TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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怪獣戦士(タイタヌス)

―GIRLS東京支部・休憩室―

 

「……うぅ~ん……」

 アキは悩んでいた…魘されるほどに悩んでいた。

「おっ…ルイボスティーあった」

 ここはGIRLS…名前の通り怪獣娘による怪獣娘のための特別な施設だ…がしかし、そこに異様な大男が豊かな品揃えのティーパックコーナーから茶葉を選びティーカップにファミレスにしかない押せば水やお茶まで出るドリンクマシーンでお湯を注いでいる……異様である。

「………う~んッ」

 一旦、頭を抱える、かきむしる、整える……どうにもならない状況だ。

「なにさっきから唸ってんだ…鬱陶しい」

「誰のせいでこうなってると思ってるのさぁ」

 そう、誰かのせいであることは確かだ。自分か、この大男か、はたまたこの世のすべてか……否、結局巡り巡って考えても結局誰も悪くない。

「何よりも…この状況…」

 そう、アキを最も悩ましい気分にさせるのは…

「ねぇねぇ、ユウゴさんは今までずっと海外で一人渡り歩いてたの!?」

「あぁ…主にアジア、中東、東欧圏だな…アフリカ地域にも度々行って紛争が多かったから地雷除去の仕事が豊富だった」

「うわぁ~…すごいですね、映画みたいな話ですよね」

「民兵需要は特に多く、傭兵契約を結ばなければ仕事にありつけない場合が多かったぞ」

 普段はアキ、ミク、レイカの三人と談笑したりしていた憩いの場にあまりにも場違いな男…そう『男』である。男が堂々と腕を組みながら太い二の腕とパンパンに筋肉を詰めたような胴体、3人の両足を合わせても足りない太い足、それに靴はブーツ…頑丈なミリタリーブーツだ。髪型はうねる様なクセ毛だが明るい髪色のアキとは逆いしっとりとした黒色、顔はダグナ並みに整っているがダグナをモデルに例えるならユウゴは俳優顔と言ったベクトル違いの顔立ちだった。

「他には他には!?」

「う~ん、あとはせいぜいロ・サ電撃戦に1年ほど従軍したくらいだ…俺が関わった頃には体感半年ほどでロシリカとサラジアは停戦協定を結んだし、俺の中では早い幕引きだったなぁ」

 出てくるワードのことごとくが血生臭い経験談がこの休憩所での思い出を掻き消してくる。

 みんなで原宿に行くことになった事や、トモミにGIRLSとして活躍するようになってから自分が笑うようになったことを褒められた事とか、そういった大切な思い出をブルドーザーで侵略してくるような衝撃的内容にアキは耳を傷めていた。

「いい加減にしてよ、さっきからおどろおどろしい話ばかりで我慢できないよ!」

「あぁ?何がだ…」

「あっ、アギちゃん?」「アギさん…」

「3年も行方知れずだっただけでなく、急にパッと現れてきたと思ったら狙われたり、襲われたり…ワケがわからない一番はなんでお兄ちゃんがボクを護衛する事になったのさぁ!?」

「俺に言われても知らん…俺はただやりたいことをやっているだけだ。お前らが好きな服やら飯を選んで決めるように、俺もやりたいことを選んだから決めただけだよ」

 そう言い返すとユウゴはお茶を飲み、アキはプルプルと怒りにフラストレーションの上がりを抑制するために冷静になるよう額に手を当てて熱を冷ますと大きな溜め息が出た。

 ソレもその筈で言いたいことを多々あるのに肝心なこと『兄は怪獣』であることが言えないからである。

(お兄ちゃんにもカイジューソウルがある…すなわち『男性もカイジュ―ソウルが宿る』…俄かに信じられないけどあれは確かに怪獣だったけど、怪獣娘とは違う生き物のような気がする)

 アキはやり場のない気持ちをGIRLSの怪獣娘として、また指導課の者としても考察をしつつも方針は既に決まっていた。『兄も怪獣の力を持っていること』の事実はGIRLSの怪獣娘を始め世間にすら現段階でまだ公表することは無い。がしかし…

「あっ、アギちゃんが怒ってる…今まで見たことないくらい怒っているよ」

「えっ、ええ…すごい気迫でしたね、これが所謂兄妹喧嘩と言うものですか」

 普段仲良しの人間の見慣れない姿にオロオロと驚く2人にアキはハッと我に返って考え込むのをやめた。

「もういい…資料室行って来る」

「んっ」

 立ち上がってスタスタと早歩きでユウゴから距離を取るアキだが…やはりとばかりに兄たちが後ろをついてきた。

「んもぉ~ついてこないでよ!」

「ついていなきゃ、お前を守れんだろう…護衛なんだから」

 兄の口から出て来た『守る』と言う単語に思わず固まるアキは俄かに信じられないがほんの少しだけうれしさもあるがやはり複雑だった。二人の時ならいざ知らず、よりによって一番の顔見知りの2人の前で言うものだから余計に恥ずかしかった。

「わぁ~流石お兄さんですね」

「ひゅ~ひゅ~、アギちゃん照れてる~」

「照れてないよ!!」

 レイカは褒められ、ミクは赤面するアキを茶化される…宛ら授業参観にやたら目立つ親が来たような気分をまさかGIRLS内で味わうことになるなど夢にも思わなかった。

「けど、ユウゴさんって大きいですねぇ~…身長何センチあるんですか?」

「測ったことはねぇが…最後に測った時は190以上だったか」

「デカァ~、流石アギちゃんのお兄さん!」

「なんでその情報だけでボクと似てると思えるのさぁ…」

「いんや~器のデカさとか、かなぁ~」

「ボクの器の大きさが内面とかを指してるなら…コレは物理的な大きさじゃん!?」

 アキは自分と兄を比較されたことに苛立ちを露見させるもミクに『まぁまぁ』と宥められ感情的になった我を抑えるのに必死だった。

 

 それにしても今この状況…見てる…見ている…見られている…様々な怪獣娘たちやGIRLS東京支部の職員たち、大半を女性が占める当施設ではユウゴはあまりにも目立ちすぎる。中にはヒソヒソ話で『ちょっとカッコいいかも』など言われる始末、その都度アキは半眼がいつもより鋭くなるほど睨み返しては他の子を怖がらせていた。

「おい、人をそんな目で睨むもんじゃねぇだろ…ただでさえお前は目つきが悪いんだから誤解されるぞ」

「誰のせいでこうしてなきゃいけないと思ってるのさぁ、誰のせいで…」

 ユウゴの言っていることは間違いではない…が釈然としないのも事実である。もはや矛盾と言っていいほどに注意すべき者とされる者が逆、本来自分が至らない兄の問題点を指摘すべきなのだが…あまりにも無いのである。

「あっ、あの…アギアギのお兄さん…どうですか?GIRLSでのアギアギの様子は?」

「ええ、いつも知らぬアキの一面を見れて何よりです…いつもウチのアキが御世話になって感謝しています」

「いえいえこちらこそ…」

 アキが腑に落ちない点の一つがこの異様なまでの礼儀正しさである。外見とはかけ離れた腰の低さにアキの先輩たちからサチコたちなど明らかにアキより年下相手でも最初は敬語、後から親しくなったらタメ口、そうしていく内に外見恐ろしい怪物の内面が実は優しい生き物だった時ぐらい差のあるギャップに彼女たちが打ち解けれる点であった。早い話が美女と野獣の吊り橋効果である。

「うわぁ~い!すごい筋肉~!」

「二人ぶら下がってもビクともしないや!」

 挙句の果てには右腕にぶら下がるザンドリアスとその友人ノイズラーと2人の怪獣娘がユウゴの腕を遊具のようにして遊ぶ始末であった。

「あたしもあたしも!ソウルライド、ミクラス!」

 ミクも同じく怪獣娘の姿にソウルライザーと呼ばれる怪獣娘に変身するためのデバイスでミクラスに変身するなりザンドリアス、ノイズラーに続く三人目の怪獣娘がぶら下がるが、これでも顔色一つ変えずに3人まとめて歩ける始末だった。

「アギラさんのお兄さんすげぇ~!」

「あたしもこういうお兄ちゃんほしいなぁ~…今日だけ私も妹にしてください!」

「いいねそれ!アギちゃんのお兄さんならみんなのお兄ちゃんだぁ~!」

 そういうとザンドリアスにノイズラー、果てはミクラスまでも右腕と左腕、胴体にまでしがみついた。

 これだけされているにも関わらず肝心のユウゴは特に照れるでもない…宛ら親戚の子供たちを相手にしているかのように下心のまるでない微笑みすら浮かべていた。

 それがますますアキの心情に油を注いで顔が赤面から紅潮の怒りに転じていた。

「みっ、ミクさん…あんまりユウゴさんを独占するのはちょっと…アギさん、見たことないリンゴ顔になってきましたけど?」

「ええ~いいじゃん…減るもんじゃないし~…ウインちゃんだってホントーは気になってるクセに~」

 さらに茶化さんとばかりにミクラスはレイカを煽るが…

「いえ、私はあと一人でも男性が居たら危なかったですけど…特には」

 レイカは決してブレなかった。

「ふぅんぬぬっ…いい加減にぃ~」

「ユウちゃ~ん!!」

 そういいかけたその時だった。その声、この図々しさ、楽しいことを常に探究するハッピーハンターの声が聞こえたが肝心の“彼女”の姿は見えなかった。

「あれ?今、ゴモたんの声がしたような…」

「おい、もしかしてコイツの事か?」

 ユウゴが後ろを振り返ると背中に夏のセミの如く張り付いている黒田ミカヅキは怪獣娘ゴモラに変身して既にユウゴと言う新しいおもちゃを手に入れたとばかりに陣地を支配していた。

「ゴモたん!何してんのさ!?」

「見ての通り、今日からここはゴモたんの聖域、アギちゃんはウチにとって妹も同然、すなわちこの背中も、この体も、このお兄ちゃんもウチのお兄ちゃん!ユウちゃんはウチのお兄ちゃんやぁ~!!」

 とんだ極論だった。とうとうアキの沸点は最高潮に達した。

「ソウルライド!アギラ!!」

 先ほどから怪獣娘が自らの怪獣の姿に変身するために用いられるソウルライザーと呼ばれるデジタルデバイスはその内部に『アーカライト』と呼ばれる青い鉱石が怪獣娘のカイジューソウルに反応して眩い光と共に彼女たちの身体は怪獣娘へと変身を遂げる。

 アキの身体を構成するのは怪獣娘が変身の際に出現させる特殊な素材『獣殻(シェル)』と呼ばれる物質で身体を宛ら覆うようにして怪獣の姿を形とる。アキの怪獣アギラの場合は大きなツノと首回りを覆う襟巻、さらに頭を覆うほどの伸縮する獣殻は宛らパーカーのフードの様に頭部を保護する。そうして出現したのが怪獣娘アギラであった。

「うおぉ~!離れなさい!離れい!離れろ!」

「うげっ!」「うぎゃっ!」「きゃっ!?」

 ミクラス、ノイズラー、ザンドリアスとユウゴの身体から掃い落す形ではがした…が、最後の最後で強敵が背中に張り付いていた。

「うおぉおお!!ゴモたん、離れてよぉおお!!」

「いややぁあ!!ウチはここを動かん!テコでも動かへんでぇえ!!」

 ものすごい力でユウゴの身体にへばりつき意地でも離れようとしなかった。しかも逆にユウゴの身体はゴモラの爪が食い込み、衣服が今にも破けそうであった。

(まずい、このままじゃお兄ちゃんの服が背中から破れちゃう…こうなったら)

 アギラは引きはがそうとするのをやめ、逆に考えるようにした…剥がそうとしてダメなら、擽って剥がす。

「ふぁい!?あっ、アギちゃん…なにすんねん!?」

「決まってるでしょ!ゴモたんは人にやるのは好きだけど、やられると嫌いなことだよ!」

 始めはゴモラの横っ腹を優しく触りじらす…次第に上下でさすり…最終的に脇を鋭い爪でツンッとつくように触れると途端に鋭い爪で皮膚を裂くのではなく傷つかない程度まで擦り、宛ら脇で多足に虫が歩くような動きでゴモラを翻弄する。

「ひゃはははははっ!?やめちくりぃいい!!―…あっ!?」

 するとゴモラの指先に力が入らずユウゴの背中からゴモラがズレ落ちて床に転がった。

 さらに『今だ!』とばかりにアギラはユウゴの手を引いてすぐ近くの資料室に逃げ込んだ。

 

 そして、逃げ込んだ中で机、椅子、重量のあるものすべてを扉の前に立てかけて、さらに備え付けのパソコンから部屋のセキュリティーにアクセスしてダメ押しの資料室立ち入り禁止ロックまで施した。

『こらぁ~アギちゃん!開けろ!!独り占めするなぁあ!!』

 外ではゴモラたちがやいのやいのと喚いているがアギラは息を切らすほどの大運動に心臓がバクバクと音を立てながら大きく息を吸って吐き出し落ち着かせようとしたが、並みの速さではない鼓動に止まらぬ緊張、ちょっとした罪悪感、しばらく収まるまで時間が掛かりそうだった。

「ものの見事に籠城だな…こんなことしてどうするんだ」

「ごっ…ごめん、ちょっと休ませて…疲れた」

 思わぬ動きに身体が付いて行かず、口の中は吐血などしていないにも関わらず全速力で走った後の鉄の味がする。

「おい、大丈夫か?…そこのソファーで休め」

 今度は逆にアギラがユウゴの手に引かれソファーまで連れて行ってもらいソファーに腰かけた。

「ふぁぁ…ありがとう」

「少し赤いぞ…日頃の運動不足が祟ったな」

 まるで子供扱いだが、大男から見たら怪獣娘の少女など子供と変わらないかと言い返す気持ちも気分も無い、寧ろ今は動きすぎて気持ちが悪かった。

「お…お兄ちゃん……もう…どこにもいかないで……一人は…ヤダよ……一人は……寂しいよ」

「……どこにも行かねぇよ……なんなら傍に居といてやるから少し休め」

 そういうとユウゴはアギラの傍に座ってお互い同じソファーで二人きり…そんな状況に安心しきったのかアギラはユウゴの側に寄りかかる。

 そして、不思議と深い眠りに落ちていくようだった。

 それは…中学1年生の頃の事だった。母を早くに病で亡くし、自分よりも大きな大人たちが母の遺影を持つアキを見てどうするべきかをそれぞれで話し合っていた。

 母方か、父方か、どちら側の親戚かもわからない、殆ど顔も合わせたことも無く、その日初めて親戚と呼ぶ者たちと顔合せた……残されたアキを見て彼らは何を思うのか、アキをどう思ってどうしようとしているのか分からない。

 そして、肝心の兄は居ない。行方不明だった。なんの連絡も音沙汰もない。頼れる者も居ない…自分はどうすればよいのか分からない…おそらく何もできないだろう。

 まさに…無力だった。

「アキちゃん…私と一緒に暮らそう」

 そんなとき声を掛けてくれたのが祖父だった。彼は母方の祖父、すなわち亡くなった母の父親だ。

 そんな祖父の顔は……

 真っ白だった。

 火葬場の中で祖父の棺桶が焼かれている中、遺族が故人の顔を忘れないようにするための大切な遺影には写真が納められていなかった。

 そんな写真の無い遺影の人物が煉獄の業火で焼いている人だ。それはもはや人なのかもわからない。

「………」

「では、何かありましたら…御申しつけください」

 そういってダグナはアキを一人、火葬場で祖父と最後の別れに無粋に自分が留まる必要は無いと気を使い外で待機すると言い残して先に外へ出た。

「……………」

 延々と燃え続ける祖父の棺桶の入っている火葬炉の前はアキのみの静寂だった。見送る相手がアキ一人…母の時とは大違いだ。生前はどんな人かと問われてもごく一部しか答えられないだろう、それ以外はと聞かれても答えられない。顔も既にノイズが掛かっているようにピンポイントで祖父に関する記憶が穴だらけだった。

―コツッコツッコツッコツッ…

 たった今ここに祖父を見送りに来た者が現れた。

「…あの爺さん、写真はおろか痕跡一つも残さず消えるとはなぁ……対した徹底ぶりだ」

「こういう時ぐらい…喪服できたらどうなのさぁ」

「お前だって学校制服じゃねぇか…」

「これ、学校制服じゃないよ…GIRLSの制服だよ」

 アキもユウゴも、それぞれが喪中にふさわしくない出で立ちだが…特に注意する親族も居ないためせめてもの見送り方としてアキは自ら怪獣娘として居場所をくれた所の格好、ユウゴは自分が渡り歩いてきた数々の地での姿…祖父に今の自分たちを最後の最後に見てもらいたく喪服ではないどちらかと言えば普段着な姿が“建前”であった。

「ふん…遺言に従って来てみれば……ここが爺さんの故郷唯一の火葬場か」

「この町で唯一らしいよ」

「なるほど、“顔の無い者”の最後の地か…想像も出来ねぇな」

 アキたちが葬儀として訪れていたのは祖父の遺言にあった関東県内の某所、町名は地図に無く、村自治体すらも無い、コンビニ商業はおろか殆ど何も無いと言って差し支えない…そして、この火葬場もスタッフはおらず全て遺族が各々で取り行う方針だった。

 それはつまり、祖父は生前から自分が碌な死に方をしないと知っていた上で誰に迷惑も無く、痕跡すらも無い、葬儀と言う儀式的形式すらも省略した供養無しの速攻焼却処理にて祖父は完璧にこの世から存在していたことを自分から消し去った並々ならぬ決意のある終わり方であった。

「…少しは泣いたらどうなんだ…水分干上がったか」

「だれのせいで泣けないと思っているのさ…碌におじいちゃんと顔合わせもせず、火葬場で3年ぶりの再会……この火葬場で大泣きした人ってたぶんボクが初めてかもね」

 アキの目には涙で目元が赤くなって少し荒れた痕がくっきりと残っていた。その理由は今日初めてユウゴが3年ぶりにアキの前に姿を現したのがよりによって祖父が亡くなった翌日、すなわち今日に限ってわざわざ祖父の火葬のためだけにあっさりと顔を見せたからである。

 そのことに対して大いにアキは感情が溢れた…否、爆発したと言って過言ではなかった。ユウゴを責めたり、罵ったり、果てには非力ながらも掴みかかりもしたが…ユウゴはただ『言いたい事とやりたい事はそれだけか』とまたもあっさり返した。受け入れていたのだ。

 兄の大人ぶりに対して成長の無い子供染みた感情表現に我に返ってみればユウゴに比べアキ自身がまだ子供と言うことを自覚させた。あの様な姿、GIRLSの仲間にすら見せたことも無く、特にゴモラなど後々に弄って来るに決まっているとさえ思えた。しかし、裏を返せばGIRLSと言う心の支えが無ければアキは今もユウゴと向き合えず、何ならギクシャクさえも起こしていたであろう。

 そんなことを思いながらも火葬炉のランプが焼却完了の合図を出した。

「…開けてやろうか」

「…うん」

 ユウゴは率先して焼却炉の扉を開いて中から祖父の棺桶を乗せていた台を引き出したが…中から煤の匂いが充満し、台の上には“祖父だったもの”が散らばっているだろうが…アキは目もあてられなかった。

「見たくなきゃ、俺の後ろにいろ…代わりにやっておく」

 アキはそう言われユウゴの背中を合わせるようにして祖父の遺骨はユウゴが骨壺へ丁寧に一欠片ずつ収められているのが音でもわかるほどに鮮明だった。

「随分…慣れているんだね」

「人を燃やすのも弔うのも慣れちまっただけだ…ああっ、まだ話して無かったなぁ…俺の3年間」

「ボクもまだ話して無いよ、おじいちゃんと過ごしてきた事と…怪獣娘として向き合ってきたことも…」

 こっそりとそれとなくアキは怪獣娘として変化してしまった自分の事を言ってみるも…

「…そうか」

「…ねぇ…さっきから淡泊すぎない…今、ボク盛大なカミングアウトしてるんだけど…ボク、怪獣娘になったんだよ」

「ダグナから報告を受けてる…大して驚かんよ」

「なんだ、驚かせがいないよ…一世一代の大出来事なのに」

「…そうだな、ほら…終わったぞ…先にダグナの所へ行っておけ、後の片づけは俺がやっておく」

 そういうとアキに骨壺を託したダグナは台の清掃と後片付けに回った。

 一方のアキは頷いて骨壺を抱えたままダグナの元へと向かった。

「……なぁ、じいさん…あんたに魂とやらがあるなら言わせてくれ…俺の代りにアキを見守り育ててくれたことは礼を言う……だが、俺やアキ、お袋や親父、この世にいるすべての怪獣たちを大きな渦に巻きこみやがったことは許してねぇぞ…テメェの身勝手が招いた結末を天高くで見下ろしてるつもりだろうが、とっとと成仏してこの世のどこか、あの世のいずこか、怪獣と二度と関わらない人生を歩め……ソレがあんたに俺がかけてやれる最後の言葉だ」

 もう何も残っていない台の上でユウゴは亡き祖父へ手向けとも皮肉とも取れる言葉をかけてアキの前では言えなかった思いのたけをぶつけたユウゴは綺麗になった台を焼却炉の中に戻して、扉を閉めたら祖父の弔いはこれにて完全に終了した。あとは遺骨を遺言に従い“ある場所”まで持っていきそこで散骨するだけとなった。

 

 後片付けを終えたユウゴは火葬場の外へ出て最寄りの駐車場に出た。

「おや、お疲れ様です…ユウゴくん」

「ああ……おい、アキはどうした?」

 外で待っていたダグナの元へ先に向かわせたはずのアキが見当たらなかった。

「ええっ?一緒にいらっしゃったのでは……まさか!」

「そのまさかだ…アイツ、先走りやがって! 俺は先に“山”に向かう、あんたは反対斜面に回って探せ!」

「わかりました お気を付けて!」

 そういうとユウゴはとっさに走り出し、ダグナはすぐさま車に乗り込んでエンジンを掛けると猛スピードでとある山に向かった。

 火葬場からしばらく離れて小一時間ほどで辿り着いたアキは標高の高くない山の麓にいた。

「ここから…北に10m…そこから…」

 アキはソウルライザーのマップ機能を使って祖父が遺言書に記載してあった場所へ向かっていた。

 しばらくして山の中の道なき道を草木かき分けて進んでいくと山頂の切り立った山のど真ん中で先ほどまでいた火葬場のある街を見下ろしていた。

 周囲を森で囲まれ、他の地から見えない作りになっているこの町に人は住んでおらず見せかけの街である。

 多くは財界人や著名人がこの世に未練なく完璧に己の最後を葬り去るためだけに作られた土地だとダグナから聞かされていたが…

「おじいちゃん…おじいちゃんは本当にここでいいの?…ボクは、おじいちゃんを忘れたくない…いい思い出もたくさん作ったし、一緒に過ごしてきたことが何より楽しかったのに……おじいちゃんが亡くなってまだ日がそんなに立たないのに、だんだんとおじいちゃんとの思い出が薄れて行ってきてるよ……忘れたくないよ、どうしておじいちゃんはおじいちゃんの事をボクから消し去ろうとしてるのさぁ…おじいちゃんは一体誰で何者なの…もう分からないよ」

 アキは骨壺を抱えたまま涙ながらに亡き祖父に語り掛けても返答はあるはずがない、仮に近くに居たとしても声など音声を発せれる事の出来る肉体がない、それはもはや地目も同然であった。

 しかし、それでもアキは涙をのみ、袖でふき取って決意を固めた。骨壺を空けて、祖父の遺灰を撒こうとした時だった……――グルルルルッ!

「えっ!?」

 アキの背後から悪寒の様な寒気が走り振り返ろうとしたとき…ドンッ!と強い衝撃と共にアキは断崖絶壁の前へと突き落とされた。

「うわぁああ!!ソウルライド、アギラ!!」

 非常事態でもアキはすぐさまソウルライザーを取り出してアギラへと変身を遂げる。

―ガシッ!

 間一髪のところで崖に生えていた枝につかまって落下を逃れた。

「うぅっ…一体なに!?」

 アギラは上を見上げると…そこには見たことも無い二本足で直立に立ち上がったようなトカゲの怪物がアギラを見下ろしていた。

「なっ、何ッ!?誰なの!?」

 二足歩行のトカゲはアギラにグルグルッと唸りを上げながら口を開いた。

「ダゴン…グルイ・フタグン、ゾイグ!!」

 トカゲの怪物はアギラを見るなり何かの呪文を唱えて来た。

 すると、アギラのぶら下がる足元に何らかの魔法陣の様な陣形模様が浮かび上がり、その中心から勢いよく周囲の物を吸い込み始めた。

「わっ、わぁあああああああ!!助けてぇええええ!!」

 アギラは今まで味わったことの無い恐怖に、絶望に、為す術がない状況に誰もいない山奥の森の中で誰かに助けを求めた。しかし、無慈悲にも切なる願いも聞き入れてもらえない残酷に覆らなかった。

 その様子を見ていたトカゲの怪物はその表情に薄っすらと笑みが見えるほどに口元がつり上がっていた。まるで自分が出した魔法陣に吸い込まれていくアギラを見て楽しんでいる様であった。だが…

「お前がいけ!」

 今度はトカゲの怪物が背中から押されて自分から自分が出した魔法陣へ突っ込んでいき…魔法陣はその場から消失してトカゲの怪物も消えていった。

「アキ!今、助けに行ってやるから少し待っていろ!」

 その声は紛れもなくユウゴだった。アギラの願いがユウゴまで届いたのか、一先ず助かって安心した時だった。

 アギラの頭上から崖下を手先の爪で滑り落ちアギラの位置で止まったが、その姿は先ほどのトカゲの怪物とは色の違う黒いトカゲの怪物であった。

 そして、怪物がアギラを捕らえるようと手を伸ばしてアギラを抱え掴んだ。

「うわぁああ!!放して!!放せぇええ!!」

 アギラはそのトカゲの怪物に捕まったと思い、必死ばかりの抵抗をするが…

「おい、暴れんな!落ちるぞ!」

 怪物の声はアギラが良く知るユウゴの声がしていた。

「へぇ?おっ…お兄ちゃん?…お兄ちゃんなの?」

「あぁ~…まぁその、なんだ…実は、俺も怪獣なんだよ」

「ええええええええええええッ!?」

 衝撃の事実がまさかの危機的な状況下でアギラを困惑させた。

 

 何とか崖を上りきって一命をとりとめたアギラは変貌を遂げたユウゴを見るなり目に映った姿は正に“怪獣”にふさわしいフォルムをした存在だった。

 全身を黒曜石のように硬質な皮膚と色合い、尻尾は棍棒のように太く、背中はサンゴ礁型に生えた鍾乳石の様な色をした背びれ、顔はワ二を思わせながらも口先は短く、牙は一本一本が鋭利なナイフのように生え揃えている。宛ら恐竜の中でもティラノサウルスをマッシブアップさせたような外観だった。

「お兄ちゃんも…怪獣…」

「まぁお前と比べればもろ怪獣そのものみたいな姿だが…これでもお前より怪獣歴は長いぞ……おっと、まだいるな」

「ええ、その様ですね」

 難を逃れたアギラたちの前にダグナが後から辿り着いてきた。

「ダグナさん、一体どういうことですか!?」

「そうですね、彼らの目的は現状…アキさん、あなたであるという事でしょうか」

「そうじゃなくて……あぁ~もう、どれから話すべきかわかんないよ!!」

「喋ってる暇はねぇぞ!ダグナ、あんたは先にアキを連れて離脱しろ 露払いは俺がしておく 行け!」

「わぁっ!?」

 トカゲの怪獣に変身したユウゴはアギラをダグナに押し出すように託した。

「わかりました、では…お気を付けて さぁ、アキさん行きましょう」

「えっ、えっ、でも…お兄ちゃんが」

「大丈夫です、彼の事はコレと言って心配する事もありません…なぜなら彼は“怪獣王”ですので」

 そういってダグナに手を引かれアギラたちは山を下り降りていく…しかし、それとは反対方面の“怪獣王”へと姿を変えたユウゴが向かっていった側から大きな衝撃音が響き、森の中の鳥や動植物が我先にと逃げるのが見えた。森が揺れるという異常事態に野生動物の方が勘良く気づいて避難する。そしてアギラたちもダグナが止めていたワゴン車まで到着してすぐに乗り込みエンジンをかけて森から離脱した。

「このまま国道を突っ切ります」

「ちょっと待って!お兄ちゃんは!? お兄ちゃんはどうなるんですか!?」

「アキさん、今は貴方の身の安全を優先させていただきます、奴らの狙いはあなたなんです」

「どうしてボクが狙われるんですか!?あれはいったい何なんですか!?シャドウとは違う、まるで生き物と人間を組み合わせたような…」

「正解であり不正解ですね…少し説明している暇はないです、飛ばしますよ!!」

 ダグナはアクセルを急発進させ猛スピードで山に沿って作られた国道を突き進んでいった。

 それと同時に後方から山より先ほどと同種の怪物が空中に放り出されて発射された光の線が怪物に直撃して怪物は消失した。しかし、森から車を狙って飛び降りて来た怪物の仲間がアギラたちを捉える。―ドンッ!

「うわっ!さっきの奴が屋根に!?」

「揺れますから掴まって!!」

 そういうとダグナは蛇行運転で車体を大きく揺らし屋根に乗っている怪物を振り落とした。

 転げ落ちた怪物は追うことをやめず再び立ち上がって猛スピードでアギラたちの車と同等のスピードで追いかけて来た。

「まだ追ってきますよ!?」

「少々しつこいですね…こちらディープワンズ、ディープワンズ!“ゴジラ”、聞こえているなら“ミレニアム”で迎撃してください!現在、時速90キロで走行していますが彼らの速力なら十分に追いつかれる…あなたはソレを上回る速度で迎え撃ってください!」

 ダグナはカーナビゲーションの何らかのアプリで誰かと通信をして援護を要請した。

『わかった…今、追いつく!』

 その声は先ほど分かれて何かと戦いに向かった怪獣に変身したユウゴの声だった。

「お兄ちゃんの怪獣…ゴジラだっけ?…一体何をする気なの」

 何が何だか分からないアギラだったが森から更に2体の同種が出現して計三体のトカゲの怪物が走行しているワゴン車へ徐々に距離を詰めて来た。

 

 

 それと同時に約50m離れた地点で怪獣に変身したユウゴが森から出て来た。

「よ~し…少し、加速してやろう…形態変化 ミレニアム」

 そう口に出した途端、マッシブな恐竜と言う印象が強かった身体は徐々に変化していき重心深い足腰はより細めに引き締まって宛ら獣脚類を思わせる足つきへと変化した。

 背ビレは鍾乳石の様な乳白色からアメジスト並みの光沢輝く眩い光を発しながら…その色と合わせて目の中の瞳の色も宛らアメジストの様な深紫に変化した。

「レディ・・・ゴォッ!!」

 その速さの衝撃は蹴り上げた舗装された道路さえも抉る様な衝撃が地上にソニックブームを発生させ一気に音速を超える速さで加速した。

 

 

「ダグナさん、また後ろから何かが来ますよ!?」

「あれはユウゴ君です!どうやら間に合ったようですね」

 全速力で走行する車、それを追う三体の怪物、それらを上回る速度で最後方から追いかける紫の怪獣…そして、とうとうアギラたちを追いかける怪物たちに速度で捉えたユウゴは三体の怪物の内まずは2体の首を大きな手で鷲掴んで飛び上がり、2体の怪物を1体の怪物に向けて宛ら二刀の剣を振りかぶって叩きつけるかのように振り下ろした。

 怪物たちはその衝撃と出していた速度の二重に重なる物理の壁に激突してか三体は空宙を舞って滞空する…その隙にユウゴの怪獣の最大能力を引き出し、背ビレの発光が最高潮に高まった瞬間、一気に放出…三体の怪物は空中でユウゴの怪獣の口から放出された破壊光線の餌食となり爆発四散した。

 そして、すべての脅威が消えたことを確認したユウゴは窓をコンコンッと叩いて車と並走していた。

「追ってはもういませんね」

「ああ、扉を開けてくれ」

 ダグナは後部席のスライドドアを運転席からのスイッチで操作し開いた。そこへユウゴは怪獣化を解いて中に乗り込むと人間の姿へと戻った。

「あっ、あっ、えっ、ええっ、はぁっ!?」

 何から何を話すべきか困惑するアギラは言葉の呂律が回らず目が回して混乱をしていた。

「落ち着け…まぁ言いたいことは分かるが…」

「私から説明いたしましょう…アキさん、あなたのお兄さん“宮下ユウゴ”くんは“ゴジラ”と呼ばれる怪獣の“能力”を宿した“怪獣戦士(タイタヌス)”なんです」

「お兄ちゃんが…怪獣で…怪獣の力がお兄ちゃんにぃっ…ふぁっ、へっ、えっ…キュゥゥゥッ―」

 とうとう認識が追い付かなくなったアギラの頭は煙を噴き上げて気絶するように倒れると変身が解かれ元のアキへと戻った。そして、そのままアキは深い眠りへと落ちていくのであった。

「おいおい、コイツぶっ倒れたぞ」

「無理もありません…疲れすぎたんでしょう、ゆっくり休ませてあげて下さい」

「はぁ…本当に大丈夫なんだろうなぁ…コイツがこんな調子ならあと何体の俺と同じ奴らを目にしてもこんな調子なら先が思いやられるぞ」

「まぁまぁ、そこは長い目で見てあげましょう…もう猶予がありませんよ、奴らがアキさんに接触してきたということはいずれ他の怪獣娘たちにも同じ事が起きるでしょう」

 やがて車は追われることがなくなったことで一気に減速していき40キロまで速度を落として走行していった。

 そして、ゆっくり走る車の中でアキもまた深い眠りの中で記憶が整理されていく…兄の事、正体不明の怪物、これからどうなるのか、様々なことが頭の中で整理されていく中で一番に過ったことは…祖父の骨壺がどうなったかだけが気がかりだった。

 目を覚ますと朦朧とした意識の中でアキは寝ぼけた目を擦りながら体を起こし上げた。

 すると、肩から衣類がズレ落ちる。それは先ほどまでユウゴが羽織っていた黒いジャケットだった。

「ふぁっ…ボク、いつまで寝てたんだろう」

 起き上がったアキはふらつく足取りのままユウゴのジャケットを片手に掴みながら部屋の中からユウゴを探す。

「お兄ちゃん…どこ?」

「おう、ここだ…」

 そこには資料室のパソコンから何かを調べているユウゴがいた。

「何してるの?」

「お前がここの部屋の扉を締め切ったから解除しようとしてるけど…おまえ、コレどうやって開けんだよ」

「ふぅえ?……あっ!」

 アキはふと脳内にある人物の注意喚起を思いだした。

 

『この資料室は緊急時に皆さんが身の危険がある時にのみ資料室をロックできる仕組みになっていますが、緊急性を有する際は皆さんでもロックできますが解除の際は専用のパスワードでなければ開かなくなりますので注意してください』

 

 それはピグモンことトモミが以前GIRLSでの侵入者騒動で全部屋のセキュリティー変更があったことを思いだし顔が青ざめる。

 すぐにソウルライザーで電子ロックにアクセスしてもエラーが表示される。しかも解除の際のパスワードはトモミ以外共有されていないためアキでは解除できない。すなわち完全にこの資料室から閉じ込められているのであった。

「やっちゃったぁああ!!どうしよう、開かないよ!!」

「落ち着けや…なんで閉めるはできて開けるができない使用になってんだよ」

「不審者対策でこの間変更されていたのすっかり忘れてた」

「はぁ…あほらしい…まったく、後先考えないからこうなるんだよ」

 そういうとユウゴは資料室の窓を開けて片足を乗り出し外へと足を出した。

「ほら、こっから出るぞ」

「えっ!?ここ10階以上あるんだけど…」

「そういう時こそ怪獣だろうが…なんのために怪獣の力を持ってる」

 半ば強引だが背に腹は代えられず仕方なくアキはユウゴの手に触れた次の瞬間、ユウゴはアキを強い力でひっぱり、窓の外へと落とした。

「うわぁああああああああああああ!!」

「うるせぇな…たかがビルから落ちてるだけで」

「たかがで済む問題じゃないよ!どうするのさぁ!?」

 アキとユウゴ、二人して落ちていく先はコンクリートの地面だった。

「うわぁあああああああシヌぅううううう!!」

「死なねぇよ…ほらよっと!!」

 ユウゴはアキを捕まえ地面に足が接近する瞬間に足をゴジラの足へと変化させそのまま着地、身体は強い衝撃を受けたがアキを抱えたままユウゴは高層ビルに匹敵するGIRLS東京支部の資料室窓から玄関口まで最短で降り立った。そして、その足元には大きな怪獣の足跡がくっきり付くほどに陥没していた。

「何の音だ!?」「外からや!?」

 大きな音を聞きつけ怪獣娘たちが玄関口に続々と集まってきた。

「うわぁっ!?なんだこれ!?」

「一体どうなっとるんやアギちゃん!?」

「いや、これにはその…」

「いや~すみません、ウチのアキがお騒がせしたようで…なんか資料室のドアが開かなくなったからアキが『窓から出よう』って言いだして…あっ、この陥没穴はアキの足跡です」

 咄嗟に出したウソにアキは思わずユウゴを二度見して自分が開けた足跡をアキのアギラに擦り付けられた。

「アギちゃん…そんなに重かったっけ?」

「まぁ、そのなんだ…おまえ、ここ最近よく食べるとこしか見てないからさぁ……食べるの、控えろよ」

 ミクラスとレッドキングは気を使うもまるでアキの質量が増量したと勘違いしてしまい『アギラは重くなった』と言うあらぬ勘違いが広まり、アキはプックリと頬を膨らませユウゴの腕に握り拳を連打で叩きこんだ。

「気にすることないよ、アギちゃん!アギちゃんはムニムニのほっぺたにもちもち肌と抱き心地抜群なのがチャームポイントやし…」

「全然フォローになってなぁあああい!!」

 アキの悲痛な叫びだけが空を切るのであった。




アンバランス小話
『似ている』

 GIRLS近くの『Galaxydays』と言うファミリーレストランにアキとユウゴは赴いていた。
「むぅ~っ…」
 本来和気あいあいとする場にも関わらずアキは変わらず不機嫌に頬を膨らませていた。
「いつまで意地張ってんだよ…飯頼め、飯」
「誰のせいでボクが重量怪獣みたいな扱いされたと思ってるのさぁ」
「だからこうして俺が奢ってやるって言ってんだろ…はよ頼め」
 アキはメニューに顔を隠しながらもなるべくユウゴの方を見ないようにする中で…
「お待たせ~…ごめんねアギちゃ~ん!お兄ちゃん取っちゃうようなマネしてェ」
 ミクとレイカがアキたちの席に合流するなりミクが滑り込みでアキに両手を合わせて謝ってきた。
「別になんとも思ってないよ…それで、ゴモたんは?」
「まだピグモンさんに怒られている最中です…アギさんをあそこまで追い詰めちゃった張本人ですので…」
「あんなピグモンさん見た事なかったよぉ…レッドキングさんも逃げないようにしてたし、結構絞られている頃かも」
 彼女たちが何を見たのかアキには想像しがたい事と割り切った。
「ボクも大人気なかったから謝るよ…お詫びになんでも頼んで」
「アギちゃんが奢ってくれるの?」
「いや、お兄ちゃんが…」
 自分が奢るわけでもなく即座にユウゴの驕りだと流れをシフトするとユウゴの懐から見たことも無いような真っ黒なクレジットカードが出て来た。
「神様、仏様、お兄様!一生ついてきますぅ~!」
「ははぁ~!」
 ミクとレイカはブラックカードを翳されるや深々と頭を下げて媚び諂った。
「人のお兄ちゃんに頭を下げないでよ」
「いやぁ~やっぱこうして見ると似てるよねぇ~アギちゃんとユウゴさん」
「だからどこが?」
「いえ、何がと言うワケではないんですが…ちょっとアギさん、お兄さんの横に座ってみてください」
 レイカにそう言われ渋々席をユウゴの座る隣に回って座って見たが…
「何が似てると言いますかぁ~…あっ、目が似てますね!」
「ホントだ…アギさんはちょっと眠そうな感じですけど、ユウゴさんも半目だけどこっちは鋭い! 目で人を震え上がらせれそうだよねぇ」
「目つきが悪い……」
 唯一の共通点がまさかの目つきの悪さであることに初めて実感させられたアキは更に落ち込んだ。

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