TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
世間が怪獣娘を認知して数十年余りが過ぎ、日常生活に支障をきたすほどに有り余る力を有してしまった女性たちを支援するために設立された『国際怪獣救助指導組織』通称“GIRLS”が設立され広く怪獣と言う存在がある種のコンテンツ化が進む現在、そういった輝かしき光をもたらす側面があるところに人知れず影もまた存在していた。
「そう、我々ブラックスターズはそんなGIRLS共が常に勢力を増している中でも私たちは日々侵略の手を緩めぬ 行くぞ、ブラックスターズ!レッツ侵略……アジト探しだ!!」
威勢よく指先を突き出して号令をかけるのはGIRLSとは対局的な位置を示している…と自称する侵略組織ブラックスターズ、その首魁たる怪獣娘ブラック指令は家財道具を敷き詰めたリヤカーを背に新たな住居を求めいた。
「さっすがブラックちゃ~ん、勢いだけはいいのにやること成すことすべてが空回りして家賃も払えずに家を追いだされた人とは思えないねぇ~」
意気込みの空回る組織のリーダーをケタケタと笑いながら褒め貶すのは円盤生物の怪獣娘シルバーブルーメだ。
「余計な事を言わなくていいッ!!」
「そもそもリーダーの思いつきで始めた新事業も振るに振るわず大赤字…勝負は既に目に見えていた」
最初からブラック指令の思惑が外れる事が見えていたのは赤い鎌と赤いコートに身を包んだ同じく円盤生物の怪獣娘ノーバである。
「ブラックさ~ん、皆さ~ん!お待たせしました~!」
遅れて駆け足でやって来た学校制服姿の少女は平賀サツキ、ひょんなことからブラックスターズのメンバーとして加入して知恵者としてその手腕を買われているが…
「おおっ、よく来てくれた ペガッサ参謀長!」
「連絡を聞いて驚きましたが…引っ越されるんですか?」
「うむ、我らブラックスターズの活動資金を日に日に奪っていく悪しき大家に突如立ち退きを下されて…やむなく勇気ある戦略的撤退を強いられることになってしまった」
(それって…単に家賃の滞納で追いだされただけじゃ…)
事実、家賃の滞納で追いだされ家具などの家財道具をリヤカーに納めて宛ての無い放浪中である。
「これから先どうされるんですか?」
「フフフッ、なぁ~にッ私に策有り 新アジトのあてなど既に目星はついている」
普段から空回りするような愚策を繰り返すブラック指令であるが普段の彼女を知る者たちにはやけにいつもらしくない雰囲気の彼女に首が傾く。そして、リヤカーの家財道具の隙間からウトウトとして眠る者がもう一人いた。
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「――…なるほど、それで私の実家が空き部屋のあるウチだと思って家財道具引っ提げてやって来たと」
「フフフッ、メトロンよ…住まわせてくださーい!!」
ブラック指令が頼りにして訪れたのはメトロン星人の怪獣娘である百地メルであった。そんな彼女にブラック指令は床に額がつくまで誠意ある土下座を向けた。
「にゃははは~、ブラックちゃんプライド無さ過ぎぃ~」
知人に対してプライドのない土下座をスマートフォンの画角に納めて何度もシャッターボタンを何度も押した。
「とっ、撮るなぁああ!!」
「アンタが撮られるような事をするんじゃないよ」
「ええっと…ブラックさんのお知り合いですか?」
ブラック指令とメルの関係を知らないサツキはメル本人に直接尋ねた。
「んっ?あぁ、私はコイツの元同僚…」
「同僚さん?…そう言えばブラックさんって以前どんなお仕事をされていたんですか?」
「あれ、コイツから聞いてないの?…コイツ、これでも元看護婦だよ」
「「「看護婦ぅうう!?」」」
「言うなぁあああ!!」
衝撃的な事実が判明した。ブラックスターズの“漆黒のリーダー”ことブラック指令は白衣の天使であった。
「ぶっ…ブラックちゃんが…はっ、白衣の天使さん…うぅ~ぷぷぷッ!あひゃひゃひゃ~!!」
「やっ、止めろ…言うな…想像すると……ブフッ!?ダメだ…耐え切れん…ブフォッ!!」
「だからこいつらには言いたくなかったんだぁあ!!なんでバラすんだ!!」
「いや、話さなかったアンタに問題があるわ…あんた病院を突然やめてから何してたのよ」
メルは腕を組んで家賃を滞納するまでに至るようなブラック指令の生活状況を尋ねた。
「いっ、いろいろあって、今は侵りゃ…慈善活動を…」
シレッと“侵略”を“慈善”と言い換えた瞬間を目にしたサツキの頬に冷や汗がつたう。
「なるほど…自営業か何か?」
「まぁ、そんなところだ…最近も活動資金を得るために飲食事業を始めたんだが、憎きGIRLSどもと連中お抱えのボディーガードのせいで大赤字を被った」
ブラック指令が握り拳をプルプル震わせながら失敗した飲食事業に大打撃を与えた原因と思い込んでいるGIRLSも含めユウゴも逆恨みしていた。
「馬鹿でしょ…ノウハウもないままに新規事業に手を付けて案の定失敗する典型的なパターンじゃん、っていうかGIRLS関係無いし…」
「大いにある! 奴らの善人ヅラを見ていると…こう、ムカムカしてくる!」
「はぁ~…アンタまだGIRLS嫌いのままなワケ?」
「無論、一生分かり合えん!」
無駄に頑固な様子にメルが知る中でも以前からGIRLSに対して嫌悪感を抱いている様だった。
「前にも言ったけど…アンタに経営者とか向いてないから、素直にGIRLSの援助を受けなさいよ」
「うっ、うるさぁああい!今更私があんないい子ちゃん連中と肩を並べるなんて反吐が出る!!」
「はぁ~まったく…何言っても無意味らしいわね、わかったわかった…とりあえずウチに泊まるのはみんなでいいの?」
「あっ、私は父と母が居るので…」
「あたし、住居別ぅ~」
サツキとシルバーブルーメはそれぞれの自宅があるため必然的にメルの家に住むことになったのは“3人”であった。
「ええっと、ブラックと赤テルテルっ子と…あと、その子は?」
ノーバが『赤テルテル…』と呼ばれた事に疑問を持つ横でサツキが両手に抱える幼い少女が1人いた。
頭に大きめの貝の被り物をしているような姿の幼女は通称“邪神”ガタノゾーアの怪獣娘である。無論この子もサツキ同様ひょんなことからブラックスターズに半ば匿い同然で共に過ごすことになった奇妙な経緯があった。
「あの…ガタちゃんって言います」
「んっ?…この子、何処かで……まぁいいわ、とりあえず家賃は1人1万として計3人分の3万!」
それは部屋の貸し出しにはあまりにも破格的な賃料であった。
「ほっ、本当に3万でいいのかッ!?」
「別に私は仕事収入があるし、この3万も家賃収入ではあるけどほぼほぼアンタたち用の食費みたいなものよ 3万円分で適当な食材を買い込んで冷蔵庫にぶち込んでおくから自炊ぐらいアンタらでしなさい」
ほぼ住居の家賃収入としての側面も無く、ただ単にブラック指令たちが生活できる範囲のための予算としてメルが管理してくれるという好待遇であった。
「ううっ、すまないメトロン…」
「なにうれし泣きしてんのよ…もちろん条件があるわ まず、その子をちゃんと病院で健診を受けさせなさい!」
「ガタちゃんを?」
家賃3万円の条件として提示したのはガタノゾーアの健康診断であった。
「――今から伝える病院にいって健康診断を受けて来て、この病院は怪獣娘であれば無料で健康診断を受けられるからそこに行ってきて…」
そう言ってメルはサツキに簡易的な駅名の入った地点から病院までの地図を描いたメモを渡した。
「はっ、はい!わかりました」
メモを渡されたサツキはガタノゾーアを連れてメモに記された病院まで向かった。
「いやぁ~なにはともあれ一先ず、居住可能な新アジトを手に入れたぞ!コレにて新生ブラックスターズ復活だぁあ!なぁ~はっはっはっはっはぁ!!」
一旦は住まいの問題を解決したブラック指令は安堵の高揚からか高らかに笑いあげた。
しかし、それでは決して終わらぬとブラック指令の肩にメルの手が乗った。
「な~に、満足気に高笑いしてんのよ…早速前金として3万、出しなさい」
住む事になって早々にメルはブラック指令の懐から3万円を要求した。
「なっ、まっ、まだ払わなくてもいいだろう!このお金は我々の最期の虎の子なんだぁああ!!」
なけなしのお金が入ったブラック指令のがま口財布は彼女が強く握りしめて支払いを拒否した。
「まぁ、だと思った…仕方ないから支払いは末日までにしておいてあげるわ」
「ほっ、本当か!?」
「その代わり…今、払えないなら…身体で払ってもらうよ」
「ひぃいっ!?かっ、身体で…払うだと!?」
突如の賃料支払い分を肉体的に払ってもらうとしてブラック指令は身の危険を感じて自身の資本たる身体を隠して身を縮めた。
「それはまたおいおいとして…そこの赤ちゃんちゃんっ子、このバカを縛り上げといて」
「赤…ちゃんちゃんっ子?…まぁ、いいが…観念しろリーダー」
「わぁああッノーバ!何をする!!」
ノーバの伸縮自在な右腕の触手が伸びてブラック指令1人を軽々と宙に持ち上げて見せた。
「誰か目隠しか何かない?」
「確保用の紙袋ならあるよぉ~!」
「一体何に使うか知らないけど…それでいいからコイツの頭に被せておいて」
「アイアイッサァ~!」
シルバーブルーメはブラック指令の頭に視界を塞ぐための紙袋を頭に被せた。
「はっ、放せぇえ!わっ、私を一体どうするつもりだ!」
「フフフッ、アンタが病院を辞めてからずっと考えていたことよ これからアンタには会ってもらう…いや、会わなきゃならない人がいる それじゃあソイツ連れてついて来てぇ~」
「「りょうか~い!!」」
「おいッ!リーダーは私だぞ、リーダーの言う事を聞けェエエ!!」
リーダーのポジションを乗っ取られたまま抵抗空しくブラック指令はメルに連れていかれてあるところへと向かった。
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神奈川県 川崎市内
都内から離れてメルの車で到着して早々に川崎市内の住宅地へと一行は足を運んだ。
「ねぇねぇ大家さん、ここにブラックちゃんが会わなきゃいけない人が居るの?」
「そうよ…なんたってこのバカが一番迷惑をかけた人だからね」
「ふざけるなぁああ!今のこの状況の私の方が迷惑だろうが!!」
自身に置かれた状況に憤慨するブラック指令であるが抵抗も出来ずに大きな声で訴える事しかできなかった。
「それで、コイツをどこに連れて行くんだ…」
「もうすぐよ…ええっと、ここだわ」
ついた先に待ち構えていたのは…この地域の住宅と何ら変わらない一軒家であった。
「ここ…なの?」
「そうよ、ちょっと待ってて…」
メルは早速玄関のブザーを鳴らした。待つこと1分もしないうちにドアの施錠が空いて中から人が出て来た。
「やぁ、メル君…久しぶり」
声からして家主は男性、それも丁寧清潔を絵に描いたような若紳士な男性であった。
そして、メルを始め全員がこの男性の家に招かれた。
「もう紙袋取って良いわよ」
そう言われシルバーブルーメがブラック指令の紙袋を外すと視界を遮られていたブラック指令が目にすることのできる世界が広がった。
「やぁ、黒くん…お変わりないようだね」
「ヒャァッ!?せっ、先生ぃッ!?」
視界開けたブラック指令を待っていたのは彼女が『先生』と呼ぶこの家の家主の男性であった。
「なに驚いてんのよ! 驚く前に謝ることがあるでしょうが…」
「まっ、まままっ待ってメトロン!会わなきゃいけない人と言うのは…“蒲原先生”の事かッ!?」
ブラック指令が謝る必要のある人物こそこの紳士的な格好の男性“蒲原”であった。
「他の方も私を知らないだろうから自己紹介させてもらおう…私は蒲原シンペイ、ここで精神科医をしている者だ」
「蒲原先生は私とコイツが務めていた病院時代の心療内科の先生だった方よ」
かつてメルとブラック指令が務めていた病院の精神科医であり、後にブラック指令が突如辞めたことによって迷惑をかけた人物であるとメルは語る。
「先生、このバカがその節で大変ご迷惑をおかけしました…ほら、アンタも頭を下げなさい!」
「いぃやぁめぇろぉおお!!頭なんぞ下げないぞ!!私はぜぇえええたいに頭を下げないぃぃいいッ!!」
無理してでも頭を下げさせようとするメルに対して確固たる強い意志で拒否するブラック指令の頭はてこでも動かない。
「ねぇ、ねぇ…結局ブラックちゃんって何しでかしちゃったの?」
ブラック指令のしでかしたことにいまいちピンと来ていないシルバーブルーメはメルに事の経緯を尋ねた。
「このバカは何の前触れもなく勝手に病院に辞表を叩きつけてやめた! 一般常識として言うけど退職は最低3ヵ月前に通知するのがじょ・う・し・き・なのよ!!」
「うっ、うるさぁ~い!!わっ、私には私なりの考えてあっての行動だ!オマエなんかに強制される覚えはない!!」
下げさせようとする頭を振り払って謝罪を拒否した。
「まぁまぁ、もう2、3年前のことなんだ…攻める気など私には毛頭ないよ」
「しかし…」
「それよりも顔を見てこうして元気にやっているのなら私はそれだけで何よりだよ…少し待っていてくれ、今コーヒーでもだそう」
医師の蒲原シンペイは気さくでなおかつ大人な対応を示した。そんな蒲原の寛大な姿勢に対して無礼を絵に描いたような態度を取り続けるブラック指令にメルは深いため息を吐き出した。
「待たせたね…ウチは無糖コーヒーと砂糖ぐらいしかないが…いいかね?」
「うげぇ~…あたしブラックちゃんが作るブラックコーヒー以外飲めないよぉ」
「私もだ…ミルクコーヒーを所望する」
来客用のソファーに腰かけてテーブルの上に出された無糖コーヒーを見るなり激しい嫌悪を抱くシルバーブルーメとノーバだが…
「まぁ、そういわず…ウチの無糖コーヒーはそこら辺のコーヒーとは違って飲みやすいよ…騙されたと思って飲んでみてくれ」
「ううっ~…まぁ、出されたものは飲むけど…」
「郷に入っては郷に従うしかない…いただこう」
他に飲むものもないため仕方なくコーヒーに手を伸ばすが…
「あれ?苦くない…寧ろおいしい…」
「しかもこの味…どこかで…」
どこか飲みやすく、それでいて美味しい味わいの深いコーヒーに覚えがある二人は…
「これって…ブラックちゃんのコーヒーと同じだ!」
「確かに…コイツの唯一の取り柄であるコーヒーだ」
思い出した2人は手をポンッと叩いて納得する。そのコーヒーはあのブラック指令が作る味わい深く、その上に苦みの無い美味しいコーヒーの味であった。
「はははははっ、実はソレ…一切何も手を加えていないコーヒーなんだ」
「ええっ!?ウッソォ~だぁ~」
「本当だよ…実際君たちの身体は今も苦みを感じているが…苦みを感じる脳の機能を一時的に催眠で麻痺させているだけさ せぇの、はい」―パンッ―
蒲原の手拍子で発せられる音と共にシルバーブルーメとノーバがその音を耳で拾い取った次の瞬間だった。
「うげぇえええ!!にがぁ~い!!」
「ゴブッ!?きっ、貴様…毒を盛ったな!?」
「何もしていないよ…私は精神科医ではあるが、明確には催眠療法士でもあるんだ」
「「催眠療法士?」」
「平たく言えば催眠術を用いて患者の深層心理に宿る問題点を解決する 事によっては不治の病と言われていた精神疾患を治療することのできるお医者さんと言えば理解してくれるかな?」
蒲原が見せた高度な催眠術は蒲原の自宅に入った時点から始まっており特殊な手法でシルバーブルーメとノーバに味覚を変化させる催眠を施していたことに2人は驚かされた。
「一体どうやったの!?」
「それはまた企業秘密…」
「先生は国内でも随一の催眠術師…過去には治る事の出来ないアルツハイマー型認知症を患った高齢の患者さんを数日のうちに直した名医よ」
蒲原の実績を知るメルはその凄さは彼女をしても脱帽するほどの腕前の持ち主であった。
「私なんてまだまだ遠く及ばないさ…常に催眠思念を無意識に発する事の出来る黒くんに比べれば私が行う催眠術は小技さ」
自らの技術を小技と称する謙虚な姿勢を示すが…
「ええい、うるさいうるさい!大体、あなたの元で働くのがいやだったから病院を辞めざるを得なかったんだぞ!毎日毎日、臨床実験と称して私に催眠術を試す実験台にしやがって…飲んだコーヒーを激甘にする催眠術や、食べたいごはんがすべて大根おろし味にする催眠術、挙句の果てには…仕事が激務になるほどの看護師の仕事ッ! ひぃいッ思い出しただけでトラウマが…」
病院時代に受けた様々な苦難苦労がブラック指令の脳内にトラウマのフラッシュバックとして過って蘇りつつあった。
「あぁ~…そんなこともあったねぇ」
「最後のはアンタ自身の問題でしょうが…」
「ええい、黙れ!!とにかく、私は前々からあなたが苦手だったんだ! 特にその目を合わせるとどんな催眠術を掛けられて変なことになるか分からんのだ! 酒を飲み過ぎて路上でリンボーダンスをしたり、ゴミ捨て場で朝を迎えたり、ソースと間違えて醤油をコロッケに掛けてしまう、そんな催眠術をこの男は常に私を使って実験してくるんだぁッ!!」
「確かに君にいろいろな催眠術の練習台にはしたことはあるけど…飽くまで生活の支障のない範囲でかけたつもりだが…?」
「――っていうか、殆どアンタ自身が招いた経験を言ってるわよね…」
明かに自分の失敗談を蒲原との日々とごちゃ混ぜにして話しているブラック指令にメルは呆れて息を吐いた。
「それでそれで!! ブラックちゃんを身体で働かせるって話はぁ~…なんなら私にもできるお手頃な催眠術を教えてぇ~ 今度ブラックちゃんで実験してみたい!!」
「ヤメロッ!!」
「はははっ、機会があればね…」
好奇心旺盛なシルバーブルーメも懐くほどに蒲原は人を惹きつける魅力があった。
「それでは蒲原先生…早速本題なんですけど、コイツを使ってとある“患者”への催眠療法を行ってもよろしいでしょうか?」
「うむ、事前に送ってもらったカルテを拝見したが…文面を見る限りその患者さんはかなり深い精神防御を本人も気づかないうちに掛けていると診ていいだろう…」
「おっ、おい!…一体何の話だッ!?」
何が何だか分からないブラック指令だが、メルは次の様に答えた。
「明日からアンタには診てもらいたい患者が居るのよ…家賃も払えず、明日どうせ暇でしょ」
「おいッ!私はやる何んて一言も言っていないぞ!!」
「私に免じて…黒くん、どうか今一度その力を貸してはもらえないだろうか?」
ブラック指令自身が苦手とする相手でもある蒲原は深く頭を下げてメルと共に彼女の能力で患者を診ることを願い出た。
「ううっ…しかし…」
「やんなきゃ、家賃5万にするよ」
「やります!!やりますとも!!」
「では蒲原先生、明日お願いします」
「ああ、黒くんの補助として尽力させてもらうよ」
あわや家賃が増えるところだったブラック指令は間一髪で二人の頼みを承諾するとメルと蒲原は顔合わせて頷き合った。
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翌日 メルの自宅
メルの自宅は元々祖父母の商店だった家をGIRLSの援助もあり改築をして建て替えた木造家屋はメル一人が住むにはあまりにも広かったがブラック指令たちが住み着いて人口の密度が十分なほどに収まった。
「ふぁぁあああっ~…」
早朝に規則正しく目覚めるのもいつ以来か、その反動故に深い眠りから目覚めても眠気が消えることはなかったが本能的な覚醒が彼女を突き動かしていた。
「おはよぉ~…」
「いつまで寝てんのよ、アンタ…もうご飯できてるよ」
部屋から漂っていた匂いに釣られて入った部屋にはノーバとガタノゾーア、ちゃっかりシルバーブルーメも朝食の席に交じっていた。
「はやく食べないとブラックちゃんの分なくなっちゃうよぉ~」
「おまっ、卵焼きは残してお…ケッ!?」
急いで席に着こうとした時、ブラック指令は足元の何かに躓いて転んだ。
「いっだぁ~…なんだ?いった…イイッ!?」
転ぶことになった原因を目にするなり、飛び込んできたのは床に転がるのは成人女性であった。
「わっわわわッ!?ひっ…人がッ!?」
「おい、やっぱりコイツも驚いたぞ」
「あらら、さすがの私も最初見た時はああだったなぁ~」
ブラック指令が驚いている横で冷静に見守る2人の様子にブラック指令は何が何なのかさっぱり理解できなかった。
「そいつが今日診る患者…天城ミオ、宇宙怪獣ベムラーの怪獣娘よ」
「へぇえッ!?こっ…コイツが!?」
「グヘヘェ~ッ…もうユウゴ君たらぁ~」
ブラック指令が目にしたのはすべての怪獣娘にとって始まりともいえる存在が酒瓶抱えて寝ぼけていることに動揺した。
食事を終えた後、メルの部屋にて…
「んッ、んッ、ンンッ…ぷはぁ~!何々ぃ~面白いことがあるって聞いて来たけど…何するのぉ~?…ヒクッ…」
診察室調に改装されたメルの部屋の病床の上で未だに酒瓶一升を開けてもまだ缶ビールを飲み続けるミオに同じ成人で酒が飲める年齢のブラック指令が引きつつも何か引っかかっていた。
「待てよ…アンタどこかで会ったような…」
「あんれぇ~?…そういうちみはぁ~…」
お互いに何か朧げに引っかかっている記憶の断片を引き出す中で…
「ああああッ!!思い出したぞ!…貴様、都庁での作戦後のシルバーブルーメとノーバだけで開いたお疲れ反省会でノーバだけ先に帰した2次会の席で突然乱入してきた自称探偵業者ッ!!」
「おお~あの時のリンボーダンスちゃんかぁ~!」
「はぁッ!?なに、アンタら知り合いなの!?」
ブラック指令が思い出したミオとの出会いの経緯自体まともとは言い難いものだが互いに面識のある間柄なのは確かであった。
「やっぱそうだよねぇ~あの時の探偵のお姉さんからもらった連絡先を通じてこのブラックちゃんリンボーダンス映像を撮って送ってあげた人だもんねぇ~」
シルバーブルーメのスマートフォンにはその時のブラック指令が酔った勢いでリンボーダンスをする映像の中に酔っ払いに紛れてミオも騒いでいる様子が映っていた。
「はぁ~!?おまえ、何撮ってんだ!?消せッ、今すぐに消せぇええ!!」
「や~だよぉ~!!」
「あ~もう、本題反れるから後にしなさいよ!!」
話が反れそうになったため急遽予定していたことを進めことにした。
「んんっ、それで“天城”さん…あんたいつから酒を飲むようになったの?」
「何々~メトロン…アンタやけにお医者さんっぽい事してんじゃな~い!」
「ちゃんとした医師免許のある医者だよ、一応ッ!真面目に答えなさい…じゃあ、話を変えて一日にどれだけ飲むの?」
「えぇ~えッ…どうかなぁ~…ウチには私に優し~いくしてくれる素敵な男性が1人いてぇ~、ちょっち厳しめだけど私に愛を持って接してくれる逞しい男性がいてぇ~、可愛い妹的な子もいるし、変なペットも付いてくるからついついお酒が進んじゃうんだよねぇ~」
後ろでノーバが『変なペットってアイツ?』と聞いて、シルバーブルーメが『うん、妙にガタちゃんが懐いているみたいだけど…』と会話をするさらに後ろでビーコンがガタノゾーアの遊び相手をしていた。
「あぁ~そう、それはそれで分かった…」
「くぅ~リア充めぇ…爆発四散しろッ!!」
「グヘヘェ~そうれす、わたすがリア充れす!」
呆れるメル、妬むブラック指令、煽るミオ、もはや診察の様相を呈していなかった。
「続けるけど…あんた、自分が自覚できないほどに浴びるほど飲んでいるってこと?」
「んん~浴びれるかどうかわかんないけど、お酒を浴びれるんなら浴びれてみたいなぁ~!」
「ミオ…アンタに見せたいものがある…」
そう言ってメルが立ち上がるとミオが座する病床の隣のカーテンで覆われた病床に近づいてカーテンを開けた。
「うっわぁ…何これぇ~!?」
「さっ…酒だ、すごい量だぞ」
「コレは元々は私の職場の部屋の中にコイツが勝手に隠し続けていた酒の数々よ…」
それはメルが働くGIRLS東京支部の医務室内の至る所の隠せる場所に隠していた酒瓶やらとすべてお酒ばかりであった。
「見て見てぇ~これ、有名なお酒の銘柄だよ!!……アレッ、でもコレ中身が空だ」
「こっちも…コレも…ソレも…これだけあって中身が全部ない」
「そう、コイツは自分の収入に見合わない量の酒を毎回購入し続け、家賃支払いもままならない…完全なアルコール依存症患者よ」
それはブラック指令たちの様にブラックスターズの活動で資金難ゆえに住居を追いだされたのとは違ってミオはアルコールであれば飛びつくように買い集めて破産寸前の状態であった。
「んもぉ~、失礼しちゃう!そんなに最近、飲んでないもん!最近はユウゴ君やダグナさんの管理もあって最近はめっきり飲める回数もへったも~ん!」
「その割には自重できてないみたいだけど?…ミオ、こんなこと言いたくないけど、あんたは完全なるアルコール依存症よ」
メルは厳しいことをミオに向かって伝えてもミオは『あ~あ~、聞こえない、聞こえないぃ~』と耳を塞いで現実逃避した。
「でも、正直アンタがなんでこれだけの酒に溺れているのか…それはアンタが溺れてるんじゃなくて、“逃げている”って気がしているわ」
メルはミオが飲む酒にある法則性があることを追求し始めた。
「アンタ、これだけ日本酒やウイスキー、白ワインとかを買い込んでいるけど…あんた、“赤ワイン”飲めるの?」
「えぇ~なんれぇ~…なんれ飲まなきゃいけないのぉ~?」
「前にあんたゼットンたちと一緒にイタリアン行った時のこと覚えてる? 店員におすすめされて全員が赤ワインを頼んだのに…アンタだけ白ワイン注文していたわよね」
「えッへぇ~…そっ、そうだっけぇ?」
ミオが赤ワインを飲めないことを追及すると…若干ミオの表情に動揺した様子が伺えた。
「…じゃあ、アンタに試してあげる…ほら、良い覚ましに水を飲みなさい」
メルは病床の横に置かれたプラスチックコップにステンレス製の水差しから水を注いだ。
「――ッ!? いっ、いやぁああ!!」
水を見るなり、ミオは病床棚の上で注がれたコップの中の水を叩き落とした。
その水は赤く染まって…宛ら血の色のような水が床に流れ広がった。
「やっぱり…アンタは別段赤ワインそのものを拒絶しているわけじゃない 赤、ソレも極端に血の色を拒んでいるのね」
「おっ、おい待てメトロン…血なんて誰でも苦手な人だっているだろう、私だって血を見るのが怖くて看護に進んだんだぞ」
「そうね…そういう人もいる でもアンタは違うわよね、ミオ…どうしてそんなに嫌うというより拒むみたいに血を怖がっているの?」
「しっ、知らない知らない!! 確かに血とかは苦手だけど…別に…怖がって…なんか…ウッウ~!!」
強がってはいるが床に広がる血の池のような光景を見たミオは気分を悪くして口を抑えだした。
「誰かバケツッ!!」
「はいはいッ!!」
慌ててシルバーブルーメがバケツを抱えてミオの前に渡すと…ミオは激しい嘔吐に見舞われ昨日から飲み食いしていた物すべてを吐き出した。
「ゲホッ…げほっ、ゲホッ!!」
「ミオッ…わかった?アンタは今深刻な状態なの…いくら怪獣娘と言っても心の病気までは完治しないわ これからあなたには治療を施す、もうお酒に逃げるようなことも無くなるから…ねッ」
ミオの傍らで背中を摩りながら彼女を励ますメルだったが、家のインターホンが鳴り響いた。
「援軍が来たわね…お願い、今は手が離せないから誰か迎えに行ってくれない?」
「私が行こう」
ノーバが名乗りを上げて玄関からの来客を迎えに行った。
紳士的な服装を隠しているコートを脱いで首元のネクタイを緩めてワイシャツの袖をまくり上げ半袖となった蒲原は本格的な施術をする医師の装いへと変貌した。
「それじゃあ、これよりアルコール依存患者への催眠手術を開始します…黒くん、準備はいいかね」
「うっ…あっ、あまり自身は無いですけど…」
「大丈夫よ、アンタの力なら私も認めているから…」
「かなり症状の根が深いと思われるので患者を一時的な退行催眠に落とし込んでもらえると助かる」
高まるかつてない期待の視線に痛い胸の内ではあるが、ブラック指令は得意の五円玉に糸を通したものを用いろうとしたが…
「……では先生、強い催眠を掛けたいんでそのペンを借りれます?」
「んっ?…ああ、いいとも」
いつになく真剣な眼差しのブラック指令は蒲原の内ポケットに入っていたペンを用いての催眠を行おうとした。
「…それでは天城ミオさん…このペンに意識を集中してください 段々あなたはこのペンから意識を離れ、あなたからも意識が離れ、あなた自身の体験してきた人生という時間の旅に出てもらいます」
「…はい…わかり…ました…」
ブラック指令の催眠術が始まるや早速ミオは意識が朦朧とするトランス状態に陥った。
「段々とあなたは意識が離れていく~離れていく~…3・2・1・はいッ!」
「うぅッ…」
ミオは意識を失って病床に横たわった。
「うぅッ!?」
そして、ブラック指令もなぜか意識を失い倒れそうになったところを蒲原に庇われた。
「術式は成功だ…天城ミオさんは深い催眠状態に入った」
「すご~い…いつもは自分で掛けておいて自分も寝ちゃうブラックちゃんが役に立ってる!?」
「当たり前よ、コイツはこれでも元診療看護師よ 医療行為が行える唯一の看護師だからね」
「彼女の催眠はその強さの反動で自分にも影響を及ぼす、催眠術は過去の症例では死ぬ直前の患者に催眠を施して死を長引かせたという事例もあるほどにこの手段には強い効果と強いリスクも伴う医療行為だからね」
「蒲原先生、これから先はどうされるんですか? ミオのどこまでを見るんですか?」
「黒くんのおかげで患者を深い眠りに落とし込められた…今の患者の状態は生まれる以前の本人も覚えていない記憶にさえ辿り着いている状態だ」
「そんなことも出来るんですか?」
「人は眠って夢を見るのは情報を整理するためでもある…夢とは断片的な記憶を幾度も繰り返し反復的に見返し繋げることで初めて“夢を見る”と言った状態になる…だが、催眠は誰かから聞きかじった話や経験の中で自分に当てはまる内容を過去の事として保管する機能が脳にはあるんだ」
「それがミオの知らない過去という事なんですか?」
「よく聞く、母親のお腹の中に居た頃の記憶というのもそれにあたる…さて、ここから先は私の仕事だ」
蒲原は腕まくりをさらに肩にまで迫るほどに上げてミオの額に手を添えた。
「では…天城さん、今あなたの意識はご両親から生を授かって間もない頃です あなたはどんなお子さんでしたか?」
「…はい…私は福島県の竜ケ森市内の病院で生まれました しかし、母は私を生んでまもなくに容態が急変して亡くなりました 私も生まれて間もなくに容態が急変しましたが、私を母のお腹から取り出してくれた助産師さんが握らせてくれた青い石のおかげで一命を取り留めました」
「青い石?…もしかして、アーカライト!?」
「何ソレ?」
「怪獣娘が怪獣の姿に変身する際に用いる青い鉱石の事よ…その存在はGIRLSが厳重に保管しているけど、GIRLSが発足する以前になんでミオを取り出した助産師が持っていたの?」
「続けよう…それで、その後は?」
「はい……母を亡くしてから私は城北大学で古代生物学の教授を務めていた父と父子家庭で育ちました」
「それからどうされました?」
「母のいない私は…辛い時もありましたが、父の知り合いの御夫婦と5歳まで度々過ごしていたので、特にその奥さんとは私にとって母代わりのような存在の人でした」
その後のミオは催眠状態で自身が打ち明けられない壮絶な過去を無意識で打ち明けて行った。
父親の心境の変化で本籍を郡山市に移し、そこで宗教法人『青い救世』を開いた事、そこで現人神として祀り上げられていたこと、父親の逮捕、養護施設での暴行事件、御徴川決壊事件で得た友情、そこから決意した上京後の生活で再び巡り合う事となった友人夫婦の息子との思い出まで話したが…
「――ある依頼で私は助手を八之島へ置いて…硫黄島へと訪れました」
「硫黄島ッ!?なんでミオが硫黄島なんかに?」
しかし、次の瞬間だった。
「そっ…そこで…うっううっ…誰ッ!?てっ、敵!?…ぐぅッ!…わっ、わからない…攻撃…され……銀…色の…青い…ガントレット…ブレード…キャノン…攻撃…攻撃…逃げる…逃げなきゃ…逃げちゃダメ!逃げちゃダメ!!」
突如ミオは病床の上で激しく反応を示して暴れまわった。
「どうしたのミオ!しっかりして!!」
「君たち、左から押さえてくれ!」
「はっ、はい!」「了解!!」
シルバーブルーメとノーバも加わってミオを4人がかりで抑え込もうとするが…
「ダメッ!…そっちに…そっちに行っては…ユウゴ君が、ユウゴ君が…がぁあああああああああああッ!!」
「「「「うわぁあああああああああああああッ!!」」」」
突如、ミオが青白い光の膜に覆われて怪獣娘へと変貌を遂げて皆を吹き飛ばすほどのエネルギーを放出した。
「みっ…ミオッ! ベムラー、待って…」
「グルルルッ…がぁあああああああああああ!!」
その眼はGIRLSの怪獣娘でも度々起こる暴走状態に匹敵する充血して赤くなった闘争本能をむき出しにしたような姿であった。
「がぁあああああああああああッ!!」
「まっ、待って…ミオッ…ミオォオオ!!」
ミオはベムラーへと変貌を遂げて部屋の壁を破壊して、破壊して、破壊し続けると外へと飛び出していった。
「マズい! 天城さんが外へ出て行ってしまった!」
「しっ、至急に…GIRLSに連絡を…」
「もぉ…だめぇ~」「ぐふっ…」
状況を冷静に分析し事態を飲み込んだ蒲原…自身のソウルライザーを取り出してGIRLSに連絡を入れるメル…強い衝撃に意識を失ったシルバーブルーメとノーバ、状況は壊滅的に悪かった。
「んっ、んん~おはようございます それで…患者さんの方は…って、なんじゃこりゃぁああッ!?」
ブラック指令の目が覚めて開いた眼に飛び込んできたのはメチャクチャになった自分が立っている部屋の中の状況となぜか外まで続いている誰かが飛び出していったような跡だけがハッキリと残っていた。
・
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一方、メル宅を飛び出して行ったベムラーは本能的に気配で誰かを探しながら浮遊能力で青い球体を周囲に形成しながら上空を飛びまわっていた。
「どこ、どこに居るの!? ユウゴ君…ユウゴ君ッ!!」
しかし、暴走状態とはいえ意識はしっかりと思考と判断をハッキリとさせていた。
それは心配から来る不安感と失う事の恐怖心が彼女の意識を行動力に変えていた。
「――ッ!!…この気配、見つけた!?」
ベムラーは急降下して地上に降り立った。そこはアキとユウゴと共に一緒に住んでいるマンションであった。
「ユウゴ君!ユウゴ君!!ユウゴ君ッ!!」
マンション内の階層のどこかに居るユウゴの気配を察知していく中で絞った的はいつものユウゴ達が住む部屋の中に行きついた。
「ユウゴくぅんッ!!」
ベムラーはドアを無理矢理こじ開けて部屋に押し入るとそこに立っていたのは……
『…やぁ、お帰りだね ミオくん』
「――ゴ……イチゴ…イチゴのおじさん…」
『ああ…私だよ…ミオくん』
『いっ…いっ…イチゴのおじさぁああんッ!!』
ミオはその姿になつかしさを覚えて自身の身体から性格に至るまで成長と共に身に着けた社会性も自制心もすべてかなぐり捨てて幼少期の自分へと姿を変えていくようであった。
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18年前 福島県内
幼き頃のミオは自分より一回り以上大きな身体を持つ男性のスーツに顔を埋めて彼の腕の中で顔を上げてその男と顔を合わせるなり笑顔を見せた。
「やっぱり、イチゴのおじさんだぁ~…いつもの甘~いイチゴの香りがするぅ~」
「ああ、私だよ…ミオくん…元気だったかい?」
「うん! ミカンお姉さんも元気?」
「妻はもうすぐ赤ちゃんが生まれてお母さんになるんだ…だが、お腹の子が元気過ぎて日々疲れるわで私は邪険にされてばかりさ…助産師とは思えない言動だったよ」
「わぁ~…じゃあミオはお姉さんになるの!?なれるかなぁ~…なりたいなぁ~…」
「はははっ、お母さんを困らせるような凶暴な赤ちゃんを是非とも躾けてあげてくれ…お姉さん」
「うんッ!ミオ、強くてかっこいいお姉さんになるッ!」
幼き日のミオはもうすぐ知り合い夫婦に生まれてくる子供の姉のような存在になることを誓って生まれてくる子を待ち遠しく思っていた。
「おと~さぁ~んッ!! イチゴのおじさんが来てくれたよぉお~!!」
大きな声で父親を呼びつけてこちらに気づかせた。
「んんっ?…あぁ~これは、宮下博士ッ!わざわざ現場まで足を運んでいただきありがとうございます!!」
「いえ、ちょうど向こうでミオくんと会えたので迷いませんでしたよ…天城教授」
山なりに盛り上がった壁面を滑り降りていきミオが呼ぶ『イチゴのおじさん』とミオの父親が合流した。
そして、そのまま抱えるミオを父親に帰しながら…
「その後の調査はどうですか?」
「遺跡の全体はまだ当分先になりますが、大まかな古墳形成は大和政権期とは異なる感じですね…最も当時の民族が元々あった古代遺跡を居住地にしていたと言った感じです…壁画は当時の彼らが信仰する神々とは違う存在のようですのでおそらく政権外の異教徒が流れ着いた地と考えられます」
ミオの父親と『イチゴのおじさん』は2人だけになると難しい話ばかりしてミオにはサッパリ何言っているのかもわからなかった。
「詳しいことはチームの宿舎でお伝えします…どうぞこちらへ」
「ええっ…是非」
そう言って『イチゴのおじさん』を案内するミオの父親はミオを抱えながら簡易的なプレハブ小屋に『城北大学婆羅慈遺跡発掘調査チーム詰所』と書かれた部屋に入るが当時のミオはこの漢字だらけで“チーム”以外の文字は読めなかった。おそらく父の仕事に関わる集団の事務所なのだろう。
「大まかに分かったのはこの遺跡の民、通称『バラジ族』は海外からの渡来人と考えられます…ですが、大和政権内で彼らに何らかの不利益が発生して東北への大移動が発生したと考えられます」
「彼らは遺跡の最深部に入った形跡は?」
「記録の中ではいくつかの大災害に見舞われている文献もありますので被災地としての役割で内部への非難はあったと思われます…特に遺跡自体の耐震性は高いので十分な機能はありますが、最深部はある種の聖域として禁足としていたのでしょう そこだけ墓所は見受けられません」
「…だが、生贄制度はありそうですね女性の数が少ない」
テーブルいっぱいに広げたここの地図を使って“また”難しい話をしている。ミオにとって一番の退屈な時間であった。
(んもぉ~…イチゴのおじさん、ずぅ~とお父さんと話してばっかり…もういい!地獄山に登ってい~よぉっと!)
退屈に耐え切れなくなったミオは座っていた椅子を降りて地獄山と呼ばれる山中へと向かうのであった。
そこはミオにとって庭も同然、幼稚園が休園の土日や祝日はこうしてここで父親と『イチゴのおじさん』たちでフィールドワークをするのが楽しみだったが、気づけば父の仕事が忙しくなっていき殆ど一人で訪れることが多くなっていた。
「ふ~んふっふふ~ん…今日は何して遊ぼうかなぁ~ そうだ!今度からミオがお姉さんになるんだから生まれてくる赤ちゃんの為にもここのことすべて教えられるくらいにならなきゃ…そうなったら、あそこ行~こおっと!」
ミオが思い立って向かった場所は父親に一人では行くなと言われていた未発掘区画であった。山を少し上った先で縞模様のテープで分かりやすく立ち入り禁止の目印と『この先、発掘予定 軟弱地盤有り』と書かれた看板もあったが、ミオには漢字は読めないため気にも留められる事は無かった。
ミオが立ち入り禁止エリアに入るなり、山の急な天候不慮が発生してゲリラ雷雨に襲われた。
「うわぁあああ!やだやだ、濡れちゃう~!!」
本格的に降り始めて来た雨から逃れようとミオは急いで元来た場所へと戻ろうとした時であった。
―バコンッ!!
「わぁッ!?わぁああああああああ!!」
足元の軟弱地盤に囚われて地面が陥没して地面がミオを飲み込むように地中の底へと落ちて行った。
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「うぅッ…ここ…どこ?」
上は自分が落ちた時に空いた穴、周囲は差し込む光で辛うじて見える世界は薄暗い…自分が今、どこに居るのかもわからない。そんな場所であった。
「こっ…怖いよぉお…お父さん…イチゴのおじさん…誰か…助けてぇえええ!!」
大きな声を上げても周囲に木魂するだけで自分の声の反響のみが周囲に響くだけであった。
「ううっ、お父さん…イチゴのおじさん…」
よろめきながら壁を伝って何とか脱出を図ろうとした矢先であった。―ブゥワァアアン!!―
触れた壁から赤黒い光の線が走り出して壁面いっぱいに赤い線が一つの壁画の様に描かれてミオの前に現れた。
「うわぁあああ!たっ、助けてぇええ!!」
叫ぶミオだったが悲痛も空しく絵が完成して宛ら1体の怪獣のような壁画が現れたが…
―グルギャァオオオオオオオオオオオンンンン!!―
壁画が突如怪獣の鳴き声のような音を鳴り響かせて内部を揺れ動かすほどに振動した。
「ヒィイイイッ!!」
すると、壁面は徐々に盛り上がって何かが壁の中より出てこようとしていた。
「ぐぁあああああああああああああああ!!」
そして、とうとう中から出て来たのは等身大の2メートル強ほどの怪獣であった。
「ついに…ついに出たぞぉおお!!地獄の王、ザイゴーグ様の復活だぁああああッ!!」
その姿は正に怪獣、右手はこん棒のような形状、左手は右に劣らぬとも大きな手、そして目からいくつも連なる目の列、まさしく怪獣、これはなんだと聞かれても怪獣と答えるしかできない形状をしていた。
「うわぁあああ!かっ、怪獣ッ!?」
「ほぉ、貴様か…我が復活に一躍したのは…大いに光栄と思え、女子供は我が供物の生贄となるのだ!!」
「ひぃいいい!!やだ、来ないで!!いやッ…嫌ぁああ!!」
必死になってザイゴーグと名乗る化け物に意思をぶつけるが効くはずもなくミオに迫ろうとしていた。
「手始めに貴様を喰らってこの土地の人間、更には周囲の国々の人間、ゆくゆくはこの地上すべてを我が支配下の地獄に変えてやるぞ!」
その瞬間、ミオにはどうしてもコイツを許せぬ気持ちが強まった。それはこの怪獣の果たそうとする目的に何の罪もない人間に手を掛けようとする者が誰であろうと許せない。
そんな気持ちが強まった時、ミオの首にかけていたペンダントに入っていた青い石が光り輝きだした。
「うおぉおおおおらぁあああああああああ!!」
「ぐぶふぁぁあああああああああああああ!!」
ミオが投げた石はザイゴーグの顔面に石がめり込むほどに強い弾着と共にザイゴーグそのものを吹き飛ばして物理的にありえない回転の仕方をして元居た壁に激突した。
「なっ…なに?なんなのこの力…って、なにこの格好!?」
ミオのその姿は後年に自らの意思で何度も変身することになるベムラーの姿だが、まだ幼い時期での変身は後の姿からより小さくしたような状態で未だ怪獣娘としては未熟な姿であった。
「ぐはぁああッ!?…なっ、なんだこの力は…この力はまるで…まるで…我を封じにやって来たあの小娘…いや、“大娘”の末裔かぁあッ!?」
「えっ、なに、何なの…ワケがわかんないよぉ…」
ザイゴーグが状況の理解に苦しむ中、ソレは突然にザイゴーグへと降りかかった。
―ゾワァアァアァアァアァッ!!―
それは居ないはずの誰かに睨まれている…触れてはならない、感じてもならない、逃げる事の出来ない上位の存在を感じ取り周囲を警戒した。
「どっ、どこだ!?…どこに居る!?…まさか、あの巨獣か!?…否、あれよりもっと上の存在……そうか、上か!!」
ザイゴーグはミオが落ちて来た天井の穴を見上げて確信した。あの穴の向こうにザイゴーグをして圧倒的に感じる恐怖に対して生き延びようとする生存本能が存分に発揮されていた。
「ぐっ、こうなれば小娘!きさまは我の盾となれ!!」
「うわっ、なんか気持ち悪いのが出て来た!!イヤァアアアアアア!!」
ザイゴーグの胸より開き出て来た長い触手がベムラーを捉えて即座に自身が囚われていた場所を光指す天井より抜け出した。
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ベムラーを触手に捕らえたまま地面から飛び出て来たザイゴーグは周囲を見わたして自分が感じる恐怖を確かめていた。
「どっ、どこだ!どこに居る…この背をざわめつかせる存在はどこに居る!!」
「でっ、出れたの?…ううっ、助けてぇええ!!お父さぁああん、イチゴのおじさぁああん!!」
ベムラーは自身の身に宿る有り余る力を振り絞って大きな声で森全体、山全土すべてに届く声を上げた。
すると…
「ミオ…くん?」
「あぁ!イチゴのおじさんッ!!」
「ミッ…ミオ!大丈夫か!?」
「うわっ、何だアレは!?」「怪獣か!?」「ばっ、化け物ぉお!?」
ミオを探しに大勢の大人たちがベムラーを捕らえたザイゴーグを目撃することになった。
「フンッ、人間どもか…なるほど、貴様の仲間か小娘…なれば手始めにコヤツらをぐちゃぐちゃしてやろう …って小娘はッ!?我が触手は!?」
悪魔的な考えを熱弁してミオに惨劇を見せようと喜んでいたのも束の間にザイゴーグの触手ごとミオは居なくなっていた。
「ほらッ、気持ちの悪いものは取って…お父さんたちと一緒に居なさい もう離れちゃダメだぞ」
「うっ、ううっ…イチゴのおじさん…うわぁあああん!」
「コラコラッ…抱き着く相手が違うぞ ちゃんとお父さんに無事であることを伝えなさい」
そう言ってベムラーをミオの父親へ返した。
「ミオ…なのか?…その姿は一体…」
「わかんない…なんかお母さんの形見のペンダントを強く握ったらコレになった」
知っているはずのミオの変貌ぶりに戸惑う父親は漠然としない状況に困惑させられた。
「おい、人間ども!このザイゴーグを無視するとはいい度胸だな!! 貴様か、一体どうやって小娘を…」
痺れを切らしたザイゴーグが虚勢を上げて威嚇の咆哮を上げるが…
「……あぁん?……」
その一言でザイゴーグの中の何かが逆立つ恐怖が一斉に襲い掛かった。
(なっ、なんだこの気配は…気配?…そんな具体的な物じゃない!?理解が追い付かない!?我は何を前にしている!?)
状況の整理ができないザイゴーグの思考停止中にまたもあの声で一言声が掛った。
「おい…お前か、ミオくんに汚れた釣瓶みたいなのを巻きつけていたのは…」
「―――ッ!?」
それは突然、目の前に出現したと表現が正しかった。実際に今まさにザイゴーグの目の前に“ソレ”はいる。
「なっ、何者だ!?何なんだ貴様は!?…人間風情がこのザイゴーグを見上げるなぁああ!!」
あまりの体験した事がない恐怖を前にしたザイゴーグは狂乱の果てにこん棒状の腕を振り下ろしたが…―バキィイン!!―
「おいッ、貴様には私が人間に見えるなら随分とおめでたい頭をしていると見て取れるぞ」
振り下ろした腕を人間には似つかわしくないより硬質で黒々とした剛腕にソレは変化していた。
「なっ、何なんだ貴様は!?何者なんだぁああ!!」
「お前の名前なども知らなければ、私の名前をお前なんぞに教える義理も無い…黙って自分の運命を受け入れろ」
すると、ザイゴーグの強烈なはずの一撃を片腕で喰い止めた“ソイツ”はさらに身体を変化させた。
臀部からは丸太の様に太い尻尾から刺々しい銛先のような先端、下半身はザイゴーグ以上にドッシリとした足元、背中から走る背ビレは深い緑の閃光が走っていた。
両腕は筋肉質ではあるが肩はそれ以上に隆起して異常発達したような形状、頭部には王冠を思わせるような突起、口周りには牙に揃ってもっと大きな牙が4つ、そして極めつけは胴体胸部、背ビレ、頭部と同じく滲み出ているのは深い緑色のオーラ…覇気と称してもいいほどの他者の尊厳を無理矢理押し込め潰すほどの重圧が宛ら重力の様に等しく何ものをもその場から動かさない、逃がさない、離れさせない。
「お前に全なるアザトースの決と5の神々の総決を下す…現世界の生態崩壊、多元世界に及ぼす場の乱、時間的法則性の改変を含めた14の大罪により…貴様の知的生命権を剝奪し、多元世界への追放とする」
ソレが天を仰ぐように高々と上げるとザイゴーグはその所作と同様に高々と胴体が浮いた。
「おっ、おおおおっ!?なんだ、何が起きている!?…かっ、考えが…何も考えられん!? 我は…我は一体どうなるんだ!?」
「安心しろ…向こうの世界で貴様は獣として転生することになるだけだ、せいぜい巨人どもの敵役(かたきやく)に徹していろ」
―グルギャァオオオオオオオオオオオンンンン!!―
ザイゴーグの最期の抵抗とばかりに咆哮を上げたと見るや…その場に残されたものは何一つなく、ザイゴーグと名乗っていた“存在”そのものがその場から消えたのであった。
すべてを終えたソレは元の『イチゴのおじさん』へと戻ってミオの父親たちの元へと戻って行った。
「みっ、宮下博士…貴方は…一体…」
「あぁああぁあッ、化け物ぉおお!!」
ミオの父親の仲間の一人が護身用に所持していた猟銃の散弾を発狂と共に誤射して『イチゴのおじさん』に弾丸は彼から素通りして行った。
「…やはりあなた方に私のような存在やミオくんを理解するにはまだまだ幼い…これより14年の月日を経なければミオくんを始めとした彼ら彼女らを理解はできないであろう」
そういうと『イチゴのおじさん』は指先を弾く音を立てるとミオの父親の仲間たちは全員糸の切れた人形の様に倒れた。
「あっ、あなたは一体……まさか、神ッ」
そう尋ねたミオの父親に対して『イチゴのおじさん』は首を横に振った
「では、私たちをどうするおつもりですか…」
「それは私が決める事ではない…結論から言えば、何もできない あなた方が親しい友人故ではない、すべては決まっており決められている事…この場で私はあなた方、親子にしてあげられるのは…何事もなかった、ただそれだけです 天城教授」
そう言って『イチゴのおじさん』はベムラーに手を翳して横に動かす所作と同時にベムラーは元のミオへと戻っていた。
「ううっ、イチゴのおじさん…」
「…ミオくん、君は決して…怖がられるような子じゃない 私の様に誰彼構わず恐怖を振りまくような存在になってはいけないよ 誰かを助け救い出せるような子になりなさい」
「うッ…うん…ミオは…強い怪獣さんになる!強くなって強くなって…ミカンのお姉さんの赤ちゃんを守れるようになる」
『イチゴのおじさん』はミオの固い決意を確かめるや雨上がりの地獄山を先に降りていくのであった。
コレが後に最初の怪獣娘として世間に広く認知される事になる怪獣娘ベムラーこと天城ミオの深き底の記憶だ。
その後の彼女はこの事を成長と共に忘れていくことになるのは『イチゴのおじさん』の力か、ミオ自身の成長という名の時間の流れなのかは…今もわからない。
だが、それ後に違う視点でミオを誘おうとする者が彼女を抱えていたのも事実であった。
○
○
○
―半年後―
「ほら、ミオ…いつまでもユウゴくんを抱いてないで返してあげなさい」
「い~や!やだ、ヤダッ!」
「ミオの『イチゴのおじさん』たちは東京に帰らないといけないんだから、飛行機に乗り遅れてしまうよ」
「ううっ、放してあげたいけど…放れない だって、この子めっちゃミオの顔を引っ張ってるんだもん!イタタタタッ!!」
ミオの父親の友人夫婦が東京への出立を見送りに来ていたミオだったが生まれたばかりの赤ん坊とは思えないほどの力でミオの頬を引っ張っていた。
「コラッ、ユウゴ…ミオちゃんから手を放しなさい!」
「わぁ~ん!ミカンのお姉さ~ん、早く取ってェエエッ!!」
ミオの頬をつねり続けるユウゴを引きはがしたユウゴの母親『ミカンのお姉さん』によってようやく彼女の手元へと返されたが…本当に生まれたばかりの赤ん坊とは思えない声で『ブゥルルルルルゥ~ッ』と不機嫌なブルドックのような唸り声を上げていた。
「では、天城教授…お元気で」
「ええ、宮下博士…ユウナさん…それとユウゴ君もまたいつか…」
ミオの父親はミオと共に深くお辞儀をして別れを告げた。
やがて夫婦と赤ん坊のユウゴは出発ゲートに向かって行き人ごみに紛れてすぐに見えなくなっていった。
「さぁ…ミオ、私たちも帰ろう 我が家(ホーム)に」
「うぅ…うんッ」
ミオの父親はミオの手を繋いで運転手付きの乗用車に乗り込んだ。
「…郡山本部まで頼む」
「かしこまりました」
運転手に行き先を告げて目的地へと向かう車が空港を離れて郡山市の方へと向かう車内で父親の一般社会での装いを外して首から下げる『蒼き救世』のシンボルペンダントを首から垂らした。
「ミオ、これからあなたには新たなる神の時代が訪れます…あなたにはその矢面に立ってもらいます、現人神ミオ」
「うっ、うん…お父さん…」
「人前ではお父さんとは呼んではいけません…神官長とお呼びなさい」
どれだけ呼び名を変えてもミオにとって父親は『お父さん』と以外呼びたくはなかった。それは今も変わらず。
あの当時を境に父親を『お父さん』と呼ぶことは無かった。
「思い出されましたか?天城ミオさん」
「だっ、誰ッ?」
声を掛けたのは運転する車のハンドルを握る運転手であった。
「私はガバラ、私には電気を操る能力を利用してあなたの無意識に語りかけています」
声の主の“ガバラ”の言う通り、運転手は運転手ではなくなり怪獣へとその姿を変えた。
浅緑色の体表に額から伸びる1本ツノの怪獣戦士(タイタヌス)がミオの夢の中の記憶に乱入してきた。
「大方のあなたの精神的疾患を誘発している原因が判明しましたので…これにてあなたを催眠から解き放ちます 私の合図と共に覚醒してください、3・2・1」―パンッ―
ガバラの手拍子と共に見ていた夢の世界が白く眩い光に包まれミオの意識は段々と元の自分へと戻っていく…
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「んっ…んん~んッ…」
目が覚めるとそこはいつもミオが“勝手”に寝泊りしているアキの部屋のベッドの上であった。
「おっ、目が覚めた?ミオ…」
「メトロン…わたし、夢を見ている間に何かした?」
「あぁ~あ…まぁ、特に問題にはなっていないから安心して寝てなさい、寝てなさいッ」
メルは起きたばかりのミオを掛け布団からポンポンと撫でおろして立ち去ろうとした時だった。
「待ってメトロン…手、握っていい?」
「えっ?なに、どうしたの急に…」
「昔の夢を見ていて…最後にお父さんと手を握ったのが10年以上も前だってことに気づかされちゃった…こんな辛いことを思い出させた責任くらいとってよ」
そう言われては返す言葉もないメルは頭を少し掻いて深い息を吸い込んだら…ミオの手を握った。
「これでいい?」
「……うん、ありがとう……メル」
「初めてじゃない?アンタが私を怪獣名で呼ばないなんて…今日は雨が槍に変わるわよ」
「親しい身内以外名前で呼ばない様にしているからレアリティ高いわよ…だれが好き好んで父親を神官長なんて呼ぶもんかって決めた時からずっとだもん…私が誰とも喋らなくなった時なんて」
どれだけ辛い過去を見たのかメルにはわからずともメルが取る行動は今握る手をさらにギュッと握り返すことだけだった。
「もう会えないお父さんと一緒に居れた気分はどう?」
「それよりも素敵な時間を今過ごしてるから 今は良い……あっ、そう言えばユウゴくんはどうしたの?」
「あぁ~なんか、『変な昆布のバケモンに妹がなぜか秋田に転送された』とかで荷物まとめて秋田の方へ行ったけど?」
「なぁ~に、ソレ?ワケわかんないけど…じゃあ、帰ってくるまでユウゴくんの小さかった時の恥ずかしい話し~ちゃおっと♪」
「それ絶対に怒られるでしょ…」
「どうせ感情が欠落したドライモンスターだからいい~の」
「「…プッ…ハハハハハハハッ!!」」
お互いに笑い合える友がいる、それだけで幸せな気持ちを持てるまでにミオは恵まれていた。
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・
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ちなみに破壊されたメルの家の修繕はブラックスターズとビーコン、蒲原が修繕中であった。
「なんでこーなるんだぁ~ッ!!」
「ブラックちゃんが一番頑張ったのに骨折り損だよねぇ~♪」
「この疫病神がッ!」
「こんな目に合うなら請け負うんじゃなかったぁ~!…イデェッ!?」
【ドント スラック オフッ!】
叫ぶブラック指令の横からビーコンのベーコンが飛んできた。
アンバランス小話
『ミオの寝言』
「うぅ~…イチゴのおじさん…お父さん」
「……イチゴのおじさんって誰だよ」
ミオが帰ってくるなり早々に誰かと間違えられて抱き着かれたユウゴは今もミオに抱き着かれて困り果てていた。
「あの~すいません…ミオ、帰って来てます?」
そこへちょうどメルがミオを追いかけてマンションへ訪れた。
「おう、アンタか…丁度いい、このアホを一旦見といてくれ 俺は急遽秋田に向かうことになった」
「えぇッ、なんで急に!?」
「変な昆布のバケモノにアキが飛ばされてアイツ今、秋田」
まったくと言って説明になっていない説明に無理やり言いくるめられてミオを託されたメルだった。
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そして、今…
「勢いで任されたけど…コイツどうしよう」
今度はメルが身動き取れないほどにミオに抱き着かれてソファーから動けなくなっていた。
「ううッ…お父さん…お父さん」
先ほどから何度も父親との思い出を寝言でつぶやいているが…
「労働いやぁああああッ!!神様になったら一生働かなくていいって言ったのお父さんじゃない!!神様は人生クソチョロ!!ビバッ不労所得ぅう!!」
「一体どんな夢を見てんのよ…」
明かにミオの捏造臭の高い父親に対する不平不満も寝言でボヤいていた。