するほどに小さいがユウゴより小さく、アキやミオよりも大きな見た目は最早“珍獣”の域であった。
「んで、その怪獣ビーコンとやら…お前はどこから入ってきた?」
ユウゴが変わってビーコンに尋ねると…ビーコンは再びプラカードを回転させた。
【イン フロム テレビ】
回転したプラカードの文字から察した通り、どういうワケかテレビがずっとつけっぱなしの状態である通り、侵入経路はテレビだった。画面はテレビのHDMI画面であるため暗転した状態のまま消えているものだと認識していたが、実際は確かに起動ランプの色が起動中の色に変わっていた。
「だれだ、つけたままにしたヤツは…」
「ボクじゃないよ…昨日ちゃんと消したもん」
「私はお酒の記憶で覚えてない!」
そう豪語するミオだが…
●
―深夜4時頃―
「クカァアアア~…むにゃむにゃ…」
誰もが寝静まっている時間に酒で酔いつぶれたミオはソファーに寝っ転がっていたところ…
「ふんにゃぁ~ぁ~…」
寝返りを打つ拍子に手の甲がソファーに置かれていたテレビリモコンの起動ボタンが当たってテレビが付くと…テレビは深夜の番組が突然流れ出した。
『―では、ここでツインテールさんに問題です!』
「うぅん…うるざいなぁあ…」
ミオは寝ぼけたままテレビのリモコンに手を掛けて消そうとするも謝って入力切替ボタンを押して別画面のHDMI画面に切り替わりテレビは暗転した。
それを消したと勘違いしたミオは再び寝拭けるが…テレビは付いたままだった。
―ニュゥォオオオン!―
そこへテレビの液晶画面から液体のように歪み現れたのが他でもないビーコンだったのである。
●
結果、ユウゴは何となくこの中で元凶となる者が誰なのか鋭い目でその者を睨んだ。
「なんでそんなに私を睨むのよぉ…お姉さんは覚えてないよ」
シラを切るミオだが、本人も薄々寝ぼけていても記憶が妙に曖昧でも、おそらく自分である可能性があるため目がキョロキョロと泳ぎながら冷や汗が滴っていた。
「とりあえず、一旦GIRLSの方に確認を御取りいたしますか?」
ダグナの提案で謎の等身大怪獣ビーコンをGIRLSに連れ出すことが決まった。
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―GIRLS・東京支部―
自宅に突如として現れた謎の怪獣ビーコンについて調べるためアキとダグナはビーコンをGIRLS東京支部に連れて来た今現在、トモミを交えて怪獣娘専用のトレーニングルームにてビーコンの詳細を調べていた。
「ありました!この方の正体は電波怪獣ビーコン、数十年前に電離層圏で生息が確認された怪獣だったようです!」
トモミがビーコンの容姿をスキャンした結果、怪獣娘やユウゴたちが生まれる以前に出現した怪獣の同族であることが発覚した。
「当時、主食の電波を求めて東京に上陸したと記録されています…けど…」
電波怪獣ビーコンの食用は電波であると記載されている事とは裏腹に…目の前の等身大怪獣ビーコンが常食する物は意外にも加工肉の燻製、すなわち『ベーコン』であった。今もムシャムシャとどこから持ってきたのか分からないベーコンの塊を食していた。
「う~んッ…特に危害を加える様な感じもありませんし…このサイズの怪獣さんは怪獣の該当には当たらないので怪獣として認定するには難しいです」
「はい…どういうワケか、ボクらと同じくらいの大きさですし…でもやっぱり怪獣じゃないんですよね?」
「そんなことはありませんよ~…私のカイジューソウルの元であるピグモンの体長も1メートルしかないですが、れっきとした怪獣として分類されていますよ」
「じゃぁ…これは……なんですか?」
やはり真相は分からず、なぜ今頃になって怪獣の出現が無くなったこの時代にまんま怪獣の姿をした謎の生物がいるのか首が傾げるしかなかった。
「う~んッ…とりあえず、ビーコンさん!あなたの目的は何ですか?」
【イーツ トゥ ザ ベーコン】
「はい?あぁ…どうも」
意思疎通を図ったトモミだが…どういうワケか、ベーコンの塊を手渡され、逆にどう反応していいのか分からず困ってしまった。
「うっ、う~ん…とりあえず会話が出来ているようなので知的生命体の類に該当するかと…」
「いま、出来てませんでしたよね…完全に受け答えに困ってましたよね」
「きっとベーコンが大好きな怪獣むすッ…生物さんなのでしょう」
「怪獣娘とも認識できない生き物を“生物”で括らないでください…第一、なぜベーコン?」
ビーコンがトモミに渡したベーコンはビーコンに取って何かを伝えたい意志がそこにはあるようにも思えるが…何故ベーコンなのかアキは理解に苦しんでいた。
【イーツ トゥ ザ ベーコン】
「もがっ!?」
今度はアキに手渡しではなく直接彼女の口の中にベーコンの塊を突っ込んできた。
「もごもご…しょっぱい」
ベーコンの塊は単体での塩分量がそれなりに高かった。
「まぁ…ベーコンは確かにおいしいかも知れませんが…あまり押し付けるのはよろしくないですよ、ビーコンさん」
無理やり押し付けようとしてくるビーコンを優しく宥めようとしたトモミの言葉にビーコンは何やらガーンッ!とショックを受けた様子だが…
「とにかく、もしかしたら例の『特生怪獣』さんに関係する方なのかも知れませんので…エレエレたちが埼玉県警から戻ってきたら詳しく調査をしましょう…それまではGIRLSに保護する方向で―…」
「そうですね…ってアレ?ビーコンは?」
振り返れば忽然とビーコンの姿が消えていた。
「おや、先ほど部屋を飛び出して行かれましたが?」
「なんでそれを言ってくれないんですか!?」
「とっ、とにかくベーコンさんを追いかけましょう!…あれ、ベーコンさんでしたっけ…いや、ビーコンさんでした!ややこしいですぅ~!!」
紛らわしく名前に困る謎の怪獣生物を追ってアキとトモミはGIRLS内に消えたビーコンの後を追った。
―GIRLS内・ファイトルーム―
「おりゃぁああ!!」
「きゃぁぁああ!!」
「おらおら、どうした!もっと攻めろ、シーボーズ!」
大怪獣ファイトの選手様に併設されたレスリング用のリングが特設されている部屋にはミクラスを始め、スパーリング相手には同い年くらいであるが怪獣娘としては先輩に位置する骨の様な外殻で覆われた怪獣“シーボーズ”がレッドキングの指導の下で大怪獣ファイトの模擬戦に励んでいた。
「おっしゃぁ~!とっておきの新必殺技ぉお……ありぃ?先輩、ソイツ誰っすか?」
「あぁ?…って、うわっ誰だッ!?」
レッドキングが振り返ると真横には何故か右目に眼帯をつけて首にタオルを垂らし、手には竹刀とベーコンを持ったビーコンがいた。
「あっ…あたらしい怪獣…娘さん?でしょうか?…もがぁあ!?」
恐る恐るビーコンに尋ねようとしたシーボーズだが…滴る汗が物語る通り彼女は今まさに疲労困憊な状態であるため水分が必要だが…そんなことお構いなしにビーコンはシーボーズの口に塩分たっぷりのベーコンを彼女の口に突っ込ませた。
「きゅぅううっ~…」
度重なる疲労と水分不足の身体に塩分の塊のベーコンが突っ込まれたことによりシーボーズの意識は塩分過多による急激な血圧上昇によってぶっ倒れた。
「ちょっと!なにしてんのさぁ…もがっ!?」
「おい、やめ…もがごっ!?」
止めに入ろうとしたミクラスとレッドキングにビーコンは彼女たちの口の中に無理矢理ベーコンを捻じ込んだ。
【イーツ トゥ ザ ベーコン!】
この謎の言葉が記載されたプラカードとまたしてもベーコンの塊を手に颯爽と何処かへ去って行った。
そんな被害現場に一足遅れてアキとトモミが到着した頃には既に手遅れな状況であった。
「はぁっはぁっ…うわっ!ミクちゃん、レッドキングさん、初対面の怪獣娘さん、しっかりしてください!!」
アキは顔見知りの2人と殆どあったことも無いシーボーズに駆け寄って安否を確認するが…
「しっ…シーボーズ…です……べっ…ベーコンが…変な怪獣が…ベーコン…を……むっ~…むっ~…むちゃくちゃしょっぱい」―ガクッ…
辛うじて意識のあるシーボーズが最後の力を振り絞ってアキに何があったのかを伝えたが…結局塩分過多による眩暈で意識を失った。
「大変ですよ、ピグモンさん…このままだとGIRLS内が…ベーコンに襲われッ、じゃなかった…ビーコンに襲われます!!」
「たっ、直ちに警戒を発令いたします!!」
トモミはGIRLSの怪獣娘たちが所持するソウルライザーに宛てて一斉送信メールより注意を呼び掛けた。
―GIRLS内・食堂―
「んぁ?メール…ピグモンさんからだ」
「なんだろう、緊急警戒?なんか大ごとみたいだけど…」
食堂では音楽活動に専念するサチコとミサオの二人が練習終わりに昼食のランチに食堂前でトレーを持って並んでいたが、突如としてトモミから届いたメールに首を傾げた。
「大きな赤い目に黄色い鼻のような怪獣がベーコンを振りまいているので注意?…何それッ」
「わっけわかんなぁ~い…怪獣が暴れているならともかく、ベーコンを振りまいてるって…すみませ~ん、B定食!」
サチコが注文したB定食には大きなベーコンを厚切りにして焼き色を付けた御飯味噌汁付きの質素な定食だった。
「ナニコレッ!?ごはんのおかずがベーコンだけってどういうこと!?いつものB定食は!?これじゃぁベーコン定食じゃん!!」
「あんたはまだ良い方じゃん…あたし、A定食頼んだのに…」
変なB定食にギャンギャンと文句をつけるサチコだが、その横でミサオの定食にはおかずにベーコン、ご飯も刻んだベーコン、汁者には燻製汁に浸ったベーコンスープだった。
「なぁんなのよぉおお!!こんなふざけた定食なんて誰が作ったのよォオ!!」
サチコは怒りに沸き上がった感情を食堂内の者に文句を放つが…中には三角巾にエプロンを付けたビーコンがベーコンをクレーバーナイフで刻む姿が見えた。
「「ぎゃぁああああ!!ベーコンを振りまいてる怪獣だぁあ!!」」
あまりにも見た事の無い光景に衝撃を受けた2人は大声で叫ぶが…
「カレェ、カレェ、ゴモたんはカレーが大好き♪」
そんな中で2人の叫びなど耳に届いていないミカヅキがカレーライスをトレーに乗せて歩く所にすかさずビーコンは赤い目から怪光線を発射してミカヅキのカレーを大きなベーコンの塊に変化させた。
「ふぎゃぁあ!?ゴモたんのカレーが変な肉の塊にぃ!?」
それだけに飽き足らず、ビーコンは様々な料理を食している怪獣娘たちの料理をことごとくベーコンに変えようと怪光線ならぬベーコン光線を発射して料理をすべてベーコンに変えた。
「ふぁッ!?私のソバがぁ!?」
緑の髪留めを付けたGIRLSの怪獣娘の料理もベーコンに変え…
「ふぎゃぁ!?なんでかき氷がベーコンにぃ!?」
白髪の小さな体格の怪獣娘がデザートに食べていたかき氷はベーコンに変わり…
「いただきます…」
「ええぇ~ユリカ、それ一人で食べるの?」
「うん、いつもこれくらい…」
漫画でしか見た事の無い骨付き巨大肉を食べようとする巻き髪の怪獣娘に対して少し驚くメガネの怪獣娘はその様子を見守るが巻き髪の怪獣娘が食べようとして骨付き肉はビーコンの怪光線を受けて巨大なベーコンに変わった。
「うわっ、漫画肉がベーコンになっちゃったよ!?」
「あら……まぁ、でも肉であることに変わりないわね」
巻き髪の怪獣娘は意にも介さず骨付き肉から変化したベーコンを食べたが…突然バタンと倒れた。
「ユリカッ!?」
突然の事に驚いたメガネの怪獣娘は立ち上がって巻き髪の怪獣娘の肩を揺すった。
「しっかりして、ユリカ、ユリカ!!」
「うっうう…しょっぱい…気持ち悪い」
ビーコンが放った怪光線で変化したベーコンはそのあまりにも多すぎる塩分量に一口食べただけで頭がフラフラして眩暈を起こすほどに塩分過剰摂取に至った。
そして、ビーコンはどこかへと去って行った。
―GIRLS内・医務室―
怪獣娘の日々荒々しい生活であっても怪我は縁切れない存在であるため、普段は専門医などが医務室を担当するが…この日、非番から駆り出されていた精神科医にして彼女たちと同じく怪獣娘の百地メルは現状に驚愕した。
「……あのさぁ、私はカウンセラーだけど確かに医師免許もあるし、医学にも精通しているわよ…でも、これは一体どういう状況ッ!?」
「うぅ~べっ、ベーコンが…ベーコンが…」
「ベーコンは嫌だ、口の中がしょっぱいよぉ!」
「ぐっぐるじぃい」
「みっ、水…真水をくれぇええ!」
「頭いたぁあい」
メルが困惑するほどに質実剛健で健康優良な怪獣娘たちが一同に突然唸るほどの体調不良を訴えていた。
しかもまださらに続々と体調不良に倒れた怪獣娘が運び込まれた。
「先生ェ!ユリカが、ユリカが!!」
「ううっ、ベーコンはヤダッ!ベーコンはイヤッ!…ハム…ハムが良いぃ!」
魘される巻き髪の怪獣娘が担架で運び込まれて来てようやく医務室の病床が完全に埋まった。
「何がどうなったらこうなるのよ!?」
状況が呑み込めないメルは頭を抱えた。
・
・
・
一方、ビーコンのベーコン攻撃を受けていないアキたちは辛うじて難を逃れた動ける怪獣娘たちを引き連れてGIRLS付近を捜索していた。
「アギさん、ミクさん大丈夫でしょうか?」
事態を聞きつけたレイカはウインダムに変身してビーコン捜索に駆り出されたが…
「うっ、う~ん…何とも言えない」
事の発端を作ってしまったアキもアギラに変身して責任感に苛まれていた。
「あんのぉギョロ赤目ェ…見つけたらギッタギタのボコボコにしてやるんだからぁあ!!」
「どうやるんだよ!相手はモノホンの怪獣だぞ!」
昼食が碌に取れなくて怒り新党のサチコとミサオもザンドリアスとノイズラーに変身して何故か片手には虫取り網を持って探し回っていた。
「食べ物をすべてベーコンに変えて、食べるものを持っていなくても口にベーコンを捻じ込んでくる…なんか恐ろしい怪獣っすね」
「はわわわっ、怖いけど…頑張ります」
応援として最近GIRLSに入ったばかりの怪獣娘マガバッサーとマガジャッパと言う珍しいタイプの怪獣娘も参加して、前者の二人同様何故か虫取り網を持って探していた。
「皆さん、いいですか…相手はどうあれ怪獣の能力を有する存在です、見た目に惑わされず気を付けてください!」
「「「「「「ぎょぉ!?」」」」」」
トモミもピグモンとして変身を遂げてビーコン捜索の指揮を取るにあたっての注意をするが…6人の怪獣娘たちはピグモンの後ろにいるビーコンに驚愕した。
「特に何故か執拗なまでにベーコンを捻じ込んでくる攻撃には注意してください…ここまで数多くの怪獣娘さんたちが被害を受けているので見た目はノホホンとした感じでも攻撃そのものは驚異的ですので――」
どうにかピグモンの話を聞こうにも怪獣娘たちは彼女の後ろで彼女の動きを真似するビーコンにしか目が行っていなかった。
「皆さん、聞いていますか?」
「ぴっ、ピグモンさん、後ろっす!後ろ!!」
「後ろ?誰も居ませんけど?」
ノイズラーの指摘にピグモンは後ろを振り返ったが…誰もいなかった。そのはず、ピグモンが後ろを振り返ればビーコンも彼女の視線に合わせて回り込むため彼女自身見えていなかった。
「まったく、集中してください!いいですか――」
「おんりゃぁああ!!」
「わぶっ!?」
「あぎゃっ!?ごめんなさい…」
待ちきれずザンドリアスが先手を打って仕掛けたが…ピグモンの頭に虫網が被さっただけであった。
「そっち行ったぞ~!追ぇえええ!!」
全員が虫網を振り回しながらビーコンを追いかけるが…ビーコンは空中にうつ伏せで浮遊しながらスィーッと飛び交うだけであった。
―GIRLS付近・公園―
ビーコンを追っている内にマガバッサーとマガジャッパは集団に逸れて公園へ訪れていた。
「ありゃ…みんなと逸れちゃった」
「どっ、どどっどうしましょう!?」
皆と逸れたことに頭をかくマガバッサーとあわあわと慌てふためくマガジャッパだったが…そこにビーコンの魔の手が迫っていた。
「とっ、とにかく皆さんと合流を…あれッ?マガバッサーさん?」
一瞬、目を離した隙に近くにいたにも関わらず音もなく消えたマガバッサーを探してあたりを見渡したマガジャッパだが段々と血の気が引いてきた。
「まっ、マガバッサーさぁぁん…どっ、どこ行かれたんですかぁ…うっ、なんだか燻製臭い…って、キャァアアア!!」
公園内の変な十字架のオブジェにマガバッサーは括りつけられているだけでなく、妙に燻製の様な匂いと共にグッタリとしていた。
「にっ…逃げろ…くっ、燻製にされるぅぅう…ガクッ」
辛うじて意識はあったものの青ざめた表情で意識を失った。
「そっ、そんな…誰か助けぇ…ヒャッ!!」
ズルズルと後ずさりするマガジャッパは背後にぶつかる何かがいる事に気づいて彼女もまた顔の血の気が引いた。
恐る恐る後ろを振り返ると…ベチャッと頬に何かが触れ、燻製の様な匂いが鼻を突いてきた。
―GIRLS付近・公園近く―
「マガマガさんたち、どちらへ行かれたんでしょう…」
「そう遠くに行ってないと思いますけど…」
消えた2人を探しつつもビーコンに警戒をする中……突如のことだった。
「キャァアアアアアアアアアアア!!」
大きな叫び声に釣られて残された怪獣娘たちが一斉に公園の方に顔が向いた。
「今の声…マガジャッパさんだ!」
「ふぎゃぁ!?あの二人もベーコンの餌食にッ!?」
「行きますよ、ザンさん!」
全員は慌てて公園に向かうが…
「やっ、やめてください!ベーコンを…ベーコンを塗りたくらないでぇええ!!お風呂に入ったばかりなのにぃいい!!もがっ!?」
今まさにビーコンに襲われている最中のマガジャッパの元に仲間の怪獣娘たちが駆けつけてきたことを察知したビーコンはそそくさと消えた。
「マガジャッパさぁ~ん!!うわっ、なにこれ…」
アギラたちが駆けつけた頃には手遅れでマガバッサーはオブジェに括り付けられ、マガジャッパは口にデカデカと大きなベーコンを突っ込まれ…二人とも燻製臭が漂っていた。
「うげっ、なにこれ…ベーコンの燻された匂いに石鹼の匂いが混じった匂い…くさぁ~い」
「おまえ、失礼だろ」
言葉を選ばぬザンドリアスと共に鼻を押さえるノイズラー…二人は特にマガジャッパの放つ匂いが耐えられなかった。
「まずいですよ…このままだと皆さん、全滅…はぁあ!!私、今ぜったいフラグ立てちゃいました!?」
自分が行った言葉に恐ろしくなったウインダムは口を両手で閉ざしたが…フラグ通りとばかりに上からビーコンが怪光線をウインダムに浴びせてきた。
「ぎゃぁあああああああああああああ!!」
「ウインちゃん!?」
「ああああ…あれ?なんともありません」
怪光線を受けたウインダムだったが…なぜかケロリとしているほどになんともなく無傷だった。
「だっ、大丈夫なの?ウインちゃん?」
「ええっ…特には……んっ?…ぎゃぁあああああああああああああ!!」
なんともないと言い切ったウインダムだったが、どうしてか遅れて大きな声を上げて叫び出した。
「どっ、どうしたのウインちゃん!?」
「わっ…私の漫画が…私の漫画の登場人物がぁ…全部ベーコンになっていますぅう!!」
ウインダムが手に持っていた薄い本、所謂同人誌と呼ばれる二次創作漫画のキャラクターがすべてベーコンに置き換えられていた。特にその本は男性同士の絡み、所謂ボーイズ(B)ラブ(L)漫画の類の本は軒並み登場人物がベーコンに変換され、まさにベーコン(B)ラブ(L)漫画になっていた。
「わっ…わわわっ、諏訪さんがぁ…木曽さんがぁあ……きゅぅうう!!」
あまりの衝撃にウインダムは意識を失ってその場で気を失った。
「ウインちゃん!!」
「コノヤロー!!よくも先輩をぉお!!」
感情的になったノイズラーは自前のギターを抱えて攻撃を仕掛けようとするも…ビーコンはすかさず怪光線を発射した。
「ふわぁあ!?あたしのギターとピックがデカいベーコンとカリカリのベーコンに為っちゃった!?」
「ええっ!?もう、何やってんのよ!!こうなったら私の声でぇえ…はぁああッモガッ!?」
「ザンドリアスゥウ!?モガッ!?」
攻撃を加えようとしたザンドリアスとノイズラーもベーコンを口に突っ込まれ意識を失って倒れた。
残されたのは殆ど戦闘力の無いピグモンとアギラだけになって絶対絶命であった。
「はぁわわわわッ!皆さん、しっかりしてください!!」
「どっ、どうしよう…誰か助けてぇ…ううっ」
ジリジリと二人の前にビーコンの両手に持ったベーコンの脅威が迫る中、突如火球が飛んできてビーコンはソレをベーコンで弾くとベーコンはプスプスとこんがり焼かれていい感じにいい匂いが充満した。
「あなた達、何しているの?」
「ぜっ…ゼットンさん!!」
突如として助太刀に現れたのは最強の怪獣娘ゼットンだった。
「ゼットン!助けてください!!」
「そう、この状況…あなたの仕業ね……なら、倒す」
同じく浮遊能力を有するビーコンも浮かび上がってゼットンと空中に並び立ち…双方が強い視線で睨み合った。
その瞬間、ゼットンが先に仕掛けてきた。ゼットンは刹那の早業に匹敵する拳を振るもビーコンはソレをベーコンでいなす、拳をいなす、拳をいなす、どれだけ連続して攻撃を加えても何故かベーコンでいなされた。
「あなた…何者?…只者、じゃない」
すぐに近接は分が悪いと判断したゼットンは瞬間移動で距離を取った。しかし、それが弱点だった。
瞬間移動とは相手から一瞬で消えていなくなるとさえ認識するほどに早く移動できるが、逆にゼットン側も移動と共に相手が一瞬だけ見えなくなることが欠点だった。
自分自身がその場から消えた瞬間にはもうビーコンはソレも居なかった。
「どこッ!?」
辺りを見渡してもビーコンは居ない…普段は感情を表に出さないゼットンもさすがに冷や汗が止まらない戦慄が走った。
「ゼットンさん!後ろ!!」
アギラの声に振り返った先にゼットンが目にした光景に更なる戦慄が走った。
【ゲート オブ ベーコン】
それは空間より出でる無数のベーコン、一般的なミドル・ベーコンを始め、メープルシロップのグレージングでテカるピーミールベーコン、ドイツのシュペック、イギリスのラッシャー、そのほか様々なベーコンに類似する加工燻製肉が多数出現してくる光景にゼットンは今まで出してきた中でも硬質強度の高い全方位バリアを展開する…が、ビーコンはソレを見計らったかのように出現させたベーコンをどこかへと仕舞い消した…と、同時にゼットンのバリア内で空間の歪みが発生して続々とバリア内にベーコンが侵入してきてゼットンはベーコンに埋め尽くされ、もはや彼女が中にいる事を示すのは真上に残る彼女の黒い手だけが唯一の生存確認だった。
「ゼットンさぁああん!!」
やがて浮遊を維持できなくなったゼットンのバリアは上から急降下して落ちて来てアギラたちの前に大きな陥没穴を形成してバリアが消えると同時にベーコンも消えて中から燻製臭に見舞われたゼットンが意識を失っていた。
「ゼットンさん!そんな…ゼットンさんまで」
「ぎゃぁあああああああ!!」
「この声…ピグモンさん!?」
案の上、ピグモンもビーコンのベーコン攻撃にあって口の中をベーコンまみれにされていた。
残るはアギラただ一人だけであった。
「そんな…やめて…来ないで…」
奇怪な鳴き声を上げながらジリジリと迫るビーコンの両手のベーコンの油分がキラリッと光っていた。
「いや…いやだ…助けてぇえお兄ちゃぁああん!!」
アギラはとうとうこの状況を打開できるのはユウゴのゴジラとしての能力に頼るしかなく、悲痛な叫びをあげた…瞬間だった、ビーコンの顔面に目掛けて巨大な足のドロップキックが炸裂した。
「何やってんだテメェら」
「ふわぁ…お兄ちゃん…」
今まで未知なる正体不明の怪物の時にだけ助けに来てくれたゴジラだが、アギラに迫るビーコンのベーコンと言うワケが分からない窮地にも助けに現れた。
「いい加減にしろ…ベーコンが好きなのはわかったが、無理やり押し付けるな!あと食べ物を粗末に扱うな!」
「怒るトコ、ソコ?」
的を得ていることは言っているがアギラは『もう少し怒るべきポイントがあるのでは?』と心の内に思った。
しかし、そんな時も束の間…ビーコンから新たなプラカードが出てきた。
【ビーコン フィールド】
プルプルと震わせながら起き上がって足跡がクッキリ残るビーコンの顔面だが…今度は黄色い発光部から上空に向けて閃光と共に球状態の光にアギラとゴジラ、そしてビーコンも包まれていった。
―ビーコン―30分クッキング―
ビーコンから放たれた閃光は異空間を作り出して、宛らテレビ番組セットの様な空間が広がっていた。
周りにはAD風のビーコン、制作進行風のビーコン、ディレクター風のビーコン、演出家風のビーコン、そして上着の袖を首に掛けたプロデューサー風のビーコンと1つの番組を作るには十分なメンツがすべてビーコンだった。
「みなさん、こんにちは」
「こんにちは」
そんな異空間内で何故かエプロン姿のアギラとゴジラが1カメに向かって深々とお辞儀をした。
「本日は新じゃがとブロックベーコンを使ったベーコンたっぷり『ジャーマンポテト』を作っていきます…料理していただくのは怪獣料理家のゴジラさんです」
「よろしくお願いします」
「まずは材料の御紹介です」
・ジャガイモ 4個
・ブロックベーコン 200グラム
・バター 1切
・粉コンソメ 大さじ2
・粉チーズ 適量
・乾燥パセリ 適量
「それでは早速作っていきましょう、まずはジャガイモ4個を皮付きのまま角切りにし、耐熱容器に入れましたらラップをして600W電子レンジにて5分加熱し、3分放置して蒸しましょう」
「この時、ジャガイモは水に浸さずにジャガイモ本来の水分だけでふやけますので水につけてしまいますと水っぽくなってしまいますので注意です」
「その間にブロックベーコンを2センチ角に切って、フライパンには事前にバターを熱して、解けたところに粉コンソメを加えましょう」
「フライパンが温まったらベーコンを投入して焼き色を付けましたら、ふやかしたジャガイモと混ぜ合わせます…あとはしっかり混ぜ合わせ、皿に盛り付けたところに粉チーズとパセリを振りかければ完成です」
「んん~いい香りですね~…本日はブロックベーコンと新じゃがで作る『ジャーマンポテト』でした。それではまたこのお時間に~」
―ビーコン―30分クッキング―終―
球状態のフィールドが消失するとゴジラは我に返って辺りを見渡した。
「なんだ?俺は一体、いままで何をしてた?」
「あれ?ボク、何してたんだろう…えっ、なにこれ?」
アギラも我に返って見るとその手には何故かホクホクに湯気立つ出来立てのジャーマンポテトがあった。
しかし、その場にビーコンは既にいなかった。
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一方のビーコンはフワフワと東京上空を飛びながら更なるベーコンの布教を画策して電波を中継する電波塔たる東京タワーへと向かっていた。
「あなたはどうやら御存じないようですが…東京タワーからの受信放送は2011年7月24日をもって終了されていますよ」
ビーコンが声を掛けられビクッと反応を見せるが…ビーコンが居る場所は上空数百メートルに位置する人間が居るはずの無い地点である…にもかかわらず、人間の声がすることに驚いている。
「少々、おいたの度が過ぎましたね…私もこれ以上のあなたの行動を見過ごすワケにはいきません」
ビーコンが目撃したのは…自分には浮遊能力があるのに、その者はまるで何もない空中を何も用いずにまるで地面を踏みしめているが如く優雅に同じ地点を歩いていることだった。
そして、その者の顔を見れば誰であるのかすぐに分かった…あの時、左肩に髪を垂らした少女の側にいた男、朝から誰も自分を認識しなかったにも関わらず誰よりも先に自分を認識した男、一見は普通の人間のように擬態しているが明らかに人間ではない気配があった。
曰く、人間でもなければ生物生命の気配も無いビーコン以上に謎の存在だった。
【フゥー アー ユー?】
「私が誰かですか?…そうですね、しいて申しますと…私は嘗て“神”だった者とでも申しましょうか」
その者は突如として純白のスーツから形状を変化させ瞬く間にこの世の者とは思えない別の存在へと変化した…その光景を目の当たりにしたビーコン自身、それが認識する世界の最後の光景だった。
・
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―GIRLS付近・河川敷―
消えたビーコンを探してアキ一人で探し回っていた。
丁度、その時…アキのソウルライザーから着信が入った。
「はい、もしもし…どうしましたピグモンさん?」
『あっ、アギアギ…気を付けてください…なるべくお一人で行動するのは控えてください…見つけたら、すぐにご連絡を御願いします、すぐに駆け付けますのでぇ…』
「ピグモンさん…無理しないでください、ボクは大丈夫なのでしっかりみんなと休んでいてください…じゃぁ、アギラ引き続き捜索に廻ります」
そういってトモミを安心させるやソウルライザーの通話終了ボタンを押してソウルライザーはポケットにしまった。
「はぁ…まさか、こんなことになるなんて…それにしてもどこに行ったんだろう…んっ?」
ビーコンを探し回るうちに辿り着いたいつもの河川敷で何やら香ばしい匂いにひかれて向かうと衝撃の光景が目に飛び込んだ。
「おい、ダグナ…もっと薪とサクラチップ入れろ」
「はいはい」
ユウゴたちが何やら焚火の上から狩人が獲物の肉を焼く時の手法と同じ要領で大きな物体を棒に括りながらじっくりと回し焼きしていたが…肝心の回し焼く物体は何を隠そうもビーコンであった。
「ふぁぁああああああッ!?何してるのさぁあ、二人ともぉお!?」
慌てて走り出して焚火の上から木の棒で括りつけられて回し焼かれるビーコンを助けに向かった。
「おう、アキ…もうすぐ上手に焼けそうだから待ってろ」
「焼かないよ!焼かないでよ!かわいそうじゃないか!!」
「おや、よろしいのですか?…この生物、見た目に反してかなりえげつない能力を有していますが?…現にあなた方GIRLSはこの生物1匹にほぼ壊滅寸前ではありませんか」
「それでもダメなものはダメ!焼くとかナシ!」
アキはとにかくビーコンそのものをベーコンの様に燻し焼きにすることを拒否して助けた。
結局、解放されたビーコンはなぜか全身真っ白になるほどの強烈な何かを体験した後だった。身体が小刻みにブルブルと震えて赤い目からは大粒の涙が零れていた。
「二人とも酷いよ!確かにGIRLSへ迷惑をかけたかもしれないけど、やりすぎ!怖いよ!ボクの身近でこんなことしないでぇッ!!」
アキは縄を解いて解放されたビーコンを解放しながらもブルブルと未だトラウマ抱くビーコンを慰めた。
「君も、もうこんなことしないで…本当は好きなベーコンのおいしさを広めたかっただけでしょ…でもしつこく押し付けちゃダメだよ、いい…でないと次は本当に君がこの人たちにベーコンにされる番だよ」
優しく慰めてくれるアキの後ろでユウゴは頭をゴジラに変化させて口から放射熱線を吐いて焚火もビーコンを吊るしていた支え木も跡形もなく焼き消してさらに大きな火柱が上がった。
【イエス オーケー ノット プッシュ!!】
「わかればよろしい」
結果、ビーコン騒動はアキたちの奔走で収束する事になった。
・
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結局その後、アキの自宅兼セーフティハウスでペットして買うことになった。
「ビーコン!お酒とベーコンのすもも漬け掛け~」
【ヒューィアー ベーコンプラムソース】
酔っ払い探偵も付属して…
「ペットにしては大きくない?」
ますます謎が深まる謎の珍生物『ビーコン』、その生物が何者なのか本人のみぞ知る所であった。
アンバランス小話
『悪夢』
結局、アキの家で飼うことになったビーコンだが…アキは未だに警戒心が拭えなかった。
「……いい、変なことしないでよ…ボクはもう寝るからね」
【グッド ナイト】
アキは部屋の電気を消して布団の中に入り、眠りに着くのであった。
―…チャァァァッ…
すると、暗闇の中で何かチャックのような物体が擦れる音が聞こえた。
すると…ビーコンの背中から何かが出てきていた。
『Ⅰ‘m Beacon Eat to the Bacon』
「うっ、う~ん…」
アキの耳元からとても流暢な英語でささやいてくる何者かにアキは目も開けられず…ただ魘されるばかりであった。
そして…
●
―スパァアアン!!
大きな音と共にアキは飛び起きると部屋の電気が付いて息を荒げるミオの手にはスリッパ、目の前には額にたんこぶを浮かばせるビーコンがいた。
「変な夢を見せるな!!」
どうやらアキたちの脳に直接悪夢を見せていた張本人がシバかれただけであった。
謎生物ビーコン…謎はより深まるばかりであった。
【アイム ビーコン イーツ トゥ ザ ベーコン】