TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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怪獣のための授業

―シュタンッ…

 ミオたちの追跡から逃れたユウゴとアキはゴジラのミレニアム形態を利用して街中のビルと言うビルの屋上を飛びまわって辿り着いた人の気配のないビルの屋上に降り立った。

「結局、みんなから逃げて来たけど…これからお兄ちゃんの彼女さんに会わせてくれるんだよね」

「約束したからな、今日の俺もそのことで用事あるからついでだ…まぁ、どうせいつか顔合わせる気ではいたからな」

 アキはユウゴが自分から身内以外の知り合いをアキ自身に教えようとするユウゴの姿を始めてみる。

「そう考えると…なんだかドキドキしてきたよ、ボク」

「何でお前が緊張してんだよ」

「それはそうだよ!だってお兄ちゃんにしては珍しい上にお兄ちゃん自身が交際する人ってどんな人なのかとか考えちゃうよ」

 合わせてもらう手前、アキはミカヅキたちの前では平然を装っていたものの内心では会いに行ける距離が近づいてくると思うと心拍数の上昇が計り知れない。

「それで、どこで会わせてくれるの?」

「あそこだ」

 ユウゴが指さした先にあった場所は…

「がっ、学校ッ!?」

 まさかの待ち合わせ場所が高校であることにアキは驚愕した。

「おっ、お兄ちゃん…まさか付き合っている人って高校生なの!?」

「いいや、もう高校生じゃない」

「なっ…なんだ~…ビックリした」

 一瞬、アキと同世代の高校生と付き合っているのかと同様してハラハラさせるものがあった。

「むしろ、俺のせいで高校に進学できなかった節もある」

「思っている以上の大罪ッ!?」

 予想の斜め上を行く驚愕の事実にアキは頭を抱えた。

「なッ、ななッ、何してるのさぁ!?えっ!?お兄ちゃん…のせいで、高校生活を送らせてあげられなかった!?」

 アキはユウゴの革ジャンの襟に飛び掛かって胸倉掴んで一体何をしでかしたのかを問い詰めた。

「ちゃんと説明してッ!事と次第によっては御相手さんに正式な謝罪をしなきゃいけなくなるじゃん!?」

「あん?…死にそうになっていたところを俺の血を輸血しただけだよ」

「それがなんで高校に通えなくなる事態になったのさぁ!?」

「血を与えたらなんか怪獣能力者になってた」

「アホォオオッ!!」

 ユウゴの交際相手はまさかのユウゴの輸血による同族化による変化で高校生に為れない原因を作っていたことにアキは更に激高した。

「色々あったんだよ…八之島でいろいろあって…」

「どういう理屈であってもその人の人生をめちゃくちゃにしていい理由になんてならないよッ!!この鬼ッ!悪魔ッ!怪獣ウイルスッ!!」

 まるっきり反省を感じないアキは罵倒出来る限りの言葉を吐き出すもユウゴには全く通じていない。

「言いたいことはそれだけか?」

「こっちのセリフだよッ!!ボクの期待と緊張を返せッ!!」

 もはやユウゴの交際相手に会う気持ちなど作れない。寧ろ家族として穴があったら隠れて一生出て行きたくない気持ちの方が勝っているのに待ち合わせは刻一刻と迫っていた。

(こうなったらボクが家族を代表して謝罪するしかない!)

 アキは決意させたのは腹を括って相手方に謝ることだけであった。

 ユウゴの交際する相手との待ち合わせ場所は都内にある私立の女子高校であった。アキが通う学校よりも格式が少し高めの故に自分との世界戦の違いを感じる場所でもあった。

「ほへぇ~…ここの学校の制服ってなんか可愛いなぁ~」

 GIRLSの制服や自身が通う学校の制服と比べても女子高の制服なだけあって女子の印象を引き立てる縫い付けと生地の良さが展示されているガラスケース内の制服から伝わってくるようであった。

「何してんだ、行くぞ」

「ちょっと待ってよ」

 玄関先からユウゴに置いて行かれそうになったアキは慌ててユウゴの後をついて行った。

 休みの日であっても夜も差し迫って来た時間帯の学校内を歩くのは少し不気味な気配を感じさせるものがあった。

「こっ、こんな時間に…なんで待ち合わせてるの?」

「なんでもここはアイツにとって思い出が深い場所らしいからな…俺は学校なんてものに拘りはねぇから良し悪しなんざ分からん」

「10代で海外に行ってた特殊な人には分からないよ!みんながみんなお兄ちゃんみたいに器用な生き方はできないから学校で思い出なんかを作ったり、勉強したり、いろんな事を経て3年間を過ごすのが普通の高校生なんだよ!」

 ユウゴも年齢的には高校生に匹敵する世代でありながら特殊な事情で高校生活と切り離れて生きて来た事に対して学生代表としての威信にかけてアキは強く訴えかけた。

「アキ…怪獣はどこまで行っても怪獣だ 人間の様な今まで通りの生活が出来るとは限らない…今日、お前をここに連れて来たのはソレを教える為でもある」

「何?どういうこと?」

「さんざん豪語している学校とやらの良さを活かすなら…こういう場はもってこいだと言う話だよ、まぁ、今にわかる」

 何やら含みのある言い回しを言われたアキは言い返したのに言いくるめられている気がしてならなかったが…

――♪~♪♪~♪♪~――

「ひぃっ!?…ピッ、ピアノの音だ…」

 人が居ないはずの学校内でアキの耳にどこからか聞こえてくる音色が入って来た。

 誰も居ない学校、どこからともなく聞こえてくるピアノの音、古くから聞かされる夜の学校の恐怖をそそる…それは正に怪奇現象を連想させてアキを恐怖させた。

「…音の方はこっちからだ…行くぞ」

「エッ!?いっ、行くの!?…待ってよ、お兄ちゃん!!」

 何の恐怖も無く、恐れを知らぬユウゴが先陣を切って歩みを進め、その後ろからアキもたどたどしくついて行った。

「ううっ、夜の学校から聞こえるピアノの音なんて…学校の怪奇現象とかじゃないよね」

「かもな」

「ちょっと!?少しは否定してよ!!」

 普段の物事に否定的なユウゴがやけにアキからの意見に今になって“悪い事”だけは否定しない。それがかえってアキにとってはますます恐怖であった。

――♪♪~♪♪~♪~――

 段々と音がハッキリと聞こえてくる距離まで近付くとユウゴの足が止まった先は学校内で唯一音を発して授業する学問に通じる場所『音楽室』であった。

「きっ、きっとまだ学校内にいるこの学校の生徒さん…だよね」

 恐る恐る音楽室のドアに設置されているガラス窓から中を覗き込んで見たアキだったが…

 中で音を発していたのは花びらの様なベールが頭から髪を巻き込むように束ね、全身を真緑色の植物の茎のようなドレスと見間違えてしまうがれっきとした生物の体表の様でもある獣殻(シェル)である。しかし、そのような人外的な部分とは別に顔には赤い花の仮面をつけた様な女性でもあり、ピアノをずっと弾き続けていたのは植物型の怪獣娘であった。

「かっ、怪獣娘さんッ!?」

 声を荒げてしまったアキに気づいたのか、ピアノを弾いていた怪獣娘がピタッと弾くのを止めた。

「だれ?…そこに居るのは…」

 そして気づかれてしまったことでアキの方へ声が掛った。

「ごっ、ごめんなさい…盗み聴くつもりはなかったんです」

 気づかれてしまった以上、隠れ続けるわけにもいかず渋々音楽室の中へと入ると…

「時間に間に合うようにとは言ったが…先に来て何やってんだ、おまえ」

「ふえっ、お兄ちゃんのしりあい!?…てことはまさか…」

「ユウくんこそ、妹さん連れてくるなら先にそう言ってよ」

「ユウくんッ!?」

 ピアノを弾いていた怪獣娘とユウゴが顔見知りで愛称を用いて呼びほどの仲であることにアキは何が何なのか理解が追い付かず頭が混乱していた。

「あなたがユウくんの妹さんのアキさんね…初めまして、ユウくんとは長い事お付き合いをさせていただいています 怪獣能力者のビオランテと言います」

 ピアノ台から立ち上がって可憐に挨拶を交わして来た怪獣能力者ビオランテの容姿は獣殻の仮面越しでもわかる気品に満ちた佇まい、怪獣娘とは見た目もスタイルも品性さえも違うまるで別の生き物を見ているようであった。

 怪獣の能力を宿す者とピアニストと言う混ざり合いようのない要素の二面性が親和して調和を保っていると言うビオランテに対して第一の対面でアキが取った行動は…

「すみませんでしたぁああああああッ!!」

「ええええッ、どうしたの急にッ!?」

 突然、相手が挨拶を交わしただけのアキは膝を付き、床に額を付け、両手を頭より前に置いて平伏の土下座をかましてきたことにビオランテは困惑した。

「お姉さんがどういう方なのかまだ存じ上げませんが、ウチの愚兄がお姉さんの類まれなる才覚と将来を踏みにじったこと家族を代表してお詫び申し上げますぅうう!!」

「ええええッ、なにこの子!?なんでこんなに腰が低いのッ!?」

 GIRLS指導課ピグモンこと岡田トモミ直伝の華麗なる土下座を持って謝罪した。

「出会って早々になに馬鹿なことやってんだ、お前は…」

「馬鹿はソッチだよ!こんな素敵な人にヒトの道から外してなんで怪獣なんかにしてくれてるのさぁ!?」

「オメェもその怪獣だろうがい」

 獣殻越しからでも伝わってくる人間性の良さがアキにはより一層に愚兄(ユウゴ)が犯した罪の重さは身内である自分自身に辛くも重く伸し掛かって来たが故に自然と膝と手が床に付いて謝らざるを得なかった。

「とっ、とにかく顔を挙げて…別にユウくんは何も悪い事をしたわけじゃないから…」

「いいえ、ビオランテさん!!あなたの様に明るい将来を約束されていた方にボクたちの様な獰猛なモンスターの世界へ引きずり込んだのはあの男ッ!ひいては止める事が出来なかったその罪はボクの罪なんですッ!!」

「おまえ、サラッと他の怪獣能力者も否定してんぞ」

 この衝撃は初めて怪獣娘と言う存在を前にした時の気持ちとは反対に後悔と言う形で初めて会う怪獣娘に抱くような感情ではないがインパクトは同じくらいあった。怪獣娘を教えてくれたゼットン、怪獣娘にしてしまったビオランテとでは抱く感情はまるで違うがその衝撃は同等のベクトルである。

「ううっ、ビオランテさん…ピオランテさんはすごく綺麗で、ピアノが上手で、非の打ち所がない人格者さんです…決してあんなお兄ちゃんと書いて外道長男なんかが付き合っていい方なんかじゃないですッ!!」

「ええっと、褒められているようで貶されているような言い方をしていない?」

「誰が外道長男だ」

「実際、何か弱みでも握られていませんか?」

「ええー…」

「燃やすぞ、愚妹ッ!」

 認識しきれないこの2人の交際関係に対してアキにはユウゴからの悪行疑惑が拭えなかった。

「…ちゃんとした交際ですよ…もっとも恋愛とかの付き合いじゃないけどね」

「ったく…いいかアキ、人の付き合い方ってのは行きつく所は“信頼”だからな」

「おっ…お兄ちゃんがまともなことを言っている!?」

「消し炭にすんぞ、馬鹿長女ッ!」

 なんだかんだ誤解が一部溶け切れていない事を省いてもだいぶユウゴとビオランテの印象が変わった。

「それで…なんでおまえが先にこっちに来てんだ、予定より数時間はあるぞ」

「前から一度この学校のピアノを弾いてみたかっただけよ…怪獣になってから入学が決まってたこの学校の未練みたいな気持ちに踏ん切りを付けたかっただけなのかもね」

 アキの胸にはトドメの矢じりが胸の内にグサリと刺さって来た。

「ほぉ~んとぉにウチのがお姉さんの未来をぶち壊した件については申し訳ありません!!」

 腰は直角90度、最敬礼での謝罪である。

「ああ~ッ違うのよ、別にそんな深い意味はなくてね…」

「ホラッ、お兄ちゃんも謝って!責任を取って謝って!!」

「なんでお前に催促されなきゃならん…と言うか、俺は謝るような事はしとらん」

「現に人の人生をメチャクチャにしているじゃん! いや、怪獣の人生だから怪生かッ!!」

 むりやり謝らせようとユウゴの頭を押さえつけようにも体格の違いでアキにはユウゴの肩に乗って頭を押し込むのがやっとの思いだが巨木ユウゴは動じない。

「……プッ…はははッ、お話に聞いていた通り…妹さん、面白い子ね」

「ぐぅえ~ッ…えっ?」

「どこがだ…あたまのおかしいヤツだぞ」

 頭を押さえつけようと肩に乗ってきたのに逆にヘッドロックされてやり返されているアキを見たビオランテは笑っていた。

「そうか~…やっぱ兄妹ってそういう感じよね、ウチとは大違いだわ」

「ビッ…ビオランテさんにもお兄さんがいらっしゃるんですか?」

「ええ、警察官の兄が居るんだけど…いつも仕事で家を空けるどころか殆ど家に帰ってこないんだけどね」

 ビオランテは自身の兄とは対照的なユウゴとアキの様な少しいがみ合う感じが彼女には新鮮な光景であった。

「いやいや、立派なお兄さんじゃないですか!?…ウチのと比べてみてくださいッ、鬼ですよ!悪魔ですよ!人でなしですよ!!」

「怪獣だ、阿呆が…」

 自分の所の兄とビオランテの兄と一緒にしてほしくないアキはビオランテを諌めるが…

「逆にそういう所に惹かれているから付き合っているの…兄には無い兄以外の男性の魅力に」

「ビオランテさん…」

 ビオランテはアキと同じ目線になるように膝を曲げて近づいた。

「あなたもいずれ誰かと付き合う日が来るとき…あなたのお兄ちゃんとは違う魅力のある人と付き合えるよ」

「まぁ、そんな日はこの先あるか分からんがなッ」

「あなたは黙って居な…さいッ!」

 ビオランテは良い助言をしているのに茶々を入れるユウゴへ腕の獣殻の下から伸びる蔦を鋭利化させて飛ばすもユウゴが避けた拍子に音楽室のモーツァルトの肖像画に穴を空けた。

「うおッ!?誰だ、ウチの学校の備品を壊しているのは!?」

 ソコへ丁度学校内を巡回する男性に見つかった。

「わわわッ!?ごっ、ごめんなさいぃぃいいッ!!」

 咄嗟にまたしても頭を下げたのはアキが先であった。

「まったく、授業を始める前に学校を破壊する気かい?…そんなんじゃ先が思いやられるよ」

「ふえっ?…アッ!」

「宮下アキ君、お久しぶりですね…土田コウタですがまたの名をバラゴンと言う怪獣戦士(タイタヌス)です」

 アキが恐る恐る顔を上げると…そこに居たのはベムスター姉妹の一件で世話になった高校教師の土田コウタであった。

 しかも驚くことにその男もユウゴと同じ怪獣戦士(タイタヌス)であると言う証明に腕だけを怪獣の姿を具現化させて見せた。

「つッ、土田先生も怪獣戦士(タイタヌス)さんだったんですか!?」

 あまりにも衝撃的な事実に世間の狭さを痛感したアキだったが…

「普段はここの学校で国語の教師をしているが…今日の私は怪獣の為の教鞭をとりにきた怪獣戦士(タイタヌス)のバラゴンだ…どうぞ、よろしく」

「えっ、あっ…どうも……んっ?教鞭って事は、もしかして今から授業をされるんですかッ!?」

「一応、教師だからね」

 散々ユウゴが含みのある言い回しをしていた理由が分かってきたアキはユウゴを睨んだが、ユウゴは穴の空いたモーツァルトの肖像画の方を向いていた。

「まさか何も伝えていないのかい?ユウゴ君…」

「伝えなくてもここ来ればわかると思ったが…ここまで鈍感なアホだとは思わなかった」

「酷いよッ!そんなのちゃんと伝えてくれなきゃボクだって分からないよッ!!」

 いつも皆から自分達兄妹間の会話がテレパシーレベルと言われる理由がわかって来た気がしたアキだったが、こと怪獣に関する知識の共有の場となれば話は別であった。

「でも、授業かぁ~…ついにボクのGIRLSの怪獣娘としての真価が問われてきた気がします!…―ソウルライド アギラッ!!―」

 アキはソウルライザーに指を滑らせて光り輝く繭に包まれると全身を怪獣の殻に覆われた怪獣娘アギラへと変身を遂げた。

「土田先生…いや、今日はバラゴン先生って呼ばせてください! こう見えてボクは怪獣の授業ならGIRLSの講義とかだって結構好きな方なんです」

 アギラへと変貌を遂げたのは同じ怪獣同士と言う土俵に立ってバラゴンからの授業を聞くためでもあった。受講の意思は万全である。

「…無駄に優等生っぽいこと言っているが…お前の成績はここにすべて書いてあるぞ」

「ふえっ?…ふぁぁああああッ!?なんでお兄ちゃんがボクのGIRLSの成績表をッ!?」

 それはGIRLSが指導組織である所以として学校機関同様に各怪獣娘にはそれぞれGIRLS内での講義中の姿勢や理解度、果ては試験の結果まで記載された成績表が配られる。しかも自宅に“郵送”で…

「見てくださいよ、先生…コイツ、怪獣学に関しては平均よりやや下降傾向なんですが…」

「おや、本当ですね…怪獣学は理数系にも関わってくる重要な科目なのに…しかもコレを見る限り他の科目にも怪しい点が見受けられますね」

「そうなんですよ…ちょっと保護者としては心配事で…」

「なんでこういう時だけ保護者面するんだよぉお!返してッ!!見ないでよッ、ボクの成績ッ!!」

 見開かれたGIRLSでの成績表に現役の怪獣戦士(タイタヌス)たちも苦言を呈する。特に現役の高校教師であるバラゴンの視点からと言う点が一番の説得力があった。

「アキ…今日はお前のこの粗末な成績を鑑みて俺たちの方で特別な授業をバラゴン先生に頼んでやった ありがた~く、授業を受ける様にッ!」

 アギラは自身の成績表を抱えて赤面しながら『お兄ちゃんが言うなッ!』と吠える。

「よしよし、私も一緒に授業受けるから…アキちゃん、今日だけは同じ授業を受ける生徒になろうね」

「びっ…ビオランテさん…」

「ついでにそこの不良怪獣にも強制参加させるわ…兄妹仲良く授業受けてね」

「あぁんッ?なんで俺まで…」

 優しく頭を撫でてくれるお姉さんなビオランテからの提案を聞いたアキは目を光らせてクルンッとユウゴの顔を見てニヤけた表情を向ける。

「良かったね、お兄ちゃん…今日だけはボクと同じ“同級生”だよ」

「言っとくが俺とお前とでは学力に差があるからな…どれだけ同じ授業を受けてもお前が俺を知力で超える事は無い」

「はぁんッ、そんなのやって見なきゃ分からないよッ!こっちはピグモンさんから受けて来たGIRLSの講義の場数が違うよ、場数がッ!!」

 兄妹でバチバチと視線をぶつけ合い火花を散らせる様子にビオランテと授業をするバラゴンを置いていく。

 

 

 場所は学校内の1年生の教室、席は3つの席にそれぞれビオランテ、アギラ、そしてゴジラが座るが…明らかにサイズが女子高の座椅子に合わないためゴジラだけ尻尾で椅子として腰をかけていた。

「センセーッ 隣の不良くんがちゃんと椅子に座っていませーん 授業なんて受ける姿勢には到底思えませーん」

「あぁん?…だったら座れる椅子を持ってこいや、優等生モドキが」

「二人とも授業を始める前から教室で喧嘩しないの…」

 授業前から既にギスギスした態度を見せるゴジラとアギラをビオランテが宥めた。

「はいはい、お喋りはそれまで…僕の授業を受ける以上は私語厳禁、隣の席の子が不良でも、怪獣でも、何であっても等しく生徒として扱い授業をします…いいですね」

 バラゴンは教壇に立って授業を受ける怪獣たちの為になる講義が始まる。

「それでは、今ここに怪獣戦士(タイタヌス)、怪獣娘、怪獣能力者…それぞれが異なるようで同じく怪獣の力を宿す者同士が一同に会しているため今日は『怪獣の為の授業』を行います、教科書の54ページを開いてください」

「えっ…きょっ、教科書…どっ、どどっどこ?」

 アギラは慌てて教科書を探すも机の中にあるはずもなく、あるのは本来自分の席に座っていた誰かの持ち物しか入っていなかった。

「ほらよッ!コイツを使え…」

「えッ!?…お兄ちゃん、これ誰の教科書ッ!?」

「なんか近くの席に入っていた」

「人の教科書だし、勝手に取り出さないでよ!」

 アギラはゴジラが勝手に寄越した名前の欄に“平賀サツキ”と書かれている『保健体育』の教科書を押し返した。

「ふむ、場を和ませようとして言ったのに冗談は逆効果だったようだね…さぁ、さぁ、授業を続けよう みんな、怪獣とは何だと考えている?」

「はいッ、せんせー 怪獣とは大きな身体をして物凄く強い生き物です」

 アギラは元気よく挙手をしてバラゴンが問う問題を回答するが…

「アギラくんの言う事には確かに怪獣の『定義』であれば正解だ…けれどもその大きな生物が怪獣だとするならなぜ巨大化した宇宙人も小型でしかも人と同じサイズの怪獣も居るのにそれらすべてを怪獣と括る…それではアギラくんが言った事と矛盾してはいないかい?」

「ううっ、確かに…そうですね」

 ぐうの音も出ない反論をされてアギラは挙手した手がゆっくりと下がって行った。

「では、そんな怪獣と言う生物の分類が示す『怪獣とは』の答えは…実の所、何も分かっていないが正解だったりする」

「ええ~…なんだかズルい気がします」

 答えにしては範囲が広く抽象的な意味内容にアギラは少し納得がいかない様子だ。

「確かにコレは少しズルい答えかも知れない…では、なぜ私たち人間にも怪獣と同質の特徴と特性を兼ね備えた所謂『怪獣能力者』がこの世にあらわれているのか…実に学者泣かせな大問題が起きているね」

 確かにかつて跳梁跋扈していた怪獣たちの絶滅から数十年後と言う月日を経て突如として現れた怪獣娘たち…しかし、この世界には怪獣の能力を持つ人間が女性だけでなく男性にも居る事の証明が目の前で講義をするバラゴンや隣で共に授業を受けるゴジラなどの怪獣戦士(タイタヌス)たちも知らず知らずのうちに存在していた。

「ではここで、『怪獣とは』と言う問題の“最新の答え”をみんなにお教えしよう」

「最新の…答え?」

「アギラくん…世の中の学問はね、常に新しい答えを更新し続けて教科書に取り入れているんだよ 鎌倉幕府の設立年問題同様に怪獣学とは答えが“変わり続ける”学問なんだ」

「へーッ…そうなんだ…」

 昨今の教科書事情の様に鎌倉幕府設立は1192(イイクニ)年か1185(イイハコ)年なのかと言う問題について議論を展開するように怪獣の学問は学校教育でも取り入れられるほどにはなっても謎の多い存在でかつては居たがもう居ないし学問の重要度はあまりないため歴史の授業でも現代史並にあまり取り扱われないためGIRLSなどの研究機関でない限り詳しく研究も進められていないのが現状であるなら『分からない』が正解であることに納得が行く。

「では、話を戻して怪獣とは何か…我々、怪獣戦士(タイタヌス)が独自に研究と調査を繰り返した結果からするとだ 怪獣は生物が持つ限界を超えて進化した種であると私たちは仮定している…そうだね、ユウゴ君」

「……トカゲがある日を境に恐竜になったり、地球外生命体が追い詰められた末に巨大化したり、自然界が突如生み出した概念すらも人間からしたら脅威となりうる…今日に至るまで怪獣ってのは結局の所は人間では太刀打ちのできない驚異的存在の総称だ」

「そうなの?」

「お前が俺に将棋で勝てないように生物にも限界値ってのがあるんだよ…そんなもん石を持って隕石に対抗しようとするようもんだ」

「ぼっ、ボクだってお兄ちゃんと同じ土俵で将棋を打っているんだからいつかは勝てるよッ!…たぶん…」

 得意な事で見栄を張りたいアギラだが、生まれてこのかたユウゴには将棋でも囲碁でもすごろくにさえ勝てた試が無かった。

「コラコラッ、同級生をそんな風にいじめるもんじゃありません…では、アギラ君 なぜ私たち怪獣戦士(タイタヌス)と君たち怪獣娘、双方の違いは何かを一緒に解き明かしましょう ヒントはどちらも怪獣の能力を有した能力者であると言う事」

「ふぇッ…怪獣娘と怪獣戦士(タイタヌス)さんたちとでは、悔しいですけど実力に大分差があると思います」

「ほう、なぜですか?」

「それは…ボクとお兄ちゃんを比べれば歴然だと思います」

 自らの口で言うには酷なことだが事実『ゴジラ』と『アギラ』では能力の違いに大きな差があると認識できる点では唯一理解できる相違点であった。

「ふむ、確かに君と君の実兄とは違いを述べれば指で数えれる以上の事が言えるかもしれない…では、私とアギラ君ではどうかな?」

「先生とボク…うぅ~ん…まず、ボクたち怪獣娘は人間的容姿がある部分が変身している時には名残があるけど、先生を見る限り『本来の怪獣』って感じが伝わってきます」

 アギラの見立てでは半獣容姿こそが怪獣娘の特徴的視点であるが、一方の怪獣戦士(タイタヌス)には全身をアギラの怪獣的部分『獣殻(シェル)』で覆われているようにも窺えた。

「うんッ、模範解答だね…確かにボクとアギラ君では容姿からまず違いがハッキリとしているのは確かだ では、ビオランテくんとではどうかね?」

「ええっと…ビオランテさんとボクは最初は怪獣娘さんだと思いましたが…ビオランテさんを見ているとなんだかGIRLSの怪獣娘とは違うような気がします」

「そうなの?」

「はい、これは指導課に配属されてからボクが様々な怪獣娘に会って見て来たから言える事なんですけど…GIRLSの怪獣娘って元となる怪獣の持つ“能力”を生かして活動していますけど、対してビオランテさんには…なんて言うか…その、“隠し武器”みたいな物がある気がします」

 アギラにはビオランテに抱く印象の中で明確に自分や他の怪獣娘には無い隠された要素があるようにも感じ取れた。

「最初に違和感に気づかされたのは…ビオランテさんがお兄ちゃんに向けて御自身の蔦みたいな物で攻撃を向けた…でもビオランテさんはお兄ちゃんに当てる気ではあったけどお兄ちゃんが避ける前提で蔦を飛ばしたって感じがしました」

 つまりビオランテにはあの時ユウゴが“偶然にも避けてくれた”のではなく“避けるとわかり切っていた”とアギラは見抜いていた。

「それにいくら怪獣娘でも力が強くなったり、怪我が早く治ったりと身体的な能力が向上することがあってもダーツで狙ってド真ん中を射抜くなんて出来ません」

「それはつまり…どういう事が言えるかね、アギラ君」

「結論から見て…ビオランテさんは怪獣娘と言うより、お兄ちゃんたち怪獣戦士(タイタヌス)に近い気がします」

 現実のダーツでは的を射る事は難しいが、アギラには直感的に当たっている点を見抜く洞察力がビオランテの正体に差し迫った。

「……アギラさん…それは正解ではあるけどちょっと違っているの 私は…“まだ”怪獣戦士(タイタヌス)ではないの」

「まだ?」

「そう…あくまで私はまだこの時点では『怪獣能力者』、つまりはアギラさんと同じ“怪獣娘”でもあるの もっともGIRLSの怪獣娘さんに比べたら敵わない部分はあるけどね」

 謙遜にもビオランテは自身とGIRLSの怪獣娘では宿す物の違いがあって考え方も向き合い方もあるで違っている。

 実際問題、GIRLSの発足はそれほどまでに日が長いわけではない…始まりの怪獣娘ベムラーの発見から実に6年、そこから発足するGIRLSには実に数年を有したとトモミから聞いた事があった。すなわちビオランテはGIRLS発足以前の怪獣能力者黎明期から能力を隠して現実社会で生きて来たことは尊敬に値する。

「一時期はGIRLSの理念には賛同していたけど…私には正直、心の支えとなる人が居てくれたから…」

 ビオランテは恥じらいながらもチラッとゴジラに視線を向けるとアギラは『コレが?』と疑い様な眼差しを向けて来た。

「ふん、やかましい…俺だってお前を同族化させてしまった責任がある以上、一緒に向き合うために付き合っただけだ そこに何の恋愛感情もねぇ…あるのは信頼、俺達にはただそれだけさえあれば十分だろ」

「それでもあなたみたいなのを愛してあげれるのは私以外居ないって自負しているけどね…そもそもビオランテって名前を付けてくれた名づけ親でもあるじゃない」

「えっ、そうなの?」

「ポール・ヴェルレータの詩の一節に『ヴィオロン』って言うバイオリンを意味する言葉がある…まぁ、単にバイオリンみたいな語呂の合う言葉として『ビオランテ』になった」

「意外とロマンチックなネーミングッ!?」

 アギラはゴジラであるユウゴが付けるには博識で聡明な考え方から来た名前であることに驚いた。

「えへへッ、結構気に入っているけど…当初、私が考えていた名前が気に入らないって言って変えさせられたものよ」

「なんて名前にするつもりだったんですか?」

「……ろっ、ローズウーマン……」

 それを聞かされたアギラは硬直して目が点になった。

「あんときの俺も思ったが…お前のネーミングセンスどうかしてるぞ」

「しっ、仕方なかったのよ!中学生だったんだから!!」

 多感な時期に突如人智を超えた力に目覚めたばかりの怪獣能力者はザンドリアスの様に暴走して被害を出す場合もあるが中にはビオランテの様に感性が暴走するケースは稀である。

「……いいと…思いますよ……ボクは…」

「ごめんなさい…気を使われると余計に落ち込むわ」

「お前のセンスで俺にも名付けられたら、アトミックボンバーマンとかになるのか?」

「お兄ちゃんッ!傷を抉ろうとしないでッ!!」

 デリカシーの無い事をズケズケ言うゴジラにアギラはビオランテを擁護しようと強い睨みを向けた。

「うんうんッ、お互いに怪獣能力者同士の親睦が深まった所で…今日の授業のおさらいも兼ねた小テストをしましょう」

「えっ!?小テスト、あるの!?」

 思いがけない所から唐突のテスト問題が降り注いだ。バラゴンはやはり現役の教師である。

「まぁ、テストと言っても軽い予習復習だから…授業を聞いていればわかる問題しか作っていないよ~」

「なんだかどこかで聞いたことあるようなセリフ…」

 その感性はGIRLSの指導員ピグモンとはまた違ったベクトルのスパルタであった。

 配られたプリントには全部で3問と問題数自体は少ないが、その問題文は『怪獣娘と怪獣能力者の違いを3000文字以内で解説せよ』と入試問題のような形式であった。

「ううっ…GIRLSより難しい…」

 しかし…――カリカリカリッ…――

 左右を見わたすと恐ろしくスラスラと解き進めているゴジラとビオランテの姿にアギラは愕然とさせられた。

 2問目も『怪獣とは何か、アナタが考える概要を5000文字で論じよ』…小論文である。

(ひぇえええ~~ッ、GIRLSのテストでもこんなに難しくないのに…末の言い方が『解説せよ』とか『論じよ』って何ッ!?論じるって何ッ!?)

 既に書き方にも苦戦を強いられる問題形式の中…

「ごぶっふッ!?」

 隣でビオランテが悶絶する何かを発見したようだ。

「どっ、どうしたんですか…」

「アッ、アギラさん…最後の問題…」

「最後の問題?」

 それはアギラよりも先に問題を解き終えて裏面の最終問題に取り掛かっているビオランテが悶絶するような問題文であった。

 『あなたがもし今の怪獣名ではない名前を付けるなら何か、文字数制限なし』何とも意地悪な問題分であった。

「コラコラ…テスト中は私語厳禁だよ」

「うっ、すっ…すみません…」

 既に1、2問目から躓くアギラ、3問目で苦しむビオランテ、既に解き終えて余裕をかますゴジラと三者三様な状況であった。

「……はいッ、それまで!」

 バラゴンから終了の合図が打たれて小テストは終わった。

「ううッ1、2問目が書ききれなかった…」

「ちょっと難しかったよね…いろんな意味で…」

「おまえ、大丈夫なのか?この程度で難しいとか言っていると次のテストも怪しいぞ…」

 難問に苦戦するビオランテに見かねたゴジラが心配する中、アギラは『えッ、次のテスト!?』と驚いた表情を見せる。

「はい、それではビオランテさんは隣の教室で智田先生から筆記試験を受けてもらいますので教室の移動をお願いします」

「はッ、はい!」

 ビオランテは教室の外で待っていた智田こと怪獣戦士(タイタヌス)のチタノザウルスに案内されて隣の教室に移った。

「えッ、ビオランテさん…今から何のテストをするの?」

「あぁ?…言っただろう、まだ怪獣戦士(タイタヌス)じゃねぇって…アイツが怪獣戦士(タイタヌス)になる為の試験を今日やるんだよ」

 驚くことに怪獣戦士(タイタヌス)には筆記試験を有するようなガチの試験を受ける必要があった。

「怪獣戦士(タイタヌス)さんって試験を受けてなれる物なの!?」

「そうに決まってるだろう…どの業界でも入試は当たり前だ」

 さも当たり前の事実を言っていると豪語するゴジラだが怪獣が怪獣による怪獣の為の試験をしていると言う不思議な状況にアギラの思考は追い付かなかった。

「ちなみにこちらはユウゴ君たちの世代が受けた過去問だよ」

「ふえッ!?…電話…帳?」

 参考までにバラゴンから見せてもらった以前の試験問題は分厚い電話帳レベルの厚さを誇る問題量であった。

「…しかも国語、数学とかじゃない…何、常識問題とか、最終定理問題とか、聞いた事ない分野の問題ばかりだけど…」

「俺達みたいになるには人間が編み出した全局面の問題を理解しなきゃ話にならんからな…試しにお前も解いてみるか?ホレッ」

 そう言ってゴジラから鉛筆を差し出されたが…アギラが見開いて中身を少し見た瞬間に脳がスポンジになるかと思うほどに問題内容が濃かった。

「お兄ちゃん……フェルマーの最終定理ってなぁにぃ?」

「火を見るより明らかだったか…」

 同じ時期にGIRLSの試験を受けた怪獣娘ミクラスもGIRLSの問題で頭を抱えていた心境がアギラには怪獣戦士(タイタヌス)たちの問題集を目にしてようやく理解した。これは解けようがない。

 ちなみに小テストの結果は1、2問が解けなくても問題はなく、3問目が解ければ合格点であった。

 ビオランテは『ROSE』、アギラは『トリケラトプス』、ゴジラは『破壊帝王デストロキングwithアイカのネーミングセンスに寄せて…』とそれぞれ回答していた。




アンバランス小話
『世紀の兄妹対決』

 時は戦国、群雄割拠ひしめく乱世の時代に小国の若姫武者が勝てぬ戦に赴いていた。
「もうやめぇや、アギちゃん!!勝てへんで、この戦!!」
 仲間のゴモラは涙ながらに若姫武者の無謀を引き止めていた。
「ゴメン、ゴモたんッ…それでもボクは…負けられないんだ!」
「何をそんなに意地になっとんねん…この戦にアギちゃんの勝機はあらん!」
「そうですよ!もう引き返しましょう!!」
「今なら間に合うよ、引き返そう、アギちゃん!!」
「こんなところで命を散らす必要はねぇぞ、アギラ!!」
 若姫武者アギラに静止を促すウインダム、ミクラス、レッドキングは勝てぬ戦に赴こうとするアギラを全力で止めるもアギラは止まらない。
「止めないで…みんな……ボクはあんな…あんな…戦をなめ切った人を黙って見過ごせないんだぁああ!!」
 アギラは勇猛果敢に薙刀1本で相手方に立ち向かっていったが…かくいう相手は……
「…南蛮料理って甘酢あんかけ多すぎないか?」
 戦場の真ん中で料理本を読んでいた。

―…パチンッ…
【ファースト ファイブエイトキング】
「あははぁ~頑張れ~アキちゃ~ん…ヒクッ!」
 BAR1954では第1回BAR1954戦と称した将棋大会もとい兄ユウゴへの挑戦としてアキが将棋勝負を挑んでいた。
「絶対絶命やん、アギちゃん…周囲をユウちゃんの駒で囲まれ過ぎとるもん!」
「すげぇな…あのアギラが防戦一方だ、将棋殆ど知らねぇオレでもわかる絶望的な状況だけは理解できる」
「そんなぁ~GIRLS無敗のアギちゃんが負けちゃうよぉお!!」
「対するユウゴさんはと言うと…」
 苦戦を強いられるアギラを前にしてレイカが対戦相手のユウゴを横目で見ると…
「フィラデルフィア料理って玉ねぎ多くねぇか?」
 『誰でも簡単西洋料理全集』を読みながら打っていた。
「将棋中ぐらい本を置きなよッ!」
「お前が決断するのが遅すぎんだよ」
 度重なる遅延に飽き飽きしてユウゴは読書を楽しみつつアキを相手に将棋をしているが…アキは先ほどから王将をチマチマ移動させて逃げるが精一杯の布陣であった。
「ううっ、じゃあ…ここに…」
【ファースト フォーエイトキング】
―スンッ、パチンッ!
「王手」
「フギャッ!?」
 またしても王手になっていよいよ後がなくなったアキは…
「ふぅ~ぅ…ぐっ…参り…ました…」
 苦渋を飲んで長期戦を経てようやく負けを認めた。
「イエェ~イ、アキちゃん敗北ゥ~!…と言う事で、敗者には罰ゲームアンド慰めタ~イムッ!10分間、お姉さんからのディープキスの刑ぃ~!!」
「やったれ、ベムラー姉ちゃん!熱烈なヤツを頼むでぇ!!」
 負けたアキに追い打ちをかけるかのようにズイズイと近づいてくるアルコール臭いミオにアキは全力で拒否していた。
「ヤダァアア!!ミオさん、お酒何本飲んだのさぁ!?」
「ヌフフッ…苦しゅうない、苦しゅうない…ジッと知れいれば済む事よ…それじゃあ、いっただきま~す!!」
 ミオの口はアキの顔に吸い付くように彼女を押し倒し、テーブル席のソファー席に押し倒れて吸い切るような音と共にテーブルの遮蔽へとアキは消えた。
「イギャァアアアアッ酒臭いぃイイイイッ!!」
 アキの抵抗は辛うじて口は死守されたが…口以外の顔回りは翌日になっても酒臭かったと語られる。
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