赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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握力測定

僕が走った後、他の人も無事に走り終え、50m走を終えた僕らは次の種目の為に移動をした。

 

僕はこの個性把握テストの8つの種目を聞いた時、『目を覚ます』を使って記録の書き換えを1番に思いついた。しかし、ただ記録の書き換えをすれば良いのではなく、それを誤魔化さ無ければいけない。現に、爆豪君の爆破が無かったら『目を隠す』は使えず、50m走の好タイムはあり得なかっただろう。

 

そして僕は、明かされていない採点基準に関してもある程度の予想はつけている。恐らく、順位をポイント化している。1位の人には21pt、2位の人には20ptという風に加点していき順位を決める方法だ。

 

50m走で爆豪くんの4秒13というタイムに矛盾をしてまで僕が2秒32を選んだ理由はそこだ。

 

万が一の為にも学級1位の記録を叩き出し、ptを稼ぐこと。少し不自然になってしまったがこれは必要な事だった。

 

実際、僕の『能力』で好タイムを出す種目は限られている。さっきも言った通り、『覚ます』のハッキングを誤魔化しながら種目をこなす、というのは至難の技だ。

 

だから、僕の目標は最低でも2種目で高記録、欲を言えばクラス1位の記録だ。それを達成できたら、最下位の除籍はまず無いと見ている。

 

そして僕はこの2つ目の種目で、一気にケリをつけるつもりだ。

 

〈握力測定〉

 

恐らく先程の50m走で相澤先生にかなりマークをつけられているだろう。だがこのテストなら特に問題はない。

先生は僕らに告げる。

 

「3人1組を組んで各自測定しろ、表示された結果をグループの他の奴が俺に報告する形だ、ほら、早く始めろ」

 

なるほど、多分誰かさんの不正でも疑っているのだろう。元々あった形式かは知らないが、合理的ではない方法に思える。

 

だが、自分以外の第三者の存在、これは確かに厄介だ。僕の『目を隠す』は注目されていたら効果を為さないし、この時点で1つの『能力』を封じられている。

 

ただ、この種目で『目を隠す』必要は無いだろう。使うのは『目を覚ます』のみでいい。

 

僕は手元に配布された握力測定器を見る。正式な名称は知らない。

さっき先生が〈表示された結果〉と言っていた事からわかると思うが、この握力測定器も電子機器の様に画面が数値を表してくれる優れモノだ。中学の時の様なメーター式じゃなくて助かる。

 

この程度のモノなら数秒でハッキングは終わるだろう。丁度手元にある上にまだグループを作る前だ。『覚ます』の使用中は僕の意識は電子化するので、現実世界に干渉できなくなる。第三者に見られたら不審がられる事だろう。

 

僕は目を赤く輝かせ、『覚ます』を発動する。

 

 

 

 

僕が現実世界で『目を覚ました』直後、目の前に少女がいる事に気づき、驚いた。しまった。僕が『覚ます』を発動する前から近づいていたのだろうか。少女は怪訝な顔で僕を見る。そりゃそうだ、話しかけても何の反応もないし、全く動かないのだから。

 

「…アンタ、大丈夫?具合でも悪いの?」

 

ーーーーーその声を耳にした瞬間、なぜだか僕は懐かしい気持ちになった。いや、()()()。夢の中、そして記憶でしか会えない愛しいある少女に。

 

鼓動が速まるのを自覚しながら、僕は目を逸らして答える。いや、逸らしちゃ失礼だろ。

 

「…大丈夫。ちょっとボーッとしてただけだよ」

 

咄嗟に『目を欺く』を使って大丈夫そうな顔を作り、目を合わせた。心の中では混乱が渦巻いているが、僕はそれをおくびにも出さない。

 

「そ。ならいいけど。でさ、ウチらとグループ組んでくれない?てかもうこの3人しか残ってないし」

 

よく見れば彼女の後ろには少年が立っていた。僕は笑顔を貼り付けて答える。

 

「勿論だよ。それじゃ、簡単に自己紹介から。僕は九ノ瀬遥(ここのせはるか)。そっちの君は?」

 

僕は今まで会話に参加して来なかった少年に声をかける。寡黙な人だが、50m走の走り方を見るとかなり独特な個性だった。氷を重ねて走ってて楽しそうだな、とも思ったな。彼は無表情だったが。

 

「…轟焦凍(とどろきしょうと)。よろしく」

 

中々クールな少年であまり馴れ合いとかを好まない感じかな。爆豪君に似ているものを感じる。

 

髪色が赤と白にはっきりと半分で分かれているクールな少年の名前を聞いた僕は、最初にグループに誘ってくれた少女の方へ顔を向ける。

 

耳からイヤホンの様なものを出して、少女にしては目つきが少し悪く、ぶっきらぼうな少女。

 

耳郎響香(じろうきょうか)。…それじゃ、さっさと測っちゃおっか」

 

僕は頷いて、先に測らせてもらう了承を頂く。2回連続で測るので、ちゃんと2回とも高記録に設定してある。

 

僕の記録はもちろん、設定しておいた通りの結果だ。

 

「…お前、すげぇな」

 

僕の結果を見た轟君は感嘆の声を漏らす。無口な彼が僕に驚いて口を開いたのは、何故か誇らしく思った。

 

「うわ、343kg⁉︎え、何この数値?何で轟はもっと驚かないの?」

 

まぁ、確かにこの結果に対して轟君の反応は薄すぎた。もっと驚いてくれると思ったので、少し残念だ。中途半端に高い結果だと「俺と握手しようぜ!」なんて輩がいるかもしれないから挑ませない程の高い結果に設定しておいたのだ。

 

そんな謎の寂しい気持ちを抱いていると、轟君が僕の結果を相澤先生へ報告しに行ってくれた。それじゃあ、次は耳郎さんだ。と、彼女に握力測定器を渡そうとしたところで、比較的近い所にいた別のグループが騒ぎ出した。

 

『540kgってあんたゴリラ!?あっタコか!』

『タコってエロいよね』

 

僕らはそちらの方に顔を向ける。握力測定器を持っているのは……確か、障子目蔵(しょうじめぞう)くん、だったか。個性の『複製腕』で腕を増やし、重ねた手のひらで驚異の結果を叩き出したようだ。

 

入試の時の戦友が意味不明な事を言っていてつい苦笑いしていると、耳郎さんが思わず、という風に言葉を零した。

 

「…へぇ。540ってすごいな…」

 

その言葉を聞いた僕は、もっと高く数値を設定しておくべきだったか、なんて思ってしまった。いや、何考えてんだ僕は。どう見ても引いてるだろ。

 

変な考えを打ち消すように頭を振ると、丁度轟くんから僕の異常な結果を聞いた相澤先生と目が合った。やはり彼は僕の事を嫌悪しているようで、厄介者を見るような目で僕を見ていた。さっきまでとは違い、不思議に思っている感情も見て取れたが、その真意はわからなかった。

 

相澤先生が僕を警戒している理由はまだはっきりしないが、恐らくもう高記録を残す必要も無いし、知らなくても問題無いだろう。残りの種目は小細工せずに平均的な記録でも最下位は免れる。

 

これ以上相澤先生へ反抗理由もなくなったので、僕は彼の視線を受け流す。まぁ、元々反抗する気は無いのだが。

 

僕と耳郎さんは轟君が小走りでこちらへ帰ってくるのを待ち、残りの2人の測定をつつがなく終わらせた。

 

 

 

 

ちなみに握力測定の1位は案の定障子くんだったが、2位は砂糖力道(さとうりきどう)という少年で、僕はそれに次ぐ3位だった。

 

砂糖君は『シュガードープ』という個性で、一時的にパワーを5倍にするらしく、356kgという記録で僕は僅差で負けていた。

 

ちょっと悔しかったが、まぁ問題は無いだろう。

 

他の人の調子はどうなのだろう、と周りを見てみると、ある少年を見つけた。この個性把握テストが始まってからずっと青ざめた顔をしている、緑谷出久くんだ。

 

彼はまだ個性を見せていない。一体どんな個性なのかは知らないが現状の記録では最下位の可能性があるのだろう。

 

「…よし、全員終わったな。それじゃ、次の種目行くぞ」

 

緑谷くんの事は心配だったが、そんな相澤先生に促され、僕らは移動を開始した。

 




ただの握力測定に尺を使いすぎだろ、と一言。
ちなみに3人1組っていうヤツはアニメで握力測定時、轟、口田、上鳴、の意外な3人の姿が見えたので元々そんな仕組みだったと予想してます。
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