TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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力の戦士

―東京都千代田区―

・霞が関:警視庁

 

 そこは東京都内を管轄区域とする警察組織の本部だ。都内102ヵ所に及ぶ警察署の総本山であり万人規模の警察官が都の治安維持に努めている。

―敵性有害生物関連事件捜査本部―

 警視庁はGIRLSの怪獣娘にしか対応できないシャドウによる超常的事件が立て続けに発生しているため警視庁は兼ねてより大規模な合同捜査本部を本庁内の会議室に看板を掲げて設置された。

「それではこれより、都内で発生している敵性有害生物事件の報告を開始する。 兼ねてより発生している一連の『敵性有害生物』通称“シャドウ”に関連する事件を本庁管轄各署より諸君らに集まってもらったのは他でもない、シャドウ生物から都民含め国民の安全を守るため些細な情報でも構わない、一課から並び三課、少年課、生活安全課、あらゆる全部署の力を上げて捜査してもらいたい」

 捜査本部長の号令の下、同本部内の捜査員たちは全員満場同意で“了解!!”と声が上がると捜査情報の公開が開始された。

 まず1人目の捜査員が挙手の後に始めの公開情報を開示した。

「都内で発生したこれまでの『敵性有害生物』に関連する事件ですが通称シャドウ生物に見られる行動は建造物破壊など多岐にわたって様々でしたが人的被害は二次被害での傷害事件が過去3年間で256件、加えて政府公開情報で開示された個体はまず粘体型の『S型』、更に有害獣型の『B型』、つい先月に出現した新たな個体として『G型』、またミストなる名前の通り霧のように微粒子での人体感染例も報告され身体に影響は無いものの明らかに精神に異常をきたす例も報告されているため『M型』もカテゴリーされますが、シャドウ生物は今後とも『国際怪獣救助指導組織』通称“GIRLS”の怪獣能力者による駆除と規制線の強化にて対応が検討されます」

 また更に別も捜査員が挙手をした。

「先日、国道1号線のNシステムが検出した新たなシャドウ生物と思われる画像を出します」

 捜査員がプロジェクターに投影してホワイトスクリーンに映し出されたのは国道1号線を車など抜き去って走りぬける黒い線の様に伸びた残影だけが映っていた。

「なんだあれ?」「あれが生物なのか?」

「伸びているぞ」「どれだけ早いんだ」

 捜査本部内の捜査員達の間でザワつくほどに動揺が走るが更に情報が追加される

「画像分析の結果、この生物の推定される移動速度は時速500キロメートルと推定されます」

 また更に動揺が走った…現行の警察車両でソレに追いつけるだけの速度を出せる警察車両などありもせず、追跡はできたとしても捕獲駆除を視野にはできないからであった。

「今後ますますシャドウ生物の出現に対して現段階での警察及び自衛隊でも対処の難しい案件を部外の組織に委託してきていたが、今回新たに出現したシャドウ生物などにも対応するため防衛省では既に対シャドウ戦力構想が持ち上がっている…そこで、本庁も警備部内より新たに対シャドウ対策班を新設してこれに対応するものとすることを本日付けで決定された…では、緒碓警視お願いします」

 捜査本部長より紹介されて捜査員たちの前に現れたのは男性とも女性とも受け取れるような中世的な見た目だが、れっきとした男性警察官であったが、階級は誰よりも上に位置する人物だった。

「ありがとうございます、ご紹介に預かりましたが新たに対シャドウ生物対策班を指揮することになりました“緒碓タケル”です…昨今のシャドウ事件被害を鑑みた警視庁が私の指揮の下で開発と訓練を重ねてここに漕ぎ付けたことを心から御礼申し上げます。 ではまず、開発した同システムの御説明からさせていただきます」

 プロジェクターは画像から映像に切り替わり『対シャドウ生物対策班』の紹介と共に“ある特殊装備”の資料が現れる。

「『Antishadow. Version.Actuator.Link. Order.automatioN』開発コードは『Avalon(アヴァロン)』、対シャドウ生物を想定した新型装備群の総称です…ではまず同システムのテスト映像をご覧いただきます」

 映像が進むと何処かの演習場らしき映像が流れて映像の中央に歩いてくるロボットの様な出で立ちの人物が現れた。

 すると、ブザーが鳴った瞬間に標的の砲丸クラスの弾丸標的が射出されると即座に対応、射撃にて破壊、拳銃はコルトパイソン6インチバレル357マグナム弾と破格のサイズの拳銃を使用しての対応にも関わらず特殊装備の隊員は一切の反動も挙動も無い。秘密は装備に搭載されたアシスト機構による行動補助による即応耐用サスペンションが作動していることが映像内でも解説付きで説明された。

「我々はこれを城南大学機械工学研究室と東都大学電子工学研究室とで共同開発を進め、今日ここに同システムの完成したことを宣言いたします」

 緒碓警視は自身を持って捜査員たちに自身が手掛けた装備開発完成を宣言したのちに対シャドウ生物用戦力としての運用を開始したことを告げた。

 捜査員たちの驚きの表情を浮かべる中、緒碓は目を捜査員たちの端に女性にアイコンタクトの合図を送ると女性警察官は本部を後にしてどこかへと連絡を入れる。

―八王子演習場―

 

 開発システムの完成宣言より一報が入ってきた事により“アヴァロン”の開発チームにも連絡がいきわたった。

「たった今、我々が開発した“アヴァロン”の正式採用が決まりしました!」

 同システムの開発チームは両手を上げて万歳三唱の下に大いに喜び合うも一人浮かない顔の男がいた。

「どうされました?ジャックさん」

 研究員の一人が気にかけた相手は研究者と言うにはあまりにも図体の大きな2メートル越えの身の丈を持つ大柄なアメリカ人であった。

「…いえ、あれは本当に『対有害生物用』なのかと考えていました」

「何言っているんですか…苦節3年、やっとのこと漕ぎつけられたのはあなたが去年からOS分野に協力をしていただいたから、今日こうして完成に辿り着けたんじゃありませんか!」

「そうですよ、既に自衛隊にはあの『温厚の魔女』が開発した『スーパーXシステム』の実戦配備すら噂が上がっていましたが、それよりも早く発表完成に漕ぎつけられたのも貴方のおかげですよ…じゃぁ早速命名を決めなければ、誰かいい案は無いか?」

 最大の障壁として名前問題が浮上した途端、全員が一段と開発時よりも深く考え込んでいる中、大男ジャックが口を開いた。

「『アルトリウス』…と言うのはどうでしょうか?」

「アルトリウス…ですか、由来は?」

「同システムの名は『アヴァロン』、それにちなんで『アーサー王』伝説のアーサー王の名前から思いつきました」

「アヴァロンにちなんだ男性名ですか…いいですね、『アルトリウス』異論はありません」

 全員が『同じく』とこれまでシステム開発時まで意見などのぶつかり合いが多かったはずの同開発チームのメンバーは驚くほどすんなり受け入れ、寧ろオプション装備にもアーサー王の武器にちなんだ名前にしようとあれやこれやと意見を出し合い始めた…が、しかしやはり気がかりで難しい表情を変えなかったジャックは同システムの装着服『アルトリウス』に対して懐疑的な視線を保管ケースから睨んでいた。

―GIRLS:東京支部―

 

 アキは今まさに身動きができない状態だった。

「むぅうぅうぅうっ~…」

 指先一つ、動作すらも許されない…ソレが何より辛い。

「~~~♪」

 なぜなら…1人の男による現在進行でアキをモデルにデッサン中だった。

「もぉ…無理ィイイ!」

「うん、できた…ほら、こんな感じかな?」

 男は深緑色のパーカーにジーンズとラフな格好に頭頂部の一部が逆立った髪型、その手にはマジックペンとGIRLSが広報用にサインなどをするために用意された備品のサイン色紙、そして流れるように絵を描ける技術、彼はプロの漫画家であった。

「うわぁ~これがボク…味があってなんだか本当に漫画の中のキャラクターになった気分です…ありがとうございます、えっと…ガメラさん、ですよね」

「しぃ~、怪獣名は言わない約束だよ」

「あっ、そうですね…GIRLSの癖でつい」

「まぁ、僕もいろんなペンネームで活動していた時期も多かったけど、結局は名が売れたのは『アイザワトト』だからね…本名は相沢トオル あんまりパッとしない名前でしょ、大怪獣に変身できるのに…」

 そう、この男は先日ウインダムことレイカが謎の怪物に襲われた時にGIRLSの怪獣娘たちより一早くゴジラと共に駆けつけてくれた怪獣人間(タイタヌス)の『ガメラ』その人であった。

「ええっと…じゃぁトオルさんでいいですか?」

「うん、いいよ…いや~ここはネタの宝庫だね、いろんな書きたいことがポンポン浮かぶようだ」

 トオルは再びペンを走らせながら漫画やイラストなどのデッサンを続ける絵描き師として好奇心が擽られるGIRLSに取材をするが、今日はあくまでアキの護衛の1人としているのであった。

「あっ、あの~…今日はお兄ちゃんの代りに来ていただいてありがとうございます」

「うん構わないよ、僕も描くことが増えてなによりさ…なんでも今日は用事があって彼も忙しいみたい 花瓶は花柄っと…」

 会議室内の花瓶などを持ち上げながら細かい僅かな所も見逃さないトオルの絵への姿勢は驚異的であった。得意な事に得意なままにするのではなく徹底的に分析してどのような詳細になっているのかまで記載する…まさにプロフェッショナルな作業であった。

「すごい見ますね…物とか」

「まぁ、本当は見ただけで大体の構図と僕の絵力だけで完成するけど真のリアリティーは直接触れて観察し実感することで生まれるからね…あとは持ち前の想像力」

「ほへぇ~…」

 絵に対する熱意にアキはトオルに脱帽した。普段何気ない物にすらプロの漫画家たるトオルにとってすべてが絵や作画のネタとして昇華されることに驚かされてばかりであった。

「あの…ウインちゃん、大丈夫でしょうか?」

「一応、ユウゴ…君のお兄ちゃんが手当てをしたから傷痕も残らずに完璧に治っているよ」

「…重ね重ねありがとうございます」

「そういうのお兄ちゃんにもいいなよ」

「う~ん、こういう時どうしても言いづらくて…トオルさんになら緊張せず言えるから」

「はははっ、ユウゴの代りか…僕も一人っ子だったから妹が出来たみたいで新鮮な気持ちだね」

「えへへっ……あっ、それはそうと」

 ユウゴとは違うベクトルで緊張するアキだが、ユウゴには聞けなかったことも同時に聞けそうな雰囲気にアキはトオルに尋ねる。

「実は…ボクもウインちゃんと同じ…じゃないけど同質の怪物に襲われかけたけど、あの時はお兄ちゃんに助けてもらったんですが…トオルさんなら何か知っているんじゃ」

「う~ん…今はまだ教えられないかなぁ~…君たちには君たちの世界、僕らは僕らの世界、それでいいでしょ」

 うまい事はぐらかされたがやはりユウゴを始めトオルなどの怪獣の力を宿す怪獣人間(タイタヌス)たちがカギを握っていた。

「アギちゃ~ん!」

 そんなときにミクが会議室へ慌しい様子で駆け込んできた。

「ミクちゃん、どうしたの?」

「アギちゃんアギちゃん!大変だよ!ウインちゃんとエレキングさんがぁあ!!」

「おっ、落ち着いて…ウインちゃんとエレキングさんがどうしたの?」

「ふぅ~ん…少し僕も見に行ってあげよう」

 不穏な様子を察知したトオルはアキたちと共にレイカとランの居る大会議室に向かった。

 

 

―大会議室―

 

「エレキングさん…本当に申し訳ありません」

 レイカは深々と頭が地面につきそうなほどの距離まで何度も何度も謝っていた。

「別に謝らなくていいと言っているでしょ…いいかげんにして」

「そっ、それでも…エレキングさんにとっては大切なサイン会を台無しにしてしまったのは私の落ち度です」

「関係ないわよ…得体の知れない怪物に襲われ、ソウルライザーも無くして、血を流すほどの怪我をしていた…それだけの事よ」

 誠意を込めて謝罪をしているレイカに対してランは半ば彼女を突き放すような態度だった。そして、ランの指先はパソコンに向かい合って調査部としての襲撃事件の報告書作成のためレイカは問い詰められていた。

「それで…見ず知らずの正体不明の存在に助けられてあなたは公園のベンチに寝かされたと…ねぇ、あなたこれを自分で報告する立場となったらあなたはなんて言うの?あなたがまともな報告書を掛けないから私がこうして代筆して書いているのに…都合よくその場に居合わせた何かが助けてくれてハッピーエンド?三文芝居も甚だしいわ」

「しっ、芝居!?わっ、私は何も一切虚偽など…」

「あなたが信じても、上はこんな報告信じないって言っているのよ!!もっと現実的に考えなさい!!」

「はひぃいい!!」

 涙目になるほどレイカを問い詰めるランには少々感情を乗せた八つ当たりに近い様子だった。

 それは立ち合いとしてレイカの元へ先に駆けつけていたベニオとミカヅキもランの報告作成のため駆り出されていたが…ランのやけっぱちな態度にレイカを同情する。

「エレ、そんな言い方はないだろ…ウインダムの言っていることは間違いじゃねぇんだから」

「せやで、うち等も見て来たけど確かに只事じゃないほどに公園が荒らされとったでぇ」

 ミカヅキのソウルライザーには現場の証拠写真として陥没した穴、何かが燃えたような痕、血を流したはずのウインダムの無傷ぶり…だが、完全に襲われたと示す物が何もなかった。

 敵の肉片、戦いの痕跡、そういった“襲撃”と認定できる要素があまりにも欠如しているせいか報告書は難航していた。

「はぁ…わざわざサイン会まで抜け出して来てみれば…事は終わっていて肝心の物的証拠もない…お手上げよ」

「本当にすみませんでした…私が不甲斐ないばかりに…うっうう…」

「あぁ~エレちゃん泣かせた~」

 ミカヅキがここぞとばかりに茶化すと場は和むかと思ったが…ドンッ!と机を叩いたランは…

「泣けば問題が解決するの!?さっきからあなた謝ってばかりでなんの参考にもならず報告書の体裁なんてあったものじゃないわ!このままじゃ当事者が錯乱して誇大妄想による幻覚と錯覚、そういったことを報告書に書けば“虚偽”として扱われることくらいあなたにもわかるでしょ!?」

「ひぃいい!すみません、すみません!!」

「エレ、さすがに言いすぎだぞ!こっちだってお前の大事な用事がどうとか知らねぇよ、たかだか紙に名前が書かれるだけの用事だろうが!!」

「たかが!?あなたに何が分かるって言うの!?私は長い時間を費やしてようやく得たチャンスを棒に振った損害を“たかがその程度”って勝手に決めつけないで!!」

「二人とも落ち着いてぇな!」

 普段の冷静なランが取り乱すほどにベニオと口論になるほどの怒りが彼女を怪獣娘の本能が少しだけ暴走しかけていた。怒るベニオ、宥めるミカヅキ、泣き続けるレイカ…場の空気は悪くなる一方であった。

 

「はわわっ、あんなエレキングさん見たことないよ」

「それよりもウインちゃんもかわいそうだよ…聞いててあたしもムカムカするよ、レッドキング先輩の言ってること正しいもん!」

 半ば覗き見る形で大会議室のドアの隙間からミクとアキ、そしてトオルも一部始終を見ていた。

「ふ~んっ…ねぇ、ちょっといい」

「はっ、はい?」

 トオルは耳打ちで2人に話しかけると…

 

 言い争いはヒートアップしていき…

「大体あなたたち私が居なければまともにGIRLSとして――」

 ランが白熱した言い争いに更なる拍車を掛けようとしたその時だった。ランの目の前には自身が愛してやまない『お前にピットイン!』通称“おまピト”のキャラクター『西湖』の書かれたサイン色紙が『はい、ストーップ』と間に遮った。

「えっ…」「なぁっ!?」

「えっ、誰だ?」「どちらさん?」

 突然現れたトオルにランとレイカは固まり、顔知らぬベニオとミカヅキは突然現れた男に首が傾げる。

「意見を言い合うことは大事だけど…作家と編集の口喧嘩ほど僕は見たくないものだよ、はいっ、君はあの時最後列に並んでいた子だよね」

 そういうとトオルはランにサイン色紙を手渡して、ランはソレを受け取るがサインに目を合わせず逆に突如現れたトオルにばかり目が離れなかった。

「エレちゃん、ウインちゃん、知り合い?」

「しっしししししっ知り合いぃいいいいい!?とっとととととトンデモありません!!この方は、あの『おまピト』のキャラクター原案をされている作画担当の“アイザワトト”先生ですよぉお!!」

 半ば興奮気味にレイカは強く熱弁するも未だ5巻しか『おまピト』を読んでいないミカヅキも漫画に疎いベニオもいまいちピンと来ていなかった。

「せっせせせせ先生ェ!!いつも『おまピト』拝見させていただいております!!あの、私は諏訪さんと木曾さんが特に好きで、ですねぇ、あっあの、あっ…あっ!!」

 言いたい事を言いたすぎて何も準備をしなかったレイカは動揺のあまり呂律も回っていなかった。

 だが、トオルはそんなレイカをジッと見つめるなり突然手に持っていた色紙に何かを書き始めてわずか数秒でレイカに手渡した。

「殴り書きだけど…コレどうぞ」

「へっ?…フギャァアアアアアア!!」

 その色紙にはレイカが愛してやまない『諏訪』と『木曽』が背中合わせで水墨画調に躍動感のあるタッチで描かれていた。そして斜め角度で『アイザワトト』とサイン文字で書かれていた。

「ありぃ?ダム子……ひゃぁっ!しっ、死んどるッ!?」

「勝手に殺すなよ」

 ミカヅキが驚くのも無理はなく、レイカは魂が昇天するほどにうれしさのあまり身体は真っ白のもぬけの殻と化していた。

「よかったね…ウインちゃん」

「それよか、エレキングさんも…あれ?」

 トオルの後ろからひょっこり現れたアキもうれしそうなレイカにホッと胸を撫で下せたが、ミクが確認したランの様子は…

「ゴモたん隊長、エレキングさん気絶しているであります」

「彼女の犠牲は尊い犠牲であった」

「だから勝手に殺すな」

 

 なにはともあれヒートアップしていた口論もトオルの鶴の一声で丸く収まり…

 

「じゃぁ僕がその怪物の似顔絵を描けば証拠品になるかなぁ?」

「ぜっ、是非!お願いします!」

 そう提案するとトオルは色紙にマジックペンを片手にレイカの証言を元にレイカが見た怪物の印象似顔絵の作成に取り掛かった。

「まず全体的印象は?」

「フォルムは一般男性より長身でスラッとした感じですか、所々に筋肉質な感じでした…あっ、一番特徴的なのは耳が尖っていましたね」

 レイカの証言通りに描き進めていく内に漫画アニメに疎いベニオも思わず驚いてしまうほどの繊細で精巧な絵に驚かされていた。

「すっげぇ~…流石プロの絵…もう形がハッキリとしてるぜ、マジックペンで良く描けるなぁ……こりゃぁ確かに文字書き以上の価値があるぜ “たかが”って言って悪かったな、エレ」

「お見事です、先生」

 ベニオの謝罪などそっちのけでトオルの描く絵にランは見惚れて目を輝かせながら絵が完成するのを誰よりも楽しみにしていた。

「うん、こんな感じかな?」

「うわぁ~そっくりです…そっくりどころか、こっちの方が…なんか…無駄にカッコよすぎますぅッ!!」

 書いたトオルとラン以外全員がズッコケた。

「わかるわ、ウインダム!見た目はファンタジーゲームの雑魚キャラのゴブリンっぽいのにアイザワトト味が強すぎるわ!」

 そんなレイカに同調するかのように肩に手を置いて同じ目の輝きを放つランが共感した。

「コレはコレでメチャクチャにされてもいいって思えますけど…この2体同士の絡みもまた見てみたいですぅウ腐腐腐腐腐腐腐腐ッ~♡」

 思わず本性が露わになってきていたレイカとランにただならぬ笑い声が口から洩れていた。

 アキたちは心なしか逆にレイカを襲った怪物たちの身の危険を心配したくなるほどだった。

「はははッ、個性的な子たちだね…面白いから絵の参考にさせてもらうよ」

「はっ、すみません!つい、いつもの癖で…先生の前でお恥ずかしいです」

「構わないよ…表現は自由だ。僕は絵を描く事の自由が好きだから描きたい物を描く、その絵をどう受け取ってくれるかは読者の自由だからね…まぁ、まさかライバルキャラの方が人気出るとは思わなかったけど…」

 自分が描いた漫画絵に自虐的なことを語るトオルの前にズイッとランが詰め寄る。

「先生!次はぜひとも『富士のクニマス』を主体にした回を是非ッ!」

 ランは詰め寄りすぎてファンとしては若干暴走気味の痛い姿が現れていた。

「エレちゃん、めっちゃくちゃ積極的になってきたやん」

「あんなエレ、見たことないぜ」

 普段の冷静沈着なランを見て来た仲間であるミカヅキとベニオも呆気に取られていたが…

「なるほど…君、そんなに『西湖』が好きなんだね」

「えっ…そういえば、どうして私の推しキャラをご存じだったんですか?」

 ランは苛立って仲間に八つ当たっていた時に止めてくれたサイン色紙になぜレイカのように推しの事を話しても居ないのに分かったのか疑問符が浮かんだ。

「昨日のサイン会、君のスマホに着いたストラップ…あれが『西湖』だったからさ…リクエストはさすがに出版社と原作者と要相談しなきゃいけないけど、西湖も富士のクニマスも、『お前にピットイン』を好きでいてくれてありがとう」

 さりげなくランを傷つけないリクエストに対する断り方をして最後にランが心から『おまピト』愛してくれたことにまで漫画家として最大限のファンサービスを感謝と言う形で返した。

「あっ、そうそう…これサイン会の最後尾者に渡すように出版社から言われていた品なんだけど」

 それはずっとトオルがアキの似顔絵を描いていた時から脇に抱えていた紙袋から『おまピト』のマスコットキャラクター『ピットくん』のフワフワぬいぐるみを追撃ファンサービスでランへと手渡された。

「おっ、なんだ可愛いモン手渡されたなぁ~エレ」

「よかったやん、エレちゃん」

「エレキングさん、よかったですね」

 半ば仲間たちに茶化されているような状況下でもエレキングは自分の冷静な性格を崩さぬがクールビューティーな怪獣娘エレキングだったが…

「うっうううっ…ありっ…ありがとうございます」

 そんな彼女が我慢の限界を超えて突如泣き出してしまった。

「あれっ!?なんか悪い事したかなぁ?…ごめんごめん」

 更に涙を浮かべるランに対して頭をポンポンッとした上で優しく撫でる気遣いぶりにランは自分が尊敬してやまない相手に自らの涙目姿など見せたくないとばかりにぬいぐるみで顔を隠した。それは同時に普段見せない顔を顔見知りたちに見られたくないという気持ちからでもあった。

「まったく…エレもいいかげん素直になれよなぁ」

「まぁ、そこがエレちゃんの良いトコでもあるけどねぇ」

 ベニオとミカヅキは普段見られないランの姿を見てご満悦した表情も束の間だった…―ピリリリリッ!

「ピグモンさんからだ!」

 アキたちのソウルライザーからピグモンことトモミを通じて連絡が機能に続いて今日もまた新たに入った。

『大変ですぅみなさん!また他の怪獣娘さんたちのソウルライザーシグナルがロストしました!』

「誰のソウルライザーだ、ピグモン!」

『ロストしたのはザンザンとノイノイのシグナルですぅ!!GIRLS近くの河川敷を最後に突然消えてしまいました!!』

 慌てた様子でトモミは皆に詳細を伝えるとベニオは即行動に移った。

「よしっ、今すぐあいつらを助けに行くぞ!時間もそんなに経っていない今なら間に合うはずだ!」

「ハイッ!!…って、あれ?先生は…」

 全員が一丸となって仲間の救出に向かうも、その場には誰よりも先にトオルが居なくなっていた。

 

 

―GIRLS近辺・河川敷―

 

「いやぁああああああああああああ!!」

 突如、金切り声のような叫び声をあげたのはザンドリアスの怪獣娘“道理サチコ”だった。

 そして彼女は友達にしてバンド仲間ノイズラーの怪獣娘“鳴無ミサオ”の背中に隠れているが…彼女たち2人の前には出で立ちからして“蛮族”と言う形容が似合うであろう姿かたちの“鬼”がいた。

「ガジャバサダガヴァザゴミカ“ダゴン”フタグン?」

「ロウシ、“ダゴン”フタグヌイ…エマ、“ダゴン”フタグン」

 鋭利なツノを生やした謎の鬼型の怪物2体は双方ともに2m越えの大怪物だった。1体はサチコを指差して、もう1体は何かが違うと首を横に振って今度はその個体が逆にミサオを差すともう一方の個体も同意するように頷いた。

「はっ!?ちょっ、なんであたしッ!?」

 巨体の怪物に捕まえられそうになったその時、上空から飛翔してきて二体の怪物の間から突っ切って怪物ごと吹き飛ばしミサオとサチコ2人を飛翔してきたガメラが両腕で抱え助けた。

「危なかった!怪我はない?」

「えっ!?あっはい…えっ?えっ?」

「ちょっと~どこ触ってんのよ!?」

 助けてもらっておいて動揺するミサオとギャンギャンと吠えるサチコとで対照的な二人をそのまま河川敷上の歩道に下してあげた。

「早く逃げて!あいつらは僕が何とかしておく!」

 そうしてガメラは怪物2体を前に戦闘態勢の構えを固めた。

「だっ、誰だかしらないけど…助かります!行こう、ザンドリアス!」

「ふぇっ!?何ッ、どうゆこと!?」

 ミサオはワケが分からないサチコの手を引いて走り去っていったのをガメラが見計らうと2体の怪物たちは魔法陣を展開して棍棒状の武器に槍斧の様な武器を手にガメラへと襲い掛かっていった。

「はぁッ!!」

 ガメラもそれに対抗して2体の怪物相手に武器も無しに立ち向かっていった。

 ガメラは硬質な鎧状の体表を駆使して武器を弾き、怪物たちに拳から爆発が起きる打撃技で衝撃を与えて吹き飛ばすも怪物たちは巨体を駆使して耐え凌ぎ武器を持ち構えて再び襲い掛かった。

 

 一方、助けてもらったサチコたちは逃げろと言われていたのにも関わらず離れたところに隠れてやり過しながらガメラと怪物2体の戦いを見守っていた。

「どっ、どうしよう!?あたしたちも加勢した方がいいのか、これ?」

「んなことできるわけないでしょ!?いま、あたしたちソウルライザー失くしてんだよ!?」

 彼女たちが怪物を前に変身できなかったのにはワケがあった…が…

「聞かせてもらおうじゃねぇか…なんでソウルライザーを失くすようなことになったんだ?」

「ソレは…そのぉ…喧嘩の勢いでっていうか、投げたというかぁ…って、ひえっ師匠ぉお!?」

「レッドキングさんたち、来てくれたんですか!?」

「来てくれたじゃねぇ!!それよりあれやこれやとどういう事だ!?あそこで戦ってるのは誰だッ!?」

 変身して駆けつけて来たレッドキングたちは目の前の光景に驚いていた…ソレは怪物2体に対して1体の怪物が互角の戦いを繰り広げていたことに驚いていた。

「あっ、あの方です!先日、私を助けてくれた人…と言うか、怪獣?」

 その様子から見ても2体の怪物の方は武器を持って1体の別の怪物と戦っている様子を見るなりレッドキングたちの認識ではおそらく鎧の怪物の方が“味方”と認識せざるを得ない状況だった。しかし…―ズドォオオン!!

「ひゃぁああああもう一体ぃいいますぅうう!!?」

 サチコが指さして悲鳴を上げる全員の後ろにはあの2体の怪物よりも更に大きな類人猿が現れていた。

―ギャァアアアアアアアアアアアアアッ!?

 全員が突如大きな声を上げるが…類人猿の方は彼女たちに目も合わせずに…

「アイツが先に来ていたか…なら私も出向くのが筋だなッ!」

 類人猿は先ほどの2体の怪物の様な難解な独特の言語を喋らず流暢な日本語を喋ると驚異的なジャンプ力で怪獣娘たちには出せないダイナミックな跳躍力で彼女たちの頭上を飛び越えて行った。

 

「ぬぅううおおおおおおらぁあああああああ!!」

 類人猿の怪物改め怪獣が2体の内1体を地面が陥没するほどに巨大で大きな拳がハンマーとなって怪物の頭部を叩き込み、怪物1体目が撃破された。

「遅いよ、コング!もうすぐで片づけるところだったよ!」

 ガメラは最後に残った怪物を河川の方へ投げると空中に滞空する怪物に目掛けて口腔内に貯めた可燃性エネルギーを放出して火球として放出すると火球は怪物にクリーンヒットして怪物は爆発四散した。

 類人猿の怪獣コングが叩きつけた怪物は意識を無くして沈黙したと同時に突如としてサラサラな砂のように消失して消えていった。

「お~い!あんたらぁああ!!」

 戦いに結着が付いたと見た怪獣娘たちが駆け寄ってきたのが見えた。

「まずい、一旦離脱しますよ!」

「私は飛べん…頼む」

 ガメラはジェットを噴出してホバリングしながらコングの両手を掴んで更に放出を最大化させると2体ともどこかへと飛び去っていた。

 一方、あたり一面を煙で覆いつくしてゲホゲホッと言いながら怪獣娘たちが煙を手で払いながら進むとそこには既にガメラ達は居なかった。

「アイツら、消えちまったぞ!?…一体、何モンなんだ?」

「わっ、わかりません…けど…敵ってわけじゃないみたいっす、あたしらを助けてくれたんで」

 ミサオの証言で駆けつけた怪獣娘たちは消え去った2体の怪獣に対して明確な“敵性”ではない事だけは伺えた。

 

 

 そんな河川敷での出来事をビルの上から見下ろしていた何者かがいた。そして、その手にはソウルライザーが“3つ”手の内にあった。

「ねぇ…あなた、何をしているの」

 得体の知れない何者かの背後に気配すら察知させぬまま現れたのはGIRLS怪獣娘最強を誇るゼットンだった。

「……………」

 何者かは一切を語らずボロボロに布生地で覆われたベールの中にのみその正体が唯一ある。

 しかし、ゼットンは一切の躊躇もなくそんな得体の知れない相手に向かって殴りかかった。

「!?」

 ゼットンは驚愕させられた。自分の拳は怪獣娘の拳、レッドキングほどのパワーに振り分けられた攻撃型のファイターではないにしろ怪獣娘の拳に変わりない…しかし、目の前で起きたのはそんな自分の拳を2本の指だけで止められていることだった。しかも骨で言う所の中指の末梢骨部位、拳を握れば最初に突き出る拳の先端を2本の指で押さえられている。物理的にありえない上に今現在もゼットンは“触れられている”感触すらも感じていない。宛ら霞を相手にしているとさえ認識させるほどの何者かであった。

 ゼットンは即座にテレポート、距離をとって躊躇しない最大火力の応戦を決めた。それは通常赤い炎のはずがより強く確実にシャドウを葬り去るためにも何度か使った事のある青い火球である。それが今ゼットンにできる最大火力の技であり、受ければ周囲にまで被害が生じるが幸い相手がいるビルは解体予定のため被害は少ない。

 そして、躊躇もなくゼットンは青い火球を放った……が、得体の知れない何者かは青い火球を素手で受け止めた。次第に青い火球はその者の手の内で徐々に圧縮していき…火の粉サイズにまで縮小すれば手を祓うだけで焼失してしまった。

「あなた…一体、だれ…」

 そして、ゼットンは自身の最高火力すらも無効化された得体の知れない相手に更なる戦慄が走った。

 既にいるのである。テレポート能力を有するゼットンをして背後に回られた。即座に振り向きざまに攻撃を加えようとしたが…首筋に電流の様な何かが走って、滞空していた場所からビルの屋上に落ちた。

 屋上で倒れたゼットンは意識があるものの動くことができない麻痺状態と言う状況であった。

 そして、床にはゼットンのソウルライザーが転がっている…頭上からボロ布のローブを羽織った者が下りて来た。これでゼットンも万事休す、止めを刺されるのを覚悟した…が、何者かはゼットンになど興味を示さず…寧ろ、ゼットンが落としたソウルライザーを拾い上げて手を翳すと青い光を放って手が光を吸収している様子だった。何を吸収しているのか分からない…が、何かをソウルライザーを介して抜き取っているのは明白だった。しかし、何もすることができない。初めての敗北感、空虚感、何より弱さの孤独感がゼットンに拳を握らせた。悔しさの拳だった。

 そんな時だった…紫色の閃光が何者かに激突して何者か分からぬ相手は壁際まで吹き飛んで4つのソウルライザーが宙を舞ってそのものの手から離れた。

「いやな気配を感じて来てみれば…只事じゃねぇよなぁコレは…」

 それは“ミレニアム”と言う形態に変化して超高速で駆けつけてくれたゴジラだった。

「あっ…あなたは…」

 そうゼットンが問いかけても声の小ささで届いていないのか倒れているゼットンの事など気にもせず、ただ吹き飛ばした相手の方を優先的に向かっていった。

「!!」

 相手は何が起きたのか分からないと驚く隙も与えずゴジラは超高速で相手の胸元を蹴り抑えた。

「おい、俺の質問に答えろ…お前は誰だ?」

 しかし、質問になど答える義理は無いとゴジラの足を掴もうとしてきたが、掴ませず即座に超高速の連脚撃でその者にダメージを与える。

「!!?」

 そして、一通りの攻撃を通した所を見計らってゴジラはその者の顔面に大きな手を掴み取った。

「人の前に出るときは顔さらしやがれ…形態変化 バーニング」

 すると今度は体形が高速に適した流線的形状から重筋力を増したような剛力の体形に変化し、紫色の背ビレが赤く爛れた業火の熱気を背負って別の形態へと変化した。

 その熱はゼットンをして熱いと認識させる驚異的な熱量であった。

「!!?」

 そして、ゼットンを襲った何者かのローブは一瞬にして燃え盛り煤色に変化して燃え尽きると正体不明の何者かの姿が晒しだされた。

「!?…テメェ…」

 その姿にゴジラもゼットンも驚愕した。歴史上幾たびも怪獣や侵略者から地球を守ってくれた『光の巨人“ウルトラマン』…しかし、今の目の前にいるのはそんなウルトラマンと同じ体色、同じ胸部の発光器官、同じアルカイックスマイル形状の顔…しかし、その顔には右頬から走るヒビ割れが目立つ過去のウルトラマンとは唯一特徴が異なるが…その姿こそ正しく『ウルトラマン』だった。

「なんなんだ…お前は何者だッ!?」

 謎のウルトラマンは一切の言葉を発さず…顔を覆い隠しながら即座にテレポーテーションでその場を離脱…ゴジラもゼットンも気配を感知できない距離へと逃げられた。

「チッ…逃げられたか……おい、あんた…立てるか?」

 ゼットンはゴジラに声を掛けられて首を縦に振ると…ふらつきながらもようやく立てるまでに回復して立ち上がった。

「…そうか……悪いがこっちも急ぎの用がある あんたはコレ持って帰んな」

 ゴジラはソウルライザー4つを拾い、ゼットンに託して何処かへとまた紫の“ミレニアム”形態へと変化させて超高速でその場を離脱していった。

「……今のは…一体…」

 ワケが分からない状況にゼットンは困惑していた…得体の知れない者の正体は『ウルトラマン』、そこへ駆けつけてくれたのは謎の怪獣、何から何まで謎であった。

 

 

 ゼットンたちから姿を消したウルトラマンに酷似した謎の人物はひと気の無い路地の様な場所へとテレポーテーションに成功して辺りを見渡して完全に人が居ないことを確認すると光と共に変身を解除した。

「……あれ?ここはどこだ…」

 変身が解けた姿は先ほどまでの記憶がないごく普通の青年だった。それも黒いスーツに無地のワイシャツ、宛らサラリーマン風の成人男性の様な出で立ちだが…青年の懐から携帯電話の着信音が鳴った。

「はい、木條です。 あっ、緒碓警視…はいッ、はいッ、本当ですか!? では『アヴァロン・ユニット』が警視庁で本格始動ですね はい、はいッ頑張ります!」

 青年は携帯を耳に当てながらどこかへと去るのであった。

―関東拘置所―

 

「ええっ、期待していますよ 木條くん…では、私はこれより用事が済み次第に本庁へ戻りますので…はい、お気を付けて」

 そういって携帯電話の通話終了ボタンを押し切ると緒碓警視は関東県内の某所にある『関東拘置所』の玄関口へと足を運ぶのであった。

 

 

 刑務官に案内された緒碓はある人物に会うためにここを訪れたが…そこは外のように明るくなく、地下のように真っ暗でもないが、光は極僅かな篝火程度の蛍光灯のみだった。

「全国に拘置所は8ヵ所とされていますが…ここは国内9ヵ所目の“存在しない拘置所”です…拘置所収監者の多くは重大事件の刑事被告人や懲役受刑者、死刑確定囚が収監されることが相場ですが…本所に死刑囚や懲役囚はおりません」

 拘置所員は無機質なまでに表情を変えないまま警察官と格好は同じ制服を着た刑務官が緒碓警視を連れて所内の案内進めるにつれて刻々とその人物までの距離が近づいてきていた。

―ガコンッ!

 扉が開かれ、別の刑務官が初老の男性を腰縄と手錠引きながら緒碓の待つ面会席まで連れ来ると腰縄と手錠を外され、その席に座らせた。

「これより10分間の面会時間となります…終了次第、御迎えに上がらせていただきます」

 そういって面会が始まった。驚くことにこの拘置所収監者の面会には刑務官の立ち合いが無く、刑務官は外へと出て行った。

「お久しぶりです 天城“教授”」

「…君は…緒碓くんか…思っていたより元気そうだね」

「ええっ、御陰様でミイラが水を得たような気分です」

「……そうか……ミオはどうしている?」

「ご息女“ミオ”さんは現在新宿区内にて『ブルーコメット』と言う名の私立探偵を開業されていると新宿署の開業届で確認しました…それ以外は特に…」

「あぁ…元気であるなら何よりだよ……ここは家族との面会すら許されない場所だからそういった情報だけでもありがたい」

 初老男性は安堵した表情を浮かべて安心しきった様子でパイプ椅子の背凭れに寄りかかった。

「さしあたって、私の近況もご報告させていただきます…この度、警視庁は正式に『“対特殊生物群”対策班』を設置いたしました…名目はシャドウ生物対策に趣を置いた組織ですが、国民に有害な生物は『シャドウ』だけとは限らないと本庁も判断しての決定です」

「…と、言うと?」

「『シャドウ』はあくまで副産物…それらを生み出す元凶は排除および駆除、監視も辞さない所存です」

「…そこに…『怪獣』も含まれると?」

「無論、この世界に『怪獣』は…存在してはならないと上は判断しております」

 初老男性は緒碓の言葉に息を詰めて…口を手で覆い深くも長い溜め息を吐き出して口元を抑えていた手は膝へと落ちた。

「……わかった…これも私の罪だ……ミオが人間として生きられるのなら、それもまた正しい判断だとしておこう」

「ご理解のほど、ありがとうございます。 つきましてはわたくし緒碓タケルは本日より正式採用された『対特殊生物群対策班』改め“アヴァロン・ユニット”を指揮させていただきます」

 最後の言葉が交わし終えた時、刑務官が面会室へ入室して時間終了を告げた。

「…天城教授、ご息女様に何か言伝は?」

「……何も…私は十分、あの子に父親として残せたものを残してきたつもりだよ」

 そう言い残して初老男性は刑務官に手錠を掛けられ、再び面会室より外の領域へと足を進ませ戻っていった。




アンバランス小話
『拡散』

 GIRLS東京支部の正門前でユウゴが鬼のような形相で怪獣娘たちを待ち構えていた。
「ぎょっ!?おっ、おい…アギラのお兄さんなんかメッチャ怒ってねぇか?」
「なんでお兄ちゃんがあんな怖い顔で待ってるの…ボクたち、何かしたかなぁ?」
 アキたちは恐る恐る近づいてアキの背後で蛇に睨まれたカエルの如き震え方で構える怪獣娘たちと共にユウゴの元へと近づくが…
「誰だ…俺の店を拡散しやがったバカは…」
 ユウゴの手には見覚えのあるSNSアカウントで『知り合いのお店でご飯対決~♪』と馬鹿の一つ覚えのような書き込みをした痕跡があるSNSの書き込みが掲載されたデバイスが画面いっぱいに広がっていた。
「あちゃぁ~、ゴメンゴメン…ソレ、ウチや!」
「ゴモたんッ!!」
 悪びれもせずに舌を出して平謝りをするミカヅキだったが…ユウゴの肩よりヒョコッと赤い生き物が顔を出してきた。
「こら~!許可も無しに拡散行為をしてはいけませ~ん!」
 それはプンプンッと怒った表情を浮かべるピグモンことトモミだった。
「アギアギのお兄さんからすべて聞きました!アギアギの御家の家庭訪問と言って殆ど仕事を放棄してお兄さんの料理に舌鼓していたなんてぇ…うらやま…じゃないです、ダメなのですぅ!!レッドン、ゴモゴモ、ミクミク、一週間書類仕事を手伝ってもらいますぅ!」
「「そんなぁ~ッ!?」」「俺もかよッ!?」
 仕事をさぼっていたツケが回って連帯責任で3人の罰が決まった。

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