TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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現在進行監視中

~一年半前~

―傭兵ベースキャンプ―

 

 そこはアンジェリカが訪れることがなかった別のテント内にアラヤが周囲を警戒して中へと入った。

 中に入るとそこに1人の包帯を頭に巻いて手足を重症患者かのように装う男がいた。

「君の部下は仲間に連れられて出て行ったよ」

 男はアラヤの知らせを聞くと頭の包帯を外した。

「これから君も国境を超える気だろう…」

「無論だ…この戦争に正義の無いことなどハナから分かりきっていたが、それでも見過ごせないことをしようとしている最も残酷なことを考える奴らの思惑を阻止しなければならない」

 男は強い意志でロシリカから隣国にして現在の敵国たるサラジア共和国へと向かおうとしていた。

「それより…いつまでその姿を偽るつもりだ  本当はインド人でもないのに…」

「おや、バレていますか…ならば話が早い」

 そういうとアラヤは左腕に撒いている腕時計型のデバイスを押すと…先ほどまでのインド人男性から日本人男性に姿が変わった。

「断っておきますが、これでもれっきとしたキリスト教徒です そこは主に誓ってウソ偽りはありませんでしたよ」

 アラヤから姿を変えた男の首元には確かに熱心なキリスト教徒たる十字のネックレスを首から下げていた。

「まぁ、この顔も…結局は擬態ですが、本来の顔など私にはありませんよ」

「そんなことはどうでもいい…お前は一体誰だ?」

「表向きは日本政府内の防衛省情報調査部の別室所属です、あぁ~“別班”ではありませんよ、“別室”です  よく間違われるんですよ」

「やっていることは似たようなことだろう…それで?アンタは仮にも防衛省の人間、俺を連れ戻す気か?」

「いえ、私は飽くまでアナタがサラジアに向かうまでの様子を見ている事のみを命令されただけです…それ以上のことは何も…」

 つまりこれから男が何をしにサラジアへ向かおうとしてもアラヤだった男は一切の干渉をせずに静観すると言うのであった。

「なぜだ…アンタにメリットがないだろう」

「損得勘定で動いているワケではありません…寧ろ、その逆に必要だからアナタを見逃すと申しているのです」

 さながら自分は見張られているんだとアラヤだった男は不敵に笑っていた。

「お前は一体…」

「…この姿では“北村”と自分では呼称しておりますが…次からは別の姿でお会いすることになるでしょう」

 そう言われて男は黙って立ち上がりテントの外に出ようとした。

「では…後の御武運を  金山シンヤさん」

 垂れ幕を捲った手はピタッと止まった。ずっとこのテントで身を隠していた男はアンジェリカが探し続けていた金山シンヤ本人であった。

 しかし、金山は一切振り向かずにテントを後にして出て行った。

「さて、私もそろそろ向かいましょうか……お次は…中華系アメリカ人の『凛・ヤオ』としておきましょう」

 そう言ってアラヤだった北村から性別までも違う中華系アメリカ人女性の凛・ヤオへと姿を変えて金山に続いてテントを後にした。

―GIRLS・東京支部―

 

 アンジェリカが公安警察に同行した翌日…前触れもなく大勢の捜査員たちがスーツ姿でGIRLS東京支部に訪れてきた。

「なっ、なんだよ…アンタら!」

 たまたま出払っていたトモミに代わってベニオが謎のスーツ集団に向かって威勢よく胸を張り、腰に手を当てて睨んだ。

「警視庁公安部外事5課の者だ…これよりアンジェリカ・サーヴェリタスに関するすべての証拠品を押収するため家宅捜索に移る 現時刻を持って国際怪獣救助指導組織東京支部は館内での作業を一時中断し、捜索終了まで待機を命じる」

 先陣の捜査員が捜査令状を開いて館内に居るすべての怪獣娘、職員、清掃員に至るまで全員の行動を制限して捜索に踏み切った。

「なんの権限があってそんなこと…」

「レッキン、つかからない方がいいわ」

 今にも捜査員たちに文句を言おうとしたベニオをゴドラは肩を掴んで止めた。

「相手は公安よ…元警察官だった私がよく知っているわ、ここは堪えて」

 そう言われても納得の行かない顔をするベニオだが黙って見守るしかなかった。

 

 

―施設内・通路―

 

 しかし、タダでは転ばないこともまたGIRLS東京支部である。

「うわぁッ!!」

 捜査員たちが通路を歩いていると足を滑らせて背中や腰、尻など宙を舞って滑るような床であった。

「あぁ~すみませ~ん…ついさっきぃ~ワックス掛けたばっかりなんでぇ~転倒注意でぇ~す」

 床を汲まなくワックスでコーティングしたミニトータスは磨くためのポリッシャーを押して去って行った。

 

 

―トレーニングルーム―

 

「のわぁああっ!!」

 捜査員たちが次々と足元に空いた穴に嵌って身動きが取れなくなった。

「ちょっと~ここらへん解体予定だから危ないよ~」

 明らかにトラップ染みた穴だらけのトレーニングルームには『安全第一』と書かれたヘルメットをかぶるモゲドンが捜査員たちの横を通って行った。

 その後ろの手には明らかに作為に開けた時に出た木材類を抱えていた。

 

 

―資料室―

 

「むにゃむにゃ~」

 怪獣娘に関する資料が保管されている資料室ではスカイドンが重要な証拠を敷布団代わりにして眠っていた。

「せぇ~の!!フングググッ!!」

「なんだ、このコイツ…バカみたいに重いぞ!!」

 捜査員総がかりで持ち上げようとしてもスカイドンが持ち上がらない…アンジェリカに関する重要な証拠が納られた資料がスカイドンの下にあるため彼女を動かさないと押収できない状況だった。

 

 

―とある部屋の前―

 

「ふしゅぅぅうううッ!!」

「そこをどきなさい!!何を隠している!!」

 エレキングが息を荒げて捜査員たちが彼女の後ろにある部屋に通じる扉に入ることを死守していた。

「ちょっ、放しなさい!!離れなさい!!…おい、誰か!この子を押さえてくれ!!」

「嫌です!!持って行かないでください!!ホント、なんでもない本ですから!!ただの薄い本ですから!!」

 その後ろでは捜査員に押収されかけている薄い本をめぐってウインダムが必死の抵抗をしていた。

 

 

―食堂―

 

 その頃、捜査員たちが懸命に捜索を続けている中…一人、食堂で腕を組みながら待っている男がいた。

「……………」

 公安刑事の千鳥ヒエンと同じく公安5課の刑事『斎藤』が他の捜査員たちの捜索が終わるのを待っていた。

「なんか、あの人だけ全然動かへんなぁ…」

「なんで食堂にずっといるんだ?」

 食堂内を覗き込むミカヅキ、ベニオ、ミクが斎藤の様子を伺っていた。

「………すみません」

「ひゃっ!?…えっ、何…呼ばれたん?」

「どう考えてもお前だぜ、ゴモラ…行け!行ってくれ!頼む!!」

「お願いするっす!ゴモたん!」

 どう考えても自分が呼ばれたとは限らないのに部の悪い多数決でベニオとミクに後押しされて仕方なくミカヅキが出て行ってみると…

「えっ…ええ~っと…何か御用でっしゃろか?」

「お水、いただけませんか?」

 単に水を所望した齋藤に対してミカヅキは…

(何しに来たねん、この男…ここはファミレスかいな)

 心に思ったが…表情に一切出さず『かしこまりました~』とにこやかな営業スマイルで後ずさりしてベニオとミクの元へ戻った。

「どうするつもりだ、ゴモラ」

「フフフッ…ウチに考えがあるねん」

「うわっ、ゴモたんがまた悪魔みたいな表情しているっす!?」

 リトルデビルこと黒田ミカヅキの悪魔的発想が斎藤にどのような事をしようと言うのか……

 

―カチャンッ…

「……何ですか?これは…」

 齋藤の前に出された物は…飲み物…ではなく、カレーライスであった。しかも辛さが相当な赤黒いマグマのように煮えたぎる悍ましい代物だった。

「いや~GIRLSではカレーは飲み物ちゅーて常識なんよぉ…ちなみに残すと食堂のガルタンちゃんが黙っとらんでぇ~」

 GIRLS東京支部食堂裏メニュー『ガルタンカレー』、侵略星人ガルタン大王の怪獣娘が作る特製激辛カレーライスであるがそのあまりにも辛すぎるカレーライスにカレー好きのミカヅキを始め多くの怪獣娘の唇を真っ赤に染め上げて悶絶させてきた悪魔の料理であった。

 ある者は言った…これは最早食べ物ではなく“兵器”であると……

 ちなみに発端はミカヅキがもっと辛めのカレーライスが良いと文句を言った事が原因で生まれた産物だったりする。

(ふふふっ、ウチでも絶対頼まへんカレーライスや…出されたからには完食せんとウチの食堂担当のガルタンちゃんが黙っとらへんでぇ~)

 悪魔染みた太々しい笑顔を見せるミカヅキの後ろで好き嫌いとお残しを許さぬで怪獣娘たちに知れ渡るガルタンが自慢の青龍刀を研ぎながら『お残しは許さねぇぞ』とつぶやいていた。

「…………」

 しかし、郷に入っては郷に従うとばかりに齋藤も動かないワケではなかった。

 すかさず斎藤は内ポケットから自前のスプーンを取り出した所作…その姿にミカヅキとベニオもミクも奥底に宿る怪獣の魂が『ヒェッ!?』と強い反応を示していた。

「いただきます」

「えッ!?」

 齋藤はミカヅキの言う事を信じたのか、はたまた挑戦を受けたのか、いずれにしても一切の躊躇い無く地獄のガルタンカレーを口にかきこんでいった。

 たとえ辛い物が慣れている者であっても体表の発汗は免れず、既に齋藤の顔から多汗で溢れていた。

 そして、残り半分となったガルタンカレーにスパートをかけるつもりなのか上着を脱いでワイシャツの第1から第2ボタンまで開けて汗ばむ姿にただならぬフェロモンを放出するかのような出で立ちだった。

(ふぉわぁああっ…はっ!あかんあかん!思わず見とれとる場合やない)

 普段から男色の無いGIRLS東京支部には見慣れない光景にミカヅキの意識がどこかに行きそうになっていたことに気が付いて自ら頬をパンパンッと叩き直した。

―カランッ…カララッ…

 スプーンを皿に転がして火照った身体を覚まし、口の中の辛味刺激が未だに残る口から熱い息を放出して放熱した。

「ごちそうさまでした」

 怪獣娘でも敵わない激辛のガルタンカレーをものの数分で完食して見せたことにミカヅキたちは度肝を抜かれた。

 厨房のガルタンは後ろ姿ながらもどこか満足そうな背中をしていた。

 そんな熱すぎる戦いの渦中だった食堂内にぞろぞろとテカっていた、ボロボロだったり、今も抵抗を続けるウインダムを引きずる捜査員たち全員が齋藤の前に集結していた。

「齋藤さん…一体どういう事ですか!?何なんですかこの施設は!?」

 明らかに労力の見合わない結果となった捜査員たちを前にした齋藤はポケットにしまっていたスマートフォンを取り出した。

「ふむ…重要な資料はダウンロードできたみたいだ…ではこれより捜索を打ち切らせていただく」

 齋藤はこうなることを予想していたのか食堂内のコンセントにあるUSBポートから独自のUSB型のデバイスを使用してスマートフォンを通じ様々な証拠を入手し尽くした。

「捜索は以上になりますので…いつも通りに戻ってもらっって結構だ 御協力感謝する」

 つまり、齋藤一人でもGIRLS東京支部の証拠捜索を完了していて、他の捜査員たちは飽くまで怪獣娘たちを攪乱のさせるための妨害工作対策の為に呼んだだけであった。

 一方その頃…

 

『ある程度妨害はしては見たけど…これでいいのかピグモン?』

「ありがとうございますぅレッドンと皆さん…引き続き要警戒をお願いしますぅ~」

 支部が公安の家宅捜索を受けている頃…GIRLS東京支部の代表代理であるトモミはソウルライザーからベニオに連絡を受けた矢先にとある場所にいた。

「ピグモンさ~ん…人数分とりあえず買ってきました」

 そこへアキが数枚のチケットを手にして駆けつけた。

「ありがとうございます、アギアギ…それでは、皆さん!施設内では一般の方のご迷惑にならない様に配慮して行動をしてください」

―――は~い!―――

 東京支部が家宅捜索されている頃にピグモンたちは元気な返事をする幼い怪獣娘たちを引率して都内にある遊園地に訪れていた。

「なんで私までここにいるんだ…」

 この状況にアンジェリカは困惑している。

 そもそもアンジェリカは公安に任意同行されて厳しい取り調べを受けているはずであったが、どういうわけかトモミたちと一緒に遊園地へ訪れている現状が彼女には理解しがたい状況だった。

「はい、アンジェリカさんの分のチケット」

「えっ…あっ…あぁ」

 アキにチケットを手渡されたアンジェリカはこんなことをしていて良いのか戸惑った。

「ほら、アンジェリカさん…行きましょう」

「あっ、あぁ…わかった」

 アンジェリカはカナに手を引かれて子供たちと一緒に遊園地へと向かった。

「ところでアギアギ…お兄さんはどうされました?」

「あれッ?さっきまで一緒に居たのに…」

 園内に入ってすぐに一緒に同行していたはずのユウゴが居ないことに気づいた2人だが…

「ここだ」

「えっ?うわッ!?」

 声がする後ろを振り返るとそこに居たのはユウゴ…ではなく、ギョロッとした目玉に黒いカエル肌、それでいて哺乳類なのか両生類なのかわかりずらいモチーフをしている姿のマスコットキャラクターにユウゴが扮していた。

「…何してるの、お兄ちゃん」

「見ての通り…変装だ」

 ユウゴが扮する謎のマスコットキャラクターは『ガマちゃん』と呼ばれるどこか間の抜けた表情のゆるいキャラ通称ゆるキャラの着ぐるみを着て園内でのアキたちの行動を見守っていた。

「なんでそんな事になってるの?」

「知らん…知り合いに頼まれてお前らの行動を見届けるために…って、用意されたのがコレだった」

「あっ…あぁ~…かっ、かわいいですよぉ~…とても」

 気を使ってかわいいと言うが…どう見たらこの容姿に愛着が湧けるのか分からないアキは苦笑いするしかなかった。

「アギラ~、ピグモンさん~!早くいきましょう~!」

 そうこうしているとカナたちが先に園内のアトラクションに並ぶ列に入っていた。

「あっ、うんッ!ちょっと待ってて~…とにかくお兄ちゃん、問題だけは起こさないでよ」

「うるせぇな…さっさと行け」

 半ば不安げな顔をするアキだが…トモミと一緒にカナたちが待つ列に向かって行った。

「さてと…」

 そんな中で着ぐるみユウゴは飲食エリアに向かって同じくアキたちの様子を伺う怪しい男に近づいた。

「それで…これから俺は何をすればいいんだ、ヒエンさん」

「……何も変わらん…引き続きお前は如何にも着ぐるみらしい動きをしていればいい」

 テラス席で優雅にコーヒーを飲みながら一服のタバコを吸うサングラスの男は警視庁公安部外事5課の捜査官である千鳥ヒエンが監視を担当していた。

「そうさせてもらうが…あんなポンコツ女に“逃亡幇助”なんて出来るのか?」

「奴は元々“金山シンヤ”の部下だった…2年ほど前までは富士山麓の土砂災害でシャドウと交戦していた時期も確認されているが…それから金山の部隊はロ・サの戦地ボランティア活動に参加のため現地入りしているのが最後の足取りだ つまり、金山シンヤと最も近しく最後まで行動を共にしていた者はアンジェリカ・サーヴェリタスのみと言うことだ」

「金山シンヤ…一体何者なんだ、ソイツ?」

「曰く国際指名手配犯…ロ・サ電撃戦で使用されるはずだったスペシウム関連兵器の強奪及び関連施設の破壊、国連からすれば戦争犯罪者であり、日本政府側からすれば保護すべき人物…まぁ、最も保護した後はこの国の法律で裁いても無期懲役刑は免れないだろう」

 アンジェリカの上司にあたる金山シンヤが起こした事件の一部始終をヒエンが情報を握っているようだった。

「無論、国際怪獣救助指導組織は金山シンヤが関与する事件に関わっていない身の潔白を証明するために金山シンヤが組織“所属”ではなく“付属”としていたため簡単に縁切りは出来たが国連での信用はかなり落ちたらしい…」

「トカゲの尻尾切りか…」

「ふっ…まぁな……最も親交の深い『多岐沢マコト』という元城南大学准教授は事件について強く否定していたらしいが、余計なことを喋られる前に島流しにして現在はオーストラリアに飛ばされている…小娘たちの組織も中々に賢しい連中がいるようだ」

「それで…あのポンコツが関わっている証拠はあったのか?」

「あるかもしれない“容疑”が浮上している以上…今は“監視”している状態だ」

 言葉に含みのあるヒエンの言葉にユウゴは周囲を見わたす限り…ヒエンと同じ気配のする人物が園内で数名が確認できるだけでも周囲に擬態してアンジェリカを監視しているようだった。

「奴の足には装着式のGPSが搭載されている…アメリカでは『デジタル足枷』と呼ばれている代物で生体電気のみで稼働する特殊なものだ…捜査員の監視エリアから外れたり、むりやり外したりすれば容疑者逃亡と見なして即座に本逮捕に移ると言うワケだ」

「ふぅん…仮に金山シンヤとやらが捕まった場合は?」

「アンジェリカ・サーヴェリタスに掛けられた『逃亡幇助容疑』について裁判所が審議して判決を下す…今、あの女に余罪は一時的に保留されているだけの状態だ。 日本政府は金山シンヤを全力で“道徳的”に“人道的”配慮の下で量刑に掛ける…そして、それらを捜査するのが俺たち外事5課の仕事だ」

「その金山に掛けられている事情を碌に知らないヤツを泳がせてまで…か?」

「それが今のこの国の現状だ…国際的立場を危うくする厄介な芽を摘み取ろうとする どいつもこいつも自分たちが黒でないことをアピールする為に必死なだけだ」

 ヒエンはミルクも砂糖も入れてない真っ黒なブラックコーヒーを飲み干した。

「ふんッ…あほらしい…俺は身内と縄張りに危害さえなければ後はどうでもいい 俺は俺で勝手にやらせてもらう」

 ユウゴはヒエンから聞かされたアンジェリカにまとわりつく政治的しがらみに一切の興味を示すことなく図体の大きい着ぐるみを左右に揺らしながらヒエンの持ち場を離れて行った。

「……一先ず、俺のお膳立てはここまでだ あとは刑事部の人間に任せる…ここから先はアンタの仕事だ」

 ヒエンが席を離れた時、すれ違いざまに入れ替わる形で別の警察官がヒエンと交代する形となった。

 

 

 それからアンジェリカを連れて様々なアトラクションやショッピングを楽しみながらアキたちは行動を共にしていた。そして、その後ろで様子を見守る着ぐるみ姿のユウゴも距離を取りながらアキたちを見守っていた。

 

 そんな楽しげな行動には空腹が付き物である…一行は軽食などを持ち寄って飲食エリアで食事をしていた。

「はい、ハネちゃん」

「パムパム~ゥッ!」

 カナは小学生の怪獣娘ハネジローに屋台のクレープを食べさせた。

「すまない…いろいろと皆には迷惑をかける事ばかりで…」

 アンジェリカはこの場を借りて深々とアキたちに掛けた迷惑に対して謝罪した。

「迷惑だなんて…アンジェリカさんが謝る事じゃないですよ」

「そうですよぉ~ マグマグは私たちの仲間であり、友達じゃないですか」

「そう言ってもらえるのはありがたいが…私の足には今も足枷が付いているんだぞ」

 自らの状況を再度理解するためにアンジェリカは右脚の裾を捲ると足首にはバンドで固定されたGPSデバイスが装着されていた。

「すまないが今後も私の行動には制限が設けられるだろう…現に今もこうして私を監視する者もいる」

 アンジェリカが周囲を見わたしても遊園地の客を装った捜査員がアンジェリカの数メートル周囲を取り囲んでいるようにそれが仲間と言ってくれたトモミたちには申し訳が立たなかった。

「マグマグ 今は気にしないで…遊園地、楽しみましょう」

「そうですよ…そもそもここはアンジェリカさんが行ってみたい場所を聞いてくれたローランが決めてくれたんですよ」

「そうなのか?ローラン…」

「うんッ…アンジェリカさん、日本に来て慣れない生活だから不安を取り除くためにアンジェリカさんと思い出を作りたいと思ったの」

 カナはアンジェリカの手を取った。

「アンジェリカさん…今、楽しい?」

「……あぁ…正直、思えば戦いばかりの日々だった……隊長とシャドウ相手に戦い続ける日々しかなかったから…こういうのに最初は戸惑ったが、今は心から思える楽しさを実感しているよ」

 アンジェリカは安らかな笑顔を見たカナは同じく笑顔で返す。

「パムパム~ゥッ!」

「うわっ、なんだ?」

 そんなアンジェリカに飛び掛かるかのように抱き着いたハネジローはアンジェリカにかなり懐いていた。

「ハネちゃん、アンジェリカさんが気に入ったの?」

「パムッ!」

 アンジェリカの事がえらく気に入ったハネジローは彼女の大きな胸に顔を埋めてスリスリと頬を擦りつける宛ら子犬のような仕草でアンジェリカに愛情表現をあらわした。

「パムッ!」

 そんな中、ハネジローは次に乗りたいアトラクションをビシッと人差し指で示した。

「あれに…乗りたいのか?」

「パムパム~ッ」

 ハネジローが次に乗りたいと示したのは観覧車であった。

「良いですね! せっかくだし私たちも乗りましょうか」

「じゃぁボクも乗るよ!ピグモンさんはどうしますか?」

「…私はここで待っていますよぉ~」

「そうですか…では終わったらまたココに戻ってきますので…」

 そう言ってアキたちはトモミを1人残してテラス席を離れて観覧車へと向かって行った。

「さてと…私は…」

 トモミは先ほどまで食べていた軽食の跡片付けをしにトレーに乗った食器などを片しに席を立った。

 フードエリア内の返却口で食器などを返し終えた時だった。

「…岡田トモミさん、だね?」

 トモミに声を掛けて来た者に呼び止められてトモミは声のする方を向いた。

「えっ?…あっ、はい…あっ!」

「失礼…いきなり声を掛けてしまって申し訳ない……城南署の前原だ」

「あの時の…刑事さん」

 それはアンジェリカが暴走した事件で世話になった刑事の前原だった。

「あなたに少し聞きたい事があってあなたたち方の組織に連絡を入れたんだけど…何やらごたついている様子だったからあなたがいる場所を聞いたらここに居ると伺ったんだが…今、時間は空いているかな?」

「はっ…はい…私で良ければ…」

 そう言って前原はトモミと向かい合う形で席に座った。

「……………」

「ええっと…何でしょうか?」

「あぁ、すまない……こうして見ると…君みたいな子が怪獣だなんて思えないなぁと思ってね」

「ふふっ…よく言われますが…怪獣娘として見られ続けて来た私にはあまり実感は無いですよ」

「君ら世代の子には実感無いかもしれないが…私の世代では怪獣と言う存在はテレビの中での出来事でしか実感できなかったからね…物心つく頃には怪獣は絶滅したって言われていたから結局関わることは無かったが…違う形でかかわる事になるとは思いもしなかったよ」

「う~ん…私もやっぱり意識の中では怪獣は怪獣娘しか認識が無かったですね」

「そうか……いやなに…ここ最近の私も怪獣が関わる事件を担当することが多くてね…君と同じくらいの怪獣の子と関わることも増えて来たんだが…」

「はい…警察の方々にはいつも御迷惑をおかけします」

 トモミは怪獣娘が度々引き起こす警察沙汰にさえ発展する怪獣娘の暴走事件で前原のような警察官にも迷惑をかけていると言う自省の念が前原に向かって謝った。

「いやいや、君が謝らなくても…私は何も謝罪を求めに来たわけじゃない」

「そうですよね…すみません」

 言っている傍からまたもつい癖で謝ってしまうトモミだった。

「さっそく聞きたいのは…―――」

 前原はトモミに自身が質問をするために用意した話題を語った…―――

 

 

 一方で観覧車に搭乗したカナたちは徐々に上がって行く観覧車から見える景色を眺め楽しんでいた。

「パムパム~!」

「わぁ~…高いね、パムちゃん」

 ハネジローとカナがガラス張りの窓から見える景色に和気藹々とはしゃぐ中…アンジェリカは隣越しに2人の様子を眺めていた。

「…………」

 しかし、その一方で気になることもあった。

『何か御気に障りましたか?アンジェリカ・サーヴェリタス様』

「いやなに、そちらこそ気にしないでくれ…お前の様なアンドロイドが珍しいだけだ」

 それは本来アキと一緒に乗るはずだったが、アキは他の小さい怪獣娘『レイキュバス』『ルクーリオン』『ブルトン』の3名と共に前のゴンドラで乗り合わせたためアンジェリカたちのゴンドラにはカナとハネジロー、そしてアンジェリカと向かい合う形で送迎バスを運転していたジェットジャガーが鎮座していた。今は一般人が見ても違和感のない青年の姿に擬態した『伊吹』という男の姿でアンジェリカたちと同乗していた。

「お前と同型の機体をロシリカでは医療に人手で足りずアンドロイドを導入することの方が多かったからな」

『TYPE1のMスペック、『メディカルジェットジャガー』と言う機種ですね 私以前の第一世代の人工知能を搭載した医療用機体です…よくご存じで』

「ふっ、そういう機械的なところはお前の兄弟機と変わらないな」

『機械ですので…私は人間にはなれません』

 今まで怪獣娘か金山シンヤとしか会話をしてこなかったアンジェリカには初めてにして懐かしいような感覚で会話のできる相手となったジェットジャガー…宛ら古き友との語らいの一時を過ごしていた。

「なぁ…お前はあの時の戦闘でどこに居たんだ?」

『…あの時…と、申しますと?』

「……ロ・サ電撃戦だ……」

『…第89次サラジア派遣では北西戦線へ投入されましたが、それ以前の88次派遣には参加しておりませんので半年ほどだけです』

「なら…お前が参戦した時でいい……その…キャップ……金山シンヤを見たことは無いか?」

『金山シンヤ…データベースには該当しませんが、アンジェリカ・サーヴェリタス様が所属していた部隊での部隊長を務められた人物ですね』

 アンジェリカはジェットジャガーの電子頭脳の中に記録されているデータを頼りに金山の痕跡が無いか一抹の希望を抱いていたが空回りに終わった。

「そうか……私がサラジアに行った所で砂漠の中の蹉跌だったか」

『データベースに照合、『砂漠の中の蹉跌』広大な砂漠の砂の中から1粒の蹉跌を見つけることは困難の意…ですね』

「堅苦しいな…いちいち調べなくてもいい」

『いえ、その言葉…私にも当てはまる気がしたので調べたくなりました』

「んっ?…どういう意味だ…お前は今、興味を持ったから言葉の意味を理解したのか?」

 アンジェリカはジェットジャガーが行った知的好奇心からの言葉を調べたことに驚かされた。アンジェリカの中で機械、ましてやロボットなどの工業製造が自ら調べると言う行為をしないことが常識であったからである。

『驚かれるのも無理はありません…私には『心』が形成されているのです しかしながら製造メーカーはこれを“欠陥”として扱われ、私は廃棄処分される予定でした』

「えっ! そうだったんですか!?」

「パムッ?」

 2人の会話を聞いてカナはジェットジャガーが打ち明けた事情に驚愕した。

『私は本来、汎用対人非殺傷戦術機として89次派遣に投入されていました…人間を非殺傷で無力化させるために実弾銃砲火器を持ちいらずに相手を無力化させる…それが私のタスクであり、“非殺傷兵器”として売り出すのが製造メーカーの『イブキテックス社』の計画でした』

「確かその会社が売り出していたお前の同型機は医療と消防の現場では採用されていた機種ばかりだったが…お前自身を守る術はあったのか?」

『…ありません…敵性戦闘員が発砲する前に情報処理をして即座に最適な手段に打って出る…それ以外に私が出来ることはありませんでしたので、時には他社製品の『M11型アンドロイド』の残骸を溶接して盾にしたり、兵装はなるべく現地で創意工夫するしかありませんでした』

 ジェットジャガーはアンジェリカが参加する事の無かったロシリカとサラジアの戦争に深く関わるその姿に極端な擬人的な印象を抱かせた。

 武器弾薬も碌に持たされず、仲間たる同じロボット同士の残骸を拾い集めて身を守り、高度な計算をして戦闘を優位に運ぶ…そんな仕事を続けていればジェットジャガーにどのような変化が及ぶのかなど想像硬くなかった。

 もしこれがロボットではなく人間であれば別の側面で精神が疲弊するだろう。

「…“心”を持ったのは…いつからだ?」

『……89次派遣の2シーズン頃でした…歩兵23小隊と共に市街地重点行軍中に遭遇した10歳にも満たない子供が母親に渡された手榴弾を抱えて突進してきた時に…私はその子供の身を守るためにピンが抜かれる前に手榴弾を奪い、手放させましたが…捨てる地点に母親がいることを想定しておらず…母親が変わって手榴弾のピンを抜いて向かって来ようとした時でした  幸いにも同行していた青年傭兵が母親を庇い、手榴弾を遠くに投げて爆破処理したため惨事に至りませんでしたが……同行していた兵士たちが母親に怒りをぶつけるかのように暴行を加えて重傷を与える光景を目の当たりにしました  私はその時に“心”からこの世界に“良心”と呼べるものが何なのかを思考するようになり“心”を形成したため製品補助機種としては『欠陥品』扱いとなったのです』

 ジェットジャガーが心を宿した経緯を聞いたアンジェリカには金山のある言葉を思い出していた。

「…キャップも似たようなことを言っていた…『戦争に正義もなければ悪もない』……そればっかりが口癖みたいな人だったが、今にして思えば私なんかがあそこに関わっても足手まといだったのだろうな」

 アンジェリカは徐々に頂上に到達しそうな観覧車の窓から見える東京中の風景を眺めながら金山との思い出に吹けた。

「戦うしか能の無い私を引き入れてくれて…仲間に出会わせてくれて…居場所を与えてくれた人だった……けど、何処か遠くを見続けるような人だった」

「アンジェリカさん…」

 だからこそ仲間の怪獣娘が離反して行った。ノーバは新作のゲームソフトを買いに行くと言って部隊を去り、キリエロイドはアンジェリカを連れ出した後にオーストラリア支部に配属、結果それぞれが別の道を行く中でアンジェリカは怪獣娘として孤独に侵されていくのも時間はそう掛からなかった。

「…私はロ・サ戦役で車両運転を任されていたが…いつ敵に襲撃されるか分からない恐怖に苛まれていた  あそこでの私は正気でいられないような場所だった…いや、私には向いていなかったのかもしれない  認めたくは無いが、あの傭兵くずれのアギラの兄のような精神の強い者だけが居られるような世界なのだろうな」

 頂上に到達する頃には今まで靄のかかっていたような違和感が晴れていくようであった。

 アンジェリカに必要だったのは同じ『心』を通わせることのできる仲間と居場所…しかし、今はそれが身近にある。ソレが何よりも彼女の心が救われる唯一の安らぎであった。

(私は…キャップに依存していただけだったのかもしれない…キャップが何をしようとしてスペシウム強奪なんて行ったのか分からない 何より今は私に掛っている“嫌疑”を晴らさない限りGIRLSにも迷惑をかけてしまう)

 アンジェリカはそれまでGIRLSの怪獣娘としての自覚を抱くことなく接してきたが…今ようやく組織に属する怪獣娘としての自覚が芽生え、大切にしたと思えるものを見つけたのであった。

―ガコンッ!

「あれ?…観覧車…止まりましたよね?」

「パムゥ~?」

 決意した矢先にアンジェリカたちが乗る観覧車は前触れもなく止まってしまい、前の方のアキたちが乗るゴンドラ内では突然の出来事に慌ただしい様子で混乱して不安げな様子だった。

「何が起きたんだ?」

『わかりません…少し、失礼します』

 ジェットジャガーはアンジェリカたちの足元に設置された操作盤を抉じ開けてプラグ端子に指先から触れて観覧車全体を機能しているサーバーにアクセスした。

―遊園地・観覧車サーバー―

 

 遊園地内のアトラクションを統括するメインシステムを担う観覧車制御システムに何らかのエラーが発生をジェットジャガーは特定した。

「…これは…システムの欠陥で起きた事故じゃない……故意に起こされたものかッ!?」

 すると、システムを破壊する原因のマルウェアを特定したが…

「こっ…これはッ!?」

 そこでシステムの破壊行為をしていたのは…マルウェアではなく、高度なAIであった。

 形状こそジェットジャガーのような戦闘に特化した姿ではなく…その見た目はまるで人間の骨格標本であった。

「M…11型アンドロイド…」

 しかし、ジェットジャガーには見覚えがある識別を記録していた。ロ・サ電撃戦で残骸を拾い集めては自身の盾にしたり時には殺傷力は無いが警棒などの簡易的な武装に作りかけたりもした大量生産製工業用アンドロイドの『M11』と呼ばれるアンドロイドに搭載されていたAIだった。

……………………………………

―――消えない…………―――

……………………………………

「…――ッ!?」

 一瞬、ノイズが視界を遮るようにジェットジャガーの視界に映し出したM11型のAIに重なる何かが見えた。

 しかし、ジェットジャガーはこのAIたちを排除しなければ観覧車は作動しない…ジェットジャガーは即座に行動に移した。

 ジェットジャガーに搭載されたAIへの干渉は正に“破壊行為”そのものだ。うるさい時計をハンマーで叩くように粉々に砕けるまで殴ったり、引き裂いたり、へし折ったりと……宛らロボット同士の殺戮だった。

……………………………………

―――消えない…です…―――

……………………………………

 また同じようにノイズが走って映像が差し代わる。

 システムは完全にジェットジャガーがすべてのハッキングAIを除去して観覧車のサーバーの制御を取り戻したが…

……………………………………………

――消えることは…無いんです――

……………………………………………

 ふと、見覚えのない風景がバーチャルで再現され周囲に投影し始めた。

「アンマーッ!!」

 それはあの時の光景だったが…覚えていた光景とは違う。

「フリィィイイズ!!」

 叫ぶ声に振り返ると兵士たちがジェットジャガーに向けて重火器の銃口を向けていた。

 更に視線を先ほどの幼い声の方に向けると泣きじゃくるターバンの少年と顔をひどく腫れ上がらせた女性が子供を抱きかかえて震えていた。

 そして…その手には顔を血みどろに鮮血が滴る兵士の首を掴んでいた。足元の周りには血みどろの兵士と同じ格好と装備をした兵士たちが倒れていた。

 その徽章の番号は『23』の数字が刻まれていた。

 ジェットジャガーの手元足元に倒れる兵士たちはジェットジャガーと行動を共にしていた23歩兵小隊だった。

……………………………………………………

―この手から『暴力』が消えないんです―

……………………………………………………

「…――ジャガーさん!…ジェットジャガーさん!!」

「パムパムゥ~!」

 システムを再起動し直し、人間でいう所の目を覚ますと言った感覚を取り戻し始め…自分が倒れていたことに気が付いた。

『ご心配をおかけしました…システムを復旧には時間がかかると思われます 既に大部分の制御プログラムが機能停止に陥っているため観覧車の再起動はしばらくの復旧が必要と見込まれます』

「…つまり我々はしばらくここを動けないと言う事か?」

 困惑するアンジェリカとハネジローを抱えて不安を抱かせない様にあやすカナは観覧車のゴンドラ内で発砲塞がりだった。

『…ッ!!…南南西の地点よりこちらに照準を合わせ狙う何者かがいます!』

「なんだとッ!?…どこだ!?」

『改装工事中のアトラクション施設屋上です…装備の該当不明、特殊な装備である可能性が高いです』

「特殊な装備ッ?」

『検知されたエネルギー光波から分析した限りでは…スペルゲンβ波…スペシウムが検出されます』

 一体どういう巡りあわせなのか…それはアンジェリカと共に行動し、彼女を突き放すようにしてGIRLSへ帰還させた男“金山シンヤ”が強奪した特殊超重元素物質『スペシウム』を使用した兵器で今まさにアンジェリカたちが乗り合わす観覧車のゴンドラに向けてスペシウムによる攻撃を受けようとしていた。

 

 

―工事中アトラクション・屋上―

 

―キュゥイイイインッ…

 青白い光と共に特殊な銃火器でアンジェリカたちが乗る観覧車に向けてスペシウムから抽出される特殊光量子波熱線の発射準備が整いつつあった。

「動くなッ…それ以上その武器で何かをしでかそうとするなら…お前を怪我では済まさない重傷を負わせるぞ」

 アンジェリカたちを狙う何ものかはスペシウムエネルギーが充填された重火器を声のする方に照準を構えると…そこに居たのは着ぐるみの…ガマちゃんだった。

「…何者だッ」

「見ての通り…通りすがりの着ぐるみだ」

 男は躊躇なく引き金を引いて充填されたエネルギーを光線として発射した。

 光線は着ぐるみガマちゃんに迫ってきたが…着ぐるみガマちゃんは常識外れの跳躍力で自分の身の丈以上の高さを飛び上がって撃ってきた男めがけて落下と同時に飛び蹴りした…が、男もそれを回避して避け躱した。

「………」

 男は着ぐるみがスペシウム光線を避けるだけでなく常識外れの跳躍力と飛び蹴り攻撃に対して何ら驚く素振りも見せずに再びスペシウム光線銃砲を着ぐるみガマちゃんに向けて構えた。

「……違う」

 構えた先に居るガマちゃんには先ほどの瞬発的な気配を感じなくなったことで男は銃火器の引き金を緩めた。

 直後、斜め右下から棍棒並みの太さの尻尾が振りかぶって迫って来たのを見計らうと条件反射的に飛び上がって紙一重で避けきった。

「――ッ!?」

 更に迫りくる青白い二筋の光線に気づいたゴジラは足元に置いてあった足場材を蹴り上げて光線は足場材に着弾して熱融解を起こして足場材は真っ赤に爛れて溶け落ちた。

「……………」

「……………」

 銃火器を構えて現れたのは青い制服姿の警察官と思しき男女であった。ゴジラが最初に攻撃を仕掛けた私服の男もまた警察関係であることが伺えるが…その目の中に宿る青い光は人の意識の無い操り人形のようであった。

「誰だかは分からないが…この気配……あの腐れ鉄仮面の匂いがするなぁ」

 正体不明の男女3名はゴジラにスペシウム光線を発射できる特殊な拳銃を構えながら後ずさりして…やがて足場のない背後へ背中から倒れる様に落ちて行った。

「…――ッ!!」

 ゴジラが屋上から落ちて行った男女の後を確認しに落ちた地点から下を見下ろすと…落ちた3名の姿はおろか、降りたった痕跡すらもなかった。

「…どこに消えた?」

 

 

―遊園地内・販売所―

 

 遊園地のマスコットキャラクターやアトラクションに関連する商品を多数取り揃えている露店には遊園地を楽しむ誰もが土産選びに思考する。

「アニキィ~! オレ、コレがいい!」

「ああ、わかったよ…すみません…これをお願いします」

 選ばれた商品は値札に記載された金額を支払い、購入者の手に渡る。

「ほら、スカル…大きさ合わせてあげるから頭出して」

「ぬあっ!頭きついぃ~!!」

 ただし、購入した帽子が左右から伸びるツノに合うかは別問題である。

「それにしても、みんなどこに行ったんだ?…ユニット長から待機命令が出ているのに…」

「アニキィ~、次アレッ!アレに乗りたい~!」

 非番で時間の空いた木城たち『アヴァロン・ユニット』の面々は分駐所ではおとなしくして居られないスカルゴモラを連れて遊園地へ訪れていた。

「お待たせ~…ほら、スカル キャラメルポップコーン買ってきたよぉ~」

 露店で仲間を待つ木城とスカルの元に沖田と坂本、坂田が戻って来た。

「どこ行ってたんですか…ずいぶんと時間かかりましたね」

「いや~なんか買うのに並んでたのか、思いのほか記憶が無いほど曖昧って言うか…」

「どうしたんですか、坂田さん…」

「ああ、そうだ…木城さん コレ返しときますよ」

 坂田は木城に借りていたと言うモノをポケットから取り出して彼に返した。

「ああ、どうも」

「変わったボールペンですね…油性ペンぐらい太いっすね、ソレ」

 木城が坂田から受け取ったペン状の細長い道具は先端に青い宝石状の物体が埋め込まれたものだった。

 持ち手にはボタンと思しき押し込み式のスイッチのようでもあった。

「んっ?…スススッ…ススッスンッ!…なんか…匂う」

「ポップコーンの匂いじゃないの?」

「いいや…この匂い…前にあったヤツと同じ匂いがする」

「誰の事を言ってるのよ」

 スカルゴモラは鼻を大きく膨らませて息を吸い、吐き、吸い、吐きを繰り返して匂いを探っていた。

「わからねぇ…わかんねぇけど、オレはソイツを前にすると無性にメチャクチャにしてやりたくなるんだよ」

「何ソレ?」

 スカルゴモラが気になる匂いを辿る頃、大勢の来場者の人ごみに紛れてアキたちが木城たちとすれ違った。

「お兄ちゃんとピグモンさん…どこ行ったんだろう?」

 遊園地の正門を出て土産屋前でユウゴとトモミを見わたして探せども見当たらない中、カナたちは和気藹々としていた。

「観覧車も無事に動き出して良かったですね、アンジェリカさん」

「パムゥッ!」

「ああ、無事で何よりだ…」

 一難を乗り切ったことで安堵の表情を浮かべるアンジェリカだったが…彼女がカナたちと過ごせる時間はここまでとばかりに公安の刑事たちと共にヒエンが姿を現した。

「アンジェリカ・サーヴェリタス…時間だ」

「ああ、わかった」

「飽くまで我々は金山シンヤ逮捕のために行動させてもらう 今後とも我々の監視下で日常生活を送ってもらうことになる……お連れしろ」

 ヒエンの指示でアンジェリカを女性捜査官が腕を支えられて彼女は公安車両に向かった。

「……アンジェリカさんッ!」

 カナはアンジェリカを呼び止めようと声を掛ける。

「…今日は…楽しかったです ありがとうございました」

「……ああっ、こちらこそ…」

 アンジェリカは軽い会釈をして車に女性捜査員と乗り込みバタンッとドアが閉まると同時にヒエンも車に乗り込んで発進した。

 アキたちが見送る傍らにユウゴが着ぐるみを抱えて戻って来た。

「いま、戻った」

「お兄ちゃん。どこ行ってたの?」

「いろいろ…」

「えぇー…」

 色々あったと思われるガマちゃんのボロボロ具合から察したアキはそれ以上何も言わなかった。

「皆さ~ん!そろそろ帰りますよ~」

 更にトモミも皆に声が掛り、送迎バスの待つ駐車場へと向かった。

―都内・国道線沿いー

 

 アキたちと遊園地で分かれた公安車両は人気の少ない地点で車両は停車して助手席のヒエンがドアを開けて降車した。

「おう、ごくろう」

 ヒエンを待っていたのはGIRLS東京支部からアンジェリカと金山シンヤに関する証拠の押収を終えた齋藤が出迎えた。

「ある程度の証拠は押さえた…あとは本人逮捕のみだ」

「ああ、わかっているが奴もプロだ…早々には尻尾も出さないし嘗ての仲間すらも切り捨てることが出来る男だ、油断ならんぞ」

 合流してヒエンが乗っていた助手席に代わって齋藤が乗り込みアンジェリカ護送の任務を交代した。

「あとはこっちで処理する…お前はここから非番になる」

「了解した…あとのことは頼む」

 交代した齋藤を助手席に乗せた公安車両は再び発進して車道の車の流れの中へと消えていった。

「……さてと…」

 交代により非番時間となったヒエンは国道線沿いから通じる住宅街の入口へと入った。

 時刻は既に夕方を超えて夜の時間帯となっているだけあって数軒の住宅からは夕飯時の支度をしているのか匂いがどんな料理を作っているのかさえも分かる。

 しかし、ヒエンはその中でも一際懐かしい匂いに誘われるかのようにとあるアパートの一室に行きついた。

 その家の玄関前に立ち止まり手を軽く握りしめてドアを軽く叩いてノックした。

―ガチャッ…―

「は~い…あらッ、ヒーくん」

「ご無沙汰です…ミチコさん」

 ヒエンを出迎えたのは一見は20代と年齢を間違えてしまうほどの容姿若々しい女性だった。

「よかったら上がって…あの子はまだ帰ってきていないけど、もうすぐ晩御飯が出来るから」

「わかっています、だからこの時間を選んで伺いました…すみません、この後すぐにまた東京を出ないといけないのでこのままでお願いします これを…」

 そう言ってヒエンは女性に封筒を手渡そうとした。中身は相当分厚い金銭の受け渡しだった。

「そんな…もらえないわ」

「お願いします…自分に出来るのはコレくらいしかありません」

 それでも首を横に振って拒否しようとする女性の気持ちを踏まえてヒエンは郵便受けにソッと投函する形で“たまたま”入っていた体裁を押し通した。

「では…これで」

 そうやって女性から身を引こうとしたヒエンは後を去ろうとした時、女性がヒエンの袖を掴む。

「待って…せめて…せめて、抱きしめさせて…」

「……………」

 ヒエンは僅かな時間の沈黙と共に首を横に振って女性の要望を拒否した。

「その気持ちは…自分にではなく、あの子に与えてあげてください」

「そんな……あなたにだって…私は…」

「自分はあなたの子共じゃありません…お気持ちには感謝しますが、自分にその気持ちを受ける資格はありません」

 女性は袖を掴む手を緩めて離れていくヒエンを物悲しい眼がヒエンを映し出す。

「では…これで」

 ヒエンは軽く会釈をしてその場を後にした。

「ヒーくん…」

 これ以上は女性に涙を浮かばせると判断したヒエンは背中を向けてその場を去っていく…振り返ることもなく、後ろで女性がどんな顔をして自分を見送っているのかも知らぬままにアパートからだいぶ離れてきた所だった…

「ふんふっふっふ~んッ♪」

 曲がり角でヒエンはとある少女と鉢合わせた。

「ふぎゃっ!?」

「んッ!」

 それはザンドリアスことサチコだった。たまたま出くわしただけだがヒエンにとって会ってはならない状況だ。

 なぜならそのサチコこそ、先ほどヒエンが顔を合わせた女性ミチコの娘サチコであった。

「ふぎゃぁッ!!ごっ、ごごごッごめんなさい!!」

 ヒエンの顔を見るなり堅気でない雰囲気と目つきの鋭さに怯えてサチコは謝られた。

「……失礼…」

 ヒエンは特に何も顔色を変えず、他人のフリをしてサチコから歩調乱さずに曲がり角へ去った。

「ひぃ…何、今の人…あっ、そんな事より早く帰んなきゃ」

 サチコは何か息巻いた様子で慌てて母親の待つ自宅へと足早に向かった。

「ママーッ、ただいま~!」

「あっ、あら…お帰りなさい、ザンちゃん…」

「なに、ママ…なんで泣いてるの?」

「えっ!?…いや、これはその…料理で玉ねぎ切ってたらたまらなくなって出ちゃっただけよ」

 サチコの帰りを出迎えたミチコには涙で出迎えてしまい苦し紛れの良いわけで誤魔化す声が聞こえた。

 その声だけを聴くしか曲がり角で身を隠すヒエンは何もできない…せめてと内ポケットに忍ばせていたタバコを1本取り出して一服を吸った。

―翌日・東京支部―

 

 公安の家宅捜索の妨害でめちゃくちゃになった施設内の清掃は日を跨いで今日も続いていた。

「ふぇ~えッ…全然きれいになんないぃ~!!」

 通路の全面に至るまでの各フロアのワックスの拭き取りから既に難航している状況下にミクは嘆いていた。

「頑張りましょう、ミクさん」

「ウインちゃん……何持ってんの?」

 ミクを励ましに来たレイカであったが…一体どこから出て来たのか出所不明の明らかに薄っぺらい本を抱えていた。

「ちっ、違うんです!こっ、これは本の研究の為に…」

 言い訳をしているがココは怪獣娘のための怪獣娘による怪獣娘のための施設に過去の怪獣の図鑑よりも部数の多い薄い本…その本で何を研究していると言うのかは分からないことである。

「おつかれさまでぇ…えッ!?なにこの状況…」

 GIRLS東京支部の現状を目の当たりにしたアキは驚愕した。たまたま昨日だけ支部に居なかっただけで大惨事後と言った状況下であることなど予想の範疇を大幅に超えていた。

「アギちゃ~ん!!だじげぇでぇ~!!」

「掃除をしても、しても、終わりませぇ~ん!」

 自業自得とはいえやり過ぎて後始末に完全に困り切っていた。

「何でここまでやるのさぁ…」

「だって~…GIRLSはいかなる勢力にも屈しないって抵抗したかったんだも~ん!」

「そうですよ!私たちの大事な支部であり、大事な隠し…大事な居場所なんです!」

「ウインちゃん…今、大事な隠し場所って言いかけた?」

 理由はともあれGIRLS東京支部を大事に思うが為に取った行動での結果とはいえアキは深いため息を吐きながらもバケツを持ち、腕を捲りながら清掃に参加せざるを得なかった。

「おわっ?なんだ…この状況…」

 ソコへ来客として首に入館許可証を下げて訪れていた人物が通りかかった。

「あっ、アンギ…じゃなかった、アラシさん!」

 スポーツ庁の参事官にしてアンギラスの怪獣戦士(タイタヌス)こと庵堂アラシがGIRLSの様子を伺いに来ていたが悲惨な現状に度肝を抜かれていた。

「やぁ、その節はどうも…と言いたいところだが…何、この状況?」

「あっ、アンちゃん!丁度ええトコに来てくれたやん…ハイ、コレ」

 そう言ってアラシを呼びつけた張本人であるミカヅキはバケツを手渡して掃除に強制参加させられることになった。

「いやいや…おい、ミカ! お前に合わせたいヤツがいるって昨日言ったろうが…」

「あれ?そうやったっけ?」

 そもそもアラシがGIRLS東京支部を訪れたのは別件の事情があった。

「こんな時になんだが…следи за своим шагом(足元に気を付けろ)」

 アラシは曲がり角で待たせている人物に手を差し伸べて滑らないように支える。

「えっ!? 誰ッ?めっちゃ美人ッ!?」

「すごく綺麗な方ですね」

「しかもアラシさん、外国の言葉で喋ってたから外国の人?」

「何々ぃ~アンちゃんの彼女~?」

 突如アラシが連れて来た色白な見た目でさながら絵本の中の姫君を具現化したような女性に一同は困惑させられたが…

「俺のカミさんだよ」

「予想の一線を越えとるゥウウウウッ!?」

 アラシの旧知の中であるミカヅキに落雷による稲妻が天から降り注ぐほどの衝撃がミカヅキを通じてアキ、ミク、レイカも驚愕した。

「Приятно познакомиться, я моя жена Анастасия」

「妻のアナスタシアだ…今、自己紹介をしたぞ」

「えっ、あっ、ああっ…どうも初めまして…ええっと、ナイストゥミートゥ ミカヅキ?」

「妻はロシア人だよ…仮に英語だとしてもそんな英語で通じるか」

 思わぬ形での対面にガチガチに緊張するミカヅキは変な英語をロシア人相手に喋ると言う…大変おかしな状況であった。

「お~い、掃除終わったか~?…人手足りねぇからキングジョーにも来てもらったぞ~」

「イエ~ス!GIRLSトーキョー支部にキングジョー帰還デース!」

 エリアスの計らいで米国GIRLSへの帰国が延期となったキングジョーことクララはノリノリでベニオと共に掃除道具を抱えてやって来たが…

「ワッツ?…ギャァアアアアアアッ!?」

「おわっ、どうしたんだよ キングジョー!?」

 突然の絶叫と共にベニオの背後に隠れたキングジョーはガクガクと震えて身を縮めていた。

「なぜ『シベリアの冷姫』アナスタシア・イヴァノヴィッチがココに居るんデスカッ!?厳戒態勢!!厳戒態勢!!赤い国からの刺客デース!!」

 クララはアラシの妻アナスタシアの顔を知っているようだが…決して良い印象で彼女を知っているワケではなかった。

「что? А как насчет поросят в этой капиталистической стране?」

「ええっと…なんですか?この資本主義の国の…おっと、ここから先は訳さない方がいいわ」

 日本語が喋れないアナスタシアに代わってロシア語が堪能なアラシが通訳をするが時折訳すには適さない語句や単語を吐き捨てる言葉だけは通訳を控えていた。

「キングジョーさん…アラシさんの奥さんを知ってるの?」

「逆になんでアギラチャン達はご存じないんデスカッ!? そこの赤い国の刺客はあの『イヴァン前大統領』の娘デスヨ!!10年以上もその席に座り続けた『雷帝大統領』の長女デェース!!」

 それはアメリカ人であるクララが身震いするほどに悪い意味で著名なアナスタシアが恐ろしいと思う理由は彼女がロシア連邦史上最多在任で大統領を務めあげた父親のイヴァン前大統領の娘だからであった。

「ああ…そういう事か…」

 その理由を何となく察したアラシは相当に渋い顔でクララが怖がる理由に気が付いた。

「どういう事なん?アンちゃん」

「アナスタシアはロシアでも良家の出なんだけど…父親を始め、他の兄弟たちがイカれた連中ばかりでな」

 ロシアの前大統領の娘が妻であると言う事はアラシにとっては義理の父親や兄弟にあたる人物たちに問題があった。

「父親のイヴァンは在任中に核ミサイルを押しかけたこと100回以上…一番上の兄はロシアの超能力研究者、二番目はロシアボクシングヘビー級元王者、一番下の弟はスペツナズ兵…そんな環境で育った人間がどうなると思う?」

「Когда-нибудь и вы поймете достоинства «коммунизма» на нашей великой Родине」

「ほら、今も世界が共産主義社会になると信じている」

 ミカヅキを始めココに居るすべての怪獣娘たちがアラシに対して『よくそんな人と結婚したなぁ…』と心の内に思った。

「Арни, Арни, успокойся(アーニ、アーニ、一旦落ち着け)」

「Тебе следует заткнуться! Позвони мне откуда угодно, Капиталист ○○○!!(あなたは黙ってなさい!どこからでもかかってきなさい 資本主義の○○○!!)」

「アイラブ民主主義デース!!世界に広めて来た英語圏の団結の力を思い知らせてやりマース!!」

「お前も張り合うな!」

 互いに一歩も譲らぬ威嚇合戦で白熱して夫であるアラシ、同じ怪獣娘同士のベニオは間に入って緩衝材となった。

「はわわ…なんか大変なことになってきましたよ!」

「こんな時にピグモンさんがいてくれたらぁ~ッ」

(そう言えばピグモンさん…今日は見てないなぁ…)

 これほどの大騒ぎになっている状況下で支部のまとめ役たるトモミは不在であった。

―都内・私立女子高―

 

 都内でも有数のお嬢様学校で知られる高校には異彩を放つ女性教師がいた。

 道行く生徒たちは同性でありながらもその妖艶な雰囲気に充てられて彼女に目を引いてしまうほどだった。

 しかし、そんな彼女にはとある秘密があった。

「蛇塚先生」

「あら…教頭先生…どうされました?」

 蛇塚と呼ぶその教員を堅物な性格が外見にまで反映されたような50代の教頭が彼女を呼び止めた。

「あなたにお客様です」

 それは蛇塚と言う女性教師に客人が来ていることを伝えに来たのであった。

 

―校内・待合室―

 

 ガラガラッとスライド式のドアを開けるとそこに待っていたのはトモミであった。

「お久しぶりですね…ガーゴルゴンさん、いや…今は蛇塚さんと名乗られているんでしたね」

「あら…岡田さん、お久しぶりですね 私になんの御用でしょうか?」

 トモミは息を飲んだ。それもその筈、この蛇塚と言う教師もまた怪獣娘であるがトモミはこの蛇塚ことガーゴルゴンと呼ぶ相手にはいつにもなく強い警戒心で対面していた。

「最近は…御変りありませんか?」

「ええ、毎日充実しておりますよ…今はこの学校で美術を教えています」

「そう…ですか…」

「そう畏まらないでください、同じ怪獣娘じゃないですか……そうそう、最近…尊敬できる先生が私にもできたんです 今年この学校に赴任した土田コウタ先生って申される方なんですよ 私と面と向かって対等に話し合える異性の方と親交を深めるなんて初めての経験です……なんせ、私と関わった方々は異性同性問わず不思議なことになってしまうんですもの…」

 さらにこの女子高では教師生徒を始め“とある決まり事”があった。

 それは…『蛇塚先生とは授業以外で親しくなってはならない』と言う特異な決まり事であった。

「お好きに…なられたんですか?」

「いいえ、尊敬しているのですよ  私も土田先生みたいな教師を目指したいだけなんです…そうなれたら……いろんな生徒と親しくなれるじゃないですか」

 蛇塚は口元から吊り上がるほど口が笑っていた。

 コレである。この笑顔に問題がある。

 トモミはこの引き吊り上がった笑顔を前にしても恐れずに面と向かい合うのが精いっぱいであった。

「それで…今日はどのようなご用件で? まさか、私と同じ…監視される事となった怪獣娘さんでも出ましたか?」

「――ッ!?」

 トモミの背筋から悪寒が走った。アンジェリカの事をまだ1度も話していないのに宛ら見透かしていたかのような言い方をしてトモミを翻弄する。

「半分正解であり、不正解です…その方はあなたのようにGIRLSが監視しているわけじゃありません」

「では誰に監視されるようなことになったのでしょうか?…例えば…公安の刑事さん…とか」

 またも悪寒が走った。見透かしていると言うより“知っている”とさえ錯覚させられる。

「どこまでわかっていらっしゃるんですか?」

「正確には…何も……でも、岡田さん あなたは嘘をつかれるような人でもないし、隠し事も出来ない人…ですよね」

 まるで蛇が僅かな隙間をかいくぐってトモミの心の中をかき乱すかのようであった。それだけに常人なら精神に異常を起こさせる危険性があるからこそ警戒させるような女性なのである。

「その方…一体“何人”を狂わせたんですか?」

「あなたとは違いますッ! 5名も昏睡状態に陥らせたあなたとはッ!!」

 トモミがいつにもなく感情的になって前のめりでアンジェリカと蛇塚の違いを指摘した。

 何にせよこの蛇塚ことガーゴルゴンと言う怪獣娘は『人に危害を加えた怪獣娘』である。

 その証拠に蛇塚の首には特殊な“首輪”がつけられていた。

「今も私はこうして首に見えないリードを付けなければ信用されない…フフフッ、怪獣の魂を持った女性の可能性を信じていると言っておきながら怪獣である私が怖くて首輪を着けさせざるを得ない そうは思いませんか?」

「…とある刑事さんから伝え聞きました……『城南連続仮死事件』の捜査が再開されたそうです」

 トモミは前原から伝え聞いた話を蛇塚の耳に入るなり…またも彼女は不敵に笑った。

「そうですか…これでようやく、私の無実が証明されるかもしれないんですね」

 蛇塚と呼ばれる怪獣娘ガーゴルゴン…その余罪は城南区で発生した五名もの被害者を出した“仮死”事件の容疑者である。

―関東警察病院―

 

 トモミが蛇塚と面会している頃、時を同じくして都内にある警察病院では…

「……………」

「…緒碓警視…いつまでそこに寝ているつもりですか」

 国内でも僅か数件しか存在しない警察病院の病床で横たわっていた緒碓に呆れ返ったような表情で御前が迎えにきた。

「おや…予想よりもずいぶんと悠長に遅れて来られましたね」

「なんですか。その恰好は…」

 御前が指摘する緒碓の格好は交通機動隊の制服すなわち白バイ隊員の格好でずっとベッドに居たのであった。

「ご覧の通り…怪獣能力者に怪我を負わされた白バイ隊員の正体ですよ」

 それはアンジェリカが暴走するキッカケとなった怪我を負わされた白バイ隊員の正体にして実態は緒碓タケルが白バイ隊員に扮してアンジェリカに接触して彼女の闘争本能を煽ったに過ぎなかった。

「おかげで“本来”の人間であったら大怪我のすえに現場復帰もままならない状態となっていただろう…私であって結果オーライと言った所かな」

「ふざけないでください…ここは警察病院ですよ」

 御前が言う通り、ここ関東警察病院は東京都内に所在する病院であるにも関わらず…もう一つの側面があった。

「フフフッ…それでもここは通常の警察病院ではありませんからね」

 元来、警察病院とは刑務所に服役している受刑者に何らかの疾患及び発病が発覚した場合により刑務所内で収監するには困難な状況である場合のみ“治療”を行う施設である。

 しかしながらここに入院する患者はそういった通常の警察病院とは違って『事件被害者』も入床している。

―ザサァァ――ッ…

 言うなればここは事件に巻き込まれた被害者を治療する“生きた証拠品の保管庫”であった。

―ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…

 緒碓が横になっていた病床の隣の病床を囲むカーテンを捲った先で心電図の波形と共に僅かな心音のみが患者の生存確認が出来る状態となっている女性がいた。

「彼女が…事件の被害者の一人…“鈴鹿ソウカ”元巡査部長だね」

 その被害者女性は元警察官であり女性刑事だった。

 長らく医療機器と点滴による生命維持で既に顔が痩せ窶れて、今もずっと眠り続ける昏睡状態であった。

「三課に居た時から私とこの子の時間はずっと止まっています…このまま目を覚ましてもこの子は3年と言う時間を失うだけでなく、警察官ですら最早なく…上はこの子を見殺しにしてずっとここに縛り付けている」

 御前は病床の手すりを強く握りしめて、今にも手に指先の爪が食い込むほどに強い力で握りしめていた。

「敵討ちとか…意思返しとか…そんなことは望んでいません ただ、真実を明るみにしたいッ 今も闇の底に葬られている真実を…私は引きずり出したいんです」

「ええ…そのために、私はあなたに力を与えた…あなたに場所を与えた…では、あなたは私に……何を与えますか」

「……組織です…今の私にできることは組織の力です…そのためなら何でもする  確かな証拠を積み重ねて、ヤツに罪を償わせます」

 振り返った御前のその目には煮えたぎるような報復心にも似たような感情が入り混じった顔をしていた。

「ならば…その力、次なる段階へと進めましょう そのために私はあなたに“彼”を用意したのですから…」

「ええ、わかっています……あなたの事は…心からの信用は一切していませんけど、あなたの生み出す力には相応の結果でお応えします」

 御前は緒碓を睨み返して彼の前に立ち、硬い約束を誓った。それが鬼と出るのか、蛇となって出るのか…はたまた悪魔の誘いなのかもしれないとわかっていても御前には揺るがない決意があった。

「私は……怪獣の力を宿した人間を…赦さない」

 その意思を確かめた緒碓の口元は吊り上がるほどにニヤリと笑っていた。




アンバランス小話
『妹いる者たち』

 その夜、怪獣の魂を宿す女性たちの中でも“妹“いる怪獣娘たちで構成された『怪獣姉の会』が開かれていた…が…
「うわぁあああああ!!ゼットォォン、帰って来てくれぇええ!!」
 最強の怪獣娘ゼットンを妹に持つ変身怪人:ゼットン星人…現在、妹のゼットンは出奔中である。
「なんでそうなっちゃったんですか…ゼットンさん」
 泣きじゃくってバーカウンターに突っ伏しながら涙を溢れさせるゼットン(姉)の背中を摩るのは著名なファッションブランド『NISHINA』を経営し、様々な事業に着手する凄腕経営者、悪質宇宙人メフィラス星人。
「フンッ!まともな妹さんが居るだけイイじゃないですかッ!…あたしん家なんて口うるさい妹がいるせいで夜しか動けないんだから…」
 しっかり者の妹にどやされ続ける毎日の中で夜間のみ活動する夜行生活中心の引きこもり、宇宙大怪獣:ベムスター。
 なお、本来ココにもう一人いる予定であった分身宇宙人:ガッツ星人こと印南ミコは過労により病院にて療養中である。
「ふっははははぁッ!!どいつもこいつも情けないねぇ~ッ! その点、私には妹も弟も居るから実質勝ち組ぃ~♪」
 妹に頭も上がらなければ、振り回され、口うるさく言われる者たちを煽り散らすのは宇宙怪獣:ベムラー…居候である。
「ていうかベムラー、あの血のつながりのない赤の他人の子たちを弟妹扱いしてるの…お前こそヤバい女じゃないか!」
「ハンッ!妹に生殺与奪を握られている支部長の御言葉とは思えませんなぁ~ッ! 血のつながりぃ~?そんなもんに拘ってたるとか時代遅れなのよ、アンタはッ!」
 互いに同い年同士であるゼットン(姉)とベムラーは実妹が居る側と妹分と弟分の居る側として現実性と精神性の違いから火花が散り合うも…
「大体なんでアンタは妹と何が理由でケンカしたのよ」
「うるさいッ!私だって…小腹が空いたからカップ麵を食べてただけなのに…アイツったら!…アイツったらぁあ!!…『私が作ったご飯よりカップ麺が好きならカップ麺の子になればいいじゃない』ってワケわかんない怒られ方したよぉぉおおッ!!」
 妹とケンカした理由を聞いてあげるほどの間柄である。
「おまけに今日のお昼はカップ焼きそばだったし…」
「それでも昼飯は用意されてるのね  しかもお湯を捨てる工程があるヤツ…地味な嫌がらせだわ」
 ベムラーはゼットン(姉)が妹とのケンカの顛末を聞いて少しだけ同情したが…自分は自分で冷蔵庫の食料を勝手に食べた時にはプロレス技を決められた上にアキに脇腹をくすぐられる拷問めいたことをされたのを思い出した。
「元気出してください…ちゃんと謝れば許してくれますよ  なんならウチのカレンにも見習ってほしいくらいです」
「ハンッ!世の中お節介やきの妹なんて鬱陶しいだけでしょ…家出ろ、家出ろ、学校行け、学校行け…うんざりするよ」
 同じく同世代のメフィラス(姉)がゼットン(姉)に自身の妹と比較してもゼットンの方が優秀であることを評価するが、ベムスター(姉)は横やりで茶々を入れる。
「あなたの家の妹さんは至極全うよ! 家族に迷惑をかけるなんて言語道断すぎるわ」
「ええい、うるさいうるさぁぁぃぃいいッ!よそはよそ、うちはうちじゃい!!――ングッングッ…ぷはぁ~!マスター、ビールおかわり!!」
 茶々を入れたメフィラス(姉)に反論され、正論に追い込まれ、論破されたベムスター(姉)はグラスに注がれたビールを飲み干して空いたグラスを突き出した。
「私はマスターではなく、どちらかと言えばオーナーですよ…はい、どうぞ」
 妹に日々悩まされる者たちと向かい合ってバーテンダーとしてお酒を提供するのはダグナだった。
「それじゃぁ、ダグナさんの方はどうなんですかッ!あなたってご兄弟は居るんですかぁ~ッ?」
 既に何杯か飲んで出来上がったベムラーは顔を少し紅潮させてダグナに絡み酒をしてきた。
「血の繋がった兄弟は居ませんが…義理の弟なら居ました」
「義理?…って、ことはダグナさんってご結婚されてたんですかッ!?」
「はい、妻の弟でした…一時期は私の部下的な立ち位置を与えてはいましたが、少々ケンカ別れのように反発されましたね」
 意外な事実に酔いどれ気分だった怪獣娘たちは食い気味でダグナの話に耳を傾けた。
「じゃあ奥さんはッ!?奥さんは今どうしてるの…」
「今の時点で居ない者は居ないのですよ…ミオさん」
 ベムラーは『おっと…』と口を噤んで聞いてはならないことを聞いたと思い、それ以上は何も聞かなかった。
「はぁ~…結婚かぁ……正直まだ先だと思っていたけど、あと数年もしたら我々は30代かぁ……」
「正直、怪獣娘内でも未だに恋仲すらも噂が立たないところ…怪獣の魂を宿したら恋人はおろか、結婚もできない呪いに掛っている気がしますよ」
「うわぁやだぁ~!あたしだって恋くらいしたいよぉ…あぁ~あッ、土センで妥協しておけばよがっだぁ~ッ!!」
 皆それぞれが婚期間近に迫る年頃である大人の女性…怪獣の魂を宿した女性たちに幸せが訪れるのか不安が彼女たちの内心にジワジワと“実感”として襲い掛かっていた。
(結局、世の中って幸せになったもの勝ちよね…つまり私はどうあがいても勝ち組だわ)
 特に考える気のないベムラーはアキやユウゴが居る現時点で充実しているため3人とは違う感性をしていた。
 そう考えた白ワインの味はいつもよりうまく感じていた。
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