TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐ 作:神乃東呉
福島県 竜ヶ森市内某所
かつて、この世界には怪獣と呼ばれる生き物が生息し、生態系の覇権を争い、熾烈を極めた大怪獣時代を乗り越えた末に人類は勝ち取った平和を享受していた。
しかし、そんな人類の中から怪獣の力を宿す存在が現れた。学術上『怪獣能力者』と呼ばれ、一般では“怪獣娘”と知られる少女たちが…ここ竜ヶ森市を始めとして続々と現れるようになった。
我々、取材班は竜ヶ森市の郊外を訪れた。ここに彼の地球上最初で最後の怪獣娘がいると言う情報だけを頼りに訪れた。
【プリーズ エクスキューズ ミー!】
番組スタッフが郊外に所在する『竜願寺』に聞き込みを始めた。
すると…
『はて…どちらさんねぇ?』
寺の正門から出迎えていただいたのは見目麗しい女性だがその言動は何処か老齢したような気配がある。
『ほぉ~、とぉいとこわんざわんざ来なすったなぁ…なーんもねぇとこんだけんど上がってケぇ~』
女性には我々の取材を承諾していただき寺の中へと上がらせてもらった。
【アイ アスケイド ヒア カイジューガール?】
『カイジュー…むすめ?…おーお、おったけ、おったけ、そんれはもぉ~ながーい昔にじゃがのう』
女性は怪獣娘がこの地に現れたとする話を聞かせてくれた。
「ここんにはなぁ、『ベムラー』っちゅそれはまた美しゅう娘ば居ったんじゃ…しかし、そんな娘にも抗えぬ都会の魅惑と誘惑にゃ敵わんかった」
女性はかつてこの竜ヶ森の地に現れたとする怪獣娘について詳しい話を語ってくれた。
「かつては…おおーくの怪獣娘ば居ったのう、ゴモラにピグモン、そして…アキちゃん…みんなええ子じゃった」
女性が目をやる先には壁掛けの写真が飾られていた。しかし、ソコに映る被写体たちの彼女たちは皆が年頃を同じくした少女たちの写真ばかりだ。否、遺影写真…なのだろうか。
「アレから…何年…いや、もう何十年経ってしまったのかのぉう み~んな、居なくなってしもぉた」
【ワッツ イズ ユアー ネーム?】
「ワタスかい?わたしゃぁ…―」
彼女の名は『天城ミオ』、かつてこの町に居たとされる怪獣娘『ベムラー』と共にこの地で眠ることを決めた者だと本人は語る。
『あの~…すみませ~ん…』
『はいはい、おぉ~ようきたのぉ~』
そんな彼女はこの竜ヶ森の地で地元に根付いた『竜願寺』で地域の子供たちの成長を見守り続けているのであった。
『めんこい子じゃ~、よぉ~しよし!』
――ガブンッ!!
『いだぁあああッ!?何すんじゃい、こんガキャアッ!!』
コレは…かつて怪獣娘『ベムラー』として生を受けた女性の数奇な運命の足跡を追うドキュメンタリー番組である。
――ドキュメント・ビーコン● ◯ ●――
「…いやボクたち まだ死んでいないし、あれから何十年もなんて経っていないよ」
「なにがしたいんだ、お前は」
ミオの寸劇を目の当たりにしたアキたちは竜ヶ森市の郊外に所在する『竜願寺』を訪れていたが…
「もういいもんッ!ミオさんはおばあちゃんになるまでここに骨を埋めるもん!ここを墓場とするもんッ!!」
「ミオさ…いけんウチば寺ゆーてんも墓ば寺院管理やなかとよ」
ミオの叔父が住職を務める寺でもあった。
「ガルルルルッ!」
「コラッ、スイカちゃん!…人に噛みついちゃダメでしょ!」
ミオに噛みついて来たのは木城アイカの警察官の兄が身元引受人として保護する少女の木城スイカである。
「…皆さん、ようこそ竜ヶ森の竜願寺へお越しくださいまして 改めて私が住職の『天休』と申します」
ミオの叔父は袈裟姿で法名の天休住職として自己紹介を交わす。
「あっ、コレはご丁寧にどうも…」
「普段は市の職員をやらしてもらっておりますが…私どもの祖、言うなれば父方の高祖は信言宗の家系ですので まぁ、家業みたいなものです」
「そゆこと、つまるところミオさんの実家そのものが由緒正しい宗家なのら~」
市で唯一の寺が天城家、引いてはミオの家系が管理し続けて来た由緒ある宗派の寺院であった。
「じゃあ、ミオさんのお父さんとは…」
「いえ、兄が開いていた新興宗教とは明確に絶縁していたので…私も父から引き継ぐに当たって二年前に仏教大で学位を取得して家業継承した身ですので…」
天休住職はミオの父親が開いていた宗教法人『蒼き救世』と実家『竜願寺』は互いに違う宗教法人として袂を分けていた。
「無理もありませんね…宗教法人法の性質上“解散命令請求”を受けた宗教法人は公安委員会から関わった人物の身元を辿って関わる全ての法人格を失う…この竜願寺も天城氏の御実家ともなれば宗派から解散相当の行為を働く者を輩出したとして法的にも宗派的にも罰則として宗家剥奪も免れない……御父師さんは正しい御判断が出来た方だったようですね」
「あっ、はい…えっと…」
「申し遅れました、天休住職…私は敷島グループ敷島法律事務所法務部の敷島ソウジロウと申します」
ユウゴとアキの叔父にして弁護士の敷島ソウジロウは自前の名刺を天休住職に差し出して来た。
「おっ、叔父さん…」「チッ、腐れ弁護士が…」
場に張り付く冷ややかな空気とユウゴから放たれる嫌悪の念は憤怒も混じった敵意だった。
「…まっ まぁ、立ち話もなんですので…お席を設けますので皆さんからの御話をお聞かせいただけますか?」
「ンンッ!…では、住職さん…私が、ユウくんの“正式な婚約相手”の木城アイカです こっちはウチで預かっているスイカちゃんです」「よっ!」
アイカは若干ミオに釘を刺すとばかりに反発的な姿勢でユウゴの婚姻前の相手であると強調して自己紹介を帰すが…
「あ~んら~ぁああ~それはそれはそうでしたの~…てっきりドロボー猫さんがお名前では無くて?」
「みっ、ミオっさ!?」
突如、アイカに対抗意識を燃やし始めたミオの見た事のない姿に叔父である天休住職は驚かされた。
それは宛ら…陰鬱な姑の様な若干陰湿的な言動であった。
「収集つかねぇからいい加減にこの話題から脱しろ…」
「ハンッ!…婚約者同士の幸せオーラ全開なアベックを我が『竜願寺』の敷居は跨がせないわよ!帰れッ、帰れッ!その幸せオーラのままに障子に穴が開くまで貧しくなればいいのだ!夫婦の幸せとは貧しさとの並走!せいぜい貧困家庭を築くがいいわ、どうぞお幸せにぃいッ!!」
「あぁん?…そっちがその舐めた態度ならこちらにもお前の生活態度を明かすぞ アキ、言え」
「ミオさんの叔父さん、ミオさんは東京で良い生活しているとか言いますが普段は碌に働きもせずにいつもボクの家で喰っちゃ寝をして酒浸りのダメな人ですよ」
リーサルウェポンと化した宮下アキはミオの普段の生活態度をミオの叔父に暴露をかます。
「えっ!ホントですか!?…ウチのミオが皆さんにそんなご迷惑を…申し訳ございません」
「いや、まだ他にも…――ゴニョゴニョ」
「ワァアアアアアアッ!アキちゃん、やめちぃくりぃ~!!」
耳打ちで暴露されるミオの東京での私生活が露になって行くにつれて天休住職の顔は『えっ、マジで!?』と声を上げるほどに驚愕の事実であった。
【…チェストォオッ!!】
―――バシィイン!!―――
「アダッ!?」
ミオの頭部に直撃したのは煩悩を叩き払う『警策』、本来は座禅などに用いられる代物だが住職と同じく袈裟姿のビーコンに叩かれた。
「軽薄にして邪念まみれの御心、都で胡坐をかいてまで自堕落を突き進んやたとは…ミオさ、覚悟しなんね!」
「ちょ、叔父さ…あれ座禅ち使う棒じゃわ!頭叩くもちゃうんよねぇ!?」
「問答無用ッ!!――都で荒んだ己が身を清めにはこん程度ば足りん」
【チェストォッ!】【チェストォオッ!】
「アダッ!!アイタッ!!ちょっ、アンタはなんでさっきから叔父さんの肩持つのよッ!?まさか東京に置いてきたこと根に持ってるの!?」
【グラッジ オブ ザ チィストォオオ!!】
―パシィイン!!
「あだぁあッ!?」
ビーコンの恨みを込めた一撃はミオの後頭部を直撃した。
「――皆さん、よろしければ長旅でお疲れ様でしょう、ここより先に知り合いが営むいい湯の温泉がある旅館がございますのでそこで旅のお疲れを癒してください…」
「おっ、お気遣い…ありがとうございます…」
「んじゃ~あいもぉ~…」―ガシィッ!!
「おはんは禅じゃ!荒み切ったそがーな魂、一旦洗いざらいにしなえけんがい!!」
「い~~~やぁあ~~~~!!ミオさんも温泉入りたいぃい~~!!」
どさくさに紛れて逃げ出そうとしたミオは天休住職の指示の下ビーコンに羽交い締めにされて寺の奥へと引きずられ消えていくのであった。
「アホは放っといて旅館行くぞ」
「温泉…早く入ってみたいなぁ~」
その一方でユウゴたちは住職とビーコンに連行されていったミオのことなど気にも留めず皆で旅館の温泉目当てに向かうのであった。
・
・
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旅館内 室内浴場
――カポンッ…
どこかで風呂桶同士が弾く音と共に暖かく芯まで血流を良くなる感覚を直に伝わる良い香りの立つ湯にアキは首を上に向けて深い息が上がる。
「ふぅう~…」
「んん~…やっぱ広いお風呂で羽根を延ばせるのは格別ですね、アキさん」
「うっ、うん…それは…そうなんだけれどさぁ…」
アイカの言う通り、気持ちは分からなくもないつもりである筈のアキの心中は穏やかとはいかない光景が広がっていた。目の前で湯の中を泳ぎ回る落ち着きのないスイカに対してではなく、アキを挟んで左右の山々が小ぶりの山にだらしのない大地を宿すアキに劣等感を抱かせに来ているようであった。
「温泉とは…私も随分と久しく浸かる機会がありませんでしたから新鮮です」
「あっ、アイカお姉ちゃんも、ガーゴルゴンさんも…嬉しそうで何よりもだけれどもさぁ…」
しかし、そんな低体な自身の事よりも真っ先に感じる劣等感をも払拭させる危機感が向かい側の男湯側から感じる不穏な空気と重厚な気配が止める事の出来ないと言う危機感に神経がいっぱいであった。
「あっ、アキさんもあちらの事は一切気にせずに温泉を堪能しましょう…ああいった空気は当人たちだけで解決してもらった方が無難です」
「そっ、そうだよね…もうこの際お兄ちゃんと叔父さんの事なんか気にせずに温泉のことだけに集中しよっと――」
「きゃぁ~はははは~!ひっれぇ~ふ~ろ~!!――わぶっ!?」
泳ぎ回るスイカの顔先にぶつかる柔らかな双山が彼女の迷惑な好意を防いだ。
「あらあら、いけませんよ…公共の湯の中ではお静かにしていただかないと…」
「もぉ~、スイカちゃん!…すみません、お騒がせして」
アイカは慌てて蛇塚にぶつかったスイカの両脇を抱えた。
「いえいえ…でも、あまりオイタが過ぎると…その愛らしさが欲しくなりますよ、ウフッ」
「ひぃっ!?――姉御ォオオ!!」
一瞬に魅せた蛇塚の淫妖な気配にスイカは怯えてアイカの胸内に閉じこもってしまった。
「ほら、悪ふざけばっかりするからよ…スイカちゃん、反省、反省」
まるで小さな女の子をあやすように怯えるスイカを宥める様を見たアキはユウゴからは否定されていたアイカと重なるある人物を思い出させた。
「…やっぱ、アイカお姉ちゃんってボクのお母さんと同じ気がするなぁ~ お兄ちゃんの着眼点はボクと同じなはずだよね」
「――?…なんのお話ですか…」
「いやねぇ、お兄ちゃんはアイカお姉ちゃんを“お母さんじゃない人”だから~って言うもんだから着眼点どうなっているんだろうって思ってさぁ」
「ユウくんとアキさんの…お母さん…ですか?」
「うん、ボクはやっぱりアイカお姉ちゃんのスイカちゃんの扱い方ってお母さんが小さい子をヨシヨシしている感じでしょ…お兄ちゃんにだってそうされたことくらいある筈なのに、なんだかお兄ちゃんってお母さん…ひいては親とかそういう前から居た存在がもう居ないなりに踏ん切りがつきすぎているって言うか…最初からいない者みたいに扱う姿勢が…なんと言うか…」
アイカの手元で宥められるスイカの扱い方はアキにとってかつていた母ユウナを連想させる…しかし、それがユウゴから抱いたアイカの魅力とは思っておらず口実どおり“信頼”でしかないのかとアキは肩を落とす。
「アキさん…アキさんとユウくんのお母さんに比べるほどに思ってもらえて嬉しいですけど、彼には多分…アキさんとは違う視点があるに過ぎませんよ まだ気は早いのかもしれませんけど後に私からすればお義母様に当たられる人なればちゃんとユウくんとの“年期”をお教えいただきたかったですね」
「お兄ちゃんとの…年期?」
「そう 子供の時はどうでしたとか、どうやってユウくんを御育てになられたのか、などなどいろいろと…またこれもゆくゆくは気の早いお話になるかもしれませんけど、その次の育ての番になる時の心構えにもなったかもしれないので…」
毛恥ずかしそうにまだ及ばない未来について深い考えを持つアイカはGIRLSに所属する怪獣娘とは全然違って見えた。彼女は…もう“娘”ではなく、“女性”なのだろう。
子が親になるようにして当たり前のことである筈なのだがアキは分かっていたつもりでも“知らないフリ”をし続けていただけなのかもしれないと…
「アイカお姉ちゃんが…アイカお母さん……でも、それはそれとしてもそういうのってアイカお姉ちゃんのお母さんはなんていうの?」
「ぶぅッ!?…わっ…私の…お母さんは……」
ふとアイカ側の親族、すなわちアイカの母の木城エリカから母としての先達的意見はと問われるなり…アイカの表情はやけに強張った。
「ええっと……私の母は…その……」
●
●
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数時間前
都内にあるアイカの実家、ファミリー向けの住宅マンションにて…
「……あんた、いつ孫とか作る予定なの?」
「ブゥウウウッ!?」
「孫…?まごってなんだ、姉御」
親子の間に間髪のない会話はよくあるもののプライベート中のプライベートな空間で出される議題にしては直球すぎる話し出しであった。
「おっ…お母さんッ!子供の前でなんて話をするのよ!?」
割とデリケートな話になると思い、無知なスイカの耳を塞いで母の発言に慎重さを求めるも…
「あんたねぇ…婚姻結んだ者同士の行きつく先くらい医者の子なんだから知ってるでしょう 最大でも二人までにしておきなさい、子沢山なんて現実的に家計をひっ迫させるわよ」
「だから…まだ彼とは式もあげてないし……役所提出も済ませてないから夫婦でもないんだから気が早いって…」
「そうねぇ~…正直、向こうの親御さんとはあの子の両親ならまだしも親族間は色々と複雑すぎるからまともな顔合わせもしていないし」
「…お母さんとユウくんのお母さんは元々同じ病院で一緒だったんでしょ、ユウくんのお母さんから親族関係のこと聞いていたの?」
「わざわざ会話するような話題でもないし、彼女自体が話したがらないことも多かったから如何せん謎だらけよ…あなたの彼氏の親族って」
婚約関係にまで発展した相手であるのにその親族間の詳細について何一つも分からない。そうなって来ると生じる問題は…
「えっ、じゃあ…そうなると結婚式とかどうしよう…一体、どこの誰に式の招待状とか送るべきなの!?」
「そうよ、相手側からは特にご祝儀をたんまりもらっておきなさい…一円でも式代を浮かせなきゃ」
割と経済的な問題にも直面するのであった。
――ピンポォオン…
「あら、誰かしら…」
インターホンを鳴らして来た来客が何者なのか確認しに向かうエリカであったが……
【テイク ミートゥ フクシマ】
「「……ええっと、誰?」」
「スンスンッ…なんか香ばしい匂いがするぜ、コイツは」
リビングの中心に位置するソファーでエリカも、アイカも、鼻を突きたてて匂いで判断するスイカも…目の前にした珍妙な生物が大粒の涙を流しながら我が家を訪れて来たことに対して困惑させられた。
「こちらの珍妙な者の方ではなく、お初にお目にかかります 私が…ユウゴの親族の敷島ソウジロウです」
プラカード抱えるビーコンを払いのけて顔合わせるのは親族の代表者するソウジロウからの婚姻前のご挨拶であった。
「こっ、コレは…ご丁寧に…どうも…」
「フンッ!今更ウチの大事な箱入り娘に唾つけた側の者が何の御用ですかッ!!」「フンだッ!」
「おっ、お母さん!?スイカちゃん!?」
相手が相手なだけに恐縮しきっていたアイカだが、そんな娘のわき目もふらずに自身の腕を組み、胸を張って婚約相手の母としての威勢を膝に抱えるスイカ共々首から顎にかけて仰け反った。
「そのことにつきまして我が敷島グループとしましても御親族方一同の皆様に多大なる損害は当方で補填を致す所存です…つきましてはこちらを祝いの前金としてお納めいただきたく」
それは敷島グループが保有する子会社の有価証券を始め、関連企業の株主優待、更には一個人が出すには破格の金額の敷島銀行発行の小切手などであった。
「フンッ!…ユウナから少しは話を聞いていたけれど…断片的ながらもあなた方の噂は数知れずと耳にしていたけれど、とんだ見込み違いね そんなことで我が木城を甘く見られるなんて甚だ愚問よ!私が求めるのは“二親等の安定供給”と“将来への希望”!!」
直訳は“孫の確約”と“老後の安寧”であった。
「お母さん、我欲が漏れてるから…」
「―ッフフフ…御話には聞いていましたが、面白いお母様ですね いいでしょう 前者につきましては本人たちの努力義務として、後者は追加とはなりますがこちらもまとめてお納めください」
そう言ってさらに差し出して来たのは紙封筒分厚い膨らませた様々な“贈り物”の数々であった。
「はっ、拝見させていただきます……どれどれ、ギョッ!?」
真っ先に目に飛び込んできたのは…とある物件であった。
「あら~、世田谷区の一等地じゃな~い」
「左様です 先日より外務省管理の国有地とその物件を破格での落札に成功したため、新婚家庭には申し分のない物件かと存じております」
「いやいやいやッ!ここって、あれ、アノッ…エッ!?…ええッ!?」
そこはアイカがアキとエリアス王女の三人で山陀ツクヨミ外務大臣と謁見をした元外務省管理施設通称“洋館”であった。
記載内容は以下の通り
『或戸開務館』
●東京都世田谷区東谷町19丁目54番地1号
◯東都メトロ線東谷駅から徒歩13分
◯二階建て・屋根裏/地下室完備・建築改修済み
△間取り:19LDK
△面積113㎡(総面積319㎡)
《不動産概要》
1899年竣工、1912年近代化改修、元々は旧陸軍の上級将校の邸宅として建てられたがいくつかの政府関連団体への売買を経て1914年より外務省関連施設兼外務省高官邸宅として売却、以降1954年の売却を最後に外務省管理となり対外交渉会談場として各国大使館との交渉場としても広く利用されてきた。名前の由来は最後の所有者が外交官として赴任していた地域の市名から。
時代と共に改修に改修を重ねた結果『邸宅』というよりもはや『要塞』となっている。
――敷島グループ東宝不動産より――
「いっ、いただけません!いただけません!!…こんな大きな建物…固定資産税いくらになるんですッ!?」
「ソコに関してはご安心を…本物件の扱いは『保存物件』として扱うため“歴史的物件の保全”という名目で我が敷島が保有している事になっていますので書類上では固定資産税などの税務関係は当敷島が全額補填させていただきます」
多額の税金になども軽く扱うほどの経済力に様々な分野でこれより婚姻成立を間近に迎える1組の交際関係者に与えるとする物の数々が一般脳のアイカにはキャパオーバーであった。
「えっ、ええっと…何から話せばいいのか、なんて言えばんいいのか…お母さん、株主優待を数えないでッ!」
「あらやだ、銀座の気になっていたお店にまで使えるの~ォッ♡」「肉クレ!肉ゥッ!!」
婚約関係の相手側が持ち出す好条件はあまりにも好条件が過ぎている。その一つ一つが不気味なほどに一般常識的な範疇を大幅に超えて来て一切の文句の付ける隙が無いほどに…
「お母さん、ンンッ、母とでは話が進みそうにないのでハッキリと申し上げさせてください」
「ええ、なんなりと」
「……“敷島さん”、あなたはいったい何者なんですか? いち財界勢力としては規模と質量の差が比較にもできないほどに私たちの常識では測れない何かが多すぎます」
「ふむ、疑り深くなるのも無理は在りません 私があなたとユウゴに関わろうとするのには……あなたも“怪獣”なればこそ、お分かりでしょう」
そのことを突かれたアイカは身震いするほどに身の毛からよだち上がって来る感情が何なのか、おそらくこの感情こそがユウゴがこの“敷島ソウジロウ”、ひいては“敷島”と呼ぶ単なる巨大企業とソコに関わる敷島ソウジロウ弁護士に対する“抱きたくない感情”が渦巻いていた。
「はへぇ?姉御も…怪獣?」
「……姑はお邪魔虫の様ね…私らは蚊帳の外に居させてもらうわよ」
気を使ってまで母エリカは両脇からスイカを抱えてダイニングキッチン側に回った。
「お気遣い痛み入ります」
「…御気持なんて最初からありませんでしょう、敷島さん」
「……おや?」
それまでの気遣い合っていたアイカもそんな気遣いなど放棄した。否、ユウゴやユウゴの両親、果てはアキにも敷島がどのように思う気持ちがあるのか。
答えは……“何一つもないほどの無関心さ”が証明であった。
「財に物を言わせて、気持ちをカモフラージュし、普通の感性の人間であればこれだけのことをされたなら喜び舞い上がるのでしょう でも、私にはこれら一つも嬉しくなんかありません」
独立的で多数も複数も同じとして認識するこの善性も悪性もない質が木城アイカとして嫌悪感があった。
「……私は人を差別はしません…が、区別はします なぜなら怪獣と人間では生物の質が違う それを誰よりも理解しているのはあなたでしょう?」
「否定はしません」
ユウゴとアキにしがらむ物の正体がアイカの目と鼻の先に居るにも関わらず…追及こそ罠めいていた。
そこに突っ込んだ話をすればソウジロウの思う壺、敷島の最大級の武器は“財力”とソウジロウを始めとした個々に実績を有する不動の地位を確立した人物たちによる信用性は社会、ひいては財界すらも顔の聞く厄介な『怪獣』だった。腹の底はこちらを引きずり込むほどの巨大な『引力の渦』なのだろう。
「木城アイカさん…私はですね、怪獣とは“存在してはいけない存在”だと思っています」
「…はぁ?」
「突拍子の無い話を申し上げますがここでの会話上は『怪獣』と『怪獣能力者』は別であるとご認識していただきたい…そもそも怪獣が現れたことによって副次的に私たちの世代にまで及び特異で歪な人類の価値観を生み出してしまった」
「……………」
「ですが、罪は生まれた者にはありません…生まれる前から宿す要因となったこの世の環境こそが歪だったに過ぎないのです」
またも否定も肯定もない“心の無い会話”だ。だが、不思議と遺憾も無く、不快もないこの話題にアイカは不思議と耳が傾いてしまう。
「……知りたい、と言ったお顔ですね」
「…そんな顔をしていますか?」
「いえ、知的探求心は決して無教養な事ではありません…会者定離は求めた者の特権です それに…」
【テイク ミートゥ フクシマ!!】
二人の会話に割り込んできたプラカードはビーコンの大粒の涙を流しながら必死に何かを訴えかけていた。
「さっきから何ですか、この…人?怪獣?」
「さぁ…私は存じ上げませんが、大方ユウゴ達のペットか何かでしょう 私の事務所の窓ガラスに張り付いていたので…」
それは自分だけ忘れられておいて行かれた者の執念と私怨であった。
「なに?アンタ、今から福島に向かいたいの?」
【イエス マム!】
この家の中で唯一ビーコンの意思を理解してくれたエリカはビーコンが福島に向かいたいと言う事だけは理解出来る様だ。
「私もこのまま福島に用があるので、この得体の知れない生物とはこちらにお預けいたします」
【ワッツ イッツ ミー!?】
「別に私はあなたと福島まで同行させる気はありません…私には何のメリットもありませんので」
「ウチだって既にこの子で手がいっぱいよ」
「ガルルルルッ!!」
【ドント アバンドン ミー!!】
共に同席しておいて若干木城家に押し付けるが如く婚約祝いと共にビーコンを無理やりこの場にまたしても置き去りにされそうになるビーコンは最後の抵抗とばかりにソウジロウの足元に縋りついた。
「あの…! 今、福島県の方にいるんですよね…ユウくんたちは…」
「……ただ福島県内に居るわけではありません 怪獣能力者が人の目に触れる事となった“発端の地・竜ヶ森”にです」
「……昨日の時点では私もユウくんからそちらに向かうと言うことぐらいしか聞いていませんでした 何を目的であなたも…その…竜ヶ森に?」
婚約を決め、覚悟も決めているからこそ指先に付けた婚約指輪にアイカは触れた。
「……無論、裁判に勝つ為です」
「裁判……『怪獣能力者第三号事件』…ですか?」
その事件名はアイカも知る、母のエリカは顔を険しくするほどに知る、ソウジロウは…それらをすべて知った上で裁判を担当し勝つつもりでいる。
「……すべてを御知りになられたいのでしたら、一緒に向かわれますか? 私たちと、竜ヶ森に…」
【カモン ヤングレディ!】
コレが…おそらく『引力』だ。決して怪獣の能力と言った超常的なものでもなければごく自然現象的な事象でもない。一人の男が周囲を巻き込んでまで対象となる誰かを追い詰めようとしていた。
その渦中に居るのは…やはり身内であるユウゴだろう。
アイカは心に決めた。
「お誘いには…乗らせていただきます」
そして、目の前にするこの婚約者の叔父にあたる人物に対しても…
「ですが、ユウくんがあなたを嫌う気持ちを踏まえるなら…私とあなたは…今より“敵”です」
愛する者を貶めんとする者がいるならば…それをより近くで、かつ最大の決意と闘気で、アイカがビオランテとして怪獣戦士(タイタヌス)の宿命を意識し続ける。
「……それでこそ怪獣戦士(タイタヌス)候補者です あのユウゴがあなたを選んだ理由がよくわかりました」
「やれやれ、自分の娘ながら血気が盛ん過ぎるわ…気負わずにあの子と一緒に少し早めの婚約旅行とでも思っておきなさい あなたは怪獣である前に一人の女でもあり私の娘でもあるんだから」
「お母さん…」
「おっ、オレも姉御と一緒に行くッ!!姉御、お前、嫌い!オレも、お前、嫌い!!姉御は、オレが、守る!!ベーだ!!」
スイカもアイカの腰にしがみついてソウジロウに向かって舌を出して嫌悪を向ける。
「おやおや、随分と嫌われてしまいましたが…職業上その手の感情は慣れていますので、どうぞお好きなように」
【レッツゴー フクシマ!!】
かくしてユウゴの後を追うように福島へ向かう事となったソウジロウ、アイカとスイカ、そして…丑の刻参りスタイルとなって置いて行った者たちに対する恨みを込めた狂気の電波怪獣ビーコンが福島県竜ヶ森に向かう事となった事の経緯であった。
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――そして、現在――
毎秒事に数リットル分の川水が崖上より落ち続ける竜願寺名物『御徴滝』の下で薄い白装束のミオが滝に打たれ続けていた。
「ひぎゃあああああああああ!!ざむいぃいいいいいいいッ!!」
「煩悩汚れしは御徴の冷や水で身を清め、母の地にて生まれ変わるが竜魚の出生 ミオさ、あと3分は辛抱せえ」
【ガッディム コールドウォーターフォール!!】
毎秒数リットルの滝水はミオが纏う薄布など肌に張り付き体温を徐々に奪いにかかるばかりであり行中と言うよりも拷問とさえ思える過酷さであった。
「あびびぶぶぶ…おのれぇ~え…それもこれも、あれもそれも…よくよく考えたら、私、何も悪くないもん!勝手に周りが幸せになって行く方が悪いんだ!私を置いて行くな!私だって…私だって!…幸せになりたいんだぁああ!!」
滝行はミオの身を清めるどころか己に宿す願望だけを強めていくばかりで…次第にミオの身体は怪獣娘が変身する時の青白い光の繭に包まれ始めた。
「みっ、ミオっさぁ!?」
【オー・マイ・ガー…】
・
・
竜ヶ森市内 旅館温泉
―男湯―
――プシュ~~ゥウ…
湿度は高めで、内部は高温の室内、熱せられているホットストーンは滴る水滴をも蒸発させ更なる湿度を高め合わせる高温室なサウナ室内でさらに常軌を逸して冷え切った関係から互いに距離を取りあう2人が居た。
「……ユウゴ、いつまで大人を演じ続けるつもりだ」
「黙れ」
「お前の中の大人像がどのようになっているかなど私の知るところではないが、私にとってはまだお前も子供の内だぞ」
「殺すぞ」
ソウジロウ側から投げかける話題もユウゴは一言一句短く返すのはこの男との会話など極力避けたいが故だった。
「お前が思うよりもアキ君は十分周りに助けられながらも自分から成長しようとしている…もうこれ以上、お前の手など不要だとは思わないのか?」
「お前に何がわかる、腐れ外道」
「逆にお前はなぜアキ君を理解してあげようとしてあげない お前のやっている行為は蝶になろうとしている蛹を手で抑え込んでいることと同じだ」
「お前こそ阿呆か、アキは虫じゃねぇ…同時に理解は俺なりにしているがしている上でアイツはアイツ自身が選ぶ選択肢に間違いを犯さない為に俺が居る、居てやらなきゃならねぇんだよ」
ユウゴは顔に被せたタオルで己の無表情な顔を隠しながらもソウジロウが気にするアキの事に対して深い考えを持っていると語るが…
「…それは…お前とお前の婚約者があの子の父親母親代わりにでもなるつもりか そうものは傲慢というやつだ」
「ふん、くだらん…誰が望んで親役なんかするか…俺は親父、お袋とは血は分けても互いに異なり合う どこまでいっても俺は俺で、アイカはアイカ、アキはアキだ」
「ふむ、三者三様か だが、お前はそんな違う者と家を共にすると決めたのなら…宮下アキを手放せ お前たちでは役割不足だ」
「……さっきから誰と俺は会話してんだ、ソウジロウ…テメェは誰から言葉を預かって来た」
ユウゴが感じづいた違和感はソウジロウとの会話にソウジロウの意思が感じ取れない気配を感じ取り、ソウジロウの口を介して語りかける何者かの伝言を聞いていた。
「フッ…決まっているだろう、私の言葉は…私の母からの言葉だ お前もよく知る御方だよ」
「チッ、あのババアか まだ死にぞこなっているのか」
ソウジロウの伝言は彼の母親、すなわちユウゴとアキの父方の祖母だった。
「言葉が過ぎるぞ、仮にもあの子の“名由来の親等”でもある方だ」
「お袋が生きていた頃も『敷島アキコ』だけは俺達と関わろうとも俺たち側もあの妖怪と関わろうなんて気は起こさなかった…もっともお袋と反りの合わなさから続いて来た関係だろう」
ユウゴとアキの祖母にしてソウジロウにとって上層に位置する母アキコとは日本国内最大級の総合企業グループ“敷島”の顔を見せぬ代表だ。
「大体、なんで今更あの婆さんが口を開いて……おい、まさか…」
「フッ、お前にしては察するのに大分時間がかかったようだな そうだ、今まさに…我々のいる男湯の反対側にいらっしゃるのだよ」
してやられたとユウゴはこの時ほどに思わない事はなく、すかさず顔に掛ったタオルすらも床に落とすほどの動揺を見せた。
「前言撤回だ、俺はお前“だけ”が不愉快じゃねぇ…テメェら『敷島』には心底反吐が出やがる」
ユウゴの渦巻く感情は身体に進行し始めている背面から伸びる黒白い体表から伸びる背ビレ筋が赤く輝かせた。
「あの方はそれも折込済みだ…お前の意思よりもあの方の意思の方がすべてにおいて優先される」
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―女湯―
「うわぁ~~…さっきのお風呂よりも広いね」
アキたちはより高面積の露天風呂に浸かる為、室内浴場を出ていた。
「キャッほ~~いッ!!」
先ほどの室内浴場よりも広い露天風呂を前にしたスイカが一番乗りで湯に飛び込んでいった。
「お~もう、スイカちゃん!…周りの人に迷惑だから飛び込んではダメだよ」
「ええ~、でも姉御…オレたち以外に人間なんかいないぜ」
スイカの言う通り、アキたちを始めとした他の利用客は見当たらなかった。先ほどの室内浴場内も完全にアキたちの貸し切り状態と言ってよいほどに誰も居なかった。
「今日はお客さんが少ないかもしれないでしょう…ほら、フェイスタオルはお湯に付けちゃダメだって……あれ?」
完全に露天風呂も貸し切りかと思われたが…湯煙の向こう側に人影と思しきシルエットがアイカの目に飛び込んだ。
「ホラッ!他のお客さんならいるじゃないの…すみません、お騒がせして」
迷惑をかけてしまった事にスイカに代わって謝る声を掛けるも…人影は一切微動だにしない。
「あれ?聞こえていないのかなぁ…」
アイカの声も届いていないことに首を傾げるアキだが…
「姉御、姉御ッ!姉御たちも入れよ…ひっろ~いぜぇ」
「あ~もう、だからお風呂で泳いじゃいけません!」
後を追うようにアイカから続いてアキと蛇塚も湯に足を浸かりかけたその時だった。
――ヒュ~~~バシャァアンッ!!
大きな飛沫が上がるほどの衝撃が露天風呂の湯を大波に起こし波紋を広げた。
「コラッ、スイカちゃん!はしゃぎすぎ!!」
「おっ、オレじゃねぇよ 姉御ッ!!」
確かにスイカは湯の端側におり、飛沫の中心は湯の真ん中で起きていた。
やがて湯からプカッと浮力で浮かび上がったのは…東京に置いて行かれたことを根に持っていたビーコンであった。
【オッ…オー…マイ…】【デッドン】
ビーコンの最期に振り絞ったプラカードは無情にも湯面に漂う葉の如くプカプカと流れたが…
――ザバァアアン!!
「ひやぁああああ~~ッ!生き返るぅうう!!」
更にビーコンに続いて湯の中に飛び込んできたのは怪獣娘に変身したベムラーだった。
「みっ、ミオさんッ!?」
「ふぅぃい~……んっ? あぁあッ!アキちゃんズ!!」
湯船から立ち上がってビシッと指さして来たベムラーはまだ身体が温まりきれていない身体を身震いさせ、唇をわずかに薄紫走る口で叫んだ。
「酷いよ!酷すぎるよ!!お姉さんを見棄てて温泉三昧なんて…この薄情者で裏切りもんめぇ!!」
自分を切り捨てられたことへの逆恨みで竜願寺の滝行から逃げ出して来たベムラーだったが…騒ぎを聞きつけたとばかりに仕切りの向い側からユウゴが変身してゴジラへと跳躍して駆けつけて来た。
「くっそ…間に合わなかったか」
「ちょっ、お兄ちゃん!…こっち、女湯だよッ!?」
「そんなこと言っている場合じゃねぇんだよ!全員、俺の後ろに居ろッ!!」
それまで如何なる状況でも冷めた態度をベムラーことミオに向けていたユウゴが落ち着きのない様子を見せていた。
「いやぁあん!ユウゴくんのエッチ~ィイン♡」
「お前もアホな事を言っていないで、俺の後ろまで来いッ!!」
「エッ!?何々、とうとうお姉さんをお姉さん以上に思ってくれてるの!?きゃはっ、今更お姉さんを求めても~、もう、お・そ・い・ぞ♡」
「お前じゃねぇよッ!お前の後ろにトンデモないババアが居るんだよ!!」
「へっ?」
それまでアイカが声を掛けても微動だにしなかった人影が突如動きを見せて…湯煙からベムラーに向かっての大口径の銃口が突き出てベムラーを至近距離に捉える。
「やれやれ、おちおちと地酒の『侵略一番』も飲めやしないよ」
――ボンッ!!
「ぶベラッ!?」
大口径の銃口から野球ボールサイズの何かが飛び出してベムラーの顔面に激突すると…
――シュルルルルッ――バシィンッ!!
「ひゃあッ!?」
野球ボール大の黒い弾丸がアキの眼前でゴジラの大きな手が跳弾を防いだ。
「安心しな、唯の暴動鎮圧用ゴム弾さね…それでも普通の人間なら頭蓋骨は粉砕する威力だよ」
湯煙から出て来た女性はアイカ、蛇塚、伸び切ったベムラーよりも引き締まり、整ったプロポーションの裸体の女性であったが…髪だけは純白の白髪が特徴的な人だった。
「何しに来やがった、敷島のイカレババアッ!!」
ユウゴには似合わず強い言葉で相手の年上女性を『ババア呼ばわり』する声に反応してか、女性は額に浮き出す憤怒の血管が頭に血を登らせ行動を更に過激にした。
「ソウジ! レミントン式1947モデル!!」
「はい…お母さん」
今度はソウジロウの声と共に強い何らかの力場エネルギーを帯びたサイレンサー付きショットガンが女性の前に止まると女性は先ほどのゴム弾を発射した発射機を露天風呂内に捨ててショットガンを手に取ると…女性はビーコンを踏み台に【グエッ!!】と踏みつけるなりゴジラに狙いを定めると躊躇いも無くレバーを下して即座にボンッ!!と抑えた発砲音と共に弾丸が射出してゴジラの体表に着弾する。
「うわぁあああッ!?なになになにッ!?」
何度も何度もレバーを下しては引き金を引くとそのたびに弾丸が飛び交うが…有限のショットガンも弾切れとなった。
「誰に向かって舐めた口をきいてるんだい、クソ孫が…ソウジ、焼きな」
「やれやれ…お母さん、ほどほどになさってください ですが禁煙が続いているようで何よりです」
全裸でショットガン片手に天高く掲げた棒状の加工肉の摘まみに太く黒い指先がジュッと熱せられて熱くなった加工肉の摘まみの焼き部位に齧りついて反対側を加えるとさながら葉巻を咥えているかのようであった。
さらに…女性の後ろでは、黒い体表に太い尻尾…まるでユウゴの変身するゴジラに酷似した怪獣能力者が白髪の女性に付き従っていた。
「おっ、お兄ちゃんが…もう一人ッ!?」
「お前の目は節穴か、俺にあんなバカデカい結晶が肩から生えているか? アレはソウジロウの怪獣変身体だ」
「えっ、叔父さんも怪獣能力者だったの!?」
言われて見ればユウゴのゴジラと違って対峙する怪獣能力者のゴジラ擬きには両肩に白い結晶体のようなものが隆起していた。背ビレも結晶体と同じ形質で、額には金色の結晶体、口の端には2本上下にして左右合わせて四本の突き出た牙が見えるその姿にはアキは覚えがあった。
(でも…あの、姿……何だか、お父さんが変身するゴジラにソックリ…)
アキは夢の中でしか会った事のない父と思しき怪獣能力者の姿と目の前にする結晶体を宿す怪獣能力者に類似性を見出だしていた。
「お母さん、前、失礼します」
「んっ」
結晶体を宿す怪獣能力者は白髪の女性の胸元より下を大きめのバスタオルで巻きしめて器用に隠しあげた。
「アキ君、突然のことで驚かれているかもしれないが…まずこちらの方は敷島グループ最高取締役社長『敷島アキコ』御大、君やユウゴの御祖母に当たられる方ですよ」
「へっ?…ぼっ…ボク…の…おっ、おばあちゃんッ!?」
衝撃的事実にアキは口を大きく開けて驚愕しての…第一声は…
「おばあちゃん、若ぁああッ!?」
自身の祖母でありながらも顔立ちはアイカや蛇塚、我に返って起き上がり変身の解けたミオ、何ならこの3名の大人の女性たちよりも若く見える祖母アキコに驚かされるのであった。
アンバランス小話
『アンバラクエスト:指名手配』
ガアルズランド女王ゼットン(姉)より半ば強引に託された使命『ゴジラ大魔王軍』の討伐の一歩を進める道中の勇者アギラであったが…
「いたかッ!そっちには!?」
「いいや、こっちにはいない…他の地区に逃げたのやもしれない」
「さがせッ!指名手配中の勇者一行は既にこの町に入り込んでいるぞ!!」
青い鎧の兵士たちが重武装を抱えて辺りを捜索する大騒ぎとなった『ウルマーン国』の都市エムナヤでは既に街中にまで勇者アギラたちに懸賞金が掛るほどの指名手配書が建物の壁面に張り出されていた。
――ガポンッ!
「ぷはぁ~~!!なんでボクがこんな目に…」
「知らん」
「あれ、ちょっ…開かない!開かないよ!!」
街角の樽に、木箱に、開かなくてガタガタと蠢くゴミ捨て場から勇者アギラ、大魔王ゴジラ、遊び人ベムラー、電波魔獣ビーコンは捜索続く街中で隠れやり過ごしていた。
「見てよ、コレ!ボクたち、とうとう指名手配までされているんだよ!!“誰ら”のせいでこうなっているとおもっているのさぁ!?」
勇者アギラは自身のパーティーに不平不満を漏らさんとばかりに吹き出る鬱憤を仲間にぶつける。
旅の元凶の大魔王ゴジラ、道中で勝手について来た電波な魔獣ビーコン、役立たずのベムラーと散々たる面々だが…
●指名手配
★大魔王ゴジラ
・罪状:国際魔王侵攻事案首謀者/大規模環境破壊/多数の国家滅亡及び壊滅事件の容疑
懸賞金:5400000000ゴルド
★大魔獣ビーコン
・罪状:流通加工肉偽造罪/流通販売違反/加工肉での人的被害・塩分過多容疑
懸賞金:71000000シルバ
★第一級危険勇者アギラ
・罪状:勇者法違反容疑/危険人物・生物の幇助
懸賞金:6800シルバ
★唯の飲んだくれベムラー
・罪状:公共施設周辺での常習嘔吐など
懸賞金:66ブロン
――この顔にピンときたら国家憲視庁まで――
ものの見事に顔念写付きでしかも念写移りが悪く邪悪なゴジラ、凶悪なビーコン、朝の内で最も寝起きの悪い時のアギラ、街中で吐き切ってスッキリしたベムラーの顔が指名手配書の念写絵として張り出されていた。
「どうするのさぁ!このままじゃマトモな冒険なんかできっこないよ!!」
「簡単なことだ…片っ端から消し炭にすればいい」
【アイ キャン】【キリング!!】
「オロロロロッ!!…ウゲッ、ゴミ箱の中、ぎもじわるい…でも、なんか、スッキリした」
出合い頭に証拠を隠滅したがり、野蛮にして危険な思想、何の役にもたたずに酒を飲む者などまともなパーティーではなかった。
「ボクの冒険、終わったァァアアアッ!!」
勇者アギラたちが世界を救うと信じて…!!
旅は…まだまだ続いていく。
「打ち切ってよ!こんな冒険ッ!!」