TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

12 / 17
怪獣王の帰還

―埼玉県警・警備課―

 

「じゃぁ、あとの事はお願いします」

 荷物の整理を済ませた前原は警備課の同僚と別れの挨拶を済ませて警視庁への出向準備が整った。

「前原さん、せめて送別会ぐらいしましょうよ」

「そうですよ!前原さんとこんな形でお別れなんて寂しいじゃないですか」

 それまで親しかった者たちは前原との別れを惜しんでいた。しかし、当人の前原は…

「すまない…そういうことはかえって別れが辛くなるし、新しい部署での仕事に支障が出るから控えてるんだ。気持ちはうれしいが、俺も警察官だ。事件を速やかに解決するために全力で捜査に臨む…それ以外の事は出来ない」

「前原さん……やはり、あなたは警察官の中の警察官だ。前原さん、いや前原刑事!本庁での御活躍、私たち一同は心から期待しています!前原警部補に敬礼!!」

 県警内の警備課の警察官全員が前原に対して宛ら今生の別れとばかりに敬礼を向けた。

「おいおい、大げさな…でもありがとうございます。長くもあり短くもある間でしたが、皆さんと職務に真っ当出来て何よりです。どうもありがとうございました!」

 今度は前原が深々と頭を下げて最敬礼で警備課の面々と別れを告げた。

「ううっ…まえばらざぁん…せめてこのまま、駅まで御一緒させてぐだざい!」

 その中でも岡田は前原と共に警備課の一員として誰よりも思い入れの強さに感極まって涙面だった。

「おいおい、泣きすぎだろう…岡田くん」

「だっでぇ~…入庁して日の浅いオイを面倒さ見てくださったんは前原はんぜよ!本には別れとうないじゃけ!」

「あ~ほらほら、土佐なまり出てるよ……わかったから、最後のパトロールくらい付き合おう、駅までだが」

「前原はぁ~ん!」

 前原は別れを惜しむ岡田と共に当番パトロールの次いでに駅まで警察車両での移動を決めた。

 

 

―さいたま市内・浦和駅付近―

 

 午後7時を回り始めたさいたま市内浦和は街行く篝火のような輝きを放つ眠らぬ街に早変わりして街行く人々も仕事帰りから仕事終わりの者で溢れかえっていた。

「いよいよこの光景とも見納めか……岡田君、いつまで泣いているんだい」

「ぐすんッ…だって…」

「警察官がそんな姿を見せていられないぞ…町も眠らなければ警察官も眠れない日々が続くんだから」

「ううっ、はい!」

「でもまぁ…俺が言うのもなんだが無理せず頑張れよ」

 泣きっ面の岡田に励ましの言葉を贈る前原だったが…彼の内ポケットから急に着信音が鳴り響いた。

「…?…知らない番号だ…誰からだ?」

 前原の携帯電話より登録されていない電話番号からの着信を通話ボタン押して耳元にあてた。

「はい、前原です」

『あっ、もしもし前原さん!湯原です!』

 電話の相手は機龍こと桐生シュンイチを保護する事になった湯原サラからであった。

「あぁ~湯原さん……ちょっ、落ち着いてください!かいつまんでお話を……えっ?桐生がいなくなった!?」

 会話の内容は相手の深刻な状況に岡田も泣いている顔が一瞬にして収まった表情に変わった。

「はい…はい……えっ?そのあとに眼を放した隙に彼と一緒にいた怪獣娘も居なくなった!?」

 更に事態は深刻を増して桐生に続いてメカゴモラもホテルから姿を消したと言う事態だったが…

―ピィーッ!『県警本部より一般からの入電 仲町3丁目にて未登録の怪獣娘の目撃情報あり 付近の警邏は直ちに現場に急行してください』

 湯原からの連絡に呼応する形で警察無線からGIRLS未登録の怪獣娘の目撃情報が入ってきた。

「はい…はい…わかりました。取り合えず今しがた県警から連絡が入ってきたのでホテルで合流しましょう!ホテルの前で待っていてください!では…―岡田君!こんな時になんだが、さいたまニューデイズホテルまで頼む!」

「了解しました!!」

 岡田は駅よりUターンして赤橙を光らせサイレンを鳴らして前原が指定したホテルへと向かった。

「―こちら県警07 通報のあった怪獣娘の関係者と合流するためさいたまニューデイズホテルに急行します」

―ピィー…『県警本部より県警07、了解 対象の現場目撃情報を元に速やかに保護を優先してください』

 無線の女性通信士から警察庁公式怪獣娘対策マニュアルに従い、未知なる力を宿す怪獣娘の発見及び出現に際しGIRLSに登録されていない場合の怪獣娘は有り余る力の暴走の危険があるため一般からの通報からおよそ48時間以内に初動捜査することが現在の警察官たちには義務付けられていた。

 やがて街中の多くの警察車両がサイレンを鳴らして事件と同じくらい速やかに現場へと急行していった。

 

 一方、そんな様子を見ていた別の少女たちも事態に大きく関わり始めていた。

「ありゃりゃぁ~…なんか大事に為って来たわね、エレ」

「その様ね…先ほどGIRLSに埼玉県警から連絡が入ったわ どうやらGIRLSには未登録の怪獣娘が目撃されたらしいわ」

「あちゃぁ~…現場帰りだっていうのに仕事増えちゃったなぁ~…もうこれじゃぁ仕事量減らすのも無理よ~」

「グダグダ言っていないで行くわよ、ガッツ!おまピトのリアタイ視聴までには間に合わせるわよ!」

「もう、エレ…なんでわざわざ録画しているのにリアタイで見ようとするのよ」

 丁度同じ頃、埼玉県警から『秩父鉱山凍結事件』の調査に訪れ市内を歩いていたランことエレキングとミコことガッツも即座に町の裏手の路地からソウルライザーに指を弾かせて怪獣娘へと変身を遂げた。

―さいたま市内・仲町―

 

 どこかの公園内の公衆トイレでシュンイチは洗面に向かって両手で水を汲み、溜まった水を顔に浴びる。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 何度も同じことを繰り返してもこれが現実であることは変わらなかった。

「………」

 恐る恐る洗面台の鏡を覗くシュンイチの目には鏡に映るべきは本来自分の鏡像…であるはずが、どういうワケか自分ではない。

 鏡に映るのはセミロングの髪に小顔の輪郭、そして…赤い瞳を持つ女性が自分に対して睨むように見ているが…紛れもなくシュンイチの鏡に映る自分の鏡像がその女性だった。

 始めは水を汲んだ川流れる森の中、メカゴモラと一時をしのいだ洞窟内、そして今は自分と相対する鏡の中でようやく彼女と向き合うことができた。

 気配と言うべき何かとして今まで自分の身近に感じて居た視線の正体は自分の中にいる正体不明の女性だった。

(…どうして、何も喋らないんだ……あなたは誰だ…僕ではないことくらい僕が一番知っているのに…僕はあなたを知らない、知らないのに…僕は貴方が他人とは思えない)

 得体の知れない力、自分が持つには大きすぎる罪、そして…誰かも分からないのに自分と対称にして鏡に写る鏡像の女性、そんな自分が恐ろしくもあり、危険であることが、サラからもメカゴモラからも逃げ出した。

(これでいいんだ…湯原サラさんは僕が誰なのかを知っているかもしれない、でも…ソレを知ったとしても僕がどんな存在なのか僕自身が分かる。僕はこの世に居てはいけない存在だ…彼女ならきっとメカゴモラを任せられる…メカゴモラも、サラさんも、僕なんかと一緒にいるべきじゃない)

 濡れた顔に、濡れた前髪、湿って滴り落ちる水滴がポタポタと垂れていく中で深い溜め息を吐き出してこれから先のことなど考えていなくても、自分が取った行動が正しいと信じるしかシュンイチに残されたものはなかった。

(あなたが鏡の中で何を訴えているか分からないが…もうあの二人の前に帰る気は無い)

 鏡の中のもう一人のような彼女を無視する形でシュンイチは振り返ってトイレから出ようとした時だった。

 

「ウッウゥ…キリュウ……キリュウゥゥ…」

 

 シュンイチは思わず隠れた。トイレの壁1枚挟んで向かいの外にはシュンイチの中の機龍の気配を探ってきたのか、メカゴモラが1人でシュンイチの事を探していた。

(なっ…どうして…僕を探しに一人で来たのか!?)

 身の丈の大きなシュンイチはその有り余る身体も気配も感じ取られないように息を殺してメカゴモラからやり過した。

 メカゴモラがここまでシュンイチを探しにきたのなら近くにサラもいるはずだ。会いたくない、会うわけにはいかない、そう心に誓ったばかりに彼女たちと面と向き合えないからである。

「キリュウゥゥ…キリュウゥゥ…」

 何度も、何度も、か弱い声でシュンイチに呼び掛けるように声出る彼女の言葉には今にも飛び出したい気持ちを押さえているのが精いっぱいだった。前原との約束も反故にして、サラから逃げ出し、メカゴモラと背を向けている自分…情けなかった。恩人の期待を裏切って、自分を救ってくれるかもしれない物を見捨て、自分が救い上げた小さな命さえも誰かに丸投げて来たシュンイチには自分が背負いきれない大きな力しか残っていなかった。

「エレ!見つけたわ!」

 ふとやり過す中で見知らぬ女性の声が聞こえてきた。サラではない、何者か分からないがその見た目はメカゴモラと同じ怪獣娘のようだった

「あなたが街を彷徨っていた怪獣娘ね」

「だっ…誰ゴモ?」

「私たちはGIRLSに所属する怪獣娘、あなたと同じ力を持つ者よ」

「なんかこの子、ゴモにそっくりね」

 どうやら仲間のようだ。メカゴモラと同じ仲間であるならサラでなくても、自分でなくても、彼女たちなら一安心と自分の心に言い聞かせた。

「さぁ、一緒にGIRLSまで行きましょう…GIRLSにはあなたと同じ怪獣の魂を宿した仲間がいるわ」

「仲間……違う…ゴモの仲間はキリュウだけゴモ!」

「キリュウ?…他にも怪獣娘がいるの?」

「違うゴモ!キリュウはキリュウだゴモ!ゴモはキリュウを見つけるまで探すゴモ!」

 メカゴモラを探しに来てようやく見つけることができたガッツとエレキングは困惑した。素直に自分たちの言うことを聞く耳を持たず我儘にも誰かを捜すと言って聞かないメカゴモラをどうするべきか困っていた。

「参ったわねぇ…エレ、私たち指導課じゃないからこういった時にどう答えていいのか…ピグっちやアギみたいに説得できないわよ」

「任せて、こういう時はGIRLSに入った時のメリットを説明すれば簡単よ…いい、あなた…よく聞いて、GIRLSに入れば衣食住はもちろん生活面も安定するし、漫画アニメゲームもやり放題だし、給料は良いし、怪獣娘としての活動をサポートもしてくれるし――(以下割愛)」

 流れる様な早口のセールストークで訴えかけに来たエレキングに対してメカゴモラは困惑し、ガッツは呆れたような顔に手を当て隠した。

「うっうう…うるさいゴモ!!さっきから何を言っているか分からないゴモ!!お前、シツコイしキモチ悪いゴモ!!」

「きっ…キモチ悪いッ!?」

 エレキングはいままで初めて言われたことの無い『キモチ悪い』と言う言葉にショックを受けて固まった。

「あ~あ、ゴメンゴメン…今のは忘れて、今度は私の話を聞いてね  んんっ、あなたが嫌でもあなたは私たちGIRLSに来てもらわなきゃいけないの」

「なんでゴモ?」

「そういう決まりなの…都内と違って未登録の怪獣娘が街を1人でふらついていると発見され次第、特定不明人扱いされて警察に捕まっちゃうのよ…世知辛い世の中だけど、怪獣娘はGIRLSに登録されていないと怪獣の姿で出歩けば即通報、暴走の危険ありと判断されているワケ」

 ガッツは肩を浮かして辛い怪獣娘の現状を表した。

「でもだからこそ、あなたみたいに今後も道迷う怪獣娘が危険視されないためにも私たちはあなたを保護する義務があるの…もちろん、キリュウっていうあなたの仲間も保護するわ…で、そのキリュウって言うあなたの仲間はどこなの?」

「分からないゴモ…キリュウ、ゴモの前から去った…ゴモはキリュウが好き…でもキリュウはゴモの事をよく思っていない」

「ええっと…ますますワケが分からないわ…誰なの?キリュウって?」

「キリュウはキリュウゴモ!」

「だからキリュウって誰なの?…あぁ~もう、小さなゴモを相手にしているみたい!…んっ?ゴモ?…そういえばあなた名前は?」

「ゴモはメカゴモラだゴモ」

「メカ…ゴモラ?…ゴモの怪獣のゴモラの近縁種かしら?あぁ~もうますますワケが分かんないぃい~!」

 ガッツはワケが分からなくなった自分の頭をかき回して埒の明かない状況を打開できることはとにかくGIRLSに彼女を連れて行くしかなかった。

「とにかく、私たちと来て!」

「イヤゴモ!」

「なんで!?」

「キリュウ探す!」

「またそれ!?誰なのよ、キリュウって!?」

 メカゴモラが頑なに探すことをやめないが、その正体を知らぬガッツは八方塞がりだった。

「もういい、ゴモはキリュウを探す!」

「あっ、待って!」

 ガッツは行く手を阻むようにもう1体の自分を分身してメカゴモラの前に行先を塞いだ。

「邪魔ゴモ!」

 メカゴモラは前を塞ぐガッツに自身の手を飛ばしてぶつけた。

「キャアッ!!」

 分身のガッツは思いもよらぬ反撃にあった…が、瞬時に消えた。

「ゴモッ!!」

「「おとなしくして!!」」

 本体ガッツと分身ガッツはメカゴモラを肩から腕をつかみ押さえて地面に抑え込んだ。

「やっ、やめるゴモ!放すゴモ!キリュウゥゥ!キリュウゥゥ!!」

「ちょっ、暴れないで!!エレ、落ち込んでいないで助けてよ!」

「キモチ悪い…キモチ悪い…」

 メカゴモラを抑え込むガッツの傍らでエレキングは未だに言われ慣れない言葉に動揺して落ち込んでいた。

「キリュウ!!キリュウ!!キリュウ!!」

「もう、そのキリュウってのも一緒に探してあげるから…大人しくしてよぉ!!」

 どれだけ説得しても言うことを聞かないメカゴモラに落ち込むエレキング、打つ手がなくもはや強引にも無理矢理GIRLSに連れて行くしかなかったが…

 分身した2人のガッツでメカゴモラを起き上がらせ両脇から抱えて連れて行こうとしてもメカゴモラは抵抗して彼女たちの隙間から手を伸ばした。

「キリュウゥウウウ!!キリュウゥウウウ!!」

 メカゴモラの悲痛な叫びはシュンイチの耳に届いても彼は両手で耳を塞いで聞こえないと自分に言い聞かせていた。

(聞こえない、聞こえない、僕には何も聞こえない、コレで正解なんだ、彼女たちに任せるのが正しいんだ……僕には…関係ない……でも…)

 しかし、それでも耳は塞いでも聞こえる声、見える姿、僅かな間でも同じ何かの模倣品同士として気持ちを共有しあったシュンイチこと機龍とメカゴモラ…こんな形で誰かに任せておくことが正しいのか、疑問が湧いてきた。

(でも…コレで本当にいいのか…こんな形で僕は、ボクの中から何かを捨てて正しいと思えるのか…僕はただ逃げているだけじゃないか…サラさんからも…前原さんからも…何より、自分が勝手に拾い上げた大切なものからも……そんなの嫌だ!あの子と一緒に居たい!誰だ…誰が僕からあの子を引き離そうとしている…あれは誰だ…あれはなんだ……そうだ、あれは怪獣だ…僕の敵…僕のテキ…ボクのテキ………――――怪獣は…抹殺!!――――)

 その瞬間、シュンイチの身体から湧き上がる衝動と共に全身を金属の液体が覆って鋼鉄の巨体が姿を現すが…その目はいつもの黄色い目ではなく、血に染まったような真っ赤な目であった。

 

―Auto. Kill. Access. conTrol.System.Up.Key.Interface―

―AKATSUKI・MODE―

 

 シュンイチの身体は機龍へと変貌を遂げるとトイレに隔たれていた壁を手に触れて超振動を発生させて壁面の原子を崩壊させ破壊した。

「なっ、何ッ!?」

 トイレの壁から突如現れた得体の知れない機械の怪獣に驚いたガッツは目の前で起きていることに目を疑った。

 しかし、彼女に驚く時間すらも与えずにジェット噴射からの音速でガッツに飛び掛かってガッツ本体と分身の2体とも同時に機龍は大きな手で彼女の首を掴んだ。

「ぐあぁっ!?」「がはっ!?」

 強い力で喉に締め付けられる感覚がガッツの意識を遠のかせる…が…―ピシィン!!―

「ガッツを放しなさい!!」

 逆に今度は機龍の首にエレキングが自身の鞭の様な武器で機龍を捉えたが…両手の内の左手のガッツは分身が維持できなくなり消えたが右手には本体が残っていた。

 そんな本体のガッツをエレキングに向かって投げてガッツとエレキングは互いに衝突した。

「キャッ!?」「くっ!!」

 その衝撃に手元が緩んだエレキングは鞭を手放してしまい機龍の首から彼女の武器はスルッと足元に落ちた。

 機龍は危害を加えられたことに報復反撃として口が開くと膨大な電流エネルギーがプラズマを放って充填されると一気に放出してエレキングとガッツに襲いかかった。

「キャァアアア!!」「アアアアアッ!!」

 攻撃は彼女たちに直撃して衝撃は彼女達の獣殻を著しく損傷させるほどの強いダメージとなって表れていた。

 しかも、それだけにとどまらず…トドメとして胴体閉口盤が開いて胸部腹部の3門砲からエネルギーが充填されるとあの山さえも消し飛ばした極超低温攻撃を仕掛けようとしていた…が、しかし…

「キリュウゥウウウ!!」

 機龍の足元にしがみ付くメカゴモラに気が付くと…機龍の目は元の黄色い目へと戻って正気を取り戻した。

「あれ…僕は…何を…?」

 気が付いた時にはダメージを受けて気絶する怪獣娘が2体、自分にしがみ付くメカゴモラ、状況が読み切れない機龍だったが…自分が胴体の閉口盤を開いて怪獣娘2人に向けてあの危険な攻撃を仕掛けようとしていたことに気が付いて急いで自力で閉口盤を閉じた。

「キリュウゥゥ…」

 メカゴモラも機龍を必死で止めたい…ワケではなく、ただ再び出会えたことに喜んで飛びついただけであったが、奇しくも怪獣娘2人の危機を救ったことなど彼女は気付きもしなかった。

「メカゴモラ……ゴメン、ちょっと…外に出ていただけだから…心配させちゃったかな?」

 機龍の返答に対してメカゴモラは首をフルフルと横に振って意思を返すと、機龍はメカゴモラの頭を撫で回した。

「…帰ろうか……サラさんも心配しているだろうし」

「…んんっ」

 機龍はメカゴモラを脇から持ち上げ抱えると、バーニアを蒸かせて倒れるガッツとエレキングの側から飛び立って去って行った。

 機龍が2人の元を去って行った後に意識を取り戻したガッツが起き上がった。

「……うっうう…エレ…大丈夫?」

「なんとか……電気怪獣であることが幸いしたわ」

 辛うじてダメージが回復した2人は自身の身に起きたことを整理すると…あの銀色の怪獣が頭に過った。

「エレ、今さっきのって…」

「間違いないわ…警視庁が私たちに情報開示した『特異生体不明怪獣』…特生怪獣第4号だわ」

 未だに上空に漂うバーニアの軌道を見上げる2人は改めて機龍の、“特異生体不明怪獣”の脅威を改めて実感するのであった。

―マイケルシールズ号・甲板―

 

 得体の知れない敵と交戦するゴジラが未だ船内で暴れ回っている中、人質たちは続々と甲板のヘリポート上に集まり始め、救援に駆け付けた移送用のヘリコプターが続々と人質約20名を一気に機内に収容したが…

「…ごめんなさい、やっぱり私たちは乗れません」

「皆さんは先に脱出してください」

 青い髪の少女と赤い髪の少女はヘリへの搭乗を拒否した。

『君たちが最後だ!早く乗って!』

「いいえ、まだクララがいません」

「おジョーを置いて私たちが逃げるワケにはいかないんです!」

 そういうと二人の少女は手に持つソウルライザーを掲げて指で弾いた。

「ソウルライド、コダラー!」

「ソウルライド、シラリー!」

 青い髪の少女は光に包まれると背中に甲羅状の物質と大きな青い手が出現し、赤い髪の少女も同じく光に包まれると額に赤い角と背中を浮遊する銃火器の様な翼が現れる。

 彼女たちもクララと同じくGIRLSに所属する怪獣娘のコダラーとシラリーだった。

「行こう、シラリー!」

「うん、コダラー!おジョーが待っているわ!」

 そう互いに意思を確認し合うと2人は船内へ向かって行った。

 ヘリもこれ以上は待てないとハッチを閉めて発艦した。

 

 

―船内・通路―

 

『御二人とも!無茶はなさらず、危なくなったらすぐに退避してください!』

 船内を突き進む2人に小さな機体をピョンピョンと飛びながら2人についてくガンヘッドギアも同行していた。

「私たちは大丈夫です!…それよりロボットの人は私たちなんかについて来て大丈夫なんですか?」

「私たちを助けに来てくれた人に付いていなくて大丈夫なの?」

『彼の事なら心配はしていません…それより、今しがたクララさんことキングジョーさんの生体シグナルをキャッチしました。今度は本人で間違いありません』

 ガンヘッドギアの案内でクララの元へと向かう2人と1機のロボットは最奥の動力室へと向かった。

 

 

―船内・動力室―

 

 最奥に位置する船内の心臓部こと動力制御を目的とした一室ではクララが鉄柵に縛り付けられていた。

「クララ!!」

「助けに来たよ!」

 コダラーとシラリーはクララを見つけるなり大きな声で意識の無い彼女を呼び掛けた。

「うっ…うう…ノー!!来ては駄目デス!!」

「何言っているの、あなたを置いてはいけないわよ」

「今、ロープを解くわ!」

 コダラーはすかさずクララの手首を縛る縄を切り破って外させたが…

「違うんデス!この部屋には…爆弾が仕掛けられています!」

「爆弾が何よ!すぐに脱出すれば…」

「そうじゃありません…この爆弾の種類を見て下さい!」

「えっ?」

 クララが訴える動力室に仕掛けられた爆弾…その正体に一同が驚愕した。

『コンポジション4、軍用の固形プラスチック爆薬……製造は…USA,MARINE!?』

 ガンヘッドギアがスコープレンズを通して拡大した表記名にはアメリカ海軍で製造されている通称C4爆薬と呼ばれる高性能爆弾が動力室にいくつも設置されていた。

「どうしてアメリカ海軍がこんなものを…」

「私たちや乗組員も乗っているってわかっているのに…」

「おそらく…ここにわざとらしく搬入した“彼”を船もテロリストもまとめて爆破するためデス」

 本来、貨物室ではない動力室に安置されたとある装置に繋がれた“荷物”が関わっていた。

『…J-1973…ジェットジャガー…』

 それは跪いた状態で充電パネルの上で様々なケーブルに繋がれたロボットだった。

 黄色と赤のカラフルな色合いに鋭利な顔つきの頭部を持つロボット“ジェットジャガー”がアメリカにとって存在することが都合の悪いからこそやむを得ない状況であったという言い訳の元でテロリストに破壊されたという名目でジェットジャガーを破壊処分するために今回の移送が計画された全貌であった。

「誰がこんなことを…」

「それよりも、私たちも早く脱出しなきゃ爆弾で…」

―ゾクッ!

 3人の背筋から怪獣としての本能が嫌な気配を感じ取った。

―カシャン…カシャン…カシャン…キィイイイイ!!

 耳を傷める嫌な金属音と共にコダラーとシラリーたちが入ってきた出入り口から恐ろしげな人影が現れた。

「…俺の敵はどこだ…」

 それは両手に鋭利な鎌のように鋭い刃物を装着された赤いバイザー状の複眼、青黒いカラーリングの体表…そして明かに機械仕掛けの身体がテロリストたちと同じロボットを思わせる姿をした怪獣が現れた。

「だっ、誰ッ!?」

「あなたの敵?…知らないけど、少なからず私はあなたが敵に見えるけど…」

「2人とも、下がってください!ここは私が…」

 クララはソウルライザーを内ポケットから取り出して即座に画面をタップすると…全身が光に包まれて、頭にアンテナ、胴体はメカメカしい作り、手足には可憐な女の子の手から逞しい大きなロボットの手、クララは怪獣娘キングジョーへと変身を遂げた…が…

「ふんっ!……えっ?キャアアアアアアアア!!」

 キングジョーは突然、頭を抱えて倒れ込んだ。

「どうしたの、おジョー!?」

「クララ!しっかりして!!」

『まずい、きっと奴の妨害思念波だ!先ほどからこちらも検知していたけど…機械回路に支障をきたす特殊な周波数であの怪獣が殺気に近い気配を発してキングジョーはソレをまともに受けてキングジョー本来の自己防衛システムがエラーを起こしたんだ!』

「でも、私たちは何とも…」

『この周波数…キングジョーの様に高度な回路と精神がつながった状態の怪獣娘には効果が絶大すぎる、遠隔操作の単純回路の僕のロボットや生物怪獣である君たちには何ら影響は無いだけだ』

 ケンキチはガンヘッドギアが検知した漆黒のロボット怪獣の周波数から特定してキングジョーの電気回路がショートした原因を特定した…と同時に…

『しかも…この周波数値は……そんなはずはない、“彼”は死んだはずだ』

「ロボットの中の人、あの怪獣を知っているの!?」

「そんなことよりクララを…」

 迫りくる凶悪なロボット怪獣から死神の鎌が怪獣娘3人にジリジリと近づいてくる中でガンヘッドギアが後ろへ飛びあがった。

『こうなったら少し早いけど…“ジェットジャガー”を起動する!』

 ケンキチは急いでガンヘッドギアを通してジェットジャガーをつなげる動力ケーブルの制御モジュールにアクセスして再起動を掛け始めた。

―キィイイオオオオオンッ!!―

 突然、両手に鎌を携えたロボット怪獣が金切り声の様な咆哮を挙げると目のも止まらぬ速さで動力室を縦横無尽に飛び交った。

「キャァアアア!」「ヒィイイイ!」

 コダラーとシラリーは意識を失ったキングジョーを抱えて身を小さく屈んだ。

 しかし、どういうワケか壁を飛び交って壁にかまいたちの様に壁が斬りつけているような斬り跡しか残らずただ部屋そのものを傷つけているようであった。

 だが、そんな奇怪な行動を起こす死神の鎌はコダラーとシラリーが庇うキングジョーに迫ろうとした。

「クララ!」「おジョー!」

 必死に2人が盾になって身を挺してキングジョーの身体を守ろうとした時だった…―ガキィン!!

―キュイイン!キュイイン!!―

 高周波の機械音と共に硬質な金属の手が死神の鎌を捉えて、その凶刃の先端がコダラーとシラリーの間に通ってキングジョーにまで迫っていたが既の所で届かずに済んだ。

『間に合った!ジェットジャガー、再起動だ!』

 彼女たちを死神の凶刃から守ったのは…彼女たちの背後の動力ケーブルに繋がれていた“J-1973ジェットジャガー”だった。

 ジェットジャガーは掴んだ鎌を振り払い、ロボット怪獣の胴体を蹴り上げて背後の彼女たちから距離を離させた。

「ぐぅっ!…そうだ…この痛みだ…感じるぞ、俺の中で痛みが……生きる実感だ!!」

 ロボット怪獣は再び鎌を構え直してジェットジャガーに迫って行った。

 斬りつける、斬りつける、躱す、躱す、凶悪な武装を持つ相手にジェットジャガーはまるで事前に超高度な演算処理によって躱す位置まで瞬時に計算予想を叩き出して避けて躱していく驚異的速さで鎌のロボット怪獣の攻撃を紙一重で交わしていた。

「すっ…すごい」

「なにアレ…」

 怪獣娘には入る余地すらも与えない超スピードの攻防にコダラーとシラリーは目を奪われていた。

 一方、船内ではそれ以上の戦いが大きな衝突音と共により激しくなっていた。

 

 

―マイケルシールズ号・甲板―

 

 甲板へ赤い物体が転がり落ちてきた。船内の甲板付近に設置されたクレーンや武装などに激突しながらも赤い物体はゴロゴロと甲板に転がった。

 そこへズシンッ!と音を立て、船体が大きく揺れるほどの衝撃と共にゴジラが赤い物体の前に立ち尽くす。

「立てよ、変装ヤロー…このまま海に叩き落とすのも考えたが、お前は蛸殴りにして海へ返してやるよ」

 ゴジラは手首の関節をコキコキと鳴らしながら近づいていきトドメを指そうとしたが…

「ぷはぁ~…いいねぇ~、流石ゴジラ…怪獣の中の怪獣、王者の中の王者…うれしいよ、こんな三下の僕なんかに構ってくれることが何よりもうれしい……決めた、今日から僕は『ボコボコにタコ殴りをゴジラから受ける怪獣』として“タコラ”と名乗ってやる!ゴジラ、僕の名は“タコラ”…これから先、お前が僕の最初の敵…僕こそがお前のこの戦いの最初の敵となる!御互い、楽しい殺し合いをしよう!お前の大切な者を傷つけても僕に振り向かせてやるよ!…―ぐえっ!!」

 ゴジラは自らをタコラと名乗る得体の知れないタコの様な醜悪で歪んだ思考と思想を兼ね備えた存在感を放つ怪獣に対して強い足踏みと共にタコラの胴体を踏みつけた。

「次など無い、お前は今ここで…大海原の闇の底に沈んでいくだけだ…とっとと消えろ!」

 ゴジラはタコラを踏みしめた身体から大きく振りかぶって一気にその足を振り下ろすとタコラの胴体を強い衝撃と共に蹴り上げた。

「げぼはぁあああああ!!」

 タコラは宙を舞って甲板を飛び越え海へとそのまま落ちていく……はずだった。

「ぐぅっ!?そんな、ヤメロ!!今は…出てくるな!!…このままじゃ、お前がゴジラの最初の敵になっちまうじゃないか!?止めろ…ヤメロォオオオオオ!!」

 突然、蹴り上げられたはずのタコラの身体が宙で静止して止まった。しかも、タコラの身体は見る見る赤い体色を変化させて薄気味悪い青緑色に変化を始め、胴体が著しく長く大きく、タコラとは宛ら違う何かに変化しようとしていた。

「なんだ…何か…何かが変だ」

 その異変にゴジラも気づき始め、異様な不気味さがゴジラに危機感の警鐘を鳴らすようであった。

 やがて、タコラ…だった者は沈黙すると…目の前にはそれまでとは違う、いわば名状しがたい何かに変化を完了した。

「…獣の子よ…久しいな」

 その声、その威圧感、その存在感、あの記憶…ゴジラの中で平坦な小笠原諸島の経済水域状の上に漂う軍用客船の上ではなくなり、記憶の中の荒れ狂う嵐の中のどこかの島に土俵が脳内変換されていた。

「お前は…あの時の…」

「左様、お前たちの時間で約3年前…私は貴公の前に姿を晒した……そして再度、宣する…その力は人が待っては為らぬ力…獣の代表者よ、水へ帰する時だ」

 タコラだった何者かは上空に向かって何らかの光弾を放つと空一面を晴れ模様景色が有れる嵐の様な天気に変わり出した。

「同じだ…あの時と…あの島で起きた時と…」

「…あの時は予想せぬ邪魔が入ったが…今度こそ、この世界を修正する…この世界は、人が持ってはならぬ力を持ちすぎてしまった…溢れすぎてしまった…だが、このような世界であっても人が必要だ。穢れ無き者は残置し、穢れた者は慈悲として他世界に渡ってもらう」

 それはこのタコラだった何者かが今までアキたち怪獣娘たちをどこかに連れ去ろうとしていた謎の怪物に繋がる存在であることを指示していた。

「お前が…アキたちに“モンス”を差し向けていた奴か!?」

「ほう、他世界の眷属たちを…お前たちはそう呼ぶか…確かに我にもその責は大いに関わる…が、あれは元を正せば他世界で繁栄した種の複製、この世界は人間種が繫栄しているのであれば人間種が眷属として反映されるのもまた然り…だが、この世界は“特例”だ…本来であればそのようなことは決して無い」

「相変わらず何を言っているのか理解しかねるが…おおむね意味は理解できた…が、俺は“人間を守る”など崇高な理念などコレッぽっちも無い!テメェの様に人様の世界を勝手に解釈して神を気取る阿呆だろうと“世界(ナワバリ)”を荒らす奴は等しく俺の敵だ!失せろ、蛸助!」

「神を気取るのではない…私こそが神だ…世界に水が存在し続けるように、私なくして水は存在しない、故に私は世界の水を司り、生命を管理する者、それが我…人は私を“クトゥルフ”と呼ぶ」

 得体の知れず禍々しい名状しがたい姿をしたタコの様な怪物が自身を『神』であると称すが、天変地異を自在に起こし、尚且つこれだけ不可解な言動や行動を起こしているにも関わらず謎の存在クトゥルフに対して言いしれる何かを感じずにはいられなかった。

「獣の子…否、貴公は最早“ダゴンの戦士”としては十分な力を宿している…滅するには惜しい存在だ」

「あぁ?何を言っている」

「今一度問う…そなた、この世界の新たなる“ダゴン”に為ってはくれぬか?」

 クトゥルフは自ら提案としてゴジラに“ダゴン”と呼ばれる何らかの役職的存在に尽くことを勧めてきた。

「さすればこの世界は現状のままに残置し、持つべきでない力は人の可能性へと昇華されるであろう」

「ワケが分からん…お前の目的も、何もかもが分からん…だが、これだけはハッキリと言える……その問いがお前の部下か何かに為れと言うなら……断る!!」

 ゴジラはクトゥルフからの提案を断固拒否した。

「ふむ、なれば最初の犠牲は貴公となってしまうか…残念だ、ダゴンの戦士よ…水へ帰れ!」

 クトゥルフは何かとてつもないエネルギーが手に集約されてゴジラに向けて放った。

 

 しかし、そのエネルギーはゴジラに届かずに弾かれ海へと落ちた。

「戯れはそこまでです…主なるクトゥルフよ」

 今は南鳥島に居るはずのダグナが、なぜかゴジラとクトゥルフの前に現れて…しかもクトゥルフと同じく何らかの力で宙を浮いて得体の知れぬ力を宿していた。

「貴公は…ダゴン!……否、ダゴンの半身か?」

「左様、私もかつてはこの世界に存在する人間と等しい存在だった…しかし、来る日にあなた達神々がこの世界に干渉してくることを見据えた生来のダゴンは私に力の一部を与えた…クトゥルフよ!大いなるアザトースの意志に背き、この世界を無かったことになどできはしない!」

「私は宇宙の大いなる意志に背いたことは無い…現に彼の者と同じような力を持つ者たちはいずれ持たざる者たちとは反する道へと歩むだろう」

「ならば私がそうさせない…そのために準備したこの100年以上の時間をもって既に準備が整った。 主なるクトゥルフよ、他の神々における最高意思決定を司るあなたがこの場を引かれよ!…決めるにはまだ早すぎる」

 ダグナはクトゥルフにこの場を引くように促した。

「…いいだろう…だが、忘れるな…特にダゴンの戦士よ……その力を持つ意味は世界と相反するということをお前が示すことになるであろう」

「知るか…俺は俺だ…誰の指図も受けん……例え神にだろうと俺は従う気は無い」

 その意思をゴジラはクトゥルフに伝えると…クトゥルフはどこかへと姿を消失させるかのように消えて、その場から得体の知れない気配は微塵も無くなって完全に消えた。

 それと同時にあの荒れた天気も雲一つない晴天に変わって星々が煌めく真夜中の空に変わった。

「…どうやら、嵐が過ぎたようですね」

「やり過ごした気は無いがな…」

 ダグナはゴジラの元へ降り立ち、ゴジラも変身を解くと元のユウゴに戻っていた。

『お~い!お待たせ~!』

 そこへガンヘッドギアを操るケンキチの声が響き、こちらに向かってきた。

「おや、皆さんご無事でしたか…それもJ-1973まで起動されてまで…何かありましたか?」

 ガンヘッドギアに連れられてジェットジャガーは両手で意識を失っているキングジョーを抱えて、その後ろでは恐る恐るコダラーとシラリーがダグナを覗き見ていた。

「あっ、あの~…お兄さんはどっちですか?」

「私たちの敵?それとも味方?」

「そう申されましても…一応は味方と思ってもらって結構です……それより、早くここから脱した方がよろしいですね…アメリカ海軍の艦隊が御到着の御様子です」

 ダグナが振り返った先ではアメリカ海軍が補修する駆逐艦数隻が艦隊編成を為してマイケルシールズ号に近づいてきた。

「味方の援軍ですか?」

「いえ、どちかと言えば証拠隠滅でしょう…駆逐艦からトマホークが射出されましたよ」

 ダグナは冷静にアメリカ海軍艦隊の駆逐艦から巡航追尾ミサイルの『トマホーク』を全艦が発射したのを見届けた。

「そっ…それって…」

「私たちの居るこの船にミサイルを飛ばしたってことですか!?」

「彼らが命令で発射したとしても私たちがいることなど気づいていませんね…いや、気づいても果たして撃っていたかのかも…あっ、そろそろ着弾しますね。5,4,3、2、1」

 あまりにも冷静に状況を秒読みカウントを指で折り曲げながらダグナと何もしようとしないユウゴとジェットジャガー、その後ろで慌てふためいているコダラーとシラリーは頭を抱えて身を屈めた。

「うわぁあああ!!」

「死ぬゥウウウ!!」

 

 

「うっ…うう…あれ?」

「何も起きない?」

 恐る恐る目を開けたコダラーとシラリーは気が付くと自分たちが何故かどこかのビーチに居ることに気が付いた。

「0」

 そして、ダグナがカウントを終えた時に…海の方から巨大な爆発音と衝撃波が遅延してやってきた。

「「キャァアアア!!」」

 思わず更に身を屈めたコダラーとシラリーは舞い上がる砂に目を閉じた。

 そして、ビーチから見える経済水域上に漂っていたマイケルシールズ号は大破炎上、燃え盛る炎と共にマイケルシールズ号は甲板と船内のあらゆる状態が絶望的に崩壊して撃沈の後に海の底へと沈んでいった。

「どっ…どうして私たちがここにいるのか分かんないですけど…」

「あのまま、あそこに居たらどうなっていたの?」

「…少なくとも命はありませんでしたね、御陰で命拾いしました。私たちを救ってくれてありがとうございます。コダラー、シラリー」

 ダグナは未だにマイケルシールズ号の燃え続けていた炎が海を焚き上げる火柱を背後に笑顔でコダラーとシラリーが自分たちを助けたということを演出して偽装した。

「わっ…私たちなワケ無いじゃないですか!」

「貴方は……いえ、あなた達は一体何者なんですか!?」

 突如にして起きすぎる原因不明、現状不明、何もかもがGIRLSの怪獣娘コダラーとシラリーには理解が及ばぬ得体の知れない力を持つダグナたちに恐怖心が芽生えつつあった。

『ダグナさん…先ほど動力室で…死亡したはずの“ガイガン”と接触しました。ジェットジャガーが交戦に持ち越しはしましたが…その後相手から後退して戦線離脱されました』

「ガイガン…あれはユウゴ君が倒した……いや、KIA(戦死)ではなくMIA(行方不明)でしたね」

 ダグナはガンヘッドギアを通してケンキチの報告を聞いてガイガンと呼ばれる死神の様な鎌を振りかざしジェットジャガーたちを襲ったロボット怪獣の報告が伝わった。

「あれ?…あの人どこいったんだろう?」

「ホントだ、いつの間にかいないね」

 コダラーとシラリーはいつの間にかいなくなっていたユウゴがどこに行ったのか辺りを見渡しても南鳥島内にはいなかった。

―都内・住宅街―

 

 他の者が南鳥島に居る中でユウゴだけが先になぜか距離離れた本土に帰還していた。

「ダグナのヤロー…手際がいいこと」

 さながら瞬間移動でしかできない芸当をユウゴ唯一人だけをアキやミオが居るセーフティーハウスのマンションへ降り立った。

 それはある種のダグナからの『大切な者たちの元』へ帰っておけと言うメッセージの様にも思えていたが、ユウゴはマンション前に立って居ても仕方なく、アキたちの部屋へと帰って行った。

 

 

―アキの部屋―

 

 部屋に帰ってきたユウゴを待ち構えていたのはリビング内の一人掛けソファーで毛布に包まって寝ているアキとその隣で彼女を見守りながらユウゴを待つミオがいた。

「御帰り…」

「何してんだ、あんた」

「うん?…まぁ、君を待っていたらアキちゃんが先に寝ちゃったって所かな」

「ふん、そうかい…」

 ユウゴはその隣の3人掛けソファーの左側に座って肘掛けの名前通りの使い方で肘を置いて頬杖を付いた。

「…どうしたの?今日はやけに怒ってらっしゃるじゃない」

「珍しくもねぇだろ…俺は生まれた時からこういう感情でしか生きてねぇよ」

 見た目はだけは表情ほとんど変わらない無表情で有るのにミオにはユウゴがいつもより違う感情に動かされているように見えていた。

 それ故かミオはユウゴと反対に右側のソファーに腰かけた。

「ほら、お姉さんの膝に頭乗せなさい…少し疲れているなら横になった方がいいわよ」

「急に年上ぶるな…らしくねぇ」

「年上だよ…年上の包容力なめるなかれ…ほらほら、お姉さんが癒してやろう」

 ユウゴはそう言われ…仕方なくミオの膝に頭を向けて横になった。

「ふふふ~…どう?」

「何も…」

 言われるがままに横になったが…気持ちに変わる所は無く、ただユウゴに取って何ら変わらない睡魔も無ければどうもしない状況だった。

「よしよし…ユウゴくんは一人で良く頑張ってるよ…その気持ちはアキちゃんもお姉さんも一番分かっているからね」

「うるせぇよ…」

「アキちゃんはねぇ…明日は君の店でお友達とパーティーするからって張り切っていたけど、お兄ちゃんが帰ってくるまで起きているってずっと言ってたんだよ」

「その待っている相手が帰ってきても寝ていてら世話ねぇわ」

 アキはユウゴの店で明日GIRLSの皆とパーティーをする準備を終えた疲れからユウゴを待ちきれずに寝ていた。

 一方その頃の神奈川県内のホテル街、『さいたまニューデイズホテル』前では居なくなったシュンイチの居所に苦心するサラと前原がいた。

「お気持ちをしっかり持ってください…」

「だって…私も自分の一方的な気持ちを押し付けていただけかもしれないじゃないですか…」

「桐生のことはともかくとしても、怪獣娘さんの方は署が全力で捜索しておりますので…」

 気持ち沈んで落ち込むサラを勇気づけつつも警察官としてできる限りの助力をしているとサラに伝え続けた前原だが…

「あの~…何かあったんですか?」

 そこへあっさりとしてひょっこり帰ってきたシュンイチがメカゴモラを抱えて帰ってきた。

「桐生!お前、どこに行ってたんだ…」

「あぁ~…少し外に出ていただけですけど……―ッ!?」

 気軽に外へ出ていたと伝えたシュンイチだったが、突如そんなシュンイチの頬をサラは引っぱたいた。

「こんな長い時間も外に軽く出ていくワケ無いじゃないですか!!心配したんですよ!!」

「ええっと…なんかすみません」

 ずっと帰ってくる気配も無かったサラの前に『少し外に出ていた』と言うシュンイチの言動に不平不満や心配した気持ちなどをぶつけようとしたサラだったが…

「でも…よかったです……無事だったなら、よかったです」

「ごめんなさい、サラさん…御心配おかけしました」

「桐生…もう大丈夫なのか?」

「はい…前原さんも御心配おかけしました」

「そうか…じゃぁ岡田くんは県警に通達しておいてくれ」

「了解しました!」

 前原も彼がサラの元を長い時間離れていた理由を深く聞くことなくシュンイチの肩に手を置いて今の気持ちの変化を少し尋ねるだけに留めた。

「前原さん…色々とご迷惑とご心配をおかけしました…私と桐生さんはこれから私の実家がある八王子に車で戻るつもりです」

「いろいろとお世話になりました」

「…ナリマシタ…」

 サラとシュンイチは前原に深々と頭を下げて礼を尽くすと、メカゴモラはソレを真似るかの様に同じく頭を下げた。

「ああ、二人ともご達者で…」

 そういって前原は2人がサラ所有の軽自動車に乗り込んで国道沿いの流れに入っていき前原の元を去って行った。

「人騒がせな連中でしたね、前原さん」

「いいや…桐生にも何らかの気持ちの変化があったんだろう…我々は彼が何もないと言えば何もなかったことを信じてやるのも、警察官としてよりも大人として信じてやることも大事さ」

 そういって前原はようやく肩の荷が下りて県警車両に乗り込むと再び駅まで向かって行ったのであった。




アンバランス小話
『三人掛け』

「うぅん…」
 眠りから覚めてしまったアキは目を擦って起き上がると…待っていたユウゴがいつの間にかミオの膝の上で横になっている光景を目にした。
「ありゃりゃ、起こしちゃった?」
「いや…そういうワケじゃないですけど、お兄ちゃん帰ってたんですね」
「うふふ、今しがたね…ぐっすり寝て…」
「起きてるわ、たわけ」
 2人の会話に割り込むようにして横になっていたユウゴがミオの膝から起き上がった。
「おっ…御帰り」
「ふんっ、低反発すぎて寝るに寝れんわ…そこどけ!俺がそっちに座る」
 ユウゴは強引にもアキがずっと寝ていた一人掛けソファーを要求してきた。
「やだよ…なんでボクが譲らなきゃいけないのさ……えっ?ふぎゃぁ!?」
 しかし、アキの意見など一切聞かずにユウゴはアキの首根っこを猫の様に摘まんでミオに向けて投げ退かすと一人掛けソファーに王様同然に腰かけて座った。
「ふぅん…こっちの方がマシか」
「もぉ…なんなのさぁ…」
「ふふふっ、アキちゃん…そういう時はやり返しなさい、そ~れッ!」
「わぶっ!?」
 今度はミオがアキを押し出してアキをユウゴの胸元に押し付けた。
「邪魔だよ」
「邪魔してんのよ、アキちゃんと一緒に」
 ユウゴの両膝元にはミオとアキが腰かけて座っていたが…ミオは図々しくも彼の胸元を逆に枕代わりにして頭をつけて来た。
「両手に華ならぬ、両膝に華ある私たちが居てうれしいでしょ~…人が見たら喜ぶものよ」
「ふん、クソニートとチンチクリンのどこに華があるって?」
「むぅ~…言わせておけば…えいっ!」
 アキもユウゴの胸元に頭を押し付けて枕代わりにし返したが…
「ぐぅう…コレはコレで悪くないのが腹立たしい」
「ウフフッ…ほらおいでアキちゃん、お姉さんの胸にも飛び込んじゃえ!」
「うん…なんか…心…安らぐぅぅ…」
 アキはユウゴの胸とミオの胸の間の中で再び深い眠気がやってきてぐっすりと眠った。
「あらら…寝ちゃった……ふぁ~あ…私も寝るわね」
 そう言ってアキの後に続いてミオも眠った。
「ふんっ…人の上でようまぁ寝れるわ」
 特に眠気も無いユウゴはそのまま二人の寝姿の土台として微動もしなかった。
【マイ ファミリー】
「ペットは黙ってろ」
 どさくさに紛れてビーコンもユウゴたちに抱き着いてきた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。