TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
「かくして、ユウちゃんとアギちゃん 禁断のドキドキ兄妹デートを遠巻きに見物しとるんやけど…」
場所は池袋、都内有数の商業施設が立ち並ぶ中心地にユウゴとアキの後を追跡するミカヅキ、ミク、レイカ、ベニオは2人の様子を遮蔽に隠れながら伺っていた。
「それにしてもまさか池袋とは…ユウゴさんって場所選びとしてはナイスなトコあるよねぇ~」
「アギさんのお得意の巣鴨を封じた上でお兄様属性のユウゴさんが手を引いてリードしてくれています…コレはデートポイントがなかなかに高いですね」
影ながらユウゴのセンスを確かめるミクとレイカだが文句のつけようのないデート力の高さに脱帽していた。
「シメシメ…さぁ~て、最初にユウちゃんはアギちゃんをどう満足させるかなぁ~」
アキの事を最もいじり倒していると言っても過言ではないミカヅキの観察眼が目を光らせた。
「おっ、おい…早速なんか洒落た店に入って行ったぞ!?」
「ほほぉ~…アレはチョー有名なコーヒーショップやなぁ~ 呪文みたいな注文やSサイズMサイズとかやない言い回しの難しい店やで」
ミカヅキたちが見守る中、ユウゴとアキが入って行ったのは緑のコーヒーショップチェーン店であった。世界規模で展開される有名店なだけあって周辺にはアキたち同様の女子高校生や意識の高いサラリーマンなど様々な流行に敏感な客がコーヒーショップのメニュードリンクを求めてくるだけあってその人気ぶりは計り知れないものである。
「あっ、見てくださいッ!…御二人が出てきましたよ」
「ユウゴさんは…なんか大きめのカップっすね あれなんのサイズだろう」
「その一方でアギラは……うわッ、なんかやたらと生クリームの多い飲み物だな、アレッ」
ベニオが目を疑ったのは普段からお茶などを好むアキがコーヒーショップからまさか生クリームがたっぷり入った高カロリー飲料なドリンクを手に持っているところが俄かに信じられない光景であった。
「ははぁ~ん、さすがユウちゃん…おそらくユウちゃんが手に持っているのはスタンダードドリンクのベンティサイズ、一番大きなサイズで中身はおそらくコーヒーか紅茶やな 一方のアギちゃんはフラッペチーノにホイップトッピングの上にさらに追加のフレーバートッピング…彼氏の豪快な男子力にプラスしてフラッペ注文で彼女の女子力をカバーしとる ユウちゃん、末恐ろしい子やわ」
「ゴモたんがなんか凄い分析をしてるッ!?」
ミカヅキの鋭い分析には納得の行くところがあった。事実、注文したにも関わらず自分が普段注文しないようなドリンクを前にしたアキがアワアワとたじろいでいた。
「それにしてもアギさん、なんだか慌ただしいですね」
「そりゃそうや、アギちゃんが絶対に選ばん物を前にして正気でいられるワケない…今もホラ、あのフラッペ飲もうか飲まないか迷っとるもん」
テイクアウト系の飲食は注文してから数秒から数分が消費期限である。買った以上は口にしなければ徐々にその店のメニュー価値を自ら下げるような遅延行為は汁を吸って伸び切った麵類である。
「がんばれ~!がんばれ~ッ、アギちゃん!」
「なんだかこっちまで応援したくなってきますね」
アキは恐る恐る、フラッペ用の太いストローに口を付けだした。
「おっ…おおッ!?…なんだか幸せそうな顔になったな」
「アギちゃん、初めてのフラッペにご満悦みたいやな」
アキが初めてフラッペの味を気に入った様子にミカヅキたちも安心したのかホッと胸をなで下ろす思いであった。
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次に訪れたのは池袋内で最も大きな高層ビルの下に一般客用のレジャー施設が立ち並ぶ商業施設エリアに訪れた。
「ここって色んなお店とかレジャーとかがある場所だよね」
「そうですよ!!…ここはかの有名な高層ビルレジャーシティ!! 内部はグルメやショッピング、アニメショップなんかが充実している所ですよ!!」
「ダム子、やけに詳しいやん」
やたらレイカが興奮するこの場所でユウゴとアキが何処へ向かうのか…再び後を追う。途中、レイカがアニメショップ前で暴走しそうになり2人を見失いかけたりもしたが…ユウゴとアキが立ち寄ったのは…――
「へぇ~…ビルの中に水族館があるんだ~、知らなかった」
「意外ですね…てっきりアニメショップを回られるものだと思っていました」
「なるほど、彼氏彼女と行きたい場所ランキングでも上位に食い込む『水族館』をチョイスするとは…様々なデートスポットはあれど不思議と水の中で生きる生き物を見ているとなんだか癒される“アクアリウムセラピー”…くぅ~、ユウちゃんまさかそこまでいくとは――」
「お前のそのデートサーチスキル、一体なんなんだ?」
水族館内で水棲生物を眺めるアキとユウゴ、特にアキは意外にも好反応を見せて目を輝かせながら眺めるが…一方のユウゴは体質的な理由なのか水槽に近づくと飼育の魚たちが何故か水槽端に逃げたり、隠れたり、時には死んだふりをして水面に浮かぶ時があった。
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次に2人が訪れたのは商業施設内の洋食系レストランでテラス席に座ってメニューから選んだ料理を待っていた。
一方のミカヅキたちはユウゴとアキからは見えない様に遠くの席から様子を伺っていた。
「お食事は何を頼まれたんでしょうか?」
「あたしも何頼もうかなぁ~」
「デートもいよいよ佳境やッ!男女のデートの中で食事は万物自然の摂理 学校帰りの買い食いや友達とのファミレスとは段違いにデートのすべてがココで決まると言ってもええ」
「だんだんとお前の中のデート像がおかしなことになっている気がするのはオレだけか?」
デートの終着点にして総合的に高い値を示す昼時の昼食、ユウゴとアキがどんな食事を決めたのかミカヅキたちの視線はメニュー表を眺めるミク以外が注視する。
「あっ、来ましたけど…アギさん、いきなりパンケーキですかッ!?」
「ばっ、バカなッ!あの食いしん坊のアギちゃんがランチメニューに目もくれずにパンケーキやと!?」
「そんでもってお兄さんは……普通にハンバーガー頼んでいる」
「すみませ~ん、海鮮パスタ一つ」
想定外にアキが頼んだメニューはフルーツ盛りだくさんのパンケーキであったことにミカヅキたちは驚愕した。
「あっ、ありえへん…アギちゃんにしては異様に女子力が高すぎるッ!?…一体なにが起きてはるん……―そうかッ、今のアギちゃんは口甘なんやッ!!」
「どっ、どういう事ですか ゴモたんさん!?」
「すみませ~ん、チーズドリア追加で」
予想外の事態にミカヅキの視点から見たものを蓄積された膨大なデートデータを頭の中でフル回転させて導き出した。
「アギちゃんは今、生物学的乙女な状態…普段滅多に自分から頼もうとしない高カロリードリンクを飲んで、普段行こうともしない水族館、そして今まさに注文したパンケーキ…そこから導き出される結果がアギちゃんをこのデートの間にメキメキと女子力を向上させてしまっとる」
「なっ、なるほど…」
「何言ってんだ、おまえ」
「ちょっとタバスコがほしい…」
ガタガタと震えるミカヅキ…しかし、彼女の分析はここで終わらない。
「だけど、アギちゃんがここまで己の女子力を出現させているのにはアギちゃん自身がそうさせとるんやない…アギちゃんを女子へと昇華させとるんはユウちゃんやッ!」
「ゆっ、ユウゴさんが!?」
「見てみぃ!…アギちゃんに対してユウちゃんの立ち位置、繊細なパンケーキに舌鼓を打つアギちゃんとは相対的にユウちゃんは豪快にハンバーガーを食しとるッ!」
「確かに…ユウゴさんとハンバーガーってなんだか親和性ありますからね」
ミカヅキの言い分はユウゴと言う圧倒的なまでに男性が傍にいる時、自然と相対的に異性としての立ち位置に居るアキが本人ですら無意識のうちに自分が普段では選ばない女子力の高いメニューを選んでしまっていると本人は語る。
「普段からおせんべいにお茶をすすって日向ぼっこしているようなアギちゃんがユウちゃんとのデートに触発されて内なる乙女を開放している…恐るべきはユウちゃんやッ、そんなアギちゃんの隠された本能さえも引き出す魔性…否、怪性ッ!! ユウちゃん…なんて恐ろしい子なんやッ!!」
「単に好きなもん頼んだだけだろう…」
「ドリンクバー、もらってこ~よぉっと♪」
椅子から落ちて膝を付くミカヅキは驚愕を隠せなかった。それだけにこれまで一切見る事の出来なかったアキの一面に己の想像が追い付いていなかったことへの落胆であった。
「待って下さいッ! ゴモたんさん、アレはッ!?」
「へぇ?…―のわぁああああッ!?」
ハンバーガーを注文したユウゴ、パンケーキを注文したアキ、それぞれの注文は揃っている間に単品別で注文していたステーキが到着した。
「たっ、単品共有やとぉおッ!?普段、ウチ等同士でも滅多に注文しないハイカロリーにして背徳の極みたるステーキをより多めに食べれるユウちゃんと言う男子と共に分かち合う…男女双方の注文品の間に“キング”が置いてチェックメイト、完成や、黄金比の完成やッ!!」
完璧たるデート中の食事の理想形を前にしたミカヅキの発想力は絶頂を期した。
「お前…今日はやけに表現豊かだな」
「先輩ッ、先輩ッ!ここのステーキ、1ポンドまで選べるらしいっすよ!」
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昼食を終えてのユウゴとアキのそれからは…施設内の色んなお店の中で買い物などを見て回る内に時刻は数時間をあっという間に過ごして午後3時を回った頃、2人は軽食販売のキッチンカーが並ぶ南池袋エリアに来ていた。
「ふむ、あれからアギちゃんはショッピングタイムだったせいか小腹を空かせてクレープを食べとる」
「ユウゴさんはホットコーヒーで一服休憩だね」
「あいつ、今日ずっと甘いものばっか食ってんな」
ここまでの足取りを追い続けたミカヅキは“とあるもの”を使って観察の最終形態となっていた。
「……あの~、つかぬ事を伺うんですが…」
「なんや、ダム子」
「…なんで私たち段ボールを被っているのでしょうか」
「決まっとるやろ、風景に紛れるためや」
4人はそれぞれ自分の体格にあった段ボールを身体全身スッポリと被って隠れながらやり過ごしていた。
「いままでどこもアギちゃんたちがどんな会話をしているのか聞こえない距離やったけど…この段ボール接近スタイルならこっそりアギちゃんに近づけるで!」
「さすがゴモたん!」
「いや、余計に動いているのがバレたら目立つだろう…」
何とも打算的な発想だが、今の所は周囲の環境も相まってか4つの段ボールに行きかう人々は目もくれずにミカヅキたちが中に居ることなど気づかれてもいなかった。
「よし、このままアギちゃんたちに向かって急接近や!」
ミカヅキの合図でアキたちの元へと近づこうとした矢先だった。
「あれッ、まだ荷物あったのか?」
それはキッチンカースタッフが自店舗の搬入品だと思い込んだのかレイカが隠れる段ボールに手を延ばして来た。
「なんだこの段ボール…やけに重いぞ」
「ごっ、ゴモたんさん、助けてください!!このままだと段ボールが持っていかれちゃいますよッ!!」
「ウチに任せい、ダム子!」
段ボールに手を触れて来たキッチンカースタッフの背後に回り込んだミカヅキが隠れる段ボールの取っ手口から手を伸ばし出した。
「うわっ、段ボールが動いてるッ!?」
「せいッ!」
―バチチチチッ!!
「アヴァヴァヴァヴァッ!?」―ドサッ…
「ごっ、ゴモたんさん何をしたんですか!?」
「ソウルライザー“スタンガンモード”や…非常時の護身用」
「おまえ、なんで一般人にスタンガンモード使ってんだよ!?本来、変身できなくなった時のための対シャドウ用のだぞ!?」
「安心せい、威力は落としとる!」
「あっ、アギちゃんたちがいつの間にかいなくなったよッ!?」
しかも当然キッチンカースタッフが倒れたことで周囲がざわつき始め、ミカヅキたちはその場から撤退せざるを得なくなってそそくさと逃げて行った。
ミカヅキたちはやむを得ず段ボールを脱ぎ捨ててアキたちを探した。
「2人どこに行ったんやッ!?」
「あっ、見て!あそこッ!?」
アキとユウゴが入って行ったのは道路沿いのビルとビルの間の人が滅多に入らなそうな裏路地であった。
「なんであんな所に入ってたんだ?」
「とにかく追うでぇ!」
ここで逃げられたら2人を見失う事を危惧したミカヅキたちは2人の後に続いて狭い裏路地へと入って行ったが…
「いっ、行き止まりですよッ!?」
「あん2人、どこ行ったんや!?」
裏路地の奥に進んでも出入り口はおろか隠れるための場所など無い行き止まりに突き当たってしまった。
―…ズザァァァァ―――ッ!!
「わわわッ、お兄ちゃん落ちる落ちるッ!!」
その音は何かが擦り切れる音と共にアキの声がどこからか聞こえてくる。
「アギちゃん?」
「声は聞こえますが…姿が見えませんね」
「ごめ~ん!降参や…アギちゃん、どこにおんねん」
全員がキョロキョロ辺りを見わたしてもアキの姿は確認できない中…
「んっ?…うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「えっ?どうしたんっすか先輩…一体なに・・が・・」
ベニオが腰を抜かして見上げながら怯える方向に目を向けると…そこに居たのは狭いビルとビルの僅かな距離に長い足いっぱい広げてさも空中で留まって居るような状態からアキの両脇から掴んでいるせいか重心がアキに集中して胴体が下を向いているユウゴがそこにはいた。
「みんな~…なにしてるのぉ~…」
「「「ギャァアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」
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さかのぼって数時間前…
―池袋駅―
「ほへぇ~…これが…池袋」
「なんだお前、池袋来たことなかったのか?」
「うんッ、おじいちゃんといつも歩いたのは巣鴨だったよ」
電車で訪れた池袋はアキにとって初めての土地であった。見る物すべてがアキにとってミクとレイカとで一緒に行った原宿の時と同じ『若者っぽい』と言う印象しかない。
「とりあえずなんか飲むか?…向こうにコーヒーショップあるぞ」
「おお~、有名なコーヒーショップだ…若者っぽい」
「年寄りか」
「とっ、年寄りじゃないよッ!」
思った通りの事を口にしてもユウゴに馬鹿にされた気分になったアキはムスッと少し膨れる。
「いらっしゃいませ、何になさいますか?」
「アイスティーのベンティで…おまえは?」
「えっ! ええっと、ボクは…」
入店して早々にまだ何も飲むものを決めていなかったアキは注文に戸惑った。
「えっ、え~っと…どうしよう、お兄ちゃん…どれにすればいいのかなぁ」
「あぁ?…んなもん適当でいいだろう ホラッ、マンゴーフラッペとか…――」
助け舟のユウゴがメニュー表を即座に指さした物にアキは目について…
「じゃあ…マンゴーフラッペチーノ…で」
「トッピングは何になさいますか?」
「ふえッ!?とっ、トッピングッ!?」
「宜しければこちらトッピング表になります」
驚く事にフラッペチーノには上に乗せる生クリームやソース、フレーバートッピングなど様々なカスタマイズが出来る自由さ故にアキの目を回させる。
「うっ…ううっわっ…どっ、どれがいいの…もうボクにはわかんないからお兄ちゃんが決めてッ!」
「あぁ?…なんで俺が…」
決め手をユウゴに託さんとばかりにアキはトッピング表を付きつけるが…
「ったく……じゃあ、アーモンドヘイゼルナッツホワイトチョコチップエキストラホイップパッションソースオレンジソースツインで」
「えっ!?なにその呪文みたいなの…」
「かしこまりました」
「えっ、なんで伝わっているの!?」
即決で平然と呪文じみた注文をしたユウゴにそれをすべて聞き取れた店員にもアキは目を丸くして驚いた。
「お待たせしました、アイスティーのベンティサイズとアーモンドヘイゼルナッツホワイトチョコチップエキストラホイップパッションソースオレンジソースツインマンゴーフラッペチーノでございます」
「ボクのだけ物凄く長いッ!?」
改めて聞いてみるとマンゴーフラッペチーノまで付け加えられたアキのフラッペチーノはユウゴのアイスティーに比べて格段に長く、それをスラスラと言える店員のプロ根性に驚愕させられた。
「ううっ…そして、すごくカロリー高そう…」
改めて自分で注文しておいてユウゴがトッピングを決めたフラッペチーノを前にしたアキは動揺していた。おそらくGIRLS東京支部にあるファミレスのパフェ以上にカロリーの高い物を前にしてアキはただただコレを飲むかどうか悩ませる。
「飲むなら早くしろ…」
「お兄ちゃんはアイスティーだからいいじゃん…ボクはこれ全部飲まないといけないのに…」
カロリーの怪獣『マンゴーフラッペチーノ』を前にしたアキはストローの先端に口を付ける事さえたじろがせる。
「ううっ…ええいッ、お母さんボクに力をッ!!」
アキは亡き母への想いと共にトッピング増しのフラッペチーノを口にすると…
「う~ん……あれ?意外とおいしい…」
「当たり前だ…まだフラッペの部分しか飲んでねぇからだよ…トッピングは最後の味変化だ」
フラッペチーノの構造上、ストローは底のフラッペから飲み上げていくため始めはマンゴーの滑らかな味わいが口いっぱいに広がった。
「ホントだ…段々飲み進めるとクリーミーな部分が出て来た」
「そこからよくかき混ぜろよ」
初めて飲んでみたフラッペチーノに満悦なアキはふとユウゴの顔を覗き込んで気になっていたことが過った。
「……何だよ」
「なんでお兄ちゃん、ボクと一緒に何処か行こうって気になったの?」
「…何となくだ、お前と違って俺はおふくろと親父に連れられて色んな所を行ったり来たりしてたからな」
「えっ?…お父さんとお母さんってそんな頻繁に小さかったお兄ちゃんを連れてどっかに行ってたの?」
初めて知らされる両親の知らない事情を聞かされてアキは目を丸くした。それは自分が言い出すつもりでいた両親のことについてがまさかのユウゴ自身から語られる羽目になるとは思いもしなかった。
「…おふくろは産婦人科医でいろんな妊婦の出産に立ち会いながらの放浪旅みたいな生活だったからな……親父は…いや、おふくろに比べて親父もどんな事をしていたのかまでは知らん」
「そう…なんだ……お父さんとお母さんが……“怪獣能力者”だったことも知ってるの」
「―…ッ!?」
思わぬ質問をされた事にユウゴはアキの顔を見て自身の顔は険しくなった。
「……何で知っているかなんてこの際野暮は聞かん…そうだな、もういい時期だから俺から親父とおふくろのことについて教えてやるよ」
「本当に!?」
「ここではなんだから…そうだな、ンッ?」
ユウゴは人気がさすがに多すぎる場所で驚きの激しくなる会話を避けたい一心であたりを見わたすと商業施設の館内水族館を案内するポスターに目が留まった。
「…アキ、水族館なんて行ってみないか?」
「えっ?…ここで話してくれるの?…ボクは別にいいけど」
家族の大事な話の場を水族館に移そうとするユウゴ…しかしアキにもそれはそれとして道端よりかはマシと思いユウゴの提案に合意した。
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「大人1枚と学生1枚ですね…少々お待ちください」
商業施設館内の水族館窓口で入場チケットを手にしたアキとユウゴは施設内の水棲生物の観覧展示を眺めながら2人きりで話が出来る場を探して奥へと進む。
「わぁ~…見て見て、お兄ちゃん…水族館って結構楽しいね」
「そうだな…」
アキは思い思いに水族館を楽しめているが…ユウゴはと言うと……
――ッ!?――ッ!?――ッ!?――
展示されている水棲生物、そのすべての生物たちはある気配に敏感にも反応して様々な行動を見せる。
ユウゴが水槽に近いと魚たちは何故か水槽の奥あるいは端に逃げてその辺一帯しか泳がなくなる。中には擬態死を装って腹を水面側に向けて死んだふりをする魚まで現れだす。
中には深海200メートル以上の深い海の底に生息するダイオウグソクムシはダンゴムシのような見た目だが正確にはダンゴムシではなく分類上はフナ虫の一種である。当然、ダイオウグソクムシ自体は丸くなることはないどころかできない構造…のはずだったが…ユウゴを前にしたダイオウグソクムシはユウゴの内なる領域に存在する『ゴジラ(あのかいじゅう)』への恐怖を遺伝子の奥底から呼び起こして警報が鳴る、そうしたことによりダイオウグソクムシが取るべき行動は“丸くなる”と言う防御へ身を固める。世界初、丸くなるダイオウグソクムシへの進化の瞬間であった。
「アレッ?ダイオウグソクムシって丸くなれるんだっけ?」
丸くなってしまったダイオウグソクムシを前にした飼育員も頭を抱える状況の中、ユウゴの手を引いてアキは足早に奥へと進んだ。
「もうお兄ちゃんが居るせいで全然水族館が楽しめないじゃん!」
「お前なぁ、目的忘れてんじゃねぇか…親父とおふくろの事、聞くんじゃなかったのか?」
「えっ……あっ、そうだった!」
今更思い出したことに赤面してユウゴから言われてからようやく本来の目的に帰ったアキは軽い咳ばらいをして気持ちを整えた。
「……とりあえず、あそこのクラゲコーナー見に行こう」
アキは近場に見えたクラゲの展示を指差してそこで両親のことを聞く事にした。
クラゲは他の水棲生物に比べ中枢神経すなわち脳を持たない為、ユウゴが近づいても他の生物のような反応はないためユウゴでも観覧できる唯一の水棲生物であった。
「良かったね、お兄ちゃんでも見れる生き物が居て…」
「うるせぇよ…俺が見るに値するには他の生き物が弱すぎんだよ」
「はいはい…それで…お父さんとお母さんって…どんな人たちなの?」
改めてユウゴに両親の事を問いただす為、今は他の観覧客が居ないクラゲコーナーで尋ねた。
「……1950年代から地球上には希少な生物が確認された その生物の個体群は人間と比べて著しく減少傾向にあった…その生物たちは怪獣の名を関する“能力”を有する特異な人間たちが居た」
「…それが、ボクたち怪獣娘やお兄ちゃんたちみたいな怪獣戦士(タイタヌス)、所謂“怪獣能力者”なんだね」
「ああ、日本政府が規定しているのは怪獣の“魂”を宿す者ではなく、怪獣の“力”を有する存在を怪獣能力者と規定はしているが今現在も表向きには女性のみが変身できるってことになっている」
「どうして?…お兄ちゃんたちだって、怪獣能力者なのに…」
「怪獣戦士(おれたち)がそうやって世論操作してきたからだ」
アキは顔をユウゴに向けて驚いた表情を見せた。
「20数年以上前から怪獣と人類は敵対関係だったからな…そんな時代に怪獣の力を持つ人間が地球上にいるとしたらどうなる」
「……迫害、あるいはもっと酷いことをしていたかも…」
「そういう時代背景もあって俺たちの怪獣能力者たちの間では人類側に自分たちの存在を認知させない様にと一部の権威ある人物を覗いては隠され続けて来た…親父とおふくろはそういう時代の生まれで…特に親父はゴジラの2代目だったからこそ立場は慎重にならざるを得なかった」
「そうなんだ……んっ?…ちょっとまって! お父さんが…ゴジラの2代目ッ!?」
「ああ、怪獣能力者ゴジラは俺で3代目だ」
衝撃の事実に口があんぐりと開いてしまったアキは動揺を隠しきれない。
「おっ、お父さんも怪獣能力者でしかもそれが2代目ってことは…えっ、じゃあ亡くなったおじいちゃんもッ!?」
「何言ってんだよ…あの爺さんはおふくろの、すなわち母方の祖父だろうが 親父の親父、すなわち俺たちの父方の祖父は…今は生きているのか分からん」
「えっ?どういうこと…」
「俺も一度会いに行こうとしたことがある…3年前の八之島での事は本来、そこから『大戸島』って言う場所に向かうための唯一の手掛かりだったんだよ」
驚くことにアキとユウゴの父方の祖父はまだ生きている可能性のある事実が浮上してきた。
「そっ、それじゃあ…ボクたちの父方のおじいちゃんには会えたのッ!?」
「……いいや、大戸島は50年代以降の国勢調査が打ち切られている未確認地域でしかも現在は国際立ち入り禁止区域に指定されている場所だから八之島から大戸島へ渡る手段も何十年以上も前から消失していた…俺とあのポンコツ探偵は何とか大戸島に渡るための手段を模索したけど断念したほどだ」
「……そっかぁ~、なんか残念な気もするけど…でもまだ可能性はあるんだよね」
アキにとって初めて知る両親や兄ユウゴ、亡くなった祖父以外の初めての血の繋がりのある親類がいる可能性に大いに沸き立つものが心に宿った。
「それでそれでッ!…そうなってくるとじゃあやっぱり父方のおじいちゃんが初代ゴジラの怪獣能力者なの?」
「話の流れからして…そうなるな、元々は俺の『ゴジラ』の能力的ルーツである以上は身体的構造もゴジラと同じ者と考えても妥当だ…だが、能力に関してはどういった能力を持っていたとかまでは親父からもおふくろからも聞かされなかった…というより、隠されていたのかもな」
自分のルーツがドンドンと兄ユウゴの口から聞かされていくにつれてふと疑問に思ったアキはあることについて尋ねた。
「ねぇ、『アギラ』は?…さっきからどうしてボクと同じ怪獣の能力を持っている人が居てもおかしくないのに…お兄ちゃんばっかり、『ゴジラ』だけしか出てこないの?」
「あん?『アギラ』?…お前の能力はお前だけだろう…そもそも怪獣能力者の事について話をすると長くなるから一旦その話はここまでだ」
「なんでッ、まだお母さんの話も聞いてないよ!」
「あのなぁ…」
ユウゴは頭を片手に抱えて呆れ返った。
「もうそろそろ水族館を出てメシにでもしようや…さっきからお前の腹の虫が聞こえて来てんだよ」
ユウゴの耳にはアキの『グギュゥ~~ッ…』と言う腹の虫を聞かれていた為アキは顔を赤面してお腹を隠す。
「そういえばお魚ばっかり見てたからなんだかお腹が空いてきちゃった」
「ここの近くにレストランがあるからそこで昼にでもするぞ…話の続きはそこで再開だ」
ユウゴとアキは一旦水族館内で話を途中で終わらせてアキの腹の虫を押さえるために水族館内の出入り口まで向かう道中にも様々な展示を眺めながら観賞を最後まで済ませた。
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場所を変えるついでに食事を済ませるために訪れたのは商業施設館内のレストランで先ほどの水族館からも近いテラス席に2人はメニューを眺めていた。
「…ねぇ、どれにするの…お兄ちゃんは?」
「無難にハンバーガーだな…お前は?」
「ボクはねぇ…メインよりもデザートから先に食べたいかな」
アキは普段では決してしない食べる組み合わせを変えて来た。通常はメインの後にデザートを基準とするはずのバランスを崩して初めに気になっていた“ある物”から手を付けようと画策していた。
「これ、フルーツパンケーキって言うの最初に食べて見たい!」
それはレストランが進める期間限定のパンケーキで国産フルーツをこれでもかと言うほどに写真の中だけでもたくさん盛りつけられた上で生クリームたっぷり、所謂写真映えしているパンケーキに目を輝かせていた。しかもそれをメインとの立場を逆転させて最初に食べようと言うのだ。
「んで、じゃあメインは何にするんだ?」
「そこはボクもテキトーにサーロインステーキかな…」
「お前、食べきれるのかよ」
「残ったらお兄ちゃんにあげるよ…家督的残飯分与で長男に一任します」
悪びれもせず残りそうになったらユウゴに任せると言う考えでアキが選んだのはパンケーキ、ユウゴはハンバーガー、二人でステーキを中心に分け合う事にした。
――数分後――
「お待たせしました、期間限定フルーツパンケーキでございます…こちら、ハンバーガーでございます ステーキは少々お時間を頂きますので今しばらくお待ちください」
店員が料理を運んできたところでアキは目の前に置かれたパンケーキに目を輝かせながらその光景を収めようとソウルライザーを取り出して写真を撮ろうとした。
「前にレッドキングさんが撮ってたパンケーキの写真が気になっていてボクもマネして見たくなっちゃった…オマケにパンケーキから先に食べるってなんだか悪いことしている気分だよ」
「お前の悪さの基準ショボいな」
精一杯の悪いそぶりを見せても根の真面目さのせいで食事基準の順番が変える程度しか考えつかなかった。
パンケーキを写真に収めたアキはナイフとフォークを両手に持ち出して早速パンケーキにナイフが入った。
「…それで、なんでボクとお母さんの『アギラ』の話が出てこないのさぁ…」
「はぁ?…なんでおふくろに『アギラ』が出てくるんだよ」
「だってそうでしょ…ボクの『アギラ』がお兄ちゃんのゴジラの様にお父さん側から受け継がれてきたのならボクの系譜はお母さんからでしょう?…それにちょっとお父さんの事よりも…今はお母さんの事が一番気になるんだ」
アキは今朝の夢の事が気になって誰よりも一番に考えが浮かんでくる母ユウナの事が気になって仕方なかった。
「……確かに俺もおふくろが本人から怪獣能力者ってことだけなら聞いていたけど何の怪獣だったかなんて俺もハッキリと聞いてねぇよ…ましてや『アギラ』かも怪しいぞ」
「そんなことないよ!…お母さんは絶対アギラだったって!」
アキは夢の内容が俄かにも夢だったで終わらせられない何かが自分の中であった。これだけは否定はしたくないと言う硬い決意がある。
「落ち着けよ…んじゃあ、仮にアギラだったとして…俺が思う事を言わせてもらうが俺も親父や今居るのか分からんじいさんから続く『ゴジラ』の家系の系譜なんて事は正直考えていないぜ」
「どうして?…アレだけお父さんのことを2代目とか自分のことを3代目って言っていたのに…」
「ここで言う怪獣の“代変わり系列”ってのはな、怪獣能力者ゴジラの“3体目”って言う意味もある…明確に言えば同種の個体かもしれないけど分類上は別個体なんだよ…お前、理科ちゃんと勉強してないだろう」
確かに怪獣娘たちにもメフィラス星人の怪獣娘である仁科姉妹のエミリやカレンの様に特にカレンのメフィラス星人二代目もメフィラス星人とは別個体と認識されている。
「仮に世襲制で言い切るならせめて俺の場合『ゴジラ三世』とかになるぞ」
「う~ん…確かに紛らわしいね」
もはやこれはアキの学力では手につかない『怪獣学』と言う大学研究部門にも通じる学問であるため高校生のアキには頭が痛い話であった。
「じゃあ、そうなると…ボクはアギラ二代目でお母さんはアギラだったら初代アギラってことになるの?」
「さぁな…二代目三代目って怪獣学ではありふれた俗称だから適当に言ったが俺の能力が『ゴジラ』、お前の能力は『アギラ』でいいんじゃないか?」
「そうかなぁ……でもなんか実際に聞いてみるとGIRLSで教わることと本格的な怪獣の学術的なことってけっこう違うんだね」
「まぁな…お前んとこの組織は怪獣の力を“魂”って仮定している点は分かりやすいと思うぞ…例えるならその力を先天的潜在能力って言うよりもが簡単だし、過去の怪獣の生き様だったり記録だったりは精神面にあたるならどっちかと言うと“スピリット”、精神的な魂って言えるけどまぁ“カイジューソウル”…ネーム的にはお前ららしく言うなら俺のは“怪獣ゲノム”って所か?」
「ボクたち怪獣娘は“カイジューソウル”を宿した存在…お兄ちゃんたちの怪獣戦士(タイタヌス)は“怪獣ゲノム”で受け継がれ続けた存在……う~んッ、そうなってくるとますます考えさせられる事が多いよ」
アキはパンケーキを口に運んだフォークを加えながら考えても自分の脳では頭がパンクしそうであった。
「じゃあさぁ…お母さんって産婦人科医としてお父さんとお兄ちゃんとで色んな所を行ったり来たりしてたんでしょ?」
怪獣の学問よりも母の事についてアキは言及した。
「おお、時には海外に行ってた時期もあったが…お前が生まれた時期に日本に定住したって聞いた」
「そうなの?…なんか聞いただけで損したなぁ…ボクも海外とか家族と回って見たかった」
アキはユウゴだけが家族と世界中を行ったり来たりしていたことに自分のせいで日本に留まることになったと言われて少しショックな部分もあったが…
「そんなことに為ったら、今頃お前は友達とも会えてねぇぞ…俺なんてこの国の小学校卒業してねぇし、中学だって結局卒業してねぇからな」
「まぁ、それもそうだね……お兄ちゃん高卒認定とったの?」
「お前に会う前に入国と同時に試験受けたよ…」
「結果は?」
「受かってなかったらバーなんか開いてねぇ」
薄々気づいていたがユウゴの仕事の羽振りや幅の広さから考えてもアキの知っている限り地頭の良さはかなり高い方である。
「…お兄ちゃん最終学歴って結局何になるの?」
「国内だと高卒認定程度、国外ではロシリカ大経済学部卒」
「ゴフッ!?…ケホケホッ…お兄ちゃん、大学出てたの!?」
ユウゴがまさかの大学卒業を経ている事にアキは驚いてクリームにむせ返った。
「戦時下だからリモートの飛び級…それでもロシリカの国立大だから結構むずいぞ」
「戦いながら学校の授業とか受けてたのッ!?」
聞けば聞くほどに驚かされるユウゴのロ・サでの話はアキの常識の範疇を超えていた。
「…怪獣戦士(タイタヌス)さんってみんなけっこう高学歴なの?」
「んん~…大体は大卒が多いかな」
現役の高校生の居るGIRLSと比べ怪獣戦士(タイタヌス)たちの実態が徐々にベースを剥ぐと驚くべき情報量の数々にアキはこれ以上食事中に聞くような話でないと口を噤んだ。
「お待たせしました…サーロインステーキ1ポンドになります」
「あっ、どう…もッ!?」
アキは頼んでいたステーキの大きさに仰天した。
「どうした?」
「えっ、いっ、1ポンドッ!?」
アキが注文していたステーキはメニューを見ても最大は200グラム程度しか記載していないはずだった。
「あっ、あの~…サーロインステーキって200グラムでは…」
「はいッ、期間限定サーロインステーキのみ1ポンドでの提供になります」
自分のミスであった。サーロインステーキと通常ステーキの違いを見抜いておらず期間限定と言うワードに釣られて注文していた。ちなみに1ポンドは約450グラムである。
「どうすんだ…その2倍以上ステーキ…」
「……兄妹助け合いだよね……」
「アホか…数学も怪しいな、お前」
ぐうの音も出ないことを言われてアキは悔し涙を飲んで再びナイフとフォークを持つのであった。
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食後を終えて、買い物も済ませたアキはパンケーキやステーキを食べたにもかかわらずキッチンカー広場でクレープを食していた。
「…ゴメンね、少ししか食べきれなくて…」
「殆ど俺が全部食ったようなもんだからな…別段大食漢じゃねぇが、人間だったら吐いてるぞ」
アキの誤註文で来たサーロインステーキ1ポンドの内400グラムはユウゴの口に跡形もなく消えてのであった。
「それにしてもお兄ちゃんもあれだけ食べて体形全然変わらないね」
「それだけ怪獣の代謝が異常なんだよ…まぁ、最も俺に味覚はねぇからほとんどのメシなんて豆腐を喰っているようなもんだがな」
「へぇ~……エッ!?お兄ちゃん、味覚障害なの!?」
「ああ、ゴジラになってこのかたずっとだ…丸3年は食事の真似事、むしろ食わなくても生きていける」
またしても驚かされたアキは驚愕超えて心配事ばかりが増えてしまった。
「そっ、そんな…じゃあ、ボクたち怪獣娘もいずれは美味しいとか感じなくなっちゃうの!?」
「なって見んことには分からんが…少なくともお前はまずないな、食い意地張ったヤツに味覚障害は起きねぇよ」
心なしか馬鹿にされたような気がしたアキはクレープのクリームを口に付けながらプクッと頬が膨れた。
「心配して損した…もうボク、お兄ちゃんに聞きたい事を聞くたびに損している気分だよ」
「まぁ、そこまで思い悩むなって話だ…俺の味覚障害は怪獣としての苦悩と葛藤の影響もある、思い悩まない限り俺みたいにはならん 実際、お前の目から見ても他の怪獣戦士(ヤツら)は俺みたいな連中じゃないだろ」
「う~んッ、まぁ、そうだけど…怪獣が違うって言うか、次元が違うって言うか…」
もはやアキにはなんと言っていいのやらである。
「ボクは怪獣の力に目覚めてから食べ物が全部美味しそうに見えて、一時期体形を気にしてたのに…そのせいでゴモたんにいじられてるし…」
「俺の目から見ても、お前やっぱ少し…」
「太ってないよ!」
パンケーキ終わりにクレープを食している者の言葉には説得力がなかった。
「ねぇ、それだけ強い力を持っている怪獣さんなのになんでお兄ちゃん含め怪獣戦士(タイタヌス)さんたちはずっと隠れて活動しているの?」
アキはふとした疑問が沸いてユウゴになぜGIRLSのような組織のように表立って怪獣娘が活躍できる場があるアキたちと正反対にしてユウゴ達のような怪獣戦士(タイタヌス)はメディアの前に姿をさらさないのかを尋ねたが…
「…それについては…お前の後ろに居る、警視庁公安部外事5課に聞いてみろよ」
「ふえッ、後ろ…?」
アキはユウゴと共にキッチンカーに展開する自分のイートインスペースから後ろの席に顔を向けると…
「なんでわざわざこちらに振る…ゴジラ」
「んっ?…あっ!ザンドリアスのおじさんッ!?」
「せめて従兄って言いなさい…また会ったな、宮下アキ」
「どうも…」―モグモグッ―
アキの真後ろに居たサングラスに真昼時に黒いスーツを来たラドンこと千鳥ヒエンと同僚の公安捜査員“齋藤”、同じ席で片やコーヒー片手にタバコに火を付けていたり、片や両手をクレープ2つ共に頬張る不思議なコンビであった。
「ええっと、ザンドリアスの…お兄さんはなんでココに?」
「…宮下アキ、なぜ俺達のような怪獣が世間から身を隠して生きているか…その光景の一部を聞かせてやる」
そう言ってヒエンはタバコのフィルターに口を付けて日が根元まで近付くほど吸い込むと口から話して一気に煙を吐き出した。
「…第一次怪獣時代以前以後も日本国内は各国の諜報機関が入り乱れるスパイ天国だった…そして、その状況は今も変わっていない…例えば、ここに居る外国人観光客の殆どがそういった連中の集まりだ」
言われて見れば池袋の中心にあるキッチンカー広場には訪日外国人が目に映る限りでかなり多い、それは昼時の池袋で働く者たち以上である。
「…ここにいる内でロシア人の殆どはロシア対外情報庁『SVR』」
そう言われて見てしまうとそれらしい人物の殆どは観光客に比べてやけに顔つきが険しい人が居るような気がする。
「…向こうでから揚げカレーを食っているイギリス人…あの男はMI6の名で知られているイギリスの秘密情報部『SIS』」
また、そう言われるとどこかに連絡を取っている携帯電話を耳に当てている姿がそういう風に見える。
「…今、広場に到着したアメリカ人観光ツアーの一団、その全員がアメリカの中央情報局『CIA』」
恰幅の良い男性を先頭に続々と広場を通り過ぎていく一団までもまさかと思わされる。
「あそこで談話するカップルはNATOの現地連絡員」
国籍の違う男女2人にも…
「家族連れにラーメンを配膳している中年女性は中国人民武装警察の工作員」
何ら違和感のない割烹着姿の店員も…
「今、お前の足元を横切った野良猫はモサドの傍聴マイクロチップを搭載したスパイ動物」
横切ったアキの方を見て『ニャー』となく猫までも…
「……じょっ、冗談ですよね」
「……………」「……………」
「……………………………」
ヒエンも齋藤も否定せずに沈黙してタバコを吸い、クレープを頬張り、ユウゴも黙ってコーヒーを口にした。
「そして、お前たち国際怪獣救助指導組織『GIRLS』は何故か段ボールを被ってキッチンカー横に潜伏中…」
「えっ、GIRLSが?」
ヒエンに言われて目を凝らす先に見えるキッチンカー横に放置されている段ボールは言われて見れば妙に蠢く様子が伺えた。
「もしかして…アレ、ゴモたん達?」
「だろうな 正直、池袋に来た時から尾けられている事には気づいていたが…何やってんだお前のトコの連中は…」
周囲にはもしかしたらと疑ってしまう怪しい人物たちよりも一番怪しげな段ボール4箱にアキは目が離れない。
「みんな、何やってんだろう…ンッ?…あれッ、なんか段ボール持っていかれそうだけど?」
アキの視線の先で今にもキッチンカースタッフに段ボールを持ち上げられそうになっている場面に直面した。
「あの足元、ウインちゃんだよね…あっ、小さい段ボールが動き出して エッ!?段ボールから手が出て来て何かを押し付けたら店員さんが倒れたよッ!?」
キッチンカースタッフを気絶させた段ボール集団はそそくさと逃げ出して行き、倒れたキッチンカースタッフの周りに集まりだしてちょっとした騒ぎになり始めていた。
「これだけの騒ぎになれば諜報員も目立って離れるだろう…そういうわけだ、かつて世界中の脅威であった怪獣である俺たちが世界中のコソコソしている連中からしたら監視対象だと言うことだ、今後とも身の振り方には気を付けろ」
そう言ってタバコを吸い終わったヒエンとクレープを食べ終わった齋藤はその場を立ち去って行った。
「…俺たちもとっとと消えるぞ…連中の仲間だと思われるとめんどくさい」
「待って、お兄ちゃん!このまま行ってもゴモたん達が後を追い続けてくるだけな気がする…もうこの際だからみんなと合流しよう、変な事をしでかす前に」
いくら変人にしても友人たちに変わりないからこそ見過ごせないアキはユウゴに願い出た。
「…なら、俺の言う通りに付いて来いよ」
「うんッ」
そう言ってユウゴは騒がしくなってきたキッチンカー広場を後に去って行った。
・
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ミカヅキたちが使っていたと思われる段ボールを見つけ、その方向に回り込みつつ、皆に見つかりやすい位置と狭い路地裏に続く先へと入ったユウゴとアキは…
「…よし、ここまでなら十分だ」
ユウゴはゴジラに変身し、ミレニアムに形態を変化させると…
「ねぇ、まさかこの後って…」
「決まってんだろ…この上にあがってやり過ごす!」
そう言うとゴジラがアキの腰に手を回すと跳躍してビルの真上まで飛び上がってビルの壁岸で止まって変身を解いた。
「うわぁ~~…ねぇ、まさかこの後にボクが想像している事をしようとしているよね」
「まぁな…さんざん人の出先にまで尾けてくる連中には御灸をすえるため だッ!」
そう言うとユウゴは壁岸から手を放すと落下と同時にユウゴがビル同士の壁と壁の間に足を広げて足の力でブレーキを掛けた。
―…ズザァァァァ―――ッ!!
「わわわッ、お兄ちゃん落ちる落ちるッ!!」
アキは精一杯ユウゴの首にしがみついて離れたら確実に下に真っ逆さまで昼に食べたフルーツパンケーキの様な状態を頭の中に過る。
しかし、ブレーキのかかった勢いはやがて失速し始め徐々にミカヅキたちの真上で止まった時だった。
「うおッ、身体が…」
「えっ、ちょっ…お兄ちゃんッ!?」
アキが背後に居る為、ビルの壁と壁に支えている足のブレーキ部分が踵を軸にしているせいか背中に居るアキが重量となってユウゴ諸共後ろへと半周した。
「うわぁああッ、落ちるッ!!」
「ホッ!とうッ!」
半周した勢いで手を放してしまったアキの手をユウゴは手を延ばしてギリギリでアキの両脇を摑まえると宛らサーカスの雑技演舞もような体勢になっていた。
「んっ?…うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
最初に気づいたのはベニオが腰を抜かして…
「えっ?どうしたんっすか先輩…一体なに・・が・・」
次に気づいたのはミクから始め、次第に全員がアキとユウゴの方に目が向くと…
「みんな……なにしてるのぉ……」
「「「ギャァアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」
ユウゴとアキの今の状態を見た全員が絶叫した。
「みんな落ち着いて!ボクたちだよ!」
「妖怪や!!妖怪T字カミソリ兄妹やぁああ!!」
「誰かぁアアッ!!助けてぇええ!!」
あまりの恐怖に足が震えるミカヅキに怖くてその場で丸くなるベニオ、壁に向かって逃げ場のない場所で助けを求めるミク、衝撃で魂が抜けて真っ白になっているレイカ、状況は阿鼻叫喚であった。
「落・ち・着・い・てッ!!…ボクだよ、ボクッ!」
「ふえッ?…あっ、アギラッ!?」
顔を上げて確認したベニオはようやくアキであることを理解した。
「なんや~アギちゃんたちかいな…まんまとビックリさせられたでぇ」
ミカヅキもようやくアキとユウゴであることに気が付いてミクも冷静を保ちだすと魂の透けたレイカに魂を無理矢理押し込んで呼び覚ました。
「なんでみんなしてこっそり尾いてくるような真似するのさぁ」
「またまた~ぁッ、そういってアギちゃんこそユウちゃんと楽し気にデートしとったクセに~ィ」
「デートじゃなくて、2人きりで話が出来る場が欲しくて前々からお兄ちゃんに頼んでたんだよ!プライベートな話をしていただけだよ!」
どれだけ言い訳してもミカヅキたちにはニヤニヤと笑い見られて誤解が全然解けない中…
「ところで…俺たちを尾けていたのはお前らだけか?」
「えっ?…そうですけど…」
何かが腑に落ちないユウゴは指先をビッシリと伸ばして指した。
「ふぇッ?ウチ?」
「ちょっと後ろ向け」
ユウゴに言われて後ろを向いたミカヅキは…
―ズボッ!
「ひゃんッ!?」
後ろを向いた拍子にユウゴがミカヅキの私服のパーカーのフードの中に手を突っ込んだ。
「何すんねんッ、ユウちゃん!?」
「…シィー…」
驚くミカヅキと怪獣娘たちに向かって人差し指で『静かに』のジェスチャーをした。そして、その手には黒い何かの装置をミカヅキのパーカーに手を入れた方の指先で詰まんでいた。
「……スゥッー…ダァアッ!!」
突然、大きな声で小さな黒い装置に声を上げたユウゴだったが次の瞬間…ガタンッと後ろのダストボックスが一人手に激しく動いた。
「うぎゃあッ!!」【アウチ!!】
反動で傾き倒れたダストボックスの中からミオとビーコンが出て来た。
「ミオさんッ!?ビーコンッ!?」
「そんなこったろうと思った…この流れでテメェがついて来ないワケがねぇわ」
冷静に察していたユウゴはミオとビーコンも尾いて来ていたことに気が付いていた。
「フフフッ、さすがユウゴ君…私が立派な探偵に育てたかいがあったわね よくぞ、この名探偵のミオさんの尾行を見抜いたわねッ!」―ビシンッ!「あ痛たッ!?」
「何が名探偵だッ、迷惑探偵が…尾行が相変わらずザルなんだよ」
「ウインちゃん、気づいてた?」
「いえ、まったく」
「どういうことなのさッ、ゴモたんッ!」
「いや~…なんでだろうなぁ~」
悪びれる素振りも無く誤魔化そうとしているミカヅキに胸倉掴んでアキに揺さぶられる拍子にミカヅキのパーカーのポケットから1枚の紙きれが出て来た。
「なんだ、この領収書……『調査協力費用前払い』?」
ベニオに拾われた紙にすべてが明るみになった。
「……ごめんちゃい☆」
「ゴモたんッ!!」
ミオたちを引き連れて来たのはミカヅキが元凶であった。
「…んで、お前は俺をどうしたいわけだ?」
「ンフフフッ~こうなったらお姉さんも一度その交際相手ちゃんにあって話がしたいなぁ~って思ってさぁ~…ユ・ウ・ゴ・くぅ~ん♡逃げられると思うなよ☆」
満面の笑みでどこからともなく虫鳥網を取り出してジリジリと笑顔を固定したままユウゴにミオが近づいてくる。
「……アキ、買い物で買ったヤツを出せ」
「えっ、アレで何を使う気ッ!?」
この状況下で一体どうやって切り抜けるのか…すべてはアキが手に下げる手提げ袋の中にあった。
アキはすかさず手提げ袋に手を入れてある物を取り出した。
「あらッ?2人してお揃いで何サングラスなんか掛けちゃって…」
手提げ袋から取り出したサングラスでユウゴとアキはそのまま目に掛けた。すると…
「おいッ、ベーコンジャンキー野郎!コレを見ろッ!!」
そう言うとユウゴは手にある物をビーコンに見せた。
【ワッツ?】 【!?】
それは北海道産最高級のブランドポークで加工された超高級ベーコンであった。
【ビーコン・フラッシュ!!】
その瞬間、眩い閃光がビーコンから発せられてその場で目を保護していない者たちに直接視界を奪いに来た。
「うぎゃあああああッ!!目がぁあああ!!」
「何事や!?何が起きたんや!?」
「なんも見えねぇぞ!?」
一瞬の光に目をやられたミカヅキたちは目を擦りながら視界を再確認すると…そこには既にユウゴとアキの姿は居なかった。
「やられたッ!アギちゃんたちがおらん!?」
「ビーコンッ!あんた、なんてことしてくれてんのよ!?」
ユウゴとアキを取り逃がす原因を作ったビーコンを攻めようにもその場にはもちろんビーコンも既におらず、代わりに【ゴー トゥ ホッカイドー】と書かれたプラカードがその場に残っていた。
「あぁ~いぃ~つぅ~らぁ~ぁあああッ!!」
すべてにおいてうまくいかなかったミオは怒り狂って我を忘れ、宇宙怪獣ベムラーの遠吠えだけが裏路地で空しく咆哮するのみであった。
アンバランス小話
『姉への不安』
GIRLSを引退したもう一人のガッツ星人の怪獣娘こと印南マコ…怪獣娘としてではなく、一人の人間として一般社会に復帰したマコはGIRLSではなくなっても自宅ではもう一人の怪獣娘と関わる。否、一生家に居る限り関わり続けることになる怪獣娘が居る。
―プルルルルッ!プルルルルッ!…ガチャッ―
「はい、印南です……って、なんだ…お父さんか」
印南マコの父親は自衛官幹部であるため自宅には特殊な回線を通じた固定電話でしか父から家、家から父に連絡を入れる手段は無い。
「なに?……うんッ、あっそ…はいはいわかったから、ミコにも伝えとくから…はい、はい、それじゃあ」
受話器をガチャッと切るとマコは目頭を押さえて父親から聞かされる小言じみた伝言を双子の姉ミコに伝えに向かった。
ミコの部屋はマコの部屋の真向かい、2回に上がって2つの扉の1つ『ミコの部屋』と可愛らしい札が掛っている方である。
ドアの前に立ってミコに伝える前にまずは中にミコが居る事を確認する。それもそぉ~っと擬音が出せるほどのゆっくりにして無音で開ける。
「♪~♪♪~♪」
部屋の中ではミコが鼻歌交じりに何かをしている。
「んっ、よし出来た!」
何か作業をしていたようだが…何かのアルバムの様であった。
「んふふ~んッ、我ながら上出来!」
それはGIRLSでの仕事なのか、『怪獣図鑑』と書かれている表紙の厚手の本が見えた。
「我ながら中々ね、さすが無敵のガッツ星人ッ!如何なるシャッターチャンスも逃さないわッ!」
その中身をこっそり覗くと…怪獣娘たち…の、何故かお腹ばかりの写真がそこには映っていた。
「これがピグっちでしょ~、こっちはゴモ、こっちはレッド、こっちはエレ……そして、これがアギとアギのお兄さんのお腹、くぅ~ッ!兄妹にしてこのプニプニとガチガチの腹筋違いがたまらないわ!」
前々から気づいていたが姉の趣向に変化が起きている。いや、寧ろ悪化していると言っていい。
「ハッ!?誰ッ!?」
ミコは気配に気が付いて後ろを振り返った…しかし、扉は閉まっていて誰も居なかった。
「……気のせいか…さぁ~って、今度はアギ兄妹のファイルをつ~くろッ」
・
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―BAR1954―
「姉が病院から退院してからおかしくなった…」
「……なんでそれを俺に言う……」
既にGIRLSではない印南マコはここBAR1954ではガッツ星人として姉ミコの不安を吐き出す。
「…アンタの腹筋のせいで姉が壊れたのよ」
「どういうことだ…」
マコの受難は続く…