TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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記憶 失った過去と忘れられぬ過去

 氏名欄に筆跡者の名が走る時、この私文書の効力は公文書となり“離婚”が成立する。私と彼女はこれで公的に夫婦では無くなった。

「……このような形でお別れする事になってしまい…申し訳なく、思います ツクヨミさん」

「……あなたが望んだことです…私が異議を申す義理もありません」

 我ながら夫婦同士の会話とは思えないほどに淡白だ。彼女はそう言って薬指に嵌めている指輪を外して私に返した。

「…結局、あなたのことを何一つも思い出すことが出来ず…私の事すらも…何も…」

「……ソレも気になさらないでください」

「……先生はお続けになられるのですか?」

「所属政党が県議会選を控えていますので…私も出馬する事になりました」

 この時の私は政治家『山陀ツクヨミ』としての名がようやく軌道に乗り始めて来た頃だった。2000年以上もこの国の政治に携わって来た存在だが、どの時代であっても政治と言う世界は変わらない。文明的な時間が進んでいても本質は皆一時代ともに同じだ。

「微力ながら…応援しています もう、この土地にはいられませんが…」

「……ここを離れて、どちらに」

 聞かなくても分かっている。分かっているが彼女を理解したい気持ちが前に行きすぎていたと今でも考える。

「……郡山の方で天城先生の元に参ります」

「……そう…ですか」

 返す言葉も出ない。本来であれば私が力になるべきなのに自分が人としての理から外れたばかりにいつの間にか人間としての感性すらも失っていると実感させられている。

 そして、ここに居る方は…もう“イザナ様”ではないと言う現実が私に喪失感を与えた。

「…ツクヨミさん……どうか、お元気で」

 そうして彼女は荷物をまとめた手提げカバンと共に私の当時の自宅であった福島市内のマンションを出て行った。

 彼女の顔はそれ以来、私の見た元妻の最後の素顔だった。アレが本来、人として生きることを決めた『蛇塚ミカミ』その人の素顔なのだろう。

 世田谷区内

―外務省関連施設:通称『洋館』―

 

「――元妻とは言え、今でも私にとってはかけがえのない方に他なりません…彼女がもし本当に罪を伴うのであれば私もその罪に向き合う気持ちはありますよ」

 現外務大臣である山陀ツクヨミは執務室の大臣席にて書類にペンを走らせてサインを記載する中、元妻蛇塚ミカミに対する今でも抱き続ける想いを語り明かしていた。

「御気持ちはお察しいたします…では、面会をご希望は?」

「…新たに出発した彼女の人生ですので、それ以上の接触は私の本意ではありません アナタに託すのはこの紙1枚のみです」

 ツクヨミは書き終えた書類を相手に手渡したが…

「これで、この施設は外務省の管理から離れ土地も国有地ではなくなりました…あとはあなた方の御好きになさっても構いません…近日中には引渡し可能になるかと」

「…わかりました、ではこれにて弁護費用の一切は免除といたします 零門先生と倉田先生の弁護費用につきましては敷島の方から御出し致します」

「ありがとうございます 彼女の事、宜しくお願い致します…敷島先生」

 現外務大臣のツクヨミが深々と頭を下げて蛇塚ミカミの弁護を託した相手は…敷島ソウジロウであった。

「お任せください…あなたの奥様が、無罪に致します」

 今日この場で行われていたのは蛇塚ミカミに対する裁判上の手続きと弁護団への報酬交渉のみであった。

 アキの自宅マンション

―アキたちの部屋―

 

 グツグツと煮えたぎる鍋を囲んでアキと蛇塚は何故かアキの自宅内で卓を囲む。

「うぅぅんッ…」

 そして、その先には俯き気味に悩む天城ミオが首を傾げていた。

「……どうして君たち兄妹は私の断りも無く知らない女の人を家に連れ込むかねぇ~」

「変な誤解を抱かないでよ、ガーゴルゴンさんはGIRLSの指示でボクが保護監察担当になっちゃったんだから…怪獣娘保護プログラムの一環で前にザンドリアスって言う子が街で暴れた時もレッドキングさんが面倒を見ていたって言うし…」

 怪獣娘保護プログラムとは暴走した怪獣娘が現役のGIRLSの怪獣娘と共に行動して怪獣能力の抑制と制御を学ばせるパートナーシッププログラムであるが、今回の蛇塚の場合は事件が事件なだけあって裁判で争われるほどの事態である故にワンランク上の怪獣娘保護“監察”プログラムに切り替わった。

「ふ~ん…GIRLSにもいろいろなプログラムがあるのね まぁ、寧ろこのミオさんが現れたことによって立ち上がったGIRLSだもの…実質、このミオさんのおかげと言っても過言ではないだわさなぁ~」

 やたら無気力なまでにオタマで鍋をかき回すミオだが…

「ところでミオさん…さっきからなんなの、その鍋料理は?」

 蛇塚を連れて自宅に彼女を招いたアキは家に入るなりミオと鍋がセットで揃った状態のリビングに直面して今に至っている。

「ふふふ~、コレはネェ…ミオさんの故郷福島から送られてきたアンコウをふんだんに使った料理なのだぁ~」

「テメェがアンコウ丸々一匹分をウチの店の冷蔵庫に入れようとしたところに出くわさなきゃこんなことにはならんかった…料理してやる俺に感謝しやがれ」

 調理はやはりキッチンから顔を出したユウゴであった。ミオは悪びれもせず『許しテレスドン♡』と平謝りであったが…

「あら、もしかして『アンコウのどぶ汁』ですか?」

 すると、鍋を見るなり蛇塚からその鍋料理の名前が口から出て来た。

「…えっ?『アンコウのどぶ汁』、知ってるの?」

「はい、福島に居た頃よくお店で食べていましたから…」

 それを聞いたミオは握っていた手にするオタマは緩み落ちた。

「エ~~~ッ!?ウソッ、福島のドコ何処ッ!?」

「結婚した頃は福島市内に……」

 郷土人あるある:同郷の事になると何か嬉しい。

「私、竜ヶ森!高校は須賀川だったけど」

「あら、竜ヶ森のご出身の方だったんですね…あそこの竜ヶ森湖の周辺は朝になると幻想的ですよね」

「そうそう!あそこの湖って朝になると霧が濃くなるから小さな子は朝に竜ヶ森湖に近づいちゃダメって言われて『怪獣ベムラーに攫われるぞ』ってお年寄りの有名な脅し文句でさぁ~…まぁ、そのベムラーが私なんだけど~」

 郷土人あるある:地元話に華が咲くと周りを置いてく。

「――と言う事はミオさんとガーゴルゴンさんは同郷なの?」

「ええっと…私は生まれが福島と言うワケではないのかもしれません…記憶を失って気が付いた時には福島市内で警察に保護されていましたので…」

「えっ?あなた、記憶喪失の身元不明者なの!?」

「はい…名前も、住まいも、どうやって生きていたのかもわからず…今の名前も保護されたときに知り合った婦警さんの地元に有名な『蛇塚古墳』と言う史跡から取っていただいて日本神話で神様の名前を『みかみ』と表す綴りから取って『蛇塚ミカミ』と戸籍登録させていただきました」

 記憶を失くし、宛ても分からず、自分の素性さえも何一つわからない蛇塚ミカミにとって知りえる地域は記憶を失ってから得て来た物ばかりだ。そんな人生の中でどのようにして生きていたのか、どのような思いを抱えて生きているのか…アキはまだ蛇塚ミカミを知り得ていなかった。

「ガーゴルゴンさん…」

「そっか…大変だけど、旦那さんやいろんな人の支えがあって今のアナタがあると私は思うわ」

「ええ…もう離婚してしまいましたが…」

 野暮なことをフォローしたつもりがさらに野暮だったことに衝撃を受けてミオは口に含みかけていたお酒をブゥーッ!?と吹き出した。

「…ウゲッ…お酒かかった、ミオさん…」

 そしてその飛沫はアキに被弾するのであった。

「りっ…離婚ッ!?なんでッ!?」

「喧嘩別れではなく…元々は結婚したお相手が私の身元引受人でしたが、けれどもその方のお仕事が当時県議員でして県議の仕事と私と言う家庭と同時に記憶を失っている自分という病人…重荷は明らかに私自身であるとしか考えられず 自分から去りました」

 決してうまく行かなかった結婚生活ではなく、結婚生活上の問題ではなく蛇塚自身が夫の身を案じての“離婚”であった。

 すると突然、ミオは蛇塚に飛び上がって抱き着いた。

「わかるわぁ~!!辛かったよねぇ~!!そうよッ、男なんて女の身にもなれずにホイホイと仕事優先しがちになるから女が後進して引いてやらなきゃ女の大切さなんて分かんないのよぉッ!!」

「ミオさん、酔ってる?」

 泣き上戸になったミオを目の当たりにしたアキは保護監察対象を逆に困らせる結果となってしまい申し訳なさが勝ってしまう。

「まずお前は結婚してねぇだろうが」

 未だ既婚に至っていないくせにミオがなぜ蛇塚に共感を抱いているのか呆れ気味に横やりを入れて来たユウゴに対して…

「うるさいやいッ!女の気持ちが分からない人は私たち独身者の気持ちなんてわかるもんですかッ!」

「えっ、その中にボクも含まれてる?」

 すると、ミオは両脇に蛇塚とアキを引き寄せた。

「言~っておきますけど~、アンタはまだ彼女と付き合っているってだけですぅ~!独身である事にはまだ違いありません~!!アンタが独身である以上、私たち“ライトシングルシスターズ”とポジションはかわりませんからぁ~!!」

「ねぇ、それやっぱりボクも含まれてるよねぇッ!ねェッ!?―うぐぐッ…力つよッ!?」

 仲間扱いされているアキは今すぐにでもミオから引き離れようとするが予想外のパワーに引き剥がれない。恐るべき独身者の強制的な結束力だ。

「だったら飲まずに出て行け、ごくつぶし」

 ミオの態度に腹を立て額に血管を浮き出したユウゴはアンコウ鍋の横にある福島県産の日本酒を下げ出した。

「わぁ~ッ!ごめんなざいッ!言い過ぎましたッ!ミオさんのお酒だけはもっていかないでぇええ~!!」

「てめぇ、知り合いの医者に止められてんだろうが!これ以上は飲み過ぎなんだよッ!!」

「いやぁあああ~!!見捨てないでェエエ!!ミオさんからお酒を抜いたら何が残るって言うのサぁッ!!」

「他に有れよ!オマエの頭の中は酒だけかッ!」

 必死にミオはお酒を持っていこうとするユウゴの肩脚にしがみついてまで抵抗する様は身内ながらアキの顔を日田隠させるほどの恥じらしい光景であった。

「ごっ、ごめんなさい…騒がしい家で…」

「いえ、大変愉快なご家庭なんですね」

 しかし、蛇塚はこれと言って気にはしていなかった。

―ピンポォオン…

 すると玄関先のインターホンからこんな夕飯時には来るとは思わない予期せぬ訪問者が玄関前にやって来た。

―ガチャ…

「はい?」

「こんばんは、アキ君」

―バタンッ!!

 その人物とはユウゴと最悪の仲である叔父のソウジロウであると認識するなりアキはすぐさま扉を閉めた。

「ごめんなさい 叔父さんッ!なんでこのタイミングに連絡も無くやって来るのサぁ!?」

「アキ君、開けてくれないかな?私は君に用があって来たわけでは無い…弁護する蛇塚ミカミさんに御話があってやって来ただけだ」

「帰ってくださいッ!今じゃなくてもいいでしょ!?ホントに…今にもお兄ちゃんが酒瓶を持って飛び出そうとしてるからッ!!」

「やめてぇええ!!ユウゴくぅぅん!!お姉さんのお酒は武器じゃないからぁああ!!」

「うるせぇえッ!どけッ、アキィイイッ!!」

「ダメぇえええ!!」

 

 

 ひと悶着あってようやく家に招かれたソウジロウは食卓上の鍋を挟んで蛇塚ミカミと対面する。その隣の三人掛けソファーで酒瓶を抱えたまま今にも殴りかかりたい気持ちを押さえ続けるユウゴと左右でユウゴの両腕を絡ませ押さえるミオとアキが見守る中であった。

「えっ…ええっと、私に…何の御用でしょうか?」

「はい、あなたの裁判をするにあたって精査するべき点を一つあなたに伺いたく参った所存です」

「…私に何かお力になれる範囲であればお答えします」

「もちろん、お答えできない質問でしたら返答しなくても構いません…それでよろしいでしょうか?」

「はい、それで…ご用件とは?」

 わざわざ食事時間近なタイミングで押しかけて来たソウジロウが何を蛇塚ミカミから聞き出そうとするのかアキとミオ、そしてユウゴも聞き耳を立てた。

「…ではお聞きします…蛇塚さん、あなたは宗教法人『蒼き救世』の御関係者ですか?」

 その質問に対して、蛇塚は……首を傾げた。

「蒼き……救世?」

 蛇塚は何も知らないような素振りを見せるがアキとユウゴも黙って聞きながらもその存在は知っている…が、一番激しく動揺する人物が一人いた。

「……失礼しました では、十年以上前に城北大学の天城元教授にお会いした事はありますか?」

「天城…元教授?…あぁ、もしかして天城先生の事でしょうか?…その方となら離婚した時期に数度だけ郡山市内の市役所窓口でお話を伺いに参った事が何度か」

「その後は?」

「先生のツテで東京都内の高校で非常勤講師を務めたので今の仕事のきっかけになっていただいた人…かと…」

 蛇塚にも感じ取れる気配、それは只ならぬ雰囲気がこれ以上の会話を進める内に何か良からぬ結果を招く気がしてならなかった。

「……続けます、その天城“先生”がとある宗教法人を開き…後に逮捕されている事はご存知でしょうか?」

「えっ!?あの天城先生が…逮捕…されてらしたのですか?」

 その様子は…初耳らしい反応だった。驚く様子に蛇塚自身は噓偽りのない確かな驚愕を得ている。

 しかし、話を進める内に顔向きが俯き陰る者もいる。

「…罪状は詐欺罪、祈禱料と称しての高額献金を信徒や相談者に課して常習的に行っていたとされ起訴 現在は当時の社会的認知度から考慮され改正刑法第266条確定囚所在隠避制度の元で二審判決後の長期禁固刑にて現在も収監中です」

「そん…な……そう…ですか…」

 やはり何も知らなかった様子に変わりなく、寧ろ何処か顔を見知っている人物が捕まっていると言う事実に心を痛めてもいる様子が見受けられた。

「……私は今回の裁判、その天城先生を法廷に証人として出廷してもらいたいと思っています」

 その場にいる全員が驚愕する。最も一人は冷静ながらも何か思う所があるのか突然に立ち上がった。

「…んっ?天城ミオくん…何か?」

「えっ…天城…って」

「あぁ、そうでした…こちらにいらっしゃる天城ミオくんこそ、その天城教授が唯一“現人神”として宗教法人を立ち上げることになった娘の天城ミ…オッ」

――パァアアン!!

 おそらくその握りしめられた拳はソウジロウの頬に向けて振り被る一撃だったのだろう…ミオの左拳はユウゴの右手に強く握りしめられて暴力的かつ感情的な怒りが彼女を襲っていた。

「放してッ!ユウゴ君ッ!!放してよッ!!」

「……このクソ野郎を庇うつもりはねぇが…アンタを一時の感情に任せて暴行犯にする気はねぇぞ」

「さっきまで叔父さんに瓶で殴りかかろうとした人が言う事なの?」

 ユウゴの手に握りしめられてやり場のない怒りはユウゴの胸元に何度も打ちつけるがそれでもユウゴはミオの怒りを受け入れ何も抵抗を示さない。

「べっ、弁護士さん…その天城先生の件は一旦置いて…天城先生を法廷に出廷させる根拠は何ですか?」

 ミオの様子を見かねた蛇塚もミオの父親の件の保留を願い出し、話を続けた。

「…根拠ではなく客観性です 天城元教授には彼が逮捕される前、つまりは宗教法人を開く以前に市のボランティアで相談窓口を開設していた時期の頃のアナタのことを法廷で証言していただきたく思います」

「アキ、コイツを押さえてろ」

 ユウゴは荒れ狂い終えて少し落ち着きを見せたミオをアキに託した。

「つまるところ、お前はその元教授をダシに使って裁判印象をひっくり返すつもりか?」

「…口は悪いが、察しが良いな ユウゴ」

「お前は…裁判に勝つ為なら何でもするクソ野郎だからな、納得の行く裁判進行がそうとしか考えられん」

「無論、弁護士の本懐は裁判に勝ち、依頼人を無罪にすることのみだ…過去の重大事件と蛇塚ミカミを関連することが何一つもない事を証明する為に元教授を出廷させる所存だ」

 ソウジロウに善意も悪意もない、ただ裁判に勝つ以外のことをしないからこそソコに纏わる個々の心情まで考慮をしない非情性から来るものがユウゴにもミオにも不快感を抱かしきれなかった。

「…どうしてッ!!どうして今更お父さんを苦しめるのッ!!お父さんは…お父さんは…十分に罪を償い続けているじゃんッ!!」

「無論、それは百も承知だ…だが、本当に君は父親のことを信じているのかね?」

「えっ…」

「なぜ、君は“兄”から探偵業を引き継いだにも関わらず自分の父親に関する調査を自ら打ち切っているのかね?」

「えっ?」

 それはアキも驚くほどの事実だった。ソウジロウの兄、そしてユウゴとアキの父親でもある宮下ゴウイチロウの職業が『探偵』であることに目を丸くした。

「知ってたの、お兄ちゃん?」

「いや、知らん…親父が居なくなった時期はオレが5、6歳の時だ それまでお袋からも親父の事は遠くの方で仕事をしているくらいにしか聞いていなかった」

「義姉さんなりの配慮だろう…探偵業は秘匿性が第一だから兄はそれ以上に家族間にも秘め事が多い男だった」

 ユウゴとアキの父親が探偵業をしていたと語るソウジロウだが…

「そんなことはどうでもいいわよ!…どうして、また…お父さんを法廷に呼ぶ気なのって聞いているの!!」

「言っただろう…裁判に勝つ為 これ以上は裁判前に支障が出るから話す気はない…が」

 そう言うとソウジロウはスーツの内ポケットに手を入れて取り出したるは一枚の紙であった。

「そこまで父親に固執するのであれば、これで確かめに行くといい…君への調査依頼の前払いだ」

「わっ、私が調査を…」

「調査対象は…『蒼き救世』の調査だ」

「――ッ!?」――パァアアンッ!!

 金銭にがめついミオが提示された小切手を持つソウジロウの手を払いのけて激しい拒否反応を示すほどに『蒼き救世』関連の調査は拒否をした。

「冗談じゃないわよッ!あの件は私だけじゃなく…イチゴのおじさんも再三にわたって調べ尽くしたッ! でも…言い訳のできないほどに確実な証拠が多すぎる…多すぎるのよ」

 ミオの絶望感は父親の罪が揺るがぬほどに確固たるものであることが伺えた。

「……ミオさん」

 アキは小切手を拾い上げてミオに差し出した。

「…どれだけできることがあるか分からないけど、やれるだけやってみようよ」

「わっ、私でよろしければお力にもなります…私はアキさんの傍を離れられないので仕事も休業中の身なのですし時間はまだあります」

 アキと蛇塚が自らに協力を願い出た。

「…決意が決まったようだな」

「おい、待てよ…これだけ引っ掻き回しておいてわざわざそれを言いに来ただけか?」

「…私はヒントを与えたに過ぎない…そのヒントを造ったのは他でもない、私の兄であり、君の父親だった男 アレはいつもそういう男だったからこそ私もそれに倣って見てみなければあの男の全貌が見えてくる気がするだけだ」

「……トリックスター気取りが」

 ユウゴにとってソウジロウとは相容れなければ未だに会った試しの無いのにここへ来て存在感を露にした実父の存在に実体を伴わない存在に対する怒りの様な感情が自分の中で渦巻いている実感を植え付けられているようだった。

 それは正に遅咲きの父親らしき存在に対する反骨心なのだろう、そんな回りくどいことまでしているソウジロウに抱く嫌悪もおそらくは同様の感情だ。

「…フンッ、気に食わん…お前らごときじゃ大した成果があるとは思えん 不本意だが俺も手伝ってやろう」

「ユウゴくん…アキちゃん…同郷の人…ありがとうッ…このお金は、責任を持って私が倍にしてくるから待っててね!」

 ミオは巨額の小切手を握りしめて今にも増やそうと言う明らかに確実性の無い増やし方に向かおうとするミオに対しユウゴは腕と脚を絡めてコブラツイストで彼女を制止させた。

「さっきまでの父親想いのオメェは何だったんだ、ゴラッ!」

「ぐぇえええーーーッ!!」

「小切手はボクが預かりますの…でぇッ!」

 アキは金で人が変わるミオから金の元を取り上げた。

「ええっと、いつもああいう感じなのでしょうか…」

「行動力のある人は金で溺れやすいのであの二人が天城ミオのストッパーにちょうどいい効果を生むだけです…さぁ、アンコウ鍋がよく煮えていますよ」―パシンッ!

《アウチッ!》

 ちゃっかり蛇塚とソウジロウはガスコンロ上で土鍋の中に煮えるアンコウを取り分けるが…今にもアンコウ鍋にベーコンを入れようとするビーコンの菜箸からベーコンを叩き落とした。

―翌日―

 

 新宿区内

 

 それはまるでながらく訪れていないと思われていたミオの探偵事務所『ブルーコメット』が所在する雑居ビルだった。

 そのビル前にミオたちは訪れていた。

「ここに来るのも随分と久しぶりだな~…普段はユウゴ君の家に入り浸っているから…ちょっと新鮮」

「鑑賞に浸っている所を悪いんだけどさぁ…それでミオさんが過去の調査記録を調べるからってここに来たのに、その記録って事務所にあるの?」

「慌てなさんな、慌てなさんな、皆まで言うでない…場所はここじゃなくてコッチ!」

 するとミオは事務所から真向かいにあるミオの探偵業では養えない時に働くピザ屋『BEAST THE PIZZA』の前に向かった。

「えっ?ここってミオさんが働いてたピザ屋さんだよね?」

「なんだ?探偵職を辞めてピザ屋にでも再就職する気にでもなったか?」

「なワケないでしょうがッ!…んんっ!いいからついて来て」

 気を取り直した咳払いと共にミオを筆頭にピザ屋の店舗に入って行く一同だったが…

「あらミオちゃん…また探偵で食べれなくなったの?」

「店長まで…違いますよ!!」

 とうとう店の顔見知りである女性店長にまで揶揄われる始末だが…

「…店長…ターキングピザ・ハラペーニョ多め・サラミは抜き、だよ」

 その言葉を聞いた女性店長は顔が険しくなった。

「……ついにこの日が来たんだね…わかったわ、こっちに来て」

 女性店長は何やら事情を知る様子でミオたちを奥の部屋へと招いた。

「ここよ、アレから数年と封印してきたけど…ミオちゃん以外を入れるのは今日で最後になる事を願うわ」

 女性店長はポケットから鍵の束を取り出してそのうちの1つの鍵に鍵穴を通して開錠すると…部屋の中は薄暗くて外の光も届かない闇に満ちていた。

 女性店長が部屋の電気スイッチをパチンッとつけると中は数多のファイリングされた記録帳で埋め尽くされていた。

「すごい…これ全部、お父さんが調べた調査記録なの?」

「そうよ…ここの店長さんとは食い扶持の関係ってだけでなく有力な情報提供者でもあるの そして、その関係は私の探偵業の前任者…宮下ゴウイチロウ、つまりはアキちゃんとユウゴ君のお父さんが調べ上げた『蒼き救世』関連の調査記録なのよ」

 この戸棚1台分にギッシリと詰め込まれた調査記録が棚数台分に渡って保管された部屋から『蒼き救世』に関する記録を探るのにどれほどの途方もない労力を費やすことになるかなど想像に尽くしがたい。

「ひぇ~…なんでこんなにも大変なものを残していくのさぁ、お父さん」

 今はどこに居るのかもわからない父に対する恨めしい感情を抱きながらも『手伝う』と豪語した手前にあと引けないアキは渋々部屋に入ろうとした時だった。

 部屋を前にして女性店長が入ろうとするアキたちを前にドアの縦枠に手を付いて塞ぐ。

「入る前に…あなた達に確かめたい事がある」

「えっ、どうしたの 店長!?」

 いままで入る時、このように入口を塞ぐような真似などしたことのない店長の豹変…それは今日ここにミオ以外のアキ、ユウゴ、蛇塚がこの部屋の敷居をまたぐことになる。それがいつもと違うからだった。

「…ここにある調査記録はねぇ…『蒼き救世』から受けた被害者たちの無念の記録なの、『蒼き救世』が行ってきたこと、新興宗教の全てが悪と決めつける気は無いけどね 人を不幸にする宗教はこの世にごまんと居る」

 店長はなにやら『蒼き救世』に対して並々ならぬ思いを抱いているようだった。

「歴史を見ても…宗教はいつだって人々を不幸にしてきた、信じれば救われるだの、神を信じなければ天国にはいけないだの、先祖の行いが子孫にまで及ぶ呪いだの…耳障りのいい言葉で人を騙すことは悪魔もできない人の所業 人間はいつだって『信仰』に支配されて今もなお苦しむ人が居る、私はようやく立ち直れたけど…娘は…未だにウチの子ども部屋から出ようとせず塞ぎ込んだままいるのよ」

「店長…」

 『蒼き救世』が行ってきた罪はミオのすぐ近くに居たことをミオ自身が身を持って実感させられた。

「『蒼き救世』が行ってきた罪で、瞬く間に解散命令請求が下って、世間ではもうバッシングを受けて…後ろ指を刺され続けてきたことなんて数えられないわ」

「…………」

「でも、そんな時…『教授先生』に出会って…なんとか仕事に在りつけて…気づけば自分のお店を持てるまでに持ち直せた……あなた達のお父さんのお陰でね」

「ボクたちの…お父さん?」

「あんた、俺達の親父を知っているのか?」

 そう聞くと女性店長はユウゴの傍に近づいて背丈の高いユウゴを見上げた。

「…丁度あなたぐらいの良い人だったわ…でも、教授先生には無い“影”を感じるわ」

「…俺と親父は別々の人間だ…考え方も価値観も違う お袋から親父の事は断片的にしか聞いた事が無いが…“探偵”か、あの親父らしい仕事だな」

「……そう、お母さんにとっていい人であり、いい父親だったと思うわよ」

「フンッ、ソイツはどうかな 案外、碌に家にも帰らないバカ親父に蹴りの一つでも入れてたんじゃないか?」

「フフフッ、かもね わかったわ、好きに調べなさい…ミオちゃん、好きなピザでも食べながら資料に目を通しなさい」

「てんちょ~ッ!!」

「ただし…強い覚悟を持った方がいいわよ、『蒼き救世』の闇はあなたが思っている以上に深い業があるわよ“元・現人神ミオ”」

 久しぶりにその呼ばれ方をしたミオは息を飲みこんだ。

―ブルーコメット探偵事務所―

 

 それからミオたちは向かいのピザ屋から数多のピザと数多の調査記録を事務所内に運び込んで4人で手分けして調べ上げる。

「宗教法人『蒼き救世』…元城北大学古代文明学教授が娘の天城ミオ(当時:6歳)を現人神信仰から基盤とする新興宗教として設立する…――」

「初期の『蒼き救世』はまだ宗教色は強くなく…拠点は二本松、郡山、須賀川を転々としたいくつかの個人所有地で構成されていた…――」

「幹部は天城ミオの父親を『神官長』とした役職を始め、幾人かの幹部職である『神官』たちで構成され各支部を統括していた…――」

 ソコにはミオの父親が開いた宗教法人の全容が事細かに記載されていた。

「――――ッ…すぅ~……――『蒼き救世』が明確に変貌を遂げたのは支部の増加期に当たる…最盛期の信者数は福島県内の各支部の合計約2000人…信者ではない準信者は県外だけでも3000から4000規模と公安調査庁が後に発表…その頃から急激に信者からの高額献金化が加速した」――パタンッ!

 一番読み込みが遅れているのはミオの方だが、無理もなく彼女はその宗教法人の中心核である。自分が今まで知ろうとしてこなかった父親の悪行に目が霞んでしまうからであった。

「…ビーコン…次ッ」

 ミオは目を手で多い隠しながらもファイルを床に落とすと何故かその下には無数の小さなビーコンの分身体がファイルをキャッチしてセッセと運び次のファイルがミオの所長席にまで小さなビーコンたちが運び上げる。

「……ミオさん、辛かったら無理しないで休んで」

「そうです、私でも…先生の行いを受け入れるには時間がかかります、天城さんが無理なさる必要はありませんよ」

「…心配してくれてありがとう、二人とも…でもコレは私が誰よりも目を通さなきゃならない事なの 何度も見ても目を背けたくなっても…見る事を諦めちゃダメなの」

 それでも無理をしているのは明らかにミオの方である事は明白だった。

「……なら、見て思い出すよりも…話してみたらどうだ?」

 ユウゴは読み終えた調査記録を閉じて新たな提案を告げた。

「話すって…何を?」

「お前自身から見た…『蒼き救世』がどんな組織だったのかを、だよ 具体的には初期の頃の二本松、郡山、須賀川を起点にどんなところでどんなことをしていたのかくらいは俺達に話せられるだろう」

 意外にもユウゴの提案は的を射っていた。確かに無理に調査記録を目に通すよりもミオの思い出話として消化しながら『蒼き救世』についてまとめてみるのも手であった。

「…そうね、あの頃の『蒼き救世』は本当に怪獣の魂を持つ私を神様だと信じてやまない人たちで構成されていたけど、多くはお父さんくらいの年代かお年寄りが中心で私の世話役はもっぱら美男美女に奉仕~っと行きたい所だったけど実態は口うるさいジジババに面倒見られていたわ」

 そうするとミオはスマートフォンの地図アプリを開き、マップピンを3本、二本松、郡山、須賀川の三地域をピン止めしてアキたちに見せた。

「この3地域は元々福島県内でも電車1路線で行き来できる事から初期3支部地って言われていたの…二本松は道場目的のお寺があり、郡山は事務的な本部運営が行える雑居ビル、そして須賀川は食料品や生産食品を確保するための補給地でいくつかの畑や商店を持つ信者さんが多く居住していたって聞いているわ」

 ここでふと疑問に思ったことをアキはミオに尋ねた。

「ミオさん、学校はどうしてたの?…ミオさんは探偵業をやれるだけの学力ってどこで得たの?」

「明確に“現人神信仰”を打ち出し始めた時期に私の小学年の歳までには通信制教育の学校…父は“現人神”に対する信仰心あってもそこは娘である私の教育方針は意外としっかりしてたわ…“現人神”として娘を奉るような宗教組織の子なんて純粋残酷な小学生は私をイジメにかかるってわかっていたと思う…だから初期は秘密裏に新興宗教の現人神ミオとして過ごさせる計画だったみたい」

 意外にもミオが小学生までは秘匿的な活動方針だったことに驚かされた。

「高学年くらいの歳に上がった頃に明確な“宗教法人”を獲得して現人神信仰の宗教法人を表出したって感じ…その頃までは郡山の通信制学校だったから学校に顔を出さなくても家で課題、試験は学校生徒の居ない土日の教室でって感じかな」

「…宗教法人って…何なの?法人って言うのは会社とかに付けるよね?」

「そうね、アキちゃんにはまだ難しい話かもしれないけどアキちゃんのイメージ通りで確かに法人ってのは会社などの組織や団体がつけるのは『一般社団法人』、でも蒼き救世のような信仰的な宗教にも法人格が付くのを『宗教法人』と呼ぶ…コレは行政が組織上の人格性を認めて財産などの保有を認める権利が発生してくるから法人格には様々な恩恵があるの」

―おしえレイ!―解説:零門レイ弁護士

 宗教法人には『宗教法人法』に定められた様々な制約をクリアした団体にのみ与えられる法人格です。宗教上で必要なお布施や賽銭に祈祷料などはすべて非課税となり他にも拠点とする神社やお寺の敷地・建物の固定資産税、財産や運営権などの相続の際の相続税も非課税になりますが…

 “収益事業”からなる発生利益には課税対象で主に民宿事業や駐車場業、賃貸不動産業、物販などにも課税対象で物販に関しては消費税も勿論発生します。

 税制上の非課税は多くても免除はありません。劇中より少し未来あたりで起きる“解散命令請求相当の宗教団体”ではこれらの制度を悪用して高額請求や霊感商法などを用いた民事問題が多く発生している事から法改正が随時進んでいるかと思われます。改正内容につきましては政府公開上の特設サイトをご覧ください。

 

 監修協力:ZAP法律事務所他

 参考省庁:内閣府・法務省・文部科学省・文化庁・消費者庁各ホームページより

 

「ンンッ!!…と・に・か・く、父の宗教法人運営は本格的な方針だったと思う……でも父もそうであれば私を信じた信者さんたちにまで負の感情が及んでいることはさっきの店長の様子でわかったでしょ」

「…そうですね、事情を知らなかったとは言え天城先生がそんな事になっていたなんて知りませんでした」

 初めて明かされたミオの父が起こした宗教の方針と娘への教育方針の熱心さに大きな違いが見受けられる中、『今、変な解説入ったよね?』『しらん』とアキとユウゴは蛇塚たちの背後で語る。

「お布施や祈禱料は毎年収支報告書を行政に提出しているし、事業報告書も問題はなかったはずなのに…何故か裁判ではそれらが高額費用にすり替わっているところまではイチゴのおじさんも調べは付いているみたいだけど…」

「そのすり替わった時期までは特定が難しい…ようだったな」

「ユウゴ君の言う通り…宗教法人の拡大化が始まった時期だから裁判上の争点は『組織拡大運営のための高額献金』と言う名目が嘘で実体は『献金費用の私的流用』と言う筋書きで一審は執行猶予なしの長期禁固刑、もちろん異議申し立てを起こして…」

「2年後に二審では…判決覆らずの長期禁固刑、確定か」

 最後の調査記録を調べてもミオの父親が辿る末路は依然として変わらず…しかも当時刑法の改正がされたばかりの新法の『所在隠避制度』が施行された時期でこの法律は実刑が確定された確定囚が親族、加害者関係者、被害者及びその関係者、果ては報道関係者にも一切の収監先を明かさないと決めた者に決める権利のある制度で今後一切誰にも会わないと覚悟を決めた受刑者にのみ適用される。

「いずれもやっぱり再三私が目を通したことに変わりないわ…初期と後期の頃に変わった高額献金化がもし誰かが考えた筋書きでも客観性と被害実情が明白にあるなら裁判所の判決が正しくなる」

「おそらくは…その筋書きを考えたのは当時の検察だろう、やつらのハードパワーを感じるが…ここにアイツの名前はないし、一審二審も別の検察官だ」

 ユウゴにはこの一連の調査記録にはどうにも検察が考えそうな筋書きを感じざるを得ない。一審二審の検事がソウジロウとは違う人物だとしても結末は同じとしか思えなかった。

――ガタンッ!

「ワッ!?」

 突然の物音にアキは背後から落ちて来た物が何なのか…後ろを振り返って見ると元々壁に取り付けていたと思われる額縁らしき物が床に裏返しで転がっていた。

「あぁ~、ゴメン…そこの壁どうにも建付けが悪くてさぁ…よいしょっと」

 ミオは落ちていた物を拾い上げると…そこにはミオに何処か似ているような雰囲気の美人画であった。

「その絵…ミオさん?」

「うんうん…コレはネェ、私のお母さんがモデルなの」

 言われて見ればミオのようなミディアムヘアと同じ髪型に顔立ちも同じくらいの女性ながらその雰囲気はどこか慎ましさを感じる。

「…綺麗なお母さんだね」

「うふふっ、ありがとう…生まれて間もなくに亡くなっちゃったけど、これと言った写真もない人だったからこの絵はある意味お母さんの形見みたいなものなの」

 しばらく眺め、思いに耽る中…ミオは母似の美人画を元に戻そうとした時だった。

「待て…」

 絵を戻そうとした時にユウゴがミオを引き止めると壁をノックして確かめる。

「…それはいつから飾ってた?」

「えっ?…ずっとだけど、なんなら君がウチで厄介になっていた時からあるよ」

 何度もノックして壁を確認するユウゴは次第に表情険しくなり何かに気付き始めた。

「……ここに何かあるぞ」

「えッ!?」

「――フンッ!!」

「ギャァアアアアアアッ!ウチの壁がァアアアッ!!」

 壁の中にまで埋めてある物に感づいたユウゴは手を一瞬だけゴジラに変化させて突如壁を殴り、壁に穴を空けた。

「…やはりあった、この中の調査記録とは別にもう一つの調査記録が」

「「ええええーーーッ!?」」

 アキとミオはまだ隠されていたもう一つの調査記録のファイルが壁の中から出て来た。

「いつのいつのッ!?」

「日付から見て…4年前、お前とオレが出会う前の時期だ」

「4年前って…私が事務所構える1年前じゃん!?」

 その隠されていた調査報告書には『第3審 秘匿裁判』と記載されていた。

「秘匿…裁判…って、なに?」

「『所在隠避制度』と同時期に法改正されて出来た刑法267条項『秘匿性最高裁判』だ…三審制である日本の刑事裁判で特定の社会的注目度が高い事件だけ三審に限り非公開裁判が行われるらしいが、なぜ親父がそんな裁判の調査報告書を?」

 日本の法曹上けっして表に出る事のない裁判を調査報告に記載している…それが一体何を占める内容なのか…ユウゴは見開いて内容を改めて確認した。

「………通りで違う材質のコンクリートで固めて壁に隠していたワケだ、コイツは裁判を調査するための記録じゃねぇ 裁判の“証拠”とする為の調査記録だ」

「どういう事よ、ソレッ?」

「ここには裁判で争われた『蒼き救世』の経理清算帳簿と収支報告書には無い…天城神官長が高額な献金を何に使用したのかが記載されている」

「おっ、お父さんの献金使用記録ってことッ!?私にも見せて!」

 ミオはユウゴから新たに現れた調査記録に目を通すと…ソコには確かにミオの父親が何に“私的利用”して献金が何処に流れたのかが記載されていた。

「…“怪獣娘保護プログラム”…寄付ッ!?」

「怪獣娘保護プログラムって…GIRLSの制度のこと?」

「いや、以前メルから聞いた事がある GIRLSが発足する以前にGIRLSは元々組織じゃなく『怪獣娘保護プログラム』って言う民生制度が基盤だったって…でも資金集めが難航してうまく行かずマコちゃん先生たちが途方に暮れていた時…とある財団法人が個人名義で送られ続けていた巨額の寄付金でようやく制度の樹立にこぎつけたって」

「つまりところ…お前の親父さんの献金の私的利用は私利私欲によるものではなく、怪獣娘、ひいては怪獣能力者全般を支援するために資金を流していたと言うワケか だが、検察にとって私用目的であることに変わらずに事実はどうあれそこを突っつきお前の親父さんを有罪確定にした」

 どれだけ綺麗事な使用用途でも結局は私用に過ぎない。幻の三審でどのような判決が下ったのかは知る由もない。

「……ねぇ、みんな…こんな時にお願いする事じゃないんだけどさぁ」

「えっ?」「んっ?」「はい?」

 その提案はミオにとっても重大な決心だった。




アンバランス小話
『アンバラクエスト―モンスター:その1―』

 ガアルズランド王都から少し離れた『初めの森』は多くの冒険者が初めて訪れる事になることから冒険者にとってのスタート地点のダンジョンである。
「ここだなぁ~、その噂の大魔獣が住み着き始めたって言うエリアは…」
「はわわわッ…ギルドの紹介とはいえ、初めての討伐クエスト なんだか緊張してきました」
 駆け出しの冒険者コンビである魔物ハンターのマガバッサーと魔法研究者であるマガジャッパは初めの森の奥地へと足を進めていた。
「んっ?誰か、いる!」
「ハワワッ!?うっ、噂の大魔獣でしょうか?」
 すると、2人の進むべき先に誰かの動きに気付いた。
 恐る恐る茂みから顔を覗かせると…
「このくらいの深さで十分だろう…」
「う~ん…もう少し深く掘っておこうよ、大魔王お兄ちゃん」
「もへん!もへんへっ!!もがへへふへはへっはふほひひっはほほははははるはがッ!!(ゴメン!ゴメンって!!みんなの所持金を使ってカジノに行った事、謝るからッ!!)」
 駆け出し冒険者コンビは勇者と大魔王が縄で縛り上げ猿ぐつわを口に撒きつけられた遊び人を『イキウメ』にしようとしている所を目撃した。
「ひぃいぃいぃッ!」――パキッ……
 思わず魔法研究者マガジャッパが驚き後ずさりした時、足元の小枝が折れて物音を鳴らした。
「――ハッ!?…み~た~な~ぁ~あ~ぁ~ッ!!」
「「ぎやぁああああああああああああああああッ!!」」
 駆け出し冒険者コンビは勇者アギラたちに見つかった。


「違うよッ!誤解だよッ!…ボクたちも街のクエストでその大魔獣を討伐にきただけッ! あの穴も大魔獣用の罠だからッ!!」
「も~もがぁ~ッ!!もががごっがががごッ、もがががんがぉおおッ!!(助けてぇ~ッ!!勇者と大魔王に埋められるよぉおおッ!!)」
 弁明をする勇者アギラに説得力が無さ過ぎた。
「どっちがモンスターなんだろう…」
「人こそが魔物なのかもしれません…」
 勇者アギラたちは駆け出し冒険者コンビからの信用を失った。
「ほらよ!森の木の糧になりやがれ」
 大魔王ゴジラは遊び人ベムラーを縛る縄を掘った穴の上の木に吊るし上げた。
「もがぁああッ!もも~がんがももももがかもへがもはぁああッ!!(いやぁああッ!お姉さんは魔物の餌じゃないわよぉおおッ!!)」
 大魔王ゴジラが遊び人ベムラーを木に吊るし上げて魔獣をおびき出す罠として完成させた。
――ガサゴソッ……ガサンッ!!

 大魔獣ビーコンが現れた。

「出たぁあああッ!大魔獣だぁああ!!」
「ひぇえええッ!ここには駆け出し冒険者と凶悪勇者パーティーしかいないのにぃいい!!」
「エッ!?ボクたち、なんでそんな極悪人集団みたいに思われてるのッ!?」
 駆け出し冒険者コンビと勇者アギラの混成パーティーによる大魔獣ビーコンの討伐戦が始まった。
「ももがかッ、ももひへほ~ッ!(いいから降ろしてよぉ~ッ!)」
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