TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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リトルモンスター

 昨日よりGIRLS八王子支部に所属する奇人ダダが開発した『ミクロ化機』によって年齢を縮められ、肉体までもが合わせて縮んだユウゴであったが…その状態を解くためにアキたちと共にGIRLS東京支部へ訪れたが…

「もぉおおおしわけございませんでしたぁあああ!!」

 GIRLS東京支部の支部長代理にして怪獣娘の統括管理を担う怪獣娘ピグモンことトモミが東京支部会議室内にて盛大に飛び上がって両膝、両手、額に至るまでの全身全霊を込めた誠意ある“土下座”による謝罪をユウゴに対して行った。

 その気持ちを受け取ったユウゴは…

「赤いモップが落ちてるみたいだ…」

「お兄ちゃんッ!!」

 特に何も気にしていなかった。

「こともあろうにアギアギのお兄さんでもあるユウゴさんに対して多大なご迷惑をお掛けしてしまい、ほんとぉおおに申し訳ございませんッ!!」

「ピグモンさん…頭を上げて落ち着いてください…こんな兄“だけ”が被害にあっただけ済んで良かったですよ」

「なんでお前が勝手に決めつけてんだ」

 トモミの誠意を込めた謝罪に対して口下手なユウゴに代わってアキが謝罪に対する受け入れの言葉を投げかけてトモミを励ます。

「それよりも…ユウゴさんが戻られる方法はあるのでしょうか?」

「そのままじゃ、ずっと大変だもんねぇ~」

 事情を知るミクとレイカが同席して何とかならないかトモミに尋ねるも…

「現在、東京支部の捜査課よりゴドゴドがダダ主任を探し回っているのですが…主任は都内のあちらこちらに隠れ家もとい研究拠点を設けているため、光の速さレベルで移動するので捜索難航中との連絡は入っています」

 今もこうして話している間にも捜索に当たっているゴドラが『どこ行ったのよぉおッ!!』と叫ぶ後ろを『ダッダァ~♪』と上記機嫌に通り過ぎていくダダが頭に過る。

「えぇ~…ずっとこのままでいいじゃ~ん!お姉さんはこのままの姿のユウゴ君がだ~い好きよ♡」

「とっとと元に戻しやがれ…さっきからこのアホがウザい」

 ムカついて額に血管を浮かべるユウゴの身体に抱き着いて頬をすりすりと擦りつけるミオに対して苛立っていた。

「もういっそのことGIRLSでこの子の成長を止める光線とか開発してくれないッ!そのままのユウゴ君を永遠にッ!!―…ぐえっ!?」

 名案とばかりに提案をするミオだったが、そんな彼女の首根っこを摑まえて腕を首に回しガッチリとコブラツイストを決めた。

「元はと言えばお前が元凶だろうが…厄介なヤツをウチの店に連れて来やがって…少しは反省しろッ!」

「グエェエエッ!!ゴメンなざ~い、調子乗りましたぁあ~!!」

 身体を縮まってしまった原因を作ったミオに対して容赦は無かった。

「とにかく、一刻も早くダダさんを引きずり出して元に戻す方法を聞き出しましょう」

「そうですね、今のユウゴさんには親しみやすい感じはあっても…ユウトトでしか味わえない栄養があります!」

「そうだね、ウインちゃ………ユウトトって何ッ?」

「いや寧ろトトユウ…先生こそ寧ろ攻め…いや、ここは大胆にユウゴさんの押しの強さを…」

「人の肉親で変な妄想しないでッ!」

 明らかに別の主観で元に戻れないユウゴへの問題を抱えているレイカに顔を赤面しながらアキは彼女の妄想する世界から元の世界に引き戻そうとした。

「正直、ボクもこのままのお兄ちゃんは嫌です」

「アギアギ…そうですよね、お兄さんが心配で…」

「いや、一刻も早くボクのジャージを返してほしい…血生臭い匂いが移る」

「人を悪臭みたいに言うんじゃねぇ」

 アキが最も気にしていたのは身体が縮んだ影響で着れる服が無いユウゴに一時的に貸し与えているアキのGIRLS指定運動着で何とか凌いでいることだった。

「その恰好のままで料理とかされると汚れるじゃん…落ちないシミとかつけないでよ」

「知るかッ!…大体、テメェの汗染み着ている俺の方が迷惑だ…特に脇あたりとか不快の極みだぞ」

「余計なこと言わなくていいから早く元に戻ってよッ!!」

「うるせぇッ!元に戻れるならとっくに戻ってるわ!」

 互いに一歩も譲らぬ兄妹同士の口喧嘩が始まりそうになるユウゴとアキを目にしたトモミは腕を組んで『うぅ~ん』と唸りながら考え込んでいた。

「そうですッ!…ダダ主任が見つかるまで、アギアギのお兄さんには今日だけGIRLSで過ごしてもらいましょう」

「はぁ?」「ええええッ!?」

 唐突なトモミの提案にユウゴは首を傾げ、アキは驚愕する。

「なんでですか、ピグモンさんッ!?」

「こうなったのも東京支部の責任です…代表代理の私が責任を持ちますのでアギアギのお兄さんにはアギアギを始めとしたGIRLS内に所属する怪獣娘さんたちの日常を体験してもらってください」

 言い争い二人を見かねたトモミの提案に対して半ば強引ながらもダダが見つかるまでに何とかユウゴをGIRLS内で匿う事を代理権限で決定させた。

「ピグモンさん…ここがどんな場所なのか分かっていて言ってます? ミクちゃんやウインちゃんはともかく…特にゴモたんあたりの人たちにバレたら…」

 ここは怪獣娘の花園、GIRLS東京支部…アキが恐れているゴモたんことゴモラの怪獣娘ミカヅキを始めとした他の怪獣娘たちに今のユウゴを鉢合わせるわけにはいかないと考えるが…―ガチャンッ!

「ゴモたんがなんだってぇ~?」

 タイミング悪くアキたちが話し合う場にミカヅキが入って来た。

「ごっ…ゴゴゴッゴモたん!?…どうしたのッ?」

 アキは思わずユウゴと重なるように彼を隠してミカヅキの前に立ち塞がった。

「なんか外からウチの名前が聞こえたような気がしたでぇ~…なぁ~に隠しとんねぇん、アギちゃん」

「なっ、なななっ何も隠してないって…」

 バレバレな挙動不審がかえってミカヅキを刺激する。グイグイと強い押しに負けそうになる中で隠し通すのにも限度があった。

 しかし…

「おっ、なぁ~んや新しい新人ちゃんかいな?」

「へっ?」

 身体が縮んだ姿のユウゴを目にしたミカヅキからは今の童顔なユウゴがGIRLS指定運動着を着用していることも相まって新たな怪獣娘と認識されているようだった。

「そっ…そぉ~だよ!今日“だけ”東京支部で一時的に預かる事になった怪獣娘さんなんだぁ~…だ・よ・ね!」

「あぁ?誰が怪獣娘だ…もがっ!?」

「そっ、そうです、そうですぅ~!」

「れっきとした怪獣娘さんだよぉ!」

「ちょ~っと、男勝りな子だけど…仲良くしてあげてぇ~」

 余計な事を言いそうになったユウゴの口を右からレイカ、左からミク、上からミオが両手で、3人が口を押さえ噤ませた。

「へぇ~…なんか…どことなくアギちゃんと似てるよねぇ、どういう関係?」

「うっ!…そっ、それはぁ~…」

 思わぬ指摘と質問に対しアキは余計に言葉が濁りそうになった。

 しかし、そこへ後方支援として矢を飛ばしたのはミオだった。

「そっ、そうなのよぉ~…私の知り合いの子で、アキちゃんとは遠縁の親戚筋の子だから隔世遺伝的なアレでちょっち似てるだけよぉ~…そうよね、アキちゃん?」

「そっ…そうなんだよ…ボクとは1歳違いの従妹みたいなものかなぁ~」

 助け舟に乗りきるためアキは便乗した上でどさくさに“年下”扱いで紹介した。

「ふぅ~ん…んで、名前は何ちゅうの?」

「ぎょッ!?…なっ、名前…名…なまえ…ええっと~…」

「なんで親戚なのに覚えとらんの?」

 名前など考える暇などあるはずもない。苦し紛れに適当な名前を考えてもユウゴが合わせきれるはずもなく…

 思い付いた先は…

「そっ、そんなに会う機会が無かったから…あっ、そうそう思い出したよ! ユウナだ、遠縁の親戚のユウナちゃんだよぉ~!」

「モガァアアッ!?」

 アキが咄嗟に思い出したのは『ユウナ』と言う女性名だが、その名前に対して当のユウゴは押さえられている口から声が漏れるほどに何か強い反応を示していた。

「へぇ~…で、どんな怪獣の魂を宿しとるん?」

「かっ…怪獣の魂ッ!?」

 迂闊だった。最も重要な怪獣の魂を宿した女性として扱うには『何の怪獣娘』であるのかも考えねばならなかったが…

「それはまだ検査中なのですぅ~」

 ここへトモミが誤魔化しに加わってくれた。

「それよりもゴモゴモォ~ 今日はレッドンとスパーリングの予定では~?」

「あぁ~、せやったけどなんかこっちの方が面白そうやからレッドちゃんにも伝えてこよぉ~ッと!」

 ミカヅキはヘラヘラと嬉しそうに駆け足でレッドキングことベニオと待ち合わせている場所に向かっていった。

 唯一の懸念対象が居なくなってホッとしたアキたちは同時に深い溜め息を吐き出した。

 更に、アキの元にズンズンと重たい足を運ばせて、アキの両頬をつねって引き延ばした。

「ふやぁッ!?何するろらぁ…」

「何をしているのはオマエの方だよ!…なんでよりによって“おふくろ”の名前なんだッ!?」

 身体が縮んだユウゴにつけられた『ユウナ』と言う名前は実のところアキとユウゴを生んだ女性、すなわち母親の名前であった。

「『ユウナ』さんって…アギちゃんたちのお母さんの名前なんだねぇ…」

「意外ですね…それを咄嗟にユウゴさんに宛がわれるアギさんもすごいですが…」

「私も…久しぶりに聞いたわ、その名前…」

 初めて聞かされたアキとユウゴの母親の名前の『ユウナ』に対してミクとレイカは驚き、ミオはその名を懐かしむ様子だった。

「仕方ないでしょ!咄嗟に思いついたのがソレしかなかったんだから…」

「ふざけんな! なんでよりによっておふくろと同じ名前を選ぶんだ…テメェはバカなのか? バカだったんだな!!」

 その場をしのげたのは良かったが、ユウゴは何やら『ユウナ』と言う名を無理矢理つけられたことに酷く感情を露にしていた。それはどこか拒否反応とも取れるような感情であった。

「まぁッ…まぁまぁ、この見た目でも怪獣娘って通せたんだし…良かったんじゃない?」

「よかねぇよ…なんで俺がおふくろの名前で偽りながらココに居なきゃなんねぇんだ?」

 何とか話題を切り替えようとしたミオはユウゴの両肩に手を添えた。

「仕方ないでしょ、大体…アンタって顔立ちはユウナさん似なんだから、ホラッこうすればもっと似てるわよ」

 そう言ってミオはどこから持ち出してきたのかユウゴの髪色と同じ黒髪のロングヘアウィッグを頭に被せて見せた。

「ホレッ…手鏡」

「こんなんで誤魔化せるわけ……えっ、おふくろッ?」

 頭に黒髪のロングヘアウィッグを被らされたユウゴは渡された手鏡で確認するなり自分の母親と間違えるほどに顔が似ていることに驚いた。

「すごい…ボクも驚いたけど、お母さんソックリ」

「ほほぉ~…コレがアギちゃんたちのお母さん…」

「すごく…美人さんですねッ! 元がユウゴさんとは思えませんよ!?」

「とぉ~ってもお似合いですよぉ…寧ろ、羨ましいくらいですぅ~」

 それぞれが髪の伸びた状態のユウゴに見とれる中、ユウゴにはそれでも自分がより母親似であることが耐え難かったのかウィッグを取り外した。

「まさか髪を伸ばすと自分が母親に似ていると言う気持ち悪い現実を知らされるとは…」

「うふふっ、今のこの状態だから為せる姿だったのに~…アンタって素材をもったいなくさせるわね」

「うるせぇ…二度と御免だ、自分が母親と同じ顔になるなんて…」

 一日中女性として振る舞うより母親と同じ顔立ちになることを強く拒否するとばかりにロングヘアウィッグを床に叩きつけた。

 しかし、こんな状況であっても去った嵐は別の嵐を引き連れて戻って来た。

「レッドちゃん、こっちやで!」

「おう、お前ら! ゴモラから聞いたぞ、新しい怪獣娘が来たんだって?」

「なんでアタシまでぇええッ!?」

 ミカヅキは既に怪獣娘としての姿ゴモラに変身してレッドキングと彼女の手に首根っこから掴まれ引きずられながらやって来たザンドリアスまでもがゾロゾロと集まって来た。

「おう、オマエが新人の怪獣娘か?…なんかどことなくアギラに似てんなぁ…」

「アギちゃんの親戚なんだってぇ」

「へぇ~…なんか黒いアギラさんって感じぃ~」

「くっ…黒い…ボクッ!?」

 並べて比較されても背格好が同位のアキとユウゴは目と顔のパーツが殆ど変わらぬため印象的には『似ている』と言った印象がやはり強かった。

「けど、アギラよりかは体格が意外といいな なんか男みてぇな体付きだな!」

 レッドキングがバンバンとユウゴの背中を叩きながら『男みたい』と言われている様を目の当たりにした事情を知る一同は内心ドキッと身が震えるような思いだった。

「気安く触んな、馴れ馴れしい…」

 しかし、そんな荒々しいレッドキングに対してイラついたのかユウゴの口調が荒くなったことに事情を知る一同を更なる動揺が走った。

「おう?なんだ、結構な跳ねっ返りじゃねぇか…意気込みは買うがここじゃぁ通用しねぇぜ」

 何を勘違いしたのかレッドキングはえらく身体の縮んでいるユウゴとも知らずに彼を気に入ったようだった。

「これからオレたちGIRLSの一員として相応しいか…テストさせてもらうぜ!」

 不敵に笑みを浮かべるレッドキングが考えているテストとは一体何を指すのか…レッドキングは後ろに手を回して取り出したのはソウルライザーだった。

「まずはお前がどんな怪獣に変身できるか見させてもらう…ホレ、コレで変身して見ろ」

 そう言って自前のソウルライザーを貸し与えて見たが…

「フンッ、バカバカしい…俺は帰る」

 呆れ返って面倒ごとに巻き込まれたくない気分になったユウゴはその場から帰ろうとした。

「あっ、おいッ待てよ! どこ行くんだッ!!」

 勝手に帰ろうとしたユウゴを引き止めようとしたレッドキングは彼の肩を掴んで見たが…

「おっ…おおっ?…おいおいおいっ!?止まれぇええ!!何だコイツ、ブルドーザーかッ!?どこにこんな力があるんだよッ!?」

 怪獣娘であり相当な握力と怪力を有するレッドキングがズルズルと引きずれるほどにすさまじい牽引力にレッドキングを始め全員をも驚愕させた。

「レッドちゃん!手伝うでぇ!!」

「あたしもっす、先輩!!」

 大怪獣ファイター3人がかりでユウゴを引き止めようとしたが…ものすごい力で何ら苦悶の無い表情で会議室の扉まで近づいて行った。

「待って、待って! おにぃ…じゃないや、ユウナ!付き合ってあげようよ!」

「茶番に付き合う義理は無い…おとなしく店で待っている」

 アキたちの静止を振り切ってユウゴは会議室を出て行った。

 

 

―GIRLS東京支部内―

 

 会議室を出たはいいもののユウゴは難題に直面した。

「ここは…どこだ?」

 それはユウゴ自身がGIRLS東京支部の内部をよく理解していない事だった。

 数度だけアキと一緒に歩いたのは覚えているがそれは施設順路を把握しているアキと共に行動していただけでこと1人になると余計に分からないものだった。

(山道や平原の見取りならわかるんだが…どこか地図みたいなのは無いのか?)

 GIRLS東京支部自体が高層ビルに看板を掲げている施設であるためエレベーターですら乗り換えをしなければ出入りもままならず、中には専用のIDも必要なためレッドキングやアキたちGIRLSの怪獣娘が持っていたようなソウルライザーが必須だったりもする。

(クソ…下手に動けば余計に迷いそうだ)

 困ったユウゴは一旦止まって冷静に考え問題に対処するしかなかった。

 しかし、そんな静止したユウゴの背後に曲がって右からやってくる人物が2人いた。

「アンジェリカさんがGIRLSでの活動が出来る様になってうれしいです」

「そう言ってもらえて助かる、カナ…まだ公安の監視下にはあるが今は私の生活範囲内の上で許可してもらっている、仕事もその一環だ」

 それは傭兵時代に僅かながら関わり合いのある怪獣娘マグマ星人ことアンジェリカ・サーヴェリタスと同じく怪獣娘ローランの星江カナだった。

 立ち位置的にユウゴに一番近づいていたのはアンジェリカだ。

 ここに一つ物理の問題を提示するとしよう。

 固定された約100キロの鉄塊に推定秒速0.8から1メートルで転がってくる鉄塊より大きめのバランスボールが存在すると仮定する。一方は変化しない物質、もう一方は弾んだり、へこんだり、形が自由自在に変わる物体、互いに正反対の性質の物体同士がぶつかり合う瞬間に生じる結果がどうなるか…

―メゴッ…

「んっ?」

「ぐぇええええええッ!?」

「アンジェリカさんッ!?」

 結果は……激突したバランスボールに鉄塊がめり込む。

「ちょっとおにぃ…ユウナ、どこにいくの…って、ええええッ!?」

 会議室を出て行ったユウゴを追ってアキがユウゴの向かったと思われる通路に辿り着くとそこに飛び込んできた光景は背が縮んで体格小さなユウゴの上にアンジェリカが腹部から胴体に掛けて宛らユウゴと言う岩に乗りあがった状態で気絶すると言う何とも言い難い光景を目の当たりにしたのであった。

「一体どういう状況ッ!?」

「アッ、アギラさん!アンジェリカさんが…アンジェリカさんが見知らぬ人とぶつかって岸壁に打つ上げられた魚みたいになっちゃいましたぁあ~!!」

 その横ではどうしていいのか分からずに涙目になるカナと言う大変カオスな状況だった。

「出ていくなり早速問題を起こさないでよ!」

「知るか、コイツが勝手にぶつかってきたんじゃい…んで、コイツどうすんだ?」

 ユウゴは自分の頭の上で意識を失っているアンジェリカの腹を掴んで軽々と持ち上げた。

「ちょっと雑過ぎるよ!…とりあえず医務室まで運んで!」

「まったくいい迷惑だ…このポンコツ女に関わると碌な事にならん」

 女性と言えど大柄な体格でもある成人女性のアンジェリカを片手で持ちながら丁重とは良い難い運び方だった。

 

―医務室―

 

「…とりあえず、このまま寝かせておきましょう」

 医務室に在中する保健衛生担当と怪獣娘精神療法士も兼任する自身もGIRLS内の怪獣娘であるメトロン星人の百地メルは気絶するアンジェリカをベッドに寝かせ、ソッと彼女の首元まで掛け布団をかぶせた。

「あっ、あの…メトロン先生…その~…」

「はいはい、この事は黙っておいてあげるけど…正直なんでこの人の横隔膜位置に強烈な打撲痕があるのか理解に苦しむけど、相当硬くて大きめの岩とかに激突しなければできないわよ」

 アキが深々と面倒と迷惑をかけたことを謝罪する横でその相当硬くて大きめの岩くらいの物体は平然と悪びれる様子もない顔つきは静観だった。

「私はこのままアンジェリカさんが起きるまで傍に居ますので…」

 次にカナにも深々と頭を下げたが、同じく全身鉄塊並みの強度を誇る歩く鉄の塊は変わらぬ表情で静観だった。

 

―トレーニングルーム―

 

 GIRLS東京支部内で最も運動利用率の高い空間にユウゴを押し込めてGIRLSの怪獣娘たちは彼が逃げない様に囲っていた。

「なんで俺がここに…」

「おうおうッ! 今日一日だけオレたちが面倒を見てやるって言うのに早速問題を起こすたぁ~どういう了見だぁ?」

 なぜかチンピラ口調でユウゴに対して面を切るレッドキングは鋭い目つきで睨みつけて握りこぶし同士をパンッと打ち付けて威嚇していた。

「お前は野生動物か?…今時、動物園のサルでもおとなしいだろう」

「随分と口が回るようだなぁ おぉん?…見栄を張るのも今の内だぞ、これから始まる地獄にお前は音を上げるだろうよ!」

 宛ら試合で相対する対戦相手への挑発トークだ。その傍ら誰よりも喜ぶ者がいた。

「レッドキングさんッ!思いっきりやっちゃって下さい!!何なら懲らしめてください!!」

「アギちゃん…」

 誰よりもユウゴを目の敵にしてほしいと願うアキに彼女と特に親交深いミクたちを戸惑わせた。

「まずは腕立て! そのあとに幅跳び! 最後に垂直飛びだ!」

 それは怪獣娘の身体能力を見極める3コンボのトレーニングだった。レッドキングがトレーニング指導に参加する際に抜き打ちでアキとミクとレイカも同じようにこのトレーニングルームで毎回行わされている。

 特にアキは彼女が課すトレーニングであまり結果振るわないのも痛い記憶だ。

「まずは腕立て伏せッ!!」

 レッドキングが竹刀を手に厳しい目線で最初に行わせたのは最もポピュラーな腕だけで上体を上げ下げする運動だったが…

「フンッ!」―バキッ!

「オワッ!?」

 力いっぱい身体を起こそうとした拍子にユウゴの両腕で押し込んだ床が薄氷の如く脆くも陥没させられた。

「つぅ…次だ、次ッ!! 走り幅跳び!!」

 次に行わせたのはトレーニングルームの床に貼られたシールテープの目印から勢いよく飛び越えて距離を測る運動だが…

「フンッ!」―ズドォオオンッ!!

「うわぁああッ!?」

 本来は運動場の砂場で測るべき測定法だが、ユウゴが飛び越えたのは助走なしで約9メートル…この時点で既に世界記録を大幅に超えているが、肝心の跳んだユウゴは床を突き抜けて見事なまでに埋まっていた。

「……何見てんだ、早く引き上げろ」

 床に埋まった状態のユウゴは自分の重さで空けた穴から這い上がれないため、アキたちに引き上げてもらおうにも…彼女たちはその滑稽な状態に笑うのを堪えるのに必死だった。

「……もっと大きな穴を空けて下の階まで貫通させるぞ」

「わりぃわりぃ…次は垂直飛び、行ってみようか」

 レッドキングの手を借りてようやく這い出た後に最後の垂直飛びを行うのであったが…

―ズゥドォオオオオンッ!!…パラパラッ…―

 コレも見事に垂直目盛を超えて天井を突き破り上の階と直結させるほどの大きな穴を空けた。

「うぉっ!?だっ、ダレェエエッ!?」

 上の階は音楽室となっていてギターの練習に明け暮れていた怪獣娘ノイズラーことミサオは床から突如に人が生えてきたと錯覚させるほどの突然の出来事に困惑した。

 

 

「一体コレはどういう事でどういう状況なんですかぁああ!!」

 両手に握って拳を天高く掲げてプンプンと怒っているとする最上位の表現ながら可愛さのせいで伝わらぬ怒りを露にするトモミだった。

「でっ、でもよぉピグモン!コイツ、すんげぇ~んだぜ…これだけの身体能力、きっと全怪獣娘を軽く超える身体能力だってわかってなぁ…」

「そんなこと聞いているんじゃありません!!なんでGIRLSのトレーニングルームを穴ぼこだらけの虫食い状態にするようなことになっているんですかぁああッ!!」

 かなりの声を荒げて叫ぶトモミは今まで出したこともないような声量を出して激怒した。

 無理もない、東京支部屈指の頑強なトレーニングルームは今や穴の空いたチーズも同然の有様だった。

「レッドン!ウチはもう“本部”じゃないんですよ!!…いくら何でもこれほどの状態にするなんて…また予算が削減せざるを得ないじゃないですかぁああッ!!」

 トモミが怒る理由は支部内の財源予算に関わる損失と消費に頭を悩まされていた。

「前々から思ってたけどなんなんだ、その本部と支部の違いってなんなんだよ」

 支部運営にあまり関わらないレッドキングが前々から疑問に思っていたことをトモミに尋ねた。

「うっ…そっ、それは…」

「お前らが所属するこの組織は国際機関が運営する組織でも本営と下部で分けて違う運営方針と言う事だろう」

 この疑問に答えを投げて来たのはユウゴだった。

「国連には国連憲章に基づいて組織されている安全保障理事会や国際司法裁判所などの主要機関があるが、お前ら国際怪獣救助指導組織っていうのは曰く国連内の専門機関に過ぎないと言うことだ」

「こくれんのせんもんきかん~んっ?」

 ユウゴの言っていることにチンプンカンプンな表情で首を傾げるレッドキングだったが…

「つまり…専門機関は国連に加盟する国からの分担金で賄われている 莫大な金額であってもここの組織の様に手広く本部支部で枝分かれしている組織ならなおさら配当は支部に届くまで微々たるものだろう?」

「よっ…よくご存じで…実は今季より東京本部であった私たちのココは支部に格下げられて予算があまり付かなくなってしまったんです」

 トモミは今まで誰にも話せなかったことをユウゴに打ち分けてGIRLS東京支部が抱える現状の問題である『組織地位』と『組織予算』の問題が彼女を苦しめていた。

「なんで本部だったここがそんな状態になっているんだ?…大まかな原因はわかっているのか?」

「はいぃ…実は今年に入ってシャドウ絡みの事件で怪獣娘が行う対応が減少した事と先月に発生した不審者騒動で本部機能は日比谷に移って、東京支部であるココは予算削減により――」

 トモミはいままで誰にも相談できない運営基盤に関わる問題をユウゴに話し始め、仲の良い怪獣娘たちとはそっちのけで2人にしか分からない内容の話がドンドン進んで怪獣娘たちが付いていけないような難しい話になって言った。

「なんか…すごいね、アギちゃんの親戚ちゃん」

「えっ!?…ああぁ、うん…ボクもあんな饒舌に会話するところ見たこと無いけど、たしか投資とかやってるって言ってたような…」

 アキは初めてレッドキングたちがユウゴの店に来た時に覚えていた話の中に得意分野として投資関係を上げていたのを思い出した。

「年間予算はどれくらいだ?…見せて見ろ」

「えっ?…ええっと、部外者にお見せするのは気が引けますけど…こちらになります」

 トモミは手持ちのタブレットで年間予算のデータ推移をユウゴに見せて見たが…

「なんだこれは…全部アメリカドルで送られてきているのか?…これじゃぁ予算なんか付くはずねぇだろう」

「どうしてですか?」

「ここの大土台は日本国だ…当然、アメリカドルから日本円に換金するには日本銀行が発行する日本円貨幣に換金しなければならん…いくら多額の予算が送られてきても一定金額しか日本銀行は日本円を発行できない 特に今は円安中に余計発行すれば円の価値が暴落するから国も発行数を渋るに決まっている」

 GIRLS東京支部に予算が付かない原因は予算事態がアメリカドルで運用されている状況にあった。

 国際的専門機関とはいえ組織がその国で運営するにはその国の貨幣が必要になる。例えばGIRLSが運用するソウルライザーの部品などを日本で必要分を調達するにも日本円が必要だが、ドルでは日本国内の部品購入は不可能…そうなればドルが使える他国から輸入するしかなく、陸続きでない日本へ届けるには空輸か海上輸送しかない現状へ更に拍車をかけて関税もかかるため従来よりも値段が吊り上がるためコスト超過が発生する厄介な状態だった。

「いままで節約続きで色んな部分に金がかけられない状態だったんだろう…見る限り無理もない」

「お恥ずかしい限りですぅ…怪獣娘のための組織として存在する東京支部なのに面目がありません」

「ふぅん…何とかなるかもしれん」

「えっ…ほっ、本当ですか!?」

 ユウゴの提案にGIRLS東京支部が抱える予算問題に打ち止める思案がユウゴにはあった。

「いくつかの外資系企業にあたってココの支部に必要な商品などをアメリカドルで買う際に日本円でおつりに出させれば必要な物質を日本国内にストックしている外資系企業も多いから国内で購入も出来るし、日本円の予算を確保できるぞ」

「…それならどういった企業なら良いでしょうか?」

「アメリカドルは流通する国も多い貨幣でもあるし、どこも喉から手が出るほど欲しがると思うが…あぁ、筋肉ゴリラんトコの『ACI』なんか買え揃えできるぞ」

 次々と問題が解決されていく様を見ているしかできない怪獣娘たちは蚊帳の外だった。

「すっ、すごいっすね…アギラさんの親戚ってぇ」

「お前の親族って一体なんなんだ?」

「ボッ、ボクに言われても…」

 最も近しい関係のアキでさえ兄が見せない意外な一面に驚愕していた。料理がうまかったり、投資に詳しかったりと自分には無い高スペックな点があると身内である自分が小さくされたような気分だった。

「ご相談に乗ってくれてありがとうございます」

「いやなに…俺もここの施設を穴だらけにした詫びだ」

 トモミが今まで誰にも相談できない話をユウゴはいとも簡単に解決してみせた。

「すごいや~ん、アギちゃんの親戚ちゃ~ん!! ご褒美にゴモたんがワシワシのゴッシゴシにしたるでぇ~!!」

 そこへすかさずコミュニケーションモンスターのゴモラがアキにいつも向ける過度なスキンシップと称した接触を図って来た。

「うりうりうりうりぃ~!!アギちゃんより小さくてかわええなぁ~……あれ?この子、こんなん小さかったか?」

 自分から触りに来たゴモラは弄るユウゴの身体に違和感を覚えた。

「ダァ~ウッ…」

 それは…頭1つどころではなく、小柄なゴモラの半分にも満たない小さな幼児だった。

「アギちゃんの親戚ちゃんがちいちゃくなってもぉおおたぁああッ!?」

――えええええええええええッ!?――

 その場に居る全員が声を揃えて驚愕する異常事態であった。

―バタンッ!!―

「みんなぁああ!!おまたせぇええ!!」

「捜査課ゴドラ、ただいま戻りまし…たぁあッ!!」

 ソコへミオがゴドラと共に2人がかりで抱えて連れて来た簀巻き状の人物を投げ入れた。

「ダッダァァアアアアッ!!」

 それは縄で簀巻き状にされ芋虫の様にウネウネと動くミクロ化機を開発したダダだった。

「ダダ主任ッ!一体どういうことですかッ!? なんでより更に縮んじゃっているんですかッ!?」

 トモミは簀巻きのダダを起こし上げてユウゴに起きた変化を追及した。

「ダッダ~…あのミクロ化機は試作品ダダ 肉体を巻き戻すってのは相当に負荷がかかるため肉体時間の追逆行が発生していると考えられるダダ…試験的に3年前を目安に設定していたつもりだったが、結果的に計算した限りだとモルモットくんの実年齢は推定で2~3歳児くらいになったんダダァ~、副作用に言語機能と思考が当時の年齢と同等になってしまったんダダよ」

 言葉も碌に喋れず、意識の中の性格がユウゴの2~3歳児に変化したことが原因だったが…

「ちょっと待ってッ!?…縞々のマッドサイエンティスト、あんた今ユウゴ君が2、3歳当時の状態になったって言ったわよね?」

 トモミに代わってミオがダダに巻き付く縄を掴み上げて彼女が言ったことを確認した。

「そうダダよ…今やモルモットの年齢は2、3歳児も同然ダダッ」

 ダダからの回答を聞いたミオは血相を変えて青ざめた表情でぎこちない錆びついたブリキ人形の様に首を回した。

「みっ、みんな…その子から離れた方がいいわ」

「どうしたんですか、ミオさん?」

 15歳の姿に戻った時のはしゃぎたおしたミオから打って変わって2,3歳児ほどに姿が変わったユウゴに対してどこか恐れているような表情だった。

「いいから離れてェッ!!その子はもう、ただの幼児期の可愛いらしい子供とかじゃないわ…2歳当時のユウゴ君はねぇッ…」

 ガタガタと青ざめた表情と共に小刻みに震える振動がミオの恐怖心を表していた。

 しかし、そんな忠告は既に手遅れであった。

「ブゥウウウウ…」

 

 

―ギャゴォオオオオオオオオオオオオンッ!!―

―パリンッ!ーパリンッ!!―パリィイン!!―

 

 

 特大な咆哮と共に解き放たれた大振動と共に発生するソニックブームがGIRLS東京支部内部の窓ガラスをバラバラと破壊していった。

「うっ…うううっ…何が…起きたの?」

「みっ、みんな無事ぃ!?」

 辛うじて意識を保っていたのはミオ、アキ、ミク、レイカ、トモミとダダだった。

 他のゴモラ、レッドキング、ザンドリアス、ゴドラは音を直で聞いてしまったため失神して意識を失っていた。

「ゴモたんッ!レッドキングさんッ!?」

「遅かったわ…最悪の大怪獣を呼び覚ましてしまった…」

「べっ、ベムラーさん…一体どういう事なのでしょうか?」

 レイカは事情を知るミオにユウゴが起こした惨劇と2歳児となった彼について尋ねた。

「幼児期のユウゴ君は手が付けられないほどに凶悪にして凶暴な幼児なのよ その性格、いいえ…性質とも言っていいものは正に“獰猛”よ」

 凶悪な猛獣…否、怪獣が蘇ったことを暗示する彼女の言葉は誇大でもなく、大袈裟でもない、先ほどの部屋中の窓ガラスを次々に割るほどの大声量がそれを物語っていた。

 その痕跡が今も吹きさらしのトレーニングルームにガラスの破片散らばる惨状が確たる証拠であった。

「っていうか、その幼児になっちゃったユウゴさんが居ないよッ!?」

「大変だぁあ、東京支部内にお兄ちゃんを解き放っちゃったぁあ!?」

「直ちに探すのです!!大惨事になる前に探し出すのですぅう!!」

 慌てて意識のある者たちで逃げ出して東京支部内を徘徊するユウゴを見つけ出すため大急ぎで走り出していたが…

―キャァアアアアアッ!!―

「しまった! 既に被害が…」

 時、既に遅しと悲鳴があがって急ぎ悲鳴のする方へと全員向かった。

 

 

―医務室―

 

 駆けつけたソコに広がる光景は惨状と惨劇が繰り広げられたかのような“事件現場”であった。

 医務室ベッドから落ちて足だけがベッド横から出ている状態となったアンジェリカ、包帯を顔面にグルグル巻きにされた状態のカナ、何らかの医薬品の液体とガラス容器の破片が散らばってうつ伏せの状態で床に倒れているメル…その手にはマジックを力一杯握りしめて意識ある内の最後のメッセージとして『ようじ』と書かれていた。

「既に手遅れだわ、コレッ!?」

「どっ、どうしよう…このままあんな凶暴なお兄ちゃんを野放しにすると…東京支部は壊滅だよ!?」

 悲惨な惨状を目の当たりにしたアキたちだったが懸念は既に予想の範疇を超えて既に拡大していた。

―イヤァアアアアアア!!―

「大変だ、また犠牲者が…」

 今度は別の方から悲鳴が起きてすぐさま駆けつけて行った。

 

 

―食堂―

 

「しっかりして、ユリカ!…ユリカァア!!」

「あっ…あっあっ…私の…私の骨付き肉が…」

 食堂内のテラス席で膝を付いて意気消沈する巻き髪の少女に眼鏡をかけた少女が彼女の意識を戻そうと左右に揺さぶった。

「一体どうしたのッ!?何が起きたのッ!?」

 ソコへ駆けつけて来たアキたちが惨状を問いただした。

「急に変な子が飛び出して来て…ユリカが楽しみにしていた骨付き肉を骨ごと食べられて…」

「アレ、骨ごと食べちゃったのッ!?」

 ミクが驚くのも無理は無い。東京支部内に併設された食堂の裏メニューには肉食系怪獣娘たち御用達の『特製チキンケーキ』なる単純な発想で考えたような唐揚げタワー…総カロリー数千越えのカロリーモンスターをものの一瞬で平らげる大食漢ぶりは最早通常の幼児の域を超えていた。

「これだけ暴れまわっているのに…無限の体力過ぎないッ!?」

「でっ、でも…こういう話の展開って、時間と共に身体がドンドン小さくなればおのずと幼児から赤ちゃんになっていくんじゃ…」

 恐ろしくもあり、安心できるかのような考えだったが…

「それは無いダダ」

 安直な考えをするレイカの意見に指摘の言葉を投げたのは諸悪の根源たるダダだった。

「ダダが考案した『ミクロ化技術』は元々ソウルライザーの技術の応用ダダ…見た目こそ怪獣で中身が人間の怪獣娘同様、被検体は幼児の姿形を形成しているだけで中身はれっきとした元の被験者ダダ だから元の体重だけは変わらない、時間的逆行が進むにつれて姿形が幼児の姿から遺伝子上の祖先と同じ姿になる…言ってしまえば人からサルに退行するだけダダ」

「「「「「もっとダメェエエッ!!」」」」」

 あの凶暴なリトルモンスターから更に手に負えない存在へと変化すると今更になって言い出したダダにユウゴが幼児姿から原始人変わってしまう想像が過った全員がそんな姿になることを拒否した。

―ガシャァン!

 そんな中、食堂の奥にある厨房から何か大きな音が響いた。

「いっ…いる…よね」

「間違いなく…ユウゴ君だわ」

 恐る恐る厨房に回り込んでそっと中を覗くとそこには出刃包丁をプルプルと震える両手で前に向ける厨房調理師のガルタンがガクガクと怯える視線を向ける先にヤツがいる。

「がっ、ガルタンさん…こっち、こっち」

 ミクが先行して厨房裏口からガルタンを逃がす為に手をこまねいて誘導するとガルタンはその合図と共にそそくさと逃げられた。

「いまです!…お兄ちゃん!!もう暴れまわるのはやめてッ!!」

 アキたちは即座に逃げ道を塞ぐかのようにユウゴが居ると思われるガサゴソと音を立てながら大型冷蔵庫内の食材を物色している人影に囲い込んだが…

―パリボリッ…―ゴガァアアッー?―

 冷蔵庫内の食材を貪り食うその姿はクリッとした大きな目に浅緑色の体表、モノを掴むよりも抱えるに適した太い手つきと重心しっかりと踏みしめる太い足、臀部には短い寸足らずの尻尾…その見た目まさに恐竜の赤ちゃんのような姿にユウゴは変わっていた。

「えっ?…おっ、お兄ちゃん…なの?コレ?」

「ちょっと!アンタこれは一体どういう事なの!?私の可愛いユウゴ君はどこ行っちゃったのよ!?」

 身内であるアキとミオですら困惑させる豹変ぶりにミオがダダにどういうわけなのか簀巻き状にくくっている縄を掴み上げて問いただすも…

「知らん 何アレ、こわッ…」

 語尾の『ダダ』すらも忘れる衝撃に当の本人ですら理解が追い付いてなかった。

「なんか子供番組のマスコットみたいな姿ですよ…アレ」

「まっ…まぁ、アレはアレで愛嬌がありそうだよね」

 良い風に言ってはいるが幼子よりも厄介な姿になったことで捕獲がより困難に拍車をかけていた。

「どっ、どうしよう…あんなお兄ちゃん、ボクだってイヤだよぉぉ…」

「こっ…こうなったら、皆さん!緊急事態なので新機能を解禁いたします」

 トモミは手持ちのタブレットに急いで管理者権限を活用してデータを解除するとアキ、ミク、レイカの3人が所持しているソウルライザーにデータを転送して新機能が彼女たちの画面内にアプリとしてインストールされた。

「これって…『ソリッド怪獣』の?」

「そうなのです!その機能で皆さんの怪獣さんを1分間だけ呼び出せます!!」

 昨日の実験で実施試験をクリアして間もない新機能を活用してアキたちのアギラなどのソリッド怪獣を呼び出してユウゴを押さえようと言う作戦に切り替わった。

「よぉ~し…たのんだよ、アギラ!」

「いっけぇ~!ミクラス!!」

「お願いします!ウインダム!」

 昨日の試験時の要領で『ソウルライズ』と叫びながら画面をタップするとソウルライザーの画面が光輝きだしてアキたちの身体から細かい粒子状のエネルギー体が生成されアキたちの中に宿るカイジューソウルから怪獣が出現するのであった。

―キュゥワォオン!!―

―ゴガァアアアア!!―

―ガァアアアアア!!―

 試運転とは言えハッキリとその形状と質感は本物に匹敵するほどの精巧な作りで現れたソリッド怪獣たちにアキたちは感動を覚えながらもソリッド怪獣たちは恐竜の赤ちゃんのような姿に変わってしまったユウゴに向かって行った。

「頑張れ…アギラ!」

―バキンッ!…―ガギャァアアン!―

「うげっ!?今の…痛そぉお…」

―ボゴンッ!…―ゴガァアアゥン!―

「ひぃっ!?酷すぎますぅうう…」

―チュドン!!…―ガァアアアア!―

「ハワワッ…なんか変な輪っかみたいなモノを口から出しましたよ!?」

 トモミたちの間の前で繰り広げられた戦いは…一方的だった。

―キュゥウン―クゥウン―ガッガッ―

―ガブブブゥゥウウッ!―

 カプセル怪獣アギラ、ミクラス、ウインダムを相手取って3体の怪獣の山を形成してその上に王者と君臨するかのように怪獣の暴君と化したユウゴが腰かけていた。

「なんかガキ大将みたい…」

 ミクの言う通り、元の巨大な大きさではなくアキたちと同じ大きさ程度にしか形成のできない等身大のソリッド怪獣はサイズ的に子供の怪獣と言う印象が強く、ましてや相手は幼少期から凶暴性と怪獣としての体質性が桁違いのユウゴ、その構図は弱肉強食のヒエラルキーを現しているかの如くだった。

 当然、負けたソリッド怪獣たちは粒子が分解されて消滅した。座っていた椅子代わりが無くなったユウゴは背中から転がった。

「ソリッド怪獣、全然ダメじゃん!?」

「どうしよう…他に何か打つ手は…」

 昨日の実験で把握している限りでアキたちがソウルライザーでソリッド怪獣を呼び出した後にソウルライザーの冷却が数分間必要なためソウルライザーで怪獣娘に変身する事が出来なかった。

「やれやれ、みんなダメダメね…ここはお姉さんに任せなさい!」

 一挙手の声を出したのはミオ、その手にはトモミから借りたソウルライザーを構えていた。

「ソウルライド!ベムラー!!」

 今度は怪獣娘としてミオがベムラーに変身を遂げて見せた。

「ミオさん、何か策があるんですか?」

「まっかせなさぁ~い…これでもユウゴ君のおしめだって替えた事だってあるんだから…プリチーな恐竜の赤ちゃんになろうが筋肉モリモリマッチョマンになろうが等しく私にとっては可愛いユウゴ君! 大事な弟も同然よ」

 中々の自信を掲げる中、恐れもなくジリジリとユウゴに近づいて両手を広げながら近づいていくベムラーは『自分は無害』と言うアピールをした。

「よぉ~し、よぉ~し、怖くなぁ~い、怖くなぁ~い…ワタシ、キミ、マイブラザー、アンダースタン?」

 歩み寄ろうとしていくベムラーに対して大きな頭を傾けて不思議そうな眼差しのユウゴだったが…とうとうその距離も触れ合える距離まで近づけたが…

―ガブッ!!―

「あああああああッ!!ミオさんが頭から食べられたぁああ!!」

 健闘空しく幼い子供の物を口にすると言った誤飲行為の犠牲となったが…

「ダイジョーブ、ダイジョーブ!…これ、甘嚙み的なヤツだから…」

 その様子は甘嚙みの範疇ではなく、頭から喰われかけているようにしか見えなかった。

 そして更なる追い打ちがベムラーを襲いつつあった。

「あれ?…なんか急に明るく……えっ、ちょっ…まってユウゴ君、ユウゴ君ッ!…ユウゴくぅぅん!!」

―ボンッ!!―

 口の中で青白い閃光が走ったかのようなエネルギーの漏洩が見て取れる限りでベムラーは口腔内で何らかの餌食を喰らってピクリとも動かなくなった。

「みっ、ミオさんッ!?」

 心配になってアキが駆けつけて見ると気に入らなくなったのかペッと大きな口からベムラーを吐き出すと中から出て来たのはミディアムな色合いの淡い髪色が特徴的だった青髪が宛ら弾けたアフロヘアーに様変わってしまったベムラーだった。

「ケホッ…」

「みっ…ミオさん、大丈夫ですか?」

 プスプスと焦げ臭い匂いと共に爆発させた頭と共にベムラーの顔がクルッとアキの方に向いた。

「思い出したけど…ユウゴくん、オムツ替えの時もおとなしくしてくれるような子じゃなかったわ」

「今更になってそんなこと言われても…」

―グルルルルッ…

「あっ…アギちゃん…」

「ゆっ…ユウゴさんの様子が…」

「えっ?」

 顔を上げてユウゴと思しき恐竜の赤ちゃんはどこか不機嫌そうな表情に変わって段々と骨格が変化していき見る見るその形状は子供番組のマスコットのような形状から本物の獣脚類恐竜を連想させるような形状へと変化した。

―ゴギャォオオオオオンンンンンッ!!―

「「「「「ギャァアアアアアアアアアッ!!」」」」」

 宛ら恐竜パニック映画であった。突如として形状を変化させたユウゴは獣脚類の肉食恐竜としての本能でアキたちを獲物と認識して追いかけまわしだした。

 

 

―東京支部 エントランス―

 

―グルルルルッ…

 もはや映画の中のワンシーンのような状況だった。

 現代に蘇った獣脚類恐竜がGIRLS東京支部内を徘徊する様は非現実的な光景だった。

「どっ、どうしよう…」

「幸いであり、最悪なのは今日の支部内は職員も対応できる怪獣娘も殆どが居ません…ダダ主任!元に戻す手段は無いのですか?」

 打開策を簀巻き状のダダに尋ねたトモミは最早一抹の願いを不本意ながら彼女に託すしかなかった。

「あるにはある…ダダの研究室で改良中のミクロ化機を反転作用させれば退行実体を維持できなくなって元の形状に戻るダダよ」

「その研究室は今、どこにあるんですか!?」

「八王子支部ダダ」

「本気で言ってるんですかぁああッ!?」

 よりにもよって都心の東京支部から離れの八王子支部だった。車でも数時間はかかる距離にあると言う状況にトモミは頭を抱えさせられた。

「お困りのようですね」

「そうなのです…大問題なのですぅ…よりにもよってこんな大事を解決できる手段が……って、ええええッ!?」

「ダグナさんッ!?」

 その場に居る誰もが気づかぬ間に突然現れたかのようなタイミングでダグナがそこに居た。

「ご事情は事前にミオさんから把握しております…コレが御必要なようですね」

 しかも手見上げ持参でアキたちに差し出した。

「それは…ミクロ化機ダダッ!?」

 それはまさに今この状況で最も必要なミクロ化機だ。

「寄越すダダッ!…ダッダダのダァ~!!反転作用調整完了ダダッ~!!」

 縛り上げられていた縄を解かれてからものの数秒でミクロ化機の調整を済ませたダダの天才的な手腕によってユウゴを元に戻す手段が確立されたが…

「問題は誰がコレを使うんダダ?…言っとくがダダは的当てなんてできないダダよ」

 元から大口径の銃火器並みの大きさのミクロ化機を誰があの動き回るユウゴに向けて照射する事が出来るのかが最大の問題だった。

「ここまで来て…どうしよう」

「あたし射的とか苦手だよ」

「私もやったことありません」

「ピグモンも無理なのですぅ」

「私だって銃とか扱った事ないわよ」

 誰一人と出来る者がいない中…

「では、私が助力いたしましょう…こういった代物には慣れていますので」

 唯一の成人男性であるダグナが名乗りを上げてミクロ化機を抱え持ち上げて構えた。

 トリガーグリップを右手で握りしめ、銃身部に取り付けられたフォアグリップでミクロ化機の自重を支えながら構え持つ様は熟練の兵士のように手慣れた手つきで若干の微調整を加えたダグナは…

「失礼、ペンか何か御持ちでしたらお借り願えませんか?」

「えっ?…あっ、はい どうぞ」

 トモミから借りたボールペンを受け取ると突如として投げると放物線を描きながら床に落ちた。

―カチャン…

―ブゥルシュュゥ?

 物音に反応した獣脚類の恐竜と化したユウゴが音のする方に意識が反れた瞬間だった。

 ダグナはユウゴの視線とは後ろより飛び出してミクロ化機の銃口を勢いのままユウゴに向けて照射した。

 身体斜めの状態から的確に射出されたミクロ化機からの光線と気配を察知して反応する獣脚類の恐竜のような野生生物ユウゴ、この僅か1秒にも満たない時間の中でどちらが決したのか…

 

 

 

Q:今回の騒動についていかがお考えですか?

開発主任ダダA「そうダダねぇ…ダダAとしては中々に良いデータが取れたので満足ダダ」

 

Q:一部ではあなたの研究が私的の流用であると言う声もありますが?

開発主任ダダB「ダダBは常々思うダダ…研究とは常に何かを犠牲にしてこそ成果と結果が伴うダダ…膨大な研究時間、巨額の研究費、消費した課金額の天井、いずれもダダの研究課程には必要不可欠の要素だったダダ」

 

Q:今後の研究における目標と課題は何でしょうか?

開発主任ダダC「ミクロ化技術は今後も更なる飛躍の時が訪れるダダ…物質の縮小化に肥大化、これらは今まで絵空事とされてきたが実現すれば様々な分野における技術向上の糸口となるとダダCは信じているダダ」

 

Q:あなたにとって『研究』とは?

開発主任ダダ「……『進歩』…ダダ」

Q:本音は?

開発主任ダダ「特許を取得して不労所得ガッポリ課金三昧ダダ!」

―スパァアアン!!

 その炸裂音はGIRLS東京支部が迷惑被った怒りと 責を含めるあらゆる感情をハリセンに込めてピグモンはダダの頭頂部に打ち出した。

「反省してください!!」

「断るダダ!!ダダは研究に失敗しても過ぎ去りし過去として振り返らん!!」

 反省どころか清々しいほどに開き直っているダダに一同は呆れを超えて諦めさえ抱かせる何言っても無駄に終わるダダの図太さと図々しい性格に困惑させられた。

「それにしても…ユウゴさんが元に戻れてよかったぁ~」

「そっ…そうですね…とにかくそれだけが何より良かったですね…」

「よくないよぉおお!!ボクのジャージがぁああ!!」

 ダグナの助力で元の姿に戻れたユウゴであったが…衣服として借りていたアキのジャージは戻った反動で布地がミチミチと悲鳴を上げて、プチプチと所々引き裂ける箇所も相まってXLサイズの図体にSサイズのジャージが完全に伸びきっていた。

「おやおや、戻って早々に窮屈なご様子ですね…はい、予備の御衣裳をどうぞ」

「んっ、きついな…フンッ!」

 今にも張り裂けそうなアキのジャージを右肩より衣服を掴んでビリビリッと無理矢理引き千切って剥がした。

「うわぁああああああ!!ボクのジャージィイイッ!!」

 アキのGIRLS指定運動着は丹精に編み込まれ衣服としての形状を保っていたが…それは最早昔の事、今は1枚の大きな布切れも同然であった。

「ううっ…酷いよぉお…」

「フンッ、まったくもって迷惑なことだ」

 上だけアキのジャージを脱ぎ剥がしたユウゴだったがジャージだった物を抱きしめ泣き崩れるアキ、上裸となったユウゴの姿を見まいとして目を多い隠すトモミたちだったが…

「ちょっ、みんなして指の隙間から見てないでボクのジャージをお兄ちゃんから守ってよ!!」

 多感にして思春期真っただ中の好奇心が抗えるはずもなく指の隙間から鍛え上げられたユウゴの上半身にミク、レイカ、トモミは瞳孔を広げてガン見していた。

「すっごぉ~…どうやったらあんな風になるんだろう…」

「よっ…横の筋肉…前鋸筋ですよね…漫画で知りました」

「ハワワッ…見ちゃダメなのに…つい…見てしまいます」

 申し訳程度に添えられている手は何ら目を隠すことすら放棄して彼女たちの眼の中にはユウゴの強靭な肉体が焼き付いていた。

「ダァ~ダッダッダァ~ッ!!中々に良いデータが取れたダダ!」

 諸悪の根源は高笑いで手持ちのソウルライザーで取得したミクロ化機のデータを見て満悦の極みに達していた。

「ううっ…ボクのジャージとお兄ちゃんまで巻き込んでおいて…ダダさん!反省してください!!」

「嫌ダダッ!!ダダの辞書に『引く』も『媚びる』も『顧みる』も無いダダ!! ダダの科学は宇宙イチだダダァ~ッ!!ダァ~ッダッダッダァ~!!」

 アキの涙面の訴えも聞き入ることもなく反省の色の無いダダであった…が、これだけの被害を起こしたものに天罰が下らずとも組織からのお達しが来ることなど明白であった。

―ガコォンッ!!

「ダダッ!?なんだコレは…」

 ダダの足周りから頭上周りに突如として展開された強固なカプセル機械にダダを始めとしたこの場に居る一同さえも驚愕させた。

「人様に迷惑を書けた上に研究を担う部署としての顔に泥を塗りつけておいていい御身分ですね…あなたはいい加減に反省を覚えなさい!!」

 ハッキリとした物言いをする声の主の合図と共にダダを封じていたカプセルからおどろおどろしい煙と謎の深緑色の液体が垂れていきダダの身体を深緑色の液体が満たされて全身をコーティングし始めた。

「ダダァアアアアアアッ!!」

 断末魔がカプセルより漏れ出すがそれも次第に収まって内部からあの『ダダダダ』うるさかった声がうんともすんとも言わなくなっていた。

「あっ、あなた方は…」

 トモミがダダをカプセルに封じた者の正体を見極めようと振り返った先に視界へ飛び込んできたのは2人の怪獣娘だった。

「やはや、とんだ大騒ぎを起こしていたようだね…この八王子支部 支部長たるこの私、チブルが心から謝罪させてもらうよ…ここが落としどころかね、ヒッポリトくん」

「はい、支部長…この度は当方の怪獣娘が引き起こした御迷惑にはわたくしヒッポリトの統率が至らず深く猛省致すところにございます」

 トモミたちに頭を下げたのは下げる頭こそ顔よりも大きい八王子支部の支部長にしてチブル星人の怪獣娘、その助手にして補佐的立場の全身赤い獣殻(シェル)に覆われた赤髪のヒッポリト星人の怪獣娘であった。

「ええっと…八王子支部の人たち?」

「そうだよ 東京支部の支部長から連絡を受けて来てみれば多大な迷惑をかけてしまったみたいだね…ご覧のとおりウチのバカはブロンズ像に変えて反省させておくよ」

 ダダをカプセルに閉じ込めたのはチブルの助手ヒッポリトの能力で隔離した相手を特製のタール液でコーティングされて表面上に固めた曰くブロンズ像と化す。

「ひえぇ~…カチンコチンだよ、コレ」

 ミクがブロンズ化されたダダの様子をカプセル内から覗くなり中でおかしなポーズのまま固められていた。

「だっ、大丈夫なのでしょうか?」

「ヘーキヘーキ、スチーム掛ければブロンズ硬化液が溶けだすから元に戻れるよ…でも反省の意味も込めてしばらくはそのままにしておくつもりだよ」

 常に表情を崩さぬ物言いがかえって容赦の無さを痛感させられた。

「それじゃぁ、このバカを連れて我々は八王子支部に帰らせてもらおう」

「皆さま、此度はまことに申し訳ございませんでした…つきましては翌日に当方支部より修理の人員をお送りいたします」

 ヒラヒラと小さな手で別れの挨拶するチブルと深々と頭を下げてブロンズ化したダダを連れて去っていくヒッポリトの八王子支部怪獣娘2名は東京支部のエントランスを後にして行った。

「なんか…嵐のように去って行ったなぁ…」

 散々にも破茶滅茶な騒動を引き起こした元凶たるダダは支部の上司に連れ帰されていったが…彼女が引き起こした騒動の渦中となった東京支部内はエントランス時点で既に滅茶苦茶であった。

 散らばる備品の数々に、破壊された食堂やトレーニングルーム、さらに犠牲者の詰め所と化した医務室、一体どこから処理をすればよいのか残されたものだけが頭を抱えさせた。

「はぁ~…やれやれ、大変な一日でしたが無事に解決出来て何よりですが東京支部には後始末が待っていますよ」

 そう言ってトモミが抱えていたのは人数分の掃除用具であった。

「はぁ~…やっぱそうなるよねぇ~」

「仕方ないですよ…早く手を付けて終わらせましょう」

「そうだね…お兄ちゃんたちも手伝ってよ  あれッ?お兄ちゃんたちは?」

「あぁ、ユウゴさんたちには先に帰ってもらいましたよぉ…今回一番の被害者なのはアギアギのお兄さんですから」

「ええええッ!何ソレ、ズルい!?」

 ちゃっかり去っていたことに無性に腹が立つアキは苦虫を嚙み潰したよう表情で東京支部の仲間たちと共に後始末をするのであった。




アンバランス小話
『ミクロ化機・改』

「ダァ~ダァッダッダァ~!!ダダ、復活ダダァア!!」
 あれだけの騒動の後日に性懲りもなくまたダダがブロンズ化をどうやって解いたのか不明ながらも東京支部へ強引に殴り込んできた。
「うわっ!?ダダさんまた来たんですか!?」
 ブロンズから解放されたダダの健在ぶりにアキは若干引き気味で対応していた。
「またとはなんだ、またとは…そもそもダダはここに呼ばれて来たんダダ」
 事もあろうにあれだけの騒動後に誰が呼んだかダダは東京支部に用事あっての来訪だった。
「それで、またなんの用ですか?」
「ダッダッダッ…ダダの用事と言ったらただ一つダダ…この『ミクロ化機・改』の試運転ダダ!」
 またしてもあのトンデモ発明のミクロ化機…しかも改造改良済みの1品を抱えていた。
「さぁ、さぁ、誰がダダのミクロ化機の餌食になりたいんダダ?今ならもれなく5年は若返らせてやるダダ!」
「そんなこと言ってわざわざかかりに来る人なんて…」
 当然わざわざ犠牲者になりに来る奴などいないと思われていた…が、その見解が誤りであることがわかるまで約3秒後であった。
―ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!―
 それは怪獣“娘”とは言い難い20代を超えた怪獣娘たち所謂オトナ組が集団でアキたちが居る会議室に押しかけて来た。
「うぉおおお!!あの頃のアタシにしてェエエ!!」
「ちょっとギランボ、何アンタが勝手に若返ろうとしてんのよ! 外見代わっても2○歳は変わらないでしょうが!!」
「アンタだってそのロリ体形の何が不満なのよ!お姉ちゃんよりも更に若返ってやるんだから!!」
 GIRLS東京支部内でも支部外でも顔なじみのギランボやナックルにメフィラス(妹)など大人の怪獣娘たちがこぞって過去の栄光にしがみつく様は地獄絵図であった。
「ダッダァ~取り合うな!奪い合うな!  あッ!!」
 もみくちゃにされていたダダは自信作のミクロ化機・改が手から滑り離れて地面に激突した瞬間だった。
―ビィーーーーーッ!!―
 射出ノズルから光線が発射されて対向斜線上に居る人物にその光線が直撃した。
「おやッ?」
「うわぁああッダグナさん!?」
 それはたまたまアキの付き添いで来ていたダグナに見事命中した…しかし…
「…って、アレ?何とも無いんですか?」
「ふむッ…少し若返った気がします」
 特になんの変化も見られない様子に荒れ狂っていた一同もダダ本人すらも何が何だかよく分からなかった。
「とっ…とりあえず、今撃ったエネルギー1発分しか無いダダ…もう撃てないダダよ」
 ダダの一声で若返れないと知った大人の怪獣娘たちが肩をすかせてゾロゾロと部屋を後にして行ったのであった。
(やれやれ、よっこらせ……アレ?…このミクロ化機、ダイヤルが5年じゃなくて50年基準に変わっちゃっているダダ)
 ダダが拾い上げたミクロ化機のダイヤルに落とした時の衝撃でメモリが動いたのか50年の表示となっていたが…
「気分はどうなんですか?」
「70代くらいになった気分です」
 その後、数時間で元に戻ったと語るダグナであった。



―アメリカ合衆国内―

 騒動の渦中となっていた東京支部から離れて合衆国内のとある別荘地にて上機嫌な女性がいた。
「ふんふんふ~んッ♪…ダダに頼んでいた年齢を縮小化する光線完成したかなぁ~」
 東京支部長ゼットン星人、海外勤務である彼女がダダと通じて年齢を縮められるミクロ化機を依頼した張本人であった…しかし、その数時間後にダダからミクロ化機故障の知らせを受けた上に東京支部にもたらした被害の実状を聞いて彼女の自室で失神したところを妹のゼットンに発見されるのであった。
 また後日、事情に辿り着いたトモミからリモートでこっぴどく怒られるのもまた別の話であった。
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