TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―サラジア共和国・サラシア市―
サラダ広場・フードガーデン
中東側に位置し、欧州と向かい合って位置する国『サラジア共和国』…その中でもサラシア市は首都近くの都市でありながら都市部の発展に力が注がれた外観は一種の“砂漠の中のオアシス”と称されるほどに財政力を有している都市部だった。
「よぉ、アンタが連絡を受けてくれた仲介人かい?」
そんな都市部内の露店市場内で食事する男に目つきの鋭い赤いジャケットを羽織る怪しげな男が近づいた。
「……あんた、日本人か?」
「ああ、そういうアンタも…」
「僕も日本人だよ…この国で同じ日本人と会えるなんて数奇な事だから気になっただけさ」
中東圏に位置する国の中でその国の生まれではない日本人同士が秘密裏に出会う…そんな場面であっても周囲からは目立たないのにも理由があった。
“サラダ広場”正式名はサラシア市民広場だが安価なサラダを市場で売り始めたことが切っ掛けでサラダ以外の飲食店が軒並み増えたことから正式名よりも名称化されてしまった経緯があるこの広場はサラシア市の中でも随一を誇る観光地であるため外国人が居ても目立たないほどに観光客で賑わっていた。
「それで…何を御望みで?…最近はこの国を経由して様々な品を他国に仲介するルートが出来てから事業規模を拡大できるようになって随分と儲かってるよ」
「ほぉう…それはすごいな、どんな物があるんだ?」
「“戦後経済”ってヤツさ…つい最近までこの国と隣国のロシリカはバチバチだったろう 戦争は武器に弾薬、薬品やらが戦後になると使いどころを無くすから余るわけよ」
「なるほど、アンタの商品は“戦残品”ってわけか?」
サラジアは数か月前までロシリカと戦争を10年間も続けていたことから“ロ・サ戦役”と呼ばれる長期戦争が勃発、しかし最後の1年と言われる“ロ・サ電撃戦”を皮切りに長期に及ぶ戦乱が終結を迎え、双方ともに和平条約が締結され事実上の停戦となった…が、戦乱が終われば戦後混乱は付き物である。
「でも、それって犯罪じゃねぇのか?」
「僕に接触しておいて、今更なに言ってんだよアンタ…戦争はさぁ、したいヤツがしたがるから起こるのさ 軍組織、武器会社、製薬会社、色々な思惑が重なるから“戦争”なのさ」
相手の若輩の日本人男性は悠々と“戦争”について語り始めた。
「…歴史的背景を見たって過去に起きた大戦争は経済学的に見ても無意味なことばかり…あの『太平洋戦争』だって実際は“する必要のなかった戦争”と言われているんだよ」
「戦争なんぞ…どれもしなければいい話だろう」
「それでも戦争は起きる、したくなくてもする、しなくたって起きる、野心と願望と無能な軍人が数人エライ地位に居れば簡単に起こせるものさ」
若輩の日本人男性は米を使った軽食を食べながらそう語る様は宛らそういった混迷する世界そのものをまるで手の内の中の食事ごとを片すが如く国内のあらゆる不正さえも飲みこんでやると言う意気込みにも聞こえた。
「大層な気前だな…早速本題だが、これらを探している」
赤いジャケットの日本人男性は相手の若輩の日本人男性に2枚の写真を見せた。
「ほう、『塗るドーピング』と『アーミーキラー』か…まだ在庫があると思うから配送は……日本だね?」
「話が早くて助かる…だが、送るのはこれらの商品じゃない………お前だよ」
「!?」
若輩の日本人男性は食事途中の軽食を口に運んでいたスプーンが手から滑り落ちた。
「『塗るドーピング』…名前の無い薬ほど名付けられないワケがあるとは思わないか?未認可でしかも危険性も孕んでいる…日本ではこういうのを危険薬物に指定されるケースが多い……こんなのを認めると“法の崩壊”になるからだ」
「あっ、あんた一体何者だ…」
若輩の日本人男性は身の危険を感じたのか腰に手を回すが…
「おっと、まだ話の続きだ……動くなよ、暴れた瞬間に俺には正当防衛が適用されて発砲許可が下りちまう」
赤いジャケットの日本人男性は左手だけテーブルの上にあるが…もう片方の右手はテーブルの下にあるが上からでは見えない武器が隠れていた。
「今、俺が握っている拳銃は何だと思う?…『FP-45』通称“リベレーター”…この名の付く拳銃は二種類ある…1つは1942年に設計された由緒ある俺が握る拳銃、もう1つはどこぞの銃器マニアが世界中に設計図をばら撒いたことで蔓延した3Dプリント銃…お前が扱う商品の1つ『アーミーキラー』はその後者の設計データを元に生産されたものだろう?」
「…あっ、あんた警察か…」
「警察は警察だが…一般的なお巡りさんじゃなく、世界中を巡り巡る捜査権を持つ“公安部外事5課”だ」
赤いジャケットの男の素性を知った若輩の日本人男性は血相を変え、青ざめた表情を浮かべて息を飲んだ。
しかし、続けざまに赤いジャケットの男は更に語った。
「今、この広場を中心には俺だけじゃない…サラジア秘密警察の捜査官もお前の周囲を固めている、逃げ場なぞどこにもありはしない」
男の言う通り、周囲を見わたせば観光客を装った者からアラブ人風の格好で睨みを聞かせる者、屋台の店員にも似つかわしくない無線通信用のインカムを付けた者もいた。
「こっ、こんな事をして…うちのパパが黙っているわけないぞ! 僕を誰だと思っている、僕のパパは…」
「困った時の親頼みか?…おまえ、自分の名前で喧嘩をしたことないだろう…第一、よくドラマとかで国外逃亡して罪から逃れる金持ちのバカガキとかいるよなぁ、そういうの現実では成功しないんだよ。寧ろ、その頼りの親が子を海外に飛ばして家族縁を切り捨てるケースの方が多々あるぞ…おまえ、見捨てられてんだよ」
男に告げられた真実を悟った若輩の日本人男性は食べていた料理も弾き捨て、腰に隠し持っていた拳銃を抜き出そうとしたが……持ち出した拳銃の手を掴まれ、後ろから赤いジャケットの男と同じく日本人男性が腕の関節を絡め回して無力化させた。
「いつまで無駄話しているんだ、千鳥…既に逮捕状も出ているんだぞ」
「齋藤…俺は世間も碌に知らん馬鹿なガキに説法してやってたんだよ…水差すな、一度付けた“火”が消えちまうじゃねぇか」
「そう言ってオマエ…銃も持たずにコイツを半殺しにしようとしていただろう」
「フンッ…バレバレか」
男が持っているという拳銃は…なかった。ハッタリであった。拳銃などの銃火器を一切所持せずに相手の男と接触していたのである。
「おい、お前…お前の旅券は昨日の時点で既に失効されている、この国では不法入国者であり犯罪者でもあるわけだ…引き渡し条約など結ばれていないこの国であっても犯罪者を匿っていると思われたくないから秘密警察まで出張って来てんだよ。 よかったなぁ~、連中に抹殺されずに済んで…」
「サラジアでの不法入国者は逮捕後すぐに死刑確定、それが嫌なら自分たちの国から捜査員を寄越して勝手に逮捕しろと言うのが暗黙の了解ってヤツだ…おとなしく我々と一緒に来てもらおうか?」
「ふっ、ふざけんな!放せ!!僕の父親は衆議院の…ブベラァアア!!」
完全に身柄を抑えられたにも拘らず、まだ親の脛に縋って状況を打開しようとする男の顔面に『千鳥』と呼ばれる男の足が若い男の頬から食い込んで…勢い余って男は『齋藤』の目の前で一回転して座っていた席のテーブルの上に背中から落下した。
「お前、何やってんだ…」
「悪いな…どうにも今回のマル被(被疑者)は我慢ならなくてなぁ…親の力しか取り柄の無い馬鹿を見ているとイライラしてくんだよ」
「だからって毎度日本へ送還する前に病院送りにするほどの怪我を負わせてどうすんだ…まぁ、この方が無理矢理連れて行くより手間は省けるが…班長には捜査中にマル被が現地でトラブルを起こして負傷と言う事になるだろう もっとも、お前が捜査に当たったヤツすべてに顔面に蹴られたような怪我を負っていることについては『公安部の謎』って所で落ち着くだろうな」
2人の日本人男性は若い男を担いで白い商用車に乗せて走り出し、広場で注視していたサラジアの秘密警察たちも人ごみに紛れて姿を眩ませ照り付ける太陽の多いこの国に覆いかぶさる建物などの日陰は人の姿も隠すようであった。
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―日本・GIRLS東京支部―
『――また、指定禁止薬用物に指定されたばかり物の中で外用の軟膏剤での指定は国内では初の事例であり警察では使用ルートを現在捜査中とのことです……続いては速報です、サラジアなどを拠点としている密売グループが今朝ごろ国際空港に到着しました。グループの幹部はサラジア当局から強制送還された日本人5名、うち1名は現地でのトラブルで搬送先の病院から身柄が拘束されたとの情報もあり――』
GIRLSの施設内に設置された大型モニターからニュース番組が聞こえる休憩室ではアキがまたいつも以上にテーブルに顔を突っ伏して項垂れていた。
「うぅ~うう~…」
「あっ、アギちゃんがゾンビになっちゃった…」
「アギさん、大丈夫ですか?」
心配になったミクとレイカが声をかけるとアキの頭はゴロッと横に転がって右向きからその表情が見て取ると青ざめたような表情だった。
「ゴモたんさんからお聞きしましたけど…大変だったようですね、スポーツ課の御手伝い」
「大変…なんてもんじゃないよ…大事件に発展するところだったよ」
昨日に発生した高校陸上のドーピング事件から発展した人質事件の後、アキは警察の事情聴取を受けたり、GIRLS本営の更なる事情聴取も受け、ピグモンに泣かれながら質問攻めを受け…
(その後からお兄ちゃんのゴジラの事を…まさかガーディーにあそこまで追及されるとは…)
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『アギラ、アギラ!!あの超速い怪獣は何ぃ!?誰ッ、誰なの!?誰でもいいからあの速いスピードの出し方が知りたくなっちゃったよ!!教えて、教えて、教えろぉおお!!』
●
と言った具合にガーディーからの質問攻めを今朝の段階からソウルライザーが熱くなるほど何度もずっと連絡が続いた。
当然、ユウゴの事を教えられないため『知らない』を貫き通してようやくスポーツ課の練習時間となり事態は収まった後の祭りが今現状なのである。
「ひゃぁ~指導課も大変だね」
「私はそんなに忙しくない部署に回されて、良かったです」
「ふっ…ふふふっ…ふふふふふっ……ミクちゃん、ウインちゃん…今からでも体験転属して見る?」
「「遠慮します」」
普段から仲の良い筈の2人から全力で拒否された初めての経験だった。
「はぁ~、今日はこの後からピグモンさんに任されて面談の予定なのに…こんなじゃ会わせられないよね」
アキは何とか表情を元に戻そうと頬を捏ねまわして左右から叩き上げた。
「いろいろと大変みたいだけど…頑張ってね、アギちゃん!」
「私たちも、陰ながら応援させていただきます」
「ありがとう、ミクちゃん、ウインちゃん」
改めて仲の良い2人からの励ましエールを受けたアキだった…が、そんな彼女の元に不穏を絵にかいたような存在が徐々に近づいていたことには彼女もまだ知らなかった。
「ひゃぁっ!」「ひぃっ!」
「うっ!」「ねぇ、あれって」
そんな頃、通路を行きかう職員たち、所属の怪獣娘たち、あらゆる者たちが通路の真ん中を歩く者に対して顔が強張り、共にいる者はヒソヒソ声で話し合う。
「それでさぁ、ママがさぁ」
「何ソレ~!」
更にはすれ違いそうになったサチコとミサオの前にもその者が近づくと…
「んっ?ギャァアッ!!」
「どうしたんだよ…って、ウワァッ!!」
2人はその者を見た瞬間に戦慄が走るようだった。宛ら野生の小動物が獰猛な猛獣に出会い、固まって何も動けずただ通り過ぎるのを待つしかなかった。
やがてその者が2人の事など気にせず通り過ぎていくと2人はそそくさと足早に逃げだしていくが…その者がアキたちの居る休憩室に立ち止まってスペース内に居る3人の中からアキの顔を見つけるなり彼女の元へと近づいて行った。
「アンタが指導課のアギラ?」
「えっ、はい…そうですが…って、ガッツ!?」
アキに声をかけてきたのは未だ入院中のガッツだった…が、その様子はいつもと雰囲気が違う…もとい、髪色が違う黒髪のガッツがそこにはいた。
「しゃっ、シャドウガッツ!?」
「どういうことですか!?またガッツさんから!?」
ミクとレイカには黒髪のガッツを前にして『シャドウガッツ』と認識するが…
「はぁ?初対面に随分と失礼になったわね…“東京本部”も…いや、今は“支部”だったわね」
「がっ…ガッツではあるけど…ボクの知っているガッツじゃない…ですよね」
「ええ、そうよ…私も確かにガッツ星人の怪獣娘、印南マコよ…ミコ、あなたの知っている方のガッツは私の双子の姉よ」
「ガッツの…妹さん…?」
思わず見間違うほどにアキたちGIRLSの怪獣娘たちを苦戦させた以前のガッツこと印南ミコから分裂して生まれたシャドウミストに侵された分身体『シャドウガッツ』と容姿が全く一緒のガッツ星人(マコ)はミコのガッツ変身体とは違って唯一髪色が黒いこと以外は獣殻(シェル)も同一だった。
「はぁ…任務終わりだったから姿を解くのも面倒くさかったからそのまま来たけど…バカミコのおかげでこの姿がどれだけあなた達に嫌われているかがよく分かったわ」
「そっ、そんなことないよ!ボクは別に…」
「私はちょっとびっくりしました…かなぁ~」
「あたしなんて思いっきり言っちゃったもん、『シャドウガッツ』って…」
3人はそれぞれガッツ(マコ)に対する印象を『シャドウガッツ』と間違った事を隠し切れない表情にガッツ(マコ)は鋭く強い目つきで3人を睨んだ。
「ひぃっ、じゃぁアギちゃん…あたしはこれで…」
「わっ、私も…記録課の方に用事があるので…」
「あっ、ミクちゃん、ウインちゃん!」
足早に2人は立ち去ってアキ1人をその場に残してそそくさとそれぞれの居場所へと去る…もとい逃げて行った。
「この姿じゃ話にもならないから…一旦、解くわね」
そう言ってガッツ(マコ)はソウルライザーの画面にタッチして怪獣娘としての姿から元の人間としての姿に戻った。
「あっ、ええっと…改めまして、ボクは指導課のアギラです」
「調査部捜査課のガッツ…バカミコの方がガッツとして親しまれてるみたいだからマコでいいわ」
近場にあった椅子に腰かけて腕を組むマコは細目でアキと対面する形で面談が始まるが…マコの普段着に着目するとミコとは違ってボーイッシュなリクルートスーツに身を包んだ姿をしていた。
「ええっと、マコ…さんは…何か最近、悩みとかありますか?」
「悩み事なら…悩み事だらけと言えるほど多いわよ その一つが『シャドウガッツ』かしら」
早速本題はくだんの『シャドウガッツ』の事件後、姿が似ているだけでマコはGIRLS内でも一目その姿を見た者から常に警戒されることに悩んでいる様子だった。
「つまり、周囲と浮いていることに悩んでいるの?」
「別に……嫌われることくらい、慣れてるわよ」
「きっ、嫌われることに…慣れるの?」
普段のアキからは感じ得ない『嫌われる』と言う事の意味をマコに尋ねた。
「怪獣娘だからよ…今現状はGIRLSのおかげで怪獣娘の社会的地位は確立されつつあるけど、今も弊害はあるわよ。 例えば“就職難”とかね」
GIRLS発足以前から怪獣娘が発見された『御徴川決壊事件』後、各地の女性たちから怪獣娘の存在が認知された頃から『怪獣娘への偏見』が未だに続いていた。
その最大の問題点こそ正に“就職難”だ。カイジューソウル発覚後から戸籍謄本には『怪獣能力有り』と言う項目がつけられることで一般人と怪獣娘を分ける行政処置が施された。これは傍から見ればステータスのように思えるかもしれないが、実際はこの記録を見た企業側からすれば『ウチよりGIRLSに行った方がいいんじゃないか?』と言う遠回しの拒否を受ける結果となる。
つまり、今現在の怪獣娘が就職できる唯一の就職先は…『GIRLS』一択と言うのが現状であった。
「怪獣の力があるだけで好きな職業にも就職できず…唯一の駆け込み寺は『GIRLS』…正直言ってみんなこの現状を問題視するべきなのに、誰もしないことに苛立つわ」
「そっ…そうかなぁ…ボクはGIRLS…好きだけど」
そう言った次の瞬間、テーブルをマコは強い握り拳で叩きつけた。
「そういう事が問題なのよ!…みんな現状に満足しているけど…こんな組織、ハッキリ言って怪獣娘の集積所と何も変わらないじゃない」
「…それ、どういう意味…」
アキはマコが発言した言い方にちょっと納得がいかなくなり、彼女を睨み返した。
「何よ、その目…私は発言を変えないわよ…あなた達GIRLS大好き連中とは違って私はねぇ……GIRLSが吐きそうなほど嫌いよ」
それはGIRLSに救われたアキには考えられない考えを持つマコの真意だった。
「それと今一番悩んでいる事と言えば…私、GIRLSを辞めようと思っているんだけど…その旨をトモミに話したらうるさいこと言われた上に無理やり面談を取り付けられたけど…これ、トモミに受理してもらっておいて」
そういうとマコはスーツの懐から封筒を出してアキに渡してきたが…その封筒には手書きで『退所届』、すなわち辞表を受け取ろうとしないトモミに代わってアキに託してきたのであった。
「まっ、待ってください!こんなの急に…」
「それじゃぁ、もうあなたと話すことは無いから…これからもずっと…」
マコはアキの方を振り返ることすらなくアキの元から休憩室を出てGIRLSを後にして行ったのであった。
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―翌日・国立東京都中央病院―
「あははっ…ごめんね、アギ…ウチの妹が迷惑かけたみたいで…うん、うん、わかってるよ、私もちゃんと話し合ってみるからマコのこと引き続きお願いね」
東京都が運営する国立の大病院の屋上ではガッツこと印南ミコが自身のソウルライザーを片手にアキとの通話を終えて画面の通話終了ボタンを押すと…深く息を吸い込んで溜息を吐き出した。
「…今のあんたにため息がつけるほどの余裕があるの? 怪我で入院しただけでなく医者から更に悪い部分を見つけられて継続入院でここに回されたアンタが…」
「マコ…」
病院の屋上にはミコの他にも1人、マコも居た…否、正確には今しがたミコの目の前に現れたと言う方が正しかった。
「そうやって疲労を溜め込んで…体調の管理すらも疎かになったから『シャドウガッツ』なんて怪物を生み出したんじゃないの?アンタのおかげで私はGIRLS内で常にシャドウなんかと間違われる日々…元々、嫌いだった連中に輪をかけてもっと嫌いにさせられる感覚、アンタにはわからないでしょうね…事件の当事者なんだから」
「…ごめんね…マコ」
「ごめんね?ごめんね、ですって!?どの口が言ってんのよ!!アンタは自分がシャドウミストに侵されている時に無意識で分身を切り離して生まれたシャドウガッツ…アレが自分の分身である以上、私の性格が繁栄されることぐらいアンタは知っているでしょうが!私たちは双子!分身は片割れの性質が反映される!シャドウガッツと戦う時、私と戦っているようで気でも引けたの!?そんなんだからアンタは自分の分身にさえ負けるのよ!アンタの心が弱かったせいで!!」
マコは怒りに身を任せ、ズンズンと重い足取りをミコまで近づいて彼女の病院服の胸倉を掴んだ。
そして…―バチィインッ!!
強い平手打ちがミコの左頬を打ち付け、勢いのままにミコは屋上内の床に倒れ転がった。
「そもそもシャドウミストに汚染させられたのも、シャドウガッツなんてものを生み出したのも、私たちが怪獣娘だと知った時も、全部アンタのせいで…私の生活に影響を及ぼし過ぎてんのよ!!」
マコが吐き出す事にはミコに一切の落ち度はない…が、そのすべてをミコのせいにしてぶつけているとわかっていても収めきれる怒りが一切収まっていない。収め足りていなかった。
「私は!!GIRLSなんて入る気はなかった!!怪獣娘だとわかっても一般生活を送れた!!アンタが黙っていれば怪獣娘だとバレずに今頃普通の生活が送れた!!アンタが余計なことしなければ双子の片割れである私にまで影響はなかったのに……何もかもアンタのせいで私にはもう居場所なんて無いじゃないの!!」
マコは倒れるミコの胸倉を掴んで無理矢理起き上がらせた。
「マコ……ごめんね……悪いのは…私…全部私のせい…私のせいにしていいから…GIRLSを責めないで…」
「それを認めたからって何!?アンタが悪いから許されるって?そうじゃない…そうじゃないでしょ!!アンタがこんな状態になったのも、私に居場所がなくなったのも、未だに私たちの問題になんの解決にもなっていない事にも…アンタはそれでもGIRLSを庇うワケ!?アンタにはGIRLSが大切でも、私にはGIRLSなんかに愛着も未練もないわよ!…でも一番、気に入らないのは…そんなアンタが双子の片割れである私なんかよりGIRLSを信じてやまないことが一番イラつくのよ!!」
平手打ちだけに飽き足らず、今度は怪我では済まない感情のすべてが籠った握り拳をミコに振り被ろうとした時だった。
―ビシィン!!
伸縮性の高いまだらの鞭がマコの手首に巻き付いた。
「そこまでよ…それ以上は私とて見過ごせないわ」
止めたのはエレキングだった。
「…えっ…エレ…」
「チッ…アンタ、先に退院したんじゃないの?」
「話し合いの様子を見守るようにピグモンに言われて見ていただけよ…まったく、生産性の無い感情の一方的な押し付けを止めるなんて私の仕事じゃないわ」
「だったら邪魔しないで…これは私とコイツ、家族同士の問題よ!」
「それこそ猶更拒否するわ…もはやこれは家族間の話し合いなんかじゃない。 GIRLSとして黙って見続ける義理もないわ」
「GIRLS、GIRLSって…アンタたちは二言目にはソレね……もういいわ、殴る気も失せた…ミコ、私は辞めることに一切の抵抗は無いから…この先、GIRLSなしでも私は生きていけるわ…それじゃあ」
マコは立ち上がって床に倒れるミコを振る帰ることなく出口まで向かって出て行った。
「…ガッツ、怪我を見せてもらうわよ」
「マコ……ごめんね…不甲斐ない…お姉ちゃんで…」
ミコはエレキングに身体を起こされながらも譫言の様にマコへ対する涙を流しながら謝罪を言い続けていた。
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―東京都中央病院・駐車場―
入院患者の家族や病院関係者の自家用車が並ぶ駐車場にマコは訪れ、その中から駐車している1台の軽乗用車の運転席側のドアを開けて入った。
「お帰り、どうだった…お姉ちゃんの様子は?」
「その話、しないでもらえる…ゴドラ」
車内にはもう一人の助手席の窓に頬杖の肘を乗せてニヤリと不敵な笑みを浮かべる怪獣娘がいた。
「そうもいかないわよ…これでも私はあなたの同僚なんだから、同僚の悩み事には聞いてあげる義理ってものがあるのよ」
「勝手に義務化しないでくれる…家族間の一番デリケートな問題なんだから…」
「そうは言ってもネェ…後ろであなた達の会話を一部始終聞いている人たちが黙っていないわよ」
「後ろ?」
同僚の怪獣娘の言葉に誘導されてマコは首が後ろを振り向くと…布状の透明なシートで誰もない後部席の背景は光学迷彩による投影だった。
そんなハイテクアイテムで隠れていたのは怒った顔をしたアキと光学迷彩シートを手首の収納部分に集積するジェットジャガーだった。
「なっ、あんたがなんでウチの課の車に!?」
「そんなことどうでもいいよ!!よくもガッツにあんなひどい事を!!」
怒って瞳孔開いたアキが通話履歴に『ガッツ』が残るソウルライザーをブンブンと振り回してマコを責めた。
「全部聞かせてもらったよ!ガッツと事前に打ち合わせしてソウルライザーの通話を繋ぎっぱなしにして聞かせてもらったけど…エレキングさんが止めなかったらガッツをどうしていたのさぁ!!」
「あなたには関係ないでしょうが!なに人の家族の会話を盗み聞きしてくれてるのよ!!」
「話を逸らさないで!!答えて!ガッツを…どうするつもりだったのさぁ、黒ガッツ!!」
「変なあだ名をつけるな!!」
言い合いがヒートアップし始め、助手席の同僚の怪獣娘がまぁまぁと宥める。アキ側も彼女の感情が前のめりになろうとするのを抑えようとジェットジャガーがアキの身体の前に腕で遮った。
「んもぉ~そんなに言い合いたいなら後ろに行きなさい!…と言うことでジェットジャガー、お願い」
『了解しました』
助手席の怪獣娘の指示に従ってジェットジャガーは後部席から降りて運転席側に回るとドアを開けてマコの身体に手を回してそのまま横抱きのまま抱えた。
「ちょっ!なっ、何すんのよ!!放せ!!放しなさい!!この鉄面ロボット!!」
ジェットジャガーはマコを抱えたまま後部席の扉を開けてそのまま彼女を自分が座っていた席に無理やり乗せた。
そして、なぜか腕を組みながら吊り上がった鋭い目つきのアキが怒りのオーラを纏いながら待ち構えていた。
「じっくり話し合おうじゃないか…黒ガッツ」
「あぁ~もう、ウザい!!何なの、このウザい状況!!」
「まぁ、いいじゃないの…捜査の傍らで話くらいしてもらいなさい…あっ、自己紹介まだだったわね。私、ゴドラ星人の怪獣娘、ワケあって本名は明かせないからゴドラでいいわよ」
『JET―1973TYPE3“ジェットジャガー”です…代わって私が運転をさせていただきます』
運転するはずだったマコが後部席に回されたことで代わりにジェットジャガーがハンドルを握り、キーを入れエンジンをふかせると車が発進して病院の駐車場を後にした。
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都内 国道線
病院を経って数分後、信号待ちの間にマコはアキからの質問もとい尋問が行われていた。
「なんでガッツに冷たくするのさぁ!」
「あんたには関係ないでしょう…」
「どうしてGIRLSが嫌いなのさぁ!」
「アンタには関係ないでしょう…」
「むぅ~…さっきから関係ない、関係ないって…それしか言えないの!?」
アキには昨日の面談の続きのつもりで聞いているが…一向にマコが協力的になってはくれず、会話が停滞していた。
「やれやれ、まるで会話になっていないみたいね…マコ、せめて一旦は仕事の打ち合わせならできる?」
「部外者も居るけど?」
「喋る狸の置物とでも思っておけばいいでしょ」
「そうする」
「ボクは狸じゃないよ!!」
『有名なロボットのセリフのようですね』
助手席のゴドラはダッシュボードを開いて中に入っていたファイルを取り出し、ファイル内からプリントを後ろのマコに渡した。
「今回の捜査対象…SNS名は『怪獣撲滅し隊』…正確にはグループアカウントね、団体が1つのアカウントを共有して怪獣娘の活動の排斥を目論む“排獣活動”を目的とした新興の非営利団体って所かしら」
捜査課の仕事は名の通りの捜査だった。怪獣娘に危害を加えかねない危険な団体や集団、果ては個人に至るまで一抹の不安要素を無くすために捜査及び調査をする部署だった。
「ただし、運営事態はシンプルな実態だったわ…なんと、1人で団体を運営しているようだったわ」
「たった1人で?…一体何者なの?」
「捲って2ページ目」
ゴドラに言われた通り、ページを捲ると年若い女性が出てきた。
「個人登録情報によるとこの女性は所謂、『怪獣被害児』のようだったわ」
「怪獣…被害児?」
「90年代以降、怪獣災害の完全な鎮静化によって復興から数年間に発生した『復興貧困』で経済的に育てられなくなった親たちが児童養護施設に預けられた子供たち…それが『怪獣被害児』、通称…被害影響世代ね。 2010年代以降は減少してテレビにも報じられることは無くなったけど2000年からの10年間の間で日本の人口は30人に1人がその世代に当たると言われているわ」
学校の1クラスに1人の割合で存在すると考えさせられる社会問題を聞かされたアキは固唾を飲んだ。華やかなGIRLSの表向きしか知らないアキにとって薄暗く日の当たらない怪獣に対する敵意さえ抱きかねない感情が匂う事と向き合う調査部の捜査課の仕事に啞然とさせられた。
「さて、ここからが本題だけど…この『怪獣撲滅し隊』と言うアカウント…最近になってあるGIRLSの怪獣娘の音楽活動グループのアカウントに対して誹謗中傷行為が現れだしたみたい」
ゴドラはさらにダッシュボードからタブレットを取り出して利用者数の多いSNS『ツブッター』から問題のアカウントと被害アカウントのやり取りをスクリーンショットで押さえた画像を見せた。
「これって…ザンドリアスたち!?」
その画像を見たアキは東京支部でも顔を合わせる事の多い怪獣娘の1人ザンドリアスとその仲間たちの集合写真とちょっとしたコメントを添えた投稿だった。
しかし、その下のチャットコメント欄には例の『怪獣撲滅し隊』アカウントからのコメントが最初に出ていた。
「何これ…酷いコメント…」
その内容は口にするにも抵抗のある言葉を羅列したような酷い内容のコメントだった。そのせいでザンドリアスたちのアカウントの出だしコメントは序盤から大荒れとなっていた。
「このアカウント…公式マーク付いているのに随分と横暴な事を書けるのね」
「公式マークが付くとどうなるの?」
『ツブッターの規約上、特典利用として先着的にリプライコメントを最初に投稿できる機能があるようです…多くは公式マークのアカウントの応援コメントや宣伝コメントなどでの使用例があるようです』
「しかも、そのアカウントは元々購入アカウント…ソコソコにフォロワーが付いていたアカウントに公式マークを『怪獣撲滅し隊』に変えて運営していたらしいわ…無論、既にアカウントはバン済み、書かれたコメントも自動的に消滅…事態は沈静化して特に問題はならずに済むはずだけど…そのアカウントが最後に投稿した内容が少々調べる必要があるとあがったワケよ」
次のページを捲ると『怪獣撲滅し隊』がアカウント強制消去される前に最後の投稿コメントが記載されていた。
「『獣は火にくべられて 渡り鳥に浄化される』…唐突に詩的ことを投稿してきたわね」
「そう、あれだけ怪獣娘に対する誹謗中傷の嵐から突然の気持ち切り替わったかのような投稿…こういったコメントを残す人は大抵何かを実行しようとしている…いや既に準備ができている可能性も高いわ」
最後の投稿の日付からもそこまで経っていない中で意味深な投稿が意味する事に通じる何らかの行動を警戒して捜査課の2人の怪獣娘がこのアカウントの投稿主の女性の素性を捜査しているのであった。
やがて、車は都内の雑多な街中で車が停車した。
「それじゃあ私はあの人たちに聞き込みをしてくるわ」
「えっ!?あの人たちに聞きに行くんですか!?」
アキはてっきり一般人に聞き込みをしにいくものかと思っていた矢先、フロントガラス越しの向こう側に居る2人組の強面の男性たち…普段であれば決して関わり合う事のない顔つきをした所謂“カタギ”ではないタイプの者たちだった。
「大丈夫!ああ見えて実は警察官なのよ」
「あっ、あの人たちが…警察官!?」
「組織犯罪対策部って言って組織で活動する反社会的勢力の捜査を行う警察官よ…顔見知っているけど、あの人たちは私の顔を知らないわ」
そういうとゴドラは突然顔から身体のすべてを変化させてどこにでも居る小柄な中年の男性に変身した。
「この姿だから近づけるわ…あなたも手伝ってくれるわよね、ロボット…でもその姿はちょっと目立つわね」
『問題ありません』
するとジェットジャガーもあのメカニカルな姿から一変して窓の外に張られていた広告の俳優に似せた顔つきと服装まで姿を変えて見せた。
「あら、便利ね…それじゃあ行きましょうか」
「ちょっと待ってゴドラ!私は!?」
「あなたはアギラちゃんとお留守場…なんなら悩み相談の続きでもしていなさい」
ゴドラはマコにアキとの話し合いの場を設けるために組織対策の刑事たちの元へ擬態したジェットジャガーと共に向かって行った。
「………」
「………(気まずい)」
いざ、話し合いの場となって見れば先ほどから何度も質問攻めにして言いたいことを言い切ったのに一切の回答を得られない答え方をされて、同じように言ってもまた同じように回答の得られない答え方をされると思うと声が出なかった…が、それでも――
「ねぇ、黒ガッツ」
「何よ…」
もはや『黒ガッツ』と言うあだ名にすら言い返すことを諦めたような顔で窓の外を見るマコに聞いた。
「どうして、GIRLSを辞めたがっているの?何かやりたいことでもあるの?」
「………」
一応はマコのGIRLSを辞めようとする理由を尋ねて見たがミコの事を聞いた時とは違ってそっけない態度ではなく、何かを考えている様子だった。
「…逆にアンタに聞くけど、アンタもGIRLSを辞めた時はどうするつもりよ」
「ボクは辞めるつもりないよ!辞めたがっているのは黒ガッツでしょう」
「違う、そうじゃなくて……じゃあ質問代えて、GIRLSがもし無くなった時はどうするつもり?」
「GIRLSが…無くなる?…そんなことないでしょ」
突拍子もない例え話を交えた質問にアキは少し考えても『GIRLSが無くなる』などありえないとしか思えなかった。
「いつまでもあり続けるモノがあるとは限らない、始まりあれば終わりはいつかやってくるものよ…来年か、再来年か、10年後かもしれないけどそれでもいつか無くなる…そんな時、あなたはどうするの?GIRLSが中心だったあなたがGIRLSと言う存在を失った先の穴を埋められるの?」
「そんなの……その時になって見なきゃしかわかんないよ!」
考えもつかない事を聞かされたアキだが…直後、マコが首を回してアキの方を見た。
「私はねぇ…埋められなかったのよ…お母さんを失った時」
マコの固い口が語ったのは自分が失った心の穴の内だった。
「私は小さい頃に両親が離婚してね…親権は双子それぞれに、父はミコを…母は私を……双子って分けると便利なのよ、互いに一つずつ、分け合えば争いごともないままにお互いに離れていったはずだったわ」
「お母さん…どうなったの?」
「……わからない…どこに行ったのか…この世にいるのか、あの世にいるのか、そのどれもわからない…私と母が住んでいた町はねぇ…ある日を境に住民の半数が消えてしまう事件に見舞われたのよ」
「住民が…消える事件?」
「『八之島事件』…世間ではそう呼ばれる集団失踪事件、私の母がそこの出身で離婚後に私と移住して中学まで住んでいた…でもある日、母を始めとした島民の半数が消滅…消えた痕跡も、何もなく、ある日突然消えたのよ」
マコが語る彼女の心の穴の過去…それはGIRLSが無くなった時にどうするかと言う言葉の意味のあらわれであった。
ある日突然、あるはずのものやことが…なんの前触れもなく消えてしまう…当然、すぐに埋まることはなく、マコのようにずっと塞がれない穴が開いたままの状態で変わらずに生活など到底できるわけもなかった。
「それは……ボクだってお母さんは居ないよ、お父さんも居なかったよ…お母さんは…確かに居たけど病気で亡くなった。そのあとはおじいちゃんと暮らしたけど、それも長くは続かなかった…でも支えてくれる人たちは居た!それはGIRLSでも居たけど、GIRLS以外でもいるよ!ボクには支えてくれる人達がいるもん!」
「それは形のある居なくなり方をしたからでしょ!私のお母さんは法的に今も“行方不明”なのよ…生きているのか、死んでいるのかもわからない…希望も絶望も抱けない複雑な気持ちはねぇ…私の心をずっとえぐり続けているのよ」
マコの心の穴はとても大きかった。修復のできないほどに大きな穴がミコやGIRLSや周囲の誰にも彼女の心の内を治せるはずがなかった。
しかし…
「でも、だからこそ…あきらめたくない…私はねぇ、GIRLSを辞めた後…警察官になるつもりなの」
「黒ガッツが…警察官に?」
驚くことにマコはフロントガラスの向こう側で警察官に扮したゴドラたちや組織対策部の刑事たちと同じ警察官を目指していると答えた。
「ええ、警察なら『八之島事件』の記録を調べられる部署があるはず…たとえ配属叶わなくても、内部からせめて調べて見たいの…GIRLSで調査部の捜査課に配属したのはそのためよ」
「そう…だったんだ…」
思いがけないマコの目標に対する意欲は不変的な物であることを悟ったアキはそれ以上のことは言わなかった。
「幸い、同僚にも恵まれて…元警察官のゴドラにも色々教えてもらいがらだけど、着実に目的へ近づいてきている。 だから、私にとってGIRLSは通過点に過ぎないの…辞めることに抵抗は無いけど、しばらくは学業に専念して高校を卒業したら採用試験を受けるつもり」
「……そうなんだね…わかったよ、そういう事ならガッツも納得だよね」
アキはポケットから隠していた通話中のソウルライザーを出した。その通話先は『ガッツ』であった。
「なっ、あんた…どういうつもりよ!」
「ボクなんかに打ち明けるより…ちゃんと家族と話すべきだよ。 今さっきの自分の気持ちを…素直にちゃんとガッツに伝えて!」
アキはそういってマコにミコへ通じているソウルライザーを突き出した。
「……うっざ…出ればいいんでしょ、出れば…」
そう言ってソウルライザーを手に取ってマコは耳に当てた。
『マコ…そうだったのね…ずっと、お母さんの事を…』
「勘違いしないでもらえるかしら…私は…真実が知りたいだけ、そのためならGIRLSなんか踏み台としか思っていないわ」
『ええ、そう…構わないわ……前々からあなたは怪獣の力を十分に制御できているもの…私なんかと比べて…』
「意志薄弱なアンタと一緒にしないでもらえるかしら……もう、気持ちは変わらない…さっきの話の通り、私は高卒後に警察官採用試験を受けるわ…例え何年かかろうと真実を見つけ出す」
『うん…わかった……ピグっちからは私の方で伝えておく…正直、もったいないなぁ~…GIRLSって楽しいのに』
「アンタたちみたいにGIRLSなんかにおんぶにだっこされ続けるつもりは最初からないわよ…私は…GIRLSを信用していない、本部を支部に降格させただけでなく、本部長を外国本部に幽閉するような組織なんか…」
『マコ……博士のオーストラリア支部行き…まだ気にしていたのね』
「それだけじゃないわ…東京支部って言っておきながら肝心の支部長を海外勤務にさせておいて代理をピグモンに任せっきり…アンタだけじゃなく、あの子も危険な状態よ」
ミコとの通話内容は段々とGIRLSと言う組織体制の問題点を挙げた不穏な会話が続いた。
「じゃあ、もう切るわよ…そろそろゴドラたちが戻って来たわ」
そう言ってミコとの通話を切ったマコはソウルライザーをアキに返した。
「黒ガッツ…今のって…」
「おまたせ~!わかったわよ…『怪獣撲滅し隊』の正体!!」
ゴドラは車内に入るなり、変身を解いて謎が解けた清々しい表情であった。
「何かわかったの?」
「ええ、この運営女性…組対の網の中では有名人…正体は『荒野の狼』の残党、昨年の御茶ノ水支部への警察のガサ入れで不起訴になった団員の1人だったわ…元々、地位はそれほど高くなかったけど現住所を何度も移転している形跡も確認できた」
「もしかしたら調達係かもしれないわね…その組織ならその人をあえて高い地位にはおかず、動きやすい中で物資調達など活動をしやすい人物だったはずよ」
「住所の転々も納得がいくわ…何度も場所移動できるだけの経済力、きっと幹部並みの厚遇だったはずね」
「すっ…すごいですね…(どっかの誰かさんとは大違いだ)」
まるで刑事ドラマのワンシーンを見ているような類まれな捜査力にアキは脱帽した。家で居候しているだけのなんちゃって探偵とは大違いだった。
・
「へっきゅしゅん!!」
【キャッチ ア コールド?】
風の噂に充てられてミオは大きなくしゃみが出た。
「誰かに噂されてるのかなぁ?」
・
世田谷区 祖師谷
「ここが最後の住所みたいね…」
住宅が立ち並ぶ街の中でも一際古めかしい外観のアパートにアキたちは訪れていた。
「あぁ、連絡してくださった刑事さんですか?」
アパートの中から小太りで角刈りの中年男性が出てきた。
「どうも、城南署の吾戸螺です」
『同じく伊吹です』
ゴドラとジェットジャガーは変身能力と擬態能力で姿を変えて男性の目を欺いた。
「ココのアパートの大家です…正直、困っていたところなんです。突然になって部屋のカギと退去届を送られて…家具家電もそのままなんですよ、まぁもともと家賃払いの良い人なんですがねぇ」
「特に滞納とかはなかったんですか?」
「ありませんよ、寧ろブラックさんも見習ってほしいくらいで…ああいえ、こちらの話です…はい……家賃は2年契約一括、うちは古いアパートなんで2年以内に出て行っても特に違約金は出さない契約なんですが…ちょっとねぇ」
「何か問題でも?」
「いや~…家具家電は新品同然なんですが…寧ろ家具付き物件として売り出せるレベルですので…そこは問題なんですがねぇ、いかんせん壁が…」
そう言いながら大家が出てきた部屋に案内されると…確かに家具家電は新品同然…寧ろ、使った形跡もない。
「冷蔵庫は…見せかけね、電気が通ってない」
「電気ガス契約をしていないみたいなんです、水道は一応契約しているみたいですが…」
「問題の壁は……なに、コレ!?」
ゴドラが扮する吾戸螺が畳張りの部屋に入るとそこに待ち構えていたのは衝撃的なものだった。
「…GIRLSの…東京支部のみんなだ」
そこにはGIRLS東京支部に所属する怪獣娘たちの写真を中心に蜘蛛の巣状の赤いポリエチレンテープでつなぎ合わせた調査網があった。
「…一体…何を企んでいるの?」
『わずかに農薬の匂いが検出されます…アンモニア、石灰、いずれも一般で手に入る物がつい先ほどまであったようですが…』
伊吹と言う男に扮したジェットジャガーが検出機能で部屋の中の微量な物質を調べると年若い女性が所持するにしては異様なものが次々と検出していた。
「…ゴドラ!コレッ!?」
マコが調査網の中から見つけ出した一際穴だらけの写真が床に落ちていたのを拾った。
「誰なの?これ…」
「穴が開きすぎて判別できないわ…でも、なんだか髪の左右を結んでいる?」
『皆さん、これを…』
更にジェットジャガーが拾ったのは…GIRLSの封筒だった。
「こんな事をするヤツが…なんでGIRLSの封筒を?」
「あっ!これって…GIRLSの抽選イベントとかで配られる際に同封するための封筒ですよ」
封筒の用途を知るアキはキングジョーなどイベントを開くほどに著名な怪獣娘の交流イベントで配布される封筒であることを見抜いた。
「黒ガッツ!今日のGIRLSのイベントは!?」
「あんたまで…まぁいいわ、ちょっと待って……1件だけ、午後4時からの中学生バンドグループのライブがあるわ」
「それって…ザンドリアスたちだ!?」
よりによってまだ年端もいかない中学生であるザンドリアスたちのライブに部屋主だった女が何かGIRLSに対して行おうとしている。それもSNSでの誹謗中傷では比にならないレベルのことをしようとしていることに気づかされた。
「急ぐわよ!!時間がないわ…時刻は…まもなく4時ごろよ!」
全員、アパートを飛び出して車に乗り込んだ。
「ゴドラさん!ザンドリアスたちから聞いたんですが、演奏後にはファンとの交流で握手会をするそうです!」
「おそらくそこで何かをしでかすつもりね…会場はGIRLS東京支部近くのイベント会場…終了時刻は約6時ごろ…演奏を1時間と仮定しても握手会もそれくらい…」
『ここから車で1時間弱と推定されます』
「何とか間に合わせて!!」
『了解しました』
ジェットジャガーはギアを入れ替え、アクセルを法定速度最大を出しつつ、GIRLS東京支部へと急行した。
・
・
・
―GIRLS東京支部・イベント会場―
会場内では演奏を終えたザンドリアスたちがファンとの交流で握手と手渡しでCDを配っていた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「あたしらのファーストシングル、よろしくね」
ザンドリアス以外にもノイズラー、メカギラス、ホー、モゲドンの怪獣娘たちが各々ファンと交流を深めていた。
しかし、このライブはある1人の怪獣娘の卒業ライブでもあった。
●
遡ることライブ開園前日…
「ええ~!モゲドン、ドラム引退しちゃうの?」
「うん、私もともとドラムは趣味の範疇だったし…元鞘の救助課で活動するよ」
「ごめんな~、ギリギリまでオマエには伏せてたんだ」
「なんでぇ!?」
「うるさいから…」
「ひどくなぁい!?」
「まぁまぁ…ベースはマドカさんに代わってメカギラスさんが担当されるので…私も…キーボード…頑張りますから…うっ、ううっうわぁあああああああああ!!」
「なんでアンタが泣き出すのよ、ホー!私だって…私だって…うわぁあああああああああ!!」
「だぁ~もうこうなるから嫌だったんだよぉ!」
「ううっ、二人ともありがとう…でもこれで名実共に中学生バンドとして活動できるね! 私だけみんなより年早く高校生になっちゃったから…でも、みんなとバンドやれて楽しかったよ!」
「ううっ、わかった…よぉ~し、じゃあ明日はモゲドンの卒業ライブ!みんなで盛り上げていこ~う!!」
こうしてザンドリアスたちは一致団結して『おお~っ!!』と勢いづけてライブへと歩を進める事となった。
●
そんなこんなでライブは無事に成功、モゲドンも辛い気持ちなくスッキリとした気分の表情でファンとの交流を進める中…いよいよ最後が見えてくるほどに長蛇の列の終わりが近づいてきた。
そんな時だった…強い視線が徐々に近づくザンドリアスまで迫っていた。
「ありがとうねぇ~!…次のひとぉ~」
いよいよザンドリアスに近づき……握手を交わした。
「thank you Live is so Cool!!」
「うぉっ!外国の人まで…せっ、センキューソーマッチ?」
自分のファンの中に遠い海の向こうから遥々ライブを見に来てくれた外国人女性に思わず動揺したが、うれしい気持ちを握手を交わし隣のノイズラーへと流れて行った。
「ええっと、センキュー~!…ええっと、次は…あれ?…これで最後だっけ?」
ザンドリアスが次のファンと握手を交わそうとしたが…外国人女性の後ろにももう一人女性が居た気がしたがそこには誰も居なかった。
「ねぇ、ノイズラー…あと一人、いなかった?」
「ええ~?あの外国人さんで最後じゃないのか?」
「おっかしいなぁ~…居た気がしたんだけどなぁ」
なんだか腑に落ちない気分だがすべてのファンと握手をしたと言う事になりライブはすべて終了となった。
ただ一人、ファンを装ってザンドリアスたちに危害を加えようとしていた者を除いて…
「んんっ~!んんっ~!!」
「はいは~い!おとなしくしてねぇ~」
誰も居なく、誰にも見られぬ人気の少ない場所で…ジェットジャガーの光学迷彩シートからアキたちは捕らえた女性の口を塞ぎつつ、電子手錠を手首に嵌めて拘束していた。
「この人…どうなるんですか?」
「さっきの部屋の様子を警察に通報したから、ココに居ることも伝えている…すべては警察にお任せするって所かしら…捜査課って言っても逮捕権は無いからさぁ」
GIRLSの捜査課としての仕事の一部始終を目の当たりにしたアキは普段は見れない怪獣娘たちの日々を壊そうとする者たちから未然に対処する捜査課の活動に敬服する事ばかりであった。
「ご苦労様です…警視庁の者です」
そんなこんなで警視庁の者と名乗るスーツ姿の警察官達が近づいてきた。
「どうも、GIRLS捜査課のゴドラです」
「同じく印南マコです」
「どうも…そちらの女性は我々がお預かりいたしますので…もうこれ以上、身分を偽って勝手に捜査されるのは…そちらさんも困ることになりますよ」
警察官の内の1人の年上の眼鏡をかけた警察官がゴドラたちの行動を咎めた。
その急な変わりように全員が2名の警察官を警戒した。
「失礼ですが…あなた方、どこの警察署の方々ですか?」
「先ほども申した通り…警視庁…です」
「もっと言えば…“おおやけ筋”…の者ですが…」
「…公安ね…よりにもよってなんであなた達が出張ってくるわけ?」
2人の警察官がただの警察官ではなく、国家の公(おおやけ)の安全を守る側の警察官であることに全員に動揺が走った。
「悪いけど…私たちが通報したのは普通の警察官よ…ハム(公安)の出る幕では無い筈よ!」
「そうは行かない…本件は外事案件につき、彼女の身柄は我々が預かる事となっている…どいてくれ、元巡査」
もう一人の若い公安刑事がゴドラの額に冷や汗をしたらせた。ゴドラがGIRLS所属以前の警察官時代の階級まで調べ上げられている。
「今ここで、君が警察官を退職した理由を述べることになっても構わないのかね?」
「…チィッ…無駄に男前のくせに…やることがプライバシーの侵害とはね……黒ガッツ、アギラちゃん…私たちは下がるわよ」
「ちょっ、ゴドラ…何言っているの!?」
「お願い!!言う事を聞いて…」
何やら公安の刑事たちにゴドラには言われたくない秘密まで握られているのか…仕方なく女性までの道を譲った。
「賢明な判断だ、元巡査……んっ?おい、お前!何をしている!」
若い公安刑事が近づいていくと…拘束された女性は手に隠し持っていたスマートフォンがちらついて見えた。
慌てて刑事がスマートフォンを調べると…何かを起動した後…しかもマップ上には無数の点がGIRLS東京支部に向かって徐々に近づいていた。
「むっふふふ、ふ~~ふふふっ!!」
声を出させないために布で隠していた口が布の中で盛大に笑う声がかえって余計に不気味さを醸し出していた。
「まさか!!ソウルライド、ガッツ星人!!」
慌ててマコはガッツ星人へと変身してテレポート能力を使ってGIRLS東京支部の屋上へ移動した。
「なんてこと…ゴドラ!その女は自爆ドローンを東京支部に向かわせているわ!!ものすごい数を!!」
『なんですって!?すぐに応援を要請するわ!!』
「間に合わない!!このまま私が少しでも迎撃する!!まだ下にはイベント帰りの人たちで溢れかえっている……向かってくるドローンは河川敷まで近づいたら撃ち落とす!!」
ガッツ(マコ)は両手にエネルギーを蓄えて光線攻撃を仕掛ける構えを取った。
自爆ドローンの接近までおよそ500メートルに迫っていた。
一方、その頃…
『千鳥…緊急事態が発生した…直ちに対処せよ』
「了解…竹之内班長…」
GIRLS東京支部の向かいビルから向かってくるドローンの様子と…ガッツ(マコ)が迎撃する様子を見守る男が太陽沈む夕日の中で身体を変化させ大きな翼を広げた。
河川敷まで浮遊能力を駆使して次々とドローンを撃ち落とすガッツ(マコ)だがいくら怪獣娘の能力を駆使しても数の多さに辟易するほどに対処が精一杯だった。
「あぁ~もうウザい!!多すぎる!!」
ガッツ(マコ)一人では限界であった。浮遊能力を駆使しながら光線を発する能力の二重使用、走りながらボールを投げ続けるようなものだった…連続して使い続けるにも体力の限界が近づいていた。
誰かが言った、『血を吐きながら走り続ける…マラソンだ』と…本来、撃ち落としているドローンも兵器として運用が前提…守るために広く、多く、強力な武器で人間は武装して自分達の身の安全を守ろうとする。
(ホント…血を吐きながら走り続ける…マラソンじゃない)
それがまさに皮肉な事だった。守るために開発された武器が…今まさに怪獣娘たちの居場所を攻撃しようとしてくる。
(だから人間なんて信じられないんだ!!なんで私がアイツなんかの為に…怪獣娘の為に…GIRLSなんかの為に…辛い、ツライ、辛い、ツライ…逃げ出したい、見捨てたい、諦めたい!!もう嫌だ!!正直、警察官になることだって嫌だ!!あくまでお母さんの真相を知りたいだけ、警察なんてどうでもいい、採用試験が何ぃ!?なんでそんなの受けようとしたんだっけ?…わかんない、わかんない、わかんない!!)
次第に心が嘗て無いほどに強い思念があふれかえって来た…これが所謂怪獣娘の暴走だとしたらガッツ星人こと印南マコにとって初めて怪獣娘の力としての実感を与えた。
荒ぶる暴力の根源…それこそがまさに…“怪獣”だった。
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
目の前が真っ赤に染まって…手から放つ光線が赤くなり…大量のドローンも、河川も、GIRLS東京支部も含めたすべてを破壊しかねない力が溢れて来た。
(もう…ないもかも…吹きとべぇエエ!!)
破壊衝動が完全に心を満たそうとした時だった…ガッツ(マコ)の横を赤い閃光が通り過ぎて…その閃光がすべてのドローンを正確に、精密に破壊しつくした。
「なっ…なに…一体…」
ほとんどのドローンを完全に無力した…かに思われたが、1機だけガッツ(マコ)に近づいて行き…彼女の目の前でセンサーが反応して自爆した。
「きゃぁっ!?」
酷使し続けた体力も限界が到達してガッツ(マコ)の中で意識の意図をプツンと切れるような感覚が全身の力を緩めさせ…そのまま浮遊能力は消えて河川へと落下して川の中に彼女は消えた。
―ブクブクブクブクッ.。o○―
川の中、水の中…薄れゆく意識の中で自らの口の中から大事な酸素が泡となって水面に上がっていく…
(あぁ…死ぬんだ…これが…死ぬ…感覚……もう、どうでもいいや……そもそもなんで警察官になろうとしてんだっけ?…真実を調べたきゃ記者とかでもいいじゃん…国家権力なら、自衛隊だって……いや、自衛隊はあのクソ親父がいるからダメじゃん……あぁ~でもなんか…割り切れないなぁ~…警察官に……なれないからかなぁ…)
青く澄んだ意識から徐々に黒くて暗い世界が上下より近づく中…―ドボンッ!と赤い炎がガッツ(マコ)まで近づいて大きな翼を広げているようだった。
●
◎
〇
―ミィ~ン!ミィ~ン!ミンッミンッミィ~ン!
それはどこか熱い夏の日差しを照り付けさせる9月を迎えてもまだ夏模様の空だった。
その島は季節が東京都よりズレている…セミは今頃木から落ちて七日目の死を迎えている頃なのにまだ生きている個体があちこちでうるさく泣いていた。とてもウザかった。黙ってほしい、悲しませてほしい…自分が今、母と生き別れて泣き崩れたかった。
「ううっ…お母さん……お姉ちゃん……みんな…どこ…」
姉はおそらく父と本土に居る頃だろう…だが、母はわからない…突然、居なくなった。
どうしていいのか分からない、何をしていいのか分からない…ただただ恐怖が続いていた。
そんな時だった…―タッタタタタッ!
「千鳥より本部へ!島民、1名…年齢13から15、蜂野巣畑バス停前で発見しました」
『本部了解、引き続き島民を公民館まで保護せよ』
胸元の無線を通じて指示を受ける青い服に、紺色のジャケット、紺色の帽子、背格好はスラリとしているが瘦せ細っているわけではない、鍛えている体形だった。
「君、大丈夫かい?お父さんとお母さんは?」
わからない…声が出ない…何かを伝えるためにはジェスチャーが必要だったため、首を横に振った。
「…そうか…とりあえず公民館まで行こうか…歩けるかい?」
またも首を振った。この数時間に数本しか来ないバス停で往生しているのは転んで足を捻っているからである。
とても痛い、歩けない…しかし、手を握られた…嫌ではない…寧ろ暖かい、夏日なのに…
「ここにずっといて…辛かっただろう……今日は嵐の後みたいに日差しが熱いから…コレ、被っていようか」
頭に被った帽子を自分に被された。ヒノキの香りのする…更に抱きかかえられて、自分の鼻が首筋まで近い…ソコもヒノキの香りがする…手も暖かく、香りも暖かい…不思議だ…不思議な事だ…誰だ?…誰なんだろう?…自分を抱えるのは誰なんだ?…中学生なのに子ども扱いされている…でも自分より背も高く、身体の大きな何者かに抱えられて、どこかに向かっている…ずっと…こうして…いた…
〇
◎
●
「脈拍…110の89…よし…問題ない…」
濡れるガッツ(マコ)の腕の脈を確認する人影…どこかのビルで横たわる彼女は取り戻していく自分の意識の中でソレが誰なのか確認したい。その一心でガッツ(ミコ)は手を掴み返した。
「…あったかい…この暖かさ……あなたは…」
「……君は何も見ていない…誰にも会っていない……」
「そんな……違う…いるよ……ここに確かに居てくれている……あなたが…ここに…」
「……君は錯乱している…力を酷使し過ぎた……普段使わなかった力を無理に使おうとしたからエンストしただけさ」
人影は男の声だった。どこかで聞いた事のある声にガッツ(マコ)はもう手放したくないと最後の力を振り絞って男の手を握った。
「いやだ…行かないで……私は…真実が…知りたい…」
「…真実……真実はたった一つだけだ……君が今ここで生きていること…だたそれだけだ」
懸命に握るガッツ(ミコ)の手を逆に力強く握り返して手の中から熱く燃えるような熱が伝わってガッツ(マコ)の全身を炎が包んだ。
身体を燃やす炎ではない…全身にビッショリと濡れた水分だけを蒸発させる火だった…水分が消えれば火も消える。水分を燃料にしているかのようだった。
やがてその熱が不思議とガッツ(マコ)の黒かった自らの髪さえも桜色に変化して全身の青い部分も暖かな桜色に変化するかのようだった。
しかし、心の安定が保たれたのか…ガッツ星人としての姿は解除され、元の黒髪のマコへと戻った。
そして、男も…手を放してどこかへと去っていく。
「な…まえ…は…」
薄れゆく意識の中で男の名を尋ねたが…
「……ラドン……」
それは名ではなく、何かを意味する別の名前かもしれなかった。
・
・
・
―翌日 都内公立高校―
「うん、そう…復学したよ…ずっと休学中だったし、結局私もあんたと同じでワーカホリックになってたみたい…」
『なにそれ、結局人のこと言えないじゃん!』
「正直辞めたことは正しい判断だった…私には女の子同士で和気藹々ってのは性に合わないみたい」
『ピグっち、超号泣してたよ…アンタが辞めるって言いだした時以上に…』
「まったくピグモンは大げさなんだから…誰にだって始めあれば終わりはやってくるものよって伝えといて」
『自分で伝えろ、バカマコ!…あんたさんざん私のこと裏で馬鹿呼ばわりしてたってアギから聞いてるんだからね!』
「ゲッ…バレた?」
『はぁ~ぁ…アンタが居なくなったおかげで東京支部はいつも変わらずにぎやかですよ~』
「フンッ、言ってな…こっちはGIRLS無しでも日常生活を送れるんだから…アンタたちも本部復帰を目指して頑張りなさい」
『……なんか、マコ…明るくなった?』
「ええっ、おかげさまで…新しい目標も出来たし……私、警察官になるよ…そんで、会いたい人に会いたい」
『はいはい、お母さんに…でしょ』
「うんうん、ざ~んねん…お母さんもそうだけど…もう一人…私を救ってくれた人」
『ええっ~!?誰ッ、だれだれ!?女ッ?男ッ!?まさか男の人だったりする!?』
「な~いしょ!」
『教えてよぉ~!!私だってアギのお兄さんにすら会えてないのに~!!』
「アレッ?私、昨日の送別会の時に会ったわよ」
『ウッソ!?なんでアンタが会えるのよ!!ねぇっ、どうだった!?どうだったの!?どうだったのよ!!』
「どうって…あぁ~…料理は美味しかったかなぁ~」
『何よそれ!!そんなの感想になるかぁ!!もっと具体的に!!イケメンだった!?顔立ちはどうなの!?ねぇ、マコ!!』
「…おとなしく安静にしてなさい、バカミコ!」
そう言ってマコはミコとの通話を一方的に切った。そのスマートフォンには青い鉱石『アーカライト』がストラップで括り付けられたキーホルダーに収められていた。
キーホルダーの裏には今まで忌まわしく思っていたGIRLSのロゴ入りだが、なぜか今は誇らしくも心強い大切な御守りであった。
そのキーホルダー付きのスマートフォンを天に掲げると中のアーカライトが日光の反射で青く輝いていた。
―ブゥワァアア!!
すると、マコの黒髪を乱すほどに強い突風が後ろから吹いてきた。
その横を1枚の桜花弁が足元に落ちてきた。
マコの通う高校は遅咲きの桜の木が1本咲いている。
5月になってもまだ桜咲く花ビラ…季節ひと月ズレ…まるであの時の八之島の季節のようであった。
「マコ~!次、移動教室だよ」
「うん、今行く」
友達が呼ぶ声がしてマコは教科書を抱えて自分が今まで居た教室を後にした。
ふと、学校内の階段に設置された鏡を見ると自分が本来映る虚像は自分の姿…否、もう一人の自分の姿が重なる。
それは桜色の体色を持つガッツ星人が目の前にいた。
・
・
・
―都内 食事処『豊』―
そこは一般的にはどこにでもある普通の定食屋と変わらない外観をしていた。
「…注文せよ」
「…大将、そば、かき揚げ、海老天3、かしわ握り2、ゆず七味」
「あいよ!」
この店にはメニューはある…が、通常の注文の仕方ではない…特殊な注文、正し店主への注文ではない…上司への“報告”であった。
そして、会話も独自の暗号を使いながら伝え合う。
「それで…おとめ座(被疑者の女)から何か出ました?」
「ラッキーアイテムはパソコンだ…調べたら面白いものが出てきた…宮下アキの手配書だ」
「いつ頃にそんなものを?」
「黒いの海(ダークウェブ)からの誘いらしい…本人も写真が誰なのか知らずに製作したと…」
「フンッ…よくワニ(ゴジラ)に殺されずに済みましたな……アレが知ったらそこから辿って組織ごと破壊しかねない」
「だろうな…ワニの入国は既に公安内部でも把握されている」
「それで…次の清算(任務)は何ですか、竹之内さん」
すると1枚の広告ポケットティッシュが出てきた…市販薬の塗り薬を宣伝するものだった。
「次はこれだ…最近、スペルゲンを含んだものが出回っている…文科省からの依頼だ」
「…了解しました、ではお会計(任務開始)します」
「頼んだぞ…千鳥ヒエン…炎の悪魔(ラドン)が出る前に」
男は不敵な笑みを浮かべて注文したかき揚げエビ天そばが出された。
ここはただの定食屋…しかし、なぜかここには警察の関係者が集まってくる。
「ねぇ、聞いた?アヴァロン・ユニットの増員の話…」
「えっ?もう増員ですか?沖田さん」
「はぁ~…これでようやく“おりょう”さんとの時間が取れますよ~」
「新婚さんは大変ですね…坂本さんも」
「正直、自分はまだ結婚はいいですね」
「私も~」
部署、立場。階級問わず多くの警察官達が流れ着く…
「ここでござるよ!ココこそ都内随一のお店でござる」
「後藤君、前から思ってたけど…その口調はキャラ付けなの?」
「何を申されるか、前原氏!某、幼子の頃から時代劇に憧れてこうなったでござるよ」
「キャラ付けなんだ…」
そして今日もまた一人、『公の守護者』は店を後にする。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました」
次なる任務に向かって…
アンバランス小話
『どこにも竹之内』
公安部外事5課、主に国際怪獣関連を扱う部署である。
世間的には公安の外事は4課しか存在しないことになっているが…怪獣事案は怪獣の遺産を利用して新たな脅威が生まれることを未然に阻止する。その捜査は多岐にわたる。
「次なる的は『丈・野内(ヂ・チヌエ)』、東呉国から日本へ入国したのち――…」
そんな外事5課に配属された捜査員“千鳥ヒエン”には気になることがあった。
「あっ、あの~班長…少しよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「遠縁の親戚とかじゃないですよね」
「…?…いいや」
公安部外事第5課作業班長“竹之内ユタカ”…ヒエンの直属の上司だが、この男…町を歩けば目を疑うほどに似ている者が多すぎる。
食事の時も…
「大将、かけそば一つ」
「あいよ」
「…んっ?…ぎょっ!?」
食事処『豊』…ここの店主も上司に似ている。
町を歩くと…
「自国民党、武乃内ユタカ!武乃内ユタカ!武乃内ユタカに清き一票をお願いします!」
「はぁっ!?」
選挙カーにて選挙演説をする議員も…
テレビをつけても…
「本日のお客様は俳優でもいらっしゃいます 岳之内ユタカさんです」
「ええっ…」
トーク番組の出演者にも…
見れば竹之内、あそこにもたけのうち、どこにでもタケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチ、たけのうち、タケノウチーーー
「うわぁあああああああああああああああ!!」
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「おい、千鳥…おい、千鳥!」
「はぁっ!?…あれっ…ここは…」
「やけに魘されていたぞ…少し外に出て気分を変えてこい」
同僚の“齋藤タクミ”とは常にバディを組むことの多い間柄、任務中は常に一緒に行動することが多かった。
「…またカレーか?お前は…」
「当然だ」
そして、カレーには備え付けのスプーンではなく…マイスプーンを内ポケットに忍ばせて、食す時はなぜか必ず天高く掲げる。
「少しタバコを吸ってくる…」
上司“竹之内ユタカ”、同僚“齋藤タクミ”、癖は強いが立派な警察官であり、国家の安全を担う公安刑事だ。
ヒエンは今日も国家の安全の為に、一服を吸える日常を守るために公安の刑事だけでなく、炎の翼竜怪獣『ラドン』の怪獣戦士(タイタヌス)として活動する。
「ふぅ~……んっ?」
「自国民党、武乃内ユタカ!武乃内ユタカ!武乃内ユタカに清き一票をお願いします!」
「ゲボッホッ!!ゴホッゲゴッホッ!!」
だが、竹之内に似た者がどれほどいるのか…それはまた別の話である。