TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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変装 危機一髪

「♪~♪♪~ッ」

 陽気な鼻歌交えながら肩より下に垂れ下がる艶やかな髪の毛を櫛でとかし、鏡越しに移る自らの虚像には身にレディースのワイシャツ一枚を羽織るだけの彼女が映る。

 髪型をいつも通りのサイドテールスタイルに整えるとワイシャツのボタンを1つ1つ掛け間違いのないように対照のボタン穴に通し、スカートに足を通して腰の位置に合わせるとズレない様にウエスト丈を合わせてパチンッと留め具が締まる。ワイシャツの上にセーター、首元には深緑色のネクタイ、足には少し長めで足首の細さからズレ落ちダボつく靴下、そこから小さめの革靴と1つ1つの着こなしをラフにアレンジした普段着兼学校用の制服姿こそ宮下アキの着こなしであった。

「宮下アキのセイフク姿も存外悪くはありませんわね」

 しかし、今この姿を着こなすのはいつものアキではなくインファンと王女エリアスであった。

 夜通し語り明かしあった楽しげな一夜から朝を迎えて先に起きたエリアスのちょっとしたいたずら心がアキの普段着に手が伸びて今に至る。

「ZZzz~」

「ZZ~…うぅ~ん、ユウくん…」

「Zz~Zz…キリュウゥゥ…」

 当のアキを含め他のアイカとメイカは未だグッスリと深い眠りや寝言を吐くほどに起きる気配がなかった。

(ウフフッ、そのままずぅ~っとお眠りなさい これよりわたくしは宮下アキに変わって兄さまとあんなことやこんなことを思う存分に堪能させていただきますわ)

 したたかな表情をアキに向けて今のアキの普段着を拝借したこの姿でユウゴの前に立とうと言う算段は半ば計画的とも言えた。

「うぅ~ん…」

 一瞬、何か良からぬ気を感じたのかアキは魘される様に顔つきが険しくなるもしわ寄せる表情筋は再び緩まって寝ぼけながらアイカの方に手を回して宛ら赤子が母親に甘える様子であった。

(ふぅ~アブないアブない、危うく起きてしまわれる所でしたわ)

 若干の危うさを回避したエリアスはこれ以上アキの傍に居続けるのは危険と判断してソロリソロリと歩く足音も廊下に通じる玄関ドアもゆっくり開けて部屋を後にした。

―…カシャン…

 細心の注意を払って玄関ドアをゆっくりと閉めたアキの普段着を拝借するエリアスは宛ら難攻な試練をやり遂げたかのような何処かホッと息を整え胸をなでおろす思いであった。

「あっ、おはようございます 宮下アキさん」

 口の中から心臓飛び出す予期せぬ事態がアキに扮するエリアスが身震いする。彼女の背後にはメイカの保護者にして天城ミオの飲み仲間となった湯原サラの同伴者、桐生シュンイチと言う青年がどこかで買ってきた数多の食材を買い込んだビニール袋に紙袋を抱えてエリアスの背後を取った。

「オっ、オハようゴザいマす…キリュウ・シュンいちサン…」

「昨日はメイカの面倒を見ていただいてありがとうございました まだうちのメイカは寝ていますか?」

 この青年の様子を見るにまだエリアスがアキでは無いとバレてるわけでは無かった。しかしエリアスにはこの桐生シュンイチと言う者の只ならぬ気配に感づいていた。

「まっ、まだグッスリとお眠りさんのようですので無理に起こしては不機嫌になってしまいますわよ」

「そうですか 確かに寝起きのメイカの相手は僕も毎度苦労させられますし…そうですね、メイカは自発的に起きるのを待ちますので先にサラさんを起こしておきます」

 エリアスが警戒するのは桐生シュンイチと言う男の性質だった。この男、言葉悪く語るなら“間抜け”の類である。

 1つの誘導で厄介事を引き起こすトラブルの種、シーソーの上で転がる玉のようにどちらかに誘導すれば大騒ぎになる。

 仮にアキたちの部屋に向かえばアキの格好をエリアスが拝借している事が即座にバレる。一方の湯原サラの部屋に向かわせればあの駄獣(ベムラー)を呼び覚ます。1に反らせば2となって返って来るならばエリアスが取る行動はただ一つ…

「それより桐生シュンイチさん、やけに大荷物ですわね」

「あぁ、これですか…近くのスーパーが朝市を開いていたのでいろいろと買い込んでしまって サラさんもメイカも朝はしっかり栄養を付けてあげないとすぐに自堕落に走るので毎朝の食事は僕が作るんですよ」

 突破口はこれであった。

「宜しければこの階の厨房をお使いになって見てはいかがですか、今なら常駐のシェフは下の階の厨房で他の宿泊客用の食事作りで出払っていらっしゃるようなので…」

 1反らし2となれば、0にしてしまうまで…ここは最上のスイートルーム階、普段はディナー用の厨房もこの階には常設されているため間抜けはそこに押し込むが良策であった。

「そうなんですか それはいいですね 僕、サラさんのおうちの台所かサラさんの職場の駐屯地の厨房くらいしか触れた事ないので助かります!」

「…駐屯地?」

 若干、何の話をしているのか理解に苦しむも間の抜けた桐生シュンイチはどちらにも寄り付かせずに見事ホテル厨房へと誘導して見せた。

(ふぅ~、危うく厄介な事が大きくなるところでしたわ…ですが完璧に宮下アキを演じきれましたわ、一切バレていませんッ!いけます、これならいけますわッ!!)

 冷や汗をアキの服のポケットにあったハンカチで拭き取ると確信めいた自身が沸いていた。今の自分が一切誰にも宮下アキに扮したエリアスであると気づかれていない事にグッと拳を握りこんだ。

(それはそうと~早いうちに兄さまを待ちましょぉ~ッと♡)

 一難に回避し切ったエリアスは足早にスキップ交じりにスイートルーム階に常設されているエレベーターまで向かって行った。

 しかし…

「……う~ん…アキさんってあんな喋り方だったっけなぁ?」

 存外、顔見知ったばかりのシュンイチですら違和感を覚えられてもいた。

 ホテル エントランス内

 

(ホテル内にバトラカが見当たらない…と言う事は、やはりこの国の公安に確保されていらっしゃる方は…)

 今朝の時点でいつもならエリアスと片時も離れようとしない護衛者のバトラカが持ち場を外れて姿を見ないのはこれより以前からエリアスたちがこの国に訪れて来た“本来の目的”の最大事項に抵触する事態となった事を暗示していた。

(はぁ…母君の試練とはいえ、母様もわたくしに酷な事を任せになりますわ 兄さまがいて下さるから多少マシですが…)

 心なしか肩の荷の重さに背骨曲がり猫背気味に気が落ち込むエリアスに背後からゆっくりと手が伸びて来てポンッと落ちる肩に触れられた。

「はっ、兄さッ――」

「おはようございます、アキさん…いや、エリアス王女様」

「マッ!?」

 そこに居たのはまだスイートルームで寝ている頃だと踏んでいたはずのアイカが額に血管浮かべて確実に怒っているのがわかる表情をエリアスに向けていた。

「なっ、なぜわたくしが宮下アキではないとッ!?」

「当然ですッ!人の服を勝手に着てその人に成りすまそうだなんて…当人が怒るのも当然です!」

「…当人?」

「エ~リ~ア~ス~ゥ!!」

 どこからともなくおどろおどろしい声でエリアスを呼びつける不穏な気配にエリアスは背筋から身震いさせるも肝心の声の主の姿は見受けられない。

「ヒィッ、みっ…宮下アキ…そんな恐ろしげなお声を出されてどうされたのですか、御姿見せてもよろしくてよ」

「こ・こ・だ・よッ」

 こちらも同じくエリアスのいたずらで服を入れ替えられたアキは必然的に残された方を着ざるを得なかったアキはたまたま置いてあった搬入品のクリーニング済みバスローブが掛けられたハンガーラックよりバスローブかき分けてエリアスの衣服を仕方なくも身に着けたアキが姿を見せた。

「なんでまた君のドレスを着る羽目になるのさッ!返してよ、ボクの服ッ!!」

「まぁ、存外素敵ですわよ その御姿ならどなたもあなたが宮下アキだなんて気づかれませんわよ」

「そういう問題じゃないよッ!褒めてくれるのはうれしいけど、こんな姿を他の友達とかGIRLSの人たちとかに見られたら即撮影会が始まっちゃうんだよぉッ!!」

 以前の入れ替わり騒動後に衣服の交換から譲渡されたエリアスの姫衣裳がアキの手元にあるとわかったあとGIRLS東京支部の面々に散々写真撮影をされた嫌な記憶がアキには蘇ってくる。

「良い事ではありませんか…わたくしも“すまほ”なる物があれば今のアナタの御姿を被写体に納めたいくらいですわ」

「良くないよ!アイカさんからも何とか言って下さ――」

 エリアスのペースにアキは若干おちょくられている中…パシャリとシャッター音が響いた。

「……えっ、あッ…いや、その…記念にいいかなぁ~って、つい」

 ここに味方は居なかった。

「んもぉ~いい加減に…」

「あれぇ~アギちゃん?」

 災難は思わぬ時に訪れて来た。昨日からミオに付き合っていた面々がミオとサラが寝泊まるホテルに解散からの再合流でホテルのエントランス内へぞろぞろと訪れていた。

(ひょッ!?みっ、ミクちゃんたちッ!?なんでこんな時にぃい!?)

「あぁ~!いつぞやの王女様やんッ!?」

 ミカヅキがアキの横に居るエリアスに指さすも彼女たちが認識するアキはアキの格好をしたエリアスで当然、指さすエリアスはエリアスの格好をしたアキである。全員一切アキとエリアスの姿が入れ替わっても誰一人気づいていなかった。

「えっ…ええっと、ご機嫌あそばせぇ~みな…さま…」

「おはよう ミクちゃん、ウインちゃん、ゴモたんにレッドキングさんもこんな朝早くからミオさんの御迎え?」

「―――ッ!?」

 エリアスの格好をさせられているアキは驚愕した。アキの格好をしているエリアスはアキの衣服を借りるだけに飽き足らずアキを完璧に模倣して見せた。

「せやで、なんか知らんけど昨日イタリアンのファミレスでベムラー姉ちゃんが意気投合した変な人とやたら高そうなホテルに入って行った所まで見届けたけど…アギちゃんもベムラー姉ちゃん向かえ?」

 それなりに顔合わせているはずのミカヅキですら気づけていないほどにエリアスのアキへの扮し方が完璧すぎて誰も違和感を抱いていない。当のアキはそれはそれで複雑な気持ちであった。

「そうなんだよ、同じフロアに泊まっていたエリアス王女が酷く迷惑をかけたらしくて…わざわざボクに連絡を入れてくれてミオさんを引き取りに来たんだ、よっ、ね~ぇ、エ・リ・ア・ス・王女さまぁ~」

 みんなには見えない角度でアキに扮するエリアスが不敵な笑みを浮かべて来た。

(ムカつくッ!エリアスにボクの真似されるのは良いけど…それよりもアイカさんはどう説明しよう!?)

 この際、エリアスとアキの違いに見抜かれていないことによしとしても今この場で全く接点のないアイカに触れられたら…と、思っていると…

「ねぇ、さっきからそこのお姉さん…なんでそっぽを向いてるの?」

「ふぇっ?」

「…………」

 肝心のアイカは何故か全員と目を合わせまいと首を90度の角度に傾けて誰一人に顔を見せなかった。

「……おまえ…もしかして、アイちゃんッ!?」

「うぐっ!…ひっ、久しぶり……ベーちゃん」

 声を上げたのは意外にもレッドキングことベニオであった。彼女とアイカは顔を見知った間柄だった

「レッドちゃん、知り合いなんッ?」

「いや、知り合いも何も、中学の同級生で『城南の赤薔薇』だぞ」

 ベニオとアイカは顔見知りであるだけでなくアイカのとんでもない過去を知る人物であった。

「城南の赤薔薇…なにそれ?」

「へへッ、恥ずかしい話…オレ、中学時代は素行が荒れててな…『城南の赤髑髏』なんて呼ばれる“不良”ってヤツさ かく言うアイちゃんこと木城アイカも中々のワルだったんぜ、二人して『城南女子の赫灼コンビ』なんて呼ばれてたんだよ」

 ベニオはアイカと親交があった事を証明するために見せたソウルライザーの画像には今では考えられないほどに目つきの鋭いベニオと可憐なセーラー服に対して凶悪な鎖鞭と口元隠すマスク、極めつけはベニオよりも目つきの悪いその顔半分上の様相は前にする相手を睨みつけているかのようなキツイものが伺える。

 そして、全員が満場一致に思う事は…――

――――――誰ッ…?――――――

 とてもここに居る清楚可憐にして気品ある大人っ気のある女性とは思えない過去と現在の激しいギャップの差があった。正に青い春ならぬ赤き歴史がその写真には詰まっていた。

「ちょっとべーちゃん!恥ずかしいからみんなの前で見せないでよッ!!」

「良いじゃねぇか、別に隠す必要ねぇだろ…今もあの頃のお前を思い返せばそこらの不良にも負けず劣らずの最強のスケだとオレは思ってるぜ」

 衝撃的な事実であった。アキの兄ユウゴと交際している交際相手の木城アイカはかつて泣く子も黙る凶悪なスケバンと呼ばれるかなりトガった人種であることにアキは目を丸くした。

(お兄ちゃんと釣り合うのが何となく理解できてしまった…)

 どうしてこんな人とあのドライモンスターことユウゴなんかと付き合えるのかという理由が明確になった。

「オレは中学卒業後に怪獣娘としての力の制御と発散もかねてGIRLSに所属したけど、オマエ高校はどうしたんだ?なんか女子高に進学するんじゃなかったのか?」

「えっ、ええっと…なんやかんやの諸事情で高校には進学できなかったけど、今は高等専修過程を経て高卒認定を得た後に早期的に社会人…やってるよ」

 道は違えどもベニオとアイカは“怪獣”と言う予期せぬ力を得ながらも進むべき道を見つけ出した者同士であった。

「そっか、お互い色々あったみたいだな…まぁ、深い事は聞かねぇけど お前、今は何の仕事してんの?」

「へっ!?…えっ、ええっと、その~…今は…」

 アイカは同じ中学出身のベニオに対して『今は怪獣戦士(タイタヌス)候補者やってます』などとは明かせず、尚の事ベニオたちと同じ怪獣娘にして怪獣能力者であることも明かせなかった。

「んんっ、レッドキングさん この人はエリアス王女の通訳さんですよ」

「「――ッ!?」」

 アキの完璧コピーで誤魔化す本物のエリアスはエリアス扮するアキの通訳者であると咄嗟に紹介した。

「へぇー、お前通訳やってんだ~…意外だな」

「えっ、ええ、まぁ…知り合いのツテであり付いた仕事って言うか…」

「なんやぁ~、てっきりユウちゃんの交際相手さんかと思ったわ」

「そうだよなぁ、オマエ昔っから『男なんかと付き合うなんて時間の無駄』とか『男なんて全員ケダモノ』とかいって大の男嫌いだったもんなぁ~」

「―――ッ!?」

 またもや知りえないアイカの赤面したくなるような赤い歴史が紐解かれる。もはや真っ黒な黒歴史レベルの過去が掘り下がるにつれてアイカの顔は赤い薔薇の様にドンドンと紅潮していった。

「へぇ~…そうなんだぁ~…そんな素敵な過去をお持ちのアイカさんがウチのお兄ちゃんなんかと釣り合うはずないですよねぇ~、いやぁ~アイカさんがエリアス王女の通訳さんでよかったなぁ~、お兄ちゃんの交際相手とかじゃなくてよかったよぉ~」

「それよかアギちゃんはユウちゃんの付き合ってる人と会えたん?」

「うん、会えたよ…いやぁ~アイカさんみたいな人ってよりもエリアス王女様みたいに気品あって優雅な人って感じだったかなぁ~♡」

「へっ…へぇ~…」

 どさくさに紛れてアキに扮している事をいい事にエリアスは自分を棚に上げてユウゴの交際相手まで捏造し始めた。妙な違和感を感じ得ないミカヅキはやけにいつものアキでは無い気配に少し引き気味であった。

(はわわわっ、酷いよ エリアスッ!ボクの姿である事ない事を…と言うか、本人を目の前にしてよくも抜け抜けと分かりきった嘘を吹き込むなんて…ウワッ!?)

 下手に喋れないアキを余所に強制的に立場上エリアスの通訳と言う事に落ち着かされたアイカは……笑っていた。不気味なくらい笑っていた。にこやかな笑顔の様だが、実際は額に血管を浮かべてかなり怒っている気配を感じる。

「……アッサーラフンギルダンベ、メイ・エリアス(後で覚えてなさい、エリアス王女)」

(……インファントの言葉、喋れるんだ……)

 言葉の意味は分からないがそれはエリアスに扮しているアキに言っているのか、アキに扮しているエリアスに行っているのか…少なくとも…

「おお~すげぇ~、本当に通訳やってんだな…今の何て言ったんだ、アイちゃん?」

「なんか意味合い的に“そろそろお時間です、エリアス王女”って言ったような気がするなぁ~」

「アギちゃん、言葉わかるのッ!?」

「まぁ、少しは…」―パンパンッ…

「ふぎゃっ!?なっ、何々ッ!?何なの!?」

「わぶっ!?なんで私までッ!?」

 アキに扮するエリアスは自身に発言の権限が強いのをいい事にさらにアイカの通訳まで捏造し始め、後ろに回す手をパンパンッと手拍子するとどこからともなくシークレットサービスの様な風貌の男性たちがエリアス扮するアキとアイカを取り囲んで警護者と言う人体壁を形成してぞろぞろとホテルのエントランスを強制的に退場させられていった。

「お~い、アイちゃん!今度機会があったら飯でも一緒に行こうなぁ~!」

 屈強な警護者たちに連行されていく人波に飲まれていくアイカから『検討しておくぅ~!』と返答が帰って来るもその声は既に遥か遠くであった。

「いやぁ~王女様と通訳さんって大変だねぇ~(フフフッ、申し訳ありませんが兄さまと一時を過ごす為、犠牲になっていただきますよ、お二方)」

 アキに扮するエリアスは邪魔者を排除してただユウゴと二人っきりに為れる場を瞬時に条件を揃えた。あとはGIRLSの面々を追っ払うだけであったが…

「何してんだ、オマエら」

 タイミング悪く今ここにユウゴが来てしまった。

「にっ、兄さまッ!?」

「兄さま…?」

 ユウゴを前にしたアキに扮するエリアスは不意を突かれて素の彼女が現れてしまいその場に居る全員に違和感を抱かせた。

「…なんでアキの格好なんかしてんだ、エリアス」

「なっ、何のことでしょうか…わたッ、ボクは正真正銘の宮下アキだよ~、お兄ちゃんの可愛い妹じゃないかぁ」

 必死にアキを演じ切ろうとするエリアスの背後にミカヅキが回り込む。

「秘儀・ゴモたんチェックゥッ!!」

「ヒャウッ!?」

 背後に回り込まれたミカヅキに腕を回されてアキに扮するエリアスの身体を撫でまわされて彼女が誰なのかをスキャンされていく。

「……アギちゃん度、マイナス67パーセント…これはアギちゃんやないッ!さては君こそがエリアス王女やな!?」

 まさぐってようやく理解したミカヅキは目の前にいるアキに似通った存在がエリアスであることを見抜いたが時すでに遅し、アキとアイカはエリアスの警護者たちに連行されていった後であった。

「じゃあ、さっきの通訳の人と一緒に連れていかれた王女様ッぽい人がアギちゃんなの!?」

「…通訳?」

 来たばかりで何のことか分からないユウゴは状況に理解できず首を傾げるが…

「ご安心を、宮下アキにはわたくしと行動を共にする明確な理由がございます バトラカ!」

「はっ!ここに…」

「うわっ、いつの間に!?」

 エリアスの指先のスナップと共に姿を見せたバトラカに怪獣娘たちは身震いさせるほどに驚かせた。

「それで、バトラカ…間違いなくあの方でしたの?」

「この者に確認いたしましたところ…間違いなく前女王候補のベルベラ様であることが確認取れました 追ってこの国の外務大臣が会談の要請が来ております」

「……わかりましたわ、至急に外務大臣への御取次ぎを」

「かしこまりました」

 エリアスからの指示を受け、バトラカは彼女から一歩下がって部下たちに指示を回し始め各員迅速な行動でそれぞれが動き始めた。

「んじゃ、俺の役目はここまでだ」

「お待ちくださいませ、兄さま…このまま別れるのは寂しゅうございますが、あなた様の飼われているごく潰しがわたくしの部屋におりましてよ 早急に連れ出してください」

 エリアスは酔っぱらったミオが今も自身の部屋に寝泊まらせていると教えた。

「んっ?…ぎょっ!?」「ヒィッ!?」「うおッ!?」

「ゆっ、ユウちゃん…顔、怖いでぇ…」

 GIRLSの怪獣娘である4人が怯えるほどにユウゴの顔、身体から放たれるオーラ、周囲を淀めかせる空気と空間、誰の目から見てもユウゴは明らかに“怒って”いた。

「…あんのアホ探偵…どれだけ迷惑をかければ気が済むんだッ」

 ユウゴは怒れるオーラをまき散らしながら上に通じるエレベーターに向かった。

「…ええっと…アアッ、待ってえな ユウちゃんッ! うちらもいくでぇ!!」

 エレベーターに乗り込むユウゴの元に慌てて怪獣娘たちは滑り込みで乗り込んでいった。

「…エリアス様、お車のご用意が整いましたが…先ほどから車内ではゴジラの妹君があなた様を及びたてする声を上げて荒ぶられているご様子ですが…」

 先に用意された車内に連行されていったアキからエリアスに対する言い分だけで自分にどんなことを言いたいのかエリアスは合わずとも理解した。

「あらまぁ…それは大変ですわね…咄嗟とはいえ宮下アキを演じるのも中々面白いものでしたわ」

「…エリアス様…あのような下民の様な振る舞いは今後一切お控えいただきたく願います…」

 エリアスはアキを演じる事に何らかの悦を抱いた事にバトラカは頭を抱えさせるばかりであった。

「仕方ありません、バトラカ 単車の用意を」

「ハッ!」

「宮下アキとお邪魔虫もそのまま目的地まで護送を」

「承知いたしました」

 エリアスはバトラカに次に向かう“目的地”までに必要な事項を事細かく指示をして彼女の企ては更に加速を進めるのであった。

 都内 国道線

 

 半ば強引に連れ出されたと言う状況下のリムジン車にアキとアイカのみ…一方は普段着とはかけ離れた装飾のドレスを着ており、もう一方は明かされた恥ずべき過去に現実を背けて顔を両手で覆い隠している。依然、会話はない。

「………(気まずい…)」

「―――(恥ずかしい…)」

 理由は単純明白、すべての元凶はエリアス。しかし、今ここにアキとアイカの二人を護送するリムジン車の所有者たるエリアスは居ない。

(ううっ…酷いよ、話をややこしくさせられた上にまるでボクがアイカさんのことをお兄ちゃんの交際相手と認めてないような言い方を勝手にして…わぁーーッ!もうみんなに紹介しにくいよ!特に同じ中学出身同士のレッドキングさんにこの事実を付きつけたら…最悪はボクに火の粉が飛んでくるのは確実…やだぁああ!レッドキングさんの特訓ハードコースだけはヤダァアアッ!!)

 想像を巡りに巡らせて頭を回転させ続けたら一周回って恐怖が過っていた。

「……あっ、あの~」

「ひゃっ!?…はっ、はい?」

 先陣を切って声を上げたのはアイカからであった。

 恥を忍んでアキに何かを訴えかけようとするその声にアキは耳を傾けた。

「げっ…幻滅、しましたよね…私が…その…酷い人間だって…ユウくんなんかと付き合うべき相手じゃない…ですよね」

 恥は一周を飛び越えてとんでもない地点へと墜落した。完全なる自暴自棄、自己の否定がすぎて早まった考えをし始めた。

「やっ、ちょっ…まっ、待って下さい!!なんでそうなるんですか!? 違う、違いますよ!ボクは別にアイカさんの過去と成りの事を責める気なんて無いです!アイカさんがたとえどんな方だったとしても、“あんな人”を心から愛してくれている人を無下にはしません!!」

 アキはアイカの手を両手で包み込むようにして彼女の手を自分の方に近づけてアキの正真正銘の本心を彼女に伝える。

「たとえ、誰に責められようとも…ボクは、アイカさんの味方ですし、お兄ちゃんだって味方になってくれます……正直、ミオさんにだけは合わせたくないけど…今度ぜひウチに遊びに来てください!そしたらいつでもお兄ちゃんと一緒に居られる時間が増えますよね」

 その言葉の全てが偽りでないと示すため、アキはアイカに自宅への招待を申し出た。

「…アキさん……いいんですか?」

「うんッ!…もうアイカさんの事は…本当のお姉ちゃんだと思っているし、なんならお兄ちゃんと交代してほしいくらいだけど、ボクはアイカさんのことお兄ちゃん以上に大好きだよ」

 アキは三度アイカに甘え付こうと彼女に抱き着いてアキと言う存在自身でアイカの不安を和らげた。

「…ありがとう、アキさん」

 それに対しての返答とばかりにアイカもアキを受け止めるようにして優しくアキを抱きしめ返した。

―コンコンッ…

 車内で抱きしめ合う女子二人に水を差すように外から窓ガラスを叩く音が車内に響く。

「んっ?…うわッ!?もっ、もしかして、エリアスとバトラカさんッ!?」

 外からリムジン車に並走して走行する二人乗りのバイク乗り、運転する人とその後部席にて窓をノックした人、フルフェイスを被っていても彼女らがエリアスとバトラカであることはアキでもすぐに分かった。なんなら後部席の女の子はアキのGIRLSの制服を着用している。

 しかも呑気に手まで降ってリムジン車から距離を離して速度の出るバイクは乗用車であるアキとアイカを乗せる車よりも先に先行して行った。

「…先に向かってます…って言いたいんでしょうか…」

 エリアスがわざわざ窓をノックする意味を察したアイカはソレがエリアスにとって二人に向け、ないしアキへのメッセージだとするなら…

「むぅうぅうぅう~~ッ!悪びれもせず抜け抜けと…このリムジンから降りたら真っ先に文句言ってやるッ!」

 怪獣娘仲間に変な印象を抱かせ、自由奔放で唯我独尊にアキを振り回すエリアス…挙句に今もアキのGIRLSでの制服姿を勝手に拝借して宮下アキに成りすましている。アキにはこの上ない屈辱であり憤慨すると自然と頬が膨らみ顔を紅潮させた。

「ええっと…よしよし、アキさん…そんな気を張らないで」

 唯一の癒しでアキの膨らみ続ける怒りを宥めるアイカの優しい手に今にもアキの表情筋が頬の膨らみに大きく伸び縮む。

 

 

 リムジンは長い走行を経て辿り着いたのは世田谷区内の郊外の一角、高級な住宅が軒並み立ち並ぶ所謂富裕層世帯が居を構える地域のようだ。

「そろそろですわね、バトラカ」

「ハイ、運転手には予定通りこちらに向かっていらっしゃると連絡を受けています」

 アキのGIRLS制服を未だに拝借して身に付けているエリアスとバトラカはリムジン車に乗せられてやって来るアキとアイカを待っていた。

「……姫様、見えました」

 前面に掛けて縦に長いリムジン車にアキとアイカを乗せて来た。車体は斜線上の一時停止付近に停車するとガチャッと開かれたドアから二人が下りてきたが…

「むぅうぅうぅうッ!!」

 一人は何故かやたらと頬を精一杯膨らませて怒りを表現しているが…

「なんですの、フグの御真似ですか」

「違うよッ!怒っているんだよ!!」

 エリアスには空しくも響かず…

「それよりも…どうしてボクたちをこの場所に連れて来たのさぁ」

 アキたちが今いる場所は住宅地を超えた先にある西洋の外観を模したような洋館と形容して言い屋敷のようだ。

「ここはこの国の外務省の施設ですことよ…事情が変わって今日ここで外務大臣と緊急会談を開く方針をたった先ほど決定いたしましたわ」

「エッ、外務大臣とォッ!?」

 驚くことに今これからまさかの日本の外務大臣とインファントの王女にして外交官のエリアスが緊急会談を開くと言う国家機密レベルの重大事案にアキは何故か自分がまきこまれている事に驚愕した。

「なんでそんな重大な事にボクも巻き込まれているの!?」

「先方からの御要望なのです…この会談に宮下アキを交えて今後のGIRLS、強いては怪獣能力者案件に関する事なのでそういう点では宮下アキほどの適任者は居ないはずですわ」

「何でッ!?なんでボクなんかがそんな重要なポジションに回されているのさぁ!?」

 大々的に間違えている。アキ自身もそんな怪獣能力者の全ての代表のように扱われていること自体が自分には相応しくないと思ってしまっている。

「それは……私があなたの事を誰よりも存じているからですよ、宮下アキさん」

 困惑するアキを余所にその真意を伝えようと洋館の玄関口が開門して中から一人の中年男性が現れた。

「えっ…どうして、ボクの名前を…」

「…この二千年と少し…ずっとあなたをお待ちしていたからです、ようやくお会いできましたね 初めましてとお久しぶりです、宮下アキさん 現外務大臣の山陀ツクヨミと今は名乗らせていただきます」

「ツク…ヨミ…さん……あっ!あぁああああああッ!?」

 アキは名前に聞き覚える記憶が過って思い出し、山陀ツクヨミの容姿を認識すると秋田で起きた不思議な時間移動で古代の婆羅慈遺跡に飛ばされて村で出会った3人のうちの1人、あのツクヨミその人であった。

「ほっ、本当にあの時のツクヨミさんですかッ!?」

「はい、お会いできて感動の極みです…あの時、妻を助けていただき二千年間感謝を忘れた事はありません」

「ええっと…ボクもあなたがまだこの時代に生きて存在している事については驚いていますけど…その…その人、ボクじゃなくてエリアスです」

「……エッ!?」

「オホホッ、ごめんあそばせ」

 ツクヨミが挨拶していて握手を交わすのはアキだと思いきやアキに扮しているエリアスだった。

 世田谷区内 外務省関連施設『洋館』

 

 外務省の施設内に設けられた1室でアキとエリアスはようやくお互いの服装を好感して元のエリアス、頬を赤面させるアキ、それぞれが元通りの姿に戻った。

「もう二度と君の格好なんてしないからねッ!」

「オホホッ、わたくしはいつでも大歓迎ですわよ」

 二度あっても三度目は絶対に無いと硬い決意を抱くアキだったが、アキとエリアスが案内された場所は縦に長い卓で向かい合う外務省側のツクヨミとインファント側のエリアス、それぞれが違う国同士の威信を背負った会談と言う形で席に座した。

「改めまして、ようこそエリアス・メイ・フツア王女…お会い出来て光栄です」

「いえ、こちらこそ…お互いに実りある会にいたしましょう」

 エリアスとツクヨミは互いに握手を交わして早速外交的行動に打って出た。

「おーぉッ…コレが本当の外交会談なんだぁ…」

「そうですね、あんなわがままお姫様でも一介の外交官なんですね」

 改めてエリアスが本当に外交官であることを認知させられたアキとアイカは目から鱗であった。

「そこの御二人、聞こえてましてよ」

「会談中はお静かに願います」

 正式な外交階段の場で怒られたアキとアイカは顔を赤面させて恥を忍んだ。

「では、改めまして…現在、我が国の公安が調査したところ先日緊急逮捕いたしました人物、ベルベラ・メイ・フツア氏の身柄はこちらで預からせていますが今はマスコミへの公表は致しておりません…先日のGIRLSへの自爆ドローン事件も一切の報道なく怪獣戦士(タイタヌス)による鎮圧と隠滅によって事なきを得ています」

 会談内容に驚くことアキは『黒ガッツの事件だ』と記憶にも新しいことだったが事情を知らないアイカは『黒ガッツ?』と疑問に首が傾く。

「そうですか…では、インファント王国より女王サラナ・メイ・フツア陛下のお言葉を申し上げさせていただきます…『一連の貴国における我が元王族が引き起こした事件に関して当方の我が国は真に弁明の余地なしと考え、当方の人物を“逆賊”と決断し、早急な処遇は日本国並びに怪獣戦士(タイタヌス)に一任いたすものとする』とのことです」

 驚くことにあの自爆ドローン事件の犯人がまさかのエリアスたちインファント王族の関係者であった事にアキは驚愕した。しかもそれを兄ユウゴを始めとした他の怪獣戦士(タイタヌス)たちに任せるとは一体どういう事なのか…

「待ってよ、エリアス!?…君の…親戚の人を…お兄ちゃんたちに任せるってどういう事なの!?」

「宮下アキ、会談中に御言葉を挟んではなりません…が、致し方ありませんが言葉通りです…この件は既にあなたの兄さまに一任されていますわ」

 ユウゴに任せる…それは果たして…

 ホテル スイートルーム

 

―コンコンッ…

「シュンイチさんッ!!助けてェッ!!しっ、知らない人が…知らない部屋で私と一緒に寝てるんですけど!!」

 髪を乱して慌てふためくサラは部屋をノックしてきた外の者に助けを求めドアを開けるが…

「邪魔するぞ」

「ギャァアアアアアアッ、こっちも知らない人ッ!?」

 ドアを開けて立っているのがシュンイチだと思いきやまさかのユウゴであることにサラは絶叫を挙げて腰を抜かした。

 しかもサラに構うことなくズケズケと部屋の中に入って行き、ベッドの前で足が止まった。

「グヘヘッ…ユウゴくぅ~ん…小さくてかわいいユウゴくぅ~ん…」

 ベッドの上ではどんな夢を見ているのかなんとなく創造付く、寝ぼけたミオがあられもないバスローブ姿で寝ていた。

 するとユウゴは手を強く握りしめて構えを撮ると一気に手を開いて鋭利な手先を形成し、皮膚を硬化させゴジラの手に変貌させた。

――兄さまの使命は…危険な怪獣能力者の抹殺なのです――




アンバランス小話
『公営』

 香川県丸亀市、中西部に位置する地方都市にもGIRLSの支部は存在する。
「お久しぶりです、アギラ先輩!」
 ここには地元が香川の怪獣娘ミニトータスが所属している。
「うんッ久しぶり、ミニトータス…会って早速だけど」
 この日、アキはGIRLSの後輩にあたるミニトータスを頼ってある場所を目指していた。

 丸亀市 ボートレース丸亀

 市内屈指の競艇場には水飛沫よりも激しい熱気が広がっていた。
「いけぇえええッ!!5番、刺せぇええええ!!」
 ボートの番号に従ってレース着順結果で配当を決める所謂公営ギャンブルである。
 しかし、今日レースの客席には男性客に交じって誰よりも強くレース結果に釘付く者がいた。
「しゃぁアッ!単勝1着来たァアア!!」
「うれしそうだね、ミオさん…」
「そりゃそうよ!わざわざお使い抜け出してきたかいがあったわ……んっ?…ギョッ!?あッ、アキちゃん!?」
 まさかここにアキが居るとは思わず身震いして驚くミオだったが…―ガシッ!!
「おいコラッ、ろくでなし探偵…牛乳買いに行ってなんでこんなところに居るんだ」
 頭上で大きな手を広げミオの後頭部を掴み上げて成人女性1人が地面より足が浮くほどユウゴの握力はミオを持ち上げた。
「イだダダダダッ!!ゆっ、ユウゴくんッ!?」
「テメェ!渡した牛乳代はどうしたッ!!」
「まって!待って!!倍にした!倍にしたから許してぇええ!!」
「お金が増えたからってお使いの代金使ったのは事実でしょ!ミオさん、反省してください!!あと、ボクのソウルライザー返してッ!!」
 GIRLS支給のソウルライザーは全国津々浦々の所在する支部に行ける様に全国の国道路線がGIRLS持ちになる。
「待って!まってッ!!今、出せない!出せる状況じゃないよぉおッ!!」
「じゃあ、勝手に調べる…どさくさに変な所を触っちゃうかもだけど」
 アキは自身のソウルライザーを探ると同時に身動きできないミオへの御仕置の一環として脇から脇腹に掛けて重点的に擽って来た。
「ぎゃあはははっははははっ!!ひぃ~いッやめちくりぃいいいい!!」
「みんなは人のお金で賭け事はしないようにッ!」
「誰に向けたメッセージですか、先輩…」
 公営ギャンブルはほどほどに…
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