僕がギリギリでHRに間に合うと、相澤先生は業務的な連絡だけして終わらせた。明日からは通常通りの授業らしい。今日一日でこれほどハードなのだから、明日からの事を考えると気が滅入る。
緑谷君の指はいつのまにか包帯が巻かれ、彼自身も痛みを耐えるような表情は無かった。相澤先生に保健室届けを貰っていたから、リカバリーガールに治して貰ったのだろう。
緑谷君と一緒に帰ろうとも思ったが、せっかちな飯田君に引き連れられて、さっさと帰ってしまった。そしてそれを見た麗日さんが2人を追いかける。なんだか、この3人がしっくり来る。
僕は他の人との交流を深めようと思い、辺りを見渡す。峰田君と話している少年が目に入ったので、そちらに近づく事に決めた。共通の知り合いがいれば仲良くなりやすいだろう。
確か彼はーーー
「…ふむ。1位は八百万で見解は一致しているな?」
「あぁ、でも麗日が下位ってのは納得できねぇな、蛙水ってやつも中々…」
…ふむ。なんだろう。嫌な予感しかしない。この2人の会話は個性把握テストの結果について議論しているようにも思えるのだが、直感的に違う気がする。
僕の中の何かが近づくな、と叫んでいるので綺麗なUターンを決めて帰路につく事にした。
…さよなら。峰田くん。
何故か僕には入試の時の友情は無かった事にしたい気持ちがあった。
☆
特にハプニングも無く家に着いたのだが、『覚ます』を多用したからか、ゲームをしたい気持ちに襲われた。僕は自分の部屋に戻り着替えると、パソコンを立ち上げた。
『ヘッドフォンアクター』
ルールは基本的に1vs1。それぞれのステージに分かれて、出現してくるモンスターをお好みの銃で撃ち抜いていく。一定時間内に数多くのモンスターを撃ち抜いて、スコアの高い方が勝利となる。
ただの1学生の僕にこんなゲームを作る事なんて出来ない。もちろんこのゲームは『目を覚ます』を使って、僕1人で作ったものだ。ただ、初代ヘッドフォンアクターは違う。僕と、優しい先生と、愛する少女の3人で作ったのだ。僕と先生がこのゲームを作り、少女がプレイして勝ち続ける、そんな学園祭の出し物だった。
『…え?ゲーム作るの⁉︎今から⁉︎』
『そうだよ?遥、ゲームに出てくる絵、全部描けるんだよ?やる気出るでしょ?』
『動物をモチーフにしたモンスターかぁ…うん、それなら描けるかも、ありがとう
『よし、決まりね!当日にバグなんか起こしたら承知しないよ』
『やったね貴音!また勝った!いや、今は…《閃光の舞姫・エネ》って呼んだ方が良いのかな…?』
『うるさい、阿呆…』
やはり彼女との会話なら一字一句覚えている。一緒にこのゲームを作った日々が懐かしくて、気持ちが和らぎ、目を細めた。あの時は技術的に足りなかったが、『覚ます』を使えば多くの種類の敵が無限に湧き出るプログラムにする事が出来た。
そんな事を思い返しながら、僕は慣れた手つきで隠れていたゴリラのモンスターを撃ち抜く。画面の右端にサルとゾウが合体した謎のモンスターを見つけ銃を構え直すも、そこでゲーム終了の画面に変わる。WINの表示だ。
そしてまたもや画面が切り替わり、広場に飛ばされた。オンライン対戦を終えた相手にお疲れ様でした、と労いの言葉をかける。
するとその言葉を受けた少女のアバターが僕に声をかけてきた。広場の画面の左下に表示された個人チャットのログが進む。
『お疲れ様でした!最後の撃ち抜くなんて凄いですね!完敗です!』
どうやらかなり褒めてくれたようだった。褒められて悪い気はしなかったので、僕は丁寧に返す。返信先は『M,S』見たことがある名前だ。つまり、過去対戦済みなのだろう。
『恐縮です。最後はただのマグレですよ。いつも対戦ありがとうございます』
そう答えて僕のアバターは握手のアクションを出す。それに『M,S』という少女も応える。ふむ、薄い黄色の長髪。何回か対戦した記憶があるし、どれも手強かった気がする。今回のスコアで言えば、僕の26体に対して、彼女は24体。僅差と言っていいだろう。
終わりの挨拶もそこそこに、チャットルームを閉じる。白髪で背の高い少年のアバター、『コノハ』もこの部屋から消え、ゲームの最初の画面に戻される。
『ヘッドフォンアクター』
その画面に戻った事を確認した僕は、パソコンをシャットダウンし、椅子に背もたれを預ける。低めの天井を見て、1人の少女を思い浮かべた。それは、先程とは違い、今日出会った少女。目つきが悪く、ぶっきらぼうな態度に加え、笑った顔にドキリとした。
「耳郎響香さん…か」
“昔のクラスメイト”と“今のクラスメイト”の2人を思い浮かべるも、何とも表現しにくい感情に襲われて、僕は逃げるように夢の世界へ落ちていった。
そしてそれは、いつも通りの悪夢だった。
☆
ーーーこれは、やっぱり『冴える』の記憶だ。
無人の校舎内の廊下で、崩れ落ちる少女の姿を見ていた。
『ーーーーーーー』
少女は苦しそうに口を開き言葉を紡ぐも、その一瞬後に動かなくなった。彼女が告げた言葉も、今の僕には聞こえなかった。
背の高い大人の視点でそれを見届けた『冴える』は、うつ伏せに倒れた少女の髪を引っ張り、顔を上げさせる。
普段の悪い目つきは閉じていて、死んだように眠っていた。
『冴える』は近くにあった彼女のスマホが青く点滅しているのを赤い目で確認すると、薄く笑い、呟く。
「ーーーやっぱり、『覚ます』はお前を選んだな。
『冴える』は少女の身体を抱え、移動させる。
青く点滅していたスマホは画面を変え、目を瞑ったままの、彼女ご愛用のアバターが涙を流す。
『能力』に選ばれ
これは、
そして、それを救えなかった、九ノ瀬遥の物語だ。
『冴える』に蹂躙されていくだけの、ただの地獄だ。
島から出てこれないけどメールは送れる…!つまり、オンラインゲームもできる…!ふと思ったけどゲームしてるから入試落ちるんじゃないか?
あ、ちなみにカゲプロ知らない人はキャラの画像だけでも調べるとイメージがつきやすいかも…?コノハ君のカッコよさに惚れて下さい。