TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―アキの部屋―
「―…これがアギちゃんの部屋かぁ~…なんか、殺風景だよね」
「さっ、殺風景ッ!?」
バーでの一件から次の日、アキが住むマンションに初めて友達を招いたが…彼女たちがアキの部屋に興味を示すような物は何一つないためリアクションはやや薄めであった。
「ウチとミクちゃんは前にアギちゃんちを見に来る予定やったのに…なーなーやったもんね」
「それはゴモたんがお兄ちゃんのお店の方に興味を示しすぎたからで…」
「それでも、今日このメンバーを御集めになったのは…お兄さまの件ですよね、アギさん」
アキの部屋に集まったメンバーはレイカ、ミク、ミカヅキの3人、それに加えてアキもある理由で4人は計画を立てていた。
「うんッ…今日はみんなにお願いしたい事があって呼んだんだけど…」
「アギちゃん!…皆まで言うな、もう知ってるよ」
「そうですね…大体の想像は察しがつきます」
「でも、ほんまにやるんやね」
アキを始め、3人は思いつめた空気がこれから行うことにいささかの抵抗感が自分たちにはまだあった。
「――でも、これだけは確かめなきゃダメな気がする…でないと…―」
アキは顔に影が掛るほどに思いつめた表情を浮かべる中…―ガチャッ…
「みんな~、ミオお姉さんが御菓子とジュースを持ってきてあげたよぉ~」
気さくにトレーへ御菓子とジュースを持ち寄って来たミオだが…その恰好はいつもの私服ではなく、ヴィンテージコートにハンティングキャップと古式な探偵風の格好をしていた。
「…みっ、ミオさん…今日はやけに…探偵みたいですね」
「えぇ~、そう?…私自身“名”探偵…を気取るつもりは無いんだけどさぁ~、んでもぉ~そろそろ探偵職が板について来たって言うかぁ~」
天城ミオは限界を迎えていた。あのバーでのミオ本人曰く『不純異性交遊隠蔽事件』はまだ終わっていないとのことだった。
「ミオさん……そろそろ限界です」
「えぇ~?何がぁあ~?」
アキはみんなで囲うテーブルにバンッ!と手を置いて、おもむろに立ち上がった。そして、自部屋を飛び出して…ミオが間借りする部屋の扉を開けた。
「みぃ~たぁ~なぁ~あああ~」
開けた扉の背後から生温かな息がアキに降りかかる。この生温かな気配もさることながら、目の前に広がる怨念染みた光景は常軌を逸していた。
「ミオさん…もういい加減にしてください これ以上、ボクたちの家をミオさんの探偵事務所に変えないでください!!」
アキが開けたミオの部屋の中は様々な場所、人物、推理メモ、それらを点と点で結び付けた赤テープの蜘蛛の巣状態と化していた。
「やだなぁ~、これはウェピング法って言って関連するポイントとポイントを繋ぎ合わせる手法だよ」
「その方法を使ってお兄ちゃんの彼女さんを探り出そうとしないでッ!!」
そう、ミオが行っている今現在の調査とは…『ユウゴくんの彼女』を最終目的としたこれまでの調査力をフル活用してユウゴの彼女を探し出そうとしていた。
「――ブルーコメット探偵日誌 今日も今日とてホシの居所はつかめない…それもその筈、これまであの男の近辺と言う近辺があまりにも無さ過ぎる…平日週末問わず個人経営のバーに居る事以外何も動きを見せない それ故に女の影がまったくと言って見え隠れしてこなかったのも納得が行く、この私『ミーロック・オームズ』をしてもソレ見抜くことはできなかった…ホシは実に狡猾な女、正に狐、いや、ネコ、そう…この女は正にドロボー猫なのである――」
もはや私怨が彼女の探偵力を形だけの名探偵風に置き換わって全身と周囲に影響を及ぼしていた。職能の無駄遣いとはこの事である。
「うひゃぁ~…すんごいね、この下調べの量」
「探偵さんとはお聞きしていましたけど…本領が全発揮されているって感じがします」
「こんだけ調べがついてはるんなら…ユウちゃんの彼女が見つかるんのも時間の問題やないの?」
ミクたちは視点から見ても凄まじい調査力に脱帽はするが、目的が目的なだけあって異様な執念を感じさせられる。
「こんなんじゃホシはいつまでも現れないわ…もう、ここからは趣向を変えて私は打って出ることにした」
名探偵風のミオは愛用のマグカップに温めたコーヒー牛乳を口にして喉を通らせた……そして、おもむろに一枚の写真を手にとった。
「今から私たちはこの男の後をつけてホシの居所を突き止めるわよ!」
そう言って手にとったいつ隠し撮りしたのかユウゴの写真を『ユウゴくんの彼女』の隣にバンッと張り付けた。
「えっ、ボクたちもッ!?」
「他に誰が居るって言うの、GIRLS探偵団諸君ッ!」
勝手に探偵仲間に仕立て上げられたアキは呆れてため息が深く吐き出た。
「ボクは嫌だからね、そんな回りくどい方法でお兄ちゃんの彼女さんと会いたくないよ!…みんなもそうでしょ」
アキは断固としてこのような手段でユウゴの彼女を突き止めるのに皆も反対していると思ったが…
「…えっ…あっ…いや、その~…面白そうだからつい」
ミクたちはちゃっかりトレンチコートを羽織っていた。
「フフフッ、ヤツの行動は既に把握済み…行くわよ、ビトソン君ッ、GIRLS探偵団諸君ッ!」
【オーケー、ミス・ミーロック・オームズ!】
「「「おおぉぉ~!!」」」
ミオと共に英国紳士風のビーコンとトレンチコートを羽織ったミクたちが彼女へと付き従う。
「ううっ、なんだか不安だよ」
自分だって兄の相手がどんな人なのかは知りたいもののこのような方法で探し出すのはいささか抵抗があった。
・
・
―BAR1954前―
人目を避けつつマンションの裏路地へと進む先にあの男が店の中に居る。
「中の様子、どうやって見るん?」
「フフフッ、それはネェ…コレを使うのよ」
取り出したのはミオのスマートフォンであった。
「みんなをユウゴ君の店に招いたのはコイツを隠す為よ」
GIRLS東京支部が現在捜査関係者によって立ち入り禁止になった時、ミオの計らいでGIRLSの怪獣娘たちを呼びつけたのはある小道具を仕掛けるためであった。
「あっ、ユウゴさんが映りました!?」
「ベムラー姉ちゃん…これって防犯カメラ?」
「ちょっと違うなぁ~…これはミオさんの探偵七つ道具の内の1つ『ペットカメラ』よ」
ペットを見守るために動体検知機能を備えた据え置き型の自動カメラである。若干、ユウゴを動物扱いしている気もするが最新式のクリアな映像が取れる代物であった。
「んっ?…待って、店内に誰かいるよ!?」
バーカウンター裏でグラスを拭き取るユウゴの目の前で人影が動く、向かい合ってバーカウンター席に誰かが居た。
「もしかしたら彼女さんでは!?」
「ミオさん、もう少し右にッ!!」
「ほいほいッ!」
スマートフォンの画面操作でカメラ位置が右にズレていく…そこに映った人物は…
「ぜっ、ゼットンさんッ!?」
珍しくBAR1954に居る来客は怪獣娘なら知る人ぞ知る、一般人でも知れ渡っている、最強の怪獣娘“ゼットン”その人であった。
「おっ、お兄ちゃん、ゼットンさんに変なことしてないよねぇ!?」
「声を拾って聞いてみよう…これ、音も拾えるヤツだし」
ミオはカメラアプリの機能欄から音声項目をONにした。
『――…そうか、いつもいつも悪いな…付き合ってもらって』
『…いいえ…私が…好きで…来てるだけ…』
衝撃の上乗せであった。ユウゴの口から『付き合う』を出す異性の相手…それがよりにもよってあのゼットンであった。
「そっ、そんな…お兄ちゃんの…嘘だよね!?」
「あれ?アギちゃん、うれしくないの?」
「うれしいとかそんな感情とかじゃないよ!複雑だよ!!」
「でも、それでゼッちゃんがユウちゃんと付き合いが続いたらアギちゃんにとってゼッちゃんは…―」
「うわぁあああッ!!聞きたくない!!聞きたくない!!」
憧れの人が一瞬で兄の交際相手に変わったアキの中のゼットンが理想の人から近しい間柄になる…憧れの人だからこそユウゴ(あんなの)には関わってほしくなかった。
「待って下さい!まだ何か話してますよ!?」
再度、皆がミオのスマートフォンの画面と音声に注視した。
『アンタの事はいつもアキから口うるさく聞いてるよ…理想の怪獣娘だとか、あんな風になりたいとか、ちょっと心配になるくらいにな…』
『アギラは…優しい子……人の気持ちを理解することが得意で、傍に寄り添ってくれる』
『あいにく酒類は提供しないバーだが…あんたならいつでも来てくれたら歓迎する アキの数少ない理解者さんだ、これからもアキの事をよろしくお願いします』
会話の様子は恋人同士と言うよりも客と店員でしかもアキの話題を中心に談笑しているだけであった。
「なぁ~んや、ゼッちゃんはユウちゃんのお店を気に入って来てるだけみたいやなぁ」
「良かったね、アギちゃん……アギちゃんッ!?」
肝心のアキはその場で蹲って顔を覆い隠していた。
「どっ、どうしたの、アギちゃん…」
「…――――――…」
「えっ?…お兄ちゃんがゼットンさんに挨拶している?…すごく恥ずかしい?」
「なるほど、憧れる先輩の前に親御さんが勝手に挨拶しているみたいですからこういうのはアギさんにとって恥ずかしいんですね」
ユウゴがゼットンに挨拶をしている。それはアキにとって恥ずかしいだけでなく、普段アキがゼットンに抱く感情や言い回しまで本人にすら伝えていないことを勝手に伝えている場面に直面した。自分から言う事よりも何十倍も恥ずかしかった。
「あっ、コーヒー飲み終わったみたいですよ…」
「そして、何処かへ瞬間移動…相変わらず謎めいてるね」
「―…んっ?」
店内の様子を伺う横でミカヅキはミオが何らかのメモに記入しているところを見た。
「―…やはりコイツも違う…あとは一体誰だ……―ブツブツー」
その手帳には『ユウゴくんの彼女候補者』と書かれた様々な怪獣娘たちのアイコンマークにバツ印を記載しながら塗りつぶしている。さながら抹殺対象の暗殺手帳であった。
「………(それでもウチにとってはベムラー姉ちゃんはベムラー姉ちゃんやで)」
ミカヅキは温かい目でミオを見守るのであった。
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台東区 秋葉原
バーから次に動きを見せたのは意外にもオタクの聖地として知られる秋葉原であった。
「意外ですね…ユウゴさんはこういう所には縁が無いと思っていました」
「そうだよね…今もすごい目立ってるし、見失ようもないよね」
レイカとミクの言う通り、一行が電柱に隠れながら様子を見る先に通行人が横眼で怪しむほどに場違いな長身男性が目と鼻の先に居た。
「誰かを待っているのかなぁ?」
「あっ、誰か来たで!」
ユウゴに向かって近づく人物は一見オフィス街で働く女性のようないで立ちをしていた。
「―…って、エレキングさんッ!?」
それは私服姿のエレキングこと湖上ランであった。GIRLSでの制服姿しか印象の無い彼女がここぞとばかりに怪獣娘たちの中でも社会人的な姿勢の強い服装が一見誰なのか見分けがつかなかった。
「ウインちゃん、よくわかったね」
「アタシたち全然気づかなかった…」
「エレちゃん…あれでもウチらと同世代ってのが驚きだよねぇ~」
大人顔負けのクールビューティーを絵に描いたようなランが何故ユウゴに接触しに来たのか…人混みがあり過ぎてアキたちの隠れる電柱からでは離れで聞き取りづらかった。
「ふふ~んッこんなこともあろ~かと…ユウゴ君の革ジャンの襟に集音マイクを設置しときましたぁ~☆」
「ミオさん、なんでもありになってきたね」
「もはや犯罪味が増している気が…」
またしてもここでミオの探偵スキル(グレーゾーン)が遺憾なく発揮された。
『すみません、わざわざ…ご足労いただいてありがとうございます』
『いやなに…構わん』
会話はやけにランの方が礼儀正しい態度で普段の同世代たちには見ない目上相手の彼女の声と姿は珍しい限りで新鮮な光景であった。
「ぐぅ~…以前、アタシここでエレキングさんに怒られたことを思い出しちゃうよ…」
ミクは以前ここの駅前で『大怪獣ファイト』のチラシをばら撒きかけた故にエレキングから感謝の仕方まで指摘されたことを思い出した。
「あの時はミクさん、チラシをばら撒きかけたのをエレキングさんに怒られちゃいましたもんね…」
「言葉遣いも直されてた…」
「うっ、うるさいやい!」
「あっ、何かを渡した!?」
ユウゴ側からランに何やら封筒のようなものを渡していた。
「なんだろう、あの封筒?」
「――ッ!?」
ランが手にする封筒の裏側には見慣れないサイン…しかし、レイカにはソレが誰のサインなのか即座に分かった。
「アレは…アイザワトト先生のサインッ!?…―と言う事はまさかッ!?」
「アイザワトトって確かユウゴ君の友達の…」
「漫画家さん」
レイカの目は数メートル先に居るアニメショップに居たランを見つけ出すほどにこと趣味を同じくする者や趣味に熱意を宿せる物には近眼のハンデをものともしない驚異的な視力で見抜けた。
「ウインちゃんには…何が見えるの?」
「待って下さい…あの、封筒の中身…ぎぃやぁああああああッ!!」
「ウインちゃんッ!?」
「はっ…ハチコイ…でずッ…」
「えぇ?ハチコイ…どっかで聞いたような…」
レイカが悶絶しながら『ハチコイ』と言う言葉にどこかで聞き覚えのある言葉にアキは引っかかった。
「“80回聞く恋の音”です!! 連載10年を迎えて今月の原画展で有名漫画家さんたちがハチコイの登場人物たちを独自の画風で展示を始めたんですが、その中でもアイザワトト先生の通称:アザト絵の人気が高すぎて緊急刊行された挿絵作画をアイザワ先生が手掛けたハチコイ新作外伝ノベルス第1巻が…あの封筒から…ッ」
あまりにも興奮しすぎてレイカは呼吸を忘れるほどの早口で喋り過ぎた為、膝を付いて昇天寸前であった。
「ウインちゃんッ!!」
「しっかりして…ウインちゃんッ!!」
気を失いかけているレイカをミクは前後に振り回してレイカの意識を戻そうとしていた。
『俺が聞くのもなんだが…アイツから頼まれて持ってきたが、誰かに渡すのか?』
『私には肌色の合わない少女マンガですが…このノベルスの絵を好む知人にプレゼントしたくて…』
音声にはまだ続きの会話が聞こえた。よく見れば同じ巻数の書籍が2冊入っているようだ。
『以前、その子に『おまピト』のキーホルダーパックを推しキャラのサインを交換しあった借りを返したいだけです』
『……野暮な詮索だったな、ならその知人を知人のまま認識してやるな…そういうのはもう“友人”って言うんだよ』
『……リア充の余裕ですか?あなた彼女さんがいらっしゃるらしいですね』
『誰がリア充だ…人付き合いでのアドバイスだよ』
意外にもあのユウゴから人との接し方をランにレクチャーしている様子に驚きを隠せない。
「ムキィイイッ!こんな時にまであの子はリア充マウントをぉおお!!」
だが、一部例外を除いて同じようなことを言っていたら嫉妬心に狂いそうな勢いの者もいる。
「―…とりあえず、あの子も違うわね」
またしても『ユウゴ君の彼女候補者』のリストにエレキングマークへバツ印が付いた。
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渋谷区 原宿
次に訪れたのは原宿のメインストリートを歩いている。その後ろを尾行する形でユウゴの後をミオたちが追う。
「今度はどこに行くんやろう…」
「秋葉原から原宿…ですかぁ~」
「アギちゃんに比べて赴く場所が意外と今時って感じだよねぇ~」
「それ、ボクの私生活が年寄り臭いって言ってる?」
なんだか若干ディスられた気分のアキを余所にユウゴが突然ピタリと足を止めた。
「どこで止まったんや?」
「あそこって…結構、有名なケーキ屋さんだよね?」
ユウゴが次に訪れたのは原宿内でもかなりの人気を博すケーキ屋であった。
「何を買うんだろう…ミオさん、音ッ」
「あいよッ!」
またもユウゴの革ジャンの襟にまだ付いている集音マイクの出番が訪れた。あの店舗に一体どのような用事があるのか、気になって耳を澄ませた。
『すみません…予約している宮下です』
『はい、少々お待ちください』
音声は予約品を取りに来たユウゴと店員のやり取りだけが聞こえてきたが…
『……んっ?アレ、アンタは…』
『えっ?…うおッ!?あっ、アギラのお兄さん!?』
店内から聞き覚えのある声が拾えた。外から店内の様子を確認して声と姿で合致した。レッドキングこと歌川ベニオであった。
『こっ、こんなところで会うとは…きっ、奇遇ですねッ…かっ、彼女さんへのプレゼントですか?』
『いや、予約していたケーキ取りにきただけだが…アンタは?』
『おっ、俺っすか!?…いや、その…今度、面倒見ている後輩の…と言うか、弟子への…って言うか…』
どうやらベニオがケーキ屋にいる目的は面倒を見ていた怪獣娘ザンドリアスこと道理サチコにケーキを選んでいるようであった。
『そうか…』
『うっ、ううっ…あっ、あのッ!つかぬ事を伺うんっすけど…誰かに贈る用のケーキってどういうのがいいんすか?』
ベニオはユウゴより先に来店していたにも関わらず未だケーキ選びに難航している様子であった。
『あぁ?……んん~…ホールケーキやロールケーキは時期的にクリスマス内で食べられるのが主流だからなるべくケーキに拘らずタルトとかにしたらどうだ?』
『たっ、タルトっすか?…そうか、その発想は無かったっす…どうも、ありがとうございますッ!』
またしても意外な助言が飛び出て驚かされた。ランといい、ベニオといい、妙にアキの知り合う怪獣娘たちに的確なアドバイスをしているところを目撃する。
「にししぃ~…レッドちゃんがケーキ屋ねぇ~、今度会った時にいじったろ~」
とんでもない小悪魔にベニオの秘密を握らせてしまった気もするが…しばらくするとほぼ同時にケーキ屋から出て来たユウゴとベニオの両者がその場で別れることなく何故か一緒に原宿のメインストーリーを歩き出した。
「アレッ?なんでレッドキング先輩とユウゴさん、まだ一緒にいるんだろう?」
「もう一度、聞いてみよう!」
アキたちは再度集音マイクから拾われる音声を聞いた。
『――…ここ、以前オレがアギラたちと最初に出会った場所なんすよ』
『そうか…その節はウチのアキがお世話になりましたと言わなければならないな』
『いっ、いや~別にそんな畏まって礼を言われるようなことしてないっすよ』
2人の話題はアキを始めとしたミクとレイカがレッドキングとして怪獣娘3人のGIRLSでの先輩の側面で彼女たちと関わった話が聞こえた。
『…いいや、今日まであんたらGIRLSと言う組織に関わるアイツの知らない側面を聞いて来たので…ようやく止まっていた時が動き出したんだなと今日までに思い知らさせてしまった』
『……お兄さんはなんでアギラと一緒に日本で過ごされなかったんですか?』
ベニオは素朴な疑問をユウゴにぶつけた。その問いがあたかも本人たちに拾われているとも知らずに会話が続く。
『…俺がアイツと一緒に過ごせなかったのは…俺が…大人じゃなかったからだ』
『えっ!?いやいや、十分大人じゃないっすかッ!?』
『外見、精神の話じゃない…法的な理由で“大人”じゃなかったと言う話だ』
ユウゴから語られたのはアキの前から自身が姿を海外に眩ませた本当の理由であった。
『アイツからは俺のことを一ミリも話題にすら出たためしがないのは今までアンタらGIRLSの先達を通して伺っている…ソレも無理がなかった 俺はアイツにとって“居なくなってほしい存在”だったんだ』
アキ以外のミオたちに衝撃が走った。この先を聞くのが恐ろしくもあるが集音マイクは更にその声を集め出す。
『なっ、なんでそんな悲観的な…』
『そもそも俺が海外に出る前の1年間はまだ日本にいたんだが…その頃の俺は、何と言うか、親不孝者ってヤツだった…グレていたと言えば簡単だが、その時期におふくろとあることで喧嘩を繰り返していた』
『お兄さんのお母さん…アギラのお母さんとは何を揉めてらしたんですか?』
『……“親父”のことだ』
ユウゴの口から語られたのは父親の件であった。
『ウチは親父が物心ついた時から居たのか居なかったのか分からないほどにあの男の存在が曖昧なんだ…中学を上がった時期にはもう完全に母子家庭…おふくろは病院勤務の産婦人科医でな、知ってるか分からんが産婦人科のみならず当時も現在も医療現場は人手不足でおふくろはほぼ毎日病院常駐医、そうなったら誰がアキの面倒を見るかと言えば…自動的に俺になるわけだ』
『そう…だったんですね』
知られざるアキとユウゴの家庭環境を見聞きしてベニオもレイカもミクもミカヅキも…ミオは特に黙って聞いていた。
『家のことを後回しになりがちなおふくろに変わっちまったら多感な時期の俺からしたら…なんでウチは男手が俺一人なんだって、おふくろと大喧嘩するのは必然だった とうとうおふくろにそれをぶつけたら…おふくろはいきなり顔面跳び膝蹴りをかまして来た』
『「「「顔面跳び膝蹴りッ!?」」」』
唐突に出現した反抗期のユウゴに対して母親のアグレッシブすぎる解決法に音声の向こう側のベニオも音声を聞いているミク、レイカ、ミカヅキは驚愕、ミオは顔を抱えて『うわぁ~、そうだった』と呟く。
『そうこうしていたら…気が付けば俺は家を飛び出して、あのごくつぶし探偵の事務所に居座る羽目になった まぁ、殆ど俺の面倒を見てもらったと言うよりあのごくつぶし探偵の面倒を俺が見ていたもんだから結局やっている事は変わらなかった』
続けざまにミオをディスるような話になって『誰がごくつぶし探偵だ!』とミオは憤慨した。
『そして、とうとうおふくろが倒れた先は言うまでもなく…あの1年はアイツにとって虚無の時期なんだろうな、本人も思い出せないほどに家に一人でいる孤独な時間が多かったと思う…思い出あれと言う方が無理な話だ』
『そっ…そうなんっすね』
『そして俺は法的にはアイツの保護者にはなれないから名乗り出たのは今年に亡くなった俺とアイツのじいさんってワケだ…驚くことにこのじいさん、戸籍が無いヤローでな』
さらに驚かされたアキの祖父の素性まで驚愕的な内容であった。
『あとで知ったんだが…日本には年間数百人もいるらしい どういう理由であのじいさんが無戸籍な上でアイツの法的な保護者に為れたからくりは未だに分からんが特殊な手法なのは間違いない…その上で俺もじいさんの庇護下に入ることになる…アレはおふくろ以上に反発的になった反動なのか 結果、俺は海外に高飛ぶことになった』
『……じゃあ、今はどうしてアギラの傍に?』
『……罪滅ぼしなんて聞こえのいい事じゃない…死なれても困るし、おふくろに、じいさん…先立たれたヤツの手続きが面倒なだけかもしれない、死亡届を出したり、いろいろしなければならないし…酷い発想と思われるかもしれないが俺もアンタも誰にでもこの先に大切なものが生まれる時には得る時もやることがあるし、失う時にはもっとやることが増える…人生はその対策ばかりだ』
改めてユウゴと言う一人の男の姿を見た。この男は“大人になり過ぎた者”なのだ、アキのように法的に未成年の子供をダグナと言う後見人ありきであれ彼女を守るには今以上にユウゴが大人にならなければならないのだろう。
その束の間に彼女を作ったり、仕事をしたり、生活が出来ているのがユウゴの大人としての器用さに脱帽させられた。ベニオを始め、他の3人、ましてやまともに生活力の無いミオであっても無理な話である。
『辛気臭い話になったが…俺の身の上話に付き合わせて悪かったな』
『いっ、いえ…自分から聞いただけですので…』
原宿の大通りに出て別れようとしたユウゴとベニオだったが…
『あれ?レッドキング先輩ッ!?』
そこに現れたのはノイズラーこと鳴無ミサオとザンドリアスこと道理サチコにホーこと葦原ルイであった。
『ししょー、なんでアギラさんのお兄さんと一緒に居るんっすかぁ~?…あっ!もしかして、アギラさんのお兄さんの彼女さんってま・さ・かぁ~ッ』
『なんでそうなるんだよ!たまたまケーキ屋で一緒になっただけだよ…さっきの話からの温度差でこっちの気持ちが狂いそうだぜ』
『ふえっ?何の話っすか?』
『なんでもねぇよ!…こっちは“大人”の話をしてたんだよ』
『ええ~なんすか、なんすか、その大人の話って!?』
ミサオたち中学生の怪獣娘たちはベニオとユウゴが話す“大人の会話”とやらに興味津々であった。
『フフッ…お前ら怪獣娘に俺は感謝しているって話をしてたんだ…知ってるか?今年の初めに少年法の改正で俺のような18もしくは19歳を“特異少年”に適用され大人と同等の扱いを受けれるようになった…18の俺にも選挙権があるし、アキの保護者としても扱える…それもこれも、お前ら怪獣娘が現れてくれたことで叶ったことだ お前らのおかげで俺はアキと一緒に居られる…ありがとうってな』
そう言ってユウゴはサチコ、ミサオ、ルイの順に頭を撫でて感謝を伝えた。
『えへへっ、なんか知らないけど…どういたしまして!』
『ちょっと照れくさいっすけど…そっか、アギラさんがお兄さんと再会できたのも怪獣娘が生まれたからなんっすね』
『はわわっ…この感じ、初めての感覚ですぅ~…』
3人は頬を赤らめてちょっとうれしい気持ちになったが、ベニオは『そんな話だったっけ?』と頬を人差し指で擦った。
『えへへっ…ていうか、“特異少年”ってなんすか?』
ミサオとベニオはズッコケて身体が傾く。サチコの無知さに額の上に手が乗った。
『お前、ニュースとか見てないのかよ…今年に少年法っていう法律が代わってアギラさんのお兄さんのような18歳も大人として扱われるって話だよ』
『法的に大人として扱われるから刑事事件も厳罰化したり、選挙権も18歳から持てる、法的に成人でないとできない手続きだって保護者同意同伴なしでも出来るってことだよ』
『ししょー、詳しいっすね!あたしニュースとかわかんないから見てないです』
『フフッ…だけどタバコや酒類は変わらず20歳までだからな…まだ一般成人認知としては20歳からと考えても決して悪くはない』
『『『はぁ~いッ!』』』『うっ、うっす!』
ユウゴは“特異少年”側として怪獣娘たちに注意喚起を促した。
『―…ところで、お前らこそここで何してんだ?』
『あぁ、実はホーがどうしても今日に原宿へ来たいって言うからその付き添いっす』
『きょ…今日ここで、『ROSE』のピアノ演奏が流れるんです!』
『ROSEゥッ?』
『知らないんっすか?今、ネットで音楽界に突如現れた匿名ピアノ奏者っす!…一度、その曲を聞いたら誰しもが聞きほれちゃうような超絶すごいピアニストなんっすよ!』
ミサオたちの目的はメインストーリーから流れるスピーカーBGMより演奏されるピアノ音楽を聴きにやって来たようだ。
『ROSEって、匿名でしかもフリーで広告収益も受け取らずにシュワシュワ動画にピアノ演奏を投稿するから無料なのに最高のピアノが聞けるって凄くないっすか!?』
『トレンドも大怪獣ファイトの次に見られている覇権コンテンツ化が進んでるっす!』
『マジかよ……ホントだ、既にオレとゴモラの対戦動画を超えてる動画もある』
ベニオもソウルライザーでシュワシュワ動画を確認すると確かにROSEと言うアカウントの急上昇ぶりは大怪獣ファイトを抜かしそうな勢いであった。
『メカギラスさんも誘ったんですけど……私、嫌われちゃったのかなぁ…』
『気にすんなよホー、メカギラスはドラムの修理受け取りで来れなかっただけだよ…嫌われたわけじゃねぇし、本人だって行きたがってたんだぞ』
『おもしれぇ~…オレたちの大怪獣ファイトを超える音楽の魅力ってヤツがどんなのか聞いてみる価値がありそうだな』
3人が夢中になるほどのROSEの魅力にベニオも少し興味が沸いた。
『あっ、そろそろ時間っす!』
予定の時刻を回って…スピーカーの音は一瞬にして静寂に変わった。そして次の瞬間…――♪~♪♪~♪~―…
『これは…『英雄ポロネーズ』だな』
『確か…ショパンの名曲っすね、お兄さん音楽もいける方っすか?』
『知り合いがよく弾いているのを覚えただけだ』
『それにしても…確かにこれは一味違うなぁ~』
『わっ、私も…いつかROSEさんみたいなピアノが弾けるようになってみたい…です…』
耳を澄ませば澄ますほどにROSEのピアノ演奏に聞きほれてしまう一同だが…
『――ッ!?お兄さん危ないッ…ワブッ!?』
ベニオはユウゴの頭上にあるスピーカーが突如光線を受けて爆発する前に庇おうとしたが逆にユウゴに庇い守られて飛んできた何者かの攻撃をユウゴは避け切った。
その不快な鳴き声…背筋をざらつかせる気配…久しぶりのシャドウ出現にベニオたちは警戒した。
「やっばぁッ!?アギちゃん、みんなッ!!お兄さんたちが危ないッ!!」
「よっしゃぁ~ひっさびさに暴れるでぇえ~!!」
「アギさん、行きましょう!……アギさん?」
「………………」
皆がソウルライザーを片手に変身して怪獣娘としてシャドウを相手にしていく中で…アキは沈黙していた。
「んんっ~!!んんっ~!!」
「んっ?…あぁ、すまん…庇おうとしてくれたのに悪いな」
「いっ、ひえぇっ…ろぉおってころないれすッ」
「タルトは預かっておく…存分にやってこい」
「あっ、ありらほうごらいますッ…いっ、いくぞぉ~お前らぁ~!!」
ベニオは顔を赤面させて呂律の回らない中、購入したタルトをユウゴに託してソウルライザーを取り出してレッドキングとしてシャドウたちに応戦しに向かった。
「あたしらも行くよ!」「おおぉッ!」「はっ、はい!」
ミサオとサチコにルイも怪獣娘に変身して向かって行った。
「……んじゃぁ、俺は…」
そう言いつつもさすがに怪獣娘たちにしては相手の数が多そうに見えたユウゴはソッと怪獣娘たちの見えないところへと向かおうとしたが…
―ギュッ…
「んっ?…なんだ、アキ…」
「待って…お兄ちゃん…」
「にゃははは~…ゴメンねッ、尾行してました☆」
ユウゴを引き止めて尾行していたことを明かした。
「なんだオマエ、その恰好…コスプレか?」
「フフフッ~名探偵ミーロック・オームズさまとお呼びッ!」
【アイム、ビトソン】
自分を尾行していたことに開き直って名探偵風の格好でミオとビーコンは決めポーズを取った。
「……お兄ちゃんは…ここで、見てて…ボクは…もう守られているだけのボクじゃ…無いからッ!!」
そう言ってアキはソウルライザーを持ちいらずに即座に変身してシャドウに向かって戦いに行った。
「……何が名探偵だ…迷惑探偵、人の襟にこんなもんを仕込みやがって…」
ユウゴは自分に尾行がされている事に気が付いていた。
「にゃははは~…やっぱバレちゃってた?」
「バレバレすぎて寧ろ清々しい…アイツに聞かれてるとわかっているなら猶更開き直って言える事を言ったまでだ」
「……アキちゃんは、君の事を居なくなって欲しいなんて思っていないよ…でなきゃ、ここまで私について来てくれないもん」
「フンッ、アイツの意思なんか関係ない…アイツにとって俺はもう必要はないと最初から分かっているが法律がそれを許さないだけだ 俺は表向き人間である以上、この国の法律に従うし、これからもアイツの保護者は俺だ 手続き事は俺がやるからアイツには変わらずに自分がやりたいことをやればいい」
「んもぉ~、ドライを装ってもツンデレな所は変わらないなぁ~♡」
「やかましい…さっさと雑魚を片してこい、そろそろちょっとデカいのが来るぞ」
「はいは~い…ビトソンくん、君も手伝ってくれ」
【オーケー、ミス・オームズ】
ミオも変身を遂げてビーコンと共にシャドウに向かって応戦しに行った。
「オッリャァ~!!…って、お前ら来てたのか!?」
「いやぁ~ユウゴさんの後を付けてたら、つい…」
「ミクさん!今日はやけに数が多いですよ!!」
「いっくでぇ~、メガトンテェ~ルッ!!」
ユウゴを尾行していたことを明かしてミクラスたちはレッドキングたちを加勢するが…
「とぉうッ~!!ミオさん式の護身術の餌食になれぇええ!!」
【バリツ】【バリツ】
ミオもベムラーに変身して護身術と称した唯の打撃攻撃に、【バリツ】と書かれたプラカード2枚を用いてシャドウを吹っ飛ばすビーコンも応戦に加わった。
「ベムラー姉ちゃんたちも戦ってくれるんッ!?」
「ええッ、だけど私より一層張り切ってちゃってる子がいるみたいだけどね…」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
アギラは突進の勢いに身を任せて数多いシャドウたちを蹴散らした。
「すっげぇ…今日に限ってアギラのやつ、頑張るなぁ」
「それよりも…そろそろ親玉のお出ましだよ」
ミオの言葉通りメインストーリーの上から怪獣娘たちにめがけて落下攻撃を仕掛ける何者かが来た。
「チッ…目障りなダゴンの使徒ども…私の目的はツノの大きなダゴンの使徒だけだ!」
それは婆羅慈遺跡で姿を現したジュダと言う怪獣娘だった。
「なんだ、コイツ…シャドウの仲間かッ!?」
「どけ、雑魚ども…私の目的はソコのツノでかだッ!」
ジュダは剣をアギラに突きつけてアギラが狙いだと示した。
「アギちゃんに何のようか知らへんけど…アンタの相手はアギちゃんだけやないでぇ~、テールアタァ~ックゥ!!」
ゴモラは自慢の尻尾殴打で迎え撃とうとしたが…ゴモラの尻尾は片手で止められた。
「じゃまだッ…雑魚が!!」
「うわぁああッ!!」
「ぐわっ!?」「グへッ!?」「うげっ!?」
そして、レッドキングたちの方へと投げ捨てられた。
「……ボクの中にいる誰か……ボクに今だけ力を貸して」
アギラは内に宿る自分勝手な何者かに問いかけて助けを求めた。あの相手が自分では敵わないと知って内に居る者にジュダの相手を委ねた。
――わかった…アキ、後は任せて…――
そして、開いた目の瞳には燃え滾るような赤い瞳へと変化して、腕輪に拳を叩きつけるとアギラに黄金の鎧を身にまとわせた。
「悪いけど、お嬢ちゃん…最初から“私”が全力疾走で行くわよ」
「いいだろう…来いッ」
その瞬間、黄金の鎧を纏ったアギラとジュダの姿が消えた。否、消えたのではない…怪獣娘たちの眼でさえ追えない速さで今も戦っている。
「うっそぉ~ん…アギちゃん…見ない間に何があったんッ!?」
「なんだありゃ…アレッ、ほんとにアギラか?」
「明らかに…戦い慣れしすぎてるっす」
アギラの突然の変貌にGIRLSの怪獣娘たちは茫然と見ているしかなかった。
そして…―ズザァアア~ッ!!
「ええい、鬱陶しい!!…貴様、何者だ!?」
「…ええっと、たしかこの姿の名前をアキが思いついていたわよねぇ…確かぁ~あっ、そうそうッ! アギラ・フォトンアーマーよッ!!」
黄金の鎧“フォトン・アーマー”を身に纏ったアギラは再びジュダを前にして構えを取った。
「それよりもいいの~?…私にばっかり意識が集中し過ぎちゃって…今よ、ミオちゃん!!」
「待ってました!!ミオさんパァ~ンチ!!」
「ぐはっ!?」
「――からの~ッ、ミオさんキィ~ック!!」
「のわぁああ~!!」
アギラとの連携でベムラーの打撃と両足飛び蹴りがさく裂した先で…
【バリツ!】「グッ!」【バリツ!】「ガハッ!!」
待ち構えていたビーコンもよるプラカード攻撃によろめいた所に…
「――ソウルライズ――アギラッ!!」
―SOUL RISE――AGILA―
「キュァア?…キュアアンッ!?(あれ?…なんでボクが!?)」
新機能のソリッド怪獣まで使いこなして見せたアギラ・フォトンアーマーであったがデメリットとして怪獣娘の姿が維持できなくなり…元の宮下アキの身体へと戻った。
「いいから、あんたも…行ってきなさい!!」
「キュワンッ!?キュァアアアンッ!!(イッタァ!?うわわわぁぁああッ!!)」
しかし、出現させたアギラには本来のアキの意識が宿っているのか蹴りを入れられた反動で腕をグルグル回してジュダに向かって行ったが…
「獣風情がこのジュダに勝てるか!!」
もはや剣すらも使わずに襲い掛かってくるカプセル怪獣アギラを拳で殴ろうとしたが――
「なぁ~んちゃって、とぉう!!」
飛び出してカプセル怪獣アギラに抱き着くようにアキの身体とカプセル怪獣アギラの身体が元に戻って怪獣娘アギラへと再変身を遂げた。
「ばぁ~ッ!」
「ナッ!?」
再変身で打撃を回避するとジュダの懐に入って顔が互いに至近距離まで近付かれて驚き怯んだジュダの装甲の隙間に手を入れてそのままジュダの身体ごと振り回して遠心力で上に投げ飛ばした。
「おっりゃぁあああ!!」
「グォオオオオオッ!!」
投げ飛ばしたアギラはかかとで急ブレーキを掛けるとビシッとゴモラに向かって指を差した。
「えっ、ウチ…?」
「…アンタ、前にいい技を持っていたわね…その技、借りるわ!!」
再び腕輪を叩き、フォトン・アーマーを装着したアギラは黄金のツノに全エネルギーを凝縮した。
「最大火力で行くわよ!!」
―超振動波・赤―
アギラ・フォトンアーマーですら地面に爪を立ててブレーキを聞かせなければ安定しないツノからの超振動波がジュダを捉えた。
「ぐわぁあああああ!!――グゥッ、撤退だ!闇の先兵ども、撤退だ!!」
しかし、不安定なビームであったため、致命傷にいたるダメージが届かずが兜面が一部割れたジュダを徹立させるに至った。
「ふぅ…ちょっと威力と安定に難点ね」
「イエ~イッ!ミオさん大活躍ゥ~☆」
【バリツパワー!!】
敵に一切の有利を与えぬ凄まじい連係プレイを目の当たりにしたGIRLS怪獣娘はただただ茫然と起きたことの理解が追い付いていなかった。
「アギちゃんッ!?一体全体どうしたんッ!?何がアギちゃんをそんなに強くさせたんッ!?」
(ボクが知りたいよぉおお!!)
ミカヅキの理解のキャパを超える横で半透明のアキも釈然としない自分が自分では引き出せないポテンシャルをいかんなく発揮されて立つ瀬がなかった。
(やっぱ、ボクの身体返してぇええ!!ボクがボクじゃ無さ過ぎるよぉおお!!)
半透明のアキは今のアギラに空振り透ける拳を向けたが…
(あぁ~、もうわかったから帰ってらっしゃい!)
(うわッ!?またボクの身体からなんか出たッ!?)
半透明のアキは自分の身体から自分を引きずり戻す手に捕まって元の身体に戻るのであった。
「ううっ…あれ?…また元に戻った…」
三度アキは自分の身体を誰かに委ねた後に元へと戻ったらやはりあの戦い慣れた者の気配はもうアギラの変身が解けたアキの中には何も感じない。いつもの自分自身だ。
「フンッ…一人じゃないとか言っておきながら結局一人じゃなにも出来ていなかったな…」
「……お兄ちゃん……」
またも嫌味ったらしいことを言われたアキは少し不機嫌そうな表情を浮かべてユウゴに振り返った。
「――ッ!―――ッ!!」
振り向きざまに見えたユウゴの腹部に軽く小突くように何かを訴えるアキだったが…
「鬱陶しいッ!」―バチンッ!!
「イダッ!?」
アキの額には鞭打つような大きな音が響いた。周囲にも、アキの頭にも、その衝撃は痛々しいものだ。
「ッゥ――!!…何するのさぁ!?昔っからそうだ、ボクにいつもいつも意地悪しかしないからお母さんに飛び膝蹴りを喰らうんじゃないか!!」
「あぁ?…なんでそんなことを今更…」
「今更じゃないよ!そっちこそ何をいまさら保護者面して…ボクのことより自分のことを優先しなよ!!――ブゥッ!?」
今まで聞いて来たユウゴへの本音をぶつけるアキであったが…言いたいことをそれ以上言わせまいとユウゴはアキの口を両頬から片手で掴みかかった。
「自分のことだけを優先なんて簡単に行くか、バカッ! お前が毎日好きなことだけして生きていけるのは誰のおかげだ、コラッ!?」
「あふあはまひいにほほろはあるほッ!ほうほくはひほひひゃなひひょぉ!!(厚かましいにもほどがあるよッ!ボクはもう一人じゃないよ!!)」
戦い終えてもなお自分の兄に反抗的な程度を見せるアキだったが一方的に喧嘩負けしているのは明白であった。
「あぁ~あ、もうアギラとお兄さん…その辺に…」
「はいはい、ユウゴ君も一旦落ち着いて…」
見かねたベニオとミオが仲裁に入って二人の距離を離した。
「ううっ…居なくなって欲しいなんて思った事なんかないよッ!ずっとそばに居てほしかったのに…勝手にドンドン大人になっていったのはソッチのくせに、そんなに大人になりたいなら勝手に大人になればいいじゃないか!!」
「なりたいから大人になるもんじゃねぇんだよ…誰しもがいつか辿り着く先にある人としての在り方を俺は言ってんだよ そんなことも分かんねぇからお前はバカだって言ってんだよ…ちとは理解力を高めろ!!」
「うわぁあああ~またバカって言った!またそうやってボクをバカにするんだ!!」
「はいはい、アギちゃんストップストップ!!」
「一旦落ち着きましょう、アギさん…」
ミクとレイカに言い争いを止められたアキは涙目になってまで感情的になっていた。一方のユウゴは何ら喧嘩相手にもしてないとアキを見下す…否、物理的に高い背丈がアキを見下ろすからアキは余計にバカにされている気分だった。
「……ほらよ、預かってたタルト」
「あっ、どうもっす…」
ベニオはユウゴから預けていたタルトを受け取った。
「まぁ、アギラの言い分も分からなくもねぇけど…今日オレが聞いた限りでは…お兄さん…アギラのこと誰よりも一番に考えてくれていると思うぜ」
「ううっ…それは…ボクだって誰よりも感じているし、感謝はしていますよ」
「当然だ…ただでさえ食費のかかるお前を育てるのは誰だと思っている」
「そーいう所が厚かましいって言ってるんだよ!!」
ユウゴに煽られ過ぎて煽り耐性が低下したアキはますますユウゴに小馬鹿にされるのであった。
――キキィ――ッ…
そうこうしているとシャドウ出現の現場に駆けつけて来た警察車両が続々と集まってきた。
「おっと、警察だ…わりぃ、オレが説明しに行ってくるから待っててくれ」
この場でGIRLSの怪獣娘として警察の事情説明に名乗り出たベニオは警察車両から出て来た警察官達に向かった。
「……これは、君たちがやったのかい?」
「ああ、そうっすね…、もうシャドウはあらかた倒したんで…」
――ガチャンッ!!――
「…へぇ?」
「はい、午後13時24分 捜査期間内能力使用違反で署まで同行してもらいます!」
ベニオの手には現行犯を確保するための手錠が掛った。
「坂田さん、他の子どもたちはユニット呼んで原宿署に回してください…この方は自分が連行します」
「了解…こちら機捜105、ユニットの応援を要請します」
私服の警官は警察車両の無線から応援を要請して続々と集まるパトカーから覆面警察車両より警察官が集まり出して怪獣娘たちを取り囲んだ。
「はい、離れてぇーー!!ここは現場保存されますので離れてください!!」
規制線を張る警察官達によって集まりつつあった野次馬の暴走を制御するため人の壁による警備と黄色テープによる現場保存が行われ、鑑識が到着すると周囲一帯の鑑識作業が始まった。
「君たちは一旦、署まで来てもらいます」
警察官達は怪獣娘たちをさながら重要参考人として引き連れるため彼女たちをパトカーに乗せようとした。
「ええええーーーッなんでぇええ!?」
「おい、それ高いギターなんだぞ!!」
状況に動転したサチコは連れていかれそうになり泣きじゃくりながら行きたくないと警察官達に抵抗、ミサオは証拠物として押収されそうになるギターケース入りのギターを奪われまいとして抵抗した。
「なんでアタシたちが逮捕されなきゃなんないんっすか!?」
「ヒィイイッ…御願いです!!逮捕だけは勘弁してください!!」
「いや、逮捕じゃなくて同行ッ!同行してもらうだけだから!!」
ミクとレイカも警察官に手を引かれてパトカーに乗せられていった。
「うわぁあああ!!放せェエエ!!放してぇえなぁッ!!この人さらい!!怪獣さらい!!」
「木城さん!私、ローテ番じゃないんですけど…」
暴れるミカヅキは応援に駆け付けたアヴァロン・ユニットの運用装備『アルトリウス』を装着した警察官に護送車へと乗せられていった。
「いっ、一体どういうこと!?何が起きてるの、お兄ちゃん…あれッ?お兄ちゃん…お兄ちゃんッ!?ミオさんも、ビーコンもッ!?」
何が起きているのかワケが分からないアキはユウゴに尋ねてもソコにはもうユウゴもミオもビーコンも居なくなっていた。…そして、アキの肩にポンポンッと手が触れる。
「特異生物捜査班の前原です…任意の事情聴取のため署まで同行していただきます」
「えっ…ええええええッ!?」
第一条 怪獣能力者の超常的能力は刃物及び拳銃に該当するとして私的使用及び周辺被害が確認された場合に限り、刑事訴追するものとする。
―法令第百六十八号第5章『特異少年の特例』四節“怪獣能力者への特例”より―
アンバランス小話
『命名』
それは婆羅慈遺跡での騒動後の秋田市内の旅館にて…
「う~ん…どうしよう…」
「何を思いつめてんだ?」
客室の居間でメモに向き合って唸るようにアキは頭を抱えていた。
「いや、ボクのこの腕輪から出てくる鎧みたいなやつの名前をどうしようか考えてる」
それは太古からの異星より逃げて来た惑星カノンの“戦神”アマテからの贈り物として腕に装着している鎧の名前を決めかねていた。
「んなもん、金の鎧とかでいいんじゃねぇの?」
「ダメだし、なんかヤダよ…どうせなら“ソウルライザー”とか“ソリッド怪獣”とかGIRLSで使われるような物の名前に統一しておきたいもん」
金の鎧の名前を特にカノン側も決めていないこともあってこちらで勝手に命名する事になったが、いざ考えるとアキ自身のネームドセンスは特にないため難航していた。
「…ねぇ、お兄ちゃん…光とか、反射的な感じの意味に近い言葉って何?」
「あぁん?…直訳だと“シャイン”とか“ミラー”になるが、光を構成する『光子』を意味するなら“フォトン”とかだ」
「フォトン……なんかそれいいかも」
そう言ってアキはメモにフォトンと書き出してアキの知りえる単語を3つ並べて書き出した。
「この中だったらどれがいいと思う?」
候補は3つあった。
1 フォトンストリーム
2 フォトンアース
3 フォトンアーマー
「…なんで連続とか地球を意味する奴も混ざってんだ…鎧を意味するアーマーでいいだろう」
「ボク的にはズッシリとした感じがアースだと思うんだけど…」
「いや、アーマーでいいわ」
結局、アギラに備わった黄金の鎧の名前は『フォトン・アーマー』に決定したのであった。