TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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超電子の護衛者

―八王子市内・住宅街―

 

 閑静な住宅地が密集して一つの町として形成された市内の一軒家の前に3人の男女がやってきた。

 そのうちの一人の女性が一軒家のインターホンを押してピンポーンというテンプレートな音声が流れた。

『はい?』

「あぁ…ただいま、お父さん」

『…サラか?…――』

 インターホンから男性の声がすると突然通話が切れて一軒家の中からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。

 そして、玄関先からガチャッとドアが開いた。

「連絡も無しにいきなり帰ってくるヤツがあるか!…一体いままでどこに居たんだ!?防衛省の連中がお前を…お前…えぉ…」

「あぁ…ただいま…2回目」

 一軒家から飛び出して来た中年の男性がインターホンを押したサラはそっぽを向き、人間時の姿のメカゴモラを抱えるシュンイチが男性に頭を下げて挨拶した。

「……むっ…娘が男を引っ掛けてきた上に子供までこさえて帰ってきたぁああああ!!」

「いきなり何言ってんのよぉおおおお!!」

「げぼはぁああああ!!」

「サラさん!?」「ゴモッ!?」

 錯乱したサラの父親と思しき男性の言葉に驚いたが…もっと驚かされたのはそんな大の成人男性に水平ドロップキックで吹っ飛ばしたサラにシュンイチとメカゴモラは目を大きくして驚愕した。

 

 

 一軒家はサラの実家であり、現在は彼女の父親が住んでいたが…

「う~~~~んっ…」

 その父親は両手を組んで目を瞑りながら唸るように悩ましい表情を浮かべていた。

「…………」

「ゴモッ?」

 原因などサラには明白だった。サラの膝に乗る人間態メカゴモラと…

「おっ…お待たせしました…えっと…コーヒーです。台所、お借りしました」

「あっ、ありがとう…シュンイチさん」

 本来であれば客人として扱われるシュンイチがなぜか台所からコーヒーを入れて持ってきた。

「んんっ…桐生シュンイチ君…と言ったかね」

「えっ、あっ、はいっ…」

 突然呼ばれたことにビクッとなったシュンイチはお盆を持ったまま固まった。

「君は…その…ウチのサラとはどういった関係なのかね」

「えっと…僕にとってサラさんは…恩人であり、大切な人です」

「ほっ…ほう…まぁ、その点については私も父として娘の意思を尊重しよう…が、そこではない。君は娘とどこまでの関係にある者なのだ?」

「どこまで…と、言われましても…ぐえっ!?」

 煮え切らない態度に苛立ちを高ぶらせたサラの父親はシュンイチの胸倉を掴みかかった。

「貴様ぁああ!!人の娘に手を出しといて…ハッキリと答えないかぁあ!!―ぐえっ!?」

 サラはシュンイチをひたすらに責め立て続け荒ぶる父親の横腹を蹴り上げた。

「いい加減にしなさい!さっきからこのやり取り何回同じことを言ってんのよ!!」

 実は既に小1時間も費やして何度も同じことを父親はシュンイチに対して同じやり取りを続けていたことにより逆にサラの方が苛立ちを募らせていた。

「すっ、すまない…お前が異性を連れてくる日に備えていたつもりだったが…思いのほか動揺しすぎて同じ事しか言えなかった。改めて桐生シュンイチくん、湯原サラの父の湯原トクミツだ、よろしく」

 サラの父トクミツはシュンイチに先ほどまでの繰り返しの責め苦を詫びて握手を求め、手を差し出してきた。

「あっ、あぁどうも…えっと、サラさんから伺っていましたけど、僕はどうやら機龍と呼ばれる存在らしいです」

「機龍?…そうか、君が…“今”の機龍なんだね」

「今の?…そういえばサラさんも僕のことを“今の機龍”と呼ばれましたけど…サラさんのお父さんは……」

「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはなぁい!!」

 トクミツは突然憤慨してシュンイチを怒鳴った。

「ええー…」

「話が進まないからやめなさい!!」

「おっと、すまない…一度こういうの言ってみたかったんだ」

 怒鳴ったのはただのノリだった。

「ええっと…では、せめてどう御呼びにしていいのでしょうか」

「シュンイチさん、父はこう見えても大学で理工学部の教授をしています」

「私は人工生物学を専攻とする生体義肢などにも精通する研究をしているよ」

「へぇ~、大学の先生でいらしたんですね…じゃぁ僕も先生って呼んでもいいでしょうか?」

「少し小恥ずかしいが…お義父さんよりはマシだね、私もシュンイチくんと呼ばせてもらおう」

 何やら満足そうな表情を浮かべたトクミツに会話の糸口を見つけたシュンイチは早速切り出した。

「改めて先生、僕の中に宿る力…『機龍』となんなのでしょうか?」

「その話か…サラ、お前の口から伝えなかったのか?」

「私はあくまで断片しか知らないもの…お父さんこそ話すべきでしょ、私も『機龍計画』について聞かせてほしいわ」

「機龍…計画?」

 シュンイチは初めて自分に関わる“機龍”に関わる何らかの計画があったことについてサラたちの口から出てきた。

「そうだね…シュンイチくん、君の中に宿る力はもともと私を始めとした日本の頭脳と言うべき有識者たちが開発した代物なんだ」

 トクミツの口から語られたのは自身が機龍を開発するに至った経緯と機龍と言う存在そのものにメスを入れたような内容だった。

「6年ほど前のことだ。 機龍計画…正確には『対怪獣能力者戦術装備計画』と言う防衛省内で発足した計画に私も参加していた」

「先生が…」

「ああ、当時の私の研究は『怪獣遺産を利用した人工生体技術の発展』がテーマだったのを防衛省の『特殊戦略作戦室』と言う所謂“排獣派”と呼ばれる組織が特自解体以後も怪獣と言う存在そのものと敵対意識を持つメンバーで構成された連中が目を付けてわざわざ八王子にまで呼びつけられたのは今でもハッキリ覚えている」

「6年前って言えば確か…『御徴川決壊事件』で最初の怪獣娘が発見された時期よね」

 サラがトクミツの口から“6年前”と言う単語に最初の怪獣娘ベムラーの印象が脳内に浮上した。

「うむ…あの事件をキッカケに怪獣の能力を有する女性が次々と現れたことで防衛省内では『第二の怪獣』と言う認識が強まった、特に“怪獣”と言うワードがまずかったのだろう…怪獣の力を宿したが為に生まれてしまった子供たちを隔離して監視管理しようという案が6年前より国会にまで審議されたほどだったからね」

 トクミツは防衛省の考え方に腕を組みながら苦い表情を浮かべた。

 その内容はかつて未だ怪獣の能力を宿した者を非難、危険視、敵対感情さえも渦巻く混迷とした怪獣娘の黎明期たる時代の様相が文章からでも感じ取れた。

「でも、そうはならなかったわけね」

「ああ、国連が早くに立ち上げてくれた怪獣娘のための『GIRLS』と呼ばれる組織がアメリカ合衆国の上院議員と城南大学の元准教授が主導のもとに国連で決議されて日本政府もそれに賛同した形で問題は解消、防衛省は思惑通りとはいかなくなったわけだが…ただ、もう一つの計画だけが進められていたこと以外は…」

「もう一つの…計画?」

 シュンイチはトクミツが語る裏で着実に進められていた何らかの計画に薄々ながらも『機龍』に関わるであろうことが固唾を飲ませた。

「…『人工の怪獣娘』の計画だよ」

「人工の…怪獣娘…」

 語られた真実とは残酷な姿として現れた。

「要するに…将来的に人類の敵になりうる怪獣の力を宿した者たちに対抗するための抑止力の創造、言葉だけを聞けばもはや倫理も尊厳も破綻させたような内容だろう…なぜなら人間そのものを『怪獣に等しい力』に変えてしまう研究であると後になって私もわかったからだ」

「待ってください!…人工の怪獣娘…怪獣の力を宿した女性ならまだしも…僕は男ですよ!?―…あっ!」

 ワケがわからないシュンイチだったが、気づいてみればGIRLSの怪獣娘たちからメカゴモラを救う前に鏡の前で自分の鏡像として現れた謎の女性が脳裏に過った。

「もしかして…あの女性…」

「あの女性?…もしかしてシュンイチさん、“アカネさん”に会っているんですか!?」

 シュンイチが思い出した鏡の中の女性をサラは『アカネ』と呼ぶに彼女を知っている口ぶりだった。

「あなた達は知っているんですか?…僕の中にいる…“アカネ”と言う人を…誰なんですか?」

「そうか…やはりアカネくんが……君が見た女性はねぇ、“本来の機龍”の変身者…“八重城アカネ”くんだ」

「八重城…アカネ…――ぐあぁああああああああッ!!」

 シュンイチはその名前を聞いた瞬間に頭から強い電流が走るような感覚に襲われた。触覚も知覚も感じない身体が内側より押し寄せる痛みに悶えるようにリビングの床に倒れた。

「シュン―イチ…さんッ!!…しっ…かり―して――!!」

「シュン―イチくん……シュン…イチ―!!」

「キリュウ――キ…リュウ――ッ!!」

 周囲の者たちの声がまるで遅れて喋るかのように間延びした声がシュンイチの耳元に響くが…シュンイチの意識はやがて薄れる中で遠のいていく……

 消えた意識の中で見えた景色は…何らかの雑誌に映る女性自衛官、何らかの計器が並ぶ狭い操縦席、立ち込める炎に炎上する軍用のヘリコプター……そして、その機体触れて不快な金属音を指先で削って鳴らす鋭利な指先から赤く染まった手…目の前には炎上する火の海の中で自分を見つめる機械仕掛けの体を持つ女性が自分を見下ろしていた。

『…あなたはまだ…死ぬべきではない…』

―GIRLS東京支部・図書室―

 

「…うぅ~ん…」

 アキは今日も魘される様に悩んでいた。

「ねぇ…ウインちゃん……見られている…よね…」

「見られて…いますね…」

 GIRLS所属の怪獣娘たちが一同に集まって勉強をする場である図書室に集まっているアキたちが緊張するほどに困惑していた。

 それもその筈、彼女たちの傍らでは見慣れないやけにカラフルなロボットが仁王立ちでずっと立って彼女たちを見ている…否、監視しているかのようであったから緊張と集中が途切れそうになる。

「あっ、あの…」

 満を持してアキが率先して手を挙げるとロボットは首をグインッと回してアキの方に視線が向くとアキはその顔にビクッと反応してしまった。

『はい、どうされましたか?ガールズコード196832宮下アキさん』

「いや…ソウルライザーのコードまで呼ばなくても…」

 そのロボットはここへ来てから様々な怪獣娘たちに割り振られていたGIRLS支給のソウルライザーに登録されたコードから名前まであらゆるデータがインプットされている様子だが…それがかえって不気味さが増していた。

「ねぇ、何なの?あれ…またアギちゃんの新しいボディガード!?」

「そんなわけないでしょ…ピグモンさんも前に話していたGIRLS内の不審者対策の為にアメリカから派遣したっていうロボットさんだよ」

「私も…ロボット怪獣ではありますが…ああも本物のロボットさんを間近で見ると…なんか…不気味ですよね」

 3人は分厚い怪獣大百科を見開いて顔を隠しながらヒソヒソ話で会話をする中心的内容に関わるのは彼女たちの背後にたたずむ謎めいたロボットだった。

「ええっと…僕はこれからキングジョーさんの復帰イベントの手伝いがあるからこの辺で…」

「あぁ!何それズルい」

「私たち監視されたままなんて嫌ですよ~!」

 仕事があると言ってその場を逃げ出そうとしたアキだったが…

『196832 アギラの活動予定を確認 現在の行動を解除してアギラへの同行を開始いたします』

「えっ!ついてくるんですか!?」

 アキは鋭い目から逃れようとしたツケが回って最重要にアキへの動向を優先したロボットがアキに付き添ってついていこうとした。

「アギちゃん…グッドラック」

「がっ、頑張ってくださ~い」

 鋭い視線から解放されるとわかるやミクとレイカはアキに対して2人ともサムズアップを返した。

「うぅ…二人とも酷いよ」

 結局、アキだけがロボットからの視線が逃れられずに図書室を後にしてもロボットがアキと共に行動を共にする形となった。

「ええっと…ジェットジャガー…さん、でしたっけ?」

『はい、JET―1973TYPE3“ジェットジャガー”です』

 気さくに話しかけたつもりだったが…会話が異様に硬い。硬質な装甲に釣り合うほどの硬さだった。どこかぎこちなく、どう質問しても機械的に用意されたとしか思えないような返答以外まるでなかった。

「はぁ…GIRLSにもいよいよ人工知能の波が押し寄せてきたかぁ~、ジェットジャガーさんはAIって言うあれなのかなぁ?」

『宮下アキさん、私はロボットです…人工知能とロボットを混同されていらっしゃるようですが、人工知能『Artificial Intelligence』の略である“AI”とはロボットなどの無人稼働製品に搭載されたシステム面の総称に過ぎません…AIとは確かに他の製品におけるプログラムとは機能が違いますが自主的に思考し判断する点が唯一違うだけでシステムとしての違いはありません』

「ふぇっ?何がなんだかよくわかんないよ…」

 突然ジェットジャガーにAIとロボットの違いについて指摘されたが何を言っているのかチンプンカンプンなアキは頭から湯気が出そうなほどに困惑した。

「ええっと…なんかごめんなさい」

『なぜ、謝られるのですか?』

「いや、なんか…うん、何となく…」

 これまでユウゴを始めとした怪獣戦士(タイタヌス)とは明らかに違うベクトルのロボットと言うジャンルの相手に対してアキはどう接するべきか頭を悩ませた。

「はぁ…ボク以外にもGIRLS全体の警備強化のためとは言っても…どうしてこうボクが実験台にされるんだろう」

 実はジェットジャガーがアキを中心的に警護するようにプログラムされている背景には今後アキ以外の怪獣娘に迫る未知の脅威へGIRLS全体を警備する名目で配備された無人ロボットであるジェットジャガーの性能テストも兼ねてアキの警護を主軸としてアキを通してGIRLS内の施設スキャニングを介してGIRLS東京支部にジェットジャガーが人間でいうところの“慣れ”てもらうことが昨日のパーティー兼会議で決まっていた。

 

 しかしながら、今現在に至るまで思い返すと…

 

『お待ちください、飲み物のスキャンを開始します』

 マグカップに入れたお茶に毒物が無いかをチャックされたり…

『ただいま、危険物の確認をしております』

 指導課から寄せられた封筒などの郵送物からX線検査機能で透視からの確認や…

『お待ちください、ただいま金属探知 作動中…』

「ひゃぁ!?なぁんなのよぉ!?」

『不審なデバイスを確認、排除します!』

「いやこれ唯の私用のケータイだから!!」

 ただ用事があって話そうとしたサチコに金属探知機能でソウルライザー以外に見慣れないサチコの二つ折り携帯電話を電磁波で破壊しようとしたりなど…

 

 GIRLSに配備するには明らかに過剰な行動が既に目立っていた。

 

 トモミ曰く『まだGIRLSに馴染み切れていないからアギアギにも彼のGIRLSでの立ち振る舞い方を教えてあげてください』などと言われていたが相手は生身の怪獣娘ならいざ知らず…よりにもよって行動の至ることすべてが機械的なジェットジャガーに何を教えると言うのか誰かに聞きたいのはアキの方だった。

「はぁ…ジェットジャガーさんは何でGIRLSに回ってきたんですか?」

『私が配備された経緯は前任務の『第89次サラジア派遣任務』の終了と共に私のサラジアでの活動が完了となり新たな配備地としてGIRLS東京支部に決まったとデータに記録されております』

「『第89次サラジア派遣』?…サラジアって確か中東の国だよね、前にお兄ちゃんから聞いたような…」

『おっしゃる通りです。 サラジアはバイオ再生技術に特化した砂漠の緑地化に唯一成功した国です…しかし、政府の汚職や内乱、さらには国際装備規定違反の疑いが掛り隣国のロシリカを介して国連の治安維持部隊の派遣が決定された時に私も同行しました』

 ユウゴも関わったサラジアと言う国から始まった長期の戦争にジェットジャガーが従軍していたことにアキは驚いた。

「こくさいそうびきてい?…う~ん、なんだかよくわからないけどサラジアって国が何か良くないことをしたから戦争が起きたの?」

『掻い摘んで申し上げますとその様にも解釈できます。 目下サラジアに掛った嫌疑は『メーサー技術の軍事転用』でした。 ロシリカは特にメーサー技術の特許保有国であり、これに反発したサラジアは嫌疑を否定、事実上のロシリカとサラジアの全面戦争が発生したことで双方の国の治安は悪化したことから別名『ロ・サ戦役』とされています…私はその中でも10年以上も続いた戦争が僅か1年足らずで終結を迎える事となった『ロ・サ電撃戦』と呼ばれる最終戦に参加していました』

 兄ユウゴが関わっていたロシリカとサラジアの戦争の全容を知ったアキは言葉が出なかった。

 さすがに報道ニュースなどで内容自体は知っていたが直接ユウゴ本人や体験者のジェットジャガーに深く聞くのも野暮な気がしていた。

「そうか…ジェットジャガーさんも大変だったんですね」

『いえ、任務ですので…』

 言葉を選んで気を使ったアキだが、『戦争』に関わっていたことさえも“任務”と割り切っていたジェットジャガーは彼の鉄仮面通り一切の表情が読み取れないがために『ロ・サ戦役』をどう思っているのか分からず、ただ彼の言葉通りに信じるしかなかった。

(そういえばボク、お兄ちゃんから殆どそういった話を聞いた事なかったから知らなかったなぁ…いや、聞くのが怖いのかもなぁ…)

 思い返せばユウゴと再開してから彼の口からアキの知らないユウゴ自身の空白3年間についていまだ聞きそびれている状況を思い出していた。

 

 そうこう考えていると…アキはGIRLS東京支部から少し離れたイベント会場の控室に足が止まった。そこは本来GIRLS東京支部が主催する一般来場者向けの施設内の為に設けられた関係者用の設営テントだった。

『入口を御開け致します』

「うん」

 ジェットジャガーが設営のテントを捲り上げると…

 そこは国連より派遣された多国籍軍や民兵、様々な人種で構成された部隊の1人1人に防弾ジャケットや防護ヘルメット、さらには最新式のアサルトライフルにスナイパーライフルと対戦車携帯無反動砲など大小様々な装備で固めた兵士たちで溢れかえっていた。

「前線はJの先行と共に南のポイントまで進み、重要要塞拠点『アジャフダン』を制圧後に速やかに第二中隊と合流、その後に追撃の有無が決まる」

 テント内は作戦ブリーフィングに伴い今後の戦局を決める需要事項が話し合われながらも方針が固まりつつあった。話の内容から察するにサラジア国内での暴発的抵抗勢力の縮図が変わる大きな側面と帰路に枝分かれした重要な戦いが今から始まろうとしていることが自身の電子回路で独自の判断と合理性が最適化されつつあったが…そんな自らの鋼鉄のボディに兵士たちが1人1人触れたりしてきた。

「頼りにしてるぞ、J」「あんたの背中なら任せられるぜ」「後方は任せな」「前は任せたぞ J」

 皆、それぞれ自分に対して期待を寄せるような言葉を投げかけてくる中で…足元に溜まった水溜りの水面に映る自身の本体ボディが鏡像として見えた。

 その鋼鉄のボディの上から兵士たちと少し形状の違うジャケットに最新の電子装備で構成されたアサルトライフルや様々な携帯武装を携行したジェットジャガー自身だった。

 テント内に残ったのは自分と…もう一人年若い青年だった。日系…否、顔立ちこそ日本人とはかけ離れてはいるが民兵登録時に支給される国籍表記ワッペンには日の丸の刺繡が施されてはいるが、他の兵士に比べ装備は極端に少なく、自分や兵士たちと比べ銃火器の類一切を所持していない青年民兵が立ち上がって自分の真横を通り過ぎて行った。

 ジェットジャガーの横をアキは通り過ぎてテント内のとある怪獣娘と顔を合わせた。

「お久しぶりです。キングジョーさん」

「オッ…オウッイエース…お久しぶりデース、アギラチャン」

 一瞬、声をかけられて動揺したのか少し顔色の濁った表情を浮かべるキングジョーの怪獣娘ことクララ・ソーンは来日後初となるイベントを控えて緊張しているのか余裕がない様子が伺えた。

「キングジョーさん…大丈夫ですか?」

「オフコース!問題アーリマセンよ」

 今日この場に居るよりも前にクララは病院の病室で療養を余儀なくされていたのだが、ガッツこと印南ミコよりも軽傷であったため早期復旧が叶って自身の写真集イベントの出演がギリギリであれど何とかなったのが現在に至る経緯だった。

「キングジョーさん…無理してない?」

「ダイジョーブデース!この通りピンピンのビンビンですよ…心配してくれてありがとうデス」

 クララは普段こそ怪獣娘キングジョーの姿でファンイベントに出演するが…今日は制服姿のまま自身の様子に何ら問題ないとアピールするかのように腕を上下に揺さぶるいつものキングジョーの動きのジェスチャーでアピールした。

「そうですか…でも、困ったときはボクも全力でサポートしますので…イベント、頑張ってください」

「アギラチャン……そうですね、こんな事じゃガッツと変わるところありませんね…無理していないというのもウソになりマス…本当は少し緊張しているんデスヨ」

「キングジョーさん…やっぱり?」

「医者には問題ないと言われてもヤッパリ精神的な面はどうすることもできないんデス…自分の身体は自分がよく知っていると言う事デス」

 心配を寄せるアキにウソが付けないクララは正直に告白して自身の精神面における内情を語った。

「でも…それでも、今日のイベントを楽しみにして来てくれているファンの人達が私に会いに来てくれているからこそファンの期待にも、アギラチャンの気持ちにも応えてあげたいデス」

「キングジョーさん…」

「私は…無敵のキングジョーデース!」

「それ、ガッツの真似?」

「えへへッわかりました?」

 何やら照れくさい表情をGIRLS内の友人の一人であるミコことガッツの真似をして見せたクララは次第に笑顔がハッキリと顔に現れていた。

「クララさーん、間もなく開演でーす!」

 そうこうしているとイベントの開始時間となってイベントスタッフに呼びつけられクララは『はーい』と言ってイベント会場に向かうのだった。

「キングジョーさん…何も問題ないといいんだけど…」

『いえ…あの方には少々問題が発生しているようにお見受けします』

 少し心配な面持ちのアキの傍らでクララの様子を見ていたジェットジャガーは彼女に起きている問題を見抜いていた。

「えっ?…どういうことですか、ジェットジャガーさん」

『おそらくこのままですと…ソウルライザーと言うデバイスでの変身は不可能かと結論付けます』

 その問題がクララがキングジョーになっていないことを裏付ける重大な問題があることをジェットジャガーは示唆していた。

 

―なお、本イベントは日本ACI株式会社の提供でお送りいたします。――それでは怪獣娘キングジョーのクララ・ソーンさんの登場でーす!―

 

 イベントの司会進行がクララの紹介と共にスピーカーの音声がクララのファンたちの声援にかき消されたと同時に特設ステージにクララの登場で大いに盛り上がりを見せた。

 ゼットンに次ぐ人気ぶりは健在で男性はもちろんのこと、女性ファンも多く、クララはそんなファンの1人1人に分け隔てのない交流を交えて進行が進んでいた。

「う~ん…とりあえずトラブルも何もないといいんだけど」

 ジェットジャガーの言葉を聞いてか不安になったアキはアギラへと変身を遂げて舞台裏から様子を伺った。

「ほほぉ~う、あれがキングジョーさんかぁ~」

「GIRLSの怪獣娘としてでなく、モデルまでこなす有名な方らしいですよね」

「ミクちゃん、ウインちゃん!?」

 心配を寄せるアギラの後ろで同じくミクラスとウインダムも変身して様子を見に来ていた。

「えへへっ、一度キングジョーさんのイベント見て見たかったんだぁ~」

「私たちもついていますので心配しないでください、アギさん」

「ミクちゃん、ウインちゃん、ありがとう」

 一人では心細かったアギラはいつもの3人で一緒にイベント警護につける喜びが不思議と表情に現れて笑顔になった。

 そうこうしているうちにイベントも佳境に入ってクララの握手会兼サイン本お渡し会が始まりつつあった。

「ほへぇ~…あれがファン交流ってやつかぁ~」

「わかります!私もアイザワ先生のアイザワトト絵、通称『アザト絵』のためなら長蛇の列であっても並んじゃいます…ファンにとってこの上ない志向ですよ」

 初めて間近で見るクララのイベントを前にして新鮮なミクラスと共感のウインダムと違う視点でイベントの様子を感じ取っていた。

「まぁ…トラブルも何もないならいいんだけど…あっ、あの人…」

 アギラが目に留まったのは全身を黒いスーツの下に赤いワイシャツ姿の格好でクララに近づく男性ファンが足を運んできたのが見えた。

「今日もキラッキラですね、おジョーさん!」

「いつもありがとうございます」

 一見は怪しさが滲み出る不思議な雰囲気のファンであってもクララは他のファン同様にそつなく挨拶を交わした。

「アギちゃん、あの人がどうかしたの?」

「あの人、前のキングジョーさんのイベントでシャドウミストに操られて大暴れした人なんだ」

「ふむふむ、SNSハンドルネームは『JJ』さんですか…どうやらあの方、普段は俳優や声優業を務める傍ら配信などでキングジョーさんの大ファンを公言していらっしゃるようですね」

 ウインダムは自身のソウルライザーで調べていくと男の名前がSNS内のハンドルネーム『JJ』と言う人物であることが特定された。

「ああっ!」

「「どうしたのウインちゃん!?」」

「あの方、おまピトで『蛇蔵ジャグラー』の“青哉”役で出演されているみたいです!意外です…」

 ミクラスとアギラは盛大にズッコケた。

「いや~普段の怪獣娘の御姿も素敵ですが…GIRLSの制服姿…いつにも増して新鮮でより一層素敵でいらっしゃる」

「ありがとうございます」

「いえ…私もこうしておジョーさんのイベントでおジョーさんの御姿を見るだけでうれしい限りです…だって最近はハマり役のせいでテレビ業界での私の印象が奇怪な方向に進んで番組のスポンサーやプロデューサーの意向にはいはい従う毎日の中でおジョーさんと言う一筋の光の中で得た希望に縋る毎日なので…本当…ホント…ホン…トーに……おジョーさんと…おジョーさんと…」

「ええっと…私と…何でしょうか?」

「おジョーさんとぉ…夜明けのコーヒーうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 突然、男は奇怪な叫び声を上げて全身を紫のオーラが滲み出て暴れだし始めた。

「きゃぁっ!?」

 思わず驚いたクララはバランスを崩して尻もちをついた。

「なんか様子がおかしいよ!?」

「あれって…シャドウ…ミスト!?」

「そんな、前回もあの人シャドウに侵されて暴れていたところをガッツが収めたのに…」

 男の豹変に気づいたアギラたちはすぐさま男を取り押さえようと向かったが…

『ふんッ!』

「わっ!?」「きゃぁっ!?」「ぐえっ!?」

 突然3人の背後からジェットジャガーが3人の足を振り蹴ってバランスを崩させえて背中から3人を倒させた。

「ヴゥアァアア…“蛇心剣・新月斬波”!!」

 すると、男の手元から禍々しいエネルギーで形成された刀状の得物で衝撃波を発生させ斬り付けるような動きと連動して設営のテント控室がものの見事に上下ズレて切断されていた。

「ひえぇええ!?何今の!?」

「今の喰らっていたら…ボクたちどうなっていたの!?」

 間一髪で背中から倒れていたアギラたちは衝撃波の斬撃を奇跡的に回避していた。

「アギラチャン!?…わっ、私も…ソウル…ライド…しなきゃ……あっ、あれ?ソウルライド!ソウルライド!!」

 クララは慌ててソウルライザーを指先で画面を何度も弾いてもキングジョーへの変身ができなかった。

「キングジョーさん…やっぱり…」

「アギさん!あれッ!!」

 ウインダムが指さした先にはシャドウミストに覆われていた男の全身にシャドウが集まり始め、全身をシャドウが包み込んでその姿を禍々しい怪人のような姿へと肉付けされて変貌を遂げた。その姿はまさに“魔人”と形容できる姿であった。

「うひゃぁ~!シャドウが人を取り込んじゃった…」

「まるで蛇蔵式ピット術で青哉が見せた魔人領域みたいな姿になっちゃいましたよ!?」

「ウインちゃんの言ってることはよくわかんないけど…とにかくボクたちの手には負えそうにない相手ってのはわかる気がする!!」

 突如、クララのファンの男を取り込んで“魔人”と化したシャドウはジリジリとクララに近づいて片手に持つ鋭利な得物で何かをしようとしているのは明白であった。

「ヴゥウウアァァアァァアア…おジョー…さ~ん…」

 “魔人”は思いっきり身体を捻って獲物を振りかぶってクララに斬り付けようとした…その時だった…

―ガキィイイン!!―

 間一髪のところで警護用の電磁警棒で“魔人”シャドウが振りかざす得物からクララの身を守って見せたのはジェットジャガーであった。

『はっ!たぁっ!でやぁああ!!』

 ジェットジャガーは“魔人”シャドウに電磁警棒で絶え間なく打撃を浴びせて最後は客が避難して誰もいなくなった観覧席まで蹴り飛ばした。

『お早めにお逃げください』

「えっ?…あっ、はいッ!」

 この場をジェットジャガーに任せるままにクララはアギラたちの元へと下がっていった。

「キングジョーさん…大丈夫ですか!?お怪我は!?」

「いっ、いえ…私は何とも…」

 クララはアギラたちに心配をよそに未だ“魔人”と戦うジェットジャガーの方に視線が移った。

「ヴァァアアアアアア!蛇心剣・新月ざん…バァア!?」

 またもあの闇のエネルギーで三日月状の衝撃波飛ばそうと再び動きを見せたが…その直後に“魔人”の顔面には先ほどジェットジャガーがクララを守るために使用していた電磁警棒が豪速で真っ直ぐに飛んできてものの見事に直撃した。

 それと同時に振りかぶって空間に斬り付け放った衝撃波は明後日の方向に飛んでいくが…その下をジェットジャガーはスライディングで躱して勢いのままに走り出し“魔人”へ鋼鉄の拳を腹部に叩きつけた。

 腹部の次は得物を持つ手をはたき、衝撃で得物を手放してしまった“魔人”にすかさず打撃、打撃、打撃、打撃の応酬で叩きつけ、宛ら武術の達人は剣術の魔人に剣を手放させる。

 剣の使い手を極端に弱体化させた上で戦闘を優位に運ばせた。

 そして、とどめの一撃に両足飛び蹴りをゼロ距離で“魔人”にぶつけ吹っ飛ばした。

「ガギャァアアアアアアアア!!」

 吹っ飛んだ“魔人”シャドウは宙を舞って観覧席から更に後ろに飛んでいくが…そのまま頭部を何か大きな手に捕まえられた。

「私の会社が主催する催しに暴漢が現れたと聞いて駆けつけて見れば…なんだ貴様…」

 “魔人”シャドウを捉えたのは“魔人”シャドウ以上に身の丈の巨大な2メートル越えの大男“ジャック・マーロウ”であった。

「ハナセェェエエエエエエ!!」

「そうはいかん…貴様は我が社に損害を与えた…その勘定をキッチリと支払ってもらうぞ!」

 大巨漢ジャックは見る見る肉体がさらに巨大化し始め、2メートル以上は2メートル40センチ以上へと更に肥大化し始め、宛ら巨大な類人猿、怪獣戦士(タイタヌス)・コングへと変貌を遂げた。

「ぬぅううぉおおおおおおおお!!」

 コングは左手で大きく振りかぶり、ギリシャ彫刻の円盤投げ選手のような独特のフォームで構えるとそのまま勢いを乗せて“魔人”シャドウの顔面に巨拳が叩き込まれ、“魔人”シャドウはその衝撃と共に全身が弾丸のように吹っ飛んでいき特設ステージに激突してステージが見る見る崩壊して倒れた。

「いったいなんの音!?」

「うわぁああ!?ステージがぁああ!!」

「早く助けに行こう!!」

 クララを救出し終えたアギラたちは自分たちを殺そうとさえしてきたクララのファンの男を取り込んだシャドウに悲惨な末路に至った所を目の当たりにしたが、肝心のクララのファンの男の安否が気になった。

「あっ!…ああ~…ええっと…」

「とりあえず…大丈夫そう…なのかな?」

「いや、とてもそんな風には見えないんですけど!…とにかく救急に連絡します!」

 ウインダムがソウルライザーで救急に連絡している横ではクララのファンの男が顔面半分を真っ赤に腫れあがらせてピクピクッと虫の息で痙攣していたが命に別状は無い模様だった。

 

 

 “魔人”シャドウにテントを切り付けられて天井の無いテント内でアギラたちはクララの様子を伺った。

「キングジョーさん…身体の方は大丈夫ですか?」

「イエス…怪我は特に無いんですが……日本で“最後”に立てるイベントステージがめちゃくちゃになっちゃって残念デース」

 実は今日のイベントを最後にGIRLS運営方針の変更に伴い、各部署への怪獣娘の移動派遣の打ち切りが決まっていたため東京支部に思いれの深い怪獣娘が居ると言えど他支部への行き来を全面的に自粛する事が決定しているためクララことキングジョーの日本国内イベントは今日のイベントを最後に完全に終了となる予定であった。

 クララも同様に当面の間は本営の米国GIRLSに帰国が決定していた。

「最後のステージがこんな形でエンドしてしまう…残念ですがこれもシャドウと相対する怪獣娘のフェイトとして受け入れるしかありまセン」

 落ち込むクララだが、受け入れて気持ちを切り替えるのは意外にも早かったが…

 問題はもっと別にあるとアギラは気づいていた。

「キングジョーさん…やっぱり変身できなくなっていたんですね」

「イエス…今日いち早く気づいたのは朝でした…どういうわけかこの間の輸送船で遭遇した妙な怪獣に浴びせられた怪電波の影響で…と言うより怖くなったと言う方がジャストアンサーなようデス」

「輸送船で出くわした怪獣?何なのそれ?」

「私も“アレ”が何かわかりませんが…同じロボット型怪獣のであること以外何も…あの時、応戦の為にキングジョーへチェンジした瞬間に、何か、頭の中に膨大な感情のようなものが波のように押し寄せて来たことだけは覚えています」

「膨大な…感情…う~んッ、ボクたちにはちょっと難しい気がする」

『つかぬ事を申し上げますが…その処理しきれない感情データ、私でしたら最適化して処理できるやもしれませんが…』

 破壊されたイベント会場の清掃を終えてジェットジャガーが率先してクララが抱える問題を解決できると名乗りを上げた。

「本当ですか!?ジェットジャガーさん!」

「ぜひお願いシマース!」

 舞い込んだ朗報に藁も縋る思いでクララはジェットジャガーに頼むと…ジェットジャガーはクララの額に手を当てて同じ電磁周波数を合わせてクララの中に蝕む感情のデータを読み取り出した。

『……これは…確かに人間が表現される“感情”に近いデータです…』

「どんな感情何ですか?」

『獲得データを感情基準に合わせて発信いたします…仲間、武器、光の星、新天地、旅、青い星、危険、恐怖、恐怖、恐怖……』

 ジェットジャガーがクララから読み取った感情として分析した内容は単発的で断片のように単語で表された。

「なに…これ…」

「感情と言うより、何らかのメッセージみたいですね」

『まだ続きがあります…破滅、殺戮、戦争、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊…どなたかソウルライザーを御貸しいただけませんか?』

「私のソウルライザーで良ければ…」

 ジェットジャガーが読み取るクララの中にあった感情のデータにクララの額に手を当てる手とは反対の手にウインダムのソウルライザーを持って見せた。

『この先の感情のデータに所々で映像のような何かが差し込んできます…破壊、破壊、破壊…――』

 続けざまにジェットジャガーが読み取る感情のデータに交じって映し出される映像をソウルライザーに介して映し出された。

「何だろうこれ…何か…動いてる」

 ソウルライザーにはスノーノイズで覆われているがその中で何かが蠢いているのがハッキリと見て取れた。映像内ではハッキリと輪郭が動き回っているようだが…それ以上先はアギラたちの目では認識できない。

『映像をできる限りクリアにしてみます……破壊、破壊、破壊、破壊、ロシリカ、サラジア、戦争、殺戮、破滅、暴力、兵士、破壊、破壊、破壊……“ゴジラ”…』

 鮮明になった映像内では少しばかりのノイズが残りつつもその輪郭と形状はハッキリと捉えられた。それはアギラたちにとっても衝撃的な正体であった。

「こっ…これって…」

「特異生体不明怪獣…第1号さん…ですよね」

(お兄ちゃんだ…間違いなく、お兄ちゃんだ!?)

 その映像内ではゴジラが何者かの視点で相対する様子が映し出されて主観的にゴジラと相対する者がゴジラに胸部を貫かれて映像はそこで途切れた。

―八王子市・湯原家宅―

 

「うっ…ううぅん…」

 シュンイチは目を覚ますとなぜか見知らぬ子ども部屋のような部屋の中のベッドの上に身体を横になって自分自身がずっとその上で寝むっていたことが伺えた。

「すぅぅぅ…すぅぅぅ…」

 そして、掛け布団を捲るとなぜか自分の胴体の上で人間体の姿のメカゴモラが眠っていた。

 更に部屋のドアがガチャッと空いて湯原サラの父トクミツが水桶を抱えて入ってきた。

「おや、目が覚めたかね」

「あっ、ああ、はいッ…ご迷惑をお掛けしました」

「なぁ~に、心配することはないさ…私も自分より大きな男を抱えてここまで運ぶのは苦労したけど、なんでも君は記憶が無いらしいじゃないか…君が寝ている間にサラからすべて聞かせてもらった。しばらくこの部屋を自由に使うといい、もともとサラの子供部屋だったけど…妻が亡くなってからサラは妻の部屋を自分の部屋にしたからここの掃除はしているがしばらく使っていなかったんだ」

「そんな…見ず知らずの僕に…どうしてそこまで…」

「言っただろう…“機龍”は私が開発に関わった、つまりは君もサラと同様、私が生み出した子供も同然だ」

 トクミツはシュンイチの中に宿る“機龍”を生み出した張本人であると主張してシュンイチもまた1人の我が子のように暖かく迎えてくれた。

「子供……そうだ、サラさんは!?」

「サラなら今しがた防衛省に呼び出しを喰らったが…拒否したら迎えの連中に強制的に連行されていったよ」

「なっ!?連れていかれたんですか!?先生、どうしてサラさんが…」

「大丈夫、心配せずともそれがサラの“出勤”なんだよ」

「出勤…ですか?」

「むにゃむにゃ…ゴモォ…キリュウゥゥ…」

 なにやらサラは仕事の出勤を拒否したが故に無理やり出勤させられて防衛省まで呼び出されていった事が一体何を意味するのか…今のシュンイチには知る由もなかった。

 そして、メカゴモラはまだ眠っていた。




アンバランス小話
『蚊帳の外で』

―BAR『1954』

「はい、はい、ご苦労様です…では引き続きあなたはGIRLSの怪獣娘さんたちのデバイスサポートをお願いします…はい、よろしくお願いします、ミスターマーロウ」
 アギラたちを始めとした怪獣娘たちがイベントのシャドウの後処理に追われている中でダグナとユウゴはバーの帳簿監理をしていた。
「ったく、あのアホども…無駄に大量の食材を持ち込みやがって…予定していなかった出費が余計に増えたぞ」
 以前のパーティーで使用した食材はいくらGIRLSの怪獣娘たち持ちであっても結局すべて使い切ることが殆どなく、それらを保管するためにコストが掛ってしまいユウゴは帳簿の計算に頭を悩まされていた。
「はははっ仕方ありません…育ち盛りの彼女たちも成長期と言う幻に食欲が無限と勘違いしてしまったんでしょう」
「自分らが食べきれる量の計算もまともに出来ん奴らに買い物をさせんな」
 呆れて計算する事しかストレスを発散させることが出来ないユウゴはイライラしながらも帳簿にペンが進んでいた。
「ふむ、ところで…君はジェットジャガーのことを覚えていらっしゃるとは意外でしたね」
「あぁ?…まぁ度々戦局内で一緒になることも多かったからな…」
「そういいながらもGIRLSに彼を回すことを提案された…お見事なご采配です」
「アキを守る程度ならいざ知らず、他の連中まで俺の手が回るかよ…そういった事に関しちゃアイツが適任だと思っただけだ」
 既に国連では『ロ・サ戦役』後のジェットジャガーの処遇について決めかねていたところにユウゴを通じて裏から根回しを経てGIRLSに届けられていたのであった。
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