TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―GIRLS・オーストラリア支部―
「今日は御声が聞けてうれしいです…ピグモンさん」
『いえいえ、こちらこそなのですぅ、ペガペガ』
オーストラリア支部に多岐沢と共に転属となったペガッサ星人こと沢中イズミはビデオ通話機能を兼ね備えたノートパソコンで画面向こう側に東京支部と通じているピグモンことトモミと2人だけの会話を弾ませていた。
「新しく発見されたペガッサ星人の怪獣娘…私としても是非に直接お会いしたい気持ちでいっぱいなんですが…事情が事情ですし…」
『無理もないのですぅ…ペガペガは博士さんがお好きなのですからぁ~』
「ちょっ、ピグモンさん!! 別に私は博士のことが好きで共にオーストラリア支部に回ったとかじゃないですからねッ!そこに一切の私情混同はありませんからッ!!」
『えぇ~そうですかぁ~?』
このビデオ通話の機会を利用して真っ先にトモミはイズミがひた隠しにしている多岐沢マコトへの想いに重箱の隅を楊枝でほじくり返してくることが鉄板の会話ネタとなっていた。
「ンンッ!!…話を戻して…以前、博士が考案していた『怪獣娘の強化プラン』に関する試案を元に新たにソウルライザーへのアップデート機能はファイル内のデータ通りでよろしいでしょうか?」
イズミはノートパソコンのタッチパッドを操作してビデオ通話の画面内にそのデータを映し出して見せた。
『はい、事前に拝見させていただきましたのでおおむね修正点は無いと思われます…が…』
「どうかされました?」
画面内でトモミの表情にただならぬ不穏な気持ちが隠しきれていない感情を押し黙った様子にイズミは首を傾げた。
「ペガペガはご存じないかもしれませんが…この案に東京支部は担当せず…その……八王子支部が受注して……」
トモミの口から『八王子支部』と言う名を聞いたイズミは『あちゃ~』と額に手を当て項垂れた。
「よりにもよって…まさか主任は…あの“ダダ”ですか?」
『はいぃ…あの人が開発主任となり、今度東京支部の方からも3名のいけにぇ…実験参加を求められているのですぅ』
「いま、生贄って言いかけましたよね? GIRLS開発部っていつからそんな秘密結社みたいなことをしでかすような場所になったんですかッ!?…まさか、私がオーストラリア支部に回された後からッ!?」
『違いますッ!…まぁ、確かに元々あそこは頭のネジが外れたような方々が多いかもしれませんが至って真っ当な方もいますから…その方が…ストッパーに…なっていることを願います』
明らかにイズミが日本を離れてからの日本GIRLSが抱える問題にトモミは目も顔も逸らして現実を直視しようとしない様子がイズミには何となく大変な状況であることを察した。
「ピグモンさんも大変みたいですね…」
『そうなのですぅッ!最近、怪獣娘さんの中から逮捕者まで出しかけて…もうしちゃかめっちゃかのてんやわんやなのですゥウッ!!』
「たっ、逮捕ッ!?一体、そっちで何が起きてるんですかッ!?」
またまだ飛び出すイズミの知らぬ間にGIRLS内で発生した大事に対してイズミの頭の中のビックリマークが消えることは無かった。
・
・
・
―後日―
「そろそろだよね、ウインちゃん…」
「ええ、もう予定時刻近づいてますよね」
この日、ある2人の怪獣娘が1人の待ち合わせの為に集合予定ギリギリまで待っていた。
そんな待っている2人の怪獣娘が待ち合わせ場所の駅のロータリーで二人乗りのバイクがロータリー内を爆走してからの急停止でその反動のままに車体を地面ギリギリまでドリフトさせて待ち合わせる2人の目の前で止まった。
「二人ともッ!遅くなってゴメンッ!!」
「アギちゃん!?」「アギさん!?」
バイクの後部から降りてヘルメットを外して顔を見せたのは最後の待ち合わせのアキだった。
「なんかすごい登場の仕方だね」
「後ろの方は…」
駅で待ち合わせていたミクとレイカはアキと合流できたものの…肝心のアキをここまで送ってくれた人物に視線が映った。
運転手のライダースーツ姿の女性がヘルメットを脱いでふんわりとしたミディアムヘアが中から外に出るとクールな風貌に天真爛漫な笑顔を見せるミオだった。
「ふぅ~ギリギリセーフだったね、アキちゃん!」
「「ベムラーさんッ!?」」
思わぬ同行者に驚愕するミクとレイカだったが…
「全然よくないよッ!ギリギリはほぼアウトだからねッ!いろいろな予定を狂わせるってあれほど念を押したのにミオさんが『あと5分』って連呼して起きようとしなかったんじゃないかぁッ!!」
事の顛末を理解させるような内容を口にしながらプンスカと怒るアキに対してミオは悪びれる様子もなく『ハイハイッ』とサラッと受け流した。
「それで結局お兄ちゃんにミオさんを無理矢理起こさせてもらったんだからね」
「アレ普通に起こすの範疇じゃないよね…炬燵の中で丸くなる猫の首根っこを掴み出す勢いだよね……今も首が痛い」
「うだうだ言っていないでサッサとバイク停めて来てッ!」
「はぁ~い」
アキにどやされながら渋々口を萎ませて駐車場へと運ぶ『はじまりの怪獣娘』の姿にミクとレイカはただただ困惑の色を隠しきれなかった。
「ごめんね、ミクちゃん、ウインちゃん…」
「いっ、いえ…間に合いましたのでソコは大丈夫なんですが…」
「アギちゃん…段々と逞しくなって来たよね」
「えっ?何が…」
本人が気づいていない感覚にミクとレイカは苦笑いを浮かべながら誤魔化した。
「ここが…GIRLS八王子支部?」
今日の早朝からアキたちはいつもの大雑把な地図を頼りに辿り着いた場所は八王子市内に所在するGIRLS八王子支部へ訪れていた。
「久しぶりの3人での遠征だね、アギちゃん!」
「また一緒にお仕事が出来てうれしいです」
更に今回は共に任務をこなすことになったミクとレイカが一緒にいた。
最近は他部署にそれぞれが配属となってからプライベートでしか顔を合わせられない中でミクの言う通り久しぶりに3人一緒での受け持ちだった。
「ミクちゃん、ウインちゃん…ボクも…うれしいよ」
「えへへ~ッ…アギちゃん、久々の良い笑顔だねぇ~」
「ええ とっても嬉しくて此方まで顔が緩みそうですよ」
つい、いつもの雰囲気で気が緩み切った3人だが…飽くまでも今日はGIRLSの仕事ではあるが…
「ついでにお姉さんもちょっち面白そうだからついてきちゃって悪いねぇ~」
「ホント…遅刻しそうになった原因の人の態度とは思えないよ、ミオさん」
「ひぃッ!」「あっ、アギさん…」
同伴者としての自覚のないミオがいつまでもヘラヘラとしている様子にアキの顔は先ほどの笑顔から打って変わってミクとレイカから見ても怖いと思わせるほどの凄味があった。
「それにしても…この仕事を受け持つ前にピグモンさんやみんな、やけによそよそしかったよねぇ」
「なんか、八王子支部って聞いた途端に妙にみんな強張った表情だったなぁ~」
「エレキングさんに聞いても聞かぬフリをされたり、あのゴモたんさんが妙に絡みに来なかったり…」
GIRLS東京支部の面々が普段とは違うリアクションに3人とも首が傾けども、その原因がココ『八王子支部』に関わっている気がしてならなかった。
「……とりあえず、誰か居ないか確認しよう」
そう言ってアキは正門の横にあるドアのインターホンに指を押し込んで見るが…インターホンは音が鳴ることは無く、押せたのかどうかも分からない。
『あっ、は~い!』
しかし、繋がったのは繋がったようであった。応対したのは女性の声だった。
「どっ、どうも…GIRLS東京支部からこちらにお伺いするようにと承りました…指導課のアギラと…」
「ミクラスっす!」「ウインダムです」
「付き添いのベムラーよ」
アキの自己紹介と共にミクとレイカ、ミオもインターホン越しに挨拶したが、そもそも相手がどこで自分たちの事を見ているのか分からない。
『少々、お待ちください…―ガチャンッ―』
インターホンの相手は通話を切って自分たちを迎えに来ることになったが…
「ねっ、ネェ…アギちゃん……なんかここ、随分とカンソーって感じだよね?」
「簡素かな?…うんッ…まぁ、なんか寂しい感じはするよ」
「私も、先ほどから妙な違和感が過ります」
「ただの…研究所って感じでもなさそうね」
アキ、ミク、レイカ、ミオの四人が居る地点は八王子支部前の歩道通路、背後は公道一車線、その奥は田園野原が広がるような所謂田舎地域…人の往来はおろか、人の気配など微塵も無い場所…
そして、肝心の支部はと言えば…平たく言えば工場のような雰囲気の外観が騒がしい東京支部に慣れているアキたちにはGIRLSの支部とは思えない光景だった。
正門も関係者専用出入り口の他に大型車両などが入りやすい大きな観音開き式の車両出入口が設置された、やはり規模が大きめの工場のようであった。
―ガチャンッ…
「お待たせしました~ッ…東京支部の方々ですね」
「あっ、はい…」
出迎えて来たのは怪獣娘の姿ではあるが…その上からもう1枚ぶかぶかの白衣を着た青髪の少女であった。
「始めましてッ!GIRLS八王子支部 開発部設計課の“ガラオン”と申します」
GIRLSの怪獣娘にして開発部に所属するガラオンはアキ、ミク、レイカ、ミオの順番に機械染みた両手で握手を交わした。
「ええっと…今日は開発部の御手伝いを御願いされてきたんですけど…ボクたちは何をすればいいんですか?」
「そのご説明は後程に中でお話いたしますので、一旦当支部内をご案内させていただきます」
出迎えてくれたガラオンについて行くと、入館と同時に写真撮影、X線検査、金属探知検査など税関並みの様々な検査を経て首掛けの入館許可証が手渡された。
「館内ではこの入館許可証を首に下げておいてください」
「「「はぁ~い」」」「へ~い」
「それでは私についてきてくださ~い!」
さながら八王子支部見学ツアーのようなガラオンの案内と共に後ろをついて行きアキたちは八王子支部内部へと向かうのであった。
―八王子支部・ソウルライザー展示フロア―
「こちら、初期型ソウルライザーになります!…初期のソウルライザーは今よりも電子手帳型デバイスにアーカライトを装飾しただけの『変身するための装置』に過ぎませんでした 皆さんが普段からご利用されているスマートフォン型になる前段階では二つ折り携帯電話を参考に試行錯誤を経て最新のNOS搭載型のソウルライザーに至ったのです」
全員が眺めるガラスケース内には電子手帳型と二つ折り携帯電話型の旧式ソウルライザーなどを間近で見て『へぇ~』とつい声が漏れるほどに見学に集中していた。
「……はっ、違う違う!ボクたちは見学に来たんじゃないよね」
「あっ、そうだった!開発部の御手伝いだよッ!!」
「すっかり本題と反れてしまいましたね…」
「えぇ~…お姉さんはもうちょっと見ていたぁ~い」
約1名以外は本来の目的である『GIRLSの仕事』としての八王子支部へ訪れた目的を思い出してガラオンに詰め寄った。
「なっ、何でしょうか…皆さん」
「ガラオンさん!…ボクたち、『ソウルライザーの新機能のテスト』って言われて来たんですけど…」
「えッ…ええっと…それはぁ…」
詰め寄って問いただすもガラオンにはどこか視線が合わない。彼女の目線はアキたち3人と見学用展示を眺めるミオには向かず、壁に掛っている時計の時間を気にしている様だった。
「とっ…とりあえずもう少しッ…もう少しだけお付き合いを…」
次第に汗が顔に出るほどの何かを隠そうとするガラオンだったが…それも限界が向こうからやって来た。
「ガラオ~ン!ガラオ~ン!!大変ですぅ~ッ、またクレージーゴンの鉄分切れですぅッ!!」
「ううッ~…鉄分ッ…鉄分はどこぉ~ッ」
白衣を着た緑髪の巻きロングヘアスタイルの研究員が同じく白衣を着た右手にマジックハンド状の機械的なアームが付いた左目を眼帯で隠す顔色の悪い女性の左腕を肩にかけて引きずりながら現れた。
「ええ~ッ!またですか!? とにかくビルガモさんはゴンちゃんを医務室まで連れて行ってあげてください!」
「了解なのですゥッ!!…しっかりしてください、もうすぐ鉄分入りゼリー飲ませてあげますからッ!!」
「ううっ…鉄ゥ~鉄をくれぇぇッ~」
ガラオンと同じ支部内の部署研修員であるビルガモに抱きかかえられて引きずられていくクレージーゴンの様子を目の当たりにしたアキたちは…
(((とんでもないところに来てしまったぁああッ!?)))
「なんか大変そうね…研究職って」
これからそんな大変な八王子支部に関わることになる自分たちの身の危険を感じて仕方ないアキたち東京支部の3人に冷や汗と悪寒が襲い掛かってきた。なお、GIRLSと関わりの無い蚊帳の外の怪獣娘ミオは他人事の様に見ていた。
「えっ…ええっと…よっ、ようこそ…八王子支部へ」
「なんで今更ッ!?」
それは明らかに『地獄へようこそ』と言わんばかりの文言だが…ガラオン本人は今まで言わなかった八王子支部の現状を目の当たりにされたことで先ほどのクレージーゴンよりも彼女の顔色の方が悪くなっていた。
「事情を一切お話しなかったのは重々反省しております…ですが、現在八王子支部での人材不足ゆえ他支部から要請しなければならず…」
事のすべての事情を事細かに説明しようとアワアワと狼狽えるガラオンだったが…
―ピンポンパンポォォン…―
『設計課のガラオンさぁ~ん…設計課のガラオンさぁ~ん…至急、開発試験室へお越しくださいダダァ~…繰り返します、設計課のガラオンさぁ~ん…さっさと開発試験室に来るダダァアアッ!!』
館内スピーカーから怒号のような音声と共にガラオンを呼び出す何ものかの声が響いた。
「いまのって…」
「はわわわっ…ダダ主任ですぅ…あぁ~もうこうなったらヤケだぁッ! 皆さん、私と一緒に来てくださいッ!!」
ガラオンから自分に付いてくるよう促されたアキたちはガラオンの後に付き添う形で彼女と共に放送内で出た『開発試験室』まで向かった。
―開発試験室―
「違うダダ…ダダBはここで引くべきではないと考えるダダ…でもここで引かなければ乱数を取りこぼすとダダAは提案するダダ…しかし、設備課から早く試験をはやめよとの通知ダダ…」
ブツクサと独り言を喋る白衣の研究員はデバイス端末とにらめっこのように画面を見つめていた。
そんな部屋の中へ自動ドアが開かれてガラオンたちが入室してきた。
「ダダ主任…東京支部からの御手伝いさんをお連れしました」
「ファッキン クッソシャゲェェエエッ!!」
「うわぁああッ!?」
ガラオンの真横を手裏剣が如く飛んできて彼女の頬を素通りしたデバイス端末は壁に激突して粉々に破損した状態で床に転がった。
「二度とやるか、こんなクソ課金ゲーがッ!!ダダの給料をどこまで搾取する気ダダァアアッ!!」
デバイス端末を壁に投げつけたのはガラオンたち八王子支部の統一感ある白衣を着た怪獣娘が何やら頭を抱えて荒ぶっている様子が伺えた。
「ダダ主任!また支部の備品でソシャゲしていたんですか!?何度も課金で爆死する度に端末を投げないでください…って言うか、ゲームしないでください!!」
「うるせぇええ!!ダダはゲームをしていないとフラストレーションとインスピレーションが働かないんダダァアアッ!!…と言うか、働く気が無いんダダァアアッ!!」
「他支部の方々の前で堂々と労働ボイコット宣言しないでください!」
ガラオンに注意を受ける白衣の怪獣娘の開発研究主任は悪びれる様子もなかった。
「わぁ~…どうしよう、一緒にされたくないのに…妙に親近感湧くぅ~」
さらにその様子を見ていたミオには自身と重なる何かを感じていた。
「あぁ~?お手伝いぃ~?……お前らが、ピグモンが寄越してきた連中ダダか?」
「えっ…ええ、まぁ、はい…」
「出来る事なら帰りたいですが…」
「すみませ~ん…今日は何をするんですかぁ?」
視線を合わせない様にするアキと、今すぐにでも逃げ出したいレイカ、好奇心旺盛なミクが開発研究主任に元気よく挙手をして質問をした。
「いい質問ダダッ!!…でも、ダダから説明するのがめんどくさいから…ガラオン!説めぇえぇい!!」
主任のダダはガラオンに説明を丸投げた。
「ええっと…本日、皆さんにはソウルライザーの新しい機能の一つ…『ソリッド怪獣』のテストを行っていただきます」
「「「ソリッド怪獣??」」」「おぅ、息ピッタリ」
声の揃う3人が口にした『ソリッド怪獣』とはいかなるものなのか…ガラオンからの説明が続けられた。
「ソリッド怪獣と言うのは皆さんが普段からご使用されているソウルライザー内に蓄積されたデータから算出されるカイジューソウルを量子化させて疑似的な怪獣を再現させる技術になります」
「それってつまり、ボクたちのカイジューソウルから元の怪獣の姿を再現するってこと?」
「そのとお~り、ダダァアアッ!!」
―ダッダァ~ッ!―ダッダァ~ッ!―ダッダァ~ッ!―
開発主任のダダが胸を張って得意げな表情を見せた途端に背後から3体の顔がそれぞれ違う三面怪人ダダが現れた。
「「「うわぁあああああ!顔がこわぁああい!!」」」
「あら、オカッパ」
「落ち着いてください!ホログラム、ホログラムですので!」
開発主任のダダが気持ちの昂りを演出するために用意していた仕込みであったが…
「―とは言っても、ここに映し出したホログラムのダダ共の様に原理は一緒ダダ…アンタたちのカイジューソウルに記録された怪獣のデータを再現コピーして三次元に反映する…反映された怪獣はアンタたちの思うがままに操作が出来るってワケ…まぁ、昔に流行ったペットロボットみたいなものダダァ~…あ~んな動きやこ~んな動きも出来るダダよぉ~」
今度はダダなりの解説と共に背後の三面怪人のダダたちが彼女の動きに合わせて動くヌルヌルと動く様にアキ、ミク、レイカは何となく理解はできた。
「…ボクたちのカイジューソウルに宿る怪獣たちかぁ~…図鑑でしか見たこと無かったから楽しみだね」
「そうですね、普段の怪獣娘としての姿しか知りませんから本来の怪獣さんが動いている姿を始めて見れるわけですからね」
「おもしろそぉ~!!ねぇねぇッ早くやろーよぉッ!!」
「皆まで言うな、皆まで言うなダダ…安心せい、準備は整っているダダ…ガラオンッ!スタンバイダダッ!!」
「はっ、はいッ!!」
ガラオンは慌てて開発試験室のサーバーを起動して施設内に設置されたキーボードをカタカタと入力を打ち込んでモニターに映し出されたのは東京支部でもトレーニングルームでも採用されているヴァーチャルリアリティ空間が画面いっぱいに映し出された。
「あぁ~大怪獣ファイトの荒野ステージだッ!」
「おなじみの光景ですね」
「ここでお前たちのカイジューソウルをスキャンして疑似的にプログラムを形成させてもらうダダァ~…反映された怪獣はお前たちの指示通りに動くことが出来るが、今回は私の動きに合わせて怪獣をコントロールするのダダァ~」
やることは分かった3人だが…なぜか開発主任のダダと三面怪人ダダたちはグルグルと胴体だけ回す謎ダンスで説明された。
「準備できました 皆さんのソウルライザーはこのケーブルにセットをお願いします」
準備を完了したガラオンの指示でアキたちは所持するソウルライザーに専用のケーブルを充電口に差し込むと画面がパッと点いた。
「さぁッ!そのまま変身する時の要領で『ソウルライズッ!』と叫ぶダダァッ!!」
―――ソウルライズ!!―――
「アギラ!」
「ミクラス!」
「ウインダム!」
―SOUL RISE―
―AGILA―キュァアアアンッ!!
―MIKLAS―ゴガァルルッ!!
―WYNDHAM―ガァアアア!!
画面内には本来の怪獣としての姿で反映されたカプセル怪獣アギラ、ミクラス、ウインダム…そのどれもがまるで今まさに目の前で生き生きと蘇っているかの様に錯覚させられるほど精巧な作りをしていた。
「おお~ッ…すごい、本物のアギラだ…」
「ミクラスってこんな感じなんだ~…結構カワイイじゃん」
「ウインダム…初めてお会いできました」
その精巧に再現された怪獣たちにアキたちは感動さえ抱く程であった。
「はいは~い!感動するのは後でも出来る…これから動作試験を開始するダダ」
ダダはパンパンッと手を叩いてアキたちに試験開始の準備に移らせ、アキたちもそれに従って横一列に並んだ。
「では、僭越ながら……右に~ワン、ツー、ワン、ツー、ワン、ツー、サン、はいッ!」
「「「わっ…ワン、ツー、ワン、ツー、ワン、ツー、サン、はいッ…」」」
ダダの手拍子と共にリズムに合わせアキたちも動いて見せるとカプセル怪獣たちも彼女たちの動きと連動して動いた。
「―よよいのよいッ! よよいのよいッ!」
「「「よっ…よよいの、よい…よよいの、よい」」」
今度は盆踊りのような動きに合わせてアキたちも恥ずかしさを偲びながら動くとカプセル怪獣たちも同じように動いた。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイトッ! ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイトッからの~フィニッ~シュッ!!」
さながら激しいエクササイズと共に8カウントモーションでアキたちはより激しく動けばカプセル怪獣たちも同じように激しく動き、最後のフィニッシュで震えながらも動きは止まった。
「うんうん、OKダダァ~」
ダダの合図と共にフィニッシュポーズから解放されたアキたちとカプセル怪獣はその場で倒れる様に寝ころんだ。
―――ADIEU―――
画面の向こう側のカプセル怪獣たちは細かい粒子が拡散されていくかのように消えていった。
「皆さん、お疲れ様でしたぁ~…動作は正常に作動しています」
「おっ、お疲れさまでしたぁ…はぁっ…はぁっ…」
「くるじぃ…なんか別の意味でぐるじぃよぉ~」
「ひぃ~ッ…ひぃ~ッ…日頃の…運動不足を…痛感します」
思わぬ動きの反動で3人は緊張と恥ずかしさで過呼吸気味だった。
「動き、めっちゃオモロ…みんなノリノリだねぇ~」
一方のミオは3人の動作試験の動きを面白がっていた。
「ほらほら~休んでいないで起きた起きたぁ~…テストはまだまだ続くダダァ~」
「ええッ~まだ続くんですかぁ~!?」
「私…もう既にヘトヘトですぅ~ッ」
「それがどうしたダダッ!あたしゃこれでもこの試験の為に徹夜してもビンビンのギンギンダダァ~ッ!」
確かにダダの目元はよく見れば血走った眼に目の下にはクッキリとアイシャドウ並みの黒さに変色した隈が出来ている。偏に言えば『不健康の権化』であった。
「ちょっ…ちょっと待ってください…もう少し…休ませて」
「なんだなんだ~、アキちゃんたち~情けないぞぉ~ッ…若いんだから ほら、がんばれがんばれぇ~」
蚊帳の外に居ることをいいことにミオはアキたちを煽り焚きつけるかのようにヘラヘラとしていた。
「ふっ…ふふふっ…ダダさん…丁度あそこにもう一人イキのいい被験者がいますよ」
「フフフッ…そうだね、アギちゃん…あたしたちだけがやる必要ないもんね」
「うふふっ…ウフフッ…いいですね、ぜひとも参加していただきましょう…」
床に寝転がるアキたちは不気味な笑顔を浮かべていた。
「実験体なら誰でもいいダダ~」
ダダからの許可を得た3人はゾンビの如く蘇ってふらつく足取りをズルズルとミオまで近づいた。
「えっ、ちょっ…待ってみんな…」
「ミオさ~ん…実験体はぁ~…誰でもいいんだってぇ~」
「アンタも一緒に加われぇ~」
「みんな一緒なら~ダイジョ~ブですよぉ~」
ミオはズルズルと後ろへと下がるが…その後ろは出口の隣の角際であった。
「まっ、待ってみんな…お姉さんに、そんなに求められちゃったら…お姉さんは…お姉さんじゃなくなっちゃう~ッ…いやぁ~ん、私はまだユウゴ君のお姉さんでいたいぃ~!!」
「「「そんなこと知るかァアアッ!!」」」
ゾンビと化した3人はミオに飛び掛かって、ミオも結構このあとダダの狂気の実験マラソンに付き合う羽目になったとか…
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―BAR1954―
「ぶぅぅぅッ…」
「づがれだぁ~」
「動けません…」
「ングッ…ングッ…ぷはぁ~、酒がうまい!」
全身の筋肉が軋むように激痛でバーカウンターに突っ伏すアキたち3人は唸り声を上げながらも生存の意思表示をしていた。約1名だけはロング缶ビールを一気に飲み干してスッキリとやり切ったかのような表情をしていた。
「いやぁ~久々に良い運動になったぁ~」
「ミオさんは無駄に運動神経が良いからじゃないですか…なんでボクたち、御手伝いしに来たのに運動教室させられたんでしょうか…」
「あたしなんか大怪獣ファイターなのに…慣れない動きって、体力を大幅に削ぐんだよねぇ…」
「皆さんはまだ運動出来るじゃないですか…インドア派の私なんて死にそうですよぉぉ…」
「まぁ、それもこれもいいデータを取るためダダ…アンタらの協力には感謝はしているダダよ」
「そうですか…それは何よりです」
「これもGIRLSの仕事だし…」
「これで怪獣娘の力になるなら…」
「「「はぁ~…」」」
動けない三人はたまった疲労を一気に呼吸と共に吐き出すかのようなため息が出たが…
「「「……えっ!?なんで居るのッ!?」」」
今になって真横にダダが居ることに気が付いた。
「ダッダァ~、そこの飲んだくれから聞いたダダッ! この店にはダダが研究している分野のために実験台になってくれる被験体が居ると…」
ちゃっかりとミオが連れて来ていたことに対してアキは『ミオさんッ!』と怒るもミオは『てへッ♡』で誤魔化された。
「いっ、一体何の研究ですか…」
「よくぞ聞いてくれたダダッ!…本日紹介する研究はこちらッ『ミクロ化技術』ダダァ~ッ! 用意するのは小型エレクトロニクス動力源を搭載したミクロ化機ダッダァ~!」
つまりダダがBAR1954に勝手についてきたワケは自分の研究成果の実験を実施するためにわざわざ物騒な銃火器ほどの大きさの特殊な機器まで持ち込んでくるほどの徹底ぶりであった。
「うわッ、なにその武器みたいなヤツ…」
「単細胞にでもわかるように説明すると本来の大きさから任意の大きさに縮める事の出来る機械ダダ」
「あぁ~聞いた事あります…大きいものを小さくしたりできるアレですね、漫画で見たことはありますがまさか現実でそんなことが可能なんですか?」
「ダダの理論が正しければ…縮めれられないモノは無いダダ!」
自慢げに持ち構えて、いざなんでも来いと言わんばかりの姿勢だった。
「ミオさん…なんでこんな人を連れて来たんですか?」
「フフフッ…実はちょっち縮めてやりたいヤツがいるのさ」
ミオがダダに密かながら画策していた彼女の研究を利用してとある存在を縮めてやろうと考えていた。
「それで何を小さくしようっていうの?」
「皆まで言うな…小さくなるのは物質ではないダダ」
ミクの質問に対して回答するダダだったが…
「できたぞ~…インドの軽食『サモサ』だ」
厨房から顔を出したユウゴが両手に鍋掴みで熱された鉄板に料理を抱えてやって来た時だった。
「―つまり…お前の“年齢”を縮めてやるダダァ~ッ!!」
ダダは突如としてユウゴに発射口を向けて引き金を引いた瞬間に光線がユウゴに照射された。
「ほあああああっ!!」
「お兄ちゃんッ!?」「「ユウゴさぁんッ!?」」
突然のことに困惑するアキたちであったが時すでに遅しであった。
「おい、なんだ急に…何が起きた?」
「ゆ…ユウゴさんが…」
ダダのミクロ化機の直接照射を受けたユウゴに起こった変化は…見た目に貫禄が削がれ、身の丈は40センチも縮み、その反動で今まで来ていた衣服のサイズが合わずズレ落ちていた。
「ユウゴさんが…なんか縮んじゃいましたよッ!?」
「18歳も結構若いのに…更に若くなった感じになっちゃった!?」
「ミオさんッ!これって一体…」
アキは画策していた張本人のミオに問いただすも振り返った時には既にミオはバーカウンターを飛び越えてそのまま縮んだユウゴに抱き着いた。
「ユウゴくぅぅ~んッ!!ようやく元のユウゴに会えたぁ~ッ!!うんうん、やっぱあんなごっつい世紀末覇者みたいな身体も悪くは無いけど…やっぱりこの時の姿のユウゴくんがだ~い好きよぉ~!!」
「ええいッ、鬱陶しい!!離れろ!!」
ミオは箍が外れたかのようにユウゴを強く抱きしめようとするも縮んだユウゴはそれを拒絶してミオの顔面を突き放していた。
「だっ…ダダさん、コレは一体…」
「ふぅ~ッ…成功ダダッ…このミクロ化機は照射した相手の年齢容姿を3年だけ引き下げることができるんダダッ」
つまりこの縮んだ姿のユウゴは実に15歳頃の年齢に姿を変えられていたのであった。
「ボク…より、年下…」
「えへへッ、良かったねぇアギちゃん…コレで君も今日からお姉さんだッ!」
満足げにブイサインで喜ぶミオだが、今もなおユウゴには拒絶させられていた。
「…というワケで…ビーコンッ!!」
ミオの号令と共に裏口の扉をバタンッと開けてビーコンが【イエス マム】のプラカードと共に服まで用意周到に準備していた。
しばらくして厨房から出て来たのはアキのGIRLS指定ジャージを着た状態のユウゴが現れた。
「う~んッ…なんか…アギちゃん亜種みたいな感じがする」
「ボクの亜種って何ッ?」
「2歳違いの御兄妹から一卵性双生児に変わっただけですね、コレ…」
「こんなのと一緒にすんじゃねぇ」
並べられて比較されると眠たそうな眼に束ねた髪以外の形状は同じ、そして背丈はピッタリなほどに同じであった。
「お兄ちゃん、本当にその姿で15歳なの?…ボクから見てもまだ背丈が大きく感じる…」
「知るかッ…今も意識はいつもどおりだが、鬱陶しいヤツが余計に鬱陶しくなっただ・け・だッ!!」
「わ~い、ユウゴく~んッ…ぐえっ! ユウゴく~んッ…ぐいっ! ユウゴく~んッ…ぐぶっ!」
姿が変わってしまったユウゴが最も不憫となった問題として先ほどからミオが懲りずに何度も抱き着こうとする度にユウゴから拒絶されていた。
「それで…この状態を元に戻す方法は?」
「それがダダさんは『更なる改良が必要ダダァ~』とか言いながらお店を出ていかれましたが…」
既に肝心のダダが逃亡して元に戻ることが出来なくなってしまった。
「まぁ、今日ぐらいこの姿でも問題ねぇだろう…ちょっとスパイス取ってくる」
姿は変わっても焦ることなく冷静なままにユウゴは変わらぬ行動を取るが…
「……しまった、元の背丈の感覚で結構上に置いてしまった」
早速やって来た巨壁は棚の一番上に置いてある目的のスパイスだった。
足場のない戸棚の上を何とかしてピョンピョン跳んでみるも届かない。
「あらあら~ッ…ぼくちゃん届きまちぇんか~?」
ここぞとばかりにニヤニヤと笑いながらユウゴの背後に回ってジャンプしても届かないスパイスを必死になって取ろうとするさまをあざ笑うミオと笑い堪えるアキたちがいた。
「どうちてほしいでちゅか~?取ってほしい?取ってほしい?」
「…この背丈ならテメェの脛を蹴り砕けるぞ」
「んもぉ~悪い言葉なんてメッでちゅよ~…バツとして自分で取りなさい」
「くだらん茶番をしてんじゃねぇッ…お前が取れ」
「んもぉ~素直じゃないでちゅねぇ~…どれどれ、持ち上げて進ぜよう」
そう言ってミオはユウゴの両脇に手を回して彼を持ち上げようとした時だった…――グキッ…
「ぎぃんにゃぁああああ!!腰がぁああああ!!」
断末魔の雄叫びを上げてミオは腰を押さえながら厨房の床をゴロゴロと転げまわっていた。
「ベムラーさんの腰が死んだァアアッ!?」
「一体、何が起きたんですかッ!?」
「んっ?」
ミクとレイカに腰をいたわられながら介抱されている中、アキは自分のソウルライザーにメッセージが受信されていることに気が付いた。
『試作のミクロ化機だから見た目は変わっても元体重は変わらないから気を付けるダッダァ~☆』
なぜダダがアキの連絡先を知っているのかは不明だが、ミオの腰は見た目155センチ体重100キロ以上の鉄塊に壊されて既に手遅れであった。
・
マンション内 アキの部屋
―ペタッ…
ソファーにうつ伏せになってビーコンに湿布を腰に張ってもらっているミオは未だ腰回りに残る激痛に悶えていた。
「いたたぁ~ッ…その身体には何が詰まってるのよ」
「調子に乗るからだ、アホ」
「お兄ちゃんが重すぎるからでしょ…」
ミクとレイカが家に帰った頃、時刻は午後の夕食時にまで過ぎていた。普段であればこの時間にはユウゴが自分で台所に立ち料理を作り夕食にしていたが…
「クソッ、無駄に自分の身の丈をこんな形で戒めることになるとは…物が全部届かん」
料理に必要な調理器具を始め、台所さえも元々の身長195センチ時の自分の横隔まで調整したリフォームキッチンだった。155センチの今のユウゴからして見てもかなり大きな壁だった。
「なんでこんな大きなキッチンにしたのさ…」
「身体が縮んだ時なんて誰が予想できんだ…作り置きは…相変わらずあそこのアホに喰われている」
冷蔵庫を開けても殆どまともな料理が作れるほどの食材は無かった。
「今日は宅配しよう…今のお兄ちゃんがここの台所でまともに料理も出来ないでしょ」
「そうだな…たまにはそれでもいいか」
料理のできない今の自分がここに居る必要はないと思い、ユウゴは玄関まで歩いて部屋を後にしようとした…
「待ったッ!…ユウゴくん、どこに行こうとしてるの?」
ミオはビーコンに肩を借りながらユウゴの肩を捕まえて引き止めた。
「あぁ?…帰るに決まってるだろ…いつもそうしてるだろうが」
「どこに?…前々から思ってたけど、あんた一体どこでどんな生活をしているのよ」
今まで最も謎であったユウゴの生活実態にミオは尋ねた。
「まず、お風呂はどうしているの?」
「あぁ?…んなもん、なん箇所か知っている温泉地をミレニアムで弾丸日帰りしているだけだよ」
「なんでお風呂だけで何キロも離れた所まで行ってるのさぁ…能力の無駄使い」
「就寝は?…どこで寝泊りしているのよッ!?」
「このマンションの屋上の角で座りながら寝てる」
「ガーゴイルみたいな眠り方…」
知れば知るほどに垣間見えてくる身内が知らぬユウゴの生活実態には一般的な要素など皆無であった。
「なるほど…何となくわかったけど、がしかしッ!今のあなたは何もできないお子様も同然であることを忘れるな!」
「その何もできない状態にさせたのはどこの誰だッ?」
元はと言えばミオの画策でダダの研究を利用した上でユウゴが縮ませた。元凶であるミオから言われると尚の事腹立たしい気持ちがユウゴの額に血管を浮かばせた。
「―と言うワケで、今日一日はウチに寝泊まりしてもらおう!」
「テメェの家じゃねぇだろうが…」
「まぁまぁ…それに関してはボクも賛成だよ お兄ちゃん、いい加減に普通の生活をしてみなよ」
半ば強引ではあれど一般的でもなければ普通とは程遠いユウゴの私生活ぶりを心配してのミオたちの提案にユウゴは渋々ながら受け入れるしかなかった。
「とりあえず…まずはお風呂一緒に入ってもらおうか…」
「…はぁッ?」
普通の生活を送る最初の課題として、まさかの風呂を一緒に入ることになり困惑させられた。
―カポンッ…
水滴の音が滴り落ちる音さえもハッキリと聞こえる風呂場では頭をゴシゴシとリンスシャンプーで洗らわれるユウゴがいた。
「……なんでよりによってお前まで入って来るんだよ」
【イズ ザット イッチーズ?】
一緒に入る相手としてビーコンがミオたちの代わりに入っていた。
(さすがに一人で入れるんだが…デカい着ぐるみと一緒に風呂に入らされてる気分だ それにしてもこのシャンプー…妙に変な匂いがする気が……んッ?)
ワシワシと強めに頭を入念に洗われる中、ユウゴはゆっくり目を開くと目の前に置いてあったシャンプー棚の中に今あたまを洗うのに使われているリンスシャンプーが見えたが…それは『燻製フレーバーズ 桜チップの香り』と言う明らかにシャンプーではない何らかの液体が入ったボトルだった。
―ジュルリ…
その匂いに釣られて真後ろから舌をなめずる音が聞こえ背筋に走去る悪寒がユウゴに訪れた。
―ボカァアアン!!
大きな音は風呂場から発生して宅配食料を居間まで運ぶ最中のミオとアキの耳に届いた。
「なんの音?」
急いで荷物を居間に置いてすぐさま風呂場に向かうと目に飛び込んできたのは…
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
風呂桶を握りしめるユウゴ、たんこぶを形成した頭から湯船に沈められているビーコンと言うサスペンス的状況の風呂場になっていた。
「ひゃぁああ~ユウゴ君が怪獣ごろしにぃぃいいッ!?」
「一体なにがあったの…うっ、なんか燻製臭い」
状況から察するにビーコンがユウゴに何らかの下処理をしていたところを逆に反撃されたと見れた。
「んもぉ~まともにお風呂も入れないの~ユウゴ君ッ」
「いや、コイツを付けなくても一人で入れるっつうの」
ひとまずタオルを腰元に撒いたユウゴはミオから一人ではまともに入れないと思われていることに納得が行かなかった。
「こうなったらまともにお風呂も入れないボクちゃんのために私たちも一緒に入ってあげようじゃないか…ねぇ、アキちゃん!」
「えっ?なんでボクまで?」
湯船から引きずり出して真っ赤に茹で上がったビーコンをうちわでパタパタと仰いで熱冷ましているアキの手を掴み引いた。
「コ~ラッ!女の子が脱いでるトコ、見ちゃダ・メ・だ・ぞ♡」
そう言ってミオは風呂場の扉を閉じてユウゴを待たせた。
「ほらほら~、アキちゃんも脱いだ脱いだ!」
「ふぅぁ~ッ!…やめてよぉ~、一人で脱げるよぉ~…」
洗面所で衣服を脱ぎ合うミオとアキの様子は風呂場の出入り口たる扉1枚挟んで彼女たちのシルエットとしてクッキリとそのボディラインが写し出る。
「はぁ~…」
心なしか呆れ返っているユウゴは頬杖をついては言ってこようとしているミオたちを待つが…
「ソウルライド!ベムラーッ!!」
「アッ…アギラァァ…」
洗面所の方から漏れ出す青白い光が彼女たちが怪獣娘への変身であることを察せられた。
「ざ~んね~ん!私たちは怪獣娘よッ!そう簡単に裸を晒すと思ったら大間違いぃ~」
「ううっ、でも結局は服を脱いでるから変身解くとボクたち裸ですよねぇッ…」
風呂場の扉を開けて殴りこんできたミオことベムラーとアキことアギラはソウルライザーで怪獣娘の姿へと変身して風呂に入ることが狙いであった。
「フフフッ~ちょっちドキドキした~?期待させちゃったぁ~?…でも残念、世の中そんな甘くないのだぁ~…って、うわッ!?」
揶揄うつもりで入った風呂場には居るはずのユウゴもまた姿をゴジラへと変貌させていたが…その姿はあの黒々硬質な体表ではなく、深緑色の体表に変化していた。
「ちょっ、ユウゴ君どうしたのその姿…」
「俺もビックリだわ…まさか、怪獣の姿まで昔の頃に戻っているとは…」
その姿はユウゴが知る限りで今の黒い姿に至る前段階である深い緑色の体表は宛ら爬虫類のそれに近く、体格も筋骨隆々であった元の姿よりも細身でトカゲの子供と認識できるような姿をしていた。
「ええっと…とりあえず、どうします?」
「うっ…うん、一先ずコレで身体を洗ってあげよう!」
そう言ってミオが取り出したのは…まさかのデッキブラシと亀の子だわしであった。
―ゴシゴシゴシゴシッ…
「う~んッ…なんか人の身体を洗っているっていうよりも動物園のワニの清掃って感じがする」
「それだよねぇ~…なんか色気もへったくれもないわぁ~」
「お前らがやり出したことだろうが…」
入念に身体全体をブラシとたわしで洗うにつれて徐々に光沢が輝く体表へと生まれ変わっていくようであった。
食事を終え、歯を磨き終え、いよいよ就寝の時となった。
「……なんで俺がお前らと一緒に寝なきゃなんねぇんだよ」
この家の最大の問題としてアキの部屋のベッドで3人川の字で寝るしかなかった。
「いいじゃな~い…こ~んな美女2人に囲まれて寝れるなんて贅沢者だぞぉ~ッ」
「いちいちウゼェな、コイツ…俺は床で座りながら寝るからベッドはテメェらで勝手に寝ろ」
「お兄ちゃん…ちゃんとベッドで寝て」
床に座って寝ようとしたユウゴだったが、アキに手を掴まれ引き止められた。
「ほらほら~二人とも寝なさい、寝なさい…私が寝かしつけてあげるからぁ~」
ユウゴはアキと共に背中をミオに押されるがままにベッドへ横に寝かしつけられた。
「…どう?…ベッドで寝るのは…」
「知るか…どこでも寝れるからどこでもいい」
「またまた~…ちゃんとしたベッドで寝れるって幸せ者よぉ~…あぁ~、今わたしってお母さんしているわぁ~…母性感じちゃうわ~」
ユウゴとアキにしっかりと掛け布団を掛けてその上に手を乗せて子供をあやし寝かしつけるミオは心から母性本能で満たされて満足気であった。
「寝れるように歌ってあげようか?」
「いらん」
「御本を読んであげようか?」
「いらん」
「おやすみなさいのキスはいる?」
「キモいからやめろ」
「……抱きしめてあげようか?」
「さっさと寝ろッ!」
「嫌って言っても抱きしめちゃうッ!」
そう言ってミオは腕を回してユウゴとアキを二人まとめて自身の腕の中に寄せ合った。
特にユウゴはミオとアキの間で身動きが取れないほどに締め付けられていた。更に足元にはビーコンがのしかかって【ニャー】と書かれたプラカードを握って猫のつもりでいた。
「暑苦しい…」
「またまた~そう言っても嬉しいくせにぃ~」
真に喜んでいるのはミオの方であった。普段からはできないことが今まさに自分の腕の中で出来ることに心から喜んでいるのが表情から感じ取れた。
「…すぅ~…すぅ~…」
未だにミオからの包容に寝付けないユウゴの左横で穏やかな息遣いで寝付くアキだけが安らかに眠っていた。
(コイツ…もう寝たのか)
「…すぅ~……ううっ、お母さん…お父さん……おじいちゃん…」
更に安らいでいた表情は少し不安げな様子に変わってうわ言の様に両親と亡くなった祖父のことを呼んでいた。
「…ここ最近、ずっとこんな感じよ…今日、無理矢理あなたをベッドで寝かそうとしたのはコレを見せたかったってのもあるの」
ミオは抱きしめていたユウゴから手を放して、頭に手をついて支えながら寝言を言うアキの顔を覗いた。
「ふんっ…そんなもん、俺がどうこう出来る事じゃねぇよ」
「だったら、せめてアキちゃんの傍に居てあげなさい…少しの間でいいから傍で一緒に寝てあげることくらい出来るでしょ」
ミオに鼻を指先で突かれ、左腕をガッシリとアキに掴まれながら眠るユウゴはアキと同じく深い眠りへと落ちていくのであった。
「ふふっ、おやすみ…二人とも」
そのあとに続いてミオも二人の寝顔を見ながらも瞼を閉じて眠りにつくのであった。
―翌日―
―チュンチュンチュチュン…
窓の外から小鳥のさえずりと共に朝日の光が差し込む部屋でアキは目が覚めた。
「……ミオさん……」
「んっ~…なぁに?」
「…なんで、ボクたち…床で寝ているんでしょうか?」
目が覚めて気づいた時にはアキは何故かミオとビーコンと共にベッドより下の床に寝転がっていた。
「Zzz――……Zzz――……Zzz――……」
肝心のベッドの上にはユウゴが大の字で身体を大きく広げて寝息をかきながら1人でベッドを占領支配していた。
「忘れてたけど…お兄ちゃん、すごく寝相が悪いんだった」
「うん、そうだろうね…」
「ミオさん……お兄ちゃん、ダダさんに元へ戻してもらいにGIRLSへ行きましょうか」
「…うん、そうだね…」
このまま15歳の時の姿のままにするわけにもいかず、アキとミオはユウゴをGIRLSに連れて行くことを決意させた。
アンバランス小話
『八王子支部』
三面ロボ頭獣の怪獣娘ガラオン、彼女が配属している八王子支部はGIRLS全体で怪獣娘に配布され広く使用率の高いデバイス『ソウルライザー』の製作、製造に関わる重要な支部の開発部に関わっていた。
「お~いッガラオン!!…ゴンの…ゴンの鉄分サプリはどこなのじゃぁ~!!」
「ひぇええッ!知りませんよぉ~!…いつもの戸棚の所じゃないんですか?」
「ソコに無かったから聞いてんのじゃい!!どこだ!どこに隠し持ってる!!」
「どこにも隠してませんよ!!」
ロボット怪獣クレージーゴン、常に鉄分を摂取していないと貧血…にはならないが、気が狂ったかのように荒ぶる。
「お~い…ガラオンさぁ~ん…」
「その声は…ビルガモさん…声はするけど、どこに居るんですか?」
「下だよぉ~、下…ここにいるよぉ~」
「えっ?ギャァアアアッバラバラ殺人ダァアア!!」
同じくロボット怪獣のビルガモ…主に分離能力を有する彼女だが、時々分離し過ぎてパーツを見失い胴体だけの状態が多々ある。
「なんでこんな状態になっちゃったんですか!?」
「ううっ、ダダさんに…ダダさんにぃ~…もうお嫁にいけないですぅううッ!!」
そう、この八王子支部最大の問題児が1人いた。
「ダッダァ~!!ついに完成したダダ!!…『なんでも分解機』ぃいい~ッ!!」
その手に銃火器ほどの大きさの怪しげな道具を抱えて現れた三面怪人ダダの怪獣娘にして開発部開発担当主任と言うそれなりの地位に居るはずの女性とは思えぬ言動と行動にガラオンを始め支部の全員を困らせていた。
もともとは彼女をセーブできる人物が居たが…諸事情でオーストラリア支部に回ったため、その箍が外れたと同時に頭のネジも外れたと噂されている。
「これでなんでも分解できるダダァ~ッ!!早速、いろんなモノを分解してみたいダダァ~!!」
否、もとより一本どころか数本はネジが外れていた。そのうちの1本は『理性』かもしれない。
・
・
・
―別の日―
「すみません、お忙しいところ」
「いえいえ、お時間を頂けるだけ何よりです」
この日は支部と同じく八王子市内に在住する著名な学者を招いていたが…
「あれッ?そう言えば私のツレ…なかなか戻ってきませんね」
「えっ?…まさかッ、ちょっとすみませんッ!!」
来客の付き人が中々2人の元まで戻ってこないことにガラオンは嫌な予感が過って急ぎダダが居ると思われる場所に向かった。
―開発研究室―
「ぎぃんにゃぁああああ!!」
「フハハハハハッ!!いいダダ、いいダダ!!これほどまでにない最高の研究材料を見つけたダダ!!」
十字の実験台に括り付けて客の付き人を実験台にしてダダは怪しげな実験と称して高圧電流を流し込んでいた。
「ゴモォオオッ!!キリュウを返すゴモッ!!」
その横でダダに実験をやめさせようとする付き人の付き添いでいる少女が必死にダダを止めようとしていた。
―ウィィンッ…
「ああッ!!やっぱりここにいた…って、お客さんに何してるんですかッ!?」
「おお~ガラオン、丁度いいところに縮小光線に必要な電圧を調べるのによい実験台を見つけたダダッ!!」
「やめてください、ダダさん!お客さんで勝手に実験をしないでください!!」
「ゴモォォッ!!キリュウはお前のじゃないゴモッ!キリュウをはなせゴモッ!!」
「離すダダッ!!ダダはまだまだ実験がしたいダダッ!!」
八王子支部は今日もダダに頭を悩まされるのであった。