赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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かっちゃんの705.2と出久の705.3っていうこの10㎝差が、なんか好き。



『705.3』

〈立ち幅跳び〉

 

グラウンドに移動して測定したのは立ち幅跳びだった。中学校と同じように長方形のサラサラした砂の枠で測る仕組みで、ただ1つ違うのは50m走でおなじみの三脚のような機械が配置されている事だろうか。

 

まぁ、このテストは別の場所で2人ずつ測定する形なのだが、50m走の様に誤魔化す事は不可能だ。高記録を出しても矛盾がいくつも出てくるだろう。もはや見慣れた機械だが、もうお役御免。僕はテキトーに初めの方に名乗り出て、無難な結果に終わらせた。

 

僕の次に測定したのは青山優雅くんで、へそからビームを出す『ネビルレーザー』という個性だった。後ろ向きに飛んでビームの勢いを利用し記録を伸ばしていた。1秒以上は射出できないらしく、大記録、というわけでもなかったが。

僕は彼のへそ部分にあるサポートアイテムに少し興味を持ちながら、次の人の測定を待った。

 

爆豪くんは流石、というべきか爆破を細かく繰り返して勢いを増していた。両手だと威力が分散されてしまうらしく、彼は不満気な表情だったが、かなりの記録だ。余裕で僕を超えている。そう思った時、彼が僕の方をチラリと見た。なんだろう。

 

ところが彼は舌打ちと同時に目を逸らして緑谷くんの測定を見た。一体なんなんだ。

 

正直なところ、50m走の時は彼から見るとラグなんていう意味不明に負けている結果だ。だから走り終わった後すぐに僕に絡みにくると思い、痛みで『欺く』が解けてしまうのではないか、と危惧していたのだが、特に接触は無かった。拍子抜けだ。

 

ちなみに爆豪くんの目を向けた先にいる緑谷君は個性を使う素振りもなく、残念ながら後ろに倒れてしまい平均より少し下の結果で終わっていた。

 

〈反復横跳び〉

 

この地味な種目で1番目立っていたのは入試の時の相棒、峰田君だった。個性の『もぎもぎ』を左右に山のように配置したぶどうにぶつかり続け高記録だ。自分にはくっつかない、という特徴をうまく活用しているようだった。さすがだ。

 

ちなみに僕は平均程度の結果で終わらせた。さっきも言ったが一位を目指す訳でもないので高記録を取る必要はもう無いのだ。

 

〈ボール投げ〉

 

ここまで4つの種目を終え、あと残っているのはボール投げ、持久走、上体起こし、長座体前屈。この半分だ。

 

反復横跳びも平均的な結果で終わった緑谷君の事はやはり気にかかるが、僕は他のある1つのことに頭を悩ませていた。というか言い訳をしていた。

 

他でも無い、耳郎響香さんの事だ。いや、ファーストコンタクトでドギマギしてしまった事は認める。ちょっと似てる雰囲気もあって、ある少女と重ねてしまっていた。ただあれは『覚ます』の使用直後の事だからであって、元の使用主である彼女が思い浮かんだだけなのだ。多分。それだけだ。

 

そんな言い訳をしていると、相澤先生の声が意識外から聞こえてきた。

 

「…おい九ノ瀬、早くしろ、意識とんでるぞ」

 

…どうやら相澤先生が僕を呼びかけていたようだ。早くボールを投げろ、という事だろう。

 

麗日さんが大記録を残したらしく騒いでいた面々が僕のボーッとしていた姿を見てクスクスと笑う。

その1人には当の耳郎さんも含まれていて、何故だか急激に恥ずかしい思いを味わった。

 

僕はさっきと同じ様に『能力』を使わずに全力で投げる。2回。最高記録は51mという無難な結果だが、まぁ問題はないだろう。前半2つの種目の貯金はかなりある。

 

僕と入れ違いに入ったのは緑谷君だった。すれ違った時、覚悟を決めた表情をしているのが見えたので、恐らく個性を使うのだろう。まぁ確かに残りの種目を考えると、圧倒的な記録を出すのは難しい気もする。緑谷くんはここで高記録を出さないと厳しい。

 

僕は轟君の隣に立って緑谷くんの測定を待つ。世間話として、轟君に話を振ってみた。

 

「緑谷君…今投げる彼だけど、多分これから個性を使うよ。どんな個性だと思う?」

 

轟君はチラリとこちらを見た後、緑谷君の姿を観察する。観察が終わったのか、僕に問いに返す。

 

「…さぁ、知らねぇ。アイツ、今まで個性使ってねぇのか?」

 

あぁ、どうやら周りに興味が無いらしく、緑谷くんなんて気にも留めなかったのだろう。こんな機会ならクラスメイトの個性を見ておきたいと思う気がするけど。

 

僕は轟君の返事に頷いて返し、緑谷君を改めて見る。

 

緑谷君から目を逸らさずに観察していると、比較的近いところにいた2人の会話が聞こえてきた。喧嘩腰の様にも思える。

 

『緑谷君はこのままだとまずいぞ』

『ったりめぇだ!無個性のザコだぞ』

 

どうやら飯田くんと爆豪くんの会話だ。爆豪君は緑谷君の幼馴染と聞いていたが、無個性というのは信じられなかった。無個性であの入試をクリアできる訳がないだろう。どうなってる。

 

『無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか?』

『はあ?』

 

飯田君の発言が意味不明な様で、爆豪君がイラついて返す。なんだ、この矛盾は。

 

向こうへ行って詳しく話を聞きたい気持ちはあるが、緑谷君が大きく振りかぶったのでそちらに意識を集中させる。投げるフォームに入った横顔は、必死な気持ちと泣きたい気持ちが重ね合わさっている様に見えた。

 

待ちに待った彼の個性のお披露目、そしてそれは、叶う事は無かった。

 

『46m』

 

何とも、拍子抜けの結果だ。この種目でも個性を使わないつもりなのか、緑谷君。

 

『なっ…今確かに使おうって…』

 

緑谷君が自分の手を見て信じられない様につぶやく。

それに返すように、僕らの横にいた相澤先生が口を開く。

 

「個性を消した」

 

そちらの方を向くと、首元にあった白い布が全身で怒りを表現するように浮き、緑谷君を見るその目は赤く光っていた。

 

その目を見たとき、馬鹿らしくも僕と同じ『能力』の類なのか、と、この世界のメデューサの存在を危惧したが、そんな事は杞憂だった。

相澤先生は緑谷君に向かって言葉を紡ぐ。

 

「つくづくあの入試は()()()に欠くよ。お前のようなヤツも入学できてしまう」

 

緑谷君は相澤先生の言葉を聞いて、何か思い当たる事があったのか、思わず、という風に叫んだ。

 

「あのゴーグル…。そうか!見ただけで人の個性を抹消する個性。…抹消ヒーロー〈イレイザー・ヘッド〉!」

 

イレイザー・ヘッド。うーん、僕は聞いた事がない。それは他のクラスメイトも同じなようで、知っているのは少数だった。

 

「え、俺知らない」

「聞いたことあるわ。アングラ系ヒーローよ」

 

アングラ系。つまり表立って活動する事はせずに裏方のヒーロー活動。業務、もしくはサポートに徹するのだろう。そしてそんな事を知っている緑谷君はかなりのヒーローオタクのようだ。入試のときから薄々勘付いてはいたが。

 

イレイザー・ヘッドーー相澤先生は緑谷くんに近づいていく。僕らから離れてしまったので、2人の会話は聞こえない。雰囲気から見ても褒めているようには全く思えない。十中八九説教だろう。

 

それにしても、何故相澤先生は緑谷君の個性を消したのだろう。個性を把握したいんじゃなかったのか。

気になった僕は緑谷君の個性を知る飯田君に話しかけに行った。

 

「ねぇ、飯田君。ちょっと聞いてもいい?」

 

「む。君は九ノ瀬君だったな!答えられる範囲ならもちろん答えるぞ!」

 

飯田君のありがたい言葉に甘えて、1つの問いを口にする。

 

「彼…緑谷君の個性って、何?」

 

飯田君が答えようとしたところを遮るつもりは無かったのだろうが、結果的に相澤先生が遮る。

 

「個性は戻した。ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

そう言って先生は僕らの所に戻ってくる。

緑谷君は数秒逡巡したのち、覚悟を決めたように顔を上げる。

 

それを横目に見ながら、僕は飯田君に話の続きを促した。彼は口を開く。そしてそれはまるで、()()()()()()()()のような行動で。

 

「入試時の彼はーーーーーー大跳躍、そして右腕の一振りで0ptの仮想(ヴィラン)吹き飛ばしていた」

 

『ーーーーーーSMAAASH(スマァァッシュ)!!!!!!!』

 

彼の指先から伝わった超パワーが、ボールの勢いを増していく。ボールはそのまま爆風に乗ったように高く舞い上がり、僕らからでは見えなくなっていく。

 

相澤先生の手元にある測定器の表示は『705.3m』

偶然にも、幼馴染の爆豪君の記録より10㎝遠い結果だ。

 

そんな大記録を叩き出した彼の指先は何故かドス黒く変色していて、僕はそれを痛々しいと思った。ただ激痛の中でも彼は相澤先生へ笑ってみせて、そんな彼をカッコいいな、とも思った。

 




映画の〈I・アイランド〉編を書きたいけど記憶がもうあやふや過ぎる。でもメリッサが好きなので絡ませたい。サポートアイテムを作らせたい。てかメリッサが好きだ。
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