TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
秋田県 婆羅慈遺跡
周囲を山間部が囲む古風な田園風景が現代でも色濃く残る秋田県内の婆羅慈市だが、この市内の最大の特徴と言える観光を目的とした名所十数年以上前から発掘調査が進められている『婆羅慈遺跡』であった。遺跡は今もなお多くの歴史的発見がなされて市のれっきとした観光資源としての役割となっていた。
「ほへぇ~…コレが古代遺跡…」
「どう?古代の浪漫に触れる感想は…」
そんな歴史的にも貴重な遺跡群の発掘調査現場をアキはここで出会った怪獣娘ミズノエノリュウに案内させてもらっていた。
「本当にここで古代の人々が生きていたんですよね?」
「そうだけど、大きく分けて2回の定着を経て土着した民族が居たと考えられているわ」
「民族?」
「その名もバラージの民…アナタもGIRLSの資料で見たことあるでしょう、砂漠の幻影王国『バラージ』 中東に位置していたとされる古い風土神話なんかにも、それを元にしたアラビアロマンス小説の題材にもされている土地からの入植者たちね」
60年代頃のまだ怪獣が多く出現していた『大怪獣時代』に当時の防衛隊がバラージの名残を残す町で出現した磁力怪獣と“光の巨人”との戦闘記録はGIRLSのアーカイブでも閲覧できるほど有名な話だった。
「その後も防衛隊と防衛軍は旧バラージ王国群の調査は始めたけれど“バラージの町”そのものが再度出現も発見もされる事なく、それどころか五千年前に出現した怪獣の被害を受け続け四千年前にはバラージ王国は滅亡していた…防衛隊の隊員たちが出会い巡り合った砂漠の町は一体どこへ消えたのか分からなくなってその後の調査は打ち切られたそうよ」
アキはミズノエノリュウの案内でテント内の出土品解析の現場にも立ち合わせてもらった。
「…消えた砂漠の町の王国…それだけでもなんだか浪漫を感じますね」
様々な出土品や発掘調査中の遺跡の壁面の一部を復元する作業などをアキは見学する最中に…
「そうでしょう そんな幻とされてきた伝説がここ日本に遺跡として出現したのが婆羅慈遺跡よ」
古代から大自然と共に誰の目にも触れられず現代の発達した文明を経て姿を現した婆羅慈遺跡について熱弁をしてくる怪獣娘が居たが…その姿は古代エジプト神話にも登場しエジプトの首都カイロのギザ台地より三大ピラミッドの傍らに存在する“スフィンクス”のようないで立ちであった。
「…すっ、スフィンクスだ…」
「あら、よく知っているわね…その子は古代超獣のスフィンクス」
「名前もそのまんまッ!?」
「初めまして、カイロ大学から城南大学へ留学を気に日本の考古学にドップリのめり込んじゃって…」
日本の秋田県にエジプトのスフィンクス…とてもミスマッチな組み合わせの様に感じさせるが…
「ちょっとぉおお!?誰よ、コレ復元したのッ!?」
婆羅慈遺跡の調査を共にする仲間たちの紹介が終わるなり、突然ミズノエノリュウは復元し終えたばかりの壁面の一部に大きな声を上げて驚愕した。
「あぁ~、それならドドンゴが…」
「あ~い~つ~かぁあああッ!!」
復元された壁面に描かれた壁画の復元画に対して何かそぐわぬ事があったのか怒りのオーラと共に手の指先が激しく動かし震え出した。
「みっ、ミズノエノリュウ…さん?」
何が何だかよくわからないアキは一旦ミズノエノリュウの気持ちを落ち着かせようとしたが…
「ねぇねぇ、もっと色を足すんだけどさぁ…色の出せそうな植物ってこの中にあるかなぁ?」
ソコへタイミングの悪い時に元凶たる怪獣娘がテント内に段ボールいっぱいに抱えた色を出せる品を取り揃えてやって来た。
「こぉ~のぉ~バカ絵描きぃいい!!」
「ぐぼぇぇええッ!?」
今度は先ほど入って来た怪獣娘にミズノエノリュウは自分よりも頭以上の高さを飛び越えてその怪獣娘に対し盛大にドロップキックをかました。
「ミズノエノリュウさんッ!?」
「ドドンゴォオオッ!?」
突然の怪獣娘同士の闘争に火花付いた瞬間を目の当たりにしたアキとスフィンクスは息荒げるミズノエノリュウをアキが、ドロップキックをモロに喰らって目を回しながら気を失った怪獣娘の元にスフィンクスが駆け寄った。
――数分後――
テント外より遺跡発掘現場内でも古代の広場と推測されている区画内で壁画の復元をしたドドンゴが縛り上げられていた。
「ええっと、こちらの方が…」
「ミイラ怪獣ドドンゴ…復元作業での人手が足りないからGIRLSの中で色使いが出来る怪獣娘が居ないかと言って寄越されたのがコイツだったわけ…それでドドンゴ、最後に何か言い残すことは」
怪獣娘ドドンゴの身体の8ヵ所にミズノエノリュウの尾から連なる八頭の竜たちが彼女に噛みついて身体を浮かせ判決を下す前に極刑の準備を整えていた。
「だって前に描かれていたのは暗~い絵だったんだもん!辛気臭い絵なんかより明るい絵にして華やかにした方がいいって現役美大生の私の創作意欲がぁあッ――」
反省の色が見られないと判断されるやミズノエノリュウの尾から連なる8頭の竜たちによる噛みつきはよりエネルギーのプラズマが走る。
「古代への冒涜!貴重な文化財への破損行為!個人的主観による解釈復元!いずれも万死に値する 守護者たちよ、判決を示せ ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ、満場一致で有罪(ギルティィイイ)!!」
「ぎぃにゃぁああああああああああああッ!?」
明かにミズノエノリュウの私念が含まれていそうな判決でミズノエノリュウの号令で竜たちからドドンゴへの電流攻撃が流れ込んだ。
「悔い改めよ、先人の意思のもとに――」
黙禱するかのようにミズノエノリュウは目を閉じて未だに全身が痺れているドドンゴに対して片合唱を向けるのであった。
「何やらすごい落雷みたいな音が鳴ったけど何事だい?」
音に引き寄せられて現場責任者の男性がミズノエノリュウたちの元へと訪れた。
「智田先生ッ!またこの美術バカがゴミ復元をして文化財を汚してましたッ!!」
ミズノエノリュウは“先生”と呼ぶ発掘現場の監督的立場に居る男性に問題追及を迫った。
「まぁまぁ、そんなに責めないであげなさい…失敗したなら何度でもやり直そう」
「もう何回もコイツのせいでやり直しているんですよッ!!」
散々と遺跡から出土した歴史的にも貴重な出土品に対して毎回の如く美的感覚だけで復元しようとするドドンゴにミズノエノリュウは頭を悩ませていた。
「おや?そちらのお嬢さんは…」
「あぁ、そうでした。実はこの子、GIRLSの東京支部から来たと言っている怪獣娘なんですけど…なぜか未発掘地点に迷い込んでいて…」
「ええっと、ボクから説明するには難しいんですけど…とりあえずGIRLS東京支部のアギラと言います」
「これはご丁寧に…私は城南大学で考古文明生物学研究室の教授をしております 智田ノブユキと申します」
遺跡発掘の大学研究室チーム責任者として智田はアキに城南大学教授専用の名刺を渡した。
「あっ、ありがとうございます」
「東京からここまで大変でしたでしょう…何で来られたんですか?」
何で来たとは…何らかの乗り物で来たと思われているがどうにも説明が難しい。アキの中では『ひじきのオバケ』みたいな存在に突然ここへ寄越されたとしか説明できる材料が無かった。
「えっええ~っと~…なっ、なんか珍しい古代の遺跡が見れると聞かされて急ぎで来たまで…です」
「じゃあ、なんで10年以上前から閉鎖されていた地区の遺跡に居たの?」
ここへ来てまたも説明に詰みを打つような声を掛けて来たのはアキを発見した怪獣娘ミズノエノリュウであった。
「そっ、ソレはぁ~…ええっと…みっ、道に迷ってぇ~道を踏み外した様なぁ~気がァ~アッ…」
苦し紛れな誤魔化し方ではあるがとにかくアキは会話をうやむやにしたい気持ちで精一杯であった。
「それより、ここはどんな文明の遺跡なんですか?」
更にダメ押しとアキは遺跡について尋ねた。
「うむ、ここは古代日本民族が建設した遺跡群ではない…というよりも遺跡自体の推定年代は約五千年頃から四千年頃とされている 第一次の民族がこの地に定着して彼ら独自の建築様式で遺跡が建てられたと我々の調査以前にここを調査した城北大学発掘チームが結論付けているんだ」
そう言って智田は遺跡の調査資料を1枚だけ見せた。
「ほへぇ~…んっ?…天…城?」
その調査資料に記載されていた調査責任者の名前に『天城』と続いて“城北大学古生物文明学教授”と記載された人物が以前よりこの遺跡群の調査を指揮していたことが記されていた。
「おや?…君は天城先生を知っているのかい?」
「ええっと…知っているというより最近同じ苗字の人と知り合ったというか…人の家に勝手に上がり込んできたというか…」
同じ『天城性』という共通点で考えても大学の教授とフリーの探偵とではあまりにも雲泥の差があり過ぎて関係が無いとアキの中で割り切った。
「天城先生は“怪獣文明起源説”の第一人者でねぇ…私が大学時代に何度か城北大学の講義を受けに行ったほどだよ」
「ほへぇ~…なんかすごい人なんですね…今はどちらに?」
「…あぁ~…いや、そんな事よりも良ければ発掘中の遺跡群を案内しよう、ミズノエくんも一緒に来てくれ」
何やら濁された物言いで強引なまでに智田はアキを遺跡内への案内にドドンゴを縄で簀巻き状にするミズノエノリュウと共に同行させた。
「はい、了解しました…スフィンクス、この金箔手羽先お願い」
「むぅ~っ!むぅ~っ!!」
「えぇ~…私に任されても…」
若干、簀巻きにされたドドンゴの処遇を丸投げにされて困るスフィンクスたちを後にアキを連れ出してミズノエノリュウは現在も発掘調査中の遺跡群のさらに奥へと向かった。
婆羅慈遺跡・第66発掘調査区画
一見すると作業中の工事現場かの様な雰囲気の場所にミズノエノリュウに案内されてやって来たアキだったが…
「ほえぇ~ッ…ロボットが…行きかっている」
驚くべきは作業内人員すべてが無人の工業用アンドロイドが導入されている事に目を疑った。
「驚いたかい?…コレが“今”の発掘調査だよ 大規模な発掘となれば国家規模で調査の手が入るけど人手不足の昨今は民間の無人アンドロイドを導入しているんだ」
人件費のかかる土木関係の作業は深刻な人手不足問題に直面している。肉体労働に位置するこれらの職の人員導入に欠かせないヒューマンパワーをアンドロイドで補填するという現場は近頃増えているという話自体アキの目にも耳にも届くほどに身近な時事であった。
「話には聞いていたけど…そう言えば東京支部にもジェットジャガーって言うロボットを導入していますよ」
「あら、東京はもう高度アンドロイドを導入しているのね…でもこっちのアンドロイドたちは単純なAIを積んだアンドロイドばかりだから単純作業向けな機種ばかりよ」
アキたちの知る限りでのアンドロイド需要は2種類に分けられる。高度な対話に向けられた“対応型機種”と重機や車両の様に特定の行動に向けられた“作業型機種”によって目的とした機能に応じて消費者の需要に対して明確な違いが表れている。
特に後者の作業型機種は自動車産業同様に大量生産を目的とした機種が殆どであるため婆羅慈遺跡発掘調査にも広く活用されていた。
「でも、今日は待ちに待った新機種導入日! 今まで以上に作業効率が捗るわ」
「新機種?」
「ええっ、やっとのことGIRLS本営から予算が下りてACI製の作業用アンドロイドの本格導入、ずっとパンフレットの中の存在だったけど…ついに…ついに…」
ミズノエノリュウのウキウキとした感情の現れたる手の拱きと共に発掘現場の搬入ゲートから続々と砂煙を上げて入って来るトラックの一団が続々と入って来た。
「ファァアアアアアアアアアッ、来た来た来た来たァアア!!」
「ミズノエノリュウさんッ!?」
明かに似つかわしくないテンションの上げ方をするミズノエノリュウの様子にアキは以前に秋葉原のアニメショップに寄った時のレイカと同じ気配を感じさせられた。
「ミズノエノリュウさん…ロボットとか、好きなんですね」
「当然よ、機械は間違いを起こすことが少ないもの!」
「そうなんですか?」
「発掘調査って言っても工事作業が殆どだから人的作業にはリスクも伴うの…そういうのを『労働災害』と言って“労災”なんてよく聞くでしょ」
「あぁ~確かに…」
「私の怪獣“ミズノエノリュウ”も元々は丸の内の再開発工事で地中を流れる地脈を分断させたことで目覚めさせてしまったことが原因で現れた怪獣なの」
「へぇ~…そんな事情があったんですね…」
ミズノエノリュウの出現した要因が工事などによって引き起こされた人為的なミスであることに偶発的とは言え怪獣出現に人間が関わる事情を知ったアキは考え深い気持ちにさせられた。
「新しい物を作ることはいいことだけど…ここに定住していた古代人たちの様に過去の遺物とも共存しながら生きて行ってほしいものね」
「確かに…ボクも新しいものは好きだけど、なるべく古くても使えるなら使い続けられるまで使うタイプです」
「あらそう…そういうの古臭いと思われがちだけど、あなたって意外とおばあちゃん脳なのね」
「ゴブッ!?…おばあちゃん…脳…」
前々から気にしていたどことなく年寄り臭い思考を指摘されたアキに過った記憶は以前GIRLSに入りたての時期にミクとレイカと共に原宿を出かけようと話題が出た時も自分が行きつける“巣鴨”との違いに対してつい『若者っぽい』と言ってしまった後の帰り際にミクからも『アギちゃんってどことなく年寄りっぽいよねぇ~』と言われた時と同じ衝撃だった。
「でも、だからと言って古いままのやり方は時代を停滞させるだけよ!だからこそ最新鋭の技術を導入することに抵抗なんかしていられるもんですか! 撲滅せよ、悪しき伝統!!」
ミズノエノリュウは天高くに両手拳を掲げるなりトラックから自動で荷台のウイングが開かれると内部から光る目に相当するアイカメラが起動して続々と荷台から自動的に降車してくるアンドロイドの大群を目撃するのであった。
「ひゃぁあああああ~~ッ!さっすが最新式のACIロイドMK-20タイプ 迫力が違うわぁ~」
「おぉ~…すごい…」
興奮気味のミズノエノリュウの前には機械的ながらも骨格構造は人間に近しいロボットの一団が横一列から10列以上の編成を一切の挙動の無い洗礼された配置について見せた事にはアキも脱帽せざるを得なかった。
「弊社の製品をお気に召していただいて何よりだ」
「そりゃぁ~もうACIヘビーユーザーとしては家電から一般販売用のアンドロイドのすべてが大好きですよ、私……って、うわっ!?」
「あっ、ジャックさん」
ミズノエノリュウを驚かせたのは工場から直接訪れたようなツナギ姿の巨漢ジャック・マーロウであった。
その背後から次々とACIのプログラミング専門のスタッフたちが簡易な折り畳み机とパイプ椅子を設置して大きなノートパソコンを開いてデータ入力作業を始めだした。
「―って、マーロウCEOッ!?なんでココに!?」
「あぁ、私がお呼びしましたよ…彼とは“共通”の知り合いでして前々からアンドロイドの提供先の視察に婆羅慈遺跡の様子を見てもらえないかと提案していました」
ジャックを呼んだのは遺跡調査の責任者でもある智田であった。
「はわわわっ…いっ、いつも貴社の製品を愛用させてもらっています…みっ、みみみミズノエノリュウと申します」
「…なんでボクの後ろに隠れるんですか」
普段から愛用し贔屓している会社の社長ジャックを前にしたミズノエノリュウであったが噂に違わぬ巨大な威圧感と今までの製品愛用者としての感謝の狭間で困苦してしまい無意識にアキの背後に回っていた。
「だッ…だってスマホ新機種を毎年発表する時に見るような人よ!ACIユーザーとアメリカじゃ大統領の次に有名な『ギガピテ社長』の愛称で親しまれているのよ!」
「『ギガピテ社長』って何ですか…」
アキには馴染みも無く、日本ではジャックを見かけてもなんかデカい人くらいの認識と知名度だがミズノエノリュウを始めとしたACIユーザーにとっては雲の上ような存在らしいことだけはわかる。ちなみに『ギガピテ社長』とは“ギガ”ント“ピテ”クス社長の略でジャックの常識離れした体躯を新生代に生息していた類人猿から由来している。
「いつも弊社の製品の愛好…感謝する」
「いっ、いえいえ…こちらこそ……日本語流暢なんですね」
物腰は少し硬めだが丁寧に礼を尽くすジャックに思わず彼に次いで自分も挨拶とばかりに会釈を交えながら日頃愛用の製品への感謝を送った。
「社長、機種の書き換え作業完了いたしました」
工場からアンドロイドの搬入の為に運搬用トラックに同乗していたACIの社員が一通りのデータチェックを終えた事を報告しにジャックへチェックしていたタブレット端末を手渡した。
「うむ、ご苦労…早急にデータは本社に回してくれ…バックアップデータも取っておくため数名のスタッフだけ借りたい」
「かしこまりました」
ジャックの最終確認を終えたスタッフ一同は残りの現場残留スタッフ以外の運搬トラックの運転手が待つ助手席へと乗り込んだ。
また他にも細かい部品などを普通乗用車から運び続ける荷卸し中のスタッフもいた…ただ一人、荷物を運ぶスタッフの中で足が止まる者がいた。
(――あッ…アイツなのだわッ…なぜこの時代にあの女がッ!?)
荷卸しするスタッフの中で作業着姿の女性はアキを目にするなり身がこわばるような感覚にあった。
――見つけたか…ジュダよ!――
(ヒィッ!?そっ…その声は…)
作業着姿の女性は頭の中に直接語りかけてくる不安と恐怖を抉り入って来るような声に脳内に響いているとわかっているのに耳を塞ぎたくなって両耳を両手で抑えた。
(なっ…なぜ3年も音沙汰がなかったのに…この時代にあなた様が…)
――貴様が悠長にこの時代に逃げ隠れしていても余はすべてを闇の底から見ているぞ…何処へ逃げても貴様は使命から逃れる事なぞ出来ぬわ――
(わっ、私に何を…何を求めておられるのですか!?)
――とぼけずとも分かっていよう…そこにいるダゴンの使徒を消せェッ!!消し去るのだァッ!!――
声の主は作業着姿の女性にアキを如何なる手段を用いてでも消すように促してきた。しかし、アキを取り巻く周囲の人物たちを含めても人目が必ずその場に居る。
(むっ、無理です…今この状況は…目立ちすぎています)
――よもや貴様は余の命に背くか…傲慢な兄と姉が余によって完全消滅を目の当たりにした貴様らしい無様ぶりよのう…ジュダ――
脳を締め付けられるような苦痛を宿す声の主に自らの経緯と思い出させられる失われた存在を無理矢理思い出させてきた。
(ぐぅッ…この宇宙の帝王として暗黒の覇権を有した私を愚弄するか…元はと言えば貴方様が私を無力な人間の女に転生させてこの時代に送り込んだのではないですか…このような身体では『ダゴンの使徒』を探すことなど不可能に等しいのです)
――黙れいッ!!貴様に言い訳など誰が許した…その姿、その無力さ、すべては貴様が余の隷属である証、無能な兄と姉のように同じ目に合わせぬだけありがたいと思え――
問答していても永続的に苦痛は“ジュダ”と呼ばれている作業着姿の女性を苦しめていた。
「うっうううっぐっ…」
「んっ?…おい、どうした…具合でも悪いのか?」
女性の異変に気付いた同じ作業をする男性作業員が心配になって彼女の肩に手が触れた瞬間だった…
「私に…触れるなぁあああ!!」
突如、男性作業員を突き飛ばして彼女の全身を漆黒のオーラが滲み溢れ出した。
騒ぎは異変となり、気づいたアキたちは作業員内の騒ぎに視線が振り向いた。
「なっ、何ッ…一体?」
慌てて事態を把握しようにも作業員間の揉め事とは思えない何かが起きている様子にアキを始めジャックと智田も不穏なオーラを醸し出す女性の方に意識を警戒させた。
「もう…どうにでもなってしまえ!!…ダークライド…ジュダ!!」
女性のその手にはアキと同じGIRLSの怪獣娘に支給されるソウルライザーと同型のスマートフォン型デバイスを所持していたが…明らかにそれは“最初から持っていない”はずの物が無より生成されたようにも見えた。
そんな無から現れたソウルライザーは彼女のオーラに干渉してかデバイス本体が黒く染まりきって黒紫の光に覆われた。
「かっ…怪獣娘ッ!?」
「ミズノエ君ッ、他の怪獣娘くんたちを呼んできてくれ!」
「はっ、はい!!」
この場で太刀打ちできる唯一の怪獣娘であるミズノエノリュウをなぜか智田は他の怪獣娘たちを呼びに行かせた。
「全スタッフ及び作業員は緊急の非難を…これは社長命令だ」
「りょっ、了解しました…総員退避ぃいい!!退避だぁああ!!」
事態を理解した上層のスタッフが末端までのすべてのACI関係者をその場から非難させた。
そして、周囲にはアキとジャック、智田の3名に対して禍々しいオーラから解き放たれる黒々照り輝く硬質な西洋騎士のような獣殻(シェル)に加えて頭部には顔を隠す意図的な構造をした兜を被っていた。
「フンッ見せてやる、宇宙の帝王たる私の侵略を…侵略の開始だ」
全身甲冑のような出で立ちを有する正体不明の怪獣娘を前にアキは手にとったソウルライザーを構えた。
「ソウル…ライド!アギラ!!」
アキはソウルライザーを用いてアギラに変身すると残された自分だけでどうにかなる相手ではない気も擦るが…
「宮下アキさん…ダグナくんから事情は聞いております」
その肩に優しく手を添えて触れる智田が答えた。
「智田さん…」
「理由は不明ですが、あの方の狙いはどうやらあなたの様です…ですのであなた一人に戦わせませんよ ねぇ…ミスタージャック」
「無論だ…この状況、1人には荷が重い」
智田とジャックはアギラより少し前に構えるなり智田は全身が深紅の体表と水棲獣脚類に見られる特徴的なトサカが頭部から背面に掛けて生え切った姿をした宛ら赤い恐竜型の怪獣に変貌を遂げた。
同じくジャックは以前にも見たが改めて変身した姿を拝見したのは今回が初めてで筋肉が膨張して下半身もドッシリとしているが上半身はそれ以上にガッシリしたアキの中で最もタイプの近いレッドキングに通ずる点は見受けられるが彼女以上に発達した筋量を誇る類人型の怪獣コングへと成り変わった。
「邪魔だ、『ダゴンの戦士』ども…我が主はそこの小娘を抹消する事を望んでいる」
ジュダは空間に歪を発生させて割れ開いた空間より両刃の剣を取り出して構えた。
「奇遇ですね…私たちもあなたに用はありません、私たちはあなたの背後に見え隠れ出来ていない“神様”に用があります」
「かみさま…?」
誰に向けて言い放っているのか分からないアギラだったが、智田の怪獣態が声をかけた途端に脳に無理やり捻じ込んでくる強い思念がアギラを始めコングたちに突然現れだした謎の怪獣娘にもそれぞれの脳内に入り込んできた。
――忌々しいダゴンの戦士どもめ…余の尖兵如きを封じたくらいで図に乗るな――
「せっ…尖兵ッ?」
――我が父神クトゥルフが危惧するその力、この世界には“あってはならない力”をアヤツが調和の為と称して与えた…間違い…間違いは断じて正さねばならん さぁ、ジュダよ この者たち諸共まとめて消し去るのだ!――
声する何者かはジュダと呼ばれる怪獣娘に強い思念波を脳内に送り込んできた。
「ぐわぁあああああああああ!!」
それは頭を万力で圧縮されていくような激しい頭痛として痛覚を刺激する。一瞬の痛みではなく、永遠に続く痛みにジュダは悶え苦しんでいた。
「ねぇ、君…大丈夫?」
さすがに苦しみ続ける怪獣娘に居てもたってもいられなくなったアギラはそっと近づくが…
「危ないッ!」
―ヒュンッ!
「うがぁあああああああああ!!」
近づいてくるアギラに向かってジュダは両刃の剣を振り下ろしたが間一髪のところで智田の怪獣態に引き止められて助かった。
「はぁっ…はぁっ…わっ、わかりました…従う…従います、がっ…ガタノソア様…」
ジュダはとても正気を保ちきれない荒げた声で闇より命ずる何者かの意思に従って片手で振りかざしていた剣を両手に持ち換えた。
「はぁあああッ! くたばれ、我が苦痛の種よ!!」
一心不乱、それでいて鬼気迫った太刀筋だが正確に相手には致命的な個所を狙うジュダだったが…
「私は怪獣としては特異な能力はありませんが…ハッ、ハァッ、デヤァアアッ!!」
「グゥッ!?」
対する智田の怪獣態はジュダを翻弄するだけの格闘技術で応戦した。
「グッ…鬱陶しい小技ばかりを…何者だ!」
「チタノザウルス、しがない怪獣戦士(タイタヌス)の1匹です…遠慮なくチタノとでもお呼びなさい」
智田の怪獣態改めチタノザウルスは身体を半身に構えて左手で『かかってこい』と指先を曲げ繰り返すジェスチャーを向けた。
「クッ…こんな惨めな身体でさえなければ…宇宙の帝王たる私がこんなことでぇええ!」
チタノに対して戦闘技術と足りない体格の差を埋めるがためにジュダは内に宿る禍々しい力を開放して闇の波動を爆発的に拡散させる拡散型のエネルギー波でチタノを弾いた。
「ぬぐっ!?」
「うわぁあああッ!?」
拡散する膨大なエネルギーは宛ら一点より渦巻く竜巻のような暴風が起きた。
「大丈夫か…ゴジラの妹…」
「ううっ、ふえっ?…コングさんッ」
激しいエネルギー波からコングが強靭な体躯だけでアギラを背後に隠し身を挺して守ってくれていた。
「ぐぅっ…やはりこんな身体では…出力が出せない…ガタノソア様ッ!もっと…もっとォ、私に力を!!」
形勢不利を悟ってかジュダは天に助けを求める…が…
――ジュダよ…この期に及んでまだ神に縋るか、愚か者め 余は助けなどせん 誰等しく平等に試練を与える、お前は今この状況という試練にも打開できない脆い生命生物……だから貴様もまた“人間”なのだ――
ジュダに己が身の振りを諭すような言い回しをしながらも声の主はジュダを“1人の人間”だと見下すような言い回しにも聞こえた…
「わっ…私が…人間だと……ふざけるなぁッ!!私はグア軍団を引き入り、全宇宙の覇権に近しい宇宙の帝王ジュダだッ!!それを…この星の脆弱な人間どもと一緒だと…一緒だとぉッ!?」
――輝かしい過去に縋る…それもまた人間、何とも愚かしいく卑しいことよ 多少宇宙の箱庭の中で突出して優れていても知的生物に過ぎない 否定すればするほどに…人間そのものよ――
声の主はジュダを人間だと煽る。それがジュダにとって耐え難い屈辱であり、侮辱であった。
内に宿る闇のエネルギーは次第に上昇して先ほどにもまして強いエネルギーが彼女から溢れていた。
「なっ、なにこの気配…こんなの…シャドウガッツ以上だよ」
禍々しいエネルギーに背中をざわつかせる気配…それはまるで今までアギラと怪獣娘たちが相対してきた存在“シャドウ”に近いものだった。
「がぁああああああッ!!消え去れぇええ!!」
ジュダは剣に闇のエネルギーを集約させてアギラたちに切りかかろうとした…その時だった。
―ゴボゴゴッ…バゴォオオンッ!!―
「グエッ!?」
地面からジュダの顎に直撃して丁度のタイミングで地中より何かが出現した。
――キュェエエエッ!!――
地中から現れたソレは黄金の仮面をかぶり、白銀の身体により黄金の翼を羽たかせる機械仕掛けの鳥の様でもあった。
「今度は一体なにッ!?」
地面から現れた鳥は何やら探しているような頭を動かして周囲を伺うが…
――クケェエエエエッ!!――
「へっ!?…えっ、ええっ、ええええええッ!?」
鳥はアギラを見つけるなり突然彼女を脚で両肩を掴み摑まえ、そのまま彼女を連れて上昇した。
「なんでボクゥウウウッ!?」
するとさらにそのまま鳥はアギラを連れて上空で加速をつけて飛びきる。それは宛ら空気抵抗を極限まで減らしたジェット機の姿勢での超加速である。
「うわぁああああああああ止めて止めて止めてたぁすぅけぇてぇええええええええええええ――――!!」
鳥と共に悲痛な声が残されてアギラはその先に待つ音の壁も、光の壁も、物理法則の外側へと空間突き抜けてどこかへと消え去って行った。
「……行ってしまわれましたね」
「ああ、地中から現れるとは予想外だったが…」
謎の鳥に連れ去られていったアギラを半ばこうなることを予想していたかのように驚くこともないチタノとコングは鳥に連れ去られて行ったアギラの消えた地点の空を眺めるのであった。
「お待たせしましたぁああ―…って、アレ?もう終わっちゃいました?」
そこへ丁度応援に駆けつけてやって来たミズノエノリュウたちGIRLSの怪獣娘がやってきた。
「いえ、丁度よいタイミングでしたよ…私たちでは彼女をどうすることもできないのでGIRLSさんにお任せします」
チタノとコングであった2人は元の智田とジャックの人間の姿に戻って、グッタリと意識を失って大の字で横たわるジュダをミズノエノリュウに任せた。
「えっ?…誰、この子…」
「怪獣…娘よねぇ?」
見たことも会ったことも無い謎の怪獣娘にドドンゴとスフィンクスは首を傾げてどうするべきか悩ませる状況であった。
「…それで、智田先生…あの子は“過去”に向かいました?」
「おや…ご存じでしたか、正確には連れ去られていったという方が正しいでしょうか」
智田に向かって小声で他の2人の怪獣娘には聞かれない様にミズノエノリュウは語りかけた。
「当然です…守護者であり観測者である私に見抜けないことはありません…ただ、この子たちが何やら理の外から闇の声を聞いたようでかなり怯えています」
ミズノエノリュウは他の二人には知らない先ほどの状況の事細かなことを見知っていた…が、そんな彼女の尾の竜たちが酷く怯えていた。
「…“アレ”は…闇の神の使者ですね」
ミズノエノリュウはジュダを見るなり彼女が何者かの手によって呼び起こされた存在であることも知っていた。
「…宇呂須神社のアカシックレコードは?」
ミズノエノリュウは首を横に振った。
「…―まだ何も…人間、他生命、私たち怪獣能力者、いずれのどちらも星の統治者は現れていないようです」
ミズノエノリュウだけが知りえている情報をしてもまだなにも見えなかった。
・
――…おのれ…ダゴンめ まだ余の邪魔だてをするか…だがこの世界のどこかで見ておれ、“今度”こそ余の闇の世界を獲得し、七帝の最柱となろうぞ――
ジュダを操っていた声の主は並々ならぬ野心を抱いて再び誰の目にも触れぬ闇の底へと存在を眩ませるのであった。
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??? ???
「うわぁああああああああッーー―グエッ!?ぐいっ!?ワブブブブブッ!?――アダァッ!?」
上空より落下してきたアギラは奇跡的に生い茂る木々にぶつかりを繰り返しながら衝撃を受け流されて落ちた地点の地面にドシンッと音をたてて着地した。
「うっ、ううん…ここは一体…って、アレ?なんでこんなに暗いの?…と言うかボク今どうなっているの?」
明かに森のどこかだと思われる場所に落ちて来たアギラだったが…空はすっかり暗く夜の世界が広がる中で一人、起き上がっても角がどこかに刺さっているせいで抜け出せなかった。
「うわっ、これ角が変な所に刺さってるよねぇ!?…どっ、どうしよう、誰か居ないッ!?誰か居ないの!?誰かぁああああああ!!助けてぇえええええ!!」
一人ではどうすることもできない状況にアギラは周囲に助けを呼ぶ大声を上げるが…
「お~い!!そこに誰か居るのぉおお!?」
「アギさ~ん!!アギさんですかぁああ!?」
アギラの耳に届いた声は聴き覚えもあり常に3人一緒に過ごして来た唯一無二の友人2人の声に安堵した。
「そっ、その声…ミクちゃん!?ウインちゃん!?なんでここに居るとかもうどうでもいいから助けてぇええ!!」
なぜこの場に彼女たちの声が聞こえるのかという疑問も捨ててアギラはとにかく助けを求めた。
「うわっ、どうしたんですかアギさん…その御姿…」
「なんかおかしなことになってるけど…アギちゃん、あたしが後ろから引っ張るよ!」
「うっ、うん…お願い!!」
アギラの後ろから照らす光に見えた状況はすぐに理解した。
落下の際、アギラの角が地面に突き刺さってしまい頭が地面から離れないアギラの今の状態へと至ったという事が顛末であった。
「いくよぉおお!!」
ミクと思わしき人物がアギラの尻尾を掴んでいることもアギラには神経を通して理解させるが…
「イダダダダダダダッ!?」
それは同時に引っ張られていることも痛覚を通して分かる。
「ミクさん!もう少し、もう少しです!!」
「ふんばるよぉお!アギちゃん!!」
「イダダダッ!!もげるッ、尻尾がもげちゃうヨ!!」
強い力で引っ張られているアギラの尾は今にも臀部から剥離しそうなほどに強い痛みを伴ってきたが…―スポンッ―…
「ふぎゃっ!?」
角が抜けて反動に身を仰け反らされてゴロゴロと身体が転がり背後にあった木に激突して止まった。
「ううっ、痛かった…すごく痛かった…けど、ありがとうミクちゃんウインちゃ……えっ?」
助けてもらった2人にアギラは礼を言おうと顔を上げると…そこにはいつもの2人を知っているアギラにとって知らない姿をしたミクとレイカがいた。
「あっ、アギさん…?」
「あっ、アギちゃんが……“戦士”になっちゃったあああ!?」
アギラの前に居るミクとレイカ…と、思われる人物は古風な出で立ち、明治時代…?、江戸時代…?、平安時代…?、いずれよりもっと古くに位置する服装、言うなれば古代日本の民族裳服で着飾った姿をしたミクとレイカがそこにはいた。
アンバランス小話
『地鎮祭』
これは後のGIRLS東京支部が建てられる以前の事だ。未だ、GIRLS発足から間もない頃に怪獣娘専門機関の有地候補として白羽の矢が立てられたのが他でもない日本の東京都であった。
「…これより祈願にて土地を清める地鎮の儀を始めさせていただきます」
都内の1画には建設予定の工事区画を囲む仮囲い内に設置された設営テントの下で神聖な儀式を行うための礼装に身を包んだ人間時のミズノエノリュウが祓串を握りしめて立ち会った。
地鎮祭に参加する者たちの中には工事に関わる関係者並びに施工管理者、そしてこの地に立てられる建築物の所有者となるGIRLS関係者に怪獣娘たちも地鎮祭に参列していた。
「それでは…はぁ~~アッ!!」
ミズノエノリュウは祓串を振りかざし地鎮の義式が今まさに始まろうとした時であった。
「せいッ!」―ピッ―
『大地主大神 東京之都之城南之―――』
明かにミズノエノリュウが祈禱を行うものだと思われていたが…彼女は神主風に着飾らせたロボットの録音再生ボタンを押して自分の代わりに祈祷を行わせただけであった。
「―って、アンタが祈祷するんじゃないんかいッ!?」
後に東京支部の支部長となるゼットン(姉)も驚くような神聖さに欠ける状況にミズノエノリュウへ問いただすも…肝心のミズノエノリュウは用意された休憩用のパイプ椅子に座って一般販売用のロボット家電カタログを読み漁っていた。
「あぁんっ?別に私のトコはこれでもいいルールなの…しょーじき毎回毎回長ったらしい祝詞なんか読んでられるかってのッ…おっ!ここのロボット掃除機がお買い得だわ」
「あんた、本当に神社の神主なの…」
ミズノエノリュウの実家は日本の郊外に位置する『宇呂須神社』であるが、実際にそんなユルい決まりがあるのかどうかは定かでない。