雄英高入学前に個性届、身体情報、デザイン等の要望を提出すると、学校専属のサポート会社が最新鋭のコスチュームを用意してくれる素敵なシステム。
コスチュームに関しては自分の要望を優先してくれるので、あらかじめ配られた希望用紙にデザインを書いて提出してある。
幸いにも絵に自信のある僕は、要望に違いなくコノハのコスチュームを受け取ることができた。
周りを見てみると特に戦闘向けには見えないデザインもあるし、今後改良していく人も増えていくのだろう。
緑谷君は名前を意識したのか知らないが緑一色と言ってもいいくらいの緑だった。ただ、頭にあるウサギの耳の様なモノはオールマイトを意識したんだなぁと分かり、つい苦笑する。
オールマイトもそんな自分リスペクトのコスチュームを見て、笑いを堪えている様だったが、咳払いをした後に戦闘訓練の詳細を僕らに告げる。
「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう」
どうやら早くも実践訓練の様で、それに驚いた様子の蛙水さんが呟く。
「その基礎を知るための実践さ!ただし今度はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ」
まぁ、入試の時との差は当然出てくる。対ロボと対人なら個性の加減が難しいと言う人もいるだろうし。
「採点基準はどうなります?」
「ぶっ飛ばしてもいいんすか?」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」
「このマントやばくない?」
「んんんん聖徳太子~!」
…うん。初めてのヒーロー基礎学だし、生徒も先生も慣れてない。少しグダってしまうのも仕方ない、のかな?
☆
というわけでメモを見ながらも質問に答えてくれたオールマイト。
僕はこの訓練のルールを改めて咀嚼する。
・ヒーローの勝利条件は隠された核を回収する事。もしくは敵を拘束する事。
・敵の勝利条件は制限時間まで核を回収されない事。もしくはヒーローを拘束する事。
・核回収の基準は触れる事であり、拘束の基準は配布されたロープを利用する事。
なるほど、中々シンプルだ。理解に時間をかけている内にクジで決められるグループが発表された。A組は21人だから1つだけ3人になってしまうが…。
結果をみると僕のグループは2人組で、敵が3人組だった。
ヴィランチームJ:耳郎・上鳴・瀬呂
ヒーローチームB:九ノ瀬・切島
うわ。しかも比較的有利なヴィランが3人なのか。これはバランスが取れてないと不満の眼差しをオールマイトに向けるが、困ったように笑ってあしらわれた。
「それじゃ、最初の組み合わせはAグループ対Dグループだ!他のみんなはモニタールームで見学だ!」
当のAチームは緑谷君、麗日さん。Dチームは爆豪君、飯田君だ。Dチームにかなり戦力が偏っている印象だ。緑谷くんが個性を扱えないのなら、これは厳しい戦いになるだろう。それをわかっているのか緑谷くんの表情は固い。
…まぁ、不利な状況を覆すのもヒーローの役目だ。更に向こうへ。あ、それは僕もか。
☆
結果はなんと緑谷君の勝利。ホントにプルスウルトラしてきた。まぁ、勝ちといって良いのか微妙な所ではあるけども。
この講評の時間で、八百万さんにその痛い所を突かれていた。当の緑谷君は怪我でこの場にいないが。
「ーーー爆豪さんは見る限り私怨丸出しの特攻。そしてオールマイトが仰ってた通り建物の大規模破壊は愚策。緑谷さんも同様ですわ。さらに核を本物として見ているなら最後の攻撃はありえませんわ。…このヒーローチームの勝利は、訓練だからこその、いわば反則の様なモノですわ」
緑谷君だけでなく爆豪君も酷評を受けているが、中々的を得ている。八百万さんの真面目な一面がここでも伺えた。
それにしても緑谷君の最後の攻撃ーーーあの腕の一振りでビルに風穴を開ける程のパワー、『醒ます』を使った時と同じくらいのパワーだな。ちょっと彼には気をつけよう。
八百万さんの講評を黙って聞いている爆豪君の姿は魂が抜けた様で、ショックな様子が見て取れた。心配になって声をかけようとしたら、パートナーである切島君から声をかけられた。
「なぁ、九ノ瀬。俺ら次だろ?軽く打ち合わせしねぇか?」
緑谷君達の姿を見て熱くなってるのか、目が輝いている。
たしかに次の出番は僕らだ。個性の擦り合わせも行なっておいた方がいいだろうし。僕は頷き、切島君に向き直る。
「そうだね。切島君の個性は“硬化”だよね?」
「まぁな。地味だけど戦闘は任せてくれ!九ノ瀬の個性は“瞬間移動”だよな?」
…あ。そうか、言われてみればまだ2日目だもんな。この段階では人の個性を勘違いしても仕方ない。ただ今回は仲間なので訂正を入れておく。
「あー、実は僕の個性は“瞬間移動”じゃないんだ。ちょっと特殊なんだけど、僕個性色々持ってるからさ。その応用って感じ。…とりあえず作戦があるんだ。まぁ、単純だけどかなり効果を発揮する…はず」
☆
「ーーー九ノ瀬の個性は“瞬間移動”じゃない?それマジかよ?」
上鳴の驚いた様な声が、核を置き終わったビルの一室で響く。ウチも意外に思ったので瀬呂に聞く。
「それ、どこ情報?」
瀬呂は曖昧な表情で答える。中々歯切れが悪い。
「んーと、峰田って奴。入試の時一緒だったらしくてさ。昨日の放課後少しあいつと話してたんだけど、九ノ瀬の凄さについて語ってくれたんだぜ、色々と」
峰田…あのぶどう頭の小柄な奴か。入試の時一緒だったという情報ソースから信用はできる。危なく勘違いしたまま訓練に臨むと思うと恐ろしい。
「それで?九ノ瀬の個性について何て言ってたの?」
「えーと確か…『身体を見えなくする』と『おびき寄せる』と『超パワー』だって言ってたようなーー」
思わず「は?いやいや、そんなのありえないじゃん」と遮りそうになったが、握力測定の結果と50m走の不思議な現象を思い出し自然と納得できた。
「…そっか。瞬間移動は『見えなくなった』だけって事なのか。なるほどね」
色々と不可解な事はあるものの話を進める。この試験で厄介なのは多分その『見えなくする』個性だ。優位に核に近づく事のできる上に、人数のハンデをほぼ帳消しにする強さ。
「…最低でも九ノ瀬は姿消して行動してくるだろうね。単純だけど1番有効な攻め方…って、
耳から出るイヤホンをいじりながら考える。と、瀬呂が思い出した事を打ち明ける様に話す。
「そういえば、峰田が入試後に聞いた情報だと、“見られている状態だと姿は消せない”らしいぜ?」
「うーん、このビルは曲がり角が多いからあんまり役立ちそうに無いけど、対策としてはそれくらいだね。九ノ瀬の姿を見逃さないように」
「あぁ、それじゃあ俺の『テープ』で軽い罠でもはっときますかね」
「そだね。索敵はウチがするから、あんたら2人で迎撃をーーーーって上鳴?大丈夫?」
全く話に入ってこれてない上鳴に呼びかける。クエスチョンマークを頭に浮かべてる上鳴には悪いがそろそろ時間だ。簡単な指示を送る。
「…瀬呂と一緒に戦闘してきて。ウチが場所教えるからそこに向かって」
「いやいやいや?姿見えないんだろ九ノ瀬?索敵ってどうやって?」
…。少し照れくさいので、個性『イヤホンジャック』を上鳴に見せつける。
「さぁ、なるようになるんじゃない?」