TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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サーベルの用心棒

 この星に前触れもなく“闇”が訪れた。

 大地に闇夜の時代が訪れ、人々の正気を狂わせ、光の力を宿す者たちさえも闇に魅入られてしまう。

 闇はやがて落とし子ガタノゾーアを星に撒き、星も、国も、危機に瀕する事となった。

 しかし、人々の疲弊する姿を鑑みた闇の父は地上に“希望”を撒いた…やがて“希望”の息吹きと共に闇の力を打ち払い、星の生命を再び息を吹き返した。

 人々はその“希望”を『ルルイエ』と謳った。

 

 

 太平洋沖・ルルイエ島ルルイエ遺跡保護区

 

「――と、言ったようにここルルイエ遺跡には古ルルイエ文明に関する貴重な歴史的資料が眠るため、私たちGIRLSオーストラリア支部は発掘調査及び遺跡保全のためオーストラリア政府と共同での文化保護区に指定されております」

 太平洋上に浮かぶ周囲数キロ程度の日本で言えば父島ほどの広さしかない僅かな面積の島、島全体が遺跡群としてチラホラと遺跡の建造物と思しきものが転がる場所で怪獣娘による観光ツアーが開かれていた。

「わたくし、超古代怪獣ゴルザとも関わりが深いルルイエは文献内では地殻変動による大陸が分散した可能性が示唆されており、その際に地球上でいくつもの独自のルルイエ文明が誕生したと推察されております」

「ヘェ~ドンナ文明ガアッタノ~、ゴルザオ姉サン…」

「良い質問ね、キリエちゃん! そもそもルルイエ文明が誕生したとされる時代は不明だけどここルルイエ島は何と3000万年前から存在していたとされているのよ! まだ人類が文明と呼べるものを誕生させるのは更に進めて2999万年と5000年後にようやく古代エジプト文明やメソポタミア文明が確立されて誕生する…つまり、それ以前から存在する文明圏は『超古代文明』または『超古代外来文明』ともされているわね! この超古代人のルーツには他惑星から流れ着いてきた異星人渡来説が有力視されているわよ!」

「ヘェ~シラナカッタ~…ワタシタチ以前ヨリモ昔ニ宇宙人ガ文明ヲ築イテイタナンテェ~」

 ツアー客相手にフリップ形式で『古ルルイエ文明』に関して首元にマフラー状の獣殻(シェル)を巻いた怪獣娘ゴルザと白黒のフードで顔を隠し何故か片言な喋り方で彼女の助手を務める怪獣娘キリエロイドが説明していた。

「それでは私に続いてルルイエ遺跡群内部に進んで、ルルイエ島内に内在する古代都市へと向かいましょう~!」

 ゴルザはツアー客を引き連れて遺跡鑑賞用に舗装された通路に沿って進んでいった。

「キリエさ~ん!お疲れ様です!」

 ツアー客たちの最後尾に姿を現してキリエロイドに声をかけて来た巻き髪の少女がいた。

「お疲れさま…だと…ふざけるのも大概にしろ!私は崇高なキリエル人の戦士、救世主となる我が道を…愚かにも観光客案内に利用するとは…万死に値する!!」

「そうは言っても…キリエさん、なかなか様になっていますよ~ 日本ではアンジェリカさんも頑張っていらっしゃるようですからキリエさんもがんばりましょう!」

「ふんッ…そう言ってイズミこそ早く日本へ博士と一緒に里帰りしたのではないのか?」

 キリエロイドの的確な指摘に巻き髪の少女の沢中イズミは顔を真っ赤にして図星を突かれていた。

「なっ、なななっなんでそこで多岐沢博士が出てくるんですか!?」

「見え見えだ…正直、オーストラリア支部の全員にバレてるぞ」

 自分は隠し通しているつもりだった筈が隠しきれておらず周囲に“多岐沢”なる人物への思いを露見されていた。

「はっ、博士のことが好きだとか、一緒に居たいだとか、同じ時を過ごしたいだとか、そんな不埒なこと考えていません!!」

「誰もそこまで言っていない」

「んんっ!…とにかく今は私もオーストラリア支部に残って博士のサポートに徹することを誓ったんです…だって…今、博士は……日本に“帰れない”ワケですから」

 イズミの顔は酷く食い縛ったような表情を浮かべて手元の電子パット型のソウルライザーを握りしめていた。

 オーストラリア シドニー

―ニューサウスウェールズ州・シドニー大学―

 

 講義『スペルゲンの増大と効果』

 教授:多岐沢マコト

「――宇宙には絶え間なく反物質が漂っています…その最たる象徴こそ“スペルゲン”です。 スペルゲンは反物質でありながら物質に蓄積されて始めて“スペシウム”と呼ばれる固定物質に変換される性質があります…スペルゲンが液体に定着すれば“液化スペシウム”、鉱物などに定着すれば“固形スペシウム”とスペシウムを形成するスペルゲンは水とは違い物質の三態性ではなく、反物質スペルゲンが無機物に対して定着するか、否かで分かれる地球上初の分岐の状態によってスペシウムは変化しますが、有機物には逆に原子加速が生じて物体過熱を促すため過去のウルトラマンたちはこの性質を利用したご存じ『スペシウム光線』を応用した多種多様な光線技を使用していました」

 多岐沢の講義は連日人気を博していた。シドニー大学ではある種の特別枠で特別講師に選出されて『怪獣娘』に関する授業を取り行ってきた為にいつの間にか同大学内では名誉教授扱いであった。

「なお、このスペルゲンは怪獣娘が怪獣の姿に変身する際に用いられる『アーカライト』にも放出されるため、『アーカライト』は高純度のスペルゲンを含んでいるため『アーカライト』から発せられるスペルゲンはβ波と仮定した場合…以下のような数式になって怪獣娘の変身時の獣殻(シェル)などは怪獣娘の魂、すなわち『カイジューソウル』内の量子データから読み取られ疑似的なスペシウムを構成する鎧のような性質に変化すると言うワケです」

 多岐沢はホワイトボードにスペルゲンとアーカライトの数式を算出して如何に怪獣娘の獣殻(シェル)などを構成する仕組みになるのかを図にして説明した。

 授業の佳境にしては最後の落ち所として申し分のない形でちょうど良いタイミングのまま授業終了のチャイムがなった。

「では、来週には『同性質のマーカライトとα波』について講義します。 本日はここまで…――」

 教室いっぱいに生徒で埋め尽くされていた座席から続々と生徒たちが離籍をする中で1人、見慣れないスーツ姿の日本人が多岐沢に頭を下げた。

「…山根くん…」

 多岐沢の目からはその男が何者なのか検討は付いていた。

 

 

 講義後、授業後の学生が行きかう校内から人通りの少ない外園を多岐沢は自身の講義を見ていた男と共に歩いていた。

「…大学以来だね…今は何をしているんだい?」

「学者くずれさ…大学の卒論さえ『不真面目』扱いされて留年したけど、今はバイオ技術の研究をしながら充実しているよ」

「そうか…君は昔から手先が器用だったからどこでも引っ張りだこだろう?」

「発想が独特過ぎて受け口は碌になかったよ…そういう君こそ、国連機関の職員じゃないか」

 多岐沢は旧知の間柄である山根ケンキチと現在の進境と過去の思い出話を語り合いながら鯉が飼育するために改装された池に足を止めた。

「…正直、今は日本に居る怪獣娘のみんなの様子がどうなっているのか分からない…僕が彼女たちを守ってあげるべき立場にありながら情けない限りだよ」

 池の中を泳ぐ鯉を眺めながら多岐沢は心の内に秘めつづけ吐き出せずにいた気持ちを山根に打ち明けた。

「例の件…やっぱり君の所の上層部はそう判断したから君をオーストラリアに留めさせているのか?」

「いいや……僕自身にも責任があるから苦渋ではあるけど上層部の意向に従っただけさ」

「…そうか……実は僕も君に話したいことがあって今日顔を見せに来たんだ」

 山根は多岐沢に話すべきことがあると伝え、懐からある物を渡してきた。

「…これは?」

「USBだ…中には現在日本に所在する“10名以上”の彼らのデータが収められている」

「彼ら…?」

「“怪獣戦士(タイタヌス)”だよ…君も報告書を通して把握しているだろう」

 多岐沢に渡ったのはユウゴことゴジラなど第一次怪獣時代以前の時代より確認されていた怪獣たちの詳細が渡したUSBに収まっていると語った。

「第零次時代の怪獣…存在自体が伝説レベルの…あの怪獣たちかい?」

「正にその怪獣たちのことさ…現に君の代わりに数名が支部に格落ちした東京の方に回っている…あそこは彼らの中にも身内が居る者も多いからね」

 多岐沢は腰を落として近くにある設置のベンチに腰掛けて息を整えた。

「それと同時に…シャドウとは別方面の敵の出現も確認されている」

「シャドウとは違う…別の敵?」

「現段階では確たる証拠もないが…君がオーストラリアに留まることになったキッカケの“あの事件”にもかかわっている可能性が高い」

 山根は多岐沢がオーストラリアに留まる原因となった事件とシャドウに次ぐ新たなる敵が繋がっていることを示唆した。

「どうして…君がそこまでのことを知っているんだい?」

「…決まっているだろう、僕もまた古くからの友人を守りたいと思っただけさ……君が“彼”にした事と同じように」

 山根の行動目的が多岐沢を始めとした顔なじみの知人を守るために行動をしていることが語られ、多岐沢はUSBの中に秘められた“怪獣戦士(タイタヌス)”たちのことを何も知らないが故に強く握りしめた。

「…もはや、“彼ら”に頼るしかないようだね……正直、彼女たちに明かすのはまだ早いと思っていたけれどもひた隠しにする方が罪深い」

「決意してくれたかい?」

「…あぁ、怪獣娘は…“進化”させるしか、彼女たちを守る術は無いようだ」

 多岐沢は決心がついた様子で俯いた顔を上げてベンチから立ち上がってUSBを懐にしまった。

 東京

―GIRLS東京支部―

 

「ぜぇ~ったいに怪しいんですってぇ!!」

「…何がどう怪しいの?ザンドリアス…」

 アキは普段から使い慣れないノートパソコンに向かい合って資料を作成しながらも指導課の怪獣娘として後輩であるサチコの悩みを聞いていた。

「だってそうとしか考えられないんですもん!!…ママが…再婚するかもしれないんですよ!!」

「ゴブッ!?げほっ…げほっ……なんだって!?」

 突然の衝撃的内容に思わず資料作成の傍らで飲んでいたペットボトル飲料を喉に詰まらせたアキは咳き込みながらも目を丸くして驚いた。

「ママったら昨日からなんだかよそよそしくて落ち着きがない様子なんだもん!!スマホの中を少し覗いたら…『ヒーくん』って…アレは絶対にそういう相手ですよ!!」

「うっ…う~ん…まぁ、前に一度会った限りだとザンドリアスのお母さんって結構美人だし…女性だし…そういう出会いの中でそういった関係になるくらい自然じゃないの?」

 アキはどう返答してよいのか分からず、サチコの母親を擁護する側に回ったが…

「急に新しいパパなんて、あたしヤですよぉお!!せめてアギラさんのお兄さんくらいの人が良いですぅッ!!」

「なんでそこでボクのお兄ちゃんが出てくるのさぁ…」

 アキは額に手を添えてサチコの願望に呆れ返っていた。

「だってぇ…優しいし、料理が上手だし、大きくて逞しいし、イケメンだし、文句の付け所が無いじゃないですか」

「あのさぁ…ザンドリアスの基準がどうなのか分からないけど、一緒に居る側から言わせてもらうけどアレもアレで大変だからね」

 碌に何も知らないサチコの視点からでは分からないユウゴの実態を語る上でアキは妹として兄と言う存在が如何に大変なのかを伝えようとした。

「例えばどんな?」

「家では横暴だし、身体が大きいから面積取るし、顔立ちが無駄に良いから人の視線が痛いし……あぁ~…あとはぁ~……」

 いざユウゴの欠点を上げても3年も顔を合わせていなかった弊害が現れた。事実、アキ自身も碌にユウゴのことを理解できていなかった。

「それだけ!?…あたしのママよりも欠点が無いじゃないですか!!」

「ちっ、違うよ!ちゃんとあるから……あっ、連絡や発信が少ない事とかかなぁ」

 捻りに捻って考えたが欠点としてのパンチラインの低さに愕然とした。

「それだけしか悪いところが無いのに…なんかお兄さんの方が可哀想じゃないですか!」

 サチコの視点から物言われることにアキは『どこが?』と心の内から出てくるが実際問題はアキ自身が碌にユウゴのことを理解できていないことに大きな問題もあった。

「あ~あッ!ここに居たのかザンドリアス!!」

「ゲッ!ノイズラー…」

 サチコを探しに来てアキと2人でいる多目的室に顔を出してきたミサオがサチコを見つけるなり彼女の首根っこを捕まえて引きずり連れ出した。

「練習時間になっても来ないと思ったらアギラさんの仕事の邪魔してぇ…早く練習行くぞ!」

「ちょっ、待ってノイズラー!!まだあたしアギラさんに相談していることがぁ~!」

 ミサオにサチコは強制的に手を引かれてバンド練習のための音響施設へと連れ戻されていった。

 ギャンギャンと騒がしかった多目的室には物静か静寂が訪れた。

「はぁ……ザンドリアスに言われて気づいたけど…ボクってお兄ちゃんのこと何も知らないんだなぁ…」

 改めて実感させられた兄ユウゴの知らぬ一面も二面も分からぬ事態、それは今しがた製作している資料にも関係している。

(…怪獣王ゴジラ…1954年に東京湾より出現、品川から芝浦、銀座方面を移動し当時の国会議事堂を破壊後に首都圏を蹂躙…当時の人口の半数を直接間接含め多数の犠牲者を出した……その時の東京都は大規模な避難が勧告されて述べ6万人が他県外に避難…これが…ゴジラ)

 ピグモンことトモミから託された資料データには一通り目を通して見た限り、ゴジラがあらゆる怪獣の記録の中で初めて『怪獣』と呼称できる形状を確立した存在であることがモノクロの古ぼけた写真から判別できる。

「…第一次怪獣時代の頃に出現した怪獣たちと比べ…第零次怪獣時代の怪獣は……ええっと…」

 キーボードに打ち込む製作中の資料にはユウゴのゴジラを始めとする怪獣たちの出現時期を『第零次怪獣時代』と仮定する方針でGIRLS指導課は分担制で怪獣娘たちに『怪獣戦士(タイタヌス)』を紹介するつもりだが…ユウゴ自身が自分たちを『怪獣戦士(タイタヌス)』と呼称するが、GIRLSでは未だに彼らを誤解する警視庁が公表した『特生怪獣』で呼び名が通っていることに問題がある。

「もしかして…あの緒碓さんっていう人が根回しをしているから?…そう考えると…“アレ”にもつながる」

 これまでGIRLSが相対していた人類の敵『シャドウ』に対して既に警察がGIRLSに変わって対応する方針に成り代わったのがつい先週、表向きには対シャドウ兵器とされている『アルトリウス』…と、同時に先日の博物館で緒碓と共に現れた正体不明のヒビ割れ面のウルトラマン『アルトリウス』と謎の怪獣娘、少ない情報の中で唯一わかるのは同じ名前同士の存在は繋がっていると言うメッセージ性がある。

(あのウルトラマン…お兄ちゃんに対して明確な殺意を抱いていたけど、同じくらいの殺意をボクにも向けていた…怪獣が嫌いとかじゃなく、“使命感”から来る討伐意欲…)

 頭がこんがらがってもおかしくない情報量にもかかわらず自然とアキは冷静に手元の資料制作と状況考察、行動と思考が同時進行で行われていた。

 だが、そもそも謎のウルトラマン『アルトリウス』については知らなかった…ワケではない。

 実は遡る事少し前に存在だけは把握していた。

―数週間前―

 GIRLS東京支部・会議室

 

 それは、サチコとミサオが謎の怪物たちに襲われ掛けた日の翌日にアキだけ呼び出されていた。

「ぜっ、ゼットンさんも襲われていたッ!?」

 アキにとっては衝撃的な内容をトモミから一対一で聞かされてつい前の目に身体が突き出ていた。

「ハワワッ!落ち着いてください…アギアギ」

「落ち着けないよ!…まさか、ボクやウインちゃん、ザンドリアスとノイズラーを襲ってきた怪物に!?」

「ええっと、それは少し違うんですが…その、ゼットン曰く…ウッ―」

「ウッ―?」

「ウッ…ウルトラマン…だったと」

 またしても衝撃的内容にアキは目を丸くしたが…よりにもよってアキでも誰もが知っているこの世界で最大の知名度を誇る異星人『ウルトラマン』であったことに言葉を失った。

「ゼットンの言う事を信じないワケでは無いんですが…その証拠にゼットンが回収した“コレ”を…」

 トモミが見せたのは4つのソウルライザーであった。

「誰のソウルライザーですか?」

「ウインウイン、ザンザンとノイノイ、そして…ゼットンのソウルライザーです…が、通常のスマートフォンとしての機能は正常に作動するのですが内部のアーカライトだけが抜き取られた状態でした」

 怪獣娘が怪獣に変身するために必要な特殊な鉱石『アーカライト』、これを取り出すには専用の工具が必要なだけでなくソウルライザーが製造されたと同時にアーカライトは簡単に取り外しができない構造になっているため分解してアーカライトだけを取り出して元のスマートフォンに戻すとソウルライザー自体を破損させるため現状4つのソウルライザーのようにスマートフォン機能だけ使えるような状態にはならない。

「どうして…アーカライトだけ?」

「わかりません…ただ、アーカライトだけを取り出してソウルライザーだけ壊れずに今も携帯電話として使えるような状態を維持する…“不可能”が覆されている異常事態にゼットンの“ウルトラマン遭遇事件”は納得がいきます」

 トモミとアキ、指導課の2人の怪獣娘はゼットンが出会ったと言うウルトラマンがこの世界に存在すると言う事態、だったが…如何せんこの時は証拠がないゼットンの報告だけの関節的証拠でしかなかった。

 しかし、今回の事件を経て…また博物館内で遭遇したウルトラマンに酷似した敵、明確に敵対感情を抱いている気配がある以上アキの視点から言うなれば“敵性”に十分該当する相手となるであろう。

「今度はウルトラマンに関する資料も集めなきゃ…うぅ~、頭痛いよぉ~!」

 偏頭痛に悩まされるのも無理もない、正体不明の怪獣娘たちをどこかに連れ出そうとする敵、明確に殺意染みた敵意を剝き出しにするウルトラマンに酷似した敵、それを従える謎の男『緒碓タケル』と行動を共にしてアキにさえ襲い掛かる謎の怪獣娘…相手の行動、思考、基準、そのどれもが“動機”の無い敵意であり困惑させる最大の要因であった。

「ますますわかんない!一体だれが何の目的でボクたちにこんな酷いことを……」

 すべての目標が『怪獣』にあると言う状況らしいが…だからと言って味方のいない劣勢ではない、ユウゴを始めとしたゴジラと言った今まで名前も知らなかった怪獣たちの能力を有する『怪獣戦士(タイタヌス)』とアキの祖父の没後に後見人となったダグナ、何かを知っているのに殆ど彼からは何も聞かされていない…と言うか殆ど聞く機会が無さ過ぎる。

 アキには学業を始め、GIRLSでの生活、プライベートの付き合い、たったこれだけのようにも感じるが現役の女子高校生には忙しい日々だ。

「う~んッ…別にお兄ちゃんたちに聞かなくてもお兄ちゃんたちは勝手に自分たちで行動できる大人だもんね、ボクと2歳くらいしか違わないお兄ちゃんだけどアッチの方が大人すぎるから難しいことは任せておこう」

 ユウゴのことはユウゴに、アキ自身はGIRLS東京支部の一員として自分がわかっている範囲で怪獣娘たちを守ることを固く心に使った。

―ピリリリリッ!

 そんな決心から早速、『ピグモン』の可愛らしいアイコンより連絡が入った。

『アギアギ~!!助けてください!!…すぐに警察署へ向かいますよ!!』

「どっ、どうしたんですかッ!?」

 先ほどまで緒碓や謎のウルトラマンモドキと警察のことを考えていた矢先にトモミからの『警察署』と言うワードに喉の奥へと固唾が押し込まれた。

『かっ、怪獣娘さんがぁ…逮捕されちゃいました!!』

「ええええええええーーッ!!?」

 決意を飛び越えて“逮捕”と言うとんでもないワードに早速アキの心が壁に激突する音が響いた。

―さかのぼること数時間前―

 

 警察官の装備には厳重な規定が存在する。刑法に定められている『銃砲刀剣類所持等取締法』に定められている通り現日本国において拳銃を始めあらゆる火器は原則一般私用の禁止の条項に定められ、警察及び自衛隊含めた銃砲等に対する徹底管理と使用条件も数項目によって制限されている。

「弾倉、あらため」

 沖田の掛け声と共に2人の警察官は特殊合金製の小型コンテナ内に収められている拳銃を取り出した。

「「弾倉、異常なし」」

 2人の警察官は通常警察官が使用するリボルバー拳銃とは違う形状の拳銃のシリンダーに匹敵する部品の内部を調べ、異常が無いことを沖田に告げた。

「液化スペシウム弾、装填開始」

 この拳銃の装弾数は6発、従来の警察官が携行するニューナンブM60では5発であるにも関わらず1発分多い。

 警察組織内においても破格の規格の大型拳銃…しかし、発射できる弾丸は38スペシャル弾でもない…この拳銃が発射する弾丸は弾丸にあらず、言うなれば“光線弾”である。

「対特異生物執行銃砲『スペラルカノン』…合計2丁を適正使用権限有資格者2名へ受理、これより24時間の当番勤務への携行装備を許可します…人口密集および周辺状況を確認の上で使用をお願いします」

「「了解!」」

 沖田の口上と共に2人の警察官が受理した拳銃装備を背面腰部にある専用のホルスターに装着すると電子操作による自動ロック機構が作動して『スぺラルカノン』は緊急時以外での使用が簡単にはできない施錠が施され保有者の許可が無い限り取り出しのできない仕組みとなっていた。

 そして、2人がユニット装備一式を格納されている保管室を後にしようとした時だった。

「ア~ニキィィイイ!!」

 突然、身体を大の字に大きく広げて1人の警察官に怪獣娘スカルゴモラが飛びついた。

「コラッ、スカル!今は遊んでいられないよ、これから担当地区のパトロールに出るんだから…」

 その警察官とは警察官らしからぬ制服姿ではなく、ごく一般人と何ら変わらない私服のような格好をした木城だった。

「たんとーくいきのぱとろーる?」

「そうよ、スカル1号!これから木城“巡査部長”は担当地区のパトロールに出なきゃならないんだから…おとなしくして居なさい!」

「ちぇ~!つまんな~い!」

 スカルゴモラは不機嫌そうな面持ちを項垂れながら残念がって空を蹴るように去って行った。

「沖田さん…またビデオシネマ見せたんですか?…アイツ、どんどん口調が映画のセリフに影響されているんですけど…」

「なに言ってるの!『新選組鬼組長物語』は名作ですよ!!シリーズ15作品を誇る不朽の名作は教育に良いんだからね!」

 自慢げにスカルゴモラの教育用に見せていたビデオシネマの時代劇について熱く語る沖田だったが…

「“新鬼”いいっすよね!…俺も府警時代から見始めたんすけどやっぱ“山南さん”は最高っすよね!」

 沖田のビデオシネマ愛に感応するかのように木城と共にパトロールに出ようとしていたもう一人の警察官も熱く語り出した。

「でしょでしょ!“京都映画村落フィルム”が誇る不朽の名作の数々の中で“幕末”“戦国”“平安”の三大タイトルを描けるのはこの映画会社だけよねぇ~!」

「ちょっ、坂田さん…反応しなくていいですから、担当地区パトロールに遅れますから…」

 木城は今日から行動を共にする相手の腕を引いて警察車両のある駐車場へと向かった。

 

 

 パトロール用の警察車両は一般乗用車と変わらない外観をしているが、その内部は精密な無線機器を始め各種様々な電子装備が警察車両用として改造された最新鋭の覆面パトカーであった。

「じゃあ、運転は…」

「東京の道を覚えたいんで…俺が運転します」

 木城から車両のキーを手にして同伴する男は運転席へ早速乗り込んだ。

「……わかりました、くれぐれも安全運転でお願いします。 改めて、木城キセキです」

「ええ~っ、今更っすか~?…昨日の歓迎会で自己紹介したじゃないですか?」

「今日初めて同乗した“相棒”は車内に同席した時点でこれから1日24時間交代行動をする…ましてや、我々は特殊な部署に位置付けられた部隊…名前は苗字だけでなく、フルネーム返答 はい、どうぞ」

「…了解、坂田トキカネ巡査部長!これより、木城キセキ巡査部長と共に担当地域及び地区のパトロールに同行いたします!」

 新たにアヴァロン・ユニットの増員として回されてきた木城と同じく私服と変わらぬ溶け込みやすい服装に明るい発色の髪型に前髪を止めておく髪留めを付けた坂田トキカネと共にアヴァロン・ユニットにおける大きな変化が同部隊に起きていた。

「はい、よくできました」

 そういうと木城は無線を手に取って口元まで近づけた。

「機捜105より機捜本部」

『105どうぞ』

「これより城南署管内の重点密航に入ります、どうぞ」

『1機捜本部 了解』

 木城が無線を切ると坂田はアクセルを踏みしめて車両を移動させ外へのパトロール回りに向かった。

 

 無線を通して本部指示の下で新たにアヴァロン・ユニットに与えられた『捜査権』。本来、警備部に位置していたアヴァロン・ユニットが刑事部へと部署を変更となりユニット員である木城と坂田は『機動捜査隊』の仮想一員として“105”のコールサインと共に初動捜査権が与えられる事となった。

―都内・国道線―

 

「うわぁああ!!」

 大の成人男性が宙を舞って乗用車のボンネットに乗り上げてフロントガラスにヒビが入るほどの衝撃で叩きつけられた。

 だが、投げ飛ばされた成人男性は一般人ではなく…白ヘルメットに青い制服姿の白バイ隊員であった。

 

『警視庁より各局 城南2丁目にて暴行事件発生 スピード違反取り締まりにあたった白バイ隊員が負傷した模様、現場にて到着した警察官数名にも負傷者が発生している模様 また通報内容によると“怪獣能力者”との情報もあり、付近の警邏は直ちに現場へ急行せよ』

 

 警察無線から各捜査中の警察車両の無線に通達された無線は木城と坂田の機捜105車両にも届いていた。

「機捜105から1機捜本部 現在、城南署管内でパトロールにつき付近であるため現場に急行します」

『1機捜本部 了解』

 無線の指示の下、運転する坂田が現場に向かう…車両はやがて人通りの多い繁華街に近い国道線に到着すると…既にパトカーの何台かが到着しているが、道路を宛らパトカーの檻のように囲っていたが、問題はその中で起きている事態だった。

「うわぁああ!!」「ぐわぁああ!!」

 男性警察官の数名が投げ飛ばされてガードレールやパトカーに激突して次々と負傷していた。

「機捜105現場に到着 これより初動捜査対応にあたります」

 木城は無線を通じて現場に到着したことを告げると坂田と共に荒れる現場内へと足を踏み入れた。

「おい、どうした!しっかりしろ!!」

 怪我を負った男性警察官に声をかけた坂田だったが、パトカーの向こう側で起きていると判断した木城は坂田に合図を送って回り込む形で現場の中心に更に進んだ。

「なっ、女性?」

 木城の目に飛び込んできたのは腰までたなびく長い金髪の黒いスーツ姿の女性だった。

「うっそ!めっちゃ美人さん…事件を起こしていなきゃ、ナンパしてたのに……おい、これ全部アンタがやったのか?」

 坂田は金髪の女性に声をかけて木城と共に腰に装備していた警棒を振り払う勢いで伸ばしきった警棒の音で相手の女性は2人に反応を示した。

 しかも、女性の手には黒いスマートフォン…しかし、ただのスマートフォンには無い機能を使用するため前に構えた。

「SOUL…RIDE…ALIEN・MAGMA」

 黒いスマートフォンはソウルライザーだった。金髪の女性は見る見る光に包まれて全身を黒い獣殻(シェル)に覆われて右手にレーザーブレード、左手にフック、頭部には仮面のような装備、彼女は紛れもなく異星人タイプの怪獣娘であった。

「へぇ~…アレが話に聞く怪獣娘って奴かぁ」

「坂田さん、油断しないで…スぺラルカノンは使用せず、電磁警棒で相手をしましょう」

 坂田と木城に装備されていた警棒は通常の警察官が使用する物とは違い、“電気ショック”を発生させることのできる『電磁警棒』であった。これは機動捜査隊の一員でありながらも特殊な事情で扱う案件に“怪獣娘”などの特殊な“生物”が事件に関わる場合のみ105のコールサインと共にアヴァロン・ユニットとして対応が可能となっている。

「落ち着いて、俺たちは君が暴れないなら…危害は加えない…だが、見てのとおり君は明らかに度を越した被害を引き起こして事件を発生させている、この意味が分かるか?」

 木城はまず説得に応じるか声を掛けて見たが…金髪の怪獣娘は聞く耳を持たず木城に左手のフックを振りかぶって来た。

 しかし、木城はこれを真っ向から警棒で受けつつもフックより前に出て怪獣娘の肩と自身の肩にぶつかって相手の攻撃よりも攻撃する箇所から軸をずらして肩同士を近づけた後に左腕を絡ませて頸椎に電磁警棒を押し当てて関節を取った…かに見えたが、金髪の怪獣娘は関節と同じ方向に身体を飛び上がって空中回転をやってのけ腕を飛び跳ねた勢いに捻って関節取りを回避した。

「マジかよ、怪獣娘って身体能力たっけぇ~!」

 あまりにも軽い身のこなしに動揺した坂田だが、彼も右手側を警棒で弾いて同じく頸椎から右手にかけて関節を取ろうと今度は足を崩すために膝裏に同じく膝を押してバランスを崩させようとしたが金髪の怪獣娘は崩れた体幹を利用して坂田を背に押し上げて彼を投げ返した。

「おわっと!…残念だったな、これでも身体能力と反射神経は府警でも随一なんでね」

 あっさりと金髪の怪獣娘の返しに対応した坂田の軽い身のこなしに怪獣娘の目には邪魔なヤツと言う認識から明確な敵へと変化しているかのようだ。

「やめてぇええ!!アンジェリカさん!!」

 叫ぶ声に坂田と木城の2人は声のする方向に目をやると金髪の怪獣娘が運転していたと思われる車両の後部座席に女子高校生が乗っていることに気が付いた。

「坂田さん、あれッ!」

「コイツのツレか!?」

 視線を逸らした2人に対して金髪の怪獣娘は構えを変えて次の一撃ですべてを決めるかのような意思を感じるほどの強い殺気を放っていた。

「特異生物対策課だ!全員その場を動くな!!」

 事件に駆けつけて来た応援の警察官と刑事たちが木城と坂田と睨み合う金髪の怪獣娘に静止を促すが…

「あっ、待てェッ!!」

「あぶないッ!!」

 金髪の怪獣娘に聞く耳など無く…真っ先に坂田と木城の手を振りほどいて声を上げた刑事に向かって輝く光剣と共に刹那の速さで飛び出した。

 金髪の怪獣娘は刑事に向かって強い蹴りをぶつけようとしてきたが、刑事は避けると背後の覆面パトカーに激突して後方4メートルほどまで車体が吹っ飛んだ。

「やっば…やばいでござるよ、前原氏!!」

 しかし刑事はそんな声など気にせずに飛び掛かって来た金髪の怪獣娘の左手のフックに手を回して身体の全体を利用して彼女の飛び掛かる衝撃及び反動と共に逆関節を取って地面へと組み伏せた。

「はい、午前11時23分、暴行及び公務執行妨害ならびにその他の容疑で現行犯逮捕」

「総員、確保でござるよ!!」

 刑事たちに関節を取られて押さえつけられた金髪の怪獣娘はいかに強力な力を有していても逮捕術からなる柔術の力と数の力から不利な体勢に持ち込まれ、変身が維持できなくなり解けて元の女性の姿に戻ると右手首に手錠が掛った。

―城南署・取調室―

 

「…もう一度、聞きますよ 名前と 職業と 国籍は?」

 沖田の質疑に対して難航していた。

「………」

「もう一度、お聞きします! 名前と! 職業と! 国籍は!」

 何度語りかけても金髪の女性は一切喋らずに腕を組んで目を閉じているだけであった。取り調べる沖田の後ろでは坂本が供述調書を作成するも未だに『名前と職業と国籍』を答えるだけの質問から抜け出せなかった。

 その様子をマジックミラーの向こう側で見ていた刑事たちがいた。

「ええ~、ご覧の通り引き続きウチの沖田と坂本に聴取を取らせていますが…交機(交通機動隊)の証言によると時速40キロ指定の国道内を60キロで速度超過していたので警告して停車させたところ、車に近づいた瞬間に被疑者が車を降りて隊員の胸倉を掴んで投げ飛ばした…と」

「身元は分かっているのでござるか?」

「国際怪獣救助指導組織の東京支部に確認を取ったところ、アンジェリカ・サーヴェリタス…同組織支部に配属にはなっていますが配属した今年始め頃から度々問題行動が目立っていたようです…」

「どういう問題を?」

「同組織の芸能タレントのイベントにて暴力行為、過剰防衛、破損及び損害の数々…です」

 木城と坂田は初動捜査で調べ上げた金髪の怪獣娘アンジェリカの素性の事細かな情報を担当捜査員刑事の前原と後藤に引き継いでいた。

「しかし…怪獣娘の暴走事件ならいざしらず…故意での事件は初ですなぁ、前原氏」

「そうだね、交機の隊員にも目立った怪我がなかったのが幸いだ…だけど応援で駆けつけた警察官は全員もれなく全治数週間…パトカーは数台を破壊…」

「んで、そのうちの1台がウチの機捜車両…と言った感じです」

 坂田の語る通り、前原に襲い掛かった瞬間に蹴られて吹っ飛んだ覆面パトカーは木城と坂田の警察車両だった。

 当然ながら後で上司である御前から大目玉を喰らう事など覚悟していた。

「いやぁ~それにしてもさすが前原警部補…逮捕術の実力に感服しました!さすが伝説の前原刑事っすね」

「伝説?」

「ええ、もう京都府警でも有名ですよ!長野県警の前原刑事『冴木ケント事件』の解決、捜査資料を何度も拝見しました!」

 坂田は明らかに尊敬の念を込めているにも関わらず前原は彼から“事件”のことを口にされた時、どこか口閉ざすかのように手を口元に当てた。

「すいません、前原警部補…彼まだ本庁配属になって日が浅いもので」

「??」

 前原と坂田の間に入った木城は深々と頭を下げた。

「ああ、いや…お構いなく…」

 前原も事情を知らない坂田のことを咎めるでもなく『気にしていない』とばかりに木城へ軽い会釈をした。

「すいません 前原班長…被疑者の所属組織の方々がお見えになりました」

「あっ、はい!」

 取調室から婦警がドアから顔を出して前原を呼び出す。

 

 

―城南署・刑事部待合室―

 

 前原が署の刑事部が使用する会議室ほどの広さの部屋の中に入るなり…突如、赤い髪の毛2束が宙を舞って床に落ちると髪の束の先から後頭部とうなじ、更に背中から降り畳めて腰を丸くして膝を突き、手を伸ばし突き、額を床に付けた。

「もぉおおしわけぇございませぇんでしたぁああ!!」

 トモミの精一杯の土下座と謝罪に前原が直面して困惑させた。

「この度は当方の所属怪獣娘が起こした事件には深く反省しております故、被害にあわれた方及び被害総額のすべてをお支払いいたしますので…どぉおうか、この通り!!」

「ちょっ、きっ、きみッ!一旦、落ち着いて!!」

「ピグモンさん!急にどうしたんですかッ!?落ち着いてください!!」

 トモミの突然の土下座に驚いたのは前原だけでなく、同席していたアキも彼女に困惑していた。

「いいえ!これもすべてわたくしの監督不行き届きの致すところにございます!!これが今できる精一杯の謝罪にございますぅうう!!」

「とりあえず、頭ッ!頭を上げてください!!」

 突然の出来事ながらも前原はトモミを責めることもなく彼女に顔を上げさせた…が、その顔は恐怖心を抱いていたのか酷く泣き崩れていた。

「えっ、ええっと…とりあえず、特異生物捜査班の班長の前原と申します」

「こっ、国際怪獣救助指導組織 GIRLS東京支部で指導課所属兼支部長代理を務めます…岡田トモミです」

「同じく指導課の宮下アキです」

 前原とトモミはお互いに名刺を交換し合い、前原に席にかけるように促され2人は前原と向かい合うようにして座った。

「ええ~、事件の詳細をお伝えしますと…今回、被疑者の怪獣能力者であるアンジェリカ・サーヴェリタスさんの容疑は暴行及び器物破損ならび損壊です 警察車両の計6台分の全壊、対応にあたった警察官13名を全治数週間…以上になります」

 前原はアンジェリカが起こした事件の調書の一言一句を読み上げてられ…トモミとアキはその起こした規模に絶句と多汗で顔が上げられなかった。

「「ほぉんとぉおおに申し訳ありませんでしたぁああ!!」」

 あまりの規模で怪獣娘が起こした事件に対してGIRLS東京支部ならびに全怪獣娘を代表しての先ほどのトモミ以上にアキも合わさって2人で机に額が付くほどの謝罪をした。

「まぁまぁ、一旦落ち着いて聞いてください…幸いにも一般人に被害は及ばなかったのは何よりです」

「ほっ…本当ですか?」

「ええっ…それに、アンジェリカさんの事情は同伴者の方から把握しておりますので 今、同伴者さんは少年課の方で保護されていると思われますので顔合わされますか?」

「是非!」

 事件時、アンジェリカが運転する乗用車に同伴していた少女が保護されている少年課まで前原の案内で2人向かう事となった。

 

―城南署・少年課―

 

「それで…運転していたアンジェリカさんにお巡りさんが近づいてきて…アンジェリカさん、過呼吸気味になって心配になって…」

「そう…怖かったのね…もう大丈夫だから安心して…」

 涙を浮かべて少年課の婦人警察官に慰められている可憐な見た目の少女の下に前原たちがやってきた。

「ご苦労様です、特異生物捜査班の前原です…あとはこちらで…」

「ローラン、大丈夫ッ!?」

 可憐な見た目の少女にアキは駆け寄って彼女の肩に触れて安否を問いかけ確認した。

「あっ、アギラさん…私は大丈夫ですけど…アンジェリカさんが…」

 アキが気に掛けた少女は宇宙鶴ローランの怪獣娘“星江カナ”…2年ほど前にGIRLSの怪獣娘として芸能課の怪獣娘タレントとして活動が始まり現在も絶大な人気を誇るアイドル怪獣娘だ。

「とりあえず調書が終わり次第には保釈となります…既に指導組織さん側から罰金支払いが受理されましたので、今後こういう事の無い様にお願いします」

「はっ、はい!お騒がせして申し訳ございませんでした!」

 トモミが深々と前原に頭を下げると同時に少年課の扉から手錠に繋がれたアンジェリカを連れて来た後藤が入って来た。

「前原氏!連れてきたでござるが…課長がブチギレでございますよ!」

「本当に!?…それはマズい、とにかく手錠を外しましたら早くお帰りください!」

 なにやら前原は慌てた様子で手錠の鍵を取り出してアンジェリカの手首の手錠を外すと彼女を解放しトモミたちに引き渡すと怪獣娘たちの背中を押して急ぎ帰らせた。

 

―特異生物対策課―

 

 昨日より発足したばかりの新設の城南警察署内の一部署に過ぎない『特異生物対策課』は最近頻発するシャドウ事案を始め、暴走した怪獣娘たちや未だに詳細不明の『特生怪獣』と呼ばれる素性、生態、実態も分からない“怪獣事件”に対してほぼ一部署に押し付けるかのような組織体制となっていた。

 当然、そんな厄介部署の課長に置かれた人物の態度がどのように変化するかと言うと…

「問題外ですッ!!」

 荒む一方であった。

「あの~…反町課長…そうは言いましても私もとっさのことでしたので、まさか後ろに警察車両があるなんていちいち把握は…」

「そういう事を問題に掲げているんじゃありません!!」

 特異生物対策課の全体指揮を担う課長は往年の女性警部の反町ミユキのネームプレートと共に彼女は腕を組んで額より血管を浮かせてハッキリと“怒っている”事を認識させる迫力があった。

「あなた達もあなた達です!警備部からわざわざ刑事部に回して“捜査権”まで与えられたことの意味を認識しているんですかッ!?」

「大変申し訳ありません」

「「すいませんでした」」

 反町の怒りを一身に受けるアヴァロン・ユニットの責任者である御前も呼び出され、木城と坂田も深々と反町に頭を下げた。

「既にSNSの鎮火作業とメディアの報道規制は回しましたけど…シャドウや特生怪獣ならいざ知らず、怪獣娘関連は目立ちやすいんです!相手は未成年者から20代の女性、メディアの喰い物にさせない為にも我々警察が考慮して対応にあたり対策を講じる…コンプライアンスが昨今叫ばれる時世である以上、より慎重に公務にあたってください」

 全員が『はい』と一つ返事で各自課長の前から去ろうとした時だった…

「ケイ、アンタは残りなさい」

「えっ、私ですか?」

 なぜか前原だけが残されて反町課長と前原警部補2人だけとなった。

「…率直に言って…『アヴァロン・ユニット』の連中はあなたから見てどうなの?」

「……課長が気にされているのは…部隊よりも、御前トモエ警部補では?」

 聞かれたことを答えるよりも前原は反町が最も気にする相手を見抜いて聞き返した。

「そうね…あの子は私が三課に居た頃からの受け持ちだから、どうにもねぇ」

 何やらやりきれない様子の顔色を露見させる反町に前原は気になることを尋ねて見た。

「やはり…『城南連続仮死事件』の?」

「ええ、そうね…それもあるけど、あの子自身がまだ諦めていなければウチでも捜査するべきと打診はしているけど…如何せん“解決済み”は上が煙たがるからね」

 反町は悩み事に対して抵抗感が否めず頭を掻いてショートカットの髪型が乱れるも元に戻して形を整えた。

「とにかく!…調書の内容を後で私の所まで提出しに来て、アヴァロン・ユニットにも追加報告書をまとめ上げさせて来週までに提出させておいて…」

「了解しました」

 反町は自分のデスクに座って事後処理を前原に一任させた。前原もそれに従って後を下がって頭を下げ部屋を後にした。

「ええっと…会計係は…っと」

 前原は書類を抱えて『特異生物対策課』から書類を抱えて未だ慣れない城南署の案内図を見ながら目的の部署に向かおうとしていた。

「前原警部補…」

「んっ?…あっ、御前さん」

 前原を呼び止めたのは御前だった。

「どうされたんですか?」

「あっ、いえ…その…この度はウチの部下がご迷惑をお掛けしたこと大変申し訳ありません」

 御前は初動の捜査にあたった木城と坂田の上司として他部署の前原が到着するまでに対応できなかったことを悔やんでかわざわざ前原を待っていたのであった。

「あぁ~…御気になさらないでください…初動捜査、2人とも十分に貢献協力していましたよ」

 前原は木城と坂田を職務全うと答えて御前の重荷を少し軽くさせた。

「しかし…前原警部補が到着される前に被疑者の確保も出来なかったのは事実です…その点には私の責任です」

「責任って…現場捜査は大体“手遅れ”始まりですよ いつだって我々は遅れてやってきて事後を調べるしかない 大事なのは事件を解決するよりも事件を“風化”させない事、それが一番大事なことです」

 前原は警備部から移動してきたばかりで捜査に不慣れな御前に対して自分なりの捜査に対する考え方を伝えた。

「そう…ですか……ありがとうございます これ、アンジェリカ・サーヴェリタスの調書です」

「ありがとうございます あとで拝見して課長に回しておきます」

 前原は御前からアンジェリカの取り調べで作成した調書を受け取った。

 対策本部解散後、新たに編成され“課”に固定された特異生物対策課が捜査班と初動捜査のアヴァロン・ユニットと言った2組織で構成されているが、前原は捜査線上の班長と言う立場であるためアヴァロン・ユニットは事実上の管下組織に割り振られている。つまり、アヴァロン・ユニットとは特異生物関連事件専属の機動捜査部隊となっていた。

「警察はもう年功序列ではなく、実績と経験がすべて。元長野県警捜査一課を二十歳で経験された前原警部補に比べたら、ウチの連中ときたら…」

「そうですか?…警察官は出世よりも捜査、キャリアなんて働いている内に付いてくるようなものですよ」

 前原は御前が抱く“警察官とは”と言う考え方に違う見解を示したことで御前の目に違う見方が変わった。

「…ふっ、正直お噂かねがねの『前原刑事』がどんな人なのかと思っていましたけど…今、ハッキリわかった気がします。 あなたはヤッパリ“警察官”なんですね」

「えぇまぁ……前原刑事……正直、本名も前原ケイジなんであんまり変わんないかと…」

 前原と御前は次第に打ち解け合いこれから捜査の第一線を共にする者として改めて互いの認識が変わったのは言うまでもなかった。

「それじゃあ、すいません…私はこれから分駐所に戻ります」

「あっ、どうもお疲れ様でした」

 御前は前原に頭を下げてユニットが駐留する分駐所のある警察署に戻っていく背中を見送った。

「おい、今の御前じゃないか?」

「ああ、確かに…アイツよく復職できたな」

「相棒の見殺しの疑いもあるんだろう?正直同じ署にいるだけで出世が遠のきそうだよなぁ」

 御前とすれ違い、前原の背中を通り過ぎて行った若い他部署の刑事たちから聞こえた陰口に前原の耳に止まった。

「相棒…見殺し?」

 その言葉には秘められた御前の暗い影があるようにも思えた。

 一方、その頃…アンジェリカと星江カナを東京支部まで移送中のワンボックスカーの車内ではアンジェリカとカナと座席を向かい合う形でシートを対面させ合う形でトモミとアキが運転中の車内で面談を行っていた。

「何やっているんですか、マグマグ!あれほどに問題を起こさないようにと再三注意をしたにも拘らず、今度は警察のお世話になるなんて信じられません!」

 アンジェリカはトモミの言葉の意味を理解したのか少し落ち込んでしょぼくれたようすだった。

「待ってください、ピグモンさん!何もアンジェリカさんをそこまで責めないで上げてください!」

「ローローは黙っていてください!」

「アンジェリカさんだって、これまでも私を守ろうとして取った行動に過ぎないんですから…職務を全うしたに過ぎないんじゃないですか!」

「それでも限度と言う物があります!正直、これ以上はGIRLSと言えど看過できるものではありません…米国GIRLSに回るか、他支部に回ってもらうか…と言ってもどこも早々に受け入れてくれる受け口もないしぃ…」

 アンジェリカの処遇についてピグモンが度々上層部と協議を尽くした上で彼女が東京支部に回って来た時から波乱を予見していたが…今まさにその状況下にあって頭を痛めていた。

「マグマグ、あなたが元はGIRLS付属の戦闘部隊の御所属だと伺っていますが…ここはもう戦場でもない平和な土壌なんです。 ここではここでのルールを守れないのであれば…監視付きの怪獣娘さんとなってしまいますよ!」

 トモミからの警告ともいえる言葉にアンジェリカの顔つきに更なる強張りが強まった。

「ピグモンさん…その辺にしましょう」

 そんなトモミの強い口調を宥める様に彼女の感情を抑えるためソッと肩に手を置いた。

「…マグマさん…お腹、空いてませんか?…ボクはちょっとお腹が空いたんでこの近くに美味しい料理を作ってくれる人がいるんですけど…少しだけ、寄り道に付き合ってくれませんか?」

 アキの言葉にマグマは首を傾げてどこに向かうのか知らぬが一応頷いてみた。

「ローランもいい?」

「私は…構いませんが…」

「それじゃあ…ジェットジャガー、お願い」

『畏まりました』

 アキはジェットジャガーに行き先変更を伝えるとハンドルを切って車が左折してGIRLS東京支部とは別方向の場所に向かった。

―BAR『1954』―

 

 時刻は昼食に最適な12時台を回り、今にも腹の虫が鳴りそうなお腹を押さえながらアキはトモミたちを引き連れて『1954』の店内へと入った。

「お兄ちゃん…お昼、みんなとここで済ませてもいい?」

「……おまえ、ココがバーだってこと忘れてるだろう」

 すっかりBAR1954が飯の食い扶持場としか認識されていないことにユウゴは不服な面持ちだった。

「すみません、アギアギのお兄さん…ちょっとワケあってこの場をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「まぁ…客呼びも碌にしていない店だけど…」

 大体のアキたちが揃ってわざわざ自分の店にやって来たことの意味を何となく理解したユウゴは好きな席を使えとばかりに手を払うように振った。

「ローラン、お兄ちゃんがいいって…」

「わかりました~…ほらっアンジェリカさんも入ってください」

 外で待機していたカナはアンジェリカの腕を引いて彼女と共に『1954』に入店した…が…

「おっ、お前は!?」

「んっ?…あれ、アンタ…」

 アンジェリカがユウゴを目にした瞬間、ユウゴもまたアンジェリカを目にした時だった。二人には面識のあるような素振りが垣間見えた。

「えっ!お兄さんとアンジェリカさん…知り合いなんですか?」

 カナはユウゴとアンジェリカが互いに顔見知りであるような様子の2人だが…

「クソ生意気な傭兵!!」

「変なキノコを喰って死にかけてたヤツ」

「どういう認識ぃッ!?」

 決してまともな第一印象での出会い方をしてはいなかった。

 

 渋々ながらもユウゴは軽い昼食に作ったサンドイッチをアキたち怪獣娘に振る舞いながらアンジェリカと出合うことになった経緯の説明を求められ自身もテーブル席に同席した。

「フンッ、まさかこの国で店を出していたとは…傭兵くずれめ」

 先ほどの縮こまっていたアンジェリカはすっかり胸を張ってユウゴに軽口を叩くが…

「そういうアンタは……無職か?」

「むっ、無職ではないッ!!」

「おっ、お兄ちゃん…アンジェリカさんとどういう知り合いなの?」

 浅からぬ因縁めいた印象を抱くアンジェリカ…そんな彼女を小馬鹿にするような態度で認識するユウゴにアキは恐る恐る尋ねた。

「さっきも言った通り…このポンコツが変なキノコを喰って死にかけていたところを山から拾ってきた」

「おい!さっきから黙って聞けば、なんだその印象は!?お前は私を何だと思っているんだ!」

「キノコを生で喰って死にかけるような変なヤツ」

 あまり良い印象を抱いていないユウゴにアンジェリカの握る拳がプルプルと震えるが図星を突かれているためにぐうの音も出ず握った手を膝の上に置いて『んんっ!』と咳込んだ。

「さっきから変な印象しか聞かないけど…一体、お兄ちゃんはアンジェリカさんに何をしたの?」

 アキから見ても明らかにまともな出会い方をしていないユウゴに改めて問いただした。

「そうだなぁ…アレはロ・サ電撃戦に参加する少し前だったか…」

 ユウゴは腕を組んでアンジェリカとの出会いを思いだし始めた。

 ロシリカ連邦国

―ヤムスクロ山―

 

 ロシリカ国内で随一の自然形態を誇る緑が豊かな山脈群に位置する『ヤムスクロ山』は多種多様な動植物を始め、山から湧き出る雪解け水がミネラルを含んでいるため川から分岐する各所に自生する食用に適した材料が多く採取できるため地元の言葉で『恵みの山』とも呼ばれる場所だった。

「ゼンマイ、野草、野草、毒消し、ヤムスクロタケ、ヤムスクロタケ」

 そんな山の中でまだらの野戦服と首元に赤いスカーフを巻いたユウゴが食べられそうな食材を探し回っていた。

「ヤムスクロタケ、ヤムスクロタケ…んっ、なんだこれ?」

 山に自生するキノコを採取していたユウゴの手を止める異様な大きさの物体が地面から生えていた。

 形状は丸めで二股に分かれた物体…ユウゴが採取した『ヤムスクロタケ』と言うキノコの標準的な大きさよりも肥大で黒々とした色合いだ。

「新種のキノコか?」

 ユウゴは近くにあった枝で突いてみたり、叩いてみたり、枝二本を用いて持ち上げて見たりと様々な検証をしてみたがどうやらキノコではないと結論が濃厚になった。

「どう見てもキノコじゃねぇな…なんかいじると地面が妙に動くし…」

 この丸い物体に対して枝で動かすたびに落ち葉に埋め尽くされた地面が脈動するかのように動いていた。

「…待てよ……これ、地面じゃねぇし、コイツもキノコじゃねぇ」

 ユウゴは不自然に盛り上がった土饅頭、この上に生えている当初キノコと予想していた丸く黒い物体、ユウゴは手でその盛り上がった地面をかき分けると…中から人の手が出て来た。

 それだけではなく、足、身体、終いには顔と頭が出て来て完全に人が埋まっていたのである。しかも、キノコと見ていた丸い2つの物体は大きな胸、すなわち女性であった。

 土から祓い出したのは金髪の女性、すなわちコレがアンジェリカ・サーヴェリタスこと怪獣娘マグマ星人だった。

 そんな彼女の右手には明らかに食べてはならない色をしたキノコが齧られている痕が残っていた。

「……………」

 そんな光景を目の当たりにしたユウゴは意識の無いアンジェリカの右脚を掴んで引きずるかのように運び出した。

 

 

 やがて山を下る頃には小銃を抱えたターバンの男を先頭に小隊規模の兵士がユウゴを待ち構えていた。

「ヘイッ、ユーゴ!何か採れたかい?」

「変なキノコを喰って死にかけているヤツならいた」

 ユウゴはターバンの兵士に山で拾って小隊がいる所まで引きずって来たアンジェリカの脚を持ち上げて兵士に見せた。

「何を拾ってきてるんだ、君はッ!?」

 そのあまりにもずさんな運び方に加え、とんでもない物を拾ってきたことに驚かされたターバンの兵士は部下に指示してアンジェリカを木と布で出来た簡易的な作りの担架の乗せるため持ってこさせたが…ユウゴはその上に放り投げるかのような杜撰な置き方でアンジェリカを担架の布部分に乗せた。

「こらッ!怪我人かもしれないんだからもっと丁寧に扱いなさい」

「皮膚は変色していない…変なキノコを喰って息をしているようなアホだ。そう簡単には死なねぇよ」

 担架に乗せられたアンジェリカは兵士たちの息の合った運搬によりベースキャンプまで運ばれていった。

『…アンジェリカ……お前は…先に東京本部へ戻れ』

『嫌です!隊長1人を置いてはいけません!!』

『これは命令だ!…俺には…この争いの中でやることがある』

 その男はまるでアンジェリカを自分から突き放して一人、雨降りしきり落雷も降る夜の闇へと消えていく背中をアンジェリカは見詰める。

 手を伸ばしても男は止まらずにアンジェリカ1人を置いていった。

「ううっ…キャップ…キャップ……キャップゥッ!!」

 魘されるアンジェリカは飛び上がるかのように起きて見るとそこはどこかの野営テント、自分の身体が病床の上でブランケットを掛けられて横に眠らされていたことに気が付いた。

「やぁ、起きたようだね」

 するとアンジェリカの起床を確認するためにテント内に垂れ下がった垂れ幕を捲り上げて覗き込む男が清潔な飲料水を抱えて来た。

「だっ、誰だ!?」

 テント内に入口の垂れ幕を捲って入って来たのは現地の日差し対策としてターバンを巻く20代くらいの褐色肌の男性だった。

「おっと、そう警戒しないでくれ…君を助けた者の1人と言えば理解してくれるかな?」

「助けた…だと?」

「そう、申し遅れたが…私はアラヤ、アラヤ・シーロン しがないインド人傭兵さ」

 自らの素性を明かしたアラヤは『お次にどうぞ』とばかりにアンジェリカに手で指して自己紹介を求めた。

「…アンジェリカ・サーヴェリタス…GIRLS付属戦闘部隊『K‘s』のメンバーだ」

「K‘s…聞いた事の無い部隊だねぇ」

「当たり前だ…GIRLSでも極秘の部隊として創設された怪獣娘による対シャドウ部隊として結成された選び抜かれた精鋭だ…いや、“だった”と言うべきか…」

「だった…それはどういう事かな?」

 アラヤは引っかかる言い方をするアンジェリカに『K‘s』と言う組織の状況を尋ねた。

「部隊名の由来になったカナヤマ隊長を筆頭に戦闘面で優れた怪獣娘で構成されていたが…世界中でのシャドウ対策が向上したことによりメンバーがカナヤマ隊長の元を去るようになってそれぞれがチリジリに他支部に渡ったり、抜けたりと…」

「そして、君にも脱隊の命令が下ったと?」

「なぜ、それを!?」

「言わなくても何となく顛末が見えたよ」

 アラヤに図星を突かれたアンジェリカはしょぼくれた表情を見せた。

「それで?どうして君はヤムスクロ山の土の中に埋もれていたんだ…そもそも、あそこは国境付近のヤムスクロ山脈だぞ、仮にも峠越えをすると言うことは“国境越え”だろう」

 アラヤの言い分には筋が通っていた。ヤムスクロ山が位置するヤムスクロ山脈は2500メートル級の山々で囲まれロシリカ国とサラジア国の中間に位置するその山脈群が両国間の天然の国境壁となっている。

 当然、ここからヤムスクロ山を超えるとサラジア国…そこから先は軍事的境界線であるため入って来た者たちを“不法入国者”として扱われ逮捕拘束すらもない…しかもロシリカから流れて来た者のサラジアの法の中での扱いは“過酷”だ。発見次第にどうなるのかなど誰でも想像がつく。

「それでも…私はサラジアに向かわなければならない!…隊長は…“シィヴァ”を追ってサラジアに向かったのだ」

 並々ならぬ強い決意と決心を感じさせるアンジェリカの膝上に乗る手は衣服を巻き込んでまで握りしめていた。

「“シィヴァ”…ロ・サ両国で確認されている謎の生物の総称だね “破壊の化身”と言う意味らしいじゃないか」

「そうだ…私たちはロシリカ政府から“シィヴァ”の討伐を依頼されて現地入りした者だ」

 アンジェリカは戦闘服の内ポケットに収めていたピンボケの多い写真を出した。そこには人の丈を余裕で超える黒々としたシルエットに枝分かれ多様な突起の生え揃う背びれ、アンジェリカはこの“シィヴァ”と呼ばれる謎の生物に対抗するためにGIRLSからアンジェリカたちを始めとした『K‘s』がロシリカ国内入りをしていた。

「貴様も聞いているだろう…“シィヴァ”によってサラジアとロシリカの抗争が激化した 元々小競り合い程度の戦争が昨年より出現した謎の生物による被害で双方に大きな影響を及ぼしている」

「ふぅん…それで?」

「わからないのか?シィヴァこそがこの戦争を長引かせている元凶だ!…私の見解では新種のシャドウと睨んでいる」

「…なるほど…それが、なぜ君の隊長さんを追いかけている内にヤムスクロ山の麓で毒キノコを食べる羽目になったのだ?」

「ヴゥッ!?そっ…それは……山に登り始めたのはいいものの…食料が尽き、空腹に襲われて…」

 結局のところ息まいて金山の後を追う内に自分が起こした致命的ミスが招いた結果が現在に至ると言うことだ。

「…私は空腹でもその辺に自生するようなキノコを食そうとは思わないが…」

「やかましい!! 私だって…この道10年のベテランだ!!」

「それでよく10年もやってこれたもんだな」

 アンジェリカの自尊心に蹴り入れんばかりに余計な一言を添えて野戦服を着た男がテント内に入って来た。

「なっ、なんだと!?」

「紹介しよう、君を見つけてくれたのは彼『ユーゴ』だ」

 それは傭兵にしては若々しい出で立ちの青年だった。身の丈は成人大人に引けを取らない体格ながらも身体はどこかシュッとした細身のユウゴ、この時が今のアキと同じ16歳頃の姿だった。

「たっ…助けてもらったことに関しては…礼を言う」

「フンッ…助けたつもりはねぇよ ヤムスクロ山の生態系に悪影響だから退かしたまでだ」

「なんだとッ!さっきからなんなんだ貴様ッ!」

「事実を言ったまでだ…10年素人」

 憤慨したアンジェリカのプライドに突きつけた『10年素人』という言葉に彼女の顔は赤面してユーゴに殴りかかろうとしたが…

―コケェエエエーーッ!!

「へッ!?」

 アンジェリカの目の前に現れたのはユーゴに足を掴まれ吊り下げられた生きたニワトリが翼をバタバタと動いていた。

「首をへし折って、羽毛を毟れ」

「あっ…ああ…はぁッ!?くっ、首を…へっ、へし、折るのか? 私が?」

 助けられた矢先に助けてもらったアンジェリカが指を自分に指して自分がやるべきなのかアワアワと焦りながら辺りを見わたした。

「他に誰が居るんだよ…ほらよ」

「えっ、あっ、ちょっ!?」

 いざ手渡されて見るとニワトリのつぶらな瞳がアンジェリカに何かを訴えかけているかのようだった。

「うっ…ううっ…いやしかし、そんな目で…私を見ないでくれ」

 あまりにも純粋な眼がアンジェリカには痛い視線だが…

「はぁ。もういい…」

 呆れ返ったユーゴが手を延ばした次の瞬間だった。

―ゴキッ!―ゴゲェエエエエ!!―

「ギャァアアアアアアアアッ!?」

 先ほどまでつぶらな瞳でアンジェリカを見つめていたニワトリの首をユーゴが片手で掴んで一思いに脊髄をへし折りアンジェリカの手の中で絶命させた。

「なんってことをするんだ貴様ァアア!!」

「あぁ?…そうでもしなきゃお前の命はねぇんだよ、そいつは今日の晩飯、そいつの下処理をしなきゃお前も飯が食えねぇんだぞ」

「そっ、それは…そうかもしれないが…食べる物なら他にもあっただろう!このニワトリを食べなきゃいけないとは限らないはずだ!」

「食料も限られて行きつくのは餓死か?それともその辺に自生している喰えるかどうかも分からんキノコを喰うのか?…また山の一部になりたきゃそうしていろ」

 またしてもぐうの音も出ないことを言われたアンジェリカに返せる言葉もなかった。彼女の手の中には先ほどまで生き生きと温かなぬくもりさえあったニワトリはグッタリと舌を出して息絶えていた。

「はぁっ…ユーゴ、起きたばかりの人に無理させてあげるな…そのニワトリの処理は私がしておくから君は彼女を連れてココを案内してあげてくれ」

「んっ、そういえば…ここはどこなんだ?見たところでは傭兵のベースキャンプと行ったところだろうか…」

「んん~…正解でもあり、不正解と言った所だ」

 アンジェリカはアラヤに息絶えたニワトリを託して、ユーゴの案内で彼女は眠っていたテントから出た。

 

―ロシリカ外国人傭兵ベースキャンプ―

 

 そこに広がっていた光景は壮絶なモノだった。

「押さえてくれ!モルヒネを投与する!!」

『『了解しました』』

 軍医の指示の元で医療用の『M11型アンドロイド』と呼ばれるヒト型アンドロイドと白い機体カラーのジェットジャガーと同型のロボットで負傷兵を治療していた。

「ンンッ~―~―ッ!!」

「落ち着け!!もう戦闘ではない!君は動けないんだ!!」

 かなりの重症者を治療するのはその負傷者だけではなかった。明らかに人で不足な現状の病床の上に病人、それもロシリカ兵のみならず敵国の兵士であるサラジア兵までも同じ病床同士が隣々と近しい距離で並べられていた。

「ここは…一体何なんだッ?」

「おい、何をしている…行くぞ」

「行くって…どこに?」

「炊き出しだ」

 アンジェリカは必死にユーゴの後を付いて行った。

 

 やがて病床だらけの区画を抜けて設営テントのゾーンに辿り着き、中に入ると大きな鍋や仮設の大窯口の火元で構成されたベースキャンプ専用の調理場だった。

「ここは…キッチンか?」

「既に準備ができたヤツがある…運べ」

 ユーゴに指示された鍋の数は数えるだけでも10以上、しかも中はもちろん大量の食糧、『シチュー』だ。

「こっ、これを…私がッ!?」

「そうだよ、お前“も”怪獣なんだろう…さっさと運べ」

 そう言ってユーゴはシチュー満杯に入った大寸胴を軽々と持ち上げて外へと出て行った。

「いくら怪獣娘であっても…うっ、重くは無いけど…重心が取りにくい…」

 力には自身のあるアンジェリカだが、ことバランスとなると大寸胴の重心が内部に液体で満たされているため動く度にふらついて中身をこぼしそうであった。

「ううっ、神経を使う上に…足元が見えないし…あと…熱いッ!!」

 こぼさない様に細心の注意を払いながら歩くが…足元は寸胴で見えず鍋隙間から漏れ出る湯気がアンジェリカに直撃して耐え難い苦痛であった。

 そんな大鍋を所定の位置までようやく1個運び終えて息を切らすアンジェリカだが…その横でユーゴはヒョイヒョイと残りの大寸胴鍋を持ってきて実質ユーゴ1人で済んでいた。

「わっ、私…必要無いじゃないかッ!」

「働かん奴に食わせる飯はねぇよ…ホラッ最初に食わしてやるから持っていけ」

 そう言ってユーゴは簡易的なプラスチック皿にシチューを装ってアンジェリカに手渡した。

「うっ…うぐっ…はぐっはぐっはむはぶっ!!」

 アンジェリカは耐え切れずにスプーンも使わず一吸いに熱さも気にせずままにシチューを飲み干した。

「ぷはぁ~…久々のまともな飯だぁあ!…ううっ、ココへ来るまで買い込んだ食料も底が付いてプライドさえも捨てざるを得ないほどだったが…ううっ、このシチューは格別だ!今まで食べた物の中で一番の食事に成り代わったぞ!」

「そりゃどうも…」

「んっ?まさか、コレは貴様が作ったのか!?」

「他に誰がいる…ここのベースキャンプにはまともに料理できるヤツが限られているから動けるヤツが料理すんだよ」

 アンジェリカは思った…

(ならなぜニワトリの脊髄を折るという最も過酷な工程を病み上がりの私に押し付けるんだ…ぐぅッ、しかしこのシチューは悔しいほどに美味しい!美味しいからこそ余計にムカついてしまう!)

 シチューのうま味を噛めば噛むほどにアンジェリカの中でユーゴに対する苦渋ともいえる悔しさが込みあがっていた。

 “自称”戦闘経験歴10年のベテランとしての誇りが脆くも瓦解するが如くだった。

「ユーゴ、チキンの処理が終わったよ」

「んっ」

 アラヤに託していた下処理を終えたニワトリは先ほどまで生きていたとは思えないほどに店頭市場でも見かけるような加工肉同然の姿に様変わっていた。

「こっ、コレが先ほどのニワトリなのか?」

「そうだとも こうして私たちは命を頂いて血肉に変えて生きていく…すべては自然の螺旋と言うワケだ」

 アラヤは加工肉となったニワトリに感謝を込めるかのように手を重ねて祈りを込めた。

 握る手には聖なる十字架に刻印刻まれしネックレスを握りしめてインド人には珍しい熱心なキリスト教信仰者の祈りだった。

―ズダァアンッ!!

 そんな祈りも虚しくユーゴはクレーバーナイフでチキンを真っ二つに叩き切った。

「祈っている暇があったら手伝え! 祈りは喰い時にでもしろ」

「やれやれ、君には信仰心というモノが無いのかね」

 信仰心の希薄なユーゴに対してため息を吐きながらもアラヤは真っ二つに変わり果てたニワトリを部位ごとに切り分けて数種類のスパイスで味付けの下ごしらえを終えると簡易的なレンガ窯の中で焼き上げた。

「うんッ…できた さぁ、良ければコレも食べたまえ」

 そう言ってアラヤはアルミホイルで骨元を包みあげた骨付き腿肉のタンドリーチキンをアンジェリカに差し出した。

「うっ…何から何まですまない…いただこう」

 受け取ったタンドリーチキンはアンジェリカの手のひらよりも大きかった、それでもアンジェリカの空腹にはシチューと言った流動食のみならず固形食のチキンさえも胃が受け付けた。

「ふっ、いい食べっぷりだ…その様子なら医者に見せるまでもなく問題もない 明日になれば精気を取り戻せる」

 アラヤにそう言われたアンジェリカであったが…

 その日の夜の内に結局ヤムスクロ山へと足が戻っていた。

「はぁ…はぁ…急いでキャップの元まで向かわなければ…キャップ…待っていてください!」

 ベースキャンプから既に数キロも離れ、山の傾斜も段々と急坂になるにつれて身体が重く感じていた。それはまるで大地が自分自身を重力という鎖で縛りつけているかのような感覚だった。

「はぁ…はぁ…ぐっ、足がぁ……アッ!!」

 思わず転びそうになった足は落ち葉に足を滑べらせ、いよいよ足もおぼつかなくなっていた。

 体力にはそれなりの自身があったアンジェリカでさえもヤムスクロ山の特異な地形が彼女の足を沈み込ませている…さながら粘質の液の上をひたすらに歩いているようだ。

 湿度でふやけた土がやわらかい地面となってくるぶしまで沈む。回復した体力など徐々に大自然が無慈悲にも奪い去っているとさえ錯覚させるほどだ。アンジェリカが一人の人間にしても、一人の怪獣娘にしても、一人の女性であるにしても自然は区別もなく彼女から山への通行料として力のすべてを接収している。

「このままでは…隊長に追いつけない……はぁ…はぁ…ぐっ、こんなところで…あきらめ…きれるかぁッ!」

 それでもアンジェリカは歩を進める…例え無意味な一歩であると揶揄されても、馬鹿にされても、否定されようとも僅かな気を振り絞って足を踏みしめた。

―グゥルルルルルッ…

 ふと、前から獣の唸り声のような音がアンジェリカの耳に届いた。

「なっ、なんだ!?…何か、いるッ!」

 一寸先に広がる闇に水気を含んだ空気と共に月明かりとヤムスクロ山の山林と重なりあってアンジェリカの耳に届いた声の主の姿を映し出した。

「まっ…まさか、シィヴァ!? なぜ…ヤツがここに!?」

 アンジェリカの目には体長2メートルを超える直立の巨獣が映っていた。

 月明かりに照らされて光る黒い体表、野生動物とは思えないほどの鋭利な牙が何本も生え揃い、腕は人間よりもはるかに太く、指先は鋭利な爪、そして…背中から光輝くサンゴ礁状の背びれが太い尻尾まで行き渡って湿度の高い空気がより濃度の高い『霧』の状態へと環境が変化すると背ビレの光と共に霧と合わさって幻想的な青白いオーラを放っているかのようであった。

 宛ら幻の怪物、お伽話の生物、神話の中の神獣を無意識にさえ連想させるようであった。

「くっ、こうなったら…SOUL RIDE ALIEN MAGMAッ!!」

 アンジェリカは即座に自前の黒いソウルライザーを掲げて自らにアーカライトの光を浴びると怪獣娘マグマ星人へと変貌を遂げた。

「シィヴァ…ここであったが吉兆! お前を倒して、隊長の元へと馳せ参じさせてもらう!!」

 勝てる算段など毛頭ない、いままで金山とチームで行動を共にしてきたアンジェリカにとって個人での戦闘討伐は数える程度…ましてやロシリカ政府側ですら実態を究明できていない存在『シィヴァ』と相対しているアンジェリカこと怪獣娘マグマ星人。

「はぁあああッ!!」

 仕掛けたのはマグマ星人だった。右手の光剣が濃い霧を貫くように空が光剣を避けるがごとく霧の中を光の刃が突き進みシィヴァに向かっていった。

 ……だがしかし、その勇気ある行動が報われるかと言えば微塵も無い。

 光剣の矛先はシィヴァを前にして止まった。それもその筈…光剣の右腕は手首から太い尻尾に掴まれてシィヴァには何一つ届いていなかった。

「ぐっ…ふざけるな…貴様は……貴様は何なのだッ!?神だとでも言うのか!?なぜ、神が人間のいざこざなんかに肩入れする!!放せッ!!放せぇえッ!!」

 長い尻尾に右腕を掴まされて動けないマグマ星人を更に高く持ち上がって彼女の足が地面に着かなくなるほど目線はマグマ星人とシィヴァ、2人の目の高さが同じになりマグマ星人はその背筋を凍り付かせるような鋭い眼差しに睨まれていた。

「うっ…あっ…ああっ…あっあっ…」

 その眼は冷酷、その奥底は無慈悲、さらなる深淵にはどれほどの恐怖がやってくるのか…既にマグマ星人はアンジェリカへと姿を戻っていた。曰く戦いを放棄させるほどの衝撃だった。

―グゥッルルルルルゥゥゥッ…―

 山の大自然が目の前の怪物を生み出し、顧みることなくまたしても山に足を運んだ訪問者アンジェリカ・サーヴェリタスに対する“罰”。そうとしか認識する他になかった。

「くっ…殺せッ……どうした!!お前は神の使いなのだろう!!さっさと私のような愚かな人間なぞ一思いに殺せェッ!!」

 もはや諦めの境地であった。吠える口上にしては幼稚で陳腐な事しか吐き出せない。

 しかし、アンジェリカの声がシィヴァという怪物の耳に届いたのか…右手首に巻き付いていた尻尾が勢いよくアンジェリカを投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたアンジェリカはそのまま山の急勾配な坂道に転げ回り、元居た地点よりも数十メートル離れた位置にある溜池へとアンジェリカは大きな水飛沫と共に腹ばいになって止まった。

 沈みゆくアンジェリカの意識の中で金山シンヤの背中が見えた。自分を置いて戦火激しいサラジアに向かったと思われていた部隊長の金山が目的としていたことが本当にあの怪物討伐だけだったのか、既に本人が居ない状況下で確かめようもなく…遭遇するとは思いもしなかった目標の相手にたった一人で挑んだこと…もはや自分が何をしたいのかも分からなかった。

―ザブゥゥゥンッ……

 溜池にアンジェリカが落ちた時よりも大きな飛沫を上げて浅い池の上に浮かぶアンジェリカの足を掴みどこかへと連れ出し向かっていた。

―ベースキャンプ・テント内―

 

「うっ…ううん?」

 目が覚めるとまた同じテントの中で横になっていたことに気が付いた。

「今までのは…夢…だったのか?」

 まるで先ほどの事が夢であったかのようだが…微かに自分に染み付いた土の匂いがある以上、現実だった。

「まったく、病み上がりで登り切れるわけがないだろう…君はよほどココの病床に縛り付けられたいのか?」

 アンジェリカの横にはアラヤがいた。簡易的な椅子に腰かけて彼女が夜通し目を覚ますまで見張っていた。

「貴様…どういう事だ……なぜ、私はまたココに…」

「覚えていないのか? 山で体力を使い果たして倒れていたところをユーゴが引きずってここまで運んで来たんだ」

「くっ…情けない、またココに戻ってしまったのか」

 アンジェリカは額に手を当てて情けない自分を悔いた。

「いい加減そう何度も病み上がりの身体を引きずってまでサラジアに向かわせるわけにもいかない…そこでだが、君に合わせてほしいと言う人がいるんだが…」

「誰だ?」

 アラヤは立ち上がってテント入り口の垂れ幕を捲り上げるとそこに立っていたのはキリエロイドの怪獣娘だった。

「キッ、キリエッ!?なぜおまえがココに!?」

「なぜここに…じゃない!オマエこそ何をしているんだ、この駄肉が!」

 通称のキリエと呼ばれる少女は横になるアンジェリカの病床を蹴り上げた。大きく揺れる病床と共に彼女が言うアンジェリカの“駄肉”たる象徴の大きな胸が横に揺れる姿を見て更に額に血管が浮き出て来た。

「何をするんだ!貴様ッ!」

「何をしているんだって言いたいのはこっちだ!一体お前に何度同じことを言わせる…アンジー…隊長は『K‘s』の解散をGIRLSに通達しただろう」

 GIRLS付属の戦闘部隊『K‘s』は実質的に組織解体で金山シンヤがGIRLSに解散を告げていたためキリエロイドとマグマ星人のアンジェリカは解体に伴いGIRLSに所属する事が決まっていた。

 つまり、このベースキャンプに居るアンジェリカはいわばGIRLSから脱走した怪獣娘も同然であった。

「ふざけるな!私が仕える相手はキャップのみだ!!GIRLSに従う覚えはない!!」

「そう言って…アテがあるのか?今のお前に…」

 ぐうの音も出ないことを言われて返す言葉を失った。金山シンヤを追ってサラジアに向かおうとしていたアンジェリカだが、先のことなどほぼ考えていない。何なら金山シンヤがサラジア国内のどこに居るかさえも分かっていなかった。

「わかったらさっさと立て、その無駄に重い身体を引きずって連れて帰るなど救世主たる私の仕事じゃない」

 キリエに促されて仕方なく起き上がり、アラヤに礼として頭を下げ、テントを後にした。

 

 テントの外へ出るとまたもいい匂いが立ち込めていた。

「アイツ…」

「どうした?まだオマエが迷惑かけた相手がいるのか?」

「ちっ…違う!迷惑など…かけたかもしれんが一応礼儀として挨拶してやらんこともないか」

 アンジェリカは渋々ながらも自身の心情に従って大鍋をかき混ぜるユーゴの元へと近づいた。

「……なんだ、くたばっていなかったか…つくづく悪運だけはあるな、お前」

 またもムカつく言い方をされてアンジェリカはこんな男に頭を下げねばならないのかと自身のプライドが揺れ動いていた。

「ぐっ…たっ、助けてくれたことには感謝する……私を引きずってここまで運んでくれなければ私は…」

「勘違いするな…お前なんかが山で死んでも野生動物の餌となるだけだ、その味を知った野生動物が人里に現れ出すと山の生態系が変わって余計迷惑なだけだ」

 やはりムカつく。感謝を述べがいの無いユーゴにムカついたアンジェリカは苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべてズンズンと足を踏みしめてユーゴの元を去ろうとしていた。

「フンッ!やはり感謝なぞ伝えるべきではなかった!!帰るぞ、キリエ!!……キリエ?」

 立ち去ろうとした矢先に一緒にいたキリエを見失った。

「おい、今は何を作っているんだ?」

「ラム肉のスープ…付け合わせは窯焼きパン」

 大釜の中が気になっていたキリエはユーゴに作っている料理を尋ねて彼に近づいていた。

「何をしているんだ、キリエ!そんな男の作る料理なぞに…」―グゥウウッ…

 そうは言ってもアンジェリカのお腹は正直だった。空腹には抗えず、お腹を押さえて耐えようとした。

「ハンッ!いい加減スナオになれアンジー…お前も腹が減っているじゃないか」

 そう言ってキリエの手の内にはこれ見よがしに器によそわれたラム肉のスープの匂いが漂っていた。

「ぐぅっ…きっ、貴様…」

「さっさと食って帰れ」

 睨むアンジェリカは『言われなくても!』と叫びたいがプライドが空腹に勝てるはずもなくキリエから受け取ったラム肉のスープを口にせざるを得なかった。

 そして、やはり旨かった。悔しいほどに…

「――…という具合にコイツはムカつくが料理は旨かった…ムカつくが…」

 あの時の事を思い出すアンジェリカの顔は苦虫を嚙み潰したよう悔しさと情けなさが入り混じった感情を押し殺していた。

「ええっと…なんかウチの兄がすみません、アンジェリカさん!」

「なんでお前が謝ってんだ」

 当時からも性格の悪いユウゴに変わってアキが深々と頭を下げた。

「マグマグとアギアギのお兄さん…御二人とも仲良しさんみたいですねぇ~」

「仲良くないッ!!」

 トモミに仲良しと勘違いされたアンジェリカは食い気味に否定した。

「こんなポンコツと一緒にするな」

「お兄ちゃんッ!!」

 ユウゴもアンジェリカと一括りに仲がいいと思われたくない様子だった。

「貴様ッ!あの時の舐め腐った態度に飽き足らず…私をポンコツ呼ばわりするかぁッ!!」

「わわっ、アンジェリカさん落ち付いてェッ!!」

 ポンコツ呼ばわりされたアンジェリカをカナは押さえた。

 

「もうお兄ちゃんは料理作ってて!」

「毎回思うが…なんで俺の店には無限に食料が湧くんだ? お前ら…まさか勝手に補充しているんじゃねぇだろうなぁ」

 前々から疑問に思っていたユウゴの店『BAR1954』の不思議な現象について言及するとアキ、トモミ、カナが明後日の方向に向かって視線を逸らした。

「おまえらか…」

「さぁ~…なっ、なんのことかさっぱりわかんないから…ほらほら、厨房に行こう!ボク、お兄ちゃんが海外で作っていた料理とか食べてみたいなぁ~」

 半ば強引に誤魔化してユウゴの背中を押して厨房に向かわせた。

 そんな時だった。―ガチャン…

「おう、ユウゴ…邪魔するぞ」

 BAR1954の扉を開けて姿を現したのは背広のスーツに身を備えた千鳥ヒエンだった。

「あん?ヒエンさん…なんの用だ」

「えっ?だれッ?…お兄ちゃんの知り合い?」

 ヒエンに続いて続々と店内に入って来たスーツ姿の男女…明らかに客と言う風貌ではない者たちだった。

「…アンジェリカ・サーヴェリタス…だな」

「誰だ、お前たちは…」

 そういうとヒエンは胸元から取り出した紙きれをアンジェリカに突きつけた。

「アンジェリカ・サーヴェリタス 『スペシウム強奪事件』に関与している金山シンヤの逃亡幇助の容疑で我々ともに同行願おう」

 突然の出来事に対してアンジェリカの左右にいたトモミもカナも、そしてユウゴの後ろにいたアキも驚愕していた。

 しかし、アンジェリカには心当たる事情があるせいか驚かずに寧ろ受け入れているかのようだった。

 そして、一人の女性捜査官に腕を掴まれて…アンジェリカを連行した。




アンバランス小話
『姉いる者たち』

 この日、怪獣の魂を宿す女性たちの中でも“姉”がいる怪獣娘たちで構成された『怪獣妹の会』が開かれていた。
「はぁ~…どうしたら姉さんの引きこもり癖を治せるんでしょうか…」
 引きこもりの姉に世話を焼く、宇宙怪獣:改造ベムスター。
「ひゃはははっ!アンタん所と比べたらウチのお姉ちゃんは完璧が過ぎるってものよ!」
 著名なファッションブランド『NISHINA』を経営する姉には頭が上がらない、悪質宇宙人:メフィラス星人二代目。
「……………」
 東京支部長を姉に持ち最強の怪獣娘として君臨する大怪獣ファイト王者、宇宙恐竜:ゼットン。
「なんで私まで…」
 双子の片割れにして姉のミコと唯一の違いは髪色だけ、分身宇宙人:ガッツ星人(マコ)。
 普段では決して集まることのない面々に共通するのは妹である、姉がいる、姉妹であることが条件の本会合はBAR1954で取り行われていた。
「ゼットンさんのお姉さんもしっかりされていますよ」
 姉ではなく兄がいる、カプセル怪獣アギラ。
「お姉ちゃん…全然だらしない」
「それでも社交性があるじゃないですか!うちの姉さんなんかと比べたら…」
「ウチのお姉ちゃんなんか怒り出すと怖いよ! 随分前にもちょ~っと悪ノリが過ぎたことに対して怖いくらい怒られたもん!」
「私なんて双子よ 基本的に歳が一緒だから一般的な姉妹の感性なんてないもの…」
 皆、それぞれが姉に対する私生活での問題や恐れる印象、悩み事を語り合う会は白熱していた。
「なんか聞いていると…皆さん、いいお姉さんが居て羨ましいです…ボクなんか、上に居るのがコレなんで」
「なんで俺を巻き込むんだ」
 アギラは姉いる者たちの様相と隣でグラスを拭き取るユウゴを比較対象に出した。
「それのどこが不満なのよ!素敵なお兄さんが居て逆に羨ましいわッコノヤロー!電話番、教えろォッ!!」
「しっかりしたお兄さんですよ…うちなんかと比べたら…」
 どさくさに紛れてユウゴに近づこうとするメフィラス(妹)と姉にも見習ってほしいベムスター(妹)は兄が居るアギラを羨ましがった。
「アギラ…お兄ちゃん、好き?」
「ふえっ…えっ…ええっと、まぁ、料理も作ってくれるし、それなりには…」
「あんたって、ゼットンことになると途端にしどろもどろね」
「うるさいな、黒ガッツ!」
 今日もまた彼女たちの上には姉がいる。そして、その姉に振り回されることもあれば姉を慕う者たちも居る…彼女たちは今日も姉と共に怪獣娘として日々を向き合うのであった。
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