TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
―遡る事数時間前―
「うぅう~ん…頭痛い…」
エリアスの部屋で目を覚ました湯原サラは酷い二日酔いに見舞われていた。
昨日から散々お酒を悪い飲み方をして悪い酔い方を繰り返せば翌日の自分自身へと帰って来る。それが今まさに起きている事である。
「ええっと…昨日は外務省の山陀大臣と会ってから…それからシュンイチさんとメイカちゃんと一緒にレストランで…誰かと飲んでいたような気がするけど誰だったっけ?」
記憶が曖昧で昨日の事すらも思い出せないほどに酔いの影響が顕著に現れていた。
「んっ…?」
ふと横に目をやるとなにやら掛け布団がこんもり盛り上がっている。更に自分がいままで眠っていたことも、バスローブ姿でいる事も、しかもここは自分が泊まる部屋ではない事にも段々と理解してきた。そうなると必然的に出てくるのは嫌な汗であった。
「えっ、えっ!?…だっ、誰が居るの…?…シュンイチ…さん…にしては小さい…かといってメイカちゃんでも大きすぎる…はァッ!?えっ!?なにッ、何なの!?」
同じベッドの上で昨日から同じ床に付いていた者がこの中に居るのは確実…だがそれがサラの知るシュンイチやメイカでもない何者かが居る…そう考えるともっと嫌な汗が溢れて来た。
恐る恐る、掛け布団に手を触れて強く握りしめた。
「ええいッ、ままよ!」
覚悟の上でそこに居るのが誰なのか確かめるため、心のどこかでは縮こまったシュンイチであればの願いで勢いよく掛け布団を取っ払うと…
「う~んッむにゃむにゃ…ユウゴくん…寒いよ…」
同じベッド、同じバスローブ、同じ…女性がそこで眠っていた。驚きも、焦りも、すべてが消失してただただ宇宙が頭に広がって思考が停止した世界にサラはいた。
「――――――――――ッ!!?」
次第に理解が追い付いてベッドから転げ落ちて指を差しながら声を出したいのに声が出せない喉で精一杯の空気を出すも絶叫ではない。無絶叫である。
―コンコンッ…
救いの主がサラの居るこの部屋にノックをしてきた。サラは慌ててドアに向かってカギを開けるなり飛び出した。
「シュンイチさんッ!!助けてェッ!!しっ、知らない人が…知らない部屋で私と一緒に寝てるんですけど!!」
サラの中でシュンイチは眩い太陽の輝きを照らすような白い服を好む男故に彼の印象色は白、しかし…今、目の前にいるこの大男は全身が黒い。シュンイチではない。
「邪魔するぞ」
「ギャァアアアアアアッ、こっちも知らない人ッ!?」
ドアを開けて立っているのがシュンイチだと思いきやまさかの見知らぬ大男であることにサラは絶叫を挙げて腰を抜かした。
しかもサラに構うことなくズケズケと部屋の中に入って行き、ベッドの前で足が止まった。
「グヘヘッ…ユウゴくぅ~ん…小さくてかわいいユウゴくぅ~ん…」
大男はサラと床を共にしていた女性の前に立ち、後姿だけでも金剛力士像を彷彿とさせる構えを取り始めた。
「ううっ…誰ッ!誰なのッ!?ワケわかんなくて怖いんだけど…殺し屋ッ!?」
その見た目、その風袋、そのすべてから放たれるオーラが只者ではないと理解させる凄味にサラは玄関口の角に隠れるしかなかった。
「おっ、とりこみちゅーにしつれいするでぇ~」
「しっ、失礼します…」
サラたちが寝泊りしていた部屋に続々と彼女の記憶にうっすら見覚えのある少女たちもこの部屋に入って来た。
少女たちが入って来た事に気が付いた黒い大男は構えを一旦解いた。
「ベムラー姉ちゃん、ベムラー姉ちゃんッ!…ダメや、起きる気配ないでぇ~」
少女たちの中で最も背丈の小さな少女がベッドに乗り上げるなり寝ぼけた見知らぬ女性の顔をペチペチと頬を優しめに叩いても女性は起きる気配がない。
「どいてろ」
すると大男は中指を親指で抑え込み、指先だけで既にわかる強い力が中指に集約され始め出した。
そして…――ズゴガァアアアアアアンッ!!
「うおっ!?なんだ今の音ッ!?」
何が起きたのか分からず大きな音から耳を塞いで守る逞し気な少女の目の前で…
「いっだぁああああああああああああああッ!?」
見知らぬ女性がベッドの上で転げまわり、悶え苦しみ、痛みに悶絶していた。
「ベムラー姉ちゃんが一瞬撃たれたんか思たわ~…さすがユウちゃん、強烈なデコピンやで」
「このアホにはこれですら生ぬるい」
「誰か一体全体どういう状況なのか、説明してェエエ!!」
状況が理解できないサラは必死の訴えを声に上げて全員に訴えかけた。
―それからしばらくして…
「……ええっと、つまりあなた方は昨日のレストランで酔った私はこの酔った変な人の御知り合いで振り回されて酔った勢いのままにホテルに帰って来てた…と?」
「俺は連絡を受けてこの阿呆を連れて帰りにきただけだ…こいつ等との経緯なんぞ知らん」
「ううっ…何が何だかよく覚えていないけど…すいませんでした…」
現在進行中の大迷惑の渦中にあるミオをバスローブ姿で正座させユウゴは腕を組んで動じぬ阿修羅像の如き怒りのオーラがミオを逃げ出させまいとオーラだけで彼女を抑え込んでいた。
「でっ、でもさぁ~なんやかんやでお姉さんを迎えに来てくれるだけあってユウゴ君にはやっぱり私が必要なんじゃなぁ~い♡」
「ほざけ、脚の生えた足枷がッ」
どれだけ誤魔化そうにもミオの猫なで声のような甘い言葉に対して激辛にして辛辣の一言で返すユウゴにGIRLSの怪獣娘たちは“始まりの怪獣娘”が少し異質な一般男性に 責されている姿は目に余る光景であった。
「アギさんのおうちはいつもこんなやり取りなんでしょうか…」
「ううっ、怒った時のアギちゃんも怖いけど…これは違う意味での“恐い”だよねぇ~」
「あんな眼差しを向けられたらウチだったら絶対凹むわ」
「……ちょっと羨ましい…」
各々のユウゴに対する意見に真反対の意見を抱くベニオに全員視線が彼女に反れる中、ユウゴのミオに対する無言の圧力は佳境に至る。
「ウチのバカが迷惑をかけたな…こいつはしばらく自分の巣元の探偵事務所の柱にでも括り付けておく」
「……はぁ…」
「いやぁああ!!せっかく働かずに生きていける空間を手に入れたのにぃいぃい~!あんなボロい事務所になんか戻りたくないぃいぃいぃ!!」
「だまれ、いい加減にその甘ったれた精神構造なんとかしろ!社会不適合探偵ッ!!」
必死にユウゴの足元にしがみついて抵抗を決め込むミオだったが、いともたやすくペロンッと剥がされて腰を肩に担がれその様は半ば表現しにくい絵ずらであった。
「うわぁ~…大人の女の人が…」
「ちょっと…その…」
「どう見てもアカン絵やわ~」
「……いいなぁ……」
怪獣娘たちの中でまたもベニオに視線を向けて『ッ!?』と言葉にならない驚きを見せるが…ユウゴは人の目構わずにミオを担いだまま部屋を後にして出て行こうとした。
「邪魔したな…」
「いやぁああ~ん!お姉さん、ユウゴ君にお持ち帰りされちゃってるぅう~!誰か助けてぇえぇえ~♡」
無理矢理連れ出されているにも関わらずどこかまんざらでもない様子で喜んでいた。
―ドサッ…
すると、廊下に出るなり道中で出会わなかった見知らぬ大柄な青年と小柄な少女が紙袋に抱えていた買い物を床に広げていた。
「…なぁっ…何をしているんですかぁああッ!!」
「あぁ?…誰だ、お前?」
傍から見たら勘違いされてもおかしくない光景のミオを肩に抱えるユウゴに対して大柄な青年の方がユウゴに向けて強い嫌悪感を乗せた怒号を放った。
「ニヤリッ…キャァアアアアアッ!助けてぇえええ!人さらいよぉおお~おお~♪」
ここぞとばかりに便乗したミオは宛らユウゴを更に誤解させかねない立場に陥れようとしたが…
「テメェ、こんな時にふざけるのも大概に…グブッ!?」
普段から何事にも警戒を怠らないユウゴが不意を突かれる形で大柄な青年から強烈な拳打を諸に喰らった。
「わギャッ!?」
その反動で肩に担いでいたミオを床に落として、拳打を目の当たりにした怪獣娘たちもサラも目を大きく見開いて驚愕した。
「テメェ…何しやがんだぁあああああッ!!」
「ぐがはぁああッ!?」
お返しとばかりに今度はユウゴが青年の腹に極大な拳打を向けて青年を吹き飛ばし廊下のさらに奥の方まで殴り飛ばした。
「キリュウウウウウッ!!」
吹き飛んで行った方向に連れの少女が廊下の突き当りまで駆け出して行った。
「わわわッ、ゆッ、ユウゴさんッ!ユウゴさん、待った!!」
「待って下さい、ユウゴさん!一旦落ち着いて!!」
「ステイ!ユウちゃん、ステイやで!!」
怒りに我を放棄して吹っ飛ばした青年の方までズンズンと思い足取りを踏みしめだして向かって行く進行方向にミカヅキたちが必死に押さえ留めようとするが重機並みのパワーで押し返され止まるところを知らない。
「レッドちゃんも見とらんで手伝ってえな!」
「えっ、エッ!?オレがッ!?」
GIRLS内でも一長のパワータイプで名を馳せるベニオにレッドキングとしてもパワーが求められているが…相手は怪獣娘3人でも変身していないとはいえ抑えきれない万パワーに若干気圧されている中…
「先輩ッ、お願いするっす!こうなったら先輩しか頼れる人居ないっす!!」
「もう無理ですッ!抑えきれません!!」
「おっ、おう…一旦落ち着いてくれ、アギラのお兄さん…ヨブッ!?」
みんなよりも前に出てベニオが静止を促すも抑え込んでいた怪獣娘3人が持ち場を避けて半ばベニオのみに抑え任せるとユウゴの胸元にまたしてもベニオは顔が張り付いてしまった。
「何してんだ?アンタ…」
人の止め方なぞ同性ならいざ知らず、異性の止め方に不慣れなベニオは思わず自分より大きな男の胸に飛び込むと言うなんとも大胆な止め方をしてしまったが…
「今やぁッ!!みんなでユウちゃんを止めるでぇえ!!」
「「おお~~!!」」
すかさず一瞬の静止にベニオを間に挟み、寧ろ彼女を若干盾代わりとして背中から頭に掛けて怪獣娘たちはユウゴを押し出した。
「むぅウウウッ!!むまむあッ、むむろまらむふあッ(オマエら、後ろから押すなッ)!!」
自分で抑えにかかったにも関わらず後ろから余計な過重が加わって不可抗力にもさらにユウゴの身体にベニオ自身が離れる事が出来ず、特に顔回りはユウゴの厚い胸板に阻まれて軽く酸欠寸前であった。
「離れろ、お前らッ!邪魔だッ!!」
「せやかてユウちゃん、ここ放したらあの人に殴りかかるやろう!」
「逆だッ!お前ら、アッチを止めろッ!!」
「「「へぇッ?」」」
振り返るとその背後から物凄いスピードで迫りくる大男が見えた。
「「「うわぁああああッ!!」」」
「どけッ!!フンッ!!」
ユウゴは怪獣娘たちに両手を回して道開いて両端に弾き飛ばすと、ユウゴと青年、大柄な男性同士の激しい拳打でのクロスカウンターが決まって双方吹き飛ぶ…かに思われたがその場に踏みとどまり、クロスカウンター、クロスカウンター、殴る、殴る、殴る、殴り続ける芸術的なまでの狂想、一見は暴力的な光景にも関わらず互いに一歩も引かずに殴り合うが互いにダメージを受け合うような悪く言えば息の合った殴り合い手同士であった。
「コノヤローッ!!」
しかし、いつまでも殴り続けるわけにも行かずユウゴ側が今度は首にネックロックをかまして青年を抑え込もうとするも床に接触するのを両手の力だけで阻止して、青年はユウゴごと首を捻り返して190センチ以上ある巨体を反転返し、互いに組みと組みの応酬であった。
「あなたこそ、女性に対してなんてことしているんですか!!君の事は存じないし、初対面だけど、君を許さないッ!!」
「知るかッ!!どけェエエッ!!」
更に組み合った2人は壁に激突してミオとサラが居た部屋の風呂場に直結するほどの大穴を空けて縦横無尽に暴れ回る殴り合いを繰り広げる様は最早人間同士の取っ組み合いではない。人外の死闘であった。
「あわわわわッ…大変ですよッ!このままですとああなってこうなって御二人がともなって、私には解釈不一致なBLですッ!!」
「わぁああ、ウインちゃんが男の人の本気の喧嘩を前にして壊れちゃった…」
「せやかてどうしよう、怪獣娘相手ならいざ知らず…こうも大事になるとうち等は不介入やし、レッドちゃんは顔真っ赤にして気絶しとるし…」
慌てる怪獣娘一同の足元には顔を真っ赤に紅潮させて目を回しながら気絶する唯一の打開の綱であったベニオが意識を失っていた。
「それよりも誰かシュンイチさんたちを止めてください!!」
「やめてぇええ~!!二人ともぉお~、私の為に争わないでぇえ~♡」
「なにこの人ッ!?この期に及んでも図太しすぎないッ!?」
「キリュウゥゥウウ!!」
皆が通路に置いてけぼりの中…
――ズドガァアアアンッ!!
「「「「「ギャァアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」
自分たちが先ほどまで居た部屋のドアごとシュンイチを背負い投げの構えで破壊し部屋から出て来た。
「どけッ!お前らッ!!」
更にユウゴはシュンイチの足を掴んで通路に留まるサラたちの横切っていくが…
「ヤメロォオ!キリュウをイジメるなァアアア!!」
「あぁん?」
シュンイチを引きずるユウゴに無謀にもメイカがユウゴの足元に飛び掛かって引き止めようとするが…
―ガシィッ!!グッググッ――…
「グッ!?コイツッ!?」
メイカが作った僅かな隙にシュンイチがユウゴの背後を取って腕を組んで首を絞めに掛って来た。
「ユウちゃんッ!!」
「お前らは手ぇ出すな!!」
ユウゴは自分と同じくらいの質量を有する巨体のシュンイチを抱えながら重々しい足取りを踏みしめた瞬間…刹那に足元に紫のプラズマが放たれると神速の速さで通路の向かいにあるスイートルーム専用の厨房に超速力で抱えるシュンイチ共々、厨房内へと突っ込んでいった。
「すぅげぇ~…なんだか本当に怪獣の戦いみたいじゃん」
「言っている場合ですか!とにかく私たちも止めに行きましょう」
「でもユウちゃん、手を出すなってゆうとったで…ほら、レッドちゃん起きた起きたッ」
ミカヅキはベニオの頬をぺチぺチと叩き起こす中、厨房からガシャン!ガシャン!!と激しい損壊音が鈍く響いている厨房の様子が気掛かりだった。
「みんな、そんなこと言ってる場合じゃないわよ!あの子の言ってることなんか無視して早くユウゴ君を助けに行ってあげて!!」
「ミオさん……そんな格好のまま言われても…」
「アッ……イヤァン♡」
ユウゴの加勢を訴えかけるミオであったが…その姿は未だにバスローブ姿のままであった。
「シュンイチさんッ!シュンイチさんと殺し屋みたいな人ッ!!開けてください!!」
通路から厨房につながる唯一の入口にも関わらず押してもビクともしないほどにドアの前に何やら重たい物が置かれている。
一方、ドアの向こう側ではドアの前に大型業務用冷蔵庫を横倒しにして外に居るサラたちの入室を防いでいた。
幸いにも今は厨房で作業する料理人やスタッフが出払っている無人の状態だった。
「フンッ…さて、ここからは“人間”としての扱いはしない…いい加減に正体表せ お前も怪獣能力者だろう」
ユウゴが見解はシュンイチが普通の人間ではない事などとっくに見抜いていた。
「ゲホッ…あなたこそ…どうしてサラさんのお友達にあんな酷いことを…女性をまるで物のように扱ってッ!!」
「女性…を…もの…ハァッ?」
ユウゴには何が何だか分からない殴られた動機に心当たる点が思えない…ましてやあの天城ミオ(ごくつぶし)のことを言っているのかとますます首が傾げる。そもそもミオを大人の女性として扱った事がない分にますます不可解であった。
「初対面ですけど、ボクは君のことは好かないですッ、フンッ!!」
「フンッ、じゃねぇよ…別に好かれようとも思わんし、お前のその性格が妙に知ってるヤツに似ているんが腹立たしいから俺もお前なんぞ好かん」
シュンイチに対するユウゴへの嫌悪感は同じくユウゴもシュンイチから感じる無駄に素直な所が連想される人物にアキと同じ物事に正直なまでにズケズケと物を言う感性が嫌悪感を抱いていた。
「それで、どうする?…このまま引き下がるか、俺の敵になるか…俺としては一向に構わんが?」
そう言うとユウゴは全身を黒い体表で多いゴジラとしての姿を現し始めた。
「君…その姿……うっぐっ…がぁあああッ!?」
突如、ユウゴからゴジラに変貌を遂げたゴジラの姿を認識したシュンイチは頭に激しく流れ込むような莫大な情報に対して本来自分の脳内には入っていないゴジラに関する記憶…否、記録と呼べる様々なデータがシュンイチの脳内を逼迫し始め、シュンイチの鼻から血を垂らし、目から血涙を滴らせた瞬間…
「ううっぐっ…ゴジラ…敵…怪獣…殲滅……怪獣…抹殺!!AKATYUKI:MODE――」
すると目を真っ赤に充血させたまま全身にシュンイチの体組織に流体性の液体金属めいた何かがシュンイチをコーティングし始め全身を形成する頃には二足獣脚型の機械化混成型怪獣へと変貌を遂げた。奇しくもその姿はユウゴと同じ形状をした…
「さしずめ、メカゴジラ…っか…」
しかし、相手は我を忘れてゴジラめがけて飛び掛かって来た銀色の機械型怪獣に対してゴジラはすかさず気を緩ませ、身を緩ませ、全身に脱力を促すと一気にマックス速度で太い尻尾を振り回して銀色の機械型怪獣の顔面に叩きつけた。
尻尾の殴打に吹っ飛んだ銀色の機械型怪獣は厨房のシンクに頭から突っ込んだ状態にシンクの破損した蛇口からジョロジョロと首に無情にも流れ落ちていた。
「おっとっと…」―ブシャッ!
急な姿勢から一気に尻尾での殴打にバランスを崩したゴジラはよろめきながらも体勢を整え、厨房のテーブルに手を付いてしまってソコに置かれていたケチャップチューブに手が重なり自分の顔面に掛けてしまった。
「ウッ…クッソ…こんな時に…」
―ガンガンッ!!
「ねェッ!今何かすごい音が鳴ったけど、ユウゴ君!!そっち大丈夫なの!?」
「やっぱ開けよう!ユウゴさん 中に入るっすよ~」
さすがに激しく暴れまわり過ぎて激しい損壊音に外で待つ怪獣娘たちに感づかれ始めた。
つっかえに横置きしていた冷蔵庫がドアに押されて徐々に動き始めていた。
「いっせ~のせッ!!」「押せぇええッ!!」
ユウゴに負けず劣らずの万パワーに怪獣娘たちは全員で力合わせて人数で押し出そうとする。
―ギィギィギギギィィィイイッ…
「あともう少しで開くぞッ!!」
「もう一息やぁあ!!押すでェエエ!!」
ゆっくりとだが着実に開き始め、厨房の向こう側で暴れる男2人の様子がどんな状況なのか、好奇心だけが彼女たちを突き動かす原動力であった。
―ガンッ!
「何してんだテメェら」
横倒しにしていた冷蔵庫に足を乗せて僅かに開いている隙間から顔面に鮮赤に塗れたユウゴの悍ましい形相に全員の産毛が逆立ち…
「「「「ギャァアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」
「騒ぐんじゃねぇ!うるせぇ!!」
あまりにも狂気的な容姿に怪獣娘たちは驚きのあまり絶叫した。
「しゅっ…シュンイチさんはッ!?シュンイチさんは無事なんですか!?」
「心配するな…少しだけ誤解あるだけだ、もう少し話をしてだな」
ドアから僅かに見えるユウゴの姿は一部のみ…しかし、その背後や腕回りはゴジラとしての部分が残っている。器用にも一部分だけを人間に戻し彼女たちにはユウゴのみが見える様にしていた。
―バゴンッ…ジョバァアアアアアッ!!
しかし、何とか抜け出した銀色の機械型怪獣は壁面のコンクリートから首を振って滴る水滴と共に払いのけると真っ赤に光る眼光がユウゴの背面に宿るゴジラの因子を検知して即座に向かってきたが…―バシンッ!!ズガンッ!!
ゴジラの太い尻尾で伸ばして来た腕もろ共に首に器用なまでに巻き付けて床に叩きつけた。
「なんや今の音ッ!?」
「ンンッ!…気にするな…なんでもない」
「なんかユウゴさん…力んでます?」
「気のせいだ…だから、決して開けるなよ…」
そういってユウゴは足で押さえていた横倒しの冷蔵庫を押し込んでゆっくりとドアが再び閉じ、更にその上からもさらに冷蔵庫を軽々と持ち上げてドアの前は完全に冷蔵庫のバリケードと化して封じられた。
「さて、ここからは俺とお前だけだ…それで、“俺モドキ”、お前は誰で一体どこからきた怪獣だ?」
「ギギガギガガッ!!…ゴ…ジ……ラ…まっ…サ…ツ―」
「…恨みを買った覚えには…心当たりがあり過ぎてどれがお前に当てはまるか知らんがそうも殺意を振りまきながら暴れられても困るな」
ユウゴはゴジラの姿に再度変身を戻して銀色の機械型怪獣を絡める尻尾を強く引いて持ち上げると…すかさず起き上がった銀色の機械型怪獣の身体に独自の経絡経穴に打ち込む打術によって暴走する怪獣能力者を強制的に変身を解除しようと試みるが…
「――ッ!?」
経穴に対する何らかの耐性なのか一切打ち込んだ感触に変身解除に至るまでの効果が感じなかった。
それどころか…―ガシッ!
「ぐッ!?」
拘束していなかった左手がゴジラの首に掴みかかり、互いに尻尾に拘束される銀色の機械型怪獣と首に手を掴まれるゴジラ…互いに一切の闘気が揺るがず一進一退の応酬は次第に拮抗が崩れた。
―ガコンッ!!
(…――ッ!?なんだ、コイツの胸に何か仕込んで…まさかッ!?)
突如、胸部のパーツが自動で開き始め、不穏なプラズマ粒子を発生させて体感だけでもゴジラの胸元に至る空気の零下によって黒い体表に白い霜のような後がハッキリと現れ始めた。
このわずかな一瞬に発生した不可解な現象にゴジラもといユウゴの脳内に秩父市内で発生した“あの事件”であった。
「オマエ…まさかッ…」
――ズゥドォオオオオオオオオオオオンッ!!
それはホテル最上階からの爆発でホテル外壁の一部が街の中からでも確認されるほどの大きく剥がれ落ちているだけでなく内部から結晶状の氷柱が発生していた。
「うっそッ!?なにアレッ!?」「やばいやばいッ!ホテル爆発してんじゃん!!」「カメラ回せ、カメラッ!!」
ホテル周辺では通行人の足を止めてスマホのカメラを回す人たちや逃げ惑う人など様々な居る中…
――ヒュゥゥゥゥウウウ…ズゥドォオオオン!!
ホテル最上から落ちて来た煙を吹く何らかの物体が道路に激突するなりバウンドの反動で路上駐車していた車に激突して車共々に煙を上げていた。
「おっ、俺の車がぁああああ!!」
持ち主が絶叫する中、へしゃげた車の煙の中から赤い体表のゴジラが体表からも激しい水蒸気の白い靄で覆われていた。
「うわぁああああッ化け物ぉおおおおッ!!?」
突如、自分の乗用車を破壊して起き上がったゴジラを目にした潰した車の持ち主が腰を抜かしながらも逃げ出した。
「クッソ…咄嗟にバーニングで火力上げしなかったら大惨事だぞ、これは…」
ゴジラの赤くマグマのような体表とは裏腹に胸部から腹部に掛けて白い霜走りが広がっていた。
最上階のホテル厨房でゴジラは発生した極低温攻撃からまず形態を火力の高い“バーニング”に変化させて自分のみならず周囲への被害も考慮して低温を高温で瞬間的に発生する極度を相殺した反動で温度の高いゴジラの方が爆発規模が大きくホテルから吹き飛ばされて今に至るのであった。
「おかげで皮下が炭化したぞ…ったく…」
まるで何事も無かったかの様に胸部と腹部をほこりを掃うかのようにパッパッと手で霜や炭化した獣殻(シェル)が捲れる落ちる中…
「ンッ?」
周囲には自分をスマホに収めようとカメラを回す群衆に囲まれていた。
「勝手に撮ってんじゃねぇ!」
「うわっ、化け物が喋った!?…あっつゥ!?ケータイがめっちゃ熱くなった!?」
そう言うとゴジラの背部の背ビレから赤い発光とプラズマと共に周囲に特殊な電磁場を発生させて自分を撮ろうと近づいてくる連中のスマホを片っ端からショートさせていた。
「ほら、離れろ離れろ!巻き込まれっぞ」
それだけでなく乱雑ではあれ集まる野次馬をこの場から離れさせようとして手で追い払うジェスチャーをするもゴジラの人外もとい怪獣染みた容姿に恐怖して自然と恐怖して逃げ出し人払いがすんなりいく中…
――ズゥドォオオオンッ!!
「さて、早速…第2ラウンドと行きますか…」
同じくホテルの屋上から飛び出して落ちて来た銀色の機械型怪獣も道路を落下の衝撃で陥没させてゴジラの前に再度現れた。
ゴジラと銀色の機械型怪獣は互いにズンズンと距離を縮め始め、やがて走り出してお互いに組み合い、ゴジラが機械型怪獣を投げれば近くに乗り捨てられていた乗用車に激突、そこへ更に強めの打撃を加えるも紙一重で交わされてエンジン部分を貫き車を大破させた。
反撃とばかりに機械型怪獣も理性を失っているとはいえゴジラのフィジカルを武器とする戦い方とは違いどこか戦術格闘を彷彿とさせる打撃と組手の応酬にゴジラもといユウゴは機械型怪獣には軍隊格闘技の類を連想させる。
(コイツ、無駄に戦い慣れている…が―)
ゴジラは機械型怪獣の腹部を蹴り上げると仰け反る反動にすかさず下顎に太い尻尾のアッパーカットばりの鞭打を食らわせた。
(“人間”の戦い方には慣れていても、“怪獣”としての戦い方には不慣れと言った所か…)
先ほども尻尾からの反撃に対して簡単に拘束された辺りから気づいていたがこの機械型怪獣の戦い方は人間的なソレに近く、自身もゴジラと同じ形状をした怪獣であるにも関わらず等身大の怪獣としての特性をいまいち活かしきれていない節が見受けられた。
「そぉらよッとォ!!」
今度はゴジラが両足そろえてのドロップキックをお見舞いして機械型怪獣は停車していたバスに背面から激突してそのまま意識を失った。
屋上で氷柱を形成するだけの強大な極低温現象を発生させる機関を有するにも関わらず再度使用する様子もなく、寧ろ組み合ってからと言うものの先ほどから戦闘時のパフォーマンスの悪さが伺えた。
(よほどあの技の威力がデカすぎて反動で動きが悪くなっているのか?…だったら、都合がいい…このまま始末するまで)
ここまで死闘に近い戦いを繰り広げた相手に引導を渡すべくゴジラにとって最大級の必殺技『放射熱線』で銀色の機械型怪獣に狙いを定め口に赤白い閃光が背ビレと共に眩いほどに輝き始めようとした…その時だった。
「ちょぉ~っと待った!!」
「――ッ!?」
充填された放射熱線の口内対流が途切れるほどに横やりもとい妨害としてミカヅキの声と共にゴモラに変身した状態でゴジラの首元に抱き着いて来た。
「そうはさせるかッ!」
「待って下さい!待って下さい!!」
「待つッス!待って下さいッス!!」
飛びついて来たゴモラを始め、尻尾をレッドキング、両足をウインダムとミクラスがゴジラの攻撃を阻止しようとして彼に身を挺して一時的に停戦させた。
「何してんだ、お前らッ!?」
「それはこっちのセリフやッ!同じ怪獣同士で何争ッとんねん!!」
「これ以上、街の中で暴れんな!」
彼女たちが取っている行動は単にゴジラが銀色の機械型怪獣と争い合う様子を静観するワケにはいかないという気持ちからの行動であった。
「お前ら、俺を止める前に…俺に触りつづけると火傷するぞ、マジで」
「なんやそないなキザっぽいことを…って、アッチチチチッ!?」
「アッツ!?」
「うぎゃぁああ!!アッツ!?」
「ヒィイイイイッ!装甲部分が熱持ってます!!」
ゴジラの今の形態はバーニング、体表に発生する温度は通常の生物が発する事のできない極大の高温状態であり言う通りあって怪獣娘でも火傷する。
「んで、お前ら何をしに来たんだ?」
自分に触れる事も出来ないほどの高温を発するバーニングを一旦解いて元のゴジラの通常形態に戻すもゴモラ、レッドキングはゴジラを前にしても怖気づくことなく堂々としているもウインダムとミクラスは二人でブルブルと震えながらもゴジラの前に立っていた。
「それ以上の狼藉はウチらGIRLSが許さへんで!」
「俺たちは何もアンタと敵対する気はねぇんだ」
「ほら言ってウインちゃん!!」
「えっ、ええっ!?私ですか!?」
怪獣娘の代表として半ば強引にミクラスに背中を押し込まれる形でゴジラの前にドンドンと近づいて来た。
「あっ…あっ…あのッ!…国際怪獣救助指導組織、通称GIRLSと申します!」
ウインダムは腰の角度を90度に曲げて頭より先に肘先までビッシッと伸ばした腕と共に両手の手先に持ち構えるGIRLSの名刺をゴジラに差し出した。
コレに対してゴジラも思わず…
「あぁっ…これはご丁寧に、どうも」
差し出された名刺を受け取り礼儀には礼儀正しくとばかりにウインダムに物腰低く頭を軽く下げた。
「さっ、差し当たりまして!あっ、あなた…を…保護させていただきたく…おっ、同じ“怪獣娘さん”としてGIRLS内で活動していただきたく…」
「……俺、男なんだが……」
ウインダムはピキッと全身が凍り付き、固まってしまった彼女を仲間の怪獣娘たちが自分たちの居た地点まで引きずって円陣を組み始めた。
「なんであれを怪獣娘だと思ったんや!?」
「ちっ、違います!薄々私も怪獣娘さんとは違うとはわかっていたんですけど…普段の怪獣娘さんへの保護と同じで良いかと思ってしまって、つい流れで…」
「なんでこんな時にマニュアル通りに言っちゃうんだよ、ウインちゃんのマニュアル人間!マニュアル怪獣!」
「カプセル怪獣ですッ!…とは言っても意思疎通は出来ないワケではないと見ました」
「とにかく、一旦俺に任せろ!こういった時は誠意を見せれば先方も納得するってもんだ」
「おぉ~、さすがレッドちゃん!GIRLSいちのネゴシエーター!」
代表変わって今度はレッドキングがゴジラの前に立って一旦軽く咳払いをして体勢を整えつつ
「な、なぁ…ここはひとつ提案なんだが…ここは一時休戦ってことにして俺たちの話を聞いてほしいんだが…」
相手にする得体の知れない怪獣の能力を有する人外的な容姿をしたゴジラに対しレッドキングは提案をして見るも…
「内容が定まってねぇな…要件はなんだ?」
「――だからな、俺たちはアンタが男だからって怪獣の力を宿すことにはアンタも怪獣能力者であって…」
「……言いたいことはそれだけか?」
「えっ!?」
「なら俺からも少し質問させてくれ…お前が道を歩いている時、凶器を持った強盗が金銭を要求して応じなければ殺すと迫って来る…お前ならどうする?」
「はぁ、何だよ 急に……そんなもん怪獣の力で」
「怪獣は抜きに人間だったらとして考えて見ろ」
突如、ゴジラから出された問いにレッドキングは困惑しつつも頬に拳を充てて深く熟考して見るも…
「いややっぱおかしいだろッ!?なんで怪獣の力なしに強盗と鉢合わせることを考えなきゃなんねぇんだよ!?」
「…これは防衛の問題なんだよ…お前は今にも金品を差し出さなければ自分も殺されるし、渡したところで命を狙おうとしている相手がお前を見逃してくれる保証もない どちらを選んでも自分の命の危機を天秤にかけられている状況に立った時にお前は目の前の強盗を殺せるのか?」
レッドキングはゴジラに自分の命を取ろうとする相手に対して『殺す』と言う手段が取れるのかを問いただされた瞬間にレッドキングの思考は停止した…否、ゴジラの理知的に明確な殺意を実行できると言う確信めいた覚悟の違いをまざまざと見せつけられているようであった。
「この状況が正にそうだ…俺だってむざむざ無抵抗のままに殺される気も無いからこちらも殺す気で戦う、殺す気で挑む、殺す気で相手を葬り去る事もできる…だが、お前らはどうだ?怪獣の力を持っていながら同じ怪獣がもしも完全に制御を外れて獣畜生に落ちた同類を殺せるのか?……少なくとも、俺は出来る…いや、もう出来ている」
その瞬間、レッドキングを始め、ゴモラ、ミクラス、ウインダムは身の毛が逆立つような恐怖心がこみあげて来た。
この生き物は同じ怪獣の力を宿す存在…だが、考え方や死生観がまるで違う…そして、今現在進行形で自分たちにその殺意がどれだけの物か…激情に駆られて至る殺意でも、明確な計画性からくる殺意でもない…突発的に静寂した殺意が弧を描いて広がるように何もかもを破壊しかねない強大な力がこの生き物にはあった。
「ふむ…少し、意地悪いか まぁ、そんなに難しく考えるな 強盗のくだり関して取る行動にはもう一つ答えはある」
そう言うとゴジラは歩道側に乗り上げて近場にある赤い郵便ポストの根元に手を触れると…それを一気に抜き上げた。
「――もしもしッ!警察ですか!?早く来てください!!怪獣です!!二本足で人間より少しデカい怪獣が目の前に居るんですって!信じてください!!今も郵便ポストを持ち上げているんです!!」
郵便ポストに隠れて手持ちのスマートフォンで警察に通補するゴジラが踏みつぶした車の持ち主がまだその場に残っていた。
「早い話、速く逃げて通報するのが正解だ…時と場合によるがな」
それはレッドキングの先ほどの質問に対する一般的な模範解答だった。
「…なぁ…なぁッ、あそこのホテルの最上階に居た男性2人…見て…無いか?」
「あぁ?」
レッドキングはホテル最上階の氷柱が突き出ている穴の空いた一室を指差してソコにいた男性2人、すなわちユウゴとシュンイチが何処に消えたのかを問いただした。
「……知らん……」
「…そう…か…」
「嘘つくなやッ!アンタらやろ、あそこをまっキンキンにしたんはアンタの能力やろッ!!」
「俺にそんな能力はねぇよ…あの氷を生み出したのはアッチだ、アッチ」
ゴジラは変形したバスに沈黙したままの銀色の機械型怪獣が起こしたことだと訴えるも……
――パァアアンッ!!
「ハァッ…ハァッ…全員、そこを動かないでくださいッ!」
単発の弾けるような発砲音は天高く誰にも当たらぬ威嚇射撃、しかし2発目は威嚇では済まないとばかりに腰を少し落とし右手にハンドガン、左手を添えて持ち構えるアイソセレススタンスでゴジラたちに銃口を向けるサラがそこにはいた。
「なッ…なんで銃なんか持っているんですか」
ウインダムたちは驚きのあまり先ほどまで一緒に居たはずの人間が凶暴な一面を見ている現実に現実味を得られない状況に困惑に戸惑う。
「…SFP9ミリ自動拳銃……陸自か」
ゴジラはサラが何者なのか拳銃の種類を分析して彼女が陸上自衛隊に関係する何らかの官職者であることまで見抜いた上で拳銃の持ち方から構える姿勢を見るなり拳銃の扱いに至るまで“不慣れ”具合から察するに普段から銃火器の取り扱いに慣れていない人物が構える震えながらの拳銃の射角から大きな体格で自分が盾になるように怪獣娘たちよりも前に出て彼女たちをいつでも庇える姿勢を取った。
「うっ、動かないでください!!…もうじきここに陸上自衛隊の部隊が到着します、それまで…そこの怪獣能力者には指一本も振れないでください!!」
サラはゆっくり銀色の機械型怪獣の側に移動しつつも射角をブレない様に拳銃の照門はゴジラの頭部に定めていた。
「キリュウゥゥウウッ!!キリュウゥゥゥゥウウ!!」
「あっ、コラッ!アッチに行っちゃダメ!危ないでしょ!」
先ほどまでサラと共に居合わせた小柄な少女はミオに抱えられながら今にも銀色の機械型怪獣の方に向かおうとしてミオの顔を手で押し退けようとしていた。
「ゴモォオオッ!放せッ!放すゴモッ!!…こうなったら、UMGモードッ!!」
そう言うと少女の中で何らかの認証が解除されると全身を眩い光と共に全身を硬質な黒々とした装甲に覆われて銀色の機械型怪獣と同じ機械型の怪獣娘へと変身を遂げた。
「わギャッ、おっもィ!?」
「ゴモッ!」―ビシンッ!!
「フギャッ!?」
ミオは突然に変身を遂げた少女が怪獣娘になっただけでなく抱えきれないほどの過重質量に手が離れたすきをついて彼女の顎に硬質な尻尾を叩きつけノックアウトさせて気絶させた。
「キリュウゥゥッ!!キリュウゥゥウウッ!!」
機械型の怪獣娘は気を失ってダウンしている銀色の機械型怪獣に駆けつけるも彼の下顎に触れて顔をはたいて見ても意識を取り戻さない様子に酷く動揺し始めた。
「ヤダァアアッ!!キリュウ、死んじゃヤーァッ!!」
意識を取り戻さない機械型の怪獣に泣きつくかのように強く抱きしめる機械型の怪獣娘に反応するかのように赤い閃光輝いていた目から黄色い光沢が戻り始めた。
「ううっ、あれ?僕は一体なにを?」
「キリュウゥゥウウッ!!」
「ワァッ、メイカ…いやメカゴモッ、なんで変身なんかしているんだ!?」
「エッ、なに、なんなんだい!?…って、うわッなんだここの酷い有様ッ!?」
気が付いた機械型の怪獣は周囲の状況を確認すると大惨事と化した自分が今いる位置から半径数メートルでの破壊の後に何がどういう状況でこうなったのかを何一つ覚えていなかった。
「シュンイチさん、気が付いたんですか!?」
「えっ、ええ…って、サラさんこそなんで拳銃を構えているんですか!?」
「前見て、前ッ!今はそれどころじゃないんですって!!」
「前?…―ジジッ―ゴジ―ラ――…ウワッ、何ですかあの黒いワニみたいなのッ!?」
機械型の怪獣の意識は先ほどの赤い目の抹殺衝動による余波がまだ残っていたかに見えたが元のシュンイチの人格を取り戻したのかゴジラを目にしても何も覚えておらず、ゴジラも『黒いワニ?』と自分の認識のされかたに首が傾げる。
「そっ、そんな…ウチのファンの子が…ウチのファンの子がッ」
「ゴモたん」「ゴモたんさん」
「ウチのファンの子がウチを好きすぎるあまりウチのパチモンみたいになってもぉたぁああ!!?」
「「いや気づくとこソコじゃない」です」
自身のファンだと思い込んでいた少女が同タイプの怪獣娘だったことに驚きを隠せなかった。相手の機械型の怪獣娘も『パチモン…』と揶揄されたことにムッとなっていた。
しかし両者睨み合いも束の間に上空から移送用の軍用ヘリがホバリングしながら地上に強い風を巻き起こすダウンウォッシュに路上に転がる空き缶や看板、果ては新聞紙がミオの顔面に張り付くなど軽い物は在らぬ方向に飛んでいくほどの強い風力を伴っていた。
更に周囲には白と黒のツートンの警邏車両や装甲車、その中から拳銃を構える警察官や屋外に狙撃待機するSAT隊員に機動隊員、更には例の対特異生物装備の『アルトリウス』を装着した警察官も武装を構えて怪獣能力者たちに狙いを定め始めた。
反対側から同じ装甲車両であるが軍用使用の陸上自衛隊の装輪装甲車から続々と武装した自衛隊員が小銃を怪獣能力者たちに構え出し始めた。
一触即発を絵に描いたような光景は宛ら怪獣を間に挟んで警察と自衛隊の睨み合いと言う構図にしか見えないが双方の狙いは飽くまでも間に居る僅か数名の怪獣能力者に絞られていた。
『――ピィイイガァアアッ――こちら城南警察署特異生物対策課の前原だ!全員ただちに自己の能力を解除して投降しなさいッ!!』
警邏車両の中から拡声器でゴジラたちに能力を解除して投降するように呼び掛けて来たのは現場指揮責任者を担う前原警部補であった。
「はわわわッ、とんでもないことになってしまいました!!」
「やばいって、やばいすぎるって!!どうしよう、あたしたちまた捕まっちゃうよォオ!!」
「落ち着け、お前ら!」
原宿での一件で警察署の迷惑になった時の事を思い出してウインダムとミクラスは大慌てする中、レッドキングは2人を落ち着かせ取り乱すことを諫めた。
「………」
投降を求めてくる警察官達の前にゴジラは歩み出し大きな足を1歩ずつ彼らの前に近づいて行き…
「…君が、この状況を作った張本人か?」
「だったらどうする?」
ゴジラの目の前に前原が立ち合い、そして…
「……未確認特異生体怪獣第1号、君をこれから重要参考人として署まで同行してもらう 君は身体が大きいから機動隊の移送バスに同乗してもらってくれ」
「……いいだろう」
「彼女たちは事件には?」
ゴジラは後ろを振り返って残された怪獣たちと顔から新聞紙を剥がすミオを見返すも…
「…関係ない、たまたま居合わせた赤の他人だ」
そう言うと4機のアルトリウスにスペシウム装備を構えられながら機動隊に道を開けてもらい開けた先にある警察の青地に白い太帯の2本線が入った移送車両へと乗り込んでいった。
「わっ、私たちの代わりに…」
「身代わりに…なってくれたの、かな?」
「分かんないけど…あんなナリなのに俺たちの誰よりも警察と会話が成り立っていんなぁ~」
「なんか捕まり慣れしとるって感じやわ~…って、そっれよかウチのファン子ちゃんは!?」
振り返るとあれだけ武装警戒を厳とした自衛官たちは続々と撤収作業に加えホテル周辺周囲の封鎖と瓦礫残骸の撤去作業に回り始めているが、肝心のサラたちはもうその場におらずホバリングしていた軍用の移送ヘリもいつの間にか居なくなっていた。
「ご苦労様です、救助指導組織の皆さんはここより外へご案内しますので隊員の指示に従い御移動を願います」
自衛隊員の内から小隊長クラスの1人が先ほどまで構えていた小銃を背に抱えて怪獣娘たちに場の移動を願い、部下に彼女たちを引き継いで、引き継いで、引き継いで、気が付いた頃にはホテル道路の外側T字路にの歩道に何事もなく出されていた。
「ありぃ~?どうゆこと?」
「何の…お咎めも無く、私たち出てこれたと言うか」
「追いだされたと言うべきか…」
「あ~も~何が何だかよくわかんないぃいぃい~!!」
一同は何がどうしてこんな事態に発展しているのか頭を抱える事ばかりであるが…
「ふ~ん…湯原サラちゃんねぇ~」
同じく怪獣娘たちと外側に出されたミオの手にはいつの間にかサラの名刺を所持していた。
「ベムラー姉ちゃん、いつの間に名刺交換なんかしとったん?」
「見くびっちゃ~困るわ!お姉さんこれでも立派な社会人よ 名刺の1枚や2枚は必ず交換しているわよ」
名刺を得ていたことはともかくとしても“立派な社会人”かと言われると全員がミオを冷ややかな眼差しを向けられてミオは『何よ、その目』と返すのであった。
その一方でミオが手にしていた名刺には『専任科学装備開発担当官 湯原サラ』と記載されており、ご丁寧に裏面には手書きの個人携帯電話番号も記載されていた。
アンバランス小話
『体重計』
「―――――――――――ッ!?」
その日、風呂上がりのアキは絶句した。声も出ないほどに内なる心の声は絶叫の叫び声を挙げたくなるほどにソコに現れた悪夢のデジタル数字が元凶であった。
(前に測った時より増えてるッ!?)
アキの脳内はこれまでこの信じがたい数値を叩き出した経緯を振りに振り返って見ると思い当たる節があり過ぎた。
怪獣娘であることが発覚してGIRLSに入ったことで様々な怪獣娘と交流する度にファミリーレストランでの凝った食事、買い食い、ユウゴの作るごはん、繰り返し思い当たる節が多すぎて検討が付かない事態であった。
所変わってリビングにて…
「どったのアキちゃん、体重計なんか持ってきて…」
「ちょっと試したいことがあって…ミオさん、この体重計に乗って見てくれない?」
一末の希望を抱いてアキはミオの体重を調べて見る事にしたのと、万が一にこの体重計が壊れていると言う確信を得たいがためのどうしようもない願いからであった。
「えぇ~体重計に乗るなんて久しぶりだからなぁ~…まぁ、お姉さんは太らない体質だからそんなに重くは…」
「御託は良いから早く乗って!」
床に置かれた体重計にちょっと嫌そうなミオを無理矢理背中を押していざ乗せて見ると…
「…う~ん、多いのか少ないのか分かんないね」
「う~ん、やっぱこんなものなのかなぁ?」
おまけでビーコンにも乗ってもらったがコイツはそもそも浮遊できる体質の為、体重計の目盛は0からあまり変わらい事に2人は満場一致で『セコい』であった。
そして、この家の中で最も過重を期する存在がいた。
「あぁ、体重計?…なんで」
「いいからッ、お兄ちゃんも乗って見てよ」
「どーせ風呂上りに測って見たら自分の体重が増えたことに納得が行かず自分より重たいヤツで安心感を得たいだけだろ」
心でも読んだのかと言うくらいズバズバと図星を当てにきたユウゴに内心ドキッ!としたアキだったが…
「うっ、うるさいな!いいから早く体重計に乗ってよ!」
ユウゴも無理矢理背中を押して体重計に乗せて見ると…
「ひゃっ…154…キロッ…」
ユウゴの身長は195センチ、体重は154キロ、体格の指数を表すBMI値は40.5、肥満4度に相当する。
「前々から思ってたけど君、赤ちゃんの時からチョー重かったけど怪獣能力による影響?」
「知らん」
ユウゴの様な極端な例はともかくとしても肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症など様々な生活習慣病のリスクがあります。
「お兄ちゃん…プフッ、まぁまぁ別に体重が多いからって気にすることなんてないよ」
「なんだコイツ」
自分よりも重い体重の数値を目にしてかここぞとばかりにアキは哀れむそぶりを見せて顔は喜び『自分はまだ大丈夫』と言う誤魔化しで気を紛らわせた…が…
「でもこの体重計って体脂肪率も調べられるヤツだよね?」
「へぇ?」
体脂肪率はBMIと違い身長と体重で算出される故に双方の数値のバランスに左右されるが体脂肪率は体重によって脂肪の量を計測される値である。
「どれどれ~ユウゴ君はぁ~…5.4パーセント、一桁って相当マッチョじゃん」
「筋肉は生まれつきだ」
変わってミオも改めて体脂肪率を計測して見ると…
「お~お、ユウゴ君みたいに一桁じゃないけど20パーセント以下をキープッ!」
二人とも中々の低数値にアキはおそるおそる二人から離れるも…―ガシッ!ガシッ!
「どこいくの~アキちゃ~ん♡」
「お前が言い出した事だろう、さっさとお前も乗れ」
「ヤダヤダッ!!知りたくない、測りたくないぃいい!!」
しかし、逃げ出せないこの状況…数字は嘘をつかなかった。
「どれどれ~アキちゃんの体脂肪率はぁ~ぁ~…アーアー、うんまぁその…」
「なんだこりゃ、ラクダのコブか?」
アキの身体の半分は夢と希望で満たされていた。
「わぁああああああああああうるさぁああああいいいいいい!!」
取り乱したアキはその日部屋から出る事は無かった。
翌日、アキの住むマンションのゴミ捨て場には粗大ごみの枠に体重計が置かれていたのであった。しかし。捨てるにも勿体ないのか『ご自由にお持ち帰りください』と張り紙もされていた。
「ねぇ、見て見てブラックちゃん!まだ使えそうな体重計だよ~♪」
「おい、変な物を拾うな」
「いいじゃ~ん、もらっていこう!せっかくだからブラックちゃんやノーバちゃんの体重も気になるし~」
「余計なことを聞くな…消すぞ」