TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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部隊の整理

――高度3万フィート まもなく降下ポイントです――

 そのアナウンスが聞こえた時、空から自分たちをこの2トン以上もある空飛ぶ鉄の船から放出される。

――降下25分前、アームインパラシュート――

 なぜ巡航速度890キロメートルの輸送機から外へ出るのか…否、自分たちの意思で機体外へ飛び出すからである。

――降下2分前、オールグリーン スタンバイ――

 その時が来た時…彼らの覚悟は既に決まっているからである。

「――よぉ~い、よぉ~い、降下、降下、降下ッ!!」

 補助員の掛け声と共に総員約十数名の隊員たちが後部ハッチから開かれた外へと飛び出していった。

 そして、その先頭は部隊の頭であり部隊長である自分が先陣きって飛び出す。

 飛び出した先は酸素濃度一桁台の世界、空気などほとんどない世界で生身の人間が飛び出せばその時点で危険な世界…だが、ここに居る者すべては唯の人間ではない。特殊な降下訓練を繰り返し続けた精鋭たちで構成された『空挺部隊』である。

 使用する装備は降下凍傷を防ぐための防護防寒着、背面バックパックから供給され口元の酸素マスクから充填される呼吸用酸素ボンベ約3リットル、そしてこの大空から自分たちを猛禽類の翼の様に飛翔させるのが特殊空挺装備『ウイングスーツ』であった。

 服、酸素、翼、三位一体にして名称されるは『特殊空挺降下装備Ⅲ型』である。

 降下と同時に雲を突き抜けた先で待ち受けていたのは大地だ、それもビル群立ち並ぶ日本国内のありふれた街中…静岡県御殿場市である。

 そのまま落ちれば即大事故につながるが、決してそうはならない…ウイングスーツに空気が入った。

―…ズボフンッ!!

 スーツの全身に空気が送り込まれることで背面のバックパックより左右から翼が生えた。この空気で満たされた翼は空気抵抗を受けてジェット機の翼の様に揚力が発生して翼の持ち主たちを空へ浮かび上がらせる。

 正に人が空を飛ぶ瞬間であった。御殿場市上空を飛行する時間は実の数十秒と満たない…目的は東富士演習場畑中地区の降下地点であった。

 空から降って来た猛禽類たちは地上に降り立ち、初めて空挺部隊員としての本領が発揮される。両手に備わったジェットスラスターで降下着地、即座に装備を切り換えて携行武装を携えて、対戦警戒陣形を取って初めて降下完了となる。

―…パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!!

 出迎えたのは敵ではなく、観客の拍手であった。

「―ー以上!第一特殊空挺団による降下演習でしたぁあ――」

 

・・・ピッ…||

 

 

 そして、その瞬間を一時停止して映像が止められた。

「昨年の富士演習の映像だ…実に洗礼された統率力だ」

「はっ!」

 男は様々な特殊記章で着飾った将校服の上官に評価されていた。なぜならその映像にはその男も映っているからである。

「…原田マスノブ二佐、本日より第一特殊空挺団の任を解き八王子駐屯地より『特殊不明生物群対策分隊』への転属を命じる」

「はっ!……はいぃ?」

 職業軍人としての決まりとして掲げた敬礼であったが…問題はその行き先について構えた敬礼が緩んでしまった。

 陸上自衛隊 八王子駐屯地

 

 そこからの流れは速かった。習志野の人事科に書類を提出した後日に八王子駐屯地の案内状が届く、それに従い八王子駐屯地に入所、現在に至る。

「ご苦労様です、本日付で八王子駐屯地に配属になりました 原田です」

「ご苦労様です! どうぞ、お入りください」

 警備に連絡が行き届いているのか、スムーズに話が通った。

 

 八王子駐屯地内・駐屯指令室

 

「本日付で着任いたしました、原田マスノブです」

 原田マスノブ二等陸佐、年齢は30代で前部隊の第一特殊空挺団では空挺部隊長として勤務、防衛大では学生長を務め、幹部候補主席卒業、幹部レンジャー、落下傘徽章、格闘徽章、特殊降下徽章とその他多数の徽章を有する。家族は配偶者と二児の長男長女、自宅住所は銚子市で登録されている。以下勤務録より…

「んっ、八王子駐屯地へようこそ…駐屯地司令の印南だ さっそくながら今日より君に『リザード』の総部隊長に任命する」

 原田を待っていた八王子司令の印南はどこかタカのように鋭く『習志野の猛禽類』と呼ばれた第一特殊空挺団にも司令以上の目つきをした人間は居なかった。

「リザード…私が着任を命じられたのは『特殊不明生物群対策分隊』…では?」

「その部隊のここでの略称が“speciaL Ⅰngnorant Zero Animal Reaction Detachment”を『リザード』と呼んでいる 君にはその部隊の“整理”をしてもらいたい」

「整理…ですか?」

「…現在、リザードには大きな問題を抱えている 1つ1つの問題を整理し部隊の整理をしてもらいたい」

 原田が着任早々に与えられた最初の仕事は部隊の“整理”と言った実状視察であった。

 通常、軍事組織内で結成された部隊には様々な問題が起きる。士官及び将校は下部組織または持ち場部隊の中で抱える問題点を順当に対処することを“整理する”と言う。

「ちなみに…どういった問題が?」

「現時点でリザードは2つの小隊と係に分けられている…」

―…言わずもがな実働を担う戦闘小隊…―

 

 八王子駐屯地内・隊長室

―コンコンッ

「どうぞ…」

 ドアのノックから入室した原田を待っていたのは…

「失礼しま…ええッ!?」

「お待ちしていました…原田二佐、早速ですがこちらとこちらとこちらに目を通してください」

 原田を待ち受けていた女性自衛官は着任してきた自分の新たな上司への自己紹介よりも先に書類を渡して来た。だが、渡した書類だけに留まらず本来自分が座る予定の席や女性の席と思われる机にも書類、書類、書類、置ける場所すべてに書類が置かれていた。

「ええっと…アナタは…」

「申し遅れました。リザード部隊長を務めます、如月アズサ三等陸佐です…」

「如月…アズサ…さん、わかりました では司令より部隊整理調整を任されましたのでリザードの補正予算と装備運用のデータから整理しましょうか」

「はっ?…いえ、まずは渡した資料を…」

「今、ここに置かれている初めの1ページ目の内容は最初の題名から予想が付きます いちいち読んでいる暇も時間もないのでタイパ重視で行きましょう!」

 驚くことに原田は置かれている書類の表紙を見ただけで中身を確認せずその書類に合う問題解決の糸口から紡ぐ手法を見せた。

「あっ、あとそれから呼び名は本名か、名前、仇名で呼んでも必ず“さん”付けしますので…年上だろうが年下だろうが先輩後輩関係なく敬語使うんでよろしくお願いします」

「はぁッ?…いえ、それでは下の者に示しが…」

「いちいち敬語タメ語を使い分けても面倒この上ないので、それに自分たちくらいの階級になるともっと上の階級の将校さんとお会いする機会が多いのでタメ語でのボロ出し防止のためです…あっ、良かったら如月さんも試してみてください」

「じっ、自分は…結構です」

「そうですか、私は上に媚びへつらって下に威張り腐るような自衛官になりたくはないので習慣にしているだけなので強制はしません…ですけど、開発主任さんとトラブルを起こすのは後々にあなたが困りますよ」

 図星を突かれた如月は何やら渋い顔になった。

「組織である以上、人間関係のトラブルは付き物…これから駐屯地内の挨拶に回りますので…」

「では、案内を…」

「あっ、結構です もう館内図は頭に入っているのでとりあえず部隊長は私がここにある書類に必要な手順を書き記したので先にこっちを整理しておいてください」

「えっ。もう!?」

 如月は原田が自分と会話をしながら書き記した書類問題を解決する手順をメモ用紙にすべて収まっていた。

「それじゃあ、後で戻って私も作業手伝いますので…書類整理お願いします」

 原田は部隊長室を後にしてリザードの部隊員の挨拶へと回る為、部屋を後にした。

―パタンッ…

「…ちょっと、嫌な上司とか思われていないかなぁ…」

 言い切った手前、自分の印象を少し気にしつつも隊長室を後にした。

 駐屯地内・オペレーションルーム

 

 そこはリザードにとって頭脳と言える通信系および電算を担う一種のコンピュータールームの様に最新鋭の通信設備を備えた場所であった。

「あぁ~、それ部隊長に言っちゃったんですか?」

 通信士の女性自衛官は如月が抱える問題を突っついた事に困り驚いている様子だった。

「あの…そんなにマズい事でした?」

「そりゃそうでしょう…部隊長と開発主任、スーパーXの運用について運用開発時から結構揉め続けた同士なんですから……あっ、通信士の長尾トウコって言います」

 長髪の猫目な長尾は面白そうに事の顛末を語った。

「原因は特生怪獣第4号に対しての現場隊員への指令系統即時変更…開発主任ちゃんに出動するまで黙っていたんですよ」

「ええ~…なんでそんな急に?」

「嫌がらせですよ、嫌がらせ!…あぁ~ヤダヤダ、こんなイチ軍事組織内でも女同士の争いなんて女子高かッ!っての…」

「…怖いんだよなぁ~、女の恨みは何年たっても消えないから…あっ、同じく通信士の武田ケンジです」

 トラブルに関わる事を避けたいあまりか胃腸薬をぬるま湯の入った湯呑で飲み干す長尾より年の離れた壮年の武田はホッと一息ついた。

「…そ・れ・でぇ~…肝心の開発主任さんは?」

―…それと装備運用・開発・整備のローテーションを担う装備係…―

 

 駐屯地内・装備管理室

 

 ここではリザードが使用する装備の開発研究を一手に担う部署であった。

―ガチャッ…

「失礼しま~す…うおッ!?」

 入室して早々に白衣姿の成人女性が書類を下敷きにして床に倒れていた。

「えっ!ええっ!?…ちょっ、大丈夫ですか!?」

 慌てて原田は女性の身体を揺さぶって、頸動脈から脈を測ると動きがあるため死んでいないことを確認した。

「あぁ~起こさないであげてやって…サラちゃん、連続48時間不眠で作業していたからさぁ」

「ええぇぇ…本当に…大丈夫なんですか?」

「まぁ~カフェイン取り続けてのぶっ通しだったから…スーパーXの再試験稼働までギリギリこぎつけた反動がついさっき出ちゃったみたいだし、しばらくは揺すっても叩いても起きないっすよ…あっ、自分プログラム担当の工藤ハジメっす、アンタが噂の『ムササビ総長』の原田さん?」

「むっ、ムササビ…総長?」

 工藤は電子タバコの電源ボタンを入れてカートリッジに搭載されたフレーバーを吸って吐く一服をきめた。

「八王子駐屯じゃ有名っすよ…今度来る総部長は“特空”のムササビ部隊ムササビ総部隊長だから“ムササビ総長”って」

「なんですか…その、ファンシーと暴走族が並走しているような肩書きの陰口…」

「いや、陰口じゃなくて尊敬を込めてっすよ!…悪い様に捉えないでくださいっす」

「はぁ…とりあえず、ココって禁煙でしょ」

 原田は室内禁煙と書かれた注意書きを指差して注意した。

「あぁ~…これ水蒸気っす…携帯型のシーシャみたいなもんっすから大丈夫っす」

「いや、よくないよ…」

「うるせぇえええええックソ行き遅れがぁあああああ!!」

「うわぁああッ!?」

 突如、息を吹き返した女性に原田は驚いた。

「おっ、おはようサラちゃん…ホラッ、新しい新設の総部長の…」

「んえぇ?…あっ、こっこここコレは失礼しました!!」

「あぁ、いえ…こちらこそお疲れの所、お邪魔してすみません 開発主任の湯原サラさんですね」

「あっ、どうも初めまして…総部隊長の原田二佐ですね」

 互いに気が引けるのかどっちもどっちに腰を低く挨拶を交わそうとしあって段々と腰の位置が90度に曲がりつつあった。

「ええっと…とりあえずこの後で飲み会…開こうと思うんですけど…湯原さん、一緒に行かれます?」

「えっ?…それって…」

「正直、自分の歓迎会を自分で開くのもアレなんですけど…もちろん、私の奢りです」

 タダで酒が飲めると聞いたサラは目を輝かせて原田の手を握って来た。

「是・非!!ご一緒させてください☆」

「おおっ、食い気味…」

「んじゃぁ、キリコちゃんたちも呼んでくれるなら…自分もお供しますっす!」

「きっ、キリコちゃん?」

 工藤も『キリコちゃん』なる人物が来てくれるならと参加を打診した。

 駐屯地内・会計科

 

「……問題外です、総部長」

 ショートカットの会計士の女性自衛官は腕を組んで却下した。

「…いや、しかしですねキリコさん これでも結構コスト削減案を提示しているつもりなんですが…」

 八王子駐屯地の懐事情を支える会計科の会計責任者の女性自衛官を前に応対席で親指を合わせあう原田の前には先ほどに作成したコスト調整をしたノートパソコンを見せているが険しい様子だった。

「こんな予算では出動の度に予算をドンドン削る羽目になります…それから私の名前は辻森キリコ三等陸佐です!馴れ馴れしくキリコって呼ばないでください」

「あぁ、すみません…キリ、じゃなかった 辻森さん、いや工藤さんから苗字を聞いても『キリコちゃんはキリコちゃんっす』とか言うもんだから…」

「はぁ~…まったくアイツは……わかりました、とりあえずこの提示案で何とか打診して見ますけど…その代わり貸し奢りですからね」

 何とか筋を通して辻森に案を通らせたが…

「ですけど…車両科はまだなんですよね?」

「えっ?…ええはい、まぁ…」

 辻森に何故か他に挨拶をしていない部署のことを聞かれた。

「…でしたら、歩兵中隊と医務室、それから車両科に向かわれた方がいいですよ」

 駐屯地内・射撃訓練場

 

―パンッババババババンッ!バンッバンッ!

「あの~、スーパーX装備装着要員さんはこちらにいらっしゃいますか?」

「あっ、もうしかして総部隊長さんですか?」

 射撃訓練中の歩兵中隊の中で若干青年な自衛官に顔合わせるが…

「俺は歩兵中隊長の宮本イオリと言います」

「…えっ?…あっ、あなたが中隊長さん!?」

 童顔のあまり隊員かと思っていた宮本がまさかの中隊長だと知らされて驚いた。

「神子なら向こうの方に居ます」

 宮本に教えられた通り奥の射撃場から89式小銃の射撃訓練に参加している自衛官がいた。

「あの~、スーパーX装着員の神子さんですか?」

「………ええ、そうですが」

 チラリと原田の方を見るなり返事を帰しただけで再び射撃に集中した。

「……あの~、このあと俺の開く飲み会に良ければ参加しませんか?」

「……………」

 返答はない。これ以上の勧めは飲み会ハラスメントになると思い、ソッと去ろうとした。

「…別に参加しないとは言ってませんけど…」

「えっ?」

 そう言い残して再び射撃に集中し始めた。

「すみません、ソイツなりの会話なので気にしないでください」

「はっ…はぁ――…」

 感情表現の少ないだけであった。

 駐屯地内・医務室

 

「衛生士の由井ショウコです……飲み会ですか?ええ、是非参加させてください」

 自衛隊の規律は黒髪が基本とするところ衛生士の由井は先天性色素欠乏症による事情で髪も肌も白かった。

「あの~…出来ればいいお店とかこの近辺で知りませんか?」

「そうですねぇ…でしたらイオリ君のお母さまが働いてらっしゃる焼き処『海の神』って言う網焼き屋さんがありますよ」

 由井が勧めた店は先ほど童顔中隊長の宮本の母親が働いている店を勧められ、ソコに決めたが…

「あの~、それでなんですけど…この後に車両科さんにもお会いするつもりなんですが…」

「あぁ~…もしかして…」

 会計科にも最後にするように言われた理由を聞いた通り、由井も何やら事情を知っている様子であった。

 駐屯地内・車両科

 

―カンカンカンカンッドンッ!カンカンカンカンッ!

 

 そこは騒音鳴り止まない車両整備の聖域であった。

「あの~~!!!!総部長に着任しましたぁ~~!!!!原田ァア~~、マスノブですぅう~~!!!!」

 車両の点検中の整備主任には周囲の環境音で届いていないのか大きな声で叫んでも耳には届いていなかった。

「…あ~~のぉ~~~!!!!整備主任のぉ~~~!!!!織田ノブカナさんでぇすぅかぁああああ!!!!」

「うるせぇええええ!!!!でっけぇ~声出さなくてもきこえてるよぉおお!!!!」

 女性の整備主任・織田はバーナーを片手に溶接マスク越しでキレ散らかしていた。

「ワシに何の用じゃ!!!!浜口ィイイ!!!!」

「全然聞き取れて無いじゃないですかぁぁああ!!!!原田ですぅぅうう!!!!」

「うるせぇええええ!!!!ワシに口答えする気かぁぁああ!!!!川口と言ったらお前は川口なんじゃ!!!!」

「さっき言ったのと違うのになってるじゃないですかぁぁああ!!!!」

 互いに大きな声を出し合って会話は爆音の平行線を走るのであった。

 一通りの挨拶を終えて車両科の方で声を張り過ぎて喉がおかしくなっている気がする原田は喉を気にしていた。

「んん~…ちょっと声出しすぎたかな?」

 喉の調子を整えつつ隊長室へ向かう道中、入口の方に差し掛かると…

「――だから、御通しできませんって!お引き取り下さい!」

 入口の警備の方で何か揉め事が起きているようであった。

「どうされました?」

「あっ、先ほどの…実はちょっと…」

「だから、僕はサラさんにお弁当を届けに来ただけですって! ここに湯原サラさんがお昼のお弁当を忘れて行っちゃったから届けに…」

 守衛と揉めていたのは若干2メートルのエプロンを付けた大男がお弁当と思われる袋包みを持って駐屯地内に入ろうとしていた。

「ちょっと見せてもらっていい…」

「えっ?…あっ、はい」

 原田は大男の手荷物風呂敷包みの中身を確認すると…二段重ねのお弁当であることは間違いなかった。

「なるほど…コレはちゃんとしたお弁当ですね」

「そうなんです! サラさん、あー見えて目を離すとすぐ自堕落に走るから栄養が偏るんですよ」

 大男の表情と態度を見る限り、不審者ではない事を理解した原田は頷いた。

「コレは間違いなく湯原主任の御関係者さんです、この人は私が案内するので入館の許可を…」

「ええええッ!?いや…でも…」

「司令には自分から通しておきますので…」

「はぁ…わかりました」

 半ば強引に総部長権限で融通を聞かせて守衛を丸め込んだ。

―それから小一時間後―

「…いやぁ~まさか小一時間も君の胴体にセミの様にしがみついているとは…」

「はははっ、サラさんは嫌なことがあるとすぐに僕の胴から離れてくれないもので…」

「まさかそのままウチの部隊長の悪口を呪言のように吐き出し続けられるとは…小一時間も人の悪口を言える方を始めて見たよ」

 若干苦笑いで返す銀髪のエプロン大男を連れて原田は駐車場に向かっていた。

「ところで…君、運転は?」

「あぁ、すみません…最近バイクは取ったばかりなんですけど車は…それにサラさんの傍にいてあげないとサラさんすぐ癇癪を起すので…」

 部隊長の如月に対する悪口を言い切ったサラが事切れたのか大男の大きな背中に背負われながら眠っていた。

「48時間も徹夜したらそうなるか…わかった、私が運転しましょう」

「すみません…あっ、サラさんの車はアレです」

 大男の指差す先にはサラの自家用車が駐車場に停められていた。

「車のキーある?」

「多分サラさんのポケットに…はいッ!」

「後部席、入れられそう?」

「大丈夫です、サラさんを横にしてボクがその隣に座ります」

「それから、君…名前は?」

「はい! 桐生シュンイチです!」

 原田はサラを大切にする優しい家政夫のようなシュンイチを知ってから車に乗り込んでエンジンをかけ車を発進させた。

 サラの自宅

 

「わざわざすみません、サラを送っていただいて…」

「いえ…私も丁度、湯原博士にご挨拶を伺おうと思っていましたので…」

 ソファーに毛布を掛けられて爆睡するサラの横で父トクミツと挨拶を交わしていた。

「うちのサラが御迷惑をおかけしていませんでしょうか?」

「いえいえ、私はまだ着任したばかりですので迷惑と呼べることは“まだ”されていません」

「あぁ~…と言う事は、他の人には既に…」

「大丈夫です、お父さん…私が着任したからにはサラさんの事情も踏まえて良い緩衝材になりますので、どうかご安心してください」

 不安に頭を悩ませるトクミツを安心させようと原田は胸を張ってドンと胸に拳を置き自分にお任せ下さいと意思を伝えた。

「……ゴモッ」

「おや?…そちらのお嬢さんは?」

 シュンイチの後で見え隠れしながら原田に人見知りをする少女がいた。

「あぁ、彼女は知り合いの子でして…しばらくウチで預かっているのです」

 トクミツは知人の子として紹介するが…

「……なるほど…初めまして、原田マスノブと言います」

 原田は身を屈めて少女と挨拶を交わした。

「…ゴモォ…」

「大丈夫、練習した通りに…挨拶しよう」

 シュンイチは不安に見上げる少女の背を押してあげた。

「…ゴモ……五目…メイカ…」

「そっか~、メイカちゃんと言うんだね……おじさんにも子供が2人居て下の子が丁度君くらいなんだぁ~」

 原田は気さくに会話をして見せたが、メイカには自己紹介をするのがやっとであった。数秒も目を合わせられずにシュンイチの背後に隠れてしまった。

「う~ん…少し、嫌われてしまったようだ」

「すみません、まだ僕以外の人に慣れていなくて…」

「うんッ、長居するのもあれだから私は駐屯地へ戻ろう」

 原田は立ち上がってこの場を御暇することにした。

「――ハッ!?タダ酒!!」

 原田が帰るのを察してかサラは目をガン開きにして充血した眼をグルンと原田に向けた。

「サラ…お前は寝て――」

 父として無理に起きようとするサラを引き止めようとしたトクミツだったが、原田に手を翳されて待ってくださいと意思表示した。

「――湯原サラさん…今夜9時に焼き処『海の神』ですが、飲み会が終わりましたら48時間の準待機を命じます これは命令です」

 寝ぼけたサラはまた更に深い眠りについて目を閉じるのであった。

「…9時まで少し時間があるので、それまでは起きないでしょう」

「度々すみません…」

「いえ、これも上官の務めですので…」

 サラを寝かしつけた原田はようやく帰ろうとした時であった。

「あっ、すぐそこまでお送りします」

 シュンイチは原田を自宅の近辺まで送ることに出たが…

「ゴモ…ゴモも…一緒に…行く」

「メカゴモ…別にそんな遠くまで行くわけじゃないよ」

「ヤーヤ―!キリュウ、一緒じゃなきゃヤー!」

「まいったなぁ…さっきもシュンイチ君が居ないと騒ぎ出したしなぁ…」

 シュンイチと離れると言う事を聞かないメイカに困り果てたが…

「…構いませんよ、その子も一緒でよければ」

「すみません…」

「いや、私も君“たち”ともう少し話がしたいよ…」

 やけに含みを持たせたことを言う原田にシュンイチとメイカは首を傾げる。

 サラの自宅近辺を歩く内にこんな会話が出て来た。

「桐生シュンイチくん…少し、遠回りだがあそこまで登って行かないかい?」

「えっ、あそこですか?」

 原田が向かおうと提案した先には山を舗装した山道道路の方面であった。

 そこから駐屯地まで遠回りではあるが、原田の意図が何なのか彼に付いて行った。

「……あの~、こっちに何が?」

「向こう側を見てごらん」

「えっ?……うわぁ~!!」

 原田が指差した先にはサラが住む町と八王子駐屯地が一望できる光景が広がっていた。時刻も夕方を過ぎて日が沈む丁度絶妙なタイミングが町に鮮やかな色合いを与えているようであった。

「…桐生くん…君に合わせたい人がいる、こっちに来てくれ!」

「あっ、原田さん!?」

 原田は突如、後ろの山の森の中へと駆け出して入って行った。

「原田さ~ん!…どこですかぁ~!」

 鬱蒼と生い茂る草木に人の気配を消して原田を見失うが…

「やぁ、桐生くん!」

「うわっ!?…だっ、誰ですか!?」

「ゴモォオオ!?」

 突如として木の上から逆さに留まった状態でシュンイチたちの前に現れたのは爬虫類のような顔つきに背面より生えた棘状のトサカ、そして最も特徴的なのは脇の下から生えた被膜であった。

「驚かしてすまない…原田から紹介されて君たちと一度顔合わせしたかったんだ 私は怪獣戦士(タイタヌス)のバランだ」

「怪獣戦士(タイタヌス)?」

「あぁ、君と同じ…種族と言った方がいいかな?俗世間でいう所の怪獣娘とは似ているようで非なる存在、生物学的には彼女たちの方が類似種にあたる…らしい おっと、だからと言って敵ではないことを理解してほしい」

 シュンイチたちに自分が敵意のない存在であると意思表示をする。

「はぁ……」

「ふむッ……君、“マーカライト”器官を有しているね、それも後付けの人工的に……こっちの子はアーカライト器官が最初から備わっているみたいだからソウルライザーの必要はなさそうだ」

「まっ…マーカライト器官?」

「私たち怪獣戦士(タイタヌス)の最大の特徴は怪獣娘の様に先天的に怪獣の力を宿しているのではなく、家系的に継承されるか、後天的に継承されるかによって分かれるんだ…君と私の場合は後者に当たる」

 バランはシュンイチが知りえない怪獣の力を宿す人間たちの事を丁寧に教える。

「僕と…メカゴモラが、あなた達の仲間であるとして…僕らをどうするつもりですか」

「落ち着いてくれ、どうもしない…無理しろ、ネットワークを共有した方がお互いの理にもなる」

「ネットワーク?」

「あぁ、私たち怪獣能力者は個々に互い同士接点を通じて情報を共有する事を半世紀前から構築している…お互いに自分のことを相手に伝えて、相手も自分の方に伝え合う、そうして怪獣の力を理解し合えると言うワケだ」

 つまるところシュンイチはバランを通じて自分自身の事を理解できるというメリットしかない話であったが…

「一つだけ分からないことがあります…」

「なんだね?」

「それに加担したとしてあなた方に何のメリットがあると言うんですか?」

「言葉通りさ…怪獣の能力を有する人間と言う存在の共通特徴の発見と研究につながる これだけのシステムが構築されても未だに分からない事の多い私たちの力は1人では簡単に理解できない…だからこそ、皆で探し合うんだ」

 耳障りのいい話ばかりは時として警戒をより強める、が…

「じゃあ、他にも僕やあなたの様に怪獣の力を持つ人たちが…」

「現に私がこうして居る、なんなら君の身近な所にも彼らは潜んでいるよ」

 身近に仲間がいる…確かにバランの存在が動かぬ証拠であった。

「それにこうも考えられないかい?…君は料理が得意だね」

「得意…と言うより、それが僕の仕事ですので…」

「―では、その仕事を後世に伝えるには書に記したり、映像に残したり、あるいは決して消える事の無い石板に刻んだりする…と、極端な事を言ったが伝達方法はさまざまあるだろう?」

「…まぁ、確かに…」

「このネットワークはそれと同じだ…新たに生まれた怪獣の能力者が古くから居る怪獣の能力者に生き方を教わる その教わった怪獣がまた新たに別の怪獣に知識を託す…これがネットワークの仕組みにしてあり方なんだ」

 バランから聞かされたネットワークの正体…それは一種の伝承行為なんだとシュンイチの中で理解させた。

「―わかりました…では、教えてください 僕たちは一体何なんですか?」

「うんッ、では最初の繋がりだね…君たちは怪獣能力者、私たちは時として戦う事に特化した怪獣戦士(タイタヌス)、世間で広く認知され不安定な力を有するのが怪獣娘…――さぁ、次は君たちの番だ」

 シュンイチはメカゴモラと頷き合ってバランと再び目を合わせた。

「メカゴモラ、UMGモード…」

「コレが…僕たちです、名前は…機龍…と言います こっちはメカゴモラです」

 機龍はバランを信じて、彼に正体を打ち明けた。

「機龍とメカゴモラ…うん、わかった では、その情報は他の怪獣戦士(タイタヌス)たちにも伝達しておくよ」

 バランは飛び上がって木々を飛び移りながら去って行った。

 バランが去ったあと、草むらから原田が出て来た。

「やぁ、彼とは話せたかな?」

 原田が戻ってきた頃に機龍とメカゴモラは元のシュンイチとメイカに戻っていた。

「原田さん…あの方とあなたの関係は…」

「……古い友人さ、彼と私は別の存在同士だ お互いに干渉はしない」

「そう…ですか…」

 それはまるで人間と怪獣の正体の在り方を…今この瞬間にも教えられているようであった。

 2人はそのまま元の道路側に出て、向かい合った。

「ここでお別れだ…あとは一人で帰るよ」

「そうですね…今日は色々、ありがとうございました」

「…シュンイチくん…“私”は何もしていませんよ」

「…そうでしたね、“原田”さん……また、会えますか?」

「私たちはいつでも会える…もし、またすぐにでも会いたいと思うのなら湯原サラさんと一緒に、9時、焼き処『海の神』で会おう」

 そう言って原田は駐屯地の方へと足を向けて歩き出したのであった。

 シュンイチも抱えるメイカと顔を合わせ、メイカはシュンイチの胸に顔を埋める。シュンイチは原田とは逆方向の湯原宅へ向かうのであった。

 八王子市内

―焼き処『海の神』―

 

「それじゃあ~、新・総部隊長の着任を祝ってぇ~…カンパ~イッ!!」

――カンパァァアアィィイイ!!――

 長尾の乾杯の合図と共に焼き処『海の神』での八王子駐屯地特異不明生物群対策分隊『リザード』の飲み会が開催された。

「えぇ~それではここで…原田総部長どのからお言葉を頂きます 原田総部長、どうぞ!」

「はははっ、ではご紹介に預かりました…原田マスノブです 私がまず初めに与えられた任務は部隊の“整理”です それは部隊全体の問題を解決するためです」

 原田はまず初めに長尾にビシッと指を差した。

「長尾さん、あなたは勤務時間外時にプライベートで髪を染めていますね…しかし、勤務になる度に黒髪に染めなおすのはやめましょう 髪が傷んでしまいますので、どうぞ染めたまま出勤しても構いません!」

「おお~いいぞ!総部長ぉお~!!」

「それと武田さん、いい胃腸薬を調合してくれる知り合いの薬剤師さんをご紹介しますので腸内環境を改善しましょう!」

「あぁ~はい!是非ともお願いします」

「それから…如月さんと湯原さん!いい加減仲直りしなさい!」

 名指しで問題を解決する最後の関門は部隊長の如月と開発主任のサラの問題であった。

「お断りします…私は何も謝ることはありません」

「フンッ、こっちだってアンタが居ると聞いてたら来ないでやったわよ」

 仲たがいする者同士、互いに背を向け合ってグラスに入った酒を飲む。飲む。飲み干していく。

―ドンッ!!

「大体アナタは開発段階で特殊装甲服の名前を『スーパーX』なんてダサい名前で登録するから一生リザードは笑いものよ!!」

「ヘェンだ、ダサくありませ~ん!むしろ~アンタ考案の部隊名『リザード』の方がダサいですぅ~!」

「はぁ~!?司令と協議して考えた名前よ!あんた司令ディスる気ぃ!?―それより、いい加減に駐屯地全システムのパスワードをいい加減に変えなさいよ!!」

「別に変える必要はありませ~ん!み~んな知っていますぅ~!!――みんなぁ~、駐屯地のパスワード名はぁ~??」

――部隊長のフラれた相手ぇええ~~――

「フラれてないわぁああ!!こっちから損切りしたのよ!!」

「はぁ~ん?その割には立ち直るのに何年かかったんでしたっけぇ~?――しかもぉ~フラれた理由ぅ~はぁ~…好きな人がいるぅ~だってぇ~!!」

 攻防一対のアルコール入り悪口合戦が続くなか、原田は自分に注目が向いていないうちにトイレへと入って行った。

 

 トイレ内には他所の客が先に用を足していた。

「………」

「…どうだ、新たな怪獣能力者は?」

「ネットワークには誘った…そこに加わるかまでは完璧にはまだって所だね、私を信じてはくれたがあった事の無い怪獣戦士(タイタヌス)はとなると…」

「そもそも怪獣戦士(タイタヌス)になれるのかどうかも怪しいところか…わかった、様子見と言う所でここはお前に任せるぞ、バラン」

 用を対していたのは同じく怪獣戦士(タイタヌス)にして公安外事5課に所属する千鳥ヒエンであった。

「公安(そっち)の方はどうだい…」

「公安(こちら)も似たようなものだ…一部はともかく、特にアヴァロン・ユニットなる新設部隊からの動きが怪しい所だ」

 ヒエンと原田のネットワークはシュンイチの繋がりよりも深く話し合われていた。

「しばらく公安を波戸場にはなれど住処にはならん…いつ崩れてもおかしくない上に警察は敵が多すぎる」

「そうだね、あそこはたった1人に牛耳られているようなものさ…正に侵略者の占領地、自分たちが侵略された事にも気づいていないだろうさ」

「そういう自衛隊(おたく)はどうなんだ?」

「…まだ、これから……まずは、『リザード』を見極めるよ」

「フンッ、碌に信用もしていないのに…見極めるか…」

 先に用事を済ませたヒエンが先に手を洗い、トイレを後にした。そのあとで出違いでトイレを後にした原田が席に戻って行った。

 

「私の何がいけなかったのよぉおおおお!!なんで…なんで…なんでよりによってチビすけの方を選んで渡米していくのよぉおお!!」

 酒が入り過ぎた如月は男にフラれ、同僚の女性が結婚し、二人仲良く海外暮らしとなった3倍増しの失恋を思い出していた。

「ケェッ!そうやって酒の時だけ泣き上戸になるからウザがられるのよ、この泣きハラ女が…その点、私はもうゴールイン手前ですぅ~、ゴールに片足突っ込んでますぅ~!ねぇ~、シュンイチさぁ~ん♡」

「えっ?僕ですか…ウグッ!?」

 唐突に隣から巻き込まれたシュンイチはサラに腕を組まされ、煮え切らないと見えないところで強い衝撃が走る。

「なんなら~ぁ、子供と言うおまけまでついてますぅ~!!」

「ガルルルルッ!!」

 更に追い打ちとメイカも巻き込んで彼女を抱きかかえるとメイカは不機嫌なブルドッグのような表情を浮かべた。

「い~んまごろチビすけもアンメ~リカで子供ポコポコ生んで学校なんか塾かなんかに行かせてる頃よぉお~!!」

「うぅ~るさいッ!!アンタだってまだ籍入れていなきゃノーカンよ、ノーカンッ!!ランクは私と同じよ!!独身と言うスタートラインからは出ていません!!」

「残念ですぅ~!!もう親と一緒に実家同棲ですぅ~!!シュンイチさんはぁ~実家同居人ですぅ~!!」

「こぉの~腐れゲドォオオゥゥウウ!!」

 サラと如月の言い争いはしばらく続きそうであった。

「ささっ、由井先生 ジャンジャン飲んでください…も~う先生は八王子駐屯地の白衣の天使様!神がこの世に遣わしてくれた“アルビノの女神”!」

「まぁ…」

「そんでもってわたくしと北海道の白いゲレンデを共にすることのできる白いこいび…ててててててててッ!?耳が取れる、耳が取れる!?」

「アンタは由井先生を絡むな!口説くな!!」

「ごめんよ、キリコちゃぁ~ん!由井先生のアルビノの奇跡は希少価値なのよ…でも、だからと言って八王子の縁の下の力持ちをないがしろになんかしないからぁ~」

「それのどこを褒めているつもりよ…バカッ!」

「あぁ~キリコちゃんぁあ~ん!!」

 左右の女性陣を口説こうとする工藤。

「………………」

 黙々と酒を飲む神子。

「じゃぁ~んじゃんもってこんかぁ~い!!!!ワシに酒をもってこぉ~い、弥助ぇぇええ!!!!」

 よいが回り過ぎて支離滅裂なことを爆音で叫ぶ織田。

「あの~、原田さんでしょうか?」

「えっ、あぁ宮本イオリさんの……お姉さん?」

 原田に挨拶してきた女性店員は宮本の母…と知っていたにも関わらず姉と見間違えるほどに若かった。

「ヤダわ、もぉ~…お世辞が達者なんですね そうです、“姉”のムサエです」

「ちょっ、母さん!!便乗しなくていいから!!」

「何よぉ、別にお客さんに伝票をお渡ししに来ただけよ」

「いいから、あっち行ってて!!」

 見た目若い母親と童顔の息子…強い遺伝性を感じさせる親子であった。

 原田は宮本の母から預かった伝票を開いた。

「…………………」

 即座、何処かに連絡を入れた。

「あっ、印南司令…今日の飲み会って経費で落ちますでしょうか……いえあの~司令と私で割り勘ってのはぁ~…あっ、ダメ――」

 店内のどんちゃん騒ぎは店内設置のテレビから流れるニュースの音すらもかき消すのであった。

『――――続いてのニュースです 怪獣娘によるメディア発信事業で知られるGIRLSの東京支部に警視庁及び検察庁による立ち入り開始され、近年問題視されていた怪獣娘による事件事故を隠匿した容疑により――――』




アンバランス小話
『新婚生活』

 アンギラスの怪獣戦士(タイタヌス)にしてスポーツ庁参事官である庵堂アラシは今年結婚したばかりの新婚であった。
「………………ッ」
 新婚には時に付き合う時以上にお互い見えぬ気づけぬことが浮き彫りになってくることもある。
「……………………」―コトッ…
 そして、アラシの結婚相手…ロシア人のアナスタシアにもそれはある。
 彼女が得意料理とするのはロシアの伝統料理『ボルシチ』である。ボルシチのことに為るとロシア人は各家庭で拘りある野菜の切り方だったり、決まった煮込み時間、時には隠し味に至るまで違ってくる。
「あっ…あの…アーニ……これは……なんですの?」
「……ボルシチよ……」
※都合によりロシア語を日本語に変換しております。
「いや…ボルシチって……向こうで食べたボルシチに比べて、なんかこう……黄色くない?」
「……別に……」
 妻のアナスタシアが怒る時、食卓には伝統的なボルシチに刺激的な和が加わる。
 この黄色いボルシチに含まれている黄色は“粉末和からし”であり、コレを一缶分まるまる入れられるのである。
「…アーニ…まだ怒っているのか?」
「……別に…アナタが誰と食事しに行こうが私には関係ないわ」
 ものすごく怒っている。まだ根に持っている。こうなったら収まるまで時間もかかるし毎日この黄色いボルシチが出てくることになるのである。そうなったら取るべき行動はただ一つ…
「…アーニ…聞いてくれ、別に俺は合コンに参加したとかじゃなくてだな…」
 弁解、あるのみ……しかし――ドォンッ!!
「――ッ!?…あっ、アーニさん!?」
 時として余計に火に油を注いで握るスプーンをテーブルに握ったまま叩きつけられる。
「同志ジュビア あなたに私の呼び方をロシア寄りではなく西側寄りにしたことも許している…仕事や交友による付き合いだから仕方ないと割り切っている……男なら黙って食べなさい!!」
「―……はいッ……」
 これは決してアラシに酷い仕打ちをしているワケではない…何ならアナスタシアも一緒に食べている。
 ちなみに、この時のアナスタシアは普段は絶対に使わないでいる英語を用いて『ガッデム ホット』とボソッという時がある。
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