TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
――キキャァアンッ!?――
「バルルルルッ…」
正に怪獣同士の衝突である。一方は神話的怪物の容姿をした蛇の怪獣…しかし、ソレに相対するのは怪獣娘アギラだが宮下アキが変身するアギラではない。
『おっ、お母さんが…アギラッ!?』
一番驚くのは現変身者であるアキ自身であった。自分の母親が自身と同じアギラの能力を有している。
それだけではない…
「ヴァルラァアアアアッ!!」
母ユウナが変身したアギラは早速近場に駐車してあった乗用車を片手で掴み、持ち上げ、蛇の怪獣に向けて投げつけた。
――キキャァアンッ!!――
しかし、蛇の怪獣は即座に車体へ向けて口の中にある目玉から怪光線を発射すると車は石化させた。
そして、片手で石と化した車を鋭利な爪先で切り裂いたが…
「ヴァルラァアアアア!!」
切断した石の車の切断面より母が変身するアギラに飛び込まれ間合いに入り込まれた。
―ズバシャァン!!―
――キュキュァアアン!!――
アギラには相手の危険な部分を見抜いた上で蛇の怪獣の口内に存在する大きな目玉を『駐車場』を意味するパーキングマークの標識をポールごと切断したのか明らかに先端が鋭利に尖ったものを武器と化していた。
「ガヴゥルラァアアアッ!!」
そこから先は一方的であった。目を失った蛇の怪獣は文明的かつ対戦闘型に適した戦法を有するアギラに一方的なまでに攻撃を許してしまっている。長所を奪われ、戦いとなれば圧倒的にアギラが有利、パワーやフィジカルに加えてスピードと打撃力に絶え間ない猛攻、力の差は歴然であった。
『ひっ…酷い…こんなの…ボクじゃない…アギラじゃなさすぎるよ』
アギラとして変身し続けて来たアキにとってアギラは図鑑の中でも自分自身でも何処か抜けていてみんなから揶揄われやすい存在だが、裏を返せばそれは他の怪獣や怪獣娘には無い愛嬌な部分である。
しかし、今の目の前で戦っている母ユウナが変身するアギラは別の何かである。曰く別の何かがアギラの皮を被って暴虐無慈悲を働いているようであった。
―ザスッ…
「ヴルルルルッ…」
パーキング標識を地面に着きたてて圧倒的猛攻を受け続けた蛇の怪獣はグッタリと地面に横たわって意識を失っている怪獣の背中に母の変身するアギラは足踏みしめて生存を確認している…これほどまでにアギラの姿をしておいて1つもアキと同じアギラとは思えない戦い方をするアギラに酷似した怪獣娘…それは図らずも理解できるアキよりも“戦い慣れている”節が見て取れた。
――キャァアンッ!!――
倒れていたのは生物が圧倒的強者に対して偽装するための死んだふりに相当する行為だった。死んだふりをきめていた蛇の怪獣はアギラに通用しないとわかるや意表をついて咄嗟に駐車場外へと逃げ出そうとした。しかし…
―…ズォオオンッ!!…―
駐車場の外から…それは強い殺気を放っていた。駐車場と道路までの境界線上には確かに感じる強い殺気を放つ謎の生物たちが逃げてくる蛇の怪獣を待ち構えていた。
――キキャァンッ…キュキュランッ!!――
別の場所から逃げても、次の別の場所へ回っても、その強い殺気はどこまでも付いてくる。アギラではない。アギラとは別の何かであり、強い殺気を放つだけならアギラ以上に強い何かが自分を狙っている。
周囲八方…駐車場外から病院側にもヤツらは居る。
「この気配……そう、怪獣戦士(タイタヌス)たちね…」
それまで野性的な戦いを繰り返して来たアギラが突如我に返ったように理性的に言葉を発した。
しかし、アギラが感づくほどに強い殺気が意味する八方に広がる彼らの陣形は宛ら『殺意の特設リング』、そのリング外から一歩でも出れば死は免れない。万が一にも蛇の怪獣が場外に逃げ出すような事になっても即座に他の怪獣戦士(タイタヌス)たちが蛇の怪獣を始末する構図になっている。
思えば始めに蛇の怪獣へ飛びかかって壁も窓ガラスも破壊したにも関わらず粉砕音が響いてもおかしくない大きな破壊をしたにも関わらず一切の音がその瞬間だけ消えたのも場外で見届ける怪獣戦士(タイタヌス)たちの仕業であった。現に病院側には月夜に照らされて姿が確認できる者としてチタノザウルス、バラゴン、それ以外は闇夜に紛れているが昆虫型が3名、類人のような者が2名、暗がりながらプラズマ状の閃光が両腕から光る者、蛇の怪獣以上に大きな赤い目玉が光る毒気を放つ者、いずれもGIRLSに所属する怪獣娘が暴走する他の怪獣娘を助けるために力を制御しているような気配はない。確実に仕留め、殺す、消し去ると言う強い意思を感じさせる雰囲気…その気配は正に“戦士”そのものであった。
――キキャァアンッ!!…キュルルゥゥ…――
戦意を失ったのか、その場で蹲って、怯え、怖がっている。しかし…泣き声に紛れて何か強い意思を発する思念すなわちテレパシーがアギラに伝わる。
――痛い…助けて…怖い…苦しい……赤ちゃん…私の…私の赤ちゃんはどこ……――
本来はそこまで強くない心の弱った人物なのだろう。思念を通じて己の弱さを訴えるその悲痛な叫びはアギラにもアキにも伝わって来た。
『…怪獣さん…なんだか弱ってる……お母さんはどうするんだろう』
この場で蛇の怪獣をどうするのかを決めるのはユウナが変身するアギラに任されていた。アギラは少しの沈黙から再びゆっくりと動き出し、近づいて、蛇の怪獣に触れることの出来る距離まで迫った。
「…蛇塚さん…戻りましょう ここにはアナタが望むアナタの子は居ないの…だから、おとなしく病室に…」
――キキャァアンッ!!?――
ゆっくりと手を延ばそうとした瞬間、蛇の怪獣はアギラに『来るな!!』と言わんばかりの攻撃を仕掛けてきたが…突き出した爪先はアギラの大きな手で弾かれ、アギラはすかさず大きな手の指先で蛇の怪獣の本人すらも知らない急所と言う急所を的確に突いてねじ伏せた。
急所を突かれた蛇の怪獣はグッタリと今度こそ意識を失うと…全身を覆っていた獣殻(シェル)が剥がれ落ちて病院服の女性患者が姿を現した。
「…蛇塚さん…」
母の変身するアギラは倒れている女性患者の顔を知っていた。この蛇の怪獣であった女性はここの病院の患者であったようだ。
「なぜ、トドメを刺さない」
「――ッ!!」
突如、背後に現れた他の怪獣戦士(タイタヌス)よりも異質な気配に母の変身するアギラは背後に現れた謎の存在に向かって打撃を加えようとするが…アギラの大きな手すら軽く握り掴めるほどにさらに大きな黒い手に阻まれた。
「落ち着け…私だ」
「うそッ……あなたッ!?」
母の変身するアギラはその姿を目にして驚愕する。
その姿は異様に上半身が隆起して発達した胴体、両肩は異常なまでに膨れ上がって広い肩幅、額にはクラウンのような突起、口回りは無数の牙に連なって4本の刃歯が口裂けに重なる、極めつけはそのフォルム、丸太の様に太い尻尾に重量感のある足腰、背ビレからはサンゴ礁状の背ビレ、顔つきはユウゴが変身するゴジラだがあのゴジラとは一線を画して別の個体を認識させる怪獣戦士(タイタヌス)であった。
『お母さんが“あなた”って言う事は…ボクのお父さんッ!?』
驚くことにソレがまさかのユウナの夫にしてユウゴとアキの父親であった。
「あなたッ…今までどこに居たのよッ! 来るなら来るって事前に連絡しなさいよ!!」
「今の私は宮下ゴウイチロウではない…アザトースの身体にして万物を定める神々の頂上……そうか、この身体はそなたの夫なのだな」
『ええー…コレが…ボクのお父さん?』
初めて目にする父ゴウイチロウと言う人物のアキにとっての第一印象はよりにもよってなんだかやたらと神々しい光を放つゴジラであった。しかし、その目は何故かずっと閉じている。
「ふざけたこと言わないで!…例え、どんな姿であっても宮下ゴウイチロウは私の夫、それでもってユウゴとアキの父親よッ!アザなんとかって言う神様なんかじゃないわ!」
「無知なる者よ…彼は自らの魂と私の神形を融合している、そなたの夫と言う固有概念はこの世界に存在しないし、そなたの子供たちはそなたの子ら…私に子と言う概念は無い」
『どうしよう…久しぶりに顔見れたお母さんと初めて見るお父さんが…支離滅裂な夫婦喧嘩をしている』
アキは初めての母親と父親の夫婦喧嘩に恐怖した。
「むっ?」
『ひょっ!?』
ずっと見えていないと思っていたアキだったが、父と思しきゴジラに開いていない目の視線が半透明なアキに向けられていた。
「…どうやら招かれざる者がいる様だ…事態の修正のため、私はこの目を開こう」
「はぁ?なに言って…」
母が変身するアギラは意識を失っている病院服の患者を抱えていると、目を閉じていた父と思しきゴジラはゆっくりと瞼を開き始めゴジラから発する強い衝撃波が世界そのものを包み込んだ。
破壊されていた車、切断した駐車場の標識、窓も壁も瓦礫が元の壊される前の状態に戻り始めて時の流れが逆行しているかの様であった。
『どっ、どうなっているの!?』
「何事もない…すべては元の状態にこの世界を修復したに過ぎない、宮下アキ」
『ふえッ!?』
姿が見えていないはずのアキの姿を父と思しきゴジラの開いた眼は自分の姿をハッキリと捉えていた。
『おっ…お父さん?…ボクが、見えてるの!?』
「私は貴公の父ではない…だが、この肉体の魂が貴公と共鳴している…なるほど、これが父性と言う物か…」
父と思しきゴジラの神々しくも眩い浅緑色のオーラに視界を奪われるアキは彼から目が離せなかった。
そして、アギラよりも大きな手がアキの頭に触れて来た。
「この肉体の魂の言葉を借りるなら…『大きくなったな、アキ』と言っておこう」
父と思しきゴジラの手に触れられたアキの身体は頭から身体に至るまで全身を肉体が半透明だった状態からハッキリと輪郭も存在も自分自身が認知できるほどに元の私服姿の宮下アキを形成した。
「あっ、アキ…なの?」
「えっ…お母さん…ボクが、見えてるの?」
驚くことに…自分の姿は自分自身だけに留まらずユウナが変身するアギラにも認識できていた。
「宮下ユウナ、蛇の者は私が預かろう…しばし再会を分かち合え」
そう言って父と思しきゴジラはアギラから病院服の患者を預かってアギラは自らの変身を解いて母ユウナへと戻った。
「…アキ…うんうん、言わなくてもわかるわ…ずいぶんとまぁ大きくなってくれたわね」
「おっ…お母さん…お母さんッ!…お母さんッ!!」
今の自分を見てもユウナはアキがこれより先に成長した姿のアキであることをとっくに見抜いていた。
アキもそんな自分のことを誰よりも理解してくれて懐かしい気配も、匂いも、温かい気持ちすらも内から湧き出る様に溢れ出して気持ちが抑えられずに母ユウナに自然と飛びついていた。
「あららッ…よしよし、何年経っても甘えん坊さんな所は変わらないのね」
「お母さんッ!!お母さんッ!!ううっ…本当にお母さんだッ!!」
抱きしめるその感触も、息遣いも、温かい温もりまでもが母ユウナを通じてアキに共感させた。
「お母さんッ…あのね、よく聞いて…この年はお母さんにとって…」
アキは即座に母ユウナの身に降りかかる出来事を伝えようとした時…アキの鼻先から口元に掛けて人差し指が彼女の口を噤ませた。
「アキ…そこから先は言わなくていいわ…言った所で未来は変わらない 変えるなら世界そのものが変わらない限り私を含め私たちみんなの運命は変わらないの…だから、お母さんはアキからは何も聞かない でも、これだけはアキはちゃんと聞いて……よく食べて、よく学んで、よく寝なさい…立派な子になりなさい」
そう言ってユウナはアキの髪に触れて一房にまとめて左肩に垂らしたサイドテールを見た。
「…いい髪形ね…お母さんもマネしちゃおうかしら」
「フフッ…ボクはコレ、お母さんのマネをしたから気に入っているんだよ」
甘やかな一時は長いようで短い、アキには徐々に終わりが近づいていた。アキの身体は足元から徐々に消えかけていた。今度は半透明だった時とは違って完全にアキと言う存在がこの場から消失していくようであった。
「そんな…やだッ!ボク、まだお母さんと一緒に居たい!!お母さんとまだまだ話したい事がいっぱいあるのに!!」
「アキ…いつもいつも私ばかりに甘えてないでしっかりしなさい!その姿…もう高校生なんでしょ!」
「ううっ、そうだけど…でも最後にこれだけ言わせて…ボク、GIRLSって言う怪獣娘を守る組織に入って、お母さんと同じアギラの怪獣娘になったんだ!色んな怪獣娘さんと関わって、憧れる怪獣娘さんも居て…お兄ちゃんが…なんかお父さんみたいな怪獣になってるし…とにかく、向こうでは大変なことばかりだけど、ボクは…幸せだから!!――……」
最後まで言いたいことを言い切れたのか、そうでないのかは分からない…ただ唯一この世界の時代に残ったユウナの手の中には未来のアキの温もりが宿っており、触れた手は左手に包んで胸の内に留めた。
「アキ…ごめんなさい、アキ…」
「……………」
未来のアキが消え、震えるユウナを見届ける父親と思しきゴジラはユウナに目を向けるも再びその瞳は瞼に閉ざされた。
「私は……あなたと同じ…アギラではないの……」
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「うっ…うぅん…お母さんッ!!」
飛び起きて目が覚めると何故かアキはいつもの寝室のベッドで横になっていた。
「う~ん…むにゃむにゃ…」
「うへへ~そんな…諏訪さんのそんなあられもない所まで…グヘヘッ」
「むぅ~う…もう食べられへん…」
「んがぁ~~~…まだまだ修行が…足りねぇ~ぜぇ~」
そして、何故か自身の部屋の中にはGIRLSの仲間たちが自分の部屋で寝泊りしている。
「ううっ…頭痛い、なんだか目覚めの悪いのか良いのか分かんない夢を見た様な…」
寝起きでおぼつかない意識の中、同じベッドに勝手にもぐりこんでいるミカヅキやミクを起こさぬようにそぉ~っとベッドから抜け出して、床に敷布団と掛け布団をかけて眠っているレイカとベニオも起こさない様に足の踏み場を見つけてはゆっくりと歩いてようやく部屋のドアの前に躍り出た。
「ふぅっ…」
ここから先もゆっくりとドアを開けて最後までみんなが起きない様に部屋を出ると…そっと部屋のドアを閉めた。
部屋から出たアキは眠い目を擦りながら廊下を歩き、台所までたどり付き、戸棚からコップを取り出して蛇口から水道水を流しいれ満たすと並々の水面に少し口を付けて水の啜り飲んだ
「うぅ~まだ頭痛い…」
寝起きが原因か、はたまた昨日のどんちゃん騒ぎが原因なのか、アキは頭を抱えてリビングのソファーに向かった。
「おはよう…アギラ」
寝起きに挨拶をかけられて眠い目を擦りながらソファーに座した。
「ううっ、おはようございます…ええッと……えっ えっ? ええッ!?ゼットンさぁんッ!?」
ぼやける視界が徐々に元の視界に戻っていくにつれてようやく見えた姿はアキが一番憧れる怪獣娘ゼットンであった。
そんな憧れのゼットンが…なぜ家の中にいるのかアキの頭は真っ白になっていた。
「…昨夜は…楽し…そう…だったのね」
「ふえっ?……ぎょぉっ!?」
ゼットンが目を向ける先には…テーブルいっぱいに広がった昨日の宅配ピザの残骸…何本も開けた炭酸飲料の数々、悲惨な光景を憧れのゼットンに見せてしまったと言う事実にアキはようやく慌て始めた。
「こっ、これはその…あの…ええっと!!」
あわや大騒ぎになりそうだった所にゼットンは手を差し伸べて人差し指がアキの口元を塞いだ。
「シィー…」
「しっ…シィー…?」
その指先で口を押さえられたアキはゼットンにみんなが寝ているところを起こしちゃ悪いと言わんばかりに慌てない事を促した。
「…いっしょに…片付け…よう」
「ふうっ…いっ、いいんですか?」
なにわともあれ、何故か一緒にゼットンと共にゴミ袋を広げてピザ箱、ペットボトル、その他と様々に分別して捨て行くと…
「すみません、なんか手伝わせちゃって…」
「気にしないで……お姉ちゃん、迎えに来ただけ…」
「えっ?…お姉さん、今ここにいるんですか?」
ゼットンは床を指差して自身の姉が下のBAR1954で酔い潰れている事を暗示していた。
「ゼットンさんの…お姉さん……結構、美人さんですよね」
「?」
なぜ会ってもない姉の事がアキにはわかるのかゼットンには少し疑問に思うも…せっかく来てくれたゼットンに申し訳なく、アキはとりあえず温かなお茶を差し出した。
「ええっと…ゼットンさん…前に、ボクにゼットンさんが言ってくれたこと ボクとゼットンさんが似ているって言う意味…なんだか分かって来た気がします」
「……どうして?」
「最初はGIRLSに馴染めるのか…どうしたら怪獣娘に変身できるようになるのか…そう悩んでいる時がゼットンさんにもあると思っていました ここまではボクが導き出したゼットンさんがボクと似ているって言う意味かどうか合っているか…ボクはちゃんと怪獣娘になれてますかって聞いた時…ゼットンさんは…」
「その答えは…もう、出てると思う」
「えへへッ…そうですね、そう言ってくれましたよね」
アキは初めてゼットンやみんなと大型のシャドウと相対した時にゼットンと交わした会話を思い出した。
「……今朝、夢の中でお母さんと会う不思議な体験をしたんです」
ゼットンがお茶を口にしようとした時…持ち上げた湯呑みがピタッと止まった。
「夢…なのにとてもリアルで…うれしくて…温かくて…けどちょっぴりどこか寂しくも悲しい夢だった気がします」
ゼットンは飲もうとしたお茶に再び口を付けた。
「あっ、あと初めてお父さんにも会いました…お父さん…って言っていいのか?…あった事もないのになぜか夢の中でその人がお父さんであるって認識出来るって…小さい時にお父さんを見て覚えていたのが夢にでてきたのかなぁって……でも、お父さんもお母さんも…なんだかボクが思っていたよりも想像と違っていました」
「…どう…違うの?」
アキはゼットンになら言ってもいいのか…それともどう答えるのか…悩んだ末に導き出した言葉は…
「ボクにとってお父さんもお母さんも…きっと神様みたいな人達だったんだろうなぁ~って…そんな感じでした」
自分の両親を神と言う不確かな存在だと改めて見るとアキの中でなんだかその意味があっているような気がした。
「お父さんと…お母さんが…神様?」
「…はいッ…今のボクには2人がそういうことで良いって思います…あとはお兄ちゃんを問い詰めて、ボクの中で2人を“神様”から“人間”に戻したいです そうでもしないと、ボクって何なんだろうって思えてくるから…怪獣娘アギラである以上に、ボクはやっぱ宮下アキですから」
GIRLSとして活動していくにつれて忘れていた自身のアイデンティティ、それは図らずも夢の中で出会った父と母の事を想うと一人の怪獣娘としてではなく、一人の人間として当たり前を呼び覚めていく気がした。
「…アギラ、また一つ…変わったね」
「えへへっ、そうですか?」
「うんッ…昔、お姉ちゃんと会った事のある人みたいに…優しい心がある」
「えっ…それって?」
喜ぶのも束の間にまたもゼットンから意味深なこと言われてアキは戸惑った。
「でも、忘れないで…自分を知ると言う事は…自分の知りたくない秘密までも受け入れなきゃダメ…」
そう言ってゼットンは最後のお茶を湯吞みが空になるまで飲み干した。
「ゼットンさん…やっぱりゼットンさんはすごい人…ですね」
「アギラ…私はアギラが思っているよりもすごくない…本当にすごい人はなにも怪獣娘だけが凄いわけじゃない……私でもお姉ちゃんみたいな仕事はできない、アギラのお兄ちゃんみたいに料理がうまいわけじゃない…そうすれば自分のことを見失わずに済むはずよ」
ゼットンはアキに凝り固まったゼットンへの憧れを諭し、周りにももう少し回りに目を配ることを勧めた。
「じゃあ、お姉ちゃんをアメリカに送還しないといけないから…私は…これで…」
「はい、今日は朝早くからありがとうございました…いろいろお話が出来て嬉しいです」
そうやって最後の会話を交わし終えるとゼットンはおそらく姉を回収したのちにアメリカへと姉を強制的に連れて行ったのであろう。一瞬でテレポートをして去って行った。
「…さて、今頃…お兄ちゃんは…」
・
・
・
一方、その頃…
「……う~ん…ねぇ、毎回思うんだけど…ユウくんなんで天井でいつも寝るの?」
ユウゴと交際関係にある少女、アイカ…そんな彼女と付き合いもさることながら共に寝食まで許されている関係であるにも関わらず…当のユウゴは…天井に張り付いていた。
「天井に張り付きながら目を閉じてただけだ…寝ていない」
「そういう問題じゃないわよ!降りて来なさい!」
アイカにどやされて渋々天井からまず片手を放してもう片方の手だけでぶら下がった状態になり…ようやく床に着地した。
「相変わらずトカゲみたいな寝方をして…」
「似たようなもんだ…そういうお前は頭爆発したみたいになってんぞ」
「寝癖が付きやすい体質なの!」
付き合いの長さ故かちょくちょく些細なことでも軽く言い合えるほどの仲の良し悪しがあった。
「ほら、座れ…髪、とかしてやるから」
「ユウくん…櫛なんか持ってたっけ?」
「いいから、ホラッ」
半ば強引にベッドに腰掛けさせてユウゴは背後からアイカの長めな髪をゆっくりとそれでいて丁寧にとかしあげた。
「…なんか上手すぎない…誰かにやってたの?」
「いいや、おふくろがやっていたのを見て覚えていただけだ」
髪をとかし終えると今度は髪をまとめ上げてアップヘアースタイルにきっちりと仕上げて見せた。
「ほらよ…どうだ?」
「…まぁまぁかな…急にどうしたの?私の髪なんか触れだして…」
「それは…コイツをやるためだよ」
そう言ってユウゴが差し出したのはアイカの髪をとかしのに使った鼈甲製の櫛を彼女へプレゼントした。
「実際使ってみないと分からんかったが…特に問題なさそうだ、それでも高級品だからな」
「んも~…プレゼントならプレゼントってそう言えばいいのに…でもありがとう、大切にするよ」
アイカはもらった櫛がうれしかったのか少し赤面した顔をユウゴに見せまいと顔を合わせずに反対を向いた。
「……じゃあ、俺はそろそろ行くぞ…今日の夜、21時に、なッ」
「はいはい…わかってるわ、大事なテストですもん…誰かさんのせいでまともに高校すら卒業できなくなったのは誰のおかげでしたっけ?」
「はぁ…手厳しいな…だが、ああするしかお前だって命は無かったんだろうが」
「冗談よ…お互い特殊な出会い方しているからしかたないよ」
ユウゴとアイカ、二人の出会った頃を思い出すにつれて振り返ると長くなる話であったが…
「ンンッ!…二人とも…昨夜はお楽しみでした?」
「ブウッ!?…おっ、お母さん!!…いつから居たの!?」
アイカの部屋のドアにこっそりと二人のやり取りを伺っていた母エリカにはすべてお見通しだった。
「エリカさん…昨日はいろいろ世話になりました、お兄さんにもご挨拶を…」
「別に大丈夫よ…キセキはもうとっくに仕事へ向かったわ、もうスイカに噛まれる心配はないわよ」
「噛まれたって俺のゴジラの皮膚が生半可な顎に砕かれるようなことないっすよ」
「そういう問題じゃなくて…誰かさんは愛する彼氏くんに見栄を張って勝負下着をつけて一夜過ごしていたなんて教育上よろしくないでしょ」
「お母さんッ!!」
「俺のおふくろも生きてたらこんな風だったのか?」
初めて実感する母親と言うものにユウゴは頭を掻いて首を傾げた。
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・
・
―シュタタッ…シュタンッ!シュタン!!…
ビルの合間を瞬発力の高いミレニアム形態で飛び交うゴジラは自宅付近のビルの狭い裏路地に器用に入り込み、僅かな死角内で変身を解いてユウゴへと戻る。
「…朝食には間に合うな…んっ?」
「んにゃぁ~…むにゃむにゃ…グへへそうだぁ~、このブラック指令こそが地球を統べる真の支配者なのらぁ~」
裏路地に降り立って早々に向かい側に設置の町内共有のゴミ捨て場には上下を下着姿で酒瓶を抱えたまま眠る成人女性がいた。
「…マジかよ……あんなのウチの店の客だと思われたくないな…」
ユウゴは関わらない内に自分の店のBAR1954へとそそくさと入って行ったが…
「―…なんだコレは…」
「うぅ~ん…頭いたいれすぅ~!」
「うげッ…ぎもちわるい…」
店内に入って早々に目を疑ったのは項垂れて毛布とブランケットをかけられてテーブル席で眠るトモミとメル…そして…
「おや、おかえりなさい…ユウゴ君」
「おう、随分と派手に営業したみたいだな……コイツら生きてるか?」
バーカウンターには酒の匂いを酷く充満させて眠っていると言うより気絶していると言っても過言ではない状態のミオとゼットン(姉)が酒瓶を握りしめて意識を失っていた。
「ミオさんはあなたへの罵詈雑言を吐きに吐き出した末にそちらのGIRLS支部長殿と飲み比べ我慢対決と称して『怪獣殺し60年物』を平らげてから5時間43分目です」
事情をすべて把握しているダグナの言う事に納得が行ったユウゴだったが…
―…シュンッ!
「あの~…お姉ちゃん、回収しに…来ました」
アキの部屋から瞬間移動して姉を回収しにゼットンがテレポートしてきた。
「おはようございます、ゼットンさん…朝早くからお姉さんのお迎え、ご苦労様です」
「飛行機…待たせてる……あっ、どうも…」
「おう、気を付けて運べよ…多分、瞬間移動酔い起こすぞ ソイツ」
「その時は…東京湾に…捨てる」
そう言い残してゼットン(姉)を抱えて瞬間移動で空港へとテレポートして去って行った。
――…ヴゥオエェエェエェエェエェ!!
今度はバーに設置のトイレからこの世ならざる酷い声が漏れて来た。
「…弁護士の先生…大丈夫か?」
「ウッブッ…すごく…気持ち悪いですが…何とか…」
酒豪の怪獣娘たちに無理やり付き合わされた零門がトイレで吐き出し続けていた。
「大…丈……夫…です……これくらい、事務所の飲み会に比べたら…ウッブッ!?」
「……あとでシジミ汁持ってきてやるよ」
ユウゴはソッとトイレのドアを閉めるのであった。
場所を変えて今度はバーの裏手の従業員用エレベーターからアキたちが寝泊りする部屋にユウゴは帰ろうとしたが…
「これ以上の悪い状態じゃないといいが…」
バーの悲惨な状態を目の当たりにしたユウゴだが家に帰っても嫌な予感しかせず懸念は拭えなかった。
―ガチャン…
カギで家のドアを開けると…
「アギちゃん、これの皿は何処や?」
「戸棚の2番目…ウインちゃん、卵焼き出来たよ」
「は~い、ただいま御運びします」
こちらは打って変わってGIRLSの怪獣娘たちは協力的にみんなが率先して朝食の準備をしていた。
「…下の連中とは雲泥の差だな…」
「んっ?…あぁ~!!…ユウゴさんが朝帰りだぁああ!!みんなぁああ!!ユウゴさんが朝帰りしてきたよぉおお!!」
通りがかりでミクからの警報、即座に背後からビーコンにワイヤーで拘束されて身動きを封じられた。
「なんだ一体…」
【ヒート コントロール イズ インポータンツ!】
「フェロモン警察や!女にうつつを抜かして早朝に帰ってくる浮気モンはしょぴいたる!!ミクちゃん、ダム子、フェロモンチェックや!!」
「「了解ッ!!」ですッ!!」
古典的な吊し上げに晒されているユウゴの周囲をミクとレイカはユウゴから放たれる匂いを手で仰ぎながら嗅ぎまわり始めた。
「ギルティであります、ゴモたん判事!コイツぁプンプンと女のフェロモンを纏わせているであります!!」
「ですが残念です、同性同士のBL的な展開後ではありませんでした…一途の希望が絶たれましたッ!!」
「おい、なんだコレは…一体なんなんだ、コレは?」
ワケが分からぬままにやたら異端審問的な行動に打って出て来た怪獣娘たちにユウゴは困惑した。
「おい、お前ら…何やってんだよ…」
ミカヅキたちの異端審問行為に目を瞑り切れないベニオは呆れて割って入った。
「レッドちゃん、コイツはギルティや、ギルティイイ!!吊るすんや!!浮気モンは吊るし上げるんやぁああ!!」
異端審問官ミカヅキ、ミク、レイカは枕、クッション、ガマちゃんぬいぐるみを用いてペシペシとユウゴを叩き始めた。
「さぁ、吐け!!一体、女とどんなみだらな行為をしとったんや!!イチャイチャかッ!それともチョメチョメかッ!あるいはその両方かッ!!」
「別になんもしてねぇよ…殆ど天井に張り付いて目を閉じてただけだ…」
「「「ヒィイイッ!?」」…てっ、天井に張り付いていたやとぉおお!?…いっ、一体どんな激しい事になったらそうなんねんッ!?」
【オーマイガーッ!?】
事実を言ったつもりがミカヅキたちはビーコンともども驚愕してユウゴが恐ろしくなってドン引いた。
「おっ、お前らアギラのお兄さんに変な事を聞くなよッ!…そっ、そりゃぁ…彼氏彼女、愛の形は…いっ、いろいろあるってもっもももっもんだろうがッ!」
「レッドちゃんが一番震えとるがな!!」
ベニオは恐怖していた。怪獣娘としては強豪格として知られるレッドキングが大人の底なしの愛情の表現力に…そして、高すぎるユウゴと言う大人の壁の高さにただただ震えるしかなかった。
「神様、仏様、エンマーゴ様…オレは今日初めて、大人の世界を知ってしまい汚れてしまいました…でもちょっと、羨ましいと思っている自分がここにおります 怪獣の神よ、どうか不埒なオレの心を御救いください」
「迷エル怪獣娘ヨ、ソナタの罪、禊ハライタモ~レッ!」
「「アーメン」」
【ハレルヤ!】
―ヒュゥゥゥッ…コンッ!
「イテッ」
ベニオはその場で自らの心に宿ってしまった邪な考えを浄化するために神父風のミカヅキとシスター風のミクとレイカ、イコン像風のビーコンから頭にプラスチック製の風呂桶を落とされて罪は浄化された…のだろうか…
「みんなして何してるのさぁ…お帰り、お兄ちゃん」
「おう、なんだオマエにしては珍しくメシ炊けたんだなッ…フンッ!」―ブチンッ!!―
「ボクだってご飯くらい作れるよ…みんなの手伝いはあったけど…」
唯一アキだけはユウゴに対して何気なく、何ともなく、変わらずに接していた。『あのワイヤー、怪獣娘捕縛用の特注やなかった?』と若干拘束をいとも簡単に解かれた事に驚かれながらもユウゴを始め怪獣娘たち全員とビーコンで食卓を囲んだ。
「モグモグッ…それで、いつその人と出会ったの?」
「んっ?…別に大した場所でもねぇよ…今、下で酔い潰れてるポンコツ探偵と仕事で八之島に用事があった時に会ってだな…――」
食事をしながらアキからユウゴへとユウゴが付き合っている彼女について会話を弾ませている。何の躊躇いもなく、それどころか若干会話が軽すぎる事にベーコンをムシャムシャと食べるビーコン以外の怪獣娘たちは動揺してまともに朝食が喉を通らなかった。
「――…軽ぅうううういいいいいッ!!」
「うわッ!?なに、ゴモたん…」
「聞いてられへん!!なに、何なん、なんやその会話の軽さッ!?」
「そうかなぁ?…普通じゃないの?」
「いやいや、普通じゃないよ!どこの世界に朝食ついでに身内の恋話を聞くご家庭があるのさぁッ!?」
「そうですよ!いくらBLのドラマCDを聞きながらスナック菓子食べれる私でも荷が重すぎますよ!!」
「ウインダムの言葉の意味は分からねぇが…確かにこれは常軌を逸している…まっ、まぁッ…おっ、おおおっオレは気にしてねぇけどな…」
「レッドちゃん、お茶こぼしとる」
ミカヅキたちの後ろで『アチィチィチィッ!!』と悶え狂うベニオを無視してアキとユウゴの会話が通常運転過ぎる事に怪獣娘たちは深く追求し始めた。
「アギちゃんは異常や!大事なお兄ちゃんが何処の馬の骨とも知らぬ女に取られてもええんかッ!?」
「別にそこまで考えなくても……あっ、考えるで思い出したけど、お兄ちゃんはその人と結婚する気なの?」
「まだそこまで考えてねぇよ」
呆れ返ったミカヅキはアキの胸倉を掴んだ。
「だ~か~ら~ぁああ!!言い方が軽すぎるって言うとろぉ~がぁああッ!!」
「わぶぶぶぶッ!?」
そして、絶え間ない往復ビンタを喰らわせた。
「…んなに気になるんなら別に合わせてもいいけど…」
「リアリィーッ!?」
「アキだけなら…」
「えっ、本当にいいの?」
「イズ ザット ミー!?」
アキにのみユウゴは自身の彼女に合わせてもいいと語るがなぜ自分たちが蚊帳の外なのか納得いかないあまり何故かカタコト英語口調になったミカヅキは納得が行かなかった。
「なんでアギちゃんだけなんですか!?アタシたちもここまで聞かされたら余計に気になるじゃないっすか!!」
「お前ら、他人だろうが…」
「酷いですよ!あんまりですよ!!」
「なんでそこまで気になるの…ウインちゃんまで」
「べっ、べべべっ、別に俺はお前のお兄さんがどんな人と付き合っているなんて…気にはしねぇけど、さッ、参考までにどっ、どんな恋愛をしているか、見てやるよ」
―ポンポンッ…
【ビー ホーネスト ウィズ ユーアセルフ】
この上なくバカにしたようなプラカードにブチ切れたベニオは変身してレッドキングとしてビーコンと殴り合いの喧嘩をみんなの後ろで始め出した中、ユウゴとアキの軽い会話がまだ続いた。
「お前、今日の夜9時は暇だろ…そん時に会わせてやるよ」
「まぁ、GIRLSはまだ活動できないけど…それくらいなら…」
「あと、どうせ1日中暇なら外出にも付き合え」
「んっ、どっか出かけるの?」
またも軽い会話にミカヅキは…
「なぁ~にシレッと兄妹間でデートの取り決め軽く済ませとんねんッ!?」
「えっ、いや別にデートじゃないから…そもそもボクたち兄妹だし…ねぇ、お兄ちゃんッ!」
「お前は一生恋愛も交際も結婚できねぇから代わりになってやるよ」
「前言撤回、こんな人とは絶対に付き合いたくない」
アキのプライドは傷ついた。
「ボクだってデートくらい出来るよ!…行きたい所に行けばいいんでしょッ!?」
「巣鴨の囲碁将棋センターはナシな」
「――ゴブフッ!?」
「「動揺する所ソコォ!?」ですか!?」
明かに驚き違いなことに為っているがユウゴとアキによる兄妹揃っての外出がたった今この場で決まったのであった。
アンバランス小話
『ゼットンの苦手』
最強の怪獣娘ゼットン、その知名度は知らぬものは居ないと言っていい。怪獣と言えばゼットン、強い怪獣と言えばゼットンと名を挙げればキリがないほどに強さも認知度も非常に高いことで知られる最強の怪獣あり最強の怪獣娘であった。
しかし、そんな彼女にも苦手なものがあった。
―BAR1954―
【イーツ トゥ ザ ベーコン】
カクテルグラスいっぱいに差し出されたサイコロ状のツマミベーコンを前にしてゼットンの顔から冷や汗が溢れ出て来た。
―スパコォオンッ!!
「客に何出してんだ…テメェは」
ゼットンを困らせるビーコンにステンレス盆で叩いたユウゴはビーコンをバーカウンターから追い出した。
「すまんな、ウチの変な生き物が…ほらよッ、いつものコーヒー」
「あっ、ありがとう…」
突然の事に動揺したゼットンは内心では心拍数が上がり切っている今の状態からでもユウゴのコーヒーは上がり切った気持ちすら落ち着かせてくれる何処か不思議な香りでいつも癒してくれるゼットンのお気に入りであった。
「…とてもおいしい……なんだか…懐かしい」
「大した事は何もしてないがな…気に入ってもらっているなら、何よりだ」
雑多な空気やGIRLSのような騒がしい所も常に苦手意識を抱くゼットンにとって店内BGMもなくコーヒーミルから豆を砕かれて引かれていくコーヒー豆の音やコーヒーの為に用意されたサイフォンからコポコポと泡立つ音さえもゼットンの心にゆとりを生み出してくれる。
「アンタにインスタントのコーヒーを出すわけにもいかないからな…初めてサイフォンなんて使って見たが、どうだ?」
「…ええ…とてもおいしい…」
前回のコーヒーから一段と本格的なコーヒーに癒されつつあったゼットンであったが…
―カランカランッ!
「やっほ~、ユウゴくぅ~ん…タダ酒飲ませてぇ~!!」
安らぎは脆くも崩れた。既に出来上がったミオが酒瓶を抱えてバーに現れた。
「あんれぇ~?…ちみ、どっかであった事なかったっけぇ~」
早速、コーヒーを嗜むゼットンに絡んできたミオにゼットンの顔は死んだ。
「あぁ~あ!わかったぁ~ちみはゼットンとこの妹ちゃんれしょ~」
ゼットンは理解した…この女は姉(アレ)と同類である。
以前もゼットン(姉)は酔っぱらった勢いでサンフランシスコまでの東海岸を何故か横断していた過去がある…コレはそういうタイプの人だと瞬時に理解した。
「コレも何かの縁、ホレホレ、お姉さんの酒お飲み!」
―ガシッ!
「ウチの客に何してんだ、この阿呆がッ!」
「アダダダダッ!!割れる割れる!!頭が生卵みたいに割れちゃうよぉおお!!」
ミオの背後から後頭部を握り掴んだユウゴは成人女性を軽々と持ち上げてミオは店外へと追いだした。
――数分後――
「とても美味しかった…」
「おう、また来な」
コーヒーを飲み終えたゼットンはユウゴに軽くお辞儀をした。
いつもならここでテレポートをして立ち去るが今日は何故か能力を使わずにドアから立ち去ろうとした。
―カランカランッ…
BAR1954から一歩外に出るとマンションの裏路地に出る。
「んみゃぁ?」
路地では先ほど追いだされたミオが座り込んでいたが……――ブブブブブッ!!
「―――ッ!?」
―…ボオォンッ!!
路地裏から火の手が上がった。
「おい、なんだ!?何の音だッ!?」
音に気が付いてバーから飛び出したユウゴは周囲を確認すると焦げた壁、吹き飛んだゴミ箱は真横に横転、地面に転がるミオはアフロヘアーで『ケホッ!』と言っている。
―ドンッ!
「んっ?」
更にそこへ何やらビクビクと震え怯えるゼットンがユウゴの胸に飛び込んできた。
―ブゥンブブブブブッ…
「あぁ~…なんだゴキブリか」
ゴキブリは生涯自らのハネを使って飛べることを知らない個体が殆ど…しかし、稀にハネが使えると自覚したゴキブリが現れる。これは一説にはハネで飛び立つゴキブリは知性を獲得し進化した個体なのである。
「ちょっと借りるぞ」
ユウゴは地面に転がるアフロヘアーのミオから酒瓶を拾い上げると飛び掛かって来たゴキブリを野球ボールの如く打ち上げた。
こうして最強の怪獣娘ゼットンに付与された苦手なものはベーコン、酔っ払い、ゴキブリ…だが、そのいずれもユウゴは冷静に対処してくれる為ますますBAR1954がお気に入りとなったのであった。