TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
『虫歯』…歯の表面上を覆う硬度なエナメル質を溶かし、象牙質の更なる奥に存在する神経組織まで浸食して激しい激痛を伴う口腔内における食生活習慣病である。
「だからさぁ…ねぇ、ザンドリアス…そうなる前に歯医者さんに行こう」
「無理無理無理無理、ぜったいに無理ィイイ!!」
「ガキかッ、お前はぁッ!!」
アキとミサオの説得にも応じず断固“無理”を貫き通して強く拒否するサチコであったが…
「よくも騙したなぁあ!!ライブの打ち合わせって言っておいてなんでアギラさんまで居るのぉッ!?なんで数メートル先に歯医者が見えるのぉッ!?なんでこんなに嫌がっているのに聞き入れてくれないのぉッ!?」
「いや…ザンドリアスがすごく歯医者さんが嫌いなのはわかるよ…痛いほどわかる…だって……さっきからお兄ちゃんの胴体にしがみついているんだもん」
「恥ずかしいからアギラさんのお兄さんの胴体から離れろ!!」
先ほどから歯科医院に向かう事を拒否しているサチコがしがみついて場所はユウゴの首から腰までの逞しい胴体にガッチリ腕と脚を回してしがみついていた。
「うるさいッ!あたしを騙した報いを受けろ!!あたしをテーチョーに扱え!!あたしはここから一歩も動かない!!」
歯科医院まであと数メートルという距離でサチコに気づかれてしまったことによりサチコの最後の抵抗とばかりに現在の状況を歩道の端で繰り広げていた。
当然、行きかう通行人には気異の目にさらされていた。中でも特に子供からは『お母さん、アレなぁに?』と純粋無垢に親に聞いては『見ちゃダメ!』とその親にまで目を背けさせられる始末であった。
「ザンドリアス…ここまで来たんだからボクたちも付き合うからさぁ…一緒に行こうよ」
「そもそもお前のお母さんに頼まれてお前を歯医者まで行かせることになったんだからなぁ!」
「やっぱりママの差し金かぁッ!ぜぇ~ッたいにココを動いてやるもんか!意地でも離れてやるもんか!―スンスンッ―」
頑なにユウゴから離れないと豪語するサチコであったがどさくさ紛れてユウゴの胸元の匂いを嗅いでいた。
「お前、どさくさにお兄さんの匂いを嗅いでんじゃねぇよ!いい加減に離れろ!!見てるこっちが恥ずかしくなるわッ!!」
哀れなバンド仲間の姿に嫌気が差したミサオは強制的に剥がしに来たが…
「面倒だからこのまま連れて行けばいいだろう」
「ダメだよ!ザンドリアス自身が行かなきゃ意味無いんだからッ!」
胴体に抱き着かれているユウゴ自身が歯科医院に向かおうと提案するが本人の意思で歯科医院に行かせることが次にまた同じように歯科医院に行くときにも現状のような状態にならないためにサチコ自身の足で向かわせたいアキだった。
「はぁ~…仕方ない、スマホ貸せ」
呆れ返ったユウゴはアキにソウルライザーを貸すように促すと電話番号を打ち込んで誰かに連絡を入れ始めた。
――数分後――
「いや~連絡を受けて来てみれば面白い事になっていたね」
「すみません、トオルさん…わざわざ御呼びしておいて……プフッ!」
「ウブフッ……うっ、ウインダム先輩やエレキングさんが好きな漫画の作者…さん…っす、よね…ブフッ!」
ユウゴから連絡を受けて来たのはガメラの怪獣戦士(タイタヌス)こと相沢トオルであったが、アキもミサオも目の前の光景を見続けて吹き出しそうなほどの笑いを堪えていた。
「あのさぁ…お兄さんのお知り合いの方が来てくれたのは心強いんだけどさぁ……なぁんなぁのよぉお!この扱いいわぁああ!!」
サチコが盛大に声を上げるほどの今の状況は両端にトオルとユウゴという男性の中でも長身に位置する2人から両手を連なって間にぶら下がるサチコは宛ら政府に捕まった宇宙人のような状態であった。
「下してぇええッ!ねぇ、下してよぉおお!!自分で歩くからぁああ!!歩けますからぁああ!!」
結局サチコ自らの足で歯科医院に向かう事を決意させるほどの恥ずかしさにサチコ自身も半ば諦めのような気持ちになり自ずと恐怖心も乗り越えて向かうのだったが…
・
・
―ヴィイイイイイイン!!
「ヒィイイッ!」
歯科医院の待合室に座って待っているなりサチコの耳から鼓膜と耳小骨にまで響いてくるドリルのモーター音が耳を塞ぐ彼女の心を既に抉り始めていた。
「大丈夫だから、今日は口の中を見るだけだからさぁ…」
今にも逃げ出したいと考えているようなサチコにアキは必死に説得を繰り返して、万が一にも逃げ出そうにも逃げ出すことのできない様にトオルとユウゴに左右から手を繋いで逃げられない状態にさせているが同時にサチコ自身にも勇気を与えて恐怖心を和らげる精神の麻酔でもあった。
「道理サチコさん、診察室1番にお入りください」
女性看護師に名前を呼ばれたサチコは固唾を飲みこんでぎこちない足取りで指定された診察室へと向かうのであった。そして同伴者であるアキ、ミサオ、ユウゴ、トオルの4人も同じく診察室に入った。
中は歯科医院でよく見かける特殊な座席と最新式のモニター付きという歯科医院ならではの診察台であった。
「はい、お待たせしました…本日担当させていただきます 兜トニオと申します…って、なんか人が多いなぁ」
サチコの担当医が診察室に入るなりそこまで広くないコンパクトな空間いっぱいに4人の付き添いに担当医は困惑した。
「よぉ、やぶ医者」「お久しぶりです」
「えっ?お兄ちゃんたちの知り合いなの?」
担当医と顔を合わせるなり砕けた口調で話しかけるほどに担当医の兜トニオなる人物とユウゴ達が顔見知りであることをアキは知らされた。
「誰がやぶ医者だ…ちゃんとした歯科医師免許を持った医者だよ、口の減らないガキだなぁ相変わらず…」
「歯医者さんとお兄ちゃんたち…一体どんな関係なの?」
「まぁ、いろいろあったし、そして僕らの知り合いと言えば…そういう事だよ」
トオル達の知り合いとなればこの兜トニオという歯科医師も怪獣戦士(そういうこと)であるとアキは納得せざるを得なかった。
「はい、それじゃあ口の中を見る前に…道理さん、ちょっとコレ見てもらえるかな」
「ふえっ?なに、何なの?」
診察台の上で横になるサチコの前にモニターが近づいて兜トニオがモニターと接続したパソコンでカタカタとキーボードを打ち込むと画面にはレントゲン写真が映し出された。
「コレは先日の健康診断で撮影されたレントゲンをこっちに回してもらったんですが…道理さんには抜け切れていない乳歯、すなわち子供の歯が不規則に大人の歯である永久歯を避けちゃって乳歯が舌下に埋没した状態で放置されちゃっているんですよ」
「それって…つまり、どうなるんですか?」
恐る恐るサチコが聞いてみても皆が想像できる範疇で何となく理解してユウゴとトオルはサチコの左右から、ミサオは足に回り始めた。
「結論から言うとだね……即、抜歯」
“抜歯”、すなわち強制的に歯を抜くというちょっとした手術レベルの手段を取らざるを得なかった。
「あっ、あたし今日は用事があるんだった…って、ウワァッ!?」
当然、逃げ出そうとするサチコの行動パターンなどアキならずともこの場に居る誰もが予想できた。従って…強制的に上半身を力あるユウゴとトオルに、足元は一番仲の良いミサオ、そして…アキは…
「ゴメン、ザンドリアス…」
『口の中だけ診る』と言っておいて治療になるとは思わず深い反省を込めて手と手を合わせた合掌にてサチコに謝罪した。
「はい、それじゃあ口を大きく開けてください…舌は出さないようにね、巻きこんじゃうから」
その瞬間、サチコの目には兜トニオがただの人間には見えなかった。否、自身のカイジューソウルが出す警告にシャドウ以上にヤバい存在にメチャクチャにされるという恐怖心が彼女の目に兜トニオを怪物に変換させた。
それはまるで両手にドリルを携えたカブトムシの怪獣かのような印象だった。
「たすけてぇええええええええ!ママァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
その断末魔はココ『深海歯科医院』の院内からも外からも聞こえてくるほどの大きな叫び声であった。
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歯科健診という話から一変して即刻“乳歯”の抜歯という予想外の手術と言ってもいいレベルの話となった術後のサチコは…
「うううっ…やっぱ歯医者さんなんか大っ嫌い!!」
ますます歯科医を険悪するほどに頬を腫れ上がらせた状態でユウゴの腕の中で泣き崩れていた。
「…ごめんね、ピグモンさんからも念押しで言われていたから黙っていたけど…もしかしたら手術になるって健康診断受けた病院の先生の予想通りだったね」
「ううっ、もう誰も信用できない! ちゃんと歯だってママに口うるさく言われて磨いているのに…あたしだって虫歯になりたくないから磨いているのになんで口にあんな物騒なもの押し付けられるのよぉッ!?」
何度も何度もフラッシュバックする抜歯時の鮮明な記憶はサチコの中でトラウマとなって思い返す度にユウゴの肩を濡らした。
「よしよし…ザンドリアスは頑張ったよ…えらかったよ…途中、暴れる寸前の所をお兄ちゃんたちが万力で抑えつけていなかったら大惨事だったけど…」
アキもユウゴに抱えられているサチコの背中を摩って励ますが思い返す一部始終は宛ら拷問のような光景だった事を鑑みればトラウマになってもおかしくないとして自分なりにもトラウマを与えてしまった事への反省する限りであった。
「手伝ってくれたトオルさんとノイズラーにも感謝しなきゃね」
「アイツには面白いネタをくれてやると言ったまでだ…まぁ、案の定満足した上に付き添いのもう一人にも取材したいと言ってたしな…」
ユウゴからの連絡を受けてやってきたトオルはミサオのバンドの取材をするためにユウゴ達とはミサオと共に別れていた。
そして当のユウゴ達は歩けなくなるほどに精神的に参っているサチコを家まで送っている道中でもあった。
「ええっと、ザンドリアスのおうちは…」
「そこを曲がって左のアパートです…」
道筋を知るサチコの動かぬナビゲートで順調に住宅街の道なりを進み、彼女の言う通りの自宅アパートに辿り着いた。
閑静な住宅街に佇む極ありふれたアパートの1階の一室からガチャッとドアが開いた。
「あら~お帰り、ザンちゃん…歯医者さん無事に終わって良かったわね」
部屋から出て来たのはサチコの母親の道理ミチコであった。
「良くないッ!ぜぇ~んぜん良くないッ!!」
「あらあら、なんだか大きな赤ちゃんみたいになっちゃって…ごめんなさいね、この子ったら重度の歯医者さん嫌いだから変に付き合わせちゃって…」
「いっ、いえ…」
丁寧に親子ほどに年の離れたアキに対して物腰柔らかに礼を尽くすミチコにアキは変な緊張を走らせていた。
「ザンちゃん…これからお昼だけど、ごはん食べられそう?」
「ブゥゥッ…なんとか…」
治療から30分経ってようやく痛みの具合が収まっていたサチコは涙目で食事を取る事を決めた。
「良ければ御二人もお昼ご一緒にどうでしょうか?」
「ふえッ、いいんですか…」
「もちろんよ…ザンちゃんが御迷惑をかけたみたいだから、そのお詫びに…」
自宅での食事に誘うミチコであったが…その視線は何やらよそよそしい感じにユウゴをジッと見詰めていた。
「…?…」
「――ッ!?」
何やら不穏な雰囲気を感じ取ったサチコだったが、何も気づいていないアキは御厚意に甘んじて部屋に上がった。
「ごめんなさいね…もうすぐでお昼御飯が出来るからちょっと待っていてぇ~」
「あっ、御構い無く…なんなら手伝いますよ、お兄ちゃんが…」
「あぁ?なんでお前が決めてんだ」
「いいから…ザンドリアスはボクが預かっておくからお兄ちゃんはザンドリアスのお母さんを手伝ってきてあげて」
若干腑に落ちないユウゴであったが抱えているザンドリアスを腕から下して渋々ミチコが料理するキッチンへと向かって行った。
「ヴウゥゥッ…アギラさん、もしかしてわざとやってます?」
「えっ、何が?」
アキは気づいていなかったがサチコには見抜かれていた母親の普段見せない異様な態度…同じ血を与えられこの世に生を受けたミチコの子であるサチコには図らずも母親の見る事のない“女”の部分を垣間見えていた。
「どー考えてもママがいつものママじゃないですよ!何なのアレッ!?何なんですかあの態度ッ!見ててこっちが恥ずかしくなるような異様な悪寒を感じます…」
「そうかなぁ?」
サチコの言う事にアキは全く理解を示せていないほどに彼女の言う通りの事を全く見えていなかった。
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綺麗に整理整頓されたキッチンではコンロの上で鍋に被さる蓋がコトコトと音を立てて吹き揺れていた。
「うどん…ですか」
「ええ、ザンちゃんの歯の痛みがまだあるみたいだからなるべく流動食を中心にと思って…」
「良い判断です…確かに乳歯の抜歯後と言えど固形や刺激物を避ける事が重要ですからね」
「私も親知らずを抜いた時があったから…いつかザンちゃんにもその日が来るのかしら」
湯の沸き立つ鍋の中に人数分のうどん玉を入れて茹でるミチコと包丁で細かく刻む薬味と丁寧に付け合わせの食材を切りそろえる工程をするユウゴであった。
「まぁ、御上手なのね…一人で作っていたら結構時間取られちゃっていたから助かるわぁ~」
「いえ、これくらいなら何でも…」
「バーの御経営をなさってらっしゃいるんでしょ お若いのにしっかりしてまぁ…今度お邪魔させていただいても?」
「ええ、構いませんよ…ただ自分は昼担当でして、夜は別の者が担当していますので」
料理の片手間に交わす世間話が徐々に距離が近しくなっていた。
「あらッ?御出汁はどこかしら……あぁ、そうだったわ!もらいものだから大事にとっておこうとして一番上の棚に…」
「…お取りしましょうか?」
「あら、お願いできます?」
「いえ、そんな高くもないので…」
そう言ってユウゴはミチコが背伸びをしても届かない位置にある出汁の箱に手を伸ばし取ってあげた。
「どうもありがとうございます…背が高いって便利ね」
「身内にはさんざん背高と揶揄される始末ですが…お役に立って何よりです」
すべてのユウゴの態度は絵に描いたような親切心があった。
「その……なんだか…久しぶりなんです……こうして誰かと一緒にお料理することが…」
それは同時にミチコからも同じように心から彼に満ち溢れる心安らぐ不思議な感覚に今まで1人で我が子を育てて来た母親とは別の自分の何かがある気がしていた。
「マァ~マァ~アッ!」
しかし、その感情に誰よりも強く敏感な者がいた。
「ひゃッ!?…ザッ、ザンちゃん…何ぃ?」
「…ママ、なんで今日に限って化粧なんてしてるの?」
「えっ!?…べっ、べべべ、別にそんなワケ…」
「なんで普段つけもしない香水の匂いがするの?」
「いっ、いや~たまたまよ…そう、たまたま!」
「噓つき! アギラさんのお兄さんが来るってわかって昨日から仕込んだでしょう!!」
「しっ、仕込みって……料理の仕込みなら今…」
「誤魔化さないでよ!何よ、さっきからぎこちないその当たり障りのない会話はッ!」
どれだけ誤魔化そうにも血を分けし我が子にはお見通しであった。
「はいはい、ザンドリアス…お母さんを困らせないの」
しかし、サチコの逆毛立つ気を宥めつつ彼女の背を押してアキは遠ざけた。
「まぁ、ザンドリアスの言い分は分からなくも無いけど…お兄ちゃんもザンドリアスのお母さんに変なことしないでよッ!」
「やかましい、黙ってメシを待ってろ」
アキも同じ身内であるユウゴに対して警戒心を強めていた。
「なんだ、その目は…」
鍋掴みで煮え切って完成した鍋焼きうどんを抱えて席まで持ってきたユウゴに向けられた眼差しは冷ややかそのものだった。
「「いいえ、なんでもッ!!」」
ジィーッと細めた目付きで睨みを効かせるアキとサチコは互いに気が気ではない状況に意識が強まって食事どころではなかった。
「もぉ~、ザンちゃん…そんな怖い顔しないで…はい、ユウゴくぅん♡」
「ああ…どうも」
「ユウゴくぅんッ!?」
今日会ったばかりのユウゴに対してただならぬ語尾に含みを持たせた上での名前呼びにサチコの背筋に異様な寒気にも似たような感覚が走った。
「ママッ!!恥ずかしいからやめてよ!!」
「あらあら、何かしら~?」
「仮にもあたしの先輩のお兄さんに変な気を回さないでって言ってるの!!」
「あらあら~、ザンちゃんがお世話になったんですもの…お礼をするのは当然よぉ♡」
「なんなのよぉ!さっきからその変な言い方ッ!?」
「ザンドリアスのお母さん、そこの大男は体格で見た目にバグが生じていますがボクと2歳違いですからね」
「誰の身体がバグじゃい」
テーブルに4人で鍋焼うどんを囲いながらも気が気でない食事風景に対して特にサチコは自身の母親であるミチコへの変容ぶりに戸惑わされていた。
「もぉ~いいッ!この際ハッキリ聞くけど…ママッ、“ヒーくん”って誰ッ!?」
「ゴブフッ!?」
突然の事にミチコは動揺してうどんを喉に詰まらせて盛大に咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「ごほっ、ごほっ…ええ、大丈夫…大丈夫でず……ざっ、ザンちゃん…どうしてソレを?」
「頻繁に連絡しているスマホの履歴見れば誰でもわかるわよ!誰なのヒーくんって!?」
サチコはとうとう前々から疑問に思っていたことをアキたちが居る前でミチコに逃れられない追及をした。
「たっ、唯の親戚の子よぉ~」
「嘘つけッ!親戚ならあたしにだって顔をあわせてるでしょ!?…って言うか、ウチに親戚関係なんかいたところ見たこと無いけど!?」
「まぁまぁ、ザンドリアス落ち着いて…別にいいと思うよ、新しい家族が増えるくらい」
「不穏な事言わないでください!?嫌ですッいきなり知らない人がパパになるなんて…こうなったらアギラさん、お兄さんをウチにください!!」
「なんでそうなるのさぁッ!?ボクだって嫌だよ、自動的に君と義理の姉妹になるなんて!?」
「だってお兄さんがいると便利なんですもん!歩けない時は抱えて歩いてくれるし、届かないところに手が届くし、料理も出来て便利なんですもん!!」
「俺は介護ロボットか何かかよ…」
「あらあら、もぉ~ザンちゃんがそこまで言うなら…今夜、お店に御寄りしちゃおうかしらぁ~」
徐々に話の流れが白熱して道理親子がユウゴを求めだし始めたことにアキは戸惑いを覚えた。
「待って、待って!…なんでそんな話になるのさぁ、大体こんな場所の面積を取るような男のどこがいいのさぁ!?」
「お前は身内を何だと思ってんだ…」
自身の兄にそこまで惹かれる意味が理解できないアキはユウゴの欠点を指摘しつつ道理親子に尋ねたが…
「「逞しくて頼りになる素敵な人だから」かしらぁ~」
親子そろってユウゴの外見的な安心感に陶酔しているようであったことにアキはポカ~ンと口が開いてしまった。
―カシャン…
「食器はここで大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう…わざわざ食器洗いまで手伝わせちゃって…」
食後のアキたちは食べ終えた食器類を洗い尽くして丁寧に後片付けを終えた。
「どうもごちそうさまでした…大変おいしく頂かせていただきました」
「いいえ、こちらこそ御粗末さまです」
「ふえぇ~ッまた来でぐだざいぃ~!お兄さ~ん!!」
「ザンドリアス…別に今生の別れってわけじゃないんだから…」
一度はユウゴの安心感に浸り過ぎたサチコはユウゴの大きな手を握り占めて『まだ帰らないで』と訴えているかのようにその手を放そうとしなかった。
「それじゃあまた明日GIRLSでね、ザンドリアス」
「はいッ、アギラさん今日はありがとうございました」
道理親子の玄関から見送るアキとユウゴはアパートの外に出て2人の自宅を後にして去っていくのであった。
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歯科健診という話から一変して即刻“乳歯”の抜歯という予想外の手術と言ってもいいレベルの話となった術後のサチコは…
「うううっ…やっぱ歯医者さんなんか大っ嫌い!!」
ますます歯科医を険悪するほどに頬を腫れ上がらせた状態でユウゴの腕の中で泣き崩れていた。
「…ごめんね、ピグモンさんからも念押しで言われていたから黙っていたけど…もしかしたら手術になるって健康診断受けた病院の先生の予想通りだったね……あれッ?」
ユウゴの腕の中で泣き崩れるサチコに対して思ったことを口にしただけのはずだが、アキには何か違和感のようなものを感じた。
「あら~お帰り、ザンちゃん…歯医者さん無事に終わって良かったわね」
部屋から出て来たのはサチコの母親の道理ミチコであった。
「良くないッ!ぜぇ~んぜん良くないッ!!」
「あらあら、なんだか大きな赤ちゃんみたいになっちゃって…ごめんなさいね、この子ったら重度の歯医者さん嫌いだから変に付き合わせちゃって…」
「いっ、いえ………あれッ?」
またも同じ違和感を感じたアキだが…その違和感とは今のこの現状がアキには同じように前にも経験したような違和感、デジャヴを感じていた。
「どうもごちそうさまでした…大変おいしく頂かせていただきました」
「いいえ、こちらこそ御粗末さまです」
「ふえぇ~ッまた来でぐだざいぃ~!お兄さ~ん!!」
「ザンドリアス…別に今生の別れってわけじゃないんだから……あれッ?」
一度はユウゴの安心感に浸り過ぎたサチコはユウゴの大きな手を握り占めて『まだ帰らないで』と訴えているかのようにその手を放そうとしなかった………同じである。
先ほどから経験するすべての現状はつい先ほどにも同じような現状を繰り返している。
すなわちこの違和感は現状にあった事がまったく同じ現状通りに“繰り返し”ていた。
そして…同じく道理親子の住む一室を後にしたアキとユウゴだったが…
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「うううっ…やっぱ歯医者さんなんか大っ嫌い!!」
ますます歯科医を険悪するほどに頬を腫れ上がらせた状態でユウゴの腕の中で泣き崩れているサチコという同じ場面に戻されていた。
(どっ、どういうことッ!?ボクたち、さっきから同じ場面を繰り返しているッ!?)
無論、アキはこの繰り返し続ける事象に気が付いているものの肝心のサチコとユウゴはこの事態に気が付いているのかいないのか分からない。
(そう言えば、前に一度ウインちゃんが進めてくれた漫画にも同じような状況の『ループもの』って言うジャンルの話があったよね…この状況を打開するには…)
アキは以前レイカから勧められた漫画と同じループからの打開策を参考にまずは突然止まってみたり、前触れもなく屈んでみたり、先ほどにも覚えたサチコの自宅アパートから少し遠回りの道に回って見たりと様々な工夫を凝らした。それもユウゴやサチコには少しも変に思われない程度にループにならない程度の違う行為で乱数を乱して見たが…
「あら~お帰り、ザンちゃん…歯医者さん無事に終わって良かったわね」
「良くないッ!ぜぇ~んぜん良くないッ!!」
「あらあら、なんだか大きな赤ちゃんみたいになっちゃって…ごめんなさいね、この子ったら重度の歯医者さん嫌いだから変に付き合わせちゃって…」
「いっ、いえ…はぁっ…はぁっ…」
結局同じ行動通りに進んでしまうため違う場面に変わることは無かった……かに思われた。
「もうお昼出来ているけど、ザンちゃんごはん食べれそう?」
「えっ?」
同じなようで違う場面に遭遇したアキは思わず困惑した。最初にサチコの家で待つミチコはまだ料理の途中であるはずが既に完成しているという状態であった。
「お向かいさんがお昼を手伝ってくださったから早くにできちゃったから御二人もよろしければどうぞ」
「お向かいさん?」
少し違う場面にまったく別の人物の介入がなされている。
「やぁ、やぁ、わざわざご足労いただいて悪いねぇ」
だが、その人物…否、生物ですらもなかった。
居間のテーブルには既に完成した状態の鍋焼きうどんと頭部に長い触手と異形の胴体、目の位置が左胸に存在する名状しがたい形状をした人外がアキたちを待ち受けていた。
「ダッ、誰ッ!?」
「なるほど…お前がこのふざけた繰り返す状況を作っていたのか…」
正体不明の怪物に対して何も臆することなく、寧ろアキと同じく繰り返している状況に気づいていたユウゴは腕に抱えているサチコを下した。
「お兄ちゃん、気づいていたの!?コレが繰り返しているって事…」
「とっくにな…だが、“同じ”を繰り返し続けることなく音を上げたのは俺たちではなく、オマエだったというワケだ」
「いやいや~、ループなんてオーディエンスが退屈するだけだからね 所詮は手抜きの産物みたいなものさぁ」
名状しがたい謎の存在はケタケタ笑っているつもりのようだが“顔”に該当する部位が存在しない為に表情が分かりにくかった。
「それで、お前は何もんだ?」
「おっと…それを語る前に、関わりの無い者には目を瞑ってもらおうかな」
名状しがたい何者かは指先を延ばしてミチコとサチコの二人に向けた瞬間、二人とも糸の切れた人形のように意識を失って倒れた。
「ザンドリアスッ、ザンドリアスのお母さんッ!?」
「安心したまえ…死なせるなんて惨いことはしてないよ」
倒れているミチコに駆け寄ったアキだったが確かに意識は無いが命に別条はなかった。
「それで…テメェは一体何もん…ダッ!!」
ユウゴは名前も分からぬ謎の存在に対してテーブル先に座すると見せかけてテーブルを掴むなり鍋焼きうどんごと目の前の何者かにぶつけるため盛大なちゃぶ台返しならぬテーブル返しを仕向けた。
「コラコラッ…食べ物を粗末にしないのが君のポリシーだろう?…ズルズル、う~むッなかなかいいものだね 鍋焼きうどんと言うものも」
明かにひっくり返したと思われたテーブルがなぜか何事もなかったかのように元通りの位置に戻された上にその上に置かれていた鍋焼きうどんがなぜか謎の存在の手のひらの上にあり、余裕にもその鍋焼きうどんの味を堪能さえしていた。
「なっ、何ッ!?何なの!?お兄ちゃん!!」
「俺が知るか……だが、つい最近テメェみたいなワケが分からんヤローにあった事がある」
「あぁ~、君が“アイツ”にあったことくらいお見通しだよ…なんたって私は神様だからねッ☆」
この得体の知れない言葉にも表せられないような形状をした怪物は自らを神と自称した。
「かっ、神様って…えっ!?コレが神様ぁ?」
「あっ、君は見た目で判断したね!…昨今は多様性のご時世だよ!神様の容姿にだってグロくてもサイケデリックでもいいじゃないか!…それともアレかい、仙人ヅラした感じのイメージ通り出なきゃ神様って認識できないのかい、君は!?」
アキに神と認識されていない事に憤ったのかフルフルと頭の触手状の部位をユラユラと動かして何かを表現しているようであった。
「ゲフッ…まぁまぁ、そんな事より…ここではなんだから私について来てくれたまえ…ホォ~キョキョキョキョォ~!」
鍋焼きうどんが入っていた土鍋を空にして得体の知れない自称“神様”は独特な声を発しながら道理親子宅のアパート一室を後にして外へと出て行った。
「なっ、何なのアレ?ひじきのお化け?」
道理親子を丁重に介抱しながらアキは目の前に起こったワケがわからない状況とそれを引き起こしていると思われる元凶のワケのわからない存在が何なのか唯一状況の理解力が高いユウゴに問いただすも…
「俺が知るかッ!…だが、相手からわざわざ出てきたんだ このふざけた局面を打開するなら俺たちが取るべき行動はただ一つ」
そう言ってユウゴはアキの首根っこを摑まえた。
「グエッ!?…何々、何する気ぃッ!?」
「決まってんだろう…来いと言われたら言ってやるまでだ!」
そう言ってユウゴはアキをおもむろに玄関より先へと放り投げた。
「うわぁあああああああああああああああああ!!」
投げ飛ばされた玄関の先には眩くも目先が霞んで直視のできない光の中を潜るかのような照り付ける光量に目を始め身体が焼かれるようであった。
「ぐぅっ…なんなの……すごく…まぶしい……」
ユウゴに投げ込まれて地面に転げまわった反動で目を回すアキは視界の中がボヤける。
朦朧とする意識の中で寄り掛からんとする壁に手を付くと…―ガシャァアアンッ!!
「うわっ、なにッ!?すごい音がしたんだけど…」
手を付いた先で何か大きな物音が聞こえたアキは目をゆっくりと開けると自分が手に触れていたのは円の中で三角形のロゴマークの看板を突き破っていた。
「ふへっ?…うわぁあああ!ごっ、ごめんなさいッ!!」
思わず破壊したのが自分だとわかるや誰に向けての謝りなのか分からず条件反射であった。
「あれ、何ココ…小さな…町?」
辺りを見渡しても夜の繫華街のネオンに輝く街並みが広がる世界だが…いずれもアキより小さくて一見はジオラマの中に居るような気分だったが…
「あれ?…なんでボク、怪獣の姿になっているの!?」
アキは自分の身体を確認するとソウルライザーで変身した覚えが無いにも関わらず、いつの間にかアギラへと姿を変化させていた。
「わわわッ、どうしよう…これじゃまるでボクが怪獣みたいだよ…」
慌てて変身を解除しようとソウルライザーを身体のどこかに無いか探す拍子に…ズガシャァアアンッ!
「フワァアッ!?ごっ、ごめんなさいッ!!」
屈んで振り返った拍子に怪獣娘の中でもかなり長い尻尾がビル壁面を叩いて破壊した。
「ごっ、ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!!」
「誰に謝ってんだ…お前?」
「ふえッ?…フギャァアアア!!…って、お兄ちゃんか…」
声を掛けられた方を振り返ると黒々とした体表とアギラよりも長くて太い尻尾を持つ怪獣ゴジラへと変身したユウゴがアギラの目の前に現れた。
一瞬、敵の怪獣とさえ錯覚させるほどにアギラのような半獣の姿をした怪獣娘とは違って怪獣としての造形をハッキリと保った状態の大怪獣と言って差支えの無い姿に夜景に彩られた壮観な街並みとでゴジラと言う怪獣を鮮明にブラッシュアップさせるかのようであった。
「お兄ちゃん…なんだかすごく街並みに合っている気がする」
「だからなんだ…それよりも、ここに居るんだろう?昆布ヤロー」
ゴジラは自分たちをこのワケのわからない領域へと引き込んだ元凶に届くような声で語りかけるも…
「ひどいなぁ~…これでもれっきとした“外なる神”に連なる一柱の神様だよぉ~ 敬い崇め奉りたまえ」
そう言ってゴジラたちをこの希釈が歪められた世界に招いた名状しがたい存在が姿を現したが…
その姿…否、恰好はあのワケがわからない人外染みた姿の上に古風な映画監督のようないで立ちにメトロハットを触手頭にうまく巻き込み隠して被っていた。
「えっ…ええっと…なに、その恰好?」
「見ての通り…君たちのセオリーに沿って仕立てた映画監督風の衣装さッ、なかなか似合ってるでしょう☆」
名状しがたい何者かは自身の格好をこれでもかと見せびらかすように決めポーズでビシッと決めているが…―ボゴガァアアン!!
ゴジラには見向きもされずに丸太のような尻尾での殴打が名状しがたい存在の頭部を捉えて等身大で言えば数十メートル、今の状況の距離で合わせるなら数十キロメートル先まで吹っ飛んで行った。
「いっ、いきなり何するのさぁ!?なんで尻尾で殴ったの!?ねぇ、なんで殴ったの!?」
まったく敵意の無い相手であったはずの謎の存在に強烈な一撃をお見舞いしたゴジラもといユウゴの行動原理に理解が追い付かないアギラは目を丸くして動揺した。
「フンッ…コレで殺せるなら苦労はねぇな……おい、行くぞ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!まだ、話は終わってないよ!!」
アギラの言う事に耳すら貸さず我が歩みを突き進むゴジラの行進について行くアギラは彼の横で『いきなり人を殴らない』ことや『殴る前に話し合う』ことなどを強く語りかけるもゴジラは気にせず一歩一歩前進して吹っ飛ばした謎の存在まで近付くが…
―ドォオオンッ!ゴスンッ!!
「アダッ!?…いったたぁ~…何ぃ?」
アギラの頭にぶつかった強い痛みと共に何かが飛んできた。しかもそれだけでは終わらない。
―ドドォオオン!ドドドォオオン!!チュドォオオン!!
「アタタタタッ!痛い、痛いよ!?何ぃッ!?」
アギラが身に受ける雨霰の様に降り注ぐのは前方から発射してくる戦車の攻撃という洗礼であった。
「なんでボクたちが撃たれているのさぁ!?」
「知らん…だが、鬱陶しいな……邪魔だ!」
そう言ってゴジラは行き先を阻もうとするあまたの戦車を足払いするかのように蹴り飛ばした。
「ひぃええ~…今蹴ったのって…ラジコンの戦車…だよね…きっとそうだよね!」
「………………………」
「何とか言ってよ!!」
明確な回答を得られぬままに次にアギラたちを襲うのはビルの隙間から飛び出て来た攻撃ヘリに酷似した航空機であった。
―デュゥルルルルルルルルッ!!
攻撃ヘリからバルカン砲の威嚇射撃とばかりに撃ってくるが…
「うわぁあああ!!」
「………邪魔ッ」
コレも宛らコバエを払うかのように手で散らす素振りをするなりその手にヘリが当たって飛び交うヘリは次々と墜落して行った。
「ちょっとぉおお!!お兄ちゃん、ヘリが…ヘリがッ、炎上してるんだけど!?本当にラジコンのヘリコプターだよね!そうだよねッ!!」
「知るかッ…大体身長100メートルも40メートルもある俺たちに豆鉄砲が通じるかよ」
「40メートルって何ッ!? ボク、今40メートルもあるの!?」
「正確には45メートルかもな」
それを聞いたアギラはようやく実感した。ここは限りなく現実に近しい空間の中で約40メートルほどの大きさ巨大化した自分こそが怪獣そのものであることを痛感させられた。
「そっ…そんな…ボクが…ボクたちが…怪獣ッ!?」
思わぬ実感を突きつけられたアギラはよろめいた瞬間に足元からグシャッ!と何かを踏みつけたような音がした。
「へぇ?…わぁああああああ!!」
足元に散らばるのは先ほどまで自分たちに向けて射撃してきた戦車の1台を踏みつけていたことに気が付いて慌てふためき動転した。
「ごっ、ごごごっごめんなさいッ!!わわっ、どうしよう!?」
「誰に謝ってんだ…よく見ろ、誰も乗っていないだろうが…」
そう言ってゴジラは自分の顔回りに飛び交う攻撃ヘリを片手で掴み取ってヘリの内部を見せた。
「…本当だ…ヘリコプター自体動いているのに…誰も乗っていない」
「だが、そのどれもが現実に存在する本物と同質だ…人が乗っていないだけで物質自体が勝手に動いている ちなみにお前が今さっき踏みつぶした戦車は単価15億円くらいだぞ」
「へぇ~…15億円……えッ、15億!?」
アギラが踏みつぶした10式戦車はソウルライザー再発行手数料の約6万倍である。
「ふえぇぇぇえええッごめんなさぁぁぁいッ!!」
「だから誰に謝ってんだ…フンッ!」
とんでもない代物を壊した罪悪感に押し潰されそうになるアギラを余所にゴジラは掴んだ攻撃ヘリを剥げつけて他のヘリと激突させて墜落、その後も数多くの武装戦闘兵器を虫けら同然に蹴散らしながら前進していった。
「……いない……」
ようやく名状しがたい何者かを吹っ飛ばした地点までたどり付いたゴジラとアギラだったが、その場にあの正体不明の存在は見当たらなかった。
「それよりもどうするのさぁ、アレッ!!」
自分が吹っ飛ばした相手まで近付くだけにその道順で行く手を阻んできた戦車や攻撃ヘリを薙ぎ払い続けた結果…街中の道路沿いは兵器の残骸で埋め尽くされ、その内から火の手が上がって炎上の道を形成していた。
「お前こそ建物どさくさに破壊してんじゃねぇか」
「ボクだって注意して歩いているつもりだよ!だけど身体から尻尾までのスパンが大きいから色んなトコにぶつけちゃうんだもんッ!」
「言い訳がましいな」
「言い訳じゃないよ!この破壊魔怪獣ッ!!」
自分はなるべく壊さない様に繊細な注意を払ってきたのに対して気にも留めずにあたりかまわず蹴散らして粉砕し続けたゴジラにアギラは頬を膨らませて憤慨した。
「ホッ~キョキョキョキョッ!いいね、いいねぇ~怪獣とはそうでなくっちゃ!最高の画面映えになったよ!!」
独特な笑い声はゴジラとアギラの真上から降って来た。気が付くと周囲は広大に広がる摩天楼の街中から打って変わってこじんまりとした撮影スタジオ内のような空間にジオラマの上に二人はいた。
「コレは一体どういう事だ…」
「ふえッ!?なんでボクたち…いつの間に?」
場所も変わり、格好もいつも通りのユウゴとアキの姿に戻っていた。
「ホッ~キョキョキョキョッ、最高の特撮パートだったよ! さぁ、次はドラマパートだッ!」
そう言って独特な笑い声と共に独特な走り方で名状しがたい何者かはスタジオを飛び出していった。
「待てコラッ!!逃がすかぁあ!!」
「わぁあッ!待ってよ、お兄ちゃん!!」
ユウゴ達は謎の存在を追ってスタジオの外を飛び出したが…
―カンカンカンカンカンッ…
「えッ…ドコ、ここ?」
「おっ、元に戻った」
飛び出した先にはどこか古めかしくも今は見慣れない長屋風の建物や住宅のような建物、そこは…そこだけは、アキたちのような世代が目にすることのない光景が広がっていた。姿もいつも通りの人間の姿に戻っていたが次から次へと押し寄せる情報の波にアキとユウゴも茫然と周囲の風景に目が離せなかった。
「なんだ、この地域…見ろ、あの線路の向こう側」
「えっ…どうなってるのッ!?」
今にも電車が通過するための警告点滅が鳴り響く線路の先にはアキたちのいる地域と同じ地域が連なっているのが常識であるはずが、線路の遮断機で遮られた向こう側は…都会であった。
まるで違う時間軸の地域と地域を繋げ合わせたように互い違いの世界を線路の遮断機を境目とした場所であった。
「どうなってるの?コレ…」
「…時代が違うんだろう…見ろ、ここの自販機と向こう側の自販機で型が違う」
ユウゴの隣にある自動販売機はかなり古い旧式のもので今の時代にあるならば錆びついた状態のものがたまにネットやSNSで見かける程度にレアな代物だが、線路の向こう側に設置された自販機は最新式の電子決済対応の型の自販機で駅前でよく見かけるタイプ故に記憶に新しいものだった。
「…一体、どういう事?」
「さぁな…それより、あの野郎はどこに居る」
この奇怪な現象に直面しているアキは動揺するもユウゴだけは冷静に周囲を見わたしてあの正体不明の存在を探した。
「あっ、お兄ちゃん あそこッ!!」
アキが指さした先にある古いアパートの2階に例の謎めいた黒いシルエットが目に留まった。
「あの野郎…丁寧に手招きしてやがる」
名状しがたいソレは2階の玄関通路で離れに居るユウゴ達に対して親指以外の指と思しき手先を曲げ繰り返して『来い』と意思が伝わるジェスチャーをしていた。
「舐めやがって…行くぞ、アキ」
「ふえっ!?ぼっ、ボクも!?」
「テメェだけ置いて言ってもいいんだぞ…このワケが分からん空間に」
ズケズケと何の抵抗もなくアパートへと向かうユウゴの背中姿を見てアキはキョロキョロと周囲を見わたしてもこのままこの場所に留まりたくない一心でユウゴと同じようにアパートへと向かった。
―カンッカンッカンッ…
「かなり古い様に“見せかけ”ている…感じだ」
「もうボクには何が何だかわかんないよ…わかんないから怖いよ…」
“神”を自称する正体不明の敵なのか味方なのかもわからない存在を追ってアパートの鉄骨階段から2階まで登りあがって来たユウゴとその後ろで彼のジャケットの裾を握りしめて離れまいとしているアキは恐る恐るアパートの部屋のどこにヤツが逃げたのかを探っていた。
―ガコンッ…ギィイイイッ―
「ひぃっ!?」
「…どうやらこっちだ…とよ、ご丁寧に」
突如、奥の部屋のドアが勝手に開いてここに居るというメッセージを受け取るやユウゴは何の抵抗もなくズカズカと進んで開いたドアを力強く開けて入った。
「御望み通り来てやったぞ」
「おっ、お邪魔しま~す…ヒィッ!?」
玄関に入るなり出迎えたのはあの正体不明の怪人的な姿をした存在であった。
「ようこそ、怪獣王ゴジラ…それとカプセル怪獣アギラ、君たちが来るのを待っていたよ」
「あっ、あなたは一体誰なんですか!?」
「言っただろう…正真正銘、君たちでいう所の神様さ まぁ、立ち話もなんだから中に入ってくれたまえ」
そういうと黒い体躯から伸びる頭部の触手を揺らしながら怪人は奥へと進んでいった。
郷に入っては郷に従うようにユウゴも靴を脱いで玄関に上がり、アキも同じく靴を脱いで上がると…二人は揃って靴の向きを玄関ドア側に向けた。
「……………」
「………うぅ」
「キョキョキョキョッ…そう警戒しなくても大丈夫だよ、取って食おうというワケじゃないさ」
部屋の奥の居間にあたる場所で中央に正方形のテーブルを間にユウゴとアキ、向かい合って謎の怪人、状況を細かに説明するにはあまりにも情報が過多すぎてアキがこの後に誰かに話そうにもうまく説明できない状況であった。
「改めて自己紹介を…と言っても色々な名前が私にはあり過ぎるからね、千の顔を持つ存在、万を超える異名、ただ私に与えたる名は唯一…『ナイアルラトホテップ』、長い名前だろう」
名を明かしたナイアルラトホテップと称する者は気さくにも会話を弾ませようとフランクな態度を取っているが2人が唯一抱く感情はただ一つ『怪しい』である。
「えっ…ええっと、ナイアル…ラト?ラテ?…ホッ、ホイップ…じゃないや、ホテップさんッ!?」
「おやおや、私の名前を悉くおいしそうなものに例えるとは噂に違わぬ食いしん坊ぷりだねぇ宮下アキくん…またの名を怪獣娘アギラ ホッ~キョキョキョキョッ!」
本来であれば失礼にあたるはずの言い間違いも気さくに受け流して寧ろ笑い飛ばす何処かお調子者とさえ認識させるが得難い姿で独特な笑い声をあげる奇怪な怪人を前にアキはユウゴの後ろに隠れるしかできなかった。
「あっ、あなたは一体何なんですか!? うっ、宇宙人!?地球を侵略しに来た宇宙人なんですか!?」
「おやおや、そう警戒されてもなんだが…宇宙から来た存在ではあるが…明確には宇宙の外側、世界の外側から来た“神様”だとも」
「…神だと?…さっきからテメェらの様に神だ、神だと自称するヤツらは何もんなんだ?」
「ぼっ、ボクも…そう思います……なんでお兄ちゃんがあなたみたいな人を複数形で名指してあたかも“既に会っている”みたいな雰囲気なのかはわかりませんけど…」
ワケがわからず理解の及ばない状況ではあれどアキはまず目にしている光景を信じて、交わし合う会話を内容には理解できずとも聞き耳を立てる事にした。
「ふむ、それを話す前に…バーストのミルクの時間だ」
黒い怪人ナイアルラトホテップは振り子式のアンティーク調の壁掛け時計からボォオオンッボォオオンッと深みのある鐘が鳴り響いた。
―ミュニャァアアアア~ァッ…
そして、この部屋にいつから居たのかアキの背後から猫の鳴き声と共に猫が現れた。
「わぁ~、ネコちゃんだぁ~」
「おや、ネコちゃんは好きかね?」
「まぁ、好き…ではあるけど、こんなワケのわからない状況の中での唯一の癒しって感じがします」
「おやおや、それは何より…何なら彼女にミルクを与えてやってはくれないかい?冷蔵庫に入っているから」
そう言われてアキはこの混沌とした空気から宛ら逃げ出すかのように言われた通り台所にある古い型の冷蔵庫のドアノブを捻って開けると瓶詰された猫用のミルクが入ってあり、それに手を伸ばした。
「コレだよね…は~い、今お皿に移してあげるからね」
「…勝手にニャーのミルクを取ってんじゃねぇ…この脂身女」
「へっ?…誰ッ?」
「目の前で喋ってんのに気づかないとか朴念仁の唐変木ニャ」
今からミルクを与えようとした猫は突如喋り出したと思いきやアキに飛び掛かるなりアキの顔面に前後ろ両足そろえて踏み越えて飛び上がった。
「フギャァッ!?なっ、何!?」
「猫が牛乳や魚ばかりしか好まないと思ったかニャ?…猫は意外と雑食なんニャ~」
顔に肉球の後が付くアキはそっと目を見開くとソコには先ほどまで居た猫に変わって女の人がアキの顔を覗き込むように睨みつけていた。
「ダッ、誰ッ!?」
「せっかく程よい獲物が来たと思ったけど…なんニャこいつ、脂身だらけで喰い応えがなさそうニャ~…でも恐怖心の味に混じって甘美な劣等感の味もするニャァ」
突然現れた女の姿はどこか華奢で所謂細身のような体形だがこれまで見てきたGIRLSの怪獣娘の様なグラマラスとは真逆にスレンダーな印象を抱かせる姿にアキは目でその姿を捉えるなり少しばかりの羨ましさが目に滲むようだった。
「そんなにニャーに喰われたいなら…喰ってやらんことも無いが、オマエもウルタールの夫婦みたいにしてやろうかニャァ?」
「ヒャッ!?…いっ、言ってることはよくわかんないけど…なんか、すみませんッ!!」
鋭利な爪を持つ指先がアキの頬に滴る冷や汗をなぞって引き気味の腰に手を回され逃げられない。
「コラコラッ…お客さんに意地悪しないの」
「フニャッ!?ニャァ~~ッ……ミャァア~」
さんざんアキに意地の悪い猫より化けた女はナイアルラトホテップから空間を指先でなぞるような仕草だけで元の猫の姿へと戻された。
「ホッキョキョッ…ウチの飼い猫のオイタには目を瞑ってくれたまえ…なんせお客さんを招くなんて100年以上ぶりだからね ええっと、お皿、お皿っと…」
危機的状況を助けてもらって早々に猫用の皿を探すどこか人間臭い自称“神”の姿にアキは小さくお辞儀をした。
「神様らしくないって思うだろう…今の私たちは神ではなく化身に近い存在さ、私たちが存在できるのは人間あってこそ、宇宙生命開闢から続く概念に形を成し続けて様々な姿を得てきたが…今の姿の方が意外と気に入っているだけさ はい、お皿」
「あっ、ありがとうございます…」
受け取った皿に瓶詰のミルクを注いで猫に差し出した。
猫は皿に注がれたミルクを舌で器用に掬いながら飲みだした。
「…君は…世界が5分前に出来ていると言われたら信じるかい?」
「えっ?…世界が…5分前に?」
唐突に尋ねられたのは『世界五分前仮説』というイギリスの哲学者によって提唱された有名な一文であった。
「少し懐疑的な話だけど、5分前に作ったカップうどんを5分前に完成させたとは限らない…人によっては6分の方がうまいという者も居れば、4分か3分そこらの固い方がいいという者もいる…簡単に言えばこじ付けられる話さ、5分以上前の記憶あることなんて誰にも証明できない でも君たち人間は5分より以前の記憶を“思い出”に保管している…君たち、人間は不思議な生き物だ だから私にとっては愛おしいよ はい、氷は入れといたからこのコップ持ってって 今お茶持っていくから」
「あっ、はい…」
アキは両手に氷の入ったガラスコップを抱えてユウゴが座する席まで持っていきユウゴの前、自分の前に置いた。
「…何やってんだオマエはさっきから…」
「いっ、いいでしょ お茶くらい…ボクはもう処理できる範囲の情報がキャパオーバーしてるよ」
「だったら先に帰ってろよ…俺一人でヤツと話しつけといてやるから」
「帰りたくても帰れないよ…どうやってここから帰ればいいのさぁ」
小声で言い争うユウゴは片や頬杖を突きながら自分で解決しようとしているが一方のアキは姿勢よく正座して行儀よく待っていた。
「はいはい…お待たせ、缶飲料だけど どうぞ」
「あっ、ありがとうござい…いッ!?メッ、眼兎龍茶ぁ?」
受け取った缶飲料にはGIRLS東京支部在中のカウンセラー兼医務員のメトロンのような柄の飲み物であった。
「そうかそうか…君たちの時間軸ではもう遅い時間だったね では、アキくん…君だけでも先に元の世界に帰してあげよう」
「えっ、ボクだけ!?」
眼兎龍茶をコップに注いでいるアキは自分だけあっさり帰されることになって動揺した。
「そうだよ…だけど元の世界を帰すには帰すが…君には知ってもらう必要がある 君たちの世界に迫りつつある“変異”について…あとの事はそっちの世界の守護者の一人に君と同じく怪獣娘の子がいるから話はその子から聞いておいてぇ~ それじゃぁ~らほいっと!」
「へっ?…フギャァアアアアアアッ!!」
ナイアルラトホテップの手拍子と共にアキの膝元したから空間に穴が開いて落とし穴へと叫び声と共に急降下して落ちて行った。
「………………」
「おや、身内に危害が加わっているかもしれないのに…君は随分と冷静だねぇ~」
「ふんッ、ここまでバカげたものを見せて来た野郎が今更危害も弊害も晒すようなことするかよ…テメェみたいな野郎の魂胆は分かっている テメェは“狂気”が見たいんだろう、なんなら狂った猛獣の様に暴れてやってもいいぞ」
「ふふふっ、それでこそ“ゴジラ”だ!…いいねぇ、その闘争心 “彼”には無いからこそ正反対であるのに近しい何かを感じさせてくれる」
ナイアルラトホテップは缶飲料のプルタブを開けてそこに先端に蛇腹状になったストローを指して口と思われる部分に先端を付けるなり中身が吸い上げられていった。
「んん~ッ…ふぅ~、さてさて…君に伝える事が多過ぎるが私にも誓約があってね この世界にそこまで深くは干渉できない だからこそこうして傍観者、あるいはオーディエンスの一人として観察させてもらっていた」
「傍観者…だと?」
「イエス! この世界はある種の“物語”なのさ…多元世界に連なる一つの『お話』…だかそこに何者かが侵入してメチャクチャに引っ掻き回しているようだ」
するとナイアルラトホテップの手元にもう一つのコップをさながらマジシャンがあたかも何もない手から出現させたように出した。
「片や…元あるストーリー…片や…本あるストーリー…それぞれには混ざり合わない者同士が一緒くたにされて混ぜ合わせる 多くの者はメチャクチャとも思える破綻した話に聞こえるが…これを行った者にとっては宝石輝くおもちゃ箱も同然さ、実に幼稚で陳腐的だが君たちの世界にとっては危機的な状況でもある なんせ世界の法則を捻じ曲げてしまい軌道修正不可能になれば私たち神々は採決を下してこの世界を無かった事にしようとするだろう」
「長ったらしい…なんの話だ?」
「わかりやすく言えば…この世界は今や“裁判中”なのさ 私の様に神に連なる者たちが世界の行く末を数多る世界線と時間軸から推論して決断を下す…だけどこの世界は多元宇宙開闢より始まって以来の“観測されなかった世界”だ…神々も滅するには早計として“アレ”を先発に寄越した次第なのさ…」
「アレっというのはあのタコみたいなやろうか?」
ユウゴはさんざんナイアルラトホテップの口からこぼす“彼”や“アレ”について先日に関わった輸送船の事件にて遭遇した正体不明の敵なのかも認識しがたい相手“クトゥルフ”を思い出していた。
「それにしても、裁判長自らは現場検証の為に出張ってくるものかねぇ~…よっぽどこの世界には傍観だけでは見えないものがあるらしいよ」
「ふんッ…別に俺は神とかどうとかを信じるほど狂信ではねぇがテメェみたいなのが俺たちに何を求めている」
「いいや~特には…私も多くの人間を見て来たけど、多くの場合はその狂気的な世界に魅入られて狂ったり、発狂したり、命さえも断とうとする者が多いから正直に言えば…退屈、だったのかもしれない」
ナイアルラトホテップはコップの中の飲料をストローで掻きまわしながらどこに口が有るのか分からない頭から深いため息を吐き出した。
「そんな時に酔狂な神が救済措置として送り出したのが“ダゴン”だった…もっともクトゥルフをしても誤算だったのか、どうだったのか…世界が安定さえすればアレはそれで満足なのさぁ」
「…ダゴン……ずいぶんと前にも同じような言葉を聞いた」
「…君、それだけ身近な事なのに自分では気づかないのか?…やれやれ、仕方ないから教えるけど ダゴンはねぇ、“調和装置”だよ」
ユウゴの頭の中でどこかこびりつくように耳にし続けて来た“ダゴン”という言葉に対してそれを唯一知っているナイアルラトホテップが答えた。
「農耕道具の鍬ってあるじゃない…アレで土を耕したり慣らしたりするのと同じさ 乱れた世界を補修したり、修正したり、あるいは消したりする者さ…世界には必ずと1つにダゴンを配置する 時代、文明、他の地に限らずいつだって“彼ら”はそれを軌道修正するのが定めだ」
「それと俺になんの関係がある」
「フフフッ…それを言ったらネタバレになるじゃないか まぁ、私としてできる範囲の御膳立てはしておいたから後の事は君たちの…生き様さ! 大いにもがき狂いたまえ」
アキと同じようにユウゴも元の世界に返そうと手拍子をする時だった。
「待て…最後にもう一つ聞かせろ お前は一体何なんだ?」
「…唯の…ファンの一人さ」―パンッ―
手拍子の音と共にユウゴが座する地点より下に穴の様に開いた箇所から急降下して落ちて行った。
「……どう思う、バーストや……この先の展開は?」
「にゅぁ~…ニャーが知るわけニャいにゃぁ~…でも唯一わかるのが、あの娘は処女だったニャァ~」
「そういうのデリケートなんだからやめなさいって…」
ナイアルラトホテップの膝元に乗り上げて来たバーストと呼ぶ猫の首元を掻いて2人がいた席に残されたコップの中の飲料からカランッと氷がズレ落ちる音が響いた。
・
・
・
GIRLS東京支部 音響室
「それでコレが80シリーズのアコースティックで…」
「へぇ~、いろいろ種類があるんだねぇ」
GIRLS東京支部に設置された音楽活動を盛んに行えるための音響設備が整った一室ではミサオの説明を交えた取材中のトオルがいた。
「それでそれでッ! これはすっ~~~ごく珍しいタイプのドラムなんですけど…」
次に力の入った熱弁をしようとドラムの方に案内するなり…―ズゥドォガラガッシャァアアアンッ!!―
「うわぁあああ!なっ、何ッ!?」
「っ~~たく、まともな帰し方はねぇのかよ よぉ、お前ら…邪魔しているぞ」
「そうだね どう見ても邪魔な事をしているね、君は…」
ドラムの上から落ちて来たユウゴに茫然と何が起きているのか理解が追い付いていないミサオだったが…
「あぁああああ~!!あたしらのドラムゥウウッ!!」
「あぁ?…そう言えば頭のコレ…なんだ、シンバルか?……あっ、あぁ~あ…」
落ちた拍子にユウゴの頭に乗っていたドラムのシンバルを手に取って初めて実感した自分が落ちて来た拍子に破壊した事に気が付いた。
「悪い悪い…“今から”直しておくから…」
「…――~――…ッ!?」
ミサオは状況の整理が付かないままに何をどこから指摘して良いのか分からず声が出ないままにあれやどれやそれやと人差し指を右往左往していたら…
―ガチャッ…―
「やぁ、ユウゴ君…“あの方”にはお会いされましたか?」
音響室のドアを開けて入って来たのはダグナであった。
「まぁな…お前から迎えに来れねぇのかよ」
「あの方の領域はあの方が定めた者以外はこちらからは迎えません…私とて早々にあちら側には行けませんよ あぁ、相沢トオルさん おっと今は先生でいらしてましたね、これは失礼」
「いえ、お久しぶりです」
顔見知り通りなのかトオルにも礼儀正しく挨拶を交わす中…
「それよりお前、これ直しておけ」
「おや?あらら…コレは大変ですね」
シンバルを渡されるや状況を理解したダグナはミサオに近寄った。
「私の身内が大変失礼いたしました…ドラムの方はご安心ください、既に直しておきました」
「へっ?はぁっ?…そんなワケ……あれぇええッ、いつの間にッ!?」
そんな早くに直せるはずの無いほどに無残にもボロボロにされたドラムがまるで何事もなかったかのように元の状態に戻っていた。
「それよりも…先にアキがこっちに戻されたが、あいつ何処行ったんだ?」
「場所は把握しておりますので…向かわれますか?」
「いいや、筋肉ゴリラに向かいに行かせる」
―ギィイイイッ…バタンッ―
「……ええっと、それで続きは?」
「へっ?…あっ、そっ、そうですね…」
まるで嵐の様に去って行った2人に呆気に取られていたミサオは我に返って取材の続きに専念した。
・
・
・
??? ???
「いったた…お尻打ったぁ~ッ!」
臀部を強く打って落ちて来たアキがいる場所は薄暗くどこかの洞穴の様な場所に落とされていた。
「どこ~…ここぉ~?」
探り探りで手元の感覚のみであたりを探って出口を探そうにも何も見えない。
「ううっ~…暗い…怖い……誰か…助けて…お兄ちゃん…おじいちゃん…お母さん…」
自らにまとわりつくような闇の世界の中でただ一人取り残されているような気分のアキはその場の壁際に座り込んで蹲った。
自分の力ではどうする事の出来ない無力さが彼女に覆い隠すかのようであったが…その時だった。
「ソコに居るのは誰ッ!?」
強い光が差し込まれアキの目を眩ませて視界を潰すほどの光量にアキの目は眩んだ。
「うわぁあああ!ごッ、ごめんなさい…怪しい者じゃないんですぅう!がっ、GIRLS東京支部の怪獣娘で…あっ、アギラって言います!!」
突然の声に驚いたアキは自分が怪しい者じゃないと理解をしてもらうのに必死になって自らの身分を口から曝け出した。
「…東京支部?…なんで東京支部の子がこんなところに居るのよ…」
「ふえっ?…アッ!」
恐る恐る目を開けるとソコには見慣れない女性がいた…否、見慣れない怪獣娘であった。
「私はミズノエノリュウ…どうして東京支部のあなたがここに居るの?」
怪獣娘ミズノエノリュウは臀部より生える獣殻(シェル)で構成された8つの竜の頭部を持つ特殊な怪獣娘であった。
その8つの頭の竜たちにそれぞれ独自の意思があり、本体の彼女の意思とは別にそれぞれがアキの様子を品定めように睨んでいた。
「えっ…ええっと…いろいろありまして…ところでここはどこなんでしょうか?」
「はぁ?…ここがどこかも知らないの? ここは秋田県の婆羅慈市、そして私たちが居るここはホラッ」
そう言ってミズノエノリュウが手にする懐中電灯の光をアキから離してその後ろの壁に照らすと…複数の目を持ち、大きな右腕から生える刺々しい手を持つ怪獣…が、もっと強大な存在に踏みつけられて地中へと封じられているかのような壁画が現れた。
「ここは婆羅慈遺跡…今ちょうど城南大学考古学研究室が発掘中のため私たちGIRLSも参加させてもらっているところよ」
「えっ…えええええええええええええッ!?」
アキはところ変わって元居た東京ではなく、なぜか秋田県の古代遺跡発掘現場へと転送されていたことに驚愕するのであった。
アンバランス小話
『思わぬ伏兵』
「いいですか…奥さん」
「ええっ、覚悟は…出来ています」
ザンドリアスことサチコが受診後の翌日後にサチコを担当した歯科医師の兜トニオが彼女の母ミチコを呼び出して来院させ、現在深刻な顔つきで2人は向かい合っていた。
「それではご説明いたします…今回、サチコちゃんの御口の中を見させてもらいましてある程度の乳歯は抜歯が完了しました…が、ここを見てください」
レントゲン用のホワイトスタンドライトに映し出されたサチコの口腔内レントゲン写真を用いて詳しい事を指さしで示した。
「こっ…これって…親知らずですか?」
「そうです…ですが本来こういった歯は成人後から徐々に出てくるという場合がほとんどですが、サチコちゃんの場合は顎周りの成長が未発達でこの調子で成長が進みますと親知らず自体が横向きに成長していく可能性があります」
「そっ…そうなるとどうなるんですか?」
「生え方にもよりますが…下顎の骨と癒着されると感覚が無くなってしまいますので、数年後の彼女の奥歯から親知らずが露見しましたら早急に来院して処置した方がいいですね」
「そんなぁああああああああああッ!?」
まるで自身の娘に不治の病が発覚したかのような絶望の声が上げた。
「なぁ、兜さん…わかってやってくれ……ミチコさんにとってあの子をここまで連れて行くのだって至難な事なんだ」
たまたま仕事がなくオフの時に付き添いで同席したヒエンがミチコの背中を優しく摩った。
「親知らずを教えるだけでそこまで?」
「それほどに…だ…あの子が生まれた時なんて病院中が大騒ぎになるほどだったんだ それはもうギャン泣きもギャン泣きだ」
「ううっ、ヒー君…私には…私には無理よ! 今だって治療後のあの子が全然口をきいてくれなくなって…私…わたしぃい!」
ミチコは絶望のあまりヒエンの胸の中で泣き叫んだ。
「ヒー君もまだザンちゃんに紹介できそうにもないし…もうこうなったら、またあの人たちに頼むしかないのかしら」
「いっ、いえ…次は自分が仕事の空いてる時にでも…」
「だって、ヒー君いつも仕事で忙しそうじゃない!…そんなんじゃザンちゃんを任せられないわ それに……その……ザンちゃんの先輩のお兄さんが…ちょっと…」
何か様子のおかしいミチコの態度にヒエンの顔に黒い影を落とした。
「ミッ、ミチコさんッ! そっ、そそっそれは…その……あの全身肉の壁で敷き詰められたようなアレに…アレに何かされましたかッ…」
「やだぁ~~…もう、そんなんじゃないわよ ただちょっと…その…すっ、素敵な方…だったなぁ~って思っちゃって」
ミチコが顔を赤面させてユウゴに対する印象が好意的な気配を察知したヒエンの毛髪が逆立った。
「…あとであの唐変木を抹殺しておかねば…」
「うっふふふ~ぅ…」
殺気立つヒエン、変な妄想に浸るミチコ…唯一この空間で一番迷惑している人物はこう思った。
(他所でやってくんないかなぁ…)