TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
『お前は…王になどなれない』…それは刑が執行される前に父と交わされた最期の言葉であった。
父は惑星カノンの王政を敷く“大王”と言う役割で民衆に無償の慈悲と慈愛で国を統治していた。それ故に持ち前の政治力は今の日本の政治家よりも劣る面があるだろう。
なぜなら父王に武力も腹芸も必要としない…いや、しようとしなかった。惑星カノンには二王統治と言う古来からの様式に凝り固まっていた。
この地球(ほし)には『チェス』と呼ばれる盤上の遊戯がある。“キング”を守りし最強の駒“クイーン”…まるであの刻の惑星カノンの歪な民意の元凶たる“抑止力”を生み出した母親の”女王“だ。
カノンの女王には“戦神”と呼ばれる巨神の力を宿している。いわく惑星カノンにまだ生命間もない頃に名もなき光の巨人がカノンの大地に降り立ち我々カノン人の中から巨人はカノンの女児に転生して以来カノンの女王のみが戦神の力を宿す光の戦士となれる。
それ故に大王は母を酷使した。本人は道具の様に扱っているつもりが無いのだろうが、何せ戦神の母は民衆に“戦神”でいる事に満足している。民衆も、王族も、大王すらも“戦神”の力に…依存していた。そして次代の戦神となる“姉上“もまた同じく依存していた。
だから母はガーゴルゴンに相打ちと言う形で倒れた。
大王よ…姉上よ…民衆よ…そんなに“戦神”が消える事が怖いか…そんなに自衛の手段が失われる事が恐ろしいか…
――大王陛下、此度の女王陛下に置かれる重篤なる結果を招いた責を問うため新生政権の名の下に貴公の拘束をここに伝えるものとする。 新生政権元首スサノ――
旧カノン王政君主■■■大王 有罪のち執行
それでも民衆から戦神ほどの抑止力への依存は断ち切れなかった。なれば母から戦神を取り除くことに成功した。
●アマノフレーム開発―ナノメタルTYPE-Kによる液化装甲技術により次世代型起動兵器
“UT-9497” 完成
●その副産物で怪獣の魂を分離、固定化、能力再現、侵攻災害生物“石化魔獣”ガーゴルゴンの力を抽出に成功。被験者に志願した姪のイザナに移植、“怪獣憑依者”実験成功。
副作用:老化の停止、推定成長速度は40代で停止するものと見込まれる。
●以上の実験により姉アマテから糾弾、『なんとも悍ましい所業』と語る…姉アマテ、決裂…旧王制派対等。
●星民投票、結果 新生政権樹立
スサノ皇帝(おうてい)元首 就任
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―現代―午前12時30分頃 首相官邸
「官房長官…官房長官ッ!」
“私”を呼ぶ声は私の秘書官の様だ。
「おや、どうやら眠ってしまっていたようですね…目を瞑るだけのつもりが随分と自分の半生を振り返ってしまっていました」
「お気をしっかりなさってください…我が国始まって以来の不測の事態とはいえ、就任早々での緊急会見に対する緊張は到底計り知れない事だと思いますが…」
女性に対してそのような心配事を抱かせる…私の不徳の致すところ、まだ若く秘書になりたての彼女にも“官房長官”と言う大きな肩書にこれからも付き従い続けてもらわねばと言う重責は大きい。
彼女は知る由もないだろう。私とこの若き未来ある地球人女性秘書官との離れすぎた年齢の差と違いすぎる種族の違いになど…
「黒姫秘書官、そうは言え…私はこういう会見事には以外にも慣れている節がありますよ 伊達につい昨日の今日まで警察官僚だった私には…ね」
キッチリしたスーツ、襟元の議員バッジ、これが今の私の正装にして礼装…かつては皇帝冠位の装で身を固めていた頃に比べればフレキシブルなものになったと言える。
「では黒姫くん、会見に赴こうではありませんか」
そう、ここが私の次なる時代に生きて戦う場…“政場”だ。遍く国会議員たちが己の政治力を議会に食い込ませて有象無象も有能無能も1席の場を政党の為に戦う場、曰くは『国民の為』などと『国家の為』などと『明るい未来のため』などを選挙時に吐き捨てるだけマニフェストを街頭の場で演説をし合い当選した者だけがありつける場…それが政治だ。思えば何処か懐かしくもあり、実に愉快だ。
“民主主義”…“経済政策”…“防衛課題”…何処の星も、どの世界も、どんな時代でも物言える場は政治にしかなかった。
おっと、そうこう考えている内に会見場の入口に着いた。見える見える、どこの報道の政治部か分からないほどに埋め尽くされた記者連中の集まりたるや衆議院の出席率よりも多いと見える。
入ってまずは日章旗に一礼、会見台について私の傍に手話通訳が定位置に着いてから会見の始まりだ。
「本日午前11時、東京都内で発生した局地的怪獣能力者の出現に際しまして過去同様の怪獣能力保有女性者による暴走事故とは一線を画す事態と判断し、新種の怪獣能力保有者による能力衝突であると確認が取れましたことをここにご報告させていただきます」
恐らく今、私を映すあのテレビ局のカメラレンズを通してテレビ、動画サイト、インターネット情報に『緒碓タケル“新”官房長官緊急会見』と題して報道しているのであろう。メディア映りには少しだけ良い印象がある。画面の向こう側に見る民衆は2つに組立つ、1つはレンズに映った私を利用して報道権利を得ようとする場面作りのメディア、もう1つはそのメディアに印象漬けされて視覚聴覚で私に対して様々な考を巡らせる…が、最終的には称賛する愚かな民衆…おっと、ここはもうカノンの星ではない。故郷ではないのについぞ彼らの容姿と思考感性がつくづく“あの刻”の私を慕う民にソックリではないか……――
「それでは質疑応答に移られていただきます、ご質問のある方は挙手をお願い致します」
報道官が回しを始めた。既に質問される内容は私の手元に答えを用意されているが…彼らが聞き出そうとすることなど手に取るようにわかる。
「日東テレビの安曇です 官房長官、先ほど新種の怪獣能力保有者と仰りましたが…それはこれまでの怪獣能力保有女性、通称:怪獣娘とは違う存在であるとの認識でよろしいのでしょうか?また現場でのライブ配信動画並びにネットで飛び交う情報によりますとその怪獣能力保有者は男性の可能性があるとの見解がありますが如何でしょうか?」
「ご質問は一つにお願いします」
あの記者…並びに日東テレビ政治部は次に会見は出禁になるだろう。だが、面白い質問をする記者だ。あとで圧力をかけぬよう根回しをしておこう。一応、報道官には静止の一添えの手を…
「え~、先ほども申し上げました通り“新種”の怪獣能力保有者と申し上げた次第です…それ以上の事はお答え出来かねますのでご理解とご了承を願います」
「つまり、男性か女性かもわからない…と?」
「え~、現時点ではそのような情報は上がっておりません」
まぁ、薄々は感づいてはいるな…怪獣能力者は女性だけではないことなど火を見るより明らかだ。だが、それまで理解していた常識が覆る事態は耐え難い“現実”であろう。
「他にご質問は?」
さぁ、ここから次々と時間が許す限りの質疑が飛び交うであろうな…民の声を聞いて答えて見る事も“権力者”の務めだ。
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北海道 札幌市内
―ブランドショップ《プティ・マガザンすすきの店》
「・・・・・・・・・ッ――」
札幌市に居を構え、自身が手掛けるブランド品を市場に躍り出てから数年で一躍有名ブランドにまでのし上がったカリスマデザイナー仁科エミリ、またメフィラス星人の怪獣娘でもある。
そんな彼女のブランド系列店舗プティ・マガザンすすきの店の応接室で応対する来客は様々であるが…やたら燻製臭のする等身大の怪獣がテーブルを挟んで上座にはビーコンが座していた。
「そっ…粗茶です」
ソッとティーカップを置いて足早にエミリの傍に逃げ回って同じ席に座したのは妹のカレン、同じくメフィラス星人“二代目”の怪獣娘であった。
「ねぇ、お姉ちゃん!何なのコイツ!?誰なの!?何者なにッ!?」
「私が知るわけないでしょう…ウチのスタッフがああなってしまったんだから…」
エミリの指さす先で壁に向かって目を回しながら『いらっしゃいませ~、いらっいらっいらっしゃいませ~◎◎』と何度も壊れた人形の様に発声していた。応対でビーコンを相手にしてから彼是1時間はあのような状態である。
「下手をすれば私たちや他のスタッフも同じ目にあわされるわ」
「いやいやッ、今すぐGIRLSに通報すべきでしょ!?札幌支部に連絡…って、なんで市内のド真ん中なのに圏外なのよ!?」
壊れたスタッフもカレンのスマホの圏外も、すべては目の前に座するビーコンの怪電波が原因であった。
「えっ、ええっと~…ホッ、本日はどのようなご用件でしょうか~」
「出た!お姉ちゃん御得意の営業スマイル!!」
カリスマデザイナー仁科エミリ、数年で培ってきた営業スマイルを用いて恐れおののきつつもビーコンを1人のお客様として相対するも…
―ズバンッ!
「「ひいぃっ!?」」
突然に両手を挙げて宛ら野生動物の威嚇を連想する仁科姉妹は互いに抱きしめ合った。
―ポンッ!…ゴソゴソ…スッ――
何かを思い出した様子で手を叩き、背後を何やらゴソゴソと物色すると…丁寧に梱包された贈り物を仁科姉妹に手渡して来た。
「えっ…あっ、これはご丁寧にどうも…」
「中身は有名ブランド加工肉のセット…妙に気前のいいところを突いてる…」
真空パックで加工肉を見事なまでにパッキングした『GOD-HAM』印の燻製シリーズの一つ。ベーコンからステーキまでニュージャージー州を拠点とするノースアメリカ最大の食肉加工会社『ゴッドハム社』の最高級品でもある。
【イーツ トゥ ザ ベーコン】
「えっ、ええ…ありがたくいただきます」
反応に困る変化球的なアクションにエミリはますます困惑させるが…
―カランカランッ…
「すいませ~ん、帝洋配送でーす 本日の配達分の荷物をお受け取りにきました――」
渡しに船、救いの逃げ道、誰よりも真っ先に動いたのはカレンであった。
「はいは~い!今行きま~す♡」
「あっ、ちょっ、カレン!卑怯よ!」
「卑怯もラッキョウもあ~りませ~ん!れっきとした仕事ですぅ~!…はいは~い、今日の分は~」
そう言ってカレンは足早に応接間から逃げ出して配達員の居る接客カウンターへと向かった。
「ううっ、なんで私が…」
【ワッツ ディス メン?】
「うおッ!?…えっ、彼のこと…ですか?」
ビーコンが大きな反応を示したのはつい今しがた店内に入店してきた配達員の少年であった。
「これと…これ…と…これだけですね、わかりました」
「いつもご苦労様~、配達くんは若いのにえらいねぇ~」
まとまった荷物を配送準備に取り掛かり伝票記入する少年にカレンは親し気に会話するほどに顔なじみな様子であった。
「いえ、おじさんとおばさんには迷惑かけっぱなしなので家に少しでもお金を入れたくてこの仕事しているだけですから――」
「あらそう…でもたまには息抜きもしなきゃ、若いうちに彼女作って、恋して、青春しちゃっても君の年頃なら許されるわよ~…あーあッ、私も彼氏の一人や二人、欲しいなぁ~あッ♡」
まるで『自分なら君の彼女にどう?』と言わんばかりに豊満にして露出度の高い服装から見える胸の谷間を強調するかのようにジリジリと配達員の少年にすり寄って来た。
―ゴスンッ!
「いったぁあッ!?」
「配達員さんに迷惑でしょ…やめなさい」
「いっつぁ~…何するのよ、お姉ちゃん!」
「申し訳ありません、ウチの妹が…」
不躾な所を見せてしまい謝罪するエミリに対して配達員の少年は…
「いえ、何度も同じことを仰るのでもう慣れました」
既に何度も同じ手の色仕掛けを受けているせいか配達員の少年にはカレンの魅力など何一つ靡いていなかった。
「それはそれでスゴイショックッ!?」
ほぼ叩かれ損に終わったカレンには自身の魅力の無さに首が下に項垂れた。
「僕なんかより良い人に出会えますよ、きっと…仁科さんもカレンさんも、どうかお元気で…」
「エッ?どういうこと、そんなお別れみたいな…」
「お別れはお別れなんですけど…実は明日よりおじさんの仕事の都合で東京に引っ越すことになりまして…」
「ええええッ、なにそれ聞いてないわよ!?」
突然の別れにカレンは驚き、エミリはそれほど驚かない。
「お姉さんには前の配達でお伝えしてたんですけど…口止められてまして…」
「伝えたら、あなた絶対『私も東京に行く!』とかなんとか言いだして私に交通費ねだるでしょ」
「そんなぁ~!!酷いよ、お姉ちゃん!!」
見え透いていたカレンの心情を考慮して出立当日まで黙っていたエミリはカレンからスーツの襟を左右に揺らされるほどに必死の抵抗を受けた。『今すぐお金出して!私も東京行く!』など繰り返し訴えるも『あなたは大学卒業!』と在学での学業の優先度で訴えを拒否した。
「ええっと、なんか僕のせいでご迷惑をおかけして申し訳ありません…向こう行っても御二人の事は忘れません」
「そんな今生の別れみたいにッ!?」
「いえ、配達員さんは何の落ち度はないです…ご発展願いお別れ申し上げます」
「今までありがとうございました 仁科エミリさんとカレンさん、御二人共お元気で…」
そう言って配達員の少年は最後の『NISHINA』商品の入った段ボール箱を抱えてエミリとカレンの後を去って行った。
「ううっ、ちくしょー!貴重な彼氏候補くんがデートも誘えずにあっけない終わりを向かえるなんてェエエ~~!!」
「あなたねぇ……そう言えば彼の本名は知らないわ」
「ええ~、お姉ちゃんここ3ヶ月も顔合わせているのに男の子の名前も知らないのぉ~!?」
カレンは肩を竦めて我が姉にして男惹きの無さに呆れ返った。
「余計な御世話よ、そういうあなたは知っているの?」
「はぁ~、やれやれ生涯未婚確定のお姉ちゃんに御情けで教えてあげると…あたしも知らないッ!」
「偉そうにしているわりにあなたも彼との脈は無いじゃない」
「余計な御世話!」
互いに余計な一言を添え合いながらも会話をする中で…
「そういえば、なんでお姉ちゃん 今更ながら配達くんのフルネームなんか気にし出したの?応接は?」
「それがさっきのお客さん…配達員さんに興味を示したのか彼のことを尋ねられて…私も彼の事そこまで知らなかったし名前だけ聞かれたら目を放した隙にどこかへ消えていたの…」
「配達くん…を?」
二人は深く考え込んで…頭に浮かんだ結論は…
「「なんだか嫌な予感…」」
「あれ?…私は一体…」
特殊電波の影響が消えたスタッフが正気に戻ったと言う事はビーコンがこの『プティ・マガザンすすきの店』から既に遠くへ離れて行った証拠であった。
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札幌市内 配送センター倉庫
市内にある大手ショッピングサイトの配送品保管庫では道外より空輸または海上輸送など様々な輸送手段で送られてきた配送品を一時的に保管しておく為に設置された大所の倉庫である。中には『NISHINA』のように道内からも出品される配送品も多く、先ほどプティ・マガザンすすきの店より預かった商品も一時的に保管され、注文者が保管期間内まで指定した日付と時刻にこのセンターから配送が開始される。
「ただいま戻りました~!」
プティ・マガザンすすきの店より出品商品を受け取った配達員の少年はセンター保有の原付バイクから正門より入館受付を済ませ再び原付バイクでセンター内を進むとNISHINA担当の保管倉庫へと向かった。
「あぁ、ご苦労様…」
「センター長、今しがたNISHINAさんから荷物預かり完了です」
配達員の少年は中堅のセンター管理長に配送品受領の伝票を引き継がせると何やら落ち着かない表情を浮かべていた。
「いや~最後の日に申し訳ないんだけど 午後のルート便の同行を頼めないかな?」
「えっ?何かあったんですか?」
「そうなんだよ…なにやら体調不良で今日担当する予定の運転手さんがシフトから外れてしまって、代わりの運転手さんは何とかなったんだけれど…その人、今日が初めてで市内の土地勘が無いんだよ」
市内の土地勘のある少年が代理の運転手と共に同行してほしいと言うセンター長の申し出に少し肩を落としつつも…
「分かりました、その方はどちらに?」
「助かるよ! おお~い、新人さん!」
そう言ってセンター長が呼び出した新人の運転手には…
【アイム ビーコン!】
「いーッ!?かっ、怪獣ッ!?」
「えっ?怪獣?…何を言っているんだい…まぁ、確かに見た目はガタイの良い人だけど、怪獣は失礼だよ 今日のルート便の代理運転手のビーコンさんだよ」
センター長は何ら違和感を抱かず…というよりビーコンの放つ特殊な怪電波でセンター長を強い催眠状態にさせていた。
【カモン ボーイ!】
ビーコンは自前のサングラスを掛けてルート便のミニバン車へと乗り込んで少年に速く助手席に乗れと訴えて来ていた。
(なっ、なんだあの…人?…いやどう見ても怪獣だよね)
明かに等身大の怪獣が目の前でミニバンの運転席に居座っているにも関わらず道行く人たちには何も違和感を抱かれていない。
しかし、少年は配達の為にも仕方なくこの等身大の怪獣モドキが乗るミニバン車の助手席に渋々乗り合わせた。
【レディゴー サッポロ デリバリー!】
そう言って半ば納得いかないまま少年を乗せてビーコンが運転するミニバン車が発進し始めた。
(下手なことをすると何をされるか分からないなぁ……んっ?)
ミニバン車が通りすがったのはセンター横の配送運転手や配送業者たちの詰め所としての待機所施設に何やら救急車に救急隊が運び入れる傷病者が目に映った。
「…今の人って…このルート便の運転手さんじゃ…」
本来の運転手と思しき傷病者の口にはやたら大きなベーコンが口いっぱいに捻じ込まれていた…様に見えたかもしれなかった。
――カチンッ!ボシュゥゥゥ…ジジッ…カチン!
運転するビーコンの口元には細長いベーコンの先端にライターの火であぶり焼きにして宛ら葉巻の如く焼きベーコンの匂いを堪能すると何故か口から夥しい燻製煙を吐き出して来た。
「ウグッ!?燻製臭いッ!!」
少年は窓を開けて煙を外に逃がす。少年はこの時、思ったのは…
(変なのに捕まってしまったぁぁッ!?…)
不幸に見舞われる己が運命に冷や汗が止まらなかった。
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――ピンポォオン……ガチャン――
「は~い、ご苦労様です」
【スタンプオアサイン プリーズ】
しかし、ふざけた見た目のわりに仕事は意外にもキッチリとこなしていた…そして何故か受取人の多くがビーコンの見た目に何ら違和感を抱くことなくアッサリと受け取ってくれる。
そして、思った以上に仕事をキッチリこなすビーコンにも驚かされた。
(ふざけた見た目をしているわりに…妙に手慣れている…)
アッと言う間に数件の配達が完了しようとしていて次に配達する1件が今日のルート便最後の配達であった。
【ネクスッ!】
「えっ?…ああッ! 最後は…札幌ビール工場さんの配送品1件が最後みたいですね」
少年が配送先の宛名を確認するとその横からビーコンもビール工場の所在を確認してきた。
【…サッポロ…ビールファクトリー…】
「…?…」
これまで可笑しなテンションを醸し出すビーコンに何処かピリッとした雰囲気を感じさせる何かを少年に抱かせた。
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札幌市内 ビール工場
―ピンポォオン――……
入場口前のインターホンを押しても誰も何も反応が一切ない。インターホンの裏には警備室と思われる入館所が見えるも警備員の誰一人すらいない状況だった。
「参ったな~…担当者どころか電話に誰も出てくれない…と言うか、なんか携帯の電波がいつの間にか圏外になってる」
少年の携帯電話で工場内の担当に連絡を入れようとしても何故か携帯電話そのものが圏外表記で電波が届いていない不思議な事態に陥っていた。
【………】
するとビーコンは何を思ったのか突如工場の搬入扉を無理矢理こじ開けようと玄関口のシャッターに触れるとプラズマ状の電気が走り、自動でシャッターが上がり始めた。
【ヒア ウィー ゴー!】
「えぇー…、いいんですか?」
何をしたのか全く分からない少年だがビーコンと共にミニバンに乗り込んでビール工場へと入って行った。
工場内は今日が休動日ではないかと疑いたくなるほどに施設内のどこを探しても関係者並びに作業員の一人ともすれ違わない不気味な異常性があった。
「すみませーーん!誰か居ませんかぁあーー!?」
どれだけ大きな声を上げても返事がない。
「やっぱり今日は工場がお休みなのかな?」
諦めかけていたその時、ビーコンがその場でしゃがみこんで何かを気にし出した。
「どうかしたんですか?」
蹲るビーコンが触れる先には…ビールを入れる容器、ガラス製のビール瓶がビーコンから少年の足元に掛けて散乱していた。
「おっと…誰かが落としたんですかね?」
【ノット…ユア ルック】
ビーコンが見てみろと見せた瓶は飲み口部分だけ残り、あとは粉末状のガラス粒子が零れていた。
【ディス イズ ノンシリコン ガラスパウダー】
この粉末にはシリコンが無いと語るビーコンがなぜそれを見ただけで理解できたのか少年には首が傾げるばかりであった。
すると…――
「ソコに居るのは誰なのですッ!?」
このビール工場に少年とビーコン以外の第三者の声が響く。
「ウワァッ!?ごっ、ごめんなさい! 許可なく入るつもりは……ンンッ?」
驚いて声の主に謝る少年だったが、よくよく見るとその声の主の姿は自分の背丈よりも小さな少女と思しき人物だった。
「GIRLS札幌支部のウーなのですッ!ここは今、立ち入り禁止なのになんで見知らぬ人物がいるのですッ!怪しいのですッ!」
「かっ、怪獣…娘ッ!?」
少年の前に立ちはだかるのは純白の髪の毛が足元まで伸び切ったつぶらな瞳を目の奥に宿しながらもその眼光は疑いの眼差しを少年たちに向ける少女…そして何故か季節外れの雪だるまを両手に抱えている。
「ウーとユッキーの目はごまかせないのですッ!お前たちは不審者ッ!この札幌ビール工場で起きた新種のシャドウ出現と何か関連があるのですッ!」
「ふっ、不審者って…僕たちはここに荷物を配送しにきたただの帝洋配送の配達員ですよ!不審者じゃありません!」
「嘘をつくなッなのですッ! だったら、そこに居る不審怪獣は一体何者なのですかッ!?」
札幌支部の怪獣娘ウーはビーコンを指差して怪獣だと認識していた。
「やっぱそうですよね!?この…人?…どう見ても怪獣ですよねッ!?」
ここに来て初めてビーコンを怪獣であると認識できる人物に出会えたことに少年は歓喜してウーの手を取って喜ぶ。
「ウッ///--///…と・に・か・くぅ~!…怪しい人物1人と怪しいヤツ1匹ッ、一緒に札幌支部まで同行してもらうのです!」
ウーは揺らぐ気持ちを押し殺して二人をGIRLSの支部まで連れて行こうとした、その時…――グワンッ!
ウーの背後にギョロめく怪しげな眼球と鋭利な先端がウーに迫ろうとした…が…
【ソゥ、デンジャラァスッ!!】
「グェブッ!?」
咄嗟にビーコンはウーを押しのけて弾き飛ばし彼女に迫ろうとしていた何者かの攻撃を自ら身を挺して彼女を庇った。
「オワッ!?ビーコンさんッ!?」
弾き飛ばされたウーをタイミングよく捉えた少年は目の前で起きている信じられない光景に目を疑った。
【チェストォオオ!!】―ドガッ!!
――キュキャキュキュキュンッ!!――
ビーコンは会話に使うプラカードで相手の正体不明生物相手に大立ち回りを見せるも正体不明生物のその姿は節足動物の様であり、昆虫のように不気味な生き物、目が突出していて突き出た様なシルエット、手先は足にもなり武器でもあるほどに鋭利なカマキリの鎌の様に振り回すもすべてがビーコンのプラカードでいなされる。
しかし、その最後は…―パコンッ!!
――キュキャン!!――
ビーコンのプラカードは正体不明生物の目に叩きつけて…そのまま生物が半周するほどの強い衝撃は生物をひっくり返して見せた。
「ええーーッ…勝っちゃったよ、この…人?」
【サツマ・パワァアア!!】
プラカード1本で正体不明生物を倒し退けたビーコンだったが…
――キュキャンッ!!――
正体不明生物は起き上がって再び少年たちを狙って襲い掛かって来る…
「うわっ!?まだ生きてるの!?」
「うぎゃぁああッ、気持ち悪いですぅうう!!」
…かに思われたが、正体不明生物は反転してそそくさと逃げ出すようにして立ち去って行った。
「にっ、逃げて行った…?」
【ドント ゲラウェイ!】
すかさずビーコンは両手に格闘用のプラカードを掲げて正体不明生物の後を走り追いかけて行った。
「アッ!待つのですッ!やっぱりあの気持ち悪いシャドウのナカマに違いないのです!ウーの目から逃れる事は出来ないのですぅう!!」
「ええーーっ、ちょっとぉお~!!」
後に続いてウーと少年も足早にビーコンの後を追って行くがビーコンが立ち止まっていた場所はビール工場内の貯蔵庫と思われるレンガ造りの建物だった。
「もう逃がさないのです!おとなしくGIRLSのお縄に付くのですよ、ヘンチクリン怪獣!!」
「はぁっ、はぁっ…一体全体、なにが起きて…」
ビーコンを追ってきた2人に対してビーコンは【ウェイト ヒア―】のプラカードと共に勝手に貯蔵庫の扉を開けた。
「コラ~!勝手に開けちゃダメなのです――…ヒャイッ!?」
ウーがビーコンを引き止めようとした瞬間、ウーの眼前に【ドント カム!】のプラカードの角が彼女に突き立つ。
そして、開けた貯蔵庫のドアはゆっくりと閉められて【ドント ノット オープン】とビーコンは内部からドアを閉めるのであった。――バタンッ――
――キィキュン!――キィキュン!!――
――キュキャン!――キュキャキャキャキャキャキャキャッキャキャッキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャッキャァキャッキャキャキャ!!――
内部では夥しいほどの同型の生物がけたたましく不快な鳴き声と共にギョロッとした目でビーコンが放つ特殊な電磁波に敵対性の強い威嚇音を放ち続けた。
しかし、ビーコンもソレに応えるかのように彼(ユウゴ)にも、アレ(ミオ)にも、あの子(アキ)にも見せないビーコン本来の姿が背中のファスナーからジィーッと開かれ…
「“スゥ~パァ~ノヴァァアアアアアアア”!!」
――ボンッ!!――
保管庫内から漏れ出す光と共に激しい炸裂音が外まで響いた
内部は燦々たる状況であった。閃光に包まれた正体不明生物たちは生体反応を沈黙させ、天井に張り付いていたモノも続々と落ちていく中で…
「ふぅ~、これぞセミファイナル…ってね☆」―コッ…
アッと言う間に謎の生物たちを一掃したのは着ぐるみの様に抜け落ちたビーコンの抜け殻から着ぐるみの本体とも言うべき謎の少女が持つ自分の身の丈以上の杖が起こした“魔法”であった。
「なんなのですか、今の光は!?…ウーの権限により開けるのですッ!!」
外から先ほどの光が何なんかを知るために外で待つウーが閉められたドアをガンガンと無理矢理開けようとしていた。
「わわわッ!?ちょっと待った!!…着ぐるみ、着ぐるみッ!!」
少女は慌てて床に抜け落ちたビーコンの着ぐるみを再び身に着けて背のファスナーを締め上げて再びビーコンに戻ろうとした。
それと同時に外からウーの万力が炸裂して閉ざされていた重たいドアがバァアン!と弾き飛ばされて貯蔵庫に光が差し込む。
「一体全体何をしてぇ!!……いる…の…ですぅ…」
ウーが目にした光景は…生体反応が停止した謎の生物の大群、その中心にビーコンがゆっくりと【アイ~ソゥ~イィ~ツ!】のプラカードと共に猟奇的な光と影の陰陽にウーたちへ恐怖をかき立たせながら振り返って来た。
「ギャァアアアアアア!!怖いのですぅううう!!」
ウーは怯えて腰を抜かしながらも一目散に後ろで立つ少年の懐に飛び込んでいった。
「おわっとっとっと…大丈夫ですか?」
怯えるウーに対して優しく頭を撫でてあげて恐怖を緩和させようにもさすがにこの空間内で起きている状況を鑑みても無理もないと少年にすら思わせた。
【ヘイ ボーイ!】
「えっ!僕ッ?」
ビーコンは少年に手先を突き出して手の中からカードサイズの紙を差し出して来た。
【カム トゥ トウキョー イン ザ カム ヒアー】
それはGIRLSのロゴと大雑把な地図に矢印でココと記載されたGIRLSからの案内状、本来はGIRLSの怪獣娘候補の怪獣娘にしか配られない代物を何故かビーコンが持っていた。
「…ここに…行けと?」
なぜこのようなものを差し出して来たのか…少年にはワケが分からなかった。渡して来た当人もどこに口があるのか分からない生物なのに何故か背中から口笛が漏れてくる。
「これ…GIRLS東京支部の案内状じゃないですか!?なんであなたがこのようなものをッ!?」
GIRLSの怪獣娘であるウーにはその紙一枚が示すことが何なのか理解していた。それ故にウーはビーコンに対して懐疑心がより強まらせる。
「やはりGIRLSを日本から追い出そうとしているスパイ怪獣なのですねッ!そうなのですね! これは最早シャドウどころではないのですぅう!!」
深まった懐疑心がおかしな方向に進みウーはビーコンに対して持ち前の雪だるまを何故か武器の様にして身構える。それに対してビーコンも【バトリング イット オン!】と臨戦態勢のプラカードを掲げて中国拳法のポーズを取っている。
「は~い~た~つ~ぅくぅ~ん!!」
少年の耳にまで届くどこかで聞き覚えのある声に少年は振り返ると大きな質量が2つも少年の眼前に飛び込んできた。
「うぶッ!?」
「もう大丈夫だからねッ!お姉さんたちが君を守ってあげるから…早く、コイツから離れて!!」
「えっ!えっ!?何が!?何が一体どういう事ですか!?」
少年をビーコンから無理矢理引きはがそうとするのは『プティ・マガザンすすきの店』で姉のエミリと共に店にいたカレンが怪獣娘メフィラス星人“二代目”の姿で彼をどさくさに抱きしめて後ずさりさせる。
「どうやら間に合ったようね!」
同じくビール工場内に応援で駆けつけて来たエミリも怪獣娘メフィラス星人に変身を遂げていた。
「あっ、あなたたちは…メフィラス姉妹さん!?」
GIRLSのウーも認知する怪獣娘メフィラス星人の姉妹たちがそろい踏みでビーコンに向かって臨戦の構えを取る。
「一体どういう事なんですか!?あの…人?…が、何をしたって言うんですか!?」
状況の理解できない少年はなぜ怪獣娘たちがビーコンをさながら敵対視する様子に理解が追い付いていなかった。
「どうもこうもないわよ!いま、街中アイツだらけで大変な事になっているのよ!―見てッ!」
『ご覧いただきます通り、現在札幌市に突如大量に出現したこの単等身型の怪獣に電車バスなどの交通機関を始め観光地からラーメン店に至るまでこの正体不明の怪獣で溢れかえっており、またその行動パターンとしましては暴れたりするでもなく人間同様にむしろ人間のような行動を繰り返して…ウワッ!?ちょっ!?やめ!?ああああッ!?』
『志登内さん?…志登内さん!?…ええーただいま中継先との映像が途切れてしまいましたが…って、ウワァアアアアッ!!』
――※ただいま映像を中断させていただきます※――
メフィラス(妹)が見せたソウルライザーの映像内には札幌市内中に溢れかえっている無数のビーコンが市内の有名観光地から交通機関、はたまたテレビ中継から札幌市のローカルテレビ局スタジオにまでビーコンが溢れかえっていた。
「ええっと…何ですか、コレ?…ドッキリか、何か?」
「そんなレベルの話じゃないわよ! 今、東京も大変だって時に…こんなワケの分からない化け物がウチの地元に溢れかえってきて…――って、うわっ!?あたしのソウルライザーにもッ!?」
メフィラス(妹)の手にするソウルライザーから無数のビーコンが画面いっぱいに埋め尽くして画面の中から小さなビーコンが溢れ出て来た。――さらに…
――ドガァアアアア!!ゾロゾロゾロゾロゾロゾロッ!!
「「「ギィイイヤァアアーーーー!!」」」
「ウワッ!?なんなんだこの異常な数ワァアアアアアアアアアッ!!」
ビール工場内から突如侵入してきた大量のビーコンの波に飲まれていく中で立つ場所に埋め尽くされたビーコンたちの群れの中にメフィラスたちはその場から一切の身動きが取れなかった。
「ううっ、仁科さんたち…怪獣娘さん…大丈夫ですか?」
――ワラワラワラワラワラワラワラ――
「だっ、大丈夫に見えるのですか?」
――ゾロゾロゾロゾロゾロゾロゾロ――
「うぐっ、どーせなら大量のイケメンに囲まれたかったのに…なんでよりにもよってコイツらなの!?」
――ウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴ――
「今やこのビール工場どころか市営地下鉄もウチの店もあるすすきの内のデパート街もこの正体不明の怪獣で埋め尽くされているらしいわ…市の光ファイバー網もこいつらにハッキングされて通信される数多の電化製品内から現れている…こいつ等もきっと東京で姿を現している特生怪獣とやらの同類よ…いずれは北海道中をこいつらに埋め尽くされるのも時間の問題だわ!」
誰一人とその場から動けない中…1匹のビーコンが少年に近づいて来た。
【ヘイ ボーイ】
「ううっ、あなたは…」
有象無象のビーコンたちの上から少年に顔を近づけてくる…そんな時だった…
“”聞こえるかい、少年 このまま君には予定通りに東京へ向かってもらうけど…その紙の裏を見てくれ“”
どこからともなく声が聞こえると言うよりも頭に直接響くような声が少年の脳内に聞こえて来た。
「だっ、誰なんですか!?…メモの裏?」
GIRLSの案内状の裏には東京都の郵便番号で記されたどこかの住所であった。
“”そこに居る…『宮下アキ』を尋ねたまえ…彼女が君の知りたがっている事の答えを導いてくれるだろう“”
「どういうことですか!?…僕の…知りたがっていること…一体それって…って…えっ!?」
「ついでだ、最短で時間を早めといてやる ここより先の“ワームホール”を通れば、なッ☆」
頭に聞こえる声の主からの言葉に少年は振り返るとソコには口元からチャックを外し開いて中からビーコンの本体と思われる者の手が少年を捉えてズルズルと少年を引きずり込んでいく。
「うわぁあああッ!?配達くんが食べられてるぅううううッ!?」
怪獣娘たち側より傍から見ればビーコンが少年を捕食しているという絵面であった。
末端のつま先までビーコンの中へと消えて行った少年の後に続いて原初のビーコンを中心に無数のビーコンたちが一気に同化を始めて1つのビーコンへと戻るビーコンの津波となって収縮し始めた。
「うわぁあああああお姉ちゃぁあああああん!!」
「カレェェェェェェンンンンンンン!!」
「なんでウーまでぇぇえええッ!?」
ビーコンの集合現象に巻き込まれる怪獣娘たちのみならず、ビール工場も、なにもかもをビーコンに集まって行き…やがて1つのビーコンへと消えていった。
【アイム ビーコン イーツ トゥ ザ ベーコン】
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北海道 新千歳空港
「うっ…ううん?…あれ、僕…いつの間に寝てたんだろう?」
そこは北海道から飛び立つ飛行場の1つでもある『新千歳空港』の国内線エリアの待合場であった。
見わたす少年の横には少年のおじとおばの荷物と共に自分の荷物も目の前にまとめられていた。
手持ち部分には預かり札が掛けられており搭乗手続きを済ませている状態だった。
「おじさんとおばさん…は…」
『ウーもおすすめ、北海道味噌ラーメン!お土産に是非お買い求めくださいですぅ~!』
どこかで聞き覚えのある声に振り返ると待合ベンチの横のお土産店におじとおばらしき人影が土産に何を買っておくか悩んでいる様子だった。
「あれじゃあしばらくは戻ってこないな…僕も今のうちにトイレとか済ませておこう…」
少年は徐に立ち上がってトイレのある場所まで向かった。
――速報:首相官邸より緒碓新官房長官が緊急会見『特異不明生態怪獣』に関する一連の怪獣事件に対し公開捜査並びに捜査規定の新たな見直しも発表。国際怪獣救助指導組織に対する一斉の立ち入り捜査を実施する方針――
――函館市上空、気流の影響により函館空港の運行見合わせ 一部、国際線、国内線の運航も見合わせ――
途中の電光掲示板に流れるニュースの下でトイレを済ませた少年は新千歳空港内を時間が許す限りまで館内を歩き回って徘徊していた。
「…空港内って普段来ること無いからちょっと特別感あるよなぁ―」
見える限りの飛行場内の数多の飛行機に、館内の様々な施設、どれもこれも少年には物珍しい感覚であった。
しかし、どこかで時間を潰そうにもこれと言って立ち寄る場もない中で歩き回る内に札幌市内で知り合った人たちの事を思い返していた。
「……お姉さんに黙っていたこと…ちょっと怒っているかな」
それはいつも配達のバイトで顔を合わせる仁科姉妹、特にカレンには北海道を旅経つことを黙っていたことに少しばかりの罪悪感が過って来ていた。
――すると…
「見つけたわよ、配達くん!」
「えっ?」
声を掛けられた方に振り返ると…ソコにはもう間に合わないと思われた仁科姉妹たちが見送りに来ていた。
「…エミリさん、カレンさん…」
「水臭いじゃないの…お姉ちゃんと共謀して、あたしに黙って北海道から出て行けると思った?」
「ごめんなさい…カレンがどうしてもあなたを追いかけたいと聞かないもので…」
申し訳なさそうに頬を指で掻くエミリの後ろではおじとおばが嬉しそうに見守っていた。
「こ~んな素敵なお姉さんを置いて北海道を飛び立とうなんて、そうは問屋が卸さないわよ」
「ううっ…それについては…ごめんなさい…」
今日ばかりはカレンの押しの強さに気圧されて迫られる彼女の圧に少年とカレンは徐々に距離を縮める…そして…
――ギュッ……
「…初めて網走から札幌に来てウチのお姉ちゃんのお店にほぼ毎日配達の時に顔を合わせていたのに…君がいろんな所に引っ越しの多い子だから友達がいないって悩みを打ち明けてくれたのに…こんな形でお別れなんて寂しいわよ」
「お姉…さん…」
大きく両手を広げて少年を包むようにして抱きしめられ、初めて実感するカレンの心と身体の大きさに驚かされた。
「フフッ…少年、思ったより小さいんだね お姉さんの胸に顔が包まれちゃうくらいベスポジだぞ このラッキースケベくん」
「ううっ、こんな時に…からかわないでくださいよ」
「ごめんごめん…悔しいけど、東京に行ったら友達たくさん作って、彼女も作って、恋して、いっぱい青春してきなさい」
熱い抱擁から解き放たれて少し子供扱いされるかの様に頭を撫でられて激励を送られた。
「妹が度々の御迷惑をお掛けしました…姉が代わって謹んでお詫びいたします」
「ちょっと~、それじゃあたしがいつもこの子に迷惑かけてるみたいじゃん!?」
「はははっ、エミリさんもお元気で…」
抱擁し合ったカレンとは打って変わってエミリとは固い握手を交わして別れを済ませるとおじが『そろそろ飛行機に乗るよ』の声で仁科姉妹から離れおじとおばの元へと少年は向かうのであった。
「……少年! 君、名前なんていうの~ぉ?」
改めて名前を呼び合わずに顔を見せあって来た間柄に終止符が打たれた。
「……リュウト!…僕は…加納リュウトって言います!」
仁科姉妹に名前である『加納リュウト』を伝えるとリュウトはおじとおばである2人の夫婦の元へと向かい、3人の家族は空港を後にするのであった。
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国内線旅客機内
機内は多くの搭乗者で行きかう中、リュウトとその家族の夫婦二人も自分たちの座席へと向かいつつあった。
「良い人たちに見送ってもらって良かったわね、リュウト」
「うん、チアキおばさんたちはもともと東京に住んでたんでしょ?向こうに知り合いが待っているの?」
「おばさんは昔、雑誌編集で私の著書の担当だったからな…フリーになっても出版社には顔なじみはどれくらい残っているのかな」
「んも~、ケンイチロウさんったらまた自分の売れなかった本の話ですか…当時の編集長からもノンフィクションモノはヤメテおけって言われてたくせに…」
「そのおかげでこうして2人を飛行機に乗せて東京まで向かわせてあげられるのは誰の著作賞の御かげだい?リュウトも少しは僕の著書をだねぇ」
「もうなんども聞かされて、読み返しもしたよ…『古史羅誕生』の内容なんて学校の教科書よりも暗記しちゃったよ」
今回の引っ越し理由はリュウトのおじである寺沢ケンイチロウの著書の出版社が主催する関連巡業で東京に移転しなければならなくなった為でもあった。
「リュウト、私たちは前に座るけど…リュウトは隣の人に迷惑かけちゃダメよ」
「分かってるよ!締め切りギリギリのおじさんじゃあるまいし…」
「えっ、なんで私の締め切り事情に詳しいんだい 二人とも…」
「あなたもいい加減に締め切りを守る後輩作家さんを見習ってください!」
「僕のおすすめは亀沢トト先生かなぁ~」
「彼、漫画家だよねッ!?」
そんな他愛のないやり取りをしている内にリュウトは自分の席に近づいていた。
「よいしょ…すみません、隣しつれいします」
【イエス イッツ オーケー】
リュウトの隣にはやたら太い体格にトレンチコートを羽織り、帽子を目深にかぶる謎の存在の隣であった。
「ふぅ~……んっ?なんだろう、この紙?」
座席に座って早々に上着にポケットから見慣れない紙が入っていた。
ソコにはGIRLSのロゴと『ココ』と何処かに場所を占めす大雑把な地図…そして、裏面には東京都内の郵便番号と住所、そして…『宮下アキ』の名が記されていた。
――お客様にお知らせいたします ただいま函館市上空より発生した気流の影響で遅れが生じております 到着に大幅な遅れが生じますが当機は予定通り新千歳発羽田空港に到着する見通しです――
アンバランス小話
『暗黒面』
深夜を迎えたバー『1954』に今宵も大人の時間に珍しい客の顔が来店していた。
「ひぃんッ!わがっでだッ、わがっでだげど…なんでよりにもよっておな中の子が一歩どころが百歩先まで行っちゃってたんだよぉ~~!!」
大ジョッキ一杯分の生ビール(子供用)よりも大きな涙と共にレッドキングが目元を赤くして涙ながらに吐き出していた。
「よしよし、レッドンも辛い経験をなさったのですね」
「しっかりしな…仮にもあんた東京支部の姉御肌でやって来たじゃない、アンタを慕う後輩たちにこんな情けない姿晒してイイの?」
左右からレッドキングよりも数少ない年上の先輩筋であるピグモンとメトロンに慰められてレッドキングは今宵受けた衝撃的な事実に現実を向き合いざるを得なかった。
「わがっでだ…わがっでだんだよ、オレは……その人がぁ~彼女さん居ると分かっていても…でも…ちょっとイイなぁ~って思ってしまった、オレのバガァアア!!」
きっかけは些細な事に惹かれてしまい始めて実感する異性と言う魅惑…しかし、その異性には別の異性がいた。しかも同級生と言う辛くも重い現実に打ちひしがれて立ち直り切れなかった。
「失恋は誰にでも経験することよ 大事なのはそれを乗り越えて前に進むこと…だから…」
――あまぁ~~~いッ!!――
メトロンは『うわっ、めんどくさいのが来た』と呟きながらも励まし合う3人の前に3人の怪獣娘たちが立ちはだかる。
「幼馴染は彼女持ち、同郷の友達は次々に地元で交際結婚のラッシュ! 取り残し苦労のベムラー!」
「体育大卒は体力自慢!…でもそれに付き合ってくれる男は友達未満、恋人以下 体力以外取り柄なしギランボ!」
「フラれた理由は並ぶと犯罪臭がして付き合えません!友達に慣れても恋人は無理 合法ロリ体型ナックル」
―――我ら、ダークシングルシスターズ!推参!!―――
ここぞとばかりに同じ境遇の怪獣娘の哀しき波動を感知して怪獣娘の中でも指折りのモテない哀しきモンスターである3人がレッドキングたちの前に姿を現した。
「さぁ、君も我らダークシングルシスターズの名の下に世の女性を惑わし、ここぞとばかりに彼女がいる事を暴露する不届き者を成敗しようではないか!そして私たちの真の魅力に世の男共に気付かせ、脱独身街道!!ダークシングルシスターズ、合言葉~!!」
「「高嶺の花はノットステータス!バッドカース!!」」
怪獣娘の出現から早数十年で生み出された呪われし憂いであった。
「そんなふざけた理由でレッドンをそちらの色になんか染めませんからね!」
「まったく、いい歳こいて何やってんのよ…レッドキングもあーなりたくなかったらさっさと立ち直り…」
「ううぅ~あぁあ~…」
その目には生気がなかった。今にも身体が呪われし憂いを宿す3人の元へといざなわれそうになっていた。
「ダメなのです!レッドン!!」
「あっちの暗黒面に行ったら戻れなくなるわよ!!」
この日、店番を務めるダグナは語る。
『女性の皆さんは大変そうですね』と…