TITANUS‐THE TITAN MONSTRAS‐   作:神乃東呉

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大いなる力

―埼玉県内・国道線―

 

 気まずい状況だった。助手席には頬を手の平の形で腫れあげた青年、その後ろには頬を膨らませ不機嫌を絵に描いたような女性、その傍らにはブランケットで身体を覆い隠す白髪の少女が警察車両で移送中だ。

「君…大丈夫かい?」

「痛みは無いですけど…心が痛いです」

 心配した前原は声を掛けシュンイチの安否を気にかけるも存外大事には至っていなかった…が、やはり何度見ても痛々しい姿に変わりなかった。

「ええっと…正直、よく彼の居場所が分かりましたねぇ湯原さん」

「事前に彼の周波数シグナルを特定していたのでスマートフォンに搭載した私独自の電波探知アプリを使っただけです…まさかこんな穢れた人だとは思いませんでしたけどねぇ“桐生”さん」

 刺々しい言葉が湯原サラの口よりシュンイチの身体に鏃として突き刺さる。何を話しても彼女はすぐにシュンイチへの攻撃を続けること数時間が一方的だった。

「ええっと、とりあえず県警に戻りますか?」

「それより先に向かってほしいのですが…」

 そういうとサラがスマートフォンのマップアプリでとある施設に向かうように告げた。

 

 

 着いた場所はさいたま市内の商業施設、所謂ショッピングモールだった。

「着きましたよ」

 前原がモール内の駐車場に車を停めると先に車から出たサラが助手席側に回ってドアを開けてシュンイチを引きずり出した。

「えっ?えっ!?」

「さっさと行きますよ!まずはあの子の衣服と靴です!」

 サラが求めに向かうのはメカゴモラの人間体としての姿に為っても全裸にならないための衣服などを買い揃えるためにモールへ向かう。勿論、シュンイチを連れ出したのは荷物持ちのためだ。

「え~っと…前原さん一人で大丈夫なんですか?」

「結構です!あの方は立派な警察官ですよ、あなたと違って邪な心はありません」

 シュンイチよりも前原の方がメカゴモラを預けられる信頼度の高さにシュンイチの男としての威厳が皆無であることに肩が落ちる。

 

 そして、次々とモール内のありとあらゆるブランド店舗を回りに回っていく中で明らかにメカゴモラ用は既に買い揃えているはずがドンドンとそれ以上に買い続けるのはサラの私用の買い物が殆どだった。

 そして、その度にシュンイチの両手は彼女の買い物荷物でいっぱいになっていったが、不思議と物の重さを感じないためいくらでも持てた。機械の身体であったことの初めての利点が生まれた瞬間だった。

 

 そして、再度買い物を終えて戻ってきたサラたちに前原は驚愕した。

「えっ、服だけじゃなかったのかい?」

「すみません…色々見て回っていたら歯止めが利かなくなっちゃって…えへへッ」

「前原さん…ちょっと手伝ってください」

 サラのその後ろでは両腕に手提げ袋いっぱいと身体が隠れきるほどの箱荷物と言うシュンイチの原型がないほどの大量買いだった。

「はぁ…じゃぁ私と桐生君は外で待っていますのでお好きなように…」

「ありがとうございます!さぁさぁ、お楽しみの時間だわ」

「ゴッ…ゴモッ?」

 なにやら恐ろしげな表情を浮かべるサラに本能的危機感が過るメカゴモラはブランケットを口元まで覆い隠した。

―ギシッ…ギシギシギシッ…

 前代未聞である。仮にも埼玉県警の警察車両が見たことも無いほどに揺れ動く姿に前原は目を覆い隠した。

「はぁ…終わるまで少しコーヒーでも飲もうか」

「あっ、はい…」

 未だ激しく揺れ動く警察車両を放置し、前原はシュンイチを連れて近場の自販機まで向かった。

 

―ガコンッ…

 自販機から購入したコーヒーを2つ取り出して前原はシュンイチに手渡すついでに彼の今後の事を切り出した。

「それで…これから君たちは一応彼女の保護下に置かれる…身元引受人の手続き等は私が県警の方で整理しておくよ」

「あっ、はい…ありがとうございます 何から何まで」

 前原は身寄りのないシュンイチとメカゴモラをサラの下で保護されることが決まった。

「私も一応君がどういう存在なのかは彼女から君を見つけるまでにすべて聞いている…まぁ本人の口から直接聞くのが手っ取り早いだろう」

「はぁ……でも、やっぱり不安です」

「何がだ?」

「その…機龍と言うのが何なのか…あんな暴れるだけ力を自分が持っている事に不安で…」

 シュンイチは心に抱える不安を前原に打ち明けた。それは自分が他とは違う特異な能力を持って存在していることに思い悩むほどの懸念が払拭できないことだった。

「……桐生君…いや、あえて桐生と呼ばせてもらうよ」

「はっ、はい」

「私から見た君のあの姿は怪物なんかじゃない、あの時に私が君を守るべき立場だったのに守られてしまった…正直、警察官としては失格だ」

「そんなこと…」

「だが、それは同時に君に助けてもらったから私はこうして生きている。これが事実だ…君には誰かを救えるだけの力があることを忘れないでほしい…その力は良いようにも悪いようにも見えるかもしれないが、決して自分がどういう存在なのかを見失わないでほしい。これから先に君は君自身を見つめることが多くなっても『本当の自分』だけは失うなよ」

 前原はあの秩父市内の病院での出来事を引き合いに出してシュンイチの肩に手を置いて激励した。

「はいッ!」

「ついでにあの子たちの分も買っていこう…1人は紅茶くらいならいいとしてあの子はジュースにするべきか」

 前原は年頃の子供がどういう飲み物を好むのか悩みつつもサラとメカゴモラの分も買って行った。

 

 車まで戻るとメカゴモラは完全にサラの着せ替え人形と化してあらゆる服の試し着を何度も何度も晒し続けられてその顔はゲッソリとしていた。

「やだ~こっちも似合うぅ~!流石私、サイズも見ただけで分かったからピッタリだわ」

「ゴッ…ゴモォ…」

 見た目はようやく全裸よりマシな服装にはなったが…シュンイチたちからすれば色が違う程度にしか分からぬサラにしか分からない感性に理解が追い付いていなかった。

「あぁ~…んんっ!飲み物、買ってきましたけど…」

「へっ?あらやだすみません…ありがとうございます」

 サラはペットボトルの紅茶とミニサイズの乳飲料を受け取った。

「それで…とりあえず県警に戻れる状態じゃないですが、この荷物はどこまで?」

「あっ、じゃぁ私が泊っているホテルまでお願いできます?」

 またしても前代未聞だった。警察車両内はサラの買い物が溢れんばかりに詰め込まれ…一旦は県警に戻らずサラが泊るホテルに向かう事となった。

―さいたまニューデイズホテル―

 

 高層のホテル一室のスイートルームにサラたちは到着した。

「ふぁ~疲れたぁああ!!」

 シュンイチを探し出すこと以外、殆ど買い物とメカゴモラのおめかしにしか労力を使っていないサラはキングサイズベッドに飛び込んで仰向けで大の字になった。

「よいしょっと…」

 そしてシュンイチはサラが買い溜めた荷物を棚の上に置いた。

「じゃぁ桐生、私は一度県警に戻るが…何かあったらここに連絡してくれ」

「はい、色々とありがとうございました」

 玄関先で前原はシュンイチに自身の電話番号が記載された名刺を手渡して県警に戻るため部屋を後に去って行った。

「さぁ~ってメカゴモちゃん!まだまだ着せたい物があるからこっちにおいで~」

「イヤ、イヤ!!」

 未だ着せ替え足りない欲求がサラを支配しており、大量の買い物荷物のごく一部しか開封していない事にシュンイチは『まだ続けるのか』と心に思った。

「キリュウ~…サラ、コワイ!メカゴモ、ニンギョウサレル~!」

 あまりの恐怖にメカゴモラはシュンイチに助けを求めて彼の足元に抱き着いた。

「ちょっと~人を悍ましい存在みたいに言わないでくれますぅ~…ほらっ、シュンイチさんもどいたどいた!」

「まぁまぁ…ほどほどにしてあげてください」

 見かねたシュンイチはメカゴモラを抱えてサラの魔の手から彼女を庇うが…

「その手を離さなきゃぁ~あなたを児童健全育成法令違反者として告発しますよぉ~!」

 悍ましい事を悍ましい動きをしながらジリジリとシュンイチたちに迫りくるサラにメカゴモラのみならずシュンイチまでもが恐怖を覚えた。

 そして…

「じゃぁメカゴモちゃん、一緒にお風呂入りましょ!…シュンイチさん、覗かないでくださいよ!」

「ゴモォ~!キリュウ、タスケ…」―バタンッ…

 悲痛な叫びと共にメカゴモラは風呂の扉を閉められ遮られた姿を最後に見た。

 女子二人が風呂に入った事により束の間のシュンイチだけの時間が訪れた。

「……やることもないし、テレビでも見るか」

 そう考えて何気なくテレビのリモコンの起動ボタンを押してテレビを付けたが…

『次に埼玉県秩父市で発生した異常現象による被害は近隣住民に肺炎などの症状を訴え市内の病院に運ばれ、幸い死者はおらず、重軽傷者が多数出た今回の『秩父鉱山凍結事件』は埼玉県警の発表によりますと…――』

 テレビが付くなりニュース番組が秩父市で起きた多数の被災状況を報道していた。

「……………」

 シュンイチは黙ってその内容を見聞きする中でこの山1つが凍り付いた現象を起こした張本人が自分であることを改めて認識させられた。

―GIRLS・東京支部―

 

 その頃、GIRLSの大会議室に集められた同組織所属の怪獣娘たちが神妙な面持ちで集まっていた。

「どういうことだよ、ピグモン!GIRLSのシャドウ対応を自粛するだと!?」

 意見を真っ先に机へ手を叩きつけて訴え出したのはベニオだった。

「すみません、警察からの要請でGIRLSは今後シャドウが出現した際には即交戦するのではなく通報をするようにとのことで…」

 それまでGIRLSが担当していたシャドウへの対応が急遽に交戦行動の自粛と言う形で国から戦う事すら禁じられるようになったことにGIRLSの怪獣娘に動揺が広がった。

「今までずっとオレたち任せだった奴らが手の平を返しやがって…何をいまさら…」

「ですが戦ってはダメと言うワケではなく飽く迄も自粛であって極力の戦闘を避けてもらうということで…」

 必死になって感情的になる怪獣娘たちの憤りを抑えるようにピグモンはあたふたと説得を続けるが…

「その…警視庁さんからの要請もそうですが、追加でこれも御見せします…」

 なにやらトモミはDVDディスクを壇上のドライブスキャナーにセットするとホワイトボード型のモニターを通して映像が流れだした。

『警視庁警備部特異生物対策課、それは日夜出現する広域指定有害生物『シャドウ』に対して皆様の生活と安全を守るため、新たに新設した対特異生物編成組織の御紹介です』

 それは見る者には警察からの広報の映像のようだが、見方によればこれは警察からのメッセージとも取れる内容の映像だった。

「次にATR-X1『アルトリウス』の御紹介です」

 映像が進むにつれてこの間のシャドウとの戦いに突如として現れた青い装甲服の機械の様な警察官が映像には律儀に手を額に翳す敬礼までして映し出された。

「こっ…この人…」

 その姿に唯一アキだけは嫌な記憶が脳内にフラッシュバックするかのようにアルトリウスに対して嫌悪感が込み上がってきた。

「昨今のシャドウ被害に対して新たな切り札として正式導入した対特異生物対策装備の1つです。 主要兵装はATRWシリーズによる特殊光弾薬によるシャドウ生物への高いアドバンテージを獲得し―…」

 映像にはアルトリウスのいかにもな宣伝が流れて来た。さながらテレビの特殊撮影ヒーローの如き扱いと映像編集、さらには映りばえの良いカットを交えて心理的な影響と頼りたくなるような安心感を与えんとする手口、そのすべてをして警察がGIRLSの怪獣娘たちに対する回答であった。

『以上が特異生物対策課の御紹介でした。これからも都民及び国民の皆様の生活と安全、安心を御守いたします。――警視庁広報課――』

 GIRLSの怪獣娘たちのリアクションには1人1人が異なる表情を向けていた。

「なっ…なにこれ…めっ…メチャクチャカッコイイじゃん、なにあのロボット刑事みたいなのッ!?」

 目を輝かせてはしゃぐミクの様な者もいれば…

「まぁ、今後シャドウと戦う必要もなくなるって思えば確かに…」

 もともと戦闘向きでないレイカなども見た映像に安心感と期待度を寄せる者もいた。

 ただ一人は…

「納得が行かないよぉッ!!」

「あっ、アギちゃん?」

「アギさん?」

 突然の憤慨に隣同士で固まっていたミクとレイカもビックリして顔に陰るアキの表情を目の当たりにする。

「ボクは納得が行きません!!こんな映像を送りつけておいて『もう君たちは必要ない』って言われているような物じゃないですか!!」

「アギアギ、落ち着いてください!…結果的に怪獣娘さんの戦闘による被害の軽減にも繋がるのですよ」

 普段大人しいアキが感情的になる姿を見るのが初めてな面々にとっては驚くことだった。それほどまでにアキの目線から見たアルトリウス含めた警視庁の対応にはGIRLSとしての問屋を卸せぬ気持ちが強よかったが…GIRLSの方針は飽く迄も怪獣娘の保護及び救助が目的である以上、シャドウに対して警察が対応できるようになるのなら警察に任せる方針が固まっていた。

「ムキに為るなよアギラ、そうはいっても相手は国だぜ…俺たちがどうこう言ってもしょうがねぇだろ」

「レッドンの言う通りです…それとこれは警視庁が纏めた新たなシャドウを含めた『特異生物分類表』をお配りします」

 トモミが両手を使っても胴体が隠れるほどの分厚い部数のプリントを各自に回り始め手渡されていった。

「ほへぇ~…ウチらよりもしっかり纏められとるやん、さすがお役所仕事」

 感心するそのプリントの内容はシャドウを生物群として様々な個体を『アルファベット型』に合せて分類されていた。

「『S型』に『B型』、『G型』…ふへぇ~細かぁ~」

「こうしてみると私たちGIRLSが今まで戦ってきたシャドウっていろんな種類がいらっしゃるんですね」

 細かな詳細まで記載されている事に目から鱗が落ちる気持ちになるミクとレイカだが…その隣のアキには別のページが目に入っていた。

「何これ…『特異生体不明怪獣』…なんなんですかコレッ!?」

 そこには驚くべき内容が記載されていた。その写真に映る黒いシルエットの怪獣…見間違うはずもない『ゴジラ』だ。

「『特異生体不明怪獣』第1号?」

「2号と3号ってあたしたちを助けてくれた人らじゃ?」

 首を傾げながら見たことない怪獣の姿にハテナマークが頭に浮かぶサチコと2号と3号に助けられた時の事を覚えていたノイズラーことミサオは驚愕した。

「おい、4号って何だこりゃ…1号となんか色が違うけど形が似ているぜ」

 1から3号までの姿は見たことある者たちには4号こと機龍の詳細を始めて目にして驚愕した。

「秩父鉱山凍結事件の関連ありってあのニュースになっていたッ!?」

 4号に関連する『秩父鉱山凍結事件』は既にレイカが認知するほどに報道が開始されて連日テレビで報道されているため彼女たちにも広く伝わった危険度がシャドウでも怪獣娘でもない謎の怪獣と関係する生物に対して危機感が過るが…

「ウソだッ!!こんなデタラメな情報なんかボクは信じない!だいたいなんで今までボクたちの窮地を救ってくれたのに今度は敵みたいな扱いになっているんですかッ!?」

「アギさん落ち着いてください!」

「今日のアギちゃん変だよッ!?」

 またも感情的になったアキを押さえようと左右からミクとレイカが庇うが…

「アギラ!わがままみたいな態度はザンドリアスだけで十分だろ!」

「ふえっ!?ししょー!?」

 見かねたベニオはサチコを引き合いに出してアキが取る自らの行動を咎めた。

「アギアギ、警察も何も彼らと敵対しているワケではありません…彼らも怪獣である可能性があるならGIRLSとして対話を持ち掛けるための情報提供なのですよ」

「そんなのウソに決まっています!だいたいあの青いのにボクは……うっ…ぐっ…」

 言っても信じてもらえない…なぜなら既に何度もアルトリウスの事を皆に伝えているがベニオもミカヅキもミクも、あの時いた当事者の3人は意識を失うほどのダメージを負わされていた為に見ていなかった為に理解してもらえなかったことがアキの頭に中で過る。

「まぁ、この1号には俺たちも直接対面しているけど…ありゃぁ怪獣の域を超えている感じがしたぜ」

「せやなぁ、なんかぶっとい尻尾で突然殴られたけど…まぁ喋れるんやから話は通じるんちゃう?」

 碌に何も知らない者たちが勝手にあれこれと意見を話し合う姿にアキは信じる自身が失われていた。

 居心地も悪いし、プリントに記載されたゴジラ達が危険な存在であるかのように書かれていることなど読みたくもなく、アキは咄嗟に大会議室を飛び出した。

「アギちゃん!?」「アギさん!?」

「アギアギィ~まだ会議は終わっていませんよ!!」

 耳を貸さないアキはそのまま飛び出してGIRLS支部にまで背中を背けた。

 

 

 GIRLSを飛び出して辿り着いたのは近くの公園だった。いつもの河川敷は顔見知りも多くよりつく場のため普段は誰も立ち寄らないであろう場所にアキは公園内のベンチに腰かけていた。

「はぁ…どうしてお兄ちゃんの事になるとムキになるんだろうボク……」

 深い溜め息を吐き出すとソレに答えるかのように強い突風が吹いて公園内の遊具の1つであるブランコが左右共にキコキコと音を立てながら揺れ始めた。

「……おじいちゃん……」

 そんな揺れるブランコを見てアキは亡き祖父の事を思い出していた。

 中学の時に母を亡くして1年くらいたった頃に祖父が唐突にブランコに乗ったアキの背中を押して見たいと言い出した。歳ゆえかそこまで大きく揺らせなかったが、後に聞けば祖父は母とそのような事をしてあげられないほどに気づけば母が大人になってしまい、親より先に旅立った…母に何の思い出も残してあげられなかったことに生前の祖父は口癖のように母への気持ちを口にしていた。

『あの子は…私が憎かったんだろうね…』

 その言葉の真意は未だに分からないがどれだけ慰めても祖父の考えは変わらない…否、考えではなく後悔の様な念があるようだった。

「……………」

 ふと思い立てば身体がブランコの方に引き寄せられてブランコの鉄パイプ製の支えに手が触れていた。

 さすがの良い歳にブランコに腰かける酔狂は無いが…ただやはりアキには亡き祖父が残した何かが今日までに起き続けている事象に強い因果を感じてしまっている。

「教えてよ、おじいちゃん…おじいちゃんはボクに何を残して行ったの?」

「ならばどうして御遺書を読まれずにずっとしまっていらっしゃるのですか?」

 不意にアキの背後から声を掛けて来たのは後見人のダグナだった。

「なんだ、ダグナさんか…」

「失礼しました、物思いにふけられている状況に水を差すのもやぶさかでしたのですが……つい…」

「今日は一度も顔を見せてくれないと思っていたのに…」

「姿は見せずとも御近くであなたの側についております…距離は関係ありません、私の姿はあなたの生活に不便な御様子でしたのでなるべく適度な距離に居ました」

「……………」

 神出鬼没なダグナだが彼の言う通りアキは未だに祖父からの遺書を読めていなかった。

「…怖いからです…ボクの知らないおじいちゃんがボクにどんな事を書き残したのか…」

 アキの知っている祖父は普通の老人だった…しかし、その裏ではアキの知り得ない彼の素顔が今まで認識にすら浮かばないほどに鮮明に隠され続けてきた事…そして、死後になってからその存在感は日に日に増しているようであった。怪獣戦士(タイタヌス)の出現、謎の生物たち、沈黙を続けて来た国さえもそれぞれが彼の死を引き金に抑えられていたパンドラの箱を開けられたような混沌とした状況にすべての秘密が宿るのが祖父からの遺書であった。

「お気持ちは察します…が、そうして哀しまれては“ヤツら”の思うつぼですよ…アキさん、この世界にあなたは欠かせない御人なのです。どうか悲しまないでください」

 そういってさりげなくハンカチを涙が滴るアキに差し出した。

「…ヤツら…?」

「この世界はいわば牧場の様なものです…孤独になり、悲しみに溢れる者が彼の者たちにとっての条件です」

「ダグナさん…一体何を言って…」

「お気づかれませんか?…ヤツらはなぜ、あなた方が“哀しむ”状況下に突如現れるのか…アキさん、あなたはおじいさまの御遺灰を持ち出して御一人で山に登られた時に一体どんな気持ちを抱かれていました?」

 まるですべてを見透かしているような透き通ったダグナの瞳にアキの足は自然と引き下がっていた。

「ボクが…思っていた事…」

 思い返したアキはあの時に一人で祖父の骨壺を抱えたまま山に登って、襲われかける瞬間までの間に抱いた気持ちは思えば確かに『哀しみ』の感情だった。しかもそれだけにとどまらず…

「あの時、ボクは……“居なくなりたい”と思っていました」

「どうして?」

「なんでか分からないけど…でもほんの一瞬だけです、ほんの一瞬だけですけどおじいちゃんが居なくなったことへの反動なのか心に思っただけです」

 ただ一瞬にアキはその時の状況を思い返して出て来た記憶に“世界からの消失”を望むような気持ちがあったことに辿り着いた。

「そうですか…打ち明けてくれてありがとうございます。 ですが、それを抱かれたからこそ彼らはこの世界に“収穫”に現れたのですよ」

 ダグナの語る事にアキはただならぬ意味を含めているような気がするが…突然、背筋が凍る様な嫌な気配をハッキリと感じ取った。

 それはシャドウとは違う、別の何かの気配だ。怪獣娘としての本能が別の何かに対して激しく警戒している様だった。

「どうやら現れた御様子ですね」

 すると周囲から次々と魔法陣の様な曼荼羅模様の輝く円が出現して、その円の中からアキを襲ったトカゲの怪物、レイカを襲ったゴブリンの様な怪物、ミサオとサチコを襲ったオーガの様な怪物とそれぞれの異なる姿をした怪物たちが一同にそれぞれが2体ずつ計6体も出現した。

「ガバファラマ、ギガハバヴァガア!」

「グォドバマガギザドドグザ!」

 またしても理解不明な言葉を発する怪物たちにアキとダグナは周囲を囲まれ、さらには魔法陣を展開して武器を取り出し、魔法陣を媒介に謎の炎などを出して戦闘態勢に変わった。

「はわわわっ!ダグナさん、この怪物たちって…」

「いずれもアキさんたち怪獣娘さんと直面した者たちと同種ですね…しかし、こうも多く集まるということはそちらも逼迫しているのでしょう」

 まるで人に話しかけるかのように言葉を発したダグナは怪物たちとコミュニケーションを取る様な真似をしたが…

「グファカナバナァ“ダゴン”ラエアババッ!」

「…いい加減おやめなさい…そのような事をしてもあなた方の“世界”が修復されるとは限りません…何よりも“ダゴン”がそれを良しとしないでしょう」

「ダゴン?」

 まるで彼らの言葉を理解しているかのように会話が成立するダグナと怪物たちとのやりとりはある種の交渉のようだが、どうやらそれも決裂したように怪物たちがダグナとアキに向けてとうとう本気で攻撃する動きを見せて来た。

「なるほど、引き下がるおつもりは無いと……立場をわきまえなさい、“侵入者”!」

 その言動は今までの温厚なダグナとは思えない険しい表情と物言いで怪物たちにただならぬ気配を感じさせそれぞれに1歩引き下がらせた。

「ダグナさん…」

 初めて目にする後見人としてのダグナが本来見せる姿とは別の側面を持った得体の知れない気配にアキの中のアギラのカイジューソウルが警鐘を鳴らしているようにダグナの周囲を歪ませるほどの瘴気に対してアキの肌の上の産毛が逆立った。

 しかし、彼が何らかの力を有しソレを行使する前に怪物たちは公園内を高速で移動する何かと衝突して吹き飛んだ。6体の内3体の怪物たちは目にも止まらない高速で移動する何かに吹き飛ばされると上に向かって的確に1体ずつ光線を浴びて空中で爆発した。

「うわぁっ!?」

 爆炎と光線の閃光に眩みそうな目を閉じるもアキの前を大きな体格で彼女に身を挺してダグナは庇うが…残り3体の怪物たちは周囲を警戒しつつも蠢く何かに臨戦態勢は解かなかった。

 しかし、次の瞬間にはもう1体の顔面に赤い拳が叩き込まれ2体の首を両手で掴んで最後の敵も灼熱の業火で消し炭にした。

「おい、なんでわざわざ狙われに来てんだよ」

 一気に6体の怪物を瞬殺したのは背ビレと瞳の色が真っ赤に染まる『バーニング』に形態変化させたゴジラだった。

「そう言いながらもミレニアムで駆けつけていただけるあたり良心的ですね」

「やかましい」

 アキたちの窮地に最速で到着したゴジラは肉体を元の人間時のユウゴの姿へ戻した。

「一体どういう事なんですか!?ダグナさんはあの怪物の正体を知っているんですか!?」

 アキはダグナが怪物たちと対話ができる様子を目の当たりにして確信した。

 祖父が亡くなってから後見人として現れたダグナ、怪獣娘以外に男性が怪獣の姿に為る『怪獣戦士(タイタヌス)』、そして哀しいと言った感情を抱いた怪獣娘の前に突如として現れる謎の怪物、アキの身近な世界が次々と変わる状況の中ですべてを知っているであろうダグナに詰め寄った。

「そうですね…そろそろアキさんには御教えしてよろしいかと思います」

「あぁ、いい加減隠し通すのにも限界がある…アキ、お前や俺のように怪獣の力を宿した連中がどうして突然現れるようになったかわかるか?」

 ユウゴはアキに怪獣の力を宿す怪獣娘や怪獣戦士(タイタヌス)がなぜ現れるようになったのかを問いただした。

「そっ、そんなこと急に言われたって…ボクなんかが知るわけないよ、GIRLSでも怪獣娘の起源について諸説があるんだから詳しくなんて知らないよ」

「まぁそうだな…だが俺は3年前にその起源に触れたことがある…俺たちのルーツ、怪獣はすべて『ダゴン』って言う存在から始まったらしい」

「ダゴン…あの怪物やダグナさんも言ってたけど…なんなのダゴンって!?」

 ユウゴが口にする『ダゴン』と言う聞き慣れない単語が、アキたち怪獣娘たちの前に突然現れて襲い掛かってくる怪物も同じように『ダゴン』と言う言葉を中心に彼らが行動する何らかの理由であり動機である言葉に追究しようとするが…

「アギちゃ~ん!」

 GIRLSから大勢の怪獣娘たちが会議を飛び出していったアキを追って、アキの居る公園まで迫っていた。

「みっ、みんな……あっ!あれ?ダグナさん、お兄ちゃん!?」

 一瞬で目を離した隙にダグナとユウゴはアキの目の前から音もなく消えていた。

「アギちゃ~ん!!」

「ミクちゃ…ぐえっ!?」

 アキを追って先に辿り着いたミクは人間体のままであるにもかかわらず強い突進力でアキの胴体にタックルするが如く強い衝撃が襲い掛かってきた。

「アギちゃん!どこ行ってたのさぁ!みんな心配したんだよ!!」

「みっ、みみみっミクちゃん…ごめんって…はなじで…ぐっぐるじい…」

 泣きじゃくって心配していたことを強く訴えるミクだがアキ一人を軽々と持ち上げて腰から腹回りを掴み抱きしめて無自覚に絞めてきていた。

「ミクさん!それ以上やるとアギさんの中身が出ちゃいますよ!」

「あぁ、そうだった…ゴメン」

 レイカに咎められてようやく我に返ってミクは力を緩めてアキを解放した。

「はぁ…はぁ…なっ、何事なの?」

「何事なんはアギちゃんやでぇ…突然会議室を飛び出してぇ…ウチはアギちゃんをそんな子に育てた覚えは無いでぇ!」

「育てられた覚えもないし、そんな子がどんな子を指しているのかもわかんないよ」

 ワケが分からないアキは膝と手を付きながらも起き上がって土埃を祓いながら息を整えた。

「んでぇ、アギちゃ~ん…なんかウチらに隠しとることあるやろ!」

 突然ミカヅキに追及された指摘にアキの身体はビクッとなって冷や汗がダラダラと滴る分かりやすい動揺が身体に現れていた。

「べっ、別にそんなこと…あっ、そういえばウインちゃん」

「はい?私ですか…」

「ウインちゃんはさぁ…中野までサイン会に向かう途中に何か哀しい事があったの?」

 アキから突然指摘されたことにレイカは『えっ!』と心当たる表情を浮かべた。

「哀しいこと…まぁ確かにあるにはあるんですが、別に関係ないと思ってピグモンさんにも言わなかったんですが…実は私あの時にエレキングさんとの待ち合わせに遅れそうだったんです。メッセージには遅れるかもしれない時は先に並んでくださいと伝えたんですが…」

「じゃぁその時、『いっそ居なくなりたい』って思ったりしていない?」

「あっ、アギさん…どうしてそこまでッ!?」

 図星を付かれたかのようにレイカはビクッと身体が反応する様子が見えた。

「はっ…はい…実はちょっとだけエレキングさんにお会いするのが怖かった節があります…アイザワ先生のサイン会なんて滅多に開かれるものじゃないので遅れようものなら怒られるじゃ済まないと思って…一瞬確かにそんな感じのことを思っていました」

 普段の彼女が思うはずもない感情『居なくなりたい』と思ってしまうほどの状況下に突如現れる謎の怪物たち…その引き金をダグナから通じて理解したアキは確信に辿り着いた。

 あの怪物の狙いは怪獣娘たちが『この世から居なくなりたい』と思うほどの精神状態が“ヤツら”の達成条件、それがアキたち怪獣娘をどこかへ繋がる謎の魔法陣に押し込もうとする動機だった。

 そして、あの怪物たちが度々アキたちの前に現れて口にしていた謎の単語『ダゴン』とは何なのか…ダグナたちだけが知っているのにアキたち怪獣娘はソレを存じない何かが裏で動きつつあるようであった。

―???―

 

 そこはどこかの水族館の様な場所だった。前面には身の丈以上のガラスで覆われたガラスの向こう側には満杯に満たされた水と海と同じような水棲環境に整えられた水質…そして、その中を自由に泳ぎ回る無数の魚や海洋生物を眺める者がいた。

「…人は…人のままでなければならない…」

 その姿は水槽の中の水棲生物、蛸やイカなどの軟体動物を思わせる様な触手器官を口に生やしてかぎ爪のように鋭い指先から全身を多くの水棲生物と特徴を共有する鱗状の体表、そして背から翼竜のように関節は太く、膜は薄い、蝙蝠の様な翼を生やした人ならざる怪物がいた。

「仰るとおりかと…大いなる主よ」

 その隣では付き人のように傍らに佇む怪物に付き添う顔をフードで覆い隠した法師が怪物の言葉に同意する。

「この世界は…ダゴンとなるべき人間たちが溢れてしまっている…だが、私はそのような人間たちであっても見捨てることはできない故に機会与えてはいるが…どうやらそれ拒む者たちがいる」

「おそらく怪獣戦士(タイタヌス)共かと…」

「ふむ、“ダゴンの戦士たち”…人が本来持ってはならない力を高めた者たちか……いずれ彼の者たちにも私は向き合わなければならない」

 水槽の奥から小さな魚たちの集団の中から大きな魚が横切った。

「すべては御身のままに私は従います…大いなる水を司る主“クトゥルフ神”よ」

 陰の法師が深々と頭を下げる者に水槽内の天窓から光差し込む太陽の輝きが禍々しい姿とは裏腹に神々しい古代神官の様な出で立ちの怪物『クトゥルフ』が姿を光に晒した。




アンバランス小話
『迷う』

「う~んッ…こっち…いやこっち…」
 ショッピングモール内の衣類ブランド店舗内でサラは悩んでいた。
「あっ…あの~…僕は正直、何でもいいですよ」
「ダメです!そんな舌切り雀みたいな恰好で私の側をうろつかれると目立ちます!そもそもあなたが馬鹿みたいに体格の良いせいで選ぶのが難しいんですからね!」
 一通りのメカゴモラ用の衣服は買い揃えたが…今度はシュンイチ用の服選びに時間が掛かっていた。
「御連れ様の体形ですとオーダーメイドになるかと思われますのでお時間掛かるかと…」
「あらそうなんですか、仕方ないですね…シュンイチさん、あなた身長いくつ?」
「あっ、いや…測ったことないですけど」
「御測りいたします」
 ブランド店の女性店員が総出になってシュンイチの細かなサイズを計測して彼の身体データを導き出した。
「身長200センチ、胴回り93センチ、胸囲120センチ…なかなかのサイズですね」
「シュンイチさん、結構大きいんですね」
「はぁ…」
 自分では自覚がなかったもののシュンイチの身体は以外にも大きく服選びは難航していた。
「やっぱ…自分で選ばせてください……あっ、これなんかが良いです」
 それは体格が大きめの男性用ジャケットだった。今着ている物と殆ど変わり映えしない物を選んだ。
「ふぅ~ん…シュンイチさんが良いのならソレにしましょう」
「はい」
 結局シュンイチは今まで着ていた物との大差無いジャケットと大きめのズボンのみだけにしたが…
「じゃぁ次はジャンジャン行くわよ!」
「まだ選ぶんですか?」
 サラの買い物はまだまだ続きそうであった。
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