人差し指の色がドス黒くなりなんとも痛々しい。それでも彼はその右手を相澤先生に自慢気に見せる。痛みをこらえながらも、挑戦的な顔で笑い、彼は言う。
「先生…まだ、動けます!」
「こいつ…!」
それを見た相澤先生はつられたように笑う。心なしか嬉しそうだ。涙目の彼ーーーー緑谷君も笑みを崩さない。
なんだよ、カッコいいじゃないか、少年。
☆
ーーーーと、緑谷君を見直したのだがその後の結果は散々だった。持久走、上体起こし、長座体前屈の3種目では平均以下の結果だ。長座体前屈はみんなそこまで代わり映えしない結果だったのだが。(芦戸という入試の時に見かけた少女は高記録だった。後に聞くとダンスをやっていたらしい)
しかしあとの2つ、持久走と上体起こしは人差し指の痛みに意識を奪われ、結果は振るわなかった。特に持久走だ。個性を使っていない透明少女にも負ける始末。
これでは、ボール投げで得た恩恵が少ないだろう。結果が不安だ。
〈結果発表〉
全種目を終えたA組は最初の集合場所に集まり、相澤先生からの結果発表を待っていた。
全員揃ったのを確認した相澤先生は、リモコンを操作して水色の画面を表示する。
「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ」
僕らは画面を見る。
気になる僕の順位は9位。最初の貯金だけでここまで来れたのなら上々の結果だ。僕はホッと胸をなでおろす。
そして最下位、つまり21位の横にある名前は、緑谷出久。…やはりボール投げでの大記録はあまり意味を成さなかったのかもしれない。クラス順位をpt化して加点するなら、麗日さんという絶対的な1位がいる限り、2位以下のptしかもらえないから他と差をつけにくいのだ。
表記されている彼の名前と、当の俯いてる本人を見て、短い付き合いだが悲しい気持ちになっていると。
「ちなみに除籍はウソな。君らの個性を最大限引き出す
…。
『はぁ!?』
しんみりとした空気を良い意味でぶち壊すような相澤先生の発言。緑谷君の周りにいる麗日さんや飯田君が中心になって騒ぎだしたA組。僕は唖然として、開いた口が塞がらなかった。
騒ぎ出したみんなを呆れるように見て、告げる
「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」
そう言ってため息をつく八百万さん。それを聞いた面々は気付いていた者と気づかなかった者に表情が分かれる。僕は当然後者だ。
ちょっと考えただけでわかる八百万さんを尊敬の眼差しで見る。彼女の個性は『創造』だ。身体的に言えば並の少女と同じくらいだが、この個性を使って彼女は今回の個性把握テストで1位を取っている。
うん、正直途中からみんなこの八百万さんが1位なんじゃないか、というのには薄々気付いていた。だって彼女はボール投げの時には大砲を創造し高記録、持久走ではスクーターを創造し1位、握力測定でも万力を創造して、僕に次ぐ4位だ。かなり万能な『個性』であらゆる面で高順位。これが推薦入学者の実力か。ちなみにもう1人の推薦入学者は轟君らしい。知らなかった。
そんな彼女は除籍がウソと知っていたのに全力で一位を取りに行ったらしい。どうやらかなり真面目な少女だ。
しかし、ウソか…うーん。ハッキングして結果を
ただ、緑谷君が除籍されないという事実を嬉しく思いながら、僕はこれから共に過ごすクラスメイトを笑って見ていた。
☆
みんなが騒ぎ終わった事を確認した相澤先生は「HRを始めるから早く戻れ」とだけ告げて、校舎に戻っていく。教師用玄関などがあるのだろう、校舎裏へ向かっているようだ。
僕は詳しく話を聞かせてもらった飯田君にお礼を言いながら、その後を追いかける。飯田君たちは生徒用玄関へ向かい、相澤先生とは逆方向だ。
校舎の陰に入っていく所の相澤先生に声をかける。
「…相澤先生。ちょっと時間いいですか?」
相澤先生は振り返る。当初より僕を警戒してるようには見えないが、まだ疑心のようなものが見える。
「…手短にな」
僕は感謝を言って遠慮なく言葉を紡ぐ。
「えーと、まず、僕の個性は『瞬間移動』じゃないんです。僕が個性を複数持ってるってのは知ってると思いますが、それを応用して瞬間移動に見せかけたんです」
僕はあんなに必死に誤魔化した50m走の小細工を自ら暴露する。手短に、と言われたのでかいつまんで話し、相澤先生は黙って聞いている。
「まぁ端的に言ってしまうと、ハッキング、というか…記録を塗り替えたんです。それが、僕の個性の1つです。50m走と握力測定の時に使いました」
聞く側として良い気がしない言葉だ。ハッキング。ただそれしか思いつかなかったのだから仕方ない。
そもそも、そんなハッキングをしたのは除籍を免れる為なのだ。そしてそんな除籍が合理的虚偽だったのなら、後々の為にも早めにバラしてしまった方が良いだろう。
さらにいうと、最初の50m走や握力測定の時には気づかなかったのだが、ハッキングが許される、という可能性も出てきた。
八百万さんのように、万力などの使用が認められるのなら、ハッキングもアリという可能性がある。記録の塗り替えがセーフかどうかは微妙なラインだが、個性を把握するテストなのだからその場に合う個性を活用出来るか、も観点の1つだ。
そして自白しようと思った理由はもう一つ。相澤先生が
そもそも頭も良い相澤先生は僕の個性が瞬間移動なんて本気で信じていないだろう。ただ面倒くさがってそれを暴こうとしなかっただけなのだ。
「…そうか。そんじゃお前の個性、ハッキングするってやつ、握力測定の時にいつ使ったんだ?」
不思議な疑問で驚いて先生の顔を見ると、先生は不可解な顔をしていた。恐らく僕が自白した事に疑問を持っているのだろう。
それにしても意味不明な問いかけだ。
「…えーと、グループ分けをしろ、って言われてからすぐ、ですかね、確か」
僕は曖昧な記憶を掘り起こしながら、正直に答える。その答えを聞いた先生はため息をつきながら返す。
「…そうか。ならいい。そんじゃ俺にその力の詳細を教えろ。お前の個性名…『目を
どうやらハッキングはこの個性把握テストでは不問になったようだ。この件で除籍の心配はもう無くなり、一安心だ。
僕は曖昧に微笑む。
「まぁ、個性を複数所有できる個性、みたいな感じなんです。今はそのくらいで、また今度改めて話します」
僕はその辺で話を打ち切ろうとしたが、まだ聞きたい事があったのを思い出す。時間が無いのはわかっているが、勢いで聞いてみた。
「そういえば、A組が21人って何故なんですか?入学前は20人って聞いてたんですけど…」
僕が除籍を本当と信じた理由はここにある。クレイジーな相澤先生なら21人を入学させ、このテストで1人除籍する。そしたら当初の予定の20人だね(にっこり)。なんていう残酷な事をしかねないと危惧したのだ。
それを聞いた相澤先生はさっきよりも深いため息をつき、頭をかいた。いや、なんでだ。「お前がそれを言うか…」なんて呟きも聞こえてきた。
それについて問い質そうとすると、先生は遮るように言葉を被せてきた。
「…今年は有望な生徒が多かった、って事だ。そんじゃ、もう時間だ。…早めに教室入っとけよ」
何か納得のいかないようなモノを覚えながら、渋々と相澤先生に背を向け歩き出す。
ふと後ろを振り返ると、いつのまにか出てきたオールマイトと相澤先生が会話しているのが見えた。僕との話が終わるのを待っていたのだろうか。一体どんな話をしているのか気になったが、時計を見て余裕が無いことを知り、そのまま歩きを進めた。
ーーーーー後になって思うと、この時先生方の話を聞きに行っていたら、怒りに身を任せ自主退学をしていたかもしれないな。いや、どうだろう、もしもの話だ。誰にもわからない。
そもそも、小さなヒントはそこら中に転がっていたのだ。
例えば、僕を警戒するオールマイト達と、僕を嫌悪していた相澤先生。
情報を手に入れるという自分の為ではなく、“僕の為”という言葉を使った『冴える』
『ヘイヘイ。でも主サマの為の行動ならいいだろ?』
吐いた嘘を飲み込むように、“
『…と、まぁ学校側からの採点は以上だ。これらを統合して、九ノ瀬遥は
21人である理由を聞いた時、深いため息をついて呟いた相澤先生。
『お前がそれを言うか…』
ーーーー全く、もっと勉強すれば良かったな。
☆
「相澤くんの嘘つき♡」
「…見てたんですね。暇なんですか?」
「合理的虚偽って?エイプリルフールは1週間前に終わってるぜ」
ワタシのその言葉でそのまま歩き去ろうとした相澤君は足を止めた。
彼はワタシの方を見ない。
「君は去年の1年生1クラス全員除籍処分にしている。見込み0と判断すれば迷わず切り捨てる」
彼はまだこちらを見ない。ワタシはそんな彼を指差す。
「そんな男が前言撤回。それってさ、君もあの子に可能性を感じたからだろ?」
「“君も”?随分と肩入れしてるんですね、緑谷
ゔっ、と言葉が詰まる。
ようやくこっちを見たと思えば、責めるような顔でワタシを見ていた。
「…九ノ瀬なんて
そんな軽い皮肉に、ワタシは返す言葉を持たない。
「…ま、素質は感じましたよ、性格も悪くない。だからと言って貴方のした事を許せる訳ではないですけど」
「…すまないね。根津校長も許可はしたが、発案はワタシだ。新米教師の癖に、出過ぎた真似をしたと思っている」
…根津校長はオールフォーワンの存在を知る数少ない方だ。そんな方に、『オールフォーワンと関係すると思われる少年を監視したい』なんて理由で説得するのは、そう難しくはなかった。
相澤君は素直に謝るワタシを一瞥し、言葉を返す。
「九ノ瀬にどんな期待してるのかは知りませんが、肩入れするなら数学を教えるくらいに抑えてくださいよ」
「
白々しく悔しがるワタシを冷めた目で見る相澤君。そして歩き出す。
「ま、九ノ瀬は不思議な奴ってのはわかりましたよ。俺の個性が効いてないので、まだ何か秘密があるんでしょう」
「…なんだって?」
彼の言葉を聞いて顔を上げたが、相澤君はもう歩き出しており、何も答えなかった。
確かに、九ノ瀬少年は不思議だ。複数の個性を持ちながら、先生のプレッシャーに屈しない精神力。しかも相澤君の『抹消』が効かないときた。
そしてそんな謎多き少年ーー九ノ瀬遥は、筆記試験で不合格という結果を叩き出していた。
なんてひどい伏線回収だ(愕然)
感想欄で貰った指摘をまるで自分が気づいたかのように振る舞う少年。それがコノハ君です。感想をいつでも待っています。
そして言い訳から。
原作リスペクトの気持ちが強い故に21人にするにはこんな発想しか無かったんです。私の貧困な発想力ではこれが限界でした。オリ主モノの人数問題みんなどうしてるんですかね…!
コノハ、ひいてはオールマイトや校長への風当たりが強くなりそうな展開なのですが、全部オールフォーワンが悪いって事にしましょう!
不自然無くA組を21人にしたかったのに逆に不自然な展開になってしまった。それが今回の話です。A組は21人、ってのを教えたかったのです。にしても展開が酷いな…!(憤怒)いつか駄文に発狂して消すかもしれません。