TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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怪獣娘は取調べ中…

 原宿署 取調べ室1

 

「はい、とりあえずここに名前と生年月日を書いて…」

 刑事の前原から書類に必要記入を求められアキは渋々不本意な気持ちを押し殺して記入欄に自身の名前と生年月日を書いた。

「はい、それじゃあ少年課の方に引き続きますので後の事は署の婦警さんに従ってね」

「えっ?それだけなんですか…」

 これから厳しい取り調べを受けるのかとヒヤヒヤしていたアキはあっさりと何も聞かれずに終わったことに拍子抜けた。

「…それだけ…だよ…」

「あっ、あの~…こういうのってなんか凄く質問攻めにあうものだと思ったんですけど…刑事ドラマみたいに…」

「…あのねぇ、君は別に犯人とかじゃないんだよ 寧ろ君の方は素直に書類へサインしてくれたからいいものの…君以外の子たちなんか…」

 アキが思いのほか真面目に前原の指示に従って書いたが…他の怪獣娘たちは…

 取調べ室2

 

「おーぼーや!おーぼーやッ!!国家権力が不当にうち等を逮捕するなんて怪獣娘のアイデンティティを冒涜しとるッ!!うち等はシャドウからみんなを守ったちゅーのにぃいい!!」

 机をバンバンと叩いて抗議するミカヅキに木城は手を焼いていた。

「いいから素直に書類にサインしてくださいッ!!でないとあなたいつまでも帰れませんよ!!そして自分も分駐所に戻れないんですよッ!!」

 激しい抗議に抵抗して木城も机に置かれた書類とペンを指で強く押し示して書かせようとした。

 取調べ室3

 

「ねぇーねぇー、お腹空いたぁ~ッ 取調べと言ったらカツ丼でしょ!カツ丼、た~べ~た~いぃいぃい~!!」

「取調べ中にそんなもん出るわけねぇだろうッ 刑事ドラマの見過ぎだッ!」

 古い刑事ドラマ知識に触発されたミクはカツ丼を何度も求めるが前原の班からガッシリした体格の刑事に叱責されていた。

 取調べ室4

 

「わっ、私はどうなってもいいです…いや、良くはないですけどもし逮捕されるのでしたらソウルライザーの履歴とGIRLSのノートパソコンの中だけは見ないでくださいッ!!」

「…何もそこまでしませんし、お預かり品は後で返却されますから…」

 逮捕されることを覚悟の上で自身が見られたくない恥ずかしいデバイス上の足跡の消去を求めた。

「…ちなみに刑事さんは受けですか、攻めですか?」

「……君は何を言っているんだ?」

 あまりにもレイカの眼鏡を反射させるほどに担当する刑事の顔つきがレイカの中の“薄い本”脳が発動してしまうほどに触発させられる何かがあった。

 取調べ室5

 

「あたしのギター返してッ!!返してったらァアア!!」

 ギャンギャンと吠えるミサオの声は取り調べる坂本と同席する婦警の耳を塞がせるほどに密室の中では異様に響いて反響音が激しさを増していた。

「わかったッ!わかりましたから…書類にサインしたら受付で受け取ってくださいッ!!」

―ドサッ…

 ミサオの声に耐え兼ねた同席中の婦警は意識を失って倒れた。

 取り調べ6

 

「大体ッ、以前から怪獣娘の戦闘において建物の破壊とか何も言われてこなかったのになんで今月に入ってから文句言われなきゃなんねぇんだッ!!――あと、なんで俺だけ手錠を掛けられてんだよッ!!」

 補導されてきた怪獣娘たちの中で唯一手錠を掛けられている事に納得の行かないベニオは他の怪獣娘たちとは比べ物にならない猛抗議をした。

「…あなたは今年に入ってから怪獣娘の保護に際して必要以上に建造物の破壊、公共施設及び公共物の破壊、その他商業施設への損害多数…大型敵性有害生物との交戦時において浅草の文化財破壊もしていますよね」

 グウの音も出ない取り調べを担当する坂田に対して炎の抗議から一転して水の滴る冷や汗が感情的になっていた顔を一気に青ざめさせた。

「さらに今回、指導組織支部内の立ち入り捜査期間中にも関わらず独断で怪獣能力使用の許可をした…間違いないですね」

「ううっ、そうです…」

 間違いは無いが、間違いなく使用者責任を問われている状況にベニオの額から次々と冷や汗が滝の様に流れていた。

 6部屋の取調べ室から出て来た刑事たちは深いため息を吐いた。

「お疲れさん 悪いな、非番中に呼び出して…葉岐戸、輝美」

 前原は非番にも関わらず原宿署まで来てくれた“特異生物捜査班”の班員刑事である体育会系の葉岐戸ヒロキと美形の輝美ナオトに礼を伝えた。

「いえッ、こういった子供たちの相手には少年課の頃から慣れてるんで…」

「しかし、いくら怪獣の力を宿していると言っても未熟さが事件性の認識の低さとして顕著に表れていますね」

「仕方ないですよ…今まで法整備が整い切れていなかったんですから…おまけに新設の“特異生物対策部”の人員不足でユニットも出ないといけませんし…」

 試験部隊であるアヴァロン・ユニットも取り調べに回されていたが…

―バタンッ!――ビエエエエエエエエッ!!

「誰か、“装備”を装着してあの子の対処してください!!」

 取調べ室から泣きじゃくるルイの泣き声が取調べ室から漏れてくる中から沖田から溶けた金属のような匂いが煙と共に充満していた。

「沖田、大丈夫か?…なんか煙出てるぞ?」

「大丈夫なワケないでしょ!腕、溶けてんだから!!」

 そう言って沖田の被害をハッキリわかりやすくするために痛々しいまでに溶け切って骨組みむき出しになった腕を皆に見せつけた。

「うげぇッ!?グロいもんをこっちに見せんなよ!!」

「仕方ないでしょ!あの子の涙、硫酸で出来てるみたいなんだからアンドロイドの人工生体被膜なんて内部メカ残して全部溶けちゃいますよ!!」

 沖田の身体はアンドロイド部品で構成された人工生体アンドロイドであった。

「仕方ありません…ローテ番を変わって私が“装備”を装着していきます…取調べ室は後で化学防護班に依頼して除染準備をお願いします」

 そう言って坂本は腕に装着しているスマートウォッチの画面をタップすると自動的に全身に特殊装備“アルトリウス”が坂本へ装備変換された。そして、そのまま坂本がアルトリウス姿のままルイが泣きわめく取調べ室へ突入するのであった。

「沖田…お前、設備課に行って生体部品の再構成申請して来い オゲッ、ダメだ…薬品くせぇ」

「失礼ですよ、葉岐戸刑事ッ!ロボットハラスメントで訴えますからねッ!!」

 そう言い残して腕の骨組みと頬の生体部分が溶け切った状態の沖田が設備課へと向かって行った。

「それにしても本当に君らがロボットだとは思えないな…時代の進歩を感じるよ」

「前原さん…ウチでアンドロイドなの坂本さんと沖田さん、それと坂田だけです 自分はバイオノイド、所謂サイボーグです」

 驚くことにユニットの人員は4人中3人が生体アンドロイドで構成されていた。木城も一部が補助器械で生体手術を受けたサイボーグであるため、実質アヴァロン・ユニットの面々は機械的な身体を持つ者が殆どを占めていた。

「“没後労基制度”ですね…亡くなられた労働者の引継ぎを兼ねた生体アンドロイドが遺族の承諾と70パーセントの給金支払いで契約を交わす没後サービスの一環ですよ」

 輝美が詳しく説明した通り、人材人員不足が深刻化する日本の労働人口を補うために開発された対応型機種の汎用性の終着点であった。

「確かお前らのタイプって紛争とかにも利用されてるんだよなぁ…ロ・サでも導入されてるって聞いたことあるし」

「そっすけど“国際装備規定”で明記されているんすけど“アンドロイドによる戦争行為の禁止”とかお題目並べてはいますけど、どこの国も守るわけがないっすよ」

 国連が国際法に明記したはずの“国際装備規定”だが、その実態は大多数の国や中でも常任理事国は拒否権を行使して国際法を無視している風潮があった。日本は辛うじて自衛隊での生体アンドロイドの使用は認めていないが警察機関である警察庁各都道府県警は早々と導入をして都心部を中心に地域課などにも導入がされていた。

「本来なら『正義を執行するロボット刑事部隊』って話題になるはずなんすけどねぇ…あんまり受けてないっすよ」

「それもそうだろう…生体アンドロイドなんて今時は民間と福祉でも見られるから物珍しさが無さ過ぎるんだよ それに、死後もなお働き続けるなんてこの国の未来の先が思いやられるよ」

 葉岐戸の言う通り生体アンドロイドによる没後労務は遺族の承諾有りとは言え亡くなっても働き続けることが亡き者にとって幸せなのか考えさせられた。

「前原班長…ちょっといいですか」

 設備課に行って帰って来た沖田が前原を呼び出した。

「んん、どうした?」

「実はその…彼女たちを担当する部署が変更されちゃいました」

「なにぃ!?どういうことだッ」

 葉岐戸が驚くのも無理はない。警察内部において自分たちが対応担当している途中で割り込むように他の部署が持ち場を攫うようなものである。

「相手はどこの部署だ」

「そっ、それがァ…」

 煮え切らない態度を取る沖田の後から2人組の黒スーツの捜査官が現れた。

「公安部外事5課の千鳥だ」

「同じく、齋藤です」

 それは刑事部ではなく、公安部の人間…しかも外事5課の2人組であった。

「なんで公安部が出張ってくんだよ!」

「本件は国際怪獣救助指導組織の怪獣能力者事案のため外事相当の扱いになる…あとの事は我々が引継がせてもらう」

「何の権限があるんだ」

「これは警察庁からの指示だ…“特異生物対策部”とユニットは我々に“黙って”引き継いでもらおう」

 これ以上、何も聞くなと言わんばかりに齋藤からの忠告とも取れる発言に特異生物対策部は返す言葉がなく沈黙した。

「……わかりました、子供たちの一部は少年課に回しますが、今もなお取り調べを続けている者もいる 例えば…」

 そう言って前原は現在も使用中の取調べ室を開放すると…――ピギャァアアアアアアアアアアアアアッ!!

「まっ、前原どの…だっ、ダメでござる…先ほどから全然泣き止んでくれないでござるよ!!」

 使用中の取調べ室から疲弊しきった後藤が泣きじゃくるサチコの相手に限界を迎えていた。

「……齋藤」

「了解した…後藤刑事、コレを」

 公安の齋藤は取調べ室から出て来た後藤に棒付きのうずまきキャンディーを手渡した。

 後藤は再度取調べ室で泣きじゃくるサチコを相手に戻ると彼女の泣き声はピタリと止まって…中から後藤の腕が出てきた手はサムズアップポーズをとるなり震える彼の手は床に落ちて中で意識を失ったことを示めされた。

 原宿署 出入り口前

 

 署内の取調べから解放された怪獣娘たちは続々と原宿署を背にして出て来た。

「娑婆の空気やぁ~!」

「別に捕まったワケじゃねぇだろーが…にしても長かったぁあ~、ってウワッ!?ピグモンから鬼電来てる…」

 受付で受け取ったベニオのソウルライザーにはトモミからの通話通知が何十件も入っていた。

「ううっ、これオレが電話に出ないとダメだよなぁ…」

「あの~ボクから連絡しましょうか?」

「う~ん…いや、オレに連絡来てる以上オレの方で電話しないと後が怖えーや…オレが出るよ」

 そう言ってベニオは何十件も送られてきたトモミからの通知に1通の連絡を入れるが…

『なぁああああにぃやっているんですかレッドォ!!』

 通話をするなり開口一番でかつてないほどの怒号が通話口から響いた。

「おっ、おう、わりぃピグモン…ちょっとその警察署の厄介になってて…」

『あれほどGIRLS外での変身禁止を念押ししたのにぃい!!今の私たちは変身禁止なのですよぉお!!』

 GIRLS東京支部が立ち入り捜査中であるにつきGIRLS外での緊急変身含めてすべての怪獣娘による変身を禁止と触れていた矢先に怪獣娘の一斉変身は大きな痛手を被っていた。

「えっ、変身禁止だったの!?」

 今しがた初めて聞いたアキは怪獣娘の変身が禁止であることに驚愕した。

「あれッ?そう言えばアギちゃんに伝わってなかったっけ…GIRLSが警察の捜査中は怪獣娘への変身禁止になったこと?」

「…なにも聞いてない…」

 婆羅慈遺跡から帰って来た折りに何も事情を説明されぬままに知らされぬままだったアキは落胆した。そのような事情を聞かされぬままにアキは変身していたことに対していささかトモミへの申し訳なさが過った。

「…でもよぉ、こんなの不可抗力だぜ…シャドウが現れちまったら変身して戦わなきゃ街の被害が…」

『その被害を大きくして損害賠償重加算したらどうするんですかッ!!レッドも少しは考えて行動してくださいッ!!』

「ううっ…ごめんなさい」

 今日に限っていつもの可愛らしいトモミの中のピグモンが恐ろしく感じる…怒らせると怖いものがあった。

 あの大怪獣ファイトでは鬼気迫る戦いっぷりを見せるレッドキングをしてもGIRLSの一員であるベニオはトモミに頭の上げようがなかった。

『とにかく、一旦そちらに保護者の皆さんがお迎えに来ますのでくれぐれも再度警察の皆さんにご迷惑をおかけしないでくださいッ!!――ピッ――』

 向こうから一方的に通話が切れて嵐の激昂は過ぎ去っていった。

 そんな時にトモミの言う通り、怪獣娘たちの前に保護者たちが現れた。

「やぁ~やぁ~お勤めご苦労さん、不良少女ども」

【ユーキャンカムバック】

 悪びれもせずにヘラヘラとした態度で姿を現したのはミオとビーコンであった。

「あぁあ~!!酷いよ、ミオさんたち…先に逃げるだなんてぇええ!!」

「えへへッ、探偵は警察の御役目御免になるわけにゃぁ~いかないのら…このとおり、ゴメタランス」

 なんら平謝りにもなっていない態度で謝って来たが如何せん誠意に欠ける態度にアキは憤慨する気持ちを抑えるが…

「それで…お兄ちゃんは?」

 アキたちを置いて警察から逃げたユウゴに言いたいことを言いたいアキであったが、肝心のあの男はいなかった。

「それこそホントにゴメン…革ジャンには発信機まで付けていたのに追跡していたら発信機をいつの間にか猫ちゃんの背中に付けられて足取りを見失っちゃった おのれぇ、この名探偵のミオさんから逃れるとは逃げ足の速いやつだ」

 ミオの追跡を振り切って逃げ果せたユウゴはどこかへと姿を晦ましていた。

「あっ、それとそこのガキんちょ怪獣娘ちゃんのお母さんが来てるよ~」

「ザンちゃんッ!」

「まっ、ママッ!?」

 棒付きのキャンディーをなめながら警察を出たサチコは自身の母親ミチコが駆けつけて来たことに驚かされた。

「ザンちゃん…心配したのよ!警察のお世話になっているって聞いたから急いできたんだからッ!」

 サチコの母親ミチコは連絡を受けて本人はかなり慌てて原宿署に来ていたようだった。

「ママッ、別に来てなんて頼んでいないんだからッ!!やめてよぉお、みんなの前でぇええ!!」

 母親に反発的な態度でこちらも憤慨するサチコは皆の前で恥ずかしい思いをすることにミチコを責め立てたが…

「ザンちゃん……ヒーくんッ!?」

「はぁ?…なんでこんな時にママの彼氏の名前が出てくるのよ!!」

 心配しているという割にサチコを気にすると同時にサチコが気になっていた母ミチコだけが知る“ヒーくん”の名が出るが…

「…―グエッ!?」

 サチコの頭から強い力で押さえつけられて身体の腰から90度の角度に曲げられて頭が下がる。

「皆さん、本日はウチのバカサチコが大変ご迷惑をおかけしました! 保護者に変わってきつく譴責させておきますので何卒今回はご容赦くださいッ!」

 それは母子家庭で育ったはずのサチコの耳からは聞いた事のないハッキリとした男性の声に頭を下げさせられている自分もそれを見つめている怪獣娘たちの前にも突如現れたサチコの母ミチコに変わって強く怒れる成人男性がソコにいた。

「ハァアアッ!?ちょっ、おじさん誰なのよッ!?――ってか、ママさっきヒーくんって言ってたけど…まさかコレがヒーくんッ!?」

 サチコを頭押さえて謝らせる男は千鳥ヒエンであった。

「誰がおじさんだッ!自分の従兄の顔も忘れたか、このバカサチコッ!!」

「はぁッ!?従兄ぉお~!?そんな人が居るなんて、ママから聞いてないけどッ!?」

「ざっ、ザンちゃん…この人はザンちゃんのパパのお兄さんのお子さん、つまり本当にザンちゃんの従兄くんよ わざわざ遠い熊本から飛んできてくれたんだから…」

「ハァッ!?パパのお兄ちゃんの子ってなにぃ!?それって結局は親戚のおじさんじゃん!?――イダダダッ!?」

 繰り返してヒエンをおじさん呼ばわりした口の周りの頬肉を摘ままれて激痛が走った。

「誰がおっさんだ、おれはまだ20代だッ!ミチコさんの優しさに甘え切りやがって…甘えるなッ!今日と言う今日はしっかり反省してもらうぞッ!!」

「いだいぃい!いだぃいい!!頬を引っ張んないでぇええ!!のびちゃうぅうう!!」

 母子家庭のサチコには初めての父性的恐怖がやってきた。これから始まるミチコ以上の説教に彼女の心がどれだけ摩耗するのか想像がつかない。

「なんか、あの光景…近々で見た気がする…」

「なんだかアギさんとユウゴさんの口喧嘩に似ていますね」

「ボク、あんな風に喧嘩してないよ」

 人のふり見て本人も気づかぬことは気づかぬままが良いのかも知れないとミクとレイカは思った。

「GIRLSの皆さんですね」

 怪獣娘たち集まる一同の前に眼鏡をかけたスーツ姿の齋藤が現れた。

「えっ?あっ、はい…どちらさんですか?」

「千鳥の同僚です…今日はもう遅いのでここから遠い方は私がヒエンと共にお送りいたしますが…」

 齋藤の言う通り、取り調べから時刻がかなり進んで空が暗くなりつつあるため齋藤の提案でサチコ親子ともども帰路に提案されたが…

「じゃあ、あたし親父が心配するかもしれないんで…これで」

「わっ、私も…両親を心配させたくないので…」

「じゃあウチもぉ~」

「お前は俺たちと一緒にピグモンの所だッ!」

 ミサオとルイは齋藤たちと共に帰る事になったがどさくさに紛れて逃げ出そうとしたミカヅキをベニオが首根っこ捕まえてトモミからの 責を受けるためにその場に残らされた。

「やだぁあああ!!たすけてぇえええししょーぉおおお!!」

「いいから来いッ!!今日と言う今日は10年以上分の説教をようやく言える時が来たからな…」

「あっ、お母さん…これ良かったらどうぞ、原宿のフルーツタルト」

「あら、すいませんわざわざ…」

 そう言って泣きわめくサチコの首根っこを引きずって無理矢理に連れて帰えらせようとするヒエンは齋藤が用意したワゴン車に向かう、ベニオからフルーツタルトの差し入れを受け取ったミチコはミサオとルイと叱られ続けるサチコを最後に中学生の怪獣娘たちを乗せた齋藤が運転するワゴン車が歩道から出て車道を走り去ってそれぞれの帰路に向けて車路の流れへと去って行った。

「あれ?…あんの同僚はん…どっかで?」

「見たような…見てないようなぁ…」

 ミカヅキとミクは前回顔を合わせているはずの齋藤に違和感が引っかかるが齋藤を“あの時の公安刑事”と認識させない公安の扮装テクニックに一切気づけなかった。

「そんな事よりも…俺たちもそろそろ…」

 そして、残されたメンバーは…

 BAR1954

 

「せぇ~の…「「「「すいませんでしたぁあああ!!」」」」」

 原宿署から帰って来た一同が深々と頭を下げる相手は…

「はっはっはっ…皆さん、私の弁護歴に暗雲が立ち込めさせてくれますねぇ~」

 かなりげっそりとして目の下に隈を作り酷く衰弱していたその顔は笑っているが笑えていない表情を浮かべる零門だった。

「あなた方は私の弁護士人生を崩壊させる気ですか…」

「そっ、そんなつもりは無いですよ!」

「宮下アキさん…あれから私はあなたが自分のお兄さんに“有罪”を突きつける姿が頭から離れずに夢にも出てくるんですが…」

「ウグッ!?…ボクだけどボクじゃないのにぃ…」

 自分の意思でユウゴを有罪にしたわけではないはずが限りなく零門へそれがトラウマとして植え付けられていた。

「申し訳ありません、零門先生…私が付いていないばかりにこのような問題行動を起こさせてしまい…―」

 零門に誰よりも深い頭の下げ具合で真の謝罪を見せつけるトモミは怪獣娘たちの代表としての悪い意味での面目躍如であった。

「皆さんの行動は今後の怪獣娘さんたちの行動制限にも繋がりますので慎重を意識してください…でないと、こんなことになってしまいますよ」

 零門は作業するノートパソコンをクルッとみんなの前に画面を向けて見せた。

「怪獣娘…逮捕ッ!?」

「なんやこれ…うち等が逮捕されたみたいになっとるやん!?」

 ネットでは渋谷でのシャドウ事件の報道から怪獣娘が過剰な防衛をしたとなっており警察に連行されていく画像が掲載されていた。その多くは週刊誌系のネットニュースの最トレンドに『怪獣娘 逮捕』の見出しが強く強調されていた。

「SNSを見る限り、今はあなた方を擁護する声の方が多いですが…今後、このような見出しで世論を煽る者は一定数いる事を自覚してください」

「すっ、すみません…」

「んじゃ、オレらはシャドウが出ても一切変身せずに戦うなって言うのかよッ!?」

 納得が行かないベニオは零門に食って掛るように反論するが…

「そうですね…皆さんの行為は『獣害駆除』に充たると私は考えます」

「獣害…駆除…ですか?」

「はい、北海道や東北では野生の熊が人里に現れたとするニュースをお聞きしますよね」

 零門は怪獣娘たちが自分たちの取る行動がどのような影響があるのかを過去の例を使って説明した。

「熊などの野生動物は人に危害が加わる前に自治体から猟友会より派遣されるハンターに駆除を依頼することが通例としてきましたが…近年では出現した野生動物の駆除に対する抗議の苦情が市区町村の役場に殺到するケースもあります」

「何それッ、駆除しないで人は死んでもいいって言うの!?」

「残念ながら一定数にはそういった声を上げる方もいますし、過去の判例では猟友会員の猟銃が発砲した先に民家があった事で裁判所が猟友会員の猟銃所持を取り消した裁判もありますので…要は感情的視点と法律的視点、どちらでもあなた方は縛られやすい立場にあると言う事です」

 守るべき民間からも国が定める法律からも大きな板挟みで怪獣娘に制限的に縛る状況は今後のGIRLSとしての活動を委縮させることばかりであった。

「と・に・か・くッ!今後も怪獣娘の皆さんは警察自治体の指示に従って怪獣娘の協力要請のみが戦闘可能な状況と言う事が決まっていますのでくれぐれも無許可での変身は禁止なのですぅう!!」

 トモミが両手でバツ印を示して怪獣娘たちに変身禁止を強く言及した。

「それよりもピグモン…あの鎧野郎は何モンだ?」

 変身禁止の話題を置いてベニオが気になる謎の鎧怪獣娘ジュダについて追及した。

「秋田支部からの報告では婆羅慈市の古代遺跡発掘調査中に突如アンドロイド搬入作業員の中から姿を現れたそうなのです」

 既に秋田支部から連絡を受けていたトモミはジュダに関する情報を共有し合う。

「その時はその場に居合わせた怪獣娘さんが撃退したらしいのですが…秋田市内の病院に搬送された後に病院から逃げ出して姿を晦ましてしまわれたようです」

「誰がそん時は戦ったん?」

「それなんですが…――」

 トモミは黙って人差し指をある怪獣娘に向けるが…

「えっ…えっ、ボクッ!?」

「アギちゃんがッ!?」

 全員の強い視線がアキの額から頬に掛けて滝のような汗が滴り落ちる。アキ自身どう説明したらよいものか分からない。

 だが、怪獣娘には怪獣娘なりの聞き方があった。テーブル席にダンッ!と白熱電球のスタンドライトが置かれた。

「さぁ、アギちゃん…洗いざらい話してもらおうか、なんでアギちゃんが秋田に居たのか、あの鎧ちゃんとアギちゃんの鎧姿…そして、ユウちゃんと一緒に止まった旅館を教えんかいッ!!」

「別にそこまでしなくても教えるけど…最後のは必要なことなのッ!?」

 宛ら古い刑事ドラマの取り調べのようなスタイルでアギラへの事情聴取が始まった。

「ん~…まぁ、とにかく…アギラ、お前オレらに隠していることがあるよなぁ…」

「うっ…いや…そんなこと…」

「しらばっくれても言い逃れは出来へんで!田舎のおふくろはんが泣いとるでッ!」

「ううっ、アキちゃん…私はアキちゃんをそんな嘘つきに育てた覚えはないよぉ~およおよッ…」

【ドントクライ】

 ミカヅキに詰問されている後ろでちゃっかり寸劇に交じるウソ泣きのミオとハンカチを差し出すビーコンは隠し事をするアキを悲しむフリボケをかましていた。

 一体どれの事を指しているのかアキには頭の中で整理が付かない出来事ばかりがどれを隠し事として処理してよいのか、隠すよりもいい加減吐き出したいのはアキの方であった。

「えっ、ええっと…ザンドリアスをおうちに返した後…気づいたら秋田県に居ました」

「そんな徘徊老人みたいな仕方してなんで秋田に着くねん!もっと明確に説明せんかい!!」

「うっ、嘘じゃないし徘徊老人じゃないよ!!」

 説明したくても出来ない、今でもアキが整理しきれない出来事をどう説明して良いのか頭を抱える…が、論よりも証拠物とばかりに腕に装着している腕輪をみんなに見せた。

「そうだ、ボクは婆羅慈遺跡でコレを受け取ったんです!」

 みんなの前に腕輪が装着された左腕を突き出したが…

「…んで?コレがなに…」

「良いから見てて…ソウルライド、アギラ!」

 ひとまずアキはアギラに変身を遂げた上で鎧に腕をクロスさせる仕草で腕輪と腕が接触して衝突したはずみで金属がぶつかり合うような甲高い音が響くとアギラの身体に黄金の鎧“フォトン・アーマー”が装着された。

「おぉ~…アギちゃんなんだかカッコよくなったね!」

「……―――……」

「…あれ?…アギちゃん?」

 変身して見せたアギラのフォトン・アーマー形態であったが、何故か歯を食いしばった表情を見せる。

「どれどれ~…てぇい!」

 ミオはアギラの背後に回って指先でアギラの後頭部を小突いて見たが…

「―――フギャッ!?」

 その瞬間、アギラは抵抗も出来ずに床に重々しい音を立てて倒れた。

「あっ、アギさん!?」

「おい、アギラ…大丈夫か!?」

「ううっ…動けない…」

 変身を遂げたアギラの全身を包む黄金の鎧フォトン・アーマーはアギラが一歩も動けなくなるほどにその重量は計り知れなかった。

「ええ~嘘ヤァ~!?あんなに軽い身のこなしでアギちゃん戦っとったやん、ウチの必殺技までマネしといて…」

「ううっ、アレはボクであってボクじゃないのにぃい~」

 またもアギラではないアギラを操る者に恨めしい気持ちが強まった。過去の世界でも、ユウゴへの判決も、そして謎の鎧怪獣娘と互角以上の戦いを繰り広げたのもすべてはアキでは無い別の誰かである。

「こ~なったら問い詰めても埒が明かん…アギちゃんに何があったのか、どうしてそんなに強おなったんか、そのすべては今日ここで明かし合おうッ!」

「ううっ…すべてを…明かし…合うッ?」

 倒れたまま勝手に怪獣娘たちの間で決まりつつあることにアギラは耳だけを貸す。

「――と言うワケで今夜はアギちゃんのおうちでお泊り会やぁ~!!」

「おお~、ゴモたんナイスアイディア~!!」

「えっ…ええええええッ!?」

 倒れたまま勝手に決まって、倒れたまま怪獣娘たちが自分の家でお泊り会が決行された、倒れたままのアギラに拒否することも出来なければ先ほどから倒れている事を放置されていた。

「そっ、そんなことしたら…お兄ちゃんが帰って来れないじゃん!?」

「あぁ~大丈夫大丈夫…あの子、今頃はきっと隠していた彼女の所よ…ケッ!もうあんな薄情者なんか忘れて女の子同士でキャッキャウフフをしちゃいなさい!このミオさんが許可するわ!」

【レッツ パーリィピーポー!】

 もはやミオですらユウゴを切り捨ててアキの家でのお泊り会が強制開催される事となった。

「ふぇ~ッ、うれしいけど…誰かボクを起こしてよぉお~!!」

当の本人が倒れたままであった。

 一方その頃、ミオの追跡から逃れたユウゴは都内にあるマンションの屋上へと降り立った。しかし、そこはアキを住まわせているマンションとは違うマンションだ。

「……………」

 片手には原宿で予約していたケーキを携えて足が向かう先から先へと進み続けて1メートルも断たぬ内に足はある部屋に止まった。

 止まった部屋のインターホンを押すとチャイム音が鳴ったと同時に家の中から人が出て来た。

「ユウくんッ!」

 出てくるなり早々にユウゴに飛びつくように抱き着いたのは同じ年頃の少女であった。

「おいおい、来て早々に飛び出すヤツがあるか…」

「だって…アナタとこうして一緒に居られると思うと居ても立っても居られないよ」

「あのなぁ…お母さん、見てるんだが…」

 ユウゴに飛びついた少女を我に返らせるは母親の咳払いであった。

「愛の抱擁は…済んだかしら?」

「おっ、お母さん…いつから居たのッ!?」

「彼が来るまでずっと玄関であなたが待ち構えている時からよ…ようこそ、ユウゴ君」

「お邪魔…します、お母さん…」

「“お義母さん”だなんて…まだ気が早いわよ」

「はぁ…じゃあ紛らわしくない様に“エリカ”さんって呼べばいいですか?」

「フフッ…よろしいッ!…じゃあ、早速…服を脱いで」

「おっ、お母さんッ!!」

 会ったばかりの少女の母親に服を脱ぐように求められるユウゴは……

 

 

「……ふむッ…背中、背ビレの収縮で皮膚が通常の人体組織とは別格に硬化しているわ 度重なる変身で人体が超回復を繰り返し過ぎた証拠ね」

「そうですか…」

 少女の母親エリカに上半身の背中を向けて見せたユウゴの容態は白衣のエリカの主観で診て取れたことをエリカはカルテに記載する。

「体調は今のところ良好…人間から怪獣へ変異する者のデータとしては極めて普通ね」

「人間から怪獣に変異する時点で普通じゃない気がしますが…」

「屁理屈言わないッ!あなたはお医者様の言う事だけを聞いていればいいのッ!」

 エリカは医者であり、ユウゴの主治医にして担当出来る唯一の医者であった。

「それと…ほら、アナタが買ってきてくれたケーキよ」

 エリカはユウゴの前に突き出すようにして贈り物のケーキをユウゴ自身に丁寧に皿の上でフォークまで用意して差し出した。

「あっ、ありがとうございます…いただきます」

「なに遠慮しているの…アナタが買ってきてくれたケーキでしょ」

 ユウゴは受け取ったケーキ一切れをフォークで掬い取って…口に含んだ。

「――……やはり…味がしないです」

「…そう、ならあの子の分…アナタが持って行ってあげて『少しは糖分を取りなさい』って私の代わりに言って来て…」

 そう言ってさらにエリカから差し出されたもう一切れ分のケーキをユウゴは黙って立ち上がり受け取った。

 この家は3LDKのファミリータイプマンションで家族構成の多い住民向け仕様だが…リビングよりも小さな部屋は所謂子供部屋、すなわちエリカの娘の部屋だ。

 扉の前に立つと少し息を深く吐いたユウゴは2皿のケーキを片手で持ち抱えながらドアをノックした。

「どうぞ~…」

 扉を開けるとやけに薄暗い部屋だった。

「…コレが天才ピアニスト“ROSE”の部屋かよ、アイカ」

 開けたドアにもたれかかるユウゴの首後ろには『アイカの部屋』と扉札が掛っていた。

「…うるさいなぁ…人の作業部屋に文句付けないでよね」

 薄暗いアイカの部屋には様々な音響機材につなげた電子ピアノを中心に自身がヘッドホンを通して音のチューニングを整えていた。アイカはピアノを得意としているのではない…もはやライフワークの一環であった。

「原宿…いい音色だったぜ、みんなが夢中になって足を止めていたぞ」

「でも、怪獣娘が騒動を起こしたんでしょ…ネットニュースになってたけど妹さんは大丈夫なの?」

「心配いらない、まだ世の中は怪獣娘に対して寛容だから…ほらッ、ケーキ」

 ユウゴはアイカにケーキを差し出そうとするも、その手を押さえてアイカからユウゴの顔に近づいた。

「…その前に……その…そのぉ…きっ……キス……して」

 アイカはユウゴに自身の唇への彼の唇を求めるが…

「…悪い、アイカ……また、ダメだった」

「ケーキでも…ダメだったの? アナタの好きな甘い物なのに…」

「そうだな…もう砂糖の甘さも、イチゴの酸味も分からない…記憶で味を意識してもその味すら思い出せない」

 ユウゴが怪獣能力者であり怪獣戦士(タイタヌス)である以前に人から怪獣に姿を変え続ける者には“ヒト”としての生物的特徴を剥離する…その中でも感覚の内の“味覚”はケーキの味すら認識できないほどの味覚障害を患っていた。

「…残酷だわ…どうしてあなたが怪獣の力があるってだけであなたから人としての“当たり前”を奪われていくのよ…そんなの尊厳が無さ過ぎるわ」

 アイカはユウゴが肩から羽織る革ジャンの袖を握りしめて彼の肩に寄り添うように悲しんだ。

「……まだ感覚と感情が少し無いだけだ…変わらずに俺は俺であることを自覚しているよ」

 ユウゴはアイカを安心させようと握る手をソッと重ねて握り返した。

「ユウくん……じゃぁ…その……せっ、背中…向いて」

「……これでいいか」

 アイカに背を向けるユウゴ、その背後から革ジャン1枚をめくり取るとユウゴの診察後の上裸背中が露になった。

「……背筋…皮膚が厚くなっていて……黒いね」

「ソコだけは元の姿に戻っても戻らないからなぁ…」

 その背中は度重なる変身で生えてくるゴジラとしての象徴たる背ビレが都度生える度に背骨スジから白い一筋の線となって頸椎から臀部に掛けて一直線に伸びてその周囲は黒々とした体表が侵食していた。部分的それはまるで黒いケロイド状の体表面であった。

「………ジッと…していて…」

 すると、アイカは着ていたワイシャツ1枚を脱いで見せぬ自分の姿を曝け出す…筋肉質なユウゴとは正反対な反発的に柔い肌、細い腰回り、そして…実り豊かな人並み以上の胸元が先にユウゴの背中に触れた。そこから先は肌先すべてが互いに触れ合うのは語るまでもない。

「……お前が居る事は感じる…だが、すまんがやはり何も感じない」

「いいの…私は……私だけが感じるから……君の…体温と質感を…」

 男女の接触を前にして顔色一つも変わらずに反応も薄い…しかしアイカだけはユウゴ以上に心音までもが急加速に鼓動していた。恥じらい、汗ばみ、体温の上昇が彼女をユウゴを前にして“女”にさせた。

 

―バンッ!

 

 二人の接触を妨げる様にアイカの部屋のドアが強く開かれ身の丈小さな少女が現れた。

「ガルルルルッ!!」

「すっ、スイカちゃんッ!?」

 白髪の少女は唸り声を挙げながら威嚇では飽き足らず飛び出して吠えるままにユウゴに飛び掛かった。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 ガブッ!、それは噛みつくにはその擬音が正しいだろう…しかし、人の肉に嚙みつくわりに音など無い。寧ろ、噛めない物に噛みついているも同然であった。

「俺でなければ…怪我では済まなかったぞ」

「ゆっ、ユウくん大丈夫なの!?―スイカちゃんも、離れて!!離れなさい!!」

 まるで荒れ狂う子犬から噛むおもちゃを振り払うかのように噛みつくユウゴの手から離させた。

「ウウウッ…姉貴に近寄るなッ!!コイツ、危険!!ヤバいッ!!ヤバいヤツゥ、ガルルルルッ!!」

「だっ、大丈夫!大丈夫だからね…私の…大切な人、だからッ!!」

 威嚇を押さえきれない白髪の少女を抱えてユウゴから離れさせるアイカの姿に咳払いが届く…

「あぁ~…御取込み中にすまない…スイカが突然、飛び出していくのを止められなかった」

「にっ、兄さんッ!!?」

 アイカの部屋のドア縁から顔を出すは家に母親のエリカしかいないはずなのに今いる男の格好は上着のままと見る辺り帰宅直後の様だった。

「……そうか、君が…ユウゴ君か」

「あぁ、初めまして…こんな姿で言うのもなんですが妹さんとお付き合いさせていただいています、宮下ユウゴです」

「……自分は木城キセキだ」

 都内のどこかに存在するありふれたマンション内の一室、ソコに居住する住居の玄関横の表札には『木城』と名札を下げていた。




アンバランス小話
『説教』

 都内 アパート1階

 アキが居るマンション、ユウゴの居るマンション、それぞれが現在居る住居地とは別のアパート内では…
「大体お前は小さい頃から――(中略)――そんなんで将来一人で生きてくなんて――(以下省略)――お前みたいにいつまでもわがままを―――(大幅簡略)―――」
 かれこれ数分を超えて小一時間を説教に費やされてヒエンからの説教を浴びせられていたサチコは火に当てられた干物の様に干からびていた。
「だっ、誰か……た、す、け、れぇぇ…」
 コケ切った顔を向ける先に救援を求めるも母ミチコが客たちを招いて手料理をふるまっていた。
「皆さん、今日は本当にすみません…ザンちゃんが御迷惑をおかけして…」
「いっ、いえ…アイツに振り回されるなんていつもの事なので…」
「わっ、私も…ザンドリアスさんには…お世話になって…います…」
 サチコの自宅に招かれたミサオとルイはなるべく後ろを見まいとして一切の視線も向けずにただ冷や汗が滴る。
「ヒーくんの同僚さんも…いつもヒーくんと御仕事ご苦労様です」
「いえいえ…滅相もありません タルト、大変美味です」
 ちゃっかりベニオからの貰い物のフルーツタルトを頂いていた齋藤たちはヒエンからの説教中のサチコを横に談笑としていた。
「あっ、あたしも…ししょーの…フルーツ…タルトォオ、オグッ!?」
「まだ話は終わっていない…お前の甘ったれた根性が焼き切れるまで俺は説教を続けるぞッ!!」
「ヒェエエッ!!助けてぇええママァアアア!!」
「ウフフッ…ザンちゃんを代わりに叱ってくれる人が居て助かるわぁ~♡」
((お母さん…容赦ない…))
 逃げようとするサチコの頭を強い力で押さえつけて一切逃げ場もなくサチコはヒエンと向かい合って正座固まって説教は続くのであった。心なしかミチコの顔はいつも以上に晴れやかな表情であった。
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