いつもの悪夢から目を覚ました時、身体に違和感を持ち、両手を確認する。“何か失った”ような感覚だ。試しに『能力』を1つずつ使ってみると、特に問題なく全て使えた。気のせいだろうか。
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昨日の個性把握テストを終え、今日からは通常のカリキュラムに入る。午前中の座学や学食など気になる所はあるが、やはり楽しみなのはヒーロー基礎学だ。今年度から赴任したオールマイトが担当する、ヒーロー志望にとっては興味が湧く。
一体どんな授業をするのだろうか、という楽しみに包まれながら、僕は雄英高校へ向かった。そういえば、昨日相澤先生に『能力』の詳細について話すって言ってしまったのだ。今日がちょうど良いタイミングだろう。どう説明しようかも考えながら、僕は歩きを進めた。
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充分の余裕を持って教室に入る。というところで、耳郎さんに声をかけられた。
「お、九ノ瀬、早いねー」
突然声をかけられたせいか、心臓が波打つ。昨日はどんな顔で会話したかもあまり思い出せず、微妙な笑顔になってしまった。
「あぁ、うん。バスがこの時間くらいしか無くてね」
「へぇ…大変だね…ってか調子悪い?ちょっと顔赤いし」
僕の顔をよく見た耳郎さんは不思議な表情で聞いて来た。ん?どうしたんだ?
僕も不思議な表情でその真意を問いかける。
「いや、なんか…昨日と違和感あるっていうか…。いや、なんでもないならいいんだよね」
はて、おかしな人だ。昨日の僕の顔と何か違うのだろうか。今日も鏡を見て来たが、特に変化は無かった。
そんな奇妙な会話の中でも、僕の動悸は収まらなかった。なんだこの感情は。
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相澤先生からの気怠げなHRが終わり、いよいよエリート校の座学だ。と、意気込んだまでは良かったのだが、一言で言えば普通だった。
プロヒーローだからといって教師の才能が秀でている訳では無いし、当たり前の事なのだが。むしろ教師が副業だ。そこにまでエリートさを求めるのは傲慢というものだろう。
プレゼントマイクのごくごく普通の英語の授業をありがたく受けながら、僕は考えを改める。
昼は大食堂で一流の食事を安価で頂けた。これだけでも入学した甲斐があったというのものだ。うまい。そして安い。
そして、午後。いよいよだ。待ちに待ったーーーーヒーロー基礎学。
「ワーターシーがー…普通にドアから来たァー!」
そんなオールマイトの登場に、僕ら面々は目の色を変える。僕の席からは見えないが、緑谷くんなんて目を輝かせている事だろう。オールマイトの掛け声、『SMASH』をボール投げで叫んでいたし、恐らく大ファンだ。
「オールマイトだ…!」
「あれ…!シルバーエイジのコスチュームね…!」
「画風違い過ぎて鳥肌が…!」
そんなざわつくA組に構わず、大きな声で彼は僕らに告げる。
「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ。単位数も、最も多いぞ!…早速だが…!今日はコレ!“戦闘訓練”!」
どこから出したのか、『battle』と書かれたプレートを僕らに見せる。それを聞いた僕らの何人かの雰囲気が変わる。爆豪君の表情はギラついているだろう。見なくてもわかる。
「そしてー…!それに伴ってこいつだ!」
オールマイトが指を指した壁から、数字の書かれた箱のようなものが飛び出してきた。数字に関しては出席番号だろう。
「入学前に送られた個性届けと、要望に沿ってあつらえたコスチューム!」
それを聞いた僕らはまたもや騒ぎ出す。やはりヒーロー志望にとって、自分のコスチュームというのは心が躍る。僕も要望通りになっているか気になる。
「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ。いいね?」
そんなオールマイトの言葉に声を合わせて返事を返し、僕らは軽い足取りで更衣室へ向かった。
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「格好から入るのも…大事な事だぜ、少年少女!自覚するんだ…今日から自分は…ヒーローなんだと!」
そんな呼びかけに応じて僕らはグラウンドβに集まった。
オールマイトが僕らのコスチューム1人1人を見やる。
僕のコスチュームは上半身は白を基調として、破れないような素材の至ってシンプルなデザイン。下半身は黄色の硬い素材を膝まで伸ばし、膝から下は黒いサポーターのようなものをつけて動きに支障が出ないようにしている。極め付けに、普段の黒髪を隠すように、白いウィッグをつけていた。
これが僕のネットのアバターでありヒーローコスチューム。
コノハの姿だ。
そんな僕らを見て、オールマイトは笑う。
「いいじゃないか…みんな!カッコいいぜ!…さぁ始めようか!有精卵ども!」