TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―警視庁管轄某署―
アヴァロン・ユニット分駐所
「こっ…コレは一体どういう状況ですかッ!?」
対シャドウ戦力として警視庁に新設された特殊機動実験部隊『アヴァロン・ユニット』、そんな部隊組織をまとめ上げる女性隊長“御前トモエ警部補”は衝撃的光景を目にした。
警察組織内での『アヴァロン・ユニット』はその迅速な初動対応が求められるべくして設けられた部隊専用駐留所である“分駐所”…そんな部隊にとって英気を養う場所である分駐所内では見た事のない散らかり具合で荒らされていた。
「コラァ!スカルッ!!一体、いつまでお風呂に入らないつもりですか!!」
「フシャァアアア!!」
どうやらユニットオペレーターの沖田がバスタオルを大きく広げて宛ら闘牛士の様な構えで相対している相手が原因だった。
「はぁッ~……この分駐所はいつから託児所になったんですか、緒碓警視」
「おや、本庁からわざわざご苦労様です」
散らかった分駐所内で優雅にコーヒーの一服を済ませている緒碓に向かって御前は彼の席にバンッ!と手を広げ叩きつけた。
「警視!また警察内部に圧力掛けましたね!!今度はどんな脅し文句を言ったんですか!?この分駐所に怪獣娘を匿っている事と関係が御有りの御様子でしたよッ!」
御前は緒碓が警視庁に対して『アヴァロン・ユニット』が怪獣娘を分駐所内で匿うにあたって仕掛けた圧力的情報操作をしたことを問い詰めた。
「私たちは“実験部隊”なんですよ!!こんな部隊、息吹きかければ吹き飛ぶような紙っぺら部隊に見ず知らずの怪獣娘を置いているほど余裕はありません!!」
「しかしながら、彼女は木城巡査長に助けられたこと以外の記憶がない…それ以外は極普通の子供と変わる所もありません」
「大有りです!!特に怪獣娘と言う時点で私たちでは扱いきれません、私が本庁へ掛け合ってすぐにあの子をGIRLSに引き渡すことを提案しても『人道的配慮』だの『道徳的支援』だの…挙句の果てには『怪獣は地球よりも重い』ですってぇええ!!預かるこっちの身にもなれないんですか!?」
御前は散々上層部のスカルゴモラに対しての超法規的措置に対する鬱憤が爆発寸前であった。
「上層部も浅はかですね…未だGIRLSにしか扱え切れない怪獣娘を自分たちでも保護管理できないかと言う愚直な方針決定でしたよ…いかにも警察組織がGIRLSに対して懐疑的な面を持つ方々の寄せ集まりでしたから、煽るのが簡単でした」
「いい加減にしてください!あなたは警察をなんだと思っているんですか!?ここは託児所でもなければ、飼育園でもありません!!それから沖田巡査長、早くその子を捕まえてください!!」
「できる事ならやっていますッ…ああっ!!」
御前にどやされた沖田は振り返って返答した隙にスカルゴモラは沖田の股下を潜り抜けて縦横無尽に飛び回った。
棚から棚へ、ユニット員たちのデスクからデスク、ホワイトボード、部屋にある何から何まで鋭利な爪で引き裂いてスカルゴモラは逃げ回った。
「I would like to have 300 dozen 12.7mm bullets in stock, please OK? Thank you ロンランスの弾薬供給確保できました…って、うわぁぶっ!?」
スマートフォンで海外商会を通じて武器弾薬の取引を取り付けた補給担当も兼ねたユニット員の坂本の顔面にスカルゴモラが飛び乗って彼を踏み台にした。
「坂本さんッ!?おのれ、よくも坂本さんをぉお!!」
「もぉお…肝心の木城巡査長はどこに行ったぁあ!!」
すべての現況を生み出した男を名指して御前は吠えたが…分駐所内に居ない者を吠えても本人には届いていなかった。
「彼なら今は署内の捜査資料室ですからしばらくは帰ってきませんね」―ズズズッ…
荒れ狂うユニット員たちの傍らで緒碓は深いコーヒーを口に含んだ。
―分駐所在中警察署内・捜査資料室―
分駐所が所在する警察署の一部屋に設置された部屋一面の半分を占めるスーパーコンピューター並みの大きさの警視庁のデータベースにアクセスできる端末が全部で5台を1台のノートパソコンに繋いでキーボードに対して一糸乱れぬ素早いタイピングで木城が目的とする調べが進められていた。
「………………」
驚異的な集中力で木城が調べる内容は『八之島事件』と言う警視庁が管理する指定重要未解決事件に該当する事件で一般には一部のみ公表され、捜査内容に関する事件解決のための証拠資料などは警視庁が厳重に管理していた。
(なぜ…自分は今更こんな事件について調べようとしているんだ?)
それは木城でも分からなかった。事件概要は大まかに今から3年ほど前にさかのぼる…
東京都から千葉を挟んで館山湾外よりフェリーで片道2時間ほどの距離に位置する1つの島の周囲に7つの離島で構成されたことに由来するため『八つの島』とも呼ばれていた。
ところが3年前の9月7日午前14時42分より小笠原警察署より入電、『八之島上空に巨大な積乱雲が発生している』と地元の漁師から通報がキッカケだった。
同日午前15時14分、小笠原警察署より捜査員が八之島の中心『蜂須町』に到着、島内は島唯一の町であったが…島民の半数近く消息が忽然と途絶えていた。世帯住宅にはつい先ほどまで生活をしていたかのような後が残っていたり、不可解な現場であったことが当時制作された調書のコピーに記されていた。
「…この事件、やっぱりおかしい…どこを読み直しても…“あのこと”が掛かれていない」
この事件に木城が関わっていないワケではなかった。当時19歳の彼はまだ警察学校を出たばかりの新米警察だったが、当時親戚が住む八之島に帰省していた。
つまり、木條は…事件当時八之島にて発生した事件の渦中に居たのであった。
(この事件は自分が警察官として信じられないような経験をした。 あの日…積乱雲なんか起きていない…もっと大きな…そう、台風の様な嵐が島の上空に出現していた)
木條の記憶の中で蘇るのは…未だ初夏の熱さが消えない島の中で突如発生した強い突風が巻き上がるほどの大きな雲の中で海に囲まれた島の中の町全体を水浸しにして人々を呑み込んだ。否、それはまるで人が海水に変わってしまったかのように…■■■―□□□…◇◇◇…
「ぐっ…まただ…なんだ、どうして自分はこの記憶を思いだそうとしていつもこうなる…」
まるで誰かにこれ以上思いださせないように木城を抑制しているような電流に近い衝撃が身体を走って再度記憶が途切れた。『八之島事件』、その最後の備考欄には『島内施設及び居住地に浸水あり』と記載されていた。
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都内 住宅街
「ひやぁ~色々買いすぎたねぇ…アキちゃん」
「うんッ、まさかパーティーのためにここまで買い揃える必要があるなんて…」
アキたちの自宅マンションから数キロ圏内のスーパーから様々な食材や使い捨ての紙食器やプラスチックフォークにスプーンなどをミオも付き添いで買い出しに訪れていた。
「GIRLSのみんなでパーティーねぇ…そんな楽しそうなことをお姉さんに隠してたなんてぇ~言ってくれれば前もって色々な所を回れたのに~」
「だってミオさん、言うほど経済力無いですよね」
「痛いトコ突かないでよぉ…結構気にしてるんだからね」
会計を終えた荷物をエコバックに詰めるだけ詰めて手提げ紐を肩にかけるとアキは『よいしょ』と言って普段持ち慣れない物にフラつきながらもなんとか持てた。
「あとどれくらい必要なの?全部で何人分?」
「ええっと…GIRLSで来れる怪獣娘が大体20人くらいだから…」
「そんなにッ!?一日中お店を行ったり来たりしないと間に合わないよ…」
今日一日中買い出しに歩き回ることに落胆したミオだったが…そこに思いがけない人物たちと鉢合わせることになった。
「あれ?アギちゃん!」
「ごっ、ゴモたんに…みんな!?」
通りがかりに出くわしたのはミカヅキを始めとした大怪獣ファイトの関係で集まっていたGIRLSの怪獣娘たちだった。
「あれッ?ゴモラじゃん」
「えっ…えええっ!?ベムラー姉ちゃん!?なんでアギちゃんと一緒にいるの!?」
「ミオさんとゴモたん、知り合いなの?」
「そうやでぇッ、ベムラー姉ちゃんはねぇ……定職に持つかず昼間から新宿をプラプラしてるか、お酒を飲んでいるか、朝には自販機に頭を突っ込んでる人?」
「ちょっ!?私の印象悪すぎないゴモラッ!?…でも後半は事実なのが辛いぃッ」
あまりにも顔見知りとは思えない印象を抱かれている事に驚愕したミオは弁明しようにも過去に自分が仕事の成功の度に飲んだくれた時の恥ずかしい飲み方をした時に起こりがちな不思議な事である以上、否定のしようがなかった。
「…ベムラーって確か始まりの怪獣娘ですよね…なんでそんな人がアギラと一緒に居るんっすか?」
ミカヅキのミオ印象で話が脱線したことを修正したベニオが代わりに尋ねた。
「ふふふっ、よくぞ聞いてくれたわね…実はこの度、私とアキちゃんは家族に為りましたぁ~」
とんでもない爆弾発言にアキは目を丸くしてミオの顔を二度見した。そしてその言葉の意味を履き違えた怪獣娘たちも目を丸くして驚愕した。
「どういうこと!どういうこと!?ベムラー姉ちゃん、アギちゃんが家族ってどういうことなん!?」
「まさか…アギラのお兄さんと…そういう…」
「うわぁ~アギちゃ~ん!説明してェええ!!」
「こっちが叫びたいよぉおお!またあらぬ誤解が生まれたぁああ!!」
驚愕するミカヅキ、考え込むベニオ、取り乱すミク、そして一番の被害者であるアキも混乱させていた。
「フフフッ、やっぱGIRLSの子らってオンモシロッ」
「笑ってないで弁明してくださいよ!」
まるで元凶は他人事のようにこの状況を楽しんでいる様子にアキの額に血管が浮き出た。
「はははっ、ゴメン…久しぶりにゴモラたちの顔を見たら楽しくなったけど…私とユウゴ君はそういう関係じゃないよ、近しい間柄だけど弟くらいにしか思ってないから」
「ホンマに?」
「お姉さんは嘘を言わないよ…たぶん」
信憑性の薄いミオのそこはかとない自信に半ば半信半疑だが…
「それよか、アギちゃんたちは何しとったの?」
「ウンッ、ゴモたんが提案してくれたパーティーの件で買い出し…ボクとミオさんだけじゃ人手が全然足りなくて…」
それを聞いた瞬間にGIRLSの怪獣娘たちは目をキラリッと光らせてミカヅキが代表してアキの両肩を掴んだ。
「アギちゃん…なんでそんな大事な事、言ってくれないのさぁ!!誘ってよ!誘いなよ!ていうか誘ぇぇええ!!」
ミカヅキの言葉に同意するように皆がうんうんと頷いた。
「えっ、でもゴモたんたちGIRLSの仕事は?」
「ウチらGIRLSのイベント終わりにアギちゃん家に遊び…んんっ!ゴモたん突撃となりのウチしようとおもてなぁ~」
「隠そうとした本性が隠せてないよ…本心バレバレだよ」
不自然にアキの家近くのスーパーにたまたま出くわした仲間たちの様子から見ても彼女たちの目的は明らかに『アキの家』であることは明白だった。
「まぁまぁ…結局家庭訪問未遂じゃねぇか…みずくせぇこと言わず、何なら買い出しも手伝ってやるよ」
「アギちゃん、何ならウインちゃんも呼ぼう!みんなでやればすぐに終わるよ!寧ろみんなの力あってのパーティーにしようよ!」
みんなの建前は“パーティーの準備”だが、本来の目的の意図に何らかの悪意を感じ得ないアキもまた半信半疑だった。
「はぁ…もう分かったよ、ソウルライザーでリスト送るので買い揃えたらお兄さんの店に来てください」
全員同意するなりそそくさと各自分かれてアキがメッセージアプリで送った画像添付ファイルを参照にスーパー内へと散らばって行った。
「さっすがアキちゃん…みんなの扱いがうまいねぇ~」
「別にそんな人を顎で使うようなことじゃないですよ…それより、お店にゴモたんたちが来そうだからお兄ちゃんへ先に伝えましょうか」
「ソレもそうね、みんなお店の場所知っているんでしょ…私たちはお店に先に荷物を置きに行きましょうか」
アキとミオは先に買い物を済ませた自分たちが抱える荷物を持ってユウゴの店へと向かった。
BAR『1954』
「お兄ちゃん、ただいまぁ~…後でゴモたんたちも来るからさぁ~…ってアレ?」
「居ない…わねぇ……さっきまで居たのに?」
アキたちが買い出しに行く前はユウゴが変わらず店で呼ぶ気も無い店の手入れをしていたが…綺麗にふき取ったバーカウンターにテーブル席、そのどれもが埃一つないほどに綺麗に清掃されていたが…肝心の清掃した張本人が居なかった。
「出かけちゃったんですかね?」
「う~ん…だといいけどねぇ」
ミオはアキが荷物を置きに厨房へと入っていく様子を見計らってから床に座り込んで床に付いた埃の足跡を確認した。
(身長170センチから180ほど…サイズは27から28センチの男性用革靴、少し大柄だけどユウゴ君ほどではない、ダグナさんでもない、ビーコンは論外、明らかに私が知らない人間の痕跡があるわ)
ミオはその見慣れない足跡から推察して立っていた位置から移動場所、果ては最後に出て行った際の拍子に無意識にドアを開ける際に触れた壁についた指紋の大きさから手の大きさまで把握すると彼女の脳内で見知らぬ人物から見える人の形さえも形成してイメージが沸き上がった。
(ユウゴ君がわざわざ警戒も無しに人を招くはずがない…顔見知り?…一体誰ッ?)
しかし、人のシルエットが分かっても顔や人物の特定まではいかなかった。だが、明らかにその人物が要因でユウゴが店を開ける必要があるほどの用事が出来たとミオは見抜いた。
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―早朝・午前5時頃―
早朝の朝早くに店を訪れたユウゴは店の前に立ってポケットから鍵を出して鍵穴に挿入すると…違和感に気付いた。
(鍵が…開いている)
昨日の時点で締めていたはずの鍵が開いている事に気が付いたユウゴは中に誰が居るのかをドアに手を触れて超感覚を研ぎ澄ませ確認すると内部に3人の気配を察知した。
(……3人…いずれも訓練された人間の気配…ここへわざわざ押し入って来る連中と来たら…)
ユウゴにはその気配が誰なのか瞬時に理解して罠ではない事を悟るなり警戒心なくいつもと変わらずドアを開けて店に入って行った。
中には先に店へ入ったユウゴのほかに3名の得体の知れない男性が居座っていた。
「…戸締りをしても侵入されるような店にしたつもりは無いがあんたら不躾にもほどがあるんじゃないか?」
「お前に不躾と言われる日が来るとはな……久しいな、ユウゴ…3ヵ月ぶりか」
「…なんの用だ、大佐」
男たちの1人は40代ほどの中年男性だが、その表情から肉体的年齢との差は比較的に見ても若々しい印象のあるスーツ姿の似合う男がテーブル席に腰かけていた。
ほかはユウゴに『大佐』と呼ばれる者以外に若年の部下と思われる男と、全身から顔に至るまで黒いスーツと黒い目出し帽に目元を戦闘用ゴーグルで覆い隠す正体を晒さぬ者で構成された『軍人』関係者のようであった。
「今は『大佐』ではない…防衛省勤務の官僚と言う立ち位置だが、有事の際は本職に戻る場合もある」
「そんな事を言うために俺の店を泥棒紛いな事をしてまで訪ねて来たワケじゃねぇだろ」
ユウゴは普段通り店の食器や品のチェックをしながら『大佐』に要件を聞き耳立てた。
「話が早くて済む…早速本題だが、先日にサンフランシスコを出港した『マイケルシールズ号』について話そう」
そういうと『大佐』は若い部下にパソコンを開かせてユウゴに見せた。
「5000トン級、客船型巡洋艦…名目上は民間の客船として運用されるが非常時の際は『海のプライベートジェット』として機能するれっきとした軍艦だ」
「所属はアメリカ海軍と言った所か…唯の豪華客船と言うワケではないだろう?」
「そうだ…通り名どおり、この船は“大統領”も乗船することも想定されて建造された船 しかし、今回は大統領を乗せて航行はしていない」
「じゃぁ誰が乗っていると?」
「正確には“移送”していると言った方が正しい…お前も知っている“J-1973”を日本への配置計画の為に軍用艦でわざわざ“配送”の手配までした徹底ぶり…だった」
『大佐』の口ぶりは過去形に変わって『マイケルシールズ号』に起きた事の顛末の詳細を語り始めた。
「ここからが問題で…マイケルシールズ号は太平洋を横断するにあたって経由にハワイのアメリカ軍基地に入港、その後オーストラリアに入港、そしてそのまま日本の横須賀に入港予定となるハズだった…ソロモン海を抜け、日本の経済水域に入ったところで通信途絶、現在は小笠原諸島付近に停船した状態であることがアメリカ軍の衛星で確認された」
パソコンの画像から小笠原諸島の目鼻先に停船している証拠が出てきた。
「原因はなんだ?船舶トラブルでもないだろう」
「察しがいいな…問題はオーストラリアに入港したこと時点だった。 本来乗船時には現地で日本まで航行するための補給物資などの運搬時に“紛れ込んだ”と言うのがアメリカ側の見解だそうだ」
「何が紛れ込んだって?」
「ネズミだよ…それもとびっきり大きな武装した密航ネズミたちだ。 オーストラリア連邦警察がマークしていた過激環境保護組織『サハラウルフ』、一昨年に『荒野の狼』と言う多国籍NGOの環境保護団体の中で軍事的に組織された下部組織が結成、表向きにはオーストラリアのPMC会社として別名義で登録されていたが…どうやら食料品などと共に人員入れ替え時に紛れ込んだと思われる」
それを裏付けるかの様にオーストラリア国内の湾港ドック内で記録された防犯カメラ映像には護衛として乗り込むには高い武装力を誇る連中がマイケルシールズ号に乗り込んでいた。
「そんな連中がなぜチェックもスルーして乗船できたんだ?」
「現段階では究明に至っていない…が、動機は判明した。 目的はこのマイケルシールズ号に乗船するもう一人の“移送者”だ」
次に画像が切り替わると清楚な御嬢様と言った印象の女性の写真が出てきた。
「誰だ、そいつは?」
「クララ・ソーン、またの名を宇宙ロボット“キングジョー”の怪獣能力者だ 無論、国際怪獣救助指導組織所属だが…ソーン家は代々議会議員を輩出してきた名門の家系だ、現ホワイトハウス内にもソーン家に関わる者も多いことから狙われるには最適な人物だろう」
アメリカ軍の艦船を拿捕した連中が狙っていたのは積み荷ではなく、GIRLSに所属する怪獣娘の身柄だった。
「なるほど、人間に手出しできない小娘なら…ということか?」
「もっと言えば国際怪獣救助指導組織への報復だ。 一昨年の航空機爆破未遂事件で活動制限となった『荒野の狼』は今年になって代表が変わり方針変更が起きた 団体は変わった代表の持ち込んだ兵力で武装化により過激思想一直線主義に変わった…そして、そいつもまた前線に出てきたわけだ」
監視カメラ映像から画像分析によって出現した情報にはICPO(国際刑事警察機構)からの指名手配情報が映し出された。
「アーノルド・フラクサス、無論偽名だろうが団体組織立て直しに1年も満たない間に規模を拡大させたヤリ手だ」
「ほう…それで、俺がそのマイケルシールズ号に密入国したテロリストとどう関わってくるんだ?」
「もう分かるはずだ…この一件を引き受けてくれ、ユウゴ」
「断る…俺に関わりの無い事だ、メリットがない」
「事は一刻を争う…すでにアメリカ軍がハワイ基地より艦隊を差し向けだし太平洋を横断してやってくる」
「だったら好きにさせろ…俺の妹を“安全”のためにと言う勝手な建前で拉致監禁しようとした連中の国のゴタゴタになど興味はない…そんな国と友好条約を結んだ覚えもないし、ましてや貴様らなんぞと友好を深める義理合も無い」
「合衆国側もその件で勝手にCIAを差し向けた国防長官を解任した」
「誰かに責任を擦り付けて国自体が責任を負う気が無いのなら変わらん…助けたければあんたら“地球防衛軍”でも出動させればいいだろう」
「ユウゴ、EDFはもう存在しないことぐらいお前も分かっているはずだ…今は解体されて世界各地の博物館に展示されているだけの世界軍隊の支援もあてにできない…もはや世界中の軍隊が総出になっても敵わない“力”にしか頼れない現状を理解してくれ」
「…それでも断る…あんたのお近くの部下に銃をちらつかせられてもな」
ユウゴがバーカウンターを拭く後ろで『大佐』の部下が懐に手を突っ込んでいる状況もユウゴが見抜いていた。
「なら、何をしたら協力してもらえる…」
『大佐』はもはやユウゴの要求を受け入れてまでも事態収束に全力を向けていた。
「……なら“白い家”の主に伝えろ…人様の妹を心配するよりテメェの命と国の安全だけを考えてろ、それが出来なきゃ俺が先にお前らをすべて滅ぼす…とな」
「引き受けてくれるのか?」
「もう二度と俺たちに関わらないと確約する向こう側次第だ」
「いいだろう、脅し文句も善処しよう」
『大佐』が席から立ち上がってそれに付き従う部下たちも合わせて動き出した。
「…尾崎大佐……あんたまた一段と老けたな」
「ふっ…デスクワークが性に合う歳になってしまったよ…M機関出身のミュータントとは思えないほどに今は“人間”をしている……それじゃぁユウゴ、あとは頼んだぞ」
「言われるまでもないが、片道切符を用意しておけ」
「“白い家”から出させておく…“怪獣王”が動くとなれば喜んであの国は核爆弾でも差し出すさ」
そういってユウゴが『大佐』と呼ぶ尾崎と言う男は部下を引き連れてユウゴの店を後にしていった。
「…お話は済みましたか?」
ただ一人、ユウゴとは別にアキたちが住まう部屋に通じる従業員出口から出てきたダグナを除いては…
「ダグナ…アイツは」
「アキさんのことはミオさんにお任せしております…いつ頃にご出立ですか?」
「今日にもだ…あの様子だと今すぐにでも行けと言う感じだろう」
「…わかりました、ではMONARCHにも手配させましょう…事によっては“彼ら”も招集をかけて現場合流をさせておきます」
ダグナはバーカウンター裏のカクテルシェイカーが並べられた棚の横側を引いた引き出しからパソコンを取り出して開くとすぐさま起動してどこかに掛け合った。
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―16:45 小笠原諸島『南鳥島』―
「お見えになれますか?ユウゴ君」
「ああ、ココからでもバッチリ見える…ご丁寧に南鳥島から見える位置に停船している」
ユウゴとダグナが居る場所は日本の最東端に位置する南鳥島である、面積僅か1.51キロメートルしかない上空から見れば三角形状の離島である。
「準備完了しました 逸保志ダグナさんは至急指揮所へご動向願います」
「了解しました…ではユウゴ君、手はず通りに…」
ダグナはユウゴのバーに現れた尾崎と行動を共にしていた部下の1人に案内され向かった。
その場にはユウゴ一人が留まって誰も居なくなったところを見計らってゴジラに変身して南東側に位置する砂浜から海へと飛び込み潜って行き、『マイケルシールズ号』へと先行して行った。
―南鳥島・作戦指揮所―
「お待たせしました…先ほど先発としてゴジラがマイケルシールズ号に向かいました」
ダグナが入った作戦指揮所として機能する設営テント内は無数の電子機器に高品質デバイス、ソリトンレーダーシステムによる衛星回線を通して映し出されるマッピング情報を随時流すプロジェクターから投影したホワイトスクリーンに着目する4名のMONARCH職員が在中していた。
「さすがジュニアね…仕事が速いわ」
ゴジラの事を“ジュニア”と呼ぶガスマスクをつけたポニーテールの女性が腕を組みながら席に座っていた。
「ミキさん、作戦中はガスマスクを外してください」
ガスマスクの女性“ミキ”に首から勾玉のネックレスを付けたショートカットの女性が作戦中にマスクを外すべきと主張した。
「ゴジラ、間もなくマイケルシールズ号に接触」
ソリトンレーダーからゴジラの動きと連動するアイコンがマイケルシールズ号のアイコンと徐々に接近していることをオペレーションするイギリス人女性がパソコンを使って到達予想時刻を算出した。
「よぉ~し…それじゃあ早速、“ガンヘッドギア”の出番だね」
更にオペレーションするもう一人は若年ながらも近視ゆえに眼鏡が必須な成人男性が張り切って指を重ねて伸ばしながらストレッチを済ませるとパソコンに向かってキーボードから情報コードを入力した。
―マイケルシールズ号から75メートル地点―
―チャプンッ…
ゴジラは水面から顔を出して艦船の全体像を視認すると…見た目は確かに民間の客船相当に匹敵する大きさの船だが、客船は本来大人数を収容して長い船旅を航行するために規模が拡大する傾向にあるため5000トンクラスの客船は実際“中型”に属する。しかし、軍用として見るならば5000トンクラスは巡洋艦並みの質量を誇るため『マイケルシールズ号』とは大統領を乗せる事さえも設計されているならばそれ相応の武装も確認できる。
(滞空防御用のファランクス…対潜水艦用324ミリ魚雷…電子戦装備……なるほど、要人護衛用には十分なスペックだが中から入られちゃ元も子も無いか…)
ゴジラは瞬時に艦船の戦力を分析して確認した軍用客船の様子は警備が殆ど認識できないほどに不気味な物静けさだけが“無人”を表している。
『あーあー、聞こえるかいゴジラ』
ゴジラの耳元で電子音と共に頭の上を這うようにして起動した自立行動を可能とする小型のロボットがゴジラの顔をレンズに通して映し出した。
「…オタケン、よく聞こえるよ」
『最新のGマシーンの調子は良好だね…新型の『ガンヘッドギア』、君の潜入をサポートするために君自身の頭部に合せる形で設計したから一苦労だったよ』
ロボットの二足歩行形状はゴジラの手の平でも収まるほどに小さな体格ながらも機敏な動きを見せているが本来はゴジラの頭に文字通りの“ヘッドギア”として機能する優れた能力を兼ね備えた支援デバイスとして機能していた。
『暗視ヴィジョン、赤外線スコープ、望遠レンズ、すべての機能を搭載して随時僕たちの指揮所にリアルタイムで受信するから本作戦を全面的に支援するよ』
「いつも悪いな…オタケン」
『う~ん…相変わらずその呼び方どうにかならないのかい?僕にもちゃんと“山根ケンキチ”って名前があるからそっちで呼んでほしいよ』
「毎度変質染みた発明をしてくるヤツのことをいまさら名前で呼んでも無理がある…その分、信頼はしているから頼りにはしているぞ“オタク・研究者”」
『それで“オタケン”って呼ばれるこっちの身にもなってほしいよ…とにかく一旦、乗船してくれないかい?』
小型ロボット『ガンヘッドギア』を通して会話する“オタケン”こと山根ケンキチの提案で一旦船の側面まで泳ぎ近づいたゴジラは船体に取りついて手の平を大きく伸ばしながら爬虫類の様に這い上がった。
「よし、船内に侵入したぞ」
『妙に静かだね…オーストラリアで人員入れ替わりから推察される人数は20人ほどと推算してたのに…誰も警備に当てられていない』
ゴジラとガンヘッドギアは船内の遮蔽物に隠れた。
「一応、確認だが…犯行声明は上がったのか?」
『まだ一度も…『荒野の狼』側からも一切声明がない』
「サハラウルフと言う部隊は下部組織じゃないのか?」
『というより、独立愚連隊だね…やっていることは環境活動とは名ばかりの企業脅迫と破壊工作、それを実行する“戦術行為”を専門とする部隊みたいだ…一昨年の事件の様な素人の犯行からプロの犯行に切り替わったようだね』
そんな敵がうろついているはずの船内をゴジラとガンヘッドギアは音も立てずに船内へと進んだ。
「オタケン、人質の場所は?」
『ちょっと待って…今、赤外線でスキャンしている…――…いた、どうやら船内の広いフロア内で固められているみたいだ』
「敵の数は?」
『ざっと20名前後がフロア内を囲んでいる…武器も形状から察するにAKタイプの銃火器と判別の難しい大口径火器の重武装兵もいるみたいだ』
ゴジラはガンヘッドギアがスキャンした最奥のフロアへ侵入するために辺りを見渡すと通気口が目に入るなり、ゴジラは飛び上がって通気口を抉じ開けた。
『そこから入るのは良いけど…君、背ビレ大丈夫なの?』
大きさから見てもゴジラの背ビレがどうしても邪魔をして入れそうにもないが…
「変身を解けば問題ない」
ゴジラは本来のユウゴとしての姿に戻って通気口を腕だけゴジラに部位変化させ抉じ開けると船内の更に奥へ侵入した。
『あぁ~…すごいね』
ユウゴは僅かな隙間しかない狭い通気口をまるでトカゲの様にして身体を押し込んで進んだ。
―船内・貨物室―
船内の更に奥に位置する貨物室へとたどり着いたユウゴは再びゴジラに変身してガンヘッドギアと共に格納されている装甲車両や重武装車両などを遮蔽にして隠れながら進むと、最奥のフロアに通じる通路では外からでは確認できなかった武装したテロリストがウロウロと警戒警備を行っていた。
「ようやくシージャックっぽくなってきたな…」
『ここから向こうのフロアに人質約30名以上がいるみたいだ』
赤外線スキャンで確認した正式な人数は船を操作するために必要な人員数と乗船者を合わせた把握できる人質の人数だが…
「おかしい…そんなに少数か?兵士はどうした?」
ふと人数の中にアメリカ側が用意した海兵など警護要員の整合性が合わない事に気が付いた。
「全員の心拍数…軽く見積もっても130前後…緊急時の人間の緊張性鼓動ばかりだ、冷静な者が1人もいない」
ゴジラの超感覚で目を閉じ、耳を研ぎ澄ませると最奥のフロアに監禁されている人たちの心拍数を耳で聞いても違和感があった。
『なんだって?…確かに訓練された人間であればこういった状況でも90前後、なのにここには兵士と思えるような人物の心拍数がないとしたら…全員民間人だ』
仮にもアメリカ海軍保有の『海のプライベートジェット』と称される艦船に護衛として在中する兵がいないことに気が付いたゴジラだが…―ピシャッ―…
「?…なんでここだけ水浸しなんだ…」
足元は密閉されている船内であるにも関わらず妙に濡れていた。
『あっちにも…』
ガンヘッドギアがレンズをズームさせて検知した水分…それはゴジラの足元だけでは無かった。
「……妙だ…何かがおかしい」
船内で足元に水たまり、少なすぎる人質、そして…兵士たちの“ある特徴”にゴジラは既に気付いた。
―船内中央ブロック・大広間―
そこは本来要人などが船内での寛げるために設計された部屋だったが、今は武装して顔を隠したテロリストたちが銃を抱えて人質を監視していた。
「オーマイガー…ソウルライザーさえあれば、こんな連中すぐにデストロイデース」
人質の一人には淡いブラウンの長い髪と清楚な学生服のような出で立ちの少女が何もできない今の自分に置かれた状況に苛立ち始めていた。
「ちょっ、クララ!妙な気を起こさないで…犯人を刺激しちゃうと全員に危害が加わるわ」
「そうです、ココはまず出方を伺いましょう」
そんな力には力で対抗しようとするクララと言う少女に落ち着きを促す青髪と赤髪の少女2人もいたが…
―バツゥン!!―
突然、人質たちとテロリストが密集する大広間の照明電源が消えて広間に闇が押し寄せた。
「きゃぁッ!」「なっなに!?」「ワッツ!?」
何が何だか分からない3人の少女たちと乗組員たちに中で突然に襲う暗闇に動揺が走った。
すると、部屋の天井から何かが落ちて来たような音が聞こえると…
「全員伏せろッ!!」
突然の声に全員が戸惑いながらも声に従って身を屈めた瞬間だった、淡く白い何らかの照明よりも明るく光る物体が…一気に発光したのちに無数の光線を放ってテロリストたちすべてに直撃させた。
テロリストたちはその何かに銃を向ける間もなくピクリとも動かなくなって沈黙した。
再び大広間の電源が復旧すると照明が点灯して全貌が露わになった。
「あんたらが人質か?」
「あっ…あなたは?」
困惑する人質と少女たちは突然姿を現した潜入任務用に調整されたラバー素材のスーツに光学電子装備で身を固めたユウゴに驚いていた。
「俺はあんたらを救助するように遣わされた者だ…オタケン!」
ユウゴが声を上げて天井の通気口から降り落ちてユウゴの手の平の上で回るように着地した。
「ワァオ…ベリーキュートなロボットデスネ!」
『可愛く作ったつもりは無いけど…お褒めの言葉、恐縮です。クララ・ソーンさん』
「ワァッツ?スモールロボットから声がシマース」
『初めまして、と自己紹介している時間は無いのでここから先は僕が案内させていただきます…じゃぁユウゴ君、後は僕に任せて』
「ああ、任せる前に…クララ・ソーン…あんたに一言聞いておきたい」
「ワッツ?いきなりなんデスカ?」
「あんたがGIRLSの“最高幹部”か?」
「イエス!GIRLSの怪獣娘をまとめるのも一苦労デース」
「クララが最高幹部?」「最高幹部って何?」
クララは肩を透かして自分がユウゴの言う幹部の一人だと答えたが肝心の仲間である青髪と赤髪の少女は何のことだか理解できない表情だったが…―チャッキン!―…
「……ワッツ?」
―ドドドドドドドドドドドドッ!!
突然、ユウゴは倒れたテロリストが所持していた床に転がっていたアサルトライフルでクララの腹部を集中砲火して弾丸が無くなるまで撃ち込んだ。
「くっ…クララ!?」
「なっ…何しているんですか!?」
「お前ら同じ組織の怪獣娘だろう…なんで気付かなかった。 こいつはお前らの仲間じゃない」
弾丸を腹部に撃ち込まれたクララを偽装する何者かは撃たれたことによる痙攣的発作を起こしているが…突然、彼女ではない何者かの口は不気味なほどに引き攣って笑っていた。
「ふっ…フフフフフフフフッ…アハハハハハハハッ!!」
「くっ…クララ…じゃないッ!?」
「まさか、私たちよりも後にアレがココへ監禁された時に…クララとコイツが入れ替わっていたって事ッ!?」
ユウゴは床に倒れているテロリストの顔隠しを引き剥がして見ると…その男の顔は『荒野の狼』の代表“アーノルド・フラクサス”だったが…
『確かにコレはアーノルド・フラクサスと“同じ顔”だけど』
ユウゴはアーノルド・フラクサスと思われる人物を足で転がしうつ伏せにさせると、指先をゴジラの指に変化させてしっかり振りかぶってアーノルド・フラクサスの背中から突き刺して背部より背骨と思われる骨格を掴み切って勢いよく背骨から頭蓋に至る部位を引き抜いた。
「きゃぁああッ!?」
そのあまりにもショッキングな行動に青い髪の少女が目を両手で隠したが…赤い髪の少女はハッキリとテロリストの正体を目にした。
「なっ…なんですかそれ?ろっ…ロボットッ!?」
ユウゴが抜き出したのは背骨から頭蓋に至るまですべてが金属とコードで構成されたロボットだった。
「どうやらテロリストも人手不足らしい…ここには“人間の”テロリストなど一人も居ねぇ」
ユウゴは抜き取った敵の正体をクララに偽装する何者かに投げつけた。
すると、クララに偽装する何者かはまるで飛んでくるのが分かっていたかのように飛んできたロボットの残骸をず外部からキャッチした。
「フフフフフフフフッ…ハハハハハハハッ!笑えるッ…笑える笑える笑える笑える笑えるゥウウウウウウウ!!」
クララを偽装する何者かが不気味な動きで立ち上がって笑い込み上がる狂気の発狂と言っても差し支えのない声を上げてきた。
「オタケン、全員を今すぐヘリポートに!早く行け!!」
『分かった!…さぁ、早くこちらです!!』
「はっ、はい!」
「ちょっと待って、ソウルライザー、ソウルライザー!」
『急いで!!』
赤い髪の少女が偽装テロリストの残骸からソウルライザーを取り返して、オタケンことケンキチが操るガンヘッドギアが全員を外へ誘導して大広間から脱出させた。
そして、その場にはユウゴとクララを偽装する何者かが残るだけとなった。
「……よし、さて…なんでわざわざICPOの手配書から“既に逮捕されていた”ヤローの顔を使ってわざわざ侵入した変装ヤロウッ!」
ユウゴはクララを偽装する何者かに既に逮捕され現在オーストラリアで裁判中のテロリストの顔に偽装して、今はクララ・ソーンに顔だけでなく体格から仕草までも完璧なほどに真似ていたが…彼女には該当しない情報をユウゴにブラフを掛けられボロが出た敵に問いただした。
「フフフッ…流石、怪獣王ゴジラ様の御眼鏡は伊達じゃないなぁ~…」
「フンッ、変装しておきながら俺に向けてくる殺気ぐらい気付かないほど馬鹿じゃねぇよ…テメェ、ここにいる人質ごと俺に襲い掛からんとばかりに殺気を出しすぎだ…少しは変装したヤツの素性くらい把握しておけ」
「じゃぁ…どんな御顔がお好みだぁ~?」
クララを偽装する何者かは突然クララの顔から先ほどまでいた青い髪の少女や赤い髪の少女、果てはミカヅキ、ベニオ、ゼットンとGIRLSで顔の知れている怪獣娘たちの顔に擬態し始めるが…最後に最もユウゴが顔を知っている顔に変わった。
「…お兄…ちゃん……ボクのことが…嫌いなの?」
淡い茶色髪を一束に纏め左肩から下げたサイドテールに眠そうな三白眼とあどけない幼さが残る童顔の少女の顔…敵はGIRLSでも世間に顔のほとんどを知れていないアキに為り替わった瞬間だった。
敵の目の前までユウゴはゴジラの姿に変身して敵の顔面を棍棒の様な太い尻尾で頭部を叩きつけると敵は大広間の隣、隣、隣、更に隣の壁を突き抜けて吹っ飛ばされていた。
「今、決めた…テメェとは初対面だが、生きていていいヤローじゃねぇッ!」
ゴジラに変身したユウゴをここまで怒らせたのは様々な怪獣娘に顔を変化させ、かつGIRLSの怪獣娘として顔もそこまで知られても居ないのにアキと自分の間柄までハッキリと知っている謎の敵に対して生かしておく理由がなくなったからであった。
アンバランス小話
『憧れ』
早朝の5時、この時間まだ多くの人々が眠りについている時間の中で薄暗い住宅街に赤き人影が歩いていた。
「ブラックの奴め…偵察任務を与えといて本人が起きない…結局、私がやるしかないのか」
赤いレインコートを着た少女は未だ日の光が現れぬ時間帯の町中で住宅マンションの裏手に周り、狭い道沿いを歩き進んでいった。
「確かここだな…まだ流石にヤツは現れないか」
少女はユウゴが経営するBAR『1954』が内在する扉の前で立ち止まるが…コツコツと地面に足音が聞こえるなりすぐに隣の換気扇に身を屈めて隠れた。
「…間違いない、ターゲットだ」
少女の狙いは店を訪れるユウゴだった。
ユウゴが扉を開けて中に入って行った所を見計らうとすぐに扉へ近づいて『1954』の店内の様子を伺うと…
「…戸締りをしても侵入されるような店にしたつもりは無いがあんたら不躾にもほどがあるんじゃないか?」
「お前に不躾と言われる日が来るとはな……久しいな、ユウゴ…3ヵ月ぶりか」
「…なんの用だ、大佐」
店内で繰り広げられるユウゴと大佐たちの会話に赤いレインコートの少女はフルフルと震えていた。
(ほっ…本物の特殊部隊の会話だぁああ!!)
彼女は顔を真っ赤にしてまるで思春期の子供が憧れのフィクションの様なシチュエーションを目の当たりにして偉く興奮している様だった。
(たっ…只者では無いと思っていたが…あの男もやはり元特殊部隊か…おそらく私なんかよりも優秀なのだろう)
赤いレインコートの少女は鼻息を荒げてユウゴたちの一部始終のやり取りを聞いていたが内容よりもいかにも特殊部隊たちの会話と言うレアシチュエーションに興奮していて盗み聞きとしては成立していなかった。
やがてユウゴたちの話が進み続け…
「言われるまでもないが、片道切符を用意しておけ」
「“白い家”から出させておく…“怪獣王”が動くとなれば喜んであの国は核爆弾でも差し出すさ」
ユウゴの元から『大佐』と飛ばれる初老の男性と付き従う部下2名が店を後に出てきた。
「………………」
「どうしたケニー?」
大佐の部下の一人の顔を隠す男が気配を察知して辺りを見渡した。
「………………」
脅威と感じなかったのか、男は首を横に振って大佐たちと共に帰って行った。
一方、一部始終を見ていて高まる興奮を抑えきれない赤いレインコートの少女はマンションの屋上で荒い息を整えていた。
「はぁッ…はぁッ…本物の…特殊部隊だぁ…」
何とかやり過しても気配で自分の居る場所がバレそうになったことに興奮して冷めやまぬ気持ちを仰向けになって未だ暗い空を向いて火照った顔と身体を冷ましていた。