今回は『能力』の説明が多くてかなり長めな内容になっております。カゲプロ未読の方には今回の『能力』の説明はかなり重要なモノになると思われますのでじっくりと読んでいただくと助かります。
ちなみに、明かされていない『能力』はまだまだあります。
ーーこの短時間で『能力』を多用しすぎだな。しかもまだ発動させている。少し目の疲れが残ってしまう気がする。でも、それで手に入れた結果は上々。まぁまだ終わっていないが、一つ目でこれほどの結果を残せるのはかなり後が楽になるだろう。
幾ばくかの安心を覚えてみんなの元へ帰っていくと、相澤先生が話しかけてきた。
「…待て、九ノ瀬。お前、今何をした?」
まぁ、ごもっともな疑問だ。
恐らく先生や見ている生徒から見たら不思議な現象を目にしたんだと思う。爆豪君の『爆破』で姿が見えなくなった瞬間、僕の姿を視認できなくなり、気づけばゴール。そしてそれはありえない結果だ。先にゴールした爆豪君のタイムよりも速い結果を出したのだから。
ただ、僕はそんなありえない結果を叩き出した。もちろん『能力』のおかげだ。
僕はこの短時間で『能力』を3つも使っている。ただ、それは全然別のタイミングだ。そもそも僕の『能力』は特別な場合を除いて、1つずつしか使えないのだ。
まずは、『能力』の説明から始めよう。
☆
まず1つ目に、『目を隠す』
これは入試の時に少し見せたものだ。
自分や一定の範囲内にいる対象者の存在感を極限まで薄くし、周囲から認識されないようにすることができる。つまり、人から見えなくなる『能力』だ。
ただ、能力を使う時に相手が目を離していないと、能力を使ってもその相手には姿が見えたままになってしまう。
ちなみに『能力』を緩めると、顔も覚えていない他人位の認識で認知される事もできる。
そしてこの『能力』は第三者に触れられると強制的に解除される仕組みだ。入試の時は峰田君に声をかけようと肩に手を置いた所で解除され、彼を驚かせてしまった。
前回は意図せずに発動させてしまったが、今回に関しては爆豪君の爆破のタイミングに合わせて僕が自ら発動させた。
今回1番厄介だったのは《この能力を使う時に相手が目を離していないと、能力を使ってもその相手には姿が見えたままになる》というルールだ。
このルールをかいくぐる為に再び爆豪君を利用させてもらった。彼の個性は前から知っていたし、他人から一瞬でも見えない様にするには彼の『爆破』は丁度良かった。
さて、彼を走者に誘ってみんなの『目を隠す』事にはしっかりと成功したが、それでもまだこの結果を作るには足りないだろう。今のままだとただ透明になって走っただけだ。『2秒32』という結果はありえない。
そこで使ったのは『目を覚ます』
この『能力』の本質は不老不死の精神を得ることができる、というものだ。
…この『能力』によって肉体を失い消滅しかけたある少女がいたが、精神だけが電子化して残ることができた、という事例がある。
その事例の名残なのか、電子機器が近くにあれば電脳世界に精神を飛ばす、という『能力』として僕に受け継がれている。
簡単に言うと、僕、九ノ瀬遥という存在を
今回に限っては一体どんな電子機器に干渉したか、という疑問はあるだろうが、そんなのもちろん1つしかない。
ゴールに配置されている記録を測定し、無機質な声で読み上げる三脚のような機械だ。僕はそれを
…いや、ハッキングといっても大した事はしていない。次の次に記録されるタイムを設定しておいただけだ。つまり、僕が20秒かけて50mを走ろうが、記録は必ず2秒32になるように設定したのだ。
それに『目を覚ます』の発動中は精神が電脳世界へ行く為、現実世界の肉体はほったらかしになり、不可解に思われるだろう。そこはしっかりとトイレを申し出て誤魔化しておいた。そう、僕が走る前には『目を覚ます』は使っていた。
この2つの『能力』での下準備を行なった後は、50m走を走り切るだけだ。そしてゴール直前に『目を隠す』を解除する。これで消えた理由も、タイムの矛盾も全て説明がつく。
……と、ここまで長々と説明をしてきたが、この事全てを目の前にいる相澤先生に打ち明けるべきか否か。答えはもちろん、NOだ。
相澤先生の問いに僕は笑顔で答える。そんな僕の息は50m走を走り切ったとは全く思わせない証拠がある。僕は、
「個性を使いました。瞬間移動の様なモノと思ってくれて結構です」
疲れた様子など全く見せず、僕は貼り付けた笑顔で、彼の『目を
☆
これが、今回使った最後の『能力』
『目を欺く』
他人に自分の姿を違った姿に見せることができる『能力』だ。
範囲が小さく自分自身にしか反映されないが、相手によって見せる姿を調整することができ、また自分自身ではなく完全に別の人物や生き物の姿を見せることもできる。
ただし、実際に対面したことがあり、なおかつ鮮明にイメージできる有機物のみに限られている。
まぁ簡単に言ってしまえば、自分の姿を自由に変える『能力』だ。
今現在、僕はこの『能力』で、“50m走を走り切って疲れた顔の九ノ瀬遥”を“瞬間移動を使って50m走を終えた九ノ瀬遥”に変身している。
ちなみにこの『能力』は“痛み”によって解除されてしまう。もし目の前にいる相澤先生が何を思ったか暴力を僕に振るうもんなら、このズルも露呈する可能性がある。
そう、ズルだ。僕のこの『2秒32』という記録はハッキングという卑怯な手で生み出したものだ。
実際こんな嘘はいつかバレてしまうだろう。ただ、今じゃなければいいのだ。除籍を免れるのならそれでいい。
『目を欺く』を発動させながら、相澤先生の返事を待つ。
「…それならあの結果は何だ?音声が流れるのは爆豪のゴールの後だったし、2秒32という結果はおかしいだろう」
間髪入れずに僕は答える。もちろんこの問いも想定済みだ。あらかじめ用意していた答えを返す。
「さぁ?あまり詳しい事はわかりませんが、ラグ、みたいなものじゃないでしょうか?ネットゲームならよくある事ですよ」
…我ながら支離滅裂な思考・発言だが、理由はこの程度でも先生ならここで退くと予想している。
「…そうか」
その返事を聞いた瞬間、僕は内心でガッツポーズをとる。相澤先生は背を向けて歩き出し、他の生徒に「次、早く走れ」と促す。
…騙してごめんね、相澤先生。でも貴方なら信じてました。再テストはしない、と。
僕の50m走のズルは再テストをすれば簡単に破綻し、僕の7秒前後という正直な結果が露呈するだろう。相澤先生は先程指摘した不可解な矛盾があるというのに再テストをしなかった。それはなぜか。
今までの相澤先生の発言を省みて、僕はある仮説を立てていた。それは僕じゃなくても、誰もが気づく仮説。
『
その仮説に僕はほぼ確信を持っていた。だからある程度の矛盾なら誤魔化せると踏んでいたのだ。だって、彼は合理的だから。再テストなんていう時間の無駄になる可能性があれば、それは好まない選択だ。
僕に背中を向けた相澤先生を見る。今は『欺く』の発動中で、目は赤々と輝いている。僕は『欺く』でその色さえ見せずに、薄く笑う。
もう発動させる必要もないと気づいた僕は『欺く』を解除し、みんなの元に戻る。
ーーー歩く先にいた緑谷君の透き通った目には、素の僕の笑った顔が映っており、緑谷君は何故か怯えた表情をしていた。