TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
オーストラリア首都特別地区 キャンベラ
―オーストラリア高等裁判所―
オーストラリアの総面積内でも8番目に位置する大きな東部都市のキャンベラには日本の最高裁判にあたる『連邦最高裁判所』が所在している。
「――……聞こえますでしょうか?…繋がって…います…ね、はいッ、ええー只今オーストラリア時刻午前7時を回りました 私は今、オーストラリア国内のキャンベラより中継しています」
オーストラリアの裁判所前では日本のテレビ局のオーストラリア支局の報道部を始め世界各国の報道機関のキャスターを前にしてカメラのレンズがキャスターとその背景の裁判所を映していた。
「ええー、私たち以外にも様々な報道機関が現場前に集まっていると言う状況なのですが…それもすべては本日の判決結果を、今か今かと待ち望む状態であり――」
宛ら海外俳優のパパラッチ並みの報道関係者のみの高等裁判所前で審理されているとある裁判に注目が集まっている様子だったが…
「…えっ?…えっ、あっ、はいッ!たった今、審理の詳細が流れてきています! 国際怪獣救助指導組織『GIRLS』、逆転勝訴ッ!逆転勝訴ですッ!連日より続いての審理の結果オーストラリア高等裁判所は『一連の指導組織が行う活動に対して該当する違法性は無く、同・環境保護団体が主張する訴えは認められない』と述べられ――」
裁判所内の情報は内部に報道協定を結ぶ報道機関の関係者のみに情報が伝わる、それらの情報はいち早く現場の報道キャスターが口にて発信し、レンズを通して中継先のテレビ局が編集を交えてもリアルタイムで速報できるコンマ数秒単位の現場世界だ。
裁判関係は注目度が高い裁判であれば芸能や政治に次ぐ最速の情報合戦である、故に今回の裁判がどれほどに世界中に影響を集めるのか…その渦中にある存在こそ…
「あっ、出てきました! たった今、裁判を終えたGIRLS陣営とオーストラリア支部所属の怪獣娘たちです!」
裁判所を出て早速報道機関のキャスターとカメラに囲まれるのは原告側のGIRLSオーストラリア支部の面々であった。
「フンッ、この漆黒の救世主たる私を相手にしたことが奴らのそもそもの過ちなのだ…コレを機に今後一層のキリエロイドを称える、崇め奉り…――」
「…キリエさん、キリエさん…報道の皆さん、私たちよりもあちらの弁護士さんの方に行ってしまわれましたので恰好良くしなくて大丈夫ですよ」
「…えっ?」
裁判で最も注目を集めたのは裁判で熾烈な弁論を勝ち抜いて見せた凄腕の弁護士の方であった。
「なっ、何だとォオッ!?このキリエルの堕天使を差し置いてベラベラと喋っていただけの者になぜ注目が集まるッ!!」
自分に一切の注目が向かなかったことにやり場のない怒りを露にする怪獣娘キリエロイド…
「喋っているだけじゃなくて、私たちを弁護していただいた弁護士さんだからこそ注目が集まっているのですよ」
そして、そんな弁護されていた状況を理解していない彼女に元GIRLSJapan所属で現在はオーストラリア支部に在籍するペガッサ星人の怪獣娘にして研究員の沢中イズミが優しく諭した。
「グゥ~ッ…あんなにも信者がワラワラと…人間はなんて卑しい生き物なんだ」
「いや、アレは信者とかじゃなくて弁護士さんから裁判の過程や状況を聞いて報道しているだけですから…それに、なんたって今回の裁判に弁護を引き受けて下さった弁護士さんはスゴイ方と多岐沢博士から伺っていましたけど…」
裁判を通して弁護の世界に疎いイズミでさえ舌を巻くほどの実力に未だ報道関係者から囲まれその姿を見せる事のない弁護士に脱帽せざるを得なかった。
「弁護士かぁ…そんなにスゴイ職業なら私もなって信者からガッポガッポお布施を貢がせてもらうわッ!ヌハハハ~ハァ~ッ!!」
「算数も危ういキリエさんじゃ無理なのでご遠慮してください…それに、あの弁護士さんは普通の弁護士さんじゃないんですよ なんたって“国際弁護士”の敷島さんなのですから…」
報道関係者で犇めく人ごみの中から僅かに開いている隙間から群がりの中心地に黒地スーツの男性が見えた。
その男の襟元には黄金の向日葵に裁量を示す天秤のシルエットが描かれた日本の弁護士であることを示す弁護士バッジが煌めき光っていた。
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日本 都内女子高等学校
所変わって都内の女子高に騒ぎ浮き立つ出来事が起きていた。
「委員長ッ!ヤバいよ、GIRLSだよッ!ウチの学校にGIRLSが来たんだよッ!!」
「それはいいんですけど…私の保健体育の教科書知りませんか?」
「もぉ~、そんなのいいから!…もしかしたら、ウチの学校から怪獣娘をスカウトしに来たのかもしれないよ!」
必死に机の中から教科書を探す女子生徒はドキンッ!と身震いさせる最中、廊下の方より他の女子生徒たちの浮足立つ騒ぎがさらに過熱していった。
「えっ?いまGIRLSが廊下まで来てるの?…ほらほら、委員長も教科書なんてあとで探せばいいから早く早くッ!!」
「あぁ~ッ!私の保健体育ぅう~…」
無理矢理に腕を引かれて探す机から離されていく女子生徒は普段から世俗的に集団を形成する輪には避けてきた彼女であったが皆と同じかそれ以上にもしかしたら自分に関わる事ではないかと内心強張る少女こそ沢中イズミとは別のペガッサ星人の怪獣娘にしてブラック指令を始めとした愉快なメンバーをある意味まとめ上げるブラックスターズの参謀役、“平賀サツキ”であった。
しかし、普段は学校生活に支障を来さない程度の活動と身元バレしない程度に正体を隠していたはずなのになぜ自分の学校にGIRLSが来ているのか…そこだけが気がかりで気がないフリをしつつも聞き耳を立てていたが引き連れられ人混みかき分けられて出た先から…ビシッ!…
「イエロー・グランデ法律事務所の倉田キイロです お近づきの印に、宜しければ どうぞ」
「…へっ?」
GIRLSが来ている…かと思いきやサツキの目の前には何故か弁護士バッジを付けてにこやかに笑う成人男性が名刺を配ってきた。
「えっ?…ええっと…」
「親の離婚調停、意地の悪い女子生徒に対する損害賠償、学校を相手取った訴訟問題など何でもイエロー・グランデ法律事務所にご相談を…グエッ!?」
「女子高生相手に何の営業をかましてんだ、お前はッ!」
名刺を渡して来た成人男性はGIRLSの制服を来た逞しい女性に蹴り飛ばされた。
「すみません、ちょっとおかしな弁護士さんなんです 頭がピンク色に染まっているだけの唯の弁護士さんですので…」
ソコにすかさず別のGIRLSの制服を来た少女が後ろで『暴行罪で訴えるぞ』や『その前にお前をわいせつ罪で警察に突き出す』などと言い争う二人を他所に弁明した。
「えっ…ええッと…この名刺、お返ししますね」
「あっ、はい……アレ?…君…どこかで…」
サツキは渡された名刺をGIRLSの少女に返すなり今度はその少女からどこかで見覚えのあると言われドキンッ!と身震いした。
「えっ!?…ええっと…なんでしょう?」
それはサツキも薄っすら見覚えがあった。新宿でブラックスターズの隠し玉ことガタノゾーアをブランデー入りチョコを誤って食べさせ大事にさせた時、散々GIRLSに追われた中に今まさに目の前で自分を三白眼で見つめてくる謎の少女に何かを見透かされているかのようであり冷や汗が滝の様に溢れて来た。
「ンンッ!…委員長、教科書無くなったんだよね!一緒に探してあげるからほら、探そ、探そッ!」
見かねた他の女子生徒が手を引いて彼女から三白眼の少女と距離を取らせたが…
「…あれ?黒ガッツ?」
今度はサツキの手を引いてくれた女子生徒にGIRLSの少女が顔見知る相手である事が発覚した。
「いっ、印南さん…黒ガッツって…」
「えっ、ええっと~何のことだろ~…あっ!そうだ、GIRLSさん職員室に御用なんですよねぇ~!場所がわかんないんなら、案内しますよ~そ~らッ行った行った~!!」
「わわわッ!?なにするのさぁ、黒ガッツ!!」
案内…というより連行の様にしか見えないGIRLS一同を半ば強引に全員引っ張り、押し込み、その場からそそくさと足早に注目の渦中から遠ざけた。
「転校生の印南さんってGIRLSと知り合いだったのかなぁ?」
「ええ~全然教えてくれなかったのにぃ!?ズルいぃ~!」
「う~ん…そんなご様子では無いような気が…」
他の女子生徒がうらやむ中、サツキにはいつも周囲に迷惑をかける悩みの種であるブラックスターズの扱い方に似ているような気がした為、他人事の様には言えなかった。
衆目の的にされるGIRLSたちを半ば強引にあの場から遠ざけるために全神経と全体力を使い果たして息を切らす黒ガッツこと印南マコは膝に手を置いて荒れる息を整えた。
「ぜぇ~…ぜぇ~…はぁ~ッはぁ~ッ…」
「だっ…大丈夫?黒ガッツ…」
「よぉッ!久しぶりだなッ、黒ガッツ」
「お久しぶりなのですぅ~、黒ガッツ」
久方ぶりに顔合わせるベニオとトモミの二人にもマコは背を向けながらも何から突っ込めばよいのか整理するマコは一先ず…アキの頬をバシンッと両手で掴み、揉みくちゃにこね回した。
「ふぇえぇえぇ~なぁにぃすぅるぅのぉさぁ~…」
「なんで黒ガッツが浸透してんのよ、このまんじゅうフェイスゥウッ~!」
「ハハハハハッ!そうアギラをいじめてやんなよ、黒ガッツ」
「お元気そうで何よりなのですぅ、黒ガッツ」
「何も良くない!!せっかくGIRLSを辞めた矢先になんでアンタたちがウチの学校に乗り込んで来てんのよ!」
何を隠そう印南マコはガッツ星人の怪獣娘にして自身の双子の姉の印南ミコと同じく怪獣娘として一時期GIRLSに所属していたがシャドウガッツ事件からの責任と言う理由付けでGIRLSを脱退、以後は通常の女子高校生としてそれぞれ別の道へと歩む…はずだった…
「なるほど、元GIRLSの怪獣娘さんでしたか…しかし、さぞご自身に取り巻くGIRLSと言う名前に振り回されるのでしたらGIRLSに対して損害賠償をお考えであればイエロー・グランデ法律事務所にご相談を――」
「この不躾と無礼が同居している人は誰ッ?」
馴れ馴れしくマコに弁護営業をかましてくる倉田に再びベニオの蹴りが飛んだ。
「ンンッ!今日は黒ガッツに御用があって伺ったワケではないのです、お元気そうな御姿が見れて何よりなのですが…」
「ええっと…倉田先生の後にお出しするのは気が引けるんですけど…自分はGIRLSJapanの顧問弁護士を務めるZAP法律事務所の零門です」
倉田と違い弁護士の手本とも言うべき姿勢でマコ相手に丁寧に名刺を手渡した姿を後ろで『アレが正しい弁護士だ』と言うベニオに対して『お前らが居なきゃオレだって正真正銘の弁護士だ』と倉田が反論する。
「あっ、どうも……顧問弁護士さんが一緒って事は……例の?」
「黒ガッツにはさすがに御隠ししても意味は在りませんね…そうなのです、とうとうガーゴルゴンさんに再審が決まったのです」
元GIRLSの怪獣娘であるマコも『やっぱり』と言わざる得ないほどに知っていた。
「黒ガッツも知ってたんだね…ガーゴルゴンさんのこと…」
「……知ってるも何も……ウチの学校の美術教師よ」
そう、だからこそGIRLSの怪獣娘たちが弁護士を連れてマコたちの通う女子校にやって来たのはマコ以外のもう一人の怪獣娘にして…現再審公判を控える怪獣娘ガーゴルゴンがこの女子校に勤務しているからであった。
「…ボクは今日初めてガーゴルゴンさんに会うんだけど…ガーゴルゴンさんって、どんな人なの?」
「……私から見ても、あの人は只者じゃないよ 決めつけは良くないと心を正しても私はあの人に会いたくない…と言うよりも、会ってはいけないって私じゃなくて私の中に居るガッツ星人がそう言っているような気がするほどに危険信号ビリビリするって感じ」
もはや感情的な部分ではなく、言語化も可視化も出来ない怪獣娘同士にしか共感できない何かをマコは感じ取っていた。
「アンタ達も気を付けなさい…正直、一般生徒にすら『蛇塚先生には1人では会ってはダメ』って学校内に広まる了解があるほどよ」
マコからの助言で固唾を飲みこむアキはこれから会う事になるガーゴルゴンこと蛇塚先生と言う方に会うと言う一層の緊張感が強まった。
「分かってる…だからこそ、オレやピグモンが来てやってんだ…なにより、この色ボケ弁護士を見張っておくってこともなッ!」
「いってて!!無理矢理引っ張るんじゃねぇよ!…いくらおれでも依頼人をそういう目でなんか見ねぇよ!」
何とも信用の無い言葉に怪獣娘たちの目は細くなる。
職員室
今は授業中のため多くの先生が出払って伽藍洞の職員室だが…
「お待ちしておりました…」
入って応接間側のパーティションの先から壮年の女性教頭が顔を一同に見せた。
「ご連絡をいたしました、GIRLSの岡田トモミです…こちらは弁護いたします――」
「ZAP法律事務所の零門です」
「イエロー・グランデ法律事務所の倉田です」
双方の名刺交換が交わされて教頭の険しい顔つきはゆっくりと目を閉じて…
「これより先は皆様にお任せいたします」
そう言って皆の横を過ぎ去っていき、職員室のドアが閉まり職員室内にはとうとう学校関係者である教職員が誰一人とも居ないと言う異質な空間となった……
ただ一箇所の応接間側以外は……
「失礼します…GIRLSの岡田トモミです」
応接間にまず顔を見せたのはトモミ…その後に続いて顔を見せたのは…
「初めまして ZAP法律事務所の零門です」
「イエロー・グランデ法律事務所の倉田です」
これも先ほどの教頭への挨拶と同じ流れだが…パーティションを隔てた先でまだアキはその素顔を見ていない。
しかし、シルエットだけが立ち上がり軽くお辞儀をしている事だけはわかる。
「行くぞ、アギラ…」
「はっ、はい…」
いよいよ、自分と件のガーゴルゴンさんと対面する局面がやって来た。
弁護士2人に続いてトモミとベニオ、アキもその顔を見せ合う事となった。
「俺達とは初対面だな…ガーゴルゴンさんよぉ」
「はっ…初めまして、ボクは指導課…の……」
その瞬間、アキは目にした女性の容姿に…フラッシュバックする記憶が込み上がった。
『あなた…今更王族としての私として扱わないでください…いつも通り、『オサタ』と呼んでください』
“――痛い…助けて…怖い…苦しい……赤ちゃん…私の…私の赤ちゃんはどこ……――”
「…初めまして…蛇塚ミカミと、申します…」
「………………」
ついに対面したガーゴルゴンは…一言で語るなら眉目秀麗、にこやかに微笑みかけるその表情はどこか妖艶で何か別の魅力すら感じてしまうような立ち姿をしていた。
「…アギラ…おい、アギラッ!…どうした」
「…えっ、あっ…すみません…」
いつの間にか既に上座のソファーに零門と倉田、怪獣娘たちは用意されたパイプ椅子に座る。
そして、向かって下座の席に座るのは件の怪獣娘ガーゴルゴンの蛇塚ミカミだ。
弁護士の零門と倉田は蛋白なまでに蛇塚ミカミと向き合って弁護士の職務を全うしていた。特に先ほどまでの女性に対して無駄に前向きな姿勢を崩さなかった倉田は倉田弁護士としてその表情は一切の緩みの無い静観だった。
「それでは蛇塚さん、改めてあなたにかけられた容疑について順を追ってご確認していきましょう……〇成2〇年 ■■■にて△△△△△△当◎推定3×歳□□□□□―――」
今、おそらくは怪獣娘ガーゴルゴンにかけられた罪状とそれに関わる重要な事件概要を零門は確認のため事件資料のプリントに記載されていることを読み上げているのだろう…しかし、アキにはその一切が耳に入ってこなかった。
それからアキの耳には一切の雑音すらもかき消すように耳から入る情報がシャットアウトされてただ一点先の蛇塚ミカミを見続けていた。
「――――――――です 以上で確認事項は終わりますがご不明な点や不審な点はありますか?」
「……ありません…一言一句、間違いなく…」
「…わかりました では再審にあたって何かご自身でお申し付けたい事はありますか?この3年間で何か1つでも思い出せることや相談事でもいいので…」
「…では、先生方に一つ…」
「…なんでしょう?」
「……私を……有罪に…してください」
「「…はぁ?」」
その言葉は…これより始まる大きな戦いを前にした者の鼓舞でもなければ激励でもない…おそらくは本人の希望であり、願望なのだろう。
「…すみません、もう一度…仰って…いただけますか?」
「…言葉は変わりません…私を…有罪にしてください」
彼女の言葉には一切の矛盾の無い、再発言であった。
「……蛇塚さん…この裁判は私たち弁護士の為の裁判でもなく、あなただけの裁判でもない…ましてや、この裁判は勝たなければあなたは“実刑確定囚”…無期か死刑、どちらかしかないあなたを救い、今後あなたの様な女性を増やさない為にも私たちは弁護をしにここまで足を運ばせていただいた それをあなたはご自身の都合で“有罪”にしてくださいはまかり通らないことを御理解いただいていますか?」
女性を見るなり口八丁手八丁に語る口先だけの口説き魔な倉田が今この一瞬にかけて弁護士に対して“有罪にしてください”と言いだした蛇塚へ男性である依然に弁護士としてこれほど以上に無い“侮辱”に対して本気の反論、言うなれば『マジレス』であった。
「存じております…だから…“有罪”にしてください…と、お願いいたしております これが私からのみなさんへの御願いです」
願いを申し上げた上で深く頭を下げて行う…願い下げ…叶うか叶わぬか分からないからこそ、叶う確立を高めるための所作。
「フゥゥゥッ…スゥウウウウーーーーッ!!………わかりました、ご希望は“御聞き”しました…ですが、“聞いただけ”です どんな事を申されようが私たちはあなたをどんな形であれ最後まで弁護いたします その結果がどうあれ、私はあなたの無罪を信じて弁護させていただきます…それはここに居らっしゃる零門弁護士やこの場にはいらっしゃらない敷島弁護士も“無罪”を前提に弁護させていただきます…最後までどうか、お付き合いください」
「……はい、よろしくお願いいたします……」
込み上げる怒りを堪えながらも倉田は担当する弁護の依頼人に対して彼女以上に深く頭を下げた。そして、その額には込み上がっていた全身から登り続ける血液で膨張した太い血管が浮き出ていた。
「…よっ、よろしく…お願いいたします」
呆気にとられながらも零門も続いて頭を下げた。
予想も出来なかった事態にトモミもベニオも一粒の滴る汗に動揺した表情を浮かべる中…アキは驚かなかった。否、寧ろ彼女がそういう事を言うだろうと言う気がしてならなかった。
知っている…自分は彼女を知っている。なぜだか分からないが自分には『存在し得ない認識』がある。
「……あなたは…“まだ”絶望していらっしゃるんですね」
突然の一言にトモミもベニオも、弁護士の2人も瞬時にその視線はアキに向けられた。
「あっ、アギアギ?」
「ぜっ、絶望…って、どういう意味だよ」
「どういう意味もないわ 言った通りのままよ…この人はねぇ、自分の容疑で起訴されたことも、裁判で有罪になる事も恐れているわけじゃない……“生き続けること”そのものに絶望している…そうでしょ?」
またしてもアキはアキの口を通して別の誰かが自分の言いたいことを代弁しているようだが、今回はいつもの自分の意思は蚊帳の外ではなく身体の半分を“別の誰か”が無理矢理捻じ込んで語っているような感覚だ。
「……よく、ご存じで…しかし申し訳ありませんが以前どこかで私はあなたにお会いしましたか?」
「……いいえ、“私”があなたを知っているだけ でも、『この子』はあなたに“今”あったばかり…正直、会うべきか、会わせるべきか迷ったけど」
アキの口を通して語る者は“私”を胸に手を置いて示唆するも『この子』と言うなり腹に手を添える。
「……ごめんなさい、よくは分かりませんが“昔の私”をご存じの方でしたか ですが、なに分…医師の診断で高次脳機能障害を診断されているためあなたとの記憶が曖昧なので存じ上げず、申し訳ありません」
突然の自分よりも年下であろう筈のアキにも丁寧な口調で自分に忘却の非を詫びて来た。
「…そう…記憶、まだ戻っていないようね 最後に診断を受けたのはいつ?まだなら近いうちに診療を受けに行って――」
丁寧な口調で受け答えする蛇塚ミカミに対して段々と太々しい態度で足まで組み始めたまま世間話風の会話を進めるアキの姿を見たアキをよく知る隣の二人は震える様に驚く。
「どうしちまったんだ、アギラッ!?おまえ、なんでそんな…なんかッ、変なッ、大人びた言い方してんだッ!?」
「ワァッーウゥーワーァア~アーーアァ~~ッ!?」
アキの唐突な豹変ぶりに見かねたベニオはアキの胸倉を掴んで左右前後に揺さぶって正気に戻そうと試みたが揺さぶられている時点でとっくに元のアキに戻っていた。
「レッドン、落ち着いてくださいッ!アギアギはおもちゃじゃありませんよッ!メッ、なのですぅうッ!!」
荒ぶるベニオと揺さぶられるアキの間をトモミは割って入り止めた。
「皆さん、落ち着いてくださいッ!」
「何やってんだ、お前ら…」
怪獣娘たちの乱心ぶりに見かねた弁護士二人も依頼人の無茶な要望などそっちのけで後ろの怪獣娘たちの方に気が気でない状況に陥るも…
「…フッ、ウフフッ…申し訳ありません、なんだかおかしくて…」
その笑い声は先ほどまでの作った薄ら笑いではなく、正真正銘の可笑しさから込み上げて来た笑顔を蛇塚が見せた。
「おっ、お騒がせして申し訳ない…」
「ウフフッ…いえ、こちらこそ先ほどは無礼な事を申し上げてしまいました 弁護はもちろん誠心誠意受けさせていただきますのでどのような結果であれ受け入れますので、弁護士先生方 どうぞ、よろしくお願いいたします」
恐らくは社交辞令的な言い分なのだろうが担当する弁護士2人にとってこれ以上に無い礼儀は『こちらこそよろしくお願いいたします』と礼を尽くして何とか弁護依頼の受諾は完了したのであった。
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BAR1954
「…んで、アギちゃんの即興コントが功を奏してひと段落っと さっすが~アギちゃん!ウチが見込んだ通りの期待を聞かせてくれるやぁ~ん、ウリウリ~ィ!」
「もぉ~、そんなんじゃないって言うか…最近、変な付き物に憑かれているって言う様なぁ~…」
自分がやったことに変に納得の行かないアキは漠然としないやり場のなさから右手で頬杖を突き、バーカウンターに突っ伏した。
「それで?そのサイパンとやらはいつに始まるの?」
「サイパンじゃなくて、裁判ですよ ミクさん」
相変わらずのミクの無知ぶりに隣からレイカが漫才のツッコミの如く手を突き出して突っ込み指摘した。
「裁判自体は再審請求が通ったばかりなので日程告知はまだなのです 今回はご本人の意思確認だけが目的であったので…」
「――とは言っても…一度は“有罪にしてください”まで言い切ったから最初は冷や冷やもんだったぜ」
立ち会った当事者であるトモミとベニオも肩の力が抜けてか無意識に姿勢は前のめりの猫背状態であった。
「んなぁ~、レイにいたち~…裁判を前に控えた人ってそんな後ろ向きなん?」
「う~んッ、今回のケースは稀だけど滅多に少なくもない…ですかねぇ?」
「“無罪にしろ”とか、“やってない”とかならそれなりに多い声だけど、俺も初めてあたるタイプの依頼人だったから一概に言い切れないことを言うならそこのサイドテールっ子の言う通り…アレは『生きることに絶望している』のかもしれない」
短年長年とそれなりの弁護経験を持つはずの弁護士でも頭を悩ますような特異例に珍しく零門も倉田も賛否が揺らいでいた。
「心身喪失によるストレスや長期の裁判に対する不安感から裁判を受けられないほどの状態に陥る…ケース、なんでしょうか?」
「いや、あれだけハッキリと受け答えしておいてあんな言葉は出てこない…医者じゃないが証言台に立つだけの精神は少なからずある筈 けれども、全弁護士が経験則で同じことを言うのであるなら…あーいう依頼人はいざ本番になると検察側の優位な証言をするのかもしれない」
たとえ零門や倉田以外の弁護士が相手でもこの“刑事裁判”の最大の難しさがあった。
「…やはり…“自供証拠”…でしょうか?」
「自供…証拠?」
「最近、弁護連でも新たに検察側の問題点として挙げられる“三証拠”の内の1つだ 状況から推測される“状況証拠”、確実を立証できる“物的証拠”…だがそれらの証拠など問わずに被告が罪を認めている場合こそが“自供証拠”だ」
「自供が証拠になりえるのでしょうか?」
トモミは自身の知識の範疇外にある質問を専門家である倉田たちに尋ねた。
「ケースにもよるが…検察にとって現場の状況だろうと、使われた凶器だろうと、被告人自体が罪を認めていてくれた方が“楽”だからだよ」
「けれども検察の前に警察などの捜査機関が精神を摩耗させ正しい判断を鈍らせるような取り調べなどで引き出した自供でも立証できれば証拠…と言うのが昨今問題視されている“自供証拠問題”なんです」
「検察にとっては勝つための証拠固めの1つだろ…連中、一審で出さなかった証拠を平気で二審三審で新たな証拠として提示してくるが実際にはその証拠が証拠たり得るのか怪しい事ばかりだ そもそも取り調べ期間がやたら長いのも連中の時間稼ぎだろ?」
様々な観点で蛇塚ミカミがなぜあのような発言をしたのか、その真意は何だったのか、議論を重ねても確たる結論には至らなかった。
「あれよこれよと考えてもしかたないですよ…たとえ依頼人が望んでいなくても私たちは無実を弁護で掴み取るだけです…倉田先生、よろしくお願いします」
「こちらこそだ…正直、無罪を望まない依頼人なんて初めてだが弁護は弁護だ 結局のところ検察にも検察なりの正義、弁護側は弁護側の正義だよ、零門先生」
そう言って零門と倉田は同じ弁護団として団結する意欲から手を組み結んだ。
「あとはもう一人の弁護士を迎えれば盤石なのですが…」
本題は同じ依頼人に弁護士が揃って弁護するのは零門と倉田ともう一人が肝心なのだが…
―…ダンッ!!
「うおッ!?」
突如、バーカウンターに1皿のつまみ皿が置かれた。
「御通しのピーナッツだ……黙って喰え」
―…メキメキメキメキィッ…サラサラッ~…
バーカウンター越しに提供飲料の通しとして差し出した殻付きピーナッツはユウゴの万力によって拳の下からパウダー状になって出て来たピーナッツ…だった物が皿に無残にも散り積もって小盛りの山を造った。
「うわぁ~…ピーナッツがきな粉みたいになっとる…」
「私…何か気に障るようなことを申してしまいましたでしょうか?」
「すみません!レイ先生が悪いんじゃないんです…お兄ちゃんが勝手に機嫌悪くしているだけなんです!」
弁解するアキを余所に皆から背を向けて無言でグラスを拭くユウゴの背中は決して何も語らずとも大きな背中は怒りを表しているほどの只ならぬオーラが周囲の空間を歪めていた。
「なぁ、おい…おまえのお兄さん、なんか虫の居所が悪いのか?」
「う~ん…と言うのも、ガーゴルゴンさんを弁護してくれる弁護士さんの一人と反りが合わないと言いますか…」
―…パリィンッ!!
「「ひぃッ!?」」
突然、ユウゴの手元で拭きとっていたグラスが割れる音が響いた。
「……アキ――」
「ひゃぅッ!?…はっ、はいぃッ!?」
何故かアキを呼びつけるユウゴの声にアキは驚いて曲がる背が突如ビシッ!と伸び切るほどに強烈な条件反射が彼女の姿勢まで正させた。
「……なんか、言ったか――」
「なっ、ななななッ!何も!何も言っていないよ!!」
あのアキが動揺している。動揺し過ぎて否定が否定になっていなかった。
―…カランッカランッ…
しかし、悪夢は…予想外から押し寄せてきてしますのであった。
「…未成年営業管理、労働基準法違反容疑、民法計95項目における違法行為…もし、私がこの店を提訴するのであれば営業停止に至るまでそう長くはかからない」
入って来るなり早々に“法律”でBAR1954の問題点を指摘された。
「あっ…あっあぁあっあっあぁああッ!?」
恐る恐るアキの首は90度曲がって後ろに居る懸念の種を認識した。
「久方ぶりに顔を見せた叔父に挨拶の一つもないのかな?…ユウゴ……アキくん…」
「しっ…敷島…の…おじ…さん…」
黒紫のスーツに襟元には金色の弁護士バッジ…そして、極めつけはユウゴにも引けを取らないどころか少し上目の身の丈、外見だけで見れば何らかの格闘家と見紛うほどの威圧感だ…しかし、暴力的なまでの体躯とは裏腹に理知的なまでの丸眼鏡が似合う成人男性だった。
「ウワッ!出たッ!アギちゃんのトンデモ親族パート2や!!」
「しっ、敷島先生ッ!いつ…日本に…?」
「今しがた、羽田から直接この場所をお教えいただいたので伺った次第です…」
「だっ、誰からッ!?おじさんだけにはココのことは絶対に秘密にしてたのに!?」
一切の漏れ出る筈のないと思っていたアキは誰を通じて叔父にこの場所を教えたのか…その元凶はヒョコッと敷島の背後から現れた。
「えっへへッ…ゴメタランス♡」
「ミオさんッ!?」
「あぁ、そうでした…御親切に場所を御教えいただいたあなたに御報酬を送金する契約でしたね 額はこのくらいでよろしいかな 天城さん」
そう言うと敷島のスーツの懐から小切手1枚が手渡された。
「グへへへッ、毎度ありがとうごぜーやす!うひょひょ~、ゼロがちゅーちゅーのたこかいなッと…いよっしゃ!これで家賃と当面の生活費に、オ・サ・ケ・だ・い~♡」
金の為に身内を平気で売り出した成人女性を目の当たりにした怪獣娘たちは思った。
「…サイテーだぜ、コイツは…」
「きたない大人やでぇ」
「なんとでも言いやがれ、小娘どもッ!世の中所詮は愛より手元の潤いなのよ!」
悪びれるどころか富を手にした途端に開き直ったミオだったが…
―…パリンッ!!―ヒュンッ!
「ヒィッ!?」
バーカウンターから突如割れたグラスの破片がミオの頬を横切ってバー内の壁に破片は突き刺さった。
―…パリンッ!パリンッ!パリンッ!パリンッ!――
バーカウンターからゆっくりと歩くたびに通り過ぎていくユウゴのオーラに耐え切れずグラスたちは独り手に割れ続く。
【カム バック】【ガールズアンドガイズ!】
みんなすかさずビーコンの後ろに逃げ込んで彼の面積の広い遮蔽に身を隠すが…アキだけは違った。
「ソウルライド!アギラッ!!」
アキはすかさずアギラに変身してユウゴと敷島の間に立ち、双方の接触を防ごうとした。
「ダメッ!二人ともッ!それ以上、二人が近づくと…みんなとこのお店が巻き込まれるからッ…もがッ!?」
アギラの静止など聞きも留めずにとうとうアギラはユウゴと敷島の双方と言う壁に挟まれて身動きが取れなかった。
「何しに来やがった、ソウジロウ…」
「フンッ、目上に対する口の利き方を教わらなかったのか?兄父(あに)と義姉(ねえ)さんはお前を最後まで矯正すること叶わなかったと見受けられてしまうと忠告したはずだ…二人の両親を汚す気か」
「今更、保護者面してんじゃねぇよ…他人を不幸にしかできない疫病神が」
「フンッ…私は“破壊神”だ…私の前では定石すら意味を為さない 法律は常に破壊され新たな法が制定される、向こう数年もすればお前などいつでも拘束できる法律が生まれる…否、お前たちすべてが裁かれるべき被告対象になるだろう」
敷島とユウゴの二人が揃う時、お互いに一歩も譲らず、敬わず、へりくだらないと言った状況に…皆が思った。
――この二人……仲悪すぎるッ!!――
誰がどう見ても二人の間柄の軋轢は悲惨そのものであった。
「もががぶッぶがぁあ~が~ッ!!(二人ともッ離れてよォオッ!!)」
そんな最悪の関係に軋轢犇めく二人の中心にアギラは挟まれて身動きが取れなかった。
「アギちゃんが大巨人二人に挟まれてえらいことになっちゃってるよッ!!」
「ダメですよ、アギさん!男性二人の間に割って入るなど…BL的にご法度ですッ!!」
「お前ら、少しはアギラの身にもなってやれよ」
「よッ!アギちゃんの贅沢もの~ッ!」
「茶化さないで上げてください、ゴモゴモ」
怪獣娘たちは蚊帳の外を良い事にあれよこれよと心配している素振りをしつつも半ば面白半分な気持ちが数名交じっていた。
「いっ…いいっ…いい加減にッ…―離れなさいッ!!」
挟まって身動きが取れなかったアギラは噴気した怪獣の力でユウゴと敷島を弾き離した。
「ちゅうちゅうのたこないな~っと…グヘヘッ…へッ?…グエェエエエッ!?」
その拍子に敷島の巨躯が小切手の額に見とれていたミオを押しつぶし…
「えっ?ウソウソッ!?こっちに来て…グェエエエッ!?」
「ギャァアアアアアアッ!?」
「ぐるじぃいィィッ!!」
吹っ飛んだユウゴの巨躯がビーコンに激突し、その広い面積の背後に隠れる全員を押しつぶした。
「何すんだ、アキ」
「はぁッ…はぁッ…今のは…ボクの…力じゃない気もするけど…お兄ちゃんはおじさん絡みになるとめんどくさいから近寄っちゃダメッ!二人とも仲悪すぎるッ!!」
「…フン、別に仲違いをしているつもりはないのだが…」
全員が『…どこが?』と思った。
「どうやらこの場での私はいささか招かれざる客になってしまうようだな…長居しても皆さんの御迷惑になる事だけは避けたい 零門先生 倉田先生」
「はっ、はい!」「えっ…ええ」
「こちらは私の名刺と弁護事務室の所在です…御用がありましたらアポイント次第ですがなるべく御二人を優先して応対させていただきます」
そう言って零門と倉田に名刺を差し出すと胸元の襟を整えて物静かに店を後に去って行った。
「うぅ~…おじさんとお兄ちゃんを鉢合わせるといつもこうだよぉ~」
「フンッ、あんなヤツは俺の視界にすら入らなければ害さん」
敷島が去った後にその残像すらも目に留めまいと出て行った扉に背を向けるユウゴの姿を目にした者たちの誰もが一概に理解させるほどの最悪ぶりに誰もこれ以上先の地雷原になど踏み込もうとはしなかった。
「もぉ~う、なになにぃ~まだユウゴ君はソウちゃんと仲直り出来てないのぉ~?」
約1名を除いてデリカシーの向こう側にいるミオがユウゴと敷島ソウジロウと言う彼の叔父との関係に言及した。
「俺とアレは別の存在だ…互いに考え方が違うだけだ」
「またまたぁ~、そう言って~ェッ…ツンケンしてるのはユウゴ君だけよォ~」
「ミオさん…お兄ちゃんの事は放っといてもいいんですけど、その小切手…破れてますよ」
「んぇ?……んぎゃァアアアアアアアアアッ!?」
自分の両手に持っている物が敷島ソウジロウと接触した拍子に小切手を右手左手1枚ずつに分かれた状態になっていたことに気が付いたミオは奇声を上げた。
「ビーコンッ!セロハンッ!セロハンンンッ!!」
【ノット セロハン セロ“ファン”】
「なんでもいいからテープをはよッ!!」
慌ててテープでくっ付けて原型を留める事に全力を注ぐと…
「デケタッ!元の私の命ヅナァアッ!!」―バシンッ!
無慈悲にも天より垂らされし命綱は鬼の手で厨房のコンロの火にかけられた。
「ギニャァアアアアアアアアッ!!なにするのさぁユウゴぐぅうんッ!!」
「アレの施しなぞお前を堕落させる…二度とあんなのに関わるな」
「鬼ッ!悪魔ッ!閻魔大怪獣ッ!!ミオさんの明日の希望をがえじでよォオ!!」
嘆くミオを横手にミカヅキたちはアキとユウゴの叔父である敷島ソウジロウについてさらに深堀った話が出ていた。
「そういえばアギちゃんたちの名字って『宮下』だよね…でも叔父さんの名字って…」
「う~ん…ボクも詳しくは聞いたこと無いんだけどお父さんのお父さん、つまりボクの父方のおじいちゃんと父方のおばあちゃんが内縁関係だとかなんかとで複雑なんだよ」
「ちょっと待って下さいッ!…叔父さまのお名前…確か『敷島』と申されていましたよね!?」
レイカは何か心当たる節があり即座にソウルライザーで『敷島』の名前を検索すると…
「敷島グループホールディングス…日本最大の巨大国際企業の……法務部の人じゃないですかぁああッ!!」
レイカが調べたソウルライザーの辞典サイトにはガッツリと宣材写真と共に敷島ソウジロウの経歴と概要に加え、彼が所属する敷島グループの巨大企業としてのネームバリューがハッキリと明記されていた。
「あっ…あれ?…そうだった…けっ?」
「身内が全然ピンと来てないッ!?バカのアタシでも知ってるよ!民生品から軍事産業まで幅広い事業には『敷島グループ』が関わってるって有名じゃんッ!」
周囲の常識が自分には当てはまらないアギラには何が何だか理解できぬまま頭がこんがらがって来て目を回した。
「ふぇえぇ~?…そんなに…有名なの……ボクんちの…おじさん…」
「アカンわ~、アギちゃん…そう言う事は前もって教えてくれなぁ~ ニシシシッ~、今後ともこのゴモ屋をどうぞ御贔屓にぃ~」
「出たッ!ゴモたんの悪徳商人モードだッ!!」
アギラの身内経済を知ったミカヅキは間髪入れずに手をこまねいてゴマをする。
「友達のそんな姿…見たくないよ」
「まぁまぁ、ゴモたんもその辺にしてあげてください…御家庭の事情はそう易々と踏み越えてはいけないものですよ ホラッ…」
レイカが指を差す先の厨房で荒ぶる感情をおもむろに料理へ向けて無感情な表情がさらに無機質なまでに出刃包丁で刻む、刻む、更に刻む、厨房から鳴り響く爆音のほとんどユウゴが怒りの矛先をまな板の上の食材に向け続けていた。八つ当たりであった。
「飲食店から出てきていい様な音じゃないやん…」
「確実に誰かを始末している…よねぇ」
「あれ?ベムラーさんは?」
【ルック アット ダウン↓】
「ウウウッ…わだじのおがねがぁあぁアッあ…あぁあああああッ!!」
足元で嘆くミオの両手に添えられた黒い煤、それはもはや原型を留めていない小切手だった物であった。
「…天罰下っとる…」
「自業自得…だな」
理わりもなく自分だけ利を得ようとした者の末路を目の前にした怪獣娘たちには地を這うミオの姿を反面教師とするのであった。
「………はい、はいッ…少々お待ちを……アギアギ、別件で動いてくれているメルメルがアギアギに話したい事があるそうなのです」
「えっ?メトロンさんが…」
騒がしい一同の中でピグモンが1人で電話相手のメトロン星人の怪獣娘でGIRLSの常駐カウンセラーである百地メルが珍しくアギラ一人に電話を変わってほしがっていた。
「おっとっと…あっ、もしもし…お電話変わりましたアギラです」
『ごめん、アギラ ちょっと申し訳ないんだけどさぁ…明日、蛇塚さんをGIRLS国際病院まで案内してもらえる?』
「エッ?…ボクが…ですか?」
『そうなんだけど…なんでもアンタがイイと言う蛇塚さん自身からの御要望なのよ』
なぜ、自分が蛇塚ミカミから名指しで病院までの付き添いを任される事になったのか…その次に聞かされたメルからの衝撃的な事実にアギラの息を詰まらせた。
『いい、ハッキリ言わせてもらうけど……蛇塚さんを法廷に上げる事は難しいかもしれないからね』
「……えっ?……どうして…ですか?」
『……彼女は…末期の癌患者だったからよ……』
アンバランス小話
『アンバラクエスト―旅立ち―』
――おおー、アギラよ
勇者ユウナの血を受け継ぐ者よ――
「うっ…うん?」
目を開くとソコには見慣れない光景…ではなく…
「勇者アギラよ 今この世界は大魔王の魔の手が迫っている!!」
GIRLS東京支部の支部長室で何故か中世王族風の格好をしたゼットン(姉)がいた。
「あっ、ゼットンさんの…お姉さん?」
「なぜそこで疑問形になる」
「いや、ボクまだゼットンさんのお姉さんに会った事ないので…正直あなたのこと、こんな形でお会いすることになるなんて思いもよらなかったですけど」
「何を言っているんだね、君は…」
なぜか某RPG風の世界感に染まったアギラの姿は額に翡翠の宝石が編み込まれたサークレットに現代とはかけ離れた古典的な服装、正にその恰好はこれから冒険に旅立とうとしている勇者そのものであった。
「大体、ここは何なんですか?ボクはゲームとかしたこと無いんですけど…これってアレですよね、ドラゴンにクエストする的なアレなヤツですよね」
「何を言っているのかはわかりかねるが、あまり具体的な事を言うとごちゃごちゃするので…と・に・か・く、だッ!君にはこの世界を救うため、大魔王を倒し、世界に平和を取り戻してくれたまえッ!!」
唐突に世界の命運をかけられた勇者アギラは溢れる勇敢な勇気ある心を抱いて強く返答する……
「えっ?…なんでですか?」
「……んっ?…話…聞いてた?」
「んっ?…いや聞いてましたけど…なんで、ボクなんですか?」
「………えっ?…いや、だって、君……勇者じゃん…」
話が並行線を辿る内に勇者アギラは『シツモンガエシ』を覚えた。
「いや、覚えない覚えないよッ!!…えっ!?なんでボクがその…勇者とかよくわかんない事をやらされなきゃいけないんですかッ!?」
「それはダッ!ネェッ!キミィ!…正直、今どき『勇者』なんて職業 誰もなろうとしないからだよッ!!」
女王ゼットン(姉)は『ヒラキナオリ』を繰り出した。
「何でですかッ!?ゼットン…さんのお姉さん……ゼットンさんとか居るでしょうッ!正直、ボク以外にだって勇者に相応しい人がいるんじゃないんですか!?」
「いなぁああああああああああい!!まったく、いなぁああああああああああい!!いないだよッキミィイッ!!」
女王ゼットン(姉)は『ギャクギレ』を繰り出した。
「あっ、ちなみにウチの妹の職業は『天地雷鳴士』だよ」
「なんか凄そうな職業ッ!?……ええ~…じゃぁボクも…そのぉお…天地…らいめい…さんには…」
「なれない 無理 勇者、ジョブチェン、NG」
女王ゼットン(姉)は『ゼンヒテイ』で防いだ。
「何でですかッ!酷い職業じゃないですか!やっぱ勇者とか嫌だッ!今すぐ辞めますッ!!さっさと辞めますッ!!」
「フハハハハハッ!残念だが、勇者になってしまった者は勇者のままッ!オールウェイズ勇者ッ!24時間365日勇者なのだよッ!!」
「なんなんですかこのブラック職業ッ!」
「あっ、でもこの下の階にある『ピグモンの酒場』で仲間を募れば一緒に冒険が出来る頼もしい味方になってくれるぞ」
「本当ですかッ!?」
「最大4人までなら、ウチのゼットンだって登録しているけどあの子は人気だからどこへでも引っ張りだこだぞ」
女王ゼットン(姉)から託された使命のため、勇者アギラは仲間を集め世界の危機を救う事だけは許された。
「じゃあ、今すぐゼットンさん!ゼットンさんをボクにくださいッ!!」
「君、自分が言っている意味…理解しているのかね 残念だが君のパーティー枠の一つは既に埋まっているのだよ」
「えっ?誰ですかッ?誰とボクは冒険することになるんですかッ!?」
「もうすぐ来る頃だと思うんだが…」
その時…――ズゥドォオオオンドォオォオオオオ!!
「えっ…えっ…えっ?」
支部長室のドアも壁も何もかもを破壊して現れたのは勇者アギラも女王ゼットン(姉)の身の種を優に超える化け物であった。
「しょっ…紹介しよう…こっ、こっ、こちら、大魔王さまのゴジラ…殿…だッ」
それはトカゲと言うにはあまりにも強大すぎた。大きく、分厚く、黒く、鋭く、そして…大魔王すぎた。
「なんで序盤から大魔王がボクの仲間になっているのさぁッ!?」
「あぁん?16のガキを一人で旅させられっかよ…夜中とか出歩いてみろ、速攻で憲兵に補導されるわ」
「補導も逮捕もされる以前に、討伐される側が何でボクの冒険に加わろうとしているのォッ!!」
勇者アギラは『マジレス』を繰り出した。
「ゆっ、勇者アギラよ…これには深~い事情があるのだよ……じっ、実を言うとだね…もうこの国は既にこの大魔王1人に占領されてしまっているのだよ」
「えええええええええッ!?」
始まりの町は大魔王に侵略されていた。
「くぅッ!無念だ…まさかこの大魔王によって我が『ガアルズランド』は魔王の持ち込んだ外食産業と株価買い付け、更には土地買収によってあっと言う間に侵略されてしまったのだぁあ!!」
「征服の仕方がまさかの現代的ッ!?」
「なんやかんやでこの国は俺が経営している店で簡単に落とせたから……正直、飽きた」
大魔王ゴジラは侵略に飽きていた。
「んでもって、暇になったからここを拠点に魔王軍潰そうと思って1からスタートする運びとなったワケだ」
「なんで自分の軍勢と対立してまで暇を潰したがるのさぁッ!?」
「おのれッ…大魔王めッ!私はお前の店のせいで週3通ってご飯を済ませていることがゼットンにバレてこっちは昨日から喧嘩中なんだぞッ!」
「いや、週に3回も通うからゼットンさんを怒らせるんでしょ…どう考えてもお姉さんの不摂生が原因なのに…」
「グハァアアアッ!?」
女王ゼットン(姉)は心に1966ダメージを直撃した。
「おっ、おのれ…勇者の身でありながらガアルズランド支部女王であるこの私にたてつくとは…」
「あっ、ここ支部なんだ…」
「うぐっ…勇者アギラ、そして大魔王ゴジラ…二者をこれより追放とするッ!!」
――キュゥィイイイイイイイイイ!!――
大魔王ゴジラは『放射熱線』の準備段階に入った。
「ワァアアアアアアッ!!ごめんなさい!御免なさいッ!!『追放』は言い過ぎましたッ!!お好きなだけこの国に滞在しても構いませんのでなるべく短期間であればとご提案をッ!!―――」
女王ゼットン(姉)は誠心誠意の『ドゲザ』を繰り出した。
大魔王ゴジラは異世界冒険譚初の『追放モノ』を攻撃力でねじ伏せた。
―――かくして勇者アギラは序盤から大魔王ゴジラと共に迫りくる魔物たちの魔の手から世界を救う度に出るのであった―――
「なんでこんな最序盤から前途多難なのさぁッ!?」