TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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鋼の脅威

―埼玉県・入間市―

陸上自衛隊入間駐屯地内演習場

 

―ビィーッ!!『これより、対特殊生物対応装甲服“スーパーX”の戦闘シミュレーションマヌーバーを開始します』

 

 演習場のスピーカーを通して陸上自衛隊内において一役を担うであろう最新装備の起動実験が開始された。

「パトリオット12.7ミリ弾装填! SX-W01アクティブ!」

 男性オペレーターが防弾ガラスの向こう側で深緑色の装甲服を纏った自衛官が武器を手に持って銃火器の弾丸が安全に装填されているかの確認をすると構えて瞬時に演習場の奥の的に目掛けて発砲した。

「SX-W01残弾数13、稼働標的命中率99.78%!」

「スーパーX、ギアコントロール正常!対ショックアブソーバーも正常に稼働しています!」

 オペレーターの男女が特殊装甲服から送られてくる情報に目を通しながらすぐに指揮者のオペレーターたちよりも若い女性へと伝わった。

「了解しました…では神子さん、SX-W02にアクティブしてください」

 若年女性は耳元に付けたインカムを通して特殊装甲服『スーパーX』を着た自衛官に向かって次の武器を使用する事を支持すると自衛官は首を縦に振って別の武器を取り出した。

「ファルコンRAMランチャー装填!SX-W02アクティブ!カウンターマス位置、後方人影なし!射出、許可します!」

 オペレーター女性が自衛官に武器の使用を許可する支持を出すとスーパーXが持つ大型ランチャーより引き金を引いて発射されたロケットランチャー弾は標的に弾頭が着弾すると標的共々爆発した。

「ファルコンRAM命中!標的ロスト!スーパーX、機体衝撃ダメージ確認されず!」

「命中確率98.74%、SX-Wシリーズの稼働効率8.72%上昇」

「スーパーXのAI制御機能『ケラウノス』、発射時のサスペンション機構に修正を開始!現在SX-W02使用時の反動対策を最適化中!」

 オペレーターたちは特殊装甲服スーパーXよりもたらされる情報を精査して主任指揮者へすべて情報が彼女の手に持つタブレット端末へ転送された。

「了解しました…それでは以上を持ちまして第12回の戦闘シミュレーションマヌーバーを終了とします! 神子二尉、お疲れ様です」

 オペレーションルームからインカムを通して戦闘シミュレーションが終了したことを告げられたスーパーX装着員の自衛官はスーパーXの頭部ヘルメットを着脱して素顔を晒した。

「こちらこそお疲れ様です…湯原主任」

 装着員の自衛官“神子”はオペレーションルームにて自分へ指揮し続けてくれた湯原と言う女性に礼を返した。

『ありがとうございます 心拍数が訓練初期より大分落ち着いています。 この調子なら実戦出動も問題と思われます』

「出動とあればいつでも…ソレが自衛官としての責務ですので覚悟はしております」

 スーパーXの頭部ヘルメットの通信を介して返答する中で神子は自衛官としての責務とは『常に実戦とあれ』と言う心がけがあることを伝えた。

 しかし、それは唐突に実現する事になるとは彼自身も思わなかった。

 

―ビィービィビィビィ!!『県内秩父炭鉱跡地にて異常現象発生!特殊不明生物群対策分隊直ちに出動されたし!』

 

 突然アナウンスの一報で齎された緊急連絡から僅か5分でヘリコプターのローターが回り始め、様々な装備の弾倉に補給が入りいつでも臨戦態勢に移行できるだけの強化武装が施された。

 そして、現地に出動するメンバーは2名のオペレーターたちと1人の専従開発主任『湯原サラ』と特殊装甲服“スーパーX”を既に装着していた『神子ヒデオ』の計4名から選出され一同移送用のヘリコプターに登場して現場へと急行するのであった。

 

 大怪獣時代終焉と共に怪獣災害自体が無くなった現在、新たに出現した正体不明の怪物『シャドウ』とは怪獣娘の出現後に世界各地で目撃されるようになった存在はいつしか“人類の敵”として共通認識が広まった。

 しかし、『シャドウ』に対抗できる戦力が今現在は怪獣娘のみと言う現状を打開すべく陸上自衛隊内で新たに『特殊不明生物群対策分隊』が創設された。

 大怪獣時代に組織されていた第4の自衛隊『対特殊生物自衛隊』通称“特自”はその装備一式を国際法新規定に基づいて解体されたが、ノウハウは他三軍に生き続け対特殊生物に対しての陸上自衛隊内にて対抗組織として新設されたのが同分隊であった。

 世界中の軍事部隊が『対シャドウ生物』を掲げる中での遅れての設立ながらも数年間の沈黙を経ての出動は今回が初めてとなったが…

 

―埼玉県・秩父郊外:鉱山跡地―

 

 到着して早々に分隊が直面したのは異常中の異常な光景だった。

 あたりは季節外れの雪が積っている一面の銀世界が広がる。

「なんだ…ここだけえらい季節違いですね…もうすぐ初夏なのに…」

「秩父鉱山を中心に半径1キロ圏内が異常寒波レベルの気温低下が見られますね…いうなれば森の一部だけ凍り付いたという感じでしょうか?」

 湯原は手元のタブレットで出動時に現場情報を先発の陸上自衛隊調査班に解析してもらった現場周辺の情報と照会して確認していた。

「あっ、今新たに入ってきた情報ですと…発生源は中心ではなくここより南西地点から放射状に発生したようです! これより分隊は発生地点に向かいます」

「了解!」「了解しました!」「了解です」

 4名の分隊は南西に進路を変更して先に進むことを決定した。

 

 

 やがて、一同が辿り着いた局所寒波発生地点は先ほどの雪景色とは打って変わって突然の氷世界に驚愕する。

「コレは…氷ですか?」

「それにしては…なんだか水分を感じない氷ですね」

「分析結果が出ました」

 ここで発生した氷は水から凍ったものではなかった。物質が極超低温にさらされ分子が維持できなくなり原子が崩壊して分解消失、形だけが氷となって残った状態で目の前の氷の世界の様な状態になったことが湯原のタブレットから分析されたデータが湯原目線で紐解けた。

「この条件において発生できる瞬間冷気温度は…マイナス273.15度!?」

「湯原主任、それって確か絶対零度では?」

「そのまさかです…ここはいわば絶対零度現象の爆心地に私たちは今立っている状況です!」

 全員が息と同時に固唾を飲みこんだ。自然界では到底発生させられない、宇宙の最低気温が270度であるのに…たかが埼玉県のいち郊外で発生した異常気象と片づけるには可笑しすぎる事態だった。

 埼玉県・秩父市内

 

 山間部に囲まれた中央部には市街があった。公共の施設を始め、住宅などの居住地が密集する地域の中に病院も存在しているが…今日に限ってその病院内が騒然とする出来事が起きていた。

 秩父中央病院へ白い救急車両がいつにもなく騒がしくサイレンを鳴らしているが…同時に警察車両のパトカーもそこには赤橙のランプを光らせて到着していた。

「お巡りさん!こっちですぅ!!」

 白衣の中年医師が警察官を呼びつけて自分についてくるように誘導した。

「埼玉県警の前原です あなたが通報者ですね…それにしても寒いですね」

 中年医師はこの秩父で発生した異常気象事件の通報者であり、その通報者であるかと尋ねた男性刑事『前原』は夏場も近いこの季節にトレンチコートが手放せないほどに秩父市内の気温が下がっていることが自分の体感でもわかった。

「寒さだけじゃありません…山間部から噴き出す冷気で市内の温度が急激に真冬並みの寒さに変わったかと思えば自衛隊機のヘリまで出る始末でおまけに山間地域から呼吸不全の肺炎症状を訴える患者が後を絶ちません」

「一体、山の方で何が起きたんですか?」

「私が聞きたいですよ!突然大きな音と地響きが発生したと思えば…山が凍ったんですよッ!?しかも山からの酸素濃度が一気に低下して普段市内住んでいる方々の中には高山病に近い症状から眩暈や立ち眩みと言った症状も報告が上がっています」

 唐突な気温の変化に市内の住民は急激な環境変化に身体が異常を起こして病院に駆け込む騒ぎへと発展して病院内は過密状態になるほどの患者数に院内の医師看護師らは半ば局所的なパンデミックだった。

「こいつは大事だ…他の病院も同様ですか?」

「ええっ、なるべく軽傷者は遠くの市外の病院にまで回しましたが…ここには重症患者のみを率先して治療にあたっています」

 そんな院長たちの前に看護婦が慌てた様子で駆けつけて来た。

「先生!ICUの患者さんの容態が…」

「なんだって!?分かった、すぐに向かう…申し訳ありませんが私はコレで」

「いえ、お忙しい所をありがとうございます」

 前原は礼とばかりに頭を下げて院長を見送ると腰に手を当てながらあたりを見渡しても患者から患者、すべて患者で犇めき合うこの現状に頭を片手で抱えた。

「まるで怪獣災害にでもあったようだ…一昔前に戻った気分だぞ 岡田くん!」

「ハイ、前原警部補 どうされました?」

 前原は部下の所轄警察官『岡田』を呼びつけた。

「この中でなるべく症状の軽い話ができる人を探してくれ…とにかく今は情報が欲しい」

「わかりました、それなら先ほど自分が話を聞いていた男性が…」

 岡田が前原に呼びつけられる前に話を聞いていた小さな女の子を抱える若い青年が前原の目の前にいた。

「ちょっと…話、いいかな?県警の前原だ…具合はどうかな?」

「はぁ…はぁ…自分は大丈夫です」

「うん、そうか……その子は大丈夫かい?」

 青年が抱える少女はタオルブランケットに包まれて前原側からは顔が見えないが、妙に白い後ろ髪が気に成った。

「その子、怪我をしているのか?順番待ちなら看護師に見てもらって応急処置を…」

「いえ、この子なら…大丈夫です」

 明らかに挙動が不自然な青年に前原は違和感が過った。

「大丈夫って…その子、ピクリとも動かないじゃ…うっ!?」

 前原が少女の首に触れた瞬間、まるで氷にでも触れたようなイメージが頭の中で過るほど体温が驚くほど冷たかった。抱えている青年が人肌で温めているにも関わらず全然体温が戻っていない様子から見るに少女自体が重症のようだった。

「彼女、もしかして重症なんじゃないのか?なんで医者に言わない!早く見てもらいなさい!!」

「いえ、結構です!何も問題ないんです!!」

 頑なに医者にも見てもらうことを拒否する青年は立ち上がってその場を立ち去ろうとするが…

「君ッ!待ちなさい……名前は?」

 前原は青年を引き留めて怪しいと判断した為、急遽職務質問を出した。

「分かりません…」

「はぁ?分からないワケないだろう…身分証は?」

「ありません…」

 青年は自身の名前も身分を証明する物も持ち合わせていない特異な状況に置かれていた。

「じゃぁ、その子は?」

「わかりません…山の中で自分と一緒に倒れていて……助けようと彼女を抱えて山を下りていたら…」

「局所の大寒波に襲われたわけか…それは災難だな」

「だい…寒波?」

「君、山で何が起きたかわかっていないのか?」

「はい…慌てていたので…」

 青年の答える内容に前原はますます疑いの気持ちに偏り始めていた。名前も知らない状態の彼が見ず知らずの女の子を抱えて山の中の森を抜けてあの大寒波災害を抜け出して来れたことに…そもそも山付近に居住を持つ住民すらも何らかの症状が発生していたはずが彼にはそういった様子も見られない。呼吸器も発声できているあたり正常、受け答えも意識もはっきりしている。ただ唯一、彼の抱える少女だけがまるで氷のように冷たくなっている事だけが気がかりだった。

「はぁ…こんな時になんだが、君…署まで同行願えるか?」

「…どうしてですか?」

「いや、任意の同行だ…断りたければ、断って結構だが…この病院は既に重症患者を優先して治療に当たっている 君とその子は見たところ軽症のようだから署の医務室ならその子の手当ても出来るが、その代わり君には少々事情聴取を取らせてもらう」

 前原は青年に選択の余地を与えた。青年は悩みに悩んでいる様子だが…腕の中に抱える少女の事を考えた末に…

「お願いします…御話ならできるだけお答えしますのでこの子を…」

「うんッ、いいだろう…車内をなるべく暖房で温めておく、岡田くん!」

「はい、どうされました?」

「悪いが私はこれから彼と県警に戻る…後の事は頼めないか?」

「あっ、はい!もちろんです」

「すまない…それじゃぁ行こうか……便宜上、君はなんて呼べばいい?何かその、名前の様なものは何かないか?」

「あっ、それなら…自分のポケットに入っていた手帳が…」

 青年は腰元のポケットから一冊の手帳を前原に渡した。

「手帳?どれ…」

 前原が手帳を開くとところどころにページの敗れた個所がある…しかし、唯一書かれていた“3つの単語”があった。

 一つは殴り書きの様な『きりゅう』とひらがなで書かれており、もう一つは『しゅん』これもひらがな…そして最後に『1』とこれだけ英数字で書かれていたのがこれだけだった。

「きりょう…しょん…1……どういう意味だ?」

「自分でもわかりません…目を覚ましたら、この子とその手帳だけが自分の身近に…」

「…そうか…なら、一旦こう呼んでいいかい?」

 前原は懐から取り出したボールペンで青年の手帳の開いているページに『桐生シュンイチ』と書いて見せた。

「あっ…はい、なんだか自分の名前の様な気もしてきました」

「…そうか、何らかの手掛かりになると良いが…とりあえず私の車まで行こう、前原ケイジだ」

「前原刑事さん?」

「ふっ…よく言われるけどケイジは名前だ…同僚から刑事になるために生まれて来たような名前だとからかわれる始末だがね」

 前原は自分の紛らわしい本名を名乗って気さくに語ると無表情であった名も無かった青年『桐生シュンイチ』は次第に笑顔を見せるようになっていた。

 

 

 院内の駐車場に回ると黒いセダン車にシュンイチを案内して先に前原が後部座席のドアを開けた。

「その子が横になれるように座席を倒しておこう」

「あっ、はい!ありがとうございます、前原刑事さん」

「前原で言い…刑事だと名前と同じすぎて紛らわしい」

「そう…ですか、じゃぁ前原さん…気を使ってもらってなんですが、俺も後ろの席でこの子と一緒に横になっていていいですか?」

「それは…構わないが、どこか具合悪いのか?」

「いえ、単に傍に居てあげたいだけです」

 シュンイチの変わらぬ優しさに怪しんでいた前原も少し疑う気持ちも変わる所も無いができる限りの要望をかなえてあげようと努力した。

「わかった、暖房を後部席に集中して回しておくから…しっかり、その子を守ってあげなさい」

「はいッ!」

 前原はシュンイチにポンッと激励ついでに背中を叩いて後部席に入らせたらドアを閉めて、前原も運転席の方に座ってキーを挿入して回すとエンジンが掛かり、車内の無線受話器を手に取って口元まで持ってきた。

「県警07から本部へ、県警07から本部へ、現場病院より参考人移送のため秩父PSに向かいます、どうぞ」

 無線機に向かって警察でしか聞かない独自の用語を交えた慣れた無線応答に前原は本部からの指示を仰いだ。

 すると本部から応答が帰ってきた。

『本部より県警07へ、現在秩父PSより一般通報からの入電で市内に出現した『未確認不明体』の応援にあたっているため受け入れは困難を極める』

 帰ってきた返答は最寄りの警察署が市内に現れた謎の存在との対応に追われているため受け入れられないとの答えだったが前原には無線の意味する『未確認不明体』とは警察無線ではあまり聞かない単語に本部から再度の応答を求めた。

「県警07から本部へ、『未確認不明体』について存じ上げない 秩父PSの入電内容を確認されたし」

『本部から県警07へ、一般入電より『市内にロボットの様な攻撃性の高い存在が出現した』と言う内容のため所轄の秩父署がこれに当たっている状況である』

 ますますワケが分からない内容に前原は困惑するが、後部席のシュンイチは運転席側に身を乗り出して顔を近づけた。

「奴だ!奴がまだいたんだ!!」

「奴?…君は何か知っているのか」

 突然目の色を変えて強張った表情を見せたシュンイチは何らかの情報を知っていると判断した前原はシュンイチに尋ねた。

「自分は追われてたんです…突然、目が覚めたらこの子と一緒に山を下っていたら奴らが何体も現れて…俺を狙っているというよりこの子を狙っているようでした」

 そのロボットの様な存在はシュンイチが言うに後部座席で横になっている少女を狙っているとのことだが…

「状況が見えないが…わかった、今は君を信じよう…最寄りの警察署は無理そうだが、町外れの署に向かうぞ」

「ハイッ!」

 前原はエンジンを蒸かしてアクセルペダルを踏んで前へ発進しようとしたその時だった…

―ドォオンドォッドンッ!

 1トン以上ある救急車両が前原たちの乗る警察車両の目の前を転がり横切ってきた。あと数センチ前へ進んでいたら横から飛び転がってきた救急車両に衝突していたが、前原も何が起きたのかワケが分からなかった。

「なんだッ!?何が起きている!?」

「前原さん!あれですッ!!」

 シュンイチが指さす先には無線の報告に上がっていた一般通報からの入電にあった『ロボットの様な存在』と言葉通りのロボットが目の前に居たのである。

 奇怪な電子音に器用そうなマニピュレーターいわゆる手先と前傾姿勢、その体長は優に2メートル以上を有していた。

「なんだあれは!?」

「アイツです!アイツが僕らを襲った奴です!」

 到底理解しがたい浮世離れした存在を前にシュンイチだけがロボットの様な存在を知っていたが…前原はすかさず懐のホルスターから拳銃を取り出した。

「君はその子と一緒に車内に居なさい!いざとなったら君が運転席に回って急発進して逃げなさい」

「待ってください前原さん!俺も戦います!」

「コレは警察の仕事だ!一般人の君が口をはさむな!!」

 前原はシュンイチの服の襟を掴みかかって怒号をあげた。前原は襟を手放して車両から出るとロボットに向かって発砲し続けた。

 外では前原を始め、院内から出て来た警察官たちが携帯するリボルバー拳銃を全弾使用して発砲するも警察官数人の発砲する弾丸もそれより口径の大きいオートマチック拳銃を使用する前原の発砲でもロボットはズンズンッと重い足取りを止めることは無く次第に前原の前まで近づいていた。

「くっ…なんなんだ…お前は一体…」

 理解できない存在を前に弾切れとなったスライドカバーがズレた拳銃を下して最早抵抗の意味を無くして半ば諦めかけていた。

 そして、前原に巨大な手を棍棒のように振りかぶってロボットは前原に攻撃を銜えようとした…その時だった。

「うぉおおおおおおおおおおッ!!」

 突然、前原の背後からロボットに向かって飛び掛かりジェット噴射の勢いを利用してロボットを後方まで押し出して突っ込んでいった銀色の新たなロボットの様な存在が前原を襲おうとしたロボットを吹き飛ばした。

「なっ、なんだ!?今度は…」

 その姿はロボット然とした最初のロボットと比べるとフォルムは角張った形状、鋭利な指先、尻尾の先まで角張った背ビレのような物が付いた…まさに怪獣そのもののような姿かたちの銀色のロボット怪獣だった。

 一方は異形の機械のような戦闘マシーン、もう一方は戦うためだけに作られたようなロボット怪獣、どちらも機械仕掛けのロボットであることに変わりないが…

「はっ、それよりも…あの二人ッ!」

 前原が振り返った自分の警察車両内で保護している二人の安否を気に留めたが…後部席の扉がブランケットに包まれた少女のみを残して例の青年が姿を消していた。

「まさか…あれは、彼なのか!?」

 総合的に考えた前原が導き出した結論は怪物染みたロボット兵器に相対する怪獣型のロボットのような存在こそ姿を消した青年の正体であることを突き止めた。

 あの青年は今まさに異形の存在と真っ向から戦うロボット怪獣だということに疑いようの余地がなかった。

「がぁあああああああああッ!!」

 ロボットのような怪獣はロボットの尖兵を翻弄するかのような超高機動な動きで立て続けに反撃の隙も与えない手数の多い攻撃を何度も繰り返し、鋭利な指先でロボットの四肢に繋がる関節部位を貫き手が直撃して脆い個所から宛ら腕や脚などを引き抜くようにして行動を奪った所を更に心臓部へと直接指先で貫いて動力部を破壊しロボットの機能を停止させた。

 やがて沈黙したロボットは見る形も無い砂粒ほどの塵と化して消滅して跡形もロボットなど最初からいなかったかのような状態になり、ただ唯一青年が突如変身したロボット怪獣のみがその場にだけ立ち止まっていた。

「ヴォオオオオオオオアアアアアアアアアッ!!」

 ロボット怪獣は消えたロボット兵器に対して勝利の咆哮をあげるかのように吠え叫んだが…ソレがかえって他の警官たちを刺激して勝ち残ったロボット怪獣が自分たち含め市民の安全も脅かす危険な存在になる危険がある事から即座に全員がロボット怪獣に向けて拳銃を向けた。

「構えろ!!撃テェェエエ!!」

 警官たちは躊躇なくロボット怪獣に向けて発砲をするが無意味なことだ、鋼鉄に鉛の点粒をぶつけたところで弾きとぶだけだったが彼らの警察官としての面子を保つために常日頃の異常事態に対応する訓練が無意識に発揮させられてしまうほどに脅威を排除しようと躍起になっていた。

「ヤメロッ!!撃つな!!止めるんだ!!」

 指揮の居ない無作為な発砲に対して前原が静止を促すも警官たちは我が身と職務を全うに防衛することが精一杯だった。

 しかし、無作為に拳銃を数発程度撃っても必ず終わりがやって来る…弾を撃ち尽くして撃てなくなったリボルバー拳銃、方や無傷の2m越えのロボットの怪獣、明らかに劣勢に立たされたのは自分たちの方であることを理解するのにそう時間は掛からなかった。

 全員が発砲終えた銃火器を下した時だった…目の前のロボット怪獣に突如飛んできた何らかの物体が着弾して爆炎が立ち上がった。

「今度はなんだッ!?」

 飛んできた方角を見ると上空を旋回する深緑色の輸送ヘリがホバリングしてヘリの中からロープを垂らして滑り降りてくる重武装の装甲服を纏った自衛官だった。

「陸上自衛隊です。 病院内で特異不明生物出現の連絡を受けてきました!」

 重武装の自衛官と同時に武装した自衛官たちが続々と降りて来てロボット怪獣に向けて銃火器を向け構えた。

「目標、特異不明生物!撃ちかた始め!!」

 重武装の装甲服を纏った自衛官の合図とともにロボット怪獣に向けてアサルトライフルの射撃が堂々と開始された。

「よせッ!!ここは病院だぞ、何を考えているんだ!!」

「ちょっ!危ないですから離れてください、危険です!」

 前原は無作為に銃撃をする自衛官たちに静止を促すも聞く耳を持たずにロボット怪獣に向けて攻撃を繰り返すが…ロボット怪獣は先程の炸裂する弾丸からの攻撃も今現状撃ち続けているアサルトライフルでの集中砲火もコレと言った決定打になっていなかった。寧ろ、ロボット怪獣は動こうとしていない、なぜなら彼の背後には先ほどまで自分に拳銃で撃ってきた警察官たちがいるため彼が避ければ警察官たちに当たってしまうため自ら遮蔽物となって一切動こうとしなかった。

「やめろと言っているだろうが!!あんた達の射線上にはウチの警官がいるんだぞ!!」

 同じく県警の警察官たちを守るがために前原は装甲服を纏った自衛官に向かって全身全霊を持って妨害するが…

「離れてください!自分は上からの指示で対応しているだけです!」

「だったら今すぐ上に掛け合え!射線上にいる同じ公務員をハチの巣にしていいどおりがどこにあるッ!!」

 前原は身勝手なまでに任務だけを優先する装甲服を纏った自衛官に対して断固抗議して集中砲火をやめさせることに必死だった。

 そんな彼の装甲服内より文字通り“上”を旋回するヘリ機内から通信が入った。

『神子二尉!射撃を中止してください!彼の言う通りです、発砲の許可は出していませんよ!!』

「しかし湯原主任!緊急時の射撃命令は自分に一任されています!」

『いいから、発砲をやめなさい!これは命令です、でなければスーパーXの出力機能を緊急停止させます』

「貴方にそのような権限は無いはずです!」

『今、この場の指揮権限は私にあります!これ以上は命令違反とみなします』

 装甲服を纏った神子に対して一切指揮権を譲らぬ開発主任の湯原は半ば正義の暴走状態にあった神子の部隊に対して強気の姿勢を一貫して緩めなかった。

「…自分はあなたより『上』の命令に従うことを正義とします…コレは国民の安全を守るためです」

『神子二尉!』

「ヤメロォオ!!」

 前原は神子の行動に異変を察知してすぐにまた妨害しようとするも装甲服の手甲で肋骨を叩きつけられ吹き飛んだ。

「邪魔しないでください! SX-W02『サジタリウス』使用解禁します!」

 それは拳銃型の武器に搭載された最初に発砲したグレネードランチャーとは破格の武器、背中に背おったロケットランチャーを手に取ってロボット怪獣に照準を定めた。

『やめてください神子二尉!あなたは自分が何をしているのか分かっているんですか!?直ちに“機龍”への攻撃をやめてください!!』

「はっ?機龍…」

 唐突に自分の知らない情報が耳を通して飛び込んできた神子に一瞬のスキが生じた…その時、頭部ヘルメット内の攻撃アラートが鳴り響いた。

「後ろッ!?ガハァアッ!!」

 不意打ち気味の攻撃を受け装甲服を着た重量もそれなりにある神子が突然吹き飛んだ。

 受けたのは後方より一閃の尾を引く高出量のビーム攻撃だった。

 隊員たちは攻撃が跳んできた方向に銃を構え直すと…そこには見慣れない女の子…否、怪獣娘、白髪の黒い装甲を纏った怪獣娘が胸部下の発射口から煙を出しながら立って居た。

「ご…もぉっ…」

 その形状はGIRLSの怪獣娘としてごく一部のマニアには名の通った怪獣娘『ゴモラ』に酷似している特徴的な3本角の白髪の怪獣娘だった…が、この場の誰にも彼女の正体が分からず、突然攻撃してきた得体の知れない怪獣娘に対して隊員たちの銃火器のトリガーに指が触れ始めた。

 得体の知れない存在を前に隊員たちは脅威認定の速さが仇となり彼女を認識するなり躊躇なく彼女に向かってトリガーを押し込んで発砲した瞬間に銃火器の射出口から弾丸が何十発も連射で飛び出してきた……しかし、それよりも早く動き出していたのはロボットの怪獣『機龍』だった。

 機龍は白髪の怪獣娘に覆いかぶさる形で自分を盾にして彼女を庇った。

『発砲中止!!発砲をやめてください!!』

 ヘリの無線通信から全隊員に向けてスーパーX開発主任の湯原が指揮権を行使して発砲をやめるように促すと正義の暴走ぎみな神子とは違って聞き分けよく隊員たちは発砲を撃ちやめた。

 銃撃を雨が止んだことを見透かした機龍は白髪の怪獣娘を抱きかかえながら背部のジェットノズルから燃焼ブースターを点火させ即座に上空を旋回するヘリよりも高い位置へ飛び立って一気に水平加速してどこかへと飛び去っていった。

 その様子を見ていた湯原は彼の名前を知っているように彼の事を誰よりも気づいて気にかけた。

「やっぱり…あれは“機龍計画”の…『機龍』…行方不明になっていたわけじゃなかった……と言うことは、変身者は……『アカネ』さん…」

 湯原は現場から逃走した機龍の飛行煙を見上げながら彼のことを女性名の『アカネ』と呼ぶほどに彼の秘密を知っていた。

―秩父盆地・河岸段丘―

 

 高推進力を行使してなんとか逃走した機龍だったが…ジェットノズルはバスッバスッと不規則な音を立てながら減速して高度も下がり山中の下流の河川に水飛沫をあげて墜落した。

 墜落しても機龍と白髪の怪獣娘は無傷であり、機龍は河川の流れに逆らって川岸に進み抱える怪獣娘を川岸の砂利の上に横たわらせた。

(はぁっ…はぁっ…一体、どうなっているんだ…僕の身体はどうなっている……なんなんだ、この手は…)

 機龍は自らの手を眺めて見ても鉄銀のように硬質で指先は鋭く、手先の感覚で全身を隈なく触れ回っても同じ硬さの身体、そして首から頭部、自らの状態を確認しようと川を流れる水面の中の自分の虚像を通して確認すると…その姿は鋼鉄の肌に黄色く光る鋭い目、額から後頭部にかけて伸びているブレードアンテナ、まさに怪獣、機械仕掛けのメカの怪獣が今の機龍の姿であった。

「どうなっているんだ、僕の姿は…なんなんだ、この感覚は…感触があるのに、水の冷たさを感じない…あれだけ暴れ回ったのに疲れも、乾きも、空腹すらもない……僕の身体はどうなってしまったんだ」

 思っていたことが言葉を通して出てしまうほどに自分の身に起きたことに対して激しい動揺が起きていた。

 “恐ろしい”、唯一つの感情が機龍を支配していた。自分と同じく正体不明のロボットの怪物を暴れるがままに嬲り、砕き、壊し、最後は貫いた感触までハッキリと残る…同じ機械仕掛けのものを手にかけた事への共感覚なのか、あるいはその姿が明日の我が身なのか、これから先をどう生きて行けばいいのかも分からない中で機龍は頭を抱えて砂利の上に転がり横たわる。

 押し寄せる言い知れない感覚に投げやりにも横向きになってみれば…ふと、自分が銃弾から庇って抱えて逃げて来た時に連れてきてしまった同じロボット怪獣の怪獣娘が目に入った。

「…君も…同じなのか……僕と同じ……苦しめない身体なのかい?」

 機龍の問いかけに閉じていた目を開いた怪獣娘は起き上がって機龍の傍まで赤子か這いつくばって近寄るように機龍の元へとやってきた。

「ゴモぉ…」

「…君、名前は?……僕は…桐生…シュンイチと言う名前らしい……コレが本当の名前なのかは分からないけど…」

「…メカゴモはメカゴモラ、ゴモ…」

「メカ…ゴモラ?……何かの怪獣の模倣品のような名前だね……僕も、きっと何かの模倣品なんだろう…だから、君を助けたいって思えたのかもしれない」

 機龍は思いかえしてもなぜこの少女を助けたのか自分でも分からなかった。

 単に同じ姿形を持つ者同士の共感か、同情か、少なくとも仲間意識での行為とは違うような何かが彼女と機龍を無意識に引き合わせたのは確かなようだった。

「ゴモォ…メカゴモ、キリュウ、助ける…」

 白髪の怪獣娘メカゴモラは機龍の手を引いて起き上がらせようとするが…体重差のありすぎる故か起こし上げられないようだった。

「君には無理だ…君に僕は重すぎる……そんなことしなくても僕は一人で起きれるよ」

 横になっているばかりもいられない機龍はメカゴモラに手を引かれながらも自力で重たい自重を起き上がらせて立ち上がった。

「ゴモッ…キリュウ、メカゴモと同じ…」

「…ああっ、そうだね…同じ、模倣の機械同士だ……これから先、どうするか…」

 機龍はメカゴモラの両脇に手を回して持ち上げると彼女を抱きかかえたまま辺りを見渡した。

「ゴモォ…メカゴモ、スリーブ…モー…ドォォッ…Zzz」

 抱えたメカゴモラは機龍の腕の中でゆっくりと休眠状態に入ってしまった。

 機龍もいつまでもこの場に留まるわけにもいかず、メカゴモラを抱えたまま機械怪獣2体、共に森の中へと消えていった。




アンバランス小話
『書類』

「92、93、94、95…先輩…あと何枚書けばいいんすか~」
 一方その頃、GIRLS東京支部では家庭訪問の仕事をサボっていたミク、ベニオ、ミカヅキは大量の書類仕事に明け暮れていた。
「ちゃっちゃとかけぇ~…前に備品ぶっ壊したときなんか千枚書かされたことがあるぜぇ」
「アカン、もう手がいとぉなってきたぁ~」
 完全に書類仕事に向かないタイプの三人が頬をコケさせながら書類仕事に向き合っていた。
 ただひたすらに文字の記入や文章のチェックと書類1枚と言えどやることが多岐にわたって多く3人の目も霞むほどに自分たちの何かが崩壊する辛さがそこにはあった。
 そんな鬱屈していた時に天からの恵みを怪獣娘が運んできた。
「お疲れ様です…どうですか、調子は?」
「アギちゃ~ん、手伝ってぇ~!!」
「ゴメン、手伝っちゃダメってピグモンさんに釘指されてるから…代わりと言ったらなんだけど差し入れでお兄ちゃんが作った料理だったらありますけど…」
 その施しを耳にするなり3人は突然立ち上がっていったんの休憩時間になった。
「アギちゃん、今度はどんな料理をユウゴさん作ってくれたの?」
「エジプトの『タアメイヤ』って言うそら豆のコロッケをパンに挟んだもの」
「アギラのお兄さんスゲェな!なんでも作れるのかよ」
「ほへぇ~そら豆のコロッケって初めて食うたでぇ」
 3人は辛い書類仕事の合間にやってきた恵みの前につかの間の笑顔を久しぶりに出たような感覚があった…が…
―グゥウウウウウウッ…
 事務室内でもハッキリと聞こえる恥ずかしいお腹の声が響いたが…
「おいおい、いくら何でも持ってきた本人がお腹鳴らすかよアギラ」
「えっ?ボクじゃないですけど…」
「それじゃぁ…だれッ?……ハッ!」
 嫌な視線を感じたミクが後ろを振り向くとそこにはジッと恨めしそうにこちらを覗いていたトモミがそこにはいた。
「ピッ…ピグモンさんッ!?」
 こっそり差し入れにかまけてサボっていた事とトモミに内緒でユウゴの料理に舌鼓を打っていたことに加えて…
「書類、追加ですぅ~」
「「「いやぁあああああああ!!」」」
 三人は絶句した。しかし、後でアキがトモミの分も渡したので書類は一部だけ減った。

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