TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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通院 その身体には…

 ZAP法律事務所

 

 国内大手の弁護士事務所の片隅にあるデスクで若手弁護士の零門レイはノートパソコン1台に搭載されたとある海外向けビデオ通話アプリを開き、アドレス内の『KEITO BORIS』なる人物にビデオ通話を申し込む。

 次第に相手側から通話許諾が認可され画面には零門よりも少し年上女性が通話画面に現れた。

「久しぶり、姉さん…ニューヨークの生活はどう?」

『正直、アメリカ在住者の筈なのになぜかロ・サ関連の戦後処理弁護ばかりよ…こっちは――』

「さすが、国際弁護士の零門ケイト先生」

『それは結婚前の名前でしょ…今はアメリカ軍の雇用弁護士兼難民高等弁務官、アメリカと現地の往復で日本に居た頃よりも忙しいわ』

 零門の姉も彼と同じ弁護士だが、彼女の主戦場は専らアメリカ軍内部の国選弁護人であった。

 訴訟大国アメリカ合衆国には民間のみならず国軍内で発生した事件や不祥事に対する法廷がある。合衆国憲法に定められている軍内部の作戦や軍事行動には将校一人に対する責任追及が法廷で行われるためこれらに弁護弁明を担うのがケイト・ボリス弁護士を始めとした軍事専門弁護士だ。

「ロ・サの件…そっちはまだ解決してないんだね」

『無理もないわよ…去年の暮れに終結したばかりの戦地派遣で多くの将校や将官が起こした軍事問題にぶつかっているんですもの、現地の弁護人は頭を抱えさせられているわよ』

 大分疲れている様子が伺える日本国内の訴訟とのスケールの違いにケイト弁護人の目頭が抑えつく。

『それで、わざわざ私に連絡してきたのは…“彼”の事について、よね?』

「話が早い…そうなんだ、俺はまだ敷島ソウジロウ弁護士をよく知らない 同じ国際弁護士の姉さんなら何か知っているんじゃないか…って」

 零門がわざわざ遠い海の向こう側の大国の中で弁護士として違う司法に向き合う姉に尋ねたのは“国際弁護士”敷島ソウジロウについてであった。

『…はぁ~、日本の司法に嫌気が差して故郷を飛び出し、合衆国内に居ても国際弁護士界隈ですら嫌と言うほど聞かされ、仕舞いには弟の口からもその“名前”を聞かされるとは…――』

 姉のケイトは何やら酷く嫌悪感を抱きながらも自身の知りえる『敷島ソウジロウ』と言う弁護士の正体を明かした。

『……彼はねぇ、“愛星者”…なのよ』

「愛…星者?…愛国者じゃなくて?」

『言葉通りよ…と言っても、根本は確かに国に忠を尽くす司法の申し子…アレはそういった人の形をした“怪物”、悪口を口にするようで気が進まないけどそんな風に形容するしか無力な私にはそれ以外できない…いいえ、出来ない人だった』

「……それって、姉さん“たち”が当たった弁護のこと?」

 零門の傍らには『怪獣能力者関連事件第3号』の当時の法廷記録をプリントアウトした紙資料の束に指を触れて捲る。その中には『零門ケイト』…まだ、渡米して結婚する前の姓名だったころの姉の名も記載されていた。

 他でもない、当時の蛇塚ミカミを担当弁護した人物こそ通話相手の姉ケイトがその人であった。

『当時の彼もまだ弁護士じゃなく、その担当検事で蛇塚ミカミさんを有罪にまで追い込んで私“たち”は弁護士として敗訴させられた相手…どういう風の吹き回しなのか今度はその逆に彼が弁護士として蛇塚さんを弁護すると聞いた時は耳を疑ったわ』

 思い出したくもない記憶を無理にも思い出したケイトの顔は両手で覆い隠してあらゆる感情が表情に現れない様に抑えた。

「敷島元検事…どうして突然に蛇塚さんを弁護する気になったんだろう…」

 検事とは刑事裁判における弁護士の相手となる検察官の相称であり弁護士と同じく弁護資格を有する国家公務員である。

 敷島ソウジロウとは元検事にして国際弁護士として国外で活躍する中でも最も腕の立つ弁護士であることが零門や姉ケイト、国内で活躍する弁護士とのスケール違いを実感させられた。ましてや過去に起訴した相手が立場を変えてまで自分が弁護するなど前代未聞である。

「…ご本人も、この事件に対して思う所があって彼女の無罪を信じてくれたのかなぁ?」

『レイ…ハッキリと言うけど、それは…無い 彼にあるのはさっきも言った通り『愛星者』だからよ 彼は司法も、被疑者も、弁護そのものすらも信じているわけじゃない 彼にとって人間の営みなんて地球上における自然の法則の一部に過ぎない、以前彼にアメリカで再開した時に聞いた言葉だけど…――』

 

――零門弁護士、私は…この星が好きなだけですよ――

――星を愛しているからこそ、愚かで無力な人畜である皆さんが囚われている『常識』と言う縛りを“破壊”してあげているに過ぎません――

 

 すべては地球と言う星の中に住まう人間の自然的行動を自らが調整していると豪語するその口ぶりは自身がまるで“神”であるかのような物言いであった。

 結局のところ、敷島ソウジロウにとって『法律』とは人間の営みと進歩の過程に過ぎず……まるで怪獣の様な物の考え方であった。

 国際怪獣救助指導総合病院

―MRI室―

 

 巨大な電磁石の塊を内包した特殊な検査装置『MRI』、僅か数分で全身をスキャンして医師が頭部からつま先に至るまでを詳しく検査する事ができる。

 検査着を身に着けた状態で蛇塚がMRIの中へと進んでいき、彼女の全身のスキャンが始まった。

「……メトロンさん…本当なんですか、ガーゴルゴンさんが…末期の癌患者さんって」

「癌患者“だった”って言ったでしょ 2年前に子宮頸癌で子宮の全摘出、早期に摘出しているから罹患してはいないわ」

 MRI室の隣の部屋で検査技師と担当医がスキャン画像を見て判断する中、その横で付き添いに来たアキとGIRLSの常駐カウンセラー兼保険医も兼ねたメトロン星人の怪獣娘こと百地メルが検査で待つ間に蛇塚ミカミの身に起きた過去の病歴を明かした。

「しっ…子宮…摘出って…」

「臓器の完全摘出と一緒、放っておけばステージがさらに高くなっていずれは全身を蝕み…後の事は、わかるね」

 言葉通り想像絶するような大手術を経て生還した蛇塚だったが…

「でもなんで癌患者ではなくなったガーゴルゴンさんをまた再度検査するんですか?」

「癌っていうのは細胞の異常増殖が原因、転移の恐れが無くなっても他の部位で新たな癌細胞による増殖が始まれば別の癌による発症が予想されるの…特に以前に罹患した事のある患者には健常者に比べて6,70パーセント高いとも言われているわ」

 何らかの要因で転移することもあれば転移の恐れが無くなってもまた新たに癌が生まれて再度癌患者となってしまう、他人事にはできない恐ろしくも怖い病気だとアキは再理解を示したが…

「…子宮って…その…赤ちゃん…を生むための臓器、何ですよね それを…生む機会を手放してまで生きるってどんな気持ちなんでしょう」

「さぁね、私もあなたも生まれてこの方まだ経験したことのない病気だからね…怪我に強い怪獣娘だとしても『怪獣娘であっても病を患う』と言う前例の人だから オマケに女として子を生む力を失う気持ちこそ本人のみぞ知るところよ」

 まだ誰かと愛し合って子を為した事のない未成年のアキは健全であり健康な身体である内の自分自身では想像すらしてあげられない…GIRLSの怪獣娘で望んで指導課に配属した筈なのになんらアドバイスも手助けも出来ない。

 メルですら他の怪獣娘には無い医療上の有資格をもってしても出来ることは限られてしまう…双方ともに不甲斐ないと言う気持ちもあれば理解してあげたいと心から思うが……

「百地さん、これですべての検査は終了です 結果の方は後日にご報告させていただきます」

「ありがとうございました 何かわかりましたら私の方にご連絡をお願いいたします」

 担当の医師から検査終了を告げられたメルとアキはMRI室内で看護婦に手伝ってもらいながらMRIの台座からゆっくりと起き上がる蛇塚を迎えに行った。

「お疲れ様です ガーゴルゴンさん」

「気分は大丈夫ですか?どこか優れないところはありますか?」

「いえ、大丈夫です…ご心配はありません」

 確かにどこも異常のない、言ってしまえば健常者と何ら変わりない様子の蛇塚は今この場で立ち続けるだけの気力は十分にあった。

「それじゃあ、あとは着替えて次の来院日がわかるまで待合室で待ちましょう アギラ、着換え見ていてあげて」

「えっ?ボクが?」

 検査着姿の蛇塚が着替える所まで付き添う事になったアキだったが…メルはアキの耳元に囁く。

「――彼女を知りたければ彼女のお腹を見てみなさい…彼女の、すべてを知りたければ…――

「ガーゴルゴンさんの…すべて?」

 何のことか分からないアキだったが、先輩でありGIRLSのカウンセラーでもあるメルの言う事に戸惑いつつも信じてアキは看護婦に案内される蛇塚と共に着替えるための更衣室へと一緒に入って行った。

 

 

―更衣室内―

 

 検査の為に着替えた検査着の留め紐を緩めるその所作はアキの視点ですら内心ドキドキさせる何かがあった。

(…ううっ、気まずい)

 その胸の鼓動は緊張と言うよりも先ほどメルの言っていた蛇塚と言う女性の全てが彼女のお腹に秘密があると言われてもそれを目にするにはどうすれば? どう言えば? 一体なんという言葉をかければそんな不審な行為が許されるのだと今更自分の腹の内すらも見せられず、なんなら最近ゴモラことミカヅキにお腹を摘ままれるほどに贅肉に悩まされているアキが他人のお腹を気にするなど誰よりもおかしな話であった。

「……なにか?」

「フェッ!?いっ、いえ…なんでもないですッ!ホントになんでも……」

「……なにか、私の身体に気になることでも?」

「ギクッ!?」

 図星を突かれたアキは思わず身震いしてしまい隠そうにも身体で秘め事がバレバレであった。

「…私の身に関わる事でしたら、なんでも仰ってください…すべて受け入れますので…」

 蛇塚に気を使われてまで機を作らせてしまったアキは自身の不甲斐なさに息を吐き出して蛇塚の気遣いに応えた。

「ごめんなさい、ガーゴルゴンさん…実はボクはまだあなたの事をよく知らないからどうしたらいいのかなって思っていたら、さっきメトロンさんにガーゴルゴンさんのお腹にあなたの秘密があるとかなんとか…」

「…お腹…」

「…嫌…ですよね…急に人のお腹を気にするなんて…自分でも我ながら気持ち悪いって思います」

 自分が考えている事の不審ぶりに結局一歩引いて諦めかけた時だった…

「…なるほど、そういう事でしたら…ご覧になりますか?私の…お腹…」

「えっ?」

 まだ紐を解いたばかりの検査着の褄下に蛇塚は掴み広げると蛇塚の裸肌が露になった。

「わっ、わわわっ!?蛇塚さんッ!?……ううっ……えっ!?」

 慌てて目を逸らそうとしたが…蛇塚の身体は腰元太増しく、胸元は大きくも豊かな体つきだが…上下共に豊満だが腹回りは決して上下の様にはならず寧ろ際立った細さ、抜群なプロポーションの持ち主ではあるがアキは一番に目を引いたのは…へそ下にある傷跡…もとい何らかの手術痕であった。

「蛇塚…さん……そのお腹の…傷って…」

「分かりません…以前に癌を患う前から負っていたらしいのですが…どうにも記憶が無く、かなり前からの古傷だそうです」

 子宮頸がんで負った新しい手術痕は確かにその古い傷の下に見受けられるが…その傷よりも前に横一閃の一文字傷…本人すらも知らない謎の傷であるにも拘わらずまたしてもアキにはその傷が何の傷であるのかがわかっていた。

「………………」

「…触って見ますか?…この傷に…」

「えっ…?」

 今度は逆に蛇塚自身が煮え切らないアキにグッと近づいて来てソッとアキの手に触れて…その古い一文字傷にアキの手を指先から手の平すべてに均一なまでの接触が実現した。

「……御記憶…ないかもしれないですけど、たぶん…痛かったですよね」

「…ええっ、私はココに傷があることを気にはしませんけれど…この傷を負った時に生じた痛み…思い出せないのか、忘れてしまったのか…もう何も…思い出せません」

 この傷が何で負った傷なのか分からない蛇塚…しかし、それをアキだけは知っている。知っているからこそこの傷の意味する事の大きさは誰よりも理解させる。

「――えっ?ホントに触って確かめてるの?」

「ワァアアアアアアッ!?」

「あら、メトロン先生」

 傍から見たらいかがわしい行為をしていると思われてもおかしくない絵面に背後から突き刺さるメルの言葉にアキの喉は心臓飛び出すような勢いの動揺する声が飛び出した。

「メッ、メトロンさんが言ったんじゃないですかッ!」

「言ったけど…ホントにやるとか、あんたってセクハラ働くような子だったっけ?」

「あらぬ誤解を生むようなこと言わないでくださいぃッ!!」

「…冗談よ それじゃあ…このガーゴルゴンさんの傷、なんだかわかる?」

 揶揄われつつもメルの言う通り蛇塚ミカミの腹部にある傷こそが彼女と言う怪獣娘を理解する上でのこの上ない答えにアキは応える。

「……出産…痕…ですよね」

「……意外に正解…だけど、唯の出産痕じゃないわ この傷はねぇ、帝王切開による横切開痕なのよ」

 帝王切開、それは難産における緊急人工分娩による開腹術…単にお腹を開いて中から胎児を取り出すと言うだけでなく高度な医療行為であるため様々なリスクと医師の技量が問われる超難易度の医療行為だ。

「―と言う事は…ガーゴルゴンさんは過去に…」

「そう、彼女は一度帝王切開による胎児の出産を経験しているの…はずなのよ」

「ですけど…それも全く記憶にはありません 痛めた記憶も、失う喪失感も、私には何もありません」

 記憶に無ければ産んだとは言えないような口ぶりに着替え終えた蛇塚ミカミと言う女性としての形にまだその機会に巡り合った経験のないアキとメルに突きつける。

「…ガーゴルゴンさん…いえ、蛇塚ミカミさん…私はどんな経緯があるにせよ、いち医療従事者としてあなたの身に寄り添いたいんです どんな些細な事でもいいのでまた何か思い出されましたらご連絡を…」

「…ありがとうございます、その御気持だけでも十分に私の事を想ってくださっている事は理解しています…ですが、もうじきに私の“終わり”が近い気がするんです」

 蛇塚は自らにしか感知できない何らかの『終焉』が訪れると予見していた。

「…『自分の身体は自分がよくわかる』とはよく言ったものですね…最近、何となく何です……何となく、終わりが近い そんな気にさせてくれる何かが起きる気がして…」

 蛇塚が見上げた先には刻一刻と秒刻みで進み続ける時を示す壁掛け時計を目にする。ソレは安易に自ら残された時間の無さを示しているのか、はたまたその時が遠くもない事を示しているのか、結局のところ彼女自身にしかわからない事だった。

「…ガーゴルゴンさん…」

「暗い話をしてしまい申し訳ありません…ですので何も気になさらないでください」

 気にするなと言われる方が無理な話であった。しかし、それ以上の事は何も言えないのは事実であった。

 受付待合室

 

 総合病院なだけあって休日の受付前は多くの通院患者で溢れかえっていた。

「道理さ~ん…道理ミチコさ~ん」

 そんな多くの通院患者の中から聞き覚えのある名前を看護婦が呼びかける。

「は~い」

「こちら保険証のお返しと、本日のお会計が…」

 診察会計を済ませる親子連れの通院患者が受付で会計を済ませている中…

「あれ?…あの人…アギラ先輩じゃん」

 親子の内の娘側が向かいの通路から蛇塚に付き添うアキに気が付いた。

「あっ、ザンドリアス…と、ザンドリアスのお母さん…」

「こんちわっす、先輩!…そっちの人は…アレッ?会った事のない人っすけど…誰っすか、この美人さん?」

 顔合わせにさっそく好奇心旺盛なザンドリアスの怪獣娘こと道理サチコが蛇塚に注目が移り変わった。

「ハッ!?まさか…先輩のお兄さんの彼女さんって…ッ!?」

「なんでそうなるのさぁ!…この人は…その…なんて言うか…」

 説明しようにも説明しにくい『ガーゴルゴン』であることを明かすことは裁判を控えた状況故にGIRLS本部からもアキに緘口を伝えられている。

「もー、ザンちゃん…無暗にお友達の御邪魔しちゃダメでしょ」

 気遣いの良い母ミチコが止めに入ってアキたちに『すみません、ウチの娘が…』と言いたげな表情を浮かべながら互いに軽い会釈を交わす。

「………………」

 しかし、これまで何にも自分から興味を示さなかった蛇塚の視線はミチコにその瞳は彼女を映す。

「……えっ、えっと……何…か?」

「…いえ…お子さん、お生まれになられていたのですねっと思っただけです 道理さん」

 アキもサチコも驚きの表情を隠せなかった。蛇塚が自らに記憶は無いと主張していたはずなのに…母ミチコに顔見知れる相手が居たなどと……二人が知り合いであった事が何よりも驚かされた。

「えっ……もっ、もしかして…ミカミさん…ミカミさんですよね?」

「……はい、その節は…どうも」

 しかもミチコ自身もハッキリと名前で呼べるほどに覚えのある知り合いだった。

「ザッ、ザンドリアス…の…お母さん……この人と、何処かであっているんですか!?」

「ええっ、まだ私がザンちゃんをお腹に抱えていた時期に同じ郡山の産婦人科に通っていた頃に…やっぱり、ミカミさんなんですねッ!」

「…ええ…今は都内の女子高校で非常勤講師をしています 諸事情で今は休職中ですが…」

 どうやらザンドリアスの母ミチコは蛇塚の“特殊過ぎる諸事情”については一切知らない様子だが…

「大きなお腹をされていたのがつい昨日の事の様に覚えております…同じ女性ながら道理さんのこと、素敵に思いましたが今も変わらずにあなたは素敵なお母さんなのですね」

「素敵…だなんて、子育てなんか毎日が大変ですよ ついこの間もザンちゃんが先輩のお兄さんに対して激しい想いを…―」

「ワァアアアアアアッ!ママッ!!人前で何、変なこと言ってんのさぁッ!」

「えっ?ボクのお兄ちゃんに何か思う所があるの?…もしかして、ザンドリアスに対してボクのお兄ちゃんがまた迷惑な事をッ!?」

「先輩も、わざと言ってます!?」

 慌てるサチコを揶揄うわけでもなく、アキは素でユウゴがサチコにただならぬ迷惑をかけていると勘違いしているからこそ余計に立ちが悪かった。

「あらッ、そういえばミカミさんのお子さんは…」

「……ごめんなさい、私はもう子供を産めない身体であることを受け入れました」

「…えっ?」

「…お医者さんには、子宮頸がんの高ステージと診断されて…全摘出、再進行の恐れは無くなっても今こうして病院を行き来するばかりです…夫とも3年前に離婚したっきりでして…」

 お互いに嬉しい近況を語り合えると思ったミチコの表情に暗雲がかかり聞いた自分を顧みた。

「ごっ、ごめんなさい…私、そうとも知らずに舞い上がってしまって……私も夫が行方不明で、離婚とも別居とも言い切れず……捨てられ…たんだと思います」

「ママッ…」

 ミチコは自分の言った事を後ろめたい気持ちが前に出過ぎてふと自分の境遇を蛇塚に告げてしまった。

「道理さん…お子さんの前で、そんな弱気なことを言ってはいけません アナタは私と違って繋がりが立ち消えているワケでは無いじゃないですか」

 蛇塚は悲観的になるミチコに自分とは違うことを促した。そして、蛇塚はサチコに近づいた。

「…こんな素敵なお嬢さんがいらっしゃることがあなたと旦那さんにれっきとした繋がりがある事の意味を…あなた自身がわかってあげてください」

「ミカミさん…」

「…お嬢さん…少し、頭を撫でてもいいかしら…」

「ふえッ!?なんでッ!?…いっ、いいです…けど…」

 恥じらいを隠せず顔を赤面するサチコの頭を優しく撫でる蛇塚は…

「…あなたのお母さんはねぇ、とても大きなお腹を抱えながら約10ヵ月以上もあなたを守っていてくれていたのよ だから、今度は…あなたがお母さんを守ってあげてね」

「ううっ…わっ、わかって…ます…よ」

 頭を撫でられて母を守る存在はサチコ自身であることを促す、その姿は誰から見ても教育者そのものだった。

「うふふッ、でもザンちゃん!ヒーくんをあんまり怒らせるようなことだけはしないでね」

「まっ、ママッ!おじさんの話はしないでって言ったよねぇ!!」

「ヒーくん?」

「ええ、最近ザンちゃんのお父さん代わりになってくれる夫の親戚筋の子がいましてねぇ~」

「ママッ!!」

 ミチコはサチコにとっての目の上のたん瘤が如き存在の事を話題に出してきた。

「今日だってザンちゃんが隠していた健康診断の再検査日を突き止めてくれなかったらザンちゃんいつまでも隠し通していたでしょ、ヒーくんの前ではウソや隠し事なんて出来ないんだからね」

「フンッ!ママだって自分の健康診断再検査だったくせに…」

「…―カチンッ……あらいけない午後に予約していた『深海歯科医院』の時間が迫っているわ!ごめんなさい、ミカミさん…積もる話はまた今度にぃ~!!」

「いぃいいいやぁあああああ!!あそこの歯医者さんだけはいやだぁあああああああ!!」

 どうやら母ミチコを怒らせたサチコは手を繋がれて彼女が宙に浮くほどの強い牽引力で引っ張り連れ出し嵐の様に去って行った。

「…あっははは…ザンドリアスも大変だなぁ~」

「…道理さん、立派なお母様になられていたんですね…よかったです」

 道理親子との会話後にわかったのは蛇塚が現在の状況になる前に彼女がサチコの母と同じく東京都内ではなく福島県郡山市に居住していた事実が浮き彫りになった。

「…蛇塚さん、ご結婚…されてたんですね…」

 そして、既婚歴…

「…もう済んだことですので…」

 そして…離婚歴も…

「…御相手は……ツクヨミさん…ですよね」

「――ッ!?…どうして、それを…」

 そして…アキにはソレが一体誰であることも検討が付いていた。

「……メトロンさんの手前、ハッキリと答えないままでしたけど ごめんなさい、ボクは…あなたを知っています」

 アキには…既に決心がついていた。

「あなたの知らないあなたのことを…そして、これから始まる大きな闘いの前に、あなたにはどうしても受け入れてもらわなきゃいけないことをGIRLS本部からボクに打診されています」

 アキは……

「蛇塚ミカミさん…国際怪獣救助指導組織…通称GIRLSへ…ようこそ」

 蛇塚ミカミ、石化魔獣ガーゴルゴンと…

「あなたは…GIRLS規定の保護観察怪獣娘に指定されました 以降はボク、観察担当者宮下アキこと怪獣娘アギラが担当させていただきます」

 共に歩み……これより苛烈となるであろう怪獣と人間の規範に基づいた裁き合いの渦中に身を投じる事へ。

 都内某所 

―敷島グループ・敷島法律事務所法務部―

 

「――…では、以上が蛇塚ミカミへの弁護方針です…もちろん、グループには一切の影響を及ぼしません」

 この日、アキが蛇塚の通院の付き添いをしている頃…叔父の敷島ソウジロウは同所属の企業内法律事務所で片手間に所属事務所であり、自己の運営する個人法律事務所内から電話で一通報告をしていた。

 相手はグループの上役、すなわちソウジロウにとっての上司であり…

「…問題はありませんよ…あの子たちも、もう十分に考える事の出来る年頃になっていますから…ユウゴはともかく、はい、アキには…ええ、その通りですよ、母さん」

 彼の母親、すなわちユウゴとアキにとっての父方の祖母であった。

「……グループ統括の御言葉とは思えませんね、意外と孫想いが過ぎます…そんなことだから義姉さんと反りが合わなかったのではないでしょうか?」

 大分踏み込んだことさえも言い切るソウジロウだが…

「……またその御話ですか…大丈夫です、私は…怪獣の力なんかには頼りません」

 それは通話相手の母親であっても同じことであった。

―3年前―

 

 そこはまだ、ソウジロウが弁護士へ転身する前から後に彼の弁護士事務所となるあの一室で起きた出来事であった。

「……ええっ、問題ありません 検事総長」

 今と変わらず電話で会話する事の多い業務であった。

「あれだけの証拠があれば客観性を重視する現行法であれば蛇塚ミカミの有罪は免れないでしょう…ですが、世論はやはり怪獣娘とか呼ばれ始めている怪獣能力者を保護にするべきと言う声も上がっています 各地方議員の声からも議会で多く上がっています…今回の審理でいずれは国会からも追及されるかと、今や怪獣能力者問題は秘密裏に拡大化されつつあります 今のうちに法曹こそ地盤を固めねば法の崩壊につながりかねません…ええっ、ええっ…ご随意に…では…」

 いつも通りの報告であった。我ながら社会に奉仕し続ける『社畜』だが最近では差別用語的としてメディアからも聞かなくなった単語に相応しい中間管理職っぶりであると目頭を押さえる。

「……怪獣…か……私はつくづく自分にそんな力がない事に感謝しかないな あんな力、人間が持つような力ではない」

 今日に担当した事件の裁判で後に有罪判決が下る事となるその時の事と自分の周囲に取り巻く得体の知れない力を持つ者たちを当時のソウジロウはやや警戒的な上にどこか見下していた視点を持ち合わせていた。

「……大学時代か、『魔法使いをどうやって裁くか?』だったかな…私は現場状況次第…と、答えたんだっけ」

 ふと今回当たった裁判例を大学時代に学んだ問題に対しての答えと重なり合う事に気が付いて思い返していた。

 

――法に携わる前に、お前は人の痛みを知れと言ったはずだ ソウジロウ――

 

 無理矢理、頭の中から聞えてくる声にソウジロウは悪寒が立った。

 即座に自身の座する執務室調の自室には彼の座する位置から反対の背後には都内を一望できるほどの展望窓があったが…その窓ガラスも、窓を囲う冊子も、窓と共に外壁と為す壁面すらも、宛ら強力な爆発を受けたかのように木っ端微塵となって飛び散るも…火の手は無い、激しい衝突音も無い、と言うよりもゆっくりと進む静止した世界の中でソウジロウはあの光緑の輝きを纏う怪獣を目にする。

「ガあッ!?」

 次の瞬間、ソウジロウは目で認識のできない凄まじい力で粉微塵と化した窓壁面だった場所から外の高層上空へと放り出された。そして、崩壊したソウジロウの自室は瞬く間に“何事もなかった”と言わんばかりの状態に戻った。その部屋の中に居たはずの部屋主が居ないこと以外を除いては…

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 気づけば状況追い付かない光景が広がっている。目の前には自身が丸々1棟を所有する高層ビルが“逆さ”に映っている。否、自分自身が何者かの得体の知れない力に上空数百メートルの高さに出されていた。

「うっくッ!!兄ぃ!!コレは…笑えない状況だぞ!!」

 この事態に直面している中でもソウジロウは冷静に誰がこんな事をしているのかは検討が付いていた。

 それに応えるかのようにソウジロウは持ちビルの最上階のヘリポートに落とし転がされた。

「ウグッ…がっ…あっあっあッ!!」

 元よりキッチリと明日からも同じ格好で検察庁へ入庁する予定で着たままにしていた背広が酷く型ズレるほどに撚れ切り、落ちた拍子に生地が裂けた個所もあるソウジロウはただただ…

「せっかく着ていたスーツを台無しにしてくれたな、兄ぃ」

 自分のことよりも背広を台無しにさせられたことを責めたが…責める相手が相手なだけあって理屈が通っていても通らないソウジロウの苦手とする相手だった。

「…なぜ蛇塚ミカミを有罪にした…お前は自分のしたことの意味をまるで理解していない、ソウジロウ」

 その相手こそ自分自身の実兄にして常識が通用しない異常な能力を有する怪獣能力者であった。

「……また、その話か…どう扱っても彼女の有罪は免れない どの検事が担当していても結果は同じだった!!」

「…撤回しろ、今ならまだ引き返せる…お前が忌み嫌うこの力を持つ者たちの存在を締め上げる行為だ」

「ふざけるなッ!!あなたに何がわかるッ!!魔法使いが火を放って人を燃やしたのならその目撃情報と物的な証拠があって立件された事件だ!!あなたがどうこう言えることでは無いッ!!」

 久方ぶりに感情的になって相手と討論を起こしている。裁判では冷静な運びを順守する、その法治を担う検事が理性の低い言動で一方的に言い争うが…

「言ったはずだ…お前は少し、人の痛みを知れと」

 実兄が手にする謎の物体…凶器、にしては月夜の光に照らされて輝かしい発光を見せているソレは煌々と輝く結晶だった。

 次の瞬間、その怪獣の姿は無く…自分の腹部に強い衝撃と共に何かが自分の中に入り込み、増殖、果てには全身を覆い隠すほどの結晶体がやがて背面より溢れ出て身体から倍増拡大した結晶体が一気に圧縮されるかのように元の身体へと戻った。

 膝を突き、俯き倒れそうになる手をヘリポートの面に振れた瞬間…前方の数センチ先から突如伸び上がった結晶体がようやく自身の現状を理解させた。

 ケロイド状の黒い体表、鋭利な牙、長い尻尾、奇しくもそれは後にゴジラと化すユウゴの姿と酷似しているが…最も酷似しているとするならばこの姿にした張本人の実兄だった。

「…そんな…バカな……私には…僕…には、ゴジラの力は無い筈だ!…なぜ“今更”、僕をゴジラにしたッ、兄ぃ!!」

「言ったはずだ…人の痛みを知れ…と」

 同じく異形の姿をした二人の怪獣…一方は光緑の輝きを放ち途轍もないエネルギー量を誇る兄とつい先ほどから結晶体に覆われた身体をするソウジロウ、互いに血を分けた兄弟でありながら相容れない二人をして実感させられる繋がりに月夜の光は無慈悲にも二人にスポットライトを浴びせた。

「…母が求めていたのは僕なんかじゃない…敷島と言う地位を捨ててまで『宮下』などと言う偽名を使って母と袂を別ったあなたが…あなたこそが、ゴジラであり続ければよかったのに…この呪われた力を息子と娘にまで広げたッ!!」

「……すべては必要なことだ、もうじき私は“ヒト”ではなくなる…怪獣でもなければ、生物や生命体でもない…そして、その力を得たお前は蛇塚ミカミの公判後に検事から弁護士へと転身することになる…すべては決まっていることだ この世界線では、な」

 言っていることが支離滅裂だ。我が実兄ながら到底会話が成立のしないこの並行線がソウジロウは相容れることが出来なかった。

「お前の怪獣名は『スペースゴジラ』…いずれその力が必要になる時が来る、忘れるな 人の痛みを知って理解しろ」

 そう言ってユウゴとアキの父、ユウナの夫であり、敷島ソウジロウの実兄でもある宮下ゴウイチロウは偉業ともいえるあの姿を見たのがソウジロウことスペースゴジラにとって最後のことであった。

 そして現在…認めたくはないと思いつつも兄の言う通りの状況となっていたのであった。

「…兄ぃ…それでも僕は…この世界に怪獣の力など不必要だと思っているよ」

 あの時、現実離れした現象と事象によって木っ端微塵に破壊された窓側はいつも通り何事も無い壁面だった。

 ただ、窓ガラスに映る自分の虚像とは異なる“スペースゴジラ”の虚像を除いては…




アンバランス小話
『アンバランス小話―酒場―』

 そこは様々な冒険者が集う場所『ピグモンの酒場』、ここで多くの仲間と出合いパーティーを汲んで冒険へと旅立つ出発地点であった。
「ようこそ、ピグモンの酒場へ ご用件は何でしょうか?」
 店主のピグモンが明るい笑顔で出迎え、冒険者の旅の疲れを癒すほどの効果があるとかないとか…と噂されるが…
「この大魔王さんをそちらで引き取ってもらえませんか?」
「当店は反王国的勢力の受け入れはご遠慮させていただきますぅ~」
 店主ピグモンから受け入れを拒否された。
「何でですかッ!この酒場は仲間の預け入れ先でしょ!受け入れてよ!ボク、こんな魔道の根源みたいな存在と一緒に冒険なんかしたくないよ!!」
「申し訳ありません…ガアルズランド王国王令部より『勇者アギラとその仲間の大魔王ゴジラの仲間受け入れは禁ずる』とのお達しですので…」
 店主ピグモンは勇者アギラの要求を全面的に拒否した。
「ううっ、じゃあ仲間!仲間を紹介してください!」
「それでしたら、当酒場内から御好みの方々に御声を掛けて見てください」
「誰かぁあああ!!勇者のパーティーにボクを救うと思って入ってくださいッ!!もうこの際誰でもいいですッ!!」
 勇者アギラは仲間を募集したが全員目を逸らして見ないフリを徹した。
「ミクちゃん!ウインちゃん!仲間になってくれるよねッ!!」
「ヒィッ!?なんであたしの名前知ってるのこの人ッ!?」
「ごっごごごっごめんなさい、既にパーティーが決まってて…」
 勇者アギラは戦士ミクラスと僧侶ウインダムに声を掛けたが逃げられた。
「ゴモたんとガッツならボクと一緒に冒険してくれるよねッ!ねえッ!!」
「ウワッ!ウチ等の方に来たッ!?」
「ごめ~ん、ウチ姉妹でパーティー組んでるからムリ!!」
 勇者アギラは武闘家ゴモラと盗賊ガッツに声を掛けたが逃げられた。
「この際、ザンドリアス達でもいいからボクを助けてください!!」
「いやぁあああ!殺されるぅう!!食べられるウウウ!!ママァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 勇者アギラは土下座までして頼み込んだが魔法使いザンドリアス達に全速力で逃げられた。
 そして、酒場には殆ど人が居なくなった。
「ううっ…仲間が出来ません まだ何も装備していないのに既に呪われていますよ、コレ…」
「えっええっと…頑張ってくださいぃ~♡」
「言葉にハートマーク付けても誤魔化せてませんよ……ちなみにゼットンさんを紹介していただくことって…」
「天地雷鳴士ゼットンは現在麓の山脈にてシャドウドラゴンの討伐クエスト中ですので…諦めてください」
 店主ピグモンは諦めることを勧めた。
「ウウッ…誰もボクたちと冒険をしたがる物好きなんていないよねぇ…そりゃそうだよね、仲間枠に大魔王がいるパーティーなんて…」
 勇者アギラは『諦め』が付与された。
「う~んッ、一人ご紹介できる冒険者さんならいらっしゃいますが…」
「エッ!?ホントですかッ!?」
 勇者アギラに『希望』が付与されテンションゲージが増えた。
「そちらで酔い潰れていらっしゃる、遊び人ベムラーさんでしたら…」
「グへへぇッ~、グルグル回ってジャックポットだぁ~い♪…Zzzz~」
 勇者アギラに『絶望』が付与されテンションゲージがマイナスを振り切った。
「大魔王お兄ちゃん、今すぐその人を消し炭にして!」
「あいよ~」
「ギャァアアアアアア!!暴力反対!!18禁描写反対ぃい!!」
「当店で暴れるのはご遠慮くださいッ!!」
 勇者アギラは『サツジンホウジョ』を大魔王ゴジラを介して遊び人ベムラーに発動しかけた。
「んも~、いきなり何なの~きみたちぃ~!お姉さんの身体は1つしかないんだよぉ~!そんなに求められてもお姉さん、困っちゃう~♡」
「すみません、他に居ませんか?この人以外で…」
「申し訳ございません、ただいま空いている冒険者さんがその人しかおりませんので…」
「こんなお酒漬けの冒険者、嫌なんですけど…」
「既に大魔王をパーティーに加えてらっしゃる方に言われましても…と言うワケで既に遊び人ベムラーさんを勇者パーティーに登録しておきましたぁ~」
 店主ピグモンから遊び人ベムラーを紹介され登録(強制)された。
「ワァアアアアアアッ!なんで勝手に決めるのサぁ!?」
「良かったですね、ミヨミヨ 新たな御仲間が増えましたよ」
「イエ~イ、ミオさん大勝利ィイ!トモちゃん、ジャンジャン酒持ってきてぇえ!!勇者さまの奢りだぁあ~!!」
「奢らないよッ!」
「近くに森があったらコイツを埋めにいくぞ」
 勇者アギラと大魔王ゴジラは団結力が上がった。
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